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おもいで

ある夜、紗耶香は一人で自分の部屋のベッドで寝転がっていた。
娘。の曲が部屋の端にあるコンポから流れていた。
(みんな、どうしてるんだろう。新メンバーはちゃんと喋ってるかなぁ?)
そんな事を考えながらぼーっとしていると、突然机の上の携帯が鳴り出した。
(こんな時間に…誰だろ)
携帯のディスプレイを見ると圭の名前が表示されている。
「もしもし・・・」
「あ、紗耶香?圭だけど。」
「圭ちゃーん。声聴くの久しぶりだね。元気してた?」
「うん。結構元気だよ。紗耶香は?」
「ん。あたしはちょっと風邪気味かな。辞めてやっぱ環境変わったし」
「そっか・・・・」

「で、どうしたの?こんな時間に」
「あ、そうそう。今度の日曜、オフなんだ。うちに泊まりに来ない?」
「え、いいの?行く行く!」
「あー、良かった。紗耶香いろいろ忙しそうだしダメかと思ってたんだけど」
「そんな、圭ちゃんとかに比べたら全然暇だよ、やっぱさ」
「そっか。じゃあ日曜日に部屋、綺麗にして待ってるし。じゃぁねー、紗耶香」
「うん、バイバイ」
電話を切った紗耶香は、コンポから流れる曲に耳を傾けつつ眠りについた。

ピーンポーン。
「あ、紗耶香〜。待ってたよー」圭は笑顔で紗耶香を迎え入れた。
「おっじゃまっしま〜す」
紗耶香はドアを開いた圭の笑顔にほっとしながら圭に勢い良く抱きついた。
「圭ちゃぁぁんっ。会いたかったよう」
「う、うわ、紗耶香っ。倒れるからやめてよー」
口ではそう言いつつも、紗耶香の頭をなでなでする圭。
「あたし、圭ちゃんのニオイ好きなの」
「別に何にもつけてないけど?」
「ううん。圭ちゃんの服のニオイとか、シャンプーのニオイとか大好きなの」
「何かアンタ怪しいわよ?」と圭は苦笑しながら言った。
「怪しいとか言わないでよー。あたし、圭ちゃんの事大好きなんだから」
「何言ってるんだか、もう」
圭は紗耶香を無理矢理引っぺがすと、リビングのほうに向かった。

何も無かったように喋っていた圭だが、内心は紗耶香の言葉に動揺していた。
紗耶香が自分の事を友達として好きなんだとは解っている。
(けど・・・期待しちゃうじゃない・・・紗耶香のばか)

「ねー、圭ちゃんー。ここの写真、見ていい??」
と、紗耶香はリビングの机に置いてあるアルバムを指差した。
それは、娘に入ってからの写真が全部入れてあるアルバムだった。
「ん、良いよ。あたし、何か飲むもの持ってくるわ」
「あたしコーヒーがいいな」「おっけ、わかった」

二人は思い出を語りながらアルバムをじっくりと見た。
あぁ、こんなこともあったなぁ、なんて言いながら。
デビューしてから、二人はずっと仕事で一緒だった。
だから紗耶香の思い出には圭が、圭の思い出には紗耶香がいつも存在していた。
「やっぱLOVEマシーンの頃から紗耶香は格段に可愛くなったよね」
「そぉかな?でも髪の毛切って心機一転で頑張ったからねー!あの頃は」
「まぁおかっぱ頭の大人しそうに見えた紗耶香も可愛かったけどねぇ〜」
なんて言いながら圭は紗耶香の髪の毛に触れた。
「あたし、紗耶香はパーマよりストレートの良いと思うんだけどなぁ〜。おばちゃんっぽいよ?」
「うるさいなぁっ、もう。どーせおばちゃんだもん」
紗耶香はほっぺたを膨らませて圭の頭に軽くチョップした。

「圭ちゃんもさ、髪の毛切って可愛くなったよ」
「そぉ?紗耶香にそう言ってもらえると嬉しいなぁ」
「若返ったって感じでさ」「って事は今まで老けてたって言いたい訳ー?」
「ううん、圭ちゃんはすごい若々しいよ。19才には思えないよ」
「ありがとね」
(そんな可愛い何も知らないような顔で笑わないでよ…)
なんて圭の心の中の呟きなんかには紗耶香は気づかない。

こんな事をしながら二人で過ごした休日はすぐに過ぎてしまう。
「そろそろお腹減ってきたなぁ」
「じゃぁそろそろゴハン作ろっか」
「何か材料あるの?」「適当に作っちゃうよ。毎日自炊してるんだよ、これでも」
「そうだよねぇ。すごいと思うよ、圭ちゃん」「まーねっ」
なんて言いながら二人でキッチンに向かう。
「あれ、紗耶香も何かしてくれんの?」
「まぁねー。一応あたしだってオンナノコだし?」
「まぁせいぜい指切らないようにしなさいねー」
なんて、イジワル言ったりしてね。
紗耶香のふくれっつらも可愛いから。なんて思ってる。
案の定、エプロンをつけている紗耶香はふくれっつらをしている。
「まぁまぁ、そう拗ねないでよ、かわいー紗耶香ちゃん?」
とかって宥めてもどうやらまだ立腹の様子である。

宥めるのを諦めた圭は紗耶香ににんじんを渡して切るように頼んだ。
「いってぇ〜っ」
っと、少したった時紗耶香が呟いた。
圭が紗耶香の指を覗くと指先がぱっくりと割れて血が出ている。
「も〜、ばか。だから切るなよって言ったのにー」
なんて言いながら切れた指を吸う紗耶香にドキドキしている。
「バンソーコーいるでしょ?取ってくる」
「うーん、いいよ。こんなの舐めときゃ治るって」
「あたしが舐めたげよっか」
「えぇ?」「なんてね。ウソに決まってんじゃん」

「なーんだ、ウソかぁ」
「ちょっとびっくりした?」「別にぃ〜」
「じゃホントに舐めたげる」
と、紗耶香が驚く前に紗耶香の指は圭の口の中に含まれていた。
「ちょ、ちょっと圭ちゃ〜ん」紗耶香は慌てて指を引っ込めた。
そんな紗耶香の慌て振りを見て圭は少しニヤリと笑った。
「これでちょっとは驚いた?」
「圭ちゃんのばーか」
そんなこんなでまた紗耶香はふくれっ面。

余裕を見せていたように見えた圭は実は自分で取った行動に少し驚いていた。
(あたし・・・・あんなコトするつもりなかったのに体が先に動いちゃってた・・・)
圭は密かに怯えていた。
紗耶香に嫌われたらどうしよう。あんなことしちゃって・・・。
恋人同士になれないのならせめて友達、親友と呼べる仲でいい。
今までの時間で築いてきたこの友情を壊してまで紗耶香へ気持ちを伝えたくない。
そう考えていた。

「ねぇ・・・・スキだよ」
何度伝えようと思ったんだろう。
伝えたくっても伝えられない想い。
同性同士、しかもお互い今や一世を風靡するアイドル。
何でこんなやっかいな相手を好きになったんだよ、って自分を責めた時期もあった。
ただの気の迷いとか、ちょっとした気まぐれなんじゃないかって思ったこともあった。
けど、紗耶香っていう人間が好きで、大切にしたいっていう想いは変えられないって解った。
だからこれからはこの想いを大切にしていきたい。
圭の想いはすごく複雑なものだった。

指を切って休憩していた紗耶香の前に食事を盛った皿が置かれた。
「ほら、出来たよ」
「アリガト」
お茶をコップに注ぎながら圭が紗耶香に微笑んだ。
「あぁ・・・、これおいしいよぉ」
「当然よッ。何年一人暮ししてると思ってるのよ」
なんて言いながら二人で笑いながら食べた。

「そろそろお布団しこうかぁ?」
「うん、あたしも手伝うよ」
「最近泊まりに来る人なんていないから布団なんか出さないしなー」
「圭ちゃん忙しいもんね」
「まーね。あ、カビくさくなってるかもよ?」
「げ、マジっすか?」
なんて言ってるけどホントは紗耶香のために布団干したんだよ。
紗耶香にかび臭い布団なんて出せないもん。

枕とか投げ合いつつも布団を引き終わった所で二人は汗をかいていた。
それはもちろん、ひくときに暴れたせいだったが。

「あたし、汗かいちゃったよ。お風呂入れてるし。紗耶香先に入る?」
「うーん、どーしよ。圭ちゃん、一緒に入ろうよぉ」
「え、別に良いけど狭いよ?」
「ん、良いよ。じゃ用意しとくね」

紗耶香と二人でお風呂かー・・・。
何かすっごい緊張してきた。どうしよう。

あたしは、先に少しお湯をかぶってお風呂につかる事にした。
紗耶香の体はいつ見てもとっても綺麗だ。
白くて透けるような肌で、すっごく細い。
「圭ちゃんすっごい焼けてるねー」
紗耶香は圭を見て言った。
「あぁ、コレ?この前ハロプロでハワイ行ったのよ。そのうちテレビでやると思うよ?」
「えー、いいなぁ。あたしもハワイ行きたーい」
なんて言いながらシャワーの水を出している。

「紗耶香ぁ。背中流そっか?」
頭を洗って洗い流してる紗耶香に声をかけた。
「うん、ありがと。よろしくー」

やっぱり紗耶香の背中もすっごく綺麗でつるつるしていた。
思わず頬擦りしたくなっちゃうくらい。・・・って危ない危ない。
モーニング娘にいた時も痩せてたけど、さらに痩せたみたい。
「紗耶香ぁ・・・痩せたかい?」「んー、ちょっとね」
とか言いつつ洗い終わった紗耶香の背中を流してあげる。

一通り洗い終わった紗耶香はひとまず湯船につかった。
あたしは紗耶香が元いた所に行って頭を洗った。
「あ、圭ちゃん、今度はあたしが背中洗ったげるよ」「おう、サンキュー」
何て言って紗耶香は私の後ろにまわった。
「ねぇ、圭ちゃん」「何よ?」
「圭ちゃん前と比べて胸おっきくなってない?」
「いきなりなーに言い出してるんだか」

「いや、ホントに大きくなってるよ、多分」
「そんな事ないと思うけどなー」
と、紗耶香を軽くかわしてみた。
すると、「ちょっと触らせてみなさい」
なんて言って紗耶香はあたしの胸を少し掴んだ。
(ちょ、ちょっと紗耶香、何触ってんのよーっ!!)
あたしの心臓がバクバクいってる。
でも紗耶香はそんなあたしに気付かずに、
「あらー、圭ちゃんの胸って柔らかーい」なんて能天気に言ってる。

紗耶香があたしの胸を触ってるうちにあたしの頭はだんだんパニックに陥ってきた。
耳元で聞こえる紗耶香の声と、あたしの胸を触ってる手と、背中にあたってる紗耶香の胸。
そのどれもがあたしの体温を上げていた。
頭はフラフラしてきて、何も考えられなくなってきた。
そして「圭ちゃん、圭ちゃん、どーしたの??」と言う紗耶香の声がだんだん遠くなって行った。