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もうひとりの紗耶香(2)


後藤の場合(プレリュード)

そのひとは私がグループに入ったときは
そんなに目立った人じゃなかったんです。
「あたしが教育掛、やったげる。」って軽い感じで引き受けてくれて
それで初めて意識して、、、
いろんなことを教えてくれました。
歌の歌いかた。誰の事を考えて歌うのか、誰のために歌うのか。
試ゥ分が何のために歌っているのか、、、
ほんと、身振り手振りで言葉ではあらわせないくらい、他にも
いろいろ教えてくれました。そう、あのときも
まだ、皆についていくだけの見習い期間中、あたし本番中爆睡して
いたんです。
気がついたら控え室がもう真っ暗であの人だけが座って待ってくれてて
「あれ、、、暗い、、、」
「後藤が良く寝てたからね。待っててあげたんだ。」
「す、すいません」「ねぇ、、、」「は、はぁい、、、」
「2人だけの時はマキ、って呼んでいい?」
「え、、べ、別に構いませんけど、、、」
「そ、嬉しい!」「!?」
突然顔が近づいてきて、、、そのときがあの人との初めてのキスでした。
口の中に入ってくる舌を私、何故か避けられなかったんです。


後藤の場合(愛したあなたは強い人)

市井さんがプッチモニの合宿の途中
39Cの熱で緊急入院したとき、心配で夜こっそり
病院に様子を見に行ったんです。
 起こすと悪いと思ったんで、電気をつけないで病室にそっと入ったんですけど、、、
ベットに横になってる市井さん、高熱で頬を赤くして、意識なくって
サーヤ様、いえそんな市井さんを見ていたら、私何がなんだかわけわからなく
なっちゃって、我慢出来なくて思わず泣いちゃったんです。
最初は口を手で押さえて声を押し殺してたんですけど、
そのうち、押さえ切れなくなって、、、恥ずかしいんですけど、
大泣きしちゃったんです。そう、石黒さんのときみたいに、、、
そうしたら、「、、、真希?」ってか細い声が。
あたしの泣き声で市井さん起きちゃって。
だけど その声があんまり弱々しいんで 私、ますます大泣きしちゃいました。
「バカ、、、何泣いてんだよ、、、あたしがこれくらいで負けるわけないだろ。」
それでも泣きやまないあたしをみて、市井さん
「ねぇ、、、ひとつお願いがあるんだけど、、、」
「ぐしゅぐしゅ、、、な、なんでしゅか、、、?」
布団から震えながらゆっくりと市井さんの腕が伸びてきて
あたしの頭を抱え込んで、引き寄せて来ました。
その覧ヘに逆らわずにいると、顔を寄せて頬と頬をくっつけたんです。
「ん、、、冷たくて、きもちいーい、、、」「、、、市井さん、、、」
「、、しばらくこうしていてもいい?」
その夜はそうして2人で明け方まで過ごしました。


さや太のお魚

「とうとうついたんだよ、ゴマ助。ここがおまえのふるさとなんだ。
いつまでなごりをおしんでもきりがないから………、じゃ……元気でな」
「船を発進させていいかね」
「はいどうぞ!!」
ゴトンゴトン
「さよならあ」
「ゴマ助がおってくるわ!!」
「ヒィーック」
「きちゃだめ!!あたしらがなんのためにここまでつれてきたと思うんだ」
「ヒィーック」
「ゴマ助!!」
「ヒィーック ヒィーック ヒィーック」
「早く超空間に入って!!」
シュン
「ヒィーック。ヒィーック。ヒィーック!」
「ヒ?」
「ヒッ」
「ヒック。ヒーヒ!ヒヒ……。ヒ……ヒ……」

「まあ、大ぜいで海でなにしてたの」
「うん……、ちょっとね」
「さよならあ」
「またあしたねえ」
「バイバーイ」
「夕やけがきれいだね」

「お休みゴマ助」
ヒィーック!


保田の場合(さや太と鉄人圭団)

「そうか……。そんなことになるとは思いもよらなかった…。
わしの作ったサヤとケイはいい子なのに…。その子孫が……」
「博士にならなんとかしていただけるんじゃないかと」
「頭脳に『競争本能』をうえつけたのが悪かったのか」
「なんです、競争本能って」
「他人より少しでもすぐれた者になろうという心だよ。みんなが競い合えば、
それにつれて社会も発展していく。ただし、ひとつまちがえると……、
自分の利益のためには他人をおしのけてもという……、弱い者をふみつけにして
強い者だけが栄える、弱肉強食の世界になる。わしの目ざした天国とは
ほど遠いものだ。頭脳を改造しよう」
ヨロ
「だいじょうぶですか、博士」
「他人を思いやるあたたかい心を……。なんとか改造を完成するだけの
体力が残っていればいいが。この改造で三万年後のモー娘板はガラリと
ちがった板になるはずだ」
「するとあのおそろしい鉄人圭団は?」
「歴史がかわるんだ。そんなものは消えてしまう」
「よかった……」
「でもそれじゃ……! 保田さんも!?」
「わたしも消えてしまう………。というより、はじめからこの世に
いなかったことになるんだわ……」
フラ
ドタ
「どうしたんですか博士!!」
「だめだ……、体がすっかり弱りきっている……」
「博士!!」
「博士!教えてください、わたしが続けます!」
「保田さん、あなた……」
「まかせといて。すばらしいと思わない?ほんとの天国づくりに役だてるなんて」

「保田さん!!」
「今度生まれかわったら……、天使のような娘に……、お友だちになってね」
ワア〜〜


中澤の場合(FISHING)

スタジオを出ると、あたりはすでに暗くなっていた。
「マキ、焼き肉食いに行こうか?」
とつぜん誘いかけてきたサヤカに、マキは申し訳ないという表情で答えた。
「あの、すいません。これからユウちゃんと約束があって」
「ごめんなぁ。ウチで一緒にゴハン食べることになってんのよ」
ユウコがふたりの間にはいってくる。
「へー、ユウちゃん料理できんの?」サヤカは冷たい口調できいた。
「できるわよー、魚焼いたり」
「はは、魚だって。焼き肉のほうがいいよな、マキ?」
「魚のほうがええよな?」ユウコは鋭いまなざしで見つめる。
返答に詰まったマキは、口をパクパクさせていた。


後藤の場合(虜)

後藤の様子の変化は、市井にとっても気にかかる所であった。
その場その場の快楽を与えることで思い通りになる矢口や保田と違って、
後藤はこれから自分の手足となって働いてもらわねばならない。
後藤もうっすらと自覚しているようだが、夏先生の件から分かるように、
彼女の中で市井に対して歪んだ愛情が芽生えてきているのかもしれなかった。
その歪んだ愛情に対し、困惑しつつもより歪んだ接し方しか出来ない市井であった。

ある日、いつも通り「儀式」を済ませた市井は、放心状態の後藤に向かってこう言った。
「ちょっと出かけようか。フフフ・・・。」
「??・・・はい、サーヤ様」
「じゃあ、ちょっとおめかししようか。着替えてきて、この服に」
いつもなら「コートの下は亀甲縛りな」などと責めしか許さない市井が妙に優しい。
多少の不信感にも、言われた通り着替えてきた後藤。
意外にも普通の服なのだが、下着は普段よりセクシーなものであった。
「じゃ、行こう。・・・あ、車の手配するの忘れてた。電車でいい?」
「ええ、いいですけど・・・。」ますます不思議がる後藤。

普段から電車はよく使う後藤だったが、市井と乗るのは初めてだ。
変装のためか、帽子を目深に被っている。
市井はラフなスタイルで、終始笑顔だ。
後藤は、その笑顔が何時までも続くといいな、と思いつつ二人でホームに立った。
瞬間、後藤の一番敏感な部分に痺れるような感覚が走った。
しゃがみこむ後藤。市井は心配したようなそぶりを見せ、
「大丈夫?真希。」と気遣う。
嘘のように痺れは無くなり、ちょうどやってきた電車に乗ることが出来た。
電車の中は生憎混み合っていて、ふたりして柱につかまった。
次の駅でさらに乗客が増え、市井と後藤の間は多少離れてしまった。
その瞬間、再び後藤の局部を振動が襲った。
『えっ・・・何???』これはいつも味わっている感覚ではない。
助けを求めようと市井のほうを垣間見た。すると、先ほどまでの
無垢な笑顔ではなく、二人だけのときに見せる冷たい笑顔の市井がいた。
そして、後藤は全てを理解した。

振動は波動のように繰り返した。あまりの快楽に倒れそうになるのだが、
満員電車の中では倒れることも出来ない。
市井のほうを哀願する眼差しで見つめるが、市井は意地悪な笑顔を返すだけである。
つい、声を出してしまいそうになるが必死で堪える。
それを見て、市井はバイブの強度を上げた。さらに苦悶の表情を浮かべる後藤。

周りのオヤジたちもようやく後藤の異変に気づいたようだ。次々に声をかける。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」「いったん降りたら?」
声がかかるたびにバイブのスイッチを止める市井。そして
「いえ、大丈夫です。」と笑顔を返す後藤。
オヤジたちが降りるとまたバイブのスイッチを入れる。
「くぅ、ううう」
そして、快楽に必死で耐える後藤の様子を見てほくそ笑む市井。
このプレイは、山手線を5周半して終った。

部屋に戻った市井と後藤。
特に後藤は疲れ果てていて、部屋に入るなり
ばったりと倒れてしまった。とたんに、市井はバイブのスイッチを入れる。
「あああああ!!!!」
今度は思う存分声をあげて悶える後藤。
『このパンティー、これからも使えるわね』
バイブを仕込んだパンティーの思わぬ効用に味を占めた市井。
しかし、洗濯するとバイブは壊れてしまい、その後二度と使われることは無かったという。


小湊の場合・青色7編

物語は、新ユニット結成後の楽屋から始まる。
「つんくもよく思いつくなぁ。それともあのバカ社長が考えたのかしら。」
そうつぶやきながらも、市井はわくわくしていた。
さて、誰から始めようかしら。
英語はあいさつ程度しか話せないから・・・。
市井の視線は太シスの2人に注がれた。
元B級アイドルに元民謡歌手か。
うーん、子持ちっていうのはちょっと興味があるわね。
こうして市井のターゲットは小湊美和となった。
市井はさっそく行動を起こす。
「小湊さんよろしくぅ。気合が入るねぇ。」
「うん。市井さんよろしく。」
芸能界では年齢ではなく芸歴で先輩後輩が決まる。
そのため、小湊は市井を「さん」づけで呼んでいた。
「これから同じユニットなんだし、さやかって呼んでいいですよ。」
「え、でも急には・・・。」
「徐々に慣れてきますよ。」
「ありがとう・・・さやか。」

また始まるのね。
矢口は大きなため息をついた。


保田圭・罪と罰

そうだよ、確かにあのとき
あたしはパーカーを握るタイミングをわざとずらした。
首をしめられた苦しさに振り向いたあいつは、オンエアー中だったから
笑っていたが、目は氷のように冷たかった。
あたしは、そのとき、後から加えられる制裁を想って
恐怖と、悦びを押さえきれなかった。
 自分でもバカなことしたな、と思ってる。
なんでって? あいつのサディズムに耐えられなくなった、、、
そんなわけじゃない、ただ、、、3人組になってから、あいつが
あの娘ばっかり夢中で、あたしはただ、おいてきぼりにされて、、、
そうだね、いじけた猫がご主人様を引っ掻いたようなものさ
哀しいよ。自分でもそう思う、、、だけど、、、

ドン!控え室のドアが大きな音で叩きつけられるように開いた。
「圭、、、お前自分が何したかわかってんだろうなあ、、、」
ファンには絶対見せない怒りの表情で あいつが仁王立ちしている。
後ろに後藤が恐怖と優越感に満ちた視線をこっちに向ける。
あたしは震えを押さえきれなかった、、、恐怖?
いや、あいつの「愛撫」を久しぶりに受けられる悦びに
たとえそれが痛みであっても


保田圭・ギブス

あいつが39Cの熱を出して入院した翌日、
目を泣き腫らして朝帰ってくる後藤に出くわした。
あいつは何も言わなかったが、あたしには何処に行っていたかすぐわかった。
いたたまれなくなったあたしは、あいつのいる病院に行ってしまった。
あたしが部屋に入ってもあいつは気づかない。
赤く上気し、意識のないあいつの顔を見ていたあたしは、思わずあいつの
頭を抱きしめた。あいつの熱の感覚、肉の存在感があたしをふるわせる。
「、、、冷たくてきもちいい、、、」気づいている!?
最近の冷たいあいつからは思いもかけない言葉にあたしは動揺した。
頬に伝わる熱い感触に私は驚く。
涙!あたしが泣いてる、、、
「マキ、、、」
一瞬、時間が止まり視界が暗転した。
あたしは完全に絶望の奈落に突き落とされていくのを感じた。
あたしに出来るのは どこまでも続く落下の感覚から
現実に自分をつなぎ止めておくためにあいつを強く抱きしめている
だけだった。声を殺して泣きながら


保田圭(プッチホン/前編)

7回目のベルで受話器を取った圭。名前を聞かなくても声ですぐわかってしまう。
「どうしたの、こんな時間に?」
「うん、なんか眠れなくてさ」
「……明日だね」
明日香が娘を離れてまだ数ヵ月というのに、明日にはもう娘がひとり増える。
「どんな子なんだろ…」
「関係ないよ。誰が入ってこようと、あたしは絶対負けない。圭ちゃんだってそう
でしょ?」
受話器の向こうから聞こえる力強い声に、不安で少し自信のなかった圭も、自然と
言葉に力が入る。「もちろん」
「あたしたち、いままでくやしい思いしてきたよね。だから、がんばってみんなを
見返してやろうよ」
「うん」
「あたし、ユニット組むとしたら、圭ちゃん以外考えてないから」
昨日から降り続く雨が、さらにはげしさを増している。
「ホント?」
「うん」
その言葉を聞いて、圭は遠く離れた相手をすぐ近くに感じていた。
「……うれしい」

受話器を置いた圭は、カーテンを開くと、濡れている窓ガラスに身体を寄せた。
人差し指が、ついさっきまで話をしていた娘の名前をかきはじめる。
『さやか』
窓の向こうの暗闇に、一瞬、カミナリが光を差した。
明日は晴れるといいな。圭はカーテンを閉じると、机に向かい、恋という字を辞書でひいた。

後藤真希(プッチホン/後編)

だんだんと近づいてくるさやかを見て、圭の顔に笑みがうかんだ。
手を伸ばせば届く距離。
「おはよう」ふたりの声がかさなる。
さやかはサングラスをとる。「髪切った?」
ほんの少しの髪型の変化にも気づいてくれる。そんなささやかなやさしさでも、
圭の心に大きく響く。この先なにがあっても、私はこの人から離れない。

その先を曲がると、ひとりで待っている新メンバーの金髪が見えた。
「後藤真希です。13歳です。よろしくお願いします」
年齢を聞いた娘たちは、大人っぽい容姿とのギャップに驚きをかくせない。
圭は、さやかを横目に見た。口元に薄い笑みがうかんでいる。
外では、一昨日から降り続く雨が、さらにはげしさを増していた。
コイツは使える。さやかは真希に歩み寄ると、ムチを振り下ろすように右手を
差し出した。
「市井です。よろしくね」
やさしそうな先輩の声に、真希は無邪気な笑顔を見せた。揺れる金髪が眩しい。
まだ昼間だというのに、圭の心のカーテンは完全に閉められた。

窓を開けると、夜の風が冷たく圭の身体をつつみはじめる。昨日の今頃には、
私はきっと笑ってた……。
家に戻ってから、何度も電話をかけ続けている。それでも、さやかは一向に
つかまらない。圭は、1が並んでいる目覚まし時計をカベに投げつけた。
後藤真希。彼女の加入はモーニング娘。を変えるかもしれない。事実、初日
から圭の心を曇らせている。その後まき起こすのだろうか、嵐を。


福田明日香(Never Forget)

となりに立っている中学生らしき男のイヤホンから音が漏れている。流行りの曲と
一緒に流れてくるタバコの煙に口をゆがめながら、明日香は数分前にコンビニで
買ったガムを一枚取りだした。
人通りの多い交差点で、信号が変わるのをじっと待ちながら、明日香はきのう観た
映画のストーリーを思い出して、ほんの少しセンチメンタルな気分になっている。
「ふkださんですか?」
ふいに、後ろから声がきこえた。引退してからずいぶん時間が経っているいまでも、
声をかけてくる人はいる。明日香は照れくさそうに振りかえった。
「深田さんですよね? いつもテレビ見てます」その声が合図となって、その日、
買い物のために街にきていた深田恭子のまわりには、とたんに無数の人だかりが
できはじめた。
明日香は、勘違いした自分におかしくなって笑ってしまう。そして、自分はもう
特別じゃないんだということをあらためて心に言いきかせた。
「?」
次の瞬間、明日香の目が、その群がりの向こうで笑っている懐かしい顔をとらえる。

気がついたときは頂点にのぼりつめていた。そんな中やめていくわたしを、みんな
はどう思ってるんだろう。スタジオの隅でポツンと座っている明日香に、さやかは
そっとコーヒーを差しだした。
「あたしたちは芸能界でがんばる。明日香はほかの道でがんばる。ただそれだけの
ことでしょ?」
明日香は持っている缶をにぎりしめた。さやかの目には強い意志が感じられる。
「たしかにトップに立っても、次はそれ以上を求められる。立ち止まることはでき
ないよね。それでもあたしはいつまでも上を目指していきたいんだ」
「わたしだって負けないよ」明日香は声を荒らげた。
ふたりの目が、お互いをとらえたまま離さない。さやかの口元にやさしい笑みが
うかんだ。
「明日香のこと忘れないよ、いつまでも」

人ごみの中にいても、明日香は彼女を見つけることができた。最後に会ったとき
よりも、その表情は輝いて見える。明日香の胸が高鳴りだした。
「市井紗耶香だー」
群衆の中から声があがった。それまで恭子のまわりにいた人々も、次の瞬間には、
さやかを追っている。
押し寄せてくるファンに囲まれながら、北に向かって進んでいった。さやかの姿は
あっという間に明日香の視界から消えていく。
胸の鼓動をおさえるように、明日香はゆっくりと大きな息をはいた。
わたしだって負けないよ。
その表情に迷いはなかった。勢いよく向き直ると、信号は赤のまま。明日香の視線は
南向き。恭子は東へ向かう。
ふたりは、それぞれの道を歩んでいる。このさき交わることはなくても、スタート
地点は、いつまでも同じところにある。
明日香は持っている思い出をにぎりしめた。信号が青に変わる。明日香はそこにいた
誰よりもはやく足を踏みだした。正面から向かってくる人々のあいだを、全力で
駆けぬけていく。少しくらいぶつかっても気にしない。笑顔が自然にこぼれてきた。
噛んでいるガムの味は、いつの間にかなくなっている。


紗耶香の苦悩?

モー、何で、何であの2人があんなに仲良くなっちゃうわけ?
最近紗耶香は悩んでいた。今日もレッスンのあとみんなが
帰った後の部屋で考え込んでいた。
「さやかー、どうしたのぉ?難しい顔しちゃってぇ」
そう言いながら圭織は紗耶香のすぐ隣に座ってきた。
あ、かおりんまだ残ってたんだ、ううん、別にと言いながらも笑顔がぎこちない。
「ああ、わかった。後藤と圭ちゃんのことでしょー、最近あのふたり仲いいモンネェー」
・・・図星だった。最近なぜか真希と圭ちゃん、すごく仲がいい。
『真希は“さやかさん、さやかさん”、ってなついてたのに。
圭ちゃんも“後藤ぜんぜんダメって”言ってたのに、本番中に
真希の頭撫でたりして、、圭ちゃんに‘いーこ、いーこ’してもらっていいのは
あたしだけじゃなかったの?』とまた考え込んでしまった。
そんな紗耶香を、少し心配そうな、何かを決心したような顔で、じっと見つめていた圭織。
『やっぱりぃー、さやかちょっとセンチメンタルな感じになってるしぃー
裕ちゃんは最近なっちにちょっかい出してるみたいだからぁー、今がチャンス!!!』
圭織はさやかの肩に手を置き、じっと見つめて口を開き唐突に質問をした。
「ねえーさやか、裕ちゃんにキスされたことあるって言ってたよね」
「えっ?う、うん。」いきなりな質問をされてドキッしながらも圭織のちょっと厚めだが形のいい唇を見てしまう。
「かおりもーさやかにしたいなー」「へっ?」

返事もままならいまま抱き寄せられ、綺麗な卵形の顔が近づいてくる。
ほんの軽くだが圭織の唇がわたしのそれにかさねられている。
「さやかはー、後藤と圭ちゃんどっちがすきなの?それとも裕ちゃん?」
いきなりなことに固まっていると圭織は続けてこう言った。
「かおりはーさやかのことだーい好きだよ!誰よりも好き!」
そしてまた口づけを、さっきのよりも長く、しっかりと。
『まじっスか?・・・・確かにかおりんにはカッコイイとか惚れそうとか言われてたけど、
でもかおりんって天然だから深い意味ないと思ってたのに。マジッスか?えー?』
固まってるわたしを抱きしめたままかおりんは耳元でささやく
「かおり、ぜーったい、ぜーったい後藤や圭ちゃんに負けないんだから。」
しばらくそのままの状態でやはり固まったままでいろいろ考えを巡らせていたが
混乱するばかりである。
かおりんはわたしに回していた手を緩め「ごめんねびっくりしたでしょ。返事はまだ聞かないから。
じゃぁ今日は先に帰るね!また明日ねぇー」と言うと行ってしまった。
何も言えず、さやかはひとり少し顔を赤らめてぼーぜんとするしかなかった。
真希と圭ちゃんのこともさることながらまた悩みが増えていくのであった。