(編者注:タイトルは、名作集収録に際して編者がつけさせていただきました。本来は「無題」です)
メンバーに脱退することを告げた夜。
後藤「(市井ちゃん・・・どうして・・)」
寝付けない後藤は、夜明け前に市井と会う約束をした。
市井「真希、どうしたの?公園なんかに呼び出したりして」
後藤「電話じゃ話しづらいから・・・
市井ちゃん・・やっぱり止めても無駄だよね?」
市井「・・・うん・・もう決めたから・・」
後藤「でもこのままじゃ・・・せめて理由を聞かせて」
市井「・・・・・」
後藤「答えて・・うっうっ」
後藤の涙の向こうで、市井はその重い口を開いた。
市井「真希・・・あなたは今この星空の中に何を見ているの?
私は過去を踏み越えて、新しい自分の未来に生きたかった・・自分自身の力で・・。
過ぎ去った日々の陰にかくれて、ただ黙って娘を続けていく・・・
そんな生き方に耐えられなかったの。」
さらにこう続けた。
市井「思えばあの夏、真希にめぐり逢ったときから娘の未来の全てをあなたに
託そうと考えていたのかもしれない・・・私が過去の人間でないという証に・・・。」
後藤「わたしはいつも市井ちゃんの後を追いかけていただけ。
優しさ、厳しさ、、、数えきれない宝物をいっぱいいっぱいもらったわ
そこにはいつも市井ちゃんの笑顔があったから・・・もう見れないんだね」
市井は黙って耳を傾けている。
後藤「ごめんなさい・・・・やっぱりこんなのゴマカシだよね。本当は・・本当は・・わたし・・」
その語尾を市井は強い口調で妨げた。
市井「今は言わないで。私も真希も自分自身の力で飛ぶことができるまでは・・・・
そのときは必ず迎えに来るから」
後藤「うん、約束だから」
言葉はこれ以上いらなかった。
涙を拭い去る後藤、その瞳に映る市井。
暁の太陽は少女の背に反射し光り輝く。
まるで金色の翼のように・・力強く飛ぶ天使の翼のように・・・
それぞれの道を歩みだす。約束の大地へと。
----完------