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空の名前

「ねぇ〜、ちょっとここどこよぉ〜!!」
イライラしたような声で後藤が叫んだ。かなり疲れている様子で、木の棒を杖代わ
りにしてヨタヨタと歩いている。
「そんなの分かるワケないじゃん。後藤ー、大声出すと余計に体力消耗するよ?」
割と冷静な声で後藤をたしなめたのは矢口だ。そういう彼女も疲労はピークに達し
ているらしく、少し足を引きずる様にして歩いている。その矢口の横を無言のまま
歩いている女は中澤だ。年のせいか、もう口を開く元気も残っていない。
「ねぇ、ここさっきも通らなかった?なんか見覚えあるんだけど・・・」
そう言ったのは飯田だ。先程からきょろきょろと周りを見まわしている。
「えぇ?ホンマに?なんなんもぉ。ここはどこやねん・・・」
うんざりした様子で平家がぼやいた。軽く眉間に皺を寄せ最後尾をゆっくりと歩い
ている。
彼女達の周りにはうっそうとした木々がそびえ立っている。まだ昼間だというのに
薄暗く、どことなく不気味な雰囲気が漂う。
彼女達―中澤、平家、飯田、矢口、後藤が何故こんなところをうろうろしているの
か?・・・話は数時間前にさかのぼる。

「ねぇ、なんか天気ヤバくないすか?ここ、ホンマに大丈夫なんでしょうね?」
険しい顔をした中澤がスタッフに尋ねた。「ここ」と言うのは今いる海上の事だ。
何故こんなところにいるかと言えば、彼女達は今ハロプロの特別番組の収録の為、
とある沿岸地域でロケを行っているからだ。海外に行くにはスケジュール的に無理
があった為、今回のロケは国内だ。
「大丈夫だよ。このくらいの風なら問題はないよ」
そんなスタッフの言葉とは裏腹に、空模様はどんどん険しくなっていく。今、彼女
達が乗っているのは小型のクルーザーだ。強い波に襲われたらひとたまりもないだ
ろう。
天候を気にしながらも、ロケは順調に進む。メンバー達はカメラに向かってかわい
らしい営業スマイルを向けている。
その時だった。轟音と共に凄まじい衝撃が小型クルーザーを襲う。突然の突風だっ
た。船上にメンバー達の悲鳴が響き渡る。強い横風をもろにくらい船は横倒しにな
って倒れた。海上に投げ出されるメンバー達。もうどこに誰がいるのかさえ分から
ない。みんな自分が助かる事で精一杯だった。