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『モーニング』は砕けない。
- 1 名前:kagemusya 投稿日:2001年11月24日(土)00時07分18秒
《この物語の50%はバスケットボールです》
- 2 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時09分53秒
- シューズと床がこすれる、ボールと床がぶつかる。
ディフェンスする者とドリブルする者が睨みあう。
ボールをついているのは矢口真里。
ボールをキープしつつ、チームメイトの動きを把握しつつ、残り時間を
横目で確認する。
――――――残り時間は18秒。
状況を迅速に、頭の中で整理し、分析する。
残り時間わずかで1点相手のリード。
おそらくこれが最後の攻撃になるだろう。
――――――残り時間は16秒。
(残り10秒まではこのままキープ・・・・・か)
矢口の考えは、チームメイトの四人も心得ている。
誰一人として焦った様子を見せず、時を待っていた。
――――――残り時間は12秒。
- 3 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時11分08秒
- それは小さな体育館で起きている出来事だった。
チーム「モーニング」のホームコートの体育館。
国内最大のバスケットボールリーグ、『ハローリーグ』の2部、その1位を
決める試合だった。
これに勝てば1部に昇格とあって、双方のチームの士気はこれ以上ないほどに
高く、普段ならまばらな客席も満員になるほどだった。
そんな試合も、おそらく数秒後に訪れるであろうラストプレーを前に、やや
静まり返っていた。
観客の視線は、現在ボールを持つ矢口に注がれる。
そして―――――
――――――残り時間は10秒。
- 4 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時12分27秒
- 「なっち!!」
視線はゴールにむいたまま、安倍には視線をやらず、それでも3ポイントライン上
45度でマークを外した安倍にパスをだす。
矢のようなパスが安倍の胸元へ、申し分のないタイミングで飛んできた。
力強くキャッチする。
それと同時、数瞬遅れて来たディフェンスの横には飯田が立っていた。
これも文句のつけようがないタイミングである。
ドライブする安倍、飯田のナイススクリーンに安倍のディフェンスは阻まれ、
ノーマークのままゴールに突っ込む安倍。
相手も必死だった。
疲れなど感じさせない速さでカバーにきたディフェンス2人が、安倍の行く手に
立ちはだかる。
――――――残り時間は7秒。
- 5 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時14分30秒
- 「こっち!」
両手をパンパンと叩く音とともに届く声。
ディフェンスにつぶされる一瞬前、フリースローラインで待ち構える市井に
パスをだす。
相手チームは諦めない。
安倍へとむかった以外の、全ての相手ディフェンスがシュートモーションに
はいった市井へ飛びかかる。
鬼のような形相で、市井に迫りくるディフェンスは3人。
シュートブロックは可能なようにも見えるし、不可能なようにも見える。
(これ決めたら、この試合のヒーローだよね・・・・)
悪くない賭けだと、市井は思った。
シューターの血が騒ぐ、最高のシチュエーションが目の前で繰り広げられている。
わずかでも迷えば、ブロックされる、手元が狂う。
無論、市井に迷いなどないが。
――――――残り時間は5秒。
- 6 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時17分34秒
- 市井はゴールのリングを睨みつける。
こんな時でも、シュートモーションは通常通り、そこに相手は騙された。
シュートの動きから、突然しずむ市井の体。
次の瞬間、ディフェンスの間をすり抜けるボール。
完全にシュートブロックの体勢にはいったディフェンス、それらの間にできた
ボールがぎりぎり通るほどのスペースから、ゴール下にパスをだした。
全てのディフェンスは安倍と市井がひきつけた。
「ナイスパス!」
市井からのパスをキャッチしたのは保田。
言葉通りのナイスパス、しかし保田の動きも評価に値する。
なにしろ彼女は1秒前には3ポイントライン上0度の位置にいたはずだった。
つまり、彼女はこの展開を読んでいた。
ノーマーク、そしてゴール下。
相手チームの観客の悲鳴が聞こえる、こちらのチームの応援団の歓声も聞こえる。
保田は、ほどよい緊張感とともに逆転のシュートを決めた。
――――――残り時間は3秒。
- 7 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時19分04秒
- 「まだ終わってないで! もどらんかい!!」
聞き慣れた声だからなのか、またはその声が歓声でも悲鳴でもなかった
からなのか、その声は誰もの耳に届いた。
ベンチから叫ぶ女性。
監督の中澤裕子は、誰よりもコートの中を把握する。
相手チームは諦めない。
中澤の声が耳に入り、脳に届くまでの時間で、既にロングパスは放たれていた。
今度は観客の悲鳴と歓声が入れ替わる。
――――――残り時間は2秒。
- 8 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時21分55秒
- 保田はゴール下で、飯田と市井と矢口はコートの中間まで戻ったところで、
焦りの表情から安堵の表情へと変わる。
誰もが信じたくない事実だが、ギリギリ逆転可能な時間は残っていた。
そのパスが成功したならば。
「ぃよっ、と」
この局面で、間の抜けたようにも聞こえる声だった。
落ち着きを通り越して、能天気な表情の安倍が跳ぶ。
既に、誰よりも早く走り始め、ゴールにむかって走る相手よりも速く走っていた。
着地した安倍の手には、しっかりとボールが握られている。
値千金のパスカットが炸裂した。
そして、試合終了のブザーが響いた。
チーム「モーニング」が『ハローリーグ』の1部に昇格を決めた瞬間だった。
- 9 名前:ラストプレー 投稿日:2001年11月24日(土)00時26分58秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
その日の夕刊。
試合の内容は、小さいもののスポーツ欄に乗っていた。
たった3行のコメントだったが。
チームのみんなは、記念に何部も買って喜んだ。
―
【『モーニング』1部昇格決定 】
今期2部で最も注目のチーム「モーニング」が1部昇格を決めた。
まだ結成されて2シーズン目にもかかわらず、昨シーズンには3部から2部昇格を
決めるなど、勢いに乗る期待のチームだ。
個人成績
飯田(C) ・・・・P:28 A: 4 R:10 B:3
保田(PF)・・・・P: 7 A: 6 R: 9 B:3
市井(SF)・・・・P:21 A: 3 R: 4
安倍(SG)・・・・P:11 A: 8 R: 6 S:4
矢口(PG)・・・・P: 4 A:12 R: −
控え
紺野(SG)・・・・P: 2 A: 1 R: −
新垣(PG)・・・・P: − A: 3 R: −
P:得点 A:アシスト R:リバウンド B:ブロック
S:スティール
- 10 名前:kagemusya 投稿日:2001年11月24日(土)00時33分02秒
- と、いうわけで始まりました。始めてしまいました。
バスケの話ってだけで既に読者は少ないだろうと思います。
でも頑張ります。
- 11 名前:名無し読者 投稿日:2001年11月24日(土)01時24分07秒
- いや、期待大。
バスケ好きだし。
- 12 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時48分24秒
- 「こちらです」
そう言われて、中澤が案内されたのは、『ハローリーグ』1部のとあるチームが
所有している。大きな体育館。
中にはバスケットのコートが2面あり、そこでは練習試合の真っ最中だった。
コートの脇に立ち、そのチームの人事担当の男から説明を受ける。
「あの9番のゼッケンを着けているのが後藤真希です」
うながされた先にいる人間を見る。
ディフェンスをしているのが、そうだった。
中澤は視線を集中させて、動きを観察する。
しばらくすると、後藤のマークしている人間にボールがわたった。
中澤の目つきが厳しくなる。
(う〜ん、ディフェンスは適当そうやな〜)
なんとなく、直感でしかないが、中澤は心中でうなる。
そして、予感どおりに相手のシュートフェイクにあっさりとひかかった後藤は
簡単に相手に抜かれた。
- 13 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時49分02秒
- 「・・・・・・」
「・・・・まあ、後藤はオフェンスが売りですから」
人事担当の男のフォローは、やや苦しい。
しかし、その言葉にも一理ある。
後藤を見学に来た理由は、ずばりオフェンスにあった。
厳しい『ハローリーグ』の1部でシーズンを戦い抜くには、ぜひ市井の
バックアップになるような得点のできるフォワードが欲しい。
残念ながら控えの紺野と新垣は、即戦力にはまだ及ばない。
そんなことを考えているうちに、後藤が3ポイントライン上でボールを持った。
(見せてもらおうか、どんな攻撃するか)
と思った矢先、あっさりとローポストに陣取ったセンターにパスを入れる。
やや拍子抜けしたが、決して悪い判断ではない。
が、後藤の動きはそこで終わらなかった。
- 14 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時49分39秒
- センターに自分のディフェンスが気を取られた瞬間、後藤がゴールにむかって
突っ込んだ。
ディフェンスを振り切った後藤に、センターがパス。
もらったその場で後藤はジャンプシュート。
(突っ込みすぎや、ブロックされる)
中澤の思ったとおりのことが展開される。
いい所でボールをもらったのはいいが、ゴールに近すぎるために相手の
ディフェンスがいっせいにブロックに跳んだ。
結局、後藤の放ったシュートはリングに当たって、惜しいところで外れた。
(あれ、でもよう撃てたな・・・・・)
誰もボールに触れることなく、後藤はシュートを撃ちきった。
中澤の心に何かがひっかかる。
- 15 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時50分32秒
- リバウンドは相手にとられ、今度はディフェンス。
ここでも後藤のディフェンスは冴えない。
今度は相手のドライブにも抜かれずついていったものの、相手がドリブルを
止め、ジャンプシュートの素振りを見せると、あっさりひっかかり跳ぶ。
(ブロック狙いすぎや。どうも地味なディフェンスは苦手みたいやな)
ここまでくると、中澤にもかなり後藤のことがわかりはじめた。
ちなみにシュートは決まったが、後藤に悪びれる様子はない。
とっととフロントコートに走っていく。
再び後藤がボールをもらう。
先ほどと同じ位置、しかし今度は後藤のいるサイドには誰もいない。
つまり―――――
(・・・・1on1や)
腰を落とし、ドライブの体勢にはいった後藤。
ディフェンスが思わず後ろに退いてしまうほどの貫禄がある。
- 16 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時51分16秒
- 目線からは左右どちらに行くかは読めない。
動きのない体からはドライブしてくるタイミングを読み取れない。
そんな一瞬の駆け引きが展開された一瞬後。
後藤は左へ力強くドリブルをついた。
相手のディフェンスの仕様は、ほとんどファールといっていいほどだった。
半分抜かれかけた体勢のディフェンスは、横から後藤を押しながらついていく。
圧されつつも、後藤は強靭な足腰でディフェンスをはねのける。
ゴール下までディフェンスを引きずり、ジャンプする。
かなり高い、やむなくファールした相手のセンターの指先が、後藤の手首の
あたりに接触するほどだった。
シュートは外れたものの、フリースローはもぎ取った。
「どうです、後藤は?」
人事担当の男が自慢げに訊いてくる。
「とんでもない身体能力してますね。
多分リーグに10人もいませんね、あんな選手は」
- 17 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時52分01秒
- その後の後藤のプレーも、ディフェンスこそ甘いものの、オフェンスに
関しては十分及第点だった。
身体能力だけに頼らず、きちんとシュートセレクションも判断できている。
なにより、彼女が1on1をしかけたならば、必ずシュートまでもちこむ。
用意されたデータを見ると、後藤のシーズン平均得点は21.2点。
熾烈な1部で、それだけの得点力は十分売り物になる。
中澤は決心した――――――
- 18 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時52分31秒
- ――――――場所は変わり、数時間後。
1部昇格を決めたとはいえ、「モーニング」のシーズンはまだ終わってはいない。
今日は敵地での試合。
黒地に白い縁取りのユニフォームで試合に挑む「モーニング」
「いくぞ〜、抜くぞ〜、左かな〜、右かな〜」
ダン、ダダンと変則的なリズムのドリブルを左右に刻みながら、フロントコートに
ボールを運んだ矢口はディフェンスに話しかける。
相手ディフェンスは無反応で、しかし抜かれぬように腰を落としている。
ノリの悪いディフェンスに矢口の顔から笑みが消える。
「・・・・つまんないの」
軽快だったリズムのドリブルから単調なものへ、矢口は1on1をやめて、
パスの相手を探して視線をめぐらせる。
ディフェンスは矢口の視線から、パス先を探ろうとする。
次の瞬間、矢口とディフェンスが横に並んだ。
完全に虚を突かれたディフェンス。
やめたように見えた1on1は続行されていた。
- 19 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時53分17秒
- 突っ込む矢口に、一気に収縮しかける相手ディフェンス。
が、矢口が意味ありげな視線を左右に送るだけで、動きが止まる。
矢口のアシストを警戒したディフェンスが、自分のマークマンに気を取られた
ためだった。
(こっりゃ〜いけるかな?)
ポッカリと目の前が開く。
勇気をもって、矢口は跳んだ。
もはや本人も自覚していることではあるが、矢口の身長は低い。
問答無用でリーグ最小である。
いけると思って跳んだ矢先、相手ディフェンスのブロックが矢口をつぶさんと、
襲いかかる。
「くっ!!」
1人目はボールを右手から左手に持ち替えてかわす。
しかし遅れてきた2人目がさらにブロックに跳ぶ。
本来なら届くタイミングではないものの、圧倒的な身長差がブロックを可能にする。
- 20 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時54分06秒
- 「なんてね」
もちろん跳んでいる最中に口にしたわけではない。
矢口が言い終わった時には、見事なタイミングでゴール下に入ってきた
保田にパスを出し終わり、着地した後だった。
無論保田は外さない。
ノーマークのシュートは、お手本のような軌道でネットを揺らす。
いつもそうだった。
オフェンスの時は3ポイントライン上で、パスばかりしているように見えて、
相手が一瞬でも矢口にひきつけられると、いいポジションで待ち構える。
矢口のアシストの半分は、保田に稼がせてもらっているようなものだった。
ディフェンスのため、コートをもどりながら矢口は話しかける。
「助かったよ〜、圭ちゃん!」
「ナイスドライブだったよ、あんたも」
保田が矢口の頭に手を乗せて誉める。
二人は、中澤も認めるいいコンビだった。
やや安定性のないプレーを頻発することのある矢口だが、保田が絡むことで
上手く安定する。
(やっぱ圭坊はええなあ、あいつの代わりはどこにもおらんで)
ひっそりと、地味な保田のプレーを誰よりも評価している中澤だった。
- 21 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時54分41秒
- 保田の地味な活躍はディフェンスにも言えることだった。
自分よりもかなり大きな相手にマッチアップしている保田。
もっと身長差のある矢口の頭の上から、保田がついている相手にパスが通った。
しかし、場所が悪い。
シュートを放つにはやや遠い。
せっかくの身長差も、その場では役に立たない。
パスをもらったはいいが、もらったポジションが悪いために、攻めあぐむ。
もちろん、全て計算した上での保田のディフェンスだった。
ゴール下では飯田が目を光らせている。
仕方なく、不利な距離から放ったシュートはリングにはじかれた。
それを見て拳を握り締めて、心の中で叫ぶ中澤。
(シブい、シブすぎるで圭坊)
素人には保田が何もしてないようにしか見えないのが悔しい中澤だった。
- 22 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時55分25秒
- 「圭織!!」
リバウンドをとった飯田に、矢口が呼びかける。
コートの端で手招きする矢口にボールを渡す。
ボールを受け取ると同時、ドリブルで相手ゴールに走る矢口。
そしてもう一人、矢口の隣を走る保田。
前にいるディフェンスは1人。
中央を保田が走り、右サイドを矢口が走る。
フリースローラインに保田が達したところで矢口からパスがくる。
ノールックで、しかも体の後ろを通す背面パス。
派手なアシストを好む、矢口らしいパスだった。
一方の保田は無理せず、その場でジャンプシュート。
相手も諦めつつも、遅れてシュートチェックに迫る。
すると保田は相手の頭上から、リングを走りぬけて逆サイドのゴール下にいる
矢口にパスをする。
背の低い矢口がゴール下でのシュートなど滅多にない。
もちろん、それぐらいで落としたりはしないが。
決めた矢口はテンションが最高潮に達する。
「最高や〜!! 圭坊!!」
中澤のテンションも最高潮に達する。
- 23 名前:勝利の立役者 投稿日:2001年11月24日(土)16時56分12秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
結局、試合は 89−74 で「モーニング」の勝利だった。
ポイントガードの矢口が上機嫌でプレイすることで、チームのリズムも
よくなり、ボールがよく回る試合だった。
さすがに2部の消化試合ということもあり、翌日の朝刊には結果と主だった成績
のみの掲載だった。
モーニング ○−× ***** 【99−74】
得点・・・・飯田(29) 市井(27) 保田(14)
アシスト・・・・矢口(14) 保田(8)
リバウンド・・・・飯田(9) 保田(9)
- 24 名前:kagemusya 投稿日:2001年11月24日(土)17時06分22秒
- >>11
期待して読んでくれる読者がいて一安心です。
期待を裏切らぬように頑張ります。
とりあえず初レス、ありがとうございます!
とりあえず、いろいろつっこみたいことは多いと思います。
「50%がバスケとか言っときながら100%バスケじゃないか」などなど。
もう少しお待ちください。
最終的には、それぐらいの割合になるはずです。
そして、今回の更新の最後。
「試合結果が新聞と違うぞ!」
というつっこみに関しては、新聞が間違っているのです。
作者が間違ってるわけじゃありません。
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2001年11月24日(土)21時15分59秒
- 人
(__)
\(__)/ モーニング娘がWOWWOW!
( ・∀・ )
http://gate0.com/monimoni
- 26 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)06時54分50秒
- 「彼女が吉澤ひとみです」
とあるリーグ3部で活動するチームの体育館。
紹介されたのは、一瞬男性に見えるような選手だった。
運動神経のよさそうな顔をしている――――中澤の第一印象は、その一言に
つきた。
「どうも、中澤です」
「監督から聞いてます、『モーニング』のコーチの中澤さんですよね」
自己紹介とともに中澤が差し出した手を握り返しながら、吉澤は笑顔で
返答する。
第二印象は、とても好感の持てる少女だということだった。
後藤の時とはうって変わって、小さな体育館での出会いだった。
どれくらいかというと、まず片方のゴールのネットが破れている。
さらによく見てみると、小さな体育館に無理やりバスケットコートを2面も
造ったせいで、コート自体が微妙にせまい。
中澤がそれを知ったのは、0度から3ポイントを誰も放たないことからだった。
コートの大きさは通常規格よりせまく、しかし3ポイントラインは通常通り。
そのせいで、コートのラインと、3ポイントラインが接近しすぎている。
足の大きさ分も、両方のラインとの距離がないために、そこに立っただけで
コートから足が出てしまうという、間抜けな話だった。
仕方がないことではある。ありえる話ではある。
なにしろ3部は金がないのだから。
- 27 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)06時56分31秒
- (思い出すわ〜、昔の事・・・・)
まだ「モーニング」が発足から数週間の頃。
3部に登録されたばかりの頃は、チームが使える体育館もなく、よく近くの
大学の体育館を深夜に借りて練習をしていた。
移動費も全て自腹だったあの頃、全員が働きながらやりくりしていた。
熱くなった目頭をそっと押さえる。
吉澤は心配そうに、そして少し不気味そうに中澤を見ていた。
「それじゃ、今日はあんたのプレー見さしてもらうから。
今すぐにでも戦力になるようならウチのチームに来てもらうわ」
「はい、頑張ります!」
颯爽とコートに走る吉澤。
とりあえず、コーチが中澤に気を使ってくれたのだろう、いきなり練習試合が
始まる。
- 28 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)06時59分19秒
- 最初のジャンプボールは吉澤が跳ぶようだった。
だが、相手チームのジャンパーは吉澤よりもかなり背が高い。
といってもリーグの1部ともなると、ざらにいるほどの高さではあるが。
はっきり言って、吉澤の身長はセンターをやるにはやや低い。
にもかかわらず、吉澤のチームには彼女よりも背の高い選手はいなかった。
当然といえば当然で、3部の中堅チームにそう背丈に恵まれた選手などいる
はずもない。
試合が始まる。
審判がボールを上へと投げる。
吉澤と相手のジャンパーが同時に跳んだ。
結果は引き分けだった。
かなりの身長差にもかかわらず、相手と同時にボールに触れたのは誉めるべき
ことである。
残念ながら、弾き飛ばされたボールは相手のものになったものの、やはり
吉澤の運動神経はいいようだった。
- 29 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時00分46秒
- (とりあえず問題はディフェンスか・・・・)
中澤の脳裏に、先日見た後藤のことが浮かんだ。
吉澤と相手のセンターとの身長差は、ポジション的にはかなり深刻な問題
である。
しかし、内容を見てみると――――
(こら巧いで! 相手のセンターがボールもらえんやんけ)
中澤の感想と同じく、試合が始まって数回は攻守が入れ替わった時点で、
吉澤のマークしているセンターは、ことごとくパスをもらえないでいた。
そのディフェンスは保田と同じことをしているのだが、方法が正反対だった。
相手の動きを読んでオフェンスの前に立つのが保田。
対して、スピードで相手の前に立ちふさがり、パスを入れさせないのが
吉澤だった。
(ええね〜、ウチ好みのディフェンスしよるわ〜)
後藤の後だけに、必死でディフェンスに取り組む吉澤の姿には感心する。
背の低いことをプラスにしたディフェンスには、ただただ唸らされる。
- 30 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時02分24秒
- もう一つ中澤が知っておきたいことが、吉澤のオフェンスなわけだが。
(これまた圭坊みたいなプレーしよるがな)
およそ自分というものを理解できている。
ディフェンスは持ち前の運動能力でなんとかできても、センターという
ポジションのオフェンスはそう甘くはいかない。
ほとんどが3ポイントライン上でボールをもらい、パスをまわすことに
専念している。
そのかわりガードやフォワードがドリブルで切れ込むと、いいタイミングで
いいポジションに走り込んでいった。
(後藤がパスを覚えたら圭坊と吉澤の得点も上がるやろ。
そしたら圭織もだいぶ休ませれるな〜。
矢口もアシスト増えて喜びそうな選手やし・・・・)
中澤の頭の中でいくつもの作戦が組み立てられていく。
これほどインスピレーションをかきたてられるのは久しぶりのことだった。
- 31 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時03分41秒
- (おっ! ボール持ちよった)
もちろん吉澤がただボールを持っただけのわけがない。
ローポスト、すなわちセンターとしての吉澤のオフェンスを見れるチャンス
だった。
背中で相手をゴール下に押し込むように、ドリブルをつく。
が、なにしろ背丈も体重も段違いな相手に、なかなかリングとの距離は縮まらない。
(持ちすぎや、囲まれんで)
ローポストなどという、ディフェンスにとって危険な位置でボールを持っていては、
当然のことだが、センター以外のディフェンスが吉澤を囲まんと寄ってくる。
冷静に、パニックを起こさず、引きつけられる限界までディフェンスを
自分に引きつけると、矢のように素早いパスがノーマークの相手に飛ぶ。
パス先は3ポイントラインにいた。
ローポストに集中したディフェンスが一気に広がる。
そして吉澤は開いたスペースに滑り込んだ。
- 32 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時05分23秒
- (巧い!!)
今日の中澤はそればかりを心の中で叫んでいたが、実際吉澤の動きは
ベテランのような巧さをもっていた。
「こっち!」
今度は体格など関係ない。
ベストポジションでパスを要求する吉澤。
(パス遅い!)
中澤のつっこみは早い。
ワンテンポだが、パスが遅れて吉澤に入った。
その分相手センターのディフェンスが吉澤のシュートを妨害した。
ボールは危なくリングを2回転して、転がり込む。
(あのタイミングやと1部じゃブロックされとるな〜。
パスだしたのが矢口なら吉澤も楽に決められとったやろ)
もはや、中澤の中の未来の「モーニング」のフォーメーションには
吉澤が存在していた。
- 33 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時06分37秒
「どうでした? 合格ですか?」
吉澤が不安半分、期待半分といった様子で中澤にたずねる。
無論、中澤の答は既に決まっている。
「十分合格や。すぐにでもうちらの練習に参加してもらいたいぐらいやで」
「本当ですか? じゃあそうさせてください!」
「いや、そう言うてもな〜・・・・」
「大丈夫です。コーチには私が話つけますから」
「えっ? ちょっと待ちって・・・・」
さっさと駆けだす吉澤には、中澤の言葉が聞こえない。
コートの外から練習を眺めていたコーチに駆け寄ると、中澤の方を指差しながら
何事か話をしている。
「・・・・・」
とりあえず、自分の口の軽さと、吉澤の行動力に少し後悔している中澤だった。
- 34 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時08分08秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
場所も時も変わって――――
「――――ナイスパ〜ス!! 安倍さん!」
ベンチの後ろ、観客席から響く大声は吉澤のものだ。
今シーズンの試合には出場できないものの、昨日から「モーニング」の練習
に参加している吉澤。
すでに多くのメンバーと打ち解け、特に安倍のプレイぶりには、いたく共感した
ようだった。
(圭織よりなっちを気にいるって、結構しぶい趣味してんな)
中澤にしてみれば意外なことだった。
成績だけを見れば、間違いなくチームの大黒柱は飯田である。
ポジションとプレイスタイルから保田に共感することは十分考えられる。
だが、ポジションの違う安倍の良さが、たった1日一緒に練習しただけで
わかるとは、かなり目が利くということだ。
- 35 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時09分19秒
- ちなみに試合の方は、先の吉澤の声援を聞くだけで、その内容が知れるという
ものだった。
安倍のアシストが冴えに冴えていた。
速攻となるとノールックで、さらにワンタッチのパスを駆使して味方に
得点させる。
ハーフコートでのオフェンスでは、3ポイントラインから1メートル以上も
離れてパスを回す。
結果、同じサイドにいるセンターの飯田が広くなったポストでの1対1を
容易に行うことが出来た。
パスだけのアシストに限らず、チームオフェンス全てをアシストする。
試合のリズムは明らかに安倍の動きから生まれていた。
- 36 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時11分24秒
- 「――――圭織!」
安倍がミドルポストの飯田にボールを入れる。
ボールを受けとってすぐにダブルチームに来る安倍のディフェンス。
強引にはいかず素直に安倍にパスアウト、と同時に少し体をずらして、
ローポストの絶好のポジションに陣取る。
「なっち!」
安倍はキャッチする間もなく、ワンタッチで飯田に再びボールを入れる。
飯田が安倍の名を呼び終えるまでのわずかな時間で、既に飯田のだした手には
ボールが返ってきていた。
ワンドリブルでゴール下にもぐり込むと、シュート。
派手さはないが、その一連のオフェンスは素人目にもはっきりと、完成された
プレイだと伝わった。
- 37 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時13分09秒
- 安倍が創ったリズムに飯田の調子が良くなる。
調子のいい飯田を相手が警戒すると、突然逆サイドにいる市井・矢口に
安倍から矢のようなパスが繰り出される。
するとノーマークの3ポイントを撃ち放題の市井。
もしくは慌てて駆け寄るディフェンスを簡単に抜きさる矢口、それに
合わせる保田。
チーム力でも個人力でも相手の上をいく試合だった。
最終的に―――――
1対1で圧倒的な強さを見せつけた飯田の大量得点。
市井のノーマークでの高確率の3ポイント。
楽な状況での1対1からの矢口のペネトレイト、そして保田の合わせ。
吉澤の声援?
それら全てをプロディースした安倍の仕事ぶり。
負けるはずもない試合だった。
控えの紺野と新垣も出場時間が増え、その分いつもの成績を上回る活躍をした。
- 38 名前:リズムにのって 投稿日:2001年11月28日(水)07時16分20秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
前回と同じく2部の消化試合ということもあり、朝刊には成績のみの
掲載かと思いきや、1部の試合が少なかったためにコメントつきでの
掲載となった。
無論短いコメントだったが。
モーニング ○−× ***** 【102−77】
得点・・・・飯田(38) 市井(29) 保田(17)
アシスト・・・・安倍(10) 矢口(9)
リバウンド・・・・飯田(8) 保田(8) 安倍(7)
【総評】この日の攻撃の起点だったガードの安倍はP(11) A(10)
R(7)とトリプルダブルに迫る大活躍。終始レベルの高い
ゲームメイクでチームの勝利に大きく貢献した。
- 39 名前:VINE。 投稿日:2001年11月28日(水)22時30分54秒
- 面白いです!バスケのルールも結構わかるので楽しませてもらってます。
作者さん、これからも期待してます!
- 40 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時16分59秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
『ハローリーグ』の1部ともなれば、観客の数が2〜3万人を超えることは
珍しい事でもなんでもない。
対して、見事に対称的に、『ハローリーグ』の3部ともなれば、観客数が
100人に満たないことなど日常茶飯事である。
ちなみに中澤を含め、その試合を観戦する者は2〜30人といったところか。
「ふぁ〜あ・・・・・ねむ・・・・」
プレイヤーへの冒涜である。
中澤は全く躊躇せず、コートにむけて大あくびを炸裂させた。
まだ第2Qの中程にもかかわらず、既に中澤の眠気は限界を迎えていた。
(まあえ〜か、第3Q終わるまで寝よ・・・・)
- 41 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時17分55秒
とりあえず、後藤・吉澤たちで前々から目をつけていた選手たちは見終わった。
あとは地道にいろいろなチームの試合を見て、有望そうな選手を見つけるしかない。
要は、スカウトマンのような役を中澤自身がやっているわけである。
それとて、チームの柱である選手を、おいそれと譲ってくれる所などないため、
自然とターゲットは2・3部のうだつの上がらないチームにいる選手に絞られる。
そんな選手たちを1部でプレイできるという餌で釣るしかない。
よって、果てしなくつまらない試合を見ることも決して少なくない。
というよりも、ここ数試合の全てが収穫なしの暇な観戦が続いていた。
- 42 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時18分58秒
―――――数十分後
「んがっ!! 寝すぎた、もう試合終わってまうやんけ!」
中澤が起きた頃には、もう第4Qの残り3分をきったところだった。
焦ってスコアを確認するが、劇的な変化もなく、ダラダラとした試合だった
ことがうかがえる。
よく周囲を見回せば、中澤が眠る前にいた半分近くの観客がいなくなっている。
(どうやら相当つまらんかったみたいやし・・・・ま、えっか)
結局その日はそのまま帰ってしまう中澤。
そして、その日のうちに中澤はこれ以上のスカウト活動を断念することを
決意した。
あるアイデアとともに
- 43 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時20分02秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
場所は変わり、時刻は変わらず。
中澤不在のまま「モーニング」は今日も試合に励んでいた。
といっても大学生との練習試合なのだが。
その日はオフにもかかわらず、こうして試合をしているのには理由がある。
3部時代に体育館を貸してもらっていた恩返しである。
本来ならプロがそこまですることなど、ありえるはずのない話ではあるが、
持ち前の人柄の良さゆえに、協力してしまう「モーニング」の面々だった。
しかし、だからこそ、地元では人気のある「モーニング」だった。
- 44 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時21分11秒
- ――――ローポストの吉澤からのリターンパスを受けた安倍。
3ポイントの構えを見せると、慌てて止めにくるディフェンス。
安倍のペネトレイトは切れ味鋭いカウンターだった。
スピードではなく、相手が自分に駆け寄ってくる勢いに真正面から突っ込む。
結果、ディフェンスのむかって来る速度と、自らのドライブのスピードとを
合わせた安倍のペネトレイトは成功する。
「撃って、紺野!」
ゴール下まで貫通し、シュートかと思いきや逆サイドで待ち受ける紺野に絶妙のパス。
安倍から指示を受け、同時にパスも受ける紺野は迷うことなくシュート。
結果はリングにはじかれ相手ボールになったものの、安倍は嫌な顔などしない。
嫌な気分になどなってはいない。
「すいません、安倍さん」
ディフェンスに戻りながら、紺野が謝ってくる。
尊敬する先輩からのパスを、決められなかったことがプレッシャーになっていた。
「タイミングはばっちりだったよ。次もたのむからね」
「はい」
安倍の愛嬌は天性のものだった。
崩れかけたチームを立て直すのも、チームを崩さないのも安倍の存在による
ところが大きい。
- 45 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時22分28秒
- 試合内容は、一応プロである「モーニング」が圧倒的に有利に進めていた。
しかもメンバーは、いつものレギュラー陣では差が大きいため、控えの
紺野・新垣に吉澤を入れ、飯田・矢口・保田を外して構成されている。
実はこの構成には、大学側のコーチの意見も半分入っていた。
というのも、選手たちは派手な矢口のプレイを見たがっているのだが、
コーチとしてはぜひ安倍のチームへの貢献具合と、市井のお手本のような
ジャンプシュートを学んで欲しいというのが大きかった。
「モーニング」と大学との大きな違い。
それはシュートの正確さと、ハーフコートでのオフェンスである。
前者を際立たせるのが市井、後者は安倍だった。
- 46 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時24分22秒
「ナ〜イス速攻!」
吉澤の声は大きい。
一人でドリブルでもち込み、シュートを決めた新垣が少し照れる。
基本的にプロであるがゆえに、紺野も新垣も活躍していた。
新垣はボール運びは危なげなくこなし、PGとしては十分な仕事をこなしていた。
紺野は基礎体力からして比べられない。
マッチアップした相手が完全に紺野に走り負けていた。
早々に疲れきった相手に、紺野はのびのびとしたプレイで既に2桁近い得点を
マークしていた。
問題は吉澤だった。
相手センターは、来年の1部のドラフトに指名の期待がかかるほどの選手。
大学の切り札ともいえるセンターだった。
今のところ、吉澤の働きは悪くもないが、パッっとしない。
ディフェンスはいい。
身長差のせいで、どうにもならない部分はところどころあるものの、それ以外
では中澤の認めたセンスを発揮していた。
しかし、オフェンスでは精彩を欠いている。
- 47 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時25分01秒
- そうこうしているうちに前半は終了した。
「どう、よっすぃ〜? やっぱしんどい?」
コートの脇で座って休んでいる吉澤に、安倍が話しかける。
「はい。正直ディフェンスはなんとかなるんですけど・・・・・」
語尾をにごらせる吉澤の視線に気づく。
なんとなく、吉澤の言わんとすることを安倍は察した。
「OK、わかった。後半はなんとかするよ」
吉澤には何も言わせない。
その気遣いを無駄にはさせない。
吉澤も救う、新垣も救う。
そのために安倍は言う。
「――――後半、私の代わりに矢口が入って」
- 48 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時28分45秒
- ――――安倍の決断はずばり的中。
というほどまでには及ばないまでも、試合に劇的な効果は与えた。
効果はあるが変化はない。
吉澤の得点が増えるかわりに、その他の人間の得点は激減した。
要するに、チームの得点力そのものの数字は元のままだった。
後半開始から2分、吉澤一人しか得点していない。
矢口のパスが吉澤を導き、吉澤の動きが矢口のパスを導く。
精度・タイミングともに新垣のそれを格段に上回る矢口のパス。
ノールック・ワンタッチ・ビハインド、数種類のパスを駆使して、吉澤が
欲しいタイミングを逃さずボールを渡す。
吉澤のオフェンスの魂はポジション争いにある。
絶好のポジションを勝ち取る吉澤。
しかし体格において相手より劣る吉澤が、その場をキープできる時間は短い。
1秒程度のその時間に、矢口はパスを入れる。
結果、100%近い確率で吉澤はシュートを決めていた。
もう一つの吉澤の武器はハイポストからのドライブ。
並のセンターには止められない切れ味を持っていた。
ローポストのポジション争いで負けても、ハイポストでボールをもらって
突っ込む。そして勝つ。
もはや学生に吉澤を止めることは不可能だった。
- 49 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時30分28秒
- 大学生チームがボール運びから崩さんと、新垣にボールが渡った瞬間ダブルチーム
を仕掛けた。
いくらプロでも、経験値の少ない新垣はなかなか前に進めない。
「新垣、よこしな!」
すかさず矢口がフォローにやって来る。
相手のディフェンスを振り切って、新垣からボールをもらった瞬間――――
「よっすぃ〜!」
自らがハーフラインを超えるよりも前に、フロントラインへとパスをだす。
自分の名前を呼ばれたことに反応して、ハイポストに出て行く吉澤。
吉澤が合わせたのか、矢口のパスが合わせたのか、おそらく両方がかみ合った
ために起こったことだろう。
絶妙の位置でボールをもらった吉澤。
ディフェンスはほとんどが帰ってきていない。
1対1を仕掛けるにはこれ以上ないシチュエーションが揃った。
さんざん吉澤にやられた相手センターが警戒をあらわに腰を落とす。
刹那、とんでもないスピードで一歩踏み出した。
その圧力に気圧されて数歩後ずさるディフェンス。
一方の吉澤は、全くその場を動いてはいない。
完全なるノーマークを創りだした吉澤は、フリースローを撃つ感覚で
シュートし、リングにボールを放り込んだ。
- 50 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時31分46秒
- その後の試合展開も、新垣がボールを運び、吉澤が攻め、紺野が合わせる
といった光景が繰り広げられた。
最初はダブルチームに戸惑っていた新垣も最後には、一人でボールを運べる
ようになった。
試合も終盤にさしかかると、速攻に走る紺野の前を走る者など誰もいなかった。
スタミナで紺野を上回る人間は、コート内にはいない。
面白いように単独の速攻が決まった紺野は、チームで吉澤に次ぐ得点を
稼ぎだした。
こと得点に関しては、後半はほぼ吉澤と紺野の独壇場だった。
レギュラーの市井と矢口はなるべくフォローに徹し、ゲームの流れを止めない。
最終的にダブルスコアの大差で「モーニング」は勝った――――
- 51 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時33分19秒
- 「お疲れ、よっすぃ〜。 だいぶチームにも慣れたっしょ?」
「そうですね、はやく一緒に公式戦に出たいです」
安倍の言葉に、嬉々とした表情で応える。
今回の練習試合は、吉澤にはいい経験になったはずだった。
「は〜い、全員注目〜!
これから圭織のおごりで晩御飯食べに行くよ〜」
「ちょっと圭ちゃん! 全員分おごるの!?」
「当然でしょうが!? 仲間はずれにしちゃかわいそうでしょ。
それにあんたチームで一番高い給料貰ってんだから、大丈夫でしょ?」
ちなみに、今回一度も試合に出られなかった飯田と保田。
試合中にずっと晩御飯を賭けてフリースロー勝負をやっていた。
結果、保田が勝ったらしい。
プロでも異色といえるほどに、他チームとはオフのすごし方が違う「モーニング」。
練習・試合以外でもチームメイトが一緒にいる時間は多い。
もしかしたら、そんなところが彼女たちの強さにつながるのかもしれない。
などと意識している人間は一人もいないが・・・・
- 52 名前:中澤の陰謀 投稿日:2001年11月30日(金)03時35分36秒
- ※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※―――※
――――数日後
「なんじゃ、こりゃ〜!!」
「どしたの矢口?」
「ちょっと圭ちゃん、見てよこの新聞」
「どれどれ?」
「この右下の小さいの」
「・・・・・!!?」
「・・・・裕ちゃんの仕業だよね?」
「・・・・こんなイカれたコト考えるの裕ちゃんしかいないって」
【プレイヤー募集】
来る7月○日。「モーニング」の入団試験を開催します。
制限一切なし、やる気のある人は今すぐ下記の番号へ。
○○○ー△△△ー××××
プロ経験なしの方も大歓迎。
やりがいのあるチームで私たちと頑張りませんか?
(●´ー`●) (〜^◇^〜)( `.∀´)( ゜皿 ゜) ヽ^∀^ノ
- 53 名前:kagemusya 投稿日:2001年11月30日(金)03時40分58秒
- >>VINE。さん
どうもどうも。
読んでもらえて感謝です。レスまでもらえて感無量です。
これからも細く長く続けていきます。
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