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Zinc White(二本目)
- 1 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)07時00分54秒
- Zinc White(サッカー小説完結編「歓喜の145センチ」第二部)
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=white&thp=1001586065
が手狭になったので新スレ立てました。向こうは自由に使って下さい。
- 2 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)07時47分27秒
- 「あんた、名前は」
「紺野あさ美です」
「贅沢な名だねえ。いいかい、今日からお前の名は紺だ」
「はあ…」
「矢口、さっさとアップ」
意外にも練習は和気あいあいとした雰囲気で始まった。飯田が柴田にサイドチェンジのコツを伝授すれば、保田は若いディフェンダーを集めてマンマークやラインコントロールの指導をする。
平家の頼みを組んでのものだった。いじめ抜かれた平家の左膝はもはや日常生活に支障をきたすまでになっている。
体を使って指導することができない――オーバーエイジ四人は平家の欠点を解消する役割を果たしてくれた。
- 3 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)08時01分22秒
- 中でも来季から古巣ジュビロの下部組織で指導者としてのキャリアをスタートさせる保田、GKを含めたDFとの連携を熱っぽく指導する。
インターセプトからのオーバーラップの動きなど、指導される側の斎藤よりもシャープで、とても現役を引退した選手とは思えない。保田自身あと二年はやれる自信がある。
それをしなかったのは、やはりどこかに持病の心臓への不安があったからだ。もう再発する事はないとは医師に言われているのだが…
同じ病を持つ加護がその事を忘れたかのように駆け回る姿を見て、やっぱ若いってそれだけですげーやと思ってしまう。
- 4 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)08時17分37秒
- だから平家から国際電話をもらった時、現役生活の傍らC級のライセンスを取得していた保田はコーチとしての要請が来たのだと思ったし、その予感は間違っていないようだ。
今プレーヤーとしてのピークにある飯田と安倍、そこに差しかかろうとしている矢口の三人に比べたら自分は見劣りする。現にオーバーエージ候補が発表された時、断とつで疑問の声が上がったのがただ一人現役のA代表ではない保田である。
それにバイエルンでの保田は守備固め要員、後半からの起用がほとんど。国際試合をフルタイム戦えるか、不安は残る。
- 5 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)08時33分03秒
- 平家が欲しいのは、保田の経験なのだと思う。
前回のアトランタ五輪を戦ったメンバーが、福田明日香だけなのだ。安倍と飯田は落選、矢口は候補にも上がらなかった。
依然福田が見つからない、同メンバーだった保田を置いておきたいのだろう。
そして、自らへのアンチテーゼとして。
クライフ率いるアヤックス/オランダ代表、無敵艦隊に唯一の汚点をつけた西ドイツのリベロ、皇帝ベッケンバウアー。彼の所属チームがバイエルンミュンヘンだった。
古代の王が玉座の脇に愚者をはべらせ、常に自らを客観的に見ることを忘れなかったように。
- 6 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)08時56分54秒
- うまいよなあ。
初めて見る若い世代、高橋や小川、紺野のプレーに目を細める矢口。最年少の新垣にしたって同じ頃の自分とは比べものにならないほどしっかりした技術を持っている。
不毛、花も実もない、端境期、十年に一度の凶作…からっぽの世代とまで言われた矢口たち。その最後の生き残りになり、プレーヤーとしても完成の域に近づきつつある。
が、時々思う。これで終わりなのかと。
中盤のダイナモとしての仕事、それが自分に求められているとは分かっている。
それでも矢口はあきらめていない。まだ、なにか残されているに違いないと。
- 7 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)09時04分53秒
- 自らの中にある手つかずの小箱。それを探し出し、ふたを開くために、あまり気乗りしなかったオリンピックチームへの参入を決意した。
そして、もう一つ。
予選での対戦相手に、アルゼンチンが入ったこと。
いろんな意味で日本と、矢口と因縁の浅からぬ国。世界の大舞台で、ぜひ戦いたい。
それでなくとも、根っからの日の丸小僧である。代表に選ばれたと聞いてジッとしてられるわけがない。
- 8 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)11時24分37秒
- 「矢口さん」
新垣里沙がドキドキしながら声をかけた。
フリューゲルス(ユース)からマリノス(ユース)という経歴、体格、ポジション。新垣は共通項の多い矢口と比較させることが多い。
もちろん自分がその足元にも及ばないことは分かっているし、だからこそ少しでも近づきたいと願っている。
だから勇気を振りしぼって、自分から声をかけてみたのだ。
矢口も矢口で、新垣の顔をまじまじと見る。
なぜか親近感が、と思ったら、似ているのだ。
アルゼンチンに移る前、イースター島で主食として毎日食べていた緑色の大きな豆に。
- 9 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)11時36分07秒
- 「あんた、なにができるの?」
矢口が尋ねたのは、当然、サッカーのこと。足が速いのか、パスが出せるのか、誰もが震え上がるハードマークがあるのか。
ところが新垣、なにを思ったか、伸ばした舌を突き出し、ぐるりと裏返してみせた。
「うわっ」
度肝を抜かれた矢口ではあったが、すかさず唇を歪めてハートの形にしてみせた。
「きゃっ」
こんなところも二人はそっくりだった。
体は小さい、特に恵まれた才能があるわけでもない二人はすすんでおどけてみせることで、チームの潤滑油になってきた。そうしてここまできたのだった。
- 10 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)12時17分50秒
- 「矢口さん、あまり一人にかかりきりになるの、あんまよくないっしょ」
石川は矢口が新垣とひっつき虫になっていることに苦言を呈する。
「みっちゃんに言われてんだよ、後輩と仲良くしてやれって。なっちだって圭ちゃんだってやってるべ」
飯田も含め、自分の技術を伝えようと懸命で、平家は頭の下がる思いでいるだろう。
「そうじゃなくって…」
いらだたしげに頭をかく石川が、矢口はいじらしくてならない。飼い主がバカ犬に感じる愛情に似ているかもしれない。
石川はヤキモチを焼いている。新垣に矢口を取られそうで嫌なのだ。
- 11 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)17時55分14秒
- 「どーしておまえってそーなの?」
荷物をまとめ、単身アルゼンチンにやってきた石川に矢口がそう言い放った。
W杯終了後、日本の8番に接触しようとした各国クラブのオファーは、彼女がチリの離島のアマチュアチームに所属していることに驚かされた。
ヨーロッパのクラブからの誘いもあった。ずっと条件も環境もよかった。
それでもボカジュニアーズを選んだ。南米の生活が肌に合っていたし、アルゼンチンで一番強いクラブチームだというのが決め手だった。
かたや石川はトルコのクラブと契約寸前で決裂、一大決心を固め日本を飛び出したのだ。
- 12 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)18時16分56秒
- 「入団テストって受けられますよね」
「そりゃーできなかねえけどさ」
石川は捨て犬の目をしている。あたしがなんとかしないと、こいつはどこまでも落ちていくんだろうな…それで矢口もつい甘くなってしまうのだ。
「しばらく居候していいっすよね」
「だから勝手に決めんなって」
「うわあ、ダブルベッドだ。とっかえひっかえですか?」
「寝相悪いんだよ」
「一緒に寝れますね」
「お、おまえってそういうシュミの人なの?」
「いやー、レズでも矢口さんとは、ちょっと」
「屁はすんなよ。こもるから」
修学旅行を思い出しながら、寝た。
- 13 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)20時47分26秒
- そんな幸福な時代はとっくに終わりを告げている。
一線を引き、ある程度の距離をおいてつきあわなければならないのに。
石川もたぶんそれは分かってはいるのだ。
けど石川は矢口のことが大好きで、だからアルゼンチンまで矢口を頼ってきた。
矢口もいつまでも石川とつるんでバカやっていられるなら、それが一番いいに決まっている。しかしそれではあまりに風通しが悪い。
本来なら新垣のような若いプレーヤーを石川が引っ張らなければいけないのに。
自分がいると自分を頼ってくる石川が、矢口が五輪チーム入りを渋った理由の一つなのだ。
- 14 名前:4126 投稿日:2001年10月21日(日)21時49分42秒
- 「紅白戦やるぞ。Aチーム、ポジション順に小川、大谷、ミカ、吉澤、後藤、柴田、アヤカ、木村、松浦、石川、加護。Bチーム高橋、斎藤、保田、戸田、紺野、飯田、辻、新垣、安倍、矢口、前田」
初めて小川が入ったことを除けば、現在のベストメンバーを揃えてきたAチーム。オーバーエージはBチームに入った。これが初めての紅白戦になる紺野はBチームのセンターバック。控えの左ウイングはアビスバ福岡のアウトサイドMF前田有紀が試された。
「負けないっすよ」
石川がメンチを切る。やはりこれで良かったのだと矢口は鼻で笑い返した。
- 15 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)11時41分48秒
- このチームの紅白戦でBチームが勝ったことは過去一度もない。それはレギュラーとサブの差を歴然と示していた。
オーバーエージを全員Bチームに入れてみたのもそのため。また紺野、前田などがどこまで対応できるか。
序盤はやはりというかAチームが攻勢。加護が内に切れこむと読んだ大谷を左にかわした。
センタリングが、大きく外れる。
「のの」
紅白戦なのに、加護の足元へスライディングで飛び込んだのは、ようやく復調の兆しが見えだしたFWの辻。
守備意識を叩きこもうとした平家の思惑が、ようやく実を結ぼうとしている。
- 16 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)12時40分24秒
- 吉澤が持つ。矢口がチェックにくるのを見越して左の柴田へ。
「新垣!」
矢口の声が飛ぶ。鬼軍曹殿の命令には絶対服従、二等兵が突撃する。
柴田、それをかわして右へふった。松浦とアヤカが戸田と保田を引きつけてできたスペースに飛び込んだのは、フリーの後藤。シュートに備え、高橋が身構える。
間一髪、紺野が鋭い出足でかき出した。
「よく見てたね」
保田が倒れた紺野に手を貸す。リベロのオーバーラップは保田も読み切れなかった。
パスを出した吉澤が最終ラインまで下がった。同じ列の石川、松浦も一枚ずつ戻ったのを紺野は見ていた。
- 17 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)13時01分22秒
- 小川はその様子を反対のゴール前で見ていた。
最後に会ってからだいぶ経つし、まともにサッカーを教わった覚えもない。
それでも、親族と一緒にサッカーをする心境は、なかなかに複雑だ。
「キーパー!」
左クロスを奪う。課題だったキャッチに安定感が出てきた。
エリアぎりぎりまで走り、スローで放つ。右のアヤカへ。
ヘディングが遮った。
特に意識はしてない、従妹に対してそう言っていたはずの保田だった。
「カオリー」
すぐさま飯田へ。辻が右に開く。
あえて使わず、いきなりゴール前にロングボールを蹴り入れてきた。
- 18 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)18時37分08秒
- 落下地点には後藤、そして後藤を背負った安倍。当然、体格差がある。後藤は振り向かせまいと寄せ、安倍は上体でブロックしながらポストプレーの機会を待つ。
安倍が額でボールを出した。後藤はそこに浮いたボールをあえて出させた。
なぜなら、そこに駆けこんだのは代表屈指のストロングヘッダーの吉澤、吉澤がマークしているのは不可能なことのたとえに『ヤグヘッド』などと使われる矢口。
ほぼ同時に地面を蹴った。
空中で両手を広げ、ふんばったのは小柄なハーフバック。ヘディング。
GK小川の守るAチームのゴールネットを揺さぶった。
- 19 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)19時15分46秒
- へーっ、やぐっつぁん、あんなヘディングできるようになったんだ。
後藤が安倍と肩を組んで戻っていく矢口の背中を見やる。
「アルゼンチンじゃ、一対一に勝てないとボールを回してもらえないからね」
やはりヘッドが苦手だった石川も、それは強く感じていた。
逆に言えば、いかにもヘディングが不得手に見える矢口が人並にでも競れるようになれればそれだけで大きな武器になる。小さな体そのものがフェイントの効果を生み出すためだ。
石川の場合はフリーキックだった。きゃしゃな足でズバズバ叩きこむことでチームの一員に認められたのだ。
- 20 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)19時37分13秒
- 一本取られた吉澤もやられっぱなしではいない。その後も矢口に張りついて動きを止めている。
よっすぃー、こんなに走れたっけ? 矢口は吉澤の変化を肌で感じ取っていた。
矢口の知っている吉澤は中盤で走り回らせてるうちに、次第にマークがずれてきたはず。それが今日はなかなか離れてくれない。
言われるまでもなく、吉澤も自分に足りないものくらい分かっている。
スタミナ。90分走り切れないことはないが、矢口のような体力バカに引っ張り回されると途中で息切れして、結果的にチームのバランスを崩してしまっていたのだが。
- 21 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)19時57分05秒
- 恵まれた体も良し悪し、吉澤は矢口のように俊敏で小回りのきく選手がうらやましくなることがある。自分じゃああはなれない…そんな矢先、転機は思いがけずにやってきた。
久しぶりに実家に帰省、テレビの前に寝そべって女子マラソンを見ていた。
シドニーの選考を兼ねたその大会、一人の日本人ランナーが独走している。
同じ女性がわずか二時間半足らずで42キロを走るなんて。あんな小さな体のどこにスタミナを隠してるんだろう。
「人種が違うって感じだよね、お母さん」
「なに言ってんの。先頭の人、うちの親戚よ」
座布団枕から頭が落ちた。
- 22 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)20時25分21秒
- 根拠なき自信、そう言われればそれまで。だがそれでも吉澤には大きな支えになった。
自分には、マラソンランナーと同じ血が流れている――その勢いでかみついていくのだからガタイで劣る矢口は次第に形成不利に。
ちっとやり口変えるか。
散らし始めた矢口。ボールは汗をかかない。
木村がチェックにいく。飯田に通させない。新垣が奪い返す。
「てえっ」
石川のタックル。新垣の小さな体が吹き飛んだ。
信田がホイッスルを強く吹く。
「え?」
「完璧ファウルだよ。大丈夫か?」
そう言って新垣を気遣う矢口。ますます面白くない石川。
- 23 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)21時02分27秒
- 「強気強気!」
波に乗れないチームを背後から鼓舞する小川。
「威勢いいねー」
「弱い犬ほどよく吠える」
保田は病弱でびーびー泣いてばかりだったマコトがサッカーを続けていてくれたことがまず手放しで嬉しかった。
が、代表となれば話は別。それなりにやってもらわねば。
飯田とのワンツーから抜け出し、浅い位置からセンタリング。キーパーから逃げるように曲がるボール、小川がパンチ。小さい
落下地点に安倍がいた。まったくのフリーで。
またネットが揺れる。小川は目標にしてきた圭姉ちゃんから手厳しいレッスンを受けた。
- 24 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)21時19分58秒
- 「ちっとはいいとこ見せろよレギュラー!」
平家が口から泡を飛ばすもなかなか調子が上がらないAチーム。いや、Bチームの変容が著しいと言うべきか。
安倍は多少精度の低い辻のクロスをシュートにまで結びつけて自信を取り戻させる。
矢口は新垣をけなしてほめてやる気を起こさせる。
戸田も元同僚の飯田がいることで攻守にアグレッシブだ。
保田は紺野に、己が身につけた技術を惜しげなくさらしている。
こうやっていると、なぜU23にこだわっていたかが不思議になる。いいことだらけではないか。少なくとも、今のところは。
- 25 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)21時32分15秒
- 特にキレているのが安倍で、他のFWが見劣りする。安倍が傑出していると見るのが妥当なのだが。
この世代は特に前線の人材に事欠く。加護、松浦も本来はMF。ついに今回は左DFの前田までウイングで試す羽目に。石川をFWで試せという声が大きいのも仕方ないところか。
恐らくさらに安倍の良さを引き出せるであろう福田の不在が、ことさらに痛い。矢口の報告では、それでも中澤はあきらめていないという。
もし五体満足で発見されても使えるかは分からない。
それでも平家は福田を待つ。福田こそがこのチームのラストピースなのだから。
- 26 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)21時44分21秒
- 終了間際に後藤が石川のコーナーを決めるがここまで。初めてBがAに勝った。オーバーエイジの力のみでないところがよかった。新垣、辻…シドニー行きの当落線上にある選手には格好のアピールになったろう。
「…」
保田はあまり顔色がよくない。終盤運動量ががっくりと落ちた。
ドイツでのラストシーズン、自分はディフェンスのスーパーサブであると割り切り、ダッシュやフィジカルの強化に時間をさいた。フルタイムで動いた事自体久しぶりだ。これからスタミナがどこまで戻るか。
汗を拭い、うなだれる従妹のほうへ歩み寄っていった。
- 27 名前:4126 投稿日:2001年10月22日(月)21時54分21秒
- 「辻選手をシドニーに連れて行きたいとバレーボールの監督が明言したのですが」
平家を囲んだ記者の一人が言った。最近辻が試合に出てないことを受けての発言だろう。
ルール違反。辻のレンタルは予選だけという約束だったのだから。
だがうまく立ち回らねばなるまい、後のちまで禍根を残さぬように。
「そういうお話があるとしても、最終的に決めるのは本人ですからね」
「続いて新垣選手についてですが」
新垣は今日の紅白戦でもいい働きをしていた。
「彼女のお爺さんがサッカー協会副会長だと聞いたのですが…選考に影響はありますか?」
- 28 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)10時17分22秒
- 寝耳に熱湯。一瞬はぁ、そうなんですかと答えかけた。
だがすぐにそれが下衆の勘ぐりだと気づき、頭に血がいきかける。
大喝が喉を通過しかけたところで、力を込めて飲み込む。
極めて、平静を装って
「へえ、そうだったんですか。で、それがなにか?」
実は平家もそんな話は伝え聞いたような覚えがある。だからどないやっちゅうねん。
「辻さんがそのことを不満に思い、バレーの関係者に漏らしたという話もあるんですよ」
辻も新垣も等しく可愛い教え子だし、大体協会に疎まれている自分がなぜそんなご機嫌取りをしなきゃならんのだ。
- 29 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)12時59分40秒
- 二日酔いの時はソバがうまい。昆布だしならなおいい。
チームを信田に任せた稲葉は昨晩痛飲した平家をソバ屋に連れ出した。酒臭い息で選手の前に立つ事は許されない。
「代表ってことは、国を背負って立つって意味でしょ。どうしてこんなことするんだろう」
「それだけみんな生きるのに必死なんだ。選考にまつわるスキャンダルなんて格好のネタだしな」
実は事実無根でもない。協会関係者がそれらしいニュアンスをほのめかせたことはあったが、稲葉はそんなことをわざわざ平家には伝えないし、まして手心を加えるなんて勝負の世界では有りえない。
- 30 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)15時15分58秒
- そば湯で焼酎を割って飲むとうまいが無論自重する。
「それより辻だよ。本人の意志に任せるって、あれはまずいよ。まるで勝手にしろよと言ってるようなもんだ。きついで、そんなん言われた選手は。嘘でも絶対離さへんと言うべきやった」
バレーボール協会が本気で辻を欲しがっているのは事実で、正式な打診もあった。
確かに平家が辻を使いあぐねているのだが、チーム一の足を捨てるつもりはない。
自分のことだけに集中できた選手時代が懐かしい。
「さ、食うたら帰るで。悪い噂ほど早く広まるいうてな、あらぬ誤解はさっさと解いとくに限んで」
- 31 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)17時55分01秒
- だが稲葉の予想を超える速さでその噂は広がり、すでにチームの全員が知るところとなっていた。
血縁ということで言えば、松浦亜弥の父も元日本代表のFWであることは誰もが知っている。だがすでにサッカーの世界を離れて久しく、松浦本人もシドニー行きは間違いない力を認められているからコネうんぬんは今さら言われない。
だが協会の牛耳るといわれる新垣の祖父はメキシコの銅メダリスト。そして新垣のシドニー行きは微妙。
しかも同じ右サイドの辻に持ち上がった問題――日本代表の青か、全日本の赤か――が疑惑に拍車をかけた。
- 32 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)19時34分27秒
- 加護あたりは内心穏やかではない。もしののが落ちてあのガキが入ったら許さへん、くらいは思っている。
辻はそれを知ってか知らずか、加護とも新垣とも距離を置いている。
新垣はいつもと変わらぬふうを装っているが、笑顔はない。
こういう家に生まれたことはお前の持って生まれた宿命なのだから、それに恥じぬよう一生懸命やりなさい。家人にはそう言われ続けてきた。
体に似合わない、激しさを前面に押し出したラフなプレースタイルも、お嬢さん呼ばわりされるのを嫌ってのこと。
だが誰もがハレモノのように扱うのが、新垣の現状だった。
- 33 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)19時48分11秒
- そうでない者も、いるにはいる。
「おーい、あんまり中盤でこねるなよ」
ニヤニヤしながらそう言ってのける小川。彼女だけは聞こえるような嫌味を連発した。周囲がひきつるのもお構いなし。
「残り飯を固めて、中に甘みそ入れて少しあぶるんだ。こねつけっていうんだけど、これがうまくて」
常軌を逸した発言。だが誰もがナーバスになっている。歯を食い縛り、泣くのを必死にこらえる新垣は、はちきれんばかりのストレスを抱えた他の選手たちのスケープゴートにさせられていた。
「あんた」
小川が顔を上げる。狂犬の目をした保田がそこにいた。
- 34 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)20時01分53秒
- 二度、鈍い音が響いた。
「恥知らず! 今すぐ帰れ!」
鼻血を拭いもせず、そっくりな目を保田に向ける小川。
「じゃあ、あいつが残って、自分が落ちても納得できるのかよ。そりゃ別枠だもんな」
「血縁でいったら、あんたとあたしだってそうなんだよ」
「姉ちゃんみたいなぺーぺー関係ねえだろ」
保田の従妹、どれだけそう呼ばれてきたか。小川麻琴の人格なんてどこにもなかった。
ようやく周囲が二人を分ける。
「落ち着け小川」
「かっこつけんじゃねえ。プロは日の丸のあるなしで給料が倍違うんだろ。なのにこんなこと許せるのかよ」
- 35 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)20時12分18秒
- 「ぶぁ〜か!」
その顔に、思い切りあざけりの言葉をぶつけた矢口。
「ばーかばーか、うんこちんちん、死ねっ」
「そんな、身も蓋もない」
「うるさい石川。小川だっけ。あんたらは、うちらの代よりうまいよ。うちら冬の時代とか言われてたかんな」
そこで大きく息を吸い
「けどあんたらよか優れてるところもある。仲間の足を引っ張って喜ぶような救いようのないバカ、うちらの代には一人もいなかった! 自分が落とされてなんであいつがって思っても、それを口に出すような心の貧しいやつだっていなかった!」
- 36 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)20時28分41秒
- 矢口、保田、そしてここにはいないもう一人。
三人が代表に初選出された時の風当たりの強さときたら、とても今の新垣の比などではない。ヘタっぴ、不必要…まさにクソミソ。レギュラー争いに加わるのにさえ一年近く要した。
初代表でスタメンだった後藤、かなり早い段階で中軸を担った石川や吉澤とはえらい違いだ。
あの頃はね、加護や辻にそう愚痴りたくなる時もある。
だがそんなことを言っても始まらない。なにより共に闘った『不毛の世代』その戦友たちへの圧倒的なシンパシーが、異国で頑張る矢口をいまだに支えているのだから。
- 37 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)21時14分45秒
- 「それにみんなだって、みっちゃんがどんな人か分かってるはずだよ。そんな理由で選手を選ぶかな?」
「んだんだ。だから新垣も、そんなこと気に病まねっていいからな」
安倍と飯田の仲立ちで、ようやく騒ぎは鎮静した。
「だいたい、キーパーとフィールダーが同じ枠を取り合うわけないし」
高橋の言葉が決定的だった。
「よかったよかった」
そう言って自己完結する石川の頭を矢口がひっぱたく。
「いたっ」
「本当なら、おまえがこういう騒ぎは収拾しないといけないんだよ。相変わらずのてんこ盛りバカめ」
「てんこ盛りまで言いますか」
- 38 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)22時58分48秒
- 結局、新しいことには何一つ手をつけられないまま(着手したとしても身にはならなかったろう)ドリームネットカップ初戦、対クウェート五輪代表戦のため大阪長居スタジアム入りした。まるで勉強せずにテストの朝を迎えてしまったかのような心境だ。
クウェートは母国代表監督経験を持つドイツ人を招き、徹底したカウンターサッカーを貫きイラク、サウジアラビアといった近隣諸国を押しのけた強敵。簡単には勝てないが策もない。幸い交代枠は七つある。
「今日はいろんなパターンを試す。全部アドリブだ。自分の好きなポジションで使われると思うなよ」
- 39 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)23時24分21秒
- >>427
そうか、中澤がいたんだな。改めて思う中澤の重要性。
- 40 名前:4126 投稿日:2001年10月23日(火)23時25分25秒
- すまん、スレ違い。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月23日(火)23時43分18秒
- まさにキラーパス。
しかも自分でとりにいくとは・・・。
- 42 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)07時23分40秒
- 「吉澤さん」
週刊誌の記者が主将をつかまえていろいろ聞き出そうとする。
「控えてもらえませんか。試合前でちょっと気が立ってますんで」
ちょっとなんてものではない、不動明王のごとき赤ら顔でその方をにらみぶした吉澤は、記者をぶん殴った『前科持ち』だ。
ただし今回、吉澤はリザーブ。平家のアドリブだった。
GK高橋、DF2斎藤3保田5後藤、MF4木村麻6ミカ8新垣10石川、FW7辻9安倍11柴田。
クウェートの監督がドイツ人ということで左DFに保田、スピードある両サイドMF対策にミカと新垣を起用。
新垣は、汚名返上のチャンスを与えられた。
- 43 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)07時47分51秒
- クウェートは3-6-1、2ストッパーの背後にリベロでキャプテンのA.I、1トップにその実妹A.Kのマエダ姉妹、両アウトサイドMFに双子のミクラ姉妹。W杯予選で日本を苦しめた夢の中盤をピッチ全体に広げた形だ。
「イシカワがキャプテンか。大したことないな」
ペナント交換の際、キャプテンのA.I.マエダが日本語でこの日キャプテンマークを巻いた元同僚に語りかけた。
海外組も帰国、クウェートはオリンピックに賭けている。
「いつまでも子供扱いするな」
日本五輪代表最初の試合はこのクウェート五輪代表、0-3と煮え湯を飲まされた苦い経験が。
- 44 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)12時49分01秒
- 石川のオープンパスに柴田が追いついて、センタリング。A.I.マエダのスライディングに弾かれる。
ちぇっ、相変わらずバカッ広い守備範囲だこと。
A.I.と石川、柴田、そしてベンチの矢口。かつて横浜フリューゲルスの中盤を彩った同胞が今は敵味方に分かれて戦う。
飯田から定位置を奪い返すのが難しい今、ポジションにこだわっていられない柴田。
監督としての平家は公平だ。しかし人間としての平家は、柴田にシドニーに行って欲しいと密かに願っている。
自分と同じレフティ。石川という強烈な光に隠れ、日の当たらぬ道を歩んできた才能に。
- 45 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)15時23分37秒
- 「後藤、上がってもいいぞ」
FW一人にDFが三人残ることはない。保田が後藤に攻撃参加を促す。後藤も保田のマンマーク能力を欧州チャンピオンズリーグ決勝で改めて思い知らされたばかり、安心して中盤のパス混ぜに参加できる。
クウェートのA.K.とも元同僚の保田、そのプレースタイルも知り尽くしている。
中央からサイドへ、斜めの動きが鋭い。しかも体つきが一回りでかくなった。
まともにいったのでは勝目はない、巧みな切り返しで裏を取られる。
斎藤、インターセプト。喝采が起こる。
保田の指示通りだった。斎藤はそこにいればよかった。
- 46 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)21時00分04秒
- クウェートの中盤は右マナ左カナの両サイド、前と後ろに二人ずつが横並びのそろばんの珠のような六角形。新垣とミカがミクラ姉妹に張りついているので、二列目のケアは守備的MFの仕事。だが本日の4番木村が飛び出してくる選手をつかまえきれない。
「あかんなあさみ。替えよか」
「吉澤? 戸田?」
「そんなん、おもんない。紺野!」
正直紺野の使い道を考えあぐねている平家。足もある、守りも堅い、なにより危機を逸早く察知する超能力? まで持つ。
それを最も有効に活かせるのはどこか。平家に突きつけられた「宿題」だった。
- 47 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)21時21分16秒
- 麻美とあさ美がタッチライン上ですれ違う。前半20分過ぎ、紺色の代表ユニフォームをまとった紺野が五輪チームデビューを果たした。
「紺野、落ち着いてな」
「ハイ」
もとはリベロ、センターバックの要素を持つ3-4-3の4番もこなせるはずだ。
その期待に応えるように早めにスペースを消し、クウェートの攻め手を封じる。
「落ち着いとるやないか」
トンデモナイ。この時の紺野、実は生涯五指に入るあがりっぷりだった。
本当ならギリギリまでそこを空けてパスを誘い、奪って速攻にいくのに先にスペースを消してしまうからボールが取れないのだ。
- 48 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)21時38分17秒
- 両サイドの戦い、ミカ対K.ミクラ、新垣対M.ミクラも白熱する。
自分と同じタテに抜けるのが速いマナにミカが食らいつけば、小技を駆使するカナに臆せず寄せる新垣。
こういう自分のプレーを好まない人が大勢いることを新垣もよく知っている。
だが新垣にはスピードもテクニックも、センスもフィジカルもない。あるのはハートのみ。
眼前の敵をただひたすらにつぶしまくる。その他に自分が生き残る術はない。
ミカもそうだ。ミカの体には日本人の血が半分しか流れていない。だから日の丸をつけることで、真に日本人になれる気がするのだ。
- 49 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)21時47分50秒
- クウェートのストッパーは安倍と石川についていた。ともに身体能力に優れた大柄な選手で二人に自由に仕事をさせない。
安倍が持つ。マークを引きずりながら相手ゴールへ迫る。その左に青い影が。後藤だ。パス出せ。
打った。先回りしていたA.I.の足に当たってゴールを越えた。
こっちに出せよ、そうジェスチャーで訴える後藤を安倍は見ようともしない。やはり二人の関係は修復されていないのか。石川の危惧は広がる。
が、それはそれとしてコーナーキックを得た。熱望していた、フリーでボールが蹴れるお時間がやって参りました。
- 50 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月24日(水)21時51分09秒
- ストッパーは間に居るって事だよね?
石川と安倍の…
- 51 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)21時59分50秒
- 左コーナー。ショートに柴田、ニアに保田、中央に後藤、ファーに安倍、キーパー付近に辻が。
後藤がマークを外した。すかさず狙う。わずかに浮き、ゴール上空を通過してファーに流れる。
安倍がいた。トラップ。角度はない。後藤はフリー。
左足、ふわりとしたセンタリング。後藤がカエル飛び。ハーフスピードのダイビングヘッドがゴールネットに優しく抱き止められた。日本、先制。
喜び以上に、石川にはショックだった。
「あの二人? とっくに仲直りしてんだってさ」
肩を組んでジャンプする二人を、保田が乱暴に親指で差した。
- 52 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)22時13分23秒
- いつ、どうして、どうやって?
「フランスで、とことん話しあったんだと。そしたら単なる誤解でした、チャンチャン、さ」
「でも、どっちから歩み寄ったんですか?」
二人ともプライドは大変に高いはず。
「仲立ちがあったんだよ」
誰の? と言いかけて、やめた。そんなことをしそうなのは石川の知る限り、一人しかいない。
ロッカーに入って、一発ギャグかましにきたわけじゃなかったのね。
あの人はそういう人だ。代表のためなら、なんでもやる。
ベンチで手を叩く座敷わらしを、横目でちらりと見た。
- 53 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)22時23分45秒
- 「後藤だって、本当はチャリティー貧乏なんだ。いつもぴーぴー言ってるから時々怒ってんだけどな」
寄付を求められ、断り切れなかった後藤の姿を保田は何度も見ている。
表沙汰にしないのは、後藤が自らにつきまとう奔放なイメージを壊したくないから。
道端で泣いている子供がいたとする。なんのてらいもなく救いの手を差し伸べるのが安倍。後藤は注意深く辺りを見渡し、それからようやくどうしたの? と尋ねる。
慈善か偽善か、ここでは触れない。
ただ確かなのは、後藤が安倍を、ほんのちょっとだけうらやましいと感じていることだけだ。
- 54 名前:4126 投稿日:2001年10月24日(水)22時27分53秒
- >>50
んにゃ、クウェートは2ストッパーでそれぞれ石川と安倍についてるんだ。よく読んでくれ。それとも俺の書き方が悪かったか?
- 55 名前:名無し 投稿日:2001年10月25日(木)00時21分35秒
- >>54の補足
クウェートにはリベロのA.I.がいる。
リベロがいる場合の決まり事は
ストッパーは相手の最前線にいる選手のマークにつく。
これは最低限のルール。
- 56 名前:名無し 投稿日:2001年10月25日(木)00時25分39秒
- おお、平家監督、前目のリベロ、紺野を投入か!
コレぞホントの2リベロシステム。
「2スイーパーシステム」を「2リベロシステム」って言い切っちゃう「ファンタジスタ」を越えたな(w
- 57 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)06時11分49秒
- ハーフタイムを終えた日本、一挙三人を交代させた。
新垣を下げて矢口、保田を下げて飯田、斎藤を下げて松浦を入れた。飯田は6、ミカは3、松浦は10、石川は4、紺野は2へ。
「松浦。思い切りよくいこう」
安倍の激励に、元気よく返事する松浦。
飯田が左の太ももの裏をさかんに気にする。本番前に悪化させるのは避けたい。
やっときたか。A.I.はこの瞬間を待っていた。
矢口、石川、柴田。一生忘れないであろう元旦の正月、あの日の四枚の翼たちが、こうしてピッチに揃いぶみした。
- 58 名前:50 投稿日:2001年10月25日(木)07時57分28秒
- >>55
説明ありがとうございました。
僕の読解不足でした。
今度から紙に書いておきます(w
よく考えると、保田が後藤と一番付き合い長いんだよな〜
過ごした時間…
- 59 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)10時17分29秒
- やっぱすげえや、お役御免となった新垣が、後半自分の位置に入った矢口のプレーに見入る。K.ミクラに、まるで仕事をさせない。
ありったけの力を振り絞り、相手と自分を相殺させることは新垣にもできた。
矢口は必要最小限の力でそれをこなし、残りはすべて攻撃に費やしている。左の飯田も同様。つけいるスキなんて、ありそうにない。
あー、ちかれた。
保田はなんとかごまかしがきいたことに安堵する。45分の仕事でスタミナ不足を露呈させることはなかった。
やるからには、もう一度、日の丸を狙う。
- 60 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)12時57分33秒
- 紺野は右DFに。前半中盤で見せた守備は及第点、だが攻撃ではあまり見るべきものがなかった。
センターポジションに比べ制約の小さいサイドに置くことで、どれだけ力を出せるか。後藤にはスイーパーに徹しろと言い置いた。両サイドバックのオーバーラップの質を見極めるためだ。
ミカが様子を伺う。逆サイドを紺野が上がるのが見え、足を止めた。矢口が紺野を使う。センタリング。松浦のヘッドはGK正面。
今度こそミカが前へ。だが先をいく紺野にまたも止まる。Why? 順番は守ってよ。
かと思えば今度はなかなか行かない。ミカには理解不能だった。
- 61 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)17時53分35秒
- 平家には紺野の考えがよく分かる。中盤の底の石川と右の矢口がポジションチェンジを繰り返し、クウェートが困惑している。
わずかに顔を覗かせたスキマを見逃さなかった紺野。やはりそのスペース察知能力に疑いの余地はない。
ただこのチームのサイドバックは交互に上がる決まり事がある。両DFが同時に上がるとカウンターに対応しきれないためだ。
コンビというと隣のポジションを想像しがちだが、同じ高さの両端も重要なのではないか。
辻と加護、石川と柴田、戸田と木村麻美…時折ハッとなるコンビを見せることがある、最も遠い位置にいながら。
- 62 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)19時26分42秒
- 飯田の左足がコンパクトに振り抜かれ、次の瞬間には逆サイドを走る辻の足元に計ったようなパスが入る。
好調な時ならもう少し遠いところに出すのだが、飯田も今の辻にはあまり多くは求めない。
カットされた。普段の辻なら振り切れたはずだ。ボールはタッチを割る。
辻をどうやって使うか、難しいところだ。
「アヤカー、アップ」
今日は出番がないと聞いてたので、あわてて立ち上がる。
信頼を回復するためにスタメンで使ったのが、かえって仇になった。
辻はなにもできないままベンチに下がった。
- 63 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)20時12分26秒
- A.I.のロングパスが右タッチを割る。紺野がボールを拾う。
「来い!」
高橋が寄っていく。年長者の増えたチームにあって、新参で一つ下の紺野は先輩風を吹かせられる数少ない存在だ。
紺野がそちらにスローインを投げ入れようとする。
「待て!」
後藤が叫んだ時はボールは紺野の手を離れ、高橋のほうへ。
クウェート人が目の端に飛び込み、慌てた高橋の胸からボールが大きく弾む。
A.K.と高橋がもつれる。笛は鳴らない。ボールがゆっくり無人のゴールに転がるのをどうしようもできなかった。
若さ、それが裏目に出てしまった。
- 64 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)20時57分00秒
- 「あちゃー…」
平家が額をぴたりと叩いた。
「ま、ミスは今のうちにしとけばいいよ。シドニーでやられたら困るけど」
信田も苦笑いする。
「村田を使いますか」
「そうねえ。罰みたく受け取られないかな」
「それもまたよし」
交代を命じられた高橋が、うつむいたまま戻ってくる。
どよめきに振り向く。
石川のパスを受けた矢口が力任せに突破、A.I.をかわしてシュート。キーパーがファンブルしたところに安倍がいた。
松浦もそこを狙っていた。スピードは自分のほうがあるはずなのに、間に合わなかった。
- 65 名前:4126 投稿日:2001年10月25日(木)22時28分08秒
- この安倍のゴールが決勝点になり、日本はに2-1と辛勝した。
もっともこの試合、勝敗は二の次。クウェートはサイドを封じられた際の攻め手、日本は時折見せる若さとそれぞれ課題が浮き彫りになった。
「そっち三人だもん、こっち一人で勝てるわけないよ」
「11対11じゃーん」
元フリエのが旧友たちが無邪気に笑い合い、シドニーでの再戦を誓った。もちろん、今度は100%の力で。
クウェートは予選B組。ナイジェリア、フランス、コロンビアと対戦する。
- 66 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)07時13分13秒
- 三日後、仙台での第二戦は2-2のドロー。クウェートは1分け1敗でこのシリーズを終え帰国した。
日本は最終戦、引き分ければドリームネットカップ優勝が決まる。
会場はこれがこけら落としとなる新潟ビッグスワン。
相手はもちろん宿敵、韓国。
国粋主義を貫いてきた韓国だが、ここにきてオランダ人監督を招聘、強化に乗り出す。無論、日韓共催の決まった2002年ワールドカップに向けて。
予選決勝ではカタールを5-3と派手なスコアで撃破したように、攻撃力の高いチームに生まれ変わっていた。
- 67 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)07時47分13秒
- スタメンはすでに決まっている。小川、大谷、戸田、吉澤、紺野、飯田、石川、アヤカ、松浦、矢口、加護。
紺野を5番、チームの同じ大谷と戸田でサイドを固めた。戸田の左DF起用は6番の飯田との相性を見るため。懸念の右ウイングは石川を試す。
懸念といえば、どちらを使うか決められないでいるのがゴールキーパーだ。
若いキーパーを使う事への不安は当然ある。韓国もクウェートもGKにオーバーエイジ枠を使っている。
高橋も小川も青い。ユーベやフランスのような格上に見せたようなパフォーマンスを、同等の相手に維持できないところがある。
- 68 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)17時42分46秒
- 「シノちゃん」
小湊が信田に一通の茶封筒を手渡した。
「監督さんに渡してくれれば全部分かるから」
自分が直接言えば角が立つ。小湊らしい気遣いだった。
小湊と別れてから、中身を確かめる。ある選手についてのカルテだった。
とりあえず、明日の試合に出られる状態ではないこと。サッカーそのものを続けさせるのも好ましくないと。
握りつぶした。
美和、かませ犬って知ってるか?
ダイヤモンドを研磨するには、ダイヤモンドを使うしかない。
オリンピック、2002年に輝く宝石を磨くため、あいつには捨て石になってもらう。
- 69 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)19時24分48秒
- 高橋が物音に薄目を開けると、暗闇の中に黄色い冷蔵庫の光がまぶしかった。
何時だと思ってんだよ…ほふく前進するルームメイトに背中を向ける。
女の子にはありがちだ。食うべきか、食わざるべきか、それが問題だ。辻や加護なら迷わずばくばく食べるだろうが。
「こ…」
うめくほど食べたいんかい。ならとっとと食って早いとこ寝てくれ。
「こ、氷、こおりぃ〜っ」
飛び起きた。
- 70 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)20時41分40秒
- 部屋を明るくすると、小川の右脇腹にはまるでリンゴをぶら下げたような腫れが。
「ぶつけたの?」
「いつものことだよ。キーパーやってて、腰がおかしくならないやつのほうがおかしい。てめえだってわかんだろ」
腰痛はGKの宿痾。よほど痛めない限り引退の理由にはならないのだが。
「小湊先生を」
「絶対呼ぶな。呼んだら殺す」
刹那、高橋が吹き出す。
「笑うな」
「だって、その格好で凄まれても」
確かに今の小川はベッドの上にうつ伏せになり、寝間着がわりのジャージをひざまで引き下げたお尻丸出しの姿で腰に氷のうを当てている。
- 71 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)20時57分39秒
- 改めて見れば、小川の背中から腰にかけてのラインにはほとんど肉がなく、あばら骨が木琴のように突出していた。
このむき出しの腰を、越後の冷えきった地表に投げ出していたのか。
高橋も北陸の出だ。日本海特有の厚い雪雲を、降り積もる白魔を割って外の世界に飛び出していった人間だ。
サッカー最大の魅力がゴールシーンにあるのだとすれば、キーパーとはその瞬間を妨害する存在。
「キーパーなんてやるもんじゃねえ」
「生まれ変わったら絶対FW」
けど、もしそんな機会があってもまた自分たちは手袋をはめ、ゴールマウスの前に立つのだろう。
- 72 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)21時18分26秒
- 翌日、デーゲームのため午前中に会場入りした日本チーム。
韓国のオーダー表が回ってきて、目を通した平家が
「やられたっ」
オーソドックスな4-4-2、GKにソン・ソニン、MFにリ・アキナ。
オーバーエイジ三人を含め、韓国はベストメンバーを揃えてきた。最終テストを前の試合で終え、今日は勝ちにきたのだ。
オランダ人監督は日本の猿マネ・アヤックスシステムを鼻で笑い飛ばし、こう断言してみせた。
「3-4-3は諸刃の剣だ。使い方を誤ればたちまち自らの首を絞めることになる。今日、それをお目にかけよう」
- 73 名前:4126 投稿日:2001年10月26日(金)23時56分08秒
- 韓国五輪代表主将リ・アキナは吉澤の元同僚、右アキレス腱断絶の重傷を乗り越え、現在は英エバートンに移籍。リバプールとのダービーマッチでの飯田との戦いは「トムとジェリー」と呼ばれ、一つの華になっている。対戦成績は、どちらがネコでどちらがネズミかで推して知るべし。
国籍の違う者との友情は、代表の仲間とはまた違う。吉澤とアキナの試合前の握手にも力が入る。
試合開始直後、センターサークル付近から放った矢口のシュートが日本で育ったソン・ソニンの守るゴールの右へ大きく外れた。
日韓戦は、日韓戦だけは他の試合とは別物だ。
- 74 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)07時37分15秒
- こいつのほうがうるさくなくっていいや。今日コンビを組む紺野に対する小川の感想。腰のほうはあまりよくなってない。
韓国といえば3バック、しかもコテコテのマンツーマンが定番だが今日はゾーン、フラット4。予選終了後に取り入れた戦術だそうだが若い選手たちはまずまずの手ごたえを感じているようだ。
韓国は二年前の予選で日本を苦しめたアキナがトップ下に、ファン・アミゴが引退したFWにはアキナらとずっとサッカーをやってきたストライカー、チェ・ダイチ。センターバックにカン・ジョー。ソニンを含めたこの三人がオーバーエイジ。
- 75 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)08時08分04秒
- 戸田が飯田を追い越していく。そこに飯田からのパスが出る。戸田が右にはたく。加護へ。加護から矢口を経由して、石川。
石川がクロスを上げた。この位置まで上がっていた吉澤が松浦に落とす。ワントラップして韓国DFジョーをかわす。シュート。ソニンが倒れながら胸でキャッチ。
飯田が左サイドにいると、戸田や加護の動きも違ってくる。
安倍という手本を目の当たりにして、ダイレクトシュート一辺倒だった松浦もプレーに厚みが出てきた。
オーバーエージ、誰を連れて行くか。それもこの試合で決めなくてはならない。
- 76 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)10時28分31秒
- GKソニン、一気に縦へ。韓国A代表ではFWをつとめることもある元コリアンジャパニーズ、その足で蹴り上げたボールをアキナが吉澤に競り勝ち、紺野の裏へ柔らかく落とす。
W杯予選を兵役で棒に振った韓国FWダイチ、今回に賭ける思いは強い。
その足元に、スライディング。派手に転ぶダイチ。
立ち上がりざま、長い髪を振り乱して、叫ぶ。
「吉澤、簡単に抜かれるな!」
A代表キャプテンが、オリンピックのキャプテンにカツを入れた。
- 77 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)12時31分33秒
- 狙い通り。韓国は日本を研究し尽くしてきた。
攻撃的でサイドアタック、縦の関係を重視した3-4-3にはカウンターが効果的。それも横に揺さぶるとガタガタに崩される。サイドを突くためのシステムがサイド攻撃に弱いというパラドクス。
韓国はDFが深く守り、サイドもまるで攻め上がらない。
ウイングを置くチームにコーナー付近のスペースを与えるほど無謀なことはない。同じサイドからのボールでも、ゴールから遠ければいくらでも対処できる。
日本よ、攻めるのもいいが少しは現実を見たらどうだ。
世界はそう簡単にはチャンスをくれんぞ。
- 78 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)16時09分25秒
- 3-4-3がハイリスク? 分かりきっている。
大事なのは点を取られないことじゃなくて勝つことだ。同じ勝つなら、楽しいサッカーで勝つほうがいい。
アジアの力をみくびんな。
薄い守りでも耐え抜けるGKにDF、攻め勝つだけの力を有したMFやFWが揃ったチームだ。これだけの才能が肩を並べるチームでつまらんサッカーなんがしてみろ、バチが当たる。
韓国が堅い守りをベースにしたチームを作った意図はよく分かる。それだけ粘り強い人材に恵まれている。
それはそれで尊重するが、自分は組織を、個性を生かせない言い訳にはしない。
- 79 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)16時44分46秒
- ボールを持つのは日本、試合の主導権は韓国。
前半44分。右からのクロス。
「OK!」
小川が飛び出した。交錯したのは、なんと紺野。クリアしきれなかったボールがアキナの足元へ。キーパー、手を伸ばす。肱をかすめ、勢いを失ったボールが無人のゴールへ。
全速力で追う人影。
「紺野!」
爪先に感触あり。ふわりとした軌跡をたどって、天井ネットに乗った。
心臓に悪いぜ…小川がへなへなとなりかかった時、思い出したように鈍痛が響いた。
やばい…顔が青ざめる。思わず腰に手を当てた。
- 80 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)17時23分26秒
- ロスタイム。韓国のコーナーキック。
「ぜ…全員戻れ!」
声がかすれる。嫌な心音が止まらない。
頼む。今日だけはもってくれ。今日結果を出さなければシドニーはないんだ。
「紺野、15つけ!」
最終ラインから上がってきたカン・ジョーはやや太目のパワーあふれるディフェンダー。
アキナのコーナー。そのジョーに合わせて、曲げてきた。
最初の一歩で激痛が走った。飛び出しに鋭さがない。
ぼよよ〜ん。
肩を張り、腕ではね飛ばそうとしたジョーのほうが派手に尻餅。
紺野のヘッド、ノーバウンドでタッチを割った。
- 81 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)18時18分55秒
- 「後半、やめたほうがいいよ」
ハーフタイム、濡れタオルで腰を冷やしていた小川に声をかけた紺野。
「そっか。あんた医者の卵だってな」
「獣医だけど」
「医者は嫌いだ」
「そんなこと言って…もしオリンピックがダメでも」
「あたしはあんたらとは違う!」
濡れタオルが紺野の胸を叩いて落ちた。
「あたしは、これが最後なんだ…あんたらはそうだろう。オリンピックなんて通過点としか考えてねえだろ。2002年、06年、10年…あたしの体は、とてもそこまでもっちゃくれない。壊れかけなのを、だましだましやってくしかねえんだよ!」
- 82 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)18時33分29秒
- 何度自分の病弱さを呪ったろう。言う事を聞いてくれないこの身がどれだけ悔しかったか。
「自分が信じらんねえ。なんでこんな簡単なこともできねえのか、これだけ努力したのにどうして結果が出ねえのか。結局、最後は自分自身に行き着くんだ」
絞り出すような悲鳴が紺野の胸を突く。
「才能はねえ、体も弱い、それでも勝ち続けていくしかないんだ」
強迫観念。小川のエキセントリックな性格はこんなところから生まれているのかも、紺野は思う。
「…分かった、出なよ」
小川に顔を上げさせる。
「でも、飛ぶ必要はない。なくしてみせるから」
- 83 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)18時58分21秒
- チェ・ダイチのシュートは小川の正面。紺野がうまくシュートコースを限定してくれるお陰で、小川は後半まだ一つもダイブしていない。
無理はせず、右DFに下がったアヤカにスローする。
後半、大谷に変わって辻が入った。辻が7番に入り石川、アヤカが一列ずつ下がった形だ。
アヤカは中盤でも最終ラインでも頼もしい働きをしてくれ、平家にとってはこれほど有り難い選手はいない。
辻にはこれがラストチャンス。もしこの使い方で結果を出せなければ、シドニーへは連れて行けない。
本人もそれを知っていて、猛烈な勢いでゴールへ迫る。倒された。
- 84 名前:4126 投稿日:2001年10月27日(土)19時50分46秒
- フリーキックだ。ソニンが壁を作り、石川柴田矢口が右45度のボールの前に集う。
旗色は悪い。DFの踏ん張りでなんとか無失点で切り抜けてはいるが、そろそろ限界だ。
後半左DFに入った柴田が食い入るようにしてゴールを見つめる。
「柴田、蹴りたいか」
「はい。とても」
珍しく明確な意思表示をしてみせた。
壁は石川を警戒して右寄り。その石川がボールをセット。
柴田が蹴ったボールは壁の右を越える。そのままだと枠を外れるボールが小さく、左へ曲がる。アウトフロント。GKの初動作が遅れた。
「どうだっ」
先制点は、伏兵、柴田あゆみ。
- 85 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)03時14分57秒
- 守りのチームが先制されたで。さ、どないする韓国?
平家が攻撃サッカーを信奉する理由の一つがこれだ。
攻めのチームはまた打たれ強い。取られても取り返す。
韓国がミドル、ロングレンジからシュートの雨を降らせる。
紺野が叩き落とす。足で胸で頭で。
「くっ」
攻めあぐねる韓国、アキナを吉澤の長い足が襲う。奪った。
しまった。吉澤のドリブルにアキナが食らいつく。シュート。ジョーが大きく弾く。
落下地点に飯田。チップキック。韓国DFの頭上を越えるボールの落ち際を松浦が左でぶっ叩く。
韓国GKソニンの脇の下を鋭く抜き去った。
- 86 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)07時55分14秒
- どうしたんだ、韓国。まるで手ごたえを感じないぞ。
セットプレーとカウンターとはいえ、あまりにあっさり得点を許し過ぎる。アジアの虎の面影は感じられない。
ピッチの端でオランダ語が甲高く響く。人間関係の問題なのか。
と思ったら、きた。
DFのジョーを前線に。これで日本と同じ3-4-3。
「吉澤!」
吉澤を最終ラインに組み込み、加護と辻をやや引き気味に。日本は4-5-1でボールを拾いにいく。アキナのマークは石川が受け持った。
早めにジョーに合わせ、アキナが飛び込む。小川のパンチ。腰を強打。
そうだ、こうでなきゃ面白くねえ。
- 87 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)08時09分44秒
- ハイボール責め。荒あらしく単純なれど、球際に強い韓国選手のそれは時に緻密なサッカーを打ち崩すほどの破壊力を持つ。
アキナのキープ力に石川が振り回される。矢口、飯田がフォローにくるとその裏を狙う。
サイドDFをかわし、センタリング。吉澤と紺野が再三空中戦に駆り出される。
飯田が自らの判断で下がってきた。長身を活かし、クロスをはね返す。
めっきり忙しくなった小川も拳を固めてゴールを空ける。
脇腹に、ジョーのひざが入った。つかみかけたボールをこぼしてしまう。ダイチの足元に。笛は鳴らされなかった。
- 88 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)08時21分26秒
- 「小川ちゃん」
腰痛と失点、ダブルショックに打ちのめされる小川に紺野が駆け寄る。
「今の、GKチャージじゃない?」
「紺野、もうキーパーチャージって反則はないんだよ」
小川の激しくFWに当たりにいくセービングのスタイルは、キーパーが特別なルールによって保護されるという前提があって初めて成り立つものだった。
だが日々11人目のフィールドプレーヤーと化していく現代のGK、その特権がついに剥奪された。
かといって、長年培ってきたスタイルが簡単に変えられるはずもない。
小川が笑う。やっぱりあたしは消え去る運命にあるんだな。
- 89 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)08時34分11秒
- 残り20分。小川にとっては地獄のような時間が始まる。
ダイチのシュートに半身で飛び出す。ボールがみぞおちをえぐる。
左からのクロスを右手ではたき落とし、そのまま蹴り出す。
ワンプレーのたび腰にかかる負荷が増大していく。
シドニーまではもってくれ。あとはどうでもいい。
小川のサッカー道はオリンピックから先が滝のようになっている。
右クロス。ジョー、フリーで飛ぶ。小川も出かける。
旗が上がる。笛が鳴る。オフサイド。吉澤と紺野、鮮やかな連携だった。
試合が止まる。日本に選手交代が。
加護亜依、アウト。保田圭、イン。
- 90 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)08時46分43秒
- 「吉澤、中盤に戻って10(アキナ)のマーク。石川、加護の位置に。15(ジョー)はあたしが見る」
「姉ちゃん」
すがるような小川に保田が小声で
「マコト、腰痛いんだろ?」
「う、うん」
「なんでもないって顔してろ。腰が引けてたら、それだけで狙い撃ちされるぞ」
相変わらずの怖さだ。それでもずいぶん気持ちが楽になった小川。
一緒にサッカーをすること自体何年ぶりだろう。
それがまさか、こんな形で同じチームになるなんて。
「クリア!」
保田のヘッドが派手に打ち上がった。
- 91 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)10時00分47秒
- やはり保田がいるとバック全体の安定ぶりが違う。小川も安心して任せている感じがする。
だが最終ラインも飯田、矢口が中盤を引き締めているからこそ相手の手の内を限定できる。
かといって今日はベンチにいる安倍の決定力は無視できない。
この四人に後藤を含めた五人がこのチームでは頭抜けた力を持っている。
四人のうち一人をふるい落とさなければいけない。
もしこの場に前と中盤をこなせる福田がいれば、安倍か矢口を外してもプラマイゼロなのだが。
U23の枠は平家の中で固まった。あとは手持ちの四枚のクイーン、どれを切るかのみ。
- 92 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)10時14分57秒
- 再びアキナにピタッとくっついた吉澤。U17からのライバルも選手としての最盛期を迎えようとしている。
韓国人には珍しい柔らかいボールタッチに加え、随分パワフルになった。どこか英国の香を漂わせるのは、辺り構わずぶつかっていくのではなく、ここぞという局面で居合抜きのようにギラリとした一撃を見舞にいくところか。
もちろん吉澤も昔のままではない。ダイナミックな守備に加え精神的な落ち着きが出てきた。
アキナの突進を吉澤、体で阻む。もつれて倒れる二人。
「アキちゃん!」
先に起き上がった吉澤の背に冷たいものが駆け巡った。
- 93 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)10時29分08秒
- 「痛いなあ、このバカ力」
アキナが日本語でそう言い、吉澤の足を軽く叩くとほっと胸を撫で下す吉澤。
だがPKだ。倒されたアキナがそのままボールを抱えてスポットへと向かう。
キーパーは小川。黄色いGKジャージの袖を七分にまくり上げ、11メーター先からのキックに備える。
飛んだ方向は合っていたが、アキナのシュートが速かった。
韓国、同点。タイスコアに持ち込んだキッカーが同胞たちに軽くガッツポーズを向けた。
「今のはしょうがないよ。ほら、始めるよ」
保田がうなだれた小川を励ました。
- 94 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)11時36分13秒
- 「のの!」
加護が松浦のつむじを仰ぎ見るロビングを上げる。辻のランニングボレーはGKのパンチングに遭う。
2-2のまますでにロスタイムは3分を超えた。
石川が手早くショートコーナー、受けた矢口が出しどころに悩む。
突如、まだゴールには遠い、誰もいない個所に転がした。
溶けかかったバターのような黄色が、それを韓国の喉もとをかっ切るナイフに仕上げた。
赤いユニフォームの誰か――アキナだった――の額をかすめ、外に出ると悔やむ間も惜しんで背中を向けたが、長い笛が吹かれるとその場に座り込む。
小川は故郷に錦を飾れなかった。
- 95 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)11時51分18秒
- なんとかこのシリーズを優勝で飾った日本、アウェーで2点差を覆した韓国。最低限の面目は保てた。
肩書を捨て、親友に戻った吉澤とアキナが静かに笑みを交わす。
決勝トーナメントでの再戦を誓いあい、ユニフォームを交換した。
韓国はグループA。相手国はアメリカ、イタリア、モロッコと堅守を誇るチームが揃いぶみだ。
そして日本は、メンバー決定前の全日程を終了した。
あとは出発前、ナイジェリア五輪チームとの壮行試合を残すのみ。テストはすべて終わった。
- 96 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)15時57分23秒
- 九月の第一日曜日。
習志野市民競技場に、昨日クラブでの五輪前最終戦を終えた高橋の姿があった。
天皇杯千葉県予選決勝。市立船橋高等学校対私立順天堂大学。
誘われたわけじゃない。ただどんなサッカーをしているのか興味があった。車窓からディズニーランドが見えたのに驚いた。
エンジと青のストライプが順天堂大学。うち一人だけグレーのGKジャージに身を包んだ背番号1。
日差しが強く、あまり肌をさらしたくない高橋はサングラスの上に日傘まで差す。
「あの、サインもらえますか?」
声に振り向くと、ピースサインをした保田がいた。
- 97 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)16時26分05秒
- 「ま、一応母校の試合ですから」
保田はすでにドイツの居を引き払っていた。海外組も欧州組は帰国、矢口と石川も地球の向こう側でもう一試合を戦ったらフライトする。
高橋も保田にはいろいろ聞いてみたいことがあるのだ。なぜあれだけ動けるのに現役をあきらめるのか、そしてなぜ指導者としてのスタートを日本で切るのか。
「小川さんて子供の頃どんな子だったんですか?」
「うーん…子供の頃あいつの実家に帰省するくらいしか会う機会がなかったし、あたしがイチフナに入って休みのない生活になってからそれもなくなったからなあ」
- 98 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)16時45分43秒
- だからどうして従妹があんなふうになってしまったのか、それを一番知りたかったのは実は保田だったのだ。
新潟の試合前、小川は試合のチケットを四枚手配してくれと頼んでいる。宛先は新潟県柏崎市、しかし実家の住所ではなかった。保田はそれを控えた。
小川には内証で連絡を取り、試合の翌日会うことに。平家もオーバーエイジに関してはうるさく言わず、それを許した。
JR柏崎駅に下り立つと潮の香りに出迎えられ、子供の日の思い出を呼び起こされた。
待ち合わせは駅近くのファミレス、近くの小汚いパチンコ屋で約束の時間まで暇をつぶした。
- 99 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)17時02分42秒
- 危うくコーヒー代までスッてしまいそうになるほど負けてからファミレスを訪れると、お目当ての四人とおぼしき一団が手を振っていた。
類は友を呼ぶ。どんな連中かを見れば、小川がどんな子だったが分かりそうなものだ。
が、ヤンママ風あり、お嬢様女子大生風あり、その個性はてんでばらばら。
「わあ、マコにそっくりだ」
「小川ちゃん、いつも保田さんのこと自慢してたっすよ」
四人は柏崎景虎高校時代の小川の同級生だった。
ただこの学校は小川たちの代で廃校になり、跡地には郊外型の大きなスーパーが建ってしまっているという。
- 100 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)17時25分19秒
- 「スケバン、かな」
高校時代の小川がどんな子かを尋ねられて、バックパッカー風の一人がそう答えた。
「特別悪かったってわけじゃなくて、まあ酒タバコはやってたけど」
そういえばバラバラな全員の前に灰皿が並んでいる。
「生従会長だったし、バカ学校だったけど成績トップだったし、かわいかったから」
「うちら、一度はみんなマコちんの世話になってますよ」
「サッカー部は強かった?」
保田が尋ねる。
「ていうか、ねえ」
「うちらの代で廃校決まったんで、下級生が入って来なくて運動部、どこも寄せ集めになっちゃったんですよね」
- 101 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)18時02分49秒
- 小川もいろんな部活に駆り出されたという。硬式野球、バレーボール、バスケット、ラグビー、剣道団体戦…
「センターが好きだったよね」
「剣道でも大将じゃなくて中堅だったしね」
「バスケも自分より背の高い子がいるのにセンター」
「負けると大泣きするのな」
「助っ人が一番泣いてどうするってな」
彼女たちの話と今の小川とが重なるのはその辺りだけだ。
同じゴンタでも皆の中心にいるガキ大将と一匹狼。
その締めくくりが高校サッカー選手権。就職試験や入試に追われる級友をかき集めて臨んだ。彼女たちがそのうち四人だった。
- 102 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)18時21分38秒
- 4-20、6-28、3-39…長岡にある短大の保育科に通うという彼女が持ってきたスコアボード、そこに記されていたシュート数。そしてスコアはどれも1-0。
「うちらみんな違う部だったんです。バレー、ソフト、競泳、茶道」
寄せ集めに高い戦術理解を求めるだけ無謀。抜かせるな、カバーを忘れるな、ペナの中で倒すな。サッカー部主将、いや、唯一の部員小川はそれしか言わなかった。
相手が攻め疲れ、守りにまで気が回らなくなったところで得意の遠投。ハーフラインに立つ二人、短距離の選手と野球部の1番打者がそれをなんとか決めれば試合は終わった。
- 103 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)18時38分21秒
- 強豪ひしめく静岡や千葉では有り得ないこと、新潟という地域だからこそ起こった奇跡だった。
スクラップブックに閉じられたローカル誌の集合写真はちょうど11人。黄色と黒の縦縞、ダメ虎高とまで呼ばれた出ちゃ負けチームにはタイガー軍団という勇ましい見出しがついていた。
その中心に座る、一人だけ白いユニフォームをまとったGKは、五輪チームでは一度も見せたことがない明るい笑顔を、まだ幼さの残る顔いっぱいに浮かべていた。
「あの声を聞くと、どんなに辛くても頑張れたんですよ。不思議と」
他の三人も口を揃えた。
- 104 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)19時01分49秒
- 口だけではない、プレーも素晴らしかった。
「マコに触れないシュートなんかなかったですよ。韓国戦見てて驚きましたもん、マコでも点取られることあるんだって」
多分それは技術の問題ではない。
この試合を落とせばチームは終わる。さらに学校そのものが、三年間の思い出の地がなくなってしまう。自然、その集中力は極限近くにまで研ぎ澄まされただろう。
夢を、少しでも長く見続けるために。
「小川ちゃん、国体の県選抜も断ったんです。選ばれてたら大学の推薦の話もあったのに」
栄誉よりも、仲間たちとの限られた時間を、選んだ。
- 105 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)19時23分19秒
- 彼女らの言葉を借りるなら、気がつくとベスト4までたどり着いていた。相手は新潟工業。奇襲もごまかしもきかない、本当の強豪だ。
「マコが言うには、町の剣道場に通って三日目の小学生が宮本武蔵と試合するようなもんだって。でも負けない方法が一つだけある、それは逃げることだって」
その言葉通り、勝負はあきらめたタイガー軍団。キックオフと同時に全員でゴール前を固めた。体を張って猛攻を凌ぎ、スローイン一つにもたっぷり時間をかける。
武蔵の刀をひたすらかわしまくった。
シュート数、実に0対50。しかしネットは一度も揺れなかった。
- 106 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)19時41分02秒
- 「PK戦は自信あったす。小川が練習台でしたから」
その言葉通り順調に決め続けた柏崎景虎。しかし新潟工も小川のセーブをあと一歩のところでかわしてくる。
運命を決めた、新潟工の四人目。
小川が右にワンフェイク入れる。見事につられたキッカー、小川の左手がはたき落とすと絶叫が上がったという。
「そしたら蹴り直し。確かに動くの早かったかもしれないけどそれが初めてでもなかったし向こうのキーパーだって早かったのに。マコがガクッてなる音が聞こえた気がしました」
自ら蹴ったPKで敗北を決めた小川、その場にうずくまり動けなかった。
- 107 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)20時10分35秒
- 奇しくも目の前でもPK戦が行われていた。
順大五人目がきっちり役割を果たすとセンターサークルに陣取った赤と青が爆発し、白が沈んだ。
奇妙なことに全員がキッカーの元に駆け寄り、PK戦の主役であるキーパーには駆け寄って行かない。
確かに小川は一本も止めていない。大学生相手に善戦した保田の後輩が足を吊らせて失敗しただけだ。
だがそれとこれとは無関係。勝者とも敗者ともつかぬ淡々とした表情で引き上げる小川、高橋は残暑の蒸し暑さを忘れかけた。
表彰式でも様子の変わらない小川だったがスタンドに二人を認め、やっと歯を見せた。
- 108 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)20時21分42秒
- 「打ち上げあるんじゃないの?」
「あたしがいなくても勝手に始めるさ」
「大学に友達いないの?」
「先輩連中に、コーチングなのに呼び捨てされて根に持つやつとかいるんだ。そんな奴らと慣れあったらサッカーにならん」
ディズニーランドのついでに受験した順大に進んだ小川はしばらくの間地元の友達に水まずい、米まずい、新潟帰りたいと毎晩のように電話していたという。
アルビレックスユースの試験でGK二人を殴った噂も、強風で倒れたゴールに二人が下敷きになり、怖くて逃げ出したのが事実だと聞かされた。
虚実入り交じる小川の姿。
- 109 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)20時32分32秒
- なにより心に残ったのは、最後に尋ねられた疑問。
「雑誌で読んだんですけど、マコがトラブルメーカーになってチームの和を乱してるって。嘘ですよね。あいつを嫌いになる人間なんかいるはずない、嫌われようがないですもん」
保田はにっこり笑って嘘をついた。親友そっくりの笑顔に四人は訳もなくだまされた。
保田は気づいてしまったのだ。
小川は身一つではない。恐らくこの海沿いの小さな町で名もなく一生を終えるであろう彼女たちの、たった一つの夢であり希望なのだと。
- 110 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)20時42分29秒
- ベートーベンの第九交響曲が電子音で流れ、高橋がバッグからあわてて携帯電話を取り出した。
電話の向こうから聞こえたのはまさに歓びの歌。
「18人入り、決定です」
そうなのだ。今日シドニー五輪メンバーの内定が出るという噂があり、落ち着かなかった高橋は千葉までライバルの顔を見に来たわけだ。
それにしても、飛び上がらんばかりの高橋の喜びようは少し奇妙だ。
嬉しいのは分かるが彼女はメンバー入りは確実視されていた。むしろ安堵の表情がふさわしいのに、予期せぬ幸運に巡り会ったかのようだ。保田と小川がいぶかしがる。
- 111 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)20時50分55秒
- 次に「静かな日々の階段を」が流れると、その疑問は氷解した。
「18だそうです、背番号」
小川が電話を切る。
そうなのだ。つまり高橋に与えられたのはナンバー1。正ゴールキーパー争いで一歩リードしたことになる。
「別に何番でもいいや。それに18はけっこう好きだし。イチがバチかってね」
それはまんざら虚勢でもなさそうだった。勝負はゲタをはくまで分からない――小川はユニバーシアード代表で試合前日にレギュラーを奪った女である。
- 112 名前:4126 投稿日:2001年10月28日(日)21時04分58秒
- なかなか三本目の着メロが鳴らない。むしろ高橋と小川がやきもきする。
やっと鳴ったのはダースベーダーのテーマ。
「見事な三段オチ」
緊張から解放された小川が軽口を叩く。
が、電話がやけに長い。二人の時は決まった、背番号いくつ、だけだったのに。
ようやく電話を切った従姉の顔で小川は全て悟り、吐き捨てた。
「見る目ねえな、あいつ」
「自分を選んだ人にそんなことを言うな。監督は初めからそのつもりだったらしいし、あたしもこれでよし」
「え?」
高橋の疑問も解けた。
「2002年を日本代表監督として迎える、その足がかりだ」
- 113 名前:名無し読者 投稿日:2001年10月29日(月)00時51分07秒
- >>94
>加護が松浦のつむじを仰ぎ見るロビングを上げる。
加護がロビング上げたんですか?
- 114 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)02時33分58秒
- ミスです。
- 115 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)03時30分32秒
- ついでに訂正。
クウェートの入ったB組の組合せ。ナイジェリア、フランス、コロンビア→スペイン、フランス、コロンビア
- 116 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)03時34分14秒
- 「おっ、みんな元気そうやな」
寺田光男はかつて日本代表を率いて戦った「賭博師」の異名を取る名将。その時のメンバーの大多数が今なお代表に止まっているのを考えればその目の確かさが分かる。
「元気だけが取り得なんで」
矢口も笑う。毀誉褒貶とはこの男の為にあるような言葉だが彼以上にインパクトを与える指導者にいまだ会ってないし、すべてをひっくるめて尊敬に値する人だと思っている。
だが今日からしばらくは敵だ。彼の今の肩書はナイジェリア五輪代表監督、埼玉スタジアムでこれから行われる壮行試合の敵将だ。
- 117 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)03時46分59秒
- 「そういえばな」
この男、いちいちもったいつけて話すところがある。
「アルゼンチンで合宿張ったんや。中澤や市井に会うてきたで」
市井紗耶香――もっともそう彼女を呼ぶのは今では日本人だけになってしまった。
アルゼンチン名をファーストネームに頂くチャム・サヤカ・イチイ、アルゼンチン五輪代表のエースの名である。
「サヤカ元気でした?」
「あ、うん、まあな」
なぜか歯切れが悪い。
アフリカのチームがオセアニアの大会の為に南米でキャンプを張るなんて賢いやり方ではない。彼なりに行方知れずの愛弟子を心配しているのだろう。
- 118 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)03時57分48秒
- 「寺田さん」
「平家、まさかおまえとこんな形で顔合わすなんてな」
彼の誘いを彼女は断った。そこから彼のチームと彼女の運命は微妙に狂い始めたのだ。
寺田にとっても今回は日本代表監督辞任後ツキをなくしてしまった彼にきた久びさの大仕事、気合が入る。
そんな彼が率いるナイジェリアはグループC、ブラジル、豪州、ルーマニアが。なんといってもブラジル。
「大したことない。あんな弱いカナリア見たことあらへん」
勝算はありそうだ。
「それより今日、おもろいことやんねんて?」
「はい。オールスターチームで行こうかなと」
- 119 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)12時41分38秒
- 「これより、青のユニフォーム、日本五輪代表スターティングメンバーを発表いたします」
どの試合でもある風景。ただしここからが違っていた。
「ナンバー5、センターバック、後藤真希」
左腕に黄色いマークを巻いた後藤がピッチに飛び出す。
「ナンバー4、ディフェンシブハーフ、吉澤ひとみ。ナンバー11、レフトウイング、加護亜依」
二人が肩を並べて出て行く。
この試合は全世界に放映されている。ただし注目されているのは優勝候補ナイジェリアのほう。
わざわざ手の内をさらすことはない、ファン投票で選ばれた順にスタメンを組んだ。
- 120 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)12時55分59秒
- 「ナンバー14、オフェンシブハーフ、石川梨華」
石川は自らその背番号を選んだ。14は石川が初めてA代表に入った時と同じ、そしてクライフと同じ。
「ナンバー8、ライトハーフ、矢口真里」
狂気の145センチ、オーバーエイジでは最多得票。
「ナンバー6、レフトハーフ、柴田あゆみ。ナンバー7、センターフォワード、安倍なつみ」
緊張する柴田の手をベテラン安倍が握っての入場。柴田はA代表未経験者としては段トツの得票をゲット。
「ナンバー10、レフトバック、保田圭。ナンバー22、ライトウイング、辻希美」
予想外の二人が姿を現した。
- 121 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)19時29分12秒
- 飯田を不運が襲ったのは二日前。
ダッシュの時ももにブチッという音が走り、その場にうずくまった。
その瞬間、コーチ兼オーバーエイジの補欠だった保田は一人の選手に戻った。それでも「昨日に戻りたい」とさめざめ泣く飯田を見れば、とても素直には喜べなかった。
さて、平家が飯田に用意した背番号は「10」だった。保田は飯田の代わりとしてエントリーされるのだから背番号も受け継ぐはず。しかし保田はDFの選手、しかもストッパー。10は本人も嫌がった。
そこで白羽の矢が立ったのが柴田。喜んで受けたが、今日は間に合わず10は保田の背に。
- 122 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)19時50分28秒
- 昨夜矢口はトレーニングルームからぺちぺちという間の抜けた音が聞こえるのに気づいた。
見れば加護が吉澤のサンドバッグを屁っぴり腰で叩いている。
「…あんなやつ、もう知らんわ。こっちから絶交したんねん」
辻はバレーボール全日本入りする。スーパーサブよりも、常時試合に出られる環境を選んだ。
矢口の苦笑が加護の気に触る。
「なにがおかしいんですか」
「今まであんたがガキの辻をお守りしてんのかと思ってたけど、あんたもガキだねー」
蜂も蜜のない花には止まらない。より多くの出番を求めるのはアスリートとして当然だろう。
- 123 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)20時13分14秒
- 辻は自分が精神的に幼いのをよく分かっている。つまり無知の知。
早く大人にならなければ――その思いが居心地のよい場所を捨てさせた。
今の辻にスタメンは保障できない。平家は辻の決意を尊重し、その上で椅子を一つ用意した。
この大会、正規の十八人にアクシデントが起こった際、そこから選手の補充ができるバックアッププレーヤーが四人まで登録可能なのだ。平家は辻をその一人に選んだ。いつでも帰って来られるようにと。
だから今日の試合、辻にとっては仲間とのしばしの別れの試合となる。
- 124 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)20時35分27秒
- 「ナンバー13、ライトバック、紺野あさ美。ナンバー18、ゴールキーパー、小川麻琴」
最後に最終予選終了後に選ばれた二人が。ウズベキスタンとの予選決勝を日本で見ていた時は、とてもこんな事態は考えていなかった。
こうなりたいとは思っていたが、なれるとは思っていなかった。
「続いてサブの選手。1番、高橋愛。9番、松浦亜弥。15番、戸田鈴音。17番、木村アヤカ。2番、大谷雅恵。3番ミカ・トッド。16番、木村麻美。20番、斎藤瞳。21番、新垣里沙。19番、村田めぐみ」
そして、最後に
「12番、福田明日香」
- 125 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)20時51分39秒
- その夜平家は机に突っ伏すようにしてメンバーの絞り込みに入っていた。選ぶ作業は同時に誰かを切り捨てる作業。胃薬は手放せない。
足りないのはFWだ。バックアップまで含め6人は欲しい。しかし使えそうなのは安倍、加護、松浦、木村アヤカのみ。辻が使えないのは自分の失態、自責の念が込み上げる。
電話が鳴った。今が午前4時であることに気づく。
受話器を上げると
「みっちゃん!」
「…裕ちゃん?」
「明日香な、見つかったで!」
「ほんま?!」
「あの飛行機事故に遭った日本人の女の子がおる病院が分かったんや。今から確認行くわ!」
- 126 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)21時11分12秒
- それから続報は入っていない。それでも平家は中澤を信じ、最後のFWの欄に福田の名を記した。
今日も日本ベンチでは、FUKUDAと記された12番のユニフォームが、主人の帰りを静かに待ちわびている。
試合はナイジェリア・ハタケチクの左右両足のシュートで2点先制。
日本は柴田、石川のFK競演で追いつくと加護が倒されて得たPKを後藤が決め逆転に成功して前半終了。
後半ナイジェリアが猛攻、18分から25分、マコチャ、シュアシュア、タイセーが立て続けにGK高橋を破る。終了間際松浦が一矢報いるがここまで。
4-5、お祭りらしいスコアが残った。
- 127 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)22時03分56秒
- 「カオリってどうしてこう運がないんだろ…」
空港まで見送りに来た飯田がぼやく。
幸い怪我は軽く、日常生活には支障がないし、もうすぐボールも蹴れるようになる。
「ま、お土産楽しみにね」
「矢口、他人ごとだと思ってあんた」
平家はそれでも飯田をシドニーへ連れて行こうとした。コーチの枠がまだ一つ空いている。
飯田はそれを断った。気持ちの整理がついてなかったし、現役選手としてのこだわりもあった。
白は自らを主張しない。ぶつかりもせず、美しく溶け合って新たな色を生み出す。
飯田の白は、五輪チーム全体に染み渡っていた。
- 128 名前:4126 投稿日:2001年10月29日(月)22時15分32秒
- もう一人、辻希美も見送りに来ていた。バレーボールチームの出発は明後日だ。
「あんたが自分で決めたんだから、しっかりやんなよ」
安倍の言葉に黙って深くうなずく辻。加護はこの日、一度も辻と視線を合わせなかった。
時間が来た。チャーター機がゆっくりと純白の機体を揺り動かすのが飯田にも見えた。
悔しい。やっぱり悔しい。
その思いを飲み込み、ゆっくりと角度をつける翼に向かって力一杯叫んだ。
「負けんじゃねーぞ!」
(第二部完・第三部に続く)
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2001年10月30日(火)07時55分57秒
- 第三部か〜
ところで、4126さんって、これが初小説??
- 130 名前:名無し娘。 投稿日:2001年10月30日(火)10時24分38秒
- >>129
145と144.5と歓喜とZINCが二本。
漏れが読んだ4126作品は五個だけど。
- 131 名前:4126 投稿日:2001年10月30日(火)12時21分28秒
- >>129
Zinc Whiteはスレが500超えるのが確実になったところで引っ越したので一本と数えてください。
赤板にある第一部に2chで書いた前二作のリンクがはってあります。他にはないですね、たぶん
- 132 名前:4126 投稿日:2001年10月30日(火)17時40分18秒
- 第三部、始まるよ。
「Time of Blue」
http://mseek.obi.ne.jp/cgi/hilight.cgi?dir=blue&thp=1003918447
- 133 名前:4126 投稿日:2001年11月03日(土)23時08分07秒
- ヒソーリ後書き。
ジンクホワイトという言葉を聞いた最初は辛島美登里(漢字合ってる?)のアルバムタイトルだった気が。第三部も絵画にまつわる題名だけど本人は絵心のない人間なんです。
物語はやっと半分ですが、まだまだいろんなことが起こる予定です。最後までおつきあいください 4126
- 134 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月20日(木)06時21分34秒
- ZINKWHITEって聞いて
真っ先に思い浮かんだのが辛島美登里
好きなアルバムです。
恐ろしく亀レスだけど(^_^;)
さて、これからどうなるのかな。わくわく
- 135 名前:名無しバカよね 投稿日:2001年12月24日(月)21時19分07秒
- シドニー五輪6試合の試合結果をデータにまとめ、そこから浮かび上がる真実を暴き出す「145ゲノム」!
注意・あくまでシャレです。
- 136 名前:GK編 投稿日:2001年12月24日(月)21時48分08秒
- 小川 麻琴 4試合(389分)出場 5失点(77.8分に失点1)
高橋 愛 3試合(207分)出場 4失点(51.75分に失点1)
村田めぐみ 出番なし
- 137 名前:GK編 投稿日:2001年12月24日(月)22時11分30秒
- 一試合の平均失点、小川が1.25、高橋が1.74。
データを見るとやや小川のほうが秀でているようにも見える。
だがキーパーというのは一人でゴールを守るわけではなく、コンビを組むセンターバックとのコンビの相性が影響してくる。
5番に誰がいたかによる両GKの失点率を見よう。(小数点第3位を四捨五入)
小川
後藤0(129分無失点)紺野1.51(119分2失点)戸田1.66(108分2失点)保田2.73(33分1失点)
高橋
紺野0.56(162分1失点)後藤6(45分3失点)
小川の場合、時間の短い保田は参考にならないにせよ、後藤とコンビを組んだ時はゴールを許してない。
高橋は紺野との相性が抜群。小川×紺野に比べ平均失点が1近く少ない。
まこごま、たかこんが正しいカップリングなのである。
- 138 名前:DF編 投稿日:2001年12月24日(月)22時22分27秒
- 大谷 雅恵 3試合(231分)出場 退場1
ミカトッド 4試合(390分)出場
後藤 真希 5試合(330分)出場 3ゴール
保田 圭 3試合(240分)出場 1ゴール1アシスト
紺野あさ美 4試合(359分)出場
斉藤 瞳 1試合(17分) 出場
- 139 名前:DF編 投稿日:2001年12月24日(月)22時30分25秒
- FWやMFでも起用された後藤はともかく、左DFながらすべての試合でゴールに絡んだ保田は見事。
安倍や矢口もそうだが、実際の五輪代表のオーバーエージが弱点の補強(層の薄いGKに楢崎を使う、など)に充てているのに対し、この作品ではチームをランクアップさせるアイテムのようであるのがやくわかる。
そして、驚くのはカードの少なさ。大谷の退場以外は一人もカードをもらっていない。
よくいえばクリーン、悪く言えばもっと当たりにいけば失点を減らせたのではないか。
そのしわ寄せをくったのが、MFになる。
- 140 名前:MF編 投稿日:2001年12月24日(月)22時43分53秒
- 吉澤ひとみ 5試合(480分)出場 1ゴール 警告2
矢口 真里 3試合(272分)出場 1ゴール5アシスト 警告2
柴田あゆみ 5試合(495分)出場 1アシスト 警告2
石川 梨華 5試合(440分)出場 2ゴール1アシスト
戸田 鈴音 4試合(234分)出場 退場1
木村 麻美 5試合(200分)出場 退場1
新垣 里沙 3試合(116分)出場
- 141 名前:MF編 投稿日:2001年12月24日(月)22時53分35秒
- みよ、このカードの山。
石川(カメルーン戦)矢口(ユーゴ戦)柴田(豪州戦)吉澤、戸田、木村麻美(決勝)と、新垣以外全員が出場停止を受けている。
明らかに中盤の守備に問題がある。吉澤に負担がいったのはしかたあるまい。彼女はむしろ犠牲者。
逆にいったらこれだけメンバーが入れ替わっても力が落ちないだけの層の厚いMF陣だった。
特筆すべきは矢口。3試合分の出場時間で6得点に絡んだ。
5試合半分も出て1アシスト(バーの跳ね返りをアシストと呼ぶならば、だ)の柴田とは雲泥の差。
5アシストのうちカメルーン戦の2点目(安倍)決勝の1点目(後藤)へのパスが頭。ヤグヘッドは重宝していた。
あと、石川はゲームメーカーではなくFW、または二列目のストライカーではないか?
パスの振り分けよりもサイドの突破やゴール前への飛び出しの場面のほうが多く描かれている。
- 142 名前:FW編 投稿日:2001年12月24日(月)23時01分17秒
- 安倍なつみ 3試合(266分)出場 5ゴール1アシスト
松浦 亜弥 5試合(315分)出場 1ゴール
加護 亜依 6試合(562分)出場 1ゴール2アシスト 警告1
木村アヤカ 6試合(520分)出場
辻 希美 3試合(297分)出場 1ゴール1アシスト
福田明日香 出番なし
- 143 名前:FW編 投稿日:2001年12月24日(月)23時09分04秒
- 予選リーグをなっち祭りにした安倍がFWで一番出場時間が短い(福田除く)のにまず驚く。
その他の選手もDFにコンバートされたアヤカを除けば全員ゴールを決めている。
安倍と同じストライカーの松浦が1Gなのはさみしい気もするがA代表以外で唯一のゴール、ユーゴ戦の決勝点だからそれなりの重みはある。
もし安倍が決勝Tでも戦っていたら、豪州戦でもあんなバクチに出る必要はないだろう。
- 144 名前:ランキング 投稿日:2001年12月24日(月)23時13分59秒
- ゴール
安倍5、後藤3、石川2、松浦・辻・吉澤・加護・矢口・保田各1
アシスト
矢口5、加護2、保田・柴田・石川・辻各1
出場時間ベスト5
加護、アヤカ、柴田、吉澤、石川
- 145 名前:総括 投稿日:2001年12月24日(月)23時20分05秒
- このチームにおける問題はこんなところか。
「組織はいいが一対一で抜かせすぎる最終ライン」
「荒っぽい中盤」
「ゲームメーカー不在」
最後は5アシストの矢口がチャンスメーカーである点(スルーパスを出したのは保田へのアシストぐらい)、ゲームメーカーとされていた石川がそんなアクションをほとんど起こしていない点。
じゃあ、日本のゲームメーカーはどこにいたのか。
アルゼンチンにいたのである。
市井は典型的なゲームメーカー。そんな記述が何度も出てくる。
そしてゲームメーカーを活かすには優れたストライカーが必要。福田の加入は自然だったといえる。
- 146 名前:総括 投稿日:2001年12月24日(月)23時25分19秒
- それにしても日本、いくらなんでも強すぎである。
市井や福田まで加わった日にはもとんど無敵の強さで優勝したんではなかろうか。
けど、日本が当たった相手をもう一度見てほしい。
カメルーン、アルゼンチン、ユーゴ、アメリカ、豪州。
うち五本の指に入る世界の強豪は、アルゼンチンぐらいのもの。
ブラジル、イタリア、ドイツ、フランスといった国とは当たらずに世界一になってしまったのである。
だから、勝手に思う。
これって、ワールドカップでこれらの国を相手にするって伏線じゃないのかなって。
本当に勝手だけど。
- 147 名前:名無しさん 投稿日:2001年12月25日(火)22時34分54秒
- おお!
なかなか面白いね
確かに日本は強すぎだったが
実際物語のなかではそれが当然のようだった
石川のパスが少なかったのはなんでかね?
モダンサッカーに徹したからかな?
- 148 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月14日(月)14時59分20秒
- 始まりの終わり・・・
物語を全て語ってしまうより
読者に想像の余地を残した方がいいと思う
とは、有名な言葉だけども
「その後の145センチ」では無く、きっと描きたくなる
新しい物語が、今年産まれることを期待して待ちます
- 149 名前:4126 投稿日:2002年01月20日(日)19時58分40秒
- ヤグバースデー復活。と思ったらレスついてるし。
今は仕事変わったばかりで余裕がないんだけれど、いずれなにか書きたい気持ちは確かにあります。ただしそれがどんなものかは本人にも分かっていません。
一番考えやすいんはやはり続編。しかし書き残したものってないんだよ、はっきし言って。書き尽くした。「歓喜」はそのつもりで書いたんだし。
というとネタがないみたいに思われるけどそうではなくて、書きたくないわけでもない。
- 150 名前:4126 投稿日:2002年01月20日(日)20時16分13秒
- 作品解説みたくなるんだけど、「狂気」は本当に「書かなきゃ」という自らの狂気に突き動かされて書いたもので、同時にモーニング結成から中澤卒業という完結した物語になぞらえたことで辛うじて娘。小説でいられた。その歴史のない続編二作は「LOVEセンチュリー」みたいなもんで完全なアナザーストーリーだった。それをこれ以上続けていいのかという気持ちも抱きつつ書いてたのは事実です。歓喜の頃かな。まあ楽しかったので続けたけど。
- 151 名前:4126 投稿日:2002年01月20日(日)20時34分12秒
- 最近DVDプレーヤー買ったんすけど、某角川映画のソフトを毎日のように見てます。夏木マリがいいのよ。「まり」が俺のツボ? 真田広之って海外じゃヘンリー真田って名前なんだぜ。
今度はこれをモチーフにしたものが書きたいな、とか。でもその時は違う名前を使うかも。よくも悪くも4126=サッカー小説のイメージが強すぎてやりにくそうだから。
多分またここで始めると思う。サザエさんの仕切りは好きだ。だから今日みたいな騒ぎは歓迎できない。
んでは、やぐおめ。 4126
- 152 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月21日(月)16時00分02秒
- 新作、まってるべさ。
- 153 名前:4126 投稿日:2002年01月21日(月)20時08分07秒
- 気長に待っててや。
- 154 名前:4126 投稿日:2002年01月29日(火)12時52分42秒
- 神様なんていやあしねえ。
他に言葉がない。
- 155 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月29日(火)19時17分14秒
- BUBKA関係者ウザい
- 156 名前:4126 投稿日:2002年01月29日(火)19時26分19秒
- 俺はBUBKA関係者じゃない。ただ知りあいにはBUBKA関係者が多い。
あの人たち好きだったし、ブートな記事書いてるけどその根底には愛があると思ってたから、裏切られた気持ちでいっぱいなの。
ちなみに真相は俺も知らない。
もし矢口の写真を本当に載せたなら一人の女の子の人権を無視した行為として許せないし、組織ぐるみのネタだとしたら、それはそれで悪質過ぎる。
それが単純にむかついただけ。
それにここはとっくに終わったスレ。管理人や他の小説家さんに迷惑がかかるから書き捨てはやめてくれ。せめてsageろ。
- 157 名前:4126 投稿日:2002年01月29日(火)20時22分12秒
- 今はなに書いても人を傷つける文章にしかならない気がするんで、自重します。
本当は吐き出してしまいたい思いもあるのですが、我慢します。とり返しのつかないことになりそうなんで。
だから、昔自分で書いた文章の中から、突きつけてやりたい言葉を拾うことにしました。
組織の事情の前に、個人はあまりにも無力すぎる。
そんだけ。
- 158 名前:4126 投稿日:2002年01月29日(火)23時04分31秒
- 俺のレスが2chにはられてたw
アイドルだって人間だからエッチくらいするだろうと。ただ人の秘めたい部分を搾取する権限は誰にもない。俺間違ってますかね?
- 159 名前:名無し 投稿日:2002年01月29日(火)23時28分50秒
- あんた正しいよ。少なくともオレはそう思う。つーか、こういう事で論争が起こる事自体多少おかしくね?
- 160 名前:4126 投稿日:2002年01月29日(火)23時43分18秒
- あんがと。確かに変だな。でも本当に矢口が好きな奴等にとっては生き死にかかる問題だから気持ちはくんでやりたい。祭とかいっとるアホは勝手に踊らせとけばいい。
本当はさ、喉まで出かかってる言葉があるんだ。でも言えない。すげ苦しい。
- 161 名前:名無し 投稿日:2002年01月30日(水)00時15分45秒
- まあ、確かに矢口好きな人達にしてみりゃ大事なのかな。ファンとしての在り方ってのも人それぞれだしな。アホはアホだ。てか、芸能スキャンダルというものにも非があるよな。芸能人とはいっても、一個人のプライベートを公に発表する必要性はないと思わん?
その言葉はこういう場では相当ヤバイのかい?一意見として言ってもいいと思うんだが。
- 162 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月30日(水)01時21分08秒
- つーかアレ偽もんだろ?
何か知ってんなら書いちまえよ。
- 163 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月30日(水)01時44分49秒
- >>162
つーか含みの有る言い方してヤグヲタ煽ろうとしてるんだろ。
たぶんこっから先はだんまりだよ。
- 164 名前:4126 投稿日:2002年01月30日(水)02時27分40秒
- 言いたいこと、のニュアンスが違う。俺は本当に部外者で(今回それを思いしらされた)何も知らん。ていうかなにか知っててたらこんなふうに言いたいことは言えない。それだけは信じてくれ。
ただこんな愛のない記事載せる(愛のない=読んだ当人が心を痛めるような、真偽問わず)雑誌に関わっている知り合いのモーヲタたちはどうすんだろってさ。特にコアマガジン内部の人の一連の発言には政治家の答弁を思い出してしまった。多分彼らは事実を述べてるだけなんだが、今ここで感情さらけだすとさらに傷つく人が出る。だから我慢なの。
- 165 名前:4126 投稿日:2002年01月30日(水)02時42分38秒
- 突き放した言い方をしたけど、俺だって矢口大好きですよ。あの子が小さな体で頑張ってる姿にどんだけ励まされてきたか。じゃなかったら狂気の145cmなんて話はなかった。今回の件を知り、眠れぬ夜を過ごし、それでもカメラの前ではあははと笑う矢口の心情を思うと本当に胸が苦しくなる。
俺の知ってる何人かが戸惑いというか関与せずな態度なのが気になってよ。誰も怒ってないしさ。部外者の俺にはみんなBUBKAの人だしよ。
言葉が荒れてるけど喧嘩売るつもりはまるでない。ただこれまで通り距離を置こうと思うだけ。
- 166 名前:4126 投稿日:2002年01月30日(水)02時56分52秒
- 翁の時は心底たまげました。駄菓子屋写真が市井奇跡の復帰を後押ししたと思ってます。
けど今回の記事を見たかった人ってどれだけいるの? って話。ただの売らんかな主義じゃん。
金輪際あの雑誌は買わんし、写真も見ない。興味ない。スキマ産業になんか期待してた俺が悪かったんだよ。
再三断るけど、俺誰も攻撃してないからな。あいつらの娘。愛する心は疑ってない。ただ誰も憤りをにじませてないのにいらつくだけ。そんなに丸くていいの? 爆音で感じた嘘みたいな熱気、あれはなんだったんだ?
- 167 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月30日(水)04時15分23秒
- ここって小説書く所だろ?
いくら自分のスレといっても小説と関係無い愚痴ならどこか別のところで書け。
無駄な容量つかうのは管理人や他の小説家さんに迷惑かけることにならないのか。
- 168 名前:名無しさん 投稿日:2002年01月30日(水)04時29分58秒
- >駄菓子屋写真が市井奇跡の復帰を後押ししたと思ってます。
あの写真でどう後押ししたって言うのよ。ユウキと付き合ってるなんて書かれて市井にプラスになったの?
記事には市井が9月に復帰と言ってるとあったけど、9月には復帰しなかった。
後押しするどころか復帰するの遅らせてるじゃん。
- 169 名前:4126 投稿日:2002年01月30日(水)08時01分56秒
- >>167
まずはあんたの言うとおり。これ以上荒れるようなら削除依頼出します。
けど俺は自分のページどころかパソコンも持ってないんでな。
本来ならこんなこと仲間のBBSにでも書くべきなんだが俺の仲間はことごとくBUBKA寄りなんで、あの雑誌に不信感を持ってる身としてはそこでは何も書けなかった。
だけど吐き出したい思いがぐるぐる回ってて、一言に収めて書いた。sageで。
誰も気づかないだろうと思ったら2chにうpされてて、あらぬ誤解を招いた。
その誤解を解くためにレスをつけた。俺のためじゃなくて、情報を欲しがってる人のために。
- 170 名前:4126 投稿日:2002年01月30日(水)08時12分51秒
- みなさんsageてくれてありがとう。
最後にもうひとつだけ。
俺はモーヲタの前はドリアン助川ヲタだった。やつのバンドに入りたくてギターを弾いてた。
叫ぶ詩人の会のギタリストが逮捕されたとき、ドリアンはマイクの前にすわり、か細い声ですすり泣きながらしゃべった。俺はそれを聞きながら泣いた。
あしたの夜、同じような気持ちで俺はラジオを聴くと思う。
そして、矢口がこのことに触れようと触れまいと、たぶん泣く。
- 171 名前:4126 投稿日:2002年01月30日(水)08時34分13秒
- ごめん>>168
でもあの時点で関係者からの裏づけは取れなかった、なんの根拠もなかったわけじゃん>市井復帰
でも昨年六月のモーヲタトークライブで掟ポルシェさんがそれをぶち上げたとき、隣の男が泣いたんだよ。鼻水垂らして。
汚い涙だったけど俺は本当に感動した。待ってるんだなって。俺なんかの何倍も真剣に。
写真の反響の大きさに、事務所は市井の商品価値の高さを認識し、方針を変えた。
あの鼻水が呼び水になって、市井を呼び戻したんだと俺は信じてる。
たぶんあの事務所のひとは2chとか見てるはず、しないよ知らなければ石川にトイレやイボ痔なんて言わせたりしない、というのが俺の持論。
やばい、完璧遅刻ざます。
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