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逃亡の果て

1 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時17分05秒
ここでは初めて書かさせてもらいます。
ちょっと長めのものになりそうなのでこちらにスレを立てさせてもらいました。
カップリングは秘密ですが、読み始めればすぐにわかると思います。
マイペース更新ですが、必ず完結させますのでぜひお付き合いください。
それではよろしくお願いします。
2 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時17分37秒
この日は滅多にないような快晴だった。
二人の女の子は山の上に大きく建てられた建築物の中にある
暗く狭い部屋で毎日を過ごしていた。

その中の一人は高校生くらいの女の子。その女の子は
男たちの目を一度つかんだら離さないような愛くるしく、可愛らしい顔をしていた。
もう一方の女の子はその子よりも少し大人っぽかった。
ショートカットに整った顔立ち、まるで男の子かと思わせるような容姿をしていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人はその日まだ一言も言葉を交わしていなかった。

その様子を見ると二人には時間というものがないようにも見える。
しかし、確実に時は刻まれていた。

これまでずっと二人は座っていたが、高校生くらいの女の子がふと立ち上がると
その部屋に唯一ある小さな窓から外を眺めていた。
何度その景色を覗いたことだろう。眼下に広がるその景色は
一面に木が並んでいるだけで他には何もない。色意外は何も変わらない景色だった。
変わるものと言えば地上ではなく空にあるものだけだった。
3 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時18分07秒

さっき見たときはあんなに白く輝いていた太陽だったが、
今はもうオレンジ色の光を放ちながら沈み始めていた。
そして彼女はつぶやく。
「いよいよだね」
「ああ」
座っているもう一人の女の子は素っ気なく答えた。
これが今日二人が交わした初めの言葉だった。

その間に太陽は完全に沈んでしまった。街頭もなにもないその景色はまるで
世界が闇に支配されたようだった。
立っていた女の子は少し悲しい顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻ると
その場に座った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その空間はまさしく無音の空間だった。

二人とも呼吸はしているはずだがその音すら聞こえない。
暫くするとその空間に冷たく固い音が入り込んできた。
コツコツコツコツ・・・
いつもの足音だった。

いつもの音とは足音だけではなく、扉を開ける音、男の声などもその中に入っていた。
そして今もその音を聞いている。
時間がたつにつれ、だんだんと音が大きくなってきた。そして最後に二人の部屋の前で立ち止まり
「飯の時間だ」
と男は一言言い、ガシャンっと扉を開けて去っていった。
コツコツコツコツ・・・
その音が聞こえなくなるのを確認すると、二人は立ち上がり、部屋の外に出た。
4 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時18分38秒
二人は横に並びながら真っ直ぐと通路を歩いていった。
それぞれの隣には空っぽになった部屋が存在していた。

食堂に着くと、二人は用意された夕食を食べ始めた。
夕食もいつもと同じものだった。
しかし二人は今日でこの夕食とも最後だと言うように
しっかり、そしてゆっくりと噛みしめながら食べていた。
それのせいか、はたまた来るのが遅かったせいかわからないが
食堂には二人と食事を作るおばさん、見張りの男の四人だけになっていた。

二人はようやく食べ終えると食器をもどしながら
「おばさん、今まで有難うございました」
とボーイッシュな女の子のほうが言った。
おばさんはニッコリ笑うと
「何言ってんだい、あんたらはまだまだ私の飯を食わなきゃならんだろう」
と何気なく言ったが、少し妙だったので二人をじっと見ていた。
少し間があったがすぐに
「それじゃおばちゃんばいばい!」
ともう一方の女の子ニッコリ笑いながら言ったので
そんな考えは消え
「また明日ね」
とおばさんはさっきのようにニッコリ笑いながら言った。
5 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時19分12秒
二人は見張りと食堂を後にすると、行きと同じように部屋にもどっていった。
部屋の前まで来ると、さっきまでの笑顔からは考えられないような
表情でその場に突然座り込み見張りの男に言った。
「すいません、おな、お腹がいた、痛いんですけど・・・薬とかったないですか?」
見張りの男は相手にしないといった感じで
「そんなものあるわけないだろ、さっ、早く入るんだ」
と座っている女の子に言った。

もう一人の女の子はその光景をじっと見ていた。その光景を見つめる目は何かを
狙っているような目だった。
「本当にいた、痛いんです・・・何とか、なり、ませんかね?」
今度は顔をあげ、もう一度言った。

男の目の前には助けを求めている可愛らしい女の子がいた。
男は完全にその女の子に心がいっていた。すると

ドカッ!

男の首に何か重いものが力いっぱい振り下ろされたような鈍い音がした。
男は完全に不意をつかれ、言葉を発することもなくその場へ倒れた。
「・・・・・・」
完全に気を失っていた。二人はそれを確認するとお互い顔をあわせクスッと笑った。
しかしすぐにこれからのことを考え緊張した顔になった。
6 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時19分51秒
「うっし、ここまでは予定通りだ。ただ一つだけ予定外なことがあったけどな」
「何?私何かミスしたっけ?」
「いや、ミスと言うか、何と言うか、さっきの演技入りすぎだ。少しこの男の視線が
 羨ましかったよ」
「もしかして、こんなことで焼きもち焼いてんの?うまくやれて言ったのは・・・」
「はいはいストップ、それよりそろそろ逃げないと後が大変になる。行くぞ」
「は〜い」

二人は最後に自分たちが長い時間を過ごした部屋に目をやった後、
すぐにその場から走り去った。

―市井紗耶香― ―後藤真希―

二人の逃亡生活が始まった
7 名前:zoh 投稿日:2002年04月02日(火)18時22分33秒
>>2-6
今回更新分です。

言い忘れましたがsageやageなどについては読者さんの判断に任せますんで
よろしくお願いします。
8 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月02日(火)20時03分02秒
いちごまだ!
最近いちごま増えて嬉しい限りですが、このようなシリアスないちごまは
更に大好物なのです。いえ〜い(w
期待してますので、作者さん頑張ってください!! 
9 名前:no-no- 投稿日:2002年04月03日(水)19時21分26秒
初めまして。
いちごま発見。
最近見かけないからなんか新鮮。
がんがってください。
いちおうsageておきます。


10 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月04日(木)11時56分03秒
期待しちゃってよいのかな〜(w
11 名前:zoh 投稿日:2002年04月04日(木)16時49分07秒

夜の9時。いつも最後の見回りが始まる時間だった。
面倒くさそうな顔をした男があくびなんかをしながら歩いていた。
「最後だな」
真っ直ぐ伸びた通路に立って男はつぶやいた。
しかしそこは5メートル先が見えるかどうかというぐらい夜は暗かった。
男は持っていた懐中電灯を点けると奥へと歩いていった。
こういう見回りは何回やっても慣れることはなかった。
何故ならいつも左右の鉄格子の部屋から殺気だった目で男を何者かが見ているからだ。
男は極力気にしないように歩を進めた。そして残り3部屋ぐらいまで来ると
何もないはずの床に人が倒れているのに気がついた。
男は慌てて近づきもう一度懐中電灯を照らした。
倒れている男は同じ制服を着ている見張りの男だった。
そしてふと目の前の部屋に目を向けると、いつも中にいるはずの者がいなかった。
『倒れている見張りの男』『空っぽの部屋』
一瞬まさかと思ったが、その状況から考えざるをえなかった。
男は見張りの男が気絶しているだけだと確認すると
今来た通路を全力で逆送していき、皆が集まっている休憩室へと飛び込んだ。
「逃げられたぞ!」
12 名前:zoh 投稿日:2002年04月04日(木)16時49分39秒
部屋に飛び込んで開口一番そう叫んだ。
中にいた男たちは、入ってきた男の言っていることが理解できなかったが
「脱獄だ!逃げられたんだ!」
ともう一度言われると、男たちはようやく頭を回転させ始めた。
「おい、どいつに逃げられたんだ!?」
がっちりした男が始めに言った。
「は、はい。五階の一番奥の部屋の奴らです」
「わかった。それじゃおい、お前はその部屋に誰が入っていたか調べろ
 お前とお前はそいつとその場へ行ってこい」
「「「はい」」」
そう言うと見回りの男とそこにいた二人の三人は急いで五階へ向かった。
そして、確認を命ぜられた男は素早く書類を取り出すと
「わかりました、脱獄したのは市井紗耶香(20)と後藤真希(18)だと
 思われます。」
「何!?よりによってあいつらに逃げられただと?ちっ、なめられたもんだな。
 しょうがない、すぐ警察へ連絡だ」
「はい」
さっきまで持っていた書類を受話器に変え、男は警察に連絡した。
「・・・はい。・・・はい。そうです。よろしくお願いします。では」
ガシャン!
「連絡完了しました。明日には全国へ情報が流れるようです」
がっちりとした男は不気味に微笑むと
「ここから逃げられると思うなよ、何があってもここへ連れ戻してやるからな」
持っていた紙コップを思い切り潰してそう言った。
時計は8時30分を回っていた。
13 名前:zoh 投稿日:2002年04月04日(木)16時50分13秒
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
二人はあれから走り続けていた。
やっとの思いで山を下り終えると、近くの建物と建物の間に身を潜め
休憩をとることにした。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
二人はかなり呼吸が乱れていた。それもそのはず何せ一時間以上も
走り続けていたのだから。
そして呼吸が少しずつ整い始めてくると、市井は口を開いた。
「ようやくあそこから抜け出すことができたな」
「うん、私たちがあそこの内部をしっかり調べてきたからじゃない?」
「ああ、一年間調べた甲斐があった。おかげで今ここにいるんだからな」
「そうだね、この世界今どうなってるんだろう?一年じゃあんまり変わらないかな?」
市井はそれを聞くと少し嫌な顔をした。
「どうだろうな、でもそれはこれから見極めていけばいい。それより忘れちゃいけないことは
 私たちが逃亡者だってことだ。多分まだ見回りの奴が来る時間ではないからいいと思うけど
 ばれてからはすぐに手が回る。明日にはニュースやら新聞やらで大きく取り上げられるだろう。
 できるだけ目が届かないような遠くへ行かなきゃいけない。」
「そうだけど、ねぇいちーちゃん。もうモーニングの皆にも二度と会えなくなるから最後に
 会ってかない?」
14 名前:zoh 投稿日:2002年04月04日(木)16時50分43秒
「ん?そんなことしたらまた捕まっちまうかもしれないぞ。しかもモーニングはもう解散して
 るんだぞ。メンバー一人一人に会うのにどれだけかかるか」
「だめ・・・なの?」
後藤は市井を見つけていた。市井は考えた。まさか後藤がこんなこと言うとは思わなかったからだ。
市井は目を開けて後藤を見ると目には涙が溜まっていた。今にもこぼれ落ちそうだった。
「わかった。だけど全員と会うことはできない。そうだな・・・会えても五人、五人だ」
「五人?」
「そうだ、私たちが海外へ逃げるために予約しておいた飛行機の出発が調度一週間後だ。
 その期間を考えると五人会えるか会えないかだな」
「ん〜でも一日一人のペースなら六人と会えるじゃん」
「一応そのつもりだが一日一人会えるとは限らない。さっきも言ったが明日には警察の
 手も全国に回るんだぞ。そう簡単には動けない。下手すると誰にも会えないかもしれない。
 それと本当は出発前の日は最後にこの国で後藤と二人っきりでいたいということもあるん 
 だけどな」
市井は素直な気持ちを後藤に話した。
「ん〜、そうなんだ。そうだね、私も最後はいちーちゃんとがいいや、それでいいよ」
「おいおい、最後なんて縁起の悪いこと言うなよ。まだ私たちはこれからなんだから」
「あはは、ごめんね。それじゃぁ始めはやっぱプッチでも一緒だった。圭ちゃんにしようよ」
「そうだな、圭ちゃんは私も一番お世話になったし」
「それじゃあ決定〜」
後藤は嬉しそうに笑顔で言った。
「おう」

ペアルックの二人はそこから飛び出し、夜の人ごみの中へ消えていった。
15 名前:zoh 投稿日:2002年04月04日(木)17時00分55秒
>>11-14
今回更新分です。

次は早くも第一回目の山場に突入するので今回更新した分はしっかり目を
通していただきたいです。ゆえ次回は更新量が多いです。
というか僕的には今回のと次回のを続けて読んでいただきたいです。
今回だけだと何か物足りなさを感じるかもしれません。

>>8名無し読者さん
有難うございます。
ご期待に添えられるよう頑張っていきたいと思います。

>>9no-no-
こちらこそ、初めまして。
頑張りますのでよろしくお願いします。

>>10名無し読者さん
期待ですか。(笑
好みがわからないんでなんとも言えませんが
期待を裏切らないよう頑張ります。
16 名前:zoh 投稿日:2002年04月04日(木)17時01分57秒
>>15
すみません。no-no-さんだけさんを付け忘れてしまいました。

17 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月06日(土)08時58分40秒
いちごまが出てくるだけで、何故か緊張してしまう。
18 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時09分27秒
―市井紗耶香―

その頃彼女は2000年5月にモーニング娘。から卒業し、一年半の充電期間を経て
カバーアルバムで中澤裕子と再デビューし、2002年の4月24日には「市井紗耶香 in CUBIC-CROSS」として
本格的なデビューを果たしていた。持ち前の頑張りにより、始めは詞だけしか作れなかったが
デビューして三ヶ月もたつ頃には曲も手掛けるようになり、目標であった
シンガーソングライターとしての道を歩んでいた。

―後藤真希―

第三期追加オーディションに合格し、モーニング娘。に加入。
その可愛らしい容姿と抜群の歌唱力により、彼女はすぐにモーニング娘。のセンターを任されていた。
そして仕事に大分慣れてきた頃、彼女は念願だったソロデビューを果たす。
モーニング娘。としての活動とソロとしての活動。以前よりはるかに忙しくなったが
彼女はその生活に満足していた。

二人はモーニング娘。の頃、「教育係」教える側と教えられる側の立場であった。
そういうこともあり、二人は他のメンバーより親しい、いやそれ以上の関係を
築いていた。もちろん休日などはよく会ったりしてものである。
19 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時09分58秒
しかし二人の念願が叶ったぶん、スケジュールは厳しくなっていた。
だから昔のように休みの日が二人とも同じになることは少なかった。むしろなかったと言った方がいいかもしれない。
それが人気のあった二人の唯一の悩みだった。

だがある日、突然その日はやってきた。
たまたま二人の休みがうまく合う日ができたのだ。
当然二人はここぞとばかりに連絡を取り合い、その休みの日に会うことを決めた。
「やっと会えるんだ」
と二人は内心すごく喜んでいた。
そして後藤には他に市井に相談したいこともあった。

一週間後、二人が楽しみにしていたその日がやってきた。
20 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時10分31秒
ピンポ〜ン!
ドタドタドタ・・・
時間は朝の10時を少し回ったところだった。
ガチャ
「は〜い、入ってきていいよ〜」
市井が玄関に出てそう言うと、後藤はすぐに部屋に上がりこんできた。
そして市井が部屋に戻ろうと後ろを向くと
後藤は泣きそうな声を出しながら市井の背中に抱きついてきた。
「いち〜ちゃ〜ん、会いたかったよ〜」
もちろん市井もだった。
「えへへ、私も後藤にずっと会いたかったよ」
と言って市井は後藤の方へ顔を向けると軽く後藤の唇に自分の唇を重ねた。
後藤はとても嬉しそうだったが、市井はすぐに離した。
「え〜、もっと、もっと〜」
後藤はそんな市井にだだをこねていた。
「わかってるよ、後でな、あ・と・で」
市井は後藤の頭を撫でながら言った。
「ぶ〜しょうがないなぁ〜、そのかわり後で色んなことしようね」
市井はコクリと頷くと同時にその久しぶりな後藤の言葉にドキッとした。
「じゃ、こんなところじゃなんだから奥入って」
「は〜い」
二人はそのままリビングへ行くと、目の前にある大きなソファーに座った。
21 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時11分05秒
するとすぐに後藤は
「ねぇいちいーちゃん、急なんだけど相談したいことがあるんだぁ」
「ん?何だ?私がちゃんと答えられそうなことにしろよ」
ヘラヘラしながら市井は言った。
「別にいちーちゃんには関係ないんだけど〜、えっと〜私もモーニング
 そろそろ辞めようかと思ってんだ」
市井はそれを聞くと急に表情を変え姿勢も正して後藤へ目を向けた。
「それ、本当なの?」
さっきまでの雰囲気とはうって変わり
部屋中水を打ったように静かになった。
22 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時11分39秒
「うん、理由は仕事の量のことなんだけど。やっぱモーニングとソロの両方はきついじゃん?
 それでも今までは頑張ってきたよ。だけど最近より一層モーニングが大変になってきたから
 私の体がついていかなくてさ。だからどっちかにしようと思ったの。そうしたら昔から
 やりたかったソロをとって、モーニングの方は辞めよっかなって」
「そのことはつんくさんやマネージャーにはもう言ったのか?」
「ううん、初めはやっぱりいちーちゃんに相談しようと思ってたからまだだよ」
後藤は真剣だったが、市井は何故か少し笑っていた。
「いちーちゃん何が可笑しいの?私本気で悩んで相談したのに」
「くくくくくく、あっ、ごめん、ごめん」
と言うと市井は笑うのをやめ、こう言った。
「私は今の聞いてて素直になら辞めればいいじゃん?って思ったよ。
 だって自分の気持ちに素直になることは大事なことじゃない?
 後藤はモーニングをやめてソロの道を選ぼうとしてるんでしょ?」
「うん、そうだよ」
「ならそれでいいと思うけどなぁ」
市井は後藤に微笑みかけながらそう言った。
23 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時12分10秒
後藤はその一言で決心したようで
「うん、いちーちゃんありがと。私自分の気持ちに素直になることにする」
「そうそう、それが一番だよ。いつもの私とベットの中にいるときと同じように・・・」
「じゃあ善は急げだ。今からつんくさんのところに行ってくる」
「はぁ?何言ってんだお前」
市井は呆気にとられていた。後藤が単純なのは知っていたがここまでだとは
思ってもいなかったからだ。
「マジっすか?」
「まじっす」
「人気があるお前を簡単に辞めさせてくれるとは思わないけどなぁ」
「まじっす」
「やっぱ今日は辞めとけよ。せっかく二人でいられる滅多にない機会じゃんか。
 そんなのはいつでも言えるだろ?」
「早く言わないと気持ちが変わるかもしれないからいや」
後藤の顔はさっきにも増して真剣であった。
呆れた市井は
「もういい、わかったよ。今から言って来い。そのかわり私は一緒に行かないぞ。
 そういうことは一人で片付けてこなきゃいけない問題だからね」
「え〜意地悪だな〜、下で待っててくれればいいから来てよ〜」
少し拗ねている市井はその言葉を聞こうとはしなかった。
「嫌だよ〜ん。私は今から寝るのだ。おやすみ〜」
      ・・・ZZZ・・・
そういうと市井は本当に眠ってしまった。
24 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時12分42秒
「いちーちゃんの意地悪〜。いいもん、一人で行ってくるもん」
後藤はそう言うと家を出ていった。

そしてこの判断が二人を狂わせることになるのだった。

「ん、ん〜結構寝ちゃったな〜、あ〜あもう1時過ぎてんじゃんか
 ったくせっかく二人とも休みなのに後藤は何考えてんだか。
 まぁそんなところも可愛いんだけどね」
市井はその場でにやけながら呟いていた。

市井はお腹が減ったので台所に向かおうとしたが
「そうだ、今日は後藤が作ってくれるんだった。もう少し待たなきゃいけないじゃんか。
 くそ〜腹減ったな〜、よしこんなに待たせてるんだから思いっきりうまいもんでも作らせるかな」
市井は立ち上がっていたがもう一度ソファーに座り、側にあった男性ファッション雑誌を手に取り読み始めた。

市井が起きてから2時間がたっており、時計はもう3時を回っていた。
もうとっくに帰ってきてもいい時間だった。
往復の時間、話し合いの時間を含めても3時間あれば充分のはずだった。
もし話しが長引いていたとしても後藤のことだから
電話で連絡でも入れるはずだった。
しかし連絡はまったくなかった。
25 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時13分15秒
その時市井は変な胸騒ぎがした。もしかして後藤に何かあったのか?
市井は胸騒ぎを通り越し、既に悪い予感がしていた。

このままじゃいけない!
市井はすぐに身支度を整え、後藤が向かったであろうつんくがいる事務所へ向かおうと
家を出たその時だった。

「・・・・・・後・・藤?」
目の前には朝見た時からは考えられない姿をした後藤がいた。

服はボロボロになって誰かに破られたようになっており、
整えられていたはずの髪の毛もボサボサになっていた。
そして何より変わっていたのは後藤自身だった。
後藤は体からすべての力が抜けてしまったようになっていた。
そして涙を大量に流したらしく、顔はくしゃくしゃになっていた。
「・・・・・・いち・・ちゃ・んごめ・・ん・な・さ・・い」
後藤はその場に崩れ落ちた。ここまで来れたのが不思議なくらいだった。
市井はそんな後藤をしっかり抱きかかえると
「おい、後藤!しっかりしろ!何があったんだ?」
市井は体全体が震えていた。それは何かに怯えているのではなく
後藤をこんな風にした何かへの怒りからだった。
26 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時13分48秒
後藤は市井に抱きかかえられたことで少し落ち着いたのか、今までにあった
出来事を話し始めた。
「私、ちゃんとつんくさんの所に行って話したんだよ。モーニングとソロの両立は
 難しいから、今までよりソロ頑張りますんでモーニングを辞めさせてくださいって」
「うん、それで?」
「そしたら、始めはニコニコしてたんだけど急につんくさんの表情が変わって、
 そんなん駄目やって言ったんだ。だけどね、私も決めてたから言ったの。
 何で駄目なんですか?私はソロがやりたいんですって」
「うん、うん」
「そしたらつんくさんがいきなり私に掴みかかってきて、こうやって言ったんだ。
 お前は誰のおかげでソロやれてると思ってんねや?って。だから私は自分の
 頑張りが認められたからじゃないんですか?って言ったんだ。だって私
 頑張ったんだもん」
「そうだよね」
市井は淡々と話す後藤を見ていると涙が目に溜まってきているのがわかった。
27 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時14分20秒
「それでね、つんくさん私を押し倒して、お前はホンマにバカやなぁ、お前の頑張り
 程度でできるわけないやろ?素直に俺の言う通りやっとけばええねん。って。
 私そんなこと聞いたらなんか今までのことがバカらしくなってきて・・・」
「・・・・・・」
市井はもう黙っていた。
「とにかくもうモーニング娘。は辞めることにしたんです。ってもう一度言ったら
 つんくさんがもう口で言ってもあかんみたいやなぁ、俺に逆らうとどうなるか
 教えてやるでって。私逃げようとしたんだけどやっぱり力じゃかなわなくて・・・。
 それで大声だしたんだけど最後に、大声出しても無駄や、ここは防音になってるからな、
 外には何も聞こえへんって言うと・・・・・・」
後藤はまた泣き出しそうになっていた。少し間をおいてからもう一度
「いちーちゃんごめんね。私がわがまま言ったせいでこんなことになっちゃって」
辺りは奇妙なほど静かだった。

「・・・さない、絶対に許さない」
あやふやだった市井の怒りの矛先は、今完全につんくへと向けられていた。
市井は何も言わずに後藤を自分の部屋に運ぶと、すぐにソファーに寝かせた。
「いちーちゃん?」
「ちょっと待ってろ、すぐ戻ってくる」
後藤からは見えなかったが、市井は何かを持ち出すとそのまま家を出ていった。
28 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時14分51秒
そこには楽しそうに笑っている男がいた。
「ふふふふふふ、ここんところ随分ご無沙汰やったから最高やったわ。しかもああいうのはたまらんな〜」
「何が最高なんだ?」
市井はそう言うと少し開いていたドアをゆっくり開けその部屋へと入っていった。
「何や市井やないか、そんなおっかない顔してどないしたんや?」
つんくはさっきまでのことなど知らないといった感じでそう市井に尋ねた。
「どうしただと?」
市井は怒りを言葉にのせるように言った。
「おい、お前は後藤に何やったかわかってんのか?」
市井の目は既に殺意に満ちており、もう張り詰めた糸が切れる寸前であった。
つんくはそれがさも面白いと言った風に
「ハハハハハハ、何やもうバレてしもたんかいな。しゃーないな〜」
つんくはいとも簡単に認めた。そして
「あぁそうや、一言だけ言っとくわ。ごちそうさん」
つんくは勝ち誇ったようにそう言うと座っていた椅子の向きをクルっと変え、市井に背を向けた。
29 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時15分23秒
『ごちそうさん』
この一言で市井の怒りで張り詰めていた糸がプツンと切れた。
その時の市井はもはや感情のみでつんくの首をめがけて飛びかかっていた。

ドスッ
「うっ・・・」
鈍い音が部屋の中に広がった。
つんくの首からは赤い液体がまるで噴水のように噴きだしていた。
当然市井はその返り血を浴びていた。返り血が温かくなかったのは何故だったのだろう?

ふと我に返った市井は慌てて刃物から手を放した。
つんくは即死しておらず、首に刃物が刺さったままこちらを向くと笑っていた。
「ほ・・んま・・バ・カ・・・やな・・。こない・・なこ・として・た・だですむと・・・お・もうな・よ・・」
つんくは最後の力を振り絞るようにそう言って机の上にあった緊急時用のボタンを押すと
机の上に倒れ動かなくなった。

つんくは死んだ。
30 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時15分53秒
市井は自分が何をやったのか記憶になかった。ただ目の前には自分が持ってきた刃物が
つんくの首に刺さっており、そこから血を流して死んでいる光景があった。
市井はその状況から頭の中を整理し
「もし・・かし・・て、私が・・殺したの?」
市井は自問自答をしていた。
すると扉から大きな男たちが急いで入ってきた。
「どうされました、つん・・・」
男たちは部屋に入った瞬間に言葉を止めた。いや、性格には止めざるをえない状況だった。
血の海の中で死んでいるつんくと目の前にいる血まみれの市井を見て・・・。

その間はゆうに30秒ぐらいはあっただろうか。
男たちは事態をやっと飲み込んだらしくすぐに
「警察へ連絡だ!」
と言って警察に連絡するためあわてて走っていった。
市井はその場から動こうとしなかった。
その後市井は駆けつけた刑事に連行された。
31 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時16分28秒
その頃、市井の家で後藤はずっと泣いていた。
市井といた時は、その温かさで止まっていたものの
また一人になり、さっきのことが頭をぐるぐると回っていたからであった。
「いち〜ちゃ〜ん、どこ行っちゃったの〜、早く帰って来てよ〜」
後藤は何度もそう繰り返していた。
ドンドン!
「いちーちゃん?」
後藤は市井が帰ってきたのだと思い、いきよいよくドアを開けた。
「いちーちゃん、遅・・・」
後藤の目の前にいたの市井ではなかった。
「警察のものですが、後藤真希さんですね?」
「はい、そうですけど」
相手が市井ではないことで後藤はがっかりしていた。
「あなたに少しお伺いしたいことがありますので署まで来ていただきたいのですが」
「んぁ?どういうこと?私いちーちゃんが帰ってくるまで行かないよ」
それを聞くと刑事は優しそうに答えた。
「大丈夫だよ。その市井とやらも来てるから」
「なら行く〜」
事態を知らされていない後藤は快くパトカーに乗りこんだ。
そして泣いていたのが嘘のように後藤の顔は笑みに満ちていた。
それはさっきまでのことを忘れてしまうぐらい市井に会えるのが嬉しかったからだろう。
一足先に後藤は警察署で取調べを受けていた。
32 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時17分01秒
市井はパトカーの中で考えていた。
果たして自分のとった行動は正しかったのかということ。
せっかく叶った夢を台無しにしてしまったということ。
そして後藤はこんなことを私がしたと聞いたらどんな顔をするのだろうということ。
市井の頭の中は混乱していた。
市井がそんなことを考えている間にパトカーは近くの警察署に着いた。
取調べが行われるようだった。
まだマスコミには知られていないらしく、そういったものが回りを囲むこともなかった。
市井は二人の刑事と所の中へと入っていきその刑事たちに連れられるまま取調べの部屋に向かった。
ふと近くの部屋を外の窓から覗くと市井の他にも取調べを受けている女の子がいた。
よく目を凝らして見るとそれは後藤だった。
「どういうことですか?」
市井は刑事に聞いたが刑事は答えようとしなかった。

そして市井は別の部屋に案内された。
部屋に入って市井は少し妙に思った。
何故か部屋の中には大きな機材のようなものがあったからだ。
よくテレビでこういう場面のものを見るがこんなものはないはずである。
しかし取調べが始まったのでそんなことは考えないことにした。
33 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時17分33秒
市井はもう正直にすべて話そうとした。
だが取り調べは何故か今回の事件と関係ないようなことしか聞かれなかった。
それに市井はしっかり答えていたが、その間にまた嫌な予感がしてきた。そうさっきのような・・・

取調べはわけがわからないままあっという間に終わった。
市井はこんなんで何がわかるんだ?といった感じだったが刑事たちは満足そうだった。
そして市井は部屋を出ると後藤のほうも終わっていた。

市井が後藤のほうへ行こうとするとさっきの刑事が来て
「あ〜お前らお疲れさん。もう帰ってもいいぞ」
と言ってきたので私たちは一緒に帰とうとしたが
生憎二人とも外で歩けないような服だったので
そこで服を借り、手をつないで帰っていった。
市井も後藤も絶えることがないような笑顔であった。

その帰り道、信号で待っている時に市井は後藤に聞いてみた。
「ねぇ後藤。刑事さんに私のこと聞いたよね?」
「あっ・・・うん、まぁね。でも大丈夫だよ。もしいちーちゃんが捕まっちゃっても
 私はずっと待ってるもん。私はいちーちゃんの味方なんだから」
「ありがとうな」
市井はしっかりと前を見つめていた。
34 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時18分03秒
家に着く頃にはもう夜であった。
その日心身共に疲れた二人は倒れるようにして
眠りについた。もちろん二人で一緒に。

明くる日の朝、二人は朝早くから起きていた。
市井は起きてすぐにテレビを点けニュースをみたがそれらしいことは
まだ放送されていなかった。
一方後藤は凄い量の朝ご飯を作っていた。
それもそのはず、二人は昨日の昼から何も食べていなかったのだから。

そしてそれは突然やって来た。

ピンポーン
「は〜い、いちーちゃん出てきて。私今忙しいから」
「おう、ていうかこんな朝早くから一体誰だよ」
市井はそう言いながら玄関へ向かった。
「はい、どちらさまですか?」
「警察の者だ」
市井はスッとドアを開けると、いきなりがっちりとした男にこう言い渡された。
「市井紗耶香、並びに後藤真希、二人を殺人罪で逮捕する」
「はぁ?」
35 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時18分35秒
あの後事態は思わぬ方向に動いていたのだ。
何とつんくは死ぬ前から、今まで稼いだ莫大な金の一部をを警察やら裁判所やらに
渡しており、もしつんくに何かあったらそれなりの処置を施すよう根回ししていたのだ。
世の中は狂っていた。金というものがすべてを握っていた。

市井の頭にはつんくが最後に言った言葉が蘇ってきた。
(ほ・・んま・・バ・カ・・・やな・・。こない・・なこ・として・た・だですむと・・・お・もうな・よ・・)
しかし一つの謎があった。
市井はともかく何故後藤も殺人罪となっているのか。

するとすぐに戻って来ない市井を迎えに来るように後藤もやって来た。
「ねぇ、いちーちゃんどうしたの?」
「後藤・・・私たち殺・・・」
「あ〜言い忘れたが多分お前ら死刑だからな」
目の前の男は二人の間に割って入るように言った。
「・・・死刑だってさ」
力なく市井は言った。
後藤はわけがわからない様子で
「何で?何で?わけわかんないよ、どうなってるのよ!」
男は静かに口を開いた。
「お前らは何にもわかっちゃいねえな〜、つん・・・」
「だからって後藤は関係ないだろ!」
市井はスッと立ち上がるとそう叫んだ。
36 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時19分07秒
すると男は大声で笑いでした。
「口で言ってもわかりそうにねえな、おいちょっと」
男は近くの若い刑事にそう言うと、若い刑事はラジカセを持ってきた。
「よ〜く聞けよ」
男は再生ボタンを押した。
ポチ
「・・・・・・俺は市井と後藤に殺されたんや。頼む、捕まえてくれ。・・・」
ポチ
「ほ〜らな」
男は得意そうに言った。
しかしその場にいた市井にははっきりわかっていた。
つんくがこんなことを言っていないことに。
しかもあんな状況でこんなに落ち着いて声を残せるはずがない。
「それは本人の声じゃないだろ?どういうつもりだ」
「正真正銘これは本人の声だよ」
しかし市井は引き下がらなかった。
「違う、こんなこと死ぬ間際に言ってなかったぞ」
男は市井にそう言われるとやれやれという感じで
「う〜ん気づかれたか〜、まぁ厳密には本人が言ってない言葉なんだがな。
 でも他の人は状況を知らないからこれで随分通用するんだよ。ついでだから
 これも聞かせてやろう」
市井と後藤は黙って男の言うことを聞いていた。
37 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時19分38秒
カシャ、カシャ、ポチ
「はい、私が殺しました。それで・・・」
市井が言ってもいないことがベラベラと「市井の声」で話されていた。そして
「じゃあ次ね」
カシャ、カシャポチ
「え〜とつんくさんを殺したのは〜ずっと前から一緒に計画を立てて〜」
ポチ
「はい、どうだ?完璧だろう」
男はさっきよりも大きな声で笑い始めた。
市井も後藤も言葉を失っていた。

「今は便利な世の中になったもんだ。こんなことが一日でできるんだからな。
 どうやるか特別に教えてやるよ、どうせ死んじまうんだからな。
 お前らの部屋にでっかい機材あっただろ?あれでお前らの声を拾うんだ。
 色々な発音とかあるから答えさせるのには苦労したけどな。
 それで採取したお前らの声を周波数に・・・」
市井があの時感じていた悪い予感は見事に的中していた。
38 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時20分13秒
「もういい、わかったよ」
「そうかぁやっと認めたようだね、現実というものを。あぁそれとお前の質問に答える
 のを忘れてたな。何で後藤もなのかってあれ、それはお前に嫌な思いをさせるため。
 何よりも大好きなその子を死刑にしちまうってことは耐えられないだろ?ん?
 まぁどうせお前も死ぬんだけどな。
 後藤さんには少し悪かったね〜」
そう言うと男はおい連れて行けと他の刑事たちに命じ、去っていった。
二人は後からきた刑事に連れられて家を後にした。

階段を下りていき、パトカーに乗ろうとするとさっきのがっちりした男が言った。
「そうそう、もう一個言っておくけど裁判とか起こしても無駄だからね。
 さっき聞かせたテープは最後まで聞くとよっぽど悪いことしたみたいになってて
 ちゃんとこっちでうまくつじつま合うようにしといたから勝ち目ないよ。
 まぁもし裁判したとしても念のため裁判官につんくさんの残した金で裏から
 操ればいいわけだから」
市井はもう口を開こうともしなかった。
ただこんな風に金によって動いているこの国に激しい嫌悪感を抱いていた。
いっそのこと本当に死ねばいいやと思った。
しかし車で先に乗って待っていた後藤に
「いちーちゃん、私たちはずっと一緒だからね」
と言われたので、市井はその考えを自分の中から捨てた。
(私には後藤がいれば・・・)
後藤も思っていた。
(私にはいちーちゃんがいれば・・・)

そして市井はすでに違うことを考えていた。二人でこんな国からおさらばしようと。
39 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時20分43秒
その後すぐにこの事件が日本中に広まったのは言うまでもない。
もちろんプロデューサーを失ったモーニング娘。やつんくのプロデュースにより
活動していたグループは解散という形になった。

これが二人が捕まってしまった理由であった。
そして現在に至る。
40 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時21分20秒
二人は人混みの中をひたすら走っていた。
市井は当時のことを思い出したのか
「ごめんな後藤、私のせいでつらい思いしちゃったよな」
そんな市井の気持ちとは裏腹に後藤は
「ん〜ん、全然だよ。私はいちーちゃんとずっといられるようになったんだから
 逆に嬉しいぐらいだよ」
市井はそんな後藤を見ているとなんだか元気になってきた。
「私もだよ」
「えへへ、嬉しいな〜」
「それより何はともあれ、モーニングを解散させてしまったのは私のせいだからちょっと会いにくいなぁ」
「大丈夫だって、モーニングのメンバーは私たちが話せばわかってくれるよ」
後藤はずっと前向きな考えを持っていた。
(後藤に今になって教えられるものがあったな)
市井はクスっと笑って
「だといいけどな」
と言った。

二人の会話はそこで終わり、自分たちのよき理解者であり、市井のライバルでもあった
保田の家へと着実に向かっていた。
41 名前:zoh 投稿日:2002年04月06日(土)19時24分45秒
>>18-40
え〜お待たせしました。今回更新分です。
やはりすごい大量になってしまいました。
ストーリーは殆ど進んでいないんですが、大事なところなので
ぜひ時間が許す方は読んでいただきたいです。

>>17名無し読者さん
緊張させっぱなしの作品になるような気がします(笑
42 名前:no-no- 投稿日:2002年04月06日(土)20時57分13秒
大量更新お疲れ様です。
さんずけは気にしないで下さい。(むしろ無くてもかまいません)
やっぱり、最近少なかったから新鮮です。
緊張させっぱなしですか期待してます。
いつもは携帯で見てるのであまりレスは出来ませんが、ちゃんと見てる(はず)
なので頑張ってください。続きお待ちしてます。
43 名前:dylight 投稿日:2002年04月07日(日)18時23分32秒
面白いでございます!
個人的には改行がもちっと多いほうが読み良いような・・・すんません!

頑張って下さい
44 名前:zoh 投稿日:2002年04月09日(火)18時18分18秒
二人はあの休憩の後からずっと走り続けていた。
交通機関を使えばどれだけ楽なのかは十分承知していたが
何せ二人にはお金がなかった。

(こんなに走ったのはいつ以来だろう、ピンチランナーの時以来かな?)
二人は同じようなことを考えていた。

途中、大きな公園を通り過ぎようとしてふと、そこにある時計を見た。
8時50分。
とっくに二人が逃げ出したことに気づいている時間帯であった。
45 名前:zoh 投稿日:2002年04月09日(火)18時19分06秒
市井は明日あたり全国に広まるであろう今日のことを考えると、
夜中も走って何とかニュース等がが流れるまでには保田の家へ着きたかった。

市井は少しペースを上げようとした。そして後藤にそのことを言おうとすると
後藤がいなかった。

市井はすぐに足を止めると、もうすぐ公園を通り抜けられるという位置から
引き返した。

「ご〜と〜、どこ行ったんだ〜」
辺りに通行人らしき人は誰もいなかった。ただ街灯だけがしーんと公園を照らしていた。
46 名前:zoh 投稿日:2002年04月09日(火)18時19分39秒
5分ぐらい探しただろうか、もう市井は公園の入り口付近まで戻っていた。
「ご〜と〜、あっ!」
後藤はその入り口付近で体育座りをしていた。

「おい、後藤。どうしたんだよ。急にいなくなったから心配したぞ」
市井はゆっくりと後藤に歩み寄って行った。

「だっていちーちゃん速いんだもん、ついていけないよ。もう少し私のことも考えてよ」
市井は後藤と同じ目線になってから
「そうか、そうだったな。私ちょっと考え事してたから先行っちゃったんだ。ごめんよ」
市井は後藤に微笑みながら優しく言った。

しかし後藤はまだ機嫌が悪そうであった。
「私ちょっと怖かったんだよ、誰もいないしさ、いちーちゃん先行っちゃうし」
市井は後藤を見つめていたが、後藤の視線は地面に向けられていた。
47 名前:zoh 投稿日:2002年04月09日(火)18時20分25秒
「ねぇ、いちーちゃん聞い・・・」
その時後藤を何かが包み込んだ。
ふわりとしていて温かい。このぬくもりは市井以外には考えられなかった。

「本当ごめんな。後藤に怖い思いさせちゃった分今日はずっとこのままでいるよ」
後藤からは市井の腕しか見えていなかったがそれで十分であった。

「いちーちゃん、あったかい」
「私もあったかいよ」

二人はお互いのあたたかさを感じながらそこで眠った。

逃亡生活1日目の夜はゆっくりと更けていった。
48 名前:zoh 投稿日:2002年04月09日(火)18時27分40秒
>>44-47
今回更新分です。ちょっと少ないですね。
だけどこれからはこんなペースでいくつもりなんで
ご了承ください。

>>42no-no-さん
一応読んでくれている方はさんづけでいきたいと思います。
何か失礼な気がするんで。
あと今回はこの前言ったにも関わらずこんな流れになってしまいました。

>>43dylightさん
>面白いでございます!
そう言っていただけると大変嬉しいです。有難うございます。
>改行がもちっと多いほうが読み良いような
ご指摘有難うございます。全然こういうのは有難いです。
今回は改行多くしてみましたがいかがでしょう?
今度は多すぎだったりするかもしれません(笑
49 名前:no-no- 投稿日:2002年04月11日(木)16時45分24秒
ちょと拗ね気味のごまが何かいい感じです。
全然読みやすいですよ。
更新待ってます。
50 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時53分47秒
「う〜ん」
先に目を覚ましたのは後藤であった。
市井は後藤に覆い被さるようにして眠っていたので
後藤は市井を起こさないように少し顔を上げ辺りを見回すと、
まだ完全に夜の状態であった。

こんなに早く起きるようになったのも生活習慣が思い切り変わったからであろう。
時計を見ようにもその位置から時計は見えなかった。

(ずっとこうしていたいな)
後藤はそんな風に考えていた。すると急に耳元に妙な感覚が

「あ、、あん、、」
後藤の耳元に市井の寝息がかかった。
「スースー」
市井はそんなことも知らずまだ眠っていた。そしてまた、
「あん・・・」

後藤は我慢ができなくなって少し震えた。
「ん、んん?あぁ?」
市井はその振動で目を覚ました。
51 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時54分19秒

「あ、ごめんねいちーちゃん。起こしちゃったね」
「いや、別にいいよ」
市井は後藤から離れ立ち上がると、時間を確認した。

「う〜ん5時か、丁度いい時間じゃん。起きれてよかったよ、ありがとな後藤」
「えへへへへへ、褒められちゃった」
後藤は嬉しそうに笑った。

すると市井はすぐさま準備運動を始めた。
「え〜もう行くの〜?」
後藤は不満そうであった。
まだ起きて10分たったかたっていないかである。

「当たり前じゃん、もうそろそろ私たちのことバレてるかもしれないし。
 それに圭ちゃん家までまだあと3時間近くあるんだよ。休憩だっているだろうし・・・」
市井は後藤にわかってもらえるように丁寧に話した。
52 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時54分50秒

それでようやく後藤は本当に自分たちが逃亡者だと自覚し始めたようであった。
「そうだね、私もう捕まりたくないもん、行く」
後藤は元気よく立ち上がり市井と一緒に体操を始めた。

「いち、に、さん、し」
「ご、ろく、しち、はち」
体操が終わり、二人は準備を整えると公園を後にした。

まだ空は真っ暗であった。

周りはとても静かであった。朝早いのだから当然であろう。車もあまり
通っておらず、たまにすれ違うと言えば、朝から散歩をしているだろう老人だけであった。

市井は後藤のペースを考えながら走っていた。
人があまりいないといっても慎重に道はできるだけ裏道を使った。

「いちーちゃん、ちょっと・・・」
「うん?大丈夫か?よし、ちょっと休憩でもとるか」
二人は丁度近くにあった神社に入るとそこで休憩をとった。
53 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時55分50秒

市井はちらとそこにあった時計に目をやった。
「・・・7時か、あと1時間ちょいかな?」
市井はまだ元気だったが、後藤は大の字になって倒れていた。

10分ほど休憩すると、市井は立ち上がった。
「ほら、そろそろ行くよ」
市井は後藤を起こしたが、後藤は元気がないようだった。
「どうした、後・・・」
「グー」

「いちーちゃん、お腹減ったよ、もう動けない」
「後藤、何言って・・・」
「グー」
「ほら、いちーちゃんだってお腹空いてんじゃん」
「・・・・・・」

二人はいつも6時30分に朝食を食べていたのでお腹が減ってもおかしくなかった。
市井も少し元気がなくなったが、それでも気持ちを入れなおし
「とにかく、圭ちゃん家行って圭ちゃんいたら何とかなるかもしれないからそれまでは
 我慢だよ、な?」
「我慢できな〜い」
後藤はいつもの後藤に戻っていた。やはり空腹には耐えられないのだろうか
54 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時56分26秒

「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「えっとね〜えへへ」
なにやら市井は感づいていた。
「いちーちゃんのチューが・・・!!?」

後藤が言い終わる前に市井は後藤の唇に唇を重ねていた。
そして市井は少し舌を出し始めた。
後藤もそれを感じ取り口を少しずつ開け舌を絡ませる。

「「チュパ、チュパ、ジュルル・・」」
二人がお互いを味わっているのがよくわかる。
そして二人は長いキスを交わした後、ゆっくりと唇を離した。

「これでお腹いっぱいになっただろ?」
市井は満足げな表情で後藤に言った。
「うん、お腹いっぱい。いちーちゃんもでしょ?」
「まあな、そら行くぞ」

二人はまた走り始めた。
55 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時56分56秒

それからも何度か小休憩を取りながら二人は向かっていた。
そして待ちに人が行き交うような時間になる頃、二人は保田が住んでいるであろうアパートに着いた。

「ふえ〜疲れちゃったよ、いち〜ちゃ〜ん。お腹も減ったし〜」
「私もだよ。もし圭ちゃんいなかったらやばいね」
市井は後藤を気にして笑ったが、少し引きつっているようにも見えた。

この3階建てのアパートには当然エレベーターがない。
保田がいるであろう302号室まで行くのにも一苦労であった。

やっとの思いで3階にたどり着く。
二人は302号室まで来ると、上にある表札を確認した。
『保田 圭』
まだ保田はここに住んでいた。

二人はお互いの顔を見合わせた後、一緒に部屋のチャイムを鳴らした。
「ピンポーン」
「・・・・・・」
反応はなかった。

もしかして・・・不安がよぎる。しかしもう一度チャイムを鳴らした。
「ピンポーン」
「・・・・・・」
またしても反応はない。市井は少しむきになってチャイムを鳴らし続けた。
56 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)18時57分27秒
「ピンポン、ピンポン、ピンポン・・・」
すると
「誰よ!こんな朝からチャイム鳴らすのは!こっちは休みなんだからちょっとは・・・」
「圭ちゃん・・・」
市井は少し涙が溜まっているようであった。

保田は突然のことで驚き、すごい目で二人を見た。
そして、全身を見回した後
「・・・紗耶香・・・後藤・・?」

三人は再会を果たした。
57 名前:zoh 投稿日:2002年04月14日(日)19時01分02秒
>>50-56
今回更新分です。前回からちょっと更新に時間がかかりました。
これからも遅くなったらすみません。できるだけ早めに更新したいと思っています

>>49no-no-さん
いつもレス有難うございます。
放置は絶対しないんで気長に待ってやってください(笑
58 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月14日(日)21時52分17秒
いちごまだぁ〜!!
お互いのキスでお腹がいっぱいになるとこは
ニヤニヤしながらよんでしまった(w
zohさん期待してます、頑張ってください☆
59 名前:no-no- 投稿日:2002年04月14日(日)22時35分54秒
チューでお腹いっぱいになるのか、愛の成せるワザですな。
1ヶ月くらいなら普通に待ってたりするので
気にせず作者さんのペースで書いて下さいな。
60 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時48分14秒
「あんたたち・・・、何しに来たのよ」
「えっ?」
市井は保田の思いもよらぬ言葉に動揺した。
もっと自分たちのことを温かく迎えてくれると思っていたからだ。

「何って私たち圭ちゃんに・・・」
「関係ないわ・・・バタン!」
後藤も保田に話かけたが、有無を言わさないとばかりに保田は
部屋に戻っていてしまった。

「「・・・・・・」」
二人に沈黙が流れた。

先に口を開けたのは市井だった。
「やっぱりこうなっちゃったね。圭ちゃんに話聞いてこらえないみたいだよ」
後藤はコクリと頷く。
「どうしようかなぁ。お金もないし、近くではもう頼れそうな人はいないし」
市井も後藤もこの先の不安でいっぱいであった。
61 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時48分46秒
「お腹・・・減ったね」
「ああ」
会話も途切れ途切れであった。あれからどれほどたったのだろうか、急に目の前のドアが開いた。
「ったく、いつまでたっても世話のやける子たちだね〜」
さっきまでの雰囲気とは違う保田が出てきた。

「えっ?」
「だってお金はないし、お腹も減ってるんでしょ?」
「圭ちゃん・・・・・・聞いてたんだね」
「ふふふふ、まあね。ちょっと意地悪してみたかったからさ、ほら二人とも入りな」
「今は意地悪とかしてる場合じゃないでしょ・・・」
市井は力が抜けたようだったが、昔と変わらない保田のままであったことが嬉しかった。
もちろん後藤もそうであった。

「まさかあんたたちが私の家に来るなんてね〜、そのままどこかへ行っちゃうかと思ったよ」
保田は何げなくそう言い、リビングへ二人を案内した。
「ほら、ちょっとこれ見てみなよ」
二人の前に新聞が出された。
62 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時49分26秒
『元市井CCの市井紗耶香、元モーニング娘。の後藤真希ら二人が脱走』
一面にそう書かれた新聞に市井は飛びついた。
後藤もそれを後ろから覗き込む。

「ん?どうしたの?紗耶香」
保田は新聞に釘付けになっていた市井に声をかけた。
「元市井CCってことは・・・解散しちゃったのかな?そうだとしても不思議じゃないよね。私がいなく
 なっちゃったんだから。二人には迷惑かけちゃった」
市井はその場でわびるように呟いた。

「そうだ、そういえばあんたたち何でこんなことになっちゃったの?どうも私の中ではテレビや雑誌
 のことが信じられないっていうか、どうにも腑に落ちないんだけど」
後藤はいつの間にかテレビを点けていた。
「ねぇねぇいちーちゃん。ほらテレビでもやってるよ」
保田と市井はそっちへ目を向けた。
63 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時49分56秒
『元市井CCの市井紗耶香、元モーニング娘。の後藤真希ら二人が脱走』

同じことが書かれていた。
「圭ちゃん、全部話すよ。ちょっと後藤、テレビ切ってこっちおいで」
「は〜い」
後藤はテレビを切ると二人の方へやってきた。
「・・・・・・」
少しの沈黙が三人の間に流れた。

「ちょっと長くなりそうなんだけど」
「全然いいよ」
「実は・・・」
市井は今までのことを全て話した。
本当は言い出したらきりがないほどだったが
上手く今までの流れを説明した。
64 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時50分26秒
後藤のこと、つんくのこと、警察のこと、
この日のためにどんな風に過ごしてきたかということ、
そして今後のことを。
「・・・というわけなんだ。信じてくれる?ってのも変だけどどうかな?」

「う〜ん、そういうことだったんだ。私は紗耶香の言ったこと信じるよ。だって付き合い長かった
 んだから本当か嘘かくらいわかるよ」
「ありがと」
「それより後藤。娘。辞めたかったのなら私に相談してくれればよかったのに」
「ごめんね〜圭ちゃ〜ん。やっぱ言いにくかったからさ」

「それにしても二人とも色々大変だったみたいだねぇ。なんか平和に暮らしてた私が
 悪いみたいだよ」
「そんなことないよ、圭ちゃんがこうやって話を聞いてくれただけで本当に私は嬉しいよ」
「そう?」
フフフと保田は笑った。
65 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時50分56秒
三人はそんな和やかな雰囲気の中で色んなことを話した。
その話は二人が知らない間の世の中の動きについての話が大半であったが
昔の懐かしい話もしていた。
「ハハハハハハ」
「そうだね〜」
「フフフフフ」
ひと時の休息が訪れたかのように楽しく、また落ち着いていた。

そんなこんなで時間を気にするのも忘れており、
辺りはもう真っ暗のなっていた。
「意外と圭ちゃん家は安全だよな〜」
「そうだね、警察からは何の連絡も来ないし、パトカーの音も聞こえないしね」
「それって盲点ってやつじゃない?」
「おぉ、後藤よくそんな言葉知ってたなぁ」
「ぶ〜、それぐらい知ってるよ、バカにしないでよ〜」
「アハハハハハ」
66 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時51分27秒
「今日はもう遅いし、あんたたち泊まってくんでしょ?」
「う〜ん、そうしようかな。ね、後藤?」
「うん、そうしようよいちーちゃん」
「でも明日になったらまたどっか行っちゃうんだよね〜。せっかく久しぶりに会ったのに
 また会えなくなるなんて寂しいな〜」
保田は布団を敷きながらそう言った。

「ごめんね圭ちゃん、それでも落ち着いたら連絡するからさ」
「そうしてくれると有難いよ」
「それじゃあもう今日は早く寝ようか。朝早く起きないと人目につくでしょ?」
「何から何まで圭ちゃんには頼りっぱなしで悪いな〜」
「何言ってんの、同じ千葉っ子じゃない」
「そうだね、それじゃあ」
「「「おやすみ〜」」」

三人は眠りについた。
67 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時51分58秒
「ねぇ、圭ちゃん。やっぱり怒ってる?」
「何が?」
市井と保田はあの後少し話をしていた。
「ほら、モーニングなくなっちゃったじゃん?あれのこと」
「あぁ別に今はなんとも思ってないよ。今日二人のこと見て、話聞いたら
 なんかそんな中でモーニングやってたのがバカみたいだったなって思ってたし。
 これでよかったのかもしれないよ」

「圭ちゃん優しいんだね」
「ちょっと大人になっただけだよ」
「私は何にも変わってないのにね」
「ううん、紗耶香は強くなったと思うよ。だからこれからも後藤のことを守って
 あげなきゃいけないよ。ほら、後藤見てみ、すっごくいい顔で寝てる」
68 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時52分31秒
市井は隣で寝ている後藤を見る。
「ZZZ・・・」
後藤は安心したように眠っていた。少し笑っているようにも見える。

「紗耶香頑張ってると思うよ、ただ無理はしないようにね。二人が幸せになれるよう願ってるよ」
「・・あり・・・がと」
市井はそんな保田の話を聞いていたら涙が出てきた。
ヒクヒク言っていたので、保田には市井が泣いているのがわかっているはずであった。
しかし保田は気づかないようなふりをしていた。

「もう寝なよ、明日は色々準備しなきゃいけないでしょ?私も出来る限り力は貸すからさ」
「う・・・ん・・・。お休み圭ちゃん」
「おやすみ紗耶香」

市井は久しぶりに弱い自分を見せた。

69 名前:zoh 投稿日:2002年04月25日(木)20時59分52秒
>>60-68
今回更新分です。何かすごく間が空いてしまって、待っていただいていた方には
申し訳なかったです。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

>>58名無し読者さん
いちごまです(笑
最近いちごまが少ないみたいですね。
>zohさん期待してます、頑張ってください☆
力の限り頑張ります。

>>59no-no-さん
>気にせず作者さんのペースで書いて下さいな。
こう言われると嬉しい限りです。なんか安心して書けますから(笑
最近忙しいんですよね〜(泣
70 名前:flow 投稿日:2002年04月28日(日)10時41分49秒
いちごまでこういうちょい暗め(?)な話は大好きです!プッチの絆は固いな〜。
ヒソーリと更新待ってます。作者サンがんばってください!!
71 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月09日(木)00時04分43秒
いちごまだ…(泣
マターリお待ちしてます。
頑張って下さい。
72 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時43分31秒
明くる朝、市井と後藤はほぼ同時に目を覚ました。まだカーテンの隙間から日は射し込んでいない。
二人はまだぐっすり眠っている保田を起こさないように部屋を出て、リビングの真ん中辺りまで来た。
「なんかプッチの合宿の時を思い出すね」
「うん、そういえばあの時私といちーちゃんだけで練習して、圭ちゃん寝てたもんね」
「ちょっと悪い気がしたんだけど、起こしにくかったんからな〜」
「そうそう、ちょうど今みたいにぐっすり寝てたしね」

二人はクスクスと笑っていたが、お世話になった保田に何かお礼がしたいと思い朝食を作り始めた。
「え〜っと冷蔵庫には何が入ってるのかなぁ〜」
後藤は少しかがみながら中を見渡している。
一方料理があまり得意でない市井は食器や道具を出していた。

「で、後藤。何作るの?」
「う〜ん・・・てかこの冷蔵庫ほとんど何も入ってないよ。でもそこにパンがあるから
 サンドイッチくらいはできるかな?」
「圭ちゃんあんまり家で料理しそうじゃないもんね」
「そうだね〜、まぁ悩んでても駄目だから作ってみよう」
「は〜い」
二人はしっかり手を洗った。
73 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時44分03秒
ガタンッ!
玄関の方から何やら音がした。どうやら新聞が届いたみたいであった。
しかしその音は二人には聞こえていなかった。
「いちーちゃん、それパンの切り方違うよ〜」
「え?マジ?まぁいいじゃん見た目は。味で勝負だよ」
「普通のサンドイッチで味に差なんてでるの?」
「う・・・まぁ気持ちの問題だよ」
市井は自分の作ったものを見て苦笑いをしていた。

「中身とかいちーちゃん大丈夫?」
「それぐらい大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「くどいぞ〜」
「ごめんごめん」
そんな風に賑やかにやっていると突然

ガチャ!

「「!!」」
「あんたたちうるさいわよ。こんな朝早くから何やってんの?起きちゃったじゃない」
二人の前にはものすごい形相をした“女の人”が立っていた。
その雰囲気、低い声での言い回しがとても怖かった。
「け・・・圭ちゃん?」」
「何なのよ紗耶香」
74 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時44分35秒
保田の眉間にはそこから見てもわかるほどしわがよっていた。
市井は少し沈んだ表情で
「圭ちゃんごめんね、お世話してもらってばかりで悪いと思ったから朝食作ってあげよう
 と思ってたんだ。逆になんか悪かったね」
と言うと、一転保田の表情は緩み
「そう、ありがと。もうできるの?」
「あ、うん。あと少しかな?」
「それじゃ、もう座って待ってるね」
保田はさっきまでの表情が嘘かのように鼻歌なんかを唄いながら椅子に座った。
市井と後藤は朝の保田は怒らせてはいけないと思った。

そして10分後
「は〜いできたよ〜圭ちゃ〜ん」
「おお、サンドイッチか〜いいね〜。で、この少し形がおかしいのは?」
「それはいちーちゃんが作ったやつで〜す」
「紗耶香も私に負けないぐらいの腕ね〜」
「ハハハハハ、ま、まあね」
「それじゃ食べようか」
「「「いただきま〜す」」」

「モグモグ・・・」
「どう?」
「うん、おいしいよ。このサンドイッチ」
「よかった〜」
「じゃちょっと怖いけど紗耶香の作ったほうも・・・」
保田は手を伸ばすと、市井が作ったサンドイッチを手に取り食べ始めた。

「ん?あれれ?普通じゃん」
「あたりまえだろ〜、そこまでまずいもの作らないよ」
アハハと笑いながら三人はテーブルを囲んでいた。
75 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時45分07秒
しかしそんな雰囲気も保田の一言で少し変わることとなる。
「それで、あんたたちこれからどうするつもり?」
口をもごもごさせながら二人に話しかけた。いつもどおり保田の目には力があった。

「どうするっていうか、あてはないんだよね。唯一あったのが圭ちゃんだったから
 来たんだけどこれからは・・・」
市井は手にサンドイッチを持ったままだった。
「ねぇねぇ圭ちゃん。この近くに他の娘。のメンバーっていない?」
その後藤の一言で市井はようやく止まっていた体を動かし、保田の答えを待っていた。

「う〜んと、この辺のメンバーね〜」
「どう?どう?」
少しあせった様子で後藤がもう一度聞く。
「えっと裕ちゃんでしょ、矢口でしょ、それに吉澤に石川、あとは明日香かな?」
「え?明日香もいるの?」
市井は保田の言葉に過剰な反応を示した。

「うん、知らないと思うけど明日香も復帰したんだよ。私にも連絡きたからさ。
 後藤はあんまり知らないよな」
そう言うと保田はさらさらとそこにあった紙に何かを書き始めた。
「はい、これ住所と電話番号。もし行ける機会があったら寄ってみてもいいんじゃない?」
「ありがと、圭ちゃん。」
市井の嬉しそうな表情を見て後藤は明日香という人物がどんな人か気になった。いや実際は少し
嫉妬していたのかもしれない。
76 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時45分41秒

「で、他のメンバーは?」
「えっとカオリはモデルの仕事やってて、今日本にいないんだ。辻・加護はなんかお笑いやる
 とか言ってたけど、まぁそれは冗談だろうけど」
「それでも皆違う分野で頑張ってるんだね。なのに・・・」
そこで少しの間が空いた。動いている時計の針の音だけが部屋に響いていた。

保田は椅子から立ち上がり二人の後ろへ回った。
「ほら、ほら、二人とも元気出して。まぁ今何もやってない私が言うのもどうかと思うけど
 あんたたちは今からなんじゃないの?これからいい人生を送っていきたいんでしょ?じゃあ
 こんなとこでくよくよしてんじゃなくて胸張ってないと駄目じゃない。それじゃできることも 
 できないよ」
肩をポンポンと軽く叩きながらも強く保田は言った。
二人はその言葉が体を通り越して心に響いたのを感じた。

「ありがと圭ちゃん。なんか元気でてきたよ。な?後藤?」
後藤はうんうんと頷いていた。顔は下に向けられている。
77 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時46分14秒
「じゃあ、もう行くんだね」
「うん、最後に背中を押してくれたのは圭ちゃんだったね。私たちのこと忘れないでよ」
「それはこっちのセリフだよ。あ!ちょっと待って」
保田は奥の部屋に入っていくと何やら大きな荷物を持ってきた。
「はい、ちょっと大荷物になっちゃったけど、着替えとか色んな必要かなって思うもの
 入れといたから持ってってよ。あとちょっとだけどお金も入れといたから上手く使って。
 歩きだけじゃ何かと不便だろうし、ご飯も食べないといけないしね」
「何から何まであり・・・」
「おっと!」
保田は市井の口を手で塞いだ。

「何水臭いこと言ってんの、ありがとはもう聞き飽きたよ。御礼はいいからしっかり
 結果を出してちょうだい」
「うん、頑張る。それじゃあ」
市井は保田と抱き合うと、自分より何か大きいものに包まれたような気がして、今までのすべて
の苦しいことを忘れてしまえるようなそんな気がした。
78 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時46分47秒

「ほら、後藤もおいで」
後藤は保田に呼ばれると、とぼとぼと歩いてきた。
「どうしたの?もしかして私の言葉に感動しちゃった?」
「ち、ちがうんもん。ごみが目に入っただけだもん」
「フフフ、相変わらず後藤はかわいいなぁ。紗耶香が羨ましいよ」
保田はギュッと後藤を抱きしめた。そして小さな声で

「紗耶香をよろしくね」
後藤は小さく頷くと保田から離れた。

「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい、また会う日までね」
「うん、それじゃ圭ちゃんバイバイ!」
「圭ちゃんまたね〜」
二人はい大きな荷物を持ってドアから出ていった。

少し名残惜しいのか保田も一緒にドアを出た。
三人は笑顔でいた。二人はそれでもどんどん遠ざかっていく。
79 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時47分20秒
途中何度も振り返りながらお互い手を振る。何度も。何度も、見えなくなるまで・・・。
二人の姿が見えなくなると保田は少し空を見つめ、やがてドアのノブに手を掛けた。すると

『絶対また会おうね』
保田はそんな声が聞こえたように思い回りを見渡した。しかし当然誰もいない。
「空耳かな?ハハハ、実は私の方が気にしすぎて幻聴が聞こえたのかも」

やわらかい風が確かに保田に向かって流れてきていた。
80 名前:zoh 投稿日:2002年05月12日(日)20時51分25秒
>>72-79
今回更新分です。今回も更新が長い間止まっててすみません。
放置は絶対しないんで長い目で見てやってください。

>>70flowさん
僕の中で初代プッチは最強です(笑
内容はこんな感じなんでぜひお付き合いください。

>>71名無し読者さん
ヒソーリ、そしてマターリ待ってください(笑
頑張りますのでぜひ読んでください。

皆様レス有難うございました。
81 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月19日(日)01時50分33秒
初代プッチの絆は強いなぁ…
ヤッスーの優しさにじんときたよ

更新が遅くても放棄しなければ全然OKなんで
まったり待ってます。
82 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時13分18秒
もう街は活動を始めている時間であった。市井と後藤は保田から渡された
荷物を二つのリュックにわけた後、それを背負い、帽子を深々と被りながら
通りを歩いていた。

いや、正確には人の波に流されていると言ったほうがよいのかもしれない。
前までこんなことはなかったはずだが、一年こういうのを体験していなかったため、
これほどまで多い人込みにすっかり飲み込まれていた。

とりわけこういうのが人一倍苦手な市井は、人の通り過ぎる頭を見ていると、
もう目が回りそうなほど気分が悪くなってきた。

「いちーちゃん、大丈夫?」
「あ、あんまし・・・。ちょっとそこの影でこの前みたいに休憩してもいい?」
「本当にいちーちゃんってこういうの駄目だよね〜」
後藤はクスッと笑うと流れに逆らうように市井の手を引っ張って、影ができている
建物の前に行き、そこに座った。
83 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時13分52秒
「ふ〜〜、やっぱ私って駄目だね。ちっとも直らないなぁ」
「私はそうでもないんだけどね〜、ってかむしろ慣れてるのかも」
「後藤はいいよな〜」
後藤はそんな言葉でも何故か嬉しかった。

さっきまでとは違い、涼しい風が通り抜けているので少しずつ元気になってきた。
この風はあの人込みの中では感じることができないものであった。
市井はそこから流れる人込みを見て自分たちは何か幸せなんじゃないかと思ってしまった。

その後、市井は後藤を近くに呼んだ。
「今のうちに予定でも決めておこうか」
「うん、それにしてもあんまり私たち逃げ出してるって感じじゃないよね」
「確かにね、なんかちょっとそこが引っかかって怖い気がするんだけど・・・。
 まぁその時はその時だよ」
「私もっと指名手配みたいに張り紙とかバンバン張られてると思ってたよ」
「どうだろ、もう張られてるかもしれないよ。まだ私たちちょっとしか歩いてないから
 わからないけどね。っと、話がずれてっちゃったね。で、今後のことだけど」
「うん」
84 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時14分43秒
市井はポケットから保田が住所と電話番号を書いてくれたメモを
ゆっくりと取り出した。

「で、これだけが行けそうな範囲なんだけど、後藤はこの中だと誰と一番
 会いたいの?」
「ん〜とね・・・皆と会いたいんだけど・・・やっぱよっすぃ〜かな?
 そういういちーちゃんは?」
「私はね〜、裕ちゃんと明日香には一度会っておきたいな」
市井はそういうと昔の思い出に耽っているようだった。」

「ねぇいちーちゃん。明日香、明日香って言うけどいちーちゃんと明日香って人は
 どういう関係なの?」
「???」
市井は後藤の思いもよらぬ言葉にただポカンとしていた。
85 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時15分15秒
「ねぇ、もしかして・・・」
「アハハハハハ」
「いちーちゃん何笑ってんの?私は・・・」
「違う違う、後藤が考えてるような関係じゃないよ。まぁどういう関係かって言うと
 私って昔は今よりももっと泣き虫で弱かったんだよ。娘。に入ってからは何をやっても
 上手くいかなかったし、どうすればいいかわかんなくて、本当に入ったことを後悔してたこと
 なんかしょっちゅうあったんだ」
「・・・・・・」
後藤はさっきとはうって変わって、市井の言うことをただ聞いていた。

「でね、そんな私と最初に仲良くなったのが明日香だったの。年が近かったってことも
 あったからだと思うんだけどね」
「圭ちゃんとはあんまり仲良くなかったの?」
「初めはね。自信がない私から見ると圭ちゃんみたいな人は怖かったんだ。今は全然なんだけど、
 っていうかすごく助けてもらったりしてて今じゃ一番というくらい信頼できるんだけどね」
「ふ〜ん、で、続きは?続き」
「この〜、自分で話逸らしておいてよく言うな〜」
コツンと軽く後藤の頭を叩くと後藤はエヘへと笑っていた。
86 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時15分54秒
「もう。それで続きだけど、私は明日香と話していくにつれて色んなことを教えてもらったし
 負けそうな時も助けてもらったりして、少しずつ私自身も強くなっていったんだ。でも
 まさか急に辞めるなんて知らなくてさ、他のメンバーにも何も言ってなかったんだよ。
 だからこんなことや他にも色んなことがあって、明日香って私の中で印象深いんだ。
 今またデビューしているみたいだし、だからだよ」
「そうなんだ〜、へ〜」
安心したように、しかし半分興味のなさそうな声で後藤は答えた。

「あんまりどうでもよかったみたいだけどわかってくれた?それより話が長くなっちゃったね。
 あとついでに言っておくけど裕ちゃんは娘。ではリーダーだったし、今はこんなだからいけないけど
 再デビューするきっかけを一緒につくってくれたから何かお礼したいなって思って。
 多分今の私じゃ何もできないだろうけど、せめて会いたいなって」
「なんか私も裕ちゃんに会いたくなってきたよ」
「え?マジ?それじゃ先に裕ちゃんとこ行こうか、忙しいから会えるかわかんないけどね」
「うん、よっすぃ〜はまた次でいいや」

市井はスッと立って通りを見た。どうやら朝のラッシュも終わり大分人通りも少なくなったようだ。
87 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時16分54秒
「よし、そろそろ行くか!」
「レッツゴー!」
二人はそこから元気よく飛び出した。

「まず、電話かけてみるね」
二人は最寄の電話ボックスに入ると、先ほどのメモをもう一度取り出して
祈るような思いボタンを押した。

『トゥルルルルルル』
コール音が鳴る。二人は一つの受話器に神経を集中していた。
心臓は期待と不安でバクバクと脈を打っている。
七〜八回鳴った後であろうか、中澤は出なかった。

『・・・の電話は現在電波の届かないところか、電源を・・・』
市井は耳を離し、溜息をこぼしながら受話器を戻そうとした。すると
「いちーちゃん!」
最後まで耳を近づけていた後藤が叫んだ。市井は慌ててもう一度受話器に耳を当てた。

「あ〜すまん、すまん。おくれてもうたわ、もしもし聞こえてます?どちらさん?」

その声はまぎれもなく中澤裕子の声であった。
88 名前:zoh 投稿日:2002年05月29日(水)22時25分38秒
>>82-87
今回更新分です。読んでいただいて感想でもいただければ嬉しいです。
ぜひ一度目を通してみてください。

>>名無し読者さん
>ヤッスーの優しさにじんときたよ
そう言っていただけるとこちらも嬉しいです。
ゆっくりでもよい作品を作っていきたいと思います。
レス有難うございました。
89 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月01日(土)15時26分41秒
2人を迎えての中澤の反応は・・・。
今後あるかもしれない明日香編、吉澤編は・・・。
オキニの小説が放置されてしまうほど悲しいことはないので
どうか作者様のペースで最後までガンガてください。
90 名前:zoh 投稿日:2002年06月17日(月)19時57分57秒
更新止まっていてすみません。
今週中には更新できると思います。
>>89名無し読者さん
長い間待たせてすみません。一応今日書き込んだのは
生存していますということを伝えたかったのです(笑
レス有難うございます。元気出てくるので嬉しいです
91 名前:zoh 投稿日:2002年06月23日(日)16時40分56秒
「あ・・・あの・・・裕ちゃん?」
市井はわかってはいたものの、しっかり確認するためにそう聞いていた。
「ん?誰や?えらい慣れなれしい子やなぁ」
中澤は淡々と余裕がありそうな口調で答えた。

市井は自分の名前を名乗る事など頭に血が上っていて忘れていた。
「い・・・市井です」
そう言うと、中澤は予想外だった言葉を返してきた。

「・・・・。お〜久しぶりやな〜なっち〜。ちょっと待ってくれへんか?電話切らんといてな〜」
市井は中澤の答えに少し落ち着いてきた頭がまた混乱し始めた。

確かに市井と名乗ったはずだったのだが、なっちと返ってきたのだ。
市井の額から出た汗が首筋を伝っている。しかしそんな状況でも、電話を切ることはしなかった。
92 名前:zoh 投稿日:2002年06月23日(日)16時41分43秒
そんな市井とは対称的に、後藤は涼しい顔をしていた。
ただ後藤は市井をずっと見つめている。さっきとは全く違った様子の市井に気づかないはずがなかった。

無言の電話ボックス。外の車の通り過ぎる音や、通りを歩く人の足音が響くように聞こえた。

あれから実際は2〜3分だっただろうか、しかし市井にはその間が何十分にも思えた。
ようやく中澤からもう一度話しかけてきたのである。

「お〜なっち〜ほんま久しぶりやな〜、。今何してるんや?」
「・・・・・・」
市井は無言で受話器を耳に当てている。
後藤はかすかにそこから漏れる声を聞こうと少し顔をよせた。

「なんや〜冗談やがな。怒んなや紗耶香〜」
「裕ちゃん・・・」
市井は中澤がちゃんと自分を覚えていてくれたのが嬉しかった。
だが何故あの時市井のことを「なっち」と言ったのかわからなかった。
93 名前:zoh 投稿日:2002年06月23日(日)16時42分27秒
「急に誰かと思ったで〜ほんまに、まさか紗耶香からやとは思わんかったからな〜」
中澤は昔と変わらないように話し始めた。
「さっきは・・・」
「ああ、あれか?」
市井が言い終える前に中澤はその質問を読んでいたかのように答えた。
「いやいや、すまんな。うちかてあんたらのこと知ってるんやで、ほれ、ごっちんもそこにおるんやろ?」
「うん」
「そうやろ?そんな状況を知っててスタッフさんが大勢いる中で「紗耶香〜!」なんて言えるわけないやんか」
「あ〜それで〜」
市井はそれを聞くとそんなことをとっさに冷静に考えた中澤が素直にすごい人だなと思った。

「せやから頭のいい裕ちゃんはさっきみたいに答えたわけや。最近ほんとにご無沙汰やったから
 丁度ええかななんて思たしな」
「有難う裕ちゃん。私たちのこと気にしてくれたんだ」
「当たり前やないか、かわいい子らやもん。そんで何か用なん?うちができることなら協力したるで」
「うん、そのことなんだけど電話だとあれだから今から会えないかな?」
「ん?今からやて?」
「そうなんだけど・・・」
「あかんわ、今日は撮影とか取材で忙しいんよ。せやから・・・明日はどうや?」
「私たちはいいけど・・・」
「ほな決まりや、それでうちが指定して悪いんやけど明日の昼1時に昔うちらがよく行ってた
 あの喫茶店でええか?もう覚えとらんかもしれんけどどうや?」
「あそこはよく行ったところだから私は覚えてるよ。わかった、その時間に行くよ」
「そんじゃうちはまだ忙しいからほんじゃまたな〜・・・っとあと言い忘れてたわ」
「なに?」
「捕まんなや」
「うん」
(ガチャ・・・プー、プー、プー・・・)
94 名前:zoh 投稿日:2002年06月23日(日)16時43分32秒
最後の方は中澤が急いでいたのかかなり早口であった。
市井も受話器を置くと、出てきたテレホンカードを右手に取った。
不意にこの感じは何年ぶりだろうという感じがした。

市井はそのまま電話ボックスから出ようとすると、その前に後藤は市井の腕をつかんで止めた。
「いちいちゃ〜ん、私何にも聞いてないよ〜どうなったのか教えてよ〜」
「あ、ああそうだったね」
市井は少し違うところに気がいっているような感じで返事をすると
電話の内容をできるだけ簡単に話した。

「・・・と言うわけで明日なんだ」
「明日かぁ・・・そうかぁ裕ちゃんも忙しいんだししょうがないよね。
 それじゃさ、違う人に掛けてみようよ。よっすぃ〜とかさ〜」
後藤は市井の右手の前に手を出した。市井はそうだなぁと思いながら後藤に渡そうとしたが
途中で手を止めた。
95 名前:zoh 投稿日:2002年06月23日(日)16時44分07秒
「あれ?いちーちゃん貸してよ〜」
「いや、やっぱやめとこう。もし吉澤も今日会えなくて明日の時間と重なったら駄目だろ?
 だから取りあえずそれはそれでまた明日考えようよ。もしかしたら裕ちゃんから色々な
 情報聞けるかもしれないじゃない?」
後藤は市井の言うことに納得したようで、特に嫌な素振りも見せずに手を引いた。

「それじゃあ〜いちーちゃん行こっか〜」
「そうだね、当てはないけどこのままじゃしょうがないしね」
市井はさっきからそれが心配なのであった。ただ後藤にはそんなことで弱い姿を見せることなど
できなかった。何故なら市井は後藤の性格がよくわかっていたからだ。

「私がしっかりしなくちゃ」
市井はパチッと両手で頬を叩いて気合を入れた。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ。行こうか」

二人はそこから勢いよく飛び出した。
96 名前:zoh 投稿日:2002年06月23日(日)16時48分23秒
>>91-95
今回更新分です。
本当に今回は間が空いてしまって申し訳なかったです。
次回は来週くらいにはまた更新できそうです。

というか初めからまた読んでもらわないと物語がしっくりこないかもしれません。
それぐらい間があいてしまいました(反省)
97 名前:名無し読者 投稿日:2002年06月24日(月)03時23分44秒
更新、お疲れ様です。
2人の逃亡の果てに希望がありますように・・・。
次の更新もマターリ待たせて頂きます。
98 名前:zoh 投稿日:2002年06月29日(土)21時03分46秒
お日様は元気よく光り輝いており、この地球にその元気を振り分けているかのようだった。

そんなに時間もかかっていなかったので特に人通りが変わることはないところを
二人は何となく当てもないまま歩いていた。
この場所でこんな風に特に目的もなく歩いている人はいるのだろうか。
勿論そういう人もいるだろうが、市井には皆仕事、時間に追われている人ばかりのようで
そんな雰囲気を出しながら無表情で歩いている人達を見ていると
市井は何故だか少し疑問を抱いた。市井はいつの頃からかこんなことをよく感じるようになっていたのだ。

市井がどんな視点を持つようになったのか自分では詳しくわからなかったが
昔の頃とは確かに違う視点でものを見るようになっていた。
今まで感じることのない感覚を感じているのだから・・・

「私・・・どうしちゃったんだろう・・・」
市井は心の中で自分に問いかけていた。これはどういうことなのか、何が自分をこうしたのか。
しかし今回も途中でそれを考えるのを止めてしまうのだった。
何故ならそれを知りたい気持ちは大きいのだが、それを知ってしまうのが少し怖かったからだ。
99 名前:zoh 投稿日:2002年06月29日(土)21時04分25秒
(少し環境が落ち着いてからでいいか、今は後藤のこともあるし・・・)

市井は後藤の左手を掴んだ。
特に会話もなく笑顔になった後藤はしっかりと握り返した。

もう二人は大きな交差点まで来ていた。近くには駅が見えていた。
信号が赤になったので立ち止まると、近くにティッシュを配っている若い女の人がいるのが目に入った。
しかし人通りがそれほど多いわけでもなく、歩いている人は前しか見えない目をつけているかのように
気づきもしない様子で前を通り過ぎていた。

若い女の人はこれでは拉致があかないと思ったのか、ティッシュを持ってこちらに近づいてきた。
さすがに他の人と接触するには勇気がいる、そして何より危なかった。
市井は目を合わせないように心がけた。
100 名前:zoh 投稿日:2002年06月29日(土)21時05分11秒
すると他にも信号待ちをしている人にティッシュを配り始めた。
そんな状況では断るわけにもいかないといった様子でサラリーマンやOLは顔を少し
しかめながら受け取っていた。

そしてついに二人にも近づいてきた。
「どうぞ〜」
口元は笑っており白い歯を見せながら若い女の人はティッシュを差し出していた。
市井はスッと後藤より軽く前に出た。断ると面倒になりそうだったのでそのまま
素直にもらうことにした。しかし何が起こるかわからないので後藤の手を離さないようにした。

「どうも」
顔を下に向けたまま相手に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で市井はそう言った。
すると丁度信号が青になってまた人の波は動き始めた。
市井は乱暴にそれをポケットにしまうと、横断歩道を渡り始めた。

当然と言えば当然だが後藤はさっきの市井のことに気づいていたらしく、下から市井の顔を覗き込み
小さな声で大丈夫だった?と心配そうに言った。
市井は全然だよと軽く笑って答えると後藤はよかった、と笑い返した。
101 名前:zoh 投稿日:2002年06月29日(土)21時05分47秒
後藤は無邪気な子供のように横断歩道の白いところだけを歩くように少しジャンプをしながら
渡っていた。市井もそれに引っ張られるようにぴょんぴょん飛んでいた。

市井は後ろを少し振り返ると、もうあの若い女の人はいなかった。
あまり顔をあげなかったのではっきりと顔を覚えているわけではないが、何か嫌な予感がした。
(気のせいかな?)
と考えていると、後藤がさっきより心配そうに話しかけてきた。

「いちーちゃ〜んどうしたの?」
「いや、何でもないんだ」
「え〜なんかいちーちゃん変だよ〜、難しいこと考え込んでるみたいでさ〜。何かあるんなら
 私に何でも相談してよ〜そんないちーちゃん嫌だよ〜。いつものいちーちゃんがいい!」
後藤は心配そうに、その中に少し怒りのような感情も含んでいるようにそう言った。
市井は少し頷くと後藤の方へ顔を向けた。
「そうだね、そうするよ。ありがとな後藤」

市井は今できるだけの笑顔を後藤だけのために贈った。

ふと足を止め空を見上げると、いつの間にかあれだけ晴れていたお日様が姿を隠してしまっていた。
市井は一度力強く目を瞑ると、また前を向いて一緒に歩き始めた。
102 名前:zoh 投稿日:2002年06月29日(土)21時09分55秒
>>98-101
今回更新分です。

>>97名無し読者さん
レスどうも有難うございます。
これからもマターリになるかもしれませんが、頑張ります。
103 名前:ガガーン!!ビビンバ! 投稿日:2002年07月02日(火)21時25分49秒

今、一気に読みました。感動!!いちごま!
女の人が何でもない事を願います。
104 名前: 投稿日:2002年07月09日(火)22時35分40秒
いい感じや〜ん
まったり頑張って下さい
105 名前:zoh 投稿日:2002年07月28日(日)22時46分46秒
人々の波に少々押されながらも、二人は横断歩道を渡りきり駅へと向かった。
特にここでやることなどなかったので、明日中澤と会うことになっている場所へ行こうと思っていた。

市井は駅に着くと、すぐに切符売り場の方へ足を運んだ。
後藤も市井に一緒に付いて来ている。
市井は切符売り場まで来ると全く料金表を見ないで二人分の切符を購入した。
後藤はそれを見ていて市井に何気なく尋ねた。

「ねぇいちーちゃん、料金表見てないのによくわかるね」
「ん?いや〜、まぁ、全然自慢になんないけど私結構こういうの詳しいんだ。暇な時とかよく乗って
 出かけてたし、今回行くところは昔よく行ってたから特別覚えてるんだけどね」
「ふ〜ん結構いちーちゃんてそういう変なところあるんだね〜。
 変なのは知ってたけど、こういうのが趣味だったんだ〜」

後藤はちょっと市井の意外なとこを知ったというような顔をしながら笑っていた。
市井はまぁそんなことを言われても仕方ないかなと思ったが、一応反論してみた。
106 名前:zoh 投稿日:2002年07月28日(日)22時47分21秒
「後藤〜お前少しバカにしてるだろ〜?でも意外とこういう知識が役に立つようなことが・・・」
「はい、はい、はい〜わかった、わかったよ〜。役に立つかもしれないんだね、ごめんごめん」
「・・・」
それでも後藤はフフフと笑っていた。今回は後藤の方が一枚上手だったようだ。
市井はこんなほとんどどうでもいようなことでムキになっていた。
しかし、これは市井の性格であった。この性格がでると子供のようにムキになる市井と
少し大人の後藤という関係になるのであった。

市井も後藤も長く一緒にいるのだから勿論二人ともそんなことは知っていた。
市井もそういうところをもっと受け流せるようにしなきゃとは思っているのだが、なかなか直らなかった。
というより特に直そうとしなかったと言った方がよかった。なぜなら、お互いの普段とは違った一面が
ちょっぴり見えるので嬉しかったからだ。

「よ〜しわかったならいいや、それじゃもうすぐ電車も来るからそろそろ行こうか」
「うん、行こ!」
そして、こんな感じで二人はいつものように戻るのであった。
107 名前:zoh 投稿日:2002年07月28日(日)22時48分06秒
市井が後藤に切符を渡して改札を通り抜けようとした時だった。
「あ!あれ何かなぁ?少し人が集まってるよ〜、ねぇねぇちょっと行こうよいちーちゃ〜ん」
市井は通そうとしていた切符を慌てて引いて、ちょっとびっくりした様子で改札から2、3歩離れた。
「おい!言うならもう少し早く言えよ。もう、通しちゃうとこだっただろ〜」
市井は少し怒ったような言い方だった。
後藤もちょっと悪かったかな〜と思ったので素直にごめんと謝った。

「それで?どうしたの?」
「うん、いや、あそこほら少し人いるじゃん」
後藤は左の方を指差した。その方向には男の人と女の人が合わせて6〜7人くらいいた。
どうやらその人達は張り紙を見ているようだった。
「ん?あれのこと?別にそんなの大した事ないって、ほら行くよ」
後藤はそう言って改札を通ろうとする市井の腕を掴んだ。
「ねぇちょっとだけでいいの、気になるんだ〜急ぎじゃないんでしょ?お願い」
108 名前:zoh 投稿日:2002年07月28日(日)22時48分46秒
市井はそれを聞くと待ってましたとばかりにあっさりOKした。実は市井は初めから怒っていなかったのである。
ただ元からある後藤に対しての意地悪な性格を出していたのだ。
なぜかと言うと、こういう時のおねだりしている後藤が市井にはたまらなく好きだったからだ。そしていつも
(ほんとかっわいいな〜後藤〜反則だよ〜こりゃ私の負けだ〜)
などと一人幸せな気分に浸っているのだった。

「じゃいちーちゃんこっち、こっち〜」
市井は後藤に手を引かれながら少数の人が集まっている方へと足を運んだ。
すると少しずつ確認できるようになってきた張り出されている一枚の紙を見て
後藤は一瞬目をパッと大きくしたと同時に口を閉じた。
市井もさっきまでの浮ついているような状態から一転、真剣な表情をしながら目を細めた。

二人の間に短い沈黙が訪れた。
109 名前:zoh 投稿日:2002年07月28日(日)22時52分41秒
>>105-108
今回更新分です。期間の割には少ない更新ですみません。

>>103ガガーン!!ビビンバ!さん
どうも有難うございます。ご覧のように更新は遅いですが、
まったりとやっていきますのでこれからもよろしくお願いします。

>>104零さん
お褒めの言葉有難うございます。
上記のようにまったりとやっていきますがよろしくです。
110 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月29日(木)04時24分27秒
マターリ、お待ち申し上げておりましたが、そろそろ続きを・・。
111 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時37分51秒
それでも人の流れは止まらない。二人の耳には人が通り過ぎていく靴の音だけが耳空通り抜けていく。
後藤はあまりその人だかりに気づかれないように、それでも先ほどより少し近づいて目をより一層開いた。

「・・・・・・」
市井はそこから微動だにしていなかった。

後藤は少し近づいたせいか、先ほどまで聞こえなかった集まっている人々の会話が聞き取れた。
「あ〜これ知ってる〜最近よくニュースとかでやってるよね〜」
「そうそう、あれでしょ。なんかあの昔モーニング娘。だった市井とか言う人と後藤って言う人
 だよね〜」
まず女子高生の会話が聞こえた。
112 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時38分30秒
「ほお、逃げ出したのか〜。女二人なのによくやるよな〜。あれ?そう言えばなんでこの子ら
 捕まったんだっけ?」
「お前知らねえのかよ。あの頃すげえ話題になったじゃん。ほらモー娘。のプロデューサーの
 つんく♂の事件。あいつらだったからだろ?」
「ふ〜んそうだったんだ。俺知らないよ。モーニング娘。だっけ?あんま興味なかったし」
「お前はな。でも俺は好きだったからな〜衝撃的だったよ。そういえば解散してからメンバーは
 何やってんだろうな〜」
その後若いサラリーマン風の男たちの会話も聞こえた。

後藤はそんな会話を聞いている中、何かわからない重い圧力をかけられている様な感じがしたからか
いつのまにか一歩一歩後ずさりしていた。
113 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時39分03秒
市井は近づいてきた後藤を両手でゆっくり止めた。
「後藤・・・大丈夫か?」
後藤の頭を右手で撫でながら、左腕は後藤の体をしっかり抱いていた。
「・・・あはは・・いちーちゃん・・・あそこに私たちにすんごく似てる写真が貼ってあるよ・・
 何だろうね・・・あれ・・・」
後藤は力なく言った。

「うん、わかるよ後藤の気持ち・・・。でももうそろそろ行かなくちゃ・・・ね、後藤」
今度は耳元で囁いた。後藤は頷いている。

すると市井はニコッと笑って後藤のお尻を叩いた。
「痛ッ!何すんのいちーちゃ〜ん」
「何へこんでんだよ。ほらほら元気だせって、行くぞ」
市井は後藤の手を引いて改札を通っていった。
力強く市井は後藤の手を引いて進んでいく。後藤は帽子をもう一度深く被った。
114 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時39分35秒
市井はちらちらと上を見ながらホームを探していた。
「え〜っと〜確かこっちだった気がするんだけど・・・」
少し迷っているような感じであった。
「いちーちゃんこっちで大丈夫なの?間違えないでよ〜」
「わかってるって。こっちのはずだから・・・ん?」
階段を上りホームに出た時市井は何かに気づいたようだ。

「どうしたの?いちーちゃん」
「いや・・・大した事ないけど・・・ホーム逆側だった」
笑ってごまかす市井。後藤もつられて笑う。
「いちーちゃんドジだね〜こんな時に間違えるなんて」
「やっちゃったな・・・なんてドジなん・・」
(まもなく1番線に電車がまいります。白線の内側に下がって電車をお待ちください)
115 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時40分20秒
「!!」
「!!」
二人はビックリして、猛スピードで階段を駆け下りそのまま逆のホームへ上がった。

(プルルルルルルルルル〜〜プシュ〜バタン!)
「ハァハァハァ・・・」
「はぁはぁはぁ・・・」
(ガタンゴトン・・・ガタン・・ゴトン・・・『ご乗車ありがとうございます。この電車は・・・』)

「なん・・とか間に合った・・・疲れるな階段一気に駆け上がるのって・・・まだ息切れてるし・・・」
「いちーちゃんが・・・間違えたからだよ〜・・・はぁ〜疲れた・・・」
車内では二人だけが異常に汗をかいていた。そんな二人は少し他の客に注目されているような感じがした。
しかしそんなものは一瞬だけで、息が整う頃になるとそんな視線も無くなった。
116 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時40分53秒
市井は電車のドアに寄りかかるようにしており、後藤は市井にくっつくように立って車内を見回していた。
丁度一駅通り過ぎたところで上手い具合に席が空いた。
当然後藤はそれを見逃すはずもなく、市井の手を引っ張った。
「いちーちゃん。席空いたよ。座ろうよ」
「そうだね、そうしようか」
二人はひそひそと話をした後、丁度二人座れる席に座った。

ようやく少し落ち着けるようになり、後藤は疲れていると言うこともあってか少し眠たくなってきた。
「ねぇいちーちゃん。あとどれくらいかかりそう?」
「そうだな〜まだ大分あるよ。それがどした?」
「う〜んとね、ちょっと私眠たくなってきちゃった。着くまで寝てていい?」
「ああ、いいよ。私は起きてるからゆっくりしてて」
「ごめんね。それじゃおやすみ〜」
「おやすみ」
「・・・・・・」
117 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時41分27秒
後藤はそう言うと帽子で顔を隠してすぐに眠りに入ったようだ。市井は帽子を一度取って寝顔を確認すると、
また元のように帽子で後藤の顔を隠した。

「後藤・・・いつもと変わらない寝顔してるけど・・・やっぱつらいのかな・・・・」
市井は大きなあくびを一つすると、外に目を向け動いていく景色をただじっと見ていた。

天気は相変わらずであった。
118 名前:zoh 投稿日:2002年08月31日(土)22時44分58秒
>>111-117
今回更新分です。

>>110名無し読者さん
お待たせしてすみませんでした。実は夏の間はもっと更新する予定だったのですが、
予想に反して普段より忙しかったので遅れてしましました。
更新が安定するよう精進します(反省
読んで下さっている方がいて僕の活力にもなります。有難うございます
119 名前:名無し読者 投稿日:2002年09月01日(日)21時38分56秒
更新期間がだいぶ空いてしまっていたので、心配しておりましたが、
よかったです。
お忙しいとは思いますが、最後まで書き上げて欲しい作品です。
120 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月06日(金)21時17分14秒
ホントおもしろですね〜これ
頑張って下さい
121 名前:zoh 投稿日:2002年09月21日(土)09時45分31秒
市井はそのままピクリとも顔を動かしていない。
先ほどからずっとこの流れていく景色を見ているうちに忙しかった頃のことを思い出していたのだ。
(ああ、あの頃はこんな風に時間も流れていたんだな。。その分今はすごいゆっくりな気がする・・・)
まだあれから2日しか経っていないのに、もうそれこそ何ヶ月と過ぎているような気がしていた。
「・・・ふ〜」
溜息を一つ。窓が少し曇る。

敷かれたレールの上を走る電車の機会音が嫌でも耳に入ってくるのが
何故か市井には無償に嫌だった。
122 名前:zoh 投稿日:2002年09月21日(土)09時46分11秒
「当たり前だけど電車は行き先が決まっているんだよなぁ。じゃあ私たちも・・・」
ふとそんなことが頭をよぎった。信じたくないことであった。
(未来は自分たちで・・・)
力強く拳を握った。そして唇をギュッと引き締めた。

止まる駅は終点の丁度一つ前なので、まだまだ大分時間があった。
市井は視線を車内に戻すと、急に鞄から小さな音が鳴り始めた。
(プルルルルル・・・プルルルルル・・・)
電話がかかってきているようだった。
慌てて自分の鞄を開ける。どうやら下のほうにあるようで
取り出すのに少し時間がかかった。

下のほうには携帯電話が入っていた。
手にとって画面を見ると
[圭ちゃん]
と出ていた。市井はすぐに通話ボタンを押した。
123 名前:zoh 投稿日:2002年09月21日(土)09時46分51秒
「もしもし、紗耶香?今いいかな?」
「おっす圭ちゃん、どうかした?」
「いや〜ちょっとどうなってるかな〜なんて。あとちょっと携帯のこと言っておこうと思ったしね。
 今かかってくるまで気づかなかったでしょ?」
「まあそうだけど、あ〜一つ言うけど携帯は下のほうに入れないでよね」
「あれ?そうだった?」
「壊れるかもしれないじゃんか〜、気にしてよね〜。圭ちゃんらしいけど」
「配慮が足りなかったか〜、でも感謝してよね」
「そりゃしてますよ。圭ちゃんには頼りっぱなしだから」
「うんうん、もっと私に感謝しなさい」
「ほら、人が褒めるとすぐ調子に乗るんだから〜」
「あはは、変わってないってことだよ」
「変わってない・・・か」
「ん?どうしたの紗耶香?」
「ううん、別に何にもないよ。とにかくありがと。またこっちからも連絡するよ」
「まぁ迷惑にならない程度に連絡ちょうだいね。そう言えば後藤は?」
「え〜と今寝てるんだ。起こすのもあれだから・・・」
「そうか〜紗耶香のことよろしく頼んどこうと思ったけど、それじゃ後藤によろしく言っておいて」
「うん、わかったよ。それじゃまたね」
「じゃ〜ね〜ん」

市井は電話を切るとそのままポケットに携帯をしまった。
保田の『変わってない』と言う一言が今はいいようにも悪いようにも聞こえた。
124 名前:zoh 投稿日:2002年09月21日(土)09時47分29秒
「う・・・う・・う〜ん・・・市井ちゃん・・・」
「?」
今まで寝ていたはずの後藤が突然何かを喋り始めた。

「市井ちゃん・・・一緒にいてよ・・・ねぇ・・・・ねぇ」
「後藤?」
「行かないで・・・一人にしないでよ・・・」
「おい、後藤?」
「・・・・・zzz」
「寝言か・・・びっくりした」

市井は自分が電話で話している声で起こしてしまったかと思ったが、どうやら寝言だったようだった。
「それにしても・・・それにしてもだよな・・・」
少し不安になったが、今の後藤は自分を必要としていてくれているのかなと思って嬉しかった。

そんなに時間は経っていなかったように思えたが、いつの間にかもう次の駅で降りなければならないところまで来ていたので
後藤をどうやって起こそうか少し考えていると、スッと後藤の頬が目に入ってきた。
市井にはそれがいつも以上に愛くるしく感じたのでそこに思うがまま軽く口付けをしてしまった。
すると後藤はびっくりしたように目をパチッと開けた。
125 名前:zoh 投稿日:2002年09月21日(土)09時48分00秒
「おっ!」
少し市井はびっくりした。後藤は起きたようだがまだまだ眠そうである。

「起きたみたいだね後藤、ほら次だからね」
「う〜んおはよう市井ちゃん。どうせなら口にしてよ〜」
「へへへ、今は後藤のほっぺにしたかったんだよ〜」
「な〜んだそれ、私はいつでも口にチュー待ってるからね」
「このやろ〜、わがまま言うとしてやらないぞ〜」
「いやだいやだ〜。そんなんやだよ〜」
「冗談だって冗談」
「ぶ〜・・・私すねちゃうよ〜」
「後藤〜かわいく言ったって駄目だぞ〜」
「ちぇ、バレてたか」
「当たり前じゃんか、どんだけ一緒にいると思ってんだよ」
「それもそうだね〜」

二人はそんな会話を交わした後、荷物を持って立ち上がった。
「次は〜・・・お出口は右側です」
車内に放送が流れた。二人はドアの前まで行く。

『ピシャァァァァァァ』
ドアが開いた。電車から降りる二人。

二人の手はしっかりと握られている。
126 名前:zoh 投稿日:2002年09月21日(土)09時51分58秒
>>121-125
今回更新分です。2日前には書き込むつもりでしたが、何故か「宣伝禁止」と出て
書き込めなかったので少し時間がかかってしまいました。

>>119名無し読者さん
いつもいつもレス有難うございます。何が何でも書き上げるので忙しながらも
頑張らせていただきます。

>>120名無しさん
このようなレスをいただけると本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いします
127 名前:名無し読者 投稿日:2002年10月25日(金)22時37分07秒
待ってるよ〜。
128 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…
129 名前:名無しくん。 投稿日:2002年11月24日(日)21時53分30秒
まことに申し訳ございません。
削除依頼出しました。
投稿ミスで汚して作者さま、本当にすいませんでした。

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