(寝坊した?)
(あ、今日はOFFだった)
「ブヒ(°ω°)」
「ブヒ?」(エッ?)
「ブ、ブヒ?」
(な、なんだべこれ?)
ある日、なつみは目を覚ますと自分が巨大なブタに変わっているのを
発見した。
褐色の丸々した身体全体には産毛が生えており、指はまあるい
蹄へと変わっていた。
ごろごろごろ、ドテッ
「ブヒ」(痛い!)
ベッドから起き上がろうとしてバランスを崩したなつみはコロコロ
転がって、壁に激突した。
「ブヒヒ?」(2本足で立てない?)
仕方なくなつみは四つん這いで洗面所に向かい、そこで鏡を見て
改めて確認した。
鏡に映っているのは紛れもなく、醜く太ったブタであった。
「ブヒ」(おいしそう(*´ー、`*))
「ブヒヒ!」(ちがーう、これはなっちだべ)
なつみはしばらくそこに立ち尽くしていたが、とりあえず
部屋に戻って考えることにした。
「ブゥ」(ふぅ)
時計を見てみると、ちょうど午前8時だった。
グゥ(ハラ減ったべ)
くんくん
ブタと化したなつみはブタ鼻で微妙な匂いを感じ取ると、
本能のままに突進した。
ガツガツガツ
あっというまに炊飯器の残りご飯を平らげてしまった。
「ブ、ヒ」(次は、と)
なつみはブタ鼻をひくつかせると、今度は
冷蔵庫に襲いかかった。
ガツガツムシャムシャゴックンチョ
牛肉、豚肉、鶏肉。
魚、野菜に卵。
ナマなのも構わず手当たりしだいに食い散らす。
わずか10分ばかりで冷蔵庫は空となってしまった。
「ブップ」(ゲップ)
(満足満足だべ)
「ブー」
(じゃ、もう一眠り、と)
ごろ〜ん
「ブヒヒヒ!」
(それどころじゃない!)
(ブタのままじゃいられないべ)
「ブウブウ」(まあ、とにかく横になるべ)
ゴロン
丸々と肥えた身体をベッドに横たわらせると、なつみは自分のことを
思い出してみた。
「ブヒヒ」(私は安倍なつみ)
「ブヒヒ」(北海道室蘭市出身)
「ブヒヒ」(18歳)
「ブヒヒ」(アイドルグループ「モーニング娘。」のメンバー)
「ブヒヒ」(で、今はブタ)
「ブヒ?」(はて、モーニング娘。ってブタグループだったっけ?)
「ブッヒ」(んなわけないべさ)
「ブヒ?」(じゃ、なんでなっちはブタなのさ?)
「ブブ?」(え?元からブタだって?)
「ブゥー」(キミ、失礼だべさ)
「ブヒイ」(まっ、最近太り気味だったけど…)
「ブヒ?」(ハッ、もしかして人って太り過ぎるとブタになるべか?)
パカパカパカ
なつみはまた洗面所に駆け出すと、体重計に載ってみた。
バイーン
体重計の針は勢いよく振れるとメーターを振り切ってしまった。
測定不能。
「ぶっひー」(ガーンヽ(゚Д゚;)ノ)
(なっちはこんなに太っていたべか?知らないうちに)
突然。
「ピンポーン」
インターホンが鳴った。
(誰だべ?こんなときに)
「なっちー、迎えにきたでえ」
「ブヒヒ!?」(裕ちゃん!?どうしよう)
「ピンポーンピンポーン」
「なっちー寝てんかあ?」
「ブヒブヒ、ブ」(いっけなーい。今日は裕ちゃんとケーキバイキ
ング行く約束してたんだ。ジュルリ)
「ブブウ」(でもこんな格好じゃ行けないよう))
「ブゥ」(ごめん裕ちゃん、今日は帰って)
ガチャリ
なつみが息をひそめていると、カギを開ける音がした。
!!)
なつみと裕子は家の鍵を互いに交換しており、それは2人の
信頼関係の深さを示すものであったが、このときばかりは
それを後悔した。
「入るでぇ〜」
「ブッ」(わっ)
(どうしようどうしよう)
「なっちー早よ起きや」
裕子はずかずかと部屋の中に入ってくる。
(と、とりあえず、隠れなきゃ)
なつみはクローゼットの中に巨体を滑り込ませた。
「ブヒヒン」
ドキドキ
「なっちー、あれ?いないやんか」
(お願い裕ちゃん、探さないで)
「靴は?」
「あるなあ。風呂か?」
裕子は風呂場へ向かったようだ。
「ブヒ」(チャンス♪今のうちに、逃げよう)
ぎゅぎゅ
「ブヒ?」(あれ?抜けない)
「ブンブン」(よいしょ)
狭いクローゼットに強引に入ったためになつみの巨体は
なかなか抜け出すことができない。
「ブヒヒ」(早くしなきゃ)
「ブヒ!」
ゴロゴロゴロドッスン
なつみは勢い余ってクローゼットの中から転げ出た。
「なんやなんや」
物音に驚いた裕子が慌てて戻ってきた。
鉢合わせだっぺ。
「っ!」
驚きのあまり声も出ないようだ。
(裕ちゃん、なっちだよう。わかるよね、もう長い付き合いなんだから)
ブタなっちは裕子の目を見つめる。
「なっ」
「なんやこのブタ〜!」
「もしかしてお前がなっちを喰ってもうたんかあ?」
裕子は取り乱して、辺りにある物を手当たり次第に投げつけた。
「ぶへっ」(ぐえっ)
(裕ちゃん、ちがうよ、なっちだよ(T_T))
ガスッ
「ぶひい( ゚3゚)」(痛い)
(お願い、気付いて)
「この糞ブタが!」
「そうやそうや、警察呼ばなあかん、ワシも喰われてまう」
裕子は部屋の電話を取ると110番した。
「もしもし、警察さんですか?すぐ来て下さい。
大変なんです。なっちがブタに喰われてもうたんです」
「ぶひぶひ」(やめて、裕ちゃん)
なつみが裕子ににじり寄った。
「キャア、ワタシも喰われてしまいます。助けてぇ」
裕子は電話機をなつみに向かって投げつけた。
「ぶひー」(裕ちゃ〜ん)
「なっち、仇は取ったるでぇ。
この中澤裕子、ただでは死なんちゅうことや」
裕子は台所に駆け込むと包丁を取り出した。
「ぶひ?」(マジ?)
「おんどりゃあヽ(`Д´)ノ」
裕子は包丁を振りかざして切り付けてきた。
「シュッ」
それを間一髪でかわすブタ。
「ぶっひーん」
(裕ちゃん、本気だべ)
(このままじゃ、、、殺られる)
動物的本能で殺意を感じ取ったなつみは部屋の外へと走り出た。
ゴロゴロと階段を転げ落ちる。
「ファンファンファンファン」
マンションの玄関に着くと、パトカーが到着していた。
「ブヒ?」(警察?)
警官隊がブタを取り囲む。
「あれが通報のあったブタか?」
「人喰いブタらしいぞ」
後ろからは裕子が駆け下りてきた。
「お巡りさ〜ん!そのブタです。そのブタがなっちを・・・!」
それを聞いた警官隊は包囲の輪を狭めていった。
大きな網を持った警官がなつみに近づく。
「ドードー( ‘ー‘)、暴れるんじゃないぞ」
「ぶひひ?」(捕まる?)
(捕まったらどうなっちゃうべ?)
(豚肉?なっち喰われちゃうべか?)
ジュルリ
「ぶひ〜」(豚丼もいいっすねえ)
「ぶひん♪」(最高級の豚肉で♪)
「ぶう」(んなこと考えてる場合じゃないべ)
「ぶ!」
気付いたら警官さんが目の前にいるじゃあ〜りませんか。
(とにかく今は、、、逃げなきゃ)
「ブッヒー」
なつみはいきなり警官の一人に飛び掛かり、押し倒した。
「ぐわぁ」
「ぶひひ」(ごめんね)
そして全力疾走で逃げる逃げる。
タッタカター
「おのれ、許さんぞ、あのくそブタぁヽ(`Д´)ノ」
なつみにはっ倒された警官は興奮状態です。
「あのブタは危険なブタだ。必ず捕らえろ!
射殺しても構わん」
屈辱に燃える警察はなにがなんでもなつみを仕留めるつもりだ。
「ワタシからもお願いします」
「なっちの、なっちの仇を・・・」
裕子も涙ながらに訴えた。
なんとか逃げ出したなつみは町中を当てもなく走っていた。
「あっ、ブタだ」
「かわいい」
子供たちが駆け寄ってくる。
「これ食べるかな?」
一人の子供がソーセージを差し出す。
「ぶひひ」(ありがと( ● ´ ー ` ● ))
むしゃむしゃ
「かわいー」
ブヒブヒ
そのとき警官隊が駆けつけてきた。
「オイ!そのブタは人喰いブタだ!」
「エッ」
「キャー」
「こわいー」
子供たちは一目散に逃げ出した。
「ぶ、ぶひ」(ち、ちがう)
「コラー待てー」
警官の数が増えてる。
(今は逃げなきゃ)
「ぶひ?」
なつみの額から血が流れてきた。
さっきの子供たちが投げつけた石がおでこに命中したみたい。
なつみは目に涙をためながら、町を走りぬけた。
ウルウル
「ぶひい」(なっちは何も悪いことしてないのに…どうして?)
「ファンファンファン」
パトカーの音がひっきりなしに聞こえる。
(なっち、捕まって喰われちゃうべか?)
「ぶひん」
こっちにも警官隊だ。
「ぶひ」(もう、疲れたべ)
(肉になるのも悪くないかな?)
「ぶひ!?」
突然、草陰から出てきた手がなっちを引っ掴んだ。
「なっち」
「ぶひん!」(明日香!)
「ぶひぶひ〜」(明日香〜)
「久しぶりね」
「とりあえず今は逃げましょう」
なつみは明日香に連れられて
明日香の家にやってきた。
「ぶひ〜」(おじゃまします〜)
「ぶひぶひ」(ホント久しぶりだーねー)
「ぶひ?」(元気だったべか?)
「なっち」
「ぶひ?」「なんだべ?」
「今はそれどころじゃないでしょ」
「なっちは今、ブタなのよ」
「ぶひぶひ」(あーそうだったねえ)
「ぶひひん?」(あれあれ?)
「ぶひぶひぶひ」(なんで明日香はなっちの言葉がわかるんだべ)
「ぶひひ」(裕ちゃんなんて全然わかってくれなかったのに)
「ぶひひ?」(もしかして明日香も太り気味だからだべか?)
「ぶ〜ひ」(な〜んちゃって、うそうそ)
「そのとおりよ」
「私も昔ブタになったことがあるの」
「だからなっちの言葉がわかる」
「ぶひぶひ」(へ〜そうだったべか)
「ぶひぶひ〜」(ブタって辛いよね〜)
「ぶひひひ」(しかもなっちなんて人喰いブタと勘違いされてるんよ)
「ぶひひ」(明日香がいてくれてなっち助かったべ)
「なっち」
「ぶひ?」
「なっちは、人間に、戻りたい?」
「ぶひひ」(もちろんだべ)
「ぶひひひぶひ」(新曲のレコーディングもあるし〜)
(そうだ、明日香も娘。に戻ってきたらどうだべ)
「それはできないの」
「ぶひひ」(やっぱり高校でも勉強たいへんだべか)
「そうじゃなくて」
「なっちは人間に戻る方法って知ってる?」
「ぶひ」(知らないよ)
「ぶひぶひ」(知ってたらとっくの昔に戻ってるべ)
「そう、じゃあ、教えるわ」
「人間に戻る方法は2つあるの」
「ひとつは、痩せること」
「ぶひひ?」(どのくらい?)
「20キロ」
「ぶひ」(そりゃ、キッツイねー)
「ぶぶひ?」(で、もうひとつは?)
「もうひとつの方法は」
「娘。を脱退すること」