外は雨…
大粒の雨が、南向きの小さな窓を規則的に叩き続けている。
深々と部屋に響く雨音。そこにユウコの切ない吐息が重なり、甘美な
不協和音を奏でる。やがて、大きな溜息とともに、部屋には雨音だけ
が残った。
「もう帰んの?」
「あぁ。明日も早いんだ、仕事」
「泊まっていってくれへんね、最近」
「…忙しいんだよ、今。新しい仕事も任されちゃったしな」
「そう……」
「どうした?なんかあったか?」
「…ううん。なんでもない。…仕事、がんばってな…」
情事の余韻を楽しむでもなく、せわしなく服を着ている男の背中を見
ながら、ユウコは唇を噛んだ。今日こそは、思いの丈をぶつけようと
思っていたのに。今日こそは「ずっとそばにいて」って言おうと思っ
ていたのに…1人残されたベッドの上でユウコは泣いた。降り続く雨
のように。
聞きたい。
あなたの心
知りたい。
あなたの気持ち
でも
聞けない。
知りたくない。
でも
あなたが好き。
この想い届くのかな…
切ないユウコの恋心を知るのは、机の上の赤い日記帳だけ。妹のマキ
も、同僚のミホも、遊び仲間のダニエルも、誰も誰も知らない。そし
て、あの人も。それでもユウコは信じ続けている。あの人の腕のぬく
もりだけを心のよりどころに、今日も机に向かい、日記をしたためる。
外は雨…
アホな女だとつくづく思う。こんなロクデナシを好きになって、やっ
ぱり傷ついて、それでも好きで。時折見せる優しい表情の瞳には、誰
か違う顔が浮かんでいる事は解っているはずなのに。駆け引きで戻る
ような愛でない事も解っているはずなのに。やりきれない思いが日記
帳に溜まって行くにつれ、あの人の心は遠ざかっていく。ユウコの悲
しい恋心が、降りしきる雨の中に静かに溶け込んでいった。
愛は燃えるから
消えるのですか
教えてください
ねぇ
あなた…