「さやちゃん、全然かまってくれない・・・。もしかして・・・。」
すっかりご無沙汰の圭はこの日、こっそりと矢口の後をつけた。
矢口はそれほど人目を気にする様子もなく、マンションの一室へと消えていく。
しばらくして、市井も姿を見せる。矢口の消えた部屋へ入ろうとした瞬間、
圭が市井の肩をつかむ。
「さやちゃん・・・。どういうこと?」
「・・・何だ、圭ちゃんか。引っ越したの知らなかったっけ?」
「あたし見たのよ、この中に真里がいるんでしょ。」
「・・・」
「・・・遊びだったの?」
「そうじゃないよ・・・だか」
「もういい!!」
弁解しようとした市井の言葉を圭が遮る。
「結局、私はいいようにあなたに弄ばれていたってことね」
「・・・」黙ったままの市井。
「このこと、真里は知ってるの?・・・知らないんでしょうね」
「・・・」
「全部ばらしてやる」
「・・・わかったわ」業を煮やして市井が言う。
「何よ、・・・やめて!!!触らないで!!!」
「何も言えないようにしてあげるわ・・・フフフ」
不気味な微笑を浮かべながら市井はゆっくりと圭の腕を掴んだ。
瞬間、圭の眼前に光が走る。
「・・・うーん・・・ここは?」
「気が付きましたか?」
ここは圭のアパート、看病をしていたのはなぜか後藤だった。
「・・・真希?・・・どうして・・・イタタ・・・」
「一人でふらりと出て行っちゃってから、アパートの前で倒れていたんですよ。」
「えっ・・・。紗耶香は?」
「市井さん?いませんよ、ここには。気のせいじゃないですか?」
「でも・・・。」
釈然としない圭。しかし、思考がはっきりしないため、
とりあえず何も考えないことにした。
・・・あのとき、市井は超小型スタンガンで圭を気絶させた。
『手間をかけさせやがって』
しかし、部屋の中では矢口が市井の到着を待ちわびている。
下手なことで矢口との関係を悪化させたくない。
しかし、まだまだ保田を切るわけにもいかない。
『・・・真希を使うか』
後藤は言われるがままに圭をアパートへ運び、何もなかったかのように
取り繕って見せた。
「うまくやったら後でたっぷりとご褒美をあげるわ、ウフフ」
「・・・はい、サーヤ様」人形のような表情で応える後藤。
「・・・さやちゃん、今日は激しかった・・・。」
疲れ果てた矢口がベッドで呟く。
何かに憑かれたような表情の市井。矢口の呟きも耳に入らないらしい。
「さやちゃん?」「・・・ううん?ああ、そう?」
生返事を返す市井。不安げな表情を見せる矢口。
『こいつに余計なことを言うわけには・・・』
ふと気づいた市井。
「ちょっと待ってて。うちに電話するの忘れてた。」
といってベッドから出る。
不意に、圭のアパートにいる後藤のPHSが鳴る。
着メロはちょこっとLOVE。
圭のそばを離れて電話に出る後藤。
「もしもし、真希?あたし。うまくやってる?」
「はい、サーヤ様。感づかれてはいません」
「よし、いい子だね。うまくやりな。」
プツッ、ツー、ツー、ツー、ツー・・・
切れた電話を見つめる後藤。やはり人形のような冷たい表情である。
ベッドに戻った市井は、唐突に矢口にキスをする。
「さやちゃん・・・うっ、ああ、もう?そんなにされちゃ壊れちゃう」
しかしうれしそうな矢口。市井にとってもすべてを忘れられる存在である。
こうしてふたりの夜は更けていく・・・。
結局後藤が保田の部屋を出たのは深夜になってからだった。
後藤が帰ったあと、冷静に考えてみる保田。
頭が朦朧として、昼間のことはそれほど思い出せない。
しかし、市井が最近自分から遠ざかっている、ということははっきりと分かる。
それでも、胸に込み上げてくるものは、離れれば離れるほど募る
市井への想いだった。どんなに冷たくされても忘れられない。
憎い、恋しい、憎い、恋しい、巡り巡って今は恋しい・・・。
市井はすっかり眠ってしまった矢口に毛布をかけると、足早に部屋を出た。
自分のアパートに戻ると、そこには後藤が待っていた。
「どう?あいつは」
「・・・無事に送り届けました」
「余計なことは言っちゃいないんだろうね」
「はい。もちろんでございます、サーヤ様」
「よし、約束どおりたっぷりとご褒美をあげるわ・・・。」
「・・・はい、ありがとうございます・・・あぁ」
矢口に対するそれとはまた別な、複雑な想いが市井の胸によぎる。
いたぶればいたぶるほど、後藤は従順になってゆく。
何時しか、自らの野望達成のために人形となっている後藤がいた。
・・・一通りの「儀式」が終ったあと、市井が言った。
「ちょっと出かけてくるわ。」
夜中、保田のアパートのベルが鳴る。
「・・・誰?真希?それとも・・・」
市井だった。「真希から聞いたんだけど、大丈夫?」
「・・・うん、まだちょっと頭がボーっとしてるけど。」
「心配になってさ。ごめんね、こんな夜中に。」
昼間のことが気にかかりつつも、単純に嬉しかった。
「・・・いいよ、すごく嬉しい」
「さーて、ちょっと安心したよ。」
「ねえ、さやちゃん・・・。」
「うん?何?」
「昨日・・・」
瞬間、市井が保田を押し倒した。
「いいじゃない、昨日のことは。今を楽しみましょ。」
涙を浮かべ快楽に身を沈める保田。
『まだプッチモニは必要だからね』
市井の部屋で一人待つ後藤。
感情をどこかに置き忘れてきたかのように無表情である。
市井と出逢い、快楽を植え付けられてから、TVで見せる
笑顔をプライベートでは久しく見せていない。
市井との愛欲に溺れた生活は後藤を確実に壊していったようだ。
「やっぱ、3人を相手にするとちょっとハードね」
げっそりした表情で市井が帰ってきた。もう夜明けも近い。
翌日、ダンスのレッスン。
あまり元気がない市井に矢口が声をかける。
「大丈夫??元気ないよ。」
「・・・ちょっとね。」
昨夜の行為の賜物だと、矢口は内心ほくそ笑む。
その姿を見て、普段なら歯軋りをするところの保田だが、今日は違った。
『昨日の紗耶香・・・。久しぶりに、激しかった・・・。』
と昨晩を回想して悦に耽る。
そして後藤。いつものようにダンスでは一人取り残され、
特別メニューを課せられていた。
「ふぅ、疲れた・・・。」
ふと、市井がタオルとポカリスエットを差し出す。
「お疲れっ!!」
「ありがとう・・・、サーヤ・・いえ、市井さん」
他のメンバーには後藤が愛欲の奴隷となっていることは知られていない。
市井がそっと耳打ちする。
「・・・あんたも、もっと体力つけておかないとね。」
「はい、サーヤ様」
一瞬、後藤の瞳が普段のそれとは違う、獰猛な輝きを放ったことを
市井は見逃さなかった。
こうして、市井を取り巻く愛欲の渦はまた激しさを増していく・・・。