Whatever (Sentimental Mix)
(これだけ高いと、掛け値無しに綺麗ね…)
地上高90mの鉄骨の上で対峙する経験など、そう簡単には出来ないだろう。
汗ばんだ己の掌中の鉄の塊が、こんなに重く感じる事は今まで無かった。
それと同時にその鉄の塊の有無だけが二人の決定的な差異だ。
吹き上がる風に舞う前髪を左手で抑えながら、乾いた唇を軽く舐める。
ゆっくりと、可能な限りゆっくりと、右手を上げ照準を定める。
右上腕二等筋と、それ以上に己の心が悲鳴をあげた。
凍えそうな真冬の風を全身に受け止めながら、
微動だにしていないのは、関心に値する。
目を閉ざしているのは遂に決心がついてたのだろうか…
己の心に最後の嘘をつきながら言った。言わない訳にはいかなかった。
「後藤…何か…何か言い残す事はあるの?」
「保田さんに、殺されるのは構わないわ…」
返される言葉の一つ一つが己の心を傷つけた。
「けれど、あの人に伝えてください。揺ぎ無く信じる力が此処にはあると。」
耐えられなかった。先に心が折れた。
言葉にならない事を何か叫んだ、否叫んだのかどうかも分らなかった。
指先に僅かに力をこめた時には、後藤は夜空に舞っていた。
最後の最後まで、恨めしそうな顔一つしないままで…
kanariya (Power Mix)
力が、力が蘇る。
忌まわしい思い出と共に、自ら封じ込めた禁断の力。
(声を押し殺したカナリヤ達は鳴けなくなった訳じゃなくて…)
潜在能力の全てを開放させる。
湧き上がる鼓動。
釣り上がる眉。
見開かれる瞳。
躍動する口元の黒子。
(決めただけだったのかも知れない。早く気付いていたなら、もっと…)
駆け引きも何も無い。全てをぶつけた。
一瞬視界が光に覆われた後に、世界は暗転した…