君のためにできること

1 名前:キング 投稿日:2003年04月04日(金)20時23分15秒
初めまして。
文章にオカシイ点があるかもしれませんが
書かせていただきます、よろしくです。
2 名前:キング 投稿日:2003年04月04日(金)20時35分02秒
電車が来るのがこんなに待ち遠しい気持ちになったのは
いつぶりだろう?きっと小さい頃以来だ

『早く電車に乗って目的地に行きたい』

その時の逸る気持ちと今の気持ちはよく似てる
なんて思うと顔が自然と笑顔になる

今私はバイトを終えて帰宅途中、駅のホームに立っている
家の近くのコンビニにだって務める事はできた
コンビニに限らず近所にバイト募集の紙が貼ってあるお店はあるんだけど
知り合いに会う可能性がある事に引け目を感じてしまった当時の私は
家から4駅離れた所にあるパン屋さんでバイトをする事にした
3 名前:キング 投稿日:2003年04月04日(金)20時52分34秒
でもこうしてバイト先を遠くにした事でわたしはあの人に会えた
遠くにしなかったら私は一生あの人を知らなかったかもしれない
そう思うと

『自分の選択は間違いじゃなかったんだ』

とちょっと自分に自信が持てるのが不思議

少しでも自分に自信が持てるようになって来たのも
きっとあの人のお陰なんだと思う

私には初対面の人にでも明るくポジティブに振る舞って
本当の自分を見せない様にする癖があった
バイト先のお客さんには

「いつも明るくていいね」

って誉められるけど
本当の私はすごい暗くて、ネガティブ思考で…
何だかみんなを騙しているような気がしてしまって
誉められるのが逆に辛かったりもする…
4 名前:出会い 投稿日:2003年04月04日(金)20時57分51秒




「やっと終わったー」

店内の掃除を済ませてロッカールームに入る
自分のロッカーと向き合った時
それがやっと気を抜ける一時でもあった

「おつかれさまー」

後ろから肩をポンと叩いてそう言ったのは
今日シフトが一緒だった矢口さんだった

「おつかれさまです」
「いやー、今日も客入ったねー」
「忙しかったですね」
5 名前:出会い 投稿日:2003年04月04日(金)21時01分15秒
ここのパン屋さんは近所じゃ結構評判のいい店で
お昼どきになると子供連れのお母さんやOLさんで賑わう
バイト初日の時もお店は混んでいて
接客業が初めてでお店の事を何も知らなかった私は
パン屋ってこんなに混むものなの?と驚いたくらい
暇でほとんど店番状態よりはいいけど…

「でも梨華ちゃんはエライよ、うん」
「どうしてですか?」
「だってさー勤務中ずっと笑顔じゃん?
  オイラには無理無理、疲れがすぐ顔に出ちゃうもん」
「そんな事ないですよ」
「そんな事あるよ!店長だって誉めてたよ?
  お前も石川を見習えーって言われちったし、キャハハ」

みんな私の外見だけなんだろうな、誉めてくれるのは…
内面見たら「面倒な子だ」とか思うんだろうな…
もやもやとしてるうちに矢口さんは帰り支度を終えていた

「ほんじゃ、オイラお先に失礼するよ」
「あ、はい、おつかれさまでした」
6 名前:出会い 投稿日:2003年04月04日(金)21時05分31秒
遅れて私も店を出て、駅までの道を歩く
いつもと変わらぬ景色、時間、電車…
そう考えるとなんだかうんざりしてしまう
忙しかった日に限ってそうゆう事ばかりが頭を過る
電車が到着すると自分にしては珍しく空いている席を探し腰を掛けた

無理はしてないつもりなんだけどお店は忙しいし
笑顔は絶やしちゃいけないしって頭は常にフル回転だったので
電車に揺られてついウトウトしてしまった…

ふと我に返ると地元の駅から2駅乗り過ごしていた

『次の電車が来るまで5分…』

何もする事がない5分は結構長い
このあとに用事があるわけでもないので
私は歩いて家まで帰る事にした
7 名前:出会い 投稿日:2003年04月04日(金)21時14分13秒
改札を出て階段を降りると外から歌声が聞こえる
時計を見ると時刻は9時を回っていた

『こんな遅い時間になんだろう?』

少し早足で外へ出てみると広場の街灯の下で
ストリートライブをやっている女の子が居た
そんな賑わう駅でもないし、利用者はサラリーマンばかりだから
当然と言ったら当然なんだけどギャラリーはゼロ
でも私は足を止めてしまった
何故なら彼女の声がすごい耳に付いたから

ギターを弾きながら一生懸命に歌うその子の声は
女の子にしては少し低め、でも好きな声だと素直に思った
一曲歌い終えて私の存在に気付いたその子は
私に向って手招きをして

「あなたの歌を歌わせてくれませんか?」

と言ってにっこり笑った
それに興味を持った私は彼女の方へと足を進めた
8 名前:キング 投稿日:2003年04月04日(金)21時16分09秒
今日はこの辺で失礼します。
指摘がありましたら遠慮なくビシバシ言って下さい。
9 名前:石川視点 投稿日:2003年04月07日(月)11時48分55秒

「いくらですか?」
「ん、お金は取ってないよ、代わりにあなたの人生を聞かせて?」
「え?」
「あなたの歩んできた道を聞いて、今からあなたの歌を作るんです」

なるほど…

「でも私、ロクな人生送ってないですよ」
「はは、若いのに何言ってんの
 ロクとかロクじゃないとかそんなのまだわかんないじゃん
 無理にとは言わない、あなたが嫌じゃなかったらあたしに聞かせて?」

私の人生なんて人に語るのはとても恥ずかしかったけど
この子の笑顔には嘘がないように思えて…
この子に私の内面を話したら私も
その嘘のない笑顔を手に入れられるような気がした

「…私、外面ばっかり良くて
 みんなの前ではいつも笑わなきゃ笑わなきゃって思っちゃって
 でも…本当の自分はいつも暗い顔で、笑ってる私を冷たい顔で見てるんです
 それに…何でもかんでも悪い答えしか出て来なくて
 そうゆう考えしか出来ない自分がすごく嫌で…
 だからこれまで生きてきていい事なんて数えるくらいしかなくて…」
10 名前:石川視点 投稿日:2003年04月07日(月)11時54分57秒
初対面の人なのにこれでもかってほどいろいろ話してしまった
少し押しつけがましくなってなかったかな?
もしかしたら迷惑だったかもしれない…

「ふむふむ…ちょっと待っててね
 そうだ、あなた名前なんて言うの?」
「梨華です」
「梨華ちゃんね…」

彼女は私の話を聞き終えると
それまで話の途中途中に筆ペンで
何か書いていたスケッチブックを1ページ捲って
また何やら書き始めた

待つ事数分…

「うし、出来た」

筆ペンのキャップをしめて
ギターを抱えなおした彼女は咳払いを一つ

「えー、それでは聴いて下さい」

優しいギターの音色とともに歌は始まった
11 名前:石川視点 投稿日:2003年04月07日(月)11時58分55秒

『君の笑顔はみんなを幸せにできる
 君の笑顔は誰かの心の枯れた花を咲かせる力がある
 それは君の才能なんだ
 本当は自分の事嫌いになんてなりたくないはず
 葛藤してるって事は前に進もうとしてる証拠だよ
 自分を嫌いになる事なんてない

 自分をもっと信じて 信じる気持ちは力になるから
 いつかそれは君の本当の笑顔になる
 自分をもっと信じて 信じる気持ちは力になるから
 いつか君自身の花も咲く日が来るから』
12 名前:出会い(石川視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時07分49秒

短い歌にこんなに感動したのは初めてだった
その優しい歌声とギターの音が
私をそっと包んで慰めてくれているような感覚だった…
自然と私の目からは涙が零れていた

「あは、初めてだよ、あたしの歌聴いて泣いてくれる人
 自信持っちゃっていいのかなー、なんちゃって」

私が泣いてるから必死で笑わせようとしてくれてる…
でも一度流れてしまった涙は止まりそうにない

「う…な…んか…ごめんなさい…泣いちゃって」
「いやいや、あたしもあなたの笑顔見て
 ちょっと気持ちが幸せになったかなーって思ったからさ
 思ったままを書いてみました」

「あの…いつも…ここで…歌ってるんですか?」
「うん、毎日夜の8時頃からここで自分で作ったのとかコピーとか歌ってるよ」
「また…来ても…いいですか?」
「全然構わないよ、ギャラリーなんて居ないに等しいんだから大歓迎だよ
 …でも帰るんだったら泣き止んでからにしようね?」
「…はい…」
13 名前:出会い(石川視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時10分33秒

それから私が泣き止むまで彼女はギターをずっと弾き続けてくれた
彼女の歌声は私を元気にしてくれる力があるみたい
言葉で慰めてもらうより何倍も元気になれる気がする

涙もようやく治まってきたので私は立ち上がった

「素敵な歌をありがとうございました」
「こっちこそ聴いてくれてありがとう」
 
「それじゃあ、また来ますね」
「ちょっとまって、これあげる」

彼女は歌詞を書いたスケッチブックを破いて私にくれた
14 名前:出会い(石川視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時13分16秒

「汚い字で読めないかもしれないけど気にしないでね」
「本当にありがとう大切にします、それじゃあ」
「うん、じゃあね」

バイトの疲れはいつの間にか飛んでいた
歌は人を癒してくれるってこういう事なのかもしれない
2駅分の距離なんてどうって事ないような気がしてきた
道を歩きながら貰ったスケッチブックを眺めてみると
そこには歌ってなかった言葉が書いてあった…

『壁は越えようとする人の前に現れる、君なら越せる! 吉』

殴り書きに近い字体が逆に私には優しく感じられた



あの日からバイトがない日でも
私は彼女が居る駅前広場に足を運んだ
15 名前:キング 投稿日:2003年04月07日(月)12時16分29秒
タイトルが色々変わってしまった…
読み辛くてすいません…って読んでくれてる人おるんかなぁ。。。
16 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時22分33秒

「そんな事したってどうせ挫折するのがオチだろうが!!」
「あんたらにゃあたしの気持ちなんてそりゃ解んないだろうな!
 いっつも仕事であたしの話なんて聞こうともしなかったじゃないか!!」
「ひとみ!お父さんに向って何て事言うの!!」
「うっせぇ!!」

うちの両親は共働きで帰ってくるのはほとんど深夜
家での話し相手と言ったら弟しかいなかった
あたしの夢を真剣に話し合ってくれる相手は誰も居なかった

『高校を出たらお金を貯めて歌を勉強する為にアメリカに行く』

ある日の夕食、珍しく食卓に家族全員が揃った
やっと家族が揃ったからあたしは話したんだ、自分の夢を
そしたら頭ごなしに反対して来やがったから
ついこっちもカッとなってしまった…
17 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時26分39秒
「どうしてもやるんだったらな、この家には二度と帰ってくるな!
 親の気持ちも解らんような娘なんかいらん!!」
「はっ!ありがとうございますっ!!
 あんたらの顔見なくて済むと思うと気が楽になるよ!!」
「何だと!親に向って生意気な口を聞くんじゃない!!」

頬を思いきり殴られた、鈍い痛みが徐々に脳に伝わってくる
あたしの事なんか少しも理解しようなんて思ってないくせに…
親面なんかされたってこっちが迷惑だ!

「おめぇらなんか親じゃねーよ!!」

服をまとめてる暇なんかなくて
ギターだけ抱えて家を飛び出した
こうやって何も考えずに家を飛び出せたのも
住む家の保証があったからなのかもしれない

あたしに歌う事の楽しさを教えてくれた人
あたしの足は迷わずその人の家に向っていた
18 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時34分49秒

「そっかー、よっすぃーもいろいろ大変だねぇ
 カオリは全然構わないから、この部屋勝手に使っていいよ」
「本当にすいません」

彼女の名前は飯田 圭織さん
偶然の間違いメールで知り合ったあたしの良きお姉さん的存在
将来の夢を持つ切っ掛けをくれた大事な人
彼女がギターを持っていなかったら、彼女の家が凄い遠かったら
飯田さんに出会う事はなかったし今のあたしは居なかった…
これはすごい運命だと思ってる

「でも飛び出しちゃったからには覚悟はしないとダメだよ?」
「それは解ってます」
「しょうもない弟だなぁ」
「弟じゃないですって」

いつからか飯田さんはあたしの事を「弟」と呼ぶようになった
もう聞き慣れちゃってるんだけど一応否定
19 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時37分40秒
「あー、このギターまだ使ってくれてるんだー」
「もちろんじゃないですか」

あたしが家からこれだけはと持ってきたギター
もとは飯田さんの家にあったギターだった

『この子はよっすぃーに弾いてもらった方がいい声で歌う』

そう言ってあたしに譲ってくれたのだ

「あたしはこのギターでプロ目指すんですから」
「カオリはいい弟を持ったよ本当に…」
「…だから弟じゃないですって」
「カオリはよっすぃーの事応援するよ、本当に」
「ありがとうございます」

こうして飯田さんの家で厄介になりながら
あたしは夢に向っての第一歩を踏み出す事にした
それは地元駅でのストリートライブ
最初からプロになんてなれるわけが無い
場数を踏んで自分に力と自信を付けなくちゃ
20 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時50分53秒

これがあの子との出会いにも繋がる…
毎日飽きもせずあたしの歌を聞きに来てくれる子
それが梨華ちゃんだった

あたしの歌を聞いてくれてたみたいだったから
思いつきで言ってみた

「あなたの歌を歌わせて下さい」って

初対面の人に人生を聞くなんて失礼だと思ったけど
何から始めていいか解らなかったあたしは
とりあえず思うままを行動に写す事から始めようと思った

最初は躊躇しててやっぱりダメかなって思ったんだけど
彼女はありのままを話してくれた
話を聞いてそれを微塵も感じさせない笑顔を見て
彼女は強くてそれでいて繊細で…
「花」とか「タンポポ」が頭に浮かんだ
21 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)12時56分12秒
話をメモしたページを見詰め返すと
嘘の様にスラスラと歌詞が出てくる、作詩は苦手な方なのに…
曲はもうあたしの中で完璧に出来上がっていた

「ふむふむ…ちょっと待っててね
 そうだ、あなた名前なんて言うの?」
「梨華です」
「梨華ちゃんね…」

名前の漢字をきいて吃驚した
イメージ通り彼女の名前には「華」があった
いい詩になる…なんとなくそう思った

歌い始めるとコードを抑える指もスムーズで
実力以上の手応えを感じずにはいられなかった

もしかしたら梨華ちゃんには不思議な力があるのかもしれない…

歌い終わったあとも不思議な感覚に包まれていて
感想が気になり顔を上げると梨華ちゃんは泣いていた
22 名前:出会い(吉澤視点) 投稿日:2003年04月07日(月)13時02分36秒
梨華ちゃんは泣いている、でもあたしは嬉しかった
あたしの歌に感動してくれた事が嬉しかった
でも全然泣き止みそうにないから
正直どうしたらいいか解らなくなる

「あは、初めてだよ、あたしの歌聴いて泣いてくれる人
 自信持っちゃっていいのかなー、なんちゃって」

慣れない事はあまりするもんじゃない…

とりあえず梨華ちゃんの涙が止まるまであたしは歌う事にした
ヘタな慰めよりはこっちの方がよっぽどマシだと思ったから

「また…来ても…いいですか?」

そう言われた時こっちまで涙が出そうになった
今まで一回切りの人達しかいなくて
また来ると言った子は梨華ちゃんが初めてだったから

「ちょっとまって、これあげる」

最後に歌詞を書いたスケッチブックをあげた
この出会いが最後にならないように…
これを見て本当にまたここへ来てくれるように…
23 名前:キング 投稿日:2003年04月07日(月)13時04分17秒
これからは吉澤視点と石川視点で行くと思います。
それではここらで失礼します。
24 名前:名無し読者79 投稿日:2003年04月07日(月)19時50分55秒
なんかいいですねー(^^)
歌に勇気づけられることってよくありますが
すばらしい出会いですね。これからの二人が楽しみです。
25 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)05時34分21秒
彼女と初めて会ったあの日から3ヶ月が経ち
私が通い積めてる所為もあってか2人は次第に仲良くなっていった

「やー、梨華ちゃん」
「また来ちゃった」
「はは、いまのところ無欠席だよ」
「だって私、よっすぃーの歌好きなんだもん」

彼女の名前は吉澤 ひとみちゃん
私より1つ年下だって聞いた時はビックリした
大人っぽいなぁ…なんて思ってたんだけど
それは見た目だけだった
中身はすごい子供っぽくてガキ大将みたいな子
時には1つ以上年下なんじゃ?って思っちゃうくらい
26 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)05時38分48秒

「そう言ってくれると嬉しいよ」
「もっと人の多い駅で歌って欲しいな
 今よりもっともっと多くの人によっすぃーの歌を聞いてもらいたい」
「えーいいよー地元が一番落ち着くし、それに面白半分は嫌だしね」
「面白半分?」
「ここの駅ってさ、通勤通学くらいにしか使われてなくてさ
 直感でいいなって思った人しか止まってくれそうにないじゃん?
 梨華ちゃんもただ珍しいだけで足止めたんじゃないでしょ?
 栄えてる所よりこういう所でやってた方が力付くかなぁって思うんだよね」

「・・・」
「あれ?どうしたの?」

思わず関心してしまった
そして何も考える事無く生きている自分が恥ずかしくなってきた
子供っぽいって思うのは訂正した方がいいのかも
よっすぃーはちゃんと自分の考えを持ってる、17歳なのに凄い…
27 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)05時40分39秒
「ううん、ねぇよっすぃーの夢って何?」
「えー突然だなぁ」
「あ、ごめん…」
「よーし、恥ずかしいけど教えちゃおう
 あたしの夢はここのギャラリーが1日で50人集まったら
 このギター君とアメリカへ行くことだ!」
「アメリカ?」
「うん、渡米してもっと力を付けてプロになる!」
「帰ってくるの?」
「もちろん、あたしパン好きだけどお米も好きだからね!」

理由を聞いて私は吹き出してしまった
やっぱりどこか子供っぽいなって

…そして安心した

最近ギャラリーも着実に増えて来てるし
アメリカへ行って帰ってこなかったらどうしようかと思った
よっすぃーの歌声を聞けなくなるのは嫌だった
28 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)05時52分13秒
「なんで笑うんだよー、やっぱ日本人はご飯でしょ
 嫌だよ、一生パンとコーヒーと油っこいもの食う生活なんて
 あたしはお米10kg持ってくつもりでいるからね」
「ふふ…じゃあお米食べに絶対に日本に帰って来てね、約束だよ?」
「うん約束、まぁ…お金も貯めなきゃいけないんだけどね」
「結構お金貯まった?」
「全然貯まらないよー」
「じゃあ頑張って貯めなきゃね」
「おう!」

アメリカでもお米は食べれるって事と
帰って来て欲しい本当の理由は
私がよっすぃーの歌を聞けなくなるのが嫌だからという事は
言わないでおこう…
29 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)05時54分07秒

次の日のバイト中よっすぃーの言葉を思い出しては
笑いを堪えるのに必死だった
私はいつもの笑顔で接客してたつもりなんだけど
保田さんにはいつもと違う事がばれてしまったみたい

保田さんは私より4歳年上で
私がここに勤め始めた頃から何かと面倒を見てくれて
私の性格を良く解った上で接してくれる
唯一心を割って話せる先輩

「なーんか機嫌いいじゃない、なんかいい事あった?」
「昨日ちょっと面白い事があって」
「何よ、教えなさいよー」
30 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)05時56分07秒
ふざけて後ろから首に腕を回して軽く締めるマネをしてきた
そうだ、保田さんにもよっすぃーの歌声を聴いてもらおう
よっすぃー迷惑じゃないよね…

「保田さん、今日バイトのあと暇ですか?」
「うん、暇だけど、何かあるの?」
「私の家の近くの駅でストリートライブをやってる子が居るんです
 その子の歌が凄く上手くて
 それで保田さんにも聴いてもらいたいなぁって思って」
「へぇ、おもしろそうじゃない、行くわ
 あ、あんたの機嫌がいい原因はその子でしょ」

やっぱり保田さんは私のこと何でもお見通しだ
この人には嘘は付けません

「そうなんです」
「だったら尚更見てみたいわ、石川に元気をくれる子だもの」
「じゃあ決まりですね」
31 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)06時00分17秒
バイトを終えて保田さんを引っ張って駅前広場に来てみると
いつもの場所によっすぃーの姿は無かった

「あれ?今日はやらないのかなぁ」
「少し待ってたら来るかもしれないわよ?」

2人で側にあったベンチに座って
自販機で買ったジュースを飲みながら待ってみる事にした

だけどいくら待ってみてもよっすぃーはやって来なかった

「…保田さんごめんなさい」
「あんたが謝る事ないわよ、あたしが好きで付いて来たんだから」
「…でも」
「ほーら、落ち込まない!笑顔笑顔!
 今日のところはもう遅いし帰るわ、また今度誘ってよね?」
「はい、じゃあ気をつけて…」
「あんたも気をつけるのよ、夜道は何があるかわからないんだから」
32 名前:石川視点 投稿日:2003年04月15日(火)06時04分01秒
保田さんを改札まで見送ったあとも
私は再びベンチに座ってぼんやりとしていた
こうして座っていたらいつもの笑顔で
よっすぃーが来るんじゃないかと期待していた

人の流れを見ているのもだんだん飽きてきて
いつもよっすぃーが歌っているところまで行ってみると
そこにはファイルみたいなものが落ちていた

『誰かの落し物かな?』

それを拾いあげてパラパラとページを捲って見てみると
あの時貰った歌詞と同じ字体…
それはよっすぃー自作の譜面だった

1回はここに来たんだ…じゃあやっぱり今日はもう来ないのかな…
33 名前:キング 投稿日:2003年04月15日(火)06時13分31秒
今日はこの辺で…
新学期のごたごたで更新する暇がない今日この頃(ノД`)

>>24 名無し読者79さま
初の御意見どうもありがとうございます!
嬉しいっす、頑張ります。
34 名前:syagi 投稿日:2003年04月17日(木)12時04分40秒
今日初めてみてスゴク興味がわきました☆忙しいと思いますが、来週までに
更新しててくれたら嬉しいな〜実は今から九州脱出して大阪に行って来る
のであります(^_^)/では、がんばってください♪
35 名前:石川視点 投稿日:2003年04月22日(火)02時50分47秒
よっすぃーはあの日から駅前広場に来なくなった…
私は今日こそはと思っていつもの時間帯になると
よっすぃーの譜面ファイルを抱えて広場のベンチに座っていた
あの日から今日で一週間が経とうとしてる

『もしかして、もうアメリカに行っちゃったのかな…
 よっすぃーにとって私はそれくらいの仲だったのかな…』

よっすぃーがアメリカへ行く事は応援していた筈なのに
何も言わずに行かれてしまったと思うとすごく悲しかった

私が過信しすぎていただけなのかもしれない…
私が勝手に仲が良いと思っていただけで
よっすぃーにとって私はただのお客さんだったのかもしれない

…私の事鬱陶しいと思っていたかも…

それ以上は考えたくなかった
36 名前:石川視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時01分05秒

時間を潰すように譜面を眺めていると
最後のページによっすぃーの名前と家の住所が書いてあった

『とりあえずこの譜面を私が持っててもしょうがないし届けに行こうかな…』

その思いの片隅には本当によっすぃーがアメリカに行ってしまったのか
確かめたい、きっと行ってないと期待する自分が居たんだと思う
親とは暮らしてないっていうのは聞いていた
だからこの住所を尋ねて誰も出なかったら…よっすぃーは本当に…

電信柱の住所とファイルに書いてある住所とを照し合わせて歩いていくと
一件の古めかしいアパートに辿りついた
よっすぃーの住んでる部屋は二階
老朽化した階段を一段上る度に複雑な気持ちになってくる
まるでそれは死刑台の十三階段をのぼる囚人の気持ち
本当に居なかったら私はどうするんだろう…
37 名前:石川視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時02分22秒
ついにドアの前まで来てしまった
ノックは一回切りにしよう…諦めが肝心だもん…
恐る恐るドアをノックしてみる

「……」

僅かな期待もノックの音と共に
夜の静けさに掻き消されてしまった

返事がない…やっぱり行っちゃったのかな…

ベランダ側に回ってよっすぃーの部屋を
見上げても明かりが点いている様子はなかった
空き部屋にファイルを置いていくのも申し訳ないので
私はファイルを再び家に持ち帰る事にした
38 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時07分41秒
あれから3ヶ月、あたしは歌い続けた
梨華ちゃんと仲良くなってから歌う事がますます楽しくなった
梨華ちゃんはあたしの歌を気に入ってくれている
それに答えるようにあたしは歌う
最近じゃ自然と歌詞が浮かんで来るようになってきて
何もかもが旨く行きすぎて怖いくらいだった

今のあたしの必需品は携帯電話、歌詞が浮かぶと携帯にメモをして
いいメロディーが浮かぶと口ずさんで携帯に録音していた

今も家の中で辞書を読みながら
浮かんできたメロディを携帯に録音したところ
そんなあたしの横で飯田さんはなぜか荷造りをしている
39 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時11分53秒

「よっすぃー順調に夢に向ってるみたいだねぇ」
「はい、何かもう口から産まれたんじゃないかってくらい
 歌詞が浮かんでくるんですよー、最近じゃギャラリーも増えてきたし
 自画自賛ですけど、順調に成長してるって感じっす」

「てゆうか何で辞書なんか読んでるの?」
「いろんな言葉を覚えてボキャブラリーを増やそうと思って」
「勉強熱心な弟だわぁ」
「弟じゃないですよー」

あたしの座ってる横に置いてある譜面ファイルを一つ取り上げて
読むと飯田さんは何かに気付いたみたいに
こっちを向いてにっこり笑った
40 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時15分03秒

「…よっすぃー、好きな人できた?」
「はい?」
「だーって歌詞が恋してる歌っぽいよー」
「えー?マジっすかぁ?
 そんなつもりじゃないんすけどねぇ」
「隠すな隠すな弟よ♪」

飯田さんは白状しろと言わんばかりに
問い詰めて来たけど本当に自覚が無い
寧ろこっちが教えてほしいくらいだ

「まぁよっすぃーもお年頃なんだね」
「そー…なんですかね?」

「話変わるけどさー、明日カオリこの家出るよ」
「へー、そうなんですか……ってはぁ!?」
「いやー・・そのー・・今の彼氏と一緒に暮らす事になったのね…
 明日実家にも行って来るの…
 でも大丈夫だよ、よっすぃーが巣立つまでこのアパートは残しておくから」
41 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時18分13秒
話が変わりすぎて吃驚した
あまりに流れが自然すぎて聞き流すところだったよ
彼氏の話は聞いてたけどそこまで進んでたとは…

「なんかすいません迷惑掛けっぱなしで…
 本当にいいんですか?この家借りたままで」
「いーんだよ、家賃は全部よっすぃー持ちになっちゃうけど」
「それは別に構わないですよ、どうせアメリカに行ったら
 嫌でも家賃、生活費自分持ちになるんですし
 もう少しあたしも金銭感覚身に付けないとって思ってましたから」

「でも寂しくなりますね…」
「うん、弟と離れるのは寂しいけどね…
 でもよっすぃーはアメリカに行ったら
 本当の一人になっちゃうんだからね?」
「じゃあこれは一人になる練習みたいなもんですね…」

「…よっすぃー…」
「あ、あたしそろそろバイトに行かないと…」
42 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時20分28秒
気まずい空気のままあたしはバイトに出かけた
バイト中はもちろん行きの電車も
今乗っている帰りの電車の中でも
悶々とした気持ちに変わりなかった
一人になるっていうのはこれほどまでに寂しいものなのか
人種も言語も違う国に行ったらどれほど寂しいんだろう――――…


「…くさん…お客さん!」

車掌さんに肩を揺さぶられて目が覚めた
どうやら終点まで眠ってしまったらしい
がらんとした車内、ホーム…ここでも1人になってしまった

「もう車庫に入っちゃうから」
「すいません、今出ます」
43 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時24分26秒
そういって立ち上がり棚に目をやると
置いた筈のギターケースの姿が無かった

「あの、この棚に乗ってたギターケース知りませんか?」
「いや、ここに来た時には何も無かったよ」
「え…そうですか」

…最悪だ…
何もかもあたしの前から消えてしまうのか?
一生大事にしようと決めたギターだったのに…
飯田さんが大切にしてたギターだったのに…

いったん家に戻るのは気まずいから
バイトに持って行ったのが裏目に出てしまった

今まで浮かれ調子だった自分が凄い腹立たしくなってくる
笑っていた分だけ怒りに変わってくる
誰かに一発殴ってもらいたいくらいだ
 
44 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月22日(火)03時33分52秒
期待はしてないけど思い当たる所を探し回った
駅前広場、よく行く喫茶店、ファミレス…
バックの中で携帯が鳴っている事には気付かなかった

数回に渡る着信と1件のメールが飯田さんからだと知ったのは
次の日の朝、疲労感と罪悪感でいっぱいの中帰ってきた
誰も居なくなり家具はいつものままなのに
やけに広く感じられる部屋が見渡せる家の玄関だった…

『カオリは行くけどよっすぃー、元気でやるんだよ
 夢は諦めちゃダメだからね、頑張れよっすぃー』

「そうか…飯田さん、行っちゃったんだ…」

思わず玄関で座り込んでしまった
45 名前:キング 投稿日:2003年04月22日(火)03時41分30秒
今日はこのへんで。

>>34 syagiさま
もう帰られたのでしょうか?
長旅ごくろうさまです、更新量少ないと思いますが
こんなんでも読んでやって下さい、応援感謝!
46 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月22日(火)12時49分25秒
ひそかにROMってました。
ちょっとせつない感じで好きです。
すれ違いになってたのにはこういう訳があったんですね。
立ち直って早く梨華ちゃんと再会して欲しいです。
47 名前:名無し読者79 投稿日:2003年04月22日(火)17時54分11秒
よっすぃー(T〜T0)
なんだか切ないですね、良き理解者のかおりんが…。
梨華ちゃんとの進展が楽しみです。
48 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時11分39秒
あの日、飯田さんにメールを返す事もなく
あたしはずっと布団に潜り込んでなるべく何も考えない様にしていた
次の日もその次の日も…やる気のやの字も出てこない

飯田さんが居なくなってから何日経ったんだっけ?
…まぁそんな事どうでもいいや…

食欲もなくていつまでも布団の中でごろごろしていた
そしていつのまにか眠っていたらしく
布団から顔を出すと窓の外は真っ暗だった

なんで目が覚めたんだっけ…
そうだ、ノックした音が聞こえた気がしたんだ

急いで布団から飛び起きて
覗き穴を覗いてみたけど外には誰も居なかった

「気のせいか…」

あたしはまた布団に潜り込んで眠りについた
49 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時16分54秒
よっすぃーは今頃何してるのかな
アメリカで歌を歌ってるのかな…
私のことなんて…もう忘れちゃったかな…

今はもう誰も居ないよっすぃーの家からの帰り道
家に向って重い足を引き摺っていると携帯が鳴った

誰だろう…保田さんだ…

『もしもし、石川?』
「…はい、どうしたんですか」
『あたし今バイト終わって
 今日はストリートライブやってる子居るんじゃないかなって
 思ったから電話してみたんだけど…何かあった?
 声が暗いわよ、大丈夫?』

「もうその子…日本には居ないんです」
『え?何それ?』
「もう…よっすぃーの歌…聴けないんです…私…私…」
50 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時21分35秒
なぜか泣いてしまった

自分で自分の事がよくわからない
私はそんなによっすぃーの歌が聴きたいの?
聴けないと泣いてしまうほど?

『ちょっと石川、しっかりしなさい
 泣いてたってあたしには解らないでしょうが
 あんた今どこに居るの?今からそっちに行くから』
「地元…の…駅です…」
『解ったわ、すぐ行くから待ってなさいよ』
「はい…」

私は止まらない涙をハンカチで拭いながら
ベンチに座って保田さんを待つことにした
51 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時23分21秒

いつもの駅前広場の街灯の下あたしはギターを弾いている
周りには数えきれないほど沢山のギャラリー
飯田さんがいる、あたしの家族もいる
みんな楽しそうにあたしの歌を聞いてくれている
そんな人の群れの中でも
梨華ちゃんの姿はすぐに確認できた

にっこり笑う梨華ちゃん
それにつられてあたしも笑う

…あれ?

手に手応えが無くなって下を向くとギターがない
今まで楽しそうにあたしの歌を聴いてくれてた人達は
徐々にそれぞれの方向に向って歩いて行く
最後に残った梨華ちゃんまでも…
52 名前:吉澤視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時24分34秒
「梨華ちゃん待って!!」

追いかけようと立ち上がったのに
体が思うように動いてくれない

「梨華ちゃん!待って!梨華ちゃん!!」


「待って!!」

…夢だった…
右手は天井を仰いでいて目には涙が溜まっていた

そういえば梨華ちゃん…何してるのかなぁ…
ここ何日か誰とも会ってないや、会いたいなぁ

頭に浮かぶのはさっき夢で見た梨華ちゃんの笑顔
家族も飯田さんも居たのにあたしは何で
一番に梨華ちゃんを追いかけようと思ったんだろう…

しかもあんなに必死で
53 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時26分48秒
電話を切って間もなくすると保田さんは汗を浮かべながら
私の元に駆け寄って来た

「あんた…泣いてるもんだから走って来ちゃったわよ…」
「…すいません…」
「ちょっと詳しく話し聞かせてよ」
「…はい…」

私が譜面を拾った事、よっすぃーには夢があって
その夢を叶えにアメリカへ行ってしまった事
これまであった事を包み隠さず話した

「…なるほどね」
「…自分でも何で泣いちゃったのか解らないんです」
「でもあんた達仲良かったんでしょ?
 だったら何も言わずに行くわけないじゃないの」
「でも…家に行っても誰も居ないし…
 部屋の明かりも点いてなかったし…駅前広場にも…」

「もう1回行ってみましょう?あたしも付いて行くから」
54 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時30分09秒
私は再び来た道を戻った
でも今度は保田さんがいてくれて
沈黙が続かないように話掛けてきてくたから
少し気持ちが軽くなって涙は止まったけど
もう一度よっすぃーのいない部屋の
ドアをノックすると思うと気が重かった

よっすぃーのアパートのドアの前に着いて
手の形はいつでもノックできるようになってるんだけど
躊躇してしまってなかなか行動に移せない

「ちょっとどいて」

私がまごまごしていると
保田さんは時間帯も考えず大きな音でドアをノックした
今は夜中の0時すぎ…
55 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時34分54秒
「吉澤さん、吉澤さーん!居ないんですかぁ?」


「…はーい、居ますよ」

ドアの奥から聞き慣れた…聞きたかった声が聞こえた
ドアが開いた時私はどんな顔してたんだろう
きっとすごい情けない顔してたんだろうな
だってよっすぃーの顔が凄い驚いてたんだもん

「梨華ちゃん!?どうしてここが?」

「うん…これ、譜面が落ちてたから…」
「あーよかったー、梨華ちゃんが拾ってくれたんだね」

よっすぃーの顔を見て今まで張り詰めていた気持ちが
一気に解かれて再び泣いてしまった

「ど、どうしたの?」

「ご…めん…よっすぃ…さっきここに来たら…誰も出なくて
 電気も点いて…なかったから…アメリカ行っちゃっ…たのかと思って」
「え?やっぱり誰か来たんだ、ごめん寝てて出遅れちゃって
 アメリカにはまだ行かないよ、とりあえず中入って涙拭こう?」

「うん…ごめんねぇ…」
「あ…そちらは?」
56 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時37分14秒
よっすぃーは保田さんの顔を不思議そうに伺った

「この人は…バイトの先輩の…保田さん…」
「保田です」
「あ、どうも吉澤です…保田さんも上がって下さい
 何もない部屋ですけど」

「2人とも適当に座ってて下さい」
「…うん」

よっすぃーは私のこと面倒臭い子だと思ったかもしれない
わざわざ先輩まで連れて…家に押し掛けて…
友達でいられるのも今日までかもしれない…
キッチンに立っていて今は確認できないよっすぃーの顔が
曇っていたら私はどういたらいい?

「お茶しかないけどいいですか?」

「本当にごめんなさい…」
「構わないわ」
57 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時38分56秒
コップを3つお盆に乗せて
こっちに向かって来るよっすぃーの顔は
いつもと変わらない笑顔で少し安心した
小さなテーブルに私と保田さん、向いによっすぃーで座った
テレビの無い部屋で会話もなく
聞こえてくるのはどこかの家の犬の鳴き声と
側の道路を走る車の音だけ
何かきっかけをくれるはずと思っていた保田さんは
保護者のように黙って私の隣に座っているだけだった
沈黙が苦しい…

「…もしかして、あたしのこと心配してくれてた?」
「…うん」

再び沈黙が戻って来てしまった
もう帰ったほうがよっすぃーの為だよね…
58 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時40分21秒
「ありがとう」


思いも掛けなかった言葉が聞こえてきて
思わず顔を上げるとそこには今までにない笑顔のよっすぃーが居た

「実はさ、あたしがこうやって歌を歌う事に誰も賛成してくれなくて
 両親なんかすっげー猛反対で大喧嘩してさ…それで家も飛び出しちゃったし
 唯一心配してくれてた人ともちゃんとお別れできなかったし…
 …今のあたしを心配してくれる人なんていなかったから嬉しくて…」
「…私は…よっすぃーを応援してるよ…
 プロになって欲しいし…みんなによっすぃーの歌を聞いてもらいたい…」

「でもねー、盗まれちゃったんだ…ギター…」
「え?」
「電車でさ、居眠りしてて気付いたら無くてさー
 それで駅前広場まで行ってあるわけないのにギター探して
 うろちょろしてたら譜面まで落としちゃって…バカだよねー」

いつもの口調で話していてもよっすぃーの笑顔は
無理してるっていうのがはっきり解るくらい悲しそうだった
59 名前:石川視点 投稿日:2003年04月28日(月)03時46分18秒

「私に何かできないかな…」
「いいんだよ、梨華ちゃんに迷惑掛けたくないし
 あたしが寝てたのが悪いんだしね」
「ううん、いつもよっすぃーの歌には元気を貰ってるんだもん
 私もよっすぃーの為に何かしたい…させて?」

「…わかった…ありがとう、でも無理はしないでね?」
「うん、私がんばる」
「だから無理はだめだって」

さっきの沈黙が嘘のように部屋の中は笑い声に包まれた
帰り際保田さんはよっすぃーと何か話していたみたいだったけど
聞いてみても保田さんは答えてくれなかった

よっすぃーに対する気持ちが次第に変わって来ている事に
この時の私はまだ気付いていない…
60 名前:キング 投稿日:2003年04月28日(月)03時56分38秒
今日はこの辺で。

>>46
ひそかにROMって貰ってたことに
大いに感謝っす、2人は無事再会しました。

>>47 名無し読者79さま
楽しみとかそういうの聞けると
マジ励みになるっす、有難う御座います。

何で自分のコメントはこんなにも体育界系なんだ…
61 名前:名無し読者79 投稿日:2003年04月28日(月)19時27分52秒
よっすぃーを目にして涙する梨華ちゃん(泣
すれ違っていた二人が、やっと会えた!って思うと私もうれしいです(^^)
助け合ってがんばって欲しいですね、この二人には!?
62 名前:吉澤視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時21分17秒
「吉澤さん、吉澤さーん!居ないんですかぁ?」

「おわぁ!」

ウトウトとし掛けていたところで大きな音が聞こえて
無理矢理に現実に引き戻された
初めて聞く女の声がドアの向こうであたしを呼ぶ

『おいおい、こんな遅くに誰だよ借金取りじゃあるまいし』

居留守を使ってもよかったんだけど
しつこくノックされたらうるさいしお隣にも迷惑だし
仕方なくドアを開ける事にした

すると廊下には見慣れた顔と見慣れない顔…
一人は夢に出てきたのと同じ顔だったから
呼び起こされた時以上に驚いた
63 名前:吉澤視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時25分46秒

梨華ちゃんだった

梨華ちゃんはあたしがアメリカに
行っちゃったもんだと思っていたらしく
心配してくれてたみたい
泣いている梨華ちゃんを見て申し訳無いと思った
そしてまだあたしには頼っても良い人がいるんだという事
それが梨華ちゃんであった事に嬉しくもあり、安心した

しかしさっきから気になるのがもう一つの視線

あたしと梨華ちゃんが話してる間も
ずっとだんまり決め込んでる保田さんとか言う人
動物でも観察するような目でじっとあたしを見てるんだけど…
その人は帰り際になってやっと口を開いた

「石川、ちょっと先行っててくれる?」

素直に梨華ちゃんが歩き出すと
保田さんはあたしに一歩近づいた
64 名前:吉澤視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時28分29秒
「あのさ、あんた本気?」
「何がですか?」
「本気でプロになろうと思ってるのかって事よ」

梨華ちゃんから聞いたのかな?

「もちろん本気です」
「…ならいいわ、あの子結構ネガティブ思考だけど
 今まで一度も涙は見せた事なかったの」
「……」
「それだけあんたの事を思ってるって事よ?わかる?」 
「…はい」
「だから今度あの子を泣かすような事したらあたしが許さないからね」
「はい」
「それじゃ、ギターはその内手に入ると思うわ
 だから夢を諦めないでまた駅前広場で歌いなさいよ
 あたしも聴きたいわあんたの歌」

意味深な一言を残して保田さんは帰って行った
65 名前:吉澤視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時40分18秒
しばらくドアノブに手を掛けたまま動けなかった
動く事を忘れるくらいに保田さんの一言は大きかった

『それだけあんたの事を思ってるって事よ?わかる?』 

あたしの事を…思ってくれてる…

ボロボロになってたあたしの心の花を
少し立ち直らせてくれたのは誰でもない梨華ちゃんだった

あたしはまだ一人じゃないんだな…
一人の寂しさを知って今まで自分がしてきた全てが
誰かに一方的に頼る自己中心的行動だった事に気付く
言葉で装っていただけで相手の気持ちなんて考えてみた事も無かった
梨華ちゃんにも同じ事をする所だった…
でも梨華ちゃんの気持ちを保田さんから聞いて
初めて相手の気持ちというものに触れた…

飯田さんごめんなさい…
お父さん、お母さんごめんなさい…

梨華ちゃん…ありがとう…

あたしは布団に潜り込んで大声で泣いた
66 名前:石川視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時41分32秒
保田さんとよっすぃーは何話してたんだろう…

「石川」
「はい?」
「明日バイト入ってるわよね?」
「入ってますけど、何でですか?」
「あたしの家にギターあるから明日持って行くわ」

「え?保田さんギターなんか弾くんですか?」
「あたしは弾かないわよ…元彼のギターが家にあるから
 それをあんたから吉澤に渡してやって」

保田さんの彼氏の話は全く聞いた事なかったから
ずっといないものだと思ってた、ちょっと吃驚

「いいんですか?」
「いいのよ、これで厄介なものが無くなるわ
 それにあたしまだ一回も吉澤の歌聴いてないもの、聴きたいじゃない?」
「ありがとうございます!」
「ちょっとー、静かにしなさい!もう夜中なんだから!」
67 名前:石川視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時42分49秒
「さっき保田さんだって物凄い音でドア叩いてたじゃないですか」
「…あんたねー」
「わーケメ子が怒ったー」
「こらっ!ちょっと今ケメ子って呼んだわね!待ちなさい!!」

保田さんには秘密?が2つある
一つは何故かケメ子と呼ぶと怒る
矢口さんがからかいながら呼ぶんだけど
何でケメ子なんだろう?名前が圭だからかな?
あともう一つはネックレス
普通チェーンに指輪が付いてるタイプのやつって
指輪は1個だけのが多いのに保田さんのは指輪が2個
どこで買ったのかは教えてくれないし…いつも付けてる
きっとその元彼から貰った物なのかな?

…それより、よっすぃー…また歌えるね

保田さんが怒った口調で追いかけて来たので
2人で駅まで追いかけっこした

「やーいケメ子走りー♪」
「言ったわねー!!」
68 名前:保田視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時44分03秒
家に着いて自分の言った事を思い出す…
毎日手入れをしているギターを取り出して
音の狂った弦を少しだけ弾いた

『いいのよ、これで厄介なものが無くなるわ
 それにあたしまだ一回も吉澤の歌聴いてないもの、聴きたいじゃない?』

吉澤の歌を聴いてみたいのは本当
でも厄介なものなんていうのは嘘
本当は見ず知らずの人間なんかに手渡したくない
このギターはあたしの大事なものだもの…


市井…今はどこで歌歌ってんのよ…
夢にだけでもいいからたまには顔出しなさいよ…
69 名前:保田視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時46分04秒

あたしの元…元じゃないかも…とにかくあたしの彼氏は
吉澤と同じ歌で食べて行こうって志してる人だった
きっと吉澤に興味を持ったのはその所為なのかもしれない
彼も路上で歌を歌っていたから

初めての出会った時は矢口も一緒に居たんだっけ…
確か2人で買い物をした帰り市井の歌声を聞いたあたしは
渋る矢口を無理矢理歌声のする方へ引っ張って行ったんだ
1人じゃ話しかける勇気がなかったから

ストリートミュージシャンなんて幾らでも見た事あったけど
あたしの中で市井は違った印象を受けた、歌声に力があるっていうか…
あたしは小さい頃から歌う事が好きで将来は歌手になりたいと思ってた
市井の歌声はその時の今は薄れ掛けた
自分の気持ちを呼び起こすような感じだった
70 名前:保田視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時49分00秒
間近で歌を聴いて、矢口も興味を持ったらしく
あたしと矢口は曲が終わると自然に拍手をしていた

「すごい歌上手いですねー」
「本当?うれしいなぁ、君たち名前なんて言うの?」
「矢口でーす」
「保田 圭です」
「じゃあやぐっちゃんとケメ子ちゃんだ」

矢口が『やぐっちゃん』って呼ばれるのは聞いたことあるけど
『ケメ子』なんて呼び名を付けられたのは初めてだった

「何ですかぁ、ケメ子って」
「いいじゃん、いいじゃん俺だけが知ってるあだ名」

「いいじゃーん、ケメ子♪」
「ダメだよやぐっちゃん、ケメ子は俺だけが呼んでいいあだ名なんだから」
71 名前:保田視点 投稿日:2003年05月09日(金)03時51分10秒
これが市井との出会いだった…
これをきっかけにあたしは市井の歌と
…市井をどんどん好きになっていった
それは相手も同じだったみたいで
あたし達はプライベートでも会うようになって付き合う事になった
その日も会う約束をしてた
…12月6日…あたしの誕生日…

『もしもしケメ子?ちょっと遅れるかもしんないけど待っててね
 今からバイクかっ飛ばして行くから』
「気をつけてよ、雪降りそうだし」
『おう、わかった』
「じゃあね」
『ほんじゃ』

この携帯ごしの軽い別れの言葉が最後の別れになるなんて
ただ会う事を楽しみにしていたあたしは考えてもいなかった
72 名前:キング 投稿日:2003年05月09日(金)03時56分36秒
今日はここまでで。
これからちょこっとだけ圭ちゃんの話です。

>>61 名無し読者79さま
これからも2人は何かと助け合って行く
…予定です(未定)
73 名前:名無し読者79 投稿日:2003年05月09日(金)19時11分48秒
ケ、ケメ子…(T-T) 過去にそんなことが…。
よっすぃーは、梨華ちゃんが変えてくれそうな気がします。
これからの二人助け合っていくんですね、楽しみです(^^)
74 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)02時57分33秒

ちょっとって何時間待たせる気なのよ…雪も降ってきたし

小雪がちらほらと舞う12月の空気はとても一人じゃ寒かった
今年の初雪、本当だったら今頃市井と見てるはずだったのに
一人じゃちっとも面白くない…
周りはクリスマスも近いせいか
家族連れとか恋人達が溢れんばかりの笑顔で横を通り過ぎて行く
あたしだけが取り残されたような孤独感を感じた

携帯が鳴った

着メロで誰かはすぐにわかる、市井だ
まったく…待ち合わせ時間過ぎてるっつーの

「あんたねー、どこまでバイクで走ってんのよ?」
75 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)02時58分20秒

『…保田さんですか?』

聞こえてくるはずの市井の声は聞こえなかった
聞こえてきたのは女性の声…
それは市井のお母さんの声だった

…しかも…泣いてる?

「…あ、すいません…保田ですけど」
『息子がいつもお世話になってます
 あの子携帯電話うちの玄関に置き忘れて行ったみたいでね
 今病院の外から掛けてるんですけど――――――…』




「市井が…死んだ…?」



76 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)02時59分56秒
だってさっき電話で話したばっかり…
バイクでここまで来るって、かっ飛ばすって…


そこからどうやって病院まで行ったのかは覚えてない
気付いたら全身雪まみれ、靴の中はびしょ濡れで
霊安室であたしより綺麗な格好をして横になっている市井を見ていた
顔に掛かった布を除けるとそこにあったのは
見覚えのある市井の寝顔だった

「何よ…こんなとこで…寝てんじゃないわよ…
 迎えに来る…って言ったじゃない…待ってたんだ…から…」

今にも起き上がってきそうな綺麗な寝顔
手だってピックを持たせればギターを弾きだしそう
でももうその目は開かない…手は動かない…
もう手を握って歩く事も、くだらない冗談言い合う事も出来ない…
77 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時01分07秒
途方に暮れていると霊安室の扉が開き
市井のお母さんが入ってきた

「保田さん…」
「おばさん…」

「傷もあんまり無くてまるで眠ってるみたいでしょ?
 事故を見ていた人の話だとね
 飛び出して来た猫を避けようとしたんですって、この子らしいわ」
「…あたしなんかと待ち合わせしなかったら
 市井はこんな姿にならないで済んだのかもしれないです…」

「自分を責めちゃだめよ、これはこの子の運命だったのよきっと
 この子、あなたとお付き合いしてから凄い明るくなったわ
 もう一生分の幸せを使ってしまったのね…」
「そんな……そんな事ないです…
 あたし…市井に何もしてやれなかったし…」
78 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時04分44秒
「いいえ、この子はあなたから色んなものを貰ったと思うわ
 毎日私にあなたの話をするんですもの、凄い楽しそうに
 それとこの子…あなたの次にギターが好きでね…
 よかったらでいいんだけど、この子の使ってた
 ギター貰ってやってくれないかな…」

「…いいんですか?そんな大事な物」
「いいのよぉ、その方がこの子も喜ぶわ
 これがこの子の為に母親の私がしてやれる事」
「…ありがとうございます…」
「あとね、この箱がこの子のポケットに入ってたの
 多分あなたへのプレゼントだと思うわ、これも貰ってやってちょうだい」

市井の両親に挨拶をして家に帰り
玄関の鍵を探そうとポケットに手を入れると
さっきおばさんから渡された小さな箱が出てきた
部屋に入り包み紙を開けてみると
そこにはシルバーの指輪が2つ、そして手紙が入っていた
79 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時06分10秒
『これからも俺の側に居て歌を聴いていて欲しい
 それでじじいとばばあになってもずっと一緒に居て
 俺が先に老衰でケメ子に看取られて死ぬの
 それが俺の夢、いいっしょ?
 俺はお前と一緒に夢を見ていきたい
 俺の一生で歌える分だけの歌をお前に聴いていてもらいたい』

…嘘吐き、あんたからあたしの側を居なくなってどうするのよ…

脚は力を無くし、そのまま床に座り込んだ
涙で文字が歪んで見える…
この怒りは誰に向けられたものなんだろう?

市井に?飛び出して来た猫に?それともあたし?

今は何も考えられない…
考えられない変わりに涙が溢れ出た
80 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時13分47秒
指輪をはめてみると計ったみたいに薬指にぴったり入った

そういえばだいぶ前に指輪のサイズを聞かれた気がする
わざわざこの日の為に聞いてきたのかな?
市井らしいな…そう思うと自然に笑みが零れた

指から指輪を外しテーブルの上にあるジュエリーケースから
適当なボールチェーンを取り出して2つの指輪を通し、首に掛けた
サイズの違う指輪が2つ、胸元で寄り添うように揺れた

これでいつでも一緒に夢が見られるよね…市井…
81 名前:保田視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時14分34秒
だからこのギターはあたしにとって市井の夢そのもの
厄介な物であるはずがない…手放したくない…
でも…きっと市井が生きてたならこうしてたはず…
困ってる人をほっとけないヤツだったし
その人が同じ夢を持つ子ならなおさら
それに市井の夢が消えないように吉澤に託したい…

市井はあたしの為に…あたしの所為で死んだ
だからあたしは市井の為にこのギターを手放す

それが君の為にできること

そしてもう叶う事のない市井の夢を
このギターで変わりに吉澤に見てもらう
きっとこれは何かの運命なんだろう
吉澤以外の人だったらあたしはギターを
手放そうとは思わなかったかもしれない

市井が導いてくれたのかな…なんてね
82 名前:石川視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時23分56秒
次の日保田さんはバイト先まで
本当にギターケースを背負ってやってきた
そのギターケースはギターの事をよく知らない
私が見ても解るくらい立派な作りで高そうだった

「本当にいいんですか?こんな高そうなギター」
「いいのよ、あたしは弾かないんだから」
「ありがとうございます!きっとよっすぃーも喜びますよ」
「吉澤にこれだけは言っといて
 今度盗まれたら許さないからねって」
「はい、言っときます」

立派な作りだけあってそのギターケースはずっしりと重い
ギターを手渡した保田さんの顔は何故か寂しそうだった
83 名前:石川視点 投稿日:2003年05月21日(水)03時25分17秒
「それじゃあちゃんと最後まで仕事してから行きなさいよ
 接客が疎かにならないように、いいわね?」
「わかってまーす」

保田さんは今日はシフトが入ってないので
そのまま帰って行った

私はバイトが終わると急いで電車に掛けこんだ
頭に浮かぶのはよっすぃーの喜ぶ顔ばかり
このギターケースを抱えてるよっすぃーなんかを想像したりした
窓に映る自分の顔はずっと笑顔だった
周りの人は不思議に思っただろうな
携帯の番号はこの前家に行った時
お互いに交換したから知ってるんだけど
ここはいきなり押しかけてビックリさせちゃおう

よっすぃーの家のドアの前まで着いて
ここから名前を呼んでしまいたいくらいだったけど
逸る気持ちをぐっと堪えてドアを優しくノックした
84 名前:キング 投稿日:2003年05月21日(水)03時34分07秒
今日はこの辺で失礼します。
あわただしくて不定期な更新になりがちな今日この頃ヽ(`Д´)ノ

>>73 名無し読者79さま
いつも感想ありがとうございます!
一人でも感想書いてくれる人がいるって
すげー励みになります、読み手様は神様です(?)
85 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月24日(火)02時00分18秒
うわぁぁぁ! なんてところで切ってるんですか!
続きキボン!
86 名前:さがしのの 投稿日:2003年06月26日(木)23時19分12秒

      ?
∋oノハヽo∈ 
  (;´D`)ゞ) <「のののためにできるコト」というAAしょうせつが
 (し  )    ろこかにあったとおもうのれすが みあたりましぇん
 (__ノゝ__)    こころあたりのあるかた いらっしゃいませんれしょうか?

87 名前:石川視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時11分49秒

「はーい」

鍵を開けている音がする
心臓の音が高く早くなってくる

「あ、梨華ちゃんどーしたの?」
「よっすぃー、はい!」

隠しきれてなかったと思うけど背中に隠していたギターケースを
よっすぃーの前に勢いよく差し出した

「え??どーしたの!?これ、ギターだよね?」
「保田さんがくれたの、あたしは弾かないから吉澤にあげてって」
「えー、タダで?」
「うん」
「すっげー、保田さんかっけー」

想像していた通りの反応が帰って来てくれて
よっすぃー以上に私は喜んでいたかもしれない
よっすぃーは部屋に入るとすぐにギターを取り出して
眺めたりチューニングしたりしていた
88 名前:石川視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時14分40秒
「いいよ、このギター、ネックの握り具合もしっくりくるし
 あとは弦を張り替えてあげればバッチリだよ」

なんだか専門用語がずらりと並んで
私にはよくわからないけどどうやらバッチリらしい

「よかったね、これでまた歌が歌えるね」
「うん」
「私もまたよっすぃーの歌が聴けるんだね」
「うん、もう一つ梨華ちゃんにとって嬉しい事があるよ」
「何?」
「あたし近々ライブハウスで歌うよ」
「すっごーい!!でも何で急に?」
「急な話じゃないんだ、前々から誘われてたんだけど断ってたんだ
 自分はまだまだ力も何も足りないからって
 でもこうやってまたいいギターを持つ事が出来たのは
 運命だと思うんだよ、だから試してみようと思って」
「頑張ってね、私ぜったい見に行く!!」

「見に来るのは…けっこー大変かもよ…」
「どうして?」
「だってアメリカのライブハウスなんだもん」
「え…」
89 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時16分34秒

アメリカのライブハウス…

この話は誰にもしないと思ってた…
ちょうど半年くらい前いつもの様に駅前広場で
歌を歌っていたあたしに一人の男が言ったんだ

「君、いいモン持ってんな」

大きいキャリーケース片手にあたしの歌を聞いていた男
あたしが歌い終わると同時に声を掛けてきた
関西なまりのその男はどうやら音楽関係の人らしい
見た目からじゃどうも信用できないけど…

「どや?俺に任せてみぃひん?
 つっても俺の本拠地はアメリカなんよ
 せやからアメリカに来て欲しいねん
 費用とかあっちでの家賃とか全部俺が出すし…
 永住が嫌やってんなら一回俺の経営してるライブハウスで歌ってみぃ?
 君ならブーイングは起きないと思うで」

「いや、いいっす…
 今のあたしじゃまだまだ力不足だし
 それにアメリカはあたしの夢だから自分の力で行きたいんで」
「夢なら一回だけ行ってみたらええやん」
「まだダメっす」
90 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時18分10秒
「お堅い子やなぁ、まぁええわ
 これ、俺のあっちでの住所と電話番号やねん
 気が向いたら何時でも電話くれてええで、飛行機のチケット送るわ」

拒むあたしを無視して男はその紙を置いて住宅街に消えて行った

「つんく…?なんじゃそら」

それが初めてその男の名前を知った時の感想


その紙が役に立つ日がついにやってきた
二代目のギターを手に入れられた事で思いは固まった
これはあたしの感なんだけど、このギターは力を感じる
これは保田さんが趣味程度に使ったギターじゃないと思う

よくわかんないけど…きっとあたしと同じ夢を持ってた人
…その夢が今も覚めてない人が持ってたんだと思う
ネックを握って構えてみてそう思った
その人が弾いていた時見ていた景色があたしにも
浮かんで来そうな気がした…

きっとこのギターを持ってた人はもうこの世にはいない…
でなきゃこんな凄いギターを手放すわけがない
でも手入れが行き届いてる所からして
保田さんにとってもこのギターは
本当の持ち主同様凄く大事なものだったんだと思う
91 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時19分51秒

「今日その人に電話を入れて
 いつ渡米するか決まったら梨華ちゃんに連絡入れるよ」
「そっか…だいぶ早まっちゃったね…」
「一回のライブだもんすぐ帰って来ちゃうよ」
「そうだよね」
「あんま…嬉しくない?」
「そんな事あるわけないじゃん!
 だってよっすぃーの夢への一歩だよ?嬉しいよ」
「良かった、喜んでくれて」

なんだか喜んだフリをしているようだった
そんなに嬉しくないのかな、少し残念
あたしの心はもちろん隠し切れないほどに弾んでいた

あたしは梨華ちゃんを駅まで送ったあと
公衆電話で早速つんくさんに電話してみる事にした

『ハロー』
「あ…」

英語で聞き返されるのは初めてで
思わず電話を切ってしまいそうになった
改めて自分が進もうとしてる道の広さを感じた
92 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時20分57秒

「えーと…もしもし…つんくさんですか?
 あの、あたし半年前路上で歌を歌ってた者なんですが…
 覚えていますか…?」
『あー、君かー覚えとる覚えとる、どないしたん?
 やっとアメリカに来る決心ついたんか?
 俺なぁ、もう来ぉへんかと思ってたわ』

やっと半年前に聞いた関西弁に戻ってくれて安心した
それにあたしの事を覚えていてくれた事にも…

「永住ってワケにはまだ行かないんですけど
 一回だけライブハウスでやらせて貰えませんか?」
『こっちは全然構わんで、すぐにでも来れそうなん?
 せやったら速達でチケット送るんやけど
 ライブハウスは予約キャンセルしてでも君が入れるようにしとくで』
「はい、すぐにでも行けます」
『ほな速達でこっちの地図も一緒に送るから、こっち着いたらまた電話して』
「はい、解りました」

案外あっさりとした展開だった
でも確実な一歩、アメリカのギャラリーはキビシイらしい
曲がギャラリーに響かなければブーイングの嵐らしいし
覚悟して行かないとね


…その夜、ヘンな夢を見た

93 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時24分18秒
真っ白な世界にあたしと知らない男の人…
でもどこかで会った事があるようなないような…
その男の人は終始にこにこと笑っていた

「君、よっすぃーだよね?」
「え?あ、はい」
「そっかー、君なら俺も一安心だよ」
「え??何がですか」
「あの子さ、ああ見えてけっこー弱いんだ
 だからこれを機会に仲良くしてやってくれよ、お願い」
「あの子?…ってかあなた誰ですか?」
「まぁいいからいいから、とにかく
 両方とも大事にしてくれって事」

その人は何も言わず手を差し出してきた
条件反射であたしはその手に自分の手を重ね合わせる

「俺の力、少し君にあげるよ
 まぁ役に立つかわかんないけどね
 …頑張れ、君ならできるよ…」

一方的に言いたい事だけ言って
その男は手を離すと霧の中へ消えていってしまった
94 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時25分04秒





目が覚めて初めてギターの弦を張り替えてる途中で
寝入ってしまった事に気付いた

あ…さっきの男の人って…このギターの…
…これってば心霊初体験かもしれない…

夏なのにやけに涼しく感じる夜だった
95 名前:石川視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時28分24秒
今の気持ちは一言で言うと複雑
嬉しい半分悲しい半分
よっすぃーが一歩づつ夢へ進んで行くのを見るのは嬉しい
でも私は何も変われず取り残されて行くようで悲しい
よっすぃーが遠くなって行くようで悲しい
まるで人気アイドルとそのファンみたい…

ギターを渡して2日後
寝ようと思ってベットに入ると携帯に
よっすぃーから電話が掛かって来た

「もしもし」
『もしもし、梨華ちゃん?
 明々後日アメリカに行く事になったよ』
「え、そうなんだー
 じゃあお祝いしようよ、プチ送別会」
『そんなのしなくていいよー』
「だーめ、縁起良く送り出さなくっちゃ
 絶対やるからね、どこでやろうか?」
『じゃあ荷物とかあるから
 うちにおいでよ、費用は梨華ちゃん持ちだよねぇ?』
「もぉ、しょーがないなぁ
 じゃあ明後日夜の7時によっすぃーんち行くからね」
『あー…明後日はちょっと無理かなぁ…』
「ん、じゃあ明日、明日はだめ?」
『よし、明日で決定ね?
 じゃあごちそう期待してるからねぇ』
「うん、期待しといて」
96 名前:石川視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時29分23秒
明々後日にアメリカへ飛ぶって…そんなの早過ぎる…
縁起よく送り出すなんて言ったけど
私自身が送り出す気持ちになってないよ…

眠って明日になれば少しは気持ちが変わるかな…


目が覚めて、やっぱり気持ちはどこか晴れない
でも明後日にはよっすぃーはいなくなっちゃうんだもんね…
しかも今日は送別会やるんだから
私が笑って送ってあげないでどうするのよ
今日は少し無理してでも笑っていよう

そうだ、よっすぃーに何か手作りの料理作ってあげよう

思い立ったら吉日
私は近所の商店街に買い出しに行く事にした

ご飯が好きって言ってたからご飯ものがいいよね

ついでに商店街へ途中にある神社に寄った
小さい神社なんだけどお願い事は昔からいつもここ
中学の時テニスの大会の日も来たし
高校受験の日もここに来てお願いした
お賽銭はもちろん五円玉

『よっすぃーの歌声が認められますように』
97 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時30分46秒
ついに明後日か…

思わず赤丸を付けてしまったカレンダーを眺めた

今日は梨華ちゃんが来てくれるし
パーッと騒ごう、そしたらこの寂しさも吹っ飛ぶはず
たった数日の旅行みたいなもんなのに
この寂しさはなんだろう?

日本から離れる事がそんなに寂しいのか?
いや、あたしはそんな愛国家じゃないし
梨華ちゃんと離れるのが?
…まさかそんなはずはない…と思う
まぁいいや、荷物をまとめよう

飯田さんが居なくなってから
だんだんあたしの荷物が占拠し始めてきたこの部屋
数日分の荷物をまとめるだけなのに何を詰めたらいいのか迷う
取り敢えず部屋中の物という物に目をやっては
買った時の事を思い出して笑みが零れる
すこし部屋を動き回っただけなのに額に微かに汗が滲む
98 名前:吉澤視点 投稿日:2003年07月18日(金)11時33分53秒

もう夏ももうすぐなんだな…

去年のこの季節もあたしは歌を歌っていたんだ
飽きっぽい性格のあたしが一つの事に
こんなに集中できるなんて考えてもなかった
今年の意気込み方は去年とちょっと違う…
これから先、弱音を吐く予感が全然ない
それは何でなんだろう?
この自信みたいなものはどこから出てきてるんだろう?

そんなこんなで本棚にしまいっぱなしの漫画を全巻読みふけってみたり
昔のMDを引っ張り出して片っ端から聴いてみたり
まるで試験前の学生のような事をしてしまった

時計を見ると午後3時…何か予定があったような…

「あ、中澤さんに会いに行かないと」

あたしは急いで身支度を整えて駅に向った
99 名前:キング 投稿日:2003年07月18日(金)11時40分11秒
今日はこの辺で。
長い間未更新のまま放置してしまって申し訳無いです。

>>85 名無しさん
ホントにすいません、夏休み入ったんで
これからはガシガシ更新…できるといいんですが…
読んでくれてありがとうございます。

>>86 さがしののさま
見つかりました?
100 名前:名無し読者M 投稿日:2003年07月20日(日)20時03分19秒

再開、ありがとうございます。
この先の展開も楽しみにお待ちしております。


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