セバータイズ
- 1 名前:takatomo 投稿日:2003年03月06日(木)22時35分10秒
- 月で書かせて頂いていた者です。
今回はこちらで書かせていただきます。
ジャンルはライトファンタジーです。もちろんアンリアル。
石川、飯田主役になると思います。
まだまだ下手な文章ですが、お付合いください。
レスは大歓迎。ぜひお願いします。
- 2 名前:1:End point 投稿日:2003年03月06日(木)22時36分39秒
- カン!カン!
金属音がフロアに響き渡る。
2つの人影が交差するたびに起こる金属音。
それは、規則正しく、まるで音楽でも奏でているかのように。
そして、二人はそれに合わせて踊っているようにも見え、またその顔はどこか笑っているようにも見えた。
お互いに、剣と槍を持っていることを除けば、それはどこにでもあるような光景。
二人がほんの1年前まで目にしていた光景だった。
二人とも、呼吸は乱れ、全身にうっすらと血をにじませていた。
互いに、一瞬たりとも視線をそらすことは無い。
その時、扉が荒々しく破られた。
けれども、二人とも微動だにしなかった。
- 3 名前:1:End point 投稿日:2003年03月06日(木)22時37分21秒
- 「飯田さん!」
「手を出すな!」
声をかけられても振り向かずに、飯田はそう答えた。
低く、ハリのある声に、石川は部屋の中に踏み入れることはできなかった。
安倍は飯田越しの石川の姿を視界の隅に捉え、自分が負けたことを悟った。
「圭織、終わりにしよう」
剣を構えなおして安倍はそう言った。
そこにいるのは、絶対的支配者ではなかった。
ただの、一人の女の子。
運命に振り回された、可哀相な女の子の姿だった。
「なっち…」
飯田も、答えるように槍を握りなおす。
身分は違えど、小さい頃から一緒に育ってきた2人。
ほとんど家族同然だった2人が、こうして刃を向け合うことになったのは、時間を遡ること1年。
その日は、折りしも、惨劇を嘆くかのような、激しい雨の日だった。
- 4 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時38分18秒
- <2−1 Rika's view>
「すごい雨ですね…」
カーテンを少し開け、私は外を眺めて言った。
夜の闇の中、一筋の雷が走り、轟きが響いてきた。
「今日は泊まっていきな。いくらあんたでも、こんな夜に返すわけには行かない」
椅子に腰掛けて、本を読んでいた飯田さんが本を閉じて言った。
ここは大陸の中央に位置する、モーニング公国。
周囲を3つの国で囲まれた、豊かな国。
豊かな大地が求められるのは当然のことであり、過去に何度も侵略を受けていた。
しかし、それに対抗するだけの国力を持っていたのも事実であり、
領土を侵されることはほとんどなかった。
また、それだけの力を持ちながら、積極的な他国への侵略を行なわなかった。
これは大陸史上の大きな謎であり、多くの歴史家がさまざまな仮説を提唱したが、真相はわからなかった。
- 5 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時40分16秒
- そして、7年前、モーニング公国と隣国3国との間で大きな戦争がおこった。
全世界を巻き込んだその戦争は多数の被害を出したが、5年前に、4国間での平和協定が結ばれ、戦争は終結した。
その時、モーニング公国と戦争をした隣国3国とは、次の3国。
北に位置するカントリー公国。
厳しい寒さで知られるその国で、古くから民は、自然を征することなく、自然と共に生きてきた。
そのため、北の民は自然と心が通じ合う者が多かった。
彼らのうち、特に自然の力を借り、精霊術と呼ばれる強大な力を発揮する者は精霊師と呼ばれた。
- 6 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時41分03秒
- 南に位置するミニモニ公国。
山岳地帯が多い国であり、古くから鉱石技術が発達している。
小人族の血を濃く受け継いでいる人種で、子どものような身長が特徴である。
だが、彼らは人並みはずれた跳躍力と、底知れない体力を兼ね備えていた。
そして、西に位置するプッチモニ公国。
平原が広がるこの国では、特に馬を操る技術が発達していた。
彼らは武芸に長け、特にダイバーと称される彼らの特別部隊は、兵士1人が一小隊匹敵するほどの戦力であり、各国から恐れられていた。
しかし、戦争終了と共に彼らはその行方をくらませた。
また先日、王が死去したため、王女が17歳ながら、王位についたばかりである。
- 7 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時41分40秒
- 私、石川梨華はカントリー公国の貴族。
貴族って言ってもピンキリなわけで、私は王の遠い親戚だったから、
普通の生活を送っていた。
ところが、いつの間にか私は国内一の精霊師の称号である、the Highest Position of Necromancer(HPN)を受けるほどになった。
そのときから、周りの態度が一変した。
今まで私を鼻にもひっかけていなかった奴らが、急にヘコヘコし始めた。
それはそれで気分のいいものだったけど、丁度、モーニング公国からの留学の誘いが来たので、行くことに決めた。
自分の国が嫌いなわけじゃないけど、急に普通の生活が貴族の生活に変わるのが嫌だった。
特に、パーティーとかいう、腹の探り合いを目的とするような催し物が大嫌いだった。
その点、ここに来て正解だったというわけではなかったが、
(やっぱりどこに行ってもやってることは同じだったし、招待されて断ってばかりにはいかないから)国の金で一人で気楽に生活できるのはうれしかった。
それに、飯田さんにも出会えた。
- 8 名前: 2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時42分20秒
- 飯田さんは、槍術に長けていたが、それと共に知識も深かった。
周りのバカな貴族連中の低俗な会話に飽き飽きしていた時、理路整然とした飯田さんの会話が耳に入った時、私は小躍りした。
それ以来、私はこうして飯田さんの所にお邪魔することが多くなった。
二十歳前後の女の子が2人、夜な夜な自然の摂理だの、政治だのと話し合っているのは、我ながら色気のかけらも無いと思うけど…
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
特に用があるわけではなかったので、私はそう答えた。
思えば、これが全てだったのかもしれない。
ここで、私が家に戻っていれば、この後の大陸史に残る大事件は進行していなかったに違いない。
「小川、小川」
飯田さんが名前を呼ぶとすぐに扉が開いて、小川が入ってきた。
彼女は飯田さんの従者。
まだ15歳ながらも、よく気の利く子で、飯田さんはとても可愛がっていた。
飯田さんは彼女に2,3言話すと、すぐに小川は部屋を出て行った。
- 9 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時43分08秒
- 「ちょっと待っててね、今部屋を用意させてるから」
その言葉に混ざって、私の耳には別の言葉が聞こえてきた。
私は、口に人差し指をあてる。
飯田さんはそれを見ると、物音を立てないように、ゆっくり座った。
ニゲテ・・・ニゲテ・・・
今度ははっきり聞こえた。
精霊の声。
私にしか聞こえないこの声。
次いで、私の左手の指輪が赤く光る。
私たち精霊師は、宝石という媒体を使って、自然の力を操る。
だから、常に指輪を身につけている。
私が今つけているのは、ルビーだった。
こちらに留学する際に、王から贈呈されたスタールビー。
星状に光彩の出る希少なルビーである。
ルビーは、古代から、危険が迫ると色が変わるといわれている。
これは嘘でも何でもなく、精霊が宝石を通して危険を知らせてくれているのである。
「ヤバイの?でも、何が…」
飯田さんがゆっくり言った。
私は首を横に振った。
私自身、本当にルビーが光るのを初めて見たんだから。
- 10 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時45分10秒
- その時、階下から悲鳴が聞こえた。
そして、たくさんの足音がこちらへ向かってくる。
私は胸元に手をあて、意識を集中させていた。
「逃げてください!」
足音の主より一歩早く部屋に入ってきたのは小川だった。
危うく発動しかけた術を、懸命に組みなおす。
「何が起こってるの?」
「わかりません。いきなり兵士が屋敷に入ってきて、飯田さんを出せと…」
その言葉に、飯田さんは少し考え込んだ後、こう言った。
「私が目的なんだね。じゃあ、こっちから行ってやろう」
「それには及びませんよ!」
太い、しっかりした声が小川の後ろから聞こえてきた。
「あなたが飯田圭織さんですね」
声の主は更に続ける。
数人の兵士をバックにしているその人物。
真っ黒なローブとフードを身に付けていた。
そして、その指にはめられた光り輝く宝石。
間違いない、こいつは精霊師だ。
そのことが、私を少し安心させた。
- 11 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時46分02秒
精霊師同士で戦った場合、私が負けることはまずありえない。
私以上の精霊師なんて存在するわけが無い。
これは自惚れではない、事実だと思っている。
精霊師の力は術を構築する速度、術の威力、使える精霊数といったもので決められる。
構築が早くても、威力が弱ければ話にならないし、その逆もしかりだ。
けれども、威力と構築時間は比例するというジレンマがある。
そこを上手く調節していくことが重要なポイントだ。
実際のところ、私と同じくらい構築が短く、威力の高い人はいる。
でも、私がHPNの称号を得た一番の理由は、精霊数だ。
満遍なく精霊と心を通い合わせることの出来る人間はいない。
精霊は人間以上に嫉妬深く、特に火精と水精というように、お互い反する精霊と同時に心を通い合わせることは不可能だった。
だから、火精と風精というように、比較的仲の良い精霊をチョイスしていくのが基本である。
- 12 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時47分01秒
だが、斬新なアイディアをもつ私は、そんなことを無視し、(その時、授業を寝てただけなんだけど…)半ば強引にやってみた。
その結果、火、水、雷、風の4つの精霊と心を通わせることが出来た。
だから、どの精霊たちも私に味方してくれるため、相手の術の効果は減少していく。
そして、相手の使えない精霊をぶつけていくことができるため、私は負けることはありえないからだ。
あらためて黒いローブの人物を観察してみる。
フードをかぶっているため、顔は良く見えない。
がっしりとした体格は、精霊師の体とは思えなかった。
- 13 名前: 2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時48分09秒
特に胸筋は…ってあれ?
あの膨らみはおおよそ筋肉によるものじゃない。
女?
頭の中に浮かんだ単語を否定しようとする。
精霊師で女が少ないというわけではない。
寧ろ多いくらいだ。
でも、さっきの声と体格から考えると、周りの兵士よりもよっぽど男らしかった。
「なつみさんからの命令で、あなたを消せと言われています」
「なっちが?何で?」
飯田さんはひどく動揺していた。
なつみという名前に私は心当たりはない。
あるとすれば、この国の王女、安倍なつみだけだ。
- 14 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時49分06秒
「理由は聞いていません。見つけ次第消せと言われていますので」
フードを脱ぎながら、黒ローブは言った。
その風貌は美男子という言葉が一番ふさわしいのかもしれない。
私は一瞬心を奪われ、構築していた術が崩れそうになった。
集中、集中
自分に言い聞かせる。
精霊術は精神状態に大きく左右される。
ここで気を散らすことはできない。
再度術を構築し始める。
それに合わせる様に、周りの兵士がさっと前に出てくる。
飯田さんも小川も丸腰だ。
ここは私しかいない。
ちょっときついけど、やるしかない。
- 15 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時50分28秒
私は有無を言わさず、精霊術を使った。
炎の壁が私たちと彼らの間に出来る。
「へえ、精霊師なんてこんなところにいるんだ」
黒ローブの声が聞こえた。
それとともに、炎の壁は一点に収束していった。
その一点とは、指輪だった。
透明な宝石がきらりと光る。
その向こうで黒ローブの笑っている顔が見えた。
なんで…
再度構築しようとするが、上手く出来ない。
普段なら1秒とかからないものが、うまく組めない。
落ち着け、落ち着け
「あんた、もしかして石川梨華?この宝石知ってる?」
急に黒ローブから名前を呼ばれた。
私は驚き、組みかけた術が一気に解けてしまった。
- 16 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時51分17秒
- そして、じっとその宝石を見る。
キラリと光る、綺麗な宝石。
透明なそれを私は一度だけ見たことがある。
「ダイヤモンド…」
思わず口からその言葉が出た。
「ご名答」
手を叩きながら黒ローブはそう言った。
「納得いかないわよ、黒ローブ!それが何なのよ!」
大声で叫ぶ私に、黒ローブはきょとんとした顔をしていた。
「何よ!」
「黒ローブって、私のことだよね?」
「そうよ!」
私がそう答えると、黒ローブはお腹を押さえて笑い始めた。
- 17 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月06日(木)22時51分54秒
- 「一応ね、吉澤ひとみって名前あるんだけど…」
不満そうな顔で私が見ていることに気付いたのか、黒ローブはひとしきり笑った後、真面目な顔で言った。
その顔からは殺意が見て取れた。
今まで感じたことのない殺気。
そもそも私は殺し合いなんてやったことがない。
訓練で相手を傷つけることはあっても、気絶させるくらいだ。
本当に人の命を消すということがどういうことなのか、考えたこともなかった。
ましてや自分が殺されることなんて…
- 18 名前:takatomo 投稿日:2003年03月06日(木)22時54分19秒
- 更新終了です。
最初なので、めちゃ説明文多くなってます。
こんな感じで進んでいくと思います。
ストックあるので、当分は更新を早くしたいと思っています。
よろしくお願いします。
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2003年03月07日(金)00時05分07秒
- こういうファンタジー小説とても好きです!
更新待ってます!
- 20 名前:名無しかごま 投稿日:2003年03月07日(金)00時52分10秒
- コテハンでレスするのは抵抗があったので、これで。
っていうか、人様の作品にレスするの初めてだ!Σ
新スレおめでとうございます。
ファンタジーな小説は大好きなので(多分、スレイ○ーズとか好きでしょ?w)
更新がとても楽しみでつ。
おいらの方も、頑張って今書いてるのを更新するので、
お互いにがんばりましょぅ。であ。
- 21 名前:takatomo 投稿日:2003年03月08日(土)01時59分08秒
- レスありがとうございます。
以下レス返しです。
>>19 名無しさん様
初レスありがとうございます。
純粋なファンタジーを目指していきますので、期待してていただけるとうれしいです。
>>20 名無しかごま様
スレイ○ーズはあんまり見てないです。他のは結構見てますが。
でも、そんな感じのノリを目指してますのでよろしくです。
そっちのスレも更新頑張ってください。
- 22 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月08日(土)02時00分09秒
- 「ふむ、あの石川梨華のくせに、実践は知らないと見える」
黒ローブ…いやいや吉澤って奴は含み笑いでそう言った。
でも、事実なので、言い返せない。
私の思考はすでにあいつのことはあきらめていた。
どんな仕掛けか知らないが、私の精霊術が消されたことには変わりない。
術を使ったようには見えなかった。
それこそ、魔法のように私の術を一瞬で消してしまった。
どうしよう…
考えられる選択肢は3つ。
1:戦う
2:逃げる
3:諦める。
RPGのコマンドみたいな選択肢。
3を選ぶなんてバカなことはしたくない。
かといって1も恐らく無駄だろう。
私の術が通用しないと決まったわけじゃないけど、おそらく通用しない。
- 23 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月08日(土)02時01分04秒
- 消去法か…
私の一番嫌いな方法だった。
でも、しゃーないか。
ここは3階の角部屋。
私と飯田さん、そして小川の3人が逃げ出さなきゃならない。
入り口は吉澤とその他大勢で封鎖されてるか…
状況をもう一度確認してみる。
外は雨降ってんだよね…
濡れるのやだけど、仕方ないか。
精霊術をパッパと構築する。
あいつとの会話でちょっと気が落ち着いてきたから、スムーズに行く。
それで後ろの壁にぶつけて、そこから脱出。
ベタな案だけど、これしかなかった。
- 24 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月08日(土)02時02分15秒
振り返って術を解き放つ。
轟音を立てて、壁が抜けた。
そこから雨粒が吹き込んで、私の頬を濡らす。
「飯田さん、小川」
叫んで、二人と共に飛び降りる。
そして、すぐさま風の精霊術を構築する・・・はずだった。
構築している時、私の左肩に激痛が走った。
ふと目をやると、ナイフが深々と刺さっていた。
誰かが投げたのだろう。
いや、奴だ。吉澤だ。
投げナイフなんて、精霊師以外使うわけがない。
力の無い精霊師が好んで使うものが投げナイフだ。
特に風の精霊の力を借りると、それはただのナイフではなくなる。
一撃必殺の矢と化す。
重力と雨粒を体に感じながら、薄れ行く意識の中、私は雷の轟きを聞いたような気がした。
- 25 名前:takatomo 投稿日:2003年03月08日(土)02時04分54秒
- ちょっと(かなり)短いですけど、ちょうどキリがいいのでここまでで。
実家に一時帰ることになりますので、次は月曜か火曜です。
- 26 名前:takatomo 投稿日:2003年03月08日(土)02時08分35秒
- あ、一つ忘れてた。
ある程度まで進みましたら、この話の解説というか、まとめみたいなものをサイト(http://members.tripod.co.jp/pmtakatomo/index.html)にアップしようと思います。
まだまだ先のことになると思いますが、頭の片隅にでもおいていただければ。
その時になると告知忘れてそうな勢いなので(w
- 27 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月10日(月)21時19分13秒
ファンタジー系っていいですね
自分でも空で自称ファンタジー書いてますけど、同士がいると励みになるというか(個人の勝手な思い込みですw)
これからも更新待ってますよ
- 28 名前:takatomo 投稿日:2003年03月11日(火)15時42分31秒
- >>27
レスありがとうございます。
私の方も読ませて頂いてます(w
ファンタジーが意外と少ないことが最近わかりました。
もっと多いものと思ってたのに…
お互いがんばっていきましょう。
- 29 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時44分01秒
- <2−2 Kaori's view>
「なつみさんからの命令で、あなたを消せと言われています」
その言葉を聞いた時、私は耳を疑った。
なつみと言われて、私は彼女しか思い浮かばない。
安倍なつみ。
モーニング公国の王女にして、私の幼馴染。
つい一月ほど前にあった時には、一緒に仲良く話していた彼女。
なのに、急に私を消せなんて…
「なっちが?何で?」
ようやく言葉に出せたのはそれだけだった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、何が起こっているのかわからなかった。
- 30 名前: 2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時45分17秒
- 気がつけば、目の前に炎の壁ができ、そして消えていった。
石川が動揺しているのはすぐにわかった。
精霊師ってわけじゃないけど、私にはなんとなくわかるんだ。
精霊術の構成が上手くいっていないことは。
あの子は実戦を知らない。
それは悪いことじゃない。
平和な証なんだ。
でも、こんな時にはそれが命取りになりかねない。
手元に槍があれば…
その思いに駆られた。
私と小川が丸腰なのを、石川は知ってる。
初の実戦が他人を守りながらの戦いなんて、無茶だ。
- 31 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時45分59秒
- 上手く3人が切り抜けられる方法は…
石川の顔をそっと見る。
出した答えは一緒みたいだ。
小川を自分の下へ引き寄せ、石川が動くのを待つ。
石川は振り向くと、壁を破壊した。
雨粒が部屋の中に舞い込んでくるのと入れ違いに、小川を引っ張り、石川に捕まって飛び出した。
重力が体にかかり、どんどん加速していく。
どんどん、どんどん・・・
おかしい。もう減速してもいい頃だ。
でも、石川が力を使う様子は見られなかった。
その時、自分の手に、生暖かい液体が触れたことに気付いた。
その時、私はそれが何かわからなかった。
そして、私たちはそのまま地面に叩きつけられた。
- 32 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時46分46秒
- 大きな衝撃が全身をつつむ。
意識を失わなかったことが不幸中の幸いだったのかもしれない。
けれども、左半身がしびれていた。
2人は…
暗闇の中、辺りを見回す。
踏み出す度に、水の跳ねる音が耳に入った。
雷が夜空を走り、二人の姿が目に入った。
石川も、小川も近くにいた。
小川は気がついたのか、ゆっくり立ち上がった。
でも、石川は…
彼女の肩は、泥に混じって赤い液体がついていた。
揺すっても何の反応も無い。
医学の知識は少しはあるけど、こんな暗くちゃどうにもならない。
- 33 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時47分25秒
- 「逃げるよ」
石川を担ぎ上げ、小川を促す。
左手が動かない。恐らく折れてるに違いない。
ぬかるむ地面に足をとられながらも、私たちは懸命に進んだ。
どこに進んでいるのかわからない。
普段は慣れた道でも、夜の闇では一変していた。
道を避るように進んでいくと、木々が生い茂っている所へ来た。
おそらく西の森に来ているに違いない。
後ろを振り返るといくつもの火が見えた。
そしてそれらは、バラバラに別れ始めた。
兵を分散させて探す作戦か…
こっちとしてはその方が都合がよかった。
丸腰で手負いとはいえ、1対1では簡単には負けないから。
ま、見つからないのが一番いいんだけど…
- 34 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時48分16秒
- 石川を地面に置き、岩に手をかけて登る。
そして、小川が担ぎ上げた石川を、上から受け取る。
おいおい、いい加減に目を覚ましてよ。
肩からの血は雨と泥のせいで、止まっているのかどうかわからない。
背負うと背中を通して聞こえる鼓動から、生きていることは確認できるが、
そろそろやばいのかもしれない。
雨は容赦なく私たちの体温を奪い、濡れて絡みつく衣服は、ぬかるんだ地面とあいまって俊敏さを奪っていく。
「飯田さん、後ろ近いです!」
小川は小声で言った。
彼女は私のことをさん付けで呼ぶ。
普通、私と小川の関係ー主人と従者の関係では様をつけるものなんだけど、
私は堅苦しいのは嫌いだから、圭織でいいよって言ったんだけどね。
さすがにそれは無理だったらしく、間をとってさん付けになったみたい。
後ろを振り返ると、火がこっちに向かってきていた。
1つ、2つ…3つ。
3人か。
そして、近くに他の火が無いことを確認する。
- 35 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時48分57秒
- 「小川、石川をお願い。私はちょっと行って来るよ」
「ダメですよ!危険すぎます!」
「大丈夫、絶対すぐに追いつくから」
「私も行きます!」
「あんたは石川と一緒に逃げるの。これは命令よ」
今までこんな言い方したことは無かった。
でも、この場で小川を従わせる方法が他に思いつかなかった。
そして、石川をゆっくりと降ろす。
「ごめんね、ちょっと我慢してね」
そう言って、私は石川の肩に刺さっているナイフを抜いた。
石川は小さなうめき声をあげたが、起きる様子は見せなかった。
- 36 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月11日(火)15時51分00秒
- そして私は走り出した。
雨の中、木々の間をすり抜けて。
葉が、枝が私の顔を掠めていく度、私の中で何かが大きくうごめいた。
閉ざされていた野生の感覚を取り戻すような、感情の高ぶりを覚えていた。
いた…やつらだ…
呼吸を落ち着かせ、そっと忍び寄る。
相手の居場所を知るのは簡単だ。
わざわざ自分達で明かりを灯してるんだから。
思ったとおり、3人だった。
銀色の甲冑に身を包んだ兵士が3人。
兜はつけずに、顔を出したまま。
左手にランプ。右手に剣。
こっちはただの服にナイフ一丁。
「ちょうどいいハンデだよ」
投げやりに呟いた。
そうでも思わないとやっていけないから。
- 37 名前:takatomo 投稿日:2003年03月11日(火)15時53分23秒
- 更新終了。
短編中に多く更新したのなら、みんな短編読むのに忙しいからしんどいのかな?
とか思ってみたり…
- 38 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月13日(木)22時37分49秒
石を向こう側に投げる。
カサカサという音に、3人の注意は奪われた。
その一瞬のうちに、私は1人の首を後ろから掻っ切った。
口はふさいでいたため、わずかなうめき声は雨音に消されて届かない。
飛び散る血も雨によりカモフラージュされていた。
だが、剣が落ちる金属音で、2人は私に気付いた。
振り返った二人は私の顔を見てひるんでいた。
長い髪が血でべっとり染まって、顔に張り付いている姿を見れば当然かもしれないが、私はそのスキに剣を拾った。
本職じゃないんだけどね。
この際贅沢は言ってられない。ナイフより一応長いんだから。
- 39 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月13日(木)22時38分54秒
- でも、剣と槍は全く違う。
切り払うことができ、突くこと「も」できる剣と、
突くことができ、切り払うこと「も」できる槍。
優先する攻撃法に合わせて、武器は作られてるから、剣を槍の代わりに同じように使うのは難しい。
1人目の太刀をかわしながら、そのことを再度頭に入れる。
2人目の太刀を剣で受け流し、私は一度距離をとった。
力勝負じゃ負ける。
こっちはか弱い乙女だし、なにより左手が使えない。
それにこの二人。
予想以上に訓練されてる。
1人目の攻撃に合わせて2人目が攻撃する。
一見当たり前のように思えるけど、相手の対処法によって一瞬で判断しないと、仲間を切ってしまう危険性があるので、かなり難しい。
特に、同時に2人の動きを見て、一瞬で判断することが要求される2人目。
彼の技量は相当のものだろう。
- 40 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月13日(木)22時39分58秒
そこまで分析した時、ふとさっきまでの高ぶりとは裏腹に、冷静な自分がいることに気付いた。
あ〜あ、でもやっぱり槍が欲しかったな〜
さっきから出てくるのはぼやきばかりだった。
でもさっさと片付けないと、小川に追いつかないし…
やるしかないか。
剣を持ったままの手で、ナイフを投げつける。
もちろんすぐさま払い落とされる。
でもね、狙いはそこなんだな〜
- 41 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月13日(木)22時40分45秒
- 通常、鎧によって覆われているが、動くことによって鎧と鎧の隙間となって現れる無防備な場所。
それは関節だ。
そして、人体の太い血管は必ずといっていいほどそこに存在する。
剣でナイフを払うという行為で生じる隙間。
私の剣先はそこをとらえた。
右ひじからおびただしい血が溢れた。
もちろん剣なんてもてるわけが無い。
さて、残りは一人。
- 42 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月13日(木)22時42分53秒
剣を構えなおした時、そいつは背を向けた。
まずいな…
だが、追いかけることより、ここを離れることが先だった。
右手を押さえてのた打ち回っている奴をそのままに、剣をつかんで小川たちの後を追った。
「ダンデライオン」
誰かがそう読んだ気がして足を止めた。
懐かしい言葉…
そっと後ろを振り返る。
遠くで火がたくさん集まり始めていた。
そのことを確認し、私は再び走り始めた。
雨はいつの間にかやんでいたが、雷鳴だけは遠くから響いていた。
- 43 名前:takatomo 投稿日:2003年03月13日(木)22時44分01秒
- 更新終了。
今週中には2が終わると思います。
- 44 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月15日(土)03時58分06秒
「それで、おめおめ引き下がってきたの?」
吉澤の報告を聞き、私はそう返した。
「まあ、そういうことになりますかね?」
全く悪びる様子も無く、吉澤は言った。
こいつのこういうところは結構気に入ってる。
変に媚びてくる連中よりずっと好感が持てる。
本当にそうなのか?
もう一人の自分の声が聞こえる。
圭織の代わりに、自分と対等に話してくれる人が欲しいだけじゃないのか?
その考えを否定することはできない。
吉澤の態度が気に入らない周りの兵がいきり立つのを押さえ、私は続けた。
- 45 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月15日(土)03時59分29秒
- 「で、この失態はどう始末つけるの?」
「今、探させています。そのうちなんか出てくるんじゃないですか?」
すごく無責任な答え。相手が私じゃなければ殺されていただろう。
「そう」
それだけ言って席を立った。
「ふざけるな」
その時、怒声が部屋に響いた。
兵士の一人が剣を抜き、吉澤に切りかかる。
まさか、これくらいであいつがやられるわけが無い。
悪魔の子として存在を抹殺されかけたあいつが。
もちろん、その兵士はすぐに息絶えた。
私はその全てを見ていたわけではないが、こだまする断末魔を背に、私は廊下を足早に進んだ。
- 46 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月15日(土)04時00分38秒
ダンデライオン
5年前の戦争での圭織の通り名となったその言葉。
若干16歳でプッチモニ公国のダイバーと互角に渡り合っていた彼女。
その美しい容姿と一寸の無駄もない動き。
そして、時折見せる荒さ。
それら全てが、彼女のダンデライオンという呼称を表していた。
彼女を倒せるとしたら、自分しかいない。
矛盾するような思いを私は抱いていた。
小さな頃から何百回、いや何千回と戦った圭織。
戦績は恐らく五分と五分だっただろう。
あの戦争以来、手合わせしたことは無いが、お互い腕が訛ってるとは思えない。
やはり、圭織を殺すのは私しかいないか…
- 47 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月15日(土)04時01分21秒
目の前の大きな扉を開ける。
ギギギと扉がきしむ音がして、ゆっくり開いていく。
中は真っ暗だった。
窓からの月明かりがベットを淡く浮かび上がらせていた。
「麻美…」
寝息をたてている妹にそっと呼びかける。
麻美の幸せが手に入るなら、私は親友だって殺してみせる。
麻美…
妹の小さな手をそっと握る。
剣ダコができた自分の手とは違う、細く、柔らかい手。
- 48 名前:2 Tragic rain 投稿日:2003年03月15日(土)04時02分03秒
この子の手を血に染めることはできない。
代わりに私がどんなに汚れてもいい。
この子だけは、麻美だけは守りたい…
彼女は私の免罪符かもしれない。
親友を裏切り、親を裏切る私にとっての免罪符。
それでもいい。麻美が幸せになってくれるのなら、私は悪魔とでも契約しよう。
- 49 名前:takatomo 投稿日:2003年03月15日(土)04時03分47秒
- 更新終了です。感想などをいただけると嬉しいです。
次から3話。
以降はこんな感じで、視点切り替えて進めていきます。
- 50 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月15日(土)23時40分44秒
- 今日初めて読ませてもらいました。
おもしろいです。期待大。
続きが気になります。
ぜひがんばってください。
- 51 名前:takatomo 投稿日:2003年03月19日(水)01時21分09秒
- >>50
ありがとうございます。
しばらくの間は更新が早いと思いますので、追っていただけると嬉しいです。
- 52 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時23分42秒
- <3 Mormentary peace>
<3−1 Rika's view>
あの嵐の日から1ヶ月が過ぎた。
私の故郷ではそろそろ雪解けの季節だ。
みんな元気にしてるかな?
ここはモーニング公国の西の端の町、ピッコロタウン。
国境付近のこの町は、戦争当時、激戦区だった。
町は全て焼き尽くされ、荒地だけが残ったと聞いている。
でも、戦争後は、国境に近いこともあり、流通の中継地点となり、飛躍的に発展していった。
また、人種もさまざまで、私たちが隠れ住むには丁度良かった。
- 53 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時24分44秒
- あの日以来、私たちは国から追われている。
罪状は反逆罪だったかな…
以前街中で張り出されていた手配書にそう書かれていた。
でも、それ以上に気になったことは、手配書の顔が全然可愛くないんだ。
どこの絵描きが書いたのか知らないけど、悪意があるんじゃないかと思うくらい酷い絵だった。
ま、そのおかげで見つからなくていいんだけど。
苺を摘めた袋を抱え、市場を後にする。
ひときわ小高い丘の上にある赤い屋根の大きな家。
ここが私たちの住んでいる家だ。
といっても私たちだけが住んでるんじゃない。
中澤さんというこの町の領主の家に住まわせてもらってるんだ。
中澤さんと出会ったのはあの嵐の日。
森を抜けた私たち3人に偶然出会ったのが彼女だった。
私たちの様子を見ても、何も聞かずにかくまってくれた。
- 54 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時25分40秒
- 「あんたの目は正直者の目や」
西方特有の訛りで言われたその言葉。
そして、たったそれだけの理由で私たちを助けてくれた。
もちろん、翌日手配書が回ってきても、彼女の態度は変わらなかった。
私の手当てもきちんとしてくれたし、衣食住も全て提供してくれた。
さすがに、無償で何でもしてもらうのは悪いので、傷がいえてからは、こうして買い物とか、いろいろお手伝いをしている。
「梨華ちゃん、遅いよ。お腹ペコペコだよ」
2階の窓から身を乗り出すのはごっちん。
私たちがここに来る前からいる女の子。
中澤さんが2年前、川辺で倒れているところを介抱したらしい。
それ以前の記憶を失っているせいか、私と年はほとんど変わらないのに、妙に子どもっぽいところがある。
「ごめんごめん」
そう答えて走り出す。
春の心地よい風にのせられた花の匂いが、鼻をくすぐる。
それに混じるように、袋の中から甘い臭いが漂う。
- 55 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時27分12秒
- 家に戻ると、圭織さんは本を読んでた。
中澤さんは本を多く持っていた。
古今東西、いろいろな本が揃っている書庫に、私もよく入り浸っていた。
中には解読できない本も一杯あったけど。
「飯田さん、おいしそうな苺があったんですよ。お茶しません?」
飯田さんは頷き、パンと本を閉じた。
丁度ごっちんも上から降りてきた。
「小川と中澤さんは?」
「ん〜裕ちゃんはまだ帰ってきてない。小川はどこだろ?」
髪を手で解かしながら、ごっちんは言った。
私はこのごっちんの仕草がとても好きだ。
ちょっと首をかしげて、左手で栗色の髪を解かす姿は、思わず抱きしめたくなる可愛さだった。
- 56 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時28分54秒
- 「小川〜休憩しよう」
飯田さんがそう言う。
「はい。わかりました」
奥から小川が出てくる。
いつも思うんだ。
飯田さんは決して大きい声を出していない。
どっちかというと、私とごっちんの会話の方が大きいくらい。
なのに、奥の部屋にいる小川は、いや、どこにいても、飯田さんが呼ぶとすぐにやってくる。
これは一種の魔法に近い能力じゃないかな?
そのことを一度小川に問いただしたんだけど、「なんとなくわかるんです」
って一言で片付けられた。
飯田さんは何か電波を出してるのかな?
やってきた小川に苺の入った袋を渡すと、私は席に付いた。
カチャカチャという食器の擦れ合う音と、水の流れる音が聞こえてくる。
ごっちんは待ちきれないといった様子で、膝をリズミカルに叩いている。
- 57 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時29分34秒
- 「飯田さん、何読んでたんですか?」
テーブルに置かれた本を手にとって見る。
「んー、大衆心理の誘導法ってやつ」
言われたとおり、その名前が大きく表紙に刻まれていた。
「こんなの読んでどうするんですか?独裁者にでもなるつもりですか?」
「お、それいいかもね」
顔は笑ってるが、冗談半分なのか本当なのか、この人のこういうところはいまだに良くわからない。
「ねー圭織、たまにはさ、本ばっか読んでないで遊んでよ」
ごっちんが会話に入ってくる。
「えー後藤は力強いから、しんどいんだよ〜」
「じゃあさ、小川と二人で棒持って遊んでるじゃん、今度あれをやらせてよ」
ごっちんの言っているのは、飯田さんと小川が週1くらいでやっている槍の訓練のことだった。
精霊術は精神鍛錬とか、比較的そっとできるので、私が精霊師ということは気付かれていないが、飯田さんと小川はしかたなかった。
「あんなことが次いつ起こるかわからない」
そう言って二人は訓練を夜にこそっと行なっていたが、どうやらごっちんにはばれてたみたい。
- 58 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時30分34秒
- 「危ないよ。遊びじゃないんだから。それに、後藤はそんなこと覚えなくてもいいんだよ」
頭をポンポンと叩かれているごっちんの顔は、見るからに不満一杯だった。
「お待たせしました」
丁度いいタイミングで小川が苺を持ってきた。
ごっちんの顔が一瞬でほころぶ。
う〜ん、やっぱり可愛い。
一生懸命苺を食べるごっちんを見ながら、ふと思った。
ずっとこんな楽しい時が続けばいいのに…
飯田さんがいて、小川がいて、中澤さんがいて、そしてごっちんがいる。
みんなで笑いあっているこの時間が、ずっと続けばいいのに…
- 59 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月19日(水)01時31分07秒
- そんなことを考えていると、苺は3人の手によってどんどん消費されていた。
「ちょっと、それ買ってきたの私だよ」
そう言って慌てて食べ始める私に、
「早い者勝ちに決まってんじゃん」
ごっちんが意地悪く笑って言った。
でも、私は心のどこかで予感していたのかもしれない。
この幸せがそう長く続かないことを…
- 60 名前:takatomo 投稿日:2003年03月19日(水)01時38分43秒
- 更新終了です。
やっと後藤登場。
中澤さんは次でちゃんと書きます。
- 61 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時45分56秒
「いいじゃん、何で私はダメなのさ〜」
苺を食べ終わると、思い出したかのように、後藤が寄って来た。
グイグイと服を引っ張る手に、次第に力がこめられてくる。
お気に入りのワンピースの布がピンと張っていく。
「わかった。わかった。じゃあ、明日の夜ね。それでいいでしょ?」
背に腹は変えられない。
ワンピースの命と引き換えに、私は交渉に応じた。
後藤はすぐに部屋をぴょんぴょん飛び跳ねていた。
ホントに彼女が小川より年上なんて思えないな。
無邪気に喜びを表現する彼女を見て、私の口元は緩んでいた。
- 62 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時46分54秒
- 「ごめんね。後藤がどうしても聞かなくて…」
その夜、帰ってきた裕ちゃんに言い訳。
裕ちゃんが後藤をどれだけ大事にしてるかわかってるから、危ないことをさせたくなかった。
絶対怒られると思って言ったが、裕ちゃんは怒らなかった。
寧ろ、諦めたみたいな表情で言った。
「やっぱり、あの子はやりたがるか…
あんな、圭織、最初に言っとくけどな、後藤は戦いなんか全く知らん子や。
でもな、決して初心者やと思わんほうがええで。
それなりに心して訓練に混ぜたってな。でないとあんたらが怪我するで」
矛盾ともいえる裕ちゃんの言葉の意味を、私は全く理解できなかったが、
次の日、すぐ理解することとなった。
- 63 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時47分45秒
槍なんて持ったことが無いはずだ。
なのに、それはセンスというレベルの問題ではなかった。
綿密に作り上げられ、熟練された技術というべきものだった。
小川の突きを難なく見切り、一瞬でたった一突きで勝負を決めた。
喉元。
もっとも狙いにくい場所であり、もっとも殺傷能力の高い場所。
彼女の突きは寸分の狂いも無くそこを突いていた。
槍の代わりに木の棒を使っているとはいえ、小川は危うく喉を潰されそうになていた。
- 64 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時48分44秒
- 「やった〜これって勝ちだよね?」
さっきまでも気配を微塵にも感じさせない、いつもの無邪気な後藤がそこにいた。
喉元を押さえ、一時的に呼吸困難に陥っていた小川。
彼女は顔面蒼白だった。
ついさっき、後藤には構え方を教えたばかりだった。
「え〜つまんないよ。圭織と小川がやってたみたいなやつしようよ」
基礎練習すら、彼女の面倒という一言で取っ払われた、いきなりの実戦。
小川に油断があったことには変わりない。
寧ろ、最初は彼女は後藤を怪我させまいと気を使っていた。
なのに…今のは何さ?
小川の突きを目で追ってかわし、体勢の崩れたところを一発。
全く無駄のない動きとスピード。
私でもそう簡単には勝てないかもしれないぞ…
- 65 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時49分44秒
更に、私は一つ気にかかったことがあり、小川に使いを頼んだ。
喉元を突く時、彼女は一度払いかける動作を行ない、すぐに突きに切り替えていた。
これの意味すること。
それは、当たって欲しくない予感だったけど…
小川が走って帰ってきた。
私は棒をクルクル回している後藤に、それを渡した。
訓練用に刃の落としてあるレプリカの剣。
私の予感が正しければ、彼女は剣を使ってたはずだ。
- 66 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時50分38秒
- 後藤はもの珍しそうにそれをいろいろ触っていた。
「後藤、私とやろうか?」
私の言葉に、後藤の目が輝いた。
まるで新しいおもちゃを見つけた子どもだった。
私が棒を構える。
後藤も剣を構えた。
もちろん構え方、いや、持ち方すら教えていないのに、彼女のそれは理想的なものだった。
「いくよ」
「おう」
――――――――――
- 67 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時51分29秒
- 「後藤、大丈夫?」
「ふぇ?あれ?私どうしたの?」
「ごめんね、ちょっと本気になっちゃった。私ので脳震盪起こしてたんだよ」
「あ〜そっか…くそー今度は負けないかんね!」
勢い良く飛び起きた彼女はそう言った。
「おう、いつでもかかって来い!」
「私も、今度は負けませんよ!」
横から小川が割ってきた。
悔しがり屋の彼女のことだ、絶対そう言うと思ってた。
- 68 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時52分11秒
- でも、後藤っていったい何者?
本気出して、ようやく勝ったって言うのが私の本音だ。
意識を失わせるほどの鋭い一撃でないと、後藤を捕らえることはできなかった。
手加減なんて、とんでもない。
後藤の踏み込みがもう一歩早ければ、やられてたのはこっちだ。
戦争中でも、ここまで強い敵にあったこと無いよ…
「裕ちゃん、こいつ何なんだよ?」
月明かりの中、走って屋敷に戻る2人の後姿を見ながら、私は呟いた。
- 69 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月21日(金)00時53分11秒
あ、2人ほどいたっけ…後藤くらい強かった奴。
1人はなっち。
もう一人はダイバーの隊長だっけな…
自分のバカな考えに、嘲笑しながら、訓練用の庭につけた火を消し、私はすぐに二人の後を追った。
- 70 名前:takatomo 投稿日:2003年03月21日(金)00時55分35秒
- 更新終了。
中澤さん出てきて無いじゃん!!
嘘つきですいません。次と勘違いしていました。
感想などをいただけると嬉しいです。
- 71 名前:北都の雪 投稿日:2003年03月21日(金)11時20分16秒
- 大変面白いです。
期待しています。
- 72 名前:takatomo 投稿日:2003年03月22日(土)22時40分16秒
- >>71
レスありがとうございます。
ぶっちゃけ、短編中でみんなそっちに掛かりきり…私一人で更新してるよ
とか思ってた最中だったので…
やる気再充填で、ちょっと多めに更新してみます(w
- 73 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時41分25秒
ああ、うちってお人よしやなぁ
それが自分の弱点やってことはようわかってる。
後藤の時もそうや。
夜道で倒れとる女の子。
訳有りな香りはプンプンしとるのに、家に連れて帰った。
案の定、記憶喪失やった。
外見から、ミニモニ公国の人間じゃないことはわかったけど、それ以外は何もわからん。
名前は、傍に置いてあった剣からわかった。
血が無数に付いていた剣。
綺麗な剣やった。
細く、軽い割に丈夫。
柄に彫られている紋章からも、かなりの品やとわかった。
その剣は、今も隠してる。
- 74 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時43分06秒
- あ、上の最初に抜けてました。
73から <3−3 Yuko's view>です。
で、73の続き
後藤の無邪気な姿見てたら、剣もって倒れてたなんて言われへん。
記憶失うなんて、よっぽどつらいことがあったんだろう。
もう一度、後藤をそんな中に戻すわけにはいかへん。
それなら、ここで平和に暮らしといた方がええに決まっとる。
そんで、次も見るからに厄介そうな3人組や。
嵐の中、泥と血にまみれてる姿。
一人は剣を持ってるし、一人は気を失ってる奴を背負ってるし。
後ろの方は後ろの方で、たくさんの火が集まってるし。
- 75 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時43分55秒
- でもな、その目は綺麗やった。
毎日いろんな人を見てきた目や。
自慢じゃないけど、人を見る目はあるつもりや。
こいつらは悪い奴や無い。
うちはこいつらを自分の家に連れて行った。
初めのうちは私を信用してなかったみたいやった。
特に圭織。
こいつの警戒心は普通やなかった。
少しでも変なことしたら殺す。
そんな意識をこっちに思い切りぶつけてきとった。
それはしゃーない。
一番の親友に裏切られて、命を狙われてるんやから。
- 76 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時44分53秒
それにな、1番驚いたのは、次の日、回ってきた手配書を見たときやった。
まさか圭織があのダンデライオンと呼ばれた奴やったとはな…
それに、石川が本当にあのHPNの石川梨華やったとは…
まあ、そんなことはどうでもええんや。
手配書には反逆罪とか書かれてた。
確かに、こんな2人が一緒に夜遅くまで語り合ってたってことになると、
それなりに説得力はあるかもしれん。
でも、こいつらはそんなんやない。
あれから生活してきてよくわかってる。
こいつらが言ってることは真実や。
嘘ついてるのは中央の連中や。
うちは、こいつらを守る。
誰がなんと言おうと守る。
うちは、そう心に決めてた。
- 77 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時45分37秒
- そんでな、ある日、お偉いさんが視察に来るからって、うちが世話することになった。
吉澤ひとみって言ったかな、確か。
最近になってやたらと聞き始めた名前や。
なんでも、安倍なつみのお気に入りだとかで。
何でこんなところに来るか、私はわからんかった。
もしかしたら、圭織たちを探してるんか?
いやいや、そんなことはない。
彼女達のことはそう多くの人間は理解してないはずや。
何せあの手配書や。本人が隣におってもわかるわけがあらへん。
- 78 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時46分23秒
馬車が町の門をくぐってきた。
ん?何や…えらい数が多いぞ…
馬車は全部で6台。
たかが視察でこんなに馬車がやってくる必要があんのか?
馬車から黒いローブをきた奴が降りて来た。
「あんたが中澤さん?」
端正な顔立ちとは正反対な、雑な話し方。
噂通りやな、吉澤さんとやら。
「はい。ようこそおいでくださいました」
訛りに気をつけ、精一杯の礼を尽くす。
実際、はらわたは煮えくり返っとった。
「唐突ですけど、ちょっと待ってくださいね」
吉澤はそう言うと、左手を高く上げた。
その指には指輪がはまってた。
透明な輝きを見せるその宝石が何かわからんかったけど、
彼女が精霊師ってことは容易にわかった。
- 79 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時47分53秒
吉澤が念じると、宝石からいくつもの光が飛散した。
「何してらっしゃるんですか?」
嫌な予感を覚えて、うちは尋ねた。
「あ、ちょっとした探し物ですよ。ちょっとしたね」
吉澤の笑みの裏側にある物を、うちはすぐに察知し、体中から冷や汗が吹き出た。
「ごめんなさい。ちょっと席外します」
それだけ言って、その場を離れようとするうちの腕を、吉澤はつかんだ。
冷たい手。まるで血の通っていないような手やった。
「まあ、待ってくださいよ。もう少しですから」
腕にかかる力はどんどん大きくなっていく。
そのままいけば、腕を潰されるみたいやった。
- 80 名前:3 Mormentary peace 投稿日:2003年03月22日(土)22時48分38秒
- 「藤本!!お願いや。頼む」
群集の中にいる彼女の名前を呼んだ。
すまんな、圭織、石川。うまく逃げや…
メキッという音が体の中に響き、激しい痛みが襲った。
右手は完璧に折れとった。
「あなたには死んで頂きます。反逆者をかくまった罪で」
指輪がもう一度光ったような気がした。
「反逆者は、町外れの赤い屋根の屋敷だ」
薄れ行く意識の中、吉澤の言葉を理解するのがやっとだった…
- 81 名前:takatomo 投稿日:2003年03月22日(土)22時52分49秒
- 3章終了。
ここでちょっと一つ。
各章の邦題を書くの忘れてた(w
1 End point = 終着点
2 Tragic rain = 悲劇の雨
3 Mormentary peace = つかの間の平和
です。英訳は意訳なので…邦題の方が正しい意味です。
では、続いて4章Awakening time(覚醒の時)です。
- 82 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)22時53分49秒
春の風が心地よく、室内に吹き込んでくる。
窓を全開にして、私は本を読んでいた。
読んでいるのは、精霊術の本。
しかも、かなり古い本で、今では使われることの無いようなことまで書かれている。
特に、禁呪と呼ばれる類のものは、こんなカビの生えたような本でないと載っていない。
目的は、吉澤ひとみだ。
今までたくさんの書物を読んできたが、精霊術を消し去る方法なんて載っていなかった。
載っているといえば、明らかに両者の器が違いすぎる時、相手の術の発動を抑えることができるってことだけ。
そんなのは、何の役にも立たない。
- 83 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)22時55分35秒
- うわ…また抜けてる…
82から<4ー1 Rika's view>です。本当にすいません。
では、続き
あ〜あ、何か無いかな〜
ペラペラとページをめくるが、思い当たるようなものは無い。
命を削ってまで行なう精霊術に興味はないし、自分が制御できないような精霊と契約する方法なんて無意味。
やっぱり偶然だったのかな?
いくら調べても、そんな結論に行き着く。
次の本を調べようと、席を立った時だった。
窓からの気配を感じ、反射的に振り向いた。
だが、もうその場には気配の主はいなかった。
- 84 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)22時56分51秒
誰?
何をしたの?
よくわからなかったが、一つ確かなことは、何者かが私がここにいることを見つけたようだった。
机の引き出しから指輪を出し、人差し指にそれらをはめ、階段を駆け下り、下の部屋へ。
それと家の扉が開いてたのはほぼ同時だった。
入ってきたのは見たことも無い女性。
茶色の髪に、凛とした表情。
それと、どこかサディステックな目つき。
グレーの服と腕に巻かれた赤いリストバンドが対照的だった。
- 85 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)22時57分47秒
「ミキティ?どうしたの?」
慌てて構成を組む私を遮るように、ごっちんが言った。
「ごっちん、知り合い?」
「うん。ミキティはね、シノビなんだよ。シノビ」
「シノビ?」
聞いたことがあるような無いような。
シノビ、シノビ…
しのび…
忍び?
何で読んだんだっけ…
主として諜報とか行なう人達だったかな?
モーニング公国の東の方にいるとか…
精霊術じゃないけど、それと似たようなことができるとかなんとか…
詳しいことは覚えていなかった。
それに、ごっちんのそぶりからして、敵ではないみたい。
- 86 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)22時58分45秒
「誰?知り合い?」
書庫から飯田さんと小川がでてくる。
「中澤さんは吉澤ひとみに捕らえられました」
私たちの顔を一通り見て、ミキティと呼ばれた彼女はそう言った。
飯田さんと小川の表情が一瞬で強張る。
きっと私も同じ表情をしているんだろう。
ごっちんだけは表情を変えていなかった。
「それで、中澤さんはどうなったの?」
「わかりません。でも、もうすぐここに兵士がきます。
数は全部で37人です」
中澤さんの様子を確認しなくても、兵士の人数を把握してる辺り、さすが諜報専門だ。
37人か…ちょっときついかも…
飯田さんと小川は戦えるとして、一人当たり12人か。
いや、私と飯田さんで30人くらいでないと、小川が大変か…
- 87 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)22時59分33秒
飯田さんがあのダンデライオンと、私が知ったのは、ここに来てからだった。
先の戦争で、鬼神のような強さと、天使のような美しさを併せ持つと噂されたダンデライオン。
飯田さんの槍が上手いとは知ってたけど、まさかそこまでなんて思ってなかった。
一言くらい言ってくれればいいのにと、私が文句を言うと、
「ダンデライオンなんて呼び方されても、結局は人殺しなんだよ」
と、飯田さんは言った。
その時の寂しそうな表情が、それ以上の質問を許さないと言っているように見えた。
- 88 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時00分29秒
「小川、奥に行って武器を取ってきて。
いくつかあったでしょ」
廊下を走り、小川は奥に消えていく。
「で、えーっと…」
「藤本です」
「あ、藤本さん、あなたは戦える?」
「戦えないことも無いですが、ダンデライオンと言われたあなたには到底及びませんよ」
どこか皮肉っぽく聞こえる藤本さんの言葉。
でも、飯田さんはそんなことを気にも留めていない様子だった。
「じゃあ、後藤連れて、ここから離れて。
あなたたちを巻き込むわけにはいかないわ」
「やだよ〜私も戦うかんね」
飯田さんの言葉にごっちんがいち早く反論する。
- 89 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時01分13秒
- 「ごっちん、遊びじゃないんだよ?」
「嫌だ。絶対にー嫌だ。だってさ、私って小川より強いんだよ?
梨華ちゃん知ってた?」
「う、うん」
飯田さんからは数日前にそのことを聞いた。
ごっちんがどれだけすごいのかってことを。
私は信じられなかった。
あのごっちんが、そこまで強いなんて。
でも、私は嫌だった。
たとえどんなに強くても、どんな状況にあったとしても、
無邪気な彼女の手が、血で染まるのを見たくなかった。
飯田さんも同じ考えのようで、ごっちんを一生懸命説得していた。
でも、ごっちんは断固として聞き入れなかった。
まるで欲しいものを買ってもらえない子どものように、
目に涙を一杯ためながら、「やだ!」を連呼していた。
- 90 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時02分09秒
「飯田さん、取ってきました」
武器を一杯かかえて小川が帰ってきた。
ごっちんは、その言葉を聞くと、さっと小川の元へ駆け寄り、剣を拾った。
「ごっちん」「後藤」
私たちの声もむなしく、ごっちんは剣をしっかり握って、離す気配は無かった。
「わかったから。ね、後藤。わかりました。ここにいていいからさ」
飯田さんがとうとう折れた。
ごっちんの顔に笑みが浮かぶ。
「でもね、この家から出ちゃいけないよ。それだけは約束してよ」
ごっちんはもうその言葉を聞いていなかった。
適当に飯田さんに相づちを打つと、剣を振り回しながら、声を上げていた。
- 91 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時02分59秒
- 「飯田さん、いいんですか?」
「ああなったらてこでも動かないのはあんたも知ってるでしょ?」
飯田さんは小川の持ってきたいくつかの槍を、一つ一つ手にとって見ていた。
「それはそうですけど…」
全く、頑固なのは誰に似たのか…
でも、これで、私の中に新たなやる気が生まれてきたのも事実だった。
「ごめんね、あなたまで巻き込むことになりそうで」
「いいですよ。中澤さんから、自分に何かあったときは、飯田さんに仕えるように命じられていましたから」
うう…事務的というか、何と言うか…
藤本さんは声色どころか、表情一つ変えずに言った。
苦手だ…こういう人…
- 92 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時03分50秒
その時、楽しいムードを打ち破るようにルビーが光った。
「飯田さん」
小川と共に、槍を手に持ち、頷いた。
「もし、私たちに何かあったら、後藤を連れて逃げて」
そして、藤本さんにそう言いい、飯田さんはすばやく出て行く。
私と小川も後に続いた。
春の暖かい日差しが照りつける穏やかな昼下がり。
こんないい天気に殺し合いするなんて、誰が予想してただろう?
いや、少し前なら当たり前だったのか。
いやな時代に生きてるんだな…
坂の下からいくつもの人影が見えてきた。
37人だっけ?
数字で聞く以上に、目の前にしてみると多く感じられた。
先頭にいるのは吉澤ひとみ。
相変わらずの趣味の悪い黒いローブ。
指輪も変わらずダイヤモンドだった。
- 93 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時04分40秒
「わざわざお出迎え頂いてありがとうございます」
わざとらしく頭を下げる吉澤ひとみ。
ムカツク。
こーゆーやつめっちゃムカツク。
「石川」
飯田さんが前を向いたまま話し掛けてきた。
「落ち着きな。あれもあいつの作戦なんだ」
さっきまでの飯田さんの声とは全然違った。
棘があるというか、刺さるような声。
それとともに、飯田さんの全身から発散される空気に、私は足がすくむのを必死でこらえた。
これが百戦錬磨の人の存在感…
それは相手も感じているようで、兵士の顔には動揺の色が見えていた。
- 94 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時05分22秒
「とりあえずですね、なつみさんが、うるさいんですよ。
早くあんたたちを殺せって。だから、行きます」
「石川、小川、無理しなくていいよ。危なくなったら家に逃げ込みな」
その2つの声が引き金となり、戦いは始まった。
37人の兵と3人の女の子。
構成を組み、精霊術を放つ。
全力で力を使うなんて、初めてかもしれない。
大気の振動が耳を突き、空気のかたまりが一人の兵士の腕を切断した。
- 95 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月22日(土)23時06分09秒
吹き出る血。
赤く染まる地面。
苦しむ兵士。
私は自分の手が震えていること気付いた。
どうしたらいいかわからない。
何人かの兵が私に近寄ってくる。
それと目の前の惨劇が頭の中をグルグル回り続る。
動かないといけないことはわかってるが、どうしたらいいのかわからない。
そして、私は何も見えなくなった。
- 96 名前:takatomo 投稿日:2003年03月22日(土)23時08分02秒
- 更新終了。
今回はミスばっかりしてすいません。
いつもこれくらいの量を更新できたらいいですけどね。
- 97 名前:名無し読者です 投稿日:2003年03月23日(日)21時29分52秒
- ホント面白いです。
先が気になります…
あと、裕ちゃんも…
PS.個人的には、びみょーにいしごまが読めて嬉しかったです(w
- 98 名前:しばしば 投稿日:2003年03月24日(月)16時38分23秒
名無しやめましたw
書いてる方にレスありがとうございました。
この作品見てると、
ファンタジーだなっと思えるんですよね(自分のはダメですw)
これからも楽しみにしてます。
- 99 名前:takatomo 投稿日:2003年03月24日(月)23時09分17秒
- >>97
レスありがとうございます。
いしごまはするつもりはなかったんですが、石川さんが勝手に動き出しまして…
数少ないカップリングシーンですが、そうやって喜んでいただけると、嬉しいです。
>>98
レスありがとうございます。
いえいえ、しばしばさんのも立派なファンタジーですよ。
私のはライトなものなので、ファンタジーって意識しやすいだけだと思います。
しばしばさんのも更新期待してます。頑張ってください。
- 100 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時10分21秒
- <4−2 Kaori's view>
すべてを忘れてここで平和に暮らすのも悪くないかなって。
ここに来てから何度もそう考えた。
巻き込んじゃった石川や小川も可哀相だし。
でも、私の頭の片隅で、それは違うって警鐘が鳴るの。
なっちに会って、確かめたい。
本当になっちがそう思ってるのか。
そうなら、なぜ私が邪魔なのか。
全部、全部聞きたい。
なっちの声で、なっちに会って聞きたい。
もしそれで、なっちが私がいらないというのなら、殺されてもかまわない。
だから、なっちに会うまでは死にたくない。
- 101 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時11分23秒
- 「飯田さん?」
急に肩を揺すられてビクッとした。
私だけでなく、揺すった小川も驚いてた。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
「なつみさんのことですか?」
いきなりの言葉に、私はまたまたびっくりした。
「わかりますよ。もう4年も飯田さんと一緒にいるんですから」
恐縮して言う彼女の頭をそっと撫でた。
「ごめんね、心配かけたみたいで。大丈夫だから」
「はい。でも、一つだけ忘れないでください。
私はあの日からずっと、何があっても飯田さんに付いて行くと決めています。
だから、私のことは気にせずに、飯田さんの思う道を選んでください」
いつの間にこんなに立派になったんだろう…
初めて会った時は、オドオドしてた子が、今は私を勇気付けてくれてるなんて…
あの時から少しも変わっていない、真っ直ぐな瞳と、飾らない彼女の本心が私はとてもうれしく、思わず涙ぐみそうになった。
- 102 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時12分45秒
- その時、階段を降りる音と、扉の開く音が耳に入ってきた。
「誰か来たみたいだから、行こうか」
そう言ったのは半分は照れ隠しもあった。
二人並んで書庫を出る。
目に飛び込んできたのは、後藤と石川。
そして、見たことの無い女の子。
後藤が楽しそうにしてることから、知り合いみたい。
「誰?知り合い?」
私が問いかけたが、彼女は私の方を見ると、
「中澤さんは吉澤ひとみに捕らえられました」
そう言った。
- 103 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時13分53秒
吉澤ひとみ
またしてもその名前を聞いた。
あいつは一体何者なんだ?
裕ちゃんの話では、最近になって名前を聞き始めたらしいけど…
なっちの口からその名前を聞いたことは無い。
でも、なっちのお気に入りらしい。
つまり、こいつが、なっちが変わった理由を握ってる可能性が高い。
相手は全部で37人。
裕ちゃんは捕らえられてどうなったか不明。
それが彼女の持ってきた情報。
- 104 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時15分00秒
37人か…
石川が初めての実戦で、どう転ぶかわからない。
人を殺すということを初めて経験した時、あの子はどうなるだろう?
刃物が皮膚を突き破り、肉に突き刺さり、そして内臓に達して相手の命を奪う感触。
それを初めて体験した時、私は動けなかった。
全身が硬直し、握っていた槍さえ離せなかった。
顔に飛び散った返り血さえぬぐうことはできなかった。
普通の人間はそうである。
小川もあの日、そうだった。
もし、石川が少数派の人間だったら、初めての体験する殺戮という行為に、快感を覚えるのなら、
この状況ではそのほうがありがたいことは確かである。
私と小川だけで37人も相手するのは苦しいから。
でも、そんな石川は嫌だ。
絶対、そんな風にはなって欲しくない。
- 105 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時16分01秒
- 「小川、奥に行って武器を取ってきて。
いくつかあったでしょ」
小川に指示をだす。
敵が近づいているなら、早く準備をしないといけない。
「で、えーっと…」
「藤本です」
「あ、藤本さん、あなたは戦える?」
「戦えないことも無いですが、ダンデライオンと言われたあなたには到底及びませんよ」
藤本と名乗った子。
私になんか恨みでもあるのかな?
言葉の棘を理解しながらも、気に止めない振りをした。
今はそんなこといってる場合じゃないから。
「じゃあ、後藤連れて、ここから離れて。
あなたたちを巻き込むわけにはいかないわ」
そう言った途端、声が聞こえた。
「やだよ〜私も戦うかんね」
声の主は後藤。
絶対そう言うと思ってた。
- 106 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時17分03秒
- 石川と私の二人の説得にも、後藤は耳を貸そうとしない。
「後藤は怪我するから危ないよ」
「やだ!」
「裕ちゃんに怒られるよ」
「やだ!」
「おやつ抜きにするよ」
「……やだ」
断固として聞こうとはしない。
「飯田さん、取ってきました」
武器を一杯かかえた小川が帰ってきた。
その声を聞いた途端、ものすごいスピードで小川の元へいった。
「ごっちん」「後藤」
私たちの声もむなしく、後藤はすぐさま一本の剣を手にとっていた。
こうなったらもう無理だ。
こっちが妥協するしかない。
後藤は今にも敵に突っ込んでいきそうな勢いだったから。
「わかったから。ね、後藤。わかりました。ここにいていいからさ。
でもね、この家から出ちゃいけないよ。それだけは約束してよ」
私の言葉をちゃんと聞いているのかわからなかったが、後藤は素直に返事をした。
- 107 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時18分13秒
- 「飯田さん、いいんですか?」
「ああなったらてこでも動かないのはあんたも知ってるでしょ?」
とにかく、武器を探さないと…
一つ一つ手にとって見る。
物置に入れっぱなしにしてた割には、手入れが行き届いていた。
重さと太さ、そして刃の長さ。
自分に一番あったものを探す。
元々、戦場育ちだから、そこらに落ちてある槍を使いまわしていくことが多かった。
そのため、自分の中で、槍にこだわりというものはそれほど無かったけど、
選択肢があるからには、一番しっくりくるのを選んでおきたい。
「飯田さん」
小川が使いやすそうなものを1つと、自分用に1つ選んだところで、
石川の声が聞こえた。
- 108 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月24日(月)23時19分29秒
「もし、私たちに何かあったら、後藤を連れて逃げて」
藤本にそれだけ言い残した。
それから後藤の方をチラッと見る。
剣を鞘から抜いては収め、抜いては収めて遊んでいた。
そんな無邪気な後藤が少しうらやましかった。
武器=人殺しの道具としてしか見ることのできない自分と、
その武器をおもちゃにしている後藤。
ちょっとうらやましかった。
あの子を守るためにがんばんなきゃね。
扉を開けて外へ出る。
心地よい風が頬に吹き付ける。
だけど、その風に混ざってくる敵の気配が、私の中の何かを刺激していた。
- 109 名前:takatomo 投稿日:2003年03月24日(月)23時21分42秒
- 更新終了
ちょっと中途半端な位置ですが、この続きが長いので、ここで一旦切ります。
何とか今週中に4を終わらせたいと思います。
- 110 名前:名無し読者 投稿日:2003年03月26日(水)17時14分03秒
- 可愛い後藤さんいいですねぇ〜…。続き期待。
- 111 名前:takatomo 投稿日:2003年03月27日(木)00時11分00秒
- >>110
レスありがとうございます。
後藤はこれからちょっとしたキーになりますので、注目していただけると。
ではでは続きです。
- 112 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月27日(木)00時12分42秒
人影が少しずつ見えてきた。
全部で37人。
藤本の言葉が間違ってないことを確かめる。
先頭にいるのは吉澤ってやつだ。
「わざわざお出迎え頂いてありがとうございます」
頭を下げる吉澤。
そうやってこっちを挑発してるつもりだろうけど、私は無視した。
意識を集中させ、神経を研ぎ澄ませる。
隣の石川の気配がブレ始めた。
挑発に掛かってるみたいだね。
「石川、落ち着きな。あれもあいつの作戦なんだ」
前方の意識をそらさないまま、私は言った。
石川の気配はゆっくり整ってきた。
冷静さを失うことは、戦いでは致命的。
隣の小川はよくわかっているようで、落ち着いていた。
- 113 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月27日(木)00時13分31秒
「とりあえずですね、なつみさんが、うるさいんですよ。
早くあんたたちを殺せって。だから、行きます」
吉澤の声が掛かる。
私は石川と小川に一声かけて、二人の前に一歩でた。
私の所に5人。小川の所に3人。石川に5人。
第一波としては理想的な配分だ。
吉澤は戦いを良く知ってる。
でもね、私に5人ってのは、ちょっと侮りすぎだよ。
相手の攻撃の軌道、スピード、場にいる全員の位置関係。
それらを常に測り、一瞬で最短の道をはじき出し、実行する。
他の人間には私が兵士の間を抜けただけにしか見えてないかもしれない。
でも、その一瞬には私の頭と体がフル回転してるんだ。
まず、5人…
私の周りの兵は全員死んでいた。
それを見て、後ろにいた兵は後ずさりした。
- 114 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月27日(木)00時14分23秒
小川はどうだろう…
視界には入っていないが、気配はしている。
1人倒してるみたい。
その時、空気が一瞬にして捻じ曲がった。
それと共に、風の刃が駆け抜け、兵士の悲鳴と共に、石川の悲鳴が聞こえた。
このときばかりはさすがに、視線を敵から外した。
手を押さえてのた打ち回る兵士と、血にまみれた両手を振るわせる石川。
「石川!」
大声で叫ぶが、その声は届いていないようだった。
よかった。
この状況で私はそう思った。
石川が普通の人間でよかったって。
石川はその場に倒れた。
おそらく気絶したようだ。
- 115 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月27日(木)00時15分20秒
- 私は石川に向かう4人の兵を殺した。
石川に躍起になってたから、ちょっと一人の攻撃がかすったけど、気にしない。
石川を抱え、家の中へ連れて行く。
扉を開けると、後藤と目が合った。
すごく何か言いたそうな顔をしていたけど、私の様子がいつもと違うせいか、何も言わ
ずに目をそらした。
ただ、後藤が腰に差していた剣がさっきまでのとは違うような気がした。
でも、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
石川を寝かせ、すぐに家を出た。
小川の場所を確認し、加勢に向かう。
個人個人で戦うより、まとまって戦った方がいいから。
でも、私の前に吉澤が立ちはだかった。
その手には剣を持っていた。
- 116 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月27日(木)00時16分07秒
- 「あんた、精霊師じゃなかったの?」
「別にいいじゃないですか。ここにいる誰よりも、私が一番剣が使えるんだから、私が
相手するしかないでしょ」
口元に笑みを浮かべながら言った。
私が倒したのは9人。
石川が1人、小川は今で3人か。
37−13=24人。
「悪いけど、後が溜まってんだ。容赦しないよ」
そう言って伸ばした槍の先に、吉澤の姿は無かった。
「ちょっとなめてません?いっときますけど、私はホントに強いですよ」
「そうみたいだね」
ごめん、小川、なんとか頑張って。こいつ、マジでしんどいかもしれない。
- 117 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月27日(木)00時16分52秒
吉澤は、速かった。
とにかく速かった。
反応速度の限界まで切り詰めて、同じくらいの速さ。
少しでも気を抜くと、置いていかれそうなほどだった。
地面を蹴って草が舞い上がる。
それが再び落ちるまでに接触すること3回。
お互いの武器が空を切る。
認めたくないが、互角だった。
体力と精神力が先に切れた方の負け。
無意味な消耗戦だった。
私だけならいい。
体力、精神力で負けるとは思わない。
でも、こいつの狙いは私の足止め。
小川たちは残りの兵がやってくれるから。
それがわかっててもこの状況を打開することは難しかった。
どうすればいい…どうすれば…
- 118 名前:takatomo 投稿日:2003年03月27日(木)00時26分54秒
- 更新終了
4は次で終わる予定です。
最近、レスをたくさんいただいてありがたいかぎりです。
更新のほうもこの調子がんばっていきたいので、よろしくおねがいします。
- 119 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時21分42秒
- <4−3 Maki's view>
窓から見た光景は、見たことがあった。
漂ってくる血の臭いは、どこか懐かしい臭いだった。
「変なの」
私は思わずそう呟いてた。
後ろで笑うのが聞こえて振り返った。
「ミキティどうしたの?」
普段は笑わないミキティが笑うって、私そんなおかしいことしたかな?
「やっぱりごっちんはそうなんだって思っただけです」
私のことはごっちんって呼ぶけど、話し方は敬語。
ミキティって何か硬いんだよね…
でも、ミキティが言ってる意味は全然わかんなかった。
いつも難しいことばっかり言ってるから、意味わかんないんだけど、
簡単な言葉で意味がわかんないってことは珍しかった。
それきり、ミキティは黙ってしまったので、私はまた窓の外に視線を戻した。
- 120 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時22分53秒
圭織はやっぱすごかった。
すごいというか、綺麗だった。
槍先が流れるようにスラスラっと動いていって。
小川もなかなかだったけど、なんか見てて危なっかしかった。
スキだらけなんだけど、相手もそれに気付いて無いみたいで…
みてるこっちがすごいハラハラしてた。
その時、私の視界に一本の棒が入ってきた。
驚いて振り向くと、ミキティが細い剣を持ってた。
「どうしたの…それ?」
「ごっちんがここに来る時持ってた剣。中澤さんはずっと隠してました」
そう言って柄を私に向ける。
裕ちゃんが?
恐る恐る手に取り、鞘から抜くと、青色の刀身がボワッと光った。
それとともに、手を伝わって何かが流れ込んで、目の前が真っ白になった
- 121 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時24分01秒
何だろ…これは…
光が薄れていって、人影が少しずつはっきりと見えてきた。
女の人だ。
女の人が剣を持ってる。
「後藤」
呼んだ。私の名前を。
懐かしい声。誰?あなたは誰?
「ごっちん、ごっちん」
我に帰ると、ミキティの顔が目に飛び込んできた。
「大丈夫?急に倒れこんで」
「え?」
私はミキティの膝の上に頭をのせている事に気付いた。
「ごめん」
すぐに起き上がって、手に持っていた剣を鞘に収める
その時、悲鳴が聞こえた。
反射的に窓の外を見る。
梨華ちゃんが倒れてた。
圭織が駆け寄る。
梨華ちゃんを担ぎ上げ、こっちにやってきた。
- 122 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時25分01秒
- 扉が開き、圭織が入ってくる。
すごい威圧感だった。
前、訓練してた時とは全然違った。
私は思わず目をそらした。体が小刻みに震えていた。
見ていられなかった。
再び窓越しに圭織の背中を見るまで、私の震えは収まらなかった。
「梨華ちゃん、大丈夫そう?」
「気絶してるだけみたいだから、大丈夫。
それより、小川さんは大丈夫?」
「へ?」
視線を再び窓の外へ戻す。
圭織はいなかった。
違う。いた。
でも、はっきりと見えなかった。
すごいスピードだった。
意識してみないと、全然見えなかった。
それよりも、小川だ。
小川の姿はよく見えなかった。
兵士の陰になってた。
- 123 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時26分12秒
- 「あれってさ、やばくない…」
「そうですね。小川さんじゃあの人数は相手できませんね」
「相手できませんねじゃないよ。助けなきゃ!」
「私は飯田さんに何かあったらあなたを守れと言われています」
ミキティは淡々と言った。
何にも自分には関係ないみたいに。
「だから何?」
私はミキティに掴みかかった。
「ミキティはいつもそうだよ。〜が言ったとか、〜の命令とか。
どうしてさ、どうしてそんなことばかり言うのさ」
襟を力いっぱい引っ張った。
でも、ミキティは表情一つ変えない。
「そんなことより、小川さんどうするんですか?」
私は殴った。思いっきりミキティを殴った。
「バカ」
それだけ言って、私は外へ駆け出た。
- 124 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時27分19秒
- 「小川!」
周りの兵士が私の声に反応した。
その間から、小川の姿が見えた。
何か言っているように見えたけど、よく聞こえなかった。
でも、生きてるってことはわかった。
今助けるかんね。
剣を抜いて、走った。
一人目の兵士の振り下ろす剣を受け止める。
違う。受け止めてなかった。
相手の剣をこの剣は切っていた。
そして、驚いている兵士の胴をなぎ払う。
鎧があるのに。
なぜか、私はそうした。
そうするのがいいと思ったし、体が勝手にそう動いた。
- 125 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時28分30秒
スパッ
音はしたが、私の手には切った感触はなかった。
そもそも、人を切った経験ないんだから、どんな感触って聞かれてもわかんないんだけど…
抵抗っていうの?それがなかった。
空気を切ってるみたいな感じだった。
でも、私の前の兵士の体は真っ二つに割れていた。
地面が大量の血で濡れていく。
それを見ると、私の中で不思議な感情が芽生えてきた。
おもしろい。人を切るっておもしろい。
私は手当たり次第に、周りの兵を切っていった。
- 126 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時29分32秒
- おもしろい。
血が飛び散る。悲鳴が耳を突く。
おもしろい。
人が死ぬ。どんどん死ぬ。
おもしろい。
私は動くもの全てを切っていった。
剣を振るたびに、私の中に快感という物質が注入されていくみたい。
殺す。
生きてるもの全部殺す。
おもしろいから。
殺すっておもしろいから。
「後藤」
そんな言葉が耳に入った気がした。
知らない。
声がするってことはそっちに生きた人がいるんだね?
いたいた。
まだ2人もいたじゃん。
白いのと、黒いの。
どっちがおもしろいかな?
- 127 名前:4 Awakening time 投稿日:2003年03月29日(土)23時30分22秒
- 思いっきり剣を振る。
二人とも避けた。
黒はそのままどっかいっちゃった。
逃がさない。追いかけてやる。
でも、その前に白いのを殺さなくちゃ。
白いのは何か言っている。
聞こえない。
何にも聞こえない。
殺す。ころす。コロス。
ゼンブコロシテヤル。
- 128 名前:takatomo 投稿日:2003年03月30日(日)00時19分50秒
- 更新終了です。
次は5です。
案内板でもカミングアウトしましたが、11回短編コンペで
09ポートレートを書きました。
そちらの方も見ていただけると。
- 129 名前:takatomo 投稿日:2003年03月30日(日)00時20分50秒
- 追加
以前予告していた解説ページを設置しました。
以下のアドレス
http://members.tripod.co.jp/pmtakatomo/index.html
からいけます。
- 130 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時45分00秒
- <5 lunatic sword(狂気の剣)>
<5−1 Kaori's view>
もう何度目だろう。
刃が空気を切る音だけが耳に入る。
一向に終わる気配を見せないこの戦い。
だが、やっと変化が訪れてきた。
吉澤の刃をかわす。
私の槍が伸びる。
その瞬間、ちょっとした感触が手に残り始めた。
かすってる。
その感触は、回を重ねるたびに大きくなっていき、ついには、吉澤の腕から手がたれ始めた。
いける。もうすぐだ。
吉澤の焦りが表情に現れてきた。
残りの力を振り絞り、攻撃を続けようとした時だった。
- 131 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時46分14秒
- 凄まじい殺気を感じ、私は攻撃の手を止めた。
それは吉澤も同様だったようで、一旦お互い距離を取る。
そして、左に視線を移した私の目には、信じられない光景が飛び込んできた。
「後藤!」
動いている者は何もいない。
一面の赤い絨毯の上に一人立っていたのは、後藤だった。
頭と両手をだらりと下げ、背中を丸めて立っていた。
彼女は私の声に気付いたのか、ゆっくりこっちを向いた。
笑みを浮かべたその顔は、余すところなく真っ赤に染まっていた。
次の瞬間だった。
彼女がこっちに向かって来た。
太刀筋を見切り、受け止めようとする。
でも、私のカンが何かを警告した。
とっさに槍から手を離し、後ろに飛び退いた。
槍は後藤の剣によって真っ二つに切り裂かれる。
- 132 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時47分14秒
青く光る剣だった。
それも空のような真っ青ではない。
海の底のような、暗い青。
そして、薄い。とても薄い剣だった。
「ジュエル・ウエポン…」
鉄より固い宝石を、限界まで薄く伸ばして作られた武器。
相手の武器や鎧もろとも切り裂くことができ、その薄さから、
使用者に斬った感触さえ残さないと言われる伝説の武器。
実物を見るのは二度目だった。
まさかこんなものがここにあるなんて…冗談でしょ?
- 133 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時48分01秒
- 「チッ」
舌打ちが聞こえた。
それと共に吉澤は走り去ってしまった。
でも、今はあいつにかまってる場合じゃない。
後藤を何とかしないと…
「後藤!」
呼びかけてみる。
返事はない。
それどころか完全に私をターゲットに定めたみたい…
奇声をあげ、私の方へ向かってくる。
さっきよりも早かった。
避けたはずだが、前髪がいくつか宙に舞った。
続いて2撃目。
曲線を描くように振り下ろされるそれは、私の足をかすっていった。
- 134 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時48分56秒
- 「クッ…」
焼けるような痛みに襲われる。
でも、ここで足を止めるわけにはいかない。
それは死に直結することになるのだから。
「藤本、槍を!」
叫んだ。なりふり構ってられなかった。
丸腰で止められる相手ではない。
家から飛び出る藤本の姿を見ながら、再度後藤の剣を避ける。
肩が切り裂かれたが、後藤と体を入れ替える。
「飯田さん!」
背後から藤本が投げてよこした槍を振り向きもせず受け取る。
- 135 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時49分56秒
- 後藤はかまわず剣を振る。
それに合わせるように槍を出す。
私の槍先はその薄い刃を止めていた。
点と線とのぶつかり合い。
線と線では負けるが、点では武器が壊れることはない。
ただ、高速で振られる薄い刃に槍先の一点を合わせることは、神懸かり的な技術を必要とする。
それをするだけで精一杯で、後藤自身に攻撃を加えられなかった。
剣だ。あの剣をなんとかしないと…
先ほどまでの戦闘と出血が、私の体力を奪い去る前に。
石川はまだ目を覚ましていないし、藤本に協力してもらうのも酷なことだ。
生半可な力じゃ逆に殺されてしまう…
- 136 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月01日(火)00時51分31秒
- 私はその時、やっと思い出した。
小川?小川はどうしてるんだ?
さっきの場面、地に足を着けているのは、後藤の姿だけだった。
ということは…
最悪の想像が私の頭を占領する。
その僅かな動揺が槍先をぶれさせた。
槍はあっけなく後藤の剣で切り落とされた。
やばっ
柄だけになった槍を構えるが、それで後藤が止められるとは思えない。
後藤の剣をさけつつ、一旦距離をとった。
ざっと辺りを見回しても何も無い。
肉の塊と化した人間と、血の海。
なんでみんな剣ばっかり使うのよ?
私はまたグチり始めた。
自分の悪い癖だとはわかってるけど、これだけはどうしようもない。
後藤の動きはどんどん鋭くなってきている。
まるで眠っていた力が少しずつ解放されていくように。
- 137 名前:takatomo 投稿日:2003年04月01日(火)00時53分06秒
- 更新終了です。
邦題は、作中に書いたように、「狂気の剣」です。
感想などをいただけるとうれしいです
- 138 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時03分05秒
- そろそろ、その1つ1つをかわしていく事がきつくなってきた。
後藤の剣が再び私の足を切り裂いた時、私は足を取られ体勢を崩した。
嘘でしょ?
後藤がそんな隙を見逃すわけが無かった。
すぐに剣が私に向かってきた。
避けられない…
- 139 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時03分56秒
……
……
ところが、私は痛みを感じなかった。
恐る恐る目をあける。
赤く染まった剣先がまず目に入った。
それは、私の前で止まっていた。
「あ…あ…」
後藤の声が聞こえる。
「ごっちん…」
その声にあわせるように、私は状況を掴み始めていった。
「藤本!」
「ミキティ!」
2つの声が重なる。
後藤の声はいつもの後藤の声だった。
それに安心したかのように、藤本はその場に崩れ落ちた。
- 140 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時04分42秒
- 「ミキティ!なんで?ねえ?なんで?」
「もしもの時は…ごっちんを…無事…連れて逃げろと…命令されていましたので…」
赤く染まっていく腹部を押さえて、藤本は荒い息の合間から声を漏らした。
「ごめん。ごめんミキティ」
後藤が藤本に泣きつこうとするのを、私は制した。
「待って。まだ死んでるわけじゃないよ」
2人で藤本をゆっくり持ち上げ、家の中へと運ぶ。
家の中では、石川はまだ眠っていた。
そして、その横には血まみれの小川の姿があった。
でも、胸がゆっくり上下していた。
よかった。
思わず安堵のため息が漏れる。
だけど、今は藤本のことが先だ。
- 141 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時05分36秒
- 右わき腹に突き刺さった剣。
青と赤の二色に染め上げられたその刀身は、藤本の体を突き抜けている。
「後藤!タオルと水を汲んできて。あと、火と針と糸も」
藤本を隣の部屋に運んで指示を出す。
一応、脈を取ろうとダラリと垂れ下がった手を取る。
赤いリストバンドをずらし、指をあてようとする私の目に、無数の傷痕が映った。
私は反射的に手を離した。
藤本の手が再びダラリと垂れ下がる。
手首を横切る赤い筋。
それが意味するものを解からない訳がない。
丁度後藤が戻って来たので、私はそっとリストバンドを戻し、脈を取ることを止め、剣に手をかけ、一気に抜いた。
じんわりと赤い斑点が広がっていく。
私はすぐに処置を始めた。
藤本、がんばれ…
- 142 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時06分37秒
<5−2 Rika's view>
放った術。
飛び散る血。
耳を突く悲鳴。
消えていく命。
何度も何度も同じ映像が繰り返されている。
顔に掛かった血液の温もりも、鼻を突く臭いも鮮明に覚えていた。
私が目を覚ました時には、全てが終わっていた。
外はもう真っ暗で、血がこびりついた床は、ランプの光で黒く浮かび上がっていた。
- 143 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時07分36秒
小川は全身包帯が巻かれてて、飯田さんも肩と足に包帯。
ごっちんと藤本さんは隣の部屋。
ごっちんの泣き声が壁越しに聞こえていた。
「石川、大丈夫?」
飯田さんが声をかけてきた。
私は視線をそのままに、黙って頷く。
自分がちょっと情けなくなった。
HPNの称号を与えられ、自分が一番だと思っていた。
なのに、なのに何さ。
この前は吉澤ひとみにやられて、今回も結局何もできなかった。
HPNって何なの?
国で一番の精霊師?
嘘だ。
役立たずの代名詞じゃない。
- 144 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時08分34秒
「あのさ、私さ、安心したんだよね」
突然の飯田さんの言葉に、私は耳を疑った。
「初めて人を殺すんだからしょうがないよ。
それより、今の気持ちを絶対に忘れちゃダメだよ」
「飯田さんも、そうでした?」
私の問いに、飯田さんは答えなかった。
ちょっと笑って、隣の部屋に入っていってしまった。
「ねえ、小川?」
「何ですか?」
「小川は初めてなのに、どうして平気だったの?」
「…初めてじゃないですから」
ちょっと間を空けて、ぶっきらぼうにそう答えた。
- 145 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時09分18秒
- 「そう…」
なんとなくそれ以上聞きにくい雰囲気を察知し、私はそれだけ言った。
小川は15歳だっけ?
なのに、時折見せるこうした大人みたいな表情。
まるで私の方が年下みたいじゃん…
「藤本の意識戻ったよ」
扉が開いて、声が聞こえた。
私達はすぐに立ち上がる。
小川に肩をかして、急いで隣の部屋に向かう。
血の臭いの残るその部屋で、胸に頭をうずめるごっちんの姿が見えた。
- 146 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時10分35秒
- 「ごっちん、泣かないで。私が勝手にやったんですから」
「ごめん。ごめんなさい」
そのやりとりが何度も繰り返されている。
私が寝てる間に何が起こったのか、一通り聞いている。
ごっちんのこと、藤本さんのこと。
そして、剣を見せてもらった。
文献でしか見たことのない、ジュエル・ウエポン。
青く光るその刀身はサファイアで出来ていた。
ダイヤモンドの次に硬いその宝石。
第9の月の石であるそれは、まさしくごっちんにふさわしいものだった。
私はガーネット。
第1の月の石。
火炎を意味するその石を、私は数回しか使ったことは無い。
自分の誕生石を使えば、精霊師は他のどの宝石よりも強大な力を使うことが出来る。
相性がいいのだ。
だが、普段はそんなに大きな力を必要としないので、使わない。
大きな力は制御が難しいし、消耗が激しいから。
- 147 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月07日(月)00時11分10秒
- 私のガーネットの指輪も、家の引き出しに入れたままだった。
まさか、こんなことになるなんて夢にも思っていなかったから。
もし、その力をもっていれば…
私がみんなの力になれてたら…
ごっちんは、藤本さんは傷つかなかったんだ。
私が、私がダメだから…
みんな傷ついて、私だけ無傷なんだ…
欲しい。
力が欲しい。
みんなを守れるくらい、大きな力が欲しい。
泣き伏せるごっちんの背中を見て、私は思った。
- 148 名前:takatomo 投稿日:2003年04月07日(月)00時12分41秒
- 更新終了です。
間隔が空いて申し訳ないです。
新しい生活に慣れるまで、ちょっと更新はこれくらいの頻度になりそうです。
よろしくお願いします。
- 149 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月08日(火)18時49分09秒
- ふずぃもとぅ最高。ごっちんを救ってくれてすわんきぃうです。
- 150 名前:takatomo 投稿日:2003年04月13日(日)21時34分48秒
- >>149
レスありがとうございます。
えっと…もしかして私のよく知ってるあの方でしょうか?(違ってたらごめんなさい)
この次は藤本編になります。
藤本に関しては、後ほど外伝を書くことになるので、楽しみにしていただけると。
- 151 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月13日(日)21時36分16秒
- <5−3 Miki's view>
10歳の時、初めて人を殺した。
それは試練という名前の殺し合いだった。
相手は私と同じ年の子。
あっけなかった。
手に持った剣を動かすと、すぐに体は冷たくなった。
私と同じ女の子。
ずっと私と仲がよかった女の子。
泣いた。声を殺して泣いた。
そして、自分も同じように死ねるのかと、その夜本気で考えた。
刀を、手首にそっと当ててみた。
それからのことはわからない。
ただ、その日以来、私は涙というものを流していない。
というより、痛みを感じることがなくなった。
- 152 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月13日(日)21時37分17秒
でも、彼女は違った。
「バカ」
彼女はそう言って私を殴った。
痛かった。何年も前に感じた、懐かしい感覚がそこにあった。
殴られたから?
違う。
バカと言われたことが痛かった。
どうして痛いの?
わからない。
そもそも、何で殴られたのかわからない。
私は間違ったことを言っていない。
主人の命令。
飯田さんの命令を守ってるだけ。
- 153 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月13日(日)21時38分42秒
- もし、私たちに何かあったら、後藤を連れて逃げて
そう命令された。
つまり、ごっちんの身の安全を第一に考えろってことだ。
私達が危なくなったら助けろとも、援護しろとも言われてない。
だから、私は間違っていない。
中澤さんの時もそう。
中澤さんに何かあったら、飯田さんに仕えるように言われた。
だから、私はすぐに戻ってきた。
それも中澤さんの命令だったから。
ごっちんに剣を渡したのもそう。
でも、何でこんなに胸が苦しいの?
忍びは主君の命令に従う。
それが当たり前のこと。
小さな頃からそう教えられてきた。
主君の命令であれば、親も殺す。
自殺さえしてみせる。
事実、友人も殺した。
それが忍びの使命。
なのに、なぜこんなに心が苦しいんだろう?
- 154 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月13日(日)21時39分42秒
- だから?
だから私は小川を助けたの?
違う。
飯田さんの命令に従ったついでだ。
それだけだ。
他に何の意味も無い。
ごっちんの剣を受けたのもそうだ。
ごっちんはおかしかった。
狂っていた。
このままじゃ、正気に戻った時、彼女がどれだけ悲しむかわからない。
だから、受けた。
ごっちんを守るのは私の使命だから。
でも、なぜだろう?
目を覚ましてごっちんの顔を見ると、涙が溢れてきた。
「ごめんなさい」と言うごっちんの頭をなでると、うれしかった。
飯田さんも涙を浮かべていた。
遅れて部屋に入ってきた小川も、石川さんも。
私は自分の任務をこなしただけなのに、どうしてこんなにうれしいんだろう…
- 155 名前:5 lunatic sword 投稿日:2003年04月13日(日)21時40分30秒
- 一向に泣き止む様子を見せないごっちんの頭を抱く。
飯田さんとふっと目が合った。
涙を浮かべながらわらっていたので、私も同じように笑った。
いつ以来だろう?笑った顔を作るのは。
いや、これは作ってるわけではない、自然と笑いがこぼれてるのだ。
きっと、これが私の抱いていた違和感の正体なのかもしれない。
- 156 名前:takatomo 投稿日:2003年04月13日(日)21時41分28秒
- 少ないのでもう少し更新します。
ではChapter6です
- 157 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月13日(日)21時42分23秒
- <6 cross the border>
<6−1 Rika's view>
夜の闇は、全てを溶かし込むように感じた。
木々の間を手に持ったランプの明かりだけを頼りに、すり抜けていく。
誰も口を開かない中、踏みしめる葉の音だけが響いていた。
もうどれくらい歩いただろう?
耳にかすかな水の流れる音が聞こえ、私は顔を上げた。
木々の間から光がいくつか見えた。
どうやら目的地が近いみたい。
先導していた藤本さんのペースがやや速くなる。
明かりは段々大きくなり、それと共に、水の流れる音もはっきりと聞こえてきた。
- 158 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月13日(日)21時43分20秒
- プッチモニ公国との国境の川。
私達は今、そこに来ている。
モーニング公国を離れ、プッチモニ公国へと向かうために。
話は少し前に遡る。
藤本さんが意識を取り戻してから2日後のことだった。
幸い、ジュエル・ウエポンの薄さが、臓器を傷つけることなく藤本さんの体を貫いていたため、経過は順調だった。
だが、彼女は動けるようになるとすぐにこう言った。
「ここは一旦離れるべきです」
彼女の言っていることはもっともだ。
敵に居場所を知られてるんだから、とどまることは危険だ。
でも、あんたが回復するまで、動きようがない。
- 159 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月13日(日)21時44分14秒
「私は大丈夫です。気にしないで下さい」
「ダメだよ。傷口もちゃんとふさがってないのに」
けれども、反論する私の耳に、意外な言葉が入ってきた。
「そうだね。プッチモニ公国にでしょ?」
まぎれもなく飯田さんの声だった。
私は耳を疑った。
「ちょっと待ってくださいよ」
飯田さんの方を向く。
でも、私の背中から、藤本さんの声がした。
「そうです。さすがですね。全てわかっていらっしゃる」
何のことかわからない。私を挟んで二人が目線を合わせて頷いていた。
- 160 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月13日(日)21時44分54秒
それで、私の意見は一瞬で無視されて、その夜、私達は中澤さんの家をでた。
結局、中澤さんはどうなったんだろう…
そのことは誰も口に出さなかった。
みんなわかってたから。
だから、みんな泣かなかった。
たぶん、みんな一人で泣いてたんだと思う。
でも、私は泣かなかった。絶対に泣かないって決めてたから。
- 161 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月13日(日)21時45分38秒
「どした?石川?ちゃんと聞いてた?」
「へ?」
いつの間にかみんなが自分を囲んでいることに気付いた。
「しっかりしてくださいよ」
ため息をついて藤本さんが言う。
この人ホント苦手だ…
「もう一度説明しますね」
地面に棒で線を引く。
「この川の向こう側が、プッチモニ公国です。
そして、橋のこちら側に関所があります」
スラスラっと棒で地形図を描いていく。
- 162 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月13日(日)21時46分27秒
- 「問題は、関所の部分です。
下手に騒ぎを起こさず、通る必要があります」
「どうして?」
私は尋ねる。
「私達がプッチモニ公国へと行ったことがバレると面倒なことになるので。
それに…」
「それに?」
「いえ、何でもないです」
藤本さんは私から視線を外した。
「何か策はあるの?」
飯田さんが、そんな藤本さんを助けるように、話を変えた。
藤本さんはゆっくり頷いた。
「古典的な方法は嫌いなんですけど、仕方がないです」
そう前置きして言ったことは、ホントに古典的だった…
- 163 名前:takatomo 投稿日:2003年04月13日(日)21時48分36秒
- 更新終了。
cross the border 邦題は「国境超え」です。
6−1はまだ続きますが、長いのでこの辺で一旦切ります。
感想などいただけるとうれしいです。
- 164 名前:名無し読者 投稿日:2003年04月13日(日)23時26分08秒
- 飯田さんと藤本さんの主従関係がなんだかとても好きです。
まだ出てきてないメンバーがどんな風に出てくるのか楽しみにしています。
- 165 名前:しばしば 投稿日:2003年04月15日(火)16時16分50秒
- 更新乙です。
毎週ちゃんとチェックしてますよ。
ネタがかぶらないようにねw
戦闘シーン読んでいて、
うちのには、まだちゃんとした戦闘シーンが出てないことに気づく……
おっと、ぼやいてしまったw
次の更新を心待ちしております。
- 166 名前:takatomo 投稿日:2003年04月18日(金)23時36分49秒
- >>164
レスありがとうございます。
最近、藤本−飯田のせいで小川の影が薄くなってる気がしますが、
後でちゃんとフォローします。
残りのキャラもそろそろそろい始めますので、期待しててください。
>>165
レスありがとうございます。
いつも一方的にもらってばっかりで、申し訳ないです。
最近、時間が無く読ませていただいてないので…
ちゃんと読ませていただいたら、書かせていただきます
ごめんなさい
- 167 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時38分50秒
- 私達は、森を抜けたところで、ランプの火を消した。
綺麗な満月が夜空にかかり、ここからはその月明かりが私達の目となる。
関所の明かりが段々大きくなっていく。
それと共に私の鼓動も大きくなっていった。
そして、ようやく関所の姿がはっきり見えてきた。
それはおよそ関所と言われるような、簡単な代物じゃなかった。
砦。要塞。
そう言った言葉の方が、ぴったりくるような建物。
石造りの高い壁。大きな門。
それらの影が各所に設けられた火によって、いっそう不気味に映し出されている。
見張りの兵が私達に気付いたようで、門が少し開いて、数人の兵士が出てきた。
- 168 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時40分05秒
「おい、ここで何をしてる?」
「夜分遅くに申し訳ありません。
実は、国で父が急に病に倒れたと言うことを聞き、急いで国に帰りたいのです。
通行証もございます」
藤本さんはそっと一枚の紙を出す。
これは本物の通行証。
ピッコロタウンの領主という立場上、中澤さんが発行することもしばしばあったものだから、手に入れることはたやすかった。
頭にかぶったフードを深くかぶり、顔を見せないようにする。
私と飯田さんの顔を知られているという確証は無かったが、念には念を入れたほうがいい。
藤本さんと兵士のやり取りが、高まる鼓動が混ざり合うように、耳に入ってくる。
「石川さん、行きますよ」
急に耳元で小川が囁いた。
どうやら話がついたらしい。
藤本さんを先頭に、ごっちん、飯田さん、私、小川の順で、
兵士に連れられるように、関所の中に入っていった。
- 169 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時41分52秒
- 関所の中は、両側に数個のランプが灯されているだけで、薄暗かった。
油の臭いが鼻を突く。
周りに人の気配を感じながらも、私達ははやる気持ちを押さえ、ゆっくりゆっくり歩いた。
関所自体は、外から見るほど大きなものじゃなかった。
というより、横に長いだけで、縦にはそれほど長くなかった。
扉を2つほど抜けると、そこはもう橋の袂だった。
向こうの町の明かりだろうか。
小さな光がぼやっと見えるだけで、先の全く見えない真っ暗な世界。
だが、先ほどよりも一際大きな川の音と、吹き付ける冷たい風が、先ほどまでの緊張の糸を断ち切ってくれた。
その時だった。
「そいつらはどうしたの?」
横から急にかけられた声に、心臓が飛び出そうになった。
- 170 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時43分21秒
その声に聞き覚えがあったから。
前を歩いていた兵士の足が止まる。
「急いで国に帰りたいというものですから…」
兵士が説明を始める。
でも、私の耳には入ってこなかった。
フードの隙間から相手の顔を見る。
間違いなかった。
自分を除いて、私がこの世で一番目にしたであろう顔。
そして、指にはめられた紫色の宝石。
「あゆみちゃん」
喉元まで出かかったその言葉を慌てて飲み込む。
そうだ。彼女は間違いない。
国にいた頃の、私の一番の親友、柴田あゆみだ。
私のほうに向けられた視線を遮るように、フードを押さえる手に力を入れる。
あゆみちゃんが近づいてくる気配がする。
一歩、一歩。
確実に私の方へと向かってくる。
- 171 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時44分05秒
- 「行きましょう」
そう叫んで私は走り出した。
もう橋までの扉は開いている。
後ろから兵士の叫び声が聞こえたが、かまわず走った。
明かり一つ無い、暗黒の一本道をひたすら走った。
どれくらい走っただろう?
周りに人の気配がしないことに気づき、私は立ち止まった。
乱れる息を整えるように、ゆっくりとフードを取った。
顔にほのかにかかる水しぶきが心地よかった。
頭を振り、夜風と髪をなじませる。
そして、私は気付いた。
自分が一人であることに。
- 172 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時44分54秒
火をつけようか?
ダメだ。自分の居場所が兵士にわかってしまうかもしれない。
ならどうすればいいの?
行くしかないか。橋の向こうまで。
目的地はそこなんだから。
捕まってなければ、みんなそこにくるんだから。
私は先の見えない闇を、足早に走り抜けていく。
足を踏み出すごとに、橋桁の乾いた音が足に響いた。
だが、すぐにその音は草を踏み分ける音に変わった。
どうやら橋を抜けたみたい。
すぐに横にそれ、草が生い茂る土手に座りこんだ。
ここなら橋に誰か通ったらすぐに気がつくはずだ。
- 173 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時45分43秒
- 次第に暗闇に目が慣れて、水面が月の光を反射して光っているのがわかった。
手元にあった石を川に投げ込む。
ボチャンという音を残して、その光が左右に揺れた。
それだけのことだったが、私にはそれが妙に面白かった。
手当たり次第に石を見つけては投げ込み、揺らめく光を見つめた。
でも、その光の揺らめきはそのうち、消えないものとなった。
石を投げる手を止めても、それは消えなかった。
フッと目元に指をやる。
濡れていた。
そのことを意識した途端、光は更にゆがみ始め、私は思わず顔を押さえた。
指の隙間から短い声が、しゃくりあげる度に漏れた。
- 174 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時46分36秒
- カタン、カタン
しばらくすると、近くでその音が聞こえ、反射的に口を押さえた。
誰かが橋を歩いているらしい。
しかも、それは数人の足音だった。
飯田さん達か追っ手か。
大きく深呼吸し、泣き止もうとするとともに、相手を確かめようと、耳を澄ました。
何かを小声で話していた。
内容はよくわからない。
でも、女性の声と言うことが、私を少し安心させた。
じっと、近づいてくるのを待った。
「カントリーが攻められるかも…」
会話をはっきり聞き取ることが出来た。
そして、それは飯田さんの声だとはっきりわかった。
でも、カントリーという単語が、私を踏みとどめた。
- 175 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月18日(金)23時47分44秒
- 「たぶん大丈夫です。カントリー公国への出撃準備を始めてますので、こちら側にも兵を差し向けるということは難しいですから」
今度は藤本さんの声。
攻め込まれる?私の国が?
スッと立ち上がり、顔を袖で一度拭く。
精霊術で火を灯し、飯田さんの所へ向かう。
ほんのすぐそこだった。
土手を上がった先。
丁度、みんな橋を渡り終えたところだった。
飯田さん、藤本さん、ごっちんに小川。
みんな揃っていた。
でも、今はそのことに喜んでいる場合じゃない。
「どういうことですか?攻め込まれるって?」
いきなり現れた私に驚いたのか、私の言葉に驚いたのかわからない。
飯田さんはとっさに口元に手を当てた。
藤本さんは相変わらず、顔色一つ変えていない。
「ちゃんと説明してください!」
私はかまわず叫んだ。
<6−1 Rika's view 終>
- 176 名前:takatomo 投稿日:2003年04月18日(金)23時49分16秒
- 更新終了です。
更新間隔空いた上に、いつも以上に文章が変ですいません。
次回はもう少しましなものを書きたいです。
- 177 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時16分58秒
- <6−2 Kaori's view>
「行きましょう」
突然の声だった。
兵士と女精霊師の動きに集中していた私は、思わず声を上げそうになった。
石川が私の横をすり抜けるのが見え、私もすぐに走り出した。
振り返って小川に合図し、前の後藤の背中をトンと叩き、更にスピードを上げて橋を渡り始めた。
前を走る藤本、後藤を視界に捕らえ、後ろの小川を気配で感じ取り、距離を確認する。
追っ手はどうやらきてないみたいだ。
「藤本、後藤」
2人に声をかけ、走るのをやめる。
関所に点る光の大きさから、ざっと300メートル離れたくらいだろうか。
これくらい離れていれば大丈夫だろう。
藤本の怪我のこともあるから、これ以上全力で走らせてたくなかった。
- 178 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時17分41秒
「石川は?」
「わかりません。見失いました」
呼吸を整えながら、藤本が言った。
「そっか。まあ、目的地がわかってるから、会えないことは無いでしょ」
わざと私は明るい声で言った。
馬車が2台並んで通れそうな大きな橋だけど、自分達が石川を追い抜かしていないことはわかっている。
追っ手も来ていないようだし、石川は安全と考えていいだろう。
少し不安そうな顔をする後藤や小川の背を叩き、私達はゆっくり橋を渡っていった。
でも、どうして石川は急にあんなことを言い出したんだろう?
関所に入ってから、少し落ち着かない様子はあったけど…
あの女精霊師かな?
確かに精霊師なら石川の顔がすぐにわかっても不思議じゃないけど…
私と同じくフードをかぶってて顔が見えなかったわけだし…
- 179 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時18分25秒
- 「石川さん、どうしたんでしょうか?」
藤本が後ろの二人に聞こえないような声でそう言った。
「うーん…そだね。わかんないけど、何も考えなしであんなことする子じゃないから、きっと何か考えてのことだと思うよ」
私も小声で返す。
「信じてらっしゃるのですね。彼女のことを」
「まあね。それよりさ、私たちのことバレたかな?」
「わかりませんが、私達ということはわかってないと思います。
そうでなければ追っ手が出てくるはずですから」
「うん。私も同感なんだ。でも、不審な人物が国境を越えたってことはわかっちゃたね」
「そうですね。それは間違いないと思います」
「何の話してるの?」
私と藤本の間を割って、後藤が顔を出した。
「何でもないです」
「ちっ、イジワルーミキティっていっつもそうだよ。
裕ちゃんと何かコソコソ話して、今度は圭織とコソコソ話して…」
「本当に何でもないから」
責められてる藤本に私は助け舟をだす。
でも、そんなことでこの子が納得するわけも無い。
文句が次から次へと、私のほうにまで浴びせられる。
- 180 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時19分10秒
- 「あ、そうだ。これ返しとくよ」
私は背中に隠していたジュエル・ウエポンを後藤に差し出す。
武器は見つかるとまずいので、森の中に全部置いてきたが、
さすがにこれを置いていくわけには行かないので、私が背中に隠していた。
だが、それを見た後藤の表情が少し変わった。
さっきまでの笑みは消え、怯えの混じった視線で私と剣を交互に見る。
「ほら、どうしたの?」
私が再度剣を差し出すと、彼女は手を引っ込め
「嫌だ。それ嫌だ」
と言った。
「後藤…」
「それ怖い。またみんなを殺しちゃう」
首を強く振り、後藤は言う。
両手をきつく握り締め、彼女はその場に座り込んだ。
- 181 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時20分07秒
- 無理も無い。自分が正気に戻ると、仲間が自分の剣で傷ついてたんだ。
この武器を怖いと思う気持ちが生じて当然だ。
でも、この武器は私が試しに鞘から抜いてみると、激しい嫌悪感に襲われ、
立っていられなくなり、すぐに私は剣を鞘に収めた。
石川が言うには、特に特別に精製された宝石は、精霊の影響を強く受けるため、精霊自身が自分の使い手を選ぶことが多いらしい。
実際、その後石川のスタールビーをはめさせてもらったが、同じような現象が私を襲った。
つまり、この剣は今のところ、後藤しか扱うことのできない代物なんだ。
だから、もしもの時のために、後藤に渡しておきたかったんだけど…
「そっか。じゃあ私が預かっとくよ。ごめんね、驚かせちゃって」
剣を腰に差し、後藤の髪をクシャッと撫でた。
後藤は涙目で私を見上げ、小さく頷いた。
「よし、さっさと渡っちゃおう。石川も探さないといけないし」
手をパチンと叩き、私達は再び歩き始めた。
- 182 名前: 6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時21分01秒
- それにしても、長い橋だ。
暗いせいで向こう岸が見えないのもあるけど、もうかなりの時間歩いているはずだ。
北はカントリー公国の山から南はミニモニ公国までを流れる大陸一の川であることは確かなんだけど…
普通は舟で渡るような川だから、歩くとかなりの距離になることはわかってる。
じゃあ、何で舟を使わないかと言うと、丁度今は、雪解けのせいで、水量が大幅に増え、流れも急になっている。
そのため、毎年今の時期は、川の通行手段として舟を使用することが出来ないんだ。
ぼんやりと歩きながら、私はふとこの間のことを思い出していた。
それは丁度、裕ちゃんのところに私達が来てから3週間くらいたったころだった。
夜中に裕ちゃんが私の部屋に話があるといってやってきた。
- 183 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時22分27秒
- 「モーニング公国は、カントリー公国を攻め込むつもりや」
裕ちゃんの第一声はそれだった。私はしばらく意味がわからなかった。
「何で?モーニング公国は侵略はしないはずじゃん」
モーニング公国最大の謎の一つ。
決して自ら他国侵略をしないこと。
王族にしか知らされていないとされるその理由を、昔なっちに尋ねたことがある。
でも、彼女は教えてくれなかった。
- 184 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時23分03秒
- 「わからへん。でもな、実際動き始めてんねん。理由はたぶん石川や」
「石川?」
更に理由のわからないことが続く。
どうして石川が関係あるの…
「石川の立場考えてみ?あの子はHPNやねんで。
そんな国に選ばれた人間が反逆者ってことになったら、攻め込む理由には十分や」
首をかしげる私に、裕ちゃんは説明してくれた。
そう言えばそうだった。
私が彼女といるのが心地よい理由。
それは、彼女とあまりに普通に付き合っているため、自分をダンデライオンと呼ばれた飯田圭織と意識しないからだ。
それは彼女も同じだったのかもしれない。
だから、私も彼女がHPNということが、完璧に頭の中から抜けていた。
「このことは石川には言ったらあかんで」
「わかってる」
そこで、会話は終わり、裕ちゃんは出て行った。
- 185 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月22日(火)22時24分00秒
- そのことを思い出し私は藤本に尋ねた。
「ねえ、カントリーが攻められるかもって情報、藤本が持ってきたの?」
「はい。そうです。中澤さんから中央の動きを探るように指示されてましたので」
「ふーん。そっか…でもさ、プッチモニ公国だけは巻き込みたくなかったね」
「まだ巻き込むと決まったわけじゃないですよ」
「そうだけどさ。もし私達がここに逃げ込んだとわかったら、絶対にそれを口実に攻めて来るよ」
これが一番の理由だった。
私達が関所を通ったことを知られたくない理由は。
これ以上無関係の人たちを巻き込みたくなかったから。
「たぶん大丈夫です。カントリー公国への出撃準備を始めてますので、こちら側にも兵を差し向けるということは難しいですから」
「そっか」
その時だった。
ガサガサという音と共に、目の前が明るくなったのは。
草むらから出てくる石川の姿。
私は会話に集中して、周りの気配を探ることを忘れていた。
- 186 名前:takatomo 投稿日:2003年04月22日(火)22時25分27秒
- またまた中途半端なところですが、更新終了です。
感想などいただけるとうれしいです。
- 187 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時13分05秒
- 「石川…」
「どういうことですか?攻め込まれるって?」
私の言葉にかぶせるように石川は言った。
驚いて言葉が続かない私に、畳み掛けるように石川は
「ちゃんと説明してください!」
と言った。
私だけじゃない。後ろの小川も、後藤さえも何も言えなかった。
「いいんですか?私も飯田さんも、そして中澤さんも、あなたのことを思って
隠してたんですよ?」
一人冷静な藤本が、半分脅すような口調で石川にそう言った。
石川はその言葉を聞いて、顔色が少し変わった。
「そんなの…みんなの勝手だよ!ちゃんと説明して!」
高い声をさらに上げ、叫ぶように石川は言った。
- 188 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時13分50秒
- 「わかりました。いいですね、飯田さん?」
横目で私の方を見る。
「う、うん」
その冷たい視線を受け、私はそう答えた。
それから、藤本は淡々と話した。
石川に気を使うという様子もない。
情報を包み隠さずそのまま伝える。
藤本が石川の顔色がさらに悪くなっていくのに気づかないわけがない。
でも、彼女は変わらぬ様子で全てを話した。
「あのね、石川が悪いわけじゃないんだよ。
石川は私に巻き込まれただけなんだから…」
そう言った私の言葉も聞こえていないようで、石川は呆然と立ち尽くしていた。
「石川?」
再度声をかけるが、返事はまだかえってこない。
- 189 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時14分36秒
- 「私?私のせいなんだ?」
うつろな目で石川は言った。
「結果としては、そういうことになりますね」
藤本は変わらない調子ですぐに答えた。
「ちょっと藤本、それは言いすぎだよ」
私は藤本の肩をつかみ、こっちを向かせた。
でも、藤本は石川から目線をそらすことなく
「でも、ここであなたがモーニング公国でつかまったからといって、戦争が回避できるわけじゃありません。
戦争はもう避けられないなら、その被害を少なくすることに努力した方がいいんじゃないですか?
こんなところで呆けてないで」
と言った。
石川は藤本と視線を交わす。
私はつかんでいる手を離した。
すごい不器用な言い方だけど、この子もこの子なりに考えてるんだ…
ちょっと藤本を見直した。
たぶん、本人にそのことを言っても、「事実を言ってるだけです」とか普通に返されるんだろうけどね。
- 190 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時15分37秒
- 「あの、一つだけ答えてください。どうしてプッチモニ公国に来たんですか?」
石川が口を開いた。
「私もそれは聞きたいです」
小川の声もする。
「わかった。でも、どこかで落ち着いてから全て話すよ」
私が藤本に視線を移すと、彼女は私の意図を汲み取ってくれたようで、
「この道を少し行ったところに町があります」
と、右側の方を指差した。
「じゃあ、そこで全部話すよ」
石川の出す火の明かりに照らされながら、私たちはゆっくり進んでいった。
<6−2 Kaori's view 終>
- 191 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時16分29秒
- <6−3 Ayumi's view>
その夜、私はなぜか寝付けなかった。
元々、寝付きがいい方ではなかったが、今日に限っては寝付けないというより、
気持ちが高ぶって眠ることができなかった。
まるで体が眠るのを拒んでいるかのようだった。
ベットの中で窓から見える月をぼんやり眺めていた。
私は月が大嫌いだった。
空から太陽が去って初めて、その存在を目に留められる月。
月は私。
石川梨華という太陽がいなくなっために国内No1と称された私。
- 192 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時17分10秒
- 私と石川梨華は、親同士が親しいからと、幼いころから一緒に遊ぶことが多かった。
世間一般に言われる幼馴染というものである。
そして、そのまま、私たちは一緒に精霊師の学校に入ることとなる。
入学前からその素質を高く評価されていた私。
精霊術のこともろくに知らなかった石川梨華。
だが、その立場はすぐに逆転することとなった。
石川梨華のめまぐるしい上達と、論理を超えた力。
すぐに私は影となる。
- 193 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時17分48秒
- それでも、あの頃の私が卑屈にならずに済んだのは、石川梨華がいたから。
石川梨華という存在を、私は見ていたかったから。
彼女が認められるたびに、まるで自分のことのように私も喜んでいた。
自分が遠く及ばない力に憧れるのは、その人の歩いていく先を見たいから。
自分がたどり着けないような高みまで登っていくその人の歩く先を。
だが、決して、石川梨華に自分がかなわないということを認めたわけじゃない。
私は日々、努力を怠らなかったし、いつかは必ず追い抜いてやると誓っていた。
- 194 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時18分35秒
- でも、その私の思いはある日、憎しみに変わる。
彼女はHPNの称号を与えられた。
そのことは私もうれしかった。
だが、彼女は突然私の前を去った。
モーニング公国に留学という形で。
そして、彼女が私に残したのは、彼女のいない国内でNo1という称号だった。
開催される大会を全て優勝で飾った。
それは彼女が1年前にやっていたことだ。
それまで銀色だったものが、すべて金色に変わっていった。
でも、私の耳に入るのは、「石川梨華がいないから」という言葉だった。
そして、私は大会にでることを止め、国を去った。
- 195 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時19分20秒
ドン
私は壁を殴りつけた。
鈍い痛みが右手を包み、いっそう目が冴えていった。
どうして今更こんなことを思い出すんだ…
石川梨華は、梨華ちゃんは犯罪者だ。
見つければ即、捕らえなければならない。
それが、この関所を預かっている私の責任だ。
その時、門の開く音がした。
私はそっと起き、マントを付け、指輪をはめる。
アメジストの指輪。
紫水晶とも呼ばれるその宝石は2の月に生まれた私の石である。
階下に下りると、数人の集団が兵士に連れられていた。
- 196 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時20分12秒
- 「そいつらはどうしたの?」
私を横から声をかけた。
前を歩く兵士はビクッとしたが、私の方を向くと、説明を始めた。
だが、私はその集団の中の一人が気になった。
じっとそいつを観察する。
足先まで隠れる灰色のローブに、フードを深く被っている。
顔どころか体型すら見えない。
わかるのはフードを押さえている指先くらいだった。
それでも、虫の知らせというやつだろうか。
いや、そんなものではない。
これは運命だ。
私はそう思った。
- 197 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時21分00秒
- 何も言わず、ゆっくり近づいていった。
すると、いきなりそいつは叫んで走り出した。
その声が私の思いを決定的なものとする。
石川梨華だ。
他の奴等も走って出て行く。
おそらくあいつらは飯田圭織達に違いない。
そこまでわかっていたが、私は後を追おうとする兵士を止めた。
- 198 名前:6 cross the border 投稿日:2003年04月26日(土)17時21分52秒
- なぜ自分がそうしたのかわからない。
もしかしたら、石川梨華の歩く先、それを見てみたかったのかもしれない。
それとも、カントリー公国への戦争を行うと噂されているモーニング公国へのささやかな反抗だったのかもしれない。
いずれにせよ、私は彼女らを助けた。
でも、それは一度だけ。
二度はない。
石川梨華が消えていった闇をじっと見つめ、私はそう思った。
<6−3 Ayumi's view 終>
- 199 名前:takatomo 投稿日:2003年04月26日(土)17時24分22秒
- 更新終了です。
今回はかなりがんばったつもりです。
そろそろこのスレも半分に差し掛かりますが、全く話が進んでないことに気づいた。
おそらくというか、放置しない限り2枚目いくことが確定だと思いますので、これからもよろしくお願いします。
- 200 名前:takatomo 投稿日:2003年05月02日(金)00時53分01秒
- 諸事情により、更新はしばらく休みます。
すみません。
5月半ばころには再開予定です。
- 201 名前:北都の雪 投稿日:2003年05月06日(火)22時18分25秒
- 見てますよー。
面白いです。
こういう話好きです。
まったりと待ってますので焦らずに・・・
- 202 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月10日(土)21時16分00秒
- イイ!読ませていただきました。
とってもイイです!
柴ちゃんと梨華ちゃんの絡み期待してます。
更新待ってます。
- 203 名前:takatomo 投稿日:2003年05月19日(月)00時07分49秒
- こちらの都合で長い間空けて申し訳ないです。
本日から再開しますのでよろしくお願いします。
- 204 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時11分25秒
- <7 a crossing fate>
<7−1 Rika's view>
「…というわけなのよ。わかった?」
飯田さんが全部話し終えた時、私は口に運んでいたスープがぬるくなっていることに気づいた。
ここは、プッチモニ公国にある小さな町。
小さな町とは言うものの、ピッコロタウンみたいな大きな町に比べるとの話であり、
私の家があったとこに比べれば、ずいぶん大きな町だった。
そこの片隅にある食堂に私たちはいる。
昼を過ぎてるというのに、中はお客でにぎわっている。
食堂といっても、バーに近いような所のせいだろう。
昼過ぎなのにお酒を飲んでいる客も多かった。
特に、店の奥で飲んでいる、いかにもごろつきといった感じの一団。
私たちの方をジロジロ見て、薄笑いを浮かべている。
ろくなことを考えていないのは、明白だ。
でも、私はそんなことより今聞いた話を整理することに必死だった。
- 205 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時12分24秒
- まず、初めに説明されたのは、ごっちんのことだった。
私の隣で黙々と食事をしてるごっちん。
彼女は自分のことを聞いても、さして反応を示さなかった。
意味がわかってないことはないと思う。いくらなんでも。
そう、自分がプッチモニ公国の王であることを。
そして、そのことが、私たちがここにきた理由だった。
このことを一つ一つ、整理していこう。
まずは、ジュエル・ウェポン。
この剣は、5年前の戦争のとき、飯田さんが見たことあるらしい。
持ち主は、ダイバーの隊長。
戦場の中、青く光るその剣を掲げ、そいつは立っていたらしい。
周りには、真っ二つに裂かれた死体の山。
丁度、あの時のごっちんと同じだったらしい。
おそらく、その剣と同一のものに違いないとのことだった。
つまり、ごっちんはダイバーの隊長となんらかの関係があることは確かだった。
- 206 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時13分46秒
- そして、ごっちんは今は17歳。
プッチモニ公国の王女は若干17歳で王位を継いだといわれる。
年齢も一致する。
でも、ここで疑問が一つ生じる。
ごっちんは2年前に中澤さんと一緒に生活を始めたということだ。
だけど、飯田さんの説明を聞くと、そのことが余計にごっちんが王であるということの信憑性を増していた。
プッチモニ公国では、新王はまだ姿を見せたことがないらしい。
国民には、体調が思わしくないという説明をしているそうだ。
つまり、王がいないから、姿を見せることができないということだ。
それじゃ、なぜ行方不明の王女に王位を継がせたのか?
という疑問が沸き起こったが、口には出さなかった。
ごっちん=プッチモニ公国の王という仮定は、考えられる可能性の中で、一番辻褄が合っている仮定だから。
一番可能性の高いといっても、仮定には違いないので、突っ込みどころがあるのは仕方ないから、
大筋にかかわりない小さな粗をむやみに探しても、さして意味のないことだった。
- 207 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時14分24秒
- ごっちんが記憶を失ったのもそのせいだろう。
2年前といえば、確か先王の容態が思わしくなくなってきたころだ。
仮に、王の一人娘がごっちんとすると、王位を狙う人間に命を狙われてもおかしくない。
ごっちんの剣の腕前があれほどな理由も、プッチモニ公国の王族となると、納得がいく。
そして、ここからのことは、全てごっちんがプッチモニ公国の王としての案だった。
昨日聞いたとおり、私のせいで、カントリー公国とモーニング公国の戦争が始まろうとしている。
私たちがモーニング公国の王都へいったとしても、目的を果たす前に、殺されるだろう。
いくら私たちが強くても、圧倒的な兵の前ではどうしようもないんだから。
そこで、飯田さんが考えたのは、プッチモニ公国という名前を借りることだった。
モーニング公国としても、プッチモニ公国からの使者という形で私たちが出向けば、
そうそう手荒なことはできないし、上手くいけば、安倍なつみとの謁見だけでなく、
戦争もとめることができるかもしれない。
これが、飯田さんと藤本さんの口から出たことの全貌だった。
- 208 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時15分12秒
- そこまで考えを整理して、再び食事に戻る。
冷めたスープと硬くなった肉。
話が始まる前に頼んだばっかりに、これらの食事の処理にこれから悩むこととなった。
「おい、姉ちゃん」
眼前の食事に目を向けたとき、いきなり右肩に手を置かれた。
首をそちらに動かすと、アルコールの臭いが鼻をついた。
さっき向こうにいた男たちだった。
髪の毛一つないくせに、口元には髭を生やしてる男。
その後ろには、同じく禿げた頭の男と顔に傷のある男。
その後ろにももう1人いるようだった。
「離してください」
視線を外し肩を動かすが、男は手を離そうとしなかった。
「いいじゃねーか」
寒気を覚えるような下賎な声で男は言う。
私は限界だった。
だが、その時派手な音と共に、男がテーブルを巻き込んで倒れた。
- 209 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時16分26秒
- 「女の子が嫌がることするやつは、最低な男だよ」
私と同い年くらいかな?
ショートカットの男の子。
たった一撃で男を吹き飛ばすなんて、細い体のどこにそんな力があるんだろう?
「てめっ何しやがる」
他の男がいきり立ち、男の子につかみかかろうとするが、一瞬のうちにその場にうずくまった。
私には何が起こっているのか全くわからなかった。
男たちが走ってきては倒れていき、気づけば4人とも気絶していた。
「あ、ありがとうございます」
「いいよ。怪我とかなかった?」
「はい。大丈夫です」
「それはよかった。ところで、そこのあんた」
男の子は飯田さんを指差した。
飯田さんは視線すらこっちに向けなかった。
- 210 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時17分11秒
- 「市井でしょ?」
「そうだよ、ダンデライオン」
たったそれだけの二人のやり取りに、周りの空気が一瞬で張り詰めた。
私は次の言葉が出るのを待った。
私からは飯田さんの横顔しか見えないので、はっきりとどんな表情をしているか分からない。
でも、飯田さんから感じる気配は、戦闘時のそれと同じだった。
いや、それ以上に刺さるような感じを受けた。
「おいおい、そんなに身構えるなよ。もう戦争は終わったんだ。
私も今はただの一般市民なんだよ」
市井と呼ばれた人は笑いながら、両手の手のひらを開け、私のほうに向けた。
「は?何言ってるの?さっき素手でそこの男たちをやったくせに。
ね、ダイバーの隊長さん」
その言葉に驚き、私は市井さんから一歩離れる。
市井さんの表情から笑みは消えていた。
- 211 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月19日(月)00時17分48秒
- 「いいさ。あんたが私のことどう思ってようが。
でもね、私はあんたに用はないの」
そう言って、市井さんは私の隣で食事しているごっちんの後ろに立った。
私はそっと、二人の間に手を挟む。
だが、市井さんは気にも留める様子すらなかった。
「後藤、あんたどうしてこんなとこにいるのさ…
私がどれだけ探したか、わかってるの?」
さっきまでとは正反対の弱々しい声。
その声で、市井さんは女ということに気づいたが、それ以上に私は確信した。
ごっちんがあの後藤真希であるということに
- 212 名前:takatomo 投稿日:2003年05月19日(月)00時19分34秒
- 更新終了です。
>>204-211 7-1 Rika's view
7 a crossing fate 邦題は「交差する運命」です。
- 213 名前:takatomo 投稿日:2003年05月19日(月)00時23分27秒
- >>201
ありがとうございます。
そう言っていただけると、ありがたいです。
おそらく週1更新が続きますが、お付き合いください。
>>202
ありがとうございます。
当面はプッチモニ公国編なので、出番は無いかもしれませんが、柴田と石川の関係は、個人的に好きな設定なので、また詳しく書いていく予定です。
- 214 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月24日(土)01時14分51秒
- <7−2 Kaori's view>
「ついてこい」と言って、先を歩く彼女の背中を見て、私は昔のことを思い出した。
市井紗耶香。
ダイバーの隊長にして、先の戦争のとき、私の部隊をたった一人で全滅させた相手。
忘れもしない。あの夜のことは。
- 215 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月24日(土)01時15分50秒
- ほんの一瞬の出来事だった。
先行していた部隊から、私が少しの間離れた時、全ては終わっていた。
静まり返った闇の中、市井は立っていた。
右手に持った剣が放つ青い光に、私の心は一瞬奪われた。
私は不審に思い、そっと近寄ろうとしたが、彼女は私に気づいたらしく、すぐに剣を構えた。
私が次に見たものは、彼女の剣閃だった。
手に持っていた槍もろとも、私の胸を切り裂いた。
斜めに走った傷は致命傷となるほど深いものではなかったが、私の動きを一瞬止めるには十分だった。
続く第2撃を避けれたのは、私の天性のカンといってもよかった。
そして、2撃目を避けたことで、私の感覚は一気に戦闘時のそれに変わった。
胸の痛みが、私の感覚を更に研ぎ澄ませる。
痛みというハンデさえも、私の味方となっていた。
- 216 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月24日(土)01時17分02秒
- 市井の剣の軌道を目で追って避け、私は身を翻した。
武器無しで勝てる相手ではないことを、すぐに理解したからだ。
幸い、手近に槍を見つけた。
それを拾い上げ、振り返る時には、さっきまで私の体があった場所を市井の剣が横切った。
向き直った私は、その時になってやっと、周りの死体に気づいた。
そして、それを意識した途端、あたりに漂う血の匂いを自覚した。
「ハッ!」
短く声を出し、市井が迫ってきた。
受けようとした出した槍を慌ててひっこめ、それをかわす。
だが、私の腹部を衝撃が襲った。
骨の砕ける音がした。
肋骨が持って行かれたみたい。
- 217 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月24日(土)01時17分55秒
- それが市井の放った蹴りということに気づいたのは、更にもう一度市井の蹴りを受けたときだった。
右手の剣とそれにあわせての左からの蹴り。
その二つをかわしきる事は難しかった。
加えて、接近戦では、槍は圧倒的に不利だった。
でも、たとえ距離をとったとしても、あの剣で槍を切られるのは目に見えている。
「こういうのはどうかな?」
ある考えを思いついた。
市井の刃に、槍の先を合わせたら、槍は切られないんじゃないかな?
事実、それは正しかった。
さすがの市井も驚いたらしく、左からの蹴りは来なかった。
代わりに私の拳が顔面に決まり、市井は吹っ飛んだ。
追い討ちをかけようと向かっていき、槍を伸ばすが、市井の剣が振られるのに気づき、槍を引いた。
- 218 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月24日(土)01時19分12秒
- この方法の一番のネックとなるのはここだった。
相手の攻撃を受けることはできるけど、こっちから攻撃に移れないのだ。
そのことは市井も分かっているようで、自分から攻撃を仕掛けてこようとしなかった。
お互い、にらみ合ったまま、動かなかった。いや、動けなかった。
先に動いたほうが不利ということを理解していたから。
ゆっくり呼吸を落ち着かせ、一瞬たりとも視線をずらさなかった。
胸の血はいつの間にか止まっていた。
睨み合ったまま、時間だけがただ過ぎていった。
この決着はどうやったらつくのだろうか?
着くときは、あっさりと着くに違いない。
でも、この均衡が破られない限り、その時はくることがなかった。
- 219 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月24日(土)01時20分31秒
- ところが、その時は思わぬ形で迎えることとなった。
草を踏みしめる音とともに、向こうのほうにたくさんの明かりが見えた。
後続の部隊がどうやら追いついてきたらしい。
市井もそれに気づいたらしく、
「とんだ邪魔が入ったね。今度こそあんたを殺すよ」と言い残して、背を向け走り去った。
だが、それから彼女とは再戦することは無く、戦争が終わった。
風の便りでダイバーが消滅したと聞いたのは、その後すぐ。
まさかこんなところでいきなり会うなんて思っても見なかった。
- 220 名前:takatomo 投稿日:2003年05月24日(土)01時22分26秒
- 短いですが更新終了。
週1更新のつもりですが、近いうちにするかもしれません。
感想などいただけたらうれしいです。
- 221 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月28日(水)00時51分23秒
- 「ここだよ。入って」
そう言って通された部屋は、普通の大きさの部屋だった。
入ってすぐのテーブルに腰をかけるが、6人座るにはすこし窮屈だった。
「こんなところにつれてきて、どういうつもり?」
「いい加減私を疑うの止めてくれない?戦争はもう終わってるのよ。
私はダイバーの市井紗耶香じゃないし、あんたもダンデライオンじゃない」
「だからって簡単に信じろって言うの?」
敵意を隠さずに私は言った。
「信じなくてもいい。
でも、あんたらには私の力が必要だし、私もあんたたちの力が必要なのは事実でしょ?」
そう言って市井は私から視線を外した。
私もあんたたちの力が必要?
ちょっとひっかかったが、彼女の言ってることはもっともなことだから、私もそれ以上言うのを止めた。
- 222 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月28日(水)00時55分27秒
- 「まず、後藤のこと説明してくれる?」
隣の後藤がその言葉にビクッとした。
そのことが少し気にかかったが、話さないわけにはいかないので、
私は裕ちゃんから聞いていることを全て話そうとした。
「いえ、先に状況を話してください」
だが、私が話そうとするのを遮ったのは藤本だった。
彼女の真意はわからなかったが、少し嫌そうな顔をしながらも、
市井が話し始めたので、私は何も言わなかった。
「先王が病気で倒れた時、後藤はまだ15歳だった。
王には後藤しか子どもがいなかったから、自動的に後藤が王になるはずだった。
でも、そんなことをよく思わない奴もいる。
たった15歳の子どもに王位を継がせるなんてこと、大人たちが黙ってるわけ無い。
事実、後藤は何度も命を狙われ、私はそのたび彼女を助けてきた。
ダイバーの存在はなくなったけど、王の身を守るという立場になって仕えていたから」
- 223 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月28日(水)00時56分09秒
- 「あんたと後藤の関係は何なの?さっきから自分らの王の後藤を呼び捨てにしてるけど…」
話が一まとめしたとき、私は尋ねた。
「私は後藤にずっと剣を教えていた。
それに後藤から後藤って呼んでって言われてるから」
何かを懐かしんでいるような表情だった。
でも、これで後藤の剣の腕も、彼女がジュエル・ウエポンを扱うのも納得できた。
「これはあなたの剣なのね?」
私は腰にかけていた剣をテーブルの上においた。
以前みた時よりも、更に青く光っているような気がしたのは気のせいだろうか?
市井はそれを手に取ったが、すぐに剣を戻した。
- 224 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月28日(水)00時56分57秒
- 「これはもう私のものじゃない。
元々王家に伝わるこの剣を、一時的に私が使っていただけのこと。
今はもう、私を主と認めていないよ、この剣は」
彼女のその声に呼応するかのように、剣が小さく光った。
そして、置かれた剣に、私の横から手が伸びた。
「ごっちん!」
石川の驚く声に、その手が後藤のだということに気づく。
あれだけ嫌っていた剣をいきなり手にするなんて、私は後藤の考えがわからなかった。
そのまま後藤は片手で剣を高く掲げた。
みんな固唾を呑んで彼女の行動を見守っていた。
- 225 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年05月28日(水)00時58分40秒
- 「市井ちゃん…心配かけてごめんなさい」
沈黙を破ったその声、後藤のこんな声は始めて聞いた。
後藤の声から柔らかさを吸い取ったような感じ。
今までの後藤の声が、みんなに笑みを与える春の陽だまりだとすると、
今の後藤は真夏の太陽。
周りを引っ張っていく、自信と意思に満ちた力強い声だった。
<7−2 Kaori's view 終 >
- 226 名前:takatomo 投稿日:2003年05月28日(水)01時00分24秒
- 更新終了です。
7章が終わったら、一つ外伝でもいれようかと考えています。
- 227 名前:名無しさん 投稿日:2003年06月06日(金)00時21分53秒
- 楽しみにしてますです。
- 228 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年06月08日(日)23時50分57秒
- <7−3 Maki's view>
私は目の前で話されていることを信じたくなかった。
王って何?
私の命が狙われてる?
どうして?
疑問ばかりが頭を埋め尽くす。
でも、目の前にいる人の、圭織が市井と呼んだ人の目をみると、不安が消えていった。
この人がいるから大丈夫。
私の心の奥底がそう確信しているようだった。
- 229 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年06月08日(日)23時51分51秒
- カタンと目の前に、あの剣が置かれた。
その青い光は、私に寒気を覚えさせた。
持てば私はおかしくなる。
それがわかっているのに、この光は私を誘っているようだった。
まるで、虫がランプの光におびき寄せられれ、火に焼かれるように。
危険がわかっていながらも、その光は私の何かを揺さぶるのだった。
でも、その光が変化した。
「これはもう私のものじゃない。
元々王家に伝わるこの剣を、一時的に私が使っていただけのこと。
今はもう、私を主と認めていないよ、この剣は」
圭織が市井と呼んだ人のその声に呼応するかのように、剣の光り方が変わった。
剣の方が私を呼んでいるような、もう大丈夫、私も元へ来てと言っている様な光だった。
- 230 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年06月08日(日)23時53分37秒
- 私は、何かに憑かれたかのように、その剣を取った。
不思議と恐怖は無く、大丈夫という確信があった。
剣先から、光が体に流れ込んでくる。
初めてこの剣を持ったときと同じ。
でも、その時と違うのは、一つ一つの景色が物が人物がはっきりと何かわかること。
子どもの私が泣いている姿。
初めて市井ちゃんに会ったときのこと。
市井ちゃんとの剣の訓練。
市井ちゃんに怒られたこと。褒められたこと。
そして、初めて人を殺したときの感触。
私が王位を継ぐと言われたときの衝撃。
そして、知らない男たちに不意に襲われて谷底へと落ちたこと。
何もかもわかった。
私は後藤真希で、プッチモニ公国の王なんだってこと。
そして、市井ちゃんが、私の一番大好きな市井ちゃんってことを。
- 231 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年06月08日(日)23時54分40秒
- 「市井ちゃん…心配かけてごめんなさい」
市井ちゃんは私をじっと見つめてから「馬鹿やろう…」とだけ言った。
でも、目の端がキラリと光ったのを、私は気づいていた。
「後藤…」
圭織の心配そうな声が聞こえた。
梨華ちゃんも、ミキティも、小川も同じ表情だった。
「記憶…戻ったんだよね?」
「うん。今までありがとうね」
なんか変な感じだった。
二人の私がいるみたいで、落ち着かなかった。
どっちが私って聞かれたら、やっぱり私はプッチモニ公国の王の後藤真希なんだろう。
でも、圭織や梨華ちゃん、ミキティ、小川にしたら私はごっちんなんだろうな…
- 232 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年06月08日(日)23時56分17秒
- 部屋中がすごいぎこちない雰囲気に包まれていた。
その日は、そのままなんとなく終わった。
一応市井ちゃんが今後のことをいろいろ話したけど、みんな頭に入ってないようだった。
話している市井ちゃんもそんな感じだったんだから、それは仕方ないことだった。
宿は昨日止まったところをとってたんだけど、市井ちゃんが連れてきたここにみんな泊まった。
狭い割りに部屋数が多く、十分一人一部屋割り当てられた。
ベッドがある部屋は3つあったけど、必然的に私が1番いい部屋になった。
こういうのは余り好きじゃないんだけどね。
- 233 名前:7 a crossing fate 投稿日:2003年06月08日(日)23時57分12秒
- ふかふかの枕に頭をうずめる。
いい臭いがした。
甘くて、でもすっきりするような香り。
市井ちゃんの香りだ。
高ぶっていた気持ちが和らいだ。
明日からまた旅が始まる。
しっかり休んでおかないとね。
「おやすみなさい」
誰に言うとも無くつぶやいて目を閉じた。
<7−3 Maki's view 終>
- 234 名前:takatomo 投稿日:2003年06月08日(日)23時59分25秒
- >>228-233 7−3 Maki's view
更新終了
いつもながら、間あいた割に短くてすいません。
次回の更新は外伝です。飯田と小川の過去を少しだけ。
今度こそ、来週中に更新します。
- 235 名前:takatomo 投稿日:2003年06月09日(月)00時01分12秒
- >>227
ありがとうございます。そう言っていただけるだけでも励みになります。
今後は最低でも週一更新は守っていきたいと思います。
- 236 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月14日(土)15時39分47秒
- 「小川麻琴と申します。今日から飯田様にお仕えすることになりました」
飯田様ってよばれるのは何年ぶりだろう?
それ以前に、名前を呼ばれることすら久しぶりだった。
彼女がやってきたのは、戦争が終わった翌年。
ダンデライオンとか言われ、戦場で恐れられてた私の元へ、彼女は来た。
噂というものは、尾ひれがついていくもの。
それは良くわかってる。
ダンデライオンなんて言われて賞賛される裏には、あることないことが囁かれている。
- 237 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月14日(土)15時40分28秒
- 一番酷かったのは、あれだよ。
ダンデライオンは、実は魔女で、若い女の生き血をすすって若さを保っているっていうの。
もうね、嫌だったよ。そんなことばっかり言われて。
結局ね、戦争中だけなんだよ。
人殺しが称えられるのは。
戦争が終わればこうやってね、療養という名目で僻地に飛ばされる。
ダイバーもそうだ。
戦争終了と同時に、その存在は無いものとされていた。
で、そんな私の元へ送られて来るんだ。
きっとこの子は運が無い子なんだろう。
癖毛がかった短い髪と、意志の強そうな真っ直ぐな目が印象的だった。
- 238 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月14日(土)15時41分08秒
- 「圭織でいいよ」
「へ?」
「圭織って呼んで。小川」
彼女が再び反応するまで、ちょっと時間がかかった。
耳から脳へ、段階ごとに伝わっているのがよくわかった。
「ほら、圭織って」
「できません。そんなこと…」
「そう?そんなに遠慮しなくてもいいのに…」
「では、飯田さんと呼ばせていただきます」
しばらく黙り込んだ後の彼女の答え。
おそらく彼女の妥協点がそこだったんだろう。
私としてはやっぱり圭織がよかったが、これ以上彼女を困らせるのは忍びなかった。
どうやら、見た目と同じく、真面目な子のようだ。
「わかった。よろしくね、小川」
「はい」
差し出した手を握る小川。その手は少し震えていた。
その日から、彼女の私の家での生活が始まった。
- 239 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月14日(土)15時41分48秒
- 翌日、私が起きると、すでに小川は部屋の外にいた。
「おはようございます。朝食の準備はもうできてます」
「うん。ありがと」
私はさっと着替えて部屋を出る。
朝食を済ませると、小川は急いで学校に行く。
士官学校というやつだ。
8歳から15歳まで、この国では学校というものに行く制度がある。
学校っていても、多岐にわたっていて、私や小川が行く士官学校のほかに、
一般の人間が行く学校や、精霊師のための学校なんてのもある。
私も、なっちと一緒にいっていた。
本当は、なっちは王女だから、士官学校なんかに行くべきじゃないんだけど、
彼女がどうしてもと言って、行ってた。
場所はここからそう遠くないところにある丘の上。
彼女はそこで夕方まで勉強をする。
そして帰ってくると、彼女の立場は従者だから、私の身の回りのことをこなしていく。
- 240 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月14日(土)15時42分46秒
- 私は自分のことは自分でしていくほうだから、それほど苦労は無いと思うんだけど、
実際のところ、奴隷に近い扱いをする奴もいるらしいね。
その点、彼女はラッキーなんだろうね。
彼女も少しあっけにとられていたようだった。
でも、それが私の世間の評判と言うものをあらわしているようで、嫌だった。
小川自身、すごくてきぱきとやる子で、すぐに頭のいい子だってことがわかった。
飲み込みも早いし、気も利く。なにより真面目。
私には少しもったいないくらいのいい子だった。
そのうち、私の訓練に付き合ってもらうことにした。
丁度彼女も槍を使うので、小川の訓練もかねてのことだった。
こっちの方も、センスがよくて、みるみる内に上達していった。
- 241 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月14日(土)15時43分18秒
- でも、彼女には問題があった。
おそらく、大会に出れば、かなりいい線にいくだろう。
だけど、結局そこまで。
そこで止まる人間と、それより先に行く人間の違いをわけるものが彼女には無かった。
それは、思い切りのよさがないこと。
リスクの少ない方法、確実な方法で戦おうとする彼女。
実力差のある相手では完璧に勝つことができるが、同じくらいの力を持つ相手とでは勝つことができなかった。
でも、戦争があるわけでもなく、私はいって聞かせることはあったが、積極的に直していこうとしなかった。
十分彼女の実力では、同年代でかなう人間の存在は稀だろうから。
- 242 名前:takatomo 投稿日:2003年06月14日(土)15時46分44秒
- 更新終了です。
後半部分はまた後日。
本編で影が薄くなりすぎている小川さんを久々に書いた気がします…
邦題は、ちょっと怪しい英語になりましたが後藤さんのある曲名です。
- 243 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時22分39秒
- そんなこんなで、私と小川が出会って最初の冬。
小川の運命を変える事件が起こったのは、初雪の降り積もった寒い夜だった。
私は数日前から、なっちと会うためにモーニング城へと行っており、留守だった。
その日の夜に変える予定だったけど、雪のせいで遅れ、太陽が東の山から顔を出す頃、私は帰ってきた。
玄関の扉が開いてるのを少し気にかけながら、中へと入った。
私の耳に入ってきたのは、怒声と荒々しい足音。
見ると、黒尽くめの男が一人、顔を真っ赤に染めて走ってきた。
おそらく賊だろう。
ダンデライオンは多くの財宝をもっているなんて噂も数え上げればきりが無い。
今まで、数回こうしてやってきた経験がある。
どうも人は、大きな障害のあるところには相当の見返りがあると考えるらしい。
- 244 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時23分28秒
- 小川のことが気にかかったが、扉が勢いよく開き、すぐに彼女の姿が賊の後ろに現れた。
彼女の全身は赤く染まり、手に持った槍からは血が滴り落ちていた。
「どきやがれ!」
ナイフを振りかざし、叫びながら向かってくる男をカウンターで殴り飛ばし、小川に近づこうとする。
だが、私の方に向かってくるかと思ったが、すぐに倒れた男の元へ行き、何度も何度も槍を突き刺した。
グチュ、グチュと肉をそぎ落とす音が聞こえる。
男はもう息はなかった。
それでも小川は何度の何度も突き刺していた。
- 245 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時24分00秒
- 「小川!」
私の声に反応しない。一心不乱に突き刺していた。
私は彼女の手を持ち、槍を取り上げた。
キッと小川が私の顔を見る。
その目は完全におかしかった。
そして、彼女はこう言った。
「飯田さん、やりましたよ。こいつら、勝手に入ってきたんです。でも、私、やりました」
上ずった声とひきつった笑い。
私は耐え切れず、彼女の首筋を後ろから叩いた。
ガクッと崩れ落ちる彼女を支え、担ぎ上げて部屋に連れて行くと、適当に服を着替えさせ、ベッドに寝かせた。
その日、彼女は目を覚まさなかった。
他の使用人が、世話を申し出たが、私は自分で彼女の看病をした。
- 246 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時24分37秒
- 戦場で、殺す側と殺される側を数え切れないほど見てきた。
人を殺すという経験は、人を変える。
肉を切り、命を奪う感覚は、人を狂わせる魔力があるんだ。
小川もそうなんだろう。
彼女は、賊からこの屋敷を守らなければいけないという使命感からやったこと。
一人目はそうなんだ。
でも、2人目、そこからは使命感なんて吹き飛んでいたはず。
でないと、でないと死んだ人間に何度も槍を刺し続けるなんてできない。
この子が再び目を覚ましたとき、どうなるんだろう?
そればっかりは、私にはわからない。
小川の寝顔を覗き込み、私は小さく「がんばれ」といって部屋を出た。
- 247 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時25分20秒
- 次の日、屋敷中に響き渡る悲鳴と共に、小川は目を覚ました。
慌てて駆けつけたとき、彼女の部屋から使用人が2人、逃げるように出てきた。
「どうしたの?」
真っ青な彼女たちの肩をもち、尋ねた。
だが、彼女たちは首を振るだけで、言葉は出てこなかった。
私は自分の目で確かめようと、部屋の中に入った。
――――部屋の中は、雪が降っていた。
- 248 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時26分09秒
- 私がそれが雪ではなく、白い羽と理解したのは、布団を切りつける小川の後姿を見たときだった。
奇声を発しながら、一心不乱に布団にナイフを突き刺す小川。
対象が異なるだけで、昨日の光景の再現だった。
「小川!」
私の声に振り向きさえしない。
私は歩み寄り、小川の肩を掴んで無理やり自分の方に向けた。
遠くからでは気づかなかったが、彼女の黒い毛はわずか一晩で、まだらになっていた。
彼女の目は、焦点が合っているようには見えず、半開きの口からは、荒い息がゼェゼェという音と共にもれていた。
- 249 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時26分41秒
- 「小川」
私は再度呼びかけた。だが、それが合図となったように、彼女は私の左太ももにナイフを刺した。
鋭い痛みが全身を襲う。
2回、3回、回数を重ねるたびに、私の左足の感覚が薄れていく。
だが、私は名前を呼び続けた。
落ちた羽毛が血を吸って真っ赤に染まっていく。
何度刺されただろう、何度呼んだだろう、出血のせいで意識が朦朧とし始めた時、ペチャという音が耳に入った。
下を向くと、小川の手から落ちたナイフが血溜まりの中にあった。
私は小川を両手で抱きしめた。
すると、しばらくすると小川の体が震え始めた。
- 250 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時27分19秒
- 「怖い…いや、こないで…」
すすり泣きと共に、小川の声が漏れた。
「大丈夫、もう誰もいない。私しかいないから」
泣いてる子どもをあやすような声で、頭を撫でながら言った。
「飯田さん…」
私の腕の中で。顔をあげて小川は言った。
- 251 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時27分51秒
- それから、お互いあの時のことを話し合うことを避けていた。
次に小川がこのことを話したとき、それは私の足の傷もとうに治り、蒸し暑くなってきた頃のことだった。
「何度も何度も追いかけてくるんです。
刺しても刺しても、血だらけで向かってくるんです。
怖かった…怖かったです。すいませんでした」
彼女はそう言った。
おそらく殺した男のことだろう。
その後に言った彼女の顔と言葉。
私は一生忘れない。
たぶん彼女も忘れるはずがないだろう。
いや、忘れないでいて欲しい。
- 252 名前:with you in when as well 投稿日:2003年06月23日(月)03時28分50秒
- 「どこまでもあなたについていきます。たとえ、どんなことがあっても」
英雄伝承にでもでてくるようなフレーズ。
紙も血判もいらない。
その思い出だけが、私たちの絆。
誰にも断ち切ることのできない絆だった。
<Supplementary story1 with you in when as well 終>
- 253 名前:takatomo 投稿日:2003年06月23日(月)03時29分35秒
- >>243-252
更新終了
次からは本編に戻ります。
- 254 名前:紅屋 投稿日:2003年06月23日(月)20時57分56秒
- 最初から読みました。
こんな文章をかけるのがうらやましい!感服です。
ここの飯田さんは素敵ですね。本編楽しみにしてます。
- 255 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)00時57分07秒
- <8 A lost smile >
<8−1 Rika's view>
ガタン ガタン
規則正しく揺られながら、私たちは一路プッチモニ公国の城を目指していた。
寝不足の体に馬車での長時間の移動は厳しかった。
6人も乗ってるんだから、横になるほどのスペースがあるわけでもなく、
揺れは激しく、しゃべる声まで震えるほどだし、何よりお尻が痛かった。
でも、平地を移動する方法が他にないのだからしかたない。
ごっちんあたりは景色をずっと見ながら何かしゃべってる。
市井さんはじっとそんなごっちんを見ている。
そうして半日ばかり進んだころだった。
いつの間にか森に入り、ここをぬけると城が見えてくるはずだった。
急に大きな揺れが加わると共に、馬の鳴き声が耳を突いた。
- 256 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)00時58分16秒
- 「どうした?」
市井さんが前の御者に声をかける。馬車は動きを止めていた。
「いえ、大きな木が倒れて道が塞がってるんです」
その声が帰ってくると同時に、市井さんの表情が引き締まった。
違う、市井さんだけじゃない。飯田さんも、ごっちんまでも表情が変わっていた。
「野盗か……でてきたらどうなの?」
市井さんの声に呼応してガサガサという音が回りから聞こえた。
木の間から男たちがたくさん現れた。
黒ずんだ服に手に持った不恰好な刃物は剣とも斧とも区別のつかないようなものだった。
- 257 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)00時59分22秒
- 市井さん、ごっちんが腰の剣に手をかける。
飯田さんは椅子の下に置いた槍に手を伸ばしていた。
また戦いが始まるの?
また誰かが傷つくの?
また誰かが悲しむの?
もう嫌だ。
一触即発の雰囲気に包まれた中、私はすっと立ち上がった。
そして、両手を組み言葉を紡ぎ始めた。
「この世の地を統べしもの」
両手で言葉に合わせて構成を組み始める。
野盗だけでなく味方の視線まで自分に注がれてるのがわかった。
- 258 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)01時00分25秒
- 詠唱は普通の術を使うくらいなら必要ない。
大きな術を使うときだけに必要になる。
これを覚えるのが結構大変と思われがちなんだけど、
実際のところ、自分で何言ってるのかよく覚えてない。
自然に口から言葉が出てきてるみたいな感じなんだ。
ともかく、私は詠唱を必要とする術を使おうとしていた。
「我が力と共に形を成し」
両手が光に包まれていく。
「敵を打て」
両手を高く上げる。
その手のひらから無数の光が飛散した。
そして数秒後、多くの悲鳴が響き渡った。
- 259 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)01時01分32秒
- 地面からの突起に体を貫かれた野盗たち。
モニュメントのように地面から生えている彼らはもう動かなかった。
ふぅと息を吐いた。
終わった。
誰も傷つかなかった。
誰も悲しまなかった。
よかった。
安堵感に浸るついでに目の前の邪魔な木も吹き飛ばした。
これで道も開けた。
「行きましょうか?」
笑顔でみんなに言ったが、みんなの反応は芳しくなかった。
状況が整理できていないのかな?
- 260 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)01時02分21秒
- 「さ、早くいきましょ?」
「石川……」
飯田さんが表情を崩さずに言った。
中腰の姿勢でいた飯田さんを見下ろすような形で私は視線を向ける。
その後に何か言いたそうにしていたが、私とじっと視線を交わしただけで、何も言わなかった。
市井さんは御者に先に進むように言った。
「梨華ちゃん怖いよ」
腰を下ろす際、ボソッとごっちんが言うのが聞こえたが、聞こえない振りした。
胸がチクッと痛んだ。
でも私はそれ以上考えないようにした。
なぜだかわからない。何も考えたく無かった。
- 261 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)01時03分14秒
- それ以降、森を抜けるまで誰一人言葉を発しなかった。
馬車のガタガタ揺れる音と、道端の草木が揺れる音だけが耳を包んでいだ。
それが破られたのは、森を抜けた高台の上に城が見えたとき。
日は既に傾いており、太陽を背に真っ赤に照らされて立っていた。
城に行くまでに町の大通りを通過したが、夕方だというのに人通りがまばらだった。
「昔はこんなじゃなかったんだけどね」
吐き捨てるように市井さんが言った。
- 262 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年06月29日(日)01時04分56秒
- 王が変われば国も変わる。
特にごっちんを殺してまで王位を手に入れようとする輩、
そんな輩が治める国なんてこんなものだ。
私欲を肥やし贅を尽くすために重い税を課す。
「子どもの国」
若干15歳でごっちんが王位を継ぎ、国を治めているとされているため、そう噂されているのは知っている。
でもまさかここまで酷いなんて……
どっちが子どもなんだよ。
ごっちんがかわいそうで私は奥歯をかみ締めた。
一歩一歩城に近づく足取りが早くなっているのを感じた。
- 263 名前:takatomo 投稿日:2003年06月29日(日)01時07分33秒
- >>255-262
更新終了です。ちょっと短め…
次は少し多めに更新できるようにしたいです。
8 A lost smile 邦題は「失われた笑顔」です。
- 264 名前:takatomo 投稿日:2003年06月29日(日)01時10分15秒
- >>254
レスありがとうございます。
結構文章量多くなってきましたが、最初から読んでいただいた上に、
そこまで言っていただきありがとうございます。
更新は遅めですが、これからも見ていただけると幸いです。
- 265 名前:紅屋 投稿日:2003年06月30日(月)19時33分26秒
- 更新お疲れ様です。
ファンタジーものは意外と少なくて読みたくなるとやってきてます。
私も黄板で書いてはいますがファンタジーは書けないんですよ…(泣)
だからここは心のオアシスですっw
次回も楽しみにしています。ペコリ
- 266 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時13分59秒
- 「ちょっと待って、どーゆーこと」
「それはこっちの台詞ですよ、市井殿」
凛とした市井さんの声と正反対のいかにも陰湿そうな声が部屋に響いた。
「そんなどこの馬の骨ともわからないような人間をつれてきて、王だなんて言われて誰が信じますか?」
皮肉たっぷりにその声は続ける。
「あんた、知ってるでしょ?後藤の顔を。ねえ、みんなもどーなのよ?」
その言葉に返事は無かった。
ここで私たちの味方についてもいいことはない。
この偉そうな大臣につく方が得策という雰囲気に包まれていた。
- 267 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時15分09秒
- 長いものには巻かれろってこと?
感じ悪い。
これだから貴族ってやつらは嫌いなんだ。
権力のあるものにへこへこして、自分より弱いやつを見下して。
そのくせ、私がHPNに選ばれると手のひらを返したかのように群がってきた。
もう嫌だ。こんなやつらと一緒にいるのは。
その夜、私たちは一応城内の部屋へと通された。
部屋というのは名ばかりの、牢屋のように狭い部屋。
人数分のベットも毛布も無い部屋。
ガンッ
私は思いっきり壁を殴りつけた。
何度も殴りつけた。
誰も止めなかった。
みんな怒っていた。
- 268 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時16分42秒
- 「やっぱり。あれしか方法は無いか…」
急に市井さんが言った。
みんな一斉にそちらを向いた。
「ここから北に数キロ行ったところに森があるんだ…
そこに生えてる一本の木。その枝で後藤が後藤ってことを証明できる」
後藤も何かわかったかのように頷いていた。
「ちょっと詳しく説明してくれない?」
飯田さんが尋ねる。
その時だった。
「伏せて!」
ミキティの声が響く。
とっさのことで体が動かなかった私の手を飯田さんが引っ張った。
- 269 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時17分43秒
- ガラスの割れる音と何かが刺さる音がしたのはその後すぐ。
音の方を見ると、キラリと光るものが壁に刺さっていた。
ちょうど私たちの頭があった部分に。
「早速来たね…」
ごっちんが笑い混じりで言う。
今回ばかりは私にも理解できた。
ごっちんが後藤真希であることはみんなわかっている。
だから、だからこそあのクソ大臣はそれが証明される前に私たちを殺そうとしてる。
- 270 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時18分40秒
- 同じだ。ごっちんが記憶喪失になったときと同じだ。
自分の権力のために人を殺す。
そんなやつが国を治めるなんて馬鹿げてる。
「思ったより時間が無さそうだね。あんたたちにお願いがあるんだ」
市井さんは言った。
「このためにあんたたちの力が必要だったんだ」
そう前置きして言われた提案を、私たちはすぐさま行動に移すことになる。
まだ夜になると肌寒い季節。
私たちが初めてしかける戦いが幕を開けることとなった。
<8−1 Rika's view 終>
- 271 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時26分17秒
- <8−2 Kaori's view>
その夜、私たち城を発った。
結局あの事件は騒ぎにすらならないまま、犯人すらわからないままだった。
仮に大臣に追求しても無駄なこともわかっている。
代わりに私たちは行動に移った。
市井が言っていた、一本の木を求めて。
モニの木。
市井はそう言った。
プッチモニ公国北部に位置する深い森の中に生息している木。
その枝を燃やし、王族の血に触れるとさまざまな色に光ると言われている。
後藤のことを証明するにはこれしかなかった。
- 272 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時26分58秒
- それを求めて私と小川。そして、市井から道案内を頼まれたアヤカという少女の3人はここまでやってきた。
石川と藤本は留守番兼後藤の警護。
市井がいればよかったんだけど、あいつにも考えがあるようで、私たち3人になった。
「城の中の人間は全員信頼できないけど、こいつなら大丈夫」
昨夜に市井がつれてきたのが彼女だった。
「すまないけど、こいつともう一人のやつしかこの状況で信頼できる人間はいないんだ」
市井の話によると、そのもう一人は今は出かけていて戻ってこれないという。
キリッとした顔つきで、どことなく違う国の人間のようだった。
どちらかと言えば南方の顔立ちだった。
ただ、この際そんな細かいことを聞いても仕方ないので黙っておいた。
少なくともこの時には私は市井のことを信頼するようになった。
彼女の力になりたいと考えていた。
あいさつもそこそこに城を発ち、夜が明けるころにはもう森に入った。
- 273 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時27分45秒
- そこは深い深い森だった。
夜が明けたというのに、森に入る前よりも暗くなっていた。
霧がかかったように視界が悪く、道という道も見当たらず、私たちは草を掻き分けて先に進んだ。
そもそも、モニの木の実物を知っているのがアヤカだけ。
でも、彼女もこの森のどこにそれが存在するのか全く見当もつかない様子だった。
光も通さず、ひんやりとした空気につつまれていたその森なのに、額には汗がにじんでいた。
あての無い探索というものは精神的にもこたえる。
百戦錬磨の私といえどもそろそろ限界に近かった。
私ですらこうなんだから、小川はどうなんだろうと横を歩く彼女の顔を見た。
だが、私の思いとは裏腹に彼女の顔は森に入る前と変わっていなかった。
- 274 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時29分23秒
- 本当は私と藤本で行くはずだった。
でも、私がそう言った時、小川は反論した。
初めてだった。
私に反抗した小川を見たのは。
「私に行かせてください」
彼女の精一杯の思いに私は負けた。
彼女の真意はわからなかったが、彼女が私に反抗してまでいった言葉を否定できなかった。
藤本はいつも通りに小川と行くと伝えると「わかりました」とだけ言った。
今考えると、やっぱりこっちの方がよかったのかもしれない。
発つ際に私がボソッと言った「石川を頼んだよ」という言葉を彼女なら実践してくれるに違いないと確信できるから。
正直な話、石川の状態を考えると、小川と二人で残すのは心配だ。
自分のことで一杯な二人に後藤まで守ってもらうというのは荷が重すぎる。
まあでも後藤ならあの二人まで守ってくれそうな気もしないんだけどね。
- 275 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時30分19秒
- そんなことを考えているうちに、前を歩くアヤカの足が止まっていた。
思わずぶつかりそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「どうしたの?」
「ありました。これです」
腰に差していた剣を抜き、アヤカは枝を切断した。
一見してみると全く普通の木と変わらない形をしていたが、
その色は普通の木とかけ離れていた。
真っ赤だった。
血のように赤いとはまさにこのことと思わんばかりの色だった。
アヤカからそれを受け取り、来た道を引き返す。
先ほどまでと打って変わって足取りが軽かった。
けれども、それは森の入り口が見えたところでとまることとなる。
- 276 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時30分59秒
- 目前に10人くらいの男の集団。
まさかここにくることが大臣たちにばれてるとは思わなかっただけに、心構えができていなかった。
放たれた弓を避けて、私たち3人がばらばらになった。
「小川」
呼びかけもむなしく、霧の中に小川の姿が消えていった。
くそっ、まさかこんなに早く知られるなんて…
油断していた自分を悔いたが、悔やんでいてもどうしようもない。
私は槍を抜き、男たちがいた方へと戻った。
入り口にはまだ男たちのほとんどが残っていた。
私はそこに突っ込んでいった。
- 277 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時31分37秒
- 1人、2人…7人。
心の中でカウントしながら次々に切っていった。
2人のことが気にかかり、早く勝負をつけたかったので、いくつか相手の刃を受けたが、
どれも致命傷には程遠いものだった。
私の視界から動くものがいなくなった時、上から急になにかが飛び掛ってきた。
とっさに身をかわす。
それは再び霧の中に消えていった。
獣?いや、何か持っていた…
考えがまとまらないうちにもう一度飛び掛ってくる。
だが、今度ばかりは私も身構えていた。
- 278 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時32分25秒
- 頭上から来る刃をさけ、槍の柄で思いっきり払った。
「ギャ」という短い悲鳴を上げ、それは木に叩きつけられてから地面に倒れた。
よく見るとそれは人だった。
いや、人というにはあまりに異形すぎた。
私の半分くらいの身長。
そしてそれに不釣合いな太い手足。それは私よりも太かっただろう。
手に持っているものは剣というには短く、そして太いものだった。
その人物が何であるか、私は、いやこの世界の人間なら人目でわかることだった。
ミニモニ公国だ。
ドワーフの血を受け継ぐプッチモニの南に位置する国。
- 279 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時33分17秒
- でもどうしてこんなところに?
それを理解する前に、その人間は急に起き上がった。
おそらくアバラが折れているであろう強烈な一撃だったはずだが、こいつには効いていなかったらしい。
木の上まで一気にジャンプし、そのまま消えていった。
私も後を追うことはしなかった。
まだあと何人かいるはずだったから。
小川のことが心配だったから。
探しにいこうとしたとき、草が揺れる音がし、2人が現れた。
特に目立った怪我もなく、ほっとした。
「こっちは4人倒しました」
そう言って地面に転がっている死体の数をアヤカは数え始めた。
- 280 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月06日(日)00時34分30秒
- 「合計11人ですか。一人逃げたんですか?」
「う、うん」
頭で何か警鐘が鳴ったが、それ以上考えなかった。
ミニモニ公国のやつのこともあったがあえて言わなかった。
そんなことより今は後藤のことが大切だったから。
簡単に私は止血を済ませると、すぐに城への道を進んだ。
<8−2 Kaori's view 終>
- 281 名前:takatomo 投稿日:2003年07月06日(日)00時35分51秒
- >>266-280
更新終了。
予告どおりいつもよりちょっと多めに。
感想などよろしくお願いします。
- 282 名前:takatomo 投稿日:2003年07月06日(日)00時39分22秒
- >>265
レスありがとうございます。
ファンタジーって意外と少ないんですよね。
私もこれを書くまでもっと多いと思ってたんですが…
紅屋さんの作品の方も時間のあるときに読ませていただきたいと思います。
- 283 名前:紅屋 投稿日:2003年07月10日(木)01時37分08秒
- おおー!遂にミニモニ公国が関係してきましたね。
どんなかたちで登場するのかとても楽しみです。
- 284 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月13日(日)22時50分04秒
- <8−3 Makoto's view>
ハァハァ
神経を集中させ、相手の動きを見定める。
相手は4人、こっちは1人。
霧がかったこの森で、誰かの助けを願うなんて馬鹿げてる。
でも、飯田さんなら…
その考えが頭によぎったとき、私は懸命にそれを消そうとした。
いつまで甘えてるの?
飯田の力になりたいから、必要とされたいからここに来たんでしょ?
いつも藤本さんばかり頼られてるから、だから私は志願したんでしょ?
- 285 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月13日(日)22時50分51秒
- 「藤本」
そう言われた時、私は反射的に言葉が出た。
自分でも驚くくらいすんなりと、はっきりと言葉が飛び出した。
今まで何度も喉元で押しとどめていた言葉が、こんなにもあっさりと。
もう置いてけぼりはいやだった。
藤本さんが来てから、私のポジションがあっさりと奪われた。
嫉妬してた。
でも、私のほうが劣っていることは事実。
飯田さんは藤本さんには完全に任せきっているのに、私に対してはフォローしてくれる。
それじゃ駄目なんだ。
飯田さんと同じ目線に立たないと、飯田さんに任せてもらえないと。
一人でも大丈夫って、信頼してもらわないと。
- 286 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月13日(日)22時51分26秒
- だから、ここで4人相手に頼っていちゃ駄目だ。
飯田さんはもっとたくさんを相手してるかもしれない。
無我夢中だった。
幸い木が生い茂る中、弓はほとんど役に立たなかったことが幸いした。
弓を捨て、剣を構える二人と、槍をもったのが二人。
この木の密集した空間なら囲まれる恐れもない。
一度に一人ずつ相手していけばいいんだ。
自分にそう言い聞かせ、槍をいつもの半分の長さでもつ。
この方が小回りが利くからだ。
- 287 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月13日(日)22時52分05秒
- 勝負はあっけなくついた。
相手は何も考えずに突っ込んでくるだけ。
吉澤ひとみがつれてきた奴らの方がよっぽど強かった。
攻撃をかわしては切るだけの単純な作業。
「4人も」というのは言い過ぎた。
相手は「たった4人」だけだった。
ふーっと一息ついたところで、横にアヤカさんがいることに気づいた。
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
私の言葉ににっこり笑って答えてくれました。
そして、アヤカさんは倒れている敵を見て、もう一度口元を緩めました。
「どうしたんですか?」と尋ねたかった。
でも私は口をつぐんだ。なぜか嫌な予感がしたから。
- 288 名前:8 A lost smile 投稿日:2003年07月13日(日)22時53分15秒
- そして、その予感はもう一度私の頭を掠めることとなる。
「こっちは4人倒しました」
この言葉が私の何かを刺激した。
でも、それが何を意味するのかわからなかった。
そこにだけ、一番重要な部分だけ黒いもやがかかっているようだった。
そんなことは飯田さんに言うわけにいかなかったし、何より本人に聞くことなんて出来ない。
私はこのことをそっと心の奥にしまいこんだ。
<8−3 Makoto's view 終>
- 289 名前:takatomo 投稿日:2003年07月13日(日)22時54分23秒
- 更新終了です。
短くてすいません。
次は少し空くかもしれません。
なんとか空かないようにしたいのですが、ちょっとわかりません。
- 290 名前:takatomo 投稿日:2003年07月13日(日)22時58分57秒
- >>283
いつもレスありがとうございます。
そろそろ話も中盤なので、いろいろ出揃いつつあります。
登場人物はまだまだ足りないですが…
更新遅くて申し訳ないです。
- 291 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時20分20秒
- 9 The heart of the truth
<9−1 Rika's view>
寝不足の目をこすりながら、私とごっちん、そして、美貴の3人は部屋で向かい合って黙っていた。
夜中の襲撃から一晩中起きていたが、あれ以来何もまだ起きていなかった。
どこにいても相手には居場所がばれるだろうから、結局城に残った。
下手に町にでると、周りに迷惑を掛けかねない。
敵の懐にいることで、逆に手荒な手段には出られないはずだ。
これは美貴の判断だった。
飯田さんたちがここを出て行ったのは夜明け前。
つい先ほど正午を知らせる鐘の音が聞こえた。
半日くらいで帰るって言ってたから、まだ何かがおこるのに十分時間はある。
- 292 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時21分00秒
- 市井さんは朝一で大臣達に呼び出され、使いに行かされていた。
ここからはるか離れた南方の、ミニモニ公国との国境付近。
最近ミニモニ公国で不穏な動きがあるらしい。視察に行ってくれ。
そんな内容の通達。
もちろんでっちあげに決まっているが、立場上逆らえない。
厄介払いというやつだ。
もちろん市井さんはこのことまで予測していたらしい。
「私がいない方が、向こうもなめてかかってくれるでしょ」
おどけた口調でそう言い残して行ってしまった。
- 293 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時21分47秒
コンコン
部屋をノックする音がした。
一斉に私達の視線がそちらを向く。
「はい」
ごっちんが答える。
美貴が物音一つ立てずに一瞬で戸口まで迫った。
壁に背をぴったりとつけ、外の様子を伺っているようだった。
「食事の用意が出来ました。階下までいらしてください」
女の人の声だった。
私はごっちんの顔を見る。
普段と変わらないその顔から、彼女の考えは読めなかった。
- 294 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時22分28秒
- 「こちらに持ってきていただけませんか?」
私とは逆に、ごっちんの顔を見て全てを悟ったのか、美貴はごっちんに向かって頷いてからそう言った。
「わかりました」
そう言って女の人は去っていった。
美貴もそれにあわせるようにゆっくりとテーブルの方に戻ってきた。
そのまま、再びノックの音が聞こえるまで、誰も口を開かなかった。
ノックの音がして、美貴がゆっくり外にでていき、すぐに中に戻ってきた。
渡された食事はバスケットに入ったパンと、サラダだけという質素なものだった。
文句を言いたいところだったが、寝不足と疲れがあいまって食欲が無かったせいもあり黙っていた。
部屋に持ってこれるものといえば簡素なものになるのは仕方なかった。
- 295 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時23分09秒
- 私達が食べる前に、美貴が毒見。
本人曰く「徹底的に仕込まれてますので、安心してください」とのことだった。
パンを一つとり、縦に裂いて口の中に入れる。
数分間動かした口から、でた言葉はOKだった。
「パンっていうのが一番危ないんです。一つ一つ別ですからね」
一つ一つ丹念に調べていく。
結局、パンには全く問題は無かった。
でも、私達がパンを手に取ったときだった。
- 296 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時23分56秒
- 「待って」
サラダから緑の野菜をとり出した美貴が叫んだ。
思わず手からパンを落とした私。
テーブルで一度跳ね、床にパンは落ちた。
「これ…やられたね。まさかここまでやってくる…なんて。
ごめん…一口…食べた。後で…説明す…るから…騒が…ない…で」
それだけ言って咳き込んだ美貴の手には、赤い液体がついていた。
すっと血の気が引くのを感じた。
ぐるりと一回転する部屋の景色を必死で元に戻す。
- 297 名前: 9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月19日(土)22時24分41秒
- ゴフッっという音とともに、今度は床に赤が広がった。
美貴がその上に崩れ落ちようとするのを支えたのはごっちん。
「い…医者。お医者さん呼ばなきゃ」
震える声でそう言い、私はおぼつかない足取りで戸に向かった。
「待って。駄目」
鋭い声が私の耳を貫く。
ビクッとして私はその場に硬直した。
「ミキティは大丈夫。下手に医者に見せる方が危ないよ」
凛とした声だった。
真実を言っているだけだが、どこか安心させる、信じることの出来る言葉だった。
上に立つ人間というのはこうなんだろうか。
その素質というでもいうものをごっちんは持っているようだった。
ノブにかけた手をそっとおろす。
震えはだいぶ収まっていた。
ごっちんの腕の中で気を失っている美貴。
真っ青なその顔に私は不謹慎にも見とれてしまった。
- 298 名前:takatomo 投稿日:2003年07月19日(土)22時27分09秒
- 更新終了。
連休中にもう一回更新できたらします。
9 The heart of the truth 邦題は「真実の心」です。
- 299 名前:紅屋 投稿日:2003年07月21日(月)01時22分30秒
- 自分がやられても任務に忠実なミキティはかっこいいですね。
見とれてしまうのがすごくわかりました。
っていうか大丈夫なのかミキティ!!(遅
- 300 名前: 9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時53分14秒
- ◇
彼女が目覚めたのは数十分後だった。
ずっとごっちんの腕の中で抱かれていた彼女は、うめき声とともに意識を取り戻した。
「よかった」
思わず口からもれたその言葉とともに、涙もこぼれた。
「大丈夫?」
「はい。すみません」
ごっちんに支えられるように美貴は椅子に座った。
「で、説明して欲しいんだけど?
どうしてミキティほどの人が引っかかったのさ?」
テーブルに頬杖をついてごっちんは尋ねた。
私はこの時初めて気づいた。
誰よりも怒っているのはごっちんなんだ。
でも、彼女はそれを必死に抑えていた。
美貴が倒れても、取り乱さずに耐えていた。
だけど、今の瞬間、彼女からそれがこぼれた。
怒りの感情が隙間からそっと覗いた。
- 301 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時53分58秒
- 「あれは、毒であって毒じゃありませんでした」
「意味わかんない」
美貴の声を遮るように強い調子だった。
もっとわかりやすく説明しろよ。
ごっちんの無言のプレッシャーがひしひしと感じられた。
彼女はもうそれほどまでに余裕が無い風だった。
一度覗いた怒りが隙間から漏れるのを防げないようだった。
「あれは、二つで一つなんです。パンの表面に塗られていた『クイ』とサラダにはいっていた『アワセ』。
二つ食べないと、毒にはなりません。噂には聞いていましたが、頭から外していました。
まさか、こんなところで出会うとは…全く不覚でした」
ごっちんは頷きもせず、黙って美貴の言葉を聞いていた。
- 302 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時54分44秒
- 「パンを最初にたくさん食べていたのが駄目でした。少量のアワセであんなに強い作用が出るとは思ってませんでした」
ガタン
美貴の言葉が終わると、大きな音ともにごっちんが立ち上がった。
「もう我慢できない。あいつら、絶対許せない」
部屋にかけたジュエル・ウエポンをとりごっちんが部屋から出て行こうとする。
私は必死で進路を阻止したが、ごっちんは力ずくで私をどけた。
美貴も必死で説得するが、ごっちんには聞こえてないようだった。
その時、再びドアがノックされた。
3人とも動きが止まる。
- 303 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時55分35秒
「あのさ、保田だけど。後藤いる?」
聞き覚えの無い声だった。
だが、ごっちんは迷うことなく扉を開けた。
「圭ちゃん」
ドアの前に立っている人物にごっちんは飛びついた。
「こらこらこら…」
困ってるようでうれしそうな圭ちゃんと呼ばれた人は、ごっちんを抱えたまま部屋の中に入ってきた。
- 304 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時56分13秒
- 大きな人だった。
それは飯田さんのように背が高いという意味ではなく、体格がよかった。
ごっちんを抱える腕は私の倍くらいはあろうかという太さだった。
そして、それには無数の傷があった。
どっしりとした体は、筋肉の塊のように大きく引き締まっていた。
二人は目を合わせて笑っていた。
二人の話す会話はよくわからない会話が多かったが、漏れ聞いた所から推測すると、
この人は市井さんの友人らしい。
昨日まで用があって城を離れていたが、さっき戻ってきたところらしい。
この人が市井さんの言うもう一人の信頼できる人なんだなと、私は悟った。
- 305 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時56分59秒
- 「あ、ごめん、自己紹介まだだったね」
圭ちゃんと呼ばれた人はニコッと笑っていった。
ごっちんとの話を聞いていても感じたが、体格からは想像できないほどやさしそうな人だ。
「私は保田圭。昔は紗耶香と、あ、市井のことね、紗耶香と一緒にダイバーにいた。
あの子は隊長。私は副隊長だったわ」
とんでもないことをさらりと言いのけた保田さん。
でも、市井さんやごっちんのことがあってから、少々の経歴では驚かなくなっていたのも事実だった。
- 306 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月21日(月)23時57分42秒
- 「石川梨華です」
軽く会釈して手を差し出すが、私の名前を聞いた保田さんは、大きな目を更に大きくしていた。
「え?あんた、あのHPNの?へー意外だねー」
よく考えれば失礼な言葉だったかもしれないが、彼女の笑顔はそう思わせない何かがあった。
握手した手。
豆ができているのだろうか。
ゴツゴツした感触が伝わってきた。
美貴とも簡単なあいさつを済まし、4人とも椅子に座った。
保田さんは椅子の下の血に気づいていないのだろうか。
それとも、知ってて何もいわないのだろうか。
ともあれ、彼女の出現によってごっちんの怒りが収まったことが一番だった。
- 307 名前:takatomo 投稿日:2003年07月22日(火)00時00分36秒
- 中途半端なところですが、更新終了。
石川さん視点はもう少し続く予定です。
ここまで書いて、まだ登場人物が半分くらいしか出揃ってないことに気づいて少しブルーだったり(w
- 308 名前:takatomo 投稿日:2003年07月22日(火)00時06分15秒
- >>299
いつもレスありがとうございます。
いつもやる気をいただいております。
最近少し放置気味だった藤本にちょっとがんばってもらいました。
やっぱりキャラが多いので、全員フォローしていくのは難しいと実感。
今後増えたときはどうしましょうか(w
- 309 名前:紅屋 投稿日:2003年07月24日(木)03時38分02秒
- うぉう、お圭さん登場ですね。
「クイ」「アワセ」って・・・なるほどw
キャラが増えると大変ですよね(しみじみ)
いやー頑張ってください!
- 310 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時31分03秒
- その思いが届いたのだろうか。
それとも保田さんの存在のせいだろうか。
日が西に傾くまで何事も無かった。
ごっちんも冷静さを取り戻したようで、じっと座っていた。
「ただいま戻りました」
アヤカさんの声がした。
みんな一斉に立ち上がる。
扉を開けたその先には3人の人影があった。
<9−1 Rika's view 終 >
- 311 名前: 9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時31分59秒
- <9−2 Kaori's view>
私達は再びやってきた。
誰も座っていない王座のある部屋へと。
王座の横に立つ大臣が、変わらずさげすんだような視線を私達に浴びせていた。
そんな目をしてるのも今のうち。
私達の切り札に気づいて無いみたい。
すっと保田が前に出る。
彼女がダイバーの副隊長と聞いたとき、ああ、そうかと思った。
顔そのものは見たことが無かったが、雰囲気というか、気配というか、
そういうものは感じたことがあった。
ダイバーの副隊長といえば、全身を甲冑に身を包み、大きな斧を操っていた。
どんないかつい人物だろうと想像していたが、まさかこんな人だったとは。
まだ2、3言しか会話を交わしていなかったが、彼女の物腰の柔らかさは推して知ることができた。
- 312 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時32分48秒
- 「この方は私達がずっと探しておりました、国王。後藤真希様でございます」
大きくはっきりした声だった。
だが、大臣の反応は昨日と同じだった。
「保田殿、あなたも市井殿と同じことをおっしゃる。
だいたい反逆者と一緒にいる人間を信用しろというのがおかしい」
じろっと私に視線が向くのを感じた。
「無礼な、私の客人に向かってそのような言葉、訂正していただきたい」
保田は更に大きな声を張り上げた。
- 313 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時33分39秒
- 「おやおや、何かお気に召しませんでしたか?私は真実を言ったまでですが」
言い終わらないうちに、大臣は大声で笑いはじめた。
下品な笑いが部屋に響く。
私も石川も怒りを抑えるのに必死だったに違いない。
でも、そんな状況を一変したのが後藤の一言だった。
「あんたうるさいの。いい加減にしなさい」
決して大きな声ではなかったが、一瞬で場を静まらせた。
- 314 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時34分35秒
- 「証拠見せればいいんでしょ?まあ、その時はあんたが死ぬときなんだけどね」
笑みを浮かべて後藤は言う。
かわいそうにね。
そう付け加えたが、大臣は何も言わなかった。
違う、言えなかったんだ。
この部屋全体が後藤に圧倒されているのが手に取るようにわかった。
「アヤカ」
後藤の声にアヤカがそっとモニの木を渡す。
「あんたほどのバカでも知ってるでしょ?これがなんだかわかるでしょ?」
大臣はそれを指差したまま口をあけていた。
何か言おうとして声も出ないのか、口をパクパクさせているだけだった。
- 315 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時35分21秒
- 「これはね、燃やすと赤い炎がでるんだけどね、王族の人間の血に反応して、緑色の炎になるのよ」
後藤がチラッと石川の方を見る。
石川が指輪をちょっと動かすと、赤い炎があがった。
後藤は腰に刺している剣を少しだけ抜き、指先を切った。
そして、炎の中に血を落とす。
もちろん炎は緑色に変わった。
後藤の血が落ちるたびに緑の炎が揺らめく。
それはすごく幻想的な色で、私は声を出すのも忘れ見とれていた。
- 316 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時36分10秒
- 「嘘だ、でたらめだ。何か仕掛けがあるんだ」
大臣がわめく。
でも、部屋の雰囲気は彼を味方していなかった。
次々に広がっていく拍手。
みんな後藤が王だとわかっていた。
きっかけが欲しかっただけ。
大臣が逆らえないようなきっかけができたら、後は上につく。
石川の大嫌いな貴族の習性ってやつ。
私も好きじゃないんだけど、この場はそれを利用する他は無い。
「嘘だ嘘だ嘘だ!」
たった一人でわめきちらす大臣。
おぼつかない足取りで後藤の近くに寄ってきたかと思うと、いきなり懐からナイフを出した。
- 317 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時37分02秒
「危ない!」
とっさに後藤を左手で押す。
鋭い痛みが腕を襲った。
飛び散る血。
その先で緑色の光が見えたような気がした。
そして、別の炎が現れた。
天井まで届きそうな炎が突如として部屋の中で起こった。
悲鳴と嫌なにおいが部屋に充満した。
その炎が大臣だとすぐにわかった。
そしてそれをやったのが誰かも。
- 318 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時37分53秒
「石川!」
私を心配してよってきた小川を避け、石川に向かって言った。
私の声に振り向いた石川。
その表情に寒気を覚えた。
口元に笑みを浮かべながら、まだ何かぶつぶつ言っている。
それが詠唱ということに気づくには余りに小さすぎた。
「止めな…」
私の声を遮るように部屋が一段と明るくなり、そして悲鳴が止まった。
残ったのは7人だけ。
後は黒い染みがいくつも残っているだけ。
動いているものは何も無かった。
- 319 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時38分43秒
- 「あんた、一体…」
保田がようやく口を開いた。
それが引き金となり、一気に私の中の時間が動き始めた。
石川がやった。
ここの全員を殺した。
何で?
罪も無い人を。
罪の無い?
私は切られた。
痛い。
でも殺しちゃいけない。
大臣?
その他の人?
殺していい?
考えが一気に押し寄せてきた。
ぐちゃぐちゃで何もわからなくなりそうだった。
石川は保田に襟首をつかまれ何か大声で言われている。
それでも彼女はまだ笑みを浮かべていた。
- 320 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時40分01秒
- 「あんたねえ、何で笑えるのよ!」
保田が拳を上げる。
だがそれは石川には向けられなかった。
間に入った後藤。
保田がそれに気づき拳を止めるも、後藤を吹き飛ばすには十分だった。
「ちょっと待ってよ…話くらい聞かないと…」
頬に手を当て後藤は言う。
保田は自分の拳をじっと見ているだけだった。
「ねえ、どうしてこんなことをしたの?」
石川の肩をもって後藤は優しく尋ねた。
- 321 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月27日(日)01時41分52秒
「ごっちん、お礼なんていいよ。私は当然のことしたまでだから」
ニコッと笑って石川は言う。
すぐさまパチンと部屋に大きな音が響いた。
「バカ、あんたなんてもう知らない。どっかいって。もう私の前に来ないで!」
頬をぶたれ呆然とする石川をそのままに、後藤は部屋を出て行った。
保田もそれに続く。アヤカも、藤本も。
小川が戸惑った様子で私を見る。
私は出て行くように目で合図した。
そして、私達二人だけになった。
<9−2 Kaori's view 終>
- 322 名前:takatomo 投稿日:2003年07月27日(日)01時46分38秒
- >>310-321 更新終了
石川視点が書いてたら長くなったのでやっぱり切りました。
夏休みの時期ですし、更新形態変えようと思います。(別に私は休みじゃないですが)
週末まで待って更新ではなく、書いたらその日に更新するようにします。
その方が私のほうでも更新頻度が上がるかなと思いますので。
感想などいただけるとうれしいです。
次は、安倍&吉澤の予定です。
- 323 名前:takatomo 投稿日:2003年07月27日(日)01時51分24秒
- >>309
本当にいつもありがとうございます。
はげみになっております。
紅屋様のもいつも読ませていただいてます。
レス付けるの下手なので…すいません。
お互いがんばりましょう。
- 324 名前: 9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時34分23秒
<9−3 Natumi's view>
「ねえねえなつみさーん」
いつの間に部屋に入ってきたのだろうか。
気がつくと何か赤いものをもって私の目の前にいた。
「それ、何?」
左手でぶらぶら動かしている棒。
枝分かれしているところから見ると、木の枝なのか。
枝を少し上げ、これ?というリアクションをする吉澤。
「これはですねーすごい木なんですよー」
ニコッと笑って私の目の前にそれを持ってきた。
開いた方の指をパチンと鳴らすと赤い炎が上がった。
- 325 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時35分34秒
- 「さて、今から手品をお見せします」
咳払いをして吉澤は右手をその上に。
そこから赤い液体が1滴落ちた。
すると私の顔を照らす色が緑色に変わった。
「なつみさんはできませんよ。私だからできるんですーうらやましいですか?」
「別に」
挑発するような吉澤の言葉に私は無関心を装った。
「これ、何に反応してるかわかります?」
吉澤は再び赤くなった炎を指差した。
私はわざとそれから目をそらせた。
正直これ以上こいつのテンションにつきあっていくのは苦痛だった。
- 326 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時36分17秒
「王族の血に反応するんですって」
耳元でいきなり囁かれた声。
その言葉が引き金となった私の拳。
しかしそれは空を切った。
「フフフ…怒らないでくださいよ。私とあなたの仲じゃないですか」
フッと息を吹きかけて炎を消し、吉澤は扉を開ける。
「あ、これおいときますね。プレゼントです」
出て行く間際、私の方に向かってその枝を投げた。
私はそれが自分の前に落ちるのをただただ見送った。
- 327 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時36分57秒
- 絨毯の上に音もなく落ちた。
焦げて黒ずんだ先を私の方に向けて落ちた。
その存在だけが私をいらいらさせるもの。
この枝はまさしくそういうものだ。
不愉快だ。
足先に引っ掛けて蹴り上げ、両手で真っ二つに折った。
そして、ランプの炎にくべる。
勢いよく燃えた赤い炎。
持っている手が火傷しそうになったが、私は離さなかった。
- 328 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時37分53秒
王家の血に反応するんですって
頭の中で吉澤の言葉が流れた。
そのせいだろうか。
ふと私は試したくなった。
まさしく悪魔の誘惑と言えるものだっただろう。
私がやろうとしているのは絶望を確信させるだけのもの。
でも、それでもどこか嘘であって欲しいと思っていた。
圭織を救えるのでは、許せるのでは…
もうこんなことを止めたかったのかもしれない。
本心はこんなことを望んでたわけじゃない。
圭織とも仲良くしていたかった。
でも、それは出来ない。
なぜなら…
だから、だからこそ試してみる価値はあるんじゃないか?
負けるとわかっているゲームだ。
勝てれば儲けもの。
そうだ、やってみよう。
- 329 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時38分39秒
- 頭は結論を出した。
指先に傷をいれた。
でも、それから体は動かなかった。
ほんの数センチ指を動かして血を垂らすだけ。
その動作ができなかった。
自分の体が石になっているように感じた。
目の前で炎は燃え続けている。
ようやく体が動いたのは、枝を持っている私の手が炎に包まれたときだった。
思わず手を引っ込めたとき、枝は炎の中に落ちてしまった。
「あっ」と思ったのと「よかった」と安堵したのはどちらが先だっただろう。
気がつくと全身汗びっしょりで、私は血のにじんだ指先をぺロッとなめた。
- 330 名前:9 The heart of the truth 投稿日:2003年07月31日(木)07時39分30秒
- 「何やってるんだ私は」
髪の毛をくしゃくしゃ掻いて独り言ちた。
もう戻れないんだよ。
もう一人の私が囁いた。
「わかってる。そんなこと…わかってるから」
首をぶんぶん振り、私は叫んだ。
疲れた。何もかもに疲れた…
そうだ…麻美はもう起きたかな…
ふと窓の外の真っ赤な夕日が先ほどの炎のようで、私はカーテンを勢いよく閉めた。
<9−3 Natsumi's view 終 >
- 331 名前:takatomo 投稿日:2003年07月31日(木)07時42分40秒
- >>324-330
9−3 Natsumi's view 更新終了。
ちょうど安倍編を書いてるときに卒業の話聞くとは思いませんでした…
卒業までに完結できたらいいんですけど、どーなるかわかりませんね(w
- 332 名前:takatomo 投稿日:2003年07月31日(木)07時48分13秒
- この作品では、6期メンバー(藤本除く)を入れてプロットしてなかったので、
6期メンバーの扱いについてはまだ考え中です。
出すことは出しますが、今のままでは出番少なくなくなる予感。
そこで、できれば読者の方の意見をお聞ききできればと思います。
でてくるのはまだ先ですが、そもそも元のプロットから結構なズレが生じてますので、
出して欲しいと思われる方がいらっしゃいましたら、増やそうかと思います。
ぜひご意見をいただければうれしく思います。よろしくお願いします。
- 333 名前:takatomo 投稿日:2003年07月31日(木)07時48分48秒
- ―
- 334 名前:しばしば 投稿日:2003年08月02日(土)01時57分10秒
- まず、更新お疲れ様です。
そして6期ですか‥‥。
確かに難しいところですけど、読んでみたいですね。
どんな感じで出てくるのか楽しみにしています。
別に6期ヲタじゃないですけどね。
今後の更新を楽しみにしています、頑張って下さい。
- 335 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月07日(木)00時24分08秒
- <10 Jihad >
<10−1 Rika's view>
「あんた、自分が何したかわかってるの?」
飯田さんが、手から流れる血をそのままに私に言う。
「わかってますよ。遅かったなって」
「遅かった?何が遅かったのよ?」
口の中で鉄っぽい味がした。
それを一旦飲み込んで私は言った。
「もっと早くあいつら殺してたら飯田さんも怪我…」
「だからどーしてあんたはそういうことを言うのさ!」
飯田さんの声が私の声にかぶさってきた。
- 336 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月07日(木)00時25分44秒
- 「あの人たちが何した?ねえ?言ってみなよ石川!」
襟元をつかまれ思いっきり引っ張られた。
飯田さんの大きな目がすぐ前にある。
その瞳に映っている私の顔まで見えるほど近くに。
瞳の中の私は最悪な顔をしていた…
「何もしてません」
私の言葉に飯田さんは安心したような目になった。
けれど、私の次の言葉で再び元に戻った。
「でも、ほっといたら何かしたに決まってる。だから、私は殺したんです」
「あんた…何言ってるの?自分で言ってることがわかってるの?
ねえ?何かしそうだから殺す?そんな考え…どうしてそうなのよ。
あんた最近変だよ。ここに来る途中のことだってそう。
最近あんたおかしいよ」
間違ってるかもしれないということは十分わかってる。
でも、その理由を理解してくれない飯田さんに腹が立った。
気づいていないの?まさか飯田さんが気づいてないわけない…
じゃあなぜ怒るの?
気づいてないからだ…なら言うしかない。
- 337 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月07日(木)00時27分10秒
「みんなを守るためです。みんなが傷つかないで、悲しまないで済むために私はやってるんです」
「敵……敵って名のつくものに容赦なんかしてられない。全て排除してしまえばいいんです。
私はこの前悟りました。力の無い正義なんて意味が無いんですよね。
この前、私に力があれば美貴も、小川も傷つかなかった。
ごっちんも……ごっちんも傷つかなかった。
力があれば、みんな守れるんです。力があれば、誰も悲しまないんです」
いっきにまくし立てた。
今まで溜めていた感情が一気にあふれ出していた。
でも、私の思いとは裏腹に、飯田さんの目は冷たかった。
違う。
私を哀れむような目だった。
- 338 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月07日(木)00時27分55秒
「石川…あんたの言ってることは正しいのかもしれない。
でも、それじゃ駄目なの。あんたのやり方は間違ってる。
殺すってことは誇れることじゃないんだよ。
できれば殺したくない。でも、殺すしか仕方の無いことがある。だから…」
「だから、何ですか?それまで我慢しろって言うんですか?
こっちが傷つけられて我慢しろって言うんですか?」
「そんなことは言ってない!」
飯田さんは一際大きな声を上げた。
「じゃあどういうことですか?だいたい、殺す殺さないって言いますけど、飯田さん、
あなたは前の戦争でどれだけ人を殺してるんですか?」
思わず口から出た言葉だった。
さすがに慌てて手で口を押さえた。
- 339 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月07日(木)00時28分51秒
- 「そうだよ…私は人殺しだよ…ごめんね…
でも、最後に一つだけ言っとくよ。
私は精霊のことなんてよくわからないけどさ…
あなたの耳に精霊の声はちゃんと聞こえてるの?」
さっきまでとは正反対。一言一言搾り出すように飯田さんは言った。
「どういうことですか?」
「私なりの考えはあったの。どうして石川はいくつもの精霊を同時に使えるかって。
たぶん、あなたが精霊と同じ目線だったからじゃないの?
精霊を使うことなく、命令することなかったから、みんなあなたが好きになったんじゃないの?
みんな力を貸してくれたんじゃないの?
今のあなたは違う。精霊を無理に使って…かわいそうだよ…」
それだけ言うと、飯田さんは出て行こうとした。
でも、出て行けなかった。
- 340 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月07日(木)00時30分03秒
噴出したとでも言うのだろうか。
赤いものが全身から飛び散った。
顔にかかったそれが生暖かくて、この前の出来事がフラッシュバックした。
- 341 名前:takatomo 投稿日:2003年08月07日(木)00時31分56秒
- >>335-340 更新終了。
石川編まだまだ続く予定です。
- 342 名前:takatomo 投稿日:2003年08月07日(木)00時35分46秒
- >>334
レスありがとうございます。そしてご意見ありがとうございます。
6期、使うことにします。
(流れ上無理になったらやめますが(w)
ええと、最後に…
スレタイと10章のタイトルがかぶって申し訳ないです。
- 343 名前:takatomo 投稿日:2003年08月07日(木)00時36分20秒
- ーーーーー
- 344 名前:しばしば 投稿日:2003年08月09日(土)01時38分03秒
- 更新お疲れ様です。
なんかいしかーさん、こもってきてますね。
(いい表現が浮かばなくてすいません)
タイトルの件は問題ないですよ。
こんなスペルなんですね(ぉぃ
最近やたらとニュースで聞きますしね・・・
それでは、次回の更新も楽しみに待っておりますぅ
- 345 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月11日(月)01時47分31秒
「誰か!誰か!」
私の大声にすぐに扉が開かれた。
入ってきたのは美貴と小川。
すぐに状況を把握したようだ。
でも、彼女達は、腕の中の飯田さんと私の顔を交互に見た。
「石川さん…」
小川の声だった。
続く言葉は表情が意味していた。
あなたがやったんですか?
「違う!」
ビクッとした小川。
それと共に3人の動きが止まった。
私と二人の視線が交差する。
動けなかった。
息をすることすら忘れていた。
- 346 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月11日(月)01時48分18秒
- でも、それを破ったのは飯田さんの小さなうめき声だった。
「飯田さん!」
私を押しのけるように小川が飯田さんの体を支える。
美貴は変わらず私に視線を向けたままだった。
「小川、ごっちん呼んでくるから…ここ、お願いね」
その言葉の裏に隠されたものはすぐにわかる。
そういうことを隠さないのが美貴だったから。
小川から少し距離をとって、立ち上がった。
黒い染みがいくつもあるこの部屋。
ついさっきまでは綺麗だったこの部屋。
まるで私みたいだ…
どうしてこんなことになっちゃったんだろ?
私はもうここにいられないの?
- 347 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月11日(月)01時48分56秒
- 開け放しの扉の向こうからあわただしい足音が近づいてきた。
私は反射的に部屋から飛び出した。
廊下にでるとごっちん、保田さん、美貴の姿が見えたが、私はそれに背を向けて走った。
後ろの方で何か声がしたが無視した。
全力で駆け抜け、城から抜けた。
太陽は南をとうに越しており、傾いたその光が町を赤く染めていた。
まるで町全体が燃えているかのようだった。
速度を落とさず、町の大通りにでる。
人は変わらずまばらだった。
でも、何か視線を受けているような気がして、私はすぐに路地に入った。
人が一人通れるくらいの細い路地。
そこを走っていたが、不意に何かにつまずき転んだ。
ドスンという派手な音と共に、砂埃が舞い上がった。
膝を強く打ったようで、痛みに襲われた。
起き上がってみると、皮がべろんと剥けていた。
でも、特にどうこうするということはない。
服についた砂を払って、私は歩き始めた。
- 348 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月11日(月)01時49分34秒
- 止まっていたくなかった。
誰かに追われてるようで、誰もが自分を見ているようで…
誰もが自分を責めてるようで…
この狭い路地。人影すらないこの路地も、壁から誰かが笑ってるような気がして、私はめちゃめちゃに歩いた。
どこの角を曲がったのかすら、自分がどこを向いてるのかすらわからなかった。
とにかく進んだ。
気がつくと、あたりは真っ暗で、街灯の灯がほのかに見えるだけになり、私は行き止まりにぶつかっていた。
ふぅとため息を一つ。
膝の血はすでに固まっていたが、血の跡は足首までつたっていた。
おなかも減ってきた。
考えればごたごたのせいで昨日から何も食べてない。
さっきまでの強迫観念が、欲望と入れ替わるようにしぼんでいった。
一旦通りにでよう。
宿も探さないといけないし。
来た道はわからないが、とにかく引き返すしかない。
目の前は壁なのだから。
振り返って歩き出す。
でも、その足はすぐに止まった。
目の前から掛けられた下品な声のせいで。
- 349 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月11日(月)01時50分08秒
- 「姉ちゃん、一人かい?」
いつぞやかのごろつきを髣髴させるような3人組連中。
その中の一番小さいやつが声をかけてきた。
無視して横を抜けようとするが、3人は回り込んで進路をふさぐ。
「どいてください」
私の言葉は余計に男達を喜ばせることとなる。
3人は手を叩きながらゲラゲラと笑い始めた。
私だってわかってる。
こんな連中が「どいてください」といわれたからどくわけがないと。
寧ろその反応を楽しむことくらい。
でも、わかっていても言ったのが、私の良心だったんだろう。
飯田さんの顔がよぎったからかもしれないが…
- 350 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月11日(月)01時50分43秒
- 尚も笑い続ける3人に、私はもう一度警告した。
「どいてくれないと…どうなってもしりませんよ」
でも、それも男達を笑わせるネタになるだけだった。
私は諦めて、指輪を動かした。
パッパッと構成を組む。
まだ笑っている3人はそれに気づかない。
私は指輪を頭上に掲げた。
指輪から光の矢が飛んで、男達を貫く。
はずだった。
男たちの笑い声はまだ響いているし、指輪は全く光らなかった…
- 351 名前:takatomo 投稿日:2003年08月11日(月)01時52分06秒
- >>345-350 更新終了です。
感想などいただけるとうれしいです
- 352 名前:takatomo 投稿日:2003年08月11日(月)01時55分50秒
- >>344
レスありがとうございます。
石川さんがえらくネガになっちゃってます。
もうちょっと彼女には成長してもらいたいので、しばらくはこんな感じで。
- 353 名前:takatomo 投稿日:2003年08月11日(月)01時59分52秒
- 10日過ぎたので、軽くカミングアウトっぽいものを。
かおなち生誕祭(雪板)に
「あなたがくれたもの。私がもらったもの 」と「8月9日 」投稿しました。
そちらの方も読んでいただければ幸いです。
「あなたが〜」は11レスから「8月9日」は123レスからです。
感想などもついでにいただけば幸いです。
- 354 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月14日(木)00時50分26秒
何度も手を動かすが全く何も起こらない。
そもそも、構成すら組めていないことに気づかないほど私は混乱していた。
無理だ…
そう思って後ろを振りかえるが、その手を掴まれた。
「逃げようったってそうはいかねーぞ。俺らに付き合ってもらわないと」
口元にだけ笑みを浮かべ、手を更にぐいと引かれた。
バランスを崩し、男にもたれかかるようになった。
すぐにもう片方の手をつかまれ、口も抑えられた。
生暖かく、ごつごつした感触が口の周りを覆う。
抵抗しても無駄だった。
精霊師の私に男をどうにかする腕力など無い。
事実、この瞬間も力を入れているが、男達は全く問題にしていなかった。
- 355 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月14日(木)00時51分19秒
- そのまま奥にズルズル引きずられる。
足を踏ん張ってもやはり何の意味も成さなかった。
涙が頬を伝って、口を押さえる手に溜まっていく。
助けて。助けて。
声にならないその言葉を懸命に叫ぶ。
だが、それもむなしく、ほどなく先ほどの行き止まりにあたったようだ。
壁に思いっきり押さえつけられる。
ひんやりとした背中の感触は壁のものではなく、自分の汗だということに気づく。
男達は声も出さずにニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。
私はそこで目を閉じた。体の震えを必死にこらえようとしたが、無駄だった。
- 356 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月14日(木)00時52分01秒
- グイと体を引っ張られた。
服が破れる音。
男達の息。
ひんやりとした空気が体を包んだ。
駄目…いや…
全身がこわばった。
男達がそれから私の体に触れるまで、とても長い、永遠ともいえる時間だった。
男達はいつまでたっても私の体に触れてこなかった。
だからといって、私は目を開けることもできず、何も考えることもできず、だただた震えていた。
- 357 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月14日(木)00時52分38秒
- いつの間にか口から手が離れていたことを私は気づかなかった。
「おーい、お姫様、目をあけたらどう?」
聞きなれない声がした。
おそるおそる目を開けた。
目の前には保田さんが立っていた。
私に向かってピースサインで立っていた。
止めていた息を吐くと共に、一気に力が抜け、私はその場にへたり込んだ。
低くなった私の目線には、倒れている3人の男が見えた。
- 358 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月14日(木)00時53分12秒
- 「こ、ころしたんですか?」
「殺した方がよかった?手加減したから一応生きてると思うけど…」
あっけらかんと保田さんは答え、自分のマントを私にかぶせてくれた。
「殺すって…そんな簡単に言っていいんですか?」
「あれ?あんたにそう言われるって意外だよ」
「わかってます。だから…どうして殺すなって怒らないんですか?」
「ちょっとあっちいこうか。この先にさ、川があるんだ。もう立てるよね?」
私の問いかけに少し間を空けて保田さんは歩き始めた。
私もすぐに立ち上がる。
服は予想以上にぼろぼろに破かれており、マントをしっかり前で止めて、それに続いた。
- 359 名前:takatomo 投稿日:2003年08月14日(木)00時55分39秒
- >>354-358
えらく短いですが更新終了。
感想などいただけるとうれしいです。
- 360 名前:takatomo 投稿日:2003年08月14日(木)00時56分13秒
- -
- 361 名前:takatomo 投稿日:2003年08月14日(木)00時56分49秒
- -
- 362 名前:名無し読者 投稿日:2003年08月14日(木)12時52分37秒
- かおなち聖誕祭のほうも読ませていただきました。
とくに「8月9日」は短い中でかおなちの雰囲気がよく出ていると思います。
セバータイズのほうも頑張ってください。
- 363 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時13分20秒
路地を抜けると本当にすぐだった。
膝の辺りまで伸びる長い草むらをわけて歩く。
草がマントの隙間から膝の傷に当たりチクチク傷んだが、暗闇の中、前を歩く保田さんを見失わないように必死に歩いた。
ほどなく、砂利の道となった。
水面がすぐ先に見える。
こんな近くに川があるなんて全く気づいていなかった。
保田さんはそこに腰を下ろした。
私もそれを真似る。
- 364 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時14分23秒
- 「さっきの質問の答えね…」
「はい?」
急に話された言葉に頭がついていかなかった。
「人を殺すことよ」
「あ、はい…」
保田さんは声色を変えているわけではなかったが、私は小さい声で答えた。
「別にね、悪いこととは思わない。そもそも、私達ダイバーは、人を殺すための組織だよ。
人を殺して、国を守ってきたから今の地位がある。
しかたなく殺してきたわけじゃない。むしろ、望んで殺してきた」
「だから…あんたがやったことは、私達が攻めれることじゃない。どっちかというと感謝したわ。
あんなやつら、いても無駄なだけだから。いない方がいいに決まってる」
驚きより、安堵が勝った。
私がやったことはやっぱり正しいことなんだって思えた。
- 365 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時15分00秒
- 「でも、どうして私があの場でやらなかたっと思う?
どうしてわざわざモニの木なんて面倒な方法で、後藤が王であることを証明したと思う?
どうして後藤が怒ったと思う?どうして私や紗耶香がこの2年間ずっと我慢してきたと思う?」
いきなりの質問の連続。
戸惑う私の体がグイとつかまれ、一緒に立たされた。
保田さんの大きな目が私を捉えている。
私の足は地面についていなかった。
「あんたは最低なことをやったのよ。それくらいもわからないの?
人を殺すのは戦争だけで十分。あの場で、ましてや無力な人間を嬲って…」
保田さんの手の震えで私の体が揺れる。
- 366 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時15分44秒
- 「あんたの気持ちもわからなくない。藤本から聞いた。
それに、ここであんたを殴ってもやったことは戻らない。
いい、よーく考えなさい。自分がやったことの愚かさと、これからのこと。
もし、私達の前に今と同じままで現れたら、今度は…殺すよ」
急に体を下ろされて、バランスを崩し私は尻餅をついた。
保田さんはそんな私に眼もくれずに、去っていった。
一人残された私。
しばらく起き上がることもせずに、そのままの体勢で考えた。
殺すよ。
その言葉が冗談で無いことくらいわかっている。
でも、私はどうしたらいいのかわからなかった。
- 367 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時16分40秒
自分が悪いことはわかっている。
じゃあ、殺さなければいいの?
答えはノーだ。
殺せない人間が、守ってもらうだけの人間があの人たちと一緒の世界にいられるわけがない。
じゃあ、どうすれば?
その答えは自分の中から返ってきた。
本当はね、答え、わかってるんでしょ?
飯田さん、ごっちん、そして、市井さん、保田さん。
この人たちと一緒にいたから、わかってたんだ。
でも、私は怖かったんだ。
あの人たちと同じような力がないから、それが出来ないんじゃないかって。
頭に響く声。これは私の声じゃなかった。
- 368 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時17分33秒
- あなたは一人じゃないんだよ。
もっとみんなに頼ってごらん。
ほら、肩の力を抜いて。
私も、あなたと一緒にいたいんだから。
やさしく包んでくれる言葉。
それが誰かわかった。
そして、それが私に大事なことを思い出させた。
精霊術は…使えるんだろうか…
ゆっくり丁寧に構成を組む。
普段なら構成すら飛ばしてるようなものだが、初めての術を使うように慎重に組んだ。
ポッと私の顔が照らされた。
簡単な火の魔法。
使えた。
大丈夫だ…
じゃあ、さっきのはなぜ?
もう一度、今度はさっきの術を組んで見る。
雷の魔法。
これも、ゆっくり、慎重に。
でも、すぐにわかった。
- 369 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時18分36秒
- 構成が組めない。
手は動かしているのだけど、組めていない。
それは何度やっても同じことで、それは他の術も同じで…
小一時間ほど試したが、結局火の魔法以外は使えないという結論に達した。
「駄目か…みんなに愛想つかされちゃったか…
でも、きっと、みんな戻ってきてくれるよね」
スタールビーにそう囁いた。
ありがとう。火の精霊さん。そして、ごめんなさい。
私と一番付き合いの長いあなた。
これからもよろしく…
<10−1 Rika's view 終>
- 370 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時19分29秒
- <10−2 Kaori's view>
ここはどこ?
暗い。真っ暗な世界。
上下もわからない世界に私は立っていた。
立っている感覚はあるから、きっと地面はあるに違いない。
それに、自分の体ははっきり見えた。
「汝は我との契りを破るつもりか?」
急に目の前が光り、声が聞こえた。
まぶしい光に思わず顔を手で覆う。
「答えよ。汝は我との契りを破るつもりか?」
再度同じ問いかけが光から聞こえた。
契り?
全く覚えの無い言葉だった。
- 371 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月16日(土)01時20分10秒
- 「契りって何さ?」
「汝、我との契りを忘れたというのか?」
「忘れたも何も、そんなもの知らない。第一、あなた誰よ?」
お互い淡々とした声で話していた。
妙な落ち着きがあった。
光はしばらく沈黙していた。
「お主…今起ころうとしている戦争のことを知らぬというのか?」
「戦争?戦争のことは知ってるわよ。だから、それを止めようとしてるんじゃないの。
それで、なっちに会おうとしてるんじゃない」
再び光は沈黙した。
こんどはさっきよりずっと、ずっと長く。
その時ふと、光の中心に人影があることに気づいた。
人影だ。人の形をしていた。
逆光で顔は見えなかったが、なぜか男だとわかった。
「汝のことをしばし見守らせてもらうぞ。よいか、もしそなたが我の思っているとおりのことをやったのならば、その命、無きものと思え」
その言葉と共に光は消えた。
そして…
次に私の目に映ったのは真っ白な天井だった。
- 372 名前:takatomo 投稿日:2003年08月16日(土)01時22分34秒
- >>363-371 更新終了。
更新量少ないのにレス流し使うと、後で読む時すごく読みにくいですね。
以後はやりません。
- 373 名前:takatomo 投稿日:2003年08月16日(土)01時28分14秒
- >>363
レスありがとうございます。
かおなちに関してはほとんど書いたことがないので、あんな感じでよかったのかすごく心配でしたが、そう言っていただけるとうれしいです。
企画ばっかり参加して自スレ更新遅いのもなんか嫌なので、こっちの方もちゃんと書いていきますので、お付き合いいただけるとうれしいです。
- 374 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時51分21秒
- そして、次に飛び込んできたのは、小川の顔。
その顔は涙を浮かべていた。
手を動かそうとすると、抵抗がある。
視界の隅で捕らえた私の右手には、包帯がグルグルと巻かれていた。
「飯田さんが気がつきました」
小川が言った。
扉の開く音がして、次に足音が聞こえてきた。
小川に手を貸してもらい起き上がる。
私は全身包帯で巻かれていた
ところどころ血がにじんで赤くなっていた。
目の前には後藤、藤本…保田はいない。もちろん石川はいない。
- 375 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時51分56秒
「気分はどうですか?」
「うん、大丈夫。ちょっとぼーっとしてるだけ」
「多分出血のせいでしょうね。横になられていたほうがいいですよ」
「私はどれくらい寝てた?」
「4時間くらいです」
ひどく淡々としたやりとりだった。
さっきの夢の続きみたいな。
相手が藤本だったのが余計にそうさせたのかもしれない。
「あの、何か持ってきましょうか?」
部屋の雰囲気を小川は悟ったみたい。
この子は頭がいい。凄く気が利く子。
「うん。冷たい飲み物持ってきてもらえるかな?」
それがわかった上で、私はにっこり笑って言った。
小川は扉をゆっくりと閉め、出て行った。
- 376 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時52分43秒
- 「で、石川は?」
それを確認して私は話を切り出した。
「帰ってきてません。保田さんが少し前に出て行きましたから、探しに行ってると思います」
「あんなやつ、もう帰ってこなくていいよ」
藤本の言葉にかぶさるように後藤が声を荒げた。
久しぶり…違うか。まだ数日しか経ってないんだね。
後藤が記憶を取り戻してから、やっぱり今までと雰囲気は違ってたから、こうして昔みたいに拗ねる後藤を見るのが懐かしかった。
いや、数日前までのことが懐かしいと思えるほど、いろいろなことがありすぎたのかもしれない。
- 377 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時53分28秒
- 「後藤…」
「だって、あんなこと…何のためにわざわざ我慢したと思ってるのさ…」
そこで会話が止まった。
しばらくの沈黙の後、小川が入ってきた。
いいタイミング…よくわかってる。
彼女からコップを受け取ると、一気に飲み干した。
冷たい果実酒だった。
その赤い色は、飲んだ瞬間私の血に変わっていくような錯覚を覚えさせた。
今日はそれでみんな部屋に戻った。
私は大丈夫と言ったが、小川だけは私の付き添いという形で部屋に残った。
でも、私は彼女に話しかけることもなく、すぐに眠ってしまった。
今までの疲労と徹夜の行軍、そして出血が私の体力を奪っていたのだろう。
まるで魔法を掛けられたように眠ってしまった。
- 378 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時54分11秒
- それから2日間は何事もなく過ぎて行った。
後藤は国のことに追われていたし、保田もそれを手伝っていた。
石川はまだ戻ってきていなかったし、藤本もふらっと部屋に来てはすぐどこかに行った。
私もあれだけの出血をしながら、全く傷を負っていないという状態で、やっぱりあの光のせいかと考えたが、答えはわからないまま。
かといってやっぱり出血の影響は大きく、ベットで横になっているという生活が続いた。
小川もそんな私に付き添って身の回りのことをしてくれた。
でも、そんな生活に変化があったのは3日目だった。
その日は寝覚めた時から城全体がざわついていた。
私が小川に様子を伺わせようとする前に、藤本がすぐにやってきて、状況を説明してくれた。
南の砦がミニモニ公国に包囲されているようです。
その言葉だけで十分だった。
- 379 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時54分59秒
常にプッチモニ公国とミニモニ公国との間に小さな争いを繰り返してきた。
山岳地帯で十分な作物の育たない国と、広い平原と豊かな水源を持つ国が、隣り合っているのだ。
戦争が起こらない方がおかしい。
しかし、モーニング公国がその際にプッチモニ公国側につくことですぐに治めてきた。
あくまで侵略するのはミニモニ公国と決まっていたからだ。
だが、今回ばかりは話が違ったようだ。
藤本の情報によると、昨夜、急に国境付近にミニモニ公国の軍が現れたらしい。
それもかなりの大軍が。
砦には市井もいたらしいんだけど、いかんせん相手が多すぎたようだ。
なにより、モーニング公国とカントリー公国の戦争が始まろうとしているため、砦に駐在していたモーニング公国軍はいなかったらしい。
- 380 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時55分43秒
- これはすごく妙なことだ。
タイミングが良すぎやしないか?
この間のミニモニ公国の男が森に現れたのもそうだ。
でも、今はそんなことを確かめてる場合じゃない。
動かないと…
でも、今の私は動けない…
「わかってます。私だけ、ごっちんについていってもいいですか?」
藤本がこんな風に意見を言うのは初めて聞くかもしれない。
それに、いつもと違ってすごく生き生きとして見えた。
私はもちろんOKを出した。
きっと保田も後藤と共に動くだろう。
今回ばかりは私と小川はお留守番だった。
仕方が無い。
動けるようになったらすぐに駆けつけるから。
その言葉だけ最後に伝えた。
- 381 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月18日(月)00時56分47秒
- そしてその夕方。
プッチモニ公国の大部隊が南へと進路をとった。
後藤、保田、藤本、そしてアヤカの4人は少数の部隊と昼ごろ、先行したらしい。
窓越しに石川の姿をその中に確認でき、ほっと一安心した。
こうして再び大陸中を戦火が包むこととなった。
前の戦争から5年。
あまりに短い平和は、復興という言葉を耳にしなくなってからすぐに終わりを告げた。
<10−2 Kaori's view 終>
- 382 名前:takatomo 投稿日:2003年08月18日(月)01時00分33秒
- >>374-381
更新終了。
ようやく一番の山場までこれた…
書きたかったところなので、更新がちょっと早くなってますが、
ちょっと私用がありますので、次回更新後はちょっと時間を空けさせていただくことになるかと思います。
感想などいただけるとうれしく思います。
- 383 名前:紅屋 投稿日:2003年08月19日(火)22時03分58秒
- ふぃー、やっと来れました。
話がむっちゃ進んでて驚きです。量が多くて楽しかったですけどね。
お疲れ様です。
- 384 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時29分19秒
- <10−3 Mari's view>
13年前のことだった……
父の付き添いで行ったプッチモニ公国。
父が会談中、私はそっと部屋を抜け出し、彼女にあったんだ。
プッチモニ公国の城の庭園にある噴水。
そこの前で本を読んでた。
私が近づくとその子は気づき、顔を上げた。
じっと私を顔を見ていたかと思うと、ニコッと微笑んだ。
かわいい笑顔。
私も釣られてニコッと笑う。
それから私達は数時間の間一緒に遊んでいた。
楽しかった。
遊びそのものより、彼女といることが楽しかった。
今思えばそれは恋だったのかもしれない。
彼女からこぼれる笑顔が愛しくて、今でも瞼を閉じると思い浮かぶ。
- 385 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時30分53秒
- でも、私達はそれから二度と会うことは無かった。
お互いの素性。
後からわかったそれが、私達を永遠に引き裂くこととなった。
プッチモニ公国王女、後藤真希。
ミニモニ公国王女、矢口真里。
この愛しい思い出を誰にも打ち明けることができずに過ごした13年。
私は王になったら絶対ごっちんに会おうと決めていた。
彼女となら、お互い手を取り合って歩んでいけると思ってた。
だが、私は現実を知らな過ぎただけだった……
- 386 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時32分19秒
- 長方形の机の両脇に並べられた椅子。
そこに座る人。
私は一人だけ二つの辺を繋ぐ短い辺に座っていた。
王として。
ミニモニ公国の王として、肘掛けと立派な装飾のついた椅子に座っていた。
軍事会議の真っ最中。
議題は、私の思いと裏腹に…プッチモニ公国への進軍だった。
「どうして攻めへんのですか?」
モーニング公国西方の訛りの声した。
声は私に向けられたもの。
ちっちゃな体…といっても私も小さいのだが、お団子結びにした髪。
まん丸の顔に細い目。
誰が見てもかわいいといえる風貌の女の子、加護亜依は大声で私に言った。
- 387 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時34分33秒
- 「ちょっと待ちなさい。今は…時じゃない…」
弱々しく答える。
私の方が圧倒的に身分は高い。
私はこの国の王だ。
だが、王になったばかりの私と、数年間父の指令で軍を動かしてきた加護。
軍事会議での発言力は雲泥の差だった。
「今はって、じゃあいつならええんですか?
モーニング公国の使者の話は聞いてるはずや。あいつらは北の警護兵を動かしたらしいやないですか?」
「だから…だからおかしいって言ってるんじゃない。
どうしてわざわざ私達にそんなことを教えてくるの?それこそ罠かもしれないでしょ?」
机をバンと叩いた。
部屋にいる全員がビクッとしたが、加護だけは平然としたままだった。
- 388 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時36分24秒
- 「またそーやって逃げるんですか?」
「…」
「1年前、あなたが王になってから、私らは一回も動いてへん」
「へ…平和でいいんじゃないの!」
「平和?あなたはどこを見てそんなことをゆーてるんですか?
この国は、穀物が育たん大地や…いつも国民は食糧不足に喘いでる。
そりゃあなたはお城でぬくぬくおいしい食事をたらふく食ってるだけやから平和かもしれん。
でもな、城の外では食べ物の無い人なんて山ほどおる。
そこらへんの木の枝を食って生き延びようとしてる人らもおるんや。
がりがりにやせた子ども、その子を育てようともっとやせた親。
それならまだええ、自分の子どもを食料にしてる親もいるんやで!
そのどこが平和や?地獄やないか!北のええ土地を奪って穀物とらんと私らは生きていかれへん。
なのに、なんであなたはそれを阻止しようとするんや!」
私は反論できなかった。
黙って椅子に座りなおす。
加護の言葉が頭を回って回って、何度も回って…
でも、その中に無邪気なごっちんの顔もあって…
- 389 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時37分03秒
- 戦争はしたくない。
でもこのままじゃ生きていけない。
ごっちんなら…
そう思ってこの1年、使者を何度か出してきた。
だが、ごっちんからの返事はノー。
王同士が会談することは適わず、大臣同士の会談に代わる。
私が行くといっても、向こうが王を出さないのにこちらの王である私が出むくことは出来ない。
そんなことをしたなら、ミニモニ公国の立場がプッチモニ公国よりも下になってしまう。
ごっちんならわかってくれる。
北と南が手を取り合って発展していける。
そう思っていたのに…
過去の思い出にすがっているのは私だけなの?
ごっちんにとって私はやっぱり敵なの?
二つの相反する思いを胸に、私は前者を信じて今までやってきた。
でも、それももう無理かもしれない。
- 390 名前:10 Jihad 投稿日:2003年08月20日(水)21時37分55秒
「わかった…軍を出すことを認める。総指揮は加護、あんたがとりなさい。
私はここに残る。いい、あんたは私の代わりに軍を指揮するんだからね。
そこのところをはき違えないように。敵にも敬意をつくして事にあたりなさい」
それが私にできる王としての最大のことだった。
「あなたの代わりにね…」と苦笑交じりに加護が言ったのが聞こえたが無視した。
後は任せたとだけ言い残し、私は部屋に戻った。
その日、夜のうちに加護の指揮で軍が進むことになる。
最低限の警護兵だけを残し、他は全部連れて行ったと後から聞いた。
戦争というものが始まる。
私の名の下に、私の知らないところで始まろうとしている。
ごっちんはどう思うんだろうか?
<10−3 Mari's view 終>
- 391 名前:takatomo 投稿日:2003年08月20日(水)21時40分04秒
- >>384-390 10−3 Mari's view
更新終了
前にお知らせしたとおり、次回更新は9月に入ってからになると思います。
感想などよろしくお願いします。
- 392 名前:takatomo 投稿日:2003年08月20日(水)21時43分01秒
- >>384
レスありがとうございます。
書きたいところだったので更新が少し早くなってました。
次回は少し空きますが、できれば今のペースくらい守っていきたいのですが…
- 393 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月04日(木)00時50分09秒
- <11 Master of time>
<11−1 Rika's view>
私たちが城を出てから丸1日半。
翌日の夜中に、私達は砦の見えるところまでやってきた。
砦の光らしいものの周りに無数の光。
信じられないほどの数のそれが、砦がもう長くないことを物語っていた。
市井さんは大丈夫だろうか?
中で一人戦っているであろう彼女を思う。
もし、市井さんがいなければ、私達が到着するまでもつことは無かっただろう。
それほどまでの兵力の差があった。
砦に残っているのは数百人。
敵の軍勢はその倍はゆうに超えているという。
だから、先行している私達は、ここで後ろの部隊が追いつくのを待っている。
敵に気づかれないように、十分距離をとって、岩陰で。
更に煙が上がらないように精霊術で明かりを灯していた。
私が火の魔法だけでも使える事が幸いした。
その明かりを囲むように、ごっちん、保田さん、アヤカさん。
美貴は偵察に行っていた。
保田さんとごっちんは、これからのことをいろいろ話していたが、私はその会話に加わることは無かった。
これは、ここにくるまでずっと同じだった。
- 394 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月04日(木)00時51分11秒
- あの日、城を飛び出してからの3日間。
何度となく城の前までいったが、そこからの一歩が踏み出せずに宿に帰るということを繰り返していた私。
たまたま、3日目に城の前まで行ったとき、美貴が出てきて、声をかけてくれた。
状況を手早く説明した後、「今はあなたの力が必要なの」って言ってくれた。
簡単に用意を済ませ、ごっちん達が出てくるのを待って、声をかけた。
「私も、連れて行ってください」
ごっちんはじっと私の顔を見た。
その後ろで心配そうに様子をうかがう保田さん。
「勝手にして…今は人手が欲しいんだから…」
すごく不器用な言い方だった。
私の返事を聞かないまま、ごっちんは馬を走らせる。
それを追う保田さんと目が合った。
私は馬に飛び乗って、その後を追ってきた。
結局、そうしてついて来たものの、ごっちんが私のことを本当に許してくれているとは思えないわけで。
でも、これ以上言い訳しても、口で言っても仕方が無い。
行動で示すしか無い。
私がかわったことを認めてもらわないと…
- 395 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月04日(木)00時52分07秒
- 「軽く食事でも取りませんか?」
アヤカさんがそう言って、荷物からパンと水を取り出した。
移動中、軽く食事は取っていたが、お腹が一杯であるわけもなく、これからのことを考えると食べておくべきだった。
ところが、それを制したのは、いつの間にか戻ってきていた美貴だった。
パンを口にしたとき、私の手からパンをすっと抜いた。
そうしておもむろに自分の口に入れ、目を閉じたまま2,3度ゆっくり噛んだ。
私はじっと彼女の動きを見ていた。
「やっぱりね…このパンにはクイが入ってる…」
美貴はパンを持つ手をアヤカさんの方に向けて言った。
「な、何を言ってるんですか?どうして私がそんなことを…」
「あんた、私の目を欺けると思ってるの?飯田さんに話を聞いてから、あなたをそれとなく監視していました。
人目を忍んで庭から鳥を飛ばしていたのを知っていますよ?
そして、決定的なのは、この場所にミニモニ公国の部隊の一部が向かってるのを見つけたからです」
私は美貴の言葉の意味がよくわからなかった。
ただ、一つわかったことは、私達がアヤカさんに殺されようとしていたことだけだった。
- 396 名前:takatomo 投稿日:2003年09月04日(木)00時52分37秒
- >>393-395
少しだけですが更新
- 397 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月08日(月)00時52分11秒
- 「何とかいったらどうなの?」
何の反応もせずに立っているアヤカさんに美貴が問う。
ごっちんと保田さんは信じられないという表情をしながらも、取り乱すそぶりはなかった。
「あなたの存在は誤算でしたね…あなたさえいなければ、後藤も殺せていた…
全く…飯田といい、どうしてこうも計算が狂うんだ…」
否定の言葉は一切ない。突きつけられた現実に、私は言葉を失った。
「あんた、何が目的なの?」
保田さんの声。
彼女はそれに答えることなく、身を翻した。
それを追おうとするごっちんと美貴。
だが、すぐに足止めをくらうこととなる。
彼女が逃げた方向には、ミニモニ公国の一部隊が現れた。
- 398 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月08日(月)00時52分44秒
- 「こんなん少ない人数でなんて…舐められたもんだね」
ゆうに20人は超えているであろう。
だが、ごっちんはジュエル・ウエポンをゆっくり構えた
「ミキティ、私が道を開けるからついて来て。圭ちゃん…梨華ちゃん、残りは頼んだよ」
私達の返事を待たずにごっちんは敵の中に突っ込んでいった。
梨華ちゃんと言う声は小声だったが、それでもうれしかった。
ごっちんが走る先には、あっという間に一本の道が出来た。
速度を落とすことなく敵を切っては進んでいく。
ごっちんが敵の中を抜けた頃にはすでに半数まで減っていた。
森の中に消えていく二人。
残った敵は必然的に私達に狙いを絞った。
- 399 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月08日(月)00時53分31秒
- 「石川、あんたは下がってな」
「嫌です!」
ごっちんに頼まれたんだから。
その思いが私を後押しした。
「…なら、援護お願い。無茶はしちゃ駄目よ」
しばらく考えた後の保田さんの答え。
直後に敵が一斉に向かってきた。
私の身長ほどの大きな斧。
それを両手で振り回し、甲冑ごとなぎ払う。
その豪快さとは裏腹に、敵の攻撃を流れるように避けていく。
まるで舞いをみているよう。
後ろの方から邪魔にならない程度に精霊術を放っていく。
ものの数分で敵は全滅した。
そして、ごっちん達が帰ってきたのもその時だった。
「逃げられた…この辺の地理をよく知ってるみたいだね…」
悔しさを露わにしているごっちん。
この場所は離れたほうがいいという美貴の言葉もあり、少し離れた位置に移動することとなった。
その夜は交代で見張りについた。
初めは私と美貴だった。
- 400 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月08日(月)00時54分23秒
- 虫の鳴く音しか聞こえない静寂の中、私達は小さな光を灯して、初めてゆっくり話した。
「飯田さんは…大丈夫なの?」
「はい。ただ、あなたのことを心配してました」
「そっか…」
「何度も城の前まで来ていましたよね?」
「え…知ってたの?」
「あなたの動きも把握していましたから。それに、ごっちんも大丈夫ですよ。
あなたが帰ってきてくれて喜んでいるはずです」
ごっちんという単語を口に出すたびに、美貴の顔がほころぶのを私は知っている。
だから私はこう言ってみた。
「ごっちんのことは美貴が一番良く知ってるね?」
「そうですか…そんなこと…ないです」
予想したのとは違う反応。
寂しそうな表情だった。
理由はわからないが、これ以上その話題は避けた。
- 401 名前:11 Master of time 投稿日:2003年09月08日(月)00時55分17秒
- 「あのさ、石川さんってやめない?」
「どうしてですか?」
「なんか堅苦しいって言うかさ。梨華ちゃんでいいよ」
「わかりました。そう呼ばせていただきます」
ごっちんがこの前言っていたことがようやくわかった。
敬語までやめて欲しかったが仕方ない。
主従を重んじている彼女のことだから、それだけは絶対やめてくれないと思う。
そうして朝を迎えることとなる。
後続の部隊も合流し、私達は再度砦の近くまで進軍した。
だが、そこで私達が見たのは、砦に掲げられているミニモニ公国のオレンジと白の旗だった。
<11−1 Rika's view 終>
- 402 名前:takatomo 投稿日:2003年09月08日(月)00時58分19秒
- >>397-401 更新終了
11 Master of time 邦題は「時を統べし者」
飯田編はこの世界のバックグラウンドと謎解き編。
今までとちょっと勝手が違うことになりそうです
それと、そろそろ外伝いれる予定。
11章が終わったくらいかな。
- 403 名前:紅屋 投稿日:2003/09/10(水) 21:49
- まさかアヤカが・・・。驚きです。
ミニモニ公国とのこれからの関係が気になります。
外伝の方も楽しみに待ってます。
- 404 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/11(木) 23:22
- <11−2 Kaori's view>
みんなはもう着いた頃だろうか?
あれから2日が経っていたが、変わらず私はベッドの上。
小川が持ってきてくれた本を読みふけっては時間をつぶす日々だった。
国が違うと本の内容も大きく変わり、新しい知識の波が私を飽きさせなかった。
体調もほぼ元通りだが、小川が心配することもあり、私はまだ安静。
こんなに余裕で要られるのも、市井や保田の力を知っているからに他ならない。
彼女たちがいるんだから、少々ゆっくりしていてもかまわないって思いが私の中に確かにあった。
それに…なぜかここを動いてはいけないような、変な義務感があった。
「飯田圭織さんですね?」
不意に声をかけられたのは、日も落ちつつある夕暮れ時。
聞き覚えの無い声に、緊張が走った。
いつの間に部屋に入ってきたのだろう。
気づけば目の前に人が立っていた。
肩までの髪と整った顔。口元にある小さなほくろが印象的だった。
明らかに私よりずいぶんと幼い。小川と同じくらいだろうか?
どこかおどおどした様子と相反するような威圧感があった。
- 405 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/11(木) 23:24
- 「誰?」
身を起こして私は尋ねた。
「私は、ある方の使いであなたに事実を教えるためにやってきました」
「ある方?」
「はい。時を統べしものといった方がわかりやすいでしょうか?」
時を統べしもの…
いつだったかな。城の奥の書庫で見た古い本に書いてあった覚えがある。
サーガを伝える人々のことである。
サーガといえば、本来は詩人が口で伝えてきたものだった。
ヒロイックストーリーや恋愛ものまで、数え切れないサーガが伝えられている。
また、現在では紙の普及によって、文字として記録されることで膨大な量のそれらは伝えられている。
しかし、彼らのサーガは通常のものとは全く異なるものだ。
セイクリッドサーガ。
彼らのサーガは一般のサーガに比べてそう呼ばれる。
何が違うのか。
その本はその原理の解明に全力を注いでいた覚えがある。
- 406 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/11(木) 23:25
- 一番の違いは、彼らのサーガは言葉でしか存在しないものだ。
記録することはできない。文字にすると、それは消えてしまうのだった。
文自体に何かしらの魔法がかけられているようで、文字にすることでそれらが発動するしくみではないかとその本には書いていた。
でも、この際そんなことはどうでもよかった。
問題なのは、セイクリッドサーガはただの物語ではなく、この世の叡智を示すものだからだ。
なぜ私のもとに?
彼らは人の前に現れるのはまれなことである。
その存在はサーガ上の神とされていることもあり、半ば伝説の存在だった。
「私も時を統べしものです。一応見習いですので、こうして使いという役目を担っているんですが」
「事実って何なの?」
「あなたに話しておかなければいけないことがあります。私が探している人物も関係しているのですが、そのせいで世界が大変なことになっています」
「大変なこと?」
不意にこの前の光を思い出した。
契りということも関係があるんだろうか?
- 407 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/11(木) 23:26
- そもそも、最近立て続けに世界が動きすぎているような気がする。
まるで大きな流れが生じて、それに押し流されているような。
自分の手の届かないところで勝手に進んでしまっている気がする。
「ここからのことは、時が来るまで誰にも話さないと約束してください」
私はコクンと頷いた。
それとともに急に体が軽くなったと思ったら、真っ白な世界に私は立っていた。
「場所を移動しました。ここなら誰も邪魔が入りません」
女の子はそう言ってから全てを語り始めた。
- 408 名前:takatomo 投稿日:2003/09/11(木) 23:28
- >>404-407 短いですが更新終了
情報量が多くなりつつ、説明文だらけ。
もうしばらくこんな感じで続きそうです。
今まで世界観の設定説明をサボってきたツケがここに…
- 409 名前:takatomo 投稿日:2003/09/11(木) 23:31
- >>403
ありがとうござます。
これからやたらと相関関係がごちゃごちゃになる模様。
ちゃんと一人一人のフォローはやっていきたいです。
紅屋さんも更新がんばってください。
- 410 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/14(日) 00:59
-
「どうしてこの世界がたった一つの大陸からなっているかご存知ですか?」
首を横に振った。
それは当たり前すぎて誰もが考えないことだった。
どうして太陽が光っているのか。どうして水は冷たいのか。
そんなことは当たり前の事実であり、誰もそれに疑問を持とうとしない。
「元々は、この世界にはいくつもの大陸が存在していました。
もちろん人間も生活していました。でも、ちゃんとした船と呼べるものが存在していませんでしたから、お互いの交流はほとんど無かったと聞いています。1000年前までは」
「1000年前って何があったのさ?」
「1000年前、闇が世界を覆いました。私たちはそれを『輝ける闇』と呼んでいます。
それは、一瞬のうちに世界を覆い、多くの闇なるものを生み出しました。
私たちが異変に気づき、それを阻止しようとした頃には、もういくつもの大陸が消滅した後でした」
スケールの違いすぎる話を彼女は朗々と話す。
まさしく夢物語。セイクリッドサーガと呼ばれるものが何であるかを少しわかった気がした。
- 411 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/14(日) 01:00
- 「輝ける闇の力は、既に人間がどうこうできるレベルの問題ではありませんでした。
私たちが気づくのがもう数日遅ければ、この世界は滅んでいたでしょう。
実際、私たちもそれを滅ぼすことはできませんでした。
何とか今の大陸に封じ込めるだけ。しかもその間に他の大陸はすべて消滅させられてしまいました」
「それで?今起こってる大変なことっていうのはそれに関係しているの?」
「さすがに察しがいい。やはりあなたに話してよかった。その通りです。
だとすると、モーニング公国がどうして他国に攻めてはならないか、ご理解いただけますか?」
「それにも『輝ける闇』が関与しているっていうの?」
私の答えに満足そうに頷いた。
彼女が手をかざすと、目の前にいきなり世界地図が浮かび上がった。
「ここがモーニング公国の領地です」
地図の中に一本の青い線が引かれていく。
北に面するカントリー公国に沿って、そのままプッチモニ公国の境へと。
そこから川に沿うようにずっと南へ。
プッチモニ公国南部の半島部に位置するミニモニ公国の手前で東に折れ、後は海岸沿いに線が引かれ、元の位置でつながった。
改めてみると、奇妙なくらいに四角形な領地だ。
- 412 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/14(日) 01:01
-
「この中央に私達は封印しました」
丁度なっちのいる城がある部分に赤いバツがつけられた。
「これが中心となるように、私達は4つの封印を施しています」
次に4本の赤い線が次々に引かれた。
対角線に2本。向かい合う辺の真ん中同士を結ぶ2本。
それらはすべてバツ印のところで交わっていた。
「もし、モーニング公国の領土が大きくなるとどうなるでしょうか?」
カントリー公国の方へと青い線が動いていく。
それと共に赤い線もゆがみ始め、交点がバラバラになっていく。
ここまでくれば理解するのは簡単だった。
- 413 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/14(日) 01:02
-
「お分かりのようですね。それがモーニング公国が領土を広げてはならない理由です。
そして、それを守るために王となる人間には呪いがかけてあると聞いています」
呪い。呪い…
戦争をしてはいけない呪い。
そっか、そういうことなんだね……
なっち…あなたは知ってたんだね…
だから…だからこんなことになっちゃったんだね…
うっすらと涙がこみ上げてきた。
まだ信じたくは無かった。
確かめるまで口にしたくなかった。
「もう、わかった。もういい…全部繋がったから…」
頭を落とした私はそれだけ言った。
両手は知らずのうちに強く握り締められていたようで、手のひらは汗と血が混じっていた。
- 414 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/14(日) 01:03
- 「最後に一つだけ…ここにもうすぐ軍隊が攻めてきます。
私はもう行かなくてはいけませんのでこれ以上力を貸す事は出来ませんが、ご無事を祈っております」
軍隊という言葉は私を一瞬にして現実に引き戻した。
ここにくるってことは後藤や保田はどうなったの?
いや、落ち着け…よく考えろ。
藤本は言っていた。
山は少ないものの、森は多いこのプッチモニ公国では、街道以外の道は馬にとっては走りやすいものではない。
街道は後藤たちが通っている。
後藤たちと出くわしたなら、もっと時間はかかるはず。
逆にそれを回避して森の中を通ったなら、2日じゃ足りないはず。
ふと気づくと私は一人部屋に立っていた。
さっきまでのことが夢であるという考えは無かった。
攻め込まれるということも真実に違いない。
- 415 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/14(日) 01:04
-
「小川」
大声で呼ぶと、ほどなく小川が走ってきた。
「みんなに伝えて。敵が攻めてくる。最少人数しか残っていないのはわかってるけど、町の人はちゃんと避難させてと。
それと、残ってる兵の隊長を集めて。後藤から指揮は私と伝えられてるはずだから」
「わかりました」
大きく頷いて小川は出ていった。
大声を出したせいか、少し頭がクラッときた。
やはりまだ自分が思ってるほど完調じゃなさそうだ。
いつも通り矢面に立って敵を迎えることは出来なそう。
その分、みんなに協力してもらわないと…
<11−2 Kaori's view 終 >
- 416 名前:takatomo 投稿日:2003/09/14(日) 01:08
- >>410-415 更新終了
怒涛の謎解き編+設定説明編終了(w
めちゃめちゃ読みにくい文章になってしまいました…
少量で頻繁更新に気づけばなってます。
週1で多めにとどっちがいいのかな…
- 417 名前:川o・-・)ノ 投稿日:2003/09/16(火) 15:51
- 作者さんの書きやすい方で
読むほうとしては完結さえしていただけたら文句無しです
- 418 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:17
- <11−3 Ayaka's view>
私は一つ大きく息を吐いた。
私の5年間にも及ぶ演技の集大成がここにあるといっても過言ではない。
私はこの一瞬のために生きてきた。
そう思えるようになったのは、あの加護とかいう子のおかげだ。
コンコン
ドアをノックする。
ただそれだけの行為に、私の手は汗ばんでいた。
懐にしまった袋を服の上から触る。
間違いなく持っている。
あとは…
「誰?」
扉の向こうから声が聞こえる。
私のもう一人の恩人になるのだろうか。
『プッチモニ公国のアヤカ』の恩人である人物の声だった。
- 419 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:18
- 「私です」
「え?何であんたがここに?」
驚きの声と共に扉が開いた。
当然だ。
外はミニモニ公国に包囲されている。
その状態でここにいるはずの私が、どうして砦の中にいるのか。
疑問を持って当然。
そう、私は砦の中にいる。
目の前にいるのは他でも無い市井紗耶香。
改めて事実を確認する。
心臓はどんどん高鳴り始めた。
「援軍はもうすぐそこで待機しています。私はそれを伝えるために、一人で包囲を抜けてここに来たんです」
陳腐だけれど、もっともな理由を話す。
- 420 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:18
- 「そう、圭ちゃん達がそこまで来てるんだ。あー情け無いなー
こんな格好の悪い事態になって助けてもらうなんて」
私のことを露とも疑っていない彼女の顔は、そう言いながらもほころんでいた。
これが、あのダイバーの市井紗耶香なのか?
7年前の戦争でミニモニ公国とモーニング公国にはさまれた小さな国が、占領されることなく持ちこたえることができたのは彼らの働きだった。
部隊としての強さは当時で世界一だったに違いない。
その実数は50とも100とも言われている。
いずれにせよ、部隊というには余りにも少人数。
実際に戦闘を行う際には全員そろうことすらなかった。
それでも、1000を超えるミニモニ公国の部隊と互角に渡り合っていた。
そのダイバーの、しかも隊長である市井。
平和というものは歴戦の戦士をも馬鹿にさせるのか。
敵を前にして何も感じないほど馬鹿になってしまったのか?
ずっと緊張してきた自分が馬鹿みたいじゃないか?
もういい、さっさと幕を下ろそう。5年間続けてきたくだらないお芝居に。
- 421 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:19
-
私はそのまま部屋に招かれる。
丁度おあつらえ向きに氷を浮かべたコップがテーブルの上に置かれていた。
市井の目を盗み、懐から取り出したものをその中へ入れた。
後は見届け、そして持っていくだけ。
5年に及ぶ私の使命はそれで終わる。
長かった。
7年前、戦争が始まった頃だろうか。
それまで、私はずっとさげすまれてきた。
ミニモニ公国の人間は、小人族の血を濃く引いている。
つまり、そこで私の存在、背の高い人間というものは、ミニモニ公国の血が薄いという証であった。
そして、国の事情がある。
やせた土地の広がるこの国では、まさしく人の心までも痩せていた。
周りの国に対して強い劣等感をもつこの国では、同じ種族で無いという理由だけで十分だった。
背が高くなり始めると共に周りの態度が一変した。
私はひどい迫害を受け、何度も手首に刃を当てようとした。
- 422 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:20
- だが、すぐに戦争が始まり、それは回避される。
食料の支給といったことでは変わらず、迫害を受けていたが、それでも以前に比べると大したものではなかった。
そして、戦争が終わると同時に転機が訪れた。
いきなり私の家に武器を持った人間が押し入ってきた。
私はてっきり殺されると思っていた。
彼らは何の説明もなしに私を馬車に乗せた。
揺れる馬車の上で、どんなふうに殺されるのか考えていた記憶がある。
でも、私が下ろされたのは城だった。
そこで私は加護亜依という少女に出会ったのだった。
市井紗耶香との会話を続けながら、彼女の手がコップへと伸びる瞬間を見守っていた。
いつまでたっても動こうとしない彼女の手に苛立ちを覚えていた。
コップの氷はすでに溶けており、壁にびっしりと水滴がついていた。
- 423 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:21
- 加護亜依という少女は、その愛らしい容姿とは裏腹に、軍の指揮官というポジションについていた。
そう言えば、10歳にも満たない子どもの軍師がいるという噂を耳にした覚えがないことはなかった。
「あんたにはな、あんたにしかできんことをやってもらおう思てんねん」
変な話し方をする子だという印象だった。
後にこれがモーニング公国西方の訛りであることを知った。
それから半年間、私は様々な訓練を受けた。
武術、諜報、そして毒物。
スパイとして必要な能力は全てこの時に培われたものだ。
そして、私はプッチモニ公国へと送られた。
命令があるまで、スパイとしての行動は行わなくていい。
何年もかけて、内部深くまで信頼を得ること。
ミニモニ公国のことは考えずに、プッチモニ公国の人間として行動しろ。
加護という子は、私にそれだけ言った。
こうして私は3年かけて市井の元までたどり着いた。
それからの2年間、市井とともに後藤真希を探すこととなり、更にその信頼は大きくなった。
- 424 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:22
- ついに市井の手が動いた。
コップをもち、口元に当てる。
私は必死で平常心を保っていた。
ゴクン
市井が水を飲み込む音が聞こえた。
体中から力が一気に抜けていくような感覚を覚えたが、ガタンという音で、一瞬にして全身が強張った。
「…何か入れた?」
真剣な目つきで私を見る。
その視線に私は思わず立ち上がり、後退した。
しらを切っていれば時間を稼げたかも知れなかった。
でも、市井の視線が私にその判断をさせなかった。
怖い。
2年間一緒にいて初めて市井から恐怖を感じた。
「おかしいと思ってた。ここにいることだってそう。飯田から聞いた森でのことだってそう。
でもあんただから信じてた。あんたはそんなことするわけないって思ってた」
「残念でしたね…あなたの見る目がなかったということです」
震える声で私は強がった。
今にもその場にへたりこんでしまいそうになるのを必死にこらえながら。
- 425 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:22
- 「許さない…」
それは奇跡だったに違いない。
市井の剣幕に耐え切れず、その場に尻餅をついた私。
その頭の上を市井の剣が通り過ぎた。
全く見えなかった。
いつ剣を抜いたのか。
いつ私の前まで来たのか。
続いて2撃目がくれば、私は確実に殺されていただろう。
しかし、2撃目は来なかった。
剣をもったまま、市井はその場に崩れた。
薬が完全に回ったようだ。
どうやらツキは私にあったようですね。
倒れた市井の頭を踏みつける。
反応は無かった。
それを確認して、私は部屋の窓から合図ののろしを炊いた。
そして、市井をそばにあったシーツでくるみ、担ぎ上げた。
私が出て行くのと入れ違うようにミニモニ公国の兵士が砦を攻めてきた。
市井紗耶香というリーダーを失った砦はいとも簡単に陥落した。
- 426 名前:11 Master of time 投稿日:2003/09/21(日) 02:23
- 砦にミニモニ公国の旗が掲げられた時、思わず涙がこぼれそうになった。
これで、私の5年の歳月を費やしてきたたった一人の任務は終わった。
そう思うと、やはり感慨深いものがあった。
市井の今後の処遇はわからない。
おそらく人質として十分活躍してもらうことになると思うが…
まぁそんなことは私には大して関係の無いことなのだが。
<11−3 Ayaka's view 終 >
- 427 名前:takatomo 投稿日:2003/09/21(日) 02:25
- >>418-426 11-3 Ayaka's view
更新終了です。
ちょっと忙しかったので更新遅くなりました。
感想などいただけるとうれしいです。
- 428 名前:takatomo 投稿日:2003/09/21(日) 02:27
- >>417
レスありがとうございます。
そうですね、おっしゃるとおりやりやすい方というか、そのとき気が向いた方でやることにします。
まだ半分ちょっとしかいっていませんが、完結だけは絶対させますので。
- 429 名前:takatomo 投稿日:2003/09/21(日) 02:28
- 流し
- 430 名前:Supplementary story2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/23(火) 21:58
- <Supplementary story2 Sword and sorcery>
<SS2−1 Mai's view>
白く染まった大地が、緑色を帯びてきたのは、ほんの少し前だった。
頬に当たる風が心地よく、この北国にもようやく春の到来を告げたころ。
私の守るべきこの土地は戦場と化した。
侵略という大きな力は、私達の国を一瞬で飲み込んだ。
もはや、私達に残っているものは城のみとなった。
しかし、それも時間の問題。
敵の大群がここへまもなく向かってくるという知らせは、とうに届いていた。
城の屋上から遠くを見る私。
まるで祖国の景色を目に焼き付けておくかのように。
澄んだ流れの川。頂を白く染めている山。
雪解けの後の春の息吹を感じる大地。
一つ一つじっくりと。
- 431 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/23(火) 21:59
- 「死ぬために戦場に行くんじゃない」
前の戦争で私の部隊の隊長が言った言葉。
彼女は、私達が逃げるための時間を稼ぐといって出て行ったきり帰ってこなかった。
戸田りんね。
彼女は確かそんな名前をしていた。
バカじゃない!
私は逃げて生き延びた後、何度も思った。
どうして一緒に逃げなかったの?
死ぬために戦場に行くなと言ったのはあなたでしょ?
でも、その質問に答えるべき人はもういないのだ。
その現実が、余計に私を苛立たせていた。
この話をしたのは、ほんの数人だった。
そして、そのうちの一人は、こんな事を言った。
「自分の意思を継いでくれるって思えるから、その人のために命を捨てられたんじゃないのかな?」
「私にはわかんないけどさ」と、すぐに付け加えたその人こそ、HPNの名を冠していた石川梨華。
今回の騒動の張本人だった。
モーニング公国に留学していた彼女が、ダンデライオンと反乱を企てており、現在姿を消している。
そんな話を一方的に突きつけられ、「はい。そーですか」と納得するほど、私達の国王は堕ちてはいなかった。
それが正しいことなのかはわからない。
けれども、私が会った時の彼女は、とてもそんなことができるとは思えなかった。
何かの間違いか、もしくは裏で何かがある。
その思いは私も国王も一緒だった。
- 432 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/23(火) 22:00
- バカじゃないの?
ふっとため息を一つ。
そんなバカも通ってしまうこの世の中だ。
本当に反乱が起こって変わってしまえばいいのに…
石川梨華、柴田あゆみ。
この2人が不在のまま、一方的な侵略は行われた。
2人がいれば。
そんな思いは持っていたが、実際に地平線の向こうに見えてきた大軍隊をみると、その思いもバカらしくなってきた。
「まい!」
後ろから声をかけられた。
「わかってる。最後のあがきでもしよっか」
冗談交じりに言葉を返した。
- 433 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/23(火) 22:02
- 「バカ!何言ってるの。死ぬために戦場に行くんじゃないでしょ?」
戸田りんねと同じこと言ってる。
それもそうだ。
あさみもあの時同じ隊にいたんだからね。
死ぬために戦場に行くんじゃない。
なんて、今となっては現実味かけらさえ無い。
だとしたら、自分が死ぬ意味くらいみつけたいな。
そうだ、石川梨華、あんたが私の意思を継いでくれないのかな?
こんなバカみたいな世の中、私の変わりに変えてくれないかな?
<SS2−1 Mai's view 終>
- 434 名前:Supplementary story2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/24(水) 00:43
-
<SS2−2 Aya's view>
「へーおもしろいじゃん」
私は目の前に立った二人に目をやった。
城の攻略が予想以上に長引いて、わざわざ私、松浦亜弥が出向いてきたんだけど。
わざわざ出てきた甲斐があったみたい。
城門に立ちはだかる二人のために、私達の軍は全く城の中へ入っていけなかった。
報告に来たやつを、寝ぼけたこと言ってるなと思ってとりあえず殺した。
だってさ、たった二人の、しかも女の子を殺せないなんて。
大の大人がよってたかって何をやってんだか…
まあ、私もかわいい女の子なんだけどー
結局、何度も同じ報告を持ってきたから、さすがに私がやってきた。
もちろん、報告に来たやつは全部殺してね。
- 435 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/24(水) 00:44
- でも、その甲斐があったっぽい。
周りにはいくつもの死体があった。
「あなたが大将?」
背の高い方が話しかけてきた。
「そーかもね」
「これ以上、犠牲を出したくなかったら、兵を引いてください」
今度は背の低い方。
「いやーそれは無いと思うよ。私があんたら殺すんだもん」
「すごい自信ね。私達は王を守るために国中から選ばれた2人なのよ?」
「だから?あれでしょ、石川と柴田だっけ?あの二人がいないから、繰り上がりでしょ?」
「バカにするな」
図星を突いたらすぐ怒る。
やだなーこんな井の中の蛙くん。
さっさと殺しちゃおう。
腰から剣を抜く。
柄に光る白い宝石。
これはパールなの。
つまりね、私の誕生石なのよね。
- 436 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/24(水) 00:45
- 私の構えた剣先に二人の視線が集まる。
どっちが先に動くか、躊躇してるみたい。
私からは動かない。
守勢に回ると有利なのは向こう。
相手に攻めさせないと。
特に精霊術師は、どんな力もってるかわかんないし。
最初に来たのは小さい方。
ヒュンって音がして、咄嗟にその場を離れた私の肩が少し切れた。
風の力だね。
次に大きい方。
こっちははっきり光が見えた。
雷の力だね。
難なくかわして、一度距離を詰める。
なんか後ろで悲鳴が聞こえたけどどーでもいいや。
流れ弾に当たって死ぬような奴はいらない。
構成を組もうとしてるけど、それは遅いよ。
私の剣が構成を組む手を切断した。
さて、後は大きい方。
「あさみ!」
大きい方はキッと私を睨む。
あーこの小さい子はあさみっていうんだね。どーでもいけど。
そんなに怒るなって。
すぐに後を追わせてあげるから。
- 437 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/24(水) 00:45
- さっきよりも太い光をかわした時、ふと嫌な予感がして攻めるのを止めた。
私の予感は的中のようで。
かわした光が進路を変え、私の方へと向かってきた。
もう一回軽く飛んでかわすが、そこを狙ったようにもう一つの光が来た。
それは、私の足に当たり、私は体勢を崩し、地面に落ちた。
そして、そこに更にさっきの光が落ちてくる。
全身の血液が沸騰しそうな衝撃が私を襲った。
意識を失わなかったのが幸いだった。
不用意に飛んだのが間違いだった。
ちょっと見くびりすぎてたかもしれない。
着ていた服はいくつもの焦げ目がつき、ぼろぼろの状態だった。
私が倒れてる間に詠唱が終わったみたい。
もう一回同じことをやってきた。
だからあんたはニ流じゃないのかな?
何度も左右にかわしながら、徐々に距離を詰めていく。
間に小さな光をで攻撃してくるが、それは剣で裁いた。
私の剣に埋め込まれている宝石の力がそれを可能にしていた。
- 438 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/24(水) 00:46
- 「じゃーねー楽しかったよ」
最後の光を剣で払い、そのまま胸に突き刺した。
一度血を吐いてから、そいつは私の剣の柄を握った。
私の手まで、そいつの血が垂れてきた。
手を振り払い私は一気に剣を引き抜いた。
真っ赤に染まった刀身が現れるのと入れ違いに、そいつの意識は無くなったようだ。
その場に崩れ落ちた。
もう助からないだろう。
そこへ、小さい方が駆け寄ってくる。
そういえば。まだ完全に殺して無かったね。
何かわけのわからないことを叫びながら泣きついているそいつを、後ろから斬った。
大きい方の上に小さい方が乗りかかり、二人分の血が大地を赤く染めていった。
これで、この国もおしまいだね。
「後は任せたよ。残りくらいはきっちりやってよね」
それだけ言い残して、私は本陣に戻ろうとした。
その時だった。
ドクン、ドクンと2回。
何かがうごめくような、嫌な感覚を覚えた。
今まで味わったことの無いようなすごく不快な感覚。
周りのやつらは気づいていないようだ。
我先にと城の中へ突入していった。
- 439 名前:SS2 Sword and sorcery 投稿日:2003/09/24(水) 00:47
-
こうして、その日中にカントリー公国はモーニング公国の手に落ちた。
それと同時だったろうか。
役目を終えて、国に帰ったときにこんな噂を聞いた。
数日前に、南方にある町がいきなり消えた。
夜が明けると、その町跡形もなく消えていたと。
<SS2−2 Aya's view 終>
- 440 名前:takatomo 投稿日:2003/09/24(水) 00:49
- >>430-439 Supplementary story2 更新終了
邦題は「剣と魔法」です。
次は本編12章。
- 441 名前:とこま 投稿日:2003/09/24(水) 21:44
- 一気に最初から読ませて頂きました。
手に汗握る展開で面白いです。
続きも楽しみに待っております。
- 442 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 00:57
- <12 betrayal and treachery>
<12−1 Kaori's view>
それは戦いというには余りに幼稚すぎるものだったのかもしれない。
城に残っていた兵士は100人ほど。
相手はその数倍くらいだろうか。
でも、上から見ていても、数以上の差は感じる。
ミニモニ公国の人間は強いのだ。
並外れた体力と運動能力。
単純な戦闘能力というだけでは、一番優れた種族かもしれない。
それと、こうして上から見ると、気になっていたことの答えがわかった。
どうしてこの城は天井が高いのか。
それは、彼らの跳躍力を計算して、上にいかせないためだったんだ。
だが、どこにでも例外と言うものは存在するんだ。
今、私の目の前にいる子だってね。
信じられない能力だった。
ポンポンポンって私の元まで上ってきて。
ニコッて笑いかけてきた。
口元から尖がった犬歯が見えた。
頭には2本の角みたいに結んだ髪の毛。
女の人というより、少女という言葉がぴったり当てはまるような子だった。
手に持っている武器は剣。
両刀のものではなく、片刃。
細く長い刀身は彼女の背の高さほどだった。
- 443 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 00:58
- 「イクノレス」と彼女は何か意味不明な言葉を発した。
でも、それの意味を考える前に、彼女は向かってきた。
ものすごい力。
受けた槍ごと、私は横に飛ばされた。
なんとか左足で踏ん張って、体勢を整える。
右手はさっきの衝撃で痺れていた。
そして、私の目の前から彼女は消えていた。
「上です!」
反射的にその声に反応できた。
顔を上げると共に、体をひねる。
私を掠めるように、女の子の体が落ちてきた。
「サンキュー、小川」
自分の後ろにいるであろう彼女に声をかける。
たったこれだけの動きで、頭がボーっとしていた。
やっぱりまだまだ早かったみたいだ。
長引けば不利になる。
でも、それが簡単ではないほど、この子のスピードと力は侮れないものだった。
技術的な未熟さを身体能力で十分すぎるほどにカバーしていた。
しかし、一般にこういう相手は守りに入ると弱いという欠点がある。
そこをつくことが、すぐに終わらせるためには必要不可欠だった。
- 444 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 00:59
- 槍を構えなおす。
右手の痺れは収まってきた。
今度はこっちから。
私の攻撃をかわすために上に跳ぶ。
天井につきそうなほどの彼女の体が上がる。
それを追うように、槍を床に立てて飛び上がった。
そして、柄の方で胴を思いっきり振り払う。
ベキっという嫌な音を残して、彼女は壁に叩きつけられ、床に落ちた。
確実に肋骨は折れているはずだった。
それでも、以前の例がある。
私は慎重に近づいていった。
女の子は倒れたまま、ピクリとも動かない。
床に落ちた剣は、彼女から離れたところにある。
結局、私が近づいても彼女は動かなかった。
それどころか、本当に気絶していることがわかった。
「小川、すぐにこいつを捕まえて。
それから、敵に知らせるのよ。こいつを捕まえたってことを」
急いで指示を出す。
事態はそれですぐに終結した。
彼女が捕まったことを聞くと、敵はすぐさま退却を始めた。
どうやらこの女の子が指揮官だったみたいだ。
- 445 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 00:59
- こちらの兵の数はおおよそ半分に減っていた。
もちろん、その中には負傷者はたくさんいる。
それでも、被害は抑えられた方だと思う。
ボーっとする頭で、小川の状況報告を頭に入れた。
さっきの子は牢に入れている。
意識を取り戻したようで、今にも牢を壊されそうな勢いで暴れているらしい。
私が様子を見に行った時、扉越しにものすごい音が聞こえてきた。
その子は思い切り鉄格子に体当たりしていた。
その度にギシギシと鉄格子がきしむ。
よくみると、既に目で見えるほど格子が曲がっていた。
私の姿に気づいたのか、逃げるように牢の一番奥へいった。
じっとうずくまって私の様子を伺う様は、まさしく獣のようだった。
「あなた、名前は?」
「…辻希美」
少し間をあけて私の問いに答えた。
「怪我は大丈夫?骨折れてるはずなんだけど」
「大丈夫なのれす」
「え?」
またあの意味不明な言葉。
今度ははっきりわかった。
辻って子の話し方なんだね。
舌っ足らずな話し方。
- 446 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 01:00
- 「大丈夫なのれす」
私が聞こえていなかったように思ったのか、再度答えた。
しかし、ミニモニ公国の人間はすごいね…
丈夫というレベルの問題ではなかった。
確実に骨が折れる音までしたのに、なんともないなんて…
「じゃあ、これからあなたを連れて行くから、ちょっとおとなしくしてくれないかな?」
「嫌なのれす」
通ると思っていなかったお願いだけど、すぐに断られるのも感じ悪いね。
「そう、なら力ずくでおとなしくしてもらうよ」
私は訓練用の槍を持ち、牢の扉を開けた。
- 447 名前:takatomo 投稿日:2003/09/25(木) 01:02
- >>442-446 更新終了
この更新速度はいつまで続くのだろう…
すぐ元に戻りそうですが、できるだけがんばろう
- 448 名前:takatomo 投稿日:2003/09/25(木) 01:04
- >>441
レスありがとうございます。
ここまで長くなったものを最初から読んでいただけるとは、うれしい限りです。
まだまだ先は長いですが、お付き合いいただけると幸いです。
- 449 名前:とこま 投稿日:2003/09/25(木) 19:00
- 最後までお付き合いさせて頂きます。
あまり無理はなさらぬように気を付けて下さい。
- 450 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 23:09
- ◇
全てが計算されすぎている。
この子がこんな作戦を立てられるとも思えない。
砦を襲い、そこに本隊を引き付けている隙に、予め動かしておいた別働隊で城を叩く。
タイミングが完璧すぎるんだ。
全く無駄が無さ過ぎる。
まるではるか上から私たちの行動を眺めているみたいな。
いいように動かされてる気がしてならなかった。
この戦争自体、全く別の誰かが操っているような気がしてならなかった。
その思いが、私を砦へと向かわせている。
早く合流しないと、向こうでも何が起きているかわからない。
もしかしたら、再び城に攻められるのではないかという懸念はなかった。
おそらく相手は完璧な計算をしていたはずだ。
私がいなければ、確実に城を落とせていただろう。
だからこそ、その後の策は労していないだろうという確信があった。
計算されすぎているという部分に、逆に私は賭けた。
後ろの方でガタガタと音が聞こえ始めた。
どうやら目を覚ましたらしい。
ロープでぐるぐる巻きにし、その上から鎖で縛ってある。
更に、木の箱に詰めて馬車に乗せているんだから、多分大丈夫なはず。
そうは思っているものの、彼女の力は理解を超えているので、私が付きっ切りで目を光らせておくこととなった。
なにより、この子は大切な人質だ。何かがあったときに取引の材料として使える。
- 451 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 23:09
- 「ちょっと、おとなしくして。でないとまた気絶させるわよ」
馬を操りながら、後ろに声をかける。
さすがに懲りたのか、すぐに暴れるのを止めた。
でも、今度は口を開いた。
「お腹空いたのれす」
言われてみると、全く食事をとっていないことに気づいた。
小川に合図を送り、一旦馬を止める。
荷台を探すと食料がいくつか積んであった。
乾燥した硬いパンを手に取る。
保存用で、何も味がしないが無いよりはましだ。
小川に一つを投げて渡す。
砦へと向かっているのは私と小川だけ。
残りは城に残してある。
怪我人が多いというのもあったが、何より足手まといになると感じたからだ。
後藤らと合流した際に、30人くらいの兵が増えたところで大した意味は無い。
それならつれてこない方が、私たちが動きやすかった。
「はい、食べ物だよ」
身動きを取れないTの口元ににパンを持っていく。
こんなしけた食べ物じゃまた文句を言われるだろうと覚悟していただけに、勢いよくむさぼりついたのは意外だった。
私がいやいやながらに食べているものを、こんなおいしいものはないかのように食べていく。
あっという間に食べ終わり、もう一つと催促をしてきた辻。
私は袋の中からもう一個出して、彼女に与えた。
- 452 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/25(木) 23:10
- よほどお腹が空いていたのだろうと思う一方、嫌な考えも浮かんできた。
ミニモニ公国が豊かでないということはよく言われている。
特に食料事情に関してはそれは悲惨なものだと。
だから辻は…こんなにおいしそうに食べれるんじゃないの?
私たちがまずいと思っているものでも、彼女たちにとってはご馳走なんじゃないの?
仮説だとわかっているが、考えが止まらなかった。
そう考えると、ミニモニ公国がプッチモニ公国に攻め込もうと、豊かな土地を得ようとする行為は当然のことじゃないの?
プッチモニ公国がミニモニ公国の侵略を阻止することが本当にいいことなの?
私の手まで食べてしまう勢いで二つ目をたいらげた辻をみながら、ふとそう考えた。
かといって、解決策はわからない。
プッチモニ公国とミニモニ公国が協力して歩んでいくことが解決策ということはわかっているが、それを素直に行えないほど、この二国間には憎しみの歴史が長すぎる。
「飯田さん、いきましょうか。みんなが待ってます」
私の考えを見透かしたかのように、小川が声を駆けてくれた。
そうだね、今は考えてても仕方ないね。
ふと見ると、お腹いっぱいになったのか、いつの間にか辻は寝息を立てていた。
私はそっと抱き、馬車に乗せた。
「行こうか。あと半日くらいだ」
<12−1 Kaori's view 終>
- 453 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/26(金) 00:53
- <12−2 Rika's view>
「駄目だってば。ちょっと、後藤」
「どーして駄目なの?市井ちゃんが、市井ちゃんが捕まってるかもしれないのよ!
助けないと!早く、行かなきゃ!」
「落ち着きなさい!あんたが焦ってどうするのよ!
紗耶香を捕まえたのなら向こうから何かアプローチがあるはずでしょ?」
激しいやり取りがテントの中から聞こえる。
私は外からただそのやり取りを聞いていた。
「とにかく、藤本が戻ってくるまでは動いちゃ駄目。
今のあんたは冷静さを失ってる。指揮官がそんなんじゃ勝てる戦いも勝てないよ」
「何で圭ちゃんはそんなにことが言えるの?iのことが心配じゃないの?」
「心配じゃないわけないでしょ!でも、私がここであんたを止めないと誰があんたを止めるのよ!
ねえ、後藤、あなたは本当に紗耶香がつかまってると思うの?殺されてると思うの?
考えてごらん。あの紗耶香だよ?後藤は紗耶香が信じられないの?」
その言葉を最後に、中からの声は聞こえなくなった。
私は気づかれないようにそっとそこを離れた。
さっきの言葉が保田さんの本心でないことぐらい、わかってる。
保田さんさんもすぐにでも駆けつけたいぐらいだろう。
- 454 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/26(金) 00:54
-
美貴、早く戻ってきてよ…
太陽はとっくに南を過ぎ、西の空へと向かっていた。
その時、向こうの方でざわめく声が聞こえた。
敵?
騒ぎはだんだんこっちまで近づいてきた。
周りに多くの人だかりを従えながら、現れたのは美貴だった。
「美貴!」
私はすぐに駆け寄った。
彼女の後ろには一人の小さな男の子の姿があった。
だが、それが男の子ではないことはすぐにわかった。
背だけなら男の子でも、それは立派なミニモニ公国の兵士だった。
「さっき帰ってくるとき、向こうの方から来てたんだ。
やっぱり飯田さんが城に残っててくれてよかったみたいだね」
苛立ちを隠せないように、美貴は後ろの男を一瞥して言った。
私には彼女の意図することが全く理解できなかった。
- 455 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/26(金) 01:03
-
「ちょっと、何の騒ぎ?」
現れたのはごっちんと保田さん。
二人は男を見て状況を察知したのか、表情が険しくなった。
特にごっちんは今にも殺しねかねない表情だった。
「さっき、ミニモニ公国の隊へと合流しようとしていたのがこいつ。
他に何人かいたけど、さすがに全部捕まえ切れなかった」
淡々と美貴は話していく。
後ろの男は、ごっちんと目が合うと、ヒッという声を上げ、目をそらした。
自分の行く末がどうなるのか、よくわかってるみたいだ。
「さ、さっき私に話したことを話して」
男をグイと前に出す美貴。
男の顔からは怯えの色が一層強くなった。
「さっさと言いな」
ごっちんは本当に今にも殺しそうな勢いだった。
男はためらいつつも、話し始めた。
初めはゆっくりと。途中から堰を切ったように。
全てを話して生き延びたい。
彼からはその様子が見て取れた。
男の話はこうだった。
自分達は命令で城を攻めていたが、そこで隊長である辻ってのが敵に捕らえられた。
そこで、本隊にそのことを知らせ、加勢してもらうために戻ってきた。
その途中で美貴に捕まった。
敵っていうのは、飯田さんのことだろう。
これで、さっきの美貴の言葉の意味もわかった。
- 456 名前:takatomo 投稿日:2003/09/26(金) 01:06
- >>450-455
更新終了
いつまで続くのかこのペース…
12章の邦題は「裏切りと裏切り」
裏切りという単語を、違うもの二つ使ってる意味は無いです。
- 457 名前:takatomo 投稿日:2003/09/26(金) 01:08
- >>449
ありがとうございます。
書けるときに書いているだけなので、ペースが速くなっても大丈夫です。
書けなくなったら更新遅くなるだけなので(w
- 458 名前:takatomo 投稿日:2003/09/26(金) 01:13
- あ、脱字がありました。
>>451後ろの方
身動きを取れないTの口元ににパンを持っていく。
→身動きを取れない辻の口元ににパンを持っていく。
>>453真ん中当たり。
「何で圭ちゃんはそんなにことが言えるの?iのことが心配じゃないの?」
→「何で圭ちゃんはそんなにことが言えるの?市井ちゃんのことが心配じゃないの?」
です。
申し訳ないです。以後気をつけます。
- 459 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/28(日) 16:11
- 「それだけなの?」
話し終わっても全く態度を変えないまま、ごっちんは言った。
彼女はもう剣を抜いていた。
「ごっちん…」
彼女の目が私を見る。
感情というものが全く感じられない。
あるとすれば、それは憎しみだけ。
凍えるような目をしていた。
目を合わせただけで、次の言葉が出なくなった。
私は逃げるように目をそらした。
怖かった。
彼女からこれほどの恐怖を感じたことは無かった。
「ごっちん、止めて…わかってるでしょ?
そんなことすると、またあの時みたいにあなたが悲しむことになる…」
保田さんまで何もいえなかった時、そう言ったのは美貴だった。
その言葉に、ごっちんの目がふっと変わった。
小さな光が目に戻ったように思えた。
あの時というのがどれを差しているのか、おおよその見当はついていた。
「さっさと消えて…今回だけはいいよ。でも、次会ったら殺すから…」
ごっちんはそう呟いた。
それが聞こえなかったのか、はたまた突然すぎて理解できなかったのか、動こうとしない男の背中を、美貴は押した。
自分が自由であることを理解したのか、すぐに男はその場を離れ、森の奥へと消えていった。
- 460 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/28(日) 16:13
- 「ごっちん…」
「わかってる。ありがとう…それで、状況はどうなの?」
髪を一度掻き揚げ、自分に言い聞かせるようにごっちんは言った。
「砦の周りを囲むように、陣を組んでる。敵の数は私達と同じくらいです。
砦の中に入るには戦闘は避けられない状況。
私達が近くにいることは知られているし、敵はここを動くつもりは無いみた
い。
城を攻めたことが失敗したのはもう知ってるはずだけど、動く気配が無かっ
たわ。
あと、市井さんのことだけど…」
美貴が言いにくそうにその言葉を出す。
保田さんがごっちんの表情を伺っていた。
「何?早く言ってよ」
沈黙する美貴にごっちんが攻めるように言った。
「…捕まってる。殺しはして無いと思うんだけど、それ以上はわからない」
ポツリポツリと美貴は述べた。
「そう…じゃあ相手は辻って子がこっちの手にあるってことも知ってるんだ
よね?」
ごっちんの口から出た意外な言葉。
てっきりもっと取り乱すのかと思ってただけに、驚いた。
美貴も驚いたようで、ワンテンポ遅れてから頷いた。
- 461 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/28(日) 16:16
-
「人質交換なんて古いけど、向こうに言ってきてくれないかな?」
その言葉が震えていることにやっと気づいた。
わかりました。とだけ言って、美貴はその場を離れた。
ごっちんはすっと一人で奥に行ってしまった。
保田さんが慌てて後を追ったけど、まるで無視したように、早足で行ってしまった。
残された私は、どうしていいかわからず、立ち尽くしていた。
ごっちんが焦っているのか落ち着いているのかさっぱりわからない。
彼女は今、すごく不安定な状況じゃないのかな…
まるで人格が2つあるような状態。
ちょっと前に私がそうだったからよくわかるんだけど、今はやばい…
私はもちろんのこと、保田さんや、美貴でもたぶん無理だ。
ごっちんと対等、もしくは上の目線の人間で無いと彼女にそれを気付かせてあげられないんじゃないかな…
彼女を救ってやれないんじゃないのかな…
そのとき、何か大きな力が噴出すのを感じた。
強い、強い力。
すごく嫌な…気分の悪くなるような力。
どこか遠くで起こっているのだろう。
場所はよくわからないが、一瞬、世界が揺れたように思えた。
周りの兵士は全く気付いていない様子。
何だろ…すごく嫌な予感がする…
飯田さん、早く合流してください…
<12−2 Rika's view 終>
- 462 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/28(日) 23:07
- <12−3 Ai's view>
「そっか、ののは失敗したんや」
やっぱり、その通りに動けへんもんやな
かといって、もう一回兵を出すなんてことはしたくなかった。
ののが失敗するなんて、余程の相手やったんやな…
あいつはバカやけど、能力だけはすごいからな。
近くに後藤真希がいるんや。もう余分な兵は出せへん。
それに、こっちは市井紗耶香がおるんや。
どれだけそれが後藤真希のアキレス腱か、アヤカの報告でわかってる。
向こうはののを捕らえて喜んでるかもしれん。
おそらく交換を持ちかけてくるんやろ。
そのためにいろいろ情報を漏らしといたった。
あとは、向こうのアプローチ次第や。
絶対持ちかけてくるという自信はある。
後藤真希のことや、絶対市井紗耶香を助けようとするはずや。
そこがねらい目なんや。
そこで一気に仕留めたる…
それで、この5年間何度も描いた夢が叶うんや。
- 463 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/28(日) 23:08
- 思い出してみたら、まだ7日しか経ってないんや。
私の前にあいつがやって来たんは。
「加護亜依さんですよね?」
私の部屋にいきなりやってきたそいつ。
背はめっちゃ高かったから、ちがう国の人間やってすぐにわかった。
真っ黒なローブに身を包み、私の目の前に宝石がちらついていた。
「何や?いきなり部屋に入ってきて…何の用や?」
「ちょっと耳寄りな情報をと思いまして…」
「情報?何や?」
得体の知れんやつやった。
けど、そのいやらしい笑みは、どこか説得力があったんや。
そいつはこういった。
2日後に国境沿いに待機してるモーニング公国の兵がいなくなると。
そこを狙えばすぐに砦は落とせる。
モーニング公国はその後も一切関知せーへんから、好きにやれと。
何でそんな情報を信じたんか自分でもわからん。
でも、信じたんや。
まるで、魔法にかけられた見たいやった。
気が付けば、会議でそのことを発言している自分がいた。
でもな、そいつの言ったことはほんまやったんや。
モーニング公国の兵は一人もおらんかったんや。
- 464 名前:12 betrayal and treachery 投稿日:2003/09/28(日) 23:09
- それで、そいつはこうも言ってたんや。
砦を包囲してからすぐに、プッチモニ公国へ兵をやれって。
森を通らせていけば、城も簡単に落とせるって。
わざわざ進路の地図まで書いてくれよった。
そんなもん、私がすぐに考え付いた作戦や。
もちろん、すぐにやった。
結果は失敗やったけどな。
そこまではあいつも読めてなかったみたいやな。
結局、そいつが何者やったんか、何でそんなことを知ってんのかわからへん。
モーニング公国の人間なんは間違いないやろうけど、雰囲気が変やった。
異質というか、人ではないような感じやった。
それに、もしかしたら、私らはそいつに利用されてるだけなんかもしれへん。
上手く行き過ぎてるんや。
だから、失敗したって聞いたときに、ちょっとほっとしたのも事実や。
これであいつの思い通りにはいけへんぞってな。
「加護様、敵からの使いがきました」
「内容は?」
使いという言葉に、胸が高鳴った。
「辻様を預かっていると。市井紗耶香との交換の交渉です」
「わかった。じゃあ、こう伝えてくれへんか?」
笑いをこらえながら、私は死刑台となるべき場所を伝えた。
日にちは明後日。
たぶん、向こうはまだののをこっちまで持ってきてないやろ。
下手に焦って警戒させるのも嫌や。
あくまで、私らはののが大事ということを見せとかなあかん。
なーに、こっちには市井紗耶香がおるんや。
有利なのはこっちなんや。
報告に来た兵が下がるのを待って、私は大声で笑った。
やっと、悲願が叶うんや…
やっと、あいつを殺せるんや…
矢口さん、ほんますまんな。
汚名は全部あんたにかぶってもらうで…
<12−3 Ai's view 終>
- 465 名前:takatomo 投稿日:2003/09/28(日) 23:12
- >>459-464 更新終了
今回も改行がなんかおかしくなった(460)…ごめんなさい。
次は13章です。
この次の更新はさすがに間空くかもしれません。
- 466 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/02(木) 01:29
-
<13 The ravine of death>
<13−1 Rika's view>
飯田さんがようやく合流したのは、次の日の夕方だった。
使いを出してから、わずか1日しか経っていないところからみると、すでに城を出ていたようだ。
小川と二人で、音のする箱を担いで馬車から降りてきた。
不思議そうにみる私達の前でそれはゆっくりと地面に下ろされた。
中からでてきたのは、巨大な芋虫…ではなく、全身ぐるぐる巻きにされた少女。
角みたいにぴょこんと2本、髪の毛が立っていた。
まだ10歳にも満たないような少女がなぜこんなことにいなっているのか、全く見当がつかなかった。
しかし、少女の名前を聞いたら全てわかった。
この子が辻。辻希美らしい。
奥の方で、ごっちんと美貴と飯田さんはまだ話をしている。
昨日、あの後帰ってきた美貴はこう伝えた。
砦の少し西にある渓谷。
明後日、そこで人質の受け渡しをする。と
そこは、昔、プッチモに公国とミニモニ公国が取引の際に使っていた場所だった。
だとしても、それが罠である可能性は極めて高い。
それでも断れない理由がこっちには、ごっちんにはある。
指揮官としては最悪の決断に違いないが、私達は彼女の決断を決して攻めたりはしない。
ここではごっちんが絶対的な指揮官だ。
飯田さんもそのことを踏まえ、自分の意見は言うが決定はごっちんに任せていた。
- 467 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/02(木) 01:30
-
「罠があるに決まってる。でもそれは後藤もわかってるんでしょ?
それを知った上で、やっぱり助けたいなら仕方ないよ。
私達は、あなたの決断を後悔させないように精一杯やるだけさ」
最初に言った飯田さんのその言葉が印象的だった。
そうなんだ、彼女が出した決断を後悔させないようにするのが私達の役目なんだ。
私たちの目の前にいた辻は、お腹が空いたと喚き、兵から食事を食べさせてもらっていた。
おいしそうに次々と食べていく様子を見ていると、彼女が敵だということまで忘れてしまいそうだ。
愛くるしい、まるで愛玩動物のようだった。
日が落ちるのにはまだ少し早く、明日のことを考えると、何かをしなければいけない気にさせた。
だけど、私たちができることなんて、無いに等しい。
あるとすれば、体を休めること。
幸い、ここのところいろいろありすぎて、ちゃんとした休養も取れていないのも事実だ。
日が落ちると同時に、明かりだけをともし、私は床についた。
明日の準備に追われる周りの喧騒もすぐに遠のき、私は意識を失った。
そうして、翌日を迎えた。
- 468 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/02(木) 01:30
- 半数の兵をつれ、私たちは早朝に出発した。
ここからだと、指定の場所までそこそこ距離があった。
辻は相変わらず飯田さんがしっかりと見張り、その周りを囲むように、ごっちん、保田さん、美貴。
私と小川は後ろからついていった。
次第に道が悪くなっていき、ごつごつとした岩肌が覗いてきた。
勾配を持った岩道は、徐々に体力を奪っていく。
空は、これから起こることを予測しているように真っ黒。
風は強く、木々を激しく薙いでいた。
かなり標高が上がっているはずだ。
植生も変わり始めている。
「ここだね…」
飯田さんの声で、前を向くと、谷にかかる一本の橋が目に入った。
人が3人並べるくらいの幅。長さはざっと200mくらい。
真ん中だけ丸く膨らみ、広い空間ができていた。
確かに取引をするには最適な場所だった。
向こう側に人影が見える。
小さな人影。
思っていたより人数は少ない。
見えてないだけかもしれないが、そのことが罠ではないということに結びつかない。
でも、一つ安心できるのは、こっちに辻希美がいるということだった。
こっちにも人質がいるんだ。向こうも手荒な真似はしたくないはず。
何かが起きるとすれば、人質交換が終わった後…
- 469 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/02(木) 01:31
- 「圭織、圭ちゃん、ミキティ、それに梨華ちゃん、一緒に来てくれる?」
ごっちんが一人一人の顔を見ながら声をかけた。
その中に私の名前があったことがなによりうれしかった。
今までの疲れがたったその一言で吹き飛んだような気がした。
飯田さんが辻をしっかりおさえ、美貴が彼女の足の戒めを解いていく。
足が自由になったことを、喜ぶ辻だったが、暴れようとはしなかった。
どこか私たちに懐いているような…少なくとも私たちを嫌ってはいないようだった。
「後藤さん、人質はここや。さあ、取引始めよか」
向こう側から声が聞こえてくる。低く、よくとおる声だった。
以前聞いた懐かしい訛り。
そうだ、中澤さんと同じ。
それを思い出すのに時間がかかったことに自己嫌悪を覚えた。
辻と同じ、髪をお団子にしばった子。
隣にいるのはアヤカさんだろう。
一人だけ背の高い人影があった。
そして、アヤカさんが抱えるように、少し小さな人影。
それがおそらく市井さん。
ここからでは顔の表情まではよくわからなかったけど、きっとそうに違いない。
- 470 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/02(木) 01:32
-
「いくよ」
ごっちんの声で、橋の上に足を踏み入れた。
太い木をいくつも組み合わせてできた橋。
私たちが一度に乗っても振動一つしなかった。
向こう側からも3人。
さっきの子はいないみたい。
アヤカさんと、女の人。残る1人は男だった。
男に促されるように市井さんは歩いていた。
次第に距離が近づくにつれ、市井さんの様子がよくわかった。
口には猿轡。
両手は後ろで縛られているようだった。
視線すら定まっていないような生気の無い目。
頬はこけ、土気色をしていた。
すり足のように歩く姿は不恰好で、華麗な市井さんの面影はどこにも無かった。
私でさえ見るに耐えないのだから、ごっちんは、保田さんはどんな思いなんだろう…
中央の広い場所に出た。
遠くから見るよりずっと広かった。
その円の端同士に私たちは向かい合った。
「アヤカ…あんた…」
「お久しぶりです皆さん。そんな怖い顔しないでください。
私は取引に来ただけですよ。市井さんがどうなってもいいんですか?」
市井さんという言葉を出されたら、私たちは黙るしかない。
保田さんは後に言葉を続けることができずに、ただ睨み付けていた。
「辻を離してください」
「そっちが先に放してよ」
ごっちんとアヤカさんの声が交錯する。
お互い相手の動きをじっと見据える。
人数はこっちの方が多いんだから、ここで戦えば勝機は十分にある。
市井さんの身の安全がどこまで守れるかはわからないけど…
つまり、動けないってことなんだよね。
- 471 名前:takatomo 投稿日:2003/10/02(木) 01:40
- >>466-470 更新終了
次は…たぶんすぐだと思います。
感想などいただけるとうれしいです。
<お知らせ>
案内板でも書きましたが、第2回マルチ短編、09「この思い、届いて!」を出してました。
それと、一応設置していた解説ページである「セバータイズ辞典」は私のHP移転に伴って変わっています。
だいぶ前からなんですが、告知するの忘れていました。
http://takatomo-kaoyoshi.hp.infoseek.co.jp/index.html
のNovelsのところにあります。
- 472 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/03(金) 23:46
- 痺れを切らしたのか、ごっちんは飯田さんを見た。
飯田さんは辻を持つ手を離す。
ためらったように、飯田さんの顔を見る辻。
飯田さんが頷くと、走ってアヤカさんの方へと向かう。
それを見たアヤカさんは、男に指示を出し、市井さんをこちらへ押し飛ばした。
「市井ちゃん!」
両手を縛られた市井さんは、受身すら取ることもできずに倒れた。
私たちは慌てて駆け寄った。
アヤカさんは辻を連れて、もう向こう岸へと戻り始めていた。
「市井ちゃん、市井ちゃん」
ごっちん執拗な叫び声が耳に響き、私はすぐに注意をアヤカさんから逸らせた。
そして、すぐに私は、ごっちんの叫び声の意味がわかった。
それは再会の喜びからではなかったのだ…
心の壊れる音がした。
突きつけられた映像を私は受け入れることを拒否した。
全身をうなるような嫌悪感が包む。
吐き気をこらえることができたのは奇跡だったのかもしれない。
「市井ちゃん!」
既に何度目かの叫び。
それはもう声というものではなかった。
人間ってこんな声を出すことができるんだ――――
- 473 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/03(金) 23:48
- 他人事のように感じている私がいた。
いや、理解するためには、他人事と思わなければ私の精神は崩壊していたに違いない。
だらりと垂れ下がる腕。
それはあらぬ方向に曲がっていた。
つかむとぐにゃりとへこむ。
骨という骨が粉々に砕かれていた。
足はまっすぐに伸びたまま動かない。
だらりと長く伸びたつま先。
アキレス腱が切られていた。
意識はあるのか無いのかわからない。
瞬き一つしない目。
その異様な輝きが血色を失った顔の中で際立っていた。
壊れたおもちゃ。
まさしくそれだった。
みんな言葉を失っていた。
ごっちんの声だけが渓谷に響いていた。
誰もその場を動けなかった。
誰もごっちんに声をかけてやれなかった。
誰も市井さんを治すことができないと理解していたから。
そして、誰もが市井さんに対するごっちんの気持ちを知っていたから…
- 474 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/03(金) 23:49
- ところが、現実感のある声が私たちの時を動かした。
「飯田さん」という小川の叫び。
後ろを振り返った私の目には、赤い壁が広がっていた。
「な、何なの…」
あまりのことに、頭が働かなかった。
それが炎であると理解できたのは、頬に当たる熱によってだった。
「前!」
飯田さんの声に視線を戻せば、前からも火が迫っていた。
何が起こっているのかわからなかった。
それでも、炎は私の理解するのを待つことなく勢いを増していく。
既に足元は不安定になってきた。
橋が落ちようとしているに違いない。
状況が全く飲み込めないが、危ないってことは確か。
「石川、この人数、飛べるよね?」
飯田さんが言う。
「はい」という答えが喉元まででかかったが、飲み込む。
飯田さんは私が精霊術を使えなくなっていることを知らないんだ…
「石川?」
「できるかどうかわかりませんが、やってみます」
躊躇しながらも答えるしかなかった。
この状況で私しかみんなを助けることができないのが事実だったから。
- 475 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/03(金) 23:50
- 市井さんを抱いたまま動こうとしないごっちんをちらりと見る。
それから私は構成を組み始めた。
丁寧に、一つ一つ確認するように。
でも、すぐに組めていないことがわかる。
もう一度。
風の精霊に呼びかけるように、ゆっくりと。
それでも一向に組める気配がない。
次第に今度は焦りに変わっていく。
焦れば焦るほど、無理だということはわかっている。
でも、眼前に広がる炎と、傾き始めた足場が私から落ち着きを失わせた。
飯田さんがそっと肩に手を置いた。
その目には不安の色が無いように見えた。
絶対助かるって信じているような目だった。
深呼吸を一つ。
もう一度、精霊に願おう。
初めて術を使えた時のように。
お願い…みんなを助けたいの…
「世界を自由に飛び交う風の精霊よ」
ここで私の力を使わないと、どこでこの力を使うの?
「大地に縛られし我の体」
今、こんな事態で使うために私の力があるんじゃないの?
「その戒めから解き放ちたまへ」
お願い…
ガラガラと、ものすごい音を立てて足元の感覚が無くなった。
しかし、体は風を感じなかった。
6人とも、その場に止まっていた。
術は完成していた。
私たちは谷の真ん中で浮いていた。
<13−1 Rika's view 終>
- 476 名前:takatomo 投稿日:2003/10/03(金) 23:52
- >>472-475 更新終了
週末家を空けるので、次の更新は週明けです。
- 477 名前:とこま 投稿日:2003/10/05(日) 20:02
- まったり待ってますよ〜(^^♪
- 478 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/08(水) 23:16
- 「飯田さん」
その言葉で振り返ると、赤い塊が橋に落ちるのが見えた。
そして、それはすぐに赤い壁へと姿を変えた。
罠。
その単語が頭にすぐに浮かんだ。
すぐにアヤカの方を見る。
アヤカが手を振っている。
その横で、一緒にいた女が、先端に炎をつけた矢を放った。
とっさに構えるが、それは私を狙ったものではなかった。
私たちの前に落ち、一瞬で炎が上がる。
さっき見た赤い塊もこれだったんだろう。
おそらく、油か何かですぐに橋が燃えるような仕掛けをしてあったに違いない。
誤算だった。
まさかこんな大胆な罠をしかけてくるとは夢にも思わなかった。
「石川、この人数、飛べるよね?」
石川がいてくれることがありがたかった。
向こうも精霊師、それも石川の力を侮っていたに違いない。
「石川?」
私の声に石川はやや遅れて答えた。
「できるかどうかわかりませんが、やってみます」と。
私はその言葉の意図するところがわからなかった。
一つの最悪の可能性を除いては。
- 479 名前:takatomo 投稿日:2003/10/08(水) 23:17
- 入れ忘れ。
>>478から<13−2 Kaori's view>です。
- 480 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/08(水) 23:18
- でも、すぐにその最悪の可能性であることがわかった。
構成を組もうとしている石川から、術が放たれる様子は見えない。
やっぱり術が使えなくなってるんだ…
死の宣告ともいえるその事実。
石川も事態を十分わかっているようで、何度も何度も術を使おうとしていた。
私はただ黙っていた。
私たちが騒いだとしても、石川を焦らせるだけになる。
幸い、藤本も保田も迫り来る死の恐怖に騒ぎ立てるような人間でない。
落ち着け、石川。
私はそっと彼女の肩に手を置いた。
それが功をそうしたんだろうか。
石川の口から詠唱がもれ始めた。
彼女自身気づいているのだろうか?
真剣な目をしながらも、口調は滑らか。
表情と声色が全く合っていなかった。
ガラガラと大きな音が耳を突く。
しかし、それよりも術の完成の方が早かった。
私たち6人はその場所にとどまる形になった。
安心と驚きが一度に押し寄せ、上手く表現できなかった。
後藤と市井を含め、石川に触れていない人間まで飛ばせるなんて…
ここまでできるなんて思っても見なかった。
もしかして、この子は進化しているのかもしれない…
それとも、精霊師というものの力はこれほどまでにすごいものだったんだろうか…
- 481 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/08(水) 23:20
- 煙が晴れ、橋の両端が見えてくる。
私たちの姿に、どちらも信じられないといった顔をしていた。
でも、敵はまだあきらめていなかった。
谷の両側から弓を持った人間がたくさん出てきた。
もしかしたら、こんな事態まで想定していたのだろうか…
石川もそれに気づき、ゆっくりと移動する。
さすがにこのまま早く移動するのは不可能なようだった。
一斉に10本近くの矢が放たれる。
見当違いな方向に飛んでいるものがあるが、私たちの方に向かってきたのは4本。
ゆっくり移動している私たちにはそれを避けるほどの動きはできない。
手に持った武器でなんとか払い落とすが、すぐに次の攻撃がやってきた。
敵は明らかに石川を狙っていた。
彼女の前に私や藤本がいることが幸いだった。
でも、そうそう捌き切れる数ではない。
敵のほうも要領をつかんだのか、狙いが正確になってきていた。
幾度目かの攻撃で、捌ききれない矢を私は肩で受け止めた。
痛みで槍を落としそうになるのを必死でこらえる。
後ろにいる石川の集中力を削がせるわけにはいかない。
彼女だけは無傷でいないといけない。
谷の向こう側まであと少しだったが、たった数メートルの距離がこんなに長く感じたのは初めてだった。
命がけの綱渡り。
その言葉がぴったりだった。
次に来た矢の雨は、私と藤本の足に刺さった。
後藤を守るように立っていた保田の左手は真っ赤に染まっていた。
その手にはもう武器はなかった。
- 482 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/08(水) 23:21
-
「何やってんねん!あんなゆっくり動いてる的も当てられへんのか」
訛りのある声が響く。
少女は傍にいる兵から弓を取ると、自分で構えた。
やばい…
構えを見ただけで寒気が走った。
明らかに他の人間とは違うことが瞬時に見て取れたから。
放たれた矢はまるで閃光のよう。
先に放たれた矢をどんどん追い越し、私の前を横切った。
保田は彼女の動きに気づいていなかったようだ。
矢に気づいて頃にはもう保田の横を矢が過ぎ去っていた。
保田……彼女の名前を認識すると同時に、その後のことが推してとれた。
彼女の後ろには市井を抱いている後藤がいる。
もちろんこのことには気づいているわけがない。
しまった…
矢は何者にも邪魔されることなく後藤の方へと向かっていった…
<13−2 Kaori's view 終 >
- 483 名前:13 投稿日:2003/10/08(水) 23:22
- >>478-482 更新終了。
ちょっと更新速度が遅くなるかもしれません。
- 484 名前:takatomo 投稿日:2003/10/08(水) 23:23
- >>477
レスありがとうございます。
しばらくの間、更新が遅くなると思いますがまったりとお待ちいただけるとうれしいです。
- 485 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/13(月) 01:16
-
<13−3 Miki's view>
「飯田さん、どうでしたか?」
「うん…もう追っては来てない。けど…」
「けど?」
「相手にとったらこんなチャンスは願っても無いんだ。
近いうちに必ず攻めて来る…」
飯田さんと梨華ちゃん会話が耳に届いた。
だからといって、私にはそれに音であるという意味以上のものを持たせることができなかった。
「ごっちんは?」
その言葉が私に向けられたものだと理解するのに数秒費やした。
もしかしたら、私が理解する前に何度も呼ばれていたのかもしれない。
「変わりません。あのままです」
こんな心理状態でも冷静に答えてしまう自分に嫌気が差した。
頭の中では何度もあの時の光景が繰り返されていた。
放たれた矢がごっちんに向かうその時。
市井さんの体が動いた。
動くはずの無い体が動いた。
ごっちんをかばうように受けたその矢は体を貫通していた。
呆然とするごっちん。
その耳元にささやく様に市井さんの唇が動いていた。
何を言ったのか聞き取ることはできなかった。
もちろん市井さんは助かるわけもなく、私たちが地に足をつけたときにはもう息を引き取っていた。
そのことが私にどこか安堵をもたらせていたことは否定できない。
悲しみの前にふっと生じた安堵に私は気づいてしまったのだ。
- 486 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/13(月) 01:16
- なぜかわからない。
もうわからないことだらけだ。
梨華ちゃん達に会ってから…違う。
ごっちんに会ったときからに違いない…
この気持ちは一般に何と言われるのか私はわかっていた。
だから、私は全身でそれを否定し続けてきた。
でも、それももう限界なのかもしれない。
市井さんが現れたときの心にかかった影。
市井さんと話すときの楽しそうなごっちんの表情を見るたびに、それは大きくなっていった。
それが晴れたのは市井さんが死んだとき。
やっとごっちんは私を見てくれる。
私は不実にもそう思っていたのだろう。
でも、現実は違った。
ごっちんは市井さんの遺体の隣に付きっ切り。
動こうとしなかった。
呼びかけても返事は無い。
死んでもまだごっちんの心を占有するんですか?
怒りにも似た感情が湧き上がってくる。
それに囚われまいと何度も何度も自分に言い聞かせる。
私はただの道具に過ぎないの。
ごっちんや飯田さんの指示をこなすだけの道具。
それ以上でもそれ以下でもない。
だが、必死に抑えようとするほど、怒りの炎は激しく燃え上がる。
私はたまらずごっちんのいる方へと向かった。
- 487 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/13(月) 01:17
- 布で仕切られた仮設テントの一室。
何も声をかけずに私は中へ入った。
私の予想通り、私が中に入ってもごっちんは反応すらしなかった。
じっと市井さんの遺体に寄り添っている。
私の足元にパンとスープがあるのに気づく。
誰かが食事を持ってきたのだろう。
全く手をつけられた様子すらなく、スープはすっかり冷め、湯気は立っていなかった。
「ごっちん」
呼びかける。
返事はない。
振り向くことさえしない。
「ごっちん」
再度私は声をかけた。
今度は肩を叩きながら。
さっきと同じ。
ピクリとも動かない。
無理やり肩に手をやり、振り向かせようとする。
「触らないで!」
右手で思いっきり払われた。
つかまれた腕は手の形の赤い痣がついた。
もう一度肩に手をかける。
振り払おうとするごっちんに必死で抵抗しながら。
無理やりごっちんを振り向かせた。
爛々と輝く瞳は私をじっと捉えていた。
爪を立てて私の手を握り締める。
- 488 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/13(月) 01:19
- 「触らないでって言ってるでしょ!ほっといてよ!」
「何でそんなこと言うのよ!みんな、どれだけ心配してるかわからないの?
市井さんが死んで悲しいのはあなただけじゃないのよ!」
「みんなに何がわかるのよ?私の、市井ちゃんのこと、何がわかるっていうのよ」
私の腕から血が滴り落ちた。
どんどんごっちんの指が腕に食い込む。指先は痺れ始めた。
「ごっちんも・・・何にもわかってないじゃない!
私の気持ち…全然わかって無いじゃない!」
思いっきり叫んだ。
その後、部屋は静寂が包んだ。
私の荒い息づかいだけが響いていた。
「わかんないよ…そんなの…もう、出てってよ」
力の入らない私の腕を払いのけながら、さっきとは打って変わっての静かな声だった。
拒絶。
その二文字が頭に浮かぶ。
―――拒絶―――
助けたいのに…
―――拒絶―――
こんなに思っているのに…
―――拒絶―――
入り込めない・・・
―――拒絶―――
どうして私じゃダメなの…
私の中で何かが壊れた。
- 489 名前:13 The ravine of death 投稿日:2003/10/13(月) 01:20
- 「こんなものがあるから…こんなものがなけらばいいんだ」
私は自分が何をしているかわからなくなった。
体が勝手に動いているのを中から見ているような。
立ち上がり、灯りである燭台を手に取った。
煌々と燃える炎。
それを手に私は市井さんの元へ。
そのまま手を放した…
「な、何してるの…」
パッと部屋中が明るくなった。
こぼれた油とともに、炎は広がっていく。
「市井ちゃん!市井ちゃん!」
燃える炎は私の憎悪の炎だろうか。
必死に消そうとするごっちんの姿を見ると、より一層強く燃え盛った。
消えてしまえばいい。
あなたがいるからごっちんは…
いっそ、あなたなんかいないほうがいいんだ…
「市井ちゃん!」
ごっちんの声が耳を突く。
何度も…何度も…
尚も炎に近づこうとするごっちんを後ろから押さえる。
炎は勢いを弱めることなく燃えた。
ずっと…ずっと燃えていた…
<13−3 Miki's view 終 >
- 490 名前:takatomo 投稿日:2003/10/13(月) 01:21
- >>485-489 更新終了
次は14章。
感想などいただけるとうれしいです。
- 491 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/13(月) 15:54
- ミキティの気持ちに喜びつつもそんな怖いことしちゃ
ごっちんがかわいそうな…報われないミキティも可哀相
- 492 名前:とこま 投稿日:2003/10/13(月) 17:06
- 美貴ティ・・・可哀想に・・・(T_T)
皆辛いですね。
- 493 名前:名無しさん 投稿日:2003/10/13(月) 23:01
- 藤本キテルねー
- 494 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/15(水) 23:42
- <14 The way of the destiny>
<14−1 Rika's view>
夕刻に燃え上がった炎は夜には消し止められた。
あの時、中で何が起きたのか知っているのはごっちんと美貴だけだった。
距離を置いて視線すら合わせようとしない二人。
只ならぬ雰囲気を感じながらも声をかけることができずにいた。
市井さんの遺体が燃えてしまったことを聞いたのは翌日。
飯田さんの口から聞いた。
美貴が燃やしたらしいということも、その時聞いた。
驚かないわけがなかったが、美貴が何の考えもなしにそんなことをする人では無いとわかっている。
きっと何か意味があってやったことだ。
私はそう理解していた。
飯田さんが心配とは反対に、敵が攻めてくる気配はなかった。
砦の近くの森に陣を張っているが、敵が動いたという知らせはなかった。
木々の間から暖かい日差しが漏れてくる。
そういえば、こうして空を見上げるのは久しぶりだ。
流れる大小さまざまな雲を見る。
子どもの頃はよく空を飛びたいって思った。
でも、精霊術でそれをかなえた瞬間はそれほど感慨はなかった。
もっとすばらしい世界を期待していたのに…
地上とさして変わらない世界にがっかりした。
眼下に広がる世界は、塔の頂上から見渡す景色と遜色ない。
鳥のように動けるかといえばそうでもない。
走るのよりちょっと早いくらいのスピードで移動するだけ。
なにより、長時間飛ぶことは精神の疲労が激しかった。
期待しすぎていたんだろう。
空という世界に。
「憧れは憧れのままがいい」なんて昔の人は上手くいったもんだ。
それでも、ふと空を飛んでみたくなった。
自分がちゃんと風の術を使えるか試したいのもあったが…
- 495 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/15(水) 23:43
- ぱっぱと構成を組む。
いともたやすくそれは組まれた。
今までのことが嘘のようにあっさりと。
私の体は空へと舞い上がった。
下に広がる森は広大で、緑の広がる平原の向こうに、城が小さく見えた。
反対側に目をやると、砦を隔てて茶色の大地が広がっていた。
凹凸ばかり目立つような大地。
いくつかの黒い煙が立ち昇っているのが見える。
おそらく鉱石の精製だろう。
この世界の宝石の半分以上は、ミニモニ公国から供給されているというのを本で読んだことがある。
かといって、ミニモニ公国が裕福であるということは決して無かった。
逆に一番貧困な国。
だからこそ、こうして戦争が起こるんだ・・・
妙に納得し、私は下に戻ろうとしたが、ふとあるものが目に留まり、降りるのを止める。
砦の裏側から回って出て行こうとする一群と、正面からこちらへ一直線に進み始める一群。
その動きをもう一度しっかり確認し、私は下に降りた。
「飯田さん、敵が来ます」
テントに駆け込むと中には飯田さんだけでなく保田さんもいた。
私はさっき見たものをそのまま話した。
ほどなく美貴がやってくる。
敵が動いたという報告だった。
次いでごっちん。
入ってきて、一瞬ためらったかのような表情を見せた。
「後藤、どうする?」
「状況は?」
落ち着き払った声で答える。
でも、それが無理に平静を装ってるだけだってことは、私でもわかった。
- 496 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/15(水) 23:44
-
「こっちに向かってくる兵と、石川の話だと、砦の裏から別の部隊が出てきてるらしい」
「裏からの部隊は、こっちに向かってるようには見えなかった」
飯田さんの言葉に私は一言付け加えた。
ごっちんは少し考え込んだ後、こう答えた。
「考えられるのは2つ。一つは2つの部隊が私達を狙っている場合。
片一方は気付かれずに背後や側面から奇襲をかけるつもりだろうね。
二つ目は、片一方が私達以外の目的がある場合。
例えば前みたいに城に向かうとかね・・・
圭織はどっちだと思う?」
「まさかもう一回同じことをやるとは思えないけど・・・
私達を攻めるにしては動くのが遅すぎる…
たぶん、別々に動くだろうね」
髪に手をやりながら飯田さんは答えた。
「そっか…ならどーすればいいと思う?」
「片方に兵を出して進行を止める。
で、もう片方が向かってくる兵を向かえうつのが定石だろうけど…」
「けど?」
「それだけじゃダメでしょ。まともに戦うとしんどい相手だし…
だからね…」
飯田さんはにやっと笑った。
その後に言われた作戦は、全く予想していなかった方法だった。
もちろん、ごっちんも素直にそれを受け入れた。
- 497 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/15(水) 23:45
- 否定する理由が見当たらなかったから。
でも、ごっちんは飯田さんの考えがどうであれ、それを実行していただろう。
ごっちんの様子を見ていると、私にふとそんな考えが浮かんだ。
根拠なんてない。
ただの予想。
一つわかるのは、ごっちんにとって飯田さんは対等な人、もしくは自分より上の人。
身分とかじゃなくて、人間的にね。
ごっちんはそう思ってるんじゃないのかな?
ごっちんは飯田さんと市井さんには頼ってる気がする。
弱みを見せているというか…
国王って顔以外のものを見せていると思う。
この国に来るまでは、私や美貴にも見せていたのに…
チクリと胸が痛む。
今はダメだ。
ごっちんと私は対等にはいられない。
それだけの自信も力も無い。
私なんてみんなの足を引っ張ってばっかりだ。
あの時もだ…
私の力がもっと強ければ、市井さんは死ななかったかもしれない。
守るための力。
私はそれをもてるほど強くない。
誰かが言ってたね。
「守る力は壊す力以上に尊く、そして強い」って。
ああ、飯田さんだ…
飯田さんと初めて会ったのはその言葉がきっかけだったんだ。
- 498 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/15(水) 23:47
-
パーティ会場に窮屈な服を着て、バカな大人達に愛想笑いをしたり、簡単な精霊術を披露していた頃だ。
唯一の楽しみが料理だけだった頃。
その料理の味すらもよくわかんないくらいに腹が立ってたんだけどね…
後ろから聞こえたその言葉に、私は惹かれたんだ。
バカな貴族の中にもこんなことが言える人がいるって。
振り返って目に留まったのは、飯田さんの長い髪。
長身ですらっとした体は、寄生虫のように栄養ばかりを吸って肥大した体の貴族達の中で、余計に映えて見えた。
私は会話に割り込むような形で、飯田さんに話しかけたんだった…
ふと懐かしいことを思い出してしまった。
毎日が退屈だったあの頃。
私は何をやってたんだろう?
そんな暇があったなら、自分の力でも磨けたはずだ。
HPNなんて称号…戦争になれば関係ないんだ…
ただの精霊術が一番『上手に使える』人間の証明であって、決して一番強い精霊師の称号なんかじゃない・・・
何も知らないバカだらけで、バカじゃないとしても知識だけで現実を知らないやつばかりって、昔は貴族達を蔑んでいた。
バカだ…
それはまさしく私のことじゃない…
私こそ自分がそのバカなやつってことも知らずに、人をバカにしてる正真正銘のバカじゃん・・・
- 499 名前:takatomo 投稿日:2003/10/15(水) 23:50
- >>494-498 更新終了。
そろそろ300Kbyteです。
もう長編って言えるくらいかな(w
スレッド上限が大きくなってますが、やっぱり1スレでは収まらないかもしれません。
- 500 名前:takatomo 投稿日:2003/10/16(木) 00:00
- やっと500レスだ…
>>491-493様レスありがとうございます。
大変失礼ですが、まとめてレス返しさせていただきます。
藤本は…なんか独りでに動いてますので、今後どう動いていくのか私も楽しみだったりします(無責任作者)
一つの書きたいシーンでもあったので、いろいろ反応がいただけてうれしい限りです。
なにより、一回の更新でレスをこんなにもらったのが初なので、ちょっとドキドキしてたり…
- 501 名前:みさと 投稿日:2003/10/16(木) 23:25
- ごっちんはみんなに愛されてるなぁ
更新楽しみにしてます、頑張って下さい
- 502 名前:とこま 投稿日:2003/10/17(金) 20:44
- 更新お疲れ様です。
ごっちんと美貴ティはどうなるんでしょう?
楽しみです。
- 503 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/19(日) 00:08
-
悪い方に考えるのは私の悪い癖かもしれない。
でも、過ぎたことは後悔してもどうにもならないなんて、簡単に割り切ることなんてできない。
後悔しないでいられるほど強くないし、後悔しないで済むほど優れているわけじゃない。
なら、後悔するしかないんじゃないの?
後悔して、後悔して成長していくしかないんじゃないのかな…
あ、これも飯田さんが言ってたんだっけ?
思わず笑みが浮かんだ。
ちょっと気が楽になった。
飯田さんも私と同じこと思ってきたんだって…
飯田さんもこうして成長していったんじゃないのかなって…
だったら私も、いつかは飯田さんみたいになれるんじゃないかなって思えたから…
「梨華ちゃん、行くよ」
ごっちんが声をかけてくれる。
「うん」
緩んだ口元を引き締め答えた。
<14−1 Rika's view 終 >
- 504 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/19(日) 00:09
-
<14−2 Kaori's view>
「保田…後藤のことどう思う?」
「保田なんて止めてくれる?私のことそう呼ぶ人なんて、そうそういないから調子くるっちゃうのよ。
保田さんか、圭ちゃんにしてくれない?」
表情を崩して保田は言う。
どこかわざとらしい笑みに、この話題に触れたくないって意図が見える。
だからこそ、私は引き下がるわけにはいかなかった。
「保田…さん…でいい?」
「やっぱりそれも嫌だね。圭ちゃんって呼んでよ。
あんたにさん付けされると、自分がえらく年を取った気分になるから」
「私の方が年下でしょ?」
「あんたいくつよ?」
「21歳…もうすぐ22だけど…」
私の答えに不満だったのか、保田は私に質問した。
「年下って…あんた、私がいくつだと思ってる?」
「25くらい…かな?」
「冗談じゃないわよ!」
途端に保田が大声を出した。
つまり、私は間違ったんだろう…
しかも実年齢より高い方に…
- 505 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/19(日) 00:10
-
「私はまだ22よ?今年23。よりによって25?
あんた、人を見る目がないんじゃない?
私の方があんたより年下って思ってたのに…」
怒りながらも図々しい一言があった。
いくらなんでも私より年下って言うのは無理がある。
それとも、私はそんなに老けて見えるのかな…
「21だなんて…」「私はまだ22なのに…」とかぶつぶつ呟くのが聞こえる。
後ろにいた小川は密かに笑いをこらえていた。
藤本はいつもどおり表情を崩さない。
ただ、いつもと違うのは、心がここにないような、抜け殻のような印象をうけたことだった。
あの時起こったことを私に話したときからずっと。
後藤が表面上元に戻ったと思ったら、次は藤本。
しかも、彼女の方が尋ねても決して答えそうにない分、後藤よりやっかいだ。
「もういい、わかった。私は圭織って呼ぶ。あんたは圭ちゃんって呼びなさい」
ぶつぶつ言っていた彼女の出した答えはそれだった。
これ以上何か言っても本題から逸れるだけなので、了承した。
「それで…圭ちゃん、後藤のことどう思う?」
「やっぱり圭ちゃんって言うのも何か…」
「誤魔化さないで!」
ピクンと体が動いた。
徐々に表情が固まり始めていた。
「おかしいって思ってるんでしょ?どうして何も言わないの?
市井がいなくなった今、後藤を助けることができるのはあなただけなのよ?」
畳み掛けるような私の問いに、圭ちゃんは俯いたまま答えない。
- 506 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/19(日) 00:11
-
「この部隊わけだってそうよ。おかしいことだらけ。
私は言ったよ。二手に分かれて敵が攻めてくる。なら、私たちも隊を二つに分けよう。
一つは、城に向かうであろう部隊を足止めするため。
もう一つは、森を迂回して砦に攻め込むために。
そうすることで、私たちの方へ向かってきていた大きな部隊は意味を持たなくなる。
これが私の作戦だったわ」
圭ちゃんは尚も黙り込んだままだった。
かまわず私は続けた。
「この場合、隊を二つに分ける際に重要な点は二つある。
敵の大きな部隊は、私たちがいないことを察知するとどうするか。
一つは城に攻めていく隊と私たちが戦っていることを知り、そこに援軍としてくる。
もう一つは砦に戻るんだ。
だから、足止め部隊には多くの人数が必要なんだ。
敵の部隊が砦に戻るのを防ぐためと、敵の二つの部隊を最終的には相手することを考えてね」
私以外、誰も口を開こうとはしなかった。
「そして、もう一つは、砦を攻める部隊は少数精鋭であること。
敵に動きを気づかれないためと、敵の部隊が戻ってくることを想定し、その前に決着をつけることが必要だから」
「あってるじゃない…だから私や圭織がこっちの足止め部隊にいる…それじゃ不満なの?」
私を睨むように圭ちゃんは言う。
「本気で言ってるの?」
私は睨み返す。圭ちゃんは口をキュッとつぐんだ。
その目は少し光って見えた。
- 507 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/19(日) 00:11
- 「だとしたら、私はちょっと買いかぶり過ぎてたのかな?仮にも元ダイバーの副隊長なんでしょ?」
わざと嫌味ったらしく言った。
わかってないはずはない。
そもそも、これだから圭ちゃんは後藤にとっての市井紗耶香に決してなることは出来ない。
狂信的と言えば言い過ぎかもしれないが、彼女は後藤を信じすぎている。
悪い方向へ向かったとしても、それを理解していながらもついていってしまう。
市井は違う。
ひっぱたいてでも正しい道を向かわせる。
そして、今の後藤に必要なのはそんな存在。
愛情といえば違ったかもしれないが、後藤にとっての大切な人である…大切な人であった市井。
後藤のその気持ちを肩代わりしてやることはできないけど、それ以外の面で後藤が市井に求めていたことは補える。
そして、それをやるのは私じゃない。
圭ちゃんでないといけないんだ。
私がやるのは簡単かも知れない。
後藤は私を上に見ている。
でも、それで私がいちいち指示を出していても進歩は無い。
後藤自身がちゃんと考えないと、リーダーになるための訓練をさせないといけない。
なにより…私の目的は後藤と違う。
今は一緒にいることになっているけど、ずっとというわけではないんだ…
「ねえ…わかってるんで…」
「あんたは何を言わせたいのよ?わかってるわよ。
後藤の選択が間違ってることくらい。
なにより、多人数を相手にするこっちの部隊に石川がいないこと自体おかしいのよ。
逆に諜報役の藤本がこっちにいるのもおかしい。
ついでに言うと、圭織、あんたがこっちにいることが一番おかしいのよ。
あんたと後藤だけでいくのが正しいわよ。
そうでしょ?何?自分が行きたかったのに、こっちに回されたのが嫌なの?」
私の言葉を遮り、一気にまくし立てられた。
さすがによくわかってる。
だからこそ、余計にさっきの考えが頭に強く残る。
- 508 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/19(日) 00:52
- 「何よ、図星突かれると何もいえないの?
そりゃそうよね、紗耶香がいなくなって、これで本当にあなたが大陸一の戦士になったんだもんね。
自分の力に自信があるから、こんなとこで囮になるなんて我慢ならない…」
私に浴びせられる汚い言葉は途中で途切れた。
圭ちゃんの前には小川が立っていた。
両の拳は硬く握られ、今にも殴りかかりそうだった。
その剣幕に圧される形で、圭ちゃんは言葉を止めたんだろう。
「飯田さんは、そんなこと思ってない…ただ後藤さんが心配なだけなんだ・・・
あなたはそんなこともわからないんですか?」
叫ぶように言う。
「小川、いいから」と、私は彼女を制する。
そうでもしなければ今にも殴りかかりそうだった。
圭ちゃんが本心で言ったことじゃないくらいわかってる。
弾みで言ってしまったことなんだろう。
このことも後藤の影響が強いことの証明だった。
私に肩をしっかり捕まれても尚も圭ちゃんを睨みつける小川。
彼女の私に対する思いは、圭ちゃんの後藤に対して抱いているそれと遜色ないように思えた。
- 509 名前:takatomo 投稿日:2003/10/19(日) 00:53
- >>503-508
更新終了です。
最近話自体は全く進んでないような気がする…
- 510 名前:takatomo 投稿日:2003/10/19(日) 00:59
- >>501
ありがとうございます。
最近後藤さんが本当の主人公になってる気がしてなりません…
みんな彼女のこと考えてばっかりで…
>>502
ありがとうございます。
後藤と藤本の今後はどうなるんでしょうか
本筋ともどもそちらの方も注目していただけると。
- 511 名前:紅屋 投稿日:2003/10/19(日) 17:22
- 読み応えありました!目が離せません。
素敵な文章でうらやましい。
複雑な人間模様がこれからも気になります。
- 512 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/26(日) 23:54
- ガサガサガサと前方から大きな音がしたのはその時だった。
緊張が私たちの間に走りぬけた。
敵?
いや、早すぎる。
街道まではまだ少し時間がかかる。
それとも、私たちの後方から攻めてくる作戦だったの?
考えがまとまらない間にも音は大きくなってくる。
「上です!」
藤本の声だった。
見上げると、大きな塊が木々の間を飛び移っていた。
猿という可能性も考えたが、それは違う。
猿でもあんなことができるだろうが、猿よりももっと遭遇する可能性の高いものがある。
敵に違いない。
たった一人でくるなんて、何かの罠なんだろうか?
慎重に動きを目で追っていく。
私たちの上をグルグル回っているようだ。
だんだん下に下りてきているのもわかる。
「いいらさん!」
その声と共にその物体は下りてきた。
聞き覚えのある声だったことが、反射的に槍を下げさせた。
「辻?」
目の前に下りて来たのは辻希美。
間違いなく辻希美だった。
- 513 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/26(日) 23:55
-
「待って!」
周りの武器を抜く人間を制する。
圭ちゃんに至っては斧を既に振りかぶっていた。
「どうしてこんなところに?」
「ののはいいらさんと一緒に行きたいのれす」
不安そうな瞳で私を見上げて辻は言った。
「罠です。また罠に決まってます」
藤本の声。その声が引き金となって一斉に非難の声が上がった。
「うるさい。黙ってくれないかな?」
藤本を制する。
きつい調子で言ってるわけじゃなかったが、周りの人間まで抑える効果は十分だった。
「どうして?どうして私たちと一緒に行きたいの?」
「あいぼんは、駄目なのれす。
いいらさんはののに何もしてなかったのに…あいぼんはあんなことをして…
約束を破る人はさいてーの人間なのれす。
だから…ののはいいらさんについていきたいのれす」
笑顔で一生懸命話す辻。
澄んだ瞳を疑うほど私の心は捻じ曲がっていない。
それに嘘をついているかどうかわからないほど鈍いわけでもない。
つまり、私はこの子を信じるってこと。
- 514 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/26(日) 23:57
-
「ちょっと圭織、正気?どうしてこんな子の言葉信じるのよ?」
「大丈夫」
「大丈夫って、そんないい加減な…どうしてそんなことが言えるのよ!
そんなわけのわからない理由で、みんなが納得すると思ってるの?」
圭ちゃんは更にまくし立てた。
「誰がこの子を信じるっていうの?あんたが信じても、周りは誰も信じない。
周りは全員この子を憎んでる。ましてや昨日の今日だよ。
ミニモニ公国の人間に私たちが憎悪以外の感情を抱けると思う?」
圭ちゃんは辻と私を交互に睨み付ける。
周りもそうだった。
藤本さえも私にきつい視線を向けていた。
辻は私の手にしがみつき、後ろに隠れた。
「駄目なの?どうしても?」
私の問いに答えは返ってこなかった。
駄目でないわけがないことは明らかだった。
「いいらさん…」
辻が涙を浮かべて私を見上げる。
たった数日間、しかも敵として一緒にいただけの辻。
なのに、どうして私はこの子のことがこんなにも気にかかるの?
どうしてこの子を守ってあげたいと思ってしまんだろう?
「どうして駄目って言うんなら、私はここから抜ける」
「ちょっと、圭織何言って…」
「本気だよ…私はこの子と一緒にいる…この子を受け入れられないって言うなら私がでていく」
賭けだった。卑怯な言い方だけど、これしか思いつかなかった。
でも、どこかそれが本心でもあった。
- 515 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/26(日) 23:58
- 私が出て行くことの影響が小さいはずが無い。
今は兵が少しでも欲しいときだ。
市井が死んで、兵士の士気は下がっている。
その上私までいなくなったら…
自意識過剰だけど、少なくとも間違いではない。
彼らには私が必要なんだから。
私の言葉に兵士がどよめくのがわかる。
どうやら私は賭けに勝ったみたいだ。
「わかった…そのかわり、絶対圭織が監視してなさいよ…
もし何か起こったらあんたの責任だからね」
言葉を搾り出すようだった。
彼女なりの精一杯の妥協だったんだろう。
「監視」という辺り、彼女の嫌悪感は相当のものだとわかる。
それは当然のことだし、自分がどんなにバカな選択をしているか、よくわかっている。
でも、それでも譲れないものっていうのがわかった。
友人を失ったとしても守りたいもの。
それが私にはできた。突然に。
わからない。
どうして彼女が私にそこまでさせるのか。
小川は戸惑った表情のまま、遠巻きに私を見ていた。
藤本も表情を変えていなかったが、目の奥には驚きの表情が見て取れた。
私は何も言わなかった。
これ以上何を言っても無駄だから。
とりあえず認めてもらえた。
後は辻自身がみんなの信頼を得るようにがんばるしかないんだ。
「辻、あなたの部隊はどこら辺にいるかわかる?」
辻はこくんと頷いた。
- 516 名前:takatomo 投稿日:2003/10/27(月) 00:00
- >>512-515 更新終了
期間開いた割に短くてすいません。
しかも最近話自体は進んでない予感…
- 517 名前:takatomo 投稿日:2003/10/27(月) 00:08
- >>515 うわ、前回更新のときと同じコメントを残してるや…
>>511
ありがとうございます。
素敵な文章なんて…うれしいですが、そんな大したものでは無いです。全然駄文です。
お忙しいでしょうが、紅屋さんも更新期待しております。
- 518 名前:名も無き読者 投稿日:2003/10/29(水) 18:43
- >>516
話自体がおもしろいので無問題です。
更新期待して待っております。
- 519 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/29(水) 23:47
-
「ところで、あいぼんってもしかして、辻と同じ頭してる女の子?」
両手を握り頭の上において尋ねた。
辻はこくんと頷いた。
「そっか…」
小悪魔という感じではなかった。
かすかに見た「あいぼん」は、明らかに意図的な悪が感じられる笑みをしていた。
それに、あの放たれた矢は恐ろしいものだった。
私に放たれていても落とせなかっただろう。
急所を避けるだけで精一杯。
不意打ちなんてされたら命を落としかねないほどのものだった。
「いいらさん…この先にのののいた部隊があるのれす」
彼女が右側を指差す。
周りの視線が「それは嘘だ」と言っている。
もう声を出していう者はいなかったが、それは明らかだった。
「ありがとう。そっちにいこうか」
辻の頭を撫でてあげる。
私の腰くらいまでしかない彼女は、首を思いっきり曲げて私に向かって笑った。
「行こう」
私の声に続く足取りは重い。
嫌々私についていっているのが後ろからひしひし感じる。
私は無理にペースを上げた。
後ろが早く歩かないとついてこれないペースまで。
- 520 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/29(水) 23:48
-
◇
目的のものは意外と早く見えた。
木々の間から敵の姿が見え隠れする。
乱れる呼吸を整えるように私はペースを落とした。
正面か真後ろから出ないと苦しい。
横から攻めると一瞬で周りを囲まれてしまう。
丁度、扇の真ん中に入るような形になってしまうからだ。
どうせなら後ろからがいい。
敵の進行を見ながら、徐々に距離を詰めていく。
彼らの背が低いのが幸いしている。
草木のせいで視界が悪く、こちらの存在に気付いていないようだ。
それとも、私達がここにいるはずないと確信しているのかもしれない。
私はさっと手を上げた。
それが合図となって私達はなだれ込む。
敵もようやく気付いたようだったが、武器を構える頃には私は2人の人間を斬っていた。
そこからは乱戦だった。
森と平地の境界で一気に戦線が展開された。
向こうの方に圭ちゃんの姿を確認する。
身長差に加え、圭ちゃんは大きな鎧と大きな斧。
目に付かないわけはなかった。
まさしく巨人と小人の戦いに見えた。
藤本の姿も見える。上手く小川をサポートしてくれているみたい。
藤本がひきつけて小川が刺すというパターンが確立しているようだった。
それに、失礼な話だが以前にあった兵と比べて明らかに弱かった。
これなら彼女達でも大丈夫だろう。
おそらく奇襲の目的だったから兵をそれほど揃えてなかったんだろう。
実際、今は城はがら空きの状態なんだから…
- 521 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/29(水) 23:49
-
後は…辻か…
この状況で辻を発見するのは困難だった。
私は名前を叫びながら敵を切っていった。
だが返事は無い。
悲鳴と怒声が響き合うだけだった。
何人も敵を倒していくうちに、私の右半身は真っ赤に染まっていた。
それは全て返り血で。
受けた傷はかすり傷程度のものがいくつかだけだった。
圭ちゃんの姿が遠くに見える。
藤本たちはもう見えなかった。
その時だった。
争いあう小さい子とそれを後ろから斬ろうとする味方。
あろうことかその剣先は辻の方に向かっていた。
「辻、後ろ!」
私の声に気付き、大きくジャンプする辻。
一瞬前まで体のあった位置を剣が空を切った。
周りにいる敵を一気に蹴散らし、私は詰め寄った。
「あんた、仲間を攻撃してどうするのよ」
「あ、すいません。見分けがつきませんでした」
その目は笑っていた。
私は震える手を懸命に抑えた。
信じられなかった。
わざと辻を殺そうとするなんて…
- 522 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/29(水) 23:50
-
「辻、私の側にいなさい」
既にいくつもの傷を辻は負っていた。
それが敵によるものなのか、味方によるものなのかわからない。
でも、辻はわかっているだろう。
だから何も言わなかった。
口をきつく縛ったまま黙っていた。
辻がそんな態度なのに、私がそれ以上何かできるはずもない。
とりあえず、今は辻は私が守ろう。
終わってからだ。
終わってから考えよう…
敵の数は徐々にではあるが減っているようだった。
呼吸が激しく乱れ、槍の重みを感じるようになってきた。
徐々に私の体にも傷が増えていく。
更にもう一つの部隊がこっちにくることまで考えたくはなかった…
このままじゃ全滅する…
どうして足止めだけにしなかったんだろう?
私のミスだ。
敵を全滅させて辻のことを認めてもらおうなんて、そんな私情を挟むなんて…
指揮官失格だよ、後藤。
あんたに偉そうに言ったのにね…
目の前の敵を倒す。
体に染み付いた血は黒く変色を始めていた。
戦いはまだまだ終わりそうになかった…
<14−2 Kaori's view 終 >
- 523 名前:takatomo 投稿日:2003/10/29(水) 23:53
- >>519-522 更新終了。
前回の更新で現在この板で一番長いスレになってたんですね。
まだまだがんばっていきますのでよろしくです。
- 524 名前:takatomo 投稿日:2003/10/29(水) 23:55
- >>518
ありがとうございます。
そう言っていただけるとすごく気が楽になります。
- 525 名前:とこま 投稿日:2003/10/31(金) 21:42
- 更新お疲れ様です。
この先どうなるのだろう・・・。
- 526 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/31(金) 22:08
- <14−3 Natsumi's view>
「なつみ様、麻美様の容態が…」
「何?すぐ行く」
使いの者を押しのけ廊下を走った。
角を曲がってすぐのはずがとても長く感じられた。
もう麻美に会えないのでは?
その思いを必死に消しながら全力で走った。
「麻美!」
扉を開け放った叫んだ。
ベッドの周りには医者が一人。従者が1人だった。
「麻美は、麻美は大丈夫なの?」
医者に詰め寄った。さっさと大丈夫と言って欲しかった。
ベッドの麻美は目を覚ましていなかった。
激しい呼吸の音が耳に入るたびに私の心は切り裂かれていった。
「は、はい…なんとか薬で落ち着きましたが…」
「が?落ち着いたが何だ?続きを早く言え!」
「……次の発作が起きたときはどうなるかわかりません…」
どうなるかわかりません。
一度反復した。
次の発作が起きたときはどうなるかわかりません。
もう一度。
- 527 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/31(金) 22:10
- だが、何度繰り返したところで言葉の意味は変わらなかった。
私は部屋を飛び出して叫んだ。
「吉澤どこだ!どこにいるんだ!」
「ここですよ。どうしたんですか?」
背後から声がした。
いつもの黒いローブ姿が立っていた。
「どうしたじゃない、約束が違うぞ!どうして麻美は治らないんだ!」
「大丈夫です。ちょっと具合が悪くなってるだけです」
襟元を掴んでいた私の手を外しながらそう答えた。
「大丈夫だって?どうしてそんなことがわかるのよ?
次の発作で死ぬかもしれないんだ。どうして貴様は…」
殴りかかった私の拳は空を切った。
「かっかしないでください。私が最初に来た時のこと覚えてるでしょ?
私が大丈夫って言ってるんです。信じてくださいよ」
意地悪く笑う。
結局はこいつを信じるしかない。
そのために圭織も犠牲にした。
私は守りたかった。
友人を失っても麻美を守りたかった。
- 528 名前:14 The way of the destiny 投稿日:2003/10/31(金) 22:12
-
「麻美さんのことが心配なら、早く他の国を制圧してください。
そうでないと、私は麻美さんを治す力を取り戻せないんですから」
肩に置かれた手。
服の上からでも冷たく感じた。
吉澤が本当に人間なのか、わからないことがよくある。
どこからともなく現れ、消えていく。
本当にこいつを信じていていいのか?
心のどこかで警鐘が鳴る。
でも、麻美を治すことができるものはこの世にはいない。
いるとすれば吉澤だけだ。
なら、吉澤の言うとおりにするしか、私の選択肢はなかった。
「わかった…でもこれだけは言っておくよ。
もし麻美が死んだら、あんたの命も無いからね…」
肩の手を振り払い、私は麻美の部屋へと戻った。
医者は尚も寄り添ったまま。
麻美の呼吸音は部屋に入っただけで聞こえるほど大きなものだった。
「麻美…もう少しだけ待ってて…お姉ちゃんが必ず治してあげるから…」
これ以上麻美の苦しむ姿を見るのに耐えられず、部屋を出た。
部屋を出てもまだ麻美の苦しむ声が聞こえているようで、私は耳をふさいだ。
<14−3 Natsumi's view 終 >
- 529 名前:takatomo 投稿日:2003/10/31(金) 23:05
- >>526-528 更新終了
もうちょっと更新したかったのですが、時間無いので明日か明後日にします。
- 530 名前:takatomo 投稿日:2003/10/31(金) 23:10
- >>525
ありがとうございます。
そろそろ後半にさしかかろうとしてます。
今年中にとりあえず終われたらいいのですが、どうでしょう…
- 531 名前:名無し読者 投稿日:2003/11/02(日) 15:53
- 続きが気になる…。
けど終わってほしくない…。
でも完結してほしい…。
作者さん、あと半分がんばって!
- 532 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 01:15
- <15 The way of the victory >
<15−1 Rika's view>
鬱蒼とした茂みの中を進んでいた。
カサカサと足元で草が鳴り、時折横から伸びる枝に当たる。
飯田さんたちと別れてからどれくらい経ったんだろう?
どの方向に進んでいるかもわかっていなかった。
前を進むごっちんの後を懸命についていった。
こっちの部隊は私を含めて10人。
ここに美貴がいないのは意外だった。
指名したのはごっちんだから、その真意はわからない。
私よりも美貴の方が適任だと思うんだけど…
「あんた、ちょっとペース落ちてきたんちゃう?疲れてんの?」
横から声を掛けられた。
疲れてないといえば嘘だけど、ペースを落としてるつもりは無い。
休んでる暇は無いのはよく理解してるから精一杯ついていってるのに…
「そんなことないです!」
「無理せんでええって」
急に体が浮いた。
さっきまで走っていたはずなのに、いつの間にか私は担がれていた。
「精霊師さんは体力ないんやろ?おぶっていったるわ」
どんどんペースが上がっていく。
とても人一人背負ってるとは思えなかった。
- 533 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 01:16
-
「ああ、私は稲葉貴子や。よろしくな、石川梨華さん」
「あ、よろしくお願いします」
稲葉と名乗った女の人の背中に揺られたまま、森を抜けていく。
ごっちんもそのことに気付いているのかな。
どんどん速度を上げていくのがわかった。
そして、前を進むごっちんの足がピタリと止まった。
すぐ目の前には砦がそびえ立っていた。
「梨華ちゃん、あそこまでこの人数で飛べる?」
指された指は砦の外壁の上。
ゆうに3階くらいの高さの壁だった。
「いけると思うけど…見つからないかな?そんなに素早く動けないから…」
「そっか…ならこうしようか。あんた達8人は正面から行って。
私と梨華ちゃんは兵がそっちに向かう隙にここから侵入する」
ごっちんの言葉が終わらないうちに8人は動き出していた。
ごっちんの考えを予想していたかのような素早い動き。
でも、たった8人で大丈夫なんだろうか?
いくら敵がこっちに攻めてきてる隙といっても、空いている私達の城を狙おうとする相手だ。
きっと、自分達にもその可能性が無いわけじゃないって思ってるはず。
- 534 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 01:17
-
向こうの方が騒がしくなった。
きっと戦闘が始まってるんだろう。
「ねえ、8人だけで大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だって。そう簡単にはやられないから」
心配する私とは正反対の落ち着いた声。
「そんな…どうしてわかるの?」
「あいつら、元ダイバーなんだから…さ、そろそろ行こうか」
そこで話は打ち切られた。
確かに、稲葉さんの身体能力の高さはさっき実感した。
きっと、飯田さんなら大丈夫って言うんだろうな。
でも、私はダイバーの本当の実力を見たこと無い。
だから、やっぱり心配で仕方なかった。
「行こう。あいつらが心配で助けたいんだったら、私達がさっさとやること済ませたらいいでしょ」
「うん…わかった…やる。私にしっかり捕まっててね」
構成を組み始めた。
体がふわっと持ち上がる。
出来るだけ力を上げて素早く上に移動する。
幸いなことに敵に見つかることはなかった。
- 535 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 01:18
- 外壁の上から正面の門の様子がチラッと見えた。
思っていたより敵の数は少なそうだが、それでも8人で相手するには無謀な数に見えた。
「あ、あそこに入って」
人が一人通れるほどの窓。
ゆっくり近づくと、ごっちんが私から片手を離して窓を剣で壊した。
そして、そのまま中へ飛び移る。
私も後を追うように中へ入った。
石造りの部屋だった。
何も無い、監獄のような部屋。
そう思えば、ごっちんの壊した窓も鉄格子がかかっていた。
もしかしたら本当にそうかもしれない。
ごっちんは戸を少し開けて廊下を覗いた後、私に目で合図した。
二人ですっと廊下に出る。
廊下は人が二人すれ違うことのできるくらいの広さ。
石造りで歩くたびにカツンカツンと音がするため、慎重に進む。
ごっちんはどこに進んでいるのだろうか。
曲がり角でも迷うことなく進んでいく。
敵は全くいなかった。
陽動作戦が成功している証拠だった。
階段を二つ上ったくらいで、一つの部屋の前で止まった。
ごっちんは親指でそこを指す。
私は頷いた。
- 536 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 01:19
-
勢いよく扉を開け、そのまま中へ入る。
ごっちんは入るなり中の人に飛び掛っていた。
「貴様…後藤!なぜ…」
言い終わる前に床には赤い斑点がいくつもついた。
「あんただけは許せない…すぐに殺してやんないんだから」
そう言ってごっちんのにらみつけた相手は、アヤカさんだった。
「ほら、左手しか傷つけてないから武器持てるでしょ。剣抜きなよ」
挑発するようなごっちん。
私からは見えないが、どんな表情をしているかはアヤカさんの怯えた顔を見れば想像がつく。
「抜かないの?なら殺すけど」
アヤカさんの手は震えていた。
左手で右手を掴み、ゆっくり剣を抜く。
構えた瞬間、剣ごと右手が床に落ちた。
私にはごっちんの剣の動きが見えなかったが、結果から考えると、腕を切り落としたんだろう。
鮮血が部屋を染め、血の臭いが一気に鼻をつく。
それとともに悲鳴が部屋に響いた。
- 537 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 01:20
-
「どう?あんたが市井ちゃんにしたことに比べたらどうってことないでしょ?」
更に詰め寄るごっちん。
その剣が青く光り始めているのに私は気付いた。
これは…あの時の再来になっちゃうんじゃ…
私はあの時のことを話でしか聞いていない。
でも、あの時の傷ついたみんなの姿は目に焼きついていた。
そして、体は無傷なまでも、一番傷ついていたのがごっちんだったのも知っている。
ごめんね…ごっちん…
私は構成を組んだ。
少々大きな術だったが、急いでくみ上げて放った。
アヤカさんの体は風の刃で切り裂かれ、深い傷からさらに激しく血が噴出した。
ごっちんは振り返った。
その顔が返り血で赤く染まっていた。
「ごめんね…でも、駄目だよ」
私はそれだけ言った。
ごっちんは剣を一度振って血を飛ばした後に鞘に収めた。
アヤカさんの体はビクンビクンと痙攣を繰り返していた。
誰の目にももう助からないとわかった。
「下に行こう…もう用は終わった…」
俯いたまま、ごっちんはゆっくりと部屋を出て行った。
前髪でよく見えなかったけれど、頬を伝う一筋の光が見えたような気がした…
<15−1 Rika's view 終 >
- 538 名前:takatomo 投稿日:2003/11/03(月) 01:21
- >>532-537 更新終了
15章終わったら外伝一つ入れます。
- 539 名前:takatomo 投稿日:2003/11/03(月) 01:23
- >>531
ありがとうございます。
最後の最後まで、ご期待にこたえられるようにがんばります。
- 540 名前:とこま 投稿日:2003/11/03(月) 19:11
- 更新お疲れ様です。
ごっちん、辛いだろうな・・・
- 541 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 23:31
-
<15−2 Kaori's view>
吐く息は血が混じり、口の中は血で湿っていた。
四肢は痺れ始め、心臓は体から飛び出そうなほど強く拍動していた。
首に絡みつく髪。
血で滑る槍。
頭はすでに考えることを放棄しようとしていた。
傍らの辻も肩で激しく息をしていた。
時折倒れそうになる体を剣で支えることがあった。
敵の数は目に見えて減っていた。
数的有利は完全に消滅していた。
後は、体力的な問題だけ。
そして…もうすぐ来るであろう援軍の問題だけだった。
森の方が騒がしくなる。
それとともに、私の耳に声が届いてきた。
「敵が来ました」
くそ…最悪だ…
口に溜まった血を飲み込み、一度喉を潤してから、大きく息を吸い込んだ。
「みんな、あっちの崖に集まれ」
険しい崖の前。
そこを指差した。
どこまで声が聞こえているかわからないが、周りの敵を倒しつつ辻と共にそちらへ向かった。
聳え立つ崖を背負って戦うことは得策でない。
退路をふさがれることになるからだ。
でも、今の状況では逃げきれるわけがない。
それなら後方からの敵を考えなくて済む崖を背にしたほうがいい。
- 542 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 23:31
- こっちに向かってくる味方の中から圭ちゃん、小川、藤本の姿を確認し、胸を撫で下ろす。
そして、森の中から援軍の姿が見えた。
予想通りの数だった。
今のこちらの人数よりもはるかに多い。
勝算なんてあるわけがない。
生まれるとすれば、後藤たちの到着が最低条件だ。
敵の一団はすぐにこちらに向かってくる。
ぐるりと包囲するように私達を遠巻きに囲んだ。
「後藤はどこにいったんですか?」
「さあ?」
敵の隊長らしき人物の問いかけに私は首を振って答えた。
「ここにもいない。私達が始めにいた場所にもいない。
なら、どこにいると思う?」
相手は考え込むそぶりをみせていた。
いいぞ…少しでも時間を稼がないと…
「城か…いや、砦…」
「どっちだと思う?」
「どっちでもかまわない。お前達が吐くか、死んでから城に行けばいい」
「へー、砦に向かったなら、残ったお仲間が殺すと思ってるんだ」
私達に攻撃を始めさせる前に会話を繋いだ。
- 543 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 23:32
- 「飯田さん…あと少しです…」
後ろから藤本が囁く声が聞こえた。
振り向かずに頷く。
何があと少しかわからなかったけど…
「ふん、そんなことはお前達が心配する必要は無い」
さっと手を上げると、周りの兵が一斉に構えた。
やばい…
「ちょっと待つのれす」
「おお、辻さん、いなくなったと思ったらこんなところにいたんですか」
「どうして、どうしてあいぼんはあんなことをしたのれすか?」
「そんなことは知らない。私とアヤカは命令通りに市井を始末しただけだ」
「貴様…」
圭ちゃんの前に手を出して制する。
まだ我慢だ…ここで戦いを始めても無理なんだから…
辻は私の方をチラッと見た。
彼女も自分がやるべきことがわかってくれてるようだった。
「だから、ののはいいらさん達についていくのれす」
「ふーん、やっぱり裏切るんだ」
「違うんれす。裏切ったのはあいぼんなんれす!」
「そう、だったらここで死ぬことになるね」
「ミカちゃん…いつからそんな人になっちゃったんれすか…
昔はののにもやさしくしてくれたじゃないれすか…」
「そんなこと、知らないよ。命令なんだから当然でしょ。
辻ちゃんが甘すぎるのよ」
「そうれすか…」
辻が下がると共に、藤本が私の背中を小突いた。
「辻、ありがとう。ごめんね、嫌な思いさせちゃって…」
「大丈夫なのれす。ののはちゃんと役立ちましたか?」
「うん、ありがとう」
これから何が起こるかわからない。
でも、藤本が何かに気付いているのは確かで、それの準備ができているのも確からしかった。
- 544 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 23:33
- 敵が一斉に動いた。
私達も武器を構える。
両者の間に光が走った。
光の後には大きな柱。
ものすごい風が吹き付け、私達は崖まで叩きつけられた。
全身を襲う衝撃で呼吸が出来なくなった。
風は尚も勢いを弱めることなく吹いていた。
その中でなんとか目を開けると、その柱の正体がわかった。
竜巻だ。
竜巻がいくつも私達の周りに発生していた。
吹き付ける風に身動きが取れないため、それをずっと見上げていた。
こんなことが出来るのは一人だけ。
竜巻が次第に細く、小さくなっていく。
それと共に体の自由がきくようになった。
竜巻の後から敵の姿がでてくる。
一つの塊になった彼らは全く動かなかった。
「大丈夫ですか、皆さん」
上から声がした。
崖の上には後藤と石川の姿があった。
精霊術を使って降りてくる。
「石川…」
「お待たせしました。砦にあった馬を使って全速で来たんですけど…」
こんなことができるのは彼女しかいないことはわかっていた。
だから、彼女の登場には驚いていなかったけど…
精霊術というものにはこの前から驚かされてばかりだ。
「大丈夫ですか?」
「ああ、助かったよ。でも、もう少しお手柔らかにお願いしたかったかな」
「ふふ、すいません」
- 545 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/03(月) 23:35
-
ガタン
敵の山から音がした。
兵の体を押しのけて立ち上がったのは、ミカだった。
「貴様ら…よくも…」
「あんたさ、状況を見てから言った方が良いんじゃないの?」
後藤の声。
剣をすっとミカに向けていた。
周りをゆっくり見回すミカ。
彼女の目には敵しか映っていないはず。
「覚えてろ」
そういい残して走り出すミカ。
「そーゆー言い方、古いって」
すぐに後を追う後藤。
ミカは森まで逃げることが出来ずに、すぐに後藤に背後から斬られた。
私はとっさに辻の目を手で塞いだ。
「これで、ひとまずおしまい…次はこっちの番だよ。こっちから攻めてくよ」
後藤の言葉に兵士達は、さっきまでの疲れはどこへいったのか、後藤の下へ声を上げて駆けていく。
辻、小川、藤本、そして石川と私だけが取り残されていた。
「あ、飯田さん」
藤本の声。
それに続いてドスンという音がした。
見ると、石川がその場に倒れていた。
「石川、石川」
声を掛けても全く反応しない。
「ちょっと、石川、石川」
頬を軽く叩くが同じ。
顔を見合わせる私達。
向こうの方ではそんなことを一切知らない兵士達が歓声を上げていた。
<15−2 Kaori's view 終 >
- 546 名前:takatomo 投稿日:2003/11/03(月) 23:36
- >>341-345 更新終了
15章がすぐに終わってしまいそうだ…
- 547 名前:takatomo 投稿日:2003/11/03(月) 23:43
- >>340
レスありがとうございます。
後藤といい、藤本といい、辻といい、問題山積みのような気がします。
どうなっていくんでしょうか…(オイ
- 548 名前:takatomo 投稿日:2003/11/03(月) 23:44
- >>547
340じゃねー>>540だ…すみません。
- 549 名前:とこま 投稿日:2003/11/04(火) 20:21
- 更新お疲れ様です。
石川さん、カッコいいですね〜。
- 550 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/06(木) 23:44
-
<15−3 Mari's view>
バンッ
机を叩いた。
手が痛い。
でも、それよりも心が痛かった。
前に座る加護は、平然とし顔で表情一つ変えてなかった。
「どうしてあんなことしたの?」
加護が城に帰ってきたのは2日前。
5日前の出来事を聞いたのは今朝。
私に報告したのは加護ではなく、別の人間だった。
「どうしてって、勝つために決まってるやん」
「勝つため?」
「そうや、矢口さん、私はあの市井紗耶香を殺してきてんで。
もっと労いの言葉とか、褒め言葉とかかけるのが筋ってもんちゃうの?」
腕を組んで、尚もふてぶてしい態度をとる加護。
彼女にとって私は何?
とても王に対する態度には見えなかった。
それでも、私にはそのことを言葉にすることはできなかった。
- 551 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/06(木) 23:45
- 「なあ、どうなん?」
黙っている私の顔をじっと見てきた。
私は目をそらした。
「私が最初に言ったこと覚えてるよね?」
声が震えるのを必死で抑えて言った。
加護はしばらく斜め上に視線をやってから答えた。
「ああ、あの私の代わりにってやつですか?敵さんに敬意をとかなんとかって」
笑い混じりに言われた言葉は、私の心に深く突き刺さった。
「加護…」
後に言葉を続けられなかった。
私って何だろう?
こんなことなら私もついていくべきだった。
ついていったらこんなことにはならなかった?
違うよね。
ついていったとしても、加護には何も言えなかったんだ。
結局変わんないんだよね。
私がいてもいなくても。
どうして私は王なんだろう?
どうして私はこの国で生まれたんだろう?
どうして?
ごっちん…会いたいよ…
おいら、ごっちんに会いたいよ…
- 552 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/06(木) 23:45
- 私は黙って部屋を出た。
結局この間と同じ。
逃げてばっかりだ。
もっと私に力があったら。
もっと私がしっかりしていたら。
こんなことにはならなかったのかな?
どうして私はこうなんだろう…
倒れこんだ布団は、前と同じで全てを忘れさせてくれる誘惑にあふれていた。
このまま何もせずに眠ってしまえば楽なんだ。
―――――
――――――――
- 553 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/06(木) 23:46
-
それでいいの?
悲劇のヒロイン気取っちゃってさ。
自分が誰よりも不幸だなんて思ってるんじゃないの?
違う。
本当?
逃げるって行為は楽でいいよね。
自分の知らないところで自分の大切な人が傷ついて。
その事実を後から知って、後悔する。
後悔だけして、それ以上何もしない。
また逃げるだけ。
違う!
何もしないで結果に文句言うなんてさ、最低じゃない?
違う!!
何が違うの?
いい加減さ、動いたら?
殻に閉じこもってないでさ――――
- 554 名前:15 The way of the victory 投稿日:2003/11/06(木) 23:47
- ―――
――
―
雨だった。
雨の夜。
濡れたスカートが足に絡まって転んだ。
痛かったけど立ち上がった。
そして走った。
すぐに息は切れて、足が止まる。
振り返ると城の明かりはまだまだ大きく、全然進んでないことがわかる。
もう気付かれただろうか?
見つかると私は連れ戻されるんだろうか?
休んでいる暇は無い。
私はゆっくりでもいいからとにかく進んだ。
早く…早く会いたい…
その思いだけが私を動かしていた。
<15−3 Mari's view 終>
- 555 名前:takatomo 投稿日:2003/11/06(木) 23:52
- >>550-554 更新終了。
次は外伝。柴田のお話です。
かなりご無沙汰してた人なので、詳しくは>>191-198 6−3で。
というか出てきたのが半年以上前ですね。
- 556 名前:takatomo 投稿日:2003/11/06(木) 23:56
- >>549
いつもレスありがとうございます。
とりあえずの完結まで残り5章+外伝1つとなりますので、お付き合いください。
- 557 名前:とこま 投稿日:2003/11/07(金) 20:52
- 更新お疲れ様です。
もうすぐ終わってしまうんですね・・・。
悲しいですが頑張って下さい。
- 558 名前:名無し 投稿日:2003/11/07(金) 21:32
- お初です。
物語が完結してしまうのは寂しいですけど、
続きの外伝の方も、本編の方も最後まで待ってます。
- 559 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 10:57
- <SS3 The back where it can't catch up >
<SS3−1 Ayumi's view>
私の国が征服された。
戦争が始まってからたったの2週間。
戦争と呼ぶにはあまりに一方的過ぎる戦いは終わった。
私は何も出来なかった。
母国からの便りもなく、戦争のために通行の激しくなった関所にいた。
征服した国に私はいるのだ。
しかも、それなりの地位の人間として。
けれども、奇妙な話だが、私の立場は変わらなかった。
それどころか、一通の手紙が私の元に届いた。
城への召喚状。
世界一の精霊師を決める大会の参加要請だった。
- 560 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 10:58
- ◇
王都へ来るの久しぶりだった。
今年に入ってからは初めてだろう。
去年の11の月にきたきりだったから、半年以上前である。
王都は、母国に比べて発展した都市であるのは間違いない。
でも、私は好きになれなかった。
レンガ造りの道。
遠くに見える白い城壁。
市を賑わす人の群れ。
何度見ても違和感を覚えるそれらは、私がこの国の人間で無いことを知らしめる。
足早に通り抜けて、城に向かおうとするが、城への道も人が一杯だった。
剣を差しているもの。
槍を持っているもの。
杖を持っているもの。
鎧を着ているもの。
ローブに身を包んだもの。
さまざまな人が列をなしている。
ただ、全員に共通していうることは、誰もがどこかに宝石を持っていることだった。
指輪だったり、ペンダントだったり、杖に埋めていたり。
それでも、この人数はカントリー公国で開かれる大会より多いと思う。
ちょっと嫌気が差してきた。
この中に何人まともなやつがいるんだろう…
- 561 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 10:59
- <SS3−2 Asami's view>
「あさ美ちゃん、調子はどう?」
「へ?調子?」
「試合のよ。順調に勝ち上がってるんだって?」
「ああ…」
なんだそのことか。
後に続く言葉は言わないでおいた。
「ああ、じゃないでしょ」
背中をトンと叩かれた。
「里沙ちゃんもでればよかったのに…つまんないよ…」
不満たらたらに言う。
こんなつまらない大会だったら出るんじゃなかった。
私は試合の前に名前を呼ばれるたびにため息をついていた。
「私は精霊術使えないもん。でもさ、使えてたら私が出て優勝しちゃうよ」
きっぱりと言う。
彼女のそういうところが好きだった。
- 562 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 11:00
- 新垣里沙。
彼女の名前。
仕官学校からの友人で、一番の親友。
年は1つ下だけど私と同期にあたる。
精霊術は使えないけど、仕官学校時代、槍の腕はあの飯田圭織の再来とまで言われていた。
飯田圭織といえば…もう一人の同期の名前が頭をよぎった。
いや、いい。あの子はもういないんだ…
一際大きな歓声が上がった。
試合が終わったんだろう。
もうすぐ私の番だった。
またつまんない試合が始まるのかと思うと逃げ出したくなる。
後何試合やればいいんだろうか。
その中にまともな相手がいる確率なんて、万分の一だ
The Highest Position of witch
略してHPW。
アルファベットと呼ばれる古代の言葉で綴られたその称号を求めてやってきた人間にしては、
その意味を本当に理解していると思えるほどの力がある者はいなかった。
古代語で書かれたその文章の意味は「最高の地位の魔術師」という意味だ。
カントリー公国の定めたHPNに取って代わる最高の精霊師の称号。
せめて石川梨華がいればもっとおもしろくなったかもしれないのにな…
- 563 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 11:01
-
「ねえねえ、これってさ、あの柴田あゆみかな?」
組み合わせ表をじっと見ていた里沙ちゃんは、それを私の目の前に差し出して言った。
確かに、柴田あゆみという名前がある。
私と反対側のブロックだ。
当たるとしたら決勝戦。そこまで柴田あゆみが勝ち進んだらの話だけど。
もちろん私はそこまで勝つに決まってるけどね。
「あさ美ちゃん、知らない?HPNに次ぐ精霊師らしいよ」
その名前を知らないわけが無い。
実物は見たこと無いけど…
ずっとモーニング公国で育ったといっても、一応精霊師。
でも、石川梨華に一度も勝てなかったんだよね。
じゃあ大したこと無いじゃん…
「ねえ、勝てる?」
「どうだろう?」
「大丈夫って言ってるようなもんじゃん」
「どうして?」
「全然楽しそうな顔して無いもん」
里沙ちゃんの鋭い指摘に思わず笑いが漏れた。
「さっさと優勝決めてきてね。今晩の食事は優勝賞金でおごってもらう予定なんだから」
勝手なことを言い残して里沙ちゃんは走っていってしまった。
指にはめた指輪はエメラルド。
私の生まれた5の月の石。
軽く口付けをした。
さっさとね…さっさと…
- 564 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 11:03
- <SS3−3 Ayumi's view>
朝早くから始まった大会も、もう日が傾き始めていた。
やっと決勝戦だった。
別に、大した相手がいるはずもなく、疲れなんてこれっぽっちもない。
精霊術以外、武器の使用等は全て認める。
精霊術のみしか使うことを許されなかった母国の大会とはそれが一番の違いだった。
確かに、一番強い精霊師を決めるにはそれが正しいかもしれない。
そんなルールの違いに始めは戸惑ってたが、なんてことはない。
武器よりも精霊術の方が圧倒的に強いんだ。
何も問題はなかった。
さあ、そろそろ行かないと。
ゆっくりと立ち上がる。
もし、HPWの称号をもらったら、私は認めてもらえるんだろうか。
そのことはずっと頭にひっかかっていた。
結局、梨華ちゃんはこの大会には出ていない。
つまり、昔と同じ状況なんじゃないのかな?
彼女がいないから1番になった。
裏でそういわれるだけじゃないのかな?
私がやっていることは、梨華ちゃんの力を証明しているだけなんじゃないのかな?
それでもいい。
いつか、私が梨華ちゃんを倒せばいいんだ。
そんな風に考える自分は変わっんたと思う。
何がそうさせたのかはわからないけど…
- 565 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 11:04
- 兵士の手によって扉が開かれる。
薄暗い廊下にまばゆい光が差し込んできた。
歓声も耳に届く。
自分の名前がコールされると、その歓声が一気に高まる。
それに応えるようにゆっくりと私は扉をくぐった。
相手は紺野あさ美さんだったっけな。
私より先に出てきていた彼女と向き合う。
まん丸な顔とパッチリした目。
幼さの抜けない顔。
私よりも年下に違いない。
ローブに身を包み、手には何も持っていなかった。
指には光る緑の宝石。
おそらくエメラルドだろう。
宝石と精霊には相性というもの存在する。
私の持っているアメジストのようにそれが研究されていないものも多いが。
梨華ちゃんの誕生石であるガーネットは火だ。
彼女は別だが、基本は誕生石と相性のよい精霊と進んで契約していることが多い。
それがひいては自分と一番相性の良い精霊となるからだ。
彼女の場合、エメラルドは地の精霊と相性がよい。
それと契約している可能性はきわめて高い。
だとすると、地と相性の良い火か水のどちらかの精霊とも更に契約しているんだろう。
私の精霊は水と風…
そこまで考えたときに試合が始まった。
一瞬で構成を組み、放とうとしたが目の前には誰もいなかった。
- 566 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 11:05
-
「遅いです」
下から突き上げられるような蹴りを受けた。
全く無防備だった私にボキッという鈍い音が続けて聞こえた。
アバラが折れたみたいだ。
倒れるのを必死でこらえたが、組んだ構成は吹き飛んでしまった。
痛みが集中力を削ぐ。
紺野の姿を捉えるが、術はまだ完成していなかった。
ニコッと笑う紺野。
その手にはいつの間にかダガーが握られていた。
「がっかりです。柴田さんがこんなに弱かったなんて」
手のひらを天に向けて紺野は言った。
その言葉の間に私は構成を組み終わった。
「まあ期待してたわけじゃないですけどね」
私の放った高速の風の塊とその言葉は同時だった。
だが、その言葉は私の背後から聞こえていたものだった。
「紺野あさ美、完璧です」
背中を切りつけられた。
私の意識はそこでなくなった…
- 567 名前:SS3 The back where it can't catch up 投稿日:2003/11/08(土) 11:06
- ◇
次に目覚めたのはベッドの上だった。
起き上がった際に痛んだアバラが夢ではなかったことを痛感させる。
負けたんだ。
私は。
何も出来ずに…
医者が止めるのも聞かずに私は立ち上がった。
こんなところに一秒たりともいたくはなかった。
悔しさで気が狂いそうなほど。
それとともに、自分の不甲斐なさに腹が立つ。
そして…
梨華ちゃんなら勝てただろうかと思っている自分が一番嫌だった。
歩くたびに痛みが走る。
それでも私は出て行った。
絶対このままじゃ終わらない。
私はもっと強くなるはずだと、自分に言い聞かせながら…
<SS3 The back where it can't catch up 終 >
- 568 名前:takatomo 投稿日:2003/11/08(土) 11:10
- >>563 訂正 14行目
間違い
ずっとモーニング公国で育ったといっても、一応精霊師。
でも、石川梨華に一度も勝てなかったんだよね。
じゃあ大したこと無いじゃん…
正しくは
ずっとモーニング公国で育ったといっても、一応精霊師の私が、それくらいのことは知らないわけは無い。
でも、石川梨華に一度も勝てなかったんだよね。
じゃあ大したこと無いじゃん…
です。すいません。
- 569 名前:takatomo 投稿日:2003/11/08(土) 11:12
- >>559-567 Supplementary Story3 The back where it can't catch up
更新終了です。
邦題は「追いつけない背中」です。
- 570 名前:takatomo 投稿日:2003/11/08(土) 11:17
- >>557
いつもありがとうございます。
ご期待を最後まで裏切らないようにがんばっていきます。
>>558
初レスありがとうございます。
最後まで読んでいてよかったと思っていただけるような最後になるよう、がんばって書いていきます。
- 571 名前:名も無き読者 投稿日:2003/11/08(土) 15:17
- 紺ちゃん&垣さん登場。
ごっちんたちとの絡みもあるのかな?
次回も期待して待ってま〜す。
- 572 名前:とこま 投稿日:2003/11/09(日) 14:17
- 更新お疲れ様です。
紺ちゃんとガキさんが出てきましたか。
HPWという省略形は見事です。
- 573 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/09(日) 23:37
- <16 The ground of sorrow>
<16−1 Rika's view>
真っ暗な世界だった。
上も下も、右も左もわからなかった。
浮いているのか地面に足をつけているのかもわからなかった。
「石川梨華さんですね?」
どこからか声がした。
耳から聞こえたというより、頭に直接響く感じだった。
「誰?」
私の問いかけに答えるように急に目の前に女の子が現われた。
白いローブをまとい、頭には金の髪飾り。
意外に幼い顔だったが、どこか異質な印象を受けた。
この世のものではないような。
どこか穢れのない瞳だった。
私は何を考えてるんだろう…
穢れなんて言葉が自分から出てくるとは思わなかった。
でも、そう思わせるほど女の子は真っ白。
外見だけでなくて心もそのように見えた。
「私は、時を統べし者です。石川梨華さん」
時を統べし者。
聞いたことのあるようなフレーズだった。
頭の中を隅々まで調べてみる。
ああ、そうか。
私は自分が受けた印象の理由がわかった。
神様なんだから当然だよね。
- 574 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/09(日) 23:38
- 「で、神様が何の用ですか?」
「神様とはちょっと違うんですけどね。でも、いいです。
それで石川さんが納得していただけるなら」
ちょっと困った顔をして女の子は言った。
「飯田さんに伝えてください。世界のバランスが崩れています。
一刻も早く戦争を止めてくださいって」
「どうして飯田さんに直接言わないの?」
「それは…」
もう一度困った顔をする彼女。
「私が石川さんとお話したかっただけです」
「え?」
「さようなら。またお会いしましょう」
言うだけ言って女の子は消えてしまった。
それとともに私を包んでいた闇が晴れた。
- 575 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/09(日) 23:39
- 次に目に入ったのは一つの光だった。
それが天井に吊るされたランプだと気付くのには時間を有した。
次に私を襲ったのは強烈な倦怠感。
体中に錘をつけているみたいだった。
重い上半身を起こす。
隣には飯田さんが椅子に座ったまま寝息を立てていたが、私が起きたことに気付いたのかすぐに頭を起こした。
「ここは…どこですか?」
きょとんとした顔で私を見る飯田さんに尋ねた。
「石川?大丈夫?もう痛いところ無い?」
「は…はい」
体が重いことは言わないでおいた。
飯田さんは今にも泣きそうな顔をしていたから、これ以上余計な心配をかけるわけにはいかなかった。
「私、どれくらい寝てました?」
「どれくらいってあんた、7日間よ。
突然倒れたかと思ったら全く目覚めないし…ほんとに心配したんだから」
そう言われると倒れる前のことを少し思い出した。
ごっちんが敵を切ってから私は覚えていない。
原因はなんとなくわかっている。
ここのところ強い精霊術を連発していたから、その反動だと思う。
使い始めの頃によくなった現象だけど、7日間も眠りっぱなしというのはさすがに初めてだった。
- 576 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/09(日) 23:40
- 「すいません…精霊術使いすぎるとたまになるんです。もう大丈夫ですから」
「うん。よかった。あ、そうだ、ここは国境の砦ね。石川達が取り返したやつ」
そうして、私は自分が眠っていた一週間にあった出来事を飯田さんから聞いていったのだった。
まずはこの砦に移動してから初めにあったこと。
「で、あんた達はこの子と一緒に戦えないって?」
飯田さん、辻と幾人かの兵士が机を挟んで座っていた。
間にいるのはごっちんと保田さん。
「これは兵士全員の意見です」
一人の男が言った。
ごっちんは「ふーん」とだけ言ってからこう言った。
「じゃああんたらはいらないかもね」
部屋中が凍りついた。
誰もが自分の耳を疑っていた。
「ちょっと、後藤、何を言い出すの?」
保田さんがごっちんの肩をつかんで言った。
ごっちんはさも気に留めない様子で再度繰り返した。
「あんたらどこに目をつけてるの?この子がどれだけがんばってるか、ちゃんと見えてるの?
それがわからないあんたらなんか、私にはいらない」
兵士たちは息をのんだ。
当然ごっちんが自分達の意見を支持すると思っていたのだから当然だ。
「梨華ちゃんの術が完成するまで上から見てた。
それに、この子の傷、あんたたちがつけたのがほとんどでしょ?
角度的に背が高い人間が後ろから切りつけたような傷だもん」
兵士達はお互い顔を見合わせていた。
「そんなやつらはいらない。この子は裏切る気なんて無いんだ。
あんたたちにはわからないかもしれないけど、私にはわかる。
それが不満なら今すぐ出て行きなさい」
それだけ言い残してごっちんは席を立ったのだった。
兵たちは納得しているのかはわからないが、辻には何も言わなくなった。
その後は大きな話はなかったが、飯田さんの口から美貴とごっちんの名前が同時にでることはなかった。
あの二人の間に何かあったのは確実で、それがあの時の炎だたのも間違いない。
けれども、実際に何が起こったのかを聞くことはできなかった。
本人達はもちろん、飯田さんもその話題に触れることを全身から拒否しているように思えたから。
- 577 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/09(日) 23:41
- そこまで話を聞き、私は夢の中の出来事をふと思い出し、ありのままを伝えた。
時を統べし者については飯田さんも知っているようでさほど驚いていなかった。
それに「世界のバランス」なんて全くわけのわからない言葉も飯田さんは意味がわかってるようだった。
飯田さんは以前に時を統べし者に会っていることを話してくれた。
何を話したかは全く教えてくれなかったが。
ただ、一つわかったことは、飯田さんが前に会った人とは違うということである。
どちらも年齢は同じくらいの女の子。おそらく小川よりも年下だってことは一致していた。
そこまで話しても、飯田さんは何一つ話してくれなかった。
「時が来れば話すよ」と言葉を濁されるだけだった。
どうも私だけ疎外されてるように思える。
子どもだと思われてるのかな?
これでも一応ごっちんよりはお姉さんなんだけどな。
「梨華ちゃんが目を覚ましたんだって?」
入ってきたのはごっちん。
必然的にこの話は打ち切られる。
「丁度よかったよ。これから出発するところなんだ」
「どこへ?」
「ミニモニ公国。もうすぐ出発だよ。寝たままだったら置いていくとこだったんだから」
それだけ行ってごっちんは出て行ってしまった。
気付くと飯田さんがクスクス笑っていた。
「どうかしました?」
「いやね、後藤ってばさ、石川が起きないのを一番心配してたんだよ。
何度もみんなが先に進もうっていったのに、あの子が反対してたんだから」
「素直じゃないんだから」と飯田さんは笑った。
ちょっとうれしかった。
ごっちんが私のことをそう思ってくれるなんて。
重かった体にちょっとだけ元気が戻った。
- 578 名前:takatomo 投稿日:2003/11/09(日) 23:43
- >>573-577
かなり中途半端な位置ですが更新終了。
あと出てきてないメンバーは…6期と高橋だけかな?
- 579 名前:takatomo 投稿日:2003/11/09(日) 23:48
- >>571
ありがとうございます。
ようやく登場人物が揃ってきました。
いろんなところで話が進んでますが、そろそろ収束していきますので。
>>572
いつもありがとうございます。
HPWが始まった時から温めていたネタなので、そう言っていただけるとうれしいです。
- 580 名前:とこま 投稿日:2003/11/10(月) 19:48
- 更新お疲れ様です。
いよいよミニモニと対決ですか。
楽しみに待ってます。
- 581 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/13(木) 23:56
-
雨上がりだったんだろうか。
地面は湿っていた。
湿気を含んだ空気がまとわりつく。
ただでさえ山道。
それも土でなく岩肌の見えたごつごつした道。
馬を進めるのも困難で、結局自分の足で進んでいくしかないのだ。
この国に入ってからもう一つ気付いたことは、まったく人に出会わないということだ。
そもそも町というものが見当たらない。
飯田さんに聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「ミニモニ公国の人間はね、家は建てないんだよ。
ほら、山って言っても岩ばっかじゃん。家を建てる木も惜しいんだよね。
だけど、レンガとかが一般的なほど裕福な国でもないし。
彼らは岩山に穴を掘って暮らしてるんだ」
そう言われて見てみると、なるほど、小さな穴がポツンポツンと開いている。
てっきり鉱石のための穴と思っていたけど違うかったみたい。
「ただ、鉱石をもっと南の方でやってる。
国民の大半がそこで働いているから、この辺には人はあまりいないのかもね」
私の気持ちを盗み見たかのように飯田さんは付け加えた。
- 582 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/13(木) 23:59
- 「この国は貧しい国なんです。きっと梨華ちゃんが知っているよりも、もっと…」
後ろから美貴の声。
美貴は歩くペースを上げて私の横に並んた。
「食事を満足に出来る人はほとんどいない。
過酷な肉体労働を日々強いられ、それでも手に入るのはわずかな食料。
餓死する人は後を絶たないといいます。
そして…餓死した人を食料にして彼らは生きているんです…」
胃の中のものが逆流するのをなんとか我慢する。
周りのみんなはこの会話が聞こえているんだろうか。
ごっちん、保田さん、飯田さん、小川、そして辻ちゃん…
誰も何も言わなかった。
みんな何を考えてるんだろう…
「だから、この国の王はみんなに期待されていました。それこそ狂信的なほど。
5年前の戦争で一時的にしろ、国を拡大させた。
広がった領土は彼らにとって楽園だったんでしょうね。
緑の広がる大地があったんですから」
一度美貴は言葉を切った。
誰かの反応を待っているようにも見えた。
誰も口を開くことは無かったが…
「最終的にはモーニング公国によって元の領土に戻されます。
だけど、彼らにとっては一度見た楽園は忘れられないんでしょうね。
それから執拗にもプッチモニ公国へと侵攻しようとしていたんですから。
そして、王なら絶対それをやってくれるだろうと、信じているんです。
だから彼らは勝つためなら手段を選ばないし、国のために迷わず命を懸ける事ができるんです。
その子は別みたいだけどね…」
チラッと辻ちゃんを美貴は見た。
辻ちゃんは気付かない振りをしていた。
- 583 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/14(金) 00:00
-
「ほらほら、おしゃべりしてる暇はなさそうよ」
保田さんの声。
向けられた指の先には黒い塊がみえた。
敵だ。
「石川、本調子じゃないでしょ?下がってな。
辻、石川についててあげて」
しんどい素振りを見せていなかったのに、飯田さんにはお見通しだったようだ。
それとも、辻のことを考えてだったのかな。
そうは言ってもこちらの戦力はかなり少ない。
私達の他には稲葉さん達ダイバーと、あといくらかの兵。
砦に部隊を残してきたせいもあるが、敵地へいくには心もとない数だった。
あくまで数の上では。
それがあくまで数だけの問題だということはすぐにわかる。
倍近くいた敵の軍はすぐに戦闘不能の集団と化した。
私がいるいないなんて、さして問題にならないほど、個々の力が違いすぎていた。
とんでもない大軍でもない限り、私達を止めることはできないだろうと、自分事ながら思った。
もちろん、それは自惚れでもなんでもなくて…
ただ、一つ気になったことは、私達に向かってくる敵は訓練を受けているような人間ではなかったことだった。
それがさっきの美貴の言葉とつながっているのかもしれない。
馬鹿げてる。
命令する王も、命を無駄にする彼らも。
- 584 名前:takatomo 投稿日:2003/11/14(金) 00:02
- >>581-583 更新終了
ちみちみ更新してます。
週末はもうすこし量を増やしたいです。
- 585 名前:takatomo 投稿日:2003/11/14(金) 00:13
- >>580
いつもありがとうございます。
ミニモニ公国編はちょっと重くなってしまうかもしれません…
- 586 名前:とこま 投稿日:2003/11/14(金) 20:26
- 更新お疲れ様です。
楽しみに拝読しております。
- 587 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:00
-
その後、何度も敵の襲撃にあった。
襲撃というほどの被害はでていない。
ただ、殺さないまでも、兵士以外の人間を傷つけていくのは精神的につらかった。
精霊術の反動が残っていたのも事実だけど、私はほとんど手を出せていなかった。
どこか迷っていた。
飯田さんはどうなんだろう?
小川はどうなんだろう?
そして、美貴はどうなんだろう?
私達はただの侵略者じゃないのかな?
ミニモニ公国がごっちんたちにしてきたことと同じじゃないの?
そもそも…私達の目的はこうだったの?
こんなことは言えない。
言える訳無い。
でも、その私の揺らぐ気持ちを止める出来事がすぐに起こる。
私達がミニモニ公国に入ってから5日目。
その日は奇しくも雨だった…
- 588 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:02
- 雨は嫌いだ。
雨の日はあの日を思い出す。
この旅が始まった日を…
その事実を伝えたのは誰だったか覚えてない。
ごっちんの名前を呼ぶ、一人の少女を捕まえたと。
わき道の木に寄りかかるように倒れていたらしい。
うわごとのように「ごっちん、ごっちん」と繰り返していた少女。
身長は小さく、紛れも無くミニモニ公国の人間だとわかる。
泥で汚れたスカートだったけど、ところどころにピンク色が見える。
身につけられた腕輪やペンダントと共に、彼女が一般の人間でないことは明らかだった。
遅れてごっちんがやってくる。
罠かもしれないという危惧はあったが、ごっちんはやってきた。
「ごっちん…」
私のその声に反応したかのように、少女は目を開いた。
やっぱり罠かもしれないと思い、私はいつでも術を放てるように構成を組んだ。
ごっちんは少女の顔を覗き込み、じっと観察していたが、見覚えが無いようだ。
少女が再び「ごっちん」と繰り返しているのが、荒い息の合間に漏れて聞こえる。
そのうち、ごっちんに変化が現われた。
少女にやっぱり見覚えがあったのだろうか。
「みんな、出てってくれない?」
少女から視線をそらさずにごっちんは言った。
私達は何も言わずその場を離れた。
- 589 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:03
- ごっちんが帰ってきたのはそれから少ししてから。
私の方へ来ると、手を私に差し出した。
手のひらには指輪が一つあった。
それが何の指輪か一目でわかる。
「これ…あの子の誕生石なんだ。私の大切な人のね…
梨華ちゃんなら使えるでしょ?貰ってくんないかな?」
私はそっと指輪を受け取った。
「あの子は誰なの?」
「……矢口真里」
聞いては見たものの、ごっちんが答えてくれるとは思っていなかったので驚いた。
しかも、その名前には聞き覚えがあった。
ミニモニ公国の王の名前だ。
どうしてあんな格好で?
ごっちんの大切な人?
「やぐっつあんは私と話したかったって。
ずっと私と話そうとしたけど、無理だったんだって。
そうだよね、私はいなかったんだから…」
私の聞きたいことはごっちんが話し始めていた。
徐々に涙声になっているごっちん。
「それで…加護って子がやぐっつあんを無視して…市井ちゃんを殺したんだ」
私はごっちんの言葉に対して何も声を掛けられなかった。
ごっちんの言う状況はイマイチよくわかっていない。
でも、それを詳しく聞こうとするほど私は鈍くない。
ごっちんは聞いて欲しいだけなんだ。
私の意見なんか求めてないし、私に状況を説明しているつもりもない。
「私のせいだ…私がずっとこの国にいたなら…
市井ちゃんもやぐっつあんも死ななかった…」
そこまで言うと、ごっちんは私にしがみついて泣き始めた。
指揮官ではない。ただの17歳の少女がそこにいた。
どうして私になのかわからなかったが、たまたまそこにいたからとは思いたくなかった。
私にしか言えないと勝手に解釈していた。
- 590 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:04
-
「ごめん…もう大丈夫…」
ひとしきりないた後にごっちんは顔を上げて言った。
それからちゃんと説明してくれた。
矢口真里とごっちんが幼い頃に会っていたこと。
矢口真里がごっちんと話したかったこと。
ミニモニ公国とプッチモニ公国が共に発展していくことを夢見ていたこと。
そしてそれはごっちんも矢口真里とならできるかもしれないと思っていたこと。
そして…
矢口真里を無視して戦争を進めているのは加護亜依という子だってこと。
それだけ聞くと、私の中で迷いが吹っ切れた。
私達のミニモニ公国と戦う意味がはっきり見えたから。
私は受け取った指輪を左手にはめた。
真っ赤な宝石。
私の誕生石、ガーネットの指輪を。
瞬間、光が全身を走り抜けた。
声が聞こえる。
周りから声が。
精霊の声が。
はっきり聞こえる。
みんな私に言ってくれる。
一緒に戦おうって。
さっきまで少し残っていた精霊術の反動はもうどこにもなかった。
それどころか、全身に力がみなぎってくるような感覚だった。
<16−1 Rika's view 終 >
- 591 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:05
- <16−2 Kaori's view>
世界のバランスが崩れている。
石川は確かにそう言った。
その言葉の意味がわかっているのだろうか?
石川の話を聞く限りでは、知っているわけではなさそうだ。
時を統べし者は石川には何も説明して無いらしい。
だからといって、説明するつもりは今は無い。
下手に混乱させたくない。
それに、砦にいる間に藤本が持ってきた情報が気になっていた。
モーニング公国の南の町が消滅したということ。
この理由はなんとなくわかる。
カントリー公国をモーニング公国が制圧したからに違いない。
封印が少しずれたんだ。
それで『輝ける闇』の力がもれたんだろうか。
どっちにしろ、これ以上封印を壊すわけにはいかない。
カントリー公国が制圧されたことは石川には言ってない。
いずれわかることだけど、今は聞かせたくなかった。
- 592 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:05
- 「結局圭織はは石川を子ども扱いしている」
そう圭ちゃんにも言われた。
確かにそうかもしれない。
でも、今は言うつもりは無かった。
この戦いが終われば、カントリー公国のことだけでも言わなければいけないのだろうけど。
とにかく、早くこの国のごたごたを抑えることが先決だった。
砦を出てからすでに6日。
もうミニモニ公国の城は向こうの方に見えてきている。
矢口真里の一件は、後藤が全員に向けて話した。
石川がガーネットの指輪を身につけたのも聞いた。
その二つの出来事が兵の士気を高めた。
特に石川の力はすごいものだった。
今までの精霊術が問題にならないくらい…
たぶん、普通に戦ったとして、彼女に絶対勝てるとは言い切れなかった。
士気と共に、進軍のペースも一気に上げている。
敵の犠牲を最小限にしたかった。
誰もが一番の敵を認識していたからである。
だけど、私は一つ気にかかることがあり、小川に尋ねた。
「小川、敵の動きを見てなんとも思わない?」
「どういうことですか?」
しばらく考えた後に、小川は私に問いかけた。
「敵の兵力がどれくらいかわかないけど、今までが簡単すぎてないかい?
兵士じゃない人間だったり、兵士にしても明らかに弱すぎる。
本隊だと思える奴らは少しも来ていない」
答えを言うことなく、ヒントをいくつか与えた。
- 593 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:07
-
「篭城ですか?」
私が最も望む答えを彼女は返してきた。
「そうだと思うね。どう考えても」
「だとしたら…」
小川の言いたいことはわかる。
さすがに良くわかっている。
篭城をしてよいとされる原則はただ一つだ。
それは、援軍のくる可能性があるときだけ。
とすれば、相手には援軍が来るという見込みがかなり早くからあったと考えてよい。
どこから援軍がくるのかわからない。
でも、援軍の当ては一つしかなかった。
モーニング公国の軍だ。
砦を攻めてきたタイミングもそれで解決する。
ミニモニ公国とモーニング公国はつながっているにちがいない。
だとしても私達が取る方法は一つだけ。
援軍が来る前に城を落としてしまうことだ。
幸い、もう城は見えてきている。
このまま一気に城を落とすしかない。
援軍と前後から挟まれれば、勝てる見込みは少なかった。
後藤にこのことを伝えると、すぐに了承してくれた。
夜まで待って城を攻める予定だったが、すぐに攻めることになった。
- 594 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:07
- 白い城壁が聳え立つ。
門は硬く閉じられ、堀を挟んでの跳ね橋は上げられていた。
石川がすっと前に出る。
「ちょっと下がっててください」と言ってから精霊術を使う。
彼女の力の大きいせいなのか、組んだ構成が光となって見える。
すごく緻密な作業だった。
機を織るように、光が綿密に折り重なっていく。
初めて見る精霊術の構成というものは、神秘的な織物だった。
組まれた構成が放たれた。
光が城門に届いたかと思うと、大きな爆発音とともに綺麗にくりぬかれた。
奥からたくさんの兵が集まってくるのが見える。
再度石川が構成を組み始めるが、それよりも早く無数の矢が放たれる。
かなりの距離があるが、自分達と同じくらいの大きさの弓で放ってくる。
それを支えるバランスと力には感嘆するが、いかんせん距離が遠すぎる。
私と後藤が石川の前に立ち、それを難なく落としていく。
構成はまだ組み終わらない。
やはりこれだけの大きな術は時間がかかるのだろう。
それにしても、以前なら詠唱が必要だったであろう術が、詠唱無しでできている。
しかも、今の術の方が威力は大きいように思えた。
- 595 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:08
- 「出来ました」
石川の声に、私とごっちんは石川の後ろへと回る。
そうして、再び精霊術が放たれた。
今度は少し狙いが違うようだ。
ぽっかり開いた城門跡に向かった光は途中で二つに別れ、跳ね橋を支えている太い鎖を切断した。
ギギギと派手な音と共に跳ね橋が降りてくる。
城への道は石川一人の力で難なく開けられた。
一気に私達はなだれ込む。
相手はまさか跳ね橋が落とされるとは思ってもみなかったんだろう。
慌てて弓を置き、武器を構える者。
弓しか武器を持っていなく、他の武器を探しに行く者。
まだ弓で攻撃しようとする者。
てんでばらばらだった。
「後藤、雑魚は任せといて。あんたは加護って奴を探しにいきな」
城の中へ入るためにはまだまだ先へ進まなくてはならない。
石川の精霊術が完成し、城までの道を埋める兵に向かって次々と放つ。
威力は無いまでも、敵を退かせる目的は十分だった。
城の中に入っていく後藤と石川、そして藤本の姿を確認し、私は城の扉の前に立った。
「ここから先にはいかせないから」
ぺロッと唇を一度舐め、私は槍を構えた。
<16−2 Kaori's view 終 >
- 596 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:09
- <16−3 Ai's view>
「畜生、一体どういうことや!話が違うやないか」
兵士からの報告を受けると、そう言わずにはおれんかった。
後藤真希らはもうこの城の前まで来とる。
それはかまわへんのや。
問題はや、あの吉澤ちゅう奴や。
モーニング公国から援軍をよこすゆーから、篭城なんて作戦使ってんのに…
援軍がこーへんねやったら意味ないやん…
もしかして私ははめられたんか?
吉澤って奴に思い通りに操られてただけなんか?
そんな私の考えを邪魔するように、兵士が入ってきた。
「加護様、城門が開けられました。城下にはもう敵が来ています」
「な、なんやて…」
窓を見た。
遠くの方で煙があがっとった。
嘘や無い。
ここへ来るのも時間の問題や…
- 597 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:10
- 「全部の兵に伝えとけ。援軍はもうすぐ来る。それまで絶対持ちこたえろって」
援軍が来ることはないのはわかっとる。
でも、兵の士気を高めるにはこう言うしかないんや。
兵士の数ではこっちの方が勝ってるはずや。
でもな、あの石川っちゅう精霊師、あれの力がすごすぎるんや。
はっきり言って数で圧しても意味あらへん。
まとめて料理されるだけやねんから…
それに、飯田圭織。
こいつがそーとー曲者や…
伊達にダンデライオンなんて有名になってるわけちゃうな。
くそ…どこでくるったんや…
私の計画は完璧やったはずやろ?
市井を殺した。
これも計画通りや。
ほんまならあそこで後藤真希を殺しとけるはずやったんや。
なのに…あの二人がいらんことしよって…
そうや、高橋はどこへいったんや?
昨日から姿見えへん…
姿見えんといったら、矢口さんもどっかいってる。
おそらく死んでるはずや。
あんなちやほやされて育ったお嬢様が一人で外に出て生きていけるはず無い。
あんなんでも一応王やから、いろいろ濡れ衣きてもらってたからな。
惜しいっちゅうたら惜しいけど。
まあええ、どーせ後で殺す予定やってんから。
手間が省けて丁度ええ。
それより、高橋や。
まさかあいつも裏切ったんか?
- 598 名前:16 The ground of sorrow 投稿日:2003/11/16(日) 18:11
-
ガチャリ
そこで扉の開く音がした。
振り返ったら、後藤真希と石川梨華、そして、見覚えある顔が一つあった。
サッと血の気が引いていくのがようわかった。
私は死ぬんや…
ここで…
くそ…何でやねん…
覚え取れよ…吉澤、高橋…
「どうも、二度目だね。加護ちゃん」
剣を抜きながらの後藤真希の言葉やった…
<16−3 Ai's view 終 >
- 599 名前:takatomo 投稿日:2003/11/16(日) 18:12
- >>587-598 更新終了。
いつもより多めです。
展開も早いです。
次は17章。
- 600 名前:takatomo 投稿日:2003/11/16(日) 18:16
- **お知らせ**
1つ目
やっと600です。これも一重に皆様のおかげです。
ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
2つ目
案内板でカミングアウトしていますが、第13回オムニバス短編集では「05地震,雷,火事,家電」を書きました。
この作品と全く正反対の雰囲気となってます。
よろしければそちらもどうぞ。
- 601 名前:takatomo 投稿日:2003/11/16(日) 18:19
- >>586
いつもありがとうございます。
今日はちょっと多めです。いつもこれくらい出来たらいいんですけどね。
- 602 名前:とこま 投稿日:2003/11/16(日) 22:17
- 更新お疲れ様です。
石川さんは強くなりましたね。
ミニモニ公国も落城ですか・・・
- 603 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/19(水) 00:04
- <17 The second act>
<17−1 Rika's view>
「どうも、二度目だね。加護ちゃん」
ごっちんの剣は加護亜依の目の前にあった。
加護亜依は全く動こうとしない。
動けないのだ。
ごっちんの後ろにいる私も、実は動けなかった。
部屋にいる誰もがごっちんに威圧されていた。
加護亜依の後ろにある窓から差し込む夕日が真っ赤で…
逆光のせいで加護亜依の表情はよくわからないけど…
「こんな小さいのにいろいろやってくれたね。
市井ちゃんだけでなく、やぐっつあんも殺して…」
「や、矢口さんは殺してへんやんか…」
最後は消えそうな声。
その後に言葉は続かなかった。
「ここであんたを殺すのは簡単だよ。でもね、私はもう迷惑かけられないんだ。
今でもね、気を抜くと暴走しちゃいそうなんだよ…
体中がね、あんたを殺せ、殺せって言ってるんだよ」
剣先が震えている。
ごっちんの表情は私からはよく見えないが、うっすらと汗が滲んでいるのがわかる。
- 604 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/19(水) 00:05
- 「殺したらええ…この状況で助からんことくらいわかる…でもな、ただでは死なへんで」
加護亜依は懐から何かを取り出し、ごっちんに投げつけた。
一瞬の出来事で、私はその場を動くことは出来なかった。
だが、美貴の方からは見えていたのだろう。
ごっちんを押しのける。
カツンという音と共に壁にそれが刺さった。
短い矢のようなものだった。
美貴は左手を押さえていた。
おそらくかすったのだろう。
「チッ…邪魔しよって…」
加護亜依は舌打ちする。
そして、次の矢を取り出そうとするとき、ごっちんの剣が彼女の首を刎ねた。
噴水のように勢いよく上がる血は、天井を赤く染めあげる。
その向こうでごっちんの剣は青い光を放っていた。
眩しいほどの光。
顔を見合わせる私と美貴。
だが、光はすぐに収束していった。
「ご…ごっちん…」
剣を両手で押さえたまま、肩で激しく息をするごっちん。
私の呼びかけにやや遅れるように振り返った。
「なんとか…大丈夫…もう、大丈夫だよ」
ごっちんの顔から滴り落ちているのは、血か汗か…涙かわからなかった…
夕日に赤く照らされたごっちんの顔は…綺麗だった…
- 605 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/19(水) 00:07
- 「ごめん、ちょっとみんなに知らせてくれないかな…
ちょっと疲れちゃってさ、動けそうに無いんだよね…」
「わかった」と答えて、私と美貴は部屋を出る。
下の方ではまだ戦いが続いているようだった。
早く止めないといけない。
飯田さんが扉の前で戦っている姿が思い浮かぶ。
城の最上階へと続く階段を上る。
途中で前を走る美貴が躓いた。
咄嗟にバランスをとったのか、倒れることはなかったが、壁にもたれかかるように立ち上がった。
「どうしたの?」
「なんでもない…行きましょう」
そう言った美貴の顔は青ざめていた。
「何でも無いわけないでしょ!」
「何でも無いってら!」
私の手を思いっきり振り払う。
初めてだ。
初めてだった。
美貴がこんなに感情を表に出すなんて…
こんな美貴を初めて見た…
私はそれ以上何も言えなかった
「大丈夫だから…」
壁から離れると、美貴は再び走り始めた。
遅れないように私もついていく。
すぐに扉に突き当たった。
隙間からうっすらと夕日が漏れていた。
ここに間違いない。
思い切り開けると、目に飛び込んできたのは真っ赤な夕日。
- 606 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/19(水) 00:08
-
すぐに駆け出し、塀から身を乗り出して叫ぶ。
「加護亜依は死にました。これ以上抵抗しないでください。悪いようにはしませんから。お願いします」
私の声で、下の方で動きが止まる。
美貴が言った狂信的という言葉がここでも当てはまるんだろうか。
国を失った兵は、魂を抜かれたかのようにその場に武器を落として座り込んだ。
意外とあっけない幕切れだった。
援軍はこないのだろうか?
遠くを見やるが、それらしき影は一切無い。
なんのための篭城だったんだろう…
加護亜依が兵法を知らないようには見えなかったけど…
美貴はいつの間にか姿を消していた。
中に入ったんだろうか?
様子がおかしかっただけに気になったが、私は風の術を組み、下に下りることにした。
私達の入ってきた扉の前では、まだ飯田さんが立っていた。
周りにはかなりの数の兵士が倒れていた。
それでも無事なようで、私の姿を見つけると手を振ってくれた。
向こうの方には保田さんも見える。
さすがに大きな鎧と斧は良く目立つ。
辻の姿も、稲葉さんの姿も見えた。
みんな無事のようでで何よりだ。
「援軍来ませんでしたね。上から見たんですけど、それらしい気配はありませんでした」
飯田さんに伝える。
飯田さんは少し考え込んだ後、言った。
「この国はもう切られたみたいだね…」
「え?」
「なんでもない。独り言」と言われて、この話題はおしまい。
というより、この後に飯田さんが述べた事実がそんな疑問を吹き飛ばした。
- 607 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/19(水) 00:09
-
「実は…カントリー公国がモーニング公国に制圧されたんだ」
単語を一つ一つ飲み込んでいく。
私の国が?
モーニング公国に?
何度確認してもその事実はかわらなかった。
前にそんな話をされたことを思い出した。
モーニング公国が私の国を攻める準備をしているってことを…
まさか…こんなに早いなんて…
もし時間があったなら、心の準備をしようと思っていたわけじゃない。
それにしても急過ぎだった。
自分の国なんて、好きじゃなかった。
私は国を出ている。
自分の国に未練なんて無いつもりだった。
でもそれは違った。
無くなってから初めて気付けた。
自分の国が好きだったことに。
どうして私はこんなところにいるの?
どうして国を出てしまったの?
国に残ってれば…国のために戦えた…
ついさっきまでミニモニ公国の人間の愛国心とでもいうのだろうか、それには蔑みすら覚えていた。
国のために死ぬなんてバカらしい。
そう思っていた。
なのに、なにさ…
自分もそうじゃない…
自分の国が大切なんじゃない…
厳しいけれども、美しい自然の広がる国。
決して豊かではないし、雪が降ってばかりの不便な国。
それでも…私にとっては一番の場所だったんだ…
今更何を言ってるんだろう。
無くなってからあれこれ言ったって、無駄なことだ。
こんなことで取り乱したりなんかしたら…ごっちんにあわす顔がない…
- 608 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/19(水) 00:09
-
「そうですか。ありがとうございます」
表情を作って飯田さんにお礼を言った。
「石川…」
「大丈夫です…少し一人にさせて下さい」
私は扉を開け城の中に入った。
扉にもたれて泣いた。
思いっきり泣いた。
明日から絶対泣かない。
そう誓いながら泣いた。
<17−1 Rika's view 終 >
- 609 名前:takatomo 投稿日:2003/11/19(水) 00:11
- >>603-608 更新終了
やべー残り120Kしかない…ぎりぎり終わるかな…
- 610 名前:takatomo 投稿日:2003/11/19(水) 00:12
- >>602
いつもありがとうございます。
飛ばしてます。更新も展開も。自分で書いててびっくりでした。
- 611 名前:とこま 投稿日:2003/11/19(水) 20:21
- 更新お疲れ様です。
ミキティは大丈夫なのでしょうか?
心配だ・・・
- 612 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/20(木) 00:07
- <17−2 Kaori's view>
ミニモニ公国を落としてから3日経った。
結局援軍を心配して立てていた見張りも、そろそろ退屈していることだろう。
援軍がくるとは思えなかったけど、モーニング公国が本気で攻めてくる可能性があったから、見張りは続けさせていた。
そんな時、私は後藤と圭ちゃん、そして石川を呼んだ。
「ずっと考えてたんだ…初めは、後藤の力を借りて、なっ…安倍なつみに会おうと思ってた…」
安倍なつみと口に出した。
なっちではなく安倍なつみ。
それが、私がモーニング公国と戦うことを決めたケジメでもあった。
「でも、もう無理だ。モーニング公国は攻めてくると思う…
それも、国中の兵をもってね」
後藤と圭ちゃんに動揺が走る。
無理もない。今まで共にミニモニ公国と戦ってくれてた国なんだから。
「詳しいことは言えない…でも、ここからの戦いは今まで以上に危険で…
勝つ見込みが少ないと思うんだ。だから…」
一つ息を吐いた。
「出発は明日にする。もし、私の私情のために戦ってくれるって人がいるなら…一緒に来て。
強制はしない。来なかったからって恨まない。各自で考えて…」
3人の返事を待たずに部屋を出た。
ドアの横では辻と小川の二人がいた。
盗み聞きしていたんだろう。
それでもかまわなかった。
美貴もどこかで聞いてるんだろう…
- 613 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/20(木) 00:08
- その夜は寝付けなかった。
月明かりが部屋を照らしていた。
あれからもう4ヶ月経っている。
いろんなことがあった。
たくさんの人に出会った。
そして、たくさんの人を殺した。
何度も殺されそうになった。
私はその度に思っていた。
私は昔より弱くなったんじゃないの?
昔の私の力はこんなものだったの?
訓練を怠っていたわけじゃない。
体力が衰えてるはずもない。
でも…何か大きな壁が私の前にあるように思えて仕方なかった。
このままで私はなっちに勝てるのだろうか?
この先の戦いで勝っていく事ができるんだろうか?
不安は徐々に恐怖へと変わっていく前に、大きく頭を振った。
こんなことを考えてちゃいけない。
明日からは私が指揮官になるんだ…
誰かが一緒に来てくれたらの話だけど…
来てくれないなんて思ってない。
みんな来てくれると思ってる。
でも、もしそう思ってて誰も来てくれなかったなら…
その時のショックを考えると、とてもじゃないけど、来てくれるなんて思っていられなかった。
ゴロリと寝返りを打ち、布団を頭からかぶった。
目は冴える一方だったけど、無理やり目をつぶった。
- 614 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/20(木) 00:09
- 次の日は、厚い雲が空を埋め尽くしていた。
まるで私の前途を示すかのような曇り空だった。
城を出て行くところで、後藤と一緒に扉をくぐった。
門へ向かう途中に小川と辻が私の前に現われた。
門の横には藤本が立っていた。
そして、橋の上には石川が。
「みんな、バカだよ。死ぬかもしれないのにさ」
溢れる涙を我慢しようとは思わなかった。
「圭織は私がいないと駄目でしょ」
後藤の声。
「どこまでも付いて行くって言ったじゃないですか」
私の荷物をそっと持つ小川。
「ののはいいらさんについていくのれす」
腕にしがみついてくる辻。
「命令とあれば、どこへでもいきますよ」
そっぽを向いて言う藤本。
「私もいろいろ借りがあるんですよねー」
ニコッと笑う石川。
「そうそう、この国は私達が守ってるからさ。
あんたたちはさっさと行ってきなよ」
後ろから聞こえたのは圭ちゃんの声。
元ダイバーの人間を後ろに、圭ちゃんは立っていた。
私が一番やって欲しかったことを彼女は了承してくれた。
モーニング公国から二つの国を守ること。
一番大変で、一番重要で、だけど一番我慢しなくちゃいけない仕事を、圭ちゃんは自分の気持ちを殺してやってくれようとしている。
「ありがとうみんな…本当にありがとう…」
涙で最後は声にならなかった。
<17−2 Kaori's view 終 >
- 615 名前:takatomo 投稿日:2003/11/20(木) 00:15
- >>612-614
更新終了です。
>>611
ありがとうございます。
いろいろ問題続きです。本当に20章で終わるか心配になってます…
- 616 名前:とこま 投稿日:2003/11/20(木) 20:58
- 更新お疲れ様です。
いよいよ最終決着ですか・・・
まったりして待ってます。
- 617 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/22(土) 17:17
- <17−3 Maki's view>
夕日が部屋を赤く染めていた。
血の臭いが充満する部屋で、一つ息を吐いた。
やっと終わったって。
そう思えた。
市井ちゃんもいない。
やぐっつあんもいない。
いろんな犠牲を払って、やっとここまで来れた。
使命感なんてなかった。
それよりも、怒りに任せてここまで来たように思った。
だから、達成感なんてものが自分の中で生まれるとも思ってなかった。
ついさっき、加護の前に立った時、声が聞こえたんだ。
駄目だって。このままじゃいけないって。
誰の声だったかはわからないけど…
きっと二人が天国から私に教えてくれたんだ。
そのおかげで、なんとか剣の力を抑えることが出来た。
もう二度と力に振り回されない。
自分に誓ったんだから。
涙が出てきた。
「あーあ、夕日が目に入っちゃったよ。ほんとに目が痛いよ。
涙止まらないじゃん」
誰に言うともなしに言った。
その時に扉が開く音がした。
「ごっちん…泣いてるの?」
一番聞きたくない奴の声が聞こえた。
腕で涙をぬぐうと、そいつをにらみつけた。
- 618 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/22(土) 17:18
- 「何の用?」
私の前に立つミキティは答えなかった。
「私の前に現われないでって言ったでしょ」
赤く染め上げられた部屋は、否応無しに私にこの間の出来事を思い起こさせた。
「私じゃ駄目なんですか?」
意図がわからない。
彼女は何が言いたいの?
「どうして私に頼ってくれないんですか?どうして、市井さんや梨華ちゃん…、ましてや敵である矢口さんまで…
どうして私には、心を開いてくれないんですか?」
「何が言いたいの?」
声に被せるように言った。
あんたとは話したくない。
そう言ったニュアンスを含めて言った。
「ごっちんが好きなんです」
ミキティの声は震えていた。
その言葉に何も感じなかった。
むしろ吐き気すら覚えてきた。
私は思いっきりミキティの頬を叩いた。
「バカじゃないの?私にあんたが何したかわかってるの?出てって!さっさと出てってよ」
「ごっちん」
私の言っている言葉がわからないのだろうか。
そう思えるほど、執拗にミキティは私に近づいてくる。
私は剣を抜き、ミキティの喉にまっすぐつきたてた。
「殺すよ」
脅しなんかじゃなく、本気だった。
殺気を抑えようとせず、全開で。
ミキティの喉には血がにじみ始めていた。
- 619 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/22(土) 17:18
- 「殺してもいいです。ごっちんが私のために泣いてくれるんなら」
「何言ってるの?わけわかんない。私があんたなんかのために泣く訳無いじゃん」
叫んだ。
ミキティの意図は全くわからないが、目は本気だった。
「そうですか。なら殺してください。あなたが泣いてくれないのなら、私が生きてる意味はありませんから」
剣を握り、自分の喉元に突き立てるミキティ。
私は思わず剣を引いた。
一筋の血が私の顔へとついた。
「もう…わけわかんない…何なのよ!何がしたいのよ!」
苛立ちがつのる。私は自分が涙を流していることに気付いた。
「あなたが好きなんです」
両手を血で染め、ミキティは言った。
「もういい!聞きたくない!出てって!」
「ごっちん…」
「嫌だ、もう…何も言わないで!こっちまで頭おかしくなりそう…」
私はその場に座り込んで泣いた。
頭の中はぐちゃぐちゃだった。
市井ちゃんの元気な顔。
死んだときの顔。
幼いやぐっつあんの笑顔。
大人になったやつれた顔。
私が刺した時のミキティの顔。
今、目の前にある顔。
グルグルグルグル回って…
- 620 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/22(土) 17:19
- 不意に頬に息がかかるのを感じ、口元をいきなり塞がれた。
ミキティの唇だと認識したのは、生暖かい液体が私の口に入ってきてからだった。
何かを言おうと動かす舌に、ミキティの舌が絡みつく。
強烈な陶酔感が私の思考を吹き飛ばした。
自己嫌悪するほどの卑猥な喘ぎが塞がれた口から漏れ出る。
抵抗するという意識が体には伝わらなかった。
そのまま伸びていく手を止めていくことは出来ない。
乱暴にかき回されたそこは、じんわりと濡れていた。
全身の力が一気に抜ける。
ミキティの唇が離れ、自由になった口からは、自分の意思ではない声しか出ていなかった。
指の動きはどんどん早くなっていく。
まるで心臓が頭の中で脈打っているような…
どんどん大きくなる心音と狭まっていく視界。
目の前が真っ白になったとき、私は自分の叫び声が聞こえたような気がした…
気付いたときにはもう辺りは暗かった。
ミキティは部屋にはいなかった。
起き上がり、衣服を正す。
自分がさっきまで何をされていたか考えると、強烈な吐き気と涙が出た。
でも、私の意思と関係なく、それは未だに熱をもってて…
思い出すたびに高揚するのも事実だった。
「市井ちゃん…やぐっつあん…」
鼻をすすって呟いた。
- 621 名前:17 The second act 投稿日:2003/11/22(土) 17:20
- それから…私はミキティとは会わないまま、出発の朝を迎えた。
一向に姿を見せないミキティがどこにいるか、みんなに聞いたけど誰も知らなかった。
文句の一つでも言ってやるつもりだった。
もう絶対私の前に来ないでって言ってやるつもりだった。
それでも、出発の瞬間まで彼女には会わず…
門の横に立つミキティを見たとき、ドキドキした。
頬が赤くなっていくのがわかり、周りに見られないか心配だった。
そして、自分が言いたいことが頭から吹き飛んでいた…
もう、わけわかんない…
何なのよ…ミキティ…
<17−3 Maki's view 終 >
- 622 名前:takatomo 投稿日:2003/11/22(土) 17:23
- >>617-621 更新終了
えっと…ネタバレしない程度にいいますと、特殊な表現を含んでいますので、読むときには注意してください。
駄目な方は読むのを控えてください。
この回がなくても今後の話はそれほど大きな違和感無しに読んでいけると思いますので。
- 623 名前:takatomo 投稿日:2003/11/22(土) 17:24
- >>616
ありがとうございます。
いよいよ次回から大詰めです。あと少しお付き合いください。
- 624 名前:takatomo 投稿日:2003/11/22(土) 17:25
-
- 625 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/22(土) 17:29
- うわーすごいことになっちゃってるよ(;゚∀゚)=3
- 626 名前:とこま 投稿日:2003/11/22(土) 19:53
- 更新お疲れ様です。
最後までお付き合いさせていただきます。
ミキティってば大胆(*^_^*)
- 627 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/23(日) 20:13
- なんなのよミキティー!(笑。作者様今回の
ような更新内容の表現好きですよ。
- 628 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/24(月) 13:38
- 凄い展開になってきてドキドキです!
間違った方向で健気で一途なミキティが切ない。。。
- 629 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 17:52
- <18 Where it came back>
<18−1 Rika's view>
じっと待っていた。
夜の闇の中、明かり一つ灯さずに私は立っていた。
飯田さんたちが行ってからどれくらい経っただろう。
準備していた構成を、いろいろいじったり組み替えたりして時間を潰していた。
「梨華ちゃん」
いきなり声がした。美貴の声。
姿は見えずに声だけ聞こえた。
「わかった」
小声で答え、組んでいた構成を放つ。
ぱっと炎の壁が敵陣を囲うように出来る。
そして、一箇所だけ壁を開けた。
そこから飯田さんたちが侵入。
その後壁を閉じて、敵を全滅させる。
私は高台の上からそれを眺めておくだけだった。
下からキラリと光の合図がきた。
私は再び構成を組んで、炎の壁を完成させた。
怒声と悲鳴が聞こえてくるが、それはすぐに止み、再び静寂が包む。
もう一度光の合図が来たので、私は術を解除した。
そのまま明かりのあるところへ精霊術で降りていく。
「早かったですね」
「まあね」
息を整えながら飯田さんが答える。
- 630 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 17:53
- これで私達がモーニング公国に入ってから潰した部隊は10個になった。
部隊といっても100人足らずの小部隊。
それがいくつも動いていること自体、モーニング公国が全軍をもってプッチモニ公国へと向かおうとしていることがわかる。
だから、こんなことをしていていいんだろうか…
大人数を相手するときは、まともにぶつかっては駄目。
局所局所で数的有利を作っていかないといけない。
その繰り返しで戦局を変えていかなければならない。
飯田さんが最初に話したことだ。
兵法上では正しいことらしいんだけど、今の状況でこんなやり方で本当にいいのかな…
「次は…この先の砦だね。どこかわかる石川?」
「はい。わかります」
ずっと北上してきた。
ミニモニ公国からずっと。
そして、やっと帰ってきた。
モーニング公国とプッチモニ公国の関所。
あゆみちゃんはまだいるんだろうか…
もしいるのなら…戦わないといけないのかな…
できれば戦いたくない…
話せばわかってくれるかな…
- 631 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 17:54
- 私の思いとは裏腹に、翌日の夜には戦いが始まった。
2ヶ月前にみた建物は変わってなくて…
変わったのは私達だけ。戦いを避けた前回とは正反対に戦いを仕掛けていく。
やはり戦争が近いのか、砦には以前の比ではない人間が集まっていた。
周りの様子を目で追いながら、私は砦の中を動き回った。
探していた。あゆみちゃんを。
向かってくる敵を精霊術でいなしながら、どんどん上に上がっていく。
会いたいという気持ちと、やっぱり会いたくない気持ち。
両方がどんどんどんどん大きくなっていって。
私はとうとう砦の一番上に来た。
扉を開けると、頭上にはきらめく星があった。
そして…
「梨華ちゃんならここに来ると思った」
あゆみちゃんが立っていた。
白いローブに身を包んで、たった一人で。
「ねえ、あゆみちゃん、一緒に…」
「月、綺麗だね」
私の言葉は遮られた。
見上げた月は満月ではなかったが、煌々と光を放っていた。
「月は私なの。太陽がいないときだけ輝ける。
太陽は梨華ちゃんであったり、紺野あさ美であったりするんだ」
紺野あさ美という聞いたことの名前が出てきた。
誰のことだろう…
「HPNもHPWも私の手にはない。なら…私が一番になるのはどうしたらいいんだろう」
HPWというのもわからない。
- 632 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 17:55
- 「私は考えたの。やっぱり、梨華ちゃんを殺すしかないかなって。
紺野あさ美とは戦う理由ができないから…梨華ちゃんしかいないのよね」
瞬時に組まれた構成。
風の刃が私を襲う。
だが、私もちゃんと風の精霊術でそれをはじいた。
「あゆみちゃん、私の話を聞いて!私は戦いたくないの!」
私の叫びはむなしく、構成は組まれていく。
四方からの同時攻撃。
あゆみちゃんが最も得意としている攻撃だった。
私の構成は間に合わず、不十分な風の流れが私を包む。
一つの刃がそれを超えて私の肩をなぎ払った。
「あゆみちゃん…私の話を聞いてよ」
焼けつくような肩を押さえ立ち上がる。
でも、やはりあゆみちゃんには聞き入れてもらえない。
次に組んだ構成も見覚えのあるものだった。
それにあわせるように私も構成を組む。
放たれたのは一筋の水。
だけど、それは私の目の前で八方に別れ、一斉に襲ってくる。
痛みで集中力が落ちているせいか、組むのがいつもより遅い。
攻撃がわかっていただけに私の術は間に合ったが、予測できていなかったら間に合わなかっただろう。
私の前の炎の壁はそれらを一瞬で蒸発させた。
ふぅと一つ息を吐く。
次の攻撃はすぐにはこなかった。
お互い何度戦っただろう。
手の内を知り尽くしているというのが事実だった。
ただ、あゆみちゃんが知らないことが一つある。
それは、私がガーネットの指輪を彼女の前で初めてはめているということだ。
肩からの血は止まる気配は無く、私の上半身を染めていった。
- 633 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 17:56
- 「どうしても、戦わなくちゃいけないの?」
私は再度問いかけた。
最後の警告として。
警告。
そうだ。
これで受け入れてもらえなかったら戦うしかない。倒すしかない。
そして、倒すのは私で倒されるのはあゆみちゃん。
そういう意味を含めての警告だった。
「もっとさ、違う形で幼馴染になりたかったね」
そう言って笑うあゆみちゃん。
私は答えずに構成を組んだ。
あゆみちゃんも構成を組んだ。
組み始めたのは同時。
組み終わったのも同時。
放ったのも同時。
違うのは、私が無傷であゆみちゃんが倒れたということ。
手加減はできなかった。
殺さずに倒すのは無理だった。
急いであゆみちゃんの下に駆け寄る。
誰が見ても助からないのは明白だった。
袈裟懸け状に深い傷が刻み込まれ、真っ白なローブは見る影も無いくらい真っ赤だった。
かすかに動く唇に、私は耳を近づけた。
「はは…私って負けてばっかだよ…梨華ちゃん…お願いがあるの」
「何?あゆみちゃん」
「紺野…あさ美には勝って…あいつがHPWなんて名乗るのは間違ってる…」
「HPWってなんなのよ、あゆみちゃん、しっかりして!」
返事は無かった。
あゆみちゃんの体からは力が抜けていくのがわかった。
「紺野あさ美、HPW」
最後に残された単語を反復する。
それがどういう意味かわからないけど…
- 634 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 17:57
- 見上げた月明かりがぼやけてきた。
こぼれない様にずっと上を向いた。
泣かないって決めたから。
戦いが終わるまでは泣かないって。
上を向いたまま袖で顔を拭く。
それでもすぐに視界はぼやけてきた。
私は肩を叩いた。
「あー痛い痛い…すごく痛いよ…」
下を向いたら涙が落ちた。
やっぱり痛いんだよね。
深い傷だから…
痛くちゃしょうがないや…
袖でもう一度涙を拭く。
視線の先には、いくつのも光が橋の上を動いてるのに気付いた。
保田さんたちだろうか。
そもそもこの砦を狙ったのはそのためだった。
この川のプッチモニ公国側には砦はない。
つまり、この砦がこの川を挟んでの拠点となる。
そこを敵に取られているよりは、こっちが取った方が有利に決まってる。
国が落とされるまでの時間的な余裕が生じるだろう。
保田さんには、私達が安倍なつみに会うまでなんとか国を守ってもらう必要がある。
なぜかはまだ教えてもらってないけど。
ただ、守ってもらえないと最悪な事態が起こるらしいというのはいい加減わかってきた。
前に聞いた「世界のバランス」っていうのが関係しているんだろう。
そこまで考え、急いで下に戻っていった。
幸い私が降りる頃には戦いは粗方終わっていた。
「飯田さん…終わりました。保田さんたちもすぐそこまで来ています」
飯田さんは血を流す私に驚いた表情を見せた。
「あ、大丈夫です。もう血は止まってますから」
「石川…あんた泣いてない?」
「え?そんなことないですよ。ちょっと傷が痛いだけです」
無理に笑顔を作って答えた。
飯田さんはそれ以上は何も言わず、私の傷の手当てを始めてくれた。
<18−1 Rika's view 終 >
- 635 名前:訂正 投稿日:2003/11/24(月) 17:59
- >>631 下の方
×紺野あさ美という聞いたことの名前が出てきた。
○紺野あさ美という聞いたことの無い名前が出てきた。
- 636 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 18:00
- <18−2 Kaori's view>
この砦が拠点となること、それだけ重要なことは相手にもわかっているだろう。
正直、すでに多くの兵が集まっているものを思っていた。
そこまでの覚悟をしていたにも関わらず、兵の数は少なかった。
少ないというと語弊があるかもしれない。
砦の周りにいる兵も含めるとかなりの数であるということは事実だった。
想定したいたよりは少なかったというだけで。
石川は中に入ると同時にどこかへいってしまった。
彼女のサポートがないのは苦しかったが、建物の中というのが幸いした。
多人数で一斉に向かってこられる心配は、構造上なかった。
もともと関所としての機能が主として作られたものだ。
門から橋へと通じる広い廊下が一つ。
後はそこから横に伸びるようにさほど広くない廊下がいくつもあるだけ。
左右に4本ずつ。
階段がすぐに見えるのがそのうち1本ずつ
おそらく対照構造をしているのだろう。
石川は右のそこを上っていった。
彼女の後を追いたかったが、彼女なりの考えがあるんだろう。
それに、彼女はもう十分強かった。
残りの通路と門をふさぐように4人を配する。
後藤が門。
辻が左で小川、藤本が右。
私は左の階段を上っていった。
階段は短いもので、すぐに2階へと上がる。
この通路は他とつながってないのだろうか。
2階といっても狭い部屋。
隣の3本の道がつながっていて、ここだけ別になっているのだろう。
何のためかわからなかったが。
- 637 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 18:01
- 正面の敵を突き飛ばし、槍を構えた。
こんな狭い場所じゃ槍という武器は使い勝手が悪い。
いつもより柄を短く持った。
数はそれほど多くない。
ちょっと失敗だったかもしれない。
私がここにくることは。
ただ、石川の方も人数が少ないであろうことが少し安心させた。
槍先で敵の剣をはじき、余した柄の部分で胴を払う。
槍というより棍を使うように。
鎧の上からでも確かな感触はあった。
続く3人も同じように。
ただ、さすがに最後の一人は避けられた。
鎧を着込み、クロス・ヘルムと呼ばれる頭だけでなく顔全体を覆う兜をつけていた。
鎧とかを着るのは私は嫌だった。
着るとしても、チェインメイルのような薄いもの。
攻撃は受けるものじゃなくて避けるものという考えがあるからだ。
何より、鎧というのは力が要る。
着ているだけで敏捷性どころか体力まで奪われる。
女である私にはそれは大きなマイナスだった。
その意味で、圭ちゃんはすごいとは思う。
あれだけの甲冑を全身につけ、大きな斧を振り回しているんだから。
と、そんなことはいい。
でも、クロス・ヘルムというのは厄介だった。
相手の視線が見えないから。
目というのは相手の動きを示すものだ。
どんな達人でも、攻撃の際に目が動かないことは無い。
だから、相手の目が隠されているものは、結構しんどい。
ま、それは相手の腕がそこそこだったらの話だけど。
こいつくらいの腕なら、タイミングを狂わされたからといっても避けることなんて問題はないだろうけど。
- 638 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 18:02
- 向かってくる剣を弾き、今度こそ確実に射止める。
鎧の隙間。
私の槍は蛇のようにわずかな隙間を縫って肉を断つ。
残りの3人も起き上がったようだ。
同時に攻めてくるとは頭がいい。
でも、何の策もなく、同時に攻めてくるだけでは意味は無い。
3人が同じところを攻撃しているのだから、避けるのはたやすい。
後ろに一歩引き、柄を滑らすように槍を伸ばす。
半分の長さだった槍がいきなり元の長さまで伸びてくるんだから、避けれるはずがない。
突き刺さずに払うようにして3人を切った。
上に続く階段はあったが、この騒ぎで降りてこないところをみると、誰もいないように思えた。
私は階段を下り、元の通路に戻った。
下では4人がそれぞれ背を向け合って戦っていた。
構造上、敵は正面からだけだし、多人数で来ることはない。
時間はかかるが、絶対に勝てる戦いだった。
それに、圭ちゃんとは事前に打ち合わせをしてある。
もうすぐこっちに着くはずだ。
石川はまだ降りてこない。
左右はもう敵がいないのだろうか。
辻と小川がそれぞれ通路を奥へと進んでいった。
藤本の姿が見えない。
気付くと、床にしゃがみこんでいた。
- 639 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 18:03
- 「どうしたの?」
「少し疲れただけです」
左手を押さえ込んだまま顔を上げる。
その顔は汗びっしょりだった。
「手、どうかしたの?」
私が伸ばす手を避けるように藤本は立ち上がった。
「なんとも無いです。少し疲れてるだけ…休めば治ります」
嘘だというのはわかったが、丁度石川が戻ってきたので、それ以上追求しなかった。
何より、石川の方が重傷だったから。
「あ、大丈夫です。もう血は止まってますから」
そんなことを言った石川だが、何かあったことは明白で。
目が赤くなっているのに私は気づいた。
「石川…あんた泣いてない?」
「え?そんなことないですよ。ちょっと傷が痛いだけです」
どいつもこいつも嘘ばっかり。
斯く言う私も話してないことは一杯あるんだけどね。
いいよ、話してくれないのなら。
私は黙って石川の服を肩から大きく破り、傷口を見た。
さして深い傷ではないようだけど、太い血管に触っているようだ。
血はあらかた乾いていた。
綺麗な切り口だ。
全くブレが無い。
余程の達人か、武器以外の傷。
おそらく精霊術だろう。
でも、これなら治りが早いだろう。
応急的に包帯を巻いていく。
本当は縫ったほうがいいんだけど、そんな道具までは持ち合わせていなかった。
「動かさないでね。また終わったらちゃんと手当てしてあげるから」
手当てが終わったと同時くらいに圭ちゃんたちが着いた。
- 640 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/24(月) 18:03
- 「後藤、下がって。後は任せよう」
ちょっと不満そうに振り返ったが、しぶしぶ脇にそれた。
入れ違うように兵が扉へと向かう。
そこからは一方的だった。
扉の向こうに拡散していく戦いを中から見ているだけだった。
「ありがと」
「礼なんかいいから、さっさと行ってきな。大丈夫、なんとか持ちこたえるから。
タラタラしてると、私達が安倍なつみを倒しちゃうよ」
冗談交じりに圭ちゃんは言う。
本当にありがとう。
辻も小川も丁度戻ってきた。
私はいくつかの部屋を回り、お酒と糸、そして針を見つけ、石川を呼んだ。
「痛いけど我慢してね」
「梨華ちゃん、泣いたら駄目れすよ」
辻が茶々を入れる。
「辻ちゃんじゃないんだから」と石川が悪態をつく。
私が渡した針を火で炙る小川はクスクスと笑っていた。
「いくよ」
針を受け取り傷口を縫い始める。
石川は目を硬く閉じていたが、その端から漏れる光を辻は見逃さなかったようだ。
「梨華ちゃん、泣いてるのれす」
「泣いてない!」
目を閉じたまま石川は言う。
それから縫い終わるまでのしばらくの間、言い合いは続いていた。
そういえば、藤本も診てやらないといけなかったな…
ここにはいない彼女をふと思う。
まだ辻と石川の言い合いは続くようで。
巻き込まれないうちに私はその場を退散することにした。
<18−2 Kaori's view 終 >
- 641 名前:takatomo 投稿日:2003/11/24(月) 18:06
- >>629-640 久々に更新量多め。
重いというかとんでもない展開続いたので、この章は軽くいくつもりです。
このスレ残り100Kbyteをきりました。セバタイではスレをまたぐことはなさそうですね。
- 642 名前:takatomo 投稿日:2003/11/24(月) 18:13
- >>625
ありがとうございます。
藤本さん暴走しすぎです…これからどうなることでしょう…
>>626
ありがとうございます。
藤本…もう何でもしてください!
残り2章と1/3よろしくです。
>>627
ありがとうございます。
後から自分で読んだときすごい自己嫌悪に陥りましたが、そう言っていただけるとうれしいです。
>>628
ありがとうございます。
間違いすぎてます。でも、そう感じていただけるのはうれしいです。
- 643 名前:とこま 投稿日:2003/11/24(月) 19:12
- 更新お疲れ様です。
いよいよ最後が近づいてますね。
寂しいですがじっと待ってます。
- 644 名前:名無しさん 投稿日:2003/11/24(月) 20:04
- ラスト気になるけど、終わってほしくないも。
- 645 名前:モテごまlove 投稿日:2003/11/24(月) 20:28
- み・み・みきごま!!!
というよりみき→ごま?
みきてぃの大胆さがイイです。
ごっちんもちょっと気になって…
- 646 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/25(火) 22:26
- <18−3 Asami's view>
「へくしょ!」
「どうしたの、あさ美ちゃん?風邪?」
「かなぁ…」
もう7の月だというのに、今更風邪というのもおかしいと思ったけど言うのは止めた。
「里沙ちゃんさー昨日の話聞いた?」
「あーあのプッチモニ公国が占拠したってやつ?」
「そうそう」
昨日の昼に国中を駆け巡った話題はそれだった。
一番友好関係が良好だったプッチモニ公国が、モーニング公国を攻めるなんて。
国中のみんなが驚いていた。
でも、当然といえば当然かもしれない。
そうしなくてもこっちから攻めるつもりだったということを、私は知っている。
そもそも、今年に入ってから不穏な動きが多すぎる。
急にカントリー公国を攻めたこともそうだ…
「何か難しいこと考えてるでしょ?」
ボーっとしていることを見られたようで、里沙ちゃんが顔を近づけてくる。
「何でもない」
「嘘。あさ美ちゃんが何でもないって言うときは、絶対何かあるもん」
ほっぺをぷぅっと膨らませて怒られる。
そんな言いがかりをつけられても…
- 647 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/25(火) 22:26
- 「んとね、里沙ちゃんは今回の戦いが始めるのは嫌?」
「あさ美ちゃんはいいの?」
答えずに逆に尋ねられる。
この子のペースは掴めない。
流されたくないのにいつの間にか流されてしまう。
里沙ちゃんのそういうところが魅力だったりもするんだけど、マイペースを信条とする私にしてはおもしろくない。
「私は、石川梨華と戦えるかもしれないから」
「うれしいんだ?そうだよねーあさ美ちゃんはずっと言ってたもんねー」
うんうんと頷き、更に里沙ちゃんは続ける。
「私はさ、戦うなら飯田さんがいいなー」
飯田圭織の再来と言われている彼女にとっては当然の欲望なのかもしれない。
私達と同級生に飯田圭織の元へいった子がいた。
本当は里沙ちゃんは行きたかったことを知ってる。
でも、彼女の家はそれなりに上級な貴族とのつながりがあったため、そっちに優先的に回された。
今はさることながら、当時の飯田圭織に対する評判は決して良いものではなかったから。
誰もが避けていたのだから当然だ。
その腹いせに、その子をさんざん槍の訓練中にいじめていたのを覚えている。
執拗に試合をしようと言い、その子を負かせていた里沙の姿はよく見た気がする。
たまに負けていたような覚えもあるんだけどね。
- 648 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/25(火) 22:28
- 「まーた、何考えてるの?」
「ん…昔のこと思い出してただけ」
今度ごまかそうものなら不貞腐れて口を利いてくれないかもしれないので、素直に答えた。
「昔のあさ美ちゃん、ドジだったよねー」
「うるさい」
「よくここまで成長したよ。お姉ちゃんうれしいよ」
涙をふく仕草をしながら頭を撫でられる。
私のほうが年上という事実は完全に無視されている。
でもしょうがない。
実際、里沙ちゃんが話しかけてくれるまで友達一人いない劣等生だったのだから。
「でもさ、私達ってどっちも城に残るじゃん」
「へ?」
いきなり切り替えられた話題についていけなかったが、そんな私にかまわず里沙ちゃんは話を続ける。
「だから、飯田さんとやるにしても、石川さんとやるにしても、こっちまで来てくれないといけないのよね」
「ああ、それならもしかしたら大丈夫かも」
ようやく話の流れを掴み、返答する。
「どうして?」
「最近、表にはでてないけど、プッチモニ公国に攻めるために召集されていた部隊が襲撃されてるらしいのよ」
里沙ちゃんは理解できて無いようだった。
- 649 名前:18 Where it came back 投稿日:2003/11/25(火) 22:29
- 「だから、もしかしたら別に誰かが動いてるって可能性があるわけよ」
「ちょっと待って!ということは、モーニング公国は以前から攻めるつもりだったの?」
「そうそう」
話が急激に元に戻った気もするけど、彼女に納得してもらうにはそこから話さないといけないみたいだ。
私はそれまでの話を全部伝えていった。
「で、その別働隊が石川さんであったり、飯田さんであったりすると思ってるの?」
「そういうこと。たぶんお偉いさんは気付いてないかもね。
この城からも多くの兵が出て行くでしょ。そんなの、ここを狙ってくれって言ってるようなものだよ」
「じゃあ、教えないといけないじゃん」
「いいんじゃない?どうせ聞いてくれないだろうし。それに…」
「それに?」
一呼吸間を開けてから答えた。
「それがこっちの狙いかもしれないから」
<18−3 Asami's view 終 >
- 650 名前:takatomo 投稿日:2003/11/25(火) 22:37
- >>646-649 更新終了
密かに容量が心配になってきた…
>>643
ありがとうございます。あと2章でございます。
>>644
ありがとうございます。そう思っていただけるのはうれしいです。
>>645
ありがとうざいます。藤本さんが勝手に動きまくってます…プロットはどこへいったやら…
- 651 名前:とこま 投稿日:2003/11/27(木) 20:13
- 更新お疲れ様です。
終わってしまうのは寂しい・・・(T_T) ウルウル
番外編もお願いします。
- 652 名前:19 The confession 投稿日:2003/11/27(木) 22:30
- <19 The confession>
<19−1 Rika's view>
保田さんたちと別れてから、私達は一路城を目指していた。
途中に、いくつかの小さな部隊とは変わらずに戦っていった。
私の肩の傷もほとんど治り、7の月が終わろうとする頃、とうとう城が見えるところまできた。
モーニング公国とプッチモニ公国の戦争が、5日前に開始されたということは、美貴から聞いていた。
でも、私達は歩みを早めることは無かった。
「圭ちゃんを信じよう」
飯田さんはそう言った。
焦って無理しても仕方ない。
ペースを変えないで進んできた。
遠くにそびえる外壁は高く…その上から伸びる城はまさしく権威の象徴だった。
白い壁と赤い屋根。
黒い布に金色で描かれたMの文字が、風でたなびいていた。
大きな門がある。
城壁の上には兵士が数人。
真昼間から侵入するのはなんとなく避けたかった。
周りは草原が広がっており、身を隠すようなところは無い。
うかつに近づくと見張りの兵に見つかることとなる。
飯田さんの見込みだともう兵士はそれほど残っていないとのことだった。
それでも、大きな騒ぎになることは避けたい。
私達は夜まで待つことにした。
そもそも、最近夜に活動することが多かったから、昼間よりも夜のほうが調子がいいのも事実だった。
- 653 名前:19 The confession 投稿日:2003/11/27(木) 22:30
- 交代で見張りに立ちながら夜まで仮眠を取る。
でも、眠ることなんてできなかった。
もう一度やることを反復する。
城には城壁の中に城下町がある。
それは当たり前のことで。
ただ、普通と違うのは城下から城に行くまでにも大きな城壁があり、兵士がいるということ。
二重の構造になっていることだった。
上手く侵入しないと、城下に閉じ込められることになる。
そうなればおしまいだ。
城下に入ったらすぐに城まで侵入しなければならない。
だけど、飯田さんはその心配はないという。
なぜなら、それだけの兵を置いてないからだ。
どうしてそんなことが言えるのか聞いたことがある。
その時の飯田さんは笑って言った。
「安倍なつみの考えなんてわかる…私達の動きもわかってると思う」
「罠ってことですか?」
「そうかもしれない。でもね、石川…」
「これは私達にとって望むべき罠なんだよ」
飯田さんの言葉はどういう意味だったんだろうか。
とにかく、飯田さんを信じるしかない。
私が出来ることは言われたことを実行すること。
いつか飯田さんが言ってたね。
「私達は、あなたの決断を後悔させないように精一杯やるだけさ」
呪文のようにつぶやいてから、目をつぶった。
少しでも体を休めておかないといけないんだから。
- 654 名前:19 The confession 投稿日:2003/11/27(木) 22:31
- ◇
いつの間に眠ってしまったんだろう。
もう日は落ちていた。
いつの間にか付けられた火を囲むようにみんなが座っていた。
「あ、すいません」
「いいよ。よく眠れた?」
「はい」
飯田さんは笑ったが、その顔はすぐに真剣なものとなった。
「みんなに言っておきたいことがあるんだ。長い話になるけど聞いて欲しい」
そう前置きされて続く言葉は、私達の今までの疑問に全て答えるものとなった…
<19−1 Rika's view 終>
- 655 名前:takatomo 投稿日:2003/11/27(木) 22:35
- >>652-654 更新終了
>>651 ありがとうございます。番外編というものは約束できませんが、一つだけ。
「セバータイズという作品」は20章で終わります。ということです。
こういう言い方しかできなくてすいません。
- 656 名前:19 The confession 投稿日:2003/11/28(金) 23:51
- <19−2 Kaori's view>
私は一つ一つ話していくことにした。
ずっと迷っていた。
本当に話していいものかどうか。
でも、みんなはここまでそれを敢えて聞かずについてきてくれた。
だからこそ、最後の戦いの前にそれを全部話しておくべきだ。
私はそう思って口を開いた。
「私は…モーニング公国の王なんだ…」
勤めて何でもないかのように言った。
でも、全員の顔に驚愕の色が伺えた。
藤本までも表情を変えていた。
これは、ずっと前にわかっていたことだった。
時を統べしものが私の元へ来た時から…
「嘘…でしょ…」
後藤が何とか言葉を搾り出すように言った。
「嘘じゃない」
それ以上説明する方法はない。
誰も何も言わない。
納得しているのかどうかわからないが、私は話を続けた。
時を統べしもののこと、輝ける闇のこと。知っている限りのことは全部。
全部話終えても、しばらくは誰も口を開かなかった。
「どうして安倍なつみが王になってるんですか?」
「わからない…たぶん安倍なつみは何らかの形でそのことを知ったんだと思う…だから私を…」
石川の問いに答える。
この戦いが私闘である一番の理由はそこだった。
それを聞きたい。それならどうして相談してくれなかったのか。
どうしてあんなことをしたのか。
世界の運命なんかよりも、私はそれを知りたかった。
「圭ちゃんには言ってるの?」
「うん、関所で別れる前に少しだけ話した。でないと納得してもらえないから…」
「そっか…」
「ごめんね、黙ってて」
「いいよ…そんな事情があったのに私に協力してくれてありがとね。
私も市井ちゃんとやぐっつあんの仇が取りたかっただけかもしれないのにね」
後藤は俯いた。
私の話で誰も取り乱したりはしなかった。
どうやら私の思い過ごしだったみたいだね…
- 657 名前:19 The confession 投稿日:2003/11/28(金) 23:53
- 「行こうか」
私が立ち上がるのに続いてみんなも立つ。
城壁の上だろうか。
いくつもの明かりがともっているのがわかる。
城の窓からもいくつもの光が見えていた。
そして…城壁の中からも光が漏れていた。
お待ちかねみたいだね。
明かりを消して、ゆっくり進んでいく。
さっきまで見えていた満月が雲に隠れ、真っ暗になった。
それと共に顔に雫がかかるのに気付いた。
雨が降ってきたようだ。
そう言えばこの戦いが始まった日も雨だった。
何かの巡り合わせだろうか。
7の月に雨が降ることは珍しいのに…
門の前まで早足で進む。
見張りの兵士はいなかった。
それどころか門は少し開いていて…
その隙間から中の光が漏れていた。
「バカにされてる?」
「そうかもしんないね」
怒ったような後藤の声に私は答えた。
おそらく中にはほとんど兵はいないだろう。
でも、その分精鋭を揃えているはず…
罠であるということはわかっていた。
でも、これは私が張った罠だった。
ここに大群を残されたなら勝ち目はない。
圭ちゃんたちが合流しても、到底数は及ばない。
だから、私は誘い出した。
モーニング公国の軍がプッチモニ公国を攻めるために。
ただ、それで私達が圭ちゃんと一緒に戦ったなら同じことだ。
そこで別働隊を組むことにした。
兵が少なくなったこの城をこっそり攻略するために。
でも、別働隊で動ける人数は少数。
モーニング公国が全軍向かわずに、半数ほど残したなら…私達だけでは勝ち目はない。
向こうには全軍行かせる必要がある。
- 658 名前:19 The confession 投稿日:2003/11/28(金) 23:54
- だが、それでも駄目なことが一つある。
吉澤ひとみを初めとする、幾人かの精鋭がいるであろうこと。
私達がいないなら、そいつらと圭ちゃんたちがぶつかったのならあっという間に勝負は決まる。
敵の方が多い上に、精鋭部隊がいるのだから。
つまり…私達が別働隊に動きつつ、圭ちゃんたちに持ちこたえてもらう方法…
それは、私達が精鋭部隊と戦って城を攻め、圭ちゃんはその間、それ以外の兵となんとか持ちこたえてもらうことだった。
そのために、私達が別働隊で動いて城を狙っているということを、相手がわかるように小部隊を襲った。
でも、それを知られると、先に言った、軍を半分残されたら終わることとなる。
だから私は関所を落とした。
そうすることで、ある程度の兵をかけないと国を落とせない状況を作った。
そして最後は…安倍なつみなら…なっちならこうすると思った。
兵を残せば私達がここへ来るのを諦めるかもしれない。
なっちは…私の首とプッチモニ公国の両方がすぐに欲しいんだ。
だから、きっと私達を相手する精鋭だけ残すだろうと…
それが思っていた以上の形で行われたわけだ。
向こうもこっちも、上手くいったと思っているなんて、奇妙なことだけど…
石川の精霊術が開かれた門をぶち破った。
私達は中になだれ込んだ。
目標は…安倍なつみ…なっちだけだった。
<19−2 Kaori's view 終 >
- 659 名前:takatomo 投稿日:2003/11/28(金) 23:55
- >>656-658 更新終了。
次は週明けになります
- 660 名前:とこま 投稿日:2003/11/30(日) 13:48
- 更新お疲れ様です。
いよいよ最後の戦い・・・
最後まで見届けたいと思います。
- 661 名前:19 The confession 投稿日:2003/12/02(火) 00:04
- <19−3 Reina's view>
「れいな…」
「さゆ、どうしたの?」
「れいな、絵里はもう見つからないのかな?」
今にも泣き出しそうな顔でさゆは私を見た。
絵里とさゆと私。
3人とも幼馴染というものだった。
いつしか、私は特異な力のために、時を統べしものの巫女となった。
さゆは未だに見習い。
絵里は時を統べしものとして、人間界へと降りていった。
そして、絵里が消息を経ったのはそれから少ししてだった。
全く力の波動を感じなくなってしまった。
心配だったが、私は巫女という立場上、動くことは出来なかった。
何より、輝ける闇に不穏な動きが生じていたからだ。
知らない間に漏れていた水のように。
気づけば世界を湿らせていた。
まだ、ふさぐことのできる穴だったが、この間のことで完全に穴が開き始めている。
だから、さゆに行ってもらった。
見習いという立場であるが、さゆの力は決して見劣りするものじゃない。
15歳になったらすぐに時を統べしものに選ばれるだろう。
本当は一応見習いのさゆを人間界に行かせるのは行けないことなんだけど…
場合が場合だったし、何より飯田圭織さんと波長の合うのがさゆだったから。
さゆに行かせるしかなかったんだ。
「きっと…見つかるよ」
無責任だったけど、さゆの笑顔がみたかったから、そう言った。
私たち時を統べしものは、人間たちのような方法で子孫を残すということはしない。
だけど、私たちには愛情という感情が存在していた。
私はさゆにそれをもっているんだと思う。
いとおしくて…笑ってほしくて…
きっとさゆも絵里のことをそう思ってるんじゃないのかな…
- 662 名前:19 The confession 投稿日:2003/12/02(火) 00:05
- 「飯田さんたちがモーニング公国で戦ってる」
いきなりさゆが言った。
ここにいながら飯田さんの動きを追うことができるのは、さゆだけだった。
私も石川さんの波動を追った。
確かに、モーニング公国の城のあるところに波動を感じた。
そして、その近くに悪しき波動を感じる。
結界の中心であるモーニング公国の城だから、結界がズレ始めているそこで波動を感じるのは当然だけど…
それ以上に強い波動を感じる…
そして、どこか懐かしい波動だった。
「絵里…」
思わず出てしまった言葉を慌てて飲み込む。
幸いさゆには聞こえていなかったようだ。
確信がもてない以上動くことはできない。
そもそも絵里の波動がこんなに闇に近いわけがない。
絵里のことが気になってるからそう感じただけだ。
私は自分を納得させた。
飯田さんがここにくるということは、安倍なつみさんを止めてくれるということだ。
そうすれば…結界のズレも直してくれるだろう。
…
…
何かがひっかかる。
何か…
…
…
「さゆ…後藤さんは飯田さんと一緒にいるんだよね?」
「うん…確かそうだったけど…」
「飯田さんの下についてるんだよね…」
「れいな何が言いたいの?」
…
…
ヤバイ…
「さゆ!人間界に行くよ!飯田さんに安倍なつみさんを殺させちゃ駄目だ!」
<19−3 Reina's view 終 >
- 663 名前:takatomo 投稿日:2003/12/02(火) 00:09
- >>661-662 19章は短めに。
描写だけ出ていた二人がいきなり名前付きで登場。
次は20章 sever ties これで一応のおしまいです。
更新はちょっと遅めになるかもしれません。
- 664 名前:takatomo 投稿日:2003/12/02(火) 00:10
- >>660 ありがとうございます。おかげさまで最終章にたどり着けました。
残り一つ、よろしくお願いします。
- 665 名前:とこま 投稿日:2003/12/02(火) 21:32
- 更新お疲れ様です。
なんと、時を統べし巫女が6期メンバーとは・・・
Σ( ̄□ ̄ノ)ノビックリ!
最終章ですか・・・待ってます。
- 666 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/04(木) 23:27
- <FINAL CHAPTER Sever Ties>
<20−1 Makoto's view>
門の中は、夜とは思えないくらい明るかった。
飯田さん、後藤さん、石川さんに続いて中に入った。
飯田さんの言っていたとおり、奥にもう一つの壁があった。
その向こうには城。
レンガ造りの道は、その門まで一直線に伸びていた。
誰もいないのを確認しつつ、急いで走り抜ける。
でも、門の前で何か光るものが飛んできた。
「危ない」
飯田さんの声で、みんなそれに気付き、身をかわす。
飛んできた方向には二人の女の子が立っていた。
一人は一目見ればわかる風貌をしていた。
ミニモニ公国の人間。
そしてもう一人は…
私は自分の目を疑った。
そこにいたのは私が良く知ってる人だった。
私が仕官学校時代、何度となく戦った人。
勝てたのは数回。
一つ下の彼女は私と一緒に卒業した。
それほどまでの彼女の力はずば抜けていた。
飯田さんの再来と言われていたのをよく耳にしたこともある。
実際、二人と何度も刃を交えた私は、それがあながち嘘でないとわかっていた。
でもそれは、飯田さんが訓練をしているときだけであって…
この戦いが始まった時から思っていたけど、飯田さんはちっとも本気を出していなかったんだ。
私に合わせてくれていたんだと、身に染みた。
ずっと飯田さんの訓練の相手になっていたと思っていたけど、それはまったくの思い過ごしだったわけだ。
- 667 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/04(木) 23:28
- 「飯田さん、先に行ってください!」
叫んだ。
敵うわけはないと思う気持ちと、戦いたいという気持ちが同時に溢れ出ていた。
「ののも残るのれす」
後ろにいた辻さんが言った。
もしかしたら、あのミニモニ公国の人が気になったんだろうか。
「小川…」
飯田さんは私をじっと見てから言った。
「死なないでよ」
その言葉が聞けただけでうれしかった。
やっと私に任せてもらえる。
やっと一人前だと思われたんだ。
再び門を精霊術で壊し、飯田さんたちの姿が壁の向こう側へと消えていく。
「私さー飯田圭織さんとやりたかったんだよね」
新垣里沙…里沙ちゃんは言った。
正直なところ、勝てる見込みはなかった。
何度か勝ったことはあったが、10回やって1回勝てればいいほうだった。
「いいよ。あんたを殺して相手してもらうから…
愛ちゃん、こいつには手出ししないでね」
隣の子、愛というらしい。
その子はその子で、私に関心は無いようで、辻さんの方に視線を向けていた。
槍を握りなおす。
私の手は汗でびっしょりだった。
そして、自分が震えていることにも気付いた。
私は勝てるんだろうか?
飯田さんに昔教えられたことがある。
訓練で3回やって1回しか勝てない人と、実戦で戦うと絶対負けると思う?
それは違うよ。
その1回が初めに来ることは十分考えられるでしょ?
そうなったらこっちの勝ちだよ。
だから実戦は難しいんだ。命を賭けた一発勝負なんだから。
勝ちたいって言う気持ちほど強いものはないよ。
小川、あなたに足りないのはそれじゃないかな?
小川は勝つときも負けるときも綺麗すぎるんだよ。
もっとさ、どんなことしてでも勝ちたいって気持ちがないと、これ以上成長しないよ。
何度も言われたことだけど、イマイチ実感が湧かなかった言葉だった。
でも、今となってはよくわかる気がした。
そう、10回のうち1回が初めにきたら、私が勝つんだ。
大きく深呼吸して自分に言い聞かせる。
体の震えは少しずつ治まってきた。
- 668 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/04(木) 23:29
- 私の攻撃は次々と弾かれていく。休みなく攻めて、相手の体勢を崩そうとするんだけど、彼女が相手だとそれは上手くいかない。
逆にこっちの体勢が崩れてきて、そこを反撃される。
わかっているけど、それしか方法がなかった。
私の5度目の攻撃が弾かれると共に、里沙ちゃんの槍が太腿に突き刺さる。
「全然進歩してないのね。これじゃあ私に勝てないよ」
槍が抜かれると、私の足から血が吹き出た。
倒れそうになったので、槍を支えにバランスをとる。
ますます勝てる可能性が少なくなってきた。
痛みを感じることがなかったのは幸いだった。
右足の感覚は完全に麻痺していて…足が地面についているかもわからなかった。
「それじゃ無理でしょ?同級生のよしみで見逃してあげるよ」
背を向けて立ち去ろうとする。
昔の私ならあきらめてただろう。でも、今の私はこのまま終わるわけにはいかなかった。
「待って…あなたは私が倒すんだから」
「そう…」
振り返ってそう言うと、すぐに里沙ちゃんの槍は寸分の狂いもなく私の胸を突き刺そうとしていた。
避けるにも足は動かない。
何とか体をひねって避けようとする私のわき腹をそれは貫通した。
瞬時に吹き出る脂汗と、口に広がる血の臭い。
だけど、私は槍を落とさなかった。
そして、刺さったままの槍を持つ里沙ちゃん胸を刺したのは私の槍だった。
「嘘…何で…」
相打ちなんて格好悪いけど…負けるよりはいいや。
先に里沙ちゃんが倒れるのを確認した後、私は倒れた。
もう体に力が入らなかった。ただ、眠たかった。
<20−1 Makoto's view 終 >
- 669 名前:takatomo 投稿日:2003/12/04(木) 23:31
- >>666-678 更新終了。
今回から流しときます。
>>665
ありがとうございます。やっとのことで最終章開始となりました。
- 670 名前:takatomo 投稿日:2003/12/04(木) 23:31
-
- 671 名前:takatomo 投稿日:2003/12/04(木) 23:31
-
- 672 名前:とこま 投稿日:2003/12/05(金) 20:14
- 更新お疲れ様です。
いよいよ最終章・・・頑張って下さい。
- 673 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/07(日) 13:01
- <20−2 Nozomi's view>
「愛ちゃん、どうしてこんなところにいるのれすか!」
ののは大きな声で叫びました。
聞こえていないはずはないのです。
でも、愛ちゃんはチャクラムって言う輪で攻撃してくるだけで、答えてくれません。
チャクラムって言うのは、丸い円盤の外側に刃がついた武器です。
愛ちゃんが、それを使って遠くの的を倒す練習をしていたのをよく覚えています。
そのときは、その的に自分がなるなんて思ってなかったです。
ののはそれを完全に避けれるほど強くないので、体中傷だらけでした。
でも、痛くはありませんでした。それよりも、愛ちゃんが答えてくれないほうが嫌でした。
「辻さん、矢口さんや加護ちゃんには悪いですが、私はあの国を捨てたんです。
劣等感と悲壮感に溢れ、身近な国を攻めてそれを癒そうとする卑しい国を」
難しい言葉を並べていましたが、ミニモニ公国が嫌ということはわかりました。
「だから、モーニング公国に味方するのれすか?」
「そういう訳じゃない。ただ、この国は私をかってくれた。ミニモニ公国が消えるのは知らされていました。遅かれ早かれ、モーニング公国が制圧していたでしょう。
そのことを知らされたなら、わざわざあの国に残ろうという気は起こりません」
「どうしてそのことをみんなに言わなかったんれすか?」
「言ったでしょう。あんな国がなくなっても私はなんとも思わない。いっそのこと、ミニモニ公国の人間は滅亡してしまった方がいいんだ」
「そうれすか…別にののはあの国が嫌いなわけじゃないれす。それに、そんなことを言ったからって愛ちゃんが嫌いになるわけでもないのれす。だけど…」
「だけど?」
「だけど、ののはいいらさんのお手伝いがしたいのれす。だから、愛ちゃんがののの邪魔をするなら、承知しないのれす」
ののは剣を抜きました。
「ふーん、どう承知しないのかやってもらおうかな」
愛ちゃんはチャクラムを投げてきます。
その軌道はなんとなくわかってきたので、剣でそれを弾きます。
1個は地面に落ちましたが、2個目は無理でした。
ののの肩を切って愛ちゃんの手に戻ります。
- 674 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/07(日) 13:02
- 今度はののの番です。
愛ちゃんが投げる前に私は距離を詰めます。
近くに行くと、チャクラムも使えないのです。
必死に距離を取ろうとする愛ちゃんと、それについていくのの。
身体能力ではののの方がはるかに上です。
どんどん距離を詰めていきます。
もう無駄だと判断したのか、愛ちゃんは至近距離から投げてきました。
咄嗟に振り下ろした剣が偶然それを弾き、愛ちゃんの体を深く切りつけました。
胸から肩にかけての傷は深く、血がみるみるうちに広がっていきます。
くぐもった声と共に血を吐き出す愛ちゃん。
みるみる顔色が白くなっていくのがわかります。
傷口を押さえ、うずくまる愛ちゃん。
もう助からないことはすぐにわかりました。
「愛ちゃん…」
返事はありません。
咳と共に更に血を吐き出す愛ちゃん。
私はその姿を見ているのが辛かったです。
だから、剣をおろしました。
愛ちゃんの首を目掛けて。
- 675 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/07(日) 13:03
-
愛ちゃん…
転がる首を見ることはしませんでした。
すぐに顔を上げていいらさんの後を追おうとします。
しかし、私の目には倒れている麻琴ちゃんの姿が見えました。
「麻琴ちゃん」
槍が体を突き抜けているのがここからでもわかります。
慌てて近寄ると、わずかだけど体が動いているのがわかりました。
死んでない!
でも、安心することはできません。
危険なのは明らかですし、何より私はどうすることもできません。
「飯田さん…」
麻琴ちゃんのかすかな声が耳に入りました。
飯田さんならきっと何とかしてくれます。
このまま放っておいてもしかたないし、私が何かできるわけでもないのです。
私は槍を抜き、麻琴ちゃんを背負いました。
背中に暖かい液体がしみこんでくるのがわかります。
私は全速力で飯田さんの後を追いました。
<20−2 Nozomi's view 終 >
- 676 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/07(日) 13:04
- <20−3 Miki's view>
城の前には兵士がたくさんいた。
14人。
私がさっと数を数え終わるのと、彼らが動かなくなるのはどちらが早かったのだろう。
飯田さんとごっちんは進むスピードを全く落とさないまま、彼らの間を駆け抜けた。
後に残ったのは動かない兵士たち。
ここに残っているのだから、それなりの実力はある人間なんだろう。
でも、二人は強すぎた。
梨華ちゃんを合わせた3人は、この世界で5本の指にはいることは間違いないだろう。
ごっちんの剣が扉を切る。
私たちはようやく城に足を踏み入れた。
大きな広間だった。
吹き抜けの高い天井と、その先に張られたステンドグラス。
正面の階段の前には一人の女の子がいた。
あの顔を私は知っている。
「ここは私の番ですね。先に行っててください」
私は剣を抜き、前に立つ松浦亜弥に飛び掛った。
松浦亜弥が私の剣を防ぐ間に3人は階段を一気に駆け上がった。
「ミキティ!死んじゃ駄目だよ」
振り返って叫ぶごっちんに、視線だけで答える。
その時、私の剣を受け止めていた松浦亜弥の力が変わると、剣同士を滑らせるようにして私の左手が切られた。
「たった一人で私の相手ができると思ってます?私が誰だかわかってます?」
知ってる。
それくらいの情報はとっくに集めてる。
いちいち答える気にもならない。
松浦亜弥。16歳。6の月生まれ
モーニング公国南。
例の消滅した町の近くに生まれる。
家族は無し。
両親共に戦争でなくし、1年前から軍に入る。
剣の腕は一級で、宝石を埋め込んだその剣は精霊術を弾き返す。
つらつらと記憶している情報を引っ張り出す。
カントリー公国を制圧したのもこの子の軍だ。
- 677 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/07(日) 13:05
- 「何とか言ってよ」
「あなたと話してる暇はありません。先に行った皆さんを追いかけないといけないので」
この体でどこまでいけるかわからなかった。
左手からはもう血は流れていなかった。
痛みすらも感じることは無かった。
いや、痛みだけでなく、左手はもう自分の意思で動くことは無かった。
あの時…
ミニモニ公国で加護亜依から受けた傷。
ほんの些細な傷だったけど、毒か何かだったんだろう。
左手は激しい痛みと共に、徐々にその機能を失っていっていた。
本当にごっちんを庇っていてよかったと思う。
私の左手はもう、腐食が完全に進行しきっていた。
このまま全身に広がっていくだろう。
私の命は…そう長くはない。
「ふざけないで!」
自尊心を傷つけられたのか、松浦亜弥は叫んだ。
切りつけてくる剣を受けるが、また同じように剣同士が滑らされる。
私の剣をつたうように松浦亜弥の剣が私の方へと動いてくる。
咄嗟に後ろに下がる。
私のいた位置を確実に横切る相手の剣。
何が起こっているかよくわからないが、剣をあわせることは危険だということはわかる。
次の攻撃は剣で止めることなく避けた。
だけど、私の攻撃は剣をあわされる。
そして、松浦亜弥の剣が再び私の左手を切った。
「ねえ、その手どうなってるの?血も出ないし、痛くも無いみたいだし」
私は答えなかった。
再度攻撃をしかける。
でも、それも松浦亜弥には止められた。
「もしかして、左手は使えないの?」
「どう思います?もしかして隠してるだけかも知れませんよ」
精一杯の強がりを言ってみた。
これで相手が警戒してくれるなら儲けものだ。
だけど、それを期待するには相手が悪かったみたい。
- 678 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/07(日) 13:05
- 「出し惜しみしてる状況じゃないのはそっちでしょ。嘘はみっともないよ」
松浦亜弥は左手を剣に沿え、下に振り下ろした。
いきなりの強い力に、私の右手から剣は落ちた。
そして、松浦亜弥の剣は下から上へと切り上げる。
私の体を深く切り裂いて。
私は仰向けに倒れた。
体が熱い。
血がどんどん流れていくのが感覚としてわかる。
激しく波打つ心臓が、体の外へと血をどんどん押し出している。
私の視線にはステンドグラスがあった。
夜のはずなのに、それは光って見えた。
死ぬんだ。
私は実感した。
死ぬことは怖くなかった。
「……ミ……ミ…ティ……」
ごっちんは泣いてくれるんだろうか。
「ミキティ……ミキティ」
ごっちんに最後会いたかったな…
「ミキティ!」
ステンドグラスの光の代わりに、ごっちんの顔が私の視界に映った。
私の顔を覗き込んでくれてる。
最後に幻をみるなんて、私もまだ未練たらたらみたい…
でもよかった。
幻でもごっちんの姿が見れて。
「ミキティ!」
私は頬に何か落ちてくるのに気付いた。
一滴、二滴。
雫が落ちるたびに私の意識ははっきりしていった。
幻ではなかった。
私の前には涙を流したごっちんがいた。
<20−3 Miki's view 終 >
- 679 名前:takatomo 投稿日:2003/12/07(日) 13:08
- >>673-678 更新終了
辻は最後まで悩んだけど、話し言葉以外は普通に。
後2回か3回の更新でこの話はおしまいです。
>>672 ありがとうございます。もう少しばかりお付き合いください。
- 680 名前:takatomo 投稿日:2003/12/07(日) 13:09
-
- 681 名前:takatomo 投稿日:2003/12/07(日) 13:09
-
- 682 名前:とこま 投稿日:2003/12/07(日) 20:18
- 更新お疲れ様です。
どこまでもお供します。
- 683 名前:モテごまlove 投稿日:2003/12/08(月) 08:54
- みきごま!みきごま!!
何気にみきごま!!!
すごく、物語の中に引き込まれます。
かなり、ハマリました☆
- 684 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/09(火) 23:47
- <20−4 Maki's view>
「ごっちん」
階段を上っているときにその声は聞こえた。
急に足を止めた私に、先を行く二人はすぐに気付いた。
「ごっちん、どうしたの?」
「いや…」
空耳に決まってる。
ミキティは下にいるんだ。
ここまで声が聞こえてくるわけない。
そう思って進もうとしても、やっぱり気になる。
ミキティの声だったって自信はあるんだ。
だから余計に気になって…
あんなやつ知らないのに…
ずっとかき回されてる。
関わりたくないのに、ずっとミキティのこと考えてる。
さっきもなんであんなこと言ったのか自分でもわからない。
もうわけわかんない。
でもさ…でも…
「ごめん…先行ってて。後からすぐに追いつくから」
二人の返事を待たずに私は階段を駆け下りた。
私じゃ駄目なんですか?
ごっちんが私のために泣いてくれるんなら。
ごっちんが好きなんです。
ミキティの言葉と表情が次々に頭の中に溢れてくる。
わけわかんなかった。
ごっちんが好きなんです。
うれしくなんてない。
うれしくなんて…
なのに涙がでてくるのは何でなの?
ミキティのことを考えると苦しいのは何でなの?
- 685 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/09(火) 23:48
- やっと最後の階段が見えた。
下にはさっきのやつ。
そして、その奥には…
「ミキティ!」
私は大声で叫んで降りていく。
遠くから見えるほどの血。
顔を覗き込む。
目はうつろだったけど、目の奥に光が見えた。
生きてる。まだ生きてる。
でも、私は自分の手が握ったものの異様な感触に鳥肌がたった。
掴んだ指がぐにゃりと埋まっていく。
まるで泥を掴んだような感覚は、ミキティの服の上からでも十分伝わった。
私は恐る恐るミキティの左手に視線をやる。
私が握った手の型は、服の上からくっきりすぎるほどに残っていた。
服の裂け目から見える腕は黒。
服を破っていって見えた左手は完全に真っ黒。
毒々しいまでの黒色の腕が服の下から現われた。
私は言葉を失った。
ミキティが生きていたことよりも、こっちのほうの驚きが勝った。
何が起こればこうなるかわからない。
考えてみると、モーニング公国に入ってから、ミキティは左手を使っていなかったようにも思えた。
更に記憶を戻してみよう。
ミキティが左手に何か起きたのは…
「チッ…邪魔しよって…」
加護亜依の言葉が頭をよぎった。
あの時の…まさか私を庇ったときの…
私の思考がつながろうとする時、背中に鋭い痛みを覚えた。
思わず飛びのくと、私の目には剣を振り下ろした人影が見えた。
- 686 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/09(火) 23:49
- 「私を無視しないでくださいよ。後藤真希さん」
「あんた…誰よ」
「私は松浦亜弥です。ご存じないんですか?」
私は咳き込んだ。当てた手には血がにじんでいた。
「知らないよ」
口の血をぬぐうと、私は剣を抜いた。
思った以上に背中の傷は深いみたい。
早く決着を付けないとね。
切りかかってくる松浦の剣を避ける。
私の剣は松浦に止められたが、力を更に加えると、私の剣はそれをたやすく切断した。
松浦に驚きがみられる。
その隙を逃さずに私は彼女を切った。
「嘘でしょ…私の剣が…」
松浦が倒れるのと同時に、私はその場にへたり込んだ。
「ミキティ、ごめんね。私を庇ったから…」
返事はなかった。私の方をじっと見てくれているだけ。
私はそれだけでも十分だった。
私は二度目の血を吐いた。
ごめんね、圭織。すぐに追いつけそうにないや。
体がさ、言うこと聞いてくれないのよね
ミキティに寄り添うように私は倒れた。
「やっとわかったよ。私もミキティが大好きなんだ」
耳元でそれだけ言った。
ミキティの目から涙が流れるのが見えた。
私の意識はそこで途絶えた。
- 687 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/09(火) 23:50
- <20−4 Maki's view 終 >
- 688 名前:takatomo 投稿日:2003/12/09(火) 23:52
- >>684-687 更新終了。
次回は金曜の夜。その次は土曜の夜、もしくは日曜の昼ごろ。
それでセバータイズは完結です。
- 689 名前:takatomo 投稿日:2003/12/09(火) 23:55
- >>682 いつもありがとうございます。今週で完結いたします。
>>683 ありがとうございます。結局、藤本と後藤はこんな感じになりました。
- 690 名前:モテごまlove 投稿日:2003/12/11(木) 10:02
- おぉ!!みきごまだぁ☆☆
ごっちんどうなっちゃうんですか!?
続きがかなり気になります!!
- 691 名前:とこま 投稿日:2003/12/12(金) 21:01
- 更新お疲れ様です。
終わるんですか(T_T)
こんな結果に終わるとは・・・(T_T)
- 692 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:31
- <20−5 Rika's view>
「お待ちしていました。安倍さんはこの奥にいらっしゃいます」
階段を上りきり、大きな広間に出ると、部屋の真ん中にいた一人の女の子がそう言った。
「飯田圭織さん、行くのならどうぞ行ってください。
私が興味あるのはそちらの方だけですから。後はどうなっても知りません」
そちらの方というのが私であることは明白だった。
ここには私と飯田さんしかいないんだから。
「行ってください。飯田さん」
「石川…」
「大丈夫です、早く行ってください。それに、安倍なつみさんと二人の方が話しやすいでしょ?」
「わかった。絶対追いついてきてよ」
飯田さんは少しの間考えてから言った。
「わかってます。私を信じてください!」
飯田さんは走っていく。
一応精霊術を組んでいた。
もし、目の前の子が飯田さんに何かしようとするなら、それを放つつもりだった。
でも、それは私のとりこし苦労だった。
前の子は全く動こうとはしなかった。
あっさりと飯田さんは。奥の扉を開けて出て行ってしまった。
何を考えているのかわからない。
そもそも、なぜこの子が私にこだわるんだろう。
その答えは彼女の指にあった。
エメラルドの指輪。
私と戦いたくて、その指輪をはめている人間なんて一人しかいない。
- 693 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:32
- 「あなた…紺野あさ美なのね?」
「そうですよ。石川梨華さん」
HPWというものがなんであるか、美貴から聞いた。
そして、紺野のことについても情報はもらった。
精霊術よりもその体術に注意しないといけないことはわかっている。
「あゆみちゃんから頼まれたんだ。あなただけは私が相手するって…」
「あゆみちゃん?」
「知らないわけ無いわよね。柴田あゆみを」
「あーあーあーわかりました。全然たいした事無かったですね。
正直拍子抜けでした。あんなのがNo2だなんて…だから…」
紺野の大きな目が更に大きく見開かれた。
来る…
「あなたは期待に応えていただけるんですよね、石川梨華さん」
その言葉が私に届いたのと、紺野の姿が私の目前まで来たのは同時だった。
来るとわかっていても目で追えなかった。
予め用意しておいた構成を放つ前に、強い衝撃が私の体を襲う。
構成はすぐに壊れ、激痛が右手から全身に広がる。
わかっていても避けられない。
用意していても動けない。
紺野の動きは、格闘技に関して素人の私にはどうにもならないようなレベルだった。
彼女は精霊術師ではない。
彼女の指輪は精霊術のためでなく、殴るときの武器と化していた。
右手は折れたみたいだ。
肘から先は痛覚のみしかなかった。
- 694 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:33
- どうすればいい…
額に噴出す脂汗。
痛みが集中力を損ねて、更に構成を組むのに時間がかかる。
それに、あの動きでは普通の術では避けられてしまう。
だけど、詠唱する時間なんて許してくれるわけない…
精霊術師のジレンマがここにきて私に重くのしかかっている。
なんとかして彼女に精霊術をあてないと、私には勝機はない。
紺野の2撃目を受け、私は壁に打ち付けられる。
息ができないほどの衝撃で、思わずむせ返り、それと共に胃の中のものが血と共に逆流した。
至近距離からの攻撃でないと避けられる。
でも、至近距離に近づくとその前にこっちがやられてしまう。
遠くにいながら至近距離に…
目の前でキラリと光ったかと思うと、紺野の拳が飛んできた。
奇跡的にそれを避けた私の頭に、一つの考えが浮かんだ。
やったことなんてなかったけど、試してみる価値はある。
何しろ、彼女の精霊術の力は私に比べると赤子同然だったから。
私は指輪を外し、距離をとって構成を組んだ。
それほど難しいものではないので一瞬で組むことができる。
紺野も私の行動が読めないのか、じっとその場で構えていた。
問題はその後。
遠くをイメージしつつ、力を解放する。
発信源は…紺野の指輪だ!
- 695 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:33
- 豪火が私の前で巻き起こる。
成功したようだ。
その中で必死にあがく紺野。
だが、すぐにそれは動きを止めた。
「精霊師のくせに…精霊術をバカにするからだよ」
黒くこげた床に一言言い残し、私は飯田さんの後を追おうとする。
だけど…背後に感じる異様な気配に足を止めた。
禍々しい気配がした。
その正体は、吉澤ひとみだった。
「そういえば、まだあなたもいたんだっけ?」
体中痛いし、骨も折れている。
満身創痍の体だけど、こいつの姿を見ると元気が出てきた。
「そんな余裕を叩けるの?本当は体中ガタガタなんじゃない?」
「ちょうどいいハンデだって」
火の術を放つ。
しかし、それは目前で何事も無かったかのように消えてしまう。
数ヶ月前に見たのと同じ光景だ。
風、地、雷、水。
立て続けに出すが、どれも同じだった。
やっぱり無理なんだ…
無理だろうと思っていたけど、いざ現実を目にするとショックは大きい。
難しい構成をくみ上げても結果は同じだった。
- 696 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:34
- 何かしらの秘密があるはずなんだ。
こんなことが簡単にできるはずはない。
どんな書物にも載っていなかったし、私の知る限りの方法では不可能であることは確か。
だからこそ、意外な落とし穴があるんじゃないか。
何度も何度も術を放ち、吉澤ひとみの行動を観察する。
「無駄だってことがわからないみたいだね。そんなあきらめの悪い梨華ちゃんにいいお話をしてあげよう」
梨華ちゃんなんてなれなれしい口は腹が立つが、ここは黙って聞いていよう。
吉澤ひとみは自分が負けるわけないと思ってる。そこがねらい目なんだから…
「問題です。この宝石はなんでしょうか?」
「ダイヤモンド」
即答する。こんなの誰が見たってわかることだった。
「では次の問題です。これはいつの誕生石でしょう?」
「4の月」
これも常識の範囲内だった。
ただ…4の月には精霊師は生まれないとされている。
理由はなぜだかわからないけど…
「答えてあげるよ。その理由に」
読まれてる…
動揺を必死に隠して吉澤ひとみの話に耳を傾ける。
- 697 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:35
- 「ダイヤモンドの宝石言葉は知ってる?
清純無垢。つまり、ゼロなんだ。だから精霊もゼロ。力を借りることができない。
全くニュートラルな宝石なんだ。だから4の月に生まれても、誕生石の加護を受けることができない。
それが精霊師が生まれない理由って言われていることは知ってるよね?」
「……」
「でもね、本当は生まれるんだよ。それほど高い確率ではないけどね。
知らないでしょ?そんなこと…だって、精霊師自身がそれを隠してるだからね」
吉澤ひとみの顔から笑みが消えた。
さっきまでの余裕たっぷりの顔つきが険しくなっていく。
「隠す?」
「そう、4の月に生まれた精霊師は、闇に葬られることになるんだよ。
谷底に落とされたり、火にくべられたりしてね」
「どうしてそんなことを…」
「精霊師は怖いんだよ。自分達が一番上の種族だということをどこかしらで思っているんだろうね。
武器もいらない。いるのは小さな宝石だけで、何人もの人を簡単に殺すことができる。
自分達が優れているってどこかで思ってるんだ。
だから、自分達の力を脅かす存在を忌み嫌って排除しようとする」
吉澤ひとみの言っていることは理解できる。
だけど、それはどこか夢物語を聞いているような感覚だった。
「ダイヤモンド…それはね、ゼロといったでしょ。その名の通り、どんな精霊術でもゼロにしてしまうんだ。
精霊がダイヤモンドというものを避けているから当然なんだけどね。
あんたがどんなに調べたって書いてないのは当然だよ。そんなこと、他に漏らすべきことじゃないからね。
王族の一部の人間だけが知っているんだ…」
「どうしてあなたはそこまで知ってるの…」
震える声で必死に問いかける。
吉澤ひとみの言葉には、嘘と言い切れない説得力がなぜかあった。
- 698 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:36
- 「カントリー公国、第一皇女にして、4の月生まれ。
生まれた途端に谷底へと落とされたのは他でもない、私だからだよ」
何かで頭を殴られたような感覚だった。
視界がぐるっと一回転する。
その場に倒れそうになるのを必死でこらえた。
「さて、お話もこの辺にしよう。私にかなわないってことはわかったでしょう?」
「いや…それを聞いたから、余計に勝たないとけないんだ…そんなことをする精霊師は最低だ…
私があんたに勝って、そんなことする必要ないことを示さないといけない…
それに…私は飯田さんを追わなくちゃいけないんだ」
そうは言ったものの、策があるわけでもなかった。
状況が好転したことといえば、仕組みがわかったってこと。
なんとかしてダイヤの指輪を防げば、精霊術が通じる。
それだけでも、かなり希望の光が大きくなっていた。
あゆみちゃん、ちょっと借りるよ。
私は術を放つ。それは吉澤ひとみの前ではじけ、八方から降り注ぐ。
それでも同じだった。
彼女が指輪をかざすと、消えてなくなった。
駄目か…もっと奇襲攻撃でないといけない…絶対気づかれないような…
あいつが想定していないような攻撃。
それをたった一人でやる必要があった。
考えろ…考えろ…
自分に言い聞かせる。
幸い吉澤ひとみは攻撃をしかけてこなかった。
なぜだかわからないけど、私にとっては決して不都合なことではなかったから、深く考えずにいた。
- 699 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:36
- 二つの魔法を同時に組んでみようか。
ふっとよぎったバカみたいな考え。
でも、もしできたなら驚くんじゃないのかな…
だからといって、そんなことができるのだろうか…
せめて相性のよい精霊同士にしてやってみよう。
風と水を同時に組んでみる。
初めての試みの割には上手くいった。
二つの術が同時に発動する。
吉澤ひとみも一瞬驚いた表情をしたが、すぐにかき消されることとなった。
「すごいね…二つの術を使うなんて。やっぱり梨華ちゃんって天才じゃない?」
「ありがと」
素直に喜べなかった。
思っていた以上に疲労が一気に襲ってきた。
やっぱり無茶なやり方だったようだ。
だとしたら…更にもう一つ組み合わせてみよう。
頭が冴えているのか、狂っているのか自分でもわからなかった。
雷の術と火の術を組む。
たぶん火の方がこのやり方は成功しやすいだろうから。
雷を先に放つ。
やや遅いスピードで。
吉澤ひとみは避けることはしないと私は決めている。
事実、避けることはしなかった。
後はタイミングの問題。
吉澤ひとみの前に光が届くころに、指輪を外して、吉澤ひとみの後ろに投げる。
- 700 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/12(金) 23:37
- 指輪が落ちる。
光が消える。
そして…
指輪から炎が出る。
炎は吉澤を包んだ。
ぶっつけ本番で上手くいくとは思わなかった。
さっきの応用だ。
遠隔操作で指輪から術を発動させる。
しかも後ろから。
さすがに反応できるわけがない。
吉澤ひとみを炎の塊が包み込んだ。
しかし、私のほうも無事というわけにはいかなかった。
精霊術の反動というものが一気に私の体を蝕んだみたい。
あれだけ無茶な使い方をしたのだから当然だ。
命があっただけましなほう。
強烈な吐き気と頭痛に加え、眩暈が私を襲った。
今にも遠のきそうな意識を懸命に保つ。
そして、壁に手をつきながら飯田さんの後を追った。
<20−5 Rika's view 終 >
- 701 名前:takatomo 投稿日:2003/12/12(金) 23:39
- >>692-700 更新終了
謎解き編1です。次でこのお話はおしまいです。
更新は明日か日曜です。
- 702 名前:takatomo 投稿日:2003/12/12(金) 23:41
- >>690
ありがとうございます。この二人のお話はまた後ほど…
>>691
ありがとうございます。やっとラストまでたどり着けました。
もう少しお付き合いください。
- 703 名前:takatomo 投稿日:2003/12/12(金) 23:42
-
- 704 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/12/13(土) 14:10
- ラスト手前のタイミングで全部読ませていただきました。
700を一気に読み切れるほどおもしろかったです。とても引き込まれました。
こういった感じのファンタジーは大好きです。
ラストも楽しみにしています。
- 705 名前:takatomo 投稿日:2003/12/14(日) 01:27
- 更新前にレス返し。
>>704
結構な量なのに一気に読んでいただき、ありがとうございます。
このお話のラスト更新です。よろしくお願いします。
- 706 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:28
- <20−6 Kaori's view>
廊下を歩いていく。
自分を落ち着かせるかのようにゆっくりと。
いくつも扉があるが、私はそれを一つ一つ探していくことはしなかった。
どこにいるかはわかってる。
数え切れないほどきたことのある部屋だ。
きっとそこにいるに決まってるんだから。
私はゆっくりと扉を開けた。
「圭織、来ちゃったんだね」
私は答えることが出来なかった。
目の前にいる彼女の目があまりに昔のままで…
いつも私の横で笑いかけてくれた彼女のままで…
まさしく「なっち」が私の前にいた。
安倍なつみ…いや、なっちはゆっくりと剣を抜いた。
その途端に彼女の表情が一変する。
ショートソード。
彼女の使う剣はジュエル・ウエポンでもなんでもなく、ただのショートソード。
彼女の身長の半分ほどの剣だ。
丈夫で手軽な武器のため、重宝されるものではあるが、仮にも一国の王がもつには値しないものだ。
でも、武器を見て油断するには、私は彼女の実力を知りすぎていた。
彼女のショートソードは本気の証。
私は片手に握った槍を握りなおした。
「戦うしかないの?」
私は最後に尋ねた。
- 707 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:28
- 「もう遅いよ…」
何も答えないという意志がすぐにわかった。
何を聞いても無駄だ。
やっぱり戦うしかないんだろうか。
私は自分に言い聞かせた。
私の相手は誰?
中途半端な迷いを持って戦えるような相手なの?
自分の中で何か切れたように感じた。
それと共に、なっちの姿が消える。
次に現われたのは私の前。
伸ばした槍を避け、更に距離を詰めてくる。
槍を戻すのは間に合わない。
至近距離からの攻撃を私は何とか避けるが、距離が開く前に再度なっちの剣が振られる。
密接した状態からの連続攻撃。
避けた剣が戻ってくるまでの時間がゼロに近くて…
次々に私の体に傷を作っていく。
私は何とかなっちの体を突き飛ばし、距離をとった。
接近戦では勝てるわけがない。
槍を使う私の間合いななっちのそれよりも長い。
お互い自分の間合いで戦わなければ、相手に攻撃すらできないだろう。
- 708 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:29
- 再度詰め寄ろうとするなっちを、その前に私の槍がとらえた。
かすった程度だったが、なっちのスピードが落ちる。
その隙に私の槍が無数の線となって伸びる。
全てギリギリのところで避けられているため、致命傷には程遠いが、なっちの身体にいくつも傷が刻まれていった。
だけど、その合間を上手く縫ってなっちが近づいてきた。
またさっきと同じだ。
とっさに槍を真ん中で持って、間合いをあわせる。
なっちの攻撃を受け止めていくが、受けるだけが精一杯だった。
離れようにもなっちの動きが早すぎる。
次第に私の手は痺れ始めてきた。
このまま続けば私の負けに違いない。
なっちの剣が私の左手を深く切る。
それにあわせ、私も右手だけで持つようにしていた槍を振り上げる。
赤い糸を引きながら、なっちと私はお互い距離をとった。
私の左手は傷口から鋭利な骨が突き出ていた。
骨まで切断され、だらりと垂れた手は、かろうじて皮一枚でつながっているだけだった。
だけど、なっちも左手を押さえている。
彼女の左手もだらりと垂れていた。
二人とも、指先から滴り落ちる血が床に血溜まりを作っていく。
- 709 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:30
- 全く静かだった。
聞こえるのは私となっちの息遣いだけ。
夜中に始まったこの戦いも、もう外は白み始めていた。
その時、私の背後で扉の開く音がした。
「飯田さん!」
石川の声だということはすぐにわかった。
「手を出すな!」
振り返らずに私は言った。
例え私が死ぬことになっても、誰もこの戦いの邪魔をされたくなかった。
「圭織、終わりにしよう」
なっちは言った。
また同じ顔。
昔のなっちの顔だった。
いや、昔のなっちがそこにはいた。
「なっち…」
私は槍を構えた。
きっと私も昔と同じ顔をしてるんだろう。
- 710 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:31
-
二人同時に地面を蹴った。
聞こえたのは一度の金属音。
飛んだのはなっちの剣。
私はなっちの首元に槍を突き立てていた。
「なっち…全て話してくれない?」
なっちはゆっくりと目を閉じて頷いた。
そして、一言一言語り始めた。
- 711 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:32
- 「私に妹がいるのは知っているよね?」
「麻美ちゃんのこと?」
なっちが昔何度か口に出したのを覚えている。
病気ということで私は直接会ったことはないが…
「麻美の病気は治らないんだ。何をやってもね…
発作が出るたびに苦しんでる麻美を見るたびに、自分を呪ってやりたくなった。
どうして私は何もできないんだって…それで、1年前、麻美は激しい発作に見舞われたんだ。
医者ももう助からないだろうって。
私も諦めかけていた。でも、その時アイツが現われたんだ…」
「アイツ?」
「吉澤ひとみ…アイツはどこからともなくやってきて、麻美を治せると言った。
その言葉通り、麻美の発作は収まった。だけど、吉澤はこう言ったんだ…
『私の力が完全でないので、完全に治すことはできません』ってね」
私は槍を下ろした。
石川はいつの間にか私の横に来ていた。
「私はもちろん尋ねたよ。どうしたらお前の力が完全になるのかって。
そしたらアイツはなんていったと思う?」
「大陸を制圧しろ…」
私はそっと口に出した。
「そう…わかってるみたいね。その通り」
「どうして私を殺そうとしたの?もしかして、私がこの国の王だから?」
「そこまでわかってるんだ。そうだよ…なぜだかわかんない。
でも、私が王でないといけなかった。アイツはそう言った。
だから、だから圭織には話せなかった。圭織にそのことを話したら…」
「バカ…ちゃんと話してくれたら…そんなこと…」
「でも、どうして飯田さんじゃなくて安倍なつみさんが王になったんですか?」
石川が尋ねる。
私もそれだけはわからなかった。
「それは、圭織と私が異母兄弟ってこと…私の父と圭織のお母さんとの結婚は認められなかったんだ…
身分が違いすぎるってね。だから私の父は私の母と結婚した。その時既に、圭織のお母さんは身ごもっていたらしいんだ。
私は吉澤から聞いた。なんでアイツがそんなこと知ってるかわからないし、本当かどうかもわからないけど…」
確かに私には父親はいなかった。
母親も物心つく頃にはいなかった。
だからそれが真実か確かめる方法はない。
でも、私が王であるということは事実だから、否定しきれるものでもない。
- 712 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:32
- 「どうしてそれを信じたの?」
「わからない…アイツの目はそういう目なんだ。何か説得力がある目…
実際、圭織は王だったんでしょ?私は王でなかった。
それは、この部屋の中にある…」
「そこまでです!」
聞き覚えのある声だった。
いや、忘れるはずのない声だった。
「どうして…死んだんじゃ…」
石川の声。
「あれくらいじゃ死にませんよ」
そう言った吉澤の雰囲気は、前と全く違っていた。
威圧感、いや、そんなものじゃない。
背筋が凍るほどの気配だった。
この世のものではないような。
見ているだけで震えが止まらなかった。
- 713 名前:FINAL CHAPTER Sever Ties 投稿日:2003/12/14(日) 01:33
- 吉澤が手をかざしたのと同時に、なっちの体が闇に包まれる。
私の耳に届くのはなっちの悲鳴。
闇が消えていくと共に、なっちは全身血だらけの姿で現われた。
ゆうに数秒あっただろう。
でも、凍りついたように私も石川も動けなかった。
なっちはピクリとも動かなかった。
死んだ。なっちが死んだ…
その事実を受け止めたとき、恐怖よりも怒りが勝った。
吉澤に向かっていくが、何か壁のようなものに阻まれ、私の槍は吉澤に届かない。
私は吉澤の後ろ一人の女の子の影を見たような気がした。
「無駄です。今の私に人間風情が勝てるわけないですよ」
私の横を炎の塊が飛んできた。
石川の術だろう。
でも、それも同じだった。
「さあ、我が主のお目覚めです」
吉澤が両手を挙げて言った。
だけど、その声と共に、私の頭には別の声が響いた。
「汝は我との契りを破ったな」
私の視界は真っ赤に染まった。
<20−6 Kaori's view 終 >
- 714 名前:Epilogue(and Prologue) 投稿日:2003/12/14(日) 01:34
-
<Epilogue(and Prologue)>
石川は聞いた。
何者かの鼓動を。
そして、精霊が嘆く声を。
田中と道重は顔を見合わせた。
二人は最悪の出来事だとすぐに察した。
世界が大きく波打った。
モーニング公国に縦横に走る光の道が次々と現われ消えていく。
4本目が消えたとき、光を与えるべき太陽はその姿を消して世界は闇と化した。
To be continued...
第1部 セバータイズ 完
- 715 名前:まとめ 投稿日:2003/12/14(日) 01:49
- Chapter1 End point(終着点) >>2-3
Chapter2 Tragic rain(悲劇の雨) >>4-48
Chapter3 Momentary peace(つかの間の平和) >>52-80
Chapter4 Aweakening time(覚醒の時) >>82-127
Chapter5 lunatic sword(狂気の剣) >>130-155
Chapter6 cross the border(国境越え) >>157-198
Chapter7 a crossing fate(交差する運命) >>204-233
Supplementary story1 with you in when as well(君といつまでも) >>236-252
Chapter8 A lost smile(失われた笑顔) >>255-288
Chapter9 The heart of the truth(本当の心) >>291-330
Chapter10 Jihad(聖戦) >>335-390
Chapter11 Master of time(時を統べしもの) >>393-426
Supplementary story2 Sword and sorcery(剣と魔法) >>430-439
Chapter12 betrayal and treachery(裏切りと裏切り) >>442-464
Chapter13 The ravine of death(死の渓谷) >>466-489
Chapter14 The way of the destiny(運命の道) >>494-528
Chapter15 The way of the victory(勝利の道) >>532-554
Supplementary story3 The back where it can't catch up(追いつけない背中) >>559-567
Chapter16 The ground of sorrow(悲しみの大地) >>573-598
Chapter17 The second act(第二の動き) >>603-621
Chapter18 Where it came back(帰ってきた場所) >>629-649
Chapter19 The confession(告白) >>652-662
FINAL CHAPTER Sever Ties(断たれた絆) >>666-713
Epilogue(and Prologue) >>714
- 716 名前:takatomo 投稿日:2003/12/14(日) 01:52
- 「セバータイズ」以上で完結です。
続きというか、第2部は別のスレになると思います。
近いうちに書き始めるので、その時はこのスレでもお知らせいたします。
なぜ2部を作ったか。
その理由は、スレの容量の問題が一つ。
そして何より、書き方の問題です。
今後は「1石川、2飯田、3他の誰か」という章区切りの視点の回し方はいたしません
今の予定では、飯田と石川視点で回していくだけになり、章構成をつくらないつもりです。
予定なのでどうなるかはわかりませんが。
ちなみに上でも書いてますが、セバータイズ(sever ties)の意味は「断たれた絆」です。
安倍と飯田の絆が断たれるという意味からつけました。
英語の読み方は、適当です。
語呂のいい読み方にしたかったのでセバータイズと読みました。
(厳密に言うと、意味も少し違いますけど)
最後に、ここまでの感想などをいただけたらうれしいです。
長い間ありがとうございました。
よろしければ次スレまでお付き合いいただけると幸いです。
03/12/14 takatomo
- 717 名前:takatomo 投稿日:2003/12/14(日) 01:52
-
- 718 名前:takatomo 投稿日:2003/12/14(日) 01:53
-
- 719 名前:takatomo 投稿日:2003/12/14(日) 01:54
- 最終更新分
>>706-716
- 720 名前:rina 投稿日:2003/12/14(日) 06:48
- 完結お疲れ様です!!!
興味深い内容ですごく面白かったです!!!
次回作も楽しみにしてます!!!
本当にお疲れ様でした!!!
- 721 名前:紅屋 投稿日:2003/12/14(日) 08:43
- 第一部お疲れさまでした。
レスしたかったのですが、更新速度についていけずやっと今日できました。
相変わらず嬉しい更新速度です。
まだ、続きが読めるというのは最高ですね。
いやー、お疲れさまでした!
- 722 名前:とこま 投稿日:2003/12/14(日) 09:47
- 更新お疲れ様です。
続きが読めるんですね。
楽しみに待ってます。
- 723 名前:片霧 カイト 投稿日:2003/12/15(月) 00:07
- 第一部完結お疲れ様です。
最後もとても引き込まれました。
第二部も絶対読ませていただきます。
楽しみに待ってます!
- 724 名前:ささささ 投稿日:2003/12/15(月) 02:30
- 第一部完結、お疲れさまです。
昨日の夕方ごろにこのセバータイズを見つけ、
夕飯を食べたあとからずーっと一気に読みました。
そしてなんと次の日に完結とはなんというタイミングなんだろうと
自分で勝手に感動してしまいました。
第二部は最初から磁石のようについていきたいと思います。
- 725 名前:しばしば 投稿日:2003/12/15(月) 10:40
- 第一部終了おめでとうございます。
そして、お疲れ様でした。
最近は、レスつける暇もなくROMに徹していました。
まだ、続きがあるようですが、ゆっくり休んでいただいて。
続きは、マターリとお待ちしております。
- 726 名前:takatomo 投稿日:2003/12/18(木) 01:22
- >>720
ありがとうございます。
次回作もがんばっていきますのでよろしくお願いします。
>>721
ありがとうございます。
更新速度は遅くなると思いますが、できるだけ早く更新していきたいです。
>>722
ありがとうございます。
以前言ったことはこういうことでした。微妙な言い方で申し訳なかったです。
>>723
ありがとうございます。
2部もご期待に応えられるようなものを書いていきたいです。
>>724
結構な量を一気読みありがとうございます。
この長さまで来ると、新しく読んでくれないだろうなと思っていただけに、先日の片霧カイト様ともどもうれしい限りです。
>>725
ありがとうございます。
2部はまだプロットしか出来てませんが早いうちに書き始めて生きたいと思います。
しばしば様の作品の方も楽しませていただいています。
私もROMとなっております。すいません…
- 727 名前:takatomo 投稿日:2003/12/18(木) 01:23
- 第二部についてですが、この板、赤板に立てたいと考えております。
おそらく今週末には立てることとなります。
こちらのスレでもお知らせいたしますので、よろしくお願いします。
スレタイについてはどうするかまだ考えていません。
- 728 名前:名無しさん 投稿日:2003/12/19(金) 22:25
- 今までずっとROMってたのですが、
第1部完結ということで初めてレスさせていただきます。
改めて、第1部完結おめでとうございます。
私自身ファンタジー系がかなり好きなので、
この話は見つけた頃から毎日チェックしてました。
第1部の終わり方がかなり気になるので、早く続きが読みたい気分です。
第2部も楽しみにしていますので、執筆頑張ってください。
- 729 名前:マコ 投稿日:2003/12/20(土) 11:56
- 初めまして。
最初から 最後まで いっきに 読みました。
楽しかったです。
だい2ぶも がんばってください。
- 730 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:51
- >>728
ありがとうございます。
2部の方、本日から開始となります。よろしくお願いします。
>>729
ありがとうございます。
結構な量になりましたが、一気読みしていただける人が多くて、うれしいです。
2部もよろしくお願いします。
- 731 名前:takatomo 投稿日:2003/12/21(日) 17:54
- 第2部 レッドタイズ(赤板)開始しました。
よろしくお願いします。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/red/1071995888/
- 732 名前:takatomo 投稿日:2003/12/24(水) 00:54
- 落としときます。
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