「おじさん、ごちそうさま。」
昼飯を終えた市井は、勘定を済ませ店を出た。
初春の日差しが照りさわやかな風が通り抜ける・・・。
― 市井 紗耶香、15歳で婦人警官となりその実績を買われまもなく刑事となった。―
「ただいま帰りました。課長どうです例の事件。なんか分かりました?」
「おかえり市井刑事、その事件のことで悩んでいたところなのよ・・・。」
「え?どういう事です?」
「私も含めてこの署は女性警官が9割を占めている。内部での問題も多い・・。
だから事件には関わってはならないということになってね・・。」
「・・・。」
黙り込んだ市井はこの署に入ってまもなくその一部の男性警官にくだらない理由をつけられ
襲われたことを思い出していた・・・。
「市井、どうしたの?」
「い、いえ。何でもないです。」
「そうそう、そう言えば先ほど刑事長から連絡が入って、お前に頼みたい事件が
あるらしい。」
「えっ、ほんとですか?どんな事件ですか??」
「あんた、そんなに喜ぶことはないでしょ・・。事件なんだから。」
「あっ、すんません。・・で、どんな事件なんすか?」
「本牧(ほんもく)の住宅地で男性が惨殺されたという事件よ。今現場検証を行なっているところらしいから、
今すぐ向かってくれということらしいわ!」
「分かりました!すぐいってきます。」
車に乗り現場までとばす。
「ご苦労様です。市井刑事!!」
「うん、中澤刑事長はいる??」
「ええ、建物の中にいると思いますが・・。」
それを聞くと平警官の肩を軽く叩き建物へと足を速めた。
「しかし酷いもんやね、惨殺っちゅうのは・・・。どうや安倍なんか見つかったか??」
「いえ・・今のところは・・・。」
「あんたこういうの苦手やねんなぁ。ほんま、あんたの特技は何やねん。」
「そんな事いったって裕ちゃん難しいよう。」
「裕ちゃんてよぶなや、一応仕事中は上司と部下やねんから。」
「す、すいません。刑事長。」
と、馬鹿な会話をしていると市井が中澤を見つけ近づいた。
「ご苦労様、裕ちゃん。」
「安倍刑事、あんたなぁ・・・。」
少し怒りながら振り向く中澤は市井の顔を見て驚く。
「すいません。遅れて市井刑事到着しました。」
「何や、市井か。脅かすなっちゅうねん。」
「ところでどうです、なんか分かりました??」
「全く。この安倍が何の役にたたんもんでやな。」
「あら、なっち。久しぶりじゃない。」
「あ、紗耶香久しぶりだね、げんきだったの?・・・。」
安倍は市井が警察にはいる前からの知り合いで仲が良かった。
「こら二人とも、余計な話はいらんから仕事しぃ。」
「すいません・・・。」
・・その後2時間ほど、現場検証は続いたが、何も情報は得られなかった。
午後11時、市井は帰宅しコンビニでそろえた間に合わせの夕食をとっていた。
「もう、寝るかな。明日も捜査しなくちゃいけないし・・・。」
しかし3日ほど捜査は続いたか大きな有力情報はなく直線的な操作が続いた
ある朝、署に入った市井は少し来るのが早すぎた事に気づく。
「ジュースでも買ってくるか。」
そういうと市井は椅子を立ち自販機へと向かった。
途中で見慣れない人物を見つけた。
「あれ、あんな子うちの署にいたかな・・・。」
コーヒーの缶を口に運びながら自分の椅子へ戻ると先ほどの、若い女が課長と話していた。
見た目はとても美人だった。しかし無表情というかどこかやる気の感じられない表情だった。
「・・・。新人警官か、人事異動された子かな。」
勝手な予想を一人でしていると課長に大声で呼ばれる。
「お〜い市井刑事ちょっと来て!!」
「あ、はぁい。」
「紹介するわ。今日からこの署に移ることになったになった後藤真希ちゃんよ。」
「へぇ、よろしく後藤さん。」
「・・・よろしく。」
「早速だけど、例の川崎の事件一緒に捜査してくれるかしら。」
「え、大丈夫なんですか??」
「じゃぁ捜査を始めてくれる?」
ピピピピピピピピピピピピ
「あ、はい、もしもし市井です。えっ?!犯人が分かった?ほんと裕ちゃん!!
すぐ行く、引き続き犯人を追って。」
「課長!!犯人が見つかったみたいです!!今中澤刑事長が追っています。」
「よし、じゃあ市井、後藤を連れてそこへ向かって!」
「分かりました、行くよ後藤!!」
後藤を連れてパトカーに飛び乗る。電話を取り出して中澤に連絡する。
「裕ちゃん今どこ?どこにいるの??え、?川崎港?分かったとりあえず向かう。」
川崎港に到着した二人は犯人を捜すためにあたりを見回した。
その時中澤は犯人の説得にあたっていた。
「あんたもうそんな事すんの止めや、両親泣くで、ここで逃げるより素直に捕まっておけばそれだけ罪も軽くなるんやから。」
「ウ、ウルセェ、このやらぁ!!ぶっ殺すぞばばぁ!!!」
犯人の雄叫びは市井と後藤の耳にも届いた。
「こっちだった。行くよ後藤!!」「・・・・・。」
急いで犯人の元へ向かう二人
「ぁ、いたっ!!裕ちゃん!!」
「紗耶香!!ええとこに来た、説得は聞かん様や、もう突撃しかあらへん。」
「ちょっと待って、私が今度は説得してみる。裕ちゃんより私の説得の方が犯人だってきくでしょ。」
「それどういう意味や。こら。」
その時後藤が消えていたことに市井は気づいていなかった。
「ねぇ、もう銃捨ててこっち来てよ!あなたそんなことして意味があると思ってんの??」
「ウルセェ、ばばぁを若い女に変えたからってこっちが素直になると思ってやがんのか!!!!」
「なんやそれ・・・。」
「もういいでしょ!散々悪いことしてきたんだから!!」
「紗耶香、あんたも説得へたやな・・・。」
その時犯人が急に雄叫びを上げてこっちへ走ってきた
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「やばいっ!!!紗耶香、逃げっ・・・。」
しかし中澤が最後の台詞を言いきる前に犯人は発砲してしまう。
「いやぁっっ!」
銃声と共に中澤が叫ぶ。肩をやられたようだ。
「裕ちゃん!!!大丈夫。」
既に中澤は痛みに耐え切れず気を失っていた。
「あんた何やってんの?!自分が何したか分かってるの!!」
犯人は、放心状態で自分の手を見つめていた。しかし市井の声に気づき中澤の肩から流れる血を見て震えだした。
その時犯人は自分の後頭部に何か当たっていることに気づいた。
「後、後藤?何やってんのあんた??まさか、やめなさい。」
そう、後藤が拳銃を犯人の頭に近づけていたのだ。
「発砲しちゃったのね、残念だけど、死んで・・。」
後藤の冷たい目は犯人を怯えさせた。
「ひぃぃっ。すみません殺さないでくださぁい、命だけはぁ。」
「そうよ、後藤殺しちゃだめよ!!」
必至で止める市井の声はただ虚しく空に響くだけだった。
ドンっドンっドンっドンっドンっドンっ
全弾打ち放った後藤は表情一つかえず拳銃をしまった。
「ちょっと、どういう事よ。何で殺すの!!そんな事をしなくたってこの人を
変えていくことできるのよ!!」
後藤の胸座をつかんで叫ぶ。しかし後藤は冷たい目のまま市井の手をどかし
「悪いけどそのあんたのくだらない情に付き合ってる暇はないのよ。こいつは発砲しちゃったんだから。」
と吐き捨てた。
「ばかっ!!!」
後藤の頬に平手打ちをくらわせる。
「・・・。そんな事より市井刑事、刑事長を早く病院に連れていった方が良いですよ。また人が死ぬと嫌でしょ。
ねぇ市井刑事。」
「くっ・・。分かったわ、じゃあ刑事長は私が引き受けたわ。もうあなたは良いわ。」
「じゃあ、お先に失礼します・・・。」
「中澤刑事長は命に別状はないようですが2、3日安静にということです。」
「そうか・・・。それは良かった。不幸中の幸いね・・。」
「しかしあの、後藤という女は何なんでしょうか、何も殺さなくともあいつを逮捕できたはず。なぜ殺したんでしょう。」
「う〜ん。たしかにそれは言えるわ。でも・・・。」
「でももくそも無いですよ!!私はあそこで人を殺せるというのがどうしても理解できない!」
そう言い放って自分の机に戻った。
その後二人はさまざまな事件を捜査・解決していった・・・。
ある日の昼休み・・・
「そうだ、市井ちょっと来て。」
「なんでしょうか?」
椅子に座りコーヒーをすするまもなく呼ばれた市井は少し慌てた様子で課長の机に来た。
「今度は川崎でホストが殺されたの。捜査してくれと部長からの命令が出みたいだから。頼まれてくれるかしら?」
「分かりました。行ってみます。」
「もう、後藤が現場に来ているらしいわ。じゃあ頼んだわよ。」
「・・・・・はい。じゃあ行ってきます。」
一瞬嫌な顔をする市井だった。
「ご苦労さま、後藤刑事。」
「あら、これはこれは、市井刑事さんじゃないですか。」
「どう、なにか事件に関するもの見つけた??」
「それをあなたに報告する必要はないでしょう。」
「何ですって、どういう事よそれ??」
「いえいえ、それじゃぁ何も見つからないみたいなんで今日は帰りましょうか・・。」
「あっ、ちょっと待って後藤、これ何かしら。」
何かを見つけた市井が後藤を呼び止める。
「たばこ・・・。ですね。」
といって後藤は市井の手にある煙草をひったくり口に銜え、火をつける。
「ちょっと、あなたまだ18でしょ。」
「・・・・・セブンスター・・・ね。」
「えっ。あっ、そう言えば被害者は煙草は吸わないって・・。ということは。」
「多分、犯人の吸い殻でしょう・・・。」
「じゃぁ、犯人はセブンスターを吸う人間。」
犯人の詳しい情報が少しずつ割り出されてきたわ。性別は女性、身長は小柄、この街でアパートを借りてすんでるらしいわ。」
「ん〜。」
「あなたたちがこの事件を解決してくれれば私の昇進も夢では無くなるわ。頼んだわよ。」
と冗談を言っていると後藤が会話に割り込んでくる。
「課長、この事件私に任せてもらえれば3日以内犯人を捕まえてみせます。」
「何ですって!!」
「なぜなの?後藤刑事、市井刑事と組むように言ってあるでしょ。」
「そうよ、大体無理なんじゃないの?こんな犯人を殺しちゃう人じゃ。」
「ウルサイ!!この、えせヒューマニスト刑事。人間っていうのは生きてることさえ許されない人間だっているのよ。」
「どういう事よ!後藤!!」
「お〜っと、これは失礼、村井刑事。」
「市井だよ。」
「とにかくこの事件私の単独でやらしてもらいます。」
そう言い残し後藤は出ていった。
その日の午後・・・
課長と市井は公園の散歩道を歩いていた。
「市井刑事、あなた実際のところ後藤刑事のことどう思ってんの?」
「有能な、刑事だと思います。しかし人間としてはちょっと。」
「そっか・・。」
「それが何か?」
「う、うん。あのね、さっき後藤の過去のことを聞いたの。」
「何かあったんですか?」
「あなた保田刑事って知ってるかしら。」
「・・・話は聞いています。10年前に殉職した・・・。」
「そう、自分の妹を守ろうとして犯人に殺されたの。全身に85万発もの弾丸を受けて・・・。
その直後犯人は捕まえられたけど、もう保田刑事は息を引き取っていた。」
「悲しい事件だったらしいですね。」
「その妹が・・・・後藤真希よ。」
「えっ!!でも名字が・・・。」
「両親が離婚して、二人は離れて暮らしてたらしいわ。だから名字だけ違うの。」
「・・・・そうだったんですか・・・。」
「課長、ただいま戻りました。」
「あっ。」
後藤が連れている女に気づく二人。
「後藤刑事、そいつは?」
「言ったでしょう。3日以内に犯人捕まえるって。」
「まさか、後藤刑事そいつが?」
「だから言ってるでしょう?市井刑事・・・。ほらっ。」
犯人の肩を叩く。
「好きだったんです・・・・。」
「しばらく煙草もしばらく吸えなくなるでしょ。」
ジャケットのポケットから煙草を取り出し犯人に銜えさせる
「未成年だから煙草かうの苦労したのよ。」
市井は鶴見駅の喫茶店で安倍とお茶を飲んでいた。
「紗耶香、携帯なってるよ。」
「あ、ほんとだ。・・・もしもし、えっ、犯人が脱走?はい、後藤刑事が行ってる?
彼女じゃだめです、相手を殺してしまう可能性がある。わたしと安倍で向かいます。はい、わかりました。
じゃあ失礼します。」
「用意して、なっち。犯人が脱走したって。今蒲田のマンションの上で後藤が説得してるらしいわ。」
「うん分かった。じゃぁ早く行かないと。」
タクシーを捕まえて急いで蒲田の向かう2人
到着するなりマンションの非常階段を駆け上がる。
「なっちちょっと待ってよ、早いよ。」
彼女から2、3歩後れて市井が後を追う。
屋上では後藤が犯人と話していた。
「ねぇ、矢口。もう銃を捨てた方が良いわよ。私はどこかの馬鹿人情刑事と違って気が短いからね。」
「・・・・・。」
「早く捨てなさい、殺すわよ。」
銃を構える後藤、その瞬間階段を上り終えた安倍が飛び出す。
「だめぇ、なっち。」
タイミング悪く安倍が2人の間に入った瞬間に犯人と後藤は発砲した。
ドンっ、ドンっ!!!
安倍は2発の銃弾を運悪く心臓に受けてしまい手をつく余裕も無くその場に派手に倒れる。
「いやぁぁぁ。」
市井は叫びその場に座り込んでしまう。
既に安倍は大量の血を流し動かなくなっていた。
「ちっ!!!」
後藤は銃を捨てて犯人に飛び掛かった。
「後藤、相手は拳銃持ってるのよ。やめてぇ。」
飛び掛かると後藤は犯人を押し倒して上に乗り頬を一発殴る。
手を塞がれていないことに気づいた犯人は素早く後藤の心臓目掛けて発砲する。
パンっっ!!!
「ぐっ・・・。」
言葉も無く犯人の横に仰向けになり冷たくなる後藤。
「え、後、後藤??」
ふらふら後藤に近づく市井。
「何でまさか死んでないでしょ、あのあんたが。ねぇ、返事してよ・・。真希ぃ、真希ーーーっ!!」
後藤の体を揺らしつづけても気づく気配はない。
市井は後藤の冷たい目が乗り移ったかのように犯人を睨んだ。
「・・・やっちゃいました。」
にやりと笑う犯人から目を離しまた後藤に目をやる。
「真希、あんたいつか人間っていうのは生きてることさえ許されない人間だっているって言ったでしょ。
あの時私はそんな人絶対いないと思った。でも今日やっと見つけたそんな人間。生きててもしょうがない、
死んだ方が良い虫ケラ。」
と、言いながら立ち上がり拳銃に手をやる。
「今日だけはあんたの真似してみるわ!!!」
そういうと市井は引き金を引いた。
ドンっドンっドンっドンっドンっドンっ!!!!!!
弾丸はすべて犯人の体を打ち貫いた。
市井は表情一つ変えずに拳銃を懐にしまう。
犯人は体中真っ赤にしてその場に倒れている。
「・・・・ざまぁ見ろ、バーカ。」
そう言いながらも市井の頬には涙が1適流れていた・・・。
「できたっ!」
今まで、最高の酒が遂に出来た。
感極まって、なつみは人目も憚らず涙をこぼした。
今までの苦労が次々と脳裏に浮かんでくる、
最高の米を求めて新潟三条をさまよったこと、
最高の水を求めて裏六甲山中にとんだこと、
酒壷の作り方を一から学んで、窯を作って・・・
なつみの努力の結晶がこのお酒なのだ。
今年こそは銘酒コンクールで優勝するべ、
そうすれば室蘭のおっとう、おっかあにも
楽をさせてやれるべ・・・
なつみは丁寧に大切な酒壷を床の間に置き
神棚に向かってお祈りをした。
(神様、なっちに優勝を下さい・・・)
コンクールに備えていつもより早く床に就いたが、
明日の事、今までの事が思い出されて
なかなか寝付けなかった。
(そうだ、あのお酒の名前を「なっち」にしよう!
それぐらいの贅沢は許されるべ。
ZZZ・・・
ZZZ・・・)翌朝、神棚のある部屋に行った、なつみは・・・
(あれ、裕ちゃん?)
「おはよー、なっち! 凄い美味しいお酒が置いてあったんで
飲んでたのよ。そしたら、そのまま寝ちゃったみたい。ハハハ」
(・・・・・・・・・▲☆◎※△)
〜おしまい〜