「中澤署長、申し訳ありまっせんでしたっ!」
元気良く敬礼する矢口刑事に、モーニング署・中澤署長は苦笑いをした。
矢口刑事は身長145cm、どうして採用試験を通ったのか、モーニング署七不思議の一つなのだが、
小さな体からはちきれんばかりのエネルギーで、署内のムードメイカーとなっている。
矢口刑事は、今日もアンパンに牛乳で張り込みをしていた時、
手錠をなくしてしまい、その始末書を提出してきたのだ。
「ほんま、あんたはおっちょこちょい過ぎるで。何枚始末書書いたら気が済むねん。」
上司として叱りはするが、眼は笑っている。
「えへへー、申し訳ありません。今後は気を付けまーす!」
矢口が明るく席に戻った後の署長席から、中澤はフロアーを眺めた。夕方なので、署員は揃っていた。
どじばかりはしても、矢口は優秀な刑事だった。
小回りの効く活発さと笑顔で、貴重な情報を取ってくる腕利きだ。
一番背の高い飯田刑事は、実はロボット刑事だった。
子供の頃に、ロボット刑事Kの再放送と、ロボ・コップに影響され、第一線の警官になった。
凶悪犯との激しい銃撃戦で蜂の巣のようになった体を、機械に置き換えて戻ってきたのだ。
時々暴走するが優秀な頭脳と電波をキャッチするつややかな黒髪に
似せたアンテナで、立派な成績を上げている。
この矢口と飯田は特別第一班タンポポのメンバーでもある。
次に中澤署長の視界に入ったのは、特別第二班プッチの二人であった。
必要以上に目を吊り上げる保田刑事は、地味ながらも手堅い成果を上げている。
捜査畑40年、頑固な犯人を自白に持ち込んだ事件は数知れず。
若い刑事からも「オトシのヤッさん」と親しまれている。
もう一人は若きエース、後藤刑事であった。優れた天性を市井に開発され、
やる気になった時の後藤は際立った活躍を見せる。ただ、すぐに寝るのが玉に瑕だ。
机の上には好物の昆布とピスタチオを欠かしたことがない。
その後藤刑事に話し掛けているのが、オリジナルのモーニング署員、安倍刑事だ。
創設当初から、署のエースとして走りつづけていたが、
市井・後藤の成長からやや自信を失っているのだろう、最近やけに食欲が増し、1回り太ってしまった。
「うー、新宿で食べ過ぎたべー、ぶひっ!」
「もー、へんなげっぷ、しないでよ〜。」
その向こうには、春から配属となった4人が机を並べている。
一番手前が石川刑事。キャリアで入った新鋭だが、どうも場の雰囲気を読み違えることや、
気合いが空回りしているのに気づかないことが多い。鼻にかけてはいるのではなかろうが、
配属当初に「モーニング署のシャーロック・ホームズ」と称したとか、しないとか。
石川刑事の右は吉澤刑事。つんく本部長曰く「天才的やで」とのことだが、
クールで口数が少なく、実績のない今、中澤署長としては本部長の言葉を鵜呑みにはできないでいる。
もくもくとデスクワークをこなすのは感心するが。
その向かいは加護刑事。新卒の右も左も分からない頃だ。
奈良出身なので、中澤の関西弁と合うはずだが、署長にすると、年も大きく離れ、良く分からない。
加護の左、石川の向かいの辻刑事もやはり新卒だが、これも中澤には良く分からない。
てへてへした、漢字の苦手な子やなぁ、程度に終わっている。
離れた島には、平家元特別捜査官(今は平の刑事)と、北海道から研修に来ているりんね刑事がいた。
そこには臨時応援で来る警官の8つの席も設けられている。
「ほっかい〜、ど〜おの〜」とのんきに歌うりんね刑事。何か茶々を入れている平家の声。
中澤署長は、平和な空気の中、一人物思いにふけった。
「あんたが出て行ってから、なんか気が抜けるなぁ。」
そもそもモーニング署は、新宿を中心とした比較的広いテリトリーを総括する、特別支署だった。
国際麻薬組織専門の刑事だけが配属された特別チームとして、
3年前に全国の警察から大々的に募集したのだ。
トップで採用された平家刑事がまずは特別捜査官として、一人で任務に当たっていた。
しかし、平家は不運だった。大都市の麻薬犯罪に、三重署から抜擢されたばかりの平家が
一人で立ち向かえるわけもなかった。しかも、当時はTKと呼ばれた国際麻薬組織が横行していた。
平家は失脚し、平刑事となった。
特別チームの構想を上げた警視庁のつんくと和田の二人の警視正は、一人の特別捜査官から、
チームによる捜査体制を作ることとした。こうしてモーニング署は誕生した。
それからのモーニング署は、疑問視する周囲を尻目に、次々と成果を上げ、
着実に国際麻薬組織TKを追い込んでいた。
その経緯では、色々な出来事もあった。
鋭い洞察力と優れた行動力で、モーニング署の2枚看板の一人、福田刑事の殉職があった。
また、中澤署長の片腕であり、3人組の特別班タンポポの中心メンバー石黒の結婚退職。
本部長に登ったつんくは、下町出のホープ、後藤刑事を送り込んできていた。
9ヶ月前のことだ。同時にモーニング署最大の成果を上げた「LOVEマシナリー」作戦があった。
年末まで、途切れることのない大作戦だった。
「けどなあ、さやか、あれはなかったで。」
春の異動の時期だった。中澤署長はつんく本部長から呼び出された。
「どや、中澤、モーニング署は。」
「胸をはれる状況ですよ。あたし、保田、安倍、飯田、矢口、市井、
それに新米の後藤の7人はベストです。
謎の拳闘団「ダンスサイターズ」は1月から2月に検挙。
特別合同チーム「3カラーズ」の成果もご存知の通りでしょう。
皆疲れてます。しかし、最高のパフォーマンスを発揮できる体制になってますよ。」
中澤署長は誇らしげだった。
「結構、結構。」
つんく本部長はタバコの煙を吐き出しながら、続けた。
「春の異動で、メンバー増やすで。」
「えっ!」
中澤は驚いた。
「今がベストのメンバーです。こういう慎重さと大胆さを必要とする任務では、数よりも質です!」
「まぁ、声を上げるな。これは決定や。それというのも、抜ける奴の分を補う必要があんのや。」
「えっ!」
中澤署長は2度びっくりした。抜ける奴?声が続かなかった。
「市井や。インターポールへ出向する。」
市井は、めざましく伸びた俊英だった。
5人で始まったモーニング署に、保田・矢口と共に配属された時は、自信なく、
おどおどするばかりであった。しかし、福田刑事が最後の大事件にかかわる頃から、
目付きが変わりだした。そうして、福田自身も予測した殉職後は、髪を短くして、
前に出るようになった。語り口にも自信が出てきた。
それは後藤新米刑事の指導をマンツーマンで任されてから、際立ち始めた。
中澤署長ですら、きつ過ぎる、と感じた特訓は、後藤の資質を引き出したばかりか、
市井刑事の隠れていた才能を開花させていった。市井刑事のサポート下、
後藤は10日間で12,3の事件を解決した。驚異的なことだ。
また、老練な保田刑事と、市井・後藤刑事で新設した特別班プッチは、
年末年始にいきなりミリオンクラスの大事件を解決していた。
次々と大事件を解決する切れ味の良さは、署の次なるエースを予感させていた。
中澤自身も、転勤の際には市井刑事に署を任そうとひそかに考えていた。
・・しかし、つんく本部長の話ではインターポールへの出向は本人からの強い希望だと言う。
「世界を相手にしたいんだ。」
そう言って、市井は転出した。送別会では中澤は署長の身ながら、泣いた。
涙を忘れたはずのロボット刑事飯田も、壊れそうに泣いた。
小さな矢口刑事もはじけそうに泣いた。老練な保田刑事も、髪を濡らして泣いた。
しかし、一番辛そうなのは後輩の後藤刑事だった。痙攣するまで泣き続けていた・・・。
中澤署長は、回想を止めた。
「違う、これからや。あたしらの任務、国際麻薬組織TKの殲滅、
そのためにはあたしはぼーっとしとる暇はない。」
自分に言い聞かせていると、秘書の三佳婦警の声がした。
「署長、つんく本部長からの緊急連絡です。」
FAXを受け取り、中澤署長の顔色が青ざめた。
爪を噛みながら読み終えると、フロアー全体に聞こえるように声を上げた。
「緊急事態発生や。全員集まりやー。」
署長席を中心に署員が集まると、中澤は語り始めた。
「えらいことんなった。よーく、聞きや。
インターポールから緊急報告。国際麻薬組織TKの構成員NO.1、
死刑囚あみが脱走したそうや。コードネームは“アミーゴ”。
日本の新宿、つまりうちらの管轄に潜入したらしい。」
「は〜い、しつもーん。」
ロボ飯田が手を上げた。
「う〜んと〜、“アミーゴ”って、どんなやつぅ?かおりん会ったことないからないから、よく分かんな〜い?」
「格闘技・銃器ともにすご腕の殺人鬼よ。回覧ファイル見てないの!」
保田の毒舌。
「そう、恐ろしい相手や。特に、素手で追い詰められた時に、
「BE TOGETHER〜」ってうなりだしたら、とにかく逃げること。
人の脳をおかしくする発声で、相手を確実に倒すらしいで。」
中澤が補足し、命令を下した。
「アミーゴは、明後日日本に潜入の見込みとあるわ。手がけてるザコはとりあえず中止。
明日0800時より、厳戒態勢に入るでぇ。
今日は早めに帰ってよろしい。」
「は〜い」
「ねえねえ、今日は早いから、なんか食べに行くべ。」
「え〜、おいらエゴイストの新作を見に行くよ〜。」
「かおり、部屋の掃除した〜い!」
「ののちゃん、ピンチランナーの最終、見に行かへん?」
「あいぼん、ののは漢字の宿題!この石川が許しませんよ。」
「矢口さん、あたしも服を見に行きたいです。
あ、三叉矛は置いていって下さいね。」
騒がしくも三々五々に署をでる姿に中澤は目を細めた。
「ほな、姐さん、あたしらはいつもの店行くか。」
「ま、そやな・・・、って、圭坊にごっちん、何やっとんの?」
「へへー、たまにはあたしらも連れて行ってよ。」
「きゅ〜ん、平家さんのお話し、ゆっくり聞いてみたいなぁ〜。」
「獣語は止めとき!姐さん、ええかぁ?」
「あたしらはかまへんけど、あんたら、お酒はあかんで。警官は自らを律するもんや。」
「はいはい(って、一緒に行っちゃえば、すすめるくせに!)」
翌朝、0800時。モーニング署。
「よぉーし、全員集まったなぁ。」
「は〜い、かおりんいま〜す。」
「いちいち返事せんでも、見れば分かるわ・・・。二日酔いやから、大きい声出さんといて。」
「あ〜いけないぞー、おいらみたいにラジオ体操しないと。」
「うっさい!・・・今から“アミーゴ”特別警戒態勢や。奴は恐ろしい相手や。決して一対一にならんこと。
尾行等行動に入る前に必ず連絡すること。
応援が必要な時は、新宿署の交通課ボンバーズ、総務課メロン・メモリー、
それに特別視察中のトコナッツをその場で指揮下に入れてよろしい。
・・・発見したら、全員で取り囲んで逮捕する。
凶悪犯とは言え、絶対に殺したら、あかん。ええなぁ!」
「ぶひ!って、ごめん。今のげっぷ。は〜い!」
「ほな、作戦開始。背中にも目ぇつけときぃな。」
署に残る中澤署長が外に出る平家刑事の袖を引いた。
「なぁ、みっちゃん、後藤の奴、昨日の居酒屋では随分あんたにからんできたなぁ。何かあんの?」
「いややわ、裕ちゃん。・・・あの子は立ち直ろうとしてるんや、あの別れの後で。」
「そやな、一時は下向いてばっかりやったなぁ。ようやく戻ってきたやん。
けど、みっちゃん、後藤から、目ぇ離さんといて。」
「圭ちゃんおるし、大丈夫やって。それにあたしも例のワンルーム、
マークせなあかんし。あれはあたしにも大事なヤマなんよ。」
「ん、じゃ、いってらっさい。」
それから、1週間がたった。なにも手掛かりはつかめない。
いや、確かに街中にヤクが出回り始めているのだ。
それに、マーケットを仕切っていた組がいくつも襲撃されている。
事務所に機関銃を打ち込むこと3件、事務所に放火すること2件、
さらには正体不明の衝撃波を受け、構成員ごと壁に押しつぶされたこと1件。
これだけの供給ルートが破壊されながら、明らかに流れ込むヤクは増えている。
「どういうこっちゃねん!」
中澤署長は机を叩くことしかできない状況に苛立っていた。
「あたしも出るでぇ!」
三佳婦警が止めるのも聞かず、中澤は浮浪者に身をやつして新宿に出た。
(おっかしーなー、売人の姿が見あたらへん。けど、ヤク中ばっかりや。
こんな多かったか?今までの何倍も増えとんで・・・。
なんや、いやな臭い、バナナか。こらたまらん。)
(なんや、ここもバナナの叩き売りかい!なんやねん!)
(あら、こっちもバナナ、あかん、気分悪なってきた、引き上げ、age,age)
「なぁー、なんや街中ヤク中ばっかりや。売人おらへんのに。
それと、バナナばっかり、なんやっちゅーねん!」
「あ〜、裕ちゃんお帰り。かおり、オリーブの匂いで気持ち悪くなって、帰ってきちゃった〜。」
「あら、裕ちゃん、かおり、お早いお帰りね。二人とも、青い顔して、どうしたの?」
保田が不思議なものを見るように、目をぐっと見開く。
「ああ、圭ちゃん、それ地獄。普通の顔して。」
「んじゃ、あぼ〜ん、って違うでしょ。何よ、バナナとオリーブの香りに酔ったぁ?
・・・待った、待った、待った。バナナ、オリーブ、確かに叩き売りが増えている・・・。
・あ〜、分かったぁ!」
「分かったって、圭坊、何?」
「へっへっへー、ま、ちょっと証拠買ってくるから待っててね。辻!加護!」
苦手な保田に呼ばれて、ふたりはびくっと立ち上がった。
「ちょっと買い物よ。ついて来なさい。」
「ろ、ろこまででしゅか〜?」
辻ののの言葉に舌打ち保田。
「すぐそこよ!しゃっきりしゃべれ、しゃっきり!それに目を見て話しなさいっ!」
毒舌にますます怯えるお子ちゃま二人、保田は先に立ち、さっさと出て行った。
30分後。
「たっだいまー。みんな戻ってるねえ」
「加護辻は?」
「目立つといけないから、少し遅れて裏から帰ってくるよ。」
「んま、あいぼん、のの、何それ〜?」
二人は両手一杯にバナナと、オリーブのビンを持って帰ってきた。保田だけが得意そう。
「まったく、裕ちゃんやかおりのような好き嫌いがあると、苦労するよ。ほら、裕ちゃん、バナナ。」
「あんたは嫌な子やなー、ほれ、近付けんといて。」
「あーら、こんなにおいしそうなのに〜。天国の果物よ。」
そう言うと、保田はバナナを選び、中に隠れた1本を選び出し、皮を剥き始めた(アイタタ)。
「ほら、ね。」
すると、皮の中からはバナナの身、ではなく、茶色いフィルターのついたcamelのタバコと、
白い薬包が出てきた。
「次はこれ」
オリーブのビンを開け、指を突っ込み、オリーブの粒を選び出す・・・。
2つほどを摘み上げ、ナイフで包皮を削る(アタタ)。中からは、小さく丸めた薬包。
「ということよ。」
保田が言葉を続けた。
「いい、このモーニング署の署長殿はバナナが嫌い、敏腕刑事のかおりとりんねはオリーブが嫌い。
だったら、手を出したくはない、だったらヤクをこれに隠して、売り飛ばせ〜ってことよ。
叩き売りなら、対面販売できるしね。」
「そうか、確かにこんなの買って帰ったら、裕ちゃんに怒鳴られるべ。ぶー、あったま良いねー。」
安倍の言葉に、みな、うんうんとうなずく。
「ちょっとちょっと、あたしのせいちゃうで。あたしがあんたら怖がらせとるんちゃうやろ?」
「そらー、姐さん、あかんわ。って言うか、頭ええかぁ?こんな単純なんで?アホやで。」
平家の問い掛けに、ロボ、
「う〜ん、かおり、良く分かんないけど、オリーブにやられたなって感じ?」
「・・・まぁ、ええわ。こんな分かりやすい方法やったら、バナナとオリーブのルートを押さえたらええんや。
おいっ、石川、今日中にバナナのルートを洗え。吉澤、あんたはオリーブのルートや。
辻・加護は二人のお手伝い。ええね?」
「最初から私に任せてもらえば、もっと早く分かりましたよ!」と、また雰囲気を壊す石川。
「時間外になります。残業代は付きますよね。」妙にクールな吉澤。
「だ〜、うるさい、黙ってさっさと始めて、今日中に報告に来い!居酒屋におる!」
ぶち切れる中澤を抑え、その場は解散となった。
新米4人に隠れて指示を出す中澤。
「なっち、かおり、あいつら見といたって。
あと、矢口、新宿署のボンバーズ、メロン・メモリー、
それにトコナッツを待機させとくこと。連絡はあたしの携帯鳴らして。
後藤は、・・・って、寝とるか。ええわ、出動まで寝かしとき。
明日の早朝、バナナとオリーブの搬入時に押さえるでぇ。
ほな、みっちゃんといつもの居酒屋行っとんで。」
明け方近くになって、飯田刑事が居酒屋に入ってきた。
「も〜裕ちゃんとみっちゃんたら〜、お酒なんか飲んじゃダメなのに〜。
あたしたち寝ないで頑張ってたんだよ〜。かおりって、寝なきゃいけない人なの〜ほんとに〜」
「うっさい、大人の息抜きや。で、どうや。」
中澤一喝。
「うん、ばっち〜り。夜明け前にトラックでバナナを搬入して、
そうね〜、6時くらいから屋台に並べ始めるの。
ちょうど〜、歌舞伎町のビン拾いのおじさん達と同じくらいにうごきだすみたいだよ〜。」
「・・・よっしゃ、まずは一手柄立てたるか。総員起こし、バナナ検挙やで!」
まだおねむの辻・加護を保田がはたき起こし、モーニング署総掛かりで、
バナナ屋の一斉検挙が行われた。
署員は、路地から臭う酒や残飯の匂いに顔をしかめるが、
署長の中澤は一人平然と指揮をとっている。
ただ、バナナを籠ごと押収する際には、遠くから眺めていた。
成果は鮮やかだった。仕込みのバナナにはシールが張られており、
目当ての客に直接渡せるようになっていた。
ヤク仕込みタバコが2,800本、慎重に隠されたヘロイン4.2Kgが押収された。
モーニング署は湧き立った。
「って言うか、アホちゃうか、あみって?」
と呟いたのは平家刑事だけであった。
「さぁ、次は瓶詰めオリーブや!あたしらだけでは手が足りん。
ボンバーズとメロン・メモリアル、それにトコナッツへ応援要請や。
即出動。がんばっていきまっしょーい。」
中澤署長は、安倍刑事・後藤刑事・吉澤刑事を直接指揮する。
怪しげな店のドアを中澤がヤンキーキックで蹴破る。
「おらっ、モーニング署だよ!」
続いて、食べ物への嗅覚が人一倍発達した安倍刑事が、ヤク仕込みオリーブを嗅ぎ分ける。
これも食欲のなせる技だろうか?
おろおろする店員を、吉澤が見下ろしていうセリフがこれだ。
「犯罪は引き合わないものだって、わからないの?」
このクールな言葉に逆上する奴を、武闘派の後藤刑事が張り倒す。
「しょせんは人間のクズね(冷笑)」
と犯人に容赦はないクールな吉澤刑事。
次の隊は保田刑事・矢口刑事・石川刑事だ。
保田があやしげな店に入ると、矢口が三叉矛で脅す。
震え上がる仕込みオリーブ販売員に向かって、
得意げな顔でエゴイストのバッグから手錠を取り出す矢口刑事。
しかし、同行する石川刑事は、両先輩に抗議した。
「こんな、令状も持たずに踏み込むなんて、しかも三叉矛をちらつかせて・・・。
こんなの警察学校では習ってません!」
正論を口にするのだが、叩き上げの保田巡査からは相手にされない石川刑事。
オリーブに弱いロボ飯田刑事とりんね刑事は役に立たないので、署に待機となった。
ロボット刑事飯田は、屋上に登る。
「ん〜、は〜い、電波の状態は良好で〜す。
あっ、圭ちゃん、その先の左側2件目の3階にオリーブの気配がありま〜す。
・・・なっち、匂う?そう、その路地の奥、右の奥から3軒目・・・」
勿論ロボ飯田刑事はGPSを搭載しているので、電波さえ良好なら遠隔地でも使えるのだ。
りんねは役に立たないので、秘書三佳婦警と、各方面の連絡を取りまとめていた。
平家は、一人で掴んだワンルームのアジトに向かった。
さらにメロン・メモリアルを辻が、トコナッツを加護が道案内する。
「もしもし、千夏っちゃん、こっちはだいたい済んだわ。他はどう?」
中澤署長は署に連絡を入れ、ヤク仕込みオリーブ検挙作戦全体のスケジュールを確認する。
押収品は新宿署員に預け、次の段取りに入れるようになっていた。
「あ、署長、さっき保田さんから、予定は完了との連絡がありました。
メロン・メモリアルとののちゃんは道に迷ったみたいで、遅れています。
トコナッツは、ミカとアヤカが加護ちゃんの関西弁に苦しんでます。
ボンバーは各人、逃走ポイントの制圧に成功しています。
平家さんは、連絡がありません。」
中澤はちっ!と舌打ちした。相手を出し抜くためには、時間が惜しい。
特に今回のような危険な相手への遅れは、命につながりかねない。
情け容赦ない国際麻薬組織TK、その構成員NO.1である死刑囚あみが相手では・・・。
「了解。仕方ないな。うちらはトコナッツの支援に向かう。
圭坊達には、メロンの手助けをさせたって。」
「了解。お伝えします。」
千夏は、モーニングの妹分として秘書をしているが、落ち着いたやり方を中澤は信頼していた。
あの子が署を固めていれば、自分は外で暴れられる・・・。
「ほな、トコナッツの応援に行くで、ええな!」
安倍刑事・吉澤刑事
「は〜い」
「メロンのおねえちゃんたち、しゅいません。こんどはまちがいありましぇんよ〜。」
「ののちゃん、もう何度目よ。麻薬入りオリーブ売ってる所は。さぁ、踏み込むわよ!」
一人の少女と、安っぽいバレリーナ?の衣装を着た4人は、
辻のドジのために、関係ない店で無駄足ばかりだった。
それでも緊張してドアに近付いた。
「のの、あんたは下がってなさい。さぁ、行くよ!1,2の3!」
先頭の一人がドアを勢いよく開けて、二人が飛び込む・・・・。
大音響がした!
「BE TOGETHER,RRRRR〜」
それは耳に不快な、歌い声とも叫び声とも知れぬ音の塊。
ののは見た!
メロンが踏み込もうとした時、一瞬にしてドアごと4人が吹き飛ばされるのを!
そうして、辻は吹き飛ばされる4人の下敷きとなってしまった。
(なになに?なにがあったのれすか?メロンのおねえちゃんたち・・・)
顔を上げようとした時、店の奥から一人の影が出てきた。辻は頭を引っ込めじっと見つめた。
保田に負けぬほど吊り上った、冷たい小生意気な目つき。出てきた部下らしい男達に指示をしている。
それこそが、“アミーゴ”であった。
「こいつらはもうおしまいだよ。さぁ、あたしは次の仕事に向かう。おまえ達もな。」
「はっ、アミーゴ様。しかし、お一人で大丈夫でしょうか?」
「くどい!あいつらが10人だろうと、あたしの敵じゃないよ。」
(あ、あれが“あみぃご”なの・・・。なかざわしゃんやみんながさがしているあいて。)
人の気配がなくなると、辻は折り重なった4人のメロン・メモリアルの下から抜け出した。
動かない彼女達に触れてみる。
(あ、あ、あ、だれもうごかない・・・みゃくがない・・・し、んでる?)
腰が抜けてしまった辻だが、お漏らしをして我に返った。携帯を取り出す。
「もしもし、ほんぶれすか?ちなつさん?
たいへんでしゅ。メロンのおねえちゃんたちが、うごかなくなりました・・・。
“あみぃご”れす。“あみぃご”にやられまし・・・えーん」
現場に向かう中澤本隊に、即座に連絡が入った。
早足で携帯に耳を当てていた中澤署長は、歩みを止めた。
低い声で話す中澤の様子が異様なのに安倍刑事が気付き、後藤刑事・吉澤刑事を止めた。
携帯をしまった中澤が叫んだ。
「走れっ、メロンがやられた、“アミーゴ”が現われたんや!急げ!走れ!」
中澤らが到着した現場には、折り重なって倒れたバレリーナの衣装が見えた。
身動きすらしない4人のメロン・メモリアル、それにすがって泣く辻。
中澤はメロンの4人を介抱しようとしたが、無駄であった。
泣き続ける辻を後藤刑事と吉澤刑事があやしながら、ようやく詳細を聞き出した。
安倍に各分隊への連絡をさせながら、中澤署長は頭をひねっていた。
4人と辻を一撃で吹き飛ばしたものは何か?
それが情報にあった「BE TOGETHER〜」なのか?
死刑囚・あみとその仲間達は二手に分かれたらしい。
ではどこに行ったのか?
仕込みバナナは摘発した。仕込みオリーブも新たには持ち出さないだろう。
では、敵“アミーゴ”の次の一手は何だろうか?
中澤の頭の中に、ちかっと光るものがあった。
安倍から携帯をもぎ取るとせわしなく電話をかけた。呼び出し音が長い。
(間に合って、間に合って頂戴・・。)
「もしもしっ、こちらモーニング署の・・・」
中澤は返事を待てなかった。
「中澤やっ!千夏っちゃん、すぐに署から避難するんや!“アミーゴ”が、」
「ガガガガガガガ・・・・・・・・、ツー、ツー、ツー」
電話の向こうで、鼓膜の破れそうな爆発音がして、電話は切れた。
中澤署長は、その場にへたり込んでしまった。
モーニング署が次々小売ルートを洗っているのを知った死刑囚・あみの対抗手段とは、
モーニング署襲撃ではないか、中澤の悪い予感は的中してしまったのだ。
緊急連絡で全員署に戻るよう指示した中澤本隊、中澤と後藤・吉澤・辻刑事は、
爆発の後で黒く焦げたモーニング署を見て、声を失った。
爆風のためか、外にガラス片が飛び散っている。爆発物を町のど真ん中で使うとは・・・。
内部に入る勇気をもつ者はいなかった。中を見るまでもない、誰も、生き残ってはいないだろう。
しかし、歪んだ通用口を蹴破って出てくる影があった・・・、長身の飯田刑事。
「カオリ、あんた、どうして!生きてたんかい!」
飯田は中澤の問い掛けに無言のままに、駆け寄ってきた。
そうして中澤の腕に飛び込んで、泣き始めた。泣き続けた。
涙を失ったはずなのに・・・。
「カオリは屋上にいたの、電波をしっかり受けようと思って。
けど、メロンの最後の信号をキャッチして、
りんねと千夏っちゃんのところへ降りていこうとしたら、
突然、なんか鶏を絞め殺す声ような音が聞こえて、そうして大爆発が起きたの。
二人を助けなきゃ、助けなきゃと思ったの、
けどね、けどね、・・・どこにも、いないの、誰も答える人がいないの、何にもないの・・・」
安倍は、ぐずぐずと涙で顔を晴らしていた。
吉澤は、再び声を上げて泣き始めた辻を、落ち着いてなだめていた。
後藤は、保田・矢口・石川が戻ってきても、息ができないほどの号泣を続けていた。
そんな後藤を保田が腕の中に受け止めてなぐさめる。
後藤は顔を上げて保田に言葉をぶつけ始めた。
「圭ちゃん、死んじゃった、、死んじゃった、りんねちゃんたち死んじゃった・・・。
爆弾で、建物ごと吹っ飛ばすなんて、人間じゃないよ・・・。
あたし達の帰るところ、なくなっちゃった、
あんな奴に、勝てないよ・・・。あたしたちじゃ、ダメだよ、自衛隊でも呼ばないと」
バシッと後藤の頬を叩く音がした。
保田はハッとした。保田が後藤の頬を張ろうとした時だったのだ。
「真希、あんた、何を情けないこと言うべさ!」
安倍は、流れる涙も拭かずに、怒りに身を震わせていた。
「真希、あんた、なんてことを言い出すべさ、・・・
あんたにはモーニング署の誇りがないのっ・・・
あたし達はしくじった、メロンと、りんねと千夏ちゃんをやられてしまった・・・。
その仇を誰にやらせようと言うべさ!あたし達があの子達の仇を討つんだべさ。
あたし達は強い、一人一人は弱くても、あたし達モーニングが一体になれば強い、
誰にも負けない、負けちゃいけないんだべさ!
なっちはね、負けないべ・・・。
真希、情けないよ、あたし達は泣いてる暇なんてないのに・・・。」
安倍は、自分に言い聞かせているに叫んでいた。
後藤は、体を堅くして、その言葉を聞いていた。
保田が静かに続けた。
「後藤、なっちの言う通りだよ。あたし達は強い。
それに、後藤、あんたはもう泣いてばかりいちゃ、いけないんだ。
お前にはついてくる後輩もいるんだよ。
後藤は忘れたのかい?絶対に泣き顔を見せなかった教育係のことを。」
「なぁ、みっちゃん、あたしは今日、自分が情けなかった。」
新宿署に完敗の報告をした後、中澤は平家と二人でガード下の居酒屋にいた。
「メロンも、りんねも、千夏ちゃんも、あたしがもう少し用心深くしてたら、」
平家が人差し指を立てて、ノン!と答えた。
「それはなぁ、裕ちゃん、違うわ。誰があんな残酷な奴を全部先回りできたのん?
それより、明日からどうするか、それを考えるのがリーダーの努めやで、中澤署長。」
中澤は、そやな、と目で返して、愚痴を続けた。
「なぁ、それにあたしが何もせんでも、なっちと圭ちゃんが後藤をしっかり支えてくれた。
あの子らがしっかりしてきて嬉しいけど、
ちょっと自分がいらんようになったみたいで、さみしいわ。」
中澤が愚痴を始めると平家はその聞き役になる。
「姐さん、何言うてんの。それも姐さんがあの子らを、きっちりしばいたったからや。」
「しばいてへんて、呼び出しはしたけど。」
翌朝、新宿署の片隅を借りて、モーニング署の10人の刑事と平家刑事が集まった。
中澤署長が新たな命令を与えた。
「たった今から立て直しや。24時間体制。
絶対に国際麻薬組織TKと死刑囚・あみ、”アミーゴ”をお縄にする。」
「は〜い、しつも〜ん」
ロボット刑事飯田が手を上げる。
「本部もつかえなくなって、どうするの〜」
「アミーゴを締め上げるには、商品のヤクの供給を絶つのが一番や。
インターポールにも協力を要請した、多少は期待している。
あみが昨日のような荒っぽい手段に出たのは、うちらが、思うようにさせへんからや。
奴らのヤクの流れをさかのぼって、その原点を見つけ出して、そこを刺す!」
けど、うちらも、メロン・りんね・千夏っちゃんを失い、トコナッツは帰国、
ボンバーズはアミーゴにシマを奪われた暴力団の抗争担当になった。
手が足りへん。
せやから、次のようなチーム編成として活動に当たりや。」
中澤署長の指示が伝えられる。
「飯田刑事は、矢口・石川・加護刑事で組む。連絡のコールサインは「タンポポ」。
保田刑事は、後藤・吉澤刑事の3人で捜索。コールは「プッチ」、や。
辻刑事はあたしについといで。コールは「イテマエ」。
みっちゃんとなっちは単独で遊軍となる。
平家刑事のコールは、「ゲット!」、安倍刑事のコールは、「ブヒ!」や。」
「あ、あとな、モーニング署は爆破されて当分使えへんから、
新しい本部を借りた。区役所通りの外れのスナック「ゆきどん」や。」
「え〜、スナックなんて、落ち着かないよ〜」
娘。達、非難轟々。
「大丈夫、ママのゆきどんには、前に別件捜査で手心加えたったんよ。
痛いとこ、つかんでるから、裏切ることはできへん。
当分客を入れずに、休憩所に使えるよう、ベッドもいくつか用意させたわ。
オーナーの五木さんも了解済み。
ドアのところで各コールサインを述べて、のぞき窓でピースサインしな。
急いどる時はダンゴピースや。」
それから3日間、足を棒にした捜査が続いた。
死刑囚・あみの新たな手は、トマトにヤクを仕込むものだったが、
これも直売店が出た瞬間に検挙された。
「って言うか、バナナとオリーブの次はトマト、アミーゴって、ちょっとおバカ?」
安倍のもっともな指摘に、皆うなづいた。
「あたし達の嫌いなものを調べ尽くしてるなんて、あみって、モーヲタ?」
と呟く保田。
地道な捜査から、どうやら2つの拠点が絞り込まれてきた。
1つは、平家が単調な張り込みから明らかにしたワンルームで、
そこはアミーゴと愉快な仲間達の連絡場所兼宿泊所のようであった。
もう1つは、以前は服飾の倉庫に使われていた、取り壊し前の店舗ビルの3階。
今は埃だらけの濃いマネキンがあるばかりだが、
持ち込まれたヤクの集配所に使われているらしい。
「よーし、こうなったら、服飾倉庫を重点的に見張って、
あやしい動きがあったら一網打尽や。
タンポポ・プッチ・イテマエの3つのチームが交代で見張りに入る。」
「ワンルームの方は、みっちゃんとなっちで張り付いといて。」
「全員、携帯電話とウォーキー・トーキーの両方を装備。
絶対に連絡を絶やさず、互いに位置と状況を伝えること。
非番のものは「ゆきどん」で常に待機すること!
買い食いは禁止。」
さらに2日が過ぎた。アミーゴ達はなりをひそめているようだ。
麻薬の供給は目に見えて細くなり、
日中でもヤクの切れたジャンキーがうわごとを言いながら街をうろつき始めた。
「オマエモナー」「氏ね」「健太健太健太・・・」「オーディション受けなきゃ・・・」「マジふぁん・・・」
そんなジャンキーを見下ろし「人間の屑ね」と言い放つクールな吉澤刑事。
それから3日たった時、異変が起きた。
平家からの定期連絡が途絶えたのだ。安倍を派遣するが、平家の姿が見当たらない。
娘。達全員が非常呼集され、新たな本部となったスナック「ゆきどん」で輪になる。
中澤は携帯とウォーキー・トーキーで呼び掛け続け、
ロボ飯田は持てる通信機能全てを動員するが、どうにもならない。
平家はどうしたのか?
「みっちゃん、敵の手に落ちたか・・・それとも・・・」
突然、中澤のウォーキー・トーキーに呼び出しがかかった。
「ハロー!モーニング!こちらは“アミーゴ”、ご機嫌いかが?」
悪魔のような笑い声が「ハローのテーマ」を歌いだした。
「あんた達の仲間の平家はあたしが拉致したよ。
返して欲しければ、平家の探っていたあたしのスィートルームにおいで。
あ、証拠に歌ってあげるよ、「あー、夏っつの恋、夏のーーー、はやーく来ないかな〜」
中澤「やめいっ!・・・分かった、何が狙いや。」
あみ「あんた達があたしの邪魔ばかりしてくれたからさ、
去年の春は、あたしも焼き銀杏を血祭りに上げて、
7月のふるさと決戦もあたしのボロ勝ちだっただろ。」
「なんやて、福ちゃんをやったのは、お前やったんか!」
中澤の髪が逆立った!目尻は切れんばかりにつり上がる。
「あの時はジョンソンも蜂の巣にしてやったのに、まさかロボになって蘇るなんてね。」
地獄の死刑囚・あみはふてぶてしく続けた。
「ところが秋からのお前らの「LOVEマシナリー」作戦で
あたしはTK様からお叱りを受けてしまってね。
もう一度っていう条件で今回来たわけなのさ。
うん、あんた達にもう一度痛い目を合わせたいなぁって、思ってね。
単なる嫌がらせさ。
そんじゃ、待ってるよ、アディオス!」
「平家さんが!」後藤が絶望の叫びを上げた。
一方、ロボット刑事飯田、マシーン・カオリが素っ頓狂な声を上げた。
「裕ちゃん、違うよ。今の電波は、例のワンルームの方角じゃない。
あのビルの服飾倉庫の方向だよ。」
「ちゅーことは、これは罠か?」
「そうだべ、多分マンションではアミーゴの部下が待ち伏せしてるべ。」
うむむむむ、中澤は思案した。
保田の方を振り向く。見開いた保田の目は、倉庫を語っていた。
「よし、全員で服飾倉庫に向かう。」
「いやだよ、裕ちゃん、平家さんはワンルームに監禁されてるんだよ。平家さんを助けなきゃ。」
後藤が悲鳴を上げる。
「ごっちん、気持ちは分かるが、これは罠や。それに、あたし達の第一任務はあみを逮捕することや。」
「そんな、平家さんは、裕ちゃん達の初めからの仲間でしょ。
あたしは行かない。ワンルームに向かって、平家さんを助ける。」
手を上げそうになった中澤を、保田が止めた。
「裕ちゃん、行かせてやって。」
「圭坊・・・、これは、あかんことや。」
保田が静かに口を開く。
「裕ちゃん、こいつ、みっちゃんを自分の手で助け出したいんだよ。
あたしもみっちゃんはワンルームにいないと思う。
けど、後藤は自分の目で確かめたいんだ、
それにこんな気持ちのままじゃ、どっちにしろ後藤は役に立たないよ。」
保田と中澤の視線が一致した。
「よし、後藤、平家救出にワンルームへ向かえ。
けど、人数は割けん。お前一人で行って来い。罠の可能性は高いで。
アミーゴでなければ、雑魚は捨てておけ。
あと、ウォーキーは肩につけて、入れっ放しにしとくこと。
呼び出しがあったら、すぐに本隊と合流しろ。絶対にな!」
「裕ちゃん、圭ちゃん・・・、ありがとう。後藤刑事、平家刑事の救出に向かいます!」
後藤は敬礼をして、去って行った。
9人は走り去る後藤を見届けた。
中澤が鋭く指示を出す。
「安倍、飯田、矢口!」
「おうっ!」「は〜い」「なになになに?」
「あんたらは突入部隊や。
第一任務、アミーゴの逮捕。武器の使用も許可する。但し、必ず生かして捕まえること。
第二任務、人質の身柄確保。」
「保田!」
「なにさ」
「向かいのビルから窓を通して、アミーゴを狙撃すること。殺すな。
突入部隊の援護を行うつもりでやってくれ。」
「石川と加護は、現場を立ち入り禁止にしろ。
吉澤は包囲網から敵を逃がさないよう警戒。
辻は・・・、まぁ、あたしの側でうろちょろしとき。
20分後きっちりに突入開始。・・・厳しい戦いになるで、ええね。」
全員が円陣になり、輪の中で叫んだ。
「やるべしっ!」
中澤は、ふと手帳を開いた。昨春殉職した福田が笑っていた。
(明日香、あの子達を守ってやって・・・)
石川がメガホンを握った。
「はーい、ただ今からここは進入禁止としま〜す。
一般市民は立ち入らないでくださ〜い。
あ、そこの人、横断歩道は左右を見てから渡りましょ〜う」
無関係な市民に説教しまくる石川刑事。
加護は黄色いテープを張り巡らし始める。
「なんやなんやなんや。あほか、アミーゴに気づかれるやないか。
圭坊、石川を黙らしてこい。」
「警察学校では、まず市民の安全確保と習いましたから」
と言い訳する石川に、保田は顔を近付けた。
アップで見る保田の顔に失禁する石川刑事。
「頭痛いな・・・。吉澤、お前は倉庫を見張れ。絶対にそこから出すな。」
「任務ですから。」素っ気無く返事するクールな吉澤刑事。
「ののは、ろぅしたらよいれすかぁ?」
中澤は泣き虫モードの辻を蹴飛ばすのは控えて、飲み物を買って来いと告げた。
「は〜い、アラェヨーグルトをかってきま〜しゅ」ふぅ、疲れるわ。
一方、後藤は例のワンルームに近付いた。階段を使い、部屋に近付く。
「例の7階の部屋に平家さんがいる・・・はず。」
静かに部屋の前につくと、拳銃を握った。
ドアのノブを思い切り開いて突入する。
「モーニング署だ、おとなしくお縄につきなさいっ!」
ドアの向こうで、3人の男が振り向いた。
みな太陽を知らない色白で、不細工なメガネをかけ、不健康に太っている。
「ヲタみたい・・・」と後藤が呟くと、
「モナー!」「アミーゴっ」「氏ね」と叫んで、飛び掛ってきた。
しかし運動不足の無様なデブ達は、後藤の敵ではない。
武闘派の後藤はたちまちの内に3人のヲタを叩き伏せ、ロープで縛り上げた。
緊縛された3人は、よだれをたらして震えていた。
素早く周りを見渡すが、平家の姿も、アミーゴも見当たらない。
ベランダの植木鉢に麻のようなガーデニングがあるだけだ。
後藤は焦った。
(あたしの勘違いだった、早く助けないと、平家さん・・・)
「さぁ、平家さんはどこ?大人しく白状しないと、ぶつわよ!」
「うぇへへへへへ、ぶってぶって〜」
「あ〜俺モナー」
「真希ちゃん女王様きぼーん」
「気持ち悪い・・・。じゃあ、白状しないとこのまま放置するわよ。」
ヲタ達の表情が変わった。
「放置だけは勘弁してー」「構って構って、真希ちゃーん」
「じゃあ、吐きなさい」
「はい。ゲロゲロ」
「馬鹿っ!面白くねーよ。放置決定!」
ヲタ1「あ、言います、言います、あうあう。あのマネキンが置いてある倉庫です。」
ヲタ2「アミーゴ様、ごみ箱に入れられそうなんで、高飛びしてやると。」
ヲタ3「ここにいれば、構ってもらえると。」
後藤は急いで中澤に連絡を入れる。
「ごめん!裕ちゃん。平家さんとアミーゴはやっぱりいなかった。服飾倉庫にいるそうよ。」
「おう、今カオリのスーパー透視で、確認したわ。
後藤、裏かかれたな。ヲタは放置や。こっちへ来い、即効で。間もなく突入する。」
服飾倉庫ではアミーゴが一人ほくそえんでいた。
平家の通信機で、娘。達の会話は丸聞こえだ。
「ふふふ、アホ娘。達、集まってきたね。お前らまとめて片付けてやるよ。
それに、真希ちゃん、早くおいで。
あんたは特に念入りにやってやるよ・・・」
狂気の目は自信に溢れていた。
後藤がアミーゴの待つ服飾倉庫に向かっている時、
安倍と飯田、矢口は慎重にビルに侵入した。
保田は向かいのビルからライフルで狙っている。
3人がたどり着いた服飾倉庫には、ウェーブのかかった茶髪に、
鼻ピをしたマネキン達が何体も何体も打ち捨てられていた。
じりじりと進んでいくと、奥から恐ろしい声がした。
「おやおや、遂ににそろったね、モーニング署のみなさん。ほれ、平家刑事は無事だよ」
恐るべき国際麻薬組織TKの尖兵、死刑囚・あみが姿をあらわした。
あみの背後には、ぼこにされ、縛り上げられた平家がころがっていた。意識はない。
驚く3人に、死刑囚・あみが楽しさを味わうように語り掛けてきた。
「これはこれは、安倍刑事さん。スタイルが変わったので、見間違えるところだったよ。」
「うるさいっ!あんたにやられてから、あたしがどんな思いでいたか!
強くなってやるって、ふるさとを捨ててニューヨークまで行ったあたしが、あたしが。
もう逃げない、あたしが、あんたを捕まえてやるべさ!」
「できるもんなら、やってごらん。あんたはあたしの敵じゃないよ!
・・・おや、そっちのロボは、前に蜂の巣にしてやったはずだけどね、
あのぷくっとしたちっちゃい子と一緒に。」
「なに言ってるの〜!いじめだよ〜、たかさ〜ん!あたしはあんたを捕まえるために〜、
ロボット刑事になって戻ってきたのよ〜!さぁ、月に変わって〜、お仕置きよ〜!」
「相変わらず、寒めのお言葉、サンキュー。
・・・ロボの影は、ああ、ちっちゃいコギャルちゃんね。厚底がお似合いだよ。」
「きゃははは、おいら、あんたを捕まえてやるよ。あたし達3人を相手に、どうするのさ!
さぁ、抵抗すると、おいらの三叉矛がだまっちゃいないよ!」
妙にキュートな三叉矛を右手に握り、
左手には、得意げな顔でエゴイストのバッグからロボ飯田のリモコンを取り出した矢口!
「カオリ、行くよ、戦闘モード!そ〜れ、ぽちっとな!」
飯田の目が光った。腕組みの姿勢から、突然大きく口を開いた。
「ディア〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
ものすごい衝撃がアミーゴに直撃!積もった埃が舞い上がり、あみが見えなくなった。
「カオリのあれをまともに喰らうなんて、間抜けだべ。」
しかし、噴煙が薄れてくると、アミーゴは腕を十字にして騎馬立ちをしていた。
「ふーぅ、石より堅い十字受け・・・普通の奴なら、壁に叩きつけられてるよ。
そんなら、今度は私の番ね・・・・。」
あみがゆっくりとかがみ込んだ。
「BE TOGETHER,RRRRRRRRRR!!!!!」
勢い良く胸をそらせて、全開の叫びを上げたアミーゴ!
ロボ飯田刑事と矢口刑事には避ける間もなかった。
気が狂いそうに音程の外れた攻撃を真正面から受け、
矢口の小さな体は、背中のガラス窓を破って、外に放り出された。
大きな飯田刑事はみぞおちに衝撃破をもろに受けて、
ジャックナイフのように折れ曲がり、壁に叩きつけられた。
仰向けに倒れた飯田刑事は、金属のきしみを上げながら、もがいていた、
目には「INTERNAL SERVER ERROR」を表示しながら。
「そ、そんな・・・。カオリ、矢口が・・・。」
安倍刑事は、がくがくと膝を震わせていた。
アミーゴは満足げに微笑み、なっちの方を振り向いた。
「次はあんたの番だよ」
安倍は恐怖に拳銃を取り出した。
「なんだい、あんたもモーニングの顔と言われたくらいなら、素手でおいで!」
「ぶひー、いい度胸だべさ。後悔しても、知らないべさっ!」
安倍は素早く2回四股を踏むと、前かがみになり、コンクリートに軽く手を当てて、突進した。
頭からアミーゴに突っ込み、顔を上げさせて、渾身の張り手を1発、2発、3発!
予想以上の張り手の威力に後退したあみは、ぶるぶるっと頭を振った。
「さすが国技館で揉まれただけのことはあるね。前言撤回、後悔しました。
手間取るのは、やめだ。」
死刑囚・あみは暗い目でふところから拳銃を出すと、安倍を撃ち抜いた。
BANG!BANG!BANG!
安倍の小さくも、ふくよかな体は壁まで吹っ飛ばされた。
あみは、煙を噴きながら、なお動こうとする飯田を、いまいましげに見下ろした。
「とどめだよ!」
そう言い放つと、足元の三叉矛を飯田の胸に突き立てた。
長身の飯田から全ての電源が落ち、つぶらな黒い瞳は光を失った。
ビルの向かいからライフル・スコープで狙っていた保田は戦慄した。
(くそっ、オマエモナー、氏ね、)
どこで知ったか、妙なつぶやきで引き金を絞った保田。
しかし、恐るべきあみは気配で身を引いていた。
逸弾!振り返り窓の外から向かいのビルを見上げた。
「これでもくらいな!「BE TOGETHER,RRRRRR」」
咄嗟に避けた保田だが、衝撃波でライフルを弾き飛ばされ、
右手から肩にかけてべろりと皮が剥け、血を噴き出した。
(やられたっ保田!)
アミーゴは、次の気配に振り向いた。
後藤刑事だった。
仰向けに血だらけになって横たわり動かない安倍と、
うつ伏せになって煙を上げている飯田を見て、後藤は立ちすくんだ。
やっと辿り着いたのに・・・。
「なっち、カオリ・・・。やぐっつぁんは、どこ・・・。」
「ようやく到着かい、真希ちゃん。先輩達は、この通りさ。
おチビは吹っ飛んじゃったけど、ロボと親方はそこにころがってるよ。」
真希は怒りに震えていた。
「許さない・・・、許さない・・・、あんたなんか・・・」
後藤は禁じられた拳銃を突きつけるようにすると、引き金を引いた。
至近距離では、外れるはずもない・・・。
しかし、死刑囚・あみは素早かった。
射点を外すと、足元を転がり、真希の足にタックルする。
真希は背中からコンクリートの床に叩きつけられた。
起き上がろうとすると、握り締めた重いパンチをボディに喰らう。
2発、3発、4発。後藤の口から血糊がこぼれる。
打ちのめされた後藤の首に、あみの手が蛇のように伸びた。
容赦なく、万力のような力で締め上げる。
「さっきの奴らは、元々あたしの相手じゃない。
けど、あんたは小癪にもあたしを追い詰めた。
一人じゃ何もできないモーニング野郎、
あんたごときが、あたしを追い詰めるなんて・・・。
ほーら、高い高い。」
ハング・アップされた後藤は、ぎしぎしと喉の骨がきしむのが聞こえた。
後藤の目はうつろになっていった。
しかし、武闘派の本能か、咄嗟に、悪魔のような相手に、強烈な膝蹴りを喰らわした。
無意識の内に吹き出た天性の格闘能力と、毎日の空気椅子と腹筋の成果!
突然の反撃にさすがのアミーゴも真希の首から手を離し、2,3歩後退した。
ダメージが大きいのか、立ち上がるのが苦しそうだ。
しかし、後藤も、急には立ち上がれない。
それどころか、恐ろしく強い相手に圧倒され、コンクリートに四つん這いになっていた。
(駄目、強すぎるわ。勝てない、殺される・・・
裕ちゃん、ごめん、あたしじゃ、みんなの力になれない・・・さやかさん・・・。)
その時、真希の耳に、何か懐かしい声が聞こえたような気がした。
無意識に携帯を取り出しのぞき込むと、メールが着信している。
苦しい喉に手を触れ、携帯の液晶を見た。
(何か書いてある・・・えっ!!)
「自分を信じろ、お前はモーニングのエースだ。市井」
負け犬になりそうだった真希の中で、何かが光った。
(そうよ!やれる、やれるわ!あたしは、あの方に鍛えられたんだ、やれるわ!)
(そうだ、市井ちゃん、あたしは強いんだ!負けないんだ!)
真希は体中に今まで感じたことのない力が湧き上がってくるのを感じた。
深く息を吸うと、アミーゴに襲い掛かる。
鋭く斧のように打ち下ろすローキックが、右、左、右と膝の側面に3発ヒットした。
あみが顔をしかめ姿勢が崩れた時、
一瞬背中を見せた真希の旋風脚が、アミーゴのこめかみをヒットした。
どさぁっとあみは蹴り飛ばされたが、それでも素早く立ち上がり拳を握る。
どこからか力が湧いて来たのは、真希だけではなかった。
はしっこい矢口は、吹き飛ばされた瞬間に、厚底に隠された“矢口ジェット”を使い、
バルコニーにつかまっていたのだ。
ひそかに窓から部屋に入ると、気付かれずに飯田の背後に隠れる。
(後藤、よく来たな、頑張れ。ほんとは、おいらもいるんだぞ・・・って、
ここで一つ悪いお知らせがありま〜す。
あばらをやられて、おいらの必殺技が出せないかもしれないこと・・・
カオリのもう一つの必殺技と合わせれば、あいつを倒せるかもしれないのに・・・)
しかし、飯田の破れたキャミソールから、背中に何かのスイッチがのぞいているのが、
矢口の目に映った。
(んあ、「最終安全装置。危険、触るな」って?今以上の危機はないよ・・・それっ!)
音もなく、飯田の体の中で何かが動き出した。
「ALTERNATIVE BATTERY ON」
電流火花が飯田の体を走り出した。
再起動したロボット刑事飯田、マシーン・カオリはゆっくりと立ち上がりだす。
(あらららららっ、やった!あれを出すんだ!よし、おいらもやってやるぜ!)
金属のきしむ音に気が付き、正面の真希から視線を移したアミーゴは、
信じられないといった表情をしていた。完全に破壊したはずなのに。
飯田は立ち上がっていた。
そうして、胸に突き立てられた三叉矛を強引に抜き取ると、赤いタラコ唇を開いた。
「かおりんをほんと〜に怒らせたわね〜、もう知らないから!HEY,MAKE MY DAY!」
まずい、これは何か、非常にまずいと思うアミーゴだが、挑発の言葉は止まらない。
「あんたの「ディアー」は、効かないよ!」
しかし、かおりは落ち着いていた。
「あんたには、もっといいもの上げるんだから〜!」
そう言うと、神秘的な表情を暗くして、叫んだ。
「ねえ、笑ってぇぇぇぇぇ!」
鈍い衝撃波だった。あみの体中が麻痺し、鍛え上げた筋肉が力を失った。
奇怪な技で脱力したアミーゴに、飯田の後ろからひょっこり矢口が姿を見せた。
「とどめだよ!それ、「セクシービーーーーーーム!」」
「ぐはっ!!」
アミーゴの体は壁に叩きつけられる、それでも倒れない!
「うおお、無駄無駄無駄無駄無駄ぁ〜、拳王は決して膝など地につかぬーーー!」
訳の分からぬ叫びを上げながらも、膝を屈しない怪物アミーゴ!
後藤がするするっと、その前に進んだ。
「あたしは負けない、見ていてっ!」
奥底から湧き出てくる勇気!大きく息を吸い込むと、
「うっ!はっ!うっ!はっ!」
真希の全てを込めた正拳突き4連発がアミーゴのみぞおちに炸裂!
「ごはぁっ!」
口から血を吐き出して、ついに死刑囚・あみ、TKの刺客アミーゴは倒れた。
膝から崩れ落ち、コンクリートにキスをした。
・・・中澤署長は、無線を通じてしか、中をうかがい知ることができなかった。
雰囲気が読めずに「貴様は完全に包囲されている。おとなしく武器を捨てて投降せよ」とか、
「あたし、テニス部で部長だったんですー」とか、「青色に入りたかったんです」とか、
わけのわからないことを拡声器で口走る石川刑事のことなどは、耳に入って来なかった。
ただ、何発かの銃声、舞い上がる粉塵、すさまじい叫び声。
死闘が繰り広げられているのを思うばかりだった。
「全員やられたら・・・」
中澤は、腹に忍ばせたドスを何度も握り締めた。
(全員やられたら、最後はあたしや、このドスごと突っ込んだる・・・
福知山発大阪経由のケンカ魂見せたるでぇ。)
何種類もの鈍い衝突音が続き、やがて全てが静かになった。
もうもうたる埃の中から、三つの影が見えてきた・・・。
安倍を横抱きに足を引きずる後藤と、飯田を重そうにかついで来る矢口・・・、
そして手錠にかけたあみをひきずる平家・・・。
「あんた達っ」
中澤はみんなを抱き止めるために、走っていった・・・・・・・・。
翌日、新宿署に報告に行った彼女達に電話が取り次がれた。
「なっちが生きていた!生きていた!」
警察病院からの連絡で湧き立つモーニング署のメンバー。
四リットル以上の大量出血をものともせず、安倍は意識を取り戻したのだ。
病院に娘。達が駆けつけてみると、包帯だらけのボディが答えた。
「なっちは誌んでないべさ!ご飯食べればまたすぐ元気になるっしょ!」と叫ぶ不死身の安倍刑事
ロボ・飯田はすでにパーツの交換を済ませており、ベッドの安倍に抱きついた。
普段は口をきかなくても、長い付き合いの二人は、やはり大切なパートナーなのだ。
「あいたたた、カオリ、手加減してよ!」
それからのモーニングは、慣れない新宿署の中でも、元の明るさを取り戻していた。
矢口刑事は相変わらずけたたましい。
平家刑事からもらった○×ブザーの「ピンポーン」「ブー」で遊んでいる。
ロボ飯田は中華に目覚めたようで、加護を助手に食堂で汗をかいている。
妙に負けず嫌いの保田は、辻を助手にイタリアンだが、辻は全く役に立っていない。
一人で黙々と昇進試験勉強にせいを出す吉澤刑事
「なんか最近、署内の雰囲気悪くありません?」
と、自分こそまったく雰囲気の読めていない質問をする石川刑事
こんなメンバーを罵倒しながらも、平家刑事と居酒屋に居座る中澤署長。
後藤は、いつも通り眠りこけていたが、ある時ふらっと一人で屋上に上った。
誰にも見られないところで、メールの着信簿を探っていたらしい。
うっすらと涙を浮かべて、
「そうだね、さようなら」
と呟いて、着信簿をクリアーした。
2週間後、再建されたモーニング署に、全員が集まった。
今日はつんく本部長も視察に来る。
10時少し前、車の止まる音がした。・・・つんくだ、全員が外に並んだ時、
車内から大きな声がした。
「一回り大きくなって帰って来たべさ!」
と復帰早々洒落にならない挨拶をする安倍刑事。
あっけにとられる一同に、安倍は能天気だった。
「したら、また管内の定食屋パトロールに出かけるべ!」
モーニング署を見下ろすビルの屋上に二つの影があった。
「ま、平和に戻った見たいやな。」
趣味の悪いスーツに色眼鏡・茶髪の男が呟いた。
「娘。が一つになれば、できないことはないんですよ。」
ショートカットにした男前の娘が答える。
「世界がうらやむ!ですから。」
「はは、恥ずかしいフレーズやな。」
「そんでも行くんか。」
「はい、自分で決めたことですから。」
男は苦笑いし、娘は白い歯を見せて微笑み、再び姿を消していった。
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