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とあるゲーセンの午後

それは土曜日の昼下がり。
飯を食べ終えたオレは仕事に戻った。
これから徐々に忙しくなるだろう。
土曜日ってだから嫌なんだ。(店長もいるし・・・・)

1時前、そろそろガキが目に付く。
ハッキリ言って「鬱陶しい」
ウチはオトゲ−が100円だからガキがたかってる。
(ガキは帰って外で遊べよ!!)

オレはウロウロと店内を徘徊する。
だって店長がいるから。
その時1人のガキがドラムマニアに腰を落とした。

オレはオトゲ−に興味は無い。
むしろ嫌悪すら覚える。
だが人のやってるのは見てしまう。
そいつが上手ければ許す。
下手だと(特にガキだと)むかつく。
オレはガキの後ろに陣取った。

そのガキは生意気にもエキスパートリアルにしやがった。
そしておもむろに鞄から雑誌を取り出した。
(攻略雑誌か?)
ガキがページを捲る。
その時、衝撃が走った。

ガキは雑誌を広げ、床に置いた。
ページが捲られた状態で。
そしてそのページに写った人物は・・・・

『後藤真希!!』(しかも金髪時代)

オレは笑いと感動が同時にキた。
もはやその場にいる事は不可能だった。
緊急脱出。
オレは同僚のAさんにその事を告げた。
「今、ドラムやってる奴、後藤のグラビア見てます。」
(この時オレはかなり、笑いの壷にはまっていてやばかった。)
Aさんは
「彼、前からああやってやってるよ。きっと後藤から力を貰ってるんだろうね。」
しかしこれはまだ序章に過ぎなかった。

ガキは一心不乱でスティックを振るう。
まるで何かに憑かれたように・・・・
その目は虚空をみつめる如来の様だった。
床に置かれた『後藤真希』には目も暮れず・・・・

1曲、終わった。
選曲よりも先に次のページを捲った。
オレはまたガキの背後に回る。
(次は誰だ?なっちか?市井か?保田はないだろう・・・・)
しかしガキはオレの想像を遥かに上回った。

『石黒彩!!』(しかも、ど笑顔!!)

(やられた・・・・)
『石黒』は完全に盲点だった。
既に過去の存在になっている。
おそらく多くの人間が忘れかけているだろう。
そんな『石黒彩』をこのガキはチョイスした。
(こっこいつ、できる・・・・)

ガキは結局、『石黒彩』のまま残りの曲を終了した。
結局、叩いてる間は1度もグラビアに目線を合わせなかった。
やはり「力を貰っていた」のだろうか?
何事も無かったかの様にガキは雑誌を片付けて人ごみに消えていった。

オレは何か清清しい気になった。
(有難う、ガキ・・・・)

Aさんは言う。
「いつまでも彼の心には彼女がいるのさ。」

オレは今日、仕事に来て心から良かったと思った。
本当は休みだったのだが・・・・
いや、それは言うまい。
本当に有難う、名も知らないガキよ。

アレから30分は経っただろうか。
あのガキが帰って来たのだ。
(おかえり!!)
心からそう言えた。

ガキはギターフリークスの前に立った。
そしてギターを肩にかけるとまた鞄から雑誌を取り出した。
(待ってました!!)
オレは速攻でガキの背後に回った。

(さぁ誰だ?やっぱ後藤?石黒?)
だがガキの取った行動はまたもオレの想像を越えていた。

3冊同時・・・・
その衝撃たるや「初めて見たエロビデオ」にも匹敵した。
『後藤真希』(さっきの金髪時代)
『石黒彩』(同じく、ど笑顔)
そして『なっち』(ラブマくらいか?)

『なっち』
当然の選択か?
いやそうじゃ無い。
このまとまりの無い3人をぶつけあう事で新しい境地を開いている。
そう、互いの力を引き出すために・・・・

衝撃の3連コンボ!!
床にセッティングするとガキは曲を選択した。

ガキは宇宙のうねりを表現する。
まるで「ウッドストック」のジミヘンの様に。
激しくギターが上下しサウンドはゲーセンを宇宙に変えた。
それを3人の娘。(1人は元娘。だが)が優しく見つめていた。

空間に静寂が戻った。
オレも我に帰った。
しかしその時、既にガキは何処かに消えていた。
まるで生き急いだロックミュージシャンの様に・・・・

オトゲ−を前にするとこのガキを思い出す。
オレに唯一の後悔があるならばガキ、いや彼に
「有難う」
の一言が言えなかった事だ。

    −終わり−