世界が暗黒の闇に包まれる頃。
世界は戦乱にゆれていた。
アップフロント王国は、
突如尊国の神聖ソニー帝国からの保護解除を言い渡され、孤立した。
元々大きな軍事力を持たないアップフロント王国は、
周囲からの集中攻撃を浴び、
また同盟国エイベックス帝国の裏切りもあって、
ソニーとの絶縁からわずか1ヶ月で滅亡した。
炎上する城から、
落ち延びる何人かの子供と一人の女騎士の姿があった。
アップフロント王国の聖騎士、裕子は、
崩れ行く城を見つめながら、
いつの日かアップフロント王国の再建を果たす事を誓った。
胸の中で、未だ9歳の王女、紗耶香が眠っていた。
―7年後―
真希は、久々に少し離れた街へと買出しに出かけていた。
今日は、大好きな紗耶香の16歳の誕生日である。
かなりの貧乏暮らしではあったが、久々に豪華な食事をしよう、
と裕子が提案したのだ。
まずはやっぱりお米とお醤油と、あと、ピスタチオも忘れずに買わないと。
そんな事を思い浮かべながら街へと向かう真希であった。
「!?」
真希は足を止めた。
帝国兵だ。2、3人の帝国兵が若い女を囲んでいる。
どうやら無理矢理に関係を迫っているらしい。
「あいつら・・・許せない!!」
真希は鞄から魔道書を取り出すと、
颯爽と駆け出した。
「アナタ達!!何をやっているんですか!!」
走り寄った真希は帝国兵へと怒鳴り付けた。
元来体力がないのに無理に走ったものだから、
少し息が荒れている。
「なんだぁ?」
「邪魔すんなや?」
兵士たちは真希を睨み付ける。
「・・・・・・。」
せっかくの助けがいかにも弱そうな少女でがっかりする女。
「アナタ達帝国兵ね。女のコに無理矢理・・・・・・許さない!!」
すごむ真希。まったく迫力は無い。
「あぁーん?」
「なんだボケコラ?」
「姦すぞこのボケ。」
兵氏の罵声が飛び交う。
大人しく引き下がるわけ無いか――真希は覚悟を決めた。
やはり14歳の少女に大人の帝国兵は荷が重かった。
真希は、簡単な魔法を既に習得していたが、
すぐに精神力が切れてしまったのだ。
攻撃手段を失った真希は帝国兵にたやすく捕らえられてしまった。
「よく見るとこの女もかわいいな。」
「ああ、こっちの方がイイかもな・」
「でも、俺はこっちのほうが・・・・・・」
兵士達は品評会を始めたようだ。
縛られたまま真希は横目で迫られていた女を見た。
気絶して倒れている。
年は17、8歳ぐらいだろうか。
見事な長い黒髪。
踊子のように均整の整った体。
大きな目、そして口。
いかにも「美人」と言った感じの女だった。
「私達・・・どうなるんだろう。」
真希は声にならない声でつぶやいた。
「じゃ、おれはこっちから頂くぜ」
帝国兵の一人が真希の服に手を掛けた。
もうだめ――そう思った時だった。
真希の体を縛るロープが、突然切れた。
「早く逃げて!!」
圭だった。
斧を構えた圭がいた。
帰りの遅い真希を心配して圭がやって来たのだ。
「早く逃げて!!」
やはり圭は強かった。
真希が逃げるまでもなく、帝国兵をのしてしまった。
最も、兵士達が圭のあまりにも恐ろしい顔に面食らっていたのでもあるのだが。
「大丈夫?」
圭が真希に駆け寄る。
「私は大丈夫・・・・・・。でもそっちが・・・・・・。」
真希が女を指差す。
相変わらず気絶したままだ。
圭は懐から傷薬を取り出すと、
女の口に無理矢理それを押し込んだ。
「う・・・・・・うん・・・・・・。」
女がうっすらと目を開けた。
しかし表情はうつろでどこを捉えているのかはわからない。
「かなりのショックを受けているわね。ゆっくり休ませてあげないと。」
圭は、自分より一回りは背の高い女を、ひょいと持ち上げた。
真希は、
(スゴイ怪力・・・・・・コレじゃ男はできないわね。)
という言葉が出てきそうになるのを必死に抑えた。
真希と圭が、女をアジトへ連れて帰ると、
ソコには心配そうな表情をした裕子がいた。
「遅かったやないか。それになんやそのエラくデカイ女は。」
圭が事情を説明する。
「・・・そういうコトか。しっかしエイベックスのヤツら、
最近ますますやりたい放題やな。いつかブチのめしたる。」
裕子が表情を歪めながら言葉を吐き出す。
「裕ちゃん、とりあえずこのコをベッドに・・・・・・」
「わかったわかった。奥のワタシの部屋に運びぃや。
とりあえず今日1日ぐらいはワタシはソファで我慢するから。」
裕子は奥の自分の部屋を指差しながら言った。
「・・・・・・。」
圭は少し考え込んだ。裕子は今年既に27になろうとしている。
女としての魅力に溢れる時期は、もうすぐ終ろうとしているのだ。
裕子には青春が無かった事を圭は知っている。
7年前、アップフロントがエイベックスの手に落ちたとき、
裕子と共に落ち延びた子供達の中で一番年上だった圭は、
その時既に12歳になっていた。
当時19だった裕子は、それから7年間ずっと自分たちを育ててきてくれたのだ。
確かに、圭が炊事洗濯を覚えてからは、そういうコトは圭に押し付けがちだし、
いざ飯を作れば大抵マズイ。
最近では、水商売も辞めてしまって、
自分たちの生活費は圭の「マクドナルド」でのバイトで成り立っている。
それでも、元々は聖騎士だった裕子が水商売をするコトで、
プライドが相当傷ついたであろうコトを思うと、
文句も言ってられないし、できる事なら苦労は自分が被ろうと思うのだ。
「いいよ裕ちゃん、ワタシの部屋に寝せるよ。
もし夜までに目を覚まさないようなら、
ワタシがソファに寝るから。」
圭が言った。すると中澤の意外な一言。
「そっか。んじゃ頼むわ。」
・・・・・・裕子は眉ひとつ動かさずに言い放った。
こう言う性格なのだ。圭は、
裕子の為に自分が犠牲になろうと少しでも思った事を後悔した。