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道化師カーニバル

バン、バババン、ババンッ!
額に六発の銃弾を撃ち込まれた小柄な少女は、その場に倒れた。
即座に銃を懐にしまう六人の女。
「ほな四ラウンド目、始めよか?」
「なんだかぁ、かおりん、ちょーたのしくなってきたぁ」
薄暗い部屋。どこかの倉庫か地下室らしい。女たちが円卓を囲んで
イスに座っている。明かりはテーブルの中央に置かれたランプのみ。
「アハハハッ、ほら、まりっぺ動かなくなっちゃったよ。おもしれ〜」
「紗耶香、笑うなって。怖いよ」
「アハッ、あら、そう?」
「そうだよ。なっちなんて、まだ胸ドキドキしてるべさ。あれ?
真希、なんか顔色悪いみたいだけど大丈夫?」
「う、うん。ただ、この手で人を殺したんだと思うとちょっと……」
部屋の隅には、鼻ピアスをした女とふっくらとした体型の少女が
棒のようになって横たわっていた。
「おいおい後藤、三人も殺しといて、今更、何言ってんだよ。あ、
そういえば圭ちゃん、さっきから一言も喋ってないけど、どうかした?」
「……別に。それより早く始めようよ」
と言うとその女は、カードを切り始めた。

都内某レコーディングスタジオ

「まあ、モーニング娘も結構、長いことやってきた訳ですけども、
そろそろ潮時ちゃうかなと。最近は、やっぱりLOVEマシーンとか
恋ダンの頃と比べるとね、CDセールスなんかも落ちてきてますしね。
やっぱりね、そういう時期に来たんとちゃうかな?っていうね、気が、
最近僕の中であるんですよ。一応、僕としてはね、モー娘に対しての
プロデュースっちゅうか、何て言うんでしょうね、それはね、
やるべきことはやったかな……と。で、僕自身ね、今までのような
プロデュース業だけではなくて、シャ乱Qとしての活動、ソロとしての
活動なんかにも、そろそろ気合い入れて、本格的にまたもう一度
やりたいなということも思てる訳なんですよ。それで、やっぱり今後の
彼女たちが、歌手としてやっていくとしたらね、そのね、何というか、
巣立ちの時というか、僕の手を離れてね、そんな時期に来たんやないかなと」
「と、言いますと……」尋ねるASAYANスタッフ。

「その、ま、これは悪い意味じゃなく、イイ意味でね、その前向きな形で
ということなんやけれども、……解散。まあ、何で今なんやと言われればね、
ちょっと困るんですけども。やっぱりこれまでのモー娘の流れを見ててね、
『あ、今やな』と思ったんですよ。ちょうどこのタイミングであれば、
彼女たちをね、とてもイイ形で、送り出してあげられるんじゃないかなと。
で、その後のことなんですけども、娘の中から一人、ソロでデビュー
させたいなと思てるんですよ。いや、全員がソロとして頑張っていくのも
イイんですけど、それだけやったら、おもんないっしょ。それに芸能界で
生き残るってメッチャ難しいことなんですよ。もう、それやったら
先に決着をつけさせといたほうがええかなと。」

『そ〜なんです!!モーニング娘。解散してしまうんです!!
そしてこの後、プロデューサーつんくの口から
史上最悪の大大大問題!!超衝撃的展開が飛び出してしまうんです!!』

CM

「それに芸能界で生き残るってメッチャ難しいことなんですよ。もう、
それやったら先に決着をつけさせといたほうがええかなと。ええ。
でもね、普通にやったらおもんないじゃないですか。やっぱり最後やし、
どうせやったら、ちょっとしたお祭り騒ぎをやってみたいなと。で、
それには、モー娘初期メンバーの、その五人でやってた頃のね、結成、
モー娘結成メンバーね。まあ今は辞めてますけども石黒と福田。
その二人も一緒に、やらせてみようかなと。なんとなく、そのほうが
面白くなるんとちゃうかな」
「一体、何を……」と言うスタッフにつんくはポケットからトランプを
取り出した。
「ええ、これ、なんですけども。さっきね、前嶋さんや小西さんとかと
空き時間にババ抜きやってたんですよ。で、やってたら急にひらめいて、
『あ、コレはいける!』と(笑)要するに何回かババ抜きやって、
最後まで勝ち残った奴がソロデビュー。でもね、それだけやったら
なんか物足りないんですよね。じゃあそれやったら、毎回、負けた奴を
この拳銃で殺っていったら、メチャメチャおもろいなぁと(笑)」
いつのまにか、つんくの手には拳銃が握られていた。

『そ〜なんです!!ソロデビューと命を賭けたゲームが始まって
しまうんです。大衝撃超緊急計画大大大決定なんです!!』

スタジオ
「なんか大変なことになってるみたいっすけども。もうこの男はアホやな」
「ホンマにつんくは何を考えてんねやろな。つんくは何を考えてんねん」
「いや、二回も言わんでええっすよ(笑)。でもホンマに分からんわ〜。
拳銃出すのもメッチャ自然やったからね。スーッと出しよるから(笑)」
「確かに手慣れてましたもんね」
「しかもブクブク太ってきてるしやな。イヤな太り方や」
「ホンマやで。あの腹ん中、全部カネやからね。俺はもう、ズルイ女とか
歌ってた頃の方が好きやったけどな。今は自分がズルイ男になってるからね」
「いや、そんなに上手い例えや無いから」
「でも、なんや、モーニング娘もかわいそうやな。色々させられてな。
もう、つんくの遊び道具やからな。オモチャや。オモチャのチャチャチャや」
「いやその例えは分からないっすけど」
「それにしても、ババ抜きっていうのはどうなんですかね。なんだか
つんくさんはノッてるみたいですけど……」
「またベタなゲームですね。ルールも単純やし。でも、つんく的には
オッケーなんとちゃいます?」
「うん。もう、ええんちゃう?好きにやったら」
「そんなに好い加減でいいんですか?」
「ええねん、ええねん。儲け出してからおかしゅうなったわ、あの男」
「それに俺らASAYANのオンエアも見てへんからな」
「うん。正直、モーニング娘に全然興味ないからね」
「え、そうなんですか。でも今後の展開は気になりますね」
「う〜ん、ま、どうなるんでしょうか。えー、次のコーナーは……」

「やったぁー、またかおりんがいっちば〜ん」
他のメンバーの手札がまだ四〜五枚残っている中、最初に抜け出したのは
飯田だった。四戦連続である。
「え〜、また圭織〜?なっち、つまんねえべさ」
「いいじゃ〜ん。だってかおりん、何も考えなくても勝っちゃうんだもん」
「この子は運だけで生き残ってるようなもんやからな。でも結局は
ババ抜きなんて運が決め手なんやけど」
「……続きを」保田が言う。
「え?そ、そうやな、続けよか」
ゲーム再開。
「(圭ちゃん、どうしたんだろう。全く自分のカードを見ようとしない。
みんなの顔をずっと見てるだけ。それに、ちょっと怖い……)」
いつもと違う様子の保田を気にする後藤。

保田の目は殺気立っていた。無駄なことは一切口にしない。
ただ一人一人の目を睨み据えているだけ。
「(今は紗耶香。右から二番目のカード。紗耶香から後藤へ。左端のカード)」
保田は人一倍、悪運が強い女だった。決して運に頼ることなど出来ない。
その為、ジョーカーを誰が持っていて、どの位置にあるのかを
全員の表情や仕種から読み取ることで完璧に把握していた。
「(積年の恨み……とうとう晴らす時が来たか)」
これまでの人生、誰にも注目されることのなかった保田。
モーニング娘に加入後も結局は周りの引き立て役だった保田。
飼っていたカメに『なつみ』と名付けて殺した保田。
飼っていたハムスターに『まき』と名付けて殺した保田。
「(この勝負、私は負けるわけにはいかない!!)」
復讐に燃える保田の顔は、心なしか美しく輝いて見えた。

後藤は震えていた。背後には三体の屍が転がっている。
「(なぜみんな平気で人を殺せるの?しかも同じ仲間なのに。
一緒に頑張ろうねって誓った仲間なのに……。
モーニング娘って、そんなに簡単に壊れちゃうものだったの?)」

後藤の思いとは裏腹に、今のモーニング娘のメンバーは
友情や信頼、結束などという言葉とは程遠い関係にあった。
表向きは笑顔で話していても、瞳の奥には憎しみしかなかった。
やがてファンも、そんな雰囲気を敏感に感じ取りメンバー内の関係に
気付き始めてからは、モーニング娘から離れていった。
結成当時とは何もかも変わってしまった。

それでも、後藤は仲間を信じていた。
「(この勝負に負けたら殺される。でも勝てばみんなを殺さなきゃ
いけない……。私はどうしたら……)」
迷い苦悩する後藤。いつのまにか手からはカードが無くなっていた。

後藤、四戦目クリア。

中澤は疲れていた。モーニング娘としての毎日にも。この人生にも。
「(私、こんなとこで何やってんねやろ。歌手になって
何がしたかったんかなあ?)」

デビュー前、昼はOL夜は水商売という生活を送っていた中澤。
退屈で空虚、刺激の無い毎日。
「(こんな生活はもうイヤ。自分を変えたい。何かを掴みたい。
どこかに私の心を満たしてくれるものがきっとあるはず)」
中澤は仕事を辞め、歌手になる道を選んだ。芸能界という華やかな世界
になら自分の探し求めていたものがあるはずだ、充実した毎日が
待っていると信じた。
しかし、夢見ていた世界はそこには無かった。理想と現実。
年の離れたメンバーとは話が合わずギクシャクした関係になり、
新曲を出す度に繰り広げられる熾烈なメインパート争いに嫌気がさし、
歌番組で司会者にいじられる度にすっかり年増キャラが定着してしまい、
強引に演歌歌手としてデビューさせられ高山厳とデュエットする羽目になり、
中澤はもう、どうでもよくなっていた。

手元のカードは残り一枚。市井からカードを引く中澤。
「ほな、そろそろ弾込めでもしとこうかな。後の三人、頑張りや」

四戦目、中澤クリア。

市井は薄笑いを浮かべていた。
「(これでやっとクズ共ともおさらばできるな。ま、踏み台としては
まあまあの出来だな)」
市井の心は野心で溢れていた。元々、歌手になど興味は無かった。
モーニング娘など一つの通過点に過ぎない。

「(ったく、つんくもチョロイよな。一晩中、腰振っただけで
私メインの新ユニット組ませてくれるんだからな。今の内に利用するだけ
利用してやれ)」
これまでの人生を計画通りに進めてきた市井。モーニング娘に加入、
最初は控えめで地味なポジション、LOVEマシーンから徐々に
キャラ転向、新メンバー後藤の話題性・人気に便乗し教育係として
注目されポジション確立、プッチモニでセンター、ブレイク。
全て思い通りに事が運んだ。何もかもが計算ずくだった。
そしてこのゲームも……。

「(あぁ、かったりぃ〜。こいつらホントに馬鹿だな。
なに真剣になってんだろ。どうせ勝つのは私なんだから。
大体、こんなゲームに私が負ける訳が無いっつーの。
それにつんくの奴もこんな面倒なことさせずに
単純に撃ち合いさせりゃいいんだよ。ったく、馬鹿ばっかりだな)」
飽く迄も強気な市井。安倍のカードを引く。
「さ、ターゲットはどっちかな?とっとと決めてくれよ」
市井は拳銃を取り出した。

四戦目、市井クリア。残り、安倍と保田。

「ね、ねえ、圭ちゃんの番だべ。早く引いてよ」
安倍はランプの炎を見つめながら言った。手には二枚のカード。
「……」
安倍の目を見つめたまま視線を逸らさない保田。手札は残り一枚。
「(右か……左か……クソッ、感付かれてるな)」
保田はジョーカーがどちらのカードなのか、まだ見抜けていなかった。
「ほらほら、どうしたんだべか?ここにきて急に怖くなったとか?」
安倍は、保田の意図に気付いていた。決して自分のカードに視線を
合わせない。瞳に映り込んだ炎は激しく燃え盛っている。
「(ヤバイな……一体どっちなんだ。このままじゃ負けてしまう)」
カードから視線を外されてしまうと、さすがにどうすることも出来ない。
「(フッ、こうすれば私のカードは読めないべさ。この勝負、なっちは
絶対に負けない。お前なんかに『モーニング娘の顔』は譲れないべさ。
あんたは私の引き立て役がお似合いなんだよ。私が『モーニング娘の顔』
なら、お前なんか『モーニング娘のアナル』だな、キャハハハハッ)」
その時だった。

「なっち、カード見えてるよ」
「え?」

「(引っかかったな……)」
保田は微かに口許を緩めた。
「え?何言ってんの?そこからは見える訳ないじゃん。」
「うん、見えてないよ。」
「じゃあ、何で……あ!!」

動揺した安倍が一瞬、右のカードを見たのを保田は見逃していなかった。
そして保田は、安倍の手札の左のカードを引き抜いた。

哀しげな顔をしたピエロ。女の手には一枚のカードが残った。
その瞬間、イスから立ち上がり銃を構える五人の女。
「……ヤダ、ヤダよ。私、死にたくない。ね、ねえ仲間っしょ、みんな
本気なの?お願いだから助けて、なっち、みんなのこと信じてるよ」
「……」何も言わずに撃鉄を起こす五人。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ。ねえ、お願い。助けてよみんな。
……ヤダよ……死にたくないよぉ……助けて……」
恐怖の余り泣き出す安倍。瞳には、涙を流すピエロと五つの黒い点が
映り込んでいる。すると保田が口を開いた。
「ねえ、なっち?」
「何?」
「……ウソ泣きはもういいよ」
「へ!?」
『バンッ!!』
その瞬間、保田は安倍の乾いた眼球めがけて引き金を引いていた。
『ババンッ、バン、バンッッ!!』
続けざまに四発の銃声が響く。
「ほな続きやろか?」
銃を仕舞い席に着く女たち。しかし保田だけはその場に立ったままだ。
「おい、圭ちゃんどうしたんだよ」
「……」
黙っている保田。その顔が微かに微笑んだかのように見えた次の瞬間、
『バンッ、バンッ、バンッッ!!』
保田は安倍の弛んだ腹に三発の弾丸をブチ込んだ。
「……さ、続けようよ」そう言って席に着く保田の顔は
喜びに満ち溢れていた。
「……」
皆、保田の突然の行動に驚いている。しかしそんな中で後藤だけが
ほんの少し笑みを浮かべていたのに気付いた者は誰も居なかった。
そして安倍の手に残ったピエロも、どことなく笑っているように見えた。

無言でカードを切っている保田。
「ほらコイツら見てみろよ。ついさっきまではピンピンしてたのにさ。
たった一発だぜ、一発。こんなちっこい弾が体に入っただけなのにな」
「……人って簡単に死んじゃうんですね」
「そやな。一瞬にして『人』が『物』に変わってまうねんもんな」
カードを配り始める保田。
「さ、五戦目の始まりやな」
「あと残り五人か。死神が回って来る確立も高くなってきたって訳だ」
「そうですね。……あれ?」
「ん?どうしたん?ごっちん」
「あ、あのぉ……圭織さんが」
「え?」
中澤と市井は飯田の方に目をやった。そこには、つい先程までとは
明らかに様子の違う飯田の姿があった。
「ちょっと、圭織。大丈夫かよ?」
「どないしたん?めっちゃ顔色悪いし体も震えてるし、ちょっと前
まではあんなに元気やったのに。ホンマに大丈夫?」
「……」
飯田の目は虚ろで、顔からは精気を失っている。
「おい圭織。なあ、どうしたんだよ」

「……あ、あのさぁ……ちょっと休憩していい?」
声には力が無い。飯田は一言だけ囁くと
小刻みに震えている自分の両手をただ黙って見つめているだけだった。

「そ、そやな。正直、私も疲れてきたし。ここらで休憩にしよか。みんな
ええかな?」
「おう、別にいいけど」
「ハイ。私も構いませんよ」
「……いや、私は別に休憩する必要は無いと思うけど」
「でも圭ちゃん、圭織が疲れてるみたいだからさ。別にいいじゃん」
「……まあ、それなら仕方ないな」
「ほな休憩といきますか」
「それじゃ私、トイレ行って来ますね」
「待ってくれよ。後藤が行くなら私も行くよ」
部屋を出る後藤と市井。
「……」
途中まで配りかけたカードを集めている保田。
「なあ圭織、どないしたん?大丈夫?」
飯田を気遣い声をかける中澤。
「……うん、大丈夫」
「それならええんやけど」
「……裕ちゃん、そっとしといてあげれば」
カードを切りながら保田が言う。
「そうやね。じゃあしばらく休んどき」
「……あ、あのー、裕ちゃん?」
「ん、何?」
「……あのね、かおりん……」

飯田はゆっくりと語り出した。

「……かおりんね、今まで、なっちのことチョット嫌いだったんだぁ。
昔は仲良かったんだけどさぁ、いっつも一緒にいると、なんだか
ウザッたいってゆーか、ぎこちない関係になってきちゃって……。
でもね、いつぐらいからだっけな、なっちが話し掛けてくれるように
なってきてさぁ。今思えば、きっと、なっちは仲直りするきっかけを
くれてたんだと思う。でも、かおりんはそれに気付かなくて、
そのままそのチャンス逃しちゃった……。そう、あの時、私が
もうちょっと素直でいれてたら……」
飯田の瞳は涙で濡れている。
「かおりんホントは仲直りしたかった……。なっちと、もっといっぱい
喋りたかった……もっと一緒に遊びたかった……。なのに私、私……」
「……圭織」
中澤の目にも涙が浮かんでいた。
「……かおりん、この手でなっちを……いつも一緒だったまりっぺも、
あやっぺだって明日香だって久しぶりに会ったばっかなのに……。
私、一体何やってるんだろう。この手、私のこの手でみんな……。
……かおりん、みんなに謝りたい、なっちと仲直りしたい。
でも、もういないんだ……みんな、お星さまになっちゃった……」
そう言うと、飯田の目からは涙が溢れ出した。
「……」
保田は手の中のカードを見つめている。
「……わ、私トイレ行ってくるわ」
掛ける言葉が見つからなかった。涙を拭いながら席を立つ中澤。
その時だった。
「……あ、あのー、かおりんね、なっちと仲直りしてくる」
「え?」
中澤が振り返ったその時、飯田の右手には銃が握り緊められていた。
「ちょ、ちょっと何を……待って!!」

「……かおりん、お星さまになるんだ……」

『バァァンッッ!!』

中澤が止めようとした時には、すでに飯田は自分のこめかみに向けて
引き金を引いていた。
「……そ、そんな」
中澤は茫然としている。
「おい、何かあったのか!?」
その時、銃声を聞いた市井と後藤が部屋に戻ってきた。
「か、圭織さん!!」
床に転がっている飯田の死体を見つけ驚く後藤。
「お、おい、一体、何があったっつーんだよ!!」
「……」
中澤は答えようとしない。
「……自殺したよ」
保田がポツリと答える。
「な、何で……」

「……」

皆、沈黙している。誰も口を開こうとしない。静まり返る部屋。
すると、中澤の叫び声が部屋に響き渡った。
「……もうええ。もうええねん。もうこうなったらどうでもええ!
続きや、ゲームの続きやっ!!」
中澤が席に着くと、市井と後藤もただ黙って席に着いた。
「もう残り四人かよ……」
市井がつぶやく。
「……じゃあ始めようか」
保田はカードを配り始めた。

「では、そういうことで」
「うい〜っす」
「くれぐれもルールは守れよ。ルール無視して勝手に殺し合ったり
自殺したりすんのはナシやで。多少のルールは守っってくれんと、
好き勝手にやられても見てるほうはおもんないからな」
「オッケー、分かりやした」
「ほな行ってらっしゃい」
「行ってきまーす……って、確か地下一階廊下の突き当たりの部屋で
合ってましたっけ?」
「おお。ほら、いつも鍵閉まってた部屋があったやろ。あの部屋や」
「ああアレね。あの部屋っていつもこんなことに使ってたんですか?」
「いや。いつもは倉庫みたいなもんやけど」
「へーそうなんだ。じゃあ行ってきます」
部屋を出ていく市井。
「じゃあ次、中澤。入ってきて」

「(そう。あの時、私がもっと本気で止めるべきやった。こんなん絶対
間違ってるはずやのに、何で言い返すのをやめてもうたんかなあ)」

「ちょっと待って下さい。つんくさん、本気で言ってはるんですか?」
「ああ。冗談でこんなこと言う訳ないやろ」
「でもこんなのどう考えてもおかしいじゃないですか!何でメンバー内で
殺し合いなんかしないとダメなんですか?私にはそんなこと出来ません!!」
「うるさいなあ。ええからやったらええがな」
「出来ませんよ!!つんくさん、ハッキリ言って頭おかしいですよ!!」
「ええからやれって言うてるやろっ!!そんならココで頭ブチ抜いたろか!!」
中澤に銃を突き付けるつんく。
「……」
「今ここで死ぬよりマシやろ」
「……」
「他のメンバーはあっさりと納得してたで。もうモーニング娘に
メンバー愛なんて存在してへんねん。ええ加減、気付いたらどや」
「……」
「……ええな?」
「……分かりました。もういいです」
中澤はそう言い捨てると、テーブルに置かれている銃を手に取り部屋を出た。

「裕ちゃん。ねえ、裕ちゃんったら」
「……ん?え、何?どうしたのごっちん?」
「ほら裕ちゃんの番だよ」
「あ、ゴメン」
後藤の手札からカードを引く中澤。
「裕ちゃん、何ボーっとしてたの?」
「もう年だからな。ボケてきてんじゃないの?」
「って、うちはいくつやねん。ちょっと考え事しとっただけやから」
「……あのー、引いてもいいかな?」
「あ、ゴメン圭坊。忘れとったわ」
中澤の手札からカードを引く保田。
「ところでさっきの話の続きですけど、自殺したのは
ちょっと意外でしたよね」
「そうかあ?市井的にはさ、最初に軽く驚いただけで
内心ガッツポーズだったけどね、ラッキーって感じで」
保田の手札からカードを引く市井。
「え?そうなんですか?」
「だってそうだろ。勝手に自滅してくれたんだもん。
ライバルが減って都合がいいじゃん」
「は、はあ」
「まあ紗耶香はこの企画ノリノリやったからな」
市井の手札からカードを引く後藤。
「そりゃあ殺られる方には悪いけどさ、結局は生き残れんのって
たった一人な訳じゃん。それなら殺るしかないっしょ」
「確かにそうやけど……紗耶香は殺すことにためらいはあらへんの?」
「うん全然、っていうかもう頭が麻痺してっからさ。裕ちゃんだって
そうでしょ。こうやって平然とトークしてるし」
「そうかもしれへんな。なんかもう吹っ切れてもうたわ」

市井と中澤があっけらかんと話をしているその時、保田はあることに気付いていた。

保田はその女に向けて、いきなりこう言った。
「……そんなことしてバレないとでも思ってるの?」
「どうしたの圭ちゃん、急に」
「後藤は黙ってな。ったく、やるならもっと上手くやんなきゃ」
「は?な、何言ってるわけ?私が何したって言うんだよ」
保田の言葉に激しく動揺する女。
「へぇ〜しらばっくれる気?じゃあ、ポケットの中身を出せる?」
「……別にいいけどさ。何で見せなきゃなんないの?」
「いいからテーブルの上に出してよ。別にいいんでしょ」
「……」
「早く出しなよ。それとも何か見せれない物でも入ってるのかな?」
「……」
「出せよ」
そう言うと保田はイスから立ち上がり、その女に拳銃を突き付けた。
「ちょ、ちょっと待ちーな。一体、何やの?紗耶香が何してん?」
「いいから裕ちゃんも黙ってて。ねえ、早くしなって。それとも、
これ以上待たせると頭に穴が開くことになるけどいいかな?」
「……」
保田の銃の撃鉄がガチャリと鈍い音を立てる。
「……わ、分かったよ」
市井はポケットに手を入れる。が、中身を探るフリをして、
拳銃を握り締め、引き金に指を掛けた。
保田の銃口は市井の額に向けられている。
そして張り詰めた空気を裂いて市井が言う。
「そんなにポケットの中身が見てぇんだったら見せてやるよっっ!!」

『バァァンッッ!!』

……一発の銃声。

「ク、ウワァッッ!!」
左胸に激痛が走る。その場に倒れる女。

「紗耶香……何で……もう何でやの……」
目の前で起こったことが理解できず、ただ驚いている女。

「なぜ……私じゃない」
引き金を引こうとした女。

「ハ、ハァ……圭ちゃん……だ、大丈夫?」
そして……引き金を引いた女。

市井がポケットの中身を出すフリをして拳銃を抜き出そうとした瞬間、
保田はそれに気付いて引き金を引こうとした。が、その時にはもう
市井の左胸は朱色に染まっていた。
「なぜ?」
そう思った保田がふと右のほうに目をやると、ひどく強張った表情の後藤。
後藤の右手には拳銃が握られていた。

「ハ、ハァ……圭ちゃん……だ、大丈夫?」
「あ、ああ。助かったよ」
「……良かった」
「でも、何でアンタが……」
「え?い、いや、さっきから市井さんの様子が変で、イヤな予感がしてて。
で、私も気付いたの。でも告発しようとしたら先に圭ちゃんが……」
「そうか……後藤も気付いてたとはな」
「ちょっと待って、何?私、全然分からへんねんけど」
「……後藤、紗耶香のポケットの中の物を出して」
「うん」
後藤は床に転がっている市井のポケットの中に手を入れ、中身を取り出した。
「これ……」
市井のポケットの中には数枚のトランプが入っていた。
「……コイツ、今までイカサマやってたんだよ」
「そんな……気付かへんかった」
「ま、コイツらしいだろ。あれ?後藤、ビッショリ汗かいてるけど大丈夫か?」
「うん、だ、大丈夫」
「ちょっと休んだら?」
「いや、ホントに大丈夫だから」
「じゃあとりあえず仕切り直すとしますか。さ、ゲーム再開」

残り3人。

「そろそろ佳境に入ってきたみたいね」カードを切りながら保田が言う。
「……そ、そうだね」
「どうした?後藤。さっきからおかしいよ。何か気になることでも
あるの?」
「い、いや、何でも無いよ」
「そう、それならいいんだけどさ」
「……あの二人ともちょっとええかな」
「何?裕ちゃん」
「……私、このゲームから降りてもええ?」
「は?何言ってんの?冗談でしょ」
「ううん、本気」
「ちょっと待ちなよ。勝手なことしたらルール違反で殺されちゃうんだよ。
みんな逃げ出したくても、自分の命賭けてここまでやってきたんじゃない。
それが許されるんだったら、みんなとっくに辞めてるよ」
「いや、それは十分判ってる、判ってるつもりやけど、でも、
もう私にはこの空気は耐えられへん。せやから、私、今から
つんくさんに掛け合ってくるから。それで、もしかしたら
OKになるかも知れへんやろ」
「でもそれって卑怯だよ、自分だけ逃げ出すなんて。それにせっかく
残り三人ってとこまできたんだよ。もしかしたら勝ち残れるかも
知れないじゃん。わざわざ勿体無いことしなくたって」
「ちゃうの。ゲームの勝負なんてもうどうでもええねん。それに
自分の命が惜しくなった訳でもないし」
「じゃあ、何で?」
「うーん……ただ止めたくなったから、かな。それ以上の理由は
別にあらへんよ。それに、まだ止めてええか決まった訳やないし。
せやからちょっと行ってくるから、待っといてくれへん?」
「……判ったよ、どうせ無理だとは思うけどさ。早くしてね」
「うん。ほな行ってくるわ。すぐ戻ってくるから」
部屋を出ていく中澤。

「別に殺すことは無かったんじゃないッスか?」
「いや、これでええねん。大体、途中下車はあかんでってあんだけ
説明したんやからやなあ。多分、こいつも判ってたんとちゃうかな、
こうなることも」
つんくは足元に転がった中澤をつま先で軽く蹴りながら言った。
「ま、このゲームに勝ったとしても、やる気のない奴は芸能界では
自然と淘汰されていくんやから、どっちにしろ後で辛い思いするより
ここでハッキリしたんやから、それでええやん」
「そうッスよね。あんな年増がソロデビューしたって売れる見込み
ないッスよ。元々グループ内の人気も低いし、歌もトークも
大したことないし」
「そうやな。お前みたいな低脳でも意外と判ってるやないか」
「いやぁ、そうッスかね?俺もこの業界は結構長いんで。
伊達にマネージャーやってる訳じゃないッスよ」
「でもな和田、お前みたいなカスがまだこの業界に残ってられんのは
誰のお蔭かは判ってるやろな」
「へいっ、そりゃもうつんくさんのお蔭ッスよ。感謝してやすよ」
「その通り俺のお蔭や。ほな、いつものアレやってくれや。俺の言うこと
やったら何でも聞けるやろうから、な」
ベルトを外しゆっくりとズボンを下ろすつんく。
「またアレっすか……」
「ほら、何してんねん。早よしろや」
「……判りやしたよ」
つんくのモノにしゃぶりつく和田。
「……いやぁ、お、お前も腕上げたな。あ、腕っちゅーか舌やな」
「……」
「ん?どないしたんや?」
「……てめぇ、シャ乱Q育てたの誰だか覚えてるか?」
そう言うと和田は歯を立てながら上顎と下顎を力一杯噛み合わせた。
「ウギャーーーッッ!!」

「裕ちゃん、遅いね」
「もう始めよう」
「でも、待ってなくていいの?」
「無駄だよ。帰ってこないよ」
「え?」
「多分、殺されてる」
「そんな……」
「あの人、それを判ってて行ったんだよ」
「自分から殺されに……」
「……ほら後藤、もう始めるよ。これが最後のゲームになる、
生き残れるのはあんたか私か。準備はいい?」
「う、うん、始めて」
カードを切り始める保田。
「……圭ちゃん、初めて会った時のこと覚えてる?」
「どうしたの?急に」
「いやさぁ、あの頃はこんなことになるなんて思っても
みなかったなぁ、なんてさ」
「殺し合いすることになるなんて?」
「いや、そうじゃなくて、段々みんなの心が離れていったってこと。
だからさぁ時々、昔に戻れたらいいのになあって思うんだ。
市井さんと圭ちゃんとプッチモニで楽しくやってた頃にさ」
「ふーん、そう。でも、もう無理だよ。私たち以外
死んでるんだから」
保田はカードを配り始める。

「……圭ちゃんは、もしこのゲームに勝ったらどうするつもりなの?」
「さあね。ソロデビュー出来たとしても私みたいのじゃどうせ売れない
だろうし。この世界は、いくら実力があったって、いくら
努力したって、結局は顔が良くなきゃ売れない世界だから」
「それじゃあ、なぜ……」
「勝ちたいの、ただ勝ちたいだけ。ずっと皆の引きたて役だった私にとって、
これが最後のチャンスだからね。だから別に今後のことは考えてないのよ。
私にとっては今が大事なの。ほら、配り終わったから始めるよ」
「……うん」
手札からペアになったカードを抜き取る二人。
「あのさ、さっきから思ってたんだけど、あんた結構余裕アリ?」
「うん、なんか、ここまでくると逆にね。なんか負ける気がしないって感じ」
「ほ〜、よく言うよ(笑)」
「ハハハ(笑)」
「それじゃゲーム開始。先攻はあんたからでいいわ」
保田の眼光が鋭さを増す。

「……私の番ですね」
後藤の手札は残り一枚。スペードのエース。
「これで決まるかもね」
保田の手札は残り二枚。クラブのエース、そしてジョーカー。

「(どっちを引けば……)」
保田のカードに手を伸ばしたまま、躊躇してしまう後藤。
「早く引きなよ」
「……」
後藤は保田の左のカードを引いた。そしてそのカードは……。
「ほら、喜びなさいよ。ピエロはあんたに微笑んでるわ」
後藤の手の中でピエロが踊っていた。
「でもまだ決まった訳じゃないよ。希望の光はまだある」
「どうかしらね。さ、私の番ね」
「ちょっと待って」
手札をシャッフルする後藤。
「……もう引いてもいい?」
「……うん。」
そう言うと後藤は目を閉じた。闇と静寂に包まれる。
するとカードがスッと抜き取られるのを手で感じた。
残った一枚のカードの感触に神経が集中する。
掌に掻いた汗で少しふやけているカード。
「ほら後藤、目、開けなよ」
そして後藤は恐る恐るゆっくりと目を開けた。

保田は二枚揃ったエースのカードをテーブルにそっと置いた。
「やっと終わったわね」
「……」
後藤の手元にはジョーカーが残っていた。
「もっとあんたも頭使いなよ。カードが二枚しかない時はね、
人間は抜き取られたくない方を自分に近い場所に持ってくるのよ。
配られたカードを広げて見る時、右利きの人間は手前のカードを
右側に向けて広げる。だからジョーカーは左のカード。
あんたは単純なタイプだからね、こういう法則が素直に当てはまるわ」
「……」
「せっかくここまで残れたのに残念ね」
「……」
「……じゃあ早速、やるとするかな。何か言い残すことは?」
「……」
「……無いみたいね」
そして保田はイスから立ち上がると、懐から拳銃を取り出し
銃口を後藤に向けた。
「……後藤、今までありがとう、さような――」
その時だった。後藤の後方で何かが動いた。

『バァァーンッッ!!』

その弾丸は保田の右肩を貫通した。

「グワッッ!!」
体勢を崩し後ろに倒れる保田。手に持っていた拳銃が弾け飛ぶ。
保田は後藤の方に目をやると、後藤の後ろに一人の女が立っていた。
「チッ……焦って撃ったから外しちまった」
その女は保田に銃を向けたまま、少し笑って言った。
「あんた……クソッ、そういうことか」
「いやぁ、すんなりと上手くいったよ、途中ちょっとトラブルも
あったけど、結果的にはね。今の一発を外さなきゃ完璧だったんだけどさ」
「……あのぉ、本当に助けてくれたんですね」
「当たり前だろ後藤。でも、さっきはよくやったよ。
こいつに気付かれた時はどうなるかと思ったけど。
後藤も意外と機転がきくんだな」
「ええ、まあ」
「じゃ、最後の仕上げといきますか」
「待って下さい」
「何だ?」
「私にやらせて下さい」
「う〜ん、まあいいだろう」
懐から拳銃を取り出そうとする後藤。
「おい待てよ。お前の銃じゃ殺せないだろうが」
「あ、そっか」
「ったく、ほら」
後藤は女から拳銃を受け取ると保田の頭部に狙いを定めた。

-----トイレでの出来事

「いいな。今言った通りにやれよ」
「……あの」
「何だよ」
「言う通りにすれば本当に助けてくれるんですよね?」
「ああ、もちろんさ。一緒に逃げよう」
「でも、なぜ私を助ける気に?」
「……そりゃあ最初は私だけ勝ち残りたいと思ってたさ。でもほら、
後藤は私の妹みたいなもんだから。私にとっていとおしい存在なんだよ。
それなのに殺せると思う?そんなこと出来る訳無いだろ?
なあ、私達だけでも助かろうよ。な?」
「……紗耶香さん」
「OK?」
「判りました、やります」
「よーし交渉成立、それなら弾を銃から抜いて私に」
「……っと、これでいいですか?」
「ああ。じゃ、これプラスティック弾な。狙う場所を間違えるなよ」
「はい。判りました」
「(フッ、馬鹿なヤツだな……)」
市井からプラスティック弾を受け取る後藤。その時……。

『バァァンッッ!!』

「銃声!?」
「おい、何かあったみたいだな。行こう後藤」

-----

後藤は市井から拳銃を受け取ると保田の頭部に狙いを定めた。
「後藤、本当にいいの?騙されない方がいいんじゃない?」
「……?」
「紗耶香はあんたのこと助けようなんて思ってないよ」
「……」
「あんたを殺すつもりでいる」
「……」
「おい、何言ってんだよ。後藤、こいつの言うことは気にするな。
いいから早く撃て!」
「……」
後藤は市井の方に振り返り、銃を向けた。
「ちょ、ちょっと、何やってんだよ。馬鹿な真似はよせ。
私を信じてよ、私は本当に後藤のことを思ってさあ。い、一緒に助かろうよ。
ほら、楽しかったあの頃に戻ろう。今からでも間に合うさ。
だ、だから馬鹿な真似はよせって。な、後藤」
「……」
後藤は再び保田の方に体を向け直し、銃を構えた。
「そ、そうだ。いい子だぞ後藤。早くやるんだ!!」
「……後藤、あんたの好きにしな」

そして後藤は……。

『バァァンンッッ!!』
後藤の撃ち放った弾丸は保田の頭を貫通し壁にめり込んだ。
「よくやった後藤。これでゲームは終わりだ」
「……」
「さあ行くぞ、逃げよう」
「……」
「ほら、ボーッと突っ立ってないで早く!」

「……まだ終わってねえよ」
そう言いながら後藤は市井の方に振り返り、

『バァァンンッッ!!』

飛び散る鮮血。血生臭い臭気が空間を満たす。
八体の死体で埋め尽くされた部屋を一通り眺める後藤。

「……フッ、馬鹿なフリするのも疲れたよ」

後藤は部屋を後にした。

『ピエロ』 (pierrot)

(ヨーロッパの喜劇・サーカスなどで)道化役。
(自分の本心・感情を抑えて、表面、
 はなやかに踊らされる者の意にも用いられる)

             『三省堂 新明解国語辞典』より

ASAYAN収録スタジオ

「いやあ小室哲哉プロデュース女性ダンスユニットオーディションも
盛り上がってきましたねえ、岡村さん」
「盛り上がってるなあ。俺は今のVTRでは17番の人がくると思うね」
「ああ、会社辞めてきましたって言うてた子ね。僕は9番がいいっすわ」
「お前の好きそうな系統の顔してんもんな、ひとみちゃんに似てるし」
「もう名前は出さんでええから。最近、本人も名前出されんの
嫌がってるんすから。しかも岡村さん、ほとんど会ったこと無いし」
「あと11番の方は小室さんが絶賛してらっしゃいましたね」
「でも11番は俺はちょっとなあ。なんか強気な発言してたやろ。
他の人より私の方がレベル高いですぅ〜みたいな」
「ああ言うてましたね。岡村さんムカついてます?」
「おお。何かムカつくわ〜。あいつ行く行くは絶対ソロ狙っとるで」
「岡村さんはお怒りのようです(笑)」
「……ということでダンスユニット企画の続報でした。次のコーナーは――」
「ちょっと待てや。今、ソロって言うたんで、ふと思い出したんやけど、
以前モーニング娘ってグループおったよなあ」
「う〜ん、そんなん居ましたっけ?」
「いや、おったがな。そんでソロデビュー企画あったやろ。その後、
どうなったか知らへんか?」
「いやあ、僕は覚えてませんわ。中山、覚えてるか?」
「いいえ。私も全然覚えてないです」
「ホンマにお前ら覚えてないんか?俺はずっと気になってたんやけどなあ。
企画だけ発表して、その後の経過は放送されへんかったから……」
「ま、いいじゃないっすか岡村さん、どうせ過去のことなんですから。
それでは、続いてのコーナーは――」

『道化師カーニバル』完