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Flash Back〜石川梨華の華麗な1日〜

一日目

梨華は目覚まし時計の鳴る音で目を覚ました。
もう朝か、早いな……なんてことを考えつつ時計を見る。
『……AM3:30』
どうやらセットする時間を間違えたらしい。
「……最悪。」
再び眠りにつく梨華。

気づいたときには遅かった。
梨華が再び目を覚ましたのはAM8:40。
今日の集合時間は9時丁度である。
「……あーもう!!」
梨華はベッドから駆け出すと用意も早々に家を飛び出した。

結局梨華が集合場所に到着したのは、
予定時刻を20分も回った時だった。
マネージャーに大声で怒鳴られ、
中澤には4発小突かれた。
「……。」
しかし自分が悪い事はわかっているので何も言えない梨華。
目覚まし時計のせいにするわけにもいかないのである。

雑誌のインタビューを受けていた時の事だ。
「新メンバー4人の方々も、
そろそろこの仕事に慣れてきたと思いますが。
メンバーになって一番自分が変わった、
と思う事はなんでしょう?」
加護、辻、吉澤がそれぞれ無難な返答をする。
「石川さんは?」
……考え込む梨華。
妙な間が空く。少しニヤニヤする記者。
「むずかしいですか。」
……深く考え込む梨華。
「りかちゃん、どぉしたの?
たくさんあるじゃない、
ねるじかんとか、たべるものとか。」
加護が心配そうに尋ねる。
……そして梨華が重い口を開く。
「……回りに……ストーカーが付くようになりました。」
「……。」
言葉の出ない記者。
こんな使えない発言をされるとは思わなかったのだろう。
なんとかその場はマネージャーが取り繕ったが、
例え事実であったとしても言ってはいけない発言というモノを、
梨華は芸能人として心得てなかったのである。
結局、色稿の段階で石川の発言は、
うまい事マネージャーに擦りかえられた。

夜遅く、帰り道の途中での事だ。
公園を一人歩く梨華。
すると、
「ニャーン、ニャーン」
という鳴き声が聞こえる。
「猫かな・・…でもどうせ黒いんだよね、きっと。」
それでも気になって声のするほうへ近づく梨華。
案の定黒猫だ。しかも顔を洗っている。
「……とすると絶対このあと何か悪い事が……。
しかも雨まで降るのね……。」
自分の宿命を理解している梨華。
「それにしてもこのコ……。
カワイイなあ……。」
ふと手を伸ばす梨華。しかし……。
「ガブッ!!」
……噛まれた。
「やっぱりね……こうなる事は解っていたわよ。
フフフフフ……。」
何故か笑う梨華。
「それで……さらにここへ雨が降るんでしょ?
しかも何故か私の周りだけ半径10mへの、
集中豪雨……。もう慣れっこよ……。」
梨華の予想は間違っていなかった。
その刹那に振ってきたのだ。
梨華の周り半径10mへだけの集中豪雨が。
ザーッ!ザーッ!ザーッ!
瞬く間にびしょぬれになる梨華。
「……いいのよ。いつもの事よ。」
猫が風邪を引いたら可哀想、
そう思った梨華は、
猫が噛み付くのも構わずに抱き上げる。
「あたたかい所へ行きましょうね……。」
指から血が出るのも構わずに、
梨華は歩き出した。
黒猫を抱きながら……。

結局その日、黒猫を家に連れて帰った梨華。
時刻は既に11時過ぎだ。
猫をストーブにあててやる。
その頃にはもうなれたのか、
噛み付かれることは無くなっていた。
しかし、猫の体も乾き、
外の雨がやんだので家の窓から猫を逃がしたのは12時過ぎだった。
明日はまた早い。
安心した梨華は倒れるように眠りこけてしまった。
未だ目覚まし時計がAM3:30にセットされている事を忘れて……。

                               完


二日目

今日は、無事梨華は集合時間2時間前に目覚めた。
ゆっくりと朝食をとり、シャワーを浴びる。
そして余裕を持って準備を終える。
いざ出発、とばかりにドアを開ける。
爽やかな陽気だ。こういう日はとても気分が良い。
「いってきまーす。」
意気揚揚と梨華は外へ出る。
そこへ……。
ボトッ……カァカァカァ……。
朝っぱらからカラスの糞が梨華の脳天を直撃した。
……髪の毛洗い直し。

急いで髪の毛を洗いなおし、
慌てながら家を出た梨華。
ダッダッダッ、ダッダッダッ、ダッダッダッ。
走る梨華。電車に間に合うように駅まで走る、梨華。
ブチッ!!
……切れる靴紐。
「……。」
足元を見る。
……靴が左右でびっこになっている。
「……。」
ダッダッダッ、ダッダッダッ、ダッダッダッ。
走る梨華。靴を取り替えに家まで走る梨華。
バターン!!
……コケる梨華。

なんだかんだ言って、
集合時間二分前に梨華は到着した。
梨華意外は既に全員揃っていた。
「ギリギリねー。」
茶化す保田。
「すみませーん。」
無理して明るく応対する梨華。
「なんか梨華……生傷だらけよ。」
「ちょっと転んじゃって……。」
「そ、そう……。」
一歩引く保田。
「そういえば梨華、靴紐切れてる……。」
「一回来る途中に切れちゃって……家戻って付け替えたんだけどまた切れちゃいました。」
「た、大変ね……。」
さらに一歩引く保田。
「……それに梨華、頭ビショ濡れ……。」
「家を出てすぐ、カラスのに糞をかけられて……。
頭を洗いなおしたから……。」
「……。」
さらに下がる保田。
「ま、まぁそのうちいいコトもあるわよ、気にしないでね、梨華。」
「ハイ……。」
その時だった。
梨華の頭に、本日2度目のカラスの糞がボトッと落ちたのは。

「……これから雑誌の写真撮影があるのに頭に糞……?
ヒドイわね。まぁ仕方ないわ。向こうの洗面所で頭を洗って来なさい。急いでね。」
マネージャーに促されると、梨華は用意してもらったシャンプーを持って洗面所へ向かった。
洗面所の中へ入る梨華。
するとそこに技師風の男がいる。
男の残酷な言葉。
「ああ、嬢ちゃんココ、使うのかい?
悪いねぇ、壊れてて、お湯出ないんだよ。
どうしても使うなら、冷たい水でガマンしてね。」
「……ハイ……。」
他のメンバーを待たせてる手前、ワガママは言えない。
ジャーッ、ジャーッ。
「……クシュンッ。」
……体が冷えてしまったようだ。

バタッ!!
梨華が倒れたのは、雑誌の取材が終了後、
ダンスレッスン中の事だった。
「梨華っ!!」
慌てて駆け寄る保田達。
保田は梨華の頭部に手を当てる。
「……!!すごい熱。夏先生!!」
夏を促す保田。それを承知する夏。
「わかったわ。すぐにどこか横になれるところに連れていってあげて。」
「ハイ。」
保田は梨華を肩で抱えると、心配そうな表情で見つめるメンバーをよそに、
ダンスホールを後にした。
実はその時、
保田の抱え方が悪く、
梨華の髪は保田が気付かぬうちに思いっきり引っ張られていたのだが、
保田はそのことに全く気付かなかった。
また、梨華も意識が朦朧としていて何も言えなかった。

「ん……保田さん……。」
うっすらと目を開ける梨華。
「保田さん……、私……。」
「いいから静かににしていなさい。」
……廊下のベンチに、梨華は寝かせられていた。
ひどく頭が痛い。
「具合はどう?」
心配そうに尋ねる保田。
「……頭が……痛いです。」
「そう……風邪、だいぶ悪くしちゃったみたいだね。」
……実際、梨華の頭が痛いのは、
保田が髪を引っ張ったからである。
「ん……みんなは・・・・・・?」
「レッスンを続けてるよ。私も戻らないと。
梨華は少しここで休んでなさい。
夏先生、今日は少し早くレッスン切り上げるって言ってたから。」
「はい……。」
一通り会話のやりとりを交わすと、
保田はダンスホールへと戻っていった。
呟く梨華。
「保田さん……ありがとう。
でも、……頭痛いです。」
気が弱いため、面と向かって保田に文句を言えない梨華であった。

その日、梨華は少し早く家に帰った。
早々にベッドへ入る。
目覚まし時計をセットして、眠りにつく梨華。
しかしその一時間後……。
「……うーん。うーん。嫌ぁぁ……。」
その日、梨華が見た夢は、
吊り目の大きな化け猫に、
髪の毛を思いっきり引っ張られる夢だったという……。
                         完