FULL MOON PRAYER
- 1 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/03(土) 00:32
-
85年生まれの人4人と86年生まれの人1人が出てきます。
アンリアルです。
更新は少し遅くなるかもしれませんが、完結目指して頑張ります。
- 2 名前:FULL MOON PRAYER 投稿日:2004/01/03(土) 00:34
-
緑に寝そべり、遥か遠く輝く黄金の大地を想って。
あたしたちは今日も祈りを捧げる。
- 3 名前:FULL MOON PRAYER 投稿日:2004/01/03(土) 00:34
- プロローグ/the DEEP SEA
- 4 名前:プロローグ/the DEEP SEA 投稿日:2004/01/03(土) 00:35
- 無限の空に散らばる星々の中、太陽の光を思う存分受け止めて、青に、緑に一際美しく輝く惑星。
その周りを所々薄く渦巻き囲んでいるのは、白い雲。
静かに息づく、一つの巨大な生命体。
銀色の宇宙服に身を包み、月の『海』に腰を落として、美貴は地球を眺めていた。
後ろ手に両手を付いて、目を大きく見開いて、見ることが可能な限り隅々まで見渡す。
一日に何十回、何百回見ようとも飽きることはない。
見る度に憧憬の念を抱かずにはいられない。
あそこへ行けたらどんなに素晴らしいだろう。
たとえこの美しい景観を見ることができなくなったとしても、向こう側に行ってみたいと思う。
自分のルーツが脈々と流れ続けているあの球の表面に、足を着けてみたいと思う。
- 5 名前:プロローグ/the 投稿日:2004/01/03(土) 00:36
- こちらの『海』は浅くて、黒い。
平らで、凹凸などほとんどない。
どこからどこまでが『水面』で、どこからどこまでが『岸』かなんて決めようもない。
地球の『海』は深いんだろうか。
見たままの、吸い込まれるような澄んだ青色をしているのだろうか。
凸凹しているんだろうか。
あそこなら、こんなに孤独を感じずに済むだろうか。
- 6 名前:プロローグ/the DEEP SEA 投稿日:2004/01/03(土) 00:37
-
『おおーい、美貴!何してんだよー』
宇宙服に備え付けられている無線機から聞き慣れた声が流れた。
密閉された狭い空間に音がぐわんぐわん響いて、意味もないのにヘルメットの上から思わず耳を押さえた。
『そんな大声で怒鳴らなくても聞こえるってば』
体を捻って真後ろを振り返ると、ひとみが体の5倍程もある岩を運んでいるところだった。
岩から片手を離して、美貴に向かって手招きをしながら歩いている。
そのすぐ後ろをピョンピョン飛び跳ねながら梨華が続く。
『ちょっとよっすぃ〜、もう少しゆっくり歩いてよ!』
『梨華ちゃん、何も持ってないじゃんか。ちょっとは手伝ったらどうなの』
再び地球に向き直り、二人の痴話喧嘩に耳を傾け、笑う。
- 7 名前:プロローグ/the DEEP SEA 投稿日:2004/01/03(土) 00:38
- ふと、肩に僅かな重みを感じた。
『ごっちん』
『どうしたの?気分でも悪くなった?』
『ううん、大丈夫。ちょっと見てただけ』
美貴は先程まで見つめていた星を指差す。
あたたかく笑って真希は美貴に手を差し出した。
真希の手を掴んで立ち上がり、美貴は地球に背を向ける。
空気を通さずに直接差し込んでくる太陽の光が、粗い月面に二人分の影を落とした。
- 8 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/03(土) 00:39
- 今日はここまでです。
- 9 名前:つみ 投稿日:2004/01/03(土) 12:16
- 何かおもしろそう!
作者さん!ガンバ!
- 10 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/04(日) 02:50
-
1.Flying People
- 11 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:51
-
『どっすーーん!!』
『だから声でかいって』
抱えてきた巨大な岩を、ひとみは金属でできている床の上に投げ捨てた。
とはいっても月の重力なんて地球と比較すると微々たるもので、
大岩は音も立てずにふわりと落ちる。
隣で美貴が、ひとみのものには劣るが、それでも随分大きな岩を降ろした。
真希と梨華はまだだろうか。
少し遅れて歩いていたはずの二人のことを思った。
いつの間にか姿が見えなくなっている。
追って追われての痴話喧嘩が本気の怒鳴り合いにまで発展してからまだそんなに時間は経っていない。
どれだけ梨華が頼んでも、ひとみが歩く速度を緩めなかったのが原因だ。
周りを気にせず先々歩くひとみと、ふくれてのろのろとしか歩かない梨華の間で
板挟みになった美貴と真希は、こっそり目配せをして一人一人に付いて歩くことを決めた。
- 12 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:52
- 振り向くと、入ってきたばかりのシェルターのエントランス部分がぽっかり口を開いている。
その向こう50mくらいの位置に梨華と、それに寄り添うようにして歩いている真希が見えた。
大して疲れているわけでもないが、美貴は首に手をやりコキコキ鳴らしてみた。
『あーあー、あちーあちー。久しぶりの遠出は疲れるねー』
美貴を真似てひとみも大袈裟に首を曲げてみせるが、どこか芝居じみている。
ひとみが無駄なくらい明るいことは、ここに帰ってくる途中から気づいていた。
地球から渡された無線機は化石並みの超古型で、チャンネル選択がうまくいかない。
こんな年端もいかないガキんちょには高性能の無線機なんてもったいない、ということか。
無線は全員に繋がっている。
ということは、梨華にも真希にもこの声が聞こえているということだ。
梨華はどうか知らないが、勘のいい真希はひとみの空元気に気づいているに違いない。
- 13 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:54
- 『ただいま』
全身銀ずくめの二人がシェルター内に足を踏み入れた。
真希が、宇宙空間とシェルターを完全に遮断するためのシャッターの開閉ボタンを押す。
『おかえり』
そして、お疲れ様。
本日二度目の目配せに、真希はホッとした表情を見せた。
『おかえり。梨華ちゃん』
梨華は背中を向けているひとみを無視して、美貴の言葉にだけ反応した。
『ただいま。美貴ちゃん』
あれだけのろのろ歩いていたのが嘘のように素早い動きで、
梨華は次の部屋のボタンを押し、隣に吸い込まれていった。
真希が慌てて後に続く。
今度は逆に美貴とひとみが取り残された。
梨華と真希が帰ってきてから急に無言になったひとみが申し訳なさそうに口を開いた。
『……美貴。もう少し付き合ってくれないかな』
- 14 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:55
-
梨華は必要以上にひとみにこだわっていた。
ひとみは必要以上に梨華から距離を置こうとしていた。
これが意味するところを、美貴はおぼろげながらも理解していた。
毎日の移動範囲が限られた、変化の少ない環境の中で暮らしていれば、
本能が刺激を求めるのは当然のことといえる。
機械いじりにかけては天才的な美貴、
料理と地球の植物の知識に関しては右に出る者のない真希、
多種多様な語学の勉強に余念がない梨華と比べると、
狭いシェルター内でひとみができることはかなり制限されていた。
ひとみは体を動かすのが好きだった。
よくテレビ電話を利用した通販でいろんなマシーンを頼んでは、トレーニングに励んだ。
それに飽きると宇宙服を着て外に飛び出し走り回った。
刺激を求める対象が運動から梨華へと移り変わっていったのは、いつ頃からだったろうか。
- 15 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:56
- 再び宇宙空間に身を置いたひとみは、小さな岩の破片を手に取って、力いっぱい空に放った。
破片は元の場所に戻ってくることなく、さらに小さくなって闇に消えた。
美貴は少し離れた所でふわふわと逆立ちしている。
『どうしていいかわからないんだ』
梨華に聴かれているかもしれないことを考えて、ひとみは極力言葉を省いた。
『何を?』
くるりと上下を回転させて、美貴が足を地に着ける。
『とぼけないでよ。わかってるんでしょ』
別の岩片を手の平で弄びながら、ひとみは美貴にくってかかる。
自分の気持ちの振れ幅が広がって、
ゆらゆら揺れて不安定なことは、ひとみにも十分わかっていた。
普段は力強く頼もしい友人が、珍しくうろたえているのを見て
美貴は困ったように微笑んだ。
『よっすぃーなら、大丈夫だよ』
今はただ、戸惑っているだけ。
4人が世界のすべてで、お互いを自分の一部のように感じながら
姉妹みたいに一緒に育った相手に、特別な感情を持ってしまって混乱しているだけ。
だから。きっと。大丈夫。
- 16 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:57
- 『ね?』
『…うん』
言葉は足りなかったかもしれないが、ひとみは少なからず安心したようだった。
美貴に向けていた視線を、ひとみは手元に落とした。
軽く、きめの細かい岩石鉱物の破砕片。
吹っ切ったようにそれを足元に捨てたひとみは、
『…ぅあーーー!!!』
叫びながら、高く、高く宙を跳んだ。
5、6mはある高さを何度もあちこちへ跳びはねるひとみを見て、美貴はしばらく呆けていた。
キーンと煩い耳鳴りが止むにはまだもう少しかかりそうだ。
『大声出すなって何度言ったらわかんだろ』
地球に戻れたら犬というものを飼ってみよう。
写真でしか見たことはないけれど、きっとよっすぃーみたく
素直で、かわいくて、気立てのいいやつだ。
『…ちゃんと帰ってこいよー』
込み上げてくる笑いをかみ殺しながら、美貴は先に帰途についた。
- 17 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:58
-
エントランス隣の部屋で消毒剤入りのエアゾルを浴び、
さらに隣で重力作動装置のボタンを押し、そのまた隣で宇宙服を脱ぎ捨てたひとみは
真っ直ぐ梨華の部屋へと向かった。
硬い扉を叩きながら、鍵をかけてしまっている梨華に呼びかける。
「梨華ちゃん、開けて。ひとみです」
「なによ」
しばらくして、金属板一枚隔てた向こうから不機嫌な声が返ってくる。
しかし、扉が開けられる気配はない。
「さっきは、ごめんね」
間髪入れず返される謝罪の言葉に、梨華はたじろいだ。
「ごめんね。あたしが悪かった」
もう一度繰り返し、向こうからは見えていないのも忘れて頭を下げると、
鍵を解く音がして扉が薄く開いた。
梨華が片目のみを覗かせてひとみの様子を窺っている。
どうしても全身が見たくなって、ひとみは扉を全て開け放った。
- 18 名前:1.Flying People 投稿日:2004/01/04(日) 02:59
- 「そこまで言うなら、許してあげる」
身を隠すところのなくなった梨華は、赤い目を悟られないように、ひとみの肩に顔を埋めた。
ひとみはといえば梨華の背中に手をやろうかやるまいか、腕を上げたり降ろしたりしている。
そんな二人を美貴と真希が座り込んで、物陰から見守っていた。
「うちらも苦労が絶えないよね」
「ねー」
いつまでも幼いふりをしているわけにはいかない。
追いかける梨華に逃げるひとみ。
いつか折り合いがつく日が来るだろう。
「いっちょ、頑張りますか」
握った拳を重ね合わせ、美貴と真希は勢い良く立ち上がった。
- 19 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/04(日) 03:06
- 更新終了。
>>9 つみ様
ありがとうございます。
頑張ります。
- 20 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/04(日) 03:07
- 今日の発表は
- 21 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/04(日) 03:07
- かなりショックでした…
- 22 名前:つみ 投稿日:2004/01/04(日) 07:12
- うん!
この4人はやっぱいいですね!
ついに4期からも・・・
ショックです・・・
- 23 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/04(日) 21:18
- 86年の子は誰かな、あの子だったらいいな
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2004/01/04(日) 22:52
- ハロプロで86年と言うとあの人しか頭に思い浮かばないのですが…
き、期待していいのかな…
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 03:28
- 面白いです。
この4人は大好きなんで、これから先が楽しみです。
- 26 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/07(水) 20:16
- 2.ごっちんと金魚
- 27 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:17
-
シェルターの真ん中近く位置する食堂。
天井には無数の星が点在しているのを見てとれる巨大な窓が備え付けられているが、
今は地球は見えない。
四人揃っての食事を楽しんでいる最中に、突然真希は言った。
「あたしさあ、金魚飼ってみたいんだよね」
フォークを天に向けたまま、クルクルと回す。
「は、キンギョ?」
礼儀正しく食べ物を口に運んでいた美貴、
誰に取られるでもないのに必死でがっついていたひとみ、
丁寧に何度もナプキンで口元を拭っていた梨華は、三人が三人とも同じように大口を開けた。
一番大きく開いたひとみの口から食べ物が見えていることに気づいて、
美貴は真っ先に口を閉じる。
「そっ。キンギョ。知らない?」
回されていたフォークの先端が魚の形を描き出す。
「いやいや、知ってるけども」
- 28 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:18
- 今まで一体何の話をしていたのだったか、
真希のキンギョ発言が唐突すぎて、頭からすっ飛んでしまった。
美貴は真希の方に向き直って、『金魚』がどのようなものだったか
覚えている限り思い出そうとした。
金魚。
あの、赤や白や黒や斑模様の、目が出っ張ったり引っ込んだりしているサカナだ。
いや、引っ込んではいなかったか。
大抵は肉食魚用の餌として育てられるが、
綺麗なものや珍しいものは観賞用として愛でられるらしい。
どちらにしろ、美貴にとっては見ていて特におもしろくなく、
可愛らしくもないものであることに、変わりはなかった。
よりによって金魚だなんて!
もっと愛らしい生き物なら地球上にごまんといるだろうに。
美貴は犬が飼いたかった。
ついでにいうと、梨華は猫、ひとみはライオンを飼いたいそうだ。
以前何かの拍子で聞いたことがある。
ライオンは、金魚とは別の意味で飼いたくないと思った覚えがあった。
- 29 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:19
- 「ごっちん、変わったモノ飼いたいんだね」
いまだに開いている口を閉じさせるべく、ひとみの顎を手で押し上げながら梨華は言った。
確かに若い女の子が憧れるペットとしては少しずれている気はする。
「そうそう。変だよ。食べてもうまくなさそうだし」
ひとみもそう付け加えた。
こいつは根本的にずれている。
そこから話は変な方向に逸れて、
梨華は猫のチャーミングさを、ひとみはライオンのカッコよさを語り始めた。
両方ともお互いの話など耳に入っていない。
食べていた手を止めて再び美貴が真希を見ると、
変かなあ?と眉を顰めて呟いているところだった。
- 30 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:19
-
シェルターの中にいる『動物』は、四人の『ヒト』だけだった。
月に一度地球からやってくる定期船には、生物が乗り合わせていない。
正確にいうと、『動物』だが。
ここにやってくるシップに動物を乗せるのは、地球における規定違反のようだった。
もちろん、こちらからも動物を乗せることはできない仕組みになっている。
積まれているのは、水だったり食料だったり衣料だったり、大半が生活に不可欠な物だ。
残りの空いたスペースに各自の欲しいものが詰め込まれる。
それは美貴の機械製品だったり、真希の植物の種だったり、
梨華の語学書だったり、ひとみの腹筋増強マシーンだったりした。
自らの意志で動くものがほとんどいない環境で、『動物』は四人の憧れだったはずだった。
どうして急に金魚を飼いたいなどと言い出したのだろう。
別に金魚を飼うのがおかしいというわけではない。
ただ、真希なら、野山駆け回るような生命力に溢れた『動物』を欲しがるだろうと思ったのだ。
食事が終わってしばらくしてもその理由が気になって仕方なかった美貴は、
だだっ広いシェルターの中、真希を探しに行くことにした。
- 31 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:20
- 真希は多くの時間を台所で過ごした。
ありとあらゆる料理の本と調味料を取り寄せて、暇さえあれば料理に励んだ。
真希の作った料理は一般的な宇宙食に比べると格別においしい。
本当に美味だ。
地球にもこれほど腕のいい料理家はそういないだろうと胸を張って言える。
また、真希は四人の中の誰よりも植物を愛してもいた。
台所にいなければ、温室で植物の手入れをしていることが多い。
食事をしたすぐ後なので台所には行かず、温室に足を向ける。
自然、故郷を思い起こさせるような土っぽい匂いを感じながら温室内に入ると、
真希がしゃがみ込んで一枚一枚の葉を丁寧に拭いている最中だった。
- 32 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:21
- 「ごっちん」
真希は美貴が入ってきたことにすぐ気づいたようだった。
しかし、美貴の方に振り向きもせず、背中を向けたまま尋ねる。
「美貴、今日が何の日か覚えてる?」
…覚えている。
忘れるわけなんて、ない。
「父さんや母さんたちが死んで、ちょうど一年の日」
「Right!」
梨華から習った完璧な発音で、真希はニコリと笑いながら振り向いた。
「忘れるわけないじゃん」
表情に陰りを落として美貴は呟く。
- 33 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:22
- そんな美貴に気づかぬふりをして真希は言葉を紡いだ。
「久しぶりにお母さんの夢、見たの。
よく話してたんだ。好きな動物は何か、何が飼ってみたいかって。
夢の中でもそんな感じの話してて、あたしは犬が飼いたいって答えてた。
小さい時はあたしも犬とか飼ってみたかったな」
「でもさっきは…なんで金魚なんて…」
「だって、サカナは喋れないでしょう?喋れなかったら、嘘つけないでしょう?」
声を発するための器官なんか、使えない方がいい。
真希ははっきりとそう言った。
それは人間に向かって宛てた言葉なのかもしれなかった。
美貴は思わず口に手を当てた。
- 34 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:22
- 「サカナだったら何でも良かったんだけど。
そん中でもできるだけカワイイの選んだつもりだったのになあ」
ヒト以外の動物が、嘘をつくわけなんてないのに。
美貴は悲しくなった。
金魚の泳いでいる姿が好きだとか、口をパクパクさせるところが可愛らしいとか、
もっと微笑ましくなるような理由で飼いたいんだと思っていた。
真っ直ぐだった真希が、
知らず知らずのうちに歪んでしまっていたことを、初めて知った。
15年前に起こった出来事が、ここにいる者全員の心に傷を残したのは
確かなことだった。
大きくなるにつれ、自分たちが恵まれない環境にいなければならない理由を
美貴たち四人は、憎んで、憎んで、憎んで、呪った。
そんな自分たちを連れ戻したのはそれぞれの両親たちだった。
他人を信じられるよう、分かち合えるよう、
人間の良さを何度も何度も根気よく説いてみせた。
そのおかげで今、自分達はお互いを信じ合って、ここにいる。
- 35 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:23
- その両親が、一年前に死んだ。
誰を恨むわけにもいかない事故だった。
親が死んだことで、真希の抑え付けられていた感情は、
見えない形で再び積み上げられてしまったらしい。
…今頃気づくなんて。
繊細な真希の心には、綻びてしまったのだろうか。
もう、元には戻せないのだろうか。
温室内を沈黙が支配した。
真希のうつろな目に見つめられても、植物たちは知らん顔をして静かに光を浴びている。
- 36 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:23
-
「いたいた!ごっちぃん!」
突然大声が温室中に響き渡り、ひとみと梨華がなだれ込んできた。
緑に視線を落としていた美貴と真希は、驚いて顔を上げた。
ひとみも梨華も、手に大きな紙を持っている。
「見て。あたしたち、金魚の絵描いてみたの」
「ぜってーあたしの方がうまいって」
「よっすぃーは黙ってて!」
小競り合いながら、二枚の紙が掲げられる。
「ほら」
「………」
- 37 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:24
- …プッ。
しばらく無言で二枚の絵を見すえていた真希は、急に吹き出した。
「どっちも似てないよぉ」
お腹を抱えて笑いながら、美貴にも絵を見るよう促す。
確かに。
美貴は頷いた。
どちらも魚に見えないことはない、といった程度。
「ビミョー…だね」
「え〜…」
「うそぉ!?梨華ちゃんと同レベルぅ?」
「なによ!よっすぃー知ってる?金魚には鼻なんてないんだよ!」
「そっちこそ何それ。手足ついてるじゃんか!」
自分達の絵を挟んで言い合うひとみと梨華を見て、真希はころころ笑った。
- 38 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:24
- 美貴は体の力を抜いた。
いつもは手が焼ける二人だが、ここぞという時にはかなり助けられている。
知らず知らずのうちに作られた歪みは、三人がかりで溶かし、崩していってやればいい。
自分たちなら、できるはずだ。
美貴は真希の隣にしゃがみ込んだ。
「よぉし。ごっちん、金魚飼おう。美貴も飼いたくなった。地球に帰ったら、絶対飼おう」
言い合いの声が止んで、三人が美貴を見る。
真希は一瞬キョトンという顔になった後、うれしそうに微笑んだ。
- 39 名前:2.ごっちんと金魚 投稿日:2004/01/07(水) 20:25
- 「猫も飼おうよ」
「ああ、はいはい」
苦笑しながら梨華に返す。
この際何でも来いだ。
ひとみがガッツポーズをつくって叫んだ。
「うっしゃ!ライオン!」
…前言撤回。
「よっすぃー」
「ん?」
「ライオンは無理だから」
「えっ。なんで!?」
先程とは一転、悲しそうな、しかしコミカルなところを残す表情になったひとみを見て、
真希はアハ、と笑った。
- 40 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/07(水) 20:27
- いきなり暗めの話ですみません。
次回はそうでもないはずです。
- 41 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/07(水) 20:27
- >>22
やっと大分立ち直ることができました。
めげずに書いていきたいと思います。
>>23-24
はて。あの子とは?
と、とぼけてみましたが、ご期待に添えられるのかどうか…
こちらでは最初から完全に決定しています。
もう少ししたら出てくると思いますのでお待ちください。
>>25
ありがとうございます。
作者もこの4人、大好きです。
- 42 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/07(水) 20:28
-
- 43 名前:つみ 投稿日:2004/01/07(水) 21:12
- この4人には相当な過去があるようですね〜
あの人の登場も楽しみに待ってます。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/07(水) 22:58
- 更新お疲れ様です。
初回からすっごい良くて、ダイスキになりました!
いしよしのやりとりが微笑ましいです。
- 45 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/15(木) 12:18
-
3.PEACE
- 46 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/15(木) 12:20
-
「聞いてくださいよ中澤さん!」
そう言うなり、梨華は巨大な液晶モニターに詰め寄った。
モニターの前には様々なボタンが所狭しと並んでいる。
興奮していた梨華は、手をついた際に誤ってそのうちの一つを押してしまった。
途端に画面は砂嵐一色になる。
お約束通り、ザ―――といったノイズ付き。
「あ、あれ?」
やっちゃった。
お得意、ハの字眉をつくって、梨華は目の前に並ぶ押しボタンを見た。
機械オンチの梨華にはそのうちの半分以上が何のボタンなのかわからなかったが、
大して気にはならなかった。
要は自分が使うものさえ覚えておけばいいのだ。
梨華は自分の興味があることには凝り性だが、それ以外のことに関しては結構アバウトな人間であった。
- 47 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:21
- 適当に(むちゃくちゃに、とも言う)ボタンを押していたら
ノイズは消え去り、モニターが元の映像を映し出した。
鮮明な画像に、梨華は胸を撫で下ろす。
途中で変な画面や文字が出てきたりしていたが、そんなことはどうだっていい。
後で美貴に直してもらえば済むことだ。
美貴には悪いが今はそれどころではない。
再び映し出された人物は、直接向かい合っているわけでもないのに
顔を引き攣らせながら身を引いているところだった。
無理もなかった。
梨華の迫力には鬼気迫るものがあった。
優しく問いかける声がスピーカーから流れた。
「あー…落ち着き。何があったんや?」
泣きそうな表情を隠そうともせず、梨華は訴えた。
「またよっすぃーがイジワルしたのぉ…」
画面向こうの相手は無造作に髪をかき上げ、『またか』といった表情になった。
- 48 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:22
-
ここは通信室だ。
小型のクレーターに設置されたパラボラアンテナを利用して、
地球とはテレビ電話で交信できるようになっていた。
主な連絡は、月面生活に必要な物資の注文、月に関する情報の提供など。
地球側のどのような相手にも対応できるよう
様々な言語に通じている梨華が連絡係にあたっていたが、
実際はほとんどのやり取りがこの中澤という日本人を介して行われたので
必ずしも梨華が連絡係でなければならない理由はなかった。
長年の付き合いから、派手な外見に似合わず誠実な人柄だということがわかったため、
四人は親の次にこの大人を慕っていた。
『関西弁』という美貴たちにとっては珍しいコトバを使い、
諭すように話しかける様は自然と年の離れた姉を思わせた。
特に梨華は、度々中澤に相談事を持ちかけていたようだ。
年を経るごとにその回数も増え、現在では週に一度、梨華のお悩み相談が行われていた。
何度も言うようであるが、ここは通信室である。
お悩み相談室などという場所では、決してない。
- 49 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:23
-
「石川、よう聞き」
「はい」
梨華は涙目のまま中澤を見つめる。
やり辛いな、と中澤は思った。
子犬のような潤んだ目で見つめられると、
何もしていないのに自分が悪いことをしたような気分になってしまう。
――こちらにいればさぞかし人気者だったろうに。
中澤は梨華の整った高潔な顔立ちから目を外して溜め息をついた。
これはあとの三人にも言えることだった。
たとえ数十万kmの宇宙空間を挟んでいても、四人に惹きつけられてやまなかった。
不遇な状況におかれていても、お互い助け合って乗り越えていってしまう、
そんな結び付きが羨ましくもあった。
しかし、それとこれとは話が別だ。
「そもそも『通信』というのは互いに必要な情報を取り交わすために行われるものであって」
中澤は人差し指を立て、謳い上げるように言った。
「一方的に気持ちや感情を伝えるためのものではない。ちがうか?」
梨華はブンブンと首を振った。
- 50 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:23
- 良し。
中澤は頷いて先を続けた。
「吉澤と喧嘩ばかりで辛いんもわかるけどなあ。ちょっと多すぎやないか?
月一ぐらいやったらアタシも話聞いてあげられる…」
「でもでも」
梨華が言葉を遮った。
下に俯き、よっすぃーが、よっすぃーが、と呪文のように呟く梨華を見て、
中澤は変な汗をかき始めた。
こ、壊れたんか?
梨華たちが、不安定な精神状態に陥ってもおかしくないような
環境で暮らしていることは理解しているつもりだ。
だが、『つもり』が付いているのと付いていないのとでは大違いだった。
四人が地球での暮らしに想いを馳せているように、
中澤も月の生活を想像することしか出来ない。
く、と唇を噛む。
今までどれだけ歯痒い思いをしたかわからない。
できることならば、すぐにでもとんで行って話を聞いてやりたかった。
しかし、それは不可能なことだった。
この四人と連絡を取り合うだけのことでさえ、よく思っていない連中も多いのだ。
- 51 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:25
- 届くわけなどないことはわかっているが、
それでも梨華に向かって手を伸ばしかけたその時、
中澤の目は通信室に入ってくるもう一つの人影を捉えた。
「おお〜、藤本やん!」
言われて初めて、梨華は美貴が背後に立っているのに気づいた。
梨華と視線を交えて微笑んだ後、美貴は梨華ごしに中澤の映っているモニターを見上げた。
「お久しぶりです。中澤さん」
「会いたかったでえ。大きなって」
「はは…成長期はもうとっくに過ぎましたけど…」
相談を聞いてもらうつもりが肩透かしをくらい、梨華は不満を覚えた。
「あたしは?あたしは?会いたくなかった?」
話の流れを自分に向けようと努力はしてみたものの、
「石川は週に一回は顔見とる」
ばっさりと切られてしまった。
シュンと肩を落とす梨華の肩を、美貴が苦笑しながらたたいた。
「いいもん。どうせあたしなんて」
梨華は重い雰囲気をまとわり付かせ、
美貴たちに背を向けて部屋を出て行ってしまった。
- 52 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:25
- 梨華が視界からいなくなるのを見届けてから、美貴はモニターに向かって肩を竦めてみせた。
中澤もやれやれ、といった様子だ。
「石川悩んでたみたいやったけど。藤本、心配で来たんやろ?」
「いつもの喧嘩ですよ。ただ今回は、それがちょっと大きかったってだけです」
「あんたと後藤も大変やなあ」
「どうってことないです。喧嘩なんて慣れっこですよ」
それに二人ともホントは仲良いし。
美貴がそう付け加えると、中澤は満足そうに笑みを浮かべた。
自分たちのことを心配し、気にかけてくれている人が地球にいる。
美貴は改めて中澤の存在に感謝した。
- 53 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/15(木) 12:26
- 「あ。藤本、非常に言い難いんやけどな」
「なんですか?」
突然険しい顔になった中澤につられ、美貴も表情を固くする。
何か悪い知らせでもあるのだろうか。
中澤はこちら側のボタンが並んでいると思われる場所を指差して言った。
「石川、また壊してたみたいやで」
「……はぁ」
美貴はモニターとボタンを交互に眺めてから、返事とも溜め息ともとれる声を漏らした。
- 54 名前:名無し 投稿日:2004/01/15(木) 12:27
- この話はもう一回続きます。
- 55 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/15(木) 12:28
- >>43
少し暗めの話にお付き合い頂き有難うございました。
『あの人』、まだ出すことが出来ませんでした(^^;)
>>44
有難うございます。
書いたものを読者の方に好いてもらえるのが一番うれしいです。
もっともっと好きになってもらえるよう頑張ります。
- 56 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/15(木) 12:29
- 今日か明日中にもう一度更新予定です。
- 57 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/15(木) 12:30
-
- 58 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/15(木) 12:30
-
- 59 名前:つみ 投稿日:2004/01/15(木) 16:03
- 中澤さんも出て残すは・・・
まってます!
- 60 名前:25 投稿日:2004/01/15(木) 22:22
- 更新、お疲れ様でした。
4人の関係がすごく自然と言うか、皆等身大な感じで気に入ってます。
特に藤本さんがいいですね。リアルでも結構気遣い屋さんなのかなと思う時が
あるんで、ここでの彼女のキャラはとても好きです。
86年生まれの人は2人のうちのあっちの人かなぁ〜と勝手に思ってますが、
どんな形で登場するか楽しみです。
- 61 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:28
-
「みんなしてなによ、なんなのよ」
通信室を出た梨華は、長い長い廊下をぷりぷり怒りながら大股で歩いた。
ひどく腹を立てているのに、頭の隅にひとみの影がちらついているのが苛立たしかった。
近頃、ひとみは優しくなった。
梨華が扉の隙間からひとみを覗いていても閉じられることはなくなったし、
歩いている後ろを付けまわしても逃げずに手招きしてくれる程にはなった。
梨華がひとみを意識するよりも前の状態に戻ったと言ってしまえばそれまでだが、
ひとみへの気持ちを抱えた今、梨華は比類なくうれしかった。
おそらくひとみは梨華の気持ちに気づいている。
このことにさして問題はない。
気づいてもらった上で好意的に接してもらえるのなら万々歳だ。
問題は他にあった。
時々、ひとみが梨華を前にしてひどく不機嫌になる時があるのだ。
今日がそうだった。
- 62 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:29
- 美貴、真希、ひとみの三人は地球の共通語ぐらいは
話せるようになっておこうと思い、以前から梨華に英語を習っていた。
美貴と真希はそれなりに話せるくらいまで上達していたが、
ひとみだけが一人置いてけぼりを食っていた。
ひとみは発音は良いのだ。とても。
しかし文法がネックとなり、飛び出す英語はどうも怪しいものになってしまう。
すらすらと会話し合う美貴と真希を横目に、
今日もひとみは一人で梨華の猛特訓を受けていた。
向かい合っていた梨華は、ひとみが口を引き結び、
珍しく難しい表情になっていることに気づいていたが、
頭をフル回転させているためだと信じて気にかけなかった。
ひとみがいき詰まっていた内容を一通り説明し終え、
梨華が顔を上げた時、ひとみが突然愚痴をこぼした。
「いつになったら喋れるようになるんだよ。ごっちんと美貴はあんなにうまいのに」
「きっともうすぐだよ。よっすぃー、きれいな発音してるんだから」
「それ前も言ってたよね」
前にどう言ったかは覚えてないが、こう言う以外どう励ませばいいのか今の梨華には解りかねた。
- 63 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:30
- ひとみは椅子の背凭れに体を預け、大きく息を吐き出した。
明らかにむくれている。
なかなか自分のものになってくれない英語に、ひとみは焦りを感じていた。
特に期限が決められているわけでもない。
ただ、梨華に情けない姿を見られるのが耐え難かった。
ひとみが本当に機嫌を損ねるのはこのような時だけだったが、梨華は当然気づいていなかった。
「あのね、よっすぃーは覚えたりすることに慣れてないと思うの。
美貴ちゃんやごっちんは本読んだりして勉強してるから」
言ってすぐ『しまった』と思った。
これではひとみが頭を使っていないと言っているようなものではないか。
励まそうと無理矢理捻り出した言葉が、かえって逆効果となってしまう。
- 64 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:30
- みるみるうちにひとみの顔が険しくなった。
「梨華ちゃんの教え方が悪いんだよ」
何を言い出すかと覚悟していたつもりだったが、まさか自分が出てくるとは。
最近優しくされていただけに、急に突き放されることへの免疫が薄れてしまっていた。
その矢先に浴びせかけられた言葉だった。
話せるようになってほしいから。
そしたらきっとよっすぃーは笑ってくれるから。
よっすぃーの笑顔が好きで、手助けができるのがうれしくて、一生懸命教えてるのに。
「よっすぃーなんか大っ嫌い!」
溜め込んだ恋情がよじれ捩れて、口をついて出たのは本音とは正反対の言葉だった。
今まで冗談でも言ったことがなかった言葉。
心と体がばらばらだった。
- 65 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:31
-
早足で突き進んでいた梨華は足を止めた。
くん、と鼻をならし空気の匂いを嗅ぎ取る。
甘い、芳ばしい香り。大好きな匂いだった。
辿っていくうちに、この香りの出所は台所なのだと気がついた。
誘われるままに台所に足を踏み入れると、
案の定、立ち込める湯気の中で真希が紅茶を入れているところだった。
「ちょっと待ってて。もうすぐ梨華ちゃんのも入るから」
真希はポットに手を添えて、丁寧に琥珀色の液体を注ぎ出した。
紅茶の注ぎこまれたカップは、既に一杯になっているカップの隣に置かれ、
二つを載せたトレイが梨華に差し出される。
「はい」
- 66 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:32
- 梨華は目を丸くした。
「あたし二杯もいらないよ?」
「違うよ、これはよっすぃーの」
真希はカップの一つを指差した。
梨華は首を傾げた。
にんまりと笑みを浮かべ、真希も首を傾ける。
真希の意図するところが解った梨華は、静かにトレイを押し返した。
「なんであたしが」
「ごとーの入れた紅茶が飲めねえってのか」
「ごっちん、それ何か違うよ」
笑いかけた梨華は真希の顔を見て口をつぐんだ。
「よっすぃーね、すごく落ち込んでたよ」
湯気の向こうで、真希はとても悲しそうな目をしていた。
「うまくいかなくて八つ当たりみたいになっちゃったこと、
よっすぃーもちゃんとわかってると思う。」
- 67 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:33
- 梨華は思い出した。
確かにひとみの物言いも悪かったが、それ以上に自分もひどいことを言った。
いつもは梨華が何を言っても笑い飛ばすひとみ、常に一歩上から
からかってばかりいるあのひとみが、落ち込んでいるなんて。
自分が発した言葉の効力がこんなにあるとは思ってもみなかった。
だって。『きらい』なんて、初めて言った。
「ごとーにはどっちの方が悪いとかよくわかんないけど、嘘はいけないと思う。
よっすぃーのこと、嫌いなんかじゃないよね?」
梨華は無言で頷いた。
「だったらこのお茶は梨華ちゃんが持ってくの。そうしなきゃ駄目なの」
再び差し出されたトレイを、今度は拒むことはしなかった。
力持ちなよっすぃー。
頼りになるよっすぃー。
皆を笑わせ和ませるよっすぃー。
よっすぃーの良い所は自分が一番わかっているはずなのに。
なんてひどいことを言ってしまったんだろう。
自分から謝るのなんてどれくらいぶりかな。
梨華はトレイを持ったままぼんやりと考えた。
- 68 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:34
-
ひとみの部屋の前に立ち、梨華は久々に緊張していた。
勇気を出して扉をノックしてみたが、返事はない。
「…よっすぃ?」
そっと扉を開くと、ひとみがベッドの上で大の字になって眠りこけているのが見えた。
拍子抜けしたと同時に力まで抜けてしまった梨華は
トレイを落としてしまいそうになり、慌てて体勢を立て直した。
起こさないよう音を立てずに扉を閉めて、テーブルの上にトレイを置いた。
カップからはまだ湯気が立ち上っている。
こっそりとベッドに近寄り膝を立て、静かに呼吸を繰り返す端正な顔に見入った。
昔はよく一緒に眠ったものだ。
喋りたいだけ喋った挙句、自分だけ満足して先に寝てしまうひとみが不満で、
梨華はよくひとみの顔で遊んだ。
何をしても起きないのをいいことに、両手を使ってぷっくりした頬を引っ張ったり、
垂れがちだった目をさらに下に押し下げたり。かなり楽しめた。
けれど今はそんなもったいないことはできない。
こんな至近距離で見つめようものなら、『キショイ』と言われ押し退けられるのがオチだ。
- 69 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:35
- 「ごめんね。『きらい』なんかじゃないよ」
さらりと白い頬を撫でると、ひとみが寝返りをうって梨華の方へ転がった。
小憎たらしいことを言うようになっても、あの頃から寝顔はちっとも変わっていない。
梨華の胸の中に熱い何かが広がった。
このままずっと触れていたい。
一度芽生えた欲求はとどまることを知らず、等比級数的にその容積を増やした。
目を細め、目的の場所を確認しつつ顔を近づける。
そっと、初めての、羽毛で撫でるようなキスをした。
- 70 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:35
- 息をするのも忘れた。
全身が心臓で、感触だとか味だとかを気にしている余裕はなかった。
ただ、ひとみを感じ取るだけで精一杯だった。
唇を離し、何も考えられない頭で朦朧としていた。
それでもただ一つだけのことだけは確実に実体をもって感じられた。
なんだろう。
この、あとからあとから湧いて出る幸福感は。
ひとみは何事もなかったかのように寝息を立てている。
急に恥ずかしくなった梨華は、謝るのも忘れて、紅茶もそのままに部屋から飛び出した。
- 71 名前:3.PEACE 投稿日:2004/01/17(土) 01:37
-
ばたばたと響く足音が大分遠ざかったのを確認して、ひとみはムクリと体を起こした。
「なんだよ、今の」
人差し指でゆっくりと唇をなぞる。
わかってはいたが確かめずにはいられなかった。
自分の唇には、まだ梨華の感触が残っている。
「……まいった」
あとは言葉にならなかった。
おそらく人には見せられなくなっているであろう顔を、そのまま両手で覆った。
部屋の中には、甘い紅茶の匂いが立ち込めていた。
- 72 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/17(土) 01:39
- 石川さん編終了。
昨日中に更新するつもりでしたが、日付が変わってしまいました。
申し訳ありません。
- 73 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/17(土) 01:45
- >>59
なんと中澤さんの方が先に出てしまいました。
しかも今回も出てない有様。
すみません…
>>60
石川さんと吉澤さんを少し幼くしすぎたかなと心配だったのですが、気に入って頂けてほっとしてます。
苦労人藤本さんは一番大人です。
- 74 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/17(土) 01:46
-
- 75 名前:つみ 投稿日:2004/01/17(土) 12:11
- 更新お疲れ様です。
いしよしバンザイ!
でしたね!
他のCPも楽しみにしてます!
- 76 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 01:26
-
4.Living Through
- 77 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:27
-
……はぁっ……はっ…はっ…
美貴は歩いていた。
息が切れるのも構わず、一人でただ黙々と足を進めた。
灰色の地面と太陽の光が生み出す、さまざまな形の小影を踏み崩していく。
うだる様に熱かった。
宇宙服で動くのには慣れているといっても、普段着のように抵抗なくというわけにはいかない。
気密を保ち、宇宙環境からの保護を目的とするこの服は、地球重量に直せば約30キロにもなる。
仕込まれている冷却下着と耐熱層である程度の温度調節は可能だったが、
5キロの錘を身に着けて小一時間も歩いていればかなりな運動量で、熱いのも当たり前だった。
緩慢な動作には骨が折れる。火照る背中を汗がつたった。
全身が燃える中、美貴の頭の中だけが重く冷たい思考に満たされていた。
- 78 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:29
- 足元を見ずに歩いていたせいでちょっとした岩の引っかかりに躓き、体が前のめりになった。
咄嗟に堪えたおかげで転ぶには及ばなかったが、体勢が傾いたと同時に嗚咽まで漏れ出そうになる。
…まだだ。ここじゃ駄目だ。
奥歯を深く噛み締めて立ち止まり、目を固く閉じ、込み上げる情動を抑え付けた。
オチツケ。トマレ。
機械的に自分に言い聞かせる。
閉じた歯の隙間から呼吸とともに空気が出入りする。
目を開けると歪む視界が嫌で、顎を上げた。
――美貴が歩いているのは、涙を流すためだった。
喜びや快楽のために行動するのならわかるが、悲しむために動くというのは何度繰り返しても妙な感じだった。
- 79 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:30
-
波は月に一度やってきた。
それは両親が亡くなって以来のことで、思いもよらないような時に突然訪れる。
日々の生活の中、無意識のうちにするりと入り込み、積み重ねられていく何か。
何も知らず幸せだった頃の記憶、父親の力強く抱き上げる腕、母親の甘い呼び声、
頭を優しく撫でる手、見守られているような、大切に包み込まれているような空気。
甘美な、しかし残酷な追憶。
これらが溜まり溜まってキャパシティを超えた時、
懐かしさや悲しさ、やるせなさ、不安が入り交ざり込み上げて、
どうしても本能のまま、感情のままに行動したくなる。
意識や感情なんてコントロールできているつもりでいたが、それはもうあっさりと裏切られた。
抗い難い、息の詰まるような衝動。
泣きたかった。
ただただ、思う存分に。
涙が枯れてしまうくらい、全て洗い流してしまえるくらいに。
- 80 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:30
- けれど泣くことだけはできなかった。
どんな時でも何をしていても、常に真っ先に頭に浮かぶのは真希、梨華、ひとみのこと。
シェルターの中なんかで泣けば見られてしまう。
美貴が涙しているのを三人はどう思うだろう。
プライドとか羞恥心とか、そういう問題ではなかった。
いらぬ心配はかけたくない。これ以上動揺させたくない。
心を磨り減らして思い悩むのは、もう十分じゃないか。
美貴の中には奇妙な責任感があった。
強く振舞ってみせよう。
本当の自分は気丈でも何でもないのだけれど。
他の三人に心配をかけないように。
そしてできるならば、三人を支えられる存在であるように。
- 81 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:31
-
「……ふぅ」
眼前に窪みが広がり、美貴は息を整え立ち止まった。
暗く、深く、深い小さなクレーター。悲しい空気を含んでいる。
ここで何が起こったかわかっているから余計にそう思うのかもしれなかった。
この窪みは両親たちが眠る場所だった。そして、美貴の感情の捌け口だった。
ここ以外では絶対泣かない。
これが、泣こうにも泣けずにシェルターを飛び出した美貴が一年前に辿り着いた答えだった。
大粒のダイヤモンドのような光に背いて美貴は淵に腰掛ける。
父さん、母さん。美貴、ここでは泣いてばっかりだけど許してね。
「………っ…」
声を漏らさぬよう気をつけながら静かに涙を落とした。
ヘルメット一番内側のプラスチック部分に、ぱたぱたと滴の当たる音がする。
情けないな。
強くありたいと願えど、実際はこの様か。
眉を歪めて自嘲気味に、美貴は泣き笑いを漏らした。
- 82 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:32
-
どれくらいたったのだろう。
泣きに泣いて心の底に溜まった澱を吐き出した美貴は、疲れきって地面に寝転んだ。
ふぃー、と大きな溜め息を一つ。もう湿ってはいなかった。
直に射し込んでくる光が目にしみる。
片目を瞑って瞳に入る光を避けながら首を傾け、美貴は地球を見た。
誇り高く輝く姿がまぶしかった。
自分にも周りにも不都合な感情をリセットし終えてから、いつも心にみなぎるのは、固い決意。
ぜったい、絶対に地球に戻ってやる。
たとえ許す人がいなくとも、認める人がいなくとも、こっそり帰って四人一緒に暮らす。
ここにいるよりきっと、すごく幸せだ。
幸い自分は機械系統に通じている。
小さな頃から機械に魅せられ、時間も忘れるくらいに夢中で触れていた。
見た目から中身がわからないのは人間と同じだったが、バラして調べられる分、単純明快で正直だった。
12、3歳を過ぎた頃になると、触れるだけでは物足りなくなり
いろんな物を作り出しては両親たちを驚かせた。
- 83 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 01:33
- この限られた資源と環境では宇宙船を『つくる』ことは無理だとしても
元あるものを『つくりかえる』ことはできる。
美貴たちの住んでいるシェルターの端には、両親と自分たちの乗ってきた小型のシャトルが残っていた。
そのことに気づいた時、これに乗り込んで地球に戻ればいいじゃないかと
意気込んで言ったはいいものの、母親に「人がいたら動かない仕組みになってるらしいのよ」と
悲しそうに言い返され、落ち込んだ覚えがある。
その時にはがっかりするしかなかったが、今は違う。
最近になって初めて中に入り込んでみると、
どうやら生き物が乗っているのを感知するセンサーが備え付けられているらしいことがわかった。
それがどこにあるか見つけ出していじってやれば、ヒトが乗っていても動くのではないか。
皆揃って故郷に帰れるのではないか。
心許ない不自由な生活なんてしなくてもすむのではないか。
全てのことに半ば諦め気味だった美貴の心に希望の灯りが灯った。
さて、皆の待つ家に帰ろうか。
美貴はようやく体を起こして腰を上げ、伸びをした。
歩き出した美貴に降り注ぐ光はどこか優しく、暖かだった。
- 84 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 01:35
- ここまでです。
宇宙服は現在実際に使用されているものの4分の1に設定しています。
120キロはさすがに重すぎだろ、ということで。
- 85 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 01:35
- >>75
毎回のレス有難うございます。とても励みになっています。
トロい展開ですが、これからもお付き合い頂けると幸いです。
- 86 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 01:36
-
- 87 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:30
-
帰り道。行きとは違って気分は落ち着き、とても穏やかだ。
シェルターまではあと少し。
いつもよりのんびり歩いたせいで少し時間がかかってしまった。
ひとみとは違って一人でここまで長く出かけるのは珍しいことだから、
三人とも不思議に思っているかもしれない。
散歩の休憩中に眠り込んでしまったとでも言い訳ようか。
真希にはよくあることらしいから、言っても不自然ではないだろう。
地と空以外何もない空間で真希だけが一人、
ゴロゴロと寝返りをうつ様を想像して笑いが込み上げたところだった。
「美貴!今どこ?」
突然、美貴の耳に真希本人の声が飛び込んできた。
無線が入ったのだ。
見られていたのかと仰天し、目線をあちこちに走らせてみたが、
そんなわけはないと思い直す。
先程の名残か、やはりまだどこか普通でない。
- 88 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:31
- 「んー、かなり近くにいるけど。もうすぐそっち着くよ」
平静を装った声で答え、美貴は目を細くしてシェルターのある方向に視線を向けた。
細長い円筒形をタテヨコにいくつも組み合わせた大規模なモジュール。
しっかりと月面に這うようにして建っている。
いつもと全く変わらない風景。
そう、何も変わらないように見えるのに。
美貴は真希の声に含まれる僅かな焦りを感じ取っていた。
ずっと一緒に暮らしていれば、姿は見えなくとも
相手がどんな様子で話しているかぐらいの見当はつく。
後ろでひとみと梨華が何やらざわついているのも気になった。
三人で何事か相談しているようだ。
胃が重みを増したような気がした。
真希の返事を待つ間、美貴はしゃがみ込んで指で地面に線を引いた。
グローブをしているのに、ざらりとした感触が伝わる感じがして、嫌だった。
- 89 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:32
- 「美貴に見てきて欲しいものがあるんだ」
しばらくして返された言葉は、真希の動揺をうまく隠していた。
「へえ。なに?」
「いつもの船に変なのがくっついててさ。それがちょっと怪しいカンジなんだよねぇ」
『いつもの船』というのは輸送船のことだ。
月に一度荷物を積んでやってくるそれは、シェルター近くに着陸するようプログラミングされている。
「変なのってどんなの?」
「や、よくわかんない。乗り物に見えないこともない…かなぁ?」
語尾が疑問調になっているのはひとみと梨華に意見を求めたからだろう。
少し離れた所から梨華とひとみの、肯定を意味する答えが聞こえた。
「そっか。って美貴が行くよりそっちから行く方が早いんじゃないの」
急に梨華の高い声に切り替わった。
「あのね、あたしたち行くの怖いから、美貴ちゃん行ってきて?お願いっ」
「はあ?」
『お願い』のところだけ力が入りすぎたのか、さらに甲高い声音となっている。
思わず顔をしかめた。
- 90 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:33
- ちょっと待て。そんなの美貴だって怖いに決まってる。
そうだ。
「よっすぃーは?」
「…あぁ、お腹イタくなってきた。ちょいと失礼」
胡散臭いしわがれ声と一緒に、扉をバタンと閉じる音が耳に入った。
コイツラ…。
人差し指をヘルメット越しの顎にやり、天を仰いで考えた。
行くべきか、止めておくべきか。
そこに何が存在しているのかわからない以上、
どちらが自分たちにとってプラスとなるのかも決めかねた。
しかし、煮え切らない態度のままでいても、どうにもならないことははっきり解っていた。
実のところ、どんなものが見られるのか好奇心にかられる部分もないとはいえない。
もしもくっついているのが宇宙船ならば、地球に帰るためのヒントなるものが転がっているかもしれない。
グローブについた砂を払って立ち上がり、覚悟を決めて言葉を三人に届けた。
「わかった。美貴が見に行くよ」
ありがとありがとうありがとーう。
いつの間にかひとみは戻ってきていて、
中・高・低三音階揃って弾んだ声が少し、小憎らしかった。
- 91 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:33
- シェルターの細部まで見える所まで来ると、真希の言う『変なもの』の全形があらわになった。
輸送船に横付けたような状態で、こじんまりと地面に立っている。
美貴は目を見開き、小さく『あっ』と声を漏らした。
これは、どこから見ても宇宙船ではないか。
輸送船以外の、外からやってきたシップを生で見るのは初めてで、
それは自分たちが乗ってきたものよりも丸っこい形をしていた。
一目見て、確実に何かを運搬するために作られたものであることがわかった。
つい最近、写真で見たものと酷似している。
真希、梨華、ひとみはシェルター内にあるシャトルしか見たことがないから、
宇宙船に思えなかっただけのことだったのだ。
「なに?なに?何かわかったの?」
微かな美貴の声もキャッチして、梨華はアニメ声でたたみかけるように質問を浴びせる。
緊張感がぷっつり途切れてしまいそうで、美貴は真希に話しかけた。
「…ごっちん、悪いけどちょっと無線切ってくれる?」
「はいよ」
すぐにプツッと声を遮断する音が聞こえ、そこから美貴は無音の世界に入った。
- 92 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:34
- 一番の問題は何が積み込まれているか、だった。
危険なものではないと言い切れないのが悲しいところだ。
何せ自分たちは多くの人に疎まれる存在らしいから。
誰かが嫌がらせで危険物を送りこんできたとしても変ではない。
全身に神経を張り巡らせ、少しでも妙なことが起こったら逃げ出す心積もりで入り口に足をかけた。
もしかすると簡単には入れないかもしれないという心配は杞憂に終わり、
拍子抜けするほどあっさりと中に入り込めてしまった。
宇宙服を脱ぎながら、美貴は感嘆の溜め息を漏らした。
白一色の宇宙船内部はとても清潔で、近代的な感じだった。
いまだかつて目にしたことのないような、精密機器類。
船体も良質の材料で作られているらしく、薄く軽微であるのに頑丈そうだった。
申し分ない、最高の設備だった。
- 93 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:35
- 半ば夢心地で機械に手を伸ばしかけたところで、美貴は我に返った。
どこか近い所で衣擦れのような、微かな物音がする。
いっそのこと大きな爆発音でも響いてくれた方が良かったかもしれない。
静かな空間に静かに響く奇怪音というのは、この上なく気味が悪いものであることを知った。
さっきとはうってかわって、急に不安が押し寄せてくる。
やっぱ来なきゃ良かったかも…
一度は緩めかけた心を、意識的に再び引き締めた。
自分が動く音を殺しながら、美貴は音のする方向に近づいていく。
接近するにつれ、体にも力が入っていく。
- 94 名前:4.Living Through 投稿日:2004/01/25(日) 16:35
- あと曲がり角一つという所で、さらに信じられないような音が鼓膜を響かせた。
「…ん、しょっと。……アレ。おかしいな?」
―――チキュウ語。日本ゴ。声。生きモノ。ヒト。オンナのコ。
脳が受け止めかみ砕いた単語が、順番もめちゃくちゃに脈絡なく流れ出てきた。
震えた。震えながらも、真っ白な頭が思考を取り戻すより前に体が動いた。
美貴は角に手をかけ、引き寄せる勢いで未知の空間へ飛び出した。
- 95 名前:4.Living 投稿日:2004/01/25(日) 16:36
- 体の半分ほどを宇宙服のパーツで覆った、一人の人間が、居た。
厳密に言うと、一人の少女だった。
体格的には美貴たちとなんら変わりないように見える。
間違いなく地球人だ。
絶対的な確信が、美貴を少しだけ落ち着かせた。
「アンタ、誰?」
美貴は目の前の対象に向かって、やっとのことで言葉を投げかけた。
意味を成す言葉を発することができたのは奇跡に近い。
それほどに強烈な出会いだった。
虚を突かれて動きを止めた少女は、大きな目だけをパチパチと瞬かせた。
一瞬の後、何が起こったのかを解した様子で顎を引き、真正面から美貴を見つめ返した。
真摯な瞳は対する『人間』ではなく、『美貴』個人を見つめている。
頭のどこかで、そんな気がした。
- 96 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 16:37
-
やっとここまでこれた…
とはいってもまだまだ続きます。
- 97 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 16:38
- この小説になっちは出てきませんが
- 98 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/25(日) 16:39
- なっちありがとう( ● ´ ー ` ● )
- 99 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/01/25(日) 18:55
- えー! どうなっちゃうの!!
とりあえず(●´ー`●)ありがとう
- 100 名前:25 投稿日:2004/01/28(水) 16:06
- 更新、お疲れ様です。
もうひとり登場しましたね。
自分は宇宙とか全く詳しくないんですが、ここの世界がとても気に入っています。
ふわふわした空間が目に浮かんで来そうです。
次回も楽しみにしています。
- 101 名前:名無し 投稿日:2004/01/31(土) 21:18
-
5.Hole in Her Boots
- 102 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:20
-
どちらからともなく繰り広げられる睨み合いに、先に根負けしたのは美貴だった。
真正面からぶつかる視線に居心地の悪さを感じ、頬をかき、
少女の首あたりに目を落とした。
『睨み合い』というのは美貴が勝手にそう思っているだけで、
相手も同じように感じているどうかは疑問だった。
不思議な瞳の中には、どこか安心したような、子猫が親猫を見るような、
甘えた色が含まれていたから。
白い首が映る視界の片隅で、形のいい唇の端が上がった。
「よかったぁ。人いたんだ、ここ」
無防備な声がして思わず顔を上げると、少女は白い歯を見せ、
ニコニコと笑ってみせた。
感じのいい笑みに、一瞬好感を抱いてしまいそうになったが、
美貴の懐疑心がそれに歯止めをかけた。
簡単に気を許してはいけない。
相手はどこの誰とも知れない人間だ。
今まで誰も訪れようとも思わなかったであろうこの場所へ、なんだって
やって来たんだろう?
- 103 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:22
- 不信感剥き出しの視線を送ってみせるのにも構わず、少女は後ろの壁を蹴って
美貴の方に近づいてくる。
「わわっ」
しかし、どうやら蹴り出し加減を間違えたらしく、ふらふら揺れながらも
予想以上の勢いをもって美貴に接近する。
重力の小さい環境に慣れていないようだ。
「…わぷっ」
美貴の胸元にポスンと顔を埋めて、やっと止まった。
自分より少し幼くみえる女の子を手荒に扱うこともできず、
美貴は少女を柔らかく受け止めた。
咄嗟のことで、抱きかかえるような体勢になってしまったのは仕方のないことだ。
凶器でも持ってはいまいかという不安が急に込み上げてきたが、見る限り
少女は丸腰で、宇宙服を下半分だけ着けているという中途半端な格好をしていた。
キュッと胸元を掴まれ、至近距離で顔を見つめられてドギマギすると同時に、
初対面の人間に対して、随分不躾なコだな、と思う。
地球の人は皆こうなんだろうか。
- 104 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:23
- 「お願いがあるんです」
「………」
「何か食べさせて」
「…はぁ?」
にじり寄る少女に、身を引きながら距離を保っていた美貴だったが、思いもよらない
頼みには驚きを隠せなかった。
「アンタ、一人?」
上目遣いを変えぬまま、首が縦に落とされる。
「一人で宇宙に出るからには、食料くらいたくさん積んでるんじゃないの?」
「そのはずだったんだけど…思ったより少なくて。全部食べちゃった」
あまりにも間の抜けた答えに、美貴は脱力した。
- 105 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:24
- 船の中で一番大切なことは身の安全の確保、その次に水・食料の確保だと
いうことぐらい、基本中の基本ではないか。
物心ついて以来、一度も宇宙船に乗って出かけたことのない美貴だって、
そんなことは知りすぎるくらい知っている。
充分な準備もせずに宇宙空間に出るということは、
雨の日に穴の開いた長靴を履いて出かけるようなものだった。
深刻な問題を抱えているわりに、少女はあまり気にしていない様子だった。
美貴を見つけた瞬間から、お世話になってしまおうと心に決めていたのかもしれない。
或いは、非情になりきることなんて到底できない、美貴の甘い性格を
見抜いていたんだろうか。
このまま放っておいて餓死させるわけにもいかないか。
美貴は大きく溜め息をついた。
「…わかった。ついといで。言っとくけど、ちょっとでも変な真似したら
追い出すからね。あと、食べるだけ食べたらすぐに出てって」
言い捨てて少女に背を向け、宇宙服を脱ぎ捨てた出入口に向かおうとした。
- 106 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:25
- 「ちょっと待って」
「……っ!!」
上着の首元を引っ張られ首が絞まりかけて苦しかったのだが、気づかれるのも
癪なので、出るはずだった咳を飲み込んで、何でもない風を装い頭だけで振り返った。
「今度はなに?」
凄むような目になってしまったのも、声に不機嫌さが滲み出たのも、
全部向こうのせいだ。
「着方わかんないの」
少女は美貴の様子に臆せず、両手で半分だけ身につけた宇宙服を指差し、
困ったように唇を尖らせる。
「さっきから頑張ってはいるんだけど」
よくこれで宇宙に出ようなんて思ったもんだ。
呆れを通り越して怒る気すら失せた美貴は、目の前の体にのろのろと宇宙服を着せ始めた。
- 107 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:26
- 「アンタ、どっから来たの?」
「地球だよ」
「生まれは?」
「日本っ」
やっぱり。美貴と一緒だ。
故郷が同じだとわかって、美貴の警戒心が少しだけ和らいだ。
「横向いて手ぇ伸ばして」
美貴は言葉のぶっきらぼうさとは裏腹に、丁寧に宇宙服の腕部を取り付ける。
少女は、そんな美貴を見ながら、うきうきとした面持ちで、軽快に質問に答えていく。
そのままのテンポで、美貴も質問を続けた。
「それで、名前は?」
「………」
口を開こうとした少女は一瞬言いよどんだ。
会話のリズムが崩れたことを不思議に思った美貴は、少女の顔を見上げる。
- 108 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:27
- 「なに。人に言えないような名前なの?」
少女はかぶりを振って、押し黙った。
聞いてはいけないことだったのだろうか。
名前を聞かれるのも都合が悪いなんて、そうそうないことだ。
地球で何か大きな問題でも起こして逃げてきたんだろうか。
マイナスイメージの様々な憶測が飛び交っては、美貴の不信感を再び募らせた。
さっさと追い返してしまうべきだろうか。
美貴がパーツにあてがっていた手を止めたのと、少女の神妙な声が
口火を切ったのとは、ほぼ同時だった。
「亜弥だよ……まつうら、あや」
存外あっさりと答えられて、美貴は構えていた空気を解いた。
- 109 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/01/31(土) 21:28
- 「なんだ。別に普通の名前じゃん。言えるんなら、最初から言えばいいのに」
「だってぇ、恥ずかしいー」
「んなもん、全然恥ずかしくない。
食べるもんなくなってお腹空かしてる方が、よっぽど恥ずかしい」
「それは言わないでえ」
先程の静かな声とは間逆の声をあげながら、大袈裟に顔を覆ってみせる様子は
何かを誤魔化しているように思えた。
『マツウラ アヤ』
念の為、後で中澤にでも話しておこうと思い、その名前をしっかりと記憶に刻み込んだ。
- 110 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/31(土) 21:30
-
今日はここまでです。
- 111 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/31(土) 21:33
- >>99
えー、こうなっちゃいました。
ちょっぴりおマヌケな展開…
シリアスを期待して下さっていたなら申し訳ありません。
>>100
レス、ありがとうございます。
実は、書いてる方もそんなに詳しくないんです。
全くの専門外なものでして(^^;)
宇宙空間での生活を想像して頂けているようでしたら、作者冥利に尽きます。
- 112 名前:名無しライター 投稿日:2004/01/31(土) 21:34
-
- 113 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/02/01(日) 02:24
- キタ━(゚∀゚)━!!
いや、来てしまったのか。
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/02(月) 01:00
- やっぱりあややだったのか...!!
なかなか面白い展開にw
- 115 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:27
-
自分は一体、何をやってるんだろう?
大きな食卓には出来立てほやほやの美味しそうな料理がずらり。
そして、幸せそうな表情でそれらを頬張る少女が一人。
美貴はその光景を横目で見ながら、皿を両手に持ち、疑問を浮かべていた。
不本意ながらも知らない人間をシェルターに連れ込んでしまった。
食事を用意すると言ってしまった以上そうしないわけにはいかないが、
なぜか出来上がったものを運ぶはめにまでなっている。
「これ、持ってって」と次から次へと手渡す真希に従った結果そうなってしまったのだが、
何か釈然としない。
美貴はメイドかっての。
への字口で、亜弥の前に皿を滑らせた。
亜弥は美貴の表情など一向に気にする様子もなく、手と口を動かし続けている。
- 116 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:28
- 「ん〜!おいしーい!」
小さな口を目一杯動かして食べ物を咀嚼する様は、本当にうれしそうだ。
ものすごい勢いで空けられていく皿を、あんぐりと口を開けて眺める。
この細い体のどこにそれだけ入れる余裕があるのか。
驚き半分、呆れ半分で凝視していると、視線を感じた亜弥がムグムグしながら顔を上げた。
「んぅ?」
慌ててあさっての方向を見る。
初めて接する外部の人間に興味がないとはいえなかったが、それを悟られては
弱みにつけこまれそうな気がした。
疑問符をとばしている亜弥の向かいに素知らぬふりで腰掛けたところで、
台所から真希が出てきた。
「お疲れさん」
美貴が声をかけると、真希は「そっちもね」と返した。
- 117 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:29
- 亜弥は真希の姿を見つけると、口の中に入れていた物を全て飲み込んだ。
「これ、あなたが作ってくれたんですかぁ?」
真希が頷くと、亜弥は元気良く頭を下げた。
「こんなに美味しいものが食べれるなんて思わなかったです。ありがとうございます」
「はは…どういたしまして」
照れ臭そうに真希が答えた。
ムスっと黙ったままだった美貴がようやく口を開いた。
「アンタね…全部運んできてあげた美貴には何のお礼もないワケ?」
「んー?ありがとー」
んははと笑い飛ばされる。
なんかごっちんの時と違って言葉に重みがないような…
美貴が頬をピクピクさせて引き攣り笑いを浮かべると、真希は宥めるように
背中を撫でた。
- 118 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:30
- 「この野菜すごく美味しいです。どうやったらこんなに新鮮に運べるんですか?」
「あー、それねぇ、ここで育ててるんだ」
「えっ。すごーい」
「種だけ地球からもらってね」
隣でキャッキャと弾む会話。
初対面の人とすぐに打ち解けられた真希に尊敬の念を覚えた。
それと同時に、真希が自分たち以外の他人とはやっていけないかもしれないという
心配事が消えてホッとした。
- 119 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:31
- 真希にはまだ、亜弥の名前すら告げていない。
「お腹が空いた」とうるさい亜弥をシェルターまで連れてきてすぐ、
食事の準備をしてくれと頼んだのだ。
どういう経緯でこうなったかは後でゆっくり話すから、と。
自分たち以外の人間を見て真希が驚かないわけはなかったが、
わかったということ以外何も言わずに料理してくれた。
もしかすると心配しなければならないのは自分の方なのかもしれない。
――こと、人付き合いという点に関しては。
意外なことに気付かされ、美貴は複雑な顔をして二人の話を聞き流していた。
- 120 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:32
- 「おーい」
和んだ会話はひとみの声によって中断された。
美貴だけでなく、真希、亜弥も声がした方を向く。
「荷物、これで全部だから」
「ああ、ありがとう」
美貴は手を振って応えた。
真希に食事の用意をしてもらっている間、ひとみと梨華には輸送船の中の物を
運び出してもらっていた。
最後の荷物を一つずつ、二人仲良く並んで持っている。
- 121 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/08(日) 22:33
- 梨華が躓いた、その拍子に荷物を落とす。
ひとみが支え、落ちた物を拾い上げる。
受け取ろうとした梨華を制し、ひとみは二人分の荷物を抱える。
梨華、頬を赤くしてついて行く。
一連の出来事を遠くから、別世界の映像でも見るように眺めていた。
何があったのかは知らないが、ひとみと梨華の仲が良くなったのは確かだ。
なんだかなあ。
美貴が頬を緩ませている隣で、真希もうっすらと微笑んでいた。
- 122 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/08(日) 22:34
-
少ないですが、更新です。
明日も更新…できるはず。
- 123 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/08(日) 22:35
- 更新期間にムラがあります。
間があいたり、2日連続で更新したり(^^;)
- 124 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/08(日) 22:35
- >>113
レスありがとうございます。
キてしまいましたね、はい。
彼女には藤本さんたちとは違った雰囲気を醸し出していってもらえたらなあと思います。
>>114
レスありがとうございます。
予想して下さった通りでしたか?
書いてる者が好きなメンバーばかり出しているので好き嫌い分かれそうですね。
これからも面白いと感じていただけるよう、精進します。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/08(日) 22:37
- さり気ないところで萌えです…。
んー…続き、楽しみにしてます。
- 126 名前:25 投稿日:2004/02/09(月) 00:34
- 更新、お疲れ様でした。
やっぱりあの人でしたか・・(遅いw)
自分が大好きなメンツばかりなので、すごく嬉しいです。
ここの85年4人組は、お互いがお互いの気持ちとか行動をいつもちゃんと考えている感じで、
だから結びつきの強さを感じます。
だからすごく好きなのかな・・?
彼女が新しく侵入(?)したことで、またひと波来そうな予感がします。
次も楽しみにしています。
- 127 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:29
-
「ごちそう様でしたあ」
食堂に全員が揃った頃、食事を終え、胃を重くした亜弥はまどろむようにして
手を合わせた。
「ちょっと。寝ないでよ?」
「起きてますよーだ」
亜弥は、頬を膨らませて抗議する。
まず、美貴がスペースシップ内で亜弥を見つけたこと、何故ここに入れたのかという
ことを三人に話した。
「お腹減ってたんなら仕方ないよね」「うんうん」
梨華もひとみも肯定的な反応を示す。
それどころか亜弥に対する興味を隠そうともせず、もっと色々聞きたそうにしていた。
亜弥の食べっぷりを見ていた真希はあらかじめ予測していたのか、何も言わない。
美貴は胸を撫で下ろした。
そして、亜弥の方に向き直る。
- 128 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:30
- 「それじゃあ話してもらいましょうか。なんでこんなとこに来たのか」
話が自分に回ってきた亜弥は身を引いた。
「言わなきゃダメ?」
「駄目」
「ゼッタイ?」
「絶ーっ対!」
亜弥は観念し、叱られた子犬のように目を伏せてポソリと呟いた。
「…家出してきたの」
「「「「………」」」」
『イエデ』?今、家出って言った?
家出って宇宙規模でするもんなの?
それほど大それたもんなの?
ショートしかけた四人の頭を数々の疑問が飛び交う。
- 129 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:31
- 「こりゃまた…随分とスケールのでかい家出だね」
あははは。かっけー。
ひとみの笑い声が空々しく響いた。目が虚ろだった。
最初に自分を取り戻したのは、やはり美貴だった。
ひとみはひたすら空笑いを続け、真希と梨華は未だ呆然としている。
「――船」
「え?」
「船はどうしたの?」
皆の変わり様におろおろしていた亜弥は、静かに言葉を紡ぎ出す美貴に
安心して目を向けた。
「そんな簡単に手に入るモンじゃないよね」
昔に比べると、使い勝手・価格ともに馴染みやすくなったとはいっても、亜弥ぐらいの
年齢の少女が、船を持ち、意のままに動かすのは容易いことではないはずだった。
- 130 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:31
- 美貴の意を汲んだ亜弥は始めから順序立てて話し出した。
「家から少し離れた所に、たくさん船が出入りしてるおっきな発着所があってね。
どこも行くとこ思いつかなくて、色んなのが打ち上がるの、外から見てたの」
『おっきな』のところで両手を広げながらその部分を強調する。
豊かな表情も相まって、どれほどの大きさなのか、その規模を窺い知ることができる。
地球の各所に大規模な打ち上げ場があることは知っていた。
人類の宇宙進出は近年凄まじいものがある。らしい。
こんな所で暮らしているせいでリアルタイムの情報が少なく、確定形では言い切れないが、
終日数え切れないほどの船や衛星が行き交う場所が、年々増えているらしかった。
亜弥が訪れたのはそのうちの一つだったのだろう。
- 131 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:32
- で?
片眉を上げて続きを促す。
「それでね、どうせ暇だなんだし、見るんだったらもっと近くで見てやろうって。
守衛さんが見てない隙に中に入りこんだの」
「そんなことできるの?」
ついさっきまでフリーズしていた梨華が聞いた。
途中から話に入れるなんて梨華ちゃんはやっぱり頭の回転速いんだな、
と今はどうでもいいことを美貴は思った。
「できちゃったんです」
有無を言わさぬ勢いで亜弥は言った。
敬語が使えないわけではなさそうだ。
美貴以外に話しかける時は敬語になるのが少し気にくわなかった。
「あたしもさすがに無理かなーと思ったんですけど。それで、入ってみたらちっちゃめで
すごくかわいい船見つけて、ああこれいいなぁ、ほしいなぁって。して、乗り込んでみたら」
「みたら?」
合いの手を入れるのは、真希。
「――動き出しちゃった」
ぴくり。美貴が反応した。
「なんか、人が乗ったら動くようになってたみたい」
―
『人が乗ったら動く』?
うちのシャトルと全く逆じゃないか。
作動しようが停止しようが、人間を感知する物が取り付けられていることには変わりがない。
美貴は逸る気持ちを抑え込んで尋ねた。
「…ねえ。それホント?」
「ホントだよぉ。だって、外から見た時は動き出す様子なんて全然なかったのに、
あたしが乗った途端発射しちゃったんだもん。あたしもしばらくはびっくりして
動けなかったんだけど、よぉく落ち着いて考えてみたら、こんな機会めったにないなって。
一人で宇宙旅行ができるなんて。だからちょっとの間ぐらい楽しんじゃおうって、思った。
食べ物も飲み物もある程度は積み込まれてたし」
でもやっぱり足りなくてお世話になっちゃったけど。
亜弥はペロリと舌を出して笑った。
後半の言葉は美貴の頭にほとんど入ってこなかった。
亜弥の乗ってきた丸く、白い宇宙船。
――あの中に、地球に戻るための鍵がある。
- 132 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:32
- 「じゃあさ、なんでうちの船にくっついてたの?」
今度はひとみが問いかけた。
亜弥は、ひとみへと話の矛先を変えた。
「宇宙に出て二、三日ほどした頃に突然あの船が近づいてきたんです。もう、ぶつかる!
ってくらい急接近して、生きた心地しなかったです」
その時のことを思い出したのか、亜弥は体を震わせた。
「あたし、怖くて怖くてずっと目瞑ってたんですけど、気付いたらあたしの船とその、えーと、
輸送船でしたっけ?それがつながってて」
「…ドッキング?」
「そう、それです。前もって設定されてたことなのかどうかは解らないですけど」
亜弥は、自分には何もわからないといったことを顔全体使って表現していた。
- 133 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:33
- ひとしきり話し終えた亜弥に、真希は笑って言った。
「でも良かったね。人のいるとこに来れて。そうでなかったら
今頃どうなってたかわかんないよ」
「あたしはぁ、すっごい強運の持ち主なんです」
胸を張って笑顔で言い放つ亜弥に、残り全員が苦笑した。
無鉄砲な家出。
成り行きまかせの宇宙飛行。
偶然(ではないかもしれないが)起こったドッキング。
なんだかめちゃくちゃだ。
美貴は疲れた顔でこめかみに手を当てた。
- 134 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:36
- 「お願いがあるんだ」
美貴は宇宙船の中で亜弥が言った言葉を借りて言った。
「ん?なに?」
「アンタの乗ってきたあの船、よく見せてほしい」
「?別にいいけど。元々あたしの物じゃないんだし…」
ありがとう。
美貴は素直に頭を下げた。
「あともう一つ」
ここからはお願いというより忠告だ。
美貴の言葉に力を感じた亜弥は、きょとんと首を傾げた。
「あのさ、どんな事情があったかは知らないけど、早く帰りな。悪いことは言わない。
ここにはいない方がいいよ」
家出なんて軽い理由だったら、なおさら。
最後のセリフは胸の内に留めておいた。
美貴にとっては『軽い』理由でも、亜弥にとっては『重い』ものであるかもしれない。
他人が何に重きを置いているかを、自らの価値観だけで推し量って口にするのは
危険なことだ。
- 135 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:37
- この子は自分たちよりも自由なはずなのに。
どこだって、行きたい所に行けるのに。
わざわざこんな陰気な場所を選ぶこともない。
美貴は亜弥の視線から逃げるようにして下を向いた。
「お願い、少しだけでいいから、ここに置いて。まだ帰りたくないよ」
亜弥は固く目をつぶり、手を合わせて懇願した。
「駄目!」
美貴は頑として撥ねつけた。
「帰れる場所があるんだったら、戻った方がいいよ」
真希も、愁いを帯びた瞳で言った。
梨華もひとみも口に出すことはなかったが、美貴たちと同じように思っていることは
表情から見て取れた。
亜弥は周りを見て味方がいないことに気付くと、長い睫毛を伏せ、項垂れるように頷いた。
- 136 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:38
-
- 137 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:38
-
『なんじゃこりゃ…』
数十分後、灰色の月面に立ち尽くす五人の姿があった。
五人の姿しかなかった。
一か月分の荷物を運んできた輸送船も、亜弥を運んできた宇宙船も、跡形もなく
消え去っていた。
宇宙服を着込んで外に出てみるまではよかったのだ。
シェルターを最初に出た真希が『んあ?』と不思議な声を発した。
『なになに?』とすぐ後に続いたひとみも『あ゛』と言ったまま固まってしまった。
梨華に関しては声も出ないらしく、ヘルメット越しに口に手をやっただけだった。
亜弥に宇宙服を着せてあげていたため、外に出るのが最後になった美貴は、
あるはずの物がなくなっているのに気付いて衝撃を受けた。
亜弥の瞳は今再び輝きを取り戻しかけている。
- 138 名前:5.Hole in Her Boots 投稿日:2004/02/09(月) 23:39
- すっかり忘れていた。迂闊だった。
輸送船は荷物を運び出してから10分以内にここを発つ。
ということは、だ。
輸送船にドッキングしている亜弥の宇宙船も―――
『行っちゃったねっ。これでここに置いてくれる?』
水を得た魚のように再び元気になった亜弥を美貴は恨めしそうに睨んだ。
この子を地球に帰そうにも、どうしようもなくなってしまった。
声にならない声を上げて美貴は頭を抱えた。
宇宙服の上からしっかりと腕を組まれ、ブンブンと上下に振られる。
『よろしくね!』
嬉しそうな亜弥の挨拶は、四人の耳にとてもクリアに響いた。
- 139 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/09(月) 23:41
- ここまでです。
今日中にギリで間に合った…ゼエゼエ
- 140 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/09(月) 23:43
- 途中、区切る所を間違えました。
すみません。
読む分には全く問題ないので流してください(^^;)
- 141 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/09(月) 23:54
- >>125
Y澤さんとI川さんの件で萌えて頂けたんでしょうか?
(違ってたらすみません)
ありがとうございます。
このお二人(違ってたら(ry)の出てくる機会はまだまだありますので
末永くお付き合い願います。
>>126
拙い文ですが、ここまで深く考えて頂けるというのは本当に幸せです。
リアルの世界でも魅力的すぎる人たちばかり出していますが
それに負けないように書いていけたらと思います。
- 142 名前:26 投稿日:2004/02/10(火) 18:27
- 更新、お疲れ様です。
おぉ〜、こうなってしまうとは・・どうなっちゃうんだろう!?
86年の人も生き生きした感じで、イイ味出してますね。
藤本さんの心の動きが丁寧に描かれててイイです。
リアルでも最近表情が柔らかいので、推し順位がかなり上がって来ていますが(w
この先も楽しみに読ませていただきます。
- 143 名前:あお 投稿日:2004/02/11(水) 21:37
- なんか面白くて、いいかんじです。
娘。のSFて珍しいですね
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/12(木) 09:54
- 面白そうですね!なんかイイです!
いしよし、ごまみきっぽくて好きです。
- 145 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/16(月) 14:47
- 前回更新分に間違いがありました。
>>138
× 声にならない声
○ 言葉にならない声
これ以外にも数箇所ありましたが、上に挙げたものが一番気になったので訂正しておきます。
申し訳ありません。
誤字・脱字など(もちろんそれ以外でも)気付かれたことがあれば、どんどん指摘、意見して頂けると嬉しいです。
- 146 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/16(月) 14:48
- 6.Alone on the Bed
- 147 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:48
-
皆が寝静まるシェルター内。
エネルギー消費を最小限に留めるべく、光量の落とされたライトが
ブ――ンと静かな唸り声を上げている。
皆が起きている時とは違って、薄暗く照らされた金属製の廊下は、
見るからに寒そうで冷たそうだった。
白と緑の光の中、浮かび上がるその光景はさながらお化け屋敷のよう。
地球にいた頃最も嫌いだった場所の一つを記憶の底から引きずり出してしまい、
亜弥は身を縮こまらせた。
緑色は目に優しいとはよく聞く話だが、何もこんな所で使わなくてもいいんじゃないかと思う。
「あ〜、暗っ。こわいよう」
呟かずにはいられなかった。相槌を打ってくれる相手などいないことはわかっている。
いたらいたでもっと怖いことになる。
亜弥以外は今頃全員ぐっすりと眠っているはずなのだから。
月にもお化けなんているのかな?
考えたくない。
へにゃり。力なく口角を下げた。
真新しいはずのスリッパは、亜弥の心の内を表すかのように、ヘタヘタと情けない音を立てた。
- 148 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:49
-
ここに来て五日。
一日たりともよく眠れた日はなかった。なんといっても眠りが浅い。
やっとウトウトできたと思ったら、すぐさま夢の世界から引き戻される。
照明を落とした部屋の無機質に広がる天井を見上げて、何度溜め息をついたことか。
起きている時は、眠れないことなど気付かれないよう飛びきり明るく振舞った。
そうしておけば疲れて寝れるかもしれないという期待もあったのだが、
大して効果はなかったようだ。
おかしい。今まで不眠症とは無縁だったはず。
寝過ぎて叱られたことはあっても、眠れなかった回数なんて片手に足りる程しかない。
たった一人、不安を感じ続けたあの宇宙船の中でも眠ることができたのに。
完全に眠ることも起きることもできない中途半端な状態のまま
布団の中で漫然と過ごすのには、もう我慢ならなかった。
神経のどこかが張り詰めた糸のように緊張している。
枕に押し付けた耳から伝わる自分の鼓動が気になって、まどろむことすらできない。
仰向けになったらなったで、天井に押しつぶされるような感覚に見舞われる。
もしかしたら神経質になり過ぎているのかもしれない。
- 149 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:50
- あーもうっ!
両手で顔を押さえる。どうにかならないものか。
このままでは日常生活に支障をきたすことは目に見えている。
途方に暮れる亜弥の頭に一人の人物が浮かんだ。
行ってもいいかな?いいよね。あたしが行って悪いことなんてないよね。
瞬時に自己完結し上半身を起こした。枕を抱えてベッドから下りる。
ひんやりとした空気が全身を包み、小刻みに震えると、
亜弥はできるだけ体に枕を密着させて部屋を抜け出す。
ドアを押し開けながら目的の部屋までの道筋と
その部屋で眠っているであろう人の顔をそらでなぞった。
その部屋は、広いシェルターの内部をほとんど把握できていない亜弥が
最初に頭に叩き込んだ場所の一つだった。
誰でも良いわけではなかった。
美貴でないと、嫌だった。
- 150 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:51
-
「…ぇくしゅ!」
身震いするような雰囲気のせいか、盛大に飛び出したくしゃみの後、
少しの時間差をもって亜弥は口元を押さえた。
相変わらず不気味な廊下は奥へ奥へと続いている。
歩きながらスンスンと鼻から息を吸った。無臭だ。
緑の匂い。潮の匂い。お日様の匂い。風の匂い。雨の匂い。一日の匂い。季節の匂い。
地球の空気はどこにいても何かしら薫りを含んでいた。
ここでも、真希の作る食事の匂いや温室内の花の匂い、シャワールームに漂う
石鹸の匂いなど、個々の香りがあるにはあったが、そういうのとはまたわけが違う。
言うなれば星の匂いだ。地球には千変万化に薫るそれがあったが月にはない。
当たり前のことなのだ。月には空気などないのだから。
そうだとは解っていても、不思議な感じだった。
環境の変化についていけてないのかも。
眠気との格闘の末勝ち取った、冴えた頭でそう思った。
- 151 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:51
- ふと、ある部屋の上に掲げられたプレートが、亜弥の目に留まる。
暗闇の中、そこだけが明るく浮かび上がって見えた。
「――――――。」
その部屋の名前を示すそのプレートを、小さく声に出して読み上げてみた。
そうだったのか。こんな所にあったのか。
ここで暮らすことになってすぐ、シェルターの中を案内してもらった時には
教えてもらわなかった。
家出してきたことになっている自分には必要ないと思われたからかもしれない。
いつか自分で見つけてやろうと思っていた。
ずっと、ずっと昔から気になっていた部屋だった。
- 152 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:52
- 怖さも忘れて、導かれるように扉を開く。
枕を抱きかかえる腕の力が自然強まり、半ば顔を埋めるようにして足を踏み入れた。
中心に立ち、体を360度回転させつつ中の様子をよく観察する。
部屋は普通のものよりもやや大きい立方体の形をしていて、
四つの椅子が一方向に向かって整然と並んでいた。
亜弥はそのうちの一つに近づくと、横座りをして枕を膝の上に置いた。
「ふう…」
側頭部を背凭れに預けて目を閉じる。
そして懐かしむように手の平でその椅子を撫でた。
- 153 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:52
-
その後、迷うことなく美貴の部屋にたどり着いた亜弥は一人、胸を撫で下ろしていた。
正直、自分の方向感覚には自信がない。
ここまで間違えずに来れた自分を褒めてやりたい。
奥のベッドで寝息を立てている部屋の主に注意を集中させる。
微かに、規則正しく上下する掛け布団。
入り口があるのとは反対、つまり亜弥のいる方とは逆の方向を向いて眠っていた。
寝れないなんて言って馬鹿にされてもかまわない。
一人眠れず取り残される不安を誰かにわかってもらいたかった。
それに、美貴なら文句を言いつつも付き合ってくれるような気がした。
肩に手をかけて大きく揺する。
「ねえ。起きて。ねえってば」
美貴は僅かに眉を歪めただけで起きる気配は全くなかった。
「む〜。困ったなあ」
向けられた背中が自分を拒んでいるようにも見受けられて、
亜弥は唇を尖らせて喉の奥で小さく唸った。
- 154 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:53
- 肩に手をかけて無理矢理こちらにひっくり返す。
美貴の体は一度はこちらを向いたものの、バランスが悪かったのかすぐに上に向き直した。
寒かったので隣へと入れてもらう。
了承は得ていないがこれくらいで怒ることもないだろう。
……あたたかい。
パジャマの襟から覗く綺麗な鎖骨に額を乗せると、ちょうど鼻と口の間辺りに脈動を感じた。
―――トクン、トクン、トクン―――
美貴は太陽の匂いがする気がする。
直接外で日に当たることなんてないのに不思議だ。
―――トクン、トクン、トクン―――
整った顔はまだ少し顰められたまま。
いろいろ迷惑かけてるね。ごめん。
心の中で侘びを入れる。
―――トクン、トクン、トクン―――
- 155 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/16(月) 14:54
- 美貴の肌に頬を当て、規則正しい心音に耳を澄ます。
自分の鼓動では気になって眠れなかったのに、人のものだと妙に落ち着く。
これだけ気持ちのいいものだったら、ずっと起きて聞いていてもいいかもしれない。
亜弥にはその日、自分がいつ眠りに落ちたのか気付く間もなかった。
翌日。
目を覚ました美貴が最初に見たものは、全身にのしかかって深い眠りについている亜弥と
肌蹴た自分の胸元だった。
どういうことだ?確か自分は一人で寝てたはず…
混乱する頭に手を当てながら出した答えは、自分で思いついておきながらも
認めたくないようなものばかり。
「ぅわあ――――――――!!!」
美貴の叫び声がシェルター中に響き渡ったのは、いうまでもない。
- 156 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/16(月) 14:55
- この話はもう一回分続きます。
- 157 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/16(月) 15:04
- >>142
あたたかいレス、ありがとうございます。
86年の人は作者のイメージそのままです。
本人はここまでドジではないと思いますが(^^;)
>>143
ありがとうございます。
恥ずかしながら、今までSFはほとんど読んだことありません。
そんな人間が書いてていいんだろうか…
>>144
レスありがとうございます。
好きといって頂けて、本当に嬉しいです。
この五人がどういう組み合わせになっても(ならなくてもw)皆様に納得して頂けるようにしたいです。
- 158 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/16(月) 15:04
-
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/16(月) 17:28
- あやみき派の自分としては今回激しく萌えなんですが、
そういったカップリング抜きにしてもすごく面白いと思います。
続きに期待!!
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/18(水) 01:26
- 萌えすぎてやばいですw
あやみき最高です!
というかこのメンバー良い良い!
- 161 名前:25=142 投稿日:2004/02/21(土) 00:51
- 更新、お疲れ様です。
う〜ん、イイ感じですね。ここの人々はほのかな恋慕って感じで、それがまたイイ感じです。
(意味不明ですね、スイマセン)
あと、シェルターの描写が個人的に気に入っております。
藤本さん、いろいろ大変そうですねw
次回もマッタリとお待ちしております。
- 162 名前:6. 投稿日:2004/02/22(日) 23:17
-
朝食が始まる頃、食堂はいつもとは違った雰囲気に包まれていた。
常にテンションの高い亜弥がぼんやりしているのとは反対に、いつもは寝起きの
はっきりしない美貴が、今朝に限って冴えた表情をしていた。
真希、梨華、ひとみは顔を見合わせ首を傾げた。
寝ている最中に耳元で、しかも大声で叫ばれて、亜弥は不満だった。
起きてすぐに美貴の顔を見ることができたのはとても嬉しかったが、少しだけ悲しくもあった。
何も、あんなに驚かなくてもいいのに。
亜弥は複雑な面持ちで、起き抜けの美貴の様子を思い出した。
一声叫んだ後、今度は言葉もなくワナワナ震えて自分を指差す美貴。
腹が立って、でも可愛くて。亜弥は美貴の頬を両手でつまんで横に伸ばした。
二人揃って寝起きするのが当たり前なくらい、親密になってやろう。
新たな誓いを胸に、亜弥は静かに席に着いた。
そんな亜弥の目論見にはつゆほども気付かず、美貴はいまだ鈍い痛みを放つ頬を、
隣で訝しげに擦っている。
- 163 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:18
- 少しばかり怒気を含んだ視線をちらちらと送ってみせる亜弥に、美貴が気付いた。
「そんな顔されてもさぁ…亜弥ちゃんが知らないうちに入ってくんのが悪いんだよ」
「いいじゃん、別に。隣で寝させてもらってただけなんだから。
久しぶりによく寝れたのにぃ」
ふあぁ。亜弥の口から一つ、大きなあくびが漏れた。
黙り込んだ美貴は他の者に倣って椅子を引き、どっかと腰を下ろした。
朝食は大抵が洋風だ。昼や夜は真希が作ることがほとんどだったが、朝だけは
全員が交代で作ることになっていた。和食にするも洋食にするも、作る者の気分次第。
今日はひとみの番だったので、好物のベーグルとゆで卵という組み合わせが目立った。
いただきます。五人揃って手を合わせる。各々が皿の上の食べ物にしばし夢中となった。
- 164 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:19
- 『久しぶりに寝れた』という亜弥の言葉を気にかけていた梨華は、ある程度亜弥の皿が
空く頃合いを見計らって尋ねた。
「亜弥ちゃん、眠れてないの?」
亜弥はベーグルの欠片を口に放り込もうとする手を止め、恥ずかしそうに頷いた。
そう、と一言だけ返した梨華は心配そうにみえた。
「笑わないの?」
「どうして?」
「だって、この年になって寝られないなんて…」
「そんなことじゃ笑わないよ?」
皆まで言おうとする亜弥を遮り、梨華は当然のように言った。
「眠れない、ねえ」
真希が我関せずとばかりに呟いた。ベッドに入って5分以内には寝付いてしまう真希には、
『眠れない』ということがどんなものなのか想像もつかない
- 165 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:19
- 「でもさーあ。昨日は寝れたんでしょ。なんだったら毎晩美貴の部屋で寝たら?」
ひとみがゆで卵を頬張り、意地の悪い笑みを浮かべながら亜弥に言った。
亜弥の方を見てはいるが、明らかに美貴に対して向けられた笑いだ。
「それいいかも」
パッと亜弥の表情が華やぐ。美貴は鋭い目でひとみを一睨みした。
「ちょっと。勘弁してよ。美貴、亜弥ちゃんに乗っかられてたせいですっごいヤな夢
見たんだからね」
「ほー。乗っかられてたんだ」
「そうだよ」
「そうですか」
朝食を用意していた時に聞こえた叫び声にはこんなわけがあったのかとひとみは
内心笑いを堪える。
「ほら、抱き枕貸してあげるから。今日は一人で寝なよ」
「あたしも。読むと絶対眠くなる本があるの。それ貸してあげる」
美貴と梨華が言うと、亜弥はしぶしぶといった様子で首を縦に振った。
- 166 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:20
-
その夜、亜弥は与えられた自室のベッドに一人で潜り込んだ。
抱き枕はちょうど良い柔らかさで、触っているだけでも十分心地良かったが、
ただそれだけだった。眠る手助けまではしてくれそうにない。
梨華に借りた本もまた然り。難しい文字の羅列は、亜弥の頭を余計に混乱させた。
考えるまでもなく美貴の部屋に向かう。一度安眠できる方法を知ってしまうと、
それを退けてまで他のことを試す気力も余裕も、今の亜弥にはなかった。
残念なことに今回は、布団に手をかけただけで美貴が飛び起きてしまった。
昨夜の件でいつになく敏感になっているのかもしれない。
半身を起こした美貴は、亜弥の姿を認めてがっくりと肩を落とした。
「本、もう読んじゃったの?」
「ムツカしくてよく解んなかった。あんなの読んでたら余計寝れないよぅ」
泣きそうになりながら亜弥はベッドに腰を下ろす。
その横顔をしばらく見ていた美貴は、突然何かを思いついたように頷くと、不思議がる
亜弥の手を引っ張って立たせ、部屋を出た。
- 167 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:20
- 薄暗い廊下を転ばないように気をつけながら、二人で走った。
スイスイと迷うことなく角を曲がっていく美貴に、遅れをとらないよう必死でついて行く。
いくつも並んだ扉が、走る速度に合わせて両脇を流れた。
美貴は亜弥との間が開きそうになったことに気付くと、スピードを緩めて再び手を繋いでくれた。
あれほど怖かった暗闇も、二人一緒なら嫌じゃない。
子供の頃に感じたことがあったような、とても懐かしいような、安心感という後ろ盾つきの
冒険心が、美貴の手に引かれて亜弥の心を滑り出す。
だんだんと息が苦しくなり、走ることに疲れた頃、美貴は呼吸を弾ませながら
一つの大きな扉の前で足を止めた。
「ハァ…しんどー」
そう思うのなら走ってこなければ良かったのではないかと亜弥は思うが、それ以上に
目の前の部屋の存在が気になったので、そちらへの疑問を口にした。
「ここに何かあるの?」
「まぁまぁ。見ててよ」
美貴はそう言うと、重量感のある扉を体重の乗った両手で押し開けた。
そのまま壁に手を這わせ、スイッチのある場所を探り出す。
- 168 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:21
- パチン。
乾いた音がしたかと思うと何度か光が瞬くのを感じ、次の瞬間には煌々とした
電気の下、広さと高さを兼ね備えた開けた空間が広がっていた。
「わあ…!」
「広いでしょ、ココ。普段はよっすぃーが使ってるんだけどね。
眠れないなら、適度な運動でもしてスイミン効果をキタイしましょう」
胸を張り、医者のように言う美貴に亜弥は笑った。
「どこに何あるかわかんないから、よっすぃー起こしてくる」
亜弥を中に押し込んだ後、ちょっと待っててと言い残して美貴は出て行った。
美貴たちが戻ってくるのを待つ間、床に一つだけ転がっていたソフトボールを掌で弄ぶ。
亜弥は同居人たちの無私無償の優しさに、目を細めた。
- 169 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:22
-
- 170 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:23
-
うっすら開いた扉向こう。
途切れ途切れに聞こえる人の声、微かな足音、何かに何かを打ち付けるような音を感じた。
シェルター内でも一、二の大きさを誇るその部屋に真希がふらりと入っていくと、
梨華と亜弥がなぜかパジャマ姿でテニスボールの打ち合いをしていた。
無駄のない、流れるような動き。気持ちのいい音を立てて双方から繰り出される球。
「うまいねえ」
ここに来た本来の目的も忘れて綺麗なフォームに感心していると、隅っこの方で
ひとみと美貴が向かい合ってバレーボールをパスし合っているのに気付いた。
こちらも寝巻きのままだった。
ちょうど美貴とひとみも真希が入ってきたのに気付いたようで、バレーボールを抱えて
小走りで真希のもとへやって来る。
パジャマを着てスポーツに励む人々という滑稽な画に、真希は思わず口元を緩めた。
- 171 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:23
- 「そんなカッコでなにやってんの?」
「運動」
ひとみが嬉しそうに汗を拭う。
「見たらわかるってば。そうじゃなくって」
「ん?あ、そっか。松浦がね、やっぱり寝付けなかったみたいでさ。誰かさんに泣きつかれて、
松浦が一人でぐっすり寝れるよう協力してるっていうわけ」
『泣きつかれて』の部分で美貴が顔を顰めた。
「梨華ちゃんしか協力してないように見えるんだけど」
そう言った途端、ひとみの表情が急に翳りを帯びた。
「テニス、あたしも美貴もコテンパンに負けちゃって。松浦、元々習うか何かしてたみたい。
話になんないから梨華ちゃん起こして連れてきたの」
才能なのかどうかはわからないが、梨華は四人の中で一番テニスが上手かった。
梨華はともかく、亜弥に負けたのが相当悔しかったらしい。
ひとみは拗ね顔で二人を見た。
ここまで激しいのはやり過ぎじゃないかなぁ。
真希の頭を疑問が掠める。
- 172 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/02/22(日) 23:24
- 「他のことやればよかったのに」
「だって、亜弥ちゃんがテニスがいいって言うから…」
落ち込んでいるひとみに代わって美貴が答えた。
「ごっちんも呼びに行ったんだよ。なのに全然起きないし」
「あー。ごめんねえ。ごとー、全然気付かなかった」
本当に気付かなかったのだろう、邪気のない顔で笑う。
「…そうそう。ゴハンできたよ」
真希は忘れてしまわないうちに付け加えた。
ひとみの次に朝食係にあたっていたのは真希だった。
朦朧とする頭を抱えて台所に行き、体が覚えているままに食事の支度をし、
作り終える頃にはようやく目覚める。寝ながら作っていても、出来上がった物は完璧だ。
だてに十年ちょっと料理を趣味としているわけではない。
食事の支度を済ませてもなかなか起きてこない皆を探し回った末、ここに辿り着いたのだった。
「んええ?もうそんな時間かぁ?」
「そういやお腹空いたね」
美貴とひとみはそのまま片付けにかかった。
向こう側では亜弥がサーブを打つ体勢に入っている。
「ゴハンですよぉ」
放っておけばまだまだラリーを続けそうな雰囲気の二人に、真希は慌てて声をかけた。
- 173 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/22(日) 23:25
- 予想以上に長くなってしまったため、もう一回に分けます。
だらだらしてしまって申し訳ありません。
削るのに四苦八苦してます。
- 174 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/22(日) 23:26
- レス、ありがとうございます。本当に励みになります。
>>159
そう言って頂けると感無量です。
皆さんに面白いと思って頂けるようなものを自分が書けているかわからないので、
参考になります。これからもどうぞお付き合いくださいませ。
>>160
萌えて頂いてありがとうございます。
メンバーを褒めて頂けると、素直に嬉しいです。
出しているメンバーに助けられている部分が多いです(^^;)
全員めちゃくちゃ書きやすいので。
>>161
『ほのか』にみえたのは導入部分だけかもしれません(笑)
一人だけそれとは程遠くなってしまいそうな人がいます(誰かはお分かりだと思いますが)。
藤本さんの苦労はまだまだ続きます。
- 175 名前:名無しライター 投稿日:2004/02/22(日) 23:27
- 残りは近いうちに更新します。
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/23(月) 01:19
- 苦労する藤本さん…大好物だったりしますw
なんだかんだ文句言いながらも面倒見ちゃう当たりがいいですね。
続き期待してますよ〜
- 177 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/02/24(火) 15:51
- 松浦さんの「みきたんとラブラブ大作戦」を支持します。
- 178 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:14
-
真希以外の四人はパジャマ姿のまま食堂に移動し、朝食を済ませることとなった。
運動の後の食事に相応しく、テーブルの上の食べ物はあっという間になくなった。
食後にはコーヒー。亜弥にはハーブティー。
鎮静効果があるから、という真希のささやかな心遣いだった。
「どう?眠れそう?」
熱いカップを両手で包み、梨華は亜弥の様子を窺った。
聞いた本人の方が眠ってしまいそうな表情をしているが、美貴とて、ひとみとて、
それは例外ではない。夜通し起きて動いていたのだから仕方ないだろう。
もう少し濃い目にしとけば良かったかな?
真希はブラックコーヒーの濃さを確かめるように、湯気を巻いているカップを揺らし、傾けた。
亜弥の返事はくぐもっていてはっきりしなかった。
本当なら体を休めているはずの時間に、激しすぎる運動をしたことがかえって
よくなかったらしい。その瞳には眠気の欠片も見られなかった。
一晩中周りに付き合ってもらったにも関わらずこれでは、さすがに悪いと思ったのだろう。
亜弥にしては珍しく憂鬱そうな眼差しをしていた。
- 179 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:15
- 「一緒に寝てあげようか?」
元気付けようとしたひとみが茶化すように言った。
が、すぐに顔と全身を強張らせる。
猫のように丸くなり、何も言わなくなくなってしまった。
本気に取った梨華が、足を踏みつけるか何かしたらしい。
亜弥はそれにも気付くことなく、ただただ、放心していた。
辛そうな亜弥を前に、美貴が困惑の表情を浮かべた。
どうして一緒に寝てやらないのだろう。美貴らしくもない。
もしも自分が亜弥のような状態だったとしたら―そんなことはまずありえないと思うが―、
美貴は迷わず隣で寝てくれるに違いない。小さな優越感が自分の中に芽生えてしまって
いることに気付いて、真希は慌ててそれを振り払った。
「あのさ。一つ聞いてもいいかな。美貴と寝てた時、どんなこと考えてた?」
聞きようによってはとんでもない言葉を、真希はさらりと言ってのけた。
真希の物言いに含みがあることに気付いた美貴は、真希の方を振り返ったが、
真希はじっと黙って亜弥の答えを待つだけだった。
- 180 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:16
- 「どんなことって…」
突然、脈絡なく投げかけられた問いに、亜弥は戸惑いを隠せなかった。
「あったかいな、とか」
――手足は冷たいなぁ、とか。良い匂い、とか。あんまり寝返り打たないんだなあ、とか。
亜弥は見たこと、感じたことを正直につらつらと並べた。
「それだけ?」
真希は探るように質問を重ねた。
納得のいくような返事はまだ得られない。欲している答えはぼんやりと霞がかった
イメージしかなく、どのようなものか自分でもはっきりわかっていなかった。
それでも、どこかに眠れない原因があることくらいはわかる。
まずはそれを見つけることが先決だろう。
でないと眠るための方法なんて考えても意味がないに等しい。
万一、眠れたとしてもその場凌ぎにしかならないではないか。
- 181 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:17
- 亜弥は記憶を辿りながら宙の一点を見つめた。
「うーん…。それと、…心臓の音、かな」
「心臓の?」
「うん。みきたんに耳くっつけて聞いてたらすごいキモチよくなったの。そのままずっと
起きててもいーや、ってくらい」
隣で美貴が苦い顔をした。呼ばれ慣れないあだ名にむず痒さを感じたか、言われた
ことに気恥ずかしさを感じたかのどちらかだろう。
美貴の顔に見るともなしに視線を向けながら、亜弥の言葉を頭の中で反芻していた
真希の中に、突如閃くものがあった。
「そーだ、それだよ。そのおかげで寝れたんじゃないかなぁ」
腕を組み、しきりにうんうん頷く。
「なに?なにが『それ』なの?」
「なんかわかったの?」
次々に疑問を口にする不思議な顔の面々に向かって、真希はニイっと笑ってみせた。
「うん。睡眠の秘訣が、ね」
- 182 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:17
-
- 183 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:18
-
「どう?」
「寝た寝た」
子供を寝かしつける親のような会話を交わしながら、真希は部屋の外にいる三人に
向かって内側から手招きした。
真希が立っている脇のベッドでは、亜弥が気持ち良さそうに布団にくるまって眠っていた。
「すげー。ホントに寝ちゃってるや」
ひとみが小声で亜弥を覗き込む。溜まり溜まった睡眠欲をここで全て吐き出すかの
ように深く眠る亜弥は、幸せそうな寝顔をしていた。
「ごっちん、催眠術でもかけたの?」
「ううん。ごとー、催眠術なんてできないよ」
真希がしたことといえば、ベッドに横たわらせた亜弥に向かって、「寝るな」というような
ことを一言告げただけ。予想外のことを言われて面食らった亜弥の傍に腰を下ろし、
真希は飄々と鼻歌を歌った。空気のように自然に振舞う真希を眺めているうちに、
いつしか亜弥の瞼は落ちていた。
- 184 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:19
- 真希のいう『秘訣』とは、ごく簡単なことだった。
「無理矢理寝ようとするから眠れないんだよ。
美貴と寝てる時、あの子、『起きててもいいと思った』って言ってたでしょ。
いい具合に力抜けたんじゃないかなぁ」
真っ直ぐな亜弥の、眠ろうという必死の思いがプレッシャーとなり、それがかえって
逆効果を生んでしまった。これが、真希が考えた末に出た結果だった。
「どんなことだってめいっぱい力入れてたら、そりゃストレス溜まるよ。
諦めて起きてたらそのうち眠たくなるって」
秘訣なんて大袈裟なモンでもないよね。
真希は照れくさそうに笑った。
「ごっちんらしい方法だね」
美貴もつられて微笑んだ。
真希は笑みを艶のあるものに変えて、美貴の隣に移動した。
「一緒に寝てあげればよかったのに。まっつーと」
そのまま美貴の肩に手を回し、こつんと頭を合わせる。
- 185 名前:6.Alone on the Bed 投稿日:2004/03/02(火) 15:20
- 至近距離にある真希の涼しげな眼の前で、美貴は目を見開いた。
真希が初めて亜弥の名前を口にした。
話す回数は自分よりもずっと多いのに、名前を呼ばないのは変だと思っていたのだ。
美貴たちにとってはある意味異邦人である亜弥。
真希が馴染んでいたように見えたのは、実は上辺だけのもので、まだ完全に心を
許してはいなかったのかもしれない。
初めて呼ぶあだ名が『まっつー』というのもいかがなものか。
ほくほくした気持ちを隠し、わざと低い声を出して美貴は眉を寄せる。
「えー…。なんか苦手なんだよ。このコ」
眠気を追い払うように梨華が大きく体を伸ばした。
「なんだか眠くなってきちゃったね」
「そうだね。うちらも少し寝よっか」
誰よりも早く真希が答えた。
自分が言うつもりだった言葉を先に言われ、ひとみは突っ込みを入れる。
「ちょい待ち。ごっちんしっかり寝てたじゃーん」
「ごとーはいつだって寝れるよぉ」
大きな声に起きやしないかとハラハラする美貴の目には、
眠っている亜弥の口元が綻んでいるように映った。
- 186 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/02(火) 15:22
- 近いうちと言っておきながら結局一週間ぶりの更新となってしまいました。
申し訳ないです。
- 187 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/02(火) 15:22
- こういう何でもない話が書きたくなる時があります。
ちなみに書いてる者は後藤さん並のグッドスリーパーです。
- 188 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/02(火) 15:23
- >>176
レスありがとうございます。
振り回す松浦さんに振り回される藤本さん、というのが自分の中で一番しっくりきます。
振り回されすぎて藤本さんが胃潰瘍にならないようにしなければ(笑)
>>177
やや!素敵な作戦名が!
松浦さんの野望(?)が的確に表されてますね。
ありがとうございます。
これから忙しくなるので更新速度が少し落ちてしまうかもしれません。
気長にお待ち頂けるとうれしいです。
と言いつつも、いつも通り更新してるかも(^^;)
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/02(火) 17:05
- いしよしっぽくて好きです!
毎回読んでるのですが、
ごまみきっぽいなぁ〜vvとか、
ごまあやっぽいな〜vvと変に期待してます;
作者さんは違うかもしれないんですけどね;;
- 190 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/12(金) 11:17
- 7.In Your Arms
- 191 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:18
-
眩いばかりの太陽が無機質な月面をじりじりと温めだした、そんなある日の昼。
ひとみと亜弥はシェルターから少し離れた場所まで岩取りに来ていた。
『よしざわさーん。少し休みましょうよ』
『えっ。もう?さっき休憩したばっかじゃん?』
両手一杯に巨大な岩を抱え、頭をくりんと動かして振り向くと、弱りきった亜弥が間近に迫った。
モノクロの背景を背負った亜弥の表情は、シェルターを出た時とは違って陰鬱さを漂わせている。
力ない亜弥の腕から、大岩がまさにずり落ちようとしていた。
『うわあっ。落としちゃダメ!』
脆い岩の下に素早く手をやり、砕け散ろうとするのを寸前で阻止する。
『ふぃー。あぶねー』
『すみませぇん…』
せっかく大きなものを選んできたのに、シェルターに着くまでに欠けてしまっては元も子もない。
できるだけ良い状態のまま全て運びきってしまいたかった。
- 192 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:19
- 「岩を取る」といっても必要なのは岩そのものではない。
そんなもの、わざわざ取りに行かなくても、そこら中に転がっている。
目的とするものは中にある酸素だ。
月の土や岩に酸化物として含まれている、絶対不可欠な命の源。
酸化物は水素と反応させて水とし、これを電気分解して酸素を得る。
地球から水と一緒に送られてくる酸素も相当な量あったのだが、備えあればなんとやら、だ。
気まぐれに美貴が作った酸化物分解装置は意外と重宝されており、一ヶ月に取ってくる岩を
全て合わせれば、宇宙服のタンクを一杯にするくらいの酸素を手に入れることができた。
「ヒト一人分、いろいろと要るもん増えたんだから働きなさい」
美貴の言いつけによりひとみと共に俄か運び屋となった亜弥。
シェルターと岩場を一往復しただけでへロへロになってしまった。
酸素含有量が高く、運ぶのに手頃な岩が見つかる場所はそう多くない。
選り好みせず大量に持って帰るのも手だったが、まだ動きのぎこちない亜弥を連れて
いるのでは効率が思わしくない。
亜弥には悪いが、良い岩が転がっている岩場まで、結構な距離を歩いてもらうことにした。
『この服、ほんと動きづらい…』
『わかったから。ちょっと休もう』
ぐんにゃりへたり込む亜弥の横にひとみも座った。
- 193 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:20
- 長い夜を乗り越えて、五人のもとへ光が戻ってきたのは、約二週間ぶりのこと。
地球と月とでは『一日』の意味合いが全く異なる。
こちらでの一日は地球日に直すと約30日、つまり昼と夜が15日間隔でやってくることになる。
月の生活に染まりきってしまうのが嫌で、美貴たちは一日を地球時間と同じように
過ごしていたが、体は長い昼夜が訪れるサイクルに馴染みきってしまっていた。
光の射す方を向き、ひとみは久しぶりの太陽に手をかざした。
宇宙の造物主に感謝する。
月だろうが地球だろうが、どこにいたって金色の陽光は平等に降り注いでくれる。
空気の存在しないここでは恵みの源とは言い難いけれど、ひとみも
ずっと一緒に暮らしている他の三人も、力強さを秘めたこの温かみが大好きだった。
隣でリラックスしきっている亜弥もそのようだ。
疲れを癒すように目を閉じ、歌っている。
全身にしみ入るような心地良さを含んだ歌声は、微かに開いた口から出ているのか
鼻から漏れているのか、よくわからなかった。
『松浦。口開きっぱなし。だらしなーい顔になってるよ』
『吉澤さんだって緩みきった顔してますよ』
『あたしは元々こんななの』
自慢の顔を指摘されても大して気分を害した様子もなく、亜弥はごく自然に歌を再開した。
- 194 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:21
- 亜弥とはビックリするくらいにウマが合った。
すかんと突き抜けた亜弥の性格は、ひとみに共通するものを感じさせた。
初めて会ったのはほんの数週間前なのに、ずっと一緒にいたように思える。
他の三人が大人びているせいで、シェルターの中では年下扱いされがちだった自分。
常々、妹的存在が欲しいと感じていたところにひょっこり現れた亜弥。
できることなら自分たちの抱えているもの全て、何もかも話してしまいたい。
ぶちまけてしまいたい。
けれど、美貴や真希が決してそうしないように、ひとみも余計なことは言わないようにしていた。
一緒にいられる時間がどんなに楽しくったって、いつかは離れていってしまう人なのだから。
きれいな歌声がピタリと止んだ。
亜弥が驚くほど申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。
この子は自分のことをあまり話そうとしない代わりに、こちらの事情も全く聞こうとしない。
しかしどうやら今回は違うらしい。表情にカムフラージュされて隠されてしまいそうな意志。
この目は、何かを聞き出そうとしてる目だ。
- 195 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:22
- 『あの、ちょっと聞いてもいいですか?』
『なに?答えられることだったら答えられる範囲で答えるよ』
ひとみはだらしなく伸ばしていた足を腕に納め、体育座りの格好になった。
『「できるだけ」って言いますよね、フツー。「答えられる範囲」じゃなくて』
『まあまあ。気にしない』
『あっ。吉澤さんフツーじゃないですもんね。いいですよ。答えられる範囲で答えてもらって』
『なんちゅーこと言うんだねキミは』
手首のスナップをきかせて亜弥のヘルメットをはたくと、亜弥が大袈裟に首を傾けた。
自らが起こした行動に対する確かな手応えを感じて、ひとみはなぜだか安堵した。
亜弥は形状記憶合金のように素早く首を元に戻す。
『吉澤さんのパパとママってどんな人たちだったの?』
そら来た。親について話すことはあたしたちにとってタブーだってこと、
この子は気付いているんだろうか。
- 196 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:22
- 『うー…あたしに似てた、かな。って逆か。あたしが似てたんだ』
当たり障りのない、答えられる範囲で、亜弥が聞きたがっているであろうことを、
何でもないことにすり替える。
『…どんなとこが?』
『ホクロ。顔の丸っきしおんなし場所にあった』
『うっそ!?』
『ほんとほんと。マジだって。遺伝の神秘』
『あはは!すごーい』
望み通りの答えが得られたはずはないだろうに、亜弥は涙を浮かべるほど大笑いしてくれた。
花咲くように破顔する亜弥の顔がふと、梨華のものと被る。
亜弥と梨華の顔に共通点などどこにも見当たらないのに、
何かにつけて梨華を思い浮かべてしまう自分は、かなりの重症だ。
- 197 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:23
- 梨華の笑顔を見ることが少なくなって、優に十日が経っていた。
ひとみに対する梨華の態度が硬化したのは、この前の夜が訪れたのとほとんど
同時のことだった。最初はただ戸惑い、湧き上がる疑問に混乱するばかりだった。
――梨華ちゃん?なんで?どうして?
やっと、素直になり始めることができたっていうのに。
冷静になるにつれ、何か悪いことでもしたのではないかと考えるようになった。
向こうの非を見つけるのは難しいが、自分のしたことで梨華の気に障ることなら、
思い当たる節が多すぎて困る。
直接梨華に聞こうにも、取り付く島もなくうまく避けられてしまうのだからどうしようもない。
ひとみと梨華の不自然な歪みをそれとなく感じ取っていた美貴と真希もお手上げ状態だった。
梨華の頑なさは夜が明けても変わることがなかった。
思えばこの十日間、空虚な思いを埋めるため、憶測し、勘ぐり、もがく自分は空回ってばかり。
美貴と真希はともかく、亜弥には気付かれていないといいのだが。
眼窩の奥に重い疲れを感じて、瞼に力を込めて目を瞑る。
『…吉澤さん?』
『あぁ、ごめん、ボーっとしてた。そろそろ行こうか』
気乗りしない様子の亜弥を立たせ上げ、背中を押す。
それと同時に、何をするにも億劫になってしまっている自分の気持ちも後押しした。
- 198 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:24
-
「ただいまー!」「帰ったよ」
「おかえり」
シェルターに入るとすぐに、美貴と真希が出迎えてくれた。ひとみの目は真っ先に
梨華の姿を探したが、どう見たってエントランスには二人分の出迎えしかなかった。
亜弥は美貴を見つけた途端、一目散にそちらの方へすっ飛んで行った。
「見て見てみきたん!あたしすごいおっきいの持ってこれたんだよ」
「はいはい。よくできました」
隣で美貴が亜弥を軽く受け流すのを聞きながら、真希に尋ねる。
「梨華ちゃんは?」
「知らない。今朝からずっと見かけてないけど…」
「…そう」
- 199 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:25
- ―――何かあったの?
真希の澄んだ目が、静かにひとみに訴えかける。そんなの、こっちが教えてもらいたい
ぐらいだ。見えないよう後ろで組み合わせた両手に、ギリギリと力が入る。
無理矢理笑みを貼り付けて首を振ると、真希はそれ以上何も聞こうとしてこなかった。
三人の脇を抜けて奥に続く扉を開く。
美貴と真希の労わるような視線を背中に感じた。
精神の疲れというものは身体にも多大な影響を及ぼすらしい。
このことを実感するのは、一年前に両親が亡くなった時以来だ。
今までほとんど疲れを知ることのなかった体がまるで鉛のようで、
それが気分をさらに重苦しいものへと変えていく。
底なしの悪循環。一度回り始めると、とどまることをしてくれない、タチの悪いループ。
虚脱感とともに全身を引きずって歩き、幾つ目かの扉を乱暴に押し開けた時だった。
- 200 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:26
- 「……りかちゃ…」
開け放った扉のすぐ向こうに梨華が立っていた。
思い描いていた相手が現れたのは突然のことで、ひとみの体は反応らしい反応を
返すこともできずに、少しだけ後退った。
どこかへ移動する最中だったのだろう、梨華は扉が勝手に開いたことに一瞬目を見開いた。
帰ってきた自分を出迎えにきたのではないことは、ひとみに一言も声をかけないことからわかる。
梨華はすぐに無表情に戻り、扉の方、ひとみの方へと歩みを進めた。
聞くなら今だ。今なら二人っきり、逃げようがない。
怯える心に蓋をして、ひとみは努めてなんでもない風に梨華に話しかけた。
「ねえ、梨華ちゃん…」
―――あたし、なんか気に障ることでもした?
皆まで言うことはできなかった。
回り込んで覗いた梨華の瞳には、自分は確かに存在している。
それなのに、ただのガラス玉にまるで物でも映されているみたいだった。
今まで決して見せられたことのない梨華の冷ややかさに、頭の中が真っ白になる。
無意識のうちに体を捻って、梨華の通り道を空けていた。
梨華はひとみを一瞥すると、ためらいもなく背を向け、その場を立ち去った。
振り返って声をかける気力は、ひとみにはもう残っていなかった。
- 201 名前:7.In Your Arms 投稿日:2004/03/12(金) 11:27
-
――ガン!!!
梨華の姿が見えなくなる頃を見計らって、ひとみは壁に思い切り拳を打ち付けた。
懸命に堪えていた悲しみの防波堤が音を立てて崩れ、心の内が黒く侵食されていく。
押し寄せる負の感情が泥流のように渦巻いた。
梨華ちゃんなんて嫌いだ。
何でもないことですぐ怒るし。何かっていうとすぐお姉さん面するし。
あたしのことを妹のようにでも思ってるんだろうか?
勝手に考えて、勝手に決めて、勝手に離れて、
肝心なこと、あたしが知りたいことは何も言ってくれない。
梨華ちゃんなんか、梨華ちゃんなんか、梨華ちゃんなんか―――
―――大好きだ。
滲む視界に入り込む拳の赤く腫れかかった部分は皮が裂け、血が滲み出ていた。
靄がかかったように浮かび上がる鮮やかな朱色は、ひどく現実感を欠いていた。
悪いところがあるなら全部直すよ。
今まで意地悪して怒らせたりしたことも謝る。
だから、どうか、お願いだから。
そんな目で見ないで。嫌いにならないで。
派手な音を立てて叩き付けられた手の痛み。
胸の中を嵐のように暴れまわる狂おしいほどの渇望に比べれば、そんなもの、どうってことなかった。
- 202 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/12(金) 11:28
-
- 203 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/12(金) 11:28
-
- 204 名前:名無しライター 投稿日:2004/03/12(金) 11:30
- >>189
レスありがとうございます。色々想像して頂けているようでうれしいです。
ネタバレしてしまいそうなので五人がどうなるかはまだ何とも言えませんが、
ちょこちょこヒントは出していきたいと思います。
自分の文章力がついていけるかが不安ですが(^^;)
- 205 名前:25 投稿日:2004/03/12(金) 16:07
- 更新、お疲れ様でした。
何故だか吉松はほのぼのしますねぇw 可愛いと言うか。
人の懐にスっと入り込めてしまう後藤さんもさり気なくイイですね。
作者さんの文章、自分は好きです。
う〜ん、それにしても彼女はどうしちゃったんでしょうか。何があったのかな?
次回もすごく楽しみです。
- 206 名前:子龍 投稿日:2004/03/14(日) 01:43
- どうもお初です
じつは毎回愛読してます
作者さんの文章力に毎回感嘆してますよ〜
ところでふと気になったのですが、岩から得る酸素のことなんですけど一ヶ月にタンク一杯分では毎回のシェルター・岩場間の移動酸素消費量を考えると、割りに合わないのではと思ったのですが…
すみませんくだらないレスでして…
間違ってたらホントごめんなさいです
- 207 名前:名無し飼育 投稿日:2004/04/06(火) 14:35
- 藤本さんに褒めてもらいたい松浦さんがめっちゃcute。
あやみきの今後に期待してます。
- 208 名前:名無し読者 投稿日:2004/04/08(木) 02:25
- のんびり待ってますよ〜
- 209 名前:名無し読者 投稿日:2004/05/05(水) 12:28
- 松浦さんの「みきたんとラブラブ大作戦」に期待してま〜すw
作者さん更新頑張ってくださいね。
作者さんとこの小説をこれからも応援してます!
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/31(月) 22:05
- (´-`).。oO(保
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/02(金) 17:10
- 作者さんどうしちゃったの?
- 212 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/07/18(日) 09:36
- もうだめ
- 213 名前:名無し読者 投稿日:2004/07/18(日) 14:10
- ショ、ションナ…
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