「安倍の暗殺のご命令、完遂いたしました」
「さやか様の草履、温めておきました」
「し、寝室のライフルに勝手に触れたのは、こ、このわたくしめです...」
「紗耶香様、ナイフは右手、フォークは左手でございます」
「わ、わかってるよ!」
「(紗耶香さま、かわいい...)」
「紗耶香様、すると東芝EMIとキャニオンの株主総会で
役員の総辞職と紗耶香様の買収の可能性で脅して来れば
よろしいのですね?」
「紗耶香様、ソニーのTOBに成功いたしました」
「紗耶香様、どうかいたしましたか?」
「眠れない。寝るまでお話して」
「イヤだっていってるだろ」
「紗耶香様、お薬飲まないと早くよくなりませんよ」
「紗耶香様、安倍が今度の曲のメインボーカルを譲るのを拒否しました」
「ちっ、お前の組の若いのを2〜3人送って安倍をかわいがってあげればすむことだろ」
矢口「痛い、紗耶香様、もう勘弁してください、もうしません!」
紗耶香様「痛いのが分かってんならなんで本番で私を差し置いてカメラ目線で笑顔作るんだよ、オラ、あ?」
「紗耶香様、本当にプッチモニを紗耶香様のためだけのものにするんですか?」
後 藤「紗耶香様、それは食べられま...」
紗耶香「モグモグ、ゴックン...ん?何?」
「でもそれ、ニガイもん」
「紗耶香様、明日の朝までに元気になりたくないのですか」
「元気になったあとでも、また今日みたいにやさしくしてくれる?」
「(紗耶香さま...)」
「お帰りなさいませ、紗耶香様……あら?泣いていらっしゃるのですか?。」
「な、何でもねぇよ!」
「し、しかし…。どうかなされたのですか?」
「何でも無いって言ってんだろ!お前はいちいちウルサイんだよ!
余計な事は言うんじゃねぇよ!!」
二階に駆け上がる紗耶香。
「(紗耶香様、最近いつも泣いてばかり…。どうしたのかしら。)」
紗耶香の部屋のドアをノックするメイド。
「紗耶香様、温かいココアを入れましたのでお部屋の外に置いておきますね。」
「・・・・・・。」
「では、お休みなさいませ。……あ、それと、あの、
わたくしはいつでも紗耶香様の味方ですからね。」
「・・・・・・。」
「あ、も、申し訳ございません。私ったら、紗耶香様にまた余計な事を……。」
「…が…と…。」
「はい?」
「……ありがとう。」
「(さ、紗耶香様。私、私は…。)」
「紗耶香様、短い髪もお似合いですね。お母様そっくりですよ。」
「・・・ウルセエよ!!お袋の顔なんて覚えてねえよ!!」
「・・・お母様のことを悪く言ってはいけません」
「だって、あたしは写真でしか見たことが無いんだよ?」
「私ははっきりと覚えておりますよ。お母様の腕の中で
ぐっすりお休みになる紗耶香様・・・。」
「・・・・ねえ」
「何でございますか?」メイドの胸に顔を埋める紗耶香。
「ちょっとだけこうさせて・・・」
「(紗耶香様・・・)」
平日の昼下がり、暇をもてあましている真希と、忙しそうに働くメイド
真希「ねえ……、その下ってどうなってるの?」
メイド「下……ですか?」
真希「メイドさんの服っておもしろいね、調べてみよう」
メイド「やめてください、真希様!」
真希「(ぴらっ)ふーん、こうなってるんだぁ」
メイド「あっ!ダメです、真希様!」
真希「かわいいパンツはいてるんだね、においかいでみよっと」
メイド「やあっ、ダメぇ……、真希様そこは……」
真希「くんくん、いいにおい……」
メイド「真希様ぁ……」
「どうしたの手、カサカサだよ?」
「クスッ、これはいつものことですよ紗耶香様」
「きったないのー。わたしの手とぜんぜん違う」
「それはもちろんですよ。紗耶香様の手はとてもきれいですもの」
「ジャブジャブ...あ、紗耶香様どうかなさいましたか」
「今日から紗耶香も一緒にお洗濯する」
「(紗耶香さま...)」
「何かご用でしょうか、ご主人様。」
「ああ、お前に一つ聞きたい事がある。」
「はい。」
「最近、紗耶香が歌手のオーディションを受けたらしいが本当か?」
「……。」
「そうか。勝手な事を。なぜ私に伝えなかった?」
「そ、その、最近はご主人様がお仕事の都合で留守にされる事が多く…。」
「……。」
「それで、わたくしも、いつお話したら良いものかと…、で、ですが…。」
「私は認めんぞ。」
「!!」
「歌手になるなど馬鹿げている。お前から辞めるように言っておけ。
それに二度と勝手なマネはするな!またこのような事があれば許さんからな!!
いいか、わかったな!!」
「ですが、紗耶香様は幼い頃から歌手になるのが夢で…。」
「わかったな。」
「……はい。」
「じゃあ、行ってくるよ。」
「オーディション会場の雰囲気に飲まれないように、リラックスするんですよ。」
「うん。当たって砕けろで頑張ってみるよ。」
「ええ。合格するといいですね。応援してます。」
「ありがと。ま、どうせ無理だと思うけどさ。って、あれ?泣いてんの?」
「い、いえ、何でもありません。」
「ふーん、変なの。じゃ、行ってきまーす。」
「いってらっしゃいませ……。」
「(紗耶香様、さようなら……。)」
紗耶香が家を出た後、メイドは自分の部屋のテーブルにそっと辞表を置いた。
「ただいまー。……あれ?おいっ、ただいまって言ってんだろ。返事ぐらい
しろよな。聞いてんのか?」
いつもと違う様子に戸惑う紗耶香。家に上がった紗耶香は、メイドの部屋の
ドアを少し怒りながら叩いた。
「おい、今帰ったぞ。お腹すいてるから、何か作ってくれよ。おい、
聞いてるのか!入るぞ!」
部屋には誰も居ない。
「ったく、どこいったんだよ、もう。……あれ?…じ…ひょ!!」
辞表を読み終え、事態を察した紗耶香は部屋を飛び出した。
そして、家を出ようとした時、
「おい、どこに行く気だ。」
「あ!お、親父!」
「こんな時間から出掛けるつもりか?勉強の方はどうした?」
「う、うるさい!お前の所為で、お前の…親父のバカッッ!!」
「お、おい、親に向かって馬鹿とは何だ!おい、こら待ちなさい。」
家を飛び出した紗耶香は、いつのまにか走り出していた。
「ハァ、ハァ、あぁもうダメだ、もう走れない。」
紗耶香はかなり遠くまで来ていた。闇雲に走っていた紗耶香は
走り疲れた体を休めようと、近くの公園に立ち寄った。
「ハァ、ハァ、あそこのベンチで休もう……ん?あ!!」
公園の隅の方にあるベンチには、一人の女性が座っていた。
少し離れていたがすぐに分かった。そこにいたのは
どんなときも紗耶香の側にいてくれたあの人だったから…。
「ねえぇー、なにしてるのぉーー?」
紗耶香は思わずその場から叫んだ。目には光るものが浮かんでいた。
「ん?あ!!!……あ、その、べ、別にぃー。なんにもしてないけどー。」
女は、公園の入り口の方に立っている紗耶香に気付き、叫び返した。
「ね、ねぇー、お腹すいたんだけどさー、今夜のメニューはー?」
紗耶香はかける言葉が見つからず、いつもの台詞で叫んだ。
「な、何で私が、ア、アンタなんかに夕飯作ってやんなきゃいけないのよ。
もう私はアンタのメイドじゃないんだから……。」
「アンタってなによ!紗耶香様でしょ。あなたはわたしのメイドなんだから!」
女の目からは、いつのまにか涙がこぼれ出ていた。
「イヤよ!ア、アンタみたいな、ワガママで、自分勝手で、礼儀知らずで…、
そ、それに…、そんな子、様付けでなんて呼べるわけ無いじゃない!」
「私だってあなたみたいな、おせっかいで、いちいちうるさくて、ウザったくて、
そ、それに…、でも、でも…、わたしはあなたのことが好きだからー。」
「わ、私、私……。私だってあなたのこと…。」
二人はお互いのもとへ駆け寄り、抱きしめ合った。公園の中央で抱き合う二人。
二人の目からは止めど無く涙が溢れる。
「もう、どこにも行っちゃヤダよぉ…。ずっと側にいて。」
「ごめんなさい、私、私…。」
「いいの、もう何も言わないで。」
「紗耶香様…。」
いつまでも抱き合う紗耶香とメイドを、月明かりのスポットライトが
優しく照らしていた…。
「大丈夫だって。親父には私からガツンと言ってやるからさ。」
「は、はぁ…。」
家に帰りついた二人。家の玄関の外で話している。
「よ、よし、いくぞ。」
紗耶香は玄関のドアを開けて、中に入った。
「おい、親父!…って、あ!」
「遅かったな。」
父親は玄関で待っていた。手にはメイドの辞表を持っている。
「わ、私は絶対に辞めさせないからね。こいつを辞めさせるんなら
私も出ていくから!」
「紗耶香様…。」
すると、父親は持っていた辞表を手で破り裂いた。
「お、親父!!」
「ご主人様!!」
突然の行動に驚く二人。
「紗耶香、先程テレビ東京の方から電話があってな。今度の日曜に
最終審査があるそうだ。」
「……って、親父、それじゃぁ…。」
「それから、お前。私をいつまで空腹でいさせる気だ。急いで
飯の用意をしてくれないか?」
「え?……は、はい!!かしこまりました!!」
「はい。これで仕度は全部終わり! 紗耶香様、とてもきれいですよ」
「あーあ、退屈で死ぬかと思った。でも、きっとパーティはこんな退屈じゃないよね」
「それはもちろん。たくさんの有名人がいらっしゃいますよ」
「ちょっとこわいな。紗耶香と一緒についてってくれる?」
「今晩はわたくしもお供させていただくことになっています」
「ふーん。そっか...でもそんな普通の格好でいくの」
「え? わ、わたくしはただのお供ですから...主役は紗耶香様ですもの」
「ねえ。もっときれいにさあ。お化粧とか、かわいくして一緒にパーティいこうよ?」
「(紗耶香さま...!!)」
「今日のデザートはバナナでございます」
「のいちご持って来い!」
「タバコ、マイルドセブンでいいですか〜」
「わかば」
「秋刀魚のいいのが入りましたけど、どうなさいますか?」
「生で喰う。」
「おい!アサヒ芸能買って来い!エロトピアもだ!」
「やっぱり秋刀魚は目黒にかぎる」
「紗耶香様、何かご用ですか?」
「ああ、来たのか。入ってくれないか。」
紗耶香の部屋に入るメイド。
「どうかなされたのですか?明日は最終審査ですよ、今夜は
早くお休みになられた方が。」
「……眠れないんだ。なんだか、自信なくてさ。」
「紗耶香様…。大丈夫ですよ紗耶香様なら、きっと。」
「……。」
「(紗耶香様がこんなに不安げな表情をされるなんて…。)」
「……。」
「……。」
しばし黙ってしまう二人。すると紗耶香が口を開いた。
「あのさ…、私のお袋って、どんな人だった?」
「え?紗耶香様のお母様ですか?」
「うん。ほら私、小さかったから覚えて無くてさ。写真でしか
見たことないから…。」
「(…紗耶香様。)紗耶香様のお母様はとてもお優しい方でした。
いつも周りの者を気遣っておられ、わたくしが仕事で落ち込んで
しまった時にもいつも励まして下さいました。」
メイドの話を一心に聞いている紗耶香。
「そして何よりも紗耶香様を大変愛されておられました。お体を
病まれた後も、ご自分の心配よりも紗耶香様の事をいつも
気に掛けておられて。」
「私のことを?」
「ええ。紗耶香様もお母様といると安心されているようでした。
私ははっきりと覚えておりますよ。お母様の腕の中で
ぐっすりお休みになる紗耶香様…。」
「…ねえ」
「何でございますか?」メイドの胸に顔を埋める紗耶香。
「ちょっとだけこうさせて…。」
「(紗耶香様…。)」
しばらく経つと、紗耶香はそのまま眠ってしまった。
「あら?紗耶香様?ちょっと、このまま眠られたら…。」
「……ママぁ……。」
「紗耶香様……。」
とあるレコーディングスタジオの待合室にいる紗耶香。周りには
若い女の子が10人ほどイスに座っている。皆、緊張した面持ちで
誰かを待っている。
すると、一人の男が部屋に入ってきた。ASAYANのスタッフだ。
「みなさん、お疲れ様でしたー。」
「(いよいよね…。)」
「それでは、オーディションの審査結果を発表します。」
「(ママ、私に力を貸して…。)」
「えー、それでは発表します。今回の合格者は……。」
「(どうかお願い…。)」
「…保田圭さんです。おめでとう。」
がっくりと肩を落とす紗耶香。すると、
「そして、もう一人は……。」
「(え?)」一瞬、期待する紗耶香。
「…矢口真里さん、おめでとう。」
「(はぁ、やっぱりダメか…。)」
紗耶香はもうダメだと諦めかけた。その時、スタッフの口から出た言葉は
「以上です。」
「マジっすか?」
「ねえ、今度、他の家に行くって本当?」
「紗耶香様、聞いていらしたんですか。田舎で親戚の伯母さんの調子が悪くって」
「ふーん。そうなんだ。紗耶香は別にどっちでもいいけど」
「フフッ、後で寂しいって言っても知りませんよ、紗耶香様?」
「あたしが寂しくなるわけないじゃん。いつでも行っていいよ別に」
「さて、っと。荷物もみんなまとめたし。では、紗耶香様。しばらくお別れですね」
「え? 今日行っちゃうの? もう行くの?」
「でも半年たったらまた戻ってきますから。あっ...紗耶香様?」
「泣いてなんかないよ! あくびしただけだもん...ね、眠いなぁ、もう」
「半年で、大人になられた紗耶香様を楽しみにしていますよ」
「ふん。あんたなんかいなくても大人になれるもん」
「じゃ、約束しましょう。わたくしが戻ってくるまで、お料理ひとつ覚えること」
「グス...じゃあそっちも約束してよ」
「はいはい、結構ですよ。どんな約束をしましょうか?」
「まいに...あ、いや、たまに、電話しても、いいかな?」
「電話ですか? ええ。寂しいときは一緒にお話しましょうね」
「あ、その、い...イタズラ電話だよ! い、田舎だし、あんたがヒマしない...ようにさぁ」
「それでは、紗耶香さま」
「き、きっと戻ってくるよね??」
「それはもちろん。イタズラ電話、待っていますよ...ギュッ」
「あっ。...っ...ううーっうっうっ...」
「(紗耶香さま、お元気で...)」
インターホンが鳴った。
「あ、誰かきたよ」
「真希、出てきてよ」
「うん」
************************
「は〜い。どなた?」
「わたくしです。ご無沙汰しております」
インターホン越しになつかしい声が聞こえる。
真希は玄関から飛び出ていった。
「あらら、真希様しばらく見ないうちにすっかり大きくなられて…」
「えへ、今日は突然どうしたの? まあいいや、今お姉ちゃんと二人でお留守番してるの
真希はいま新しいご本読んでるの。アラビアの、偉い人のお話、一緒に読もうよ、ね?
ねえ! お姉ちゃん!! お姉ちゃんっ!! 、、、あれ?いないや。」
「あれれ、お姉ちゃんどこいったんだろー?さっきまで一緒にご本読んでたのに」
「そうですか。フフフフ、、、」
「え?何?どうしたの?」
「いや、別に、紗耶香様らし、、い、いやお勉強で忙しいんでございましょう。きっと」
「う〜ん、そっかな〜?さっきお勉強の時間は終わりだって言ってたのに…」
メイドが夕食の支度をしていると、そこに
全身傷だらけの紗耶香が帰ってきた。
「おかえりな・・・!! どうなさいました!?
紗耶香様??」
「うっせえよ!! 顔も見たくね〜よ!!
あっち・・いって・・ろ・・・よ・・ウッ・・ウッ・・・・・・」
「紗耶香様・・・・」
メイドは黙って、紗耶香を抱きしめた・・・
「ほら、あったかいココアが出来ました。
めしあがってください。」
「ああ・・・」
少し落ちついた紗耶香はココアに一口飲んだ。
「しかし・・どうなさったのですか??」
「雑誌の撮影の時に同じ衣装を着たいって
言ってきたやつがいたんだよ。
それで衣装の奪い合いになって、それからケンカさ。
確か飯田圭織とか言ったかな・・・」
「まあ、紗耶香様、今日はもうお休みになってください。
今日は私がご一緒に寝ますので・・・」
「そうか・・・」
心の中では嬉しい紗耶香。
ココアも飲み終わり、ベットに入っていると・・・
「紗耶香様・・・」
そこに着替えたメイドが入ってきた。
「へぇ・・・けっこう胸おっきいんだね。」
「まあ・・・紗耶香様ったら・・・さあ、寝ましょうか。」
そうして2人一緒に同じベットに入る。
「ねえ・・手つないでいてくんない・・」
「ええ、かまいませんとも。」
少し睡魔に落ちいりかけた時、紗耶香はふと思った。
「あのさ、名前何ていうの??
ほら!、ずっと「おい!!」とかでしか
呼んだ事ないじゃん??・・・・」
「そうですね・・・
私の名前は圭と言います。
でも、これからも「おい!!」でよろしいですよ。」
「そう・・・・
じゃ、お休み・・・圭・・・」
(紗耶香様・・・・)