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そして誰かいなくなった?

「みんな・・・みんな殺されました。私達だけ助かるなんて・・・」
あの惨劇を乗り越えて二人は再びモーニング娘。としての活動を再開した・・・

・・・ 三ヶ月前 ・・・

「裕ちゃん怖い〜」
「うるさい!黙っとき」

何だかんだで新曲「恋のプロキシサーバ」の為に極秘合宿にやってきたモー娘一同が
目的地であるド田舎の洋館に到着した頃にはすっかり日も傾いていた。

 和田マネと中澤の運転する2台は到着したものの
つんくとスタッフの乗るバスは一向に到着する気配が無い。

「中澤〜、つんくさん達の車の様子を見に行ってくるから先に入って休んでて」
「早く帰ってきてくださいよ、和田さん」
「携帯の電波とどかないよ。」
「かおりん疲れた〜」
「昆布もうないんですかぁ?」

 和田マネがさっさと町の方へ車を急がすのを見送りながら
背後の洋館に言い知れぬ恐怖を覚える中澤であった。

「じゃあ、みんな部屋に荷物を置いたあとに応接に7時に集合ね。」

1時間あまりの余裕があるにもかかわらず直ぐに応接に集まる面々
「和田さん戻ってこないねー」
「zzz」
「みんなで食事でも作っておこうか」
「さんせー」
「んだべ」
「zzz」
「あれ、まきー、さやかは?」
「zzz さやかさん、中を見てまわるって言ってま・・・」

噂をすればなんとやら

「ごっめーん、みんな揃ってたんだ。ここって広いねー。」
我が道を直進する市井であった。

時計の針が0時を回っても一向にスタッフは戻ってこない。

「とにかく今日は寝ようか」
「明日の朝は何時に起きるべ?」
「zzz」
「じゃあ、9時に応接に集合、はい解散」
「はーい」
「zzz」
眠りこける後藤を部屋まで担いでいく保田

その頃16人を殺した殺人犯がこの付近の山に逃げ込み
大騒動になっているとは知る由も無いモー娘一行であった。

深夜3時頃、耳を劈くような悲鳴で安倍は目を覚ました。
「どうしたんだべか?」
次々と寝ぼけながら姿を表すメンバー達。
半開きになっている中澤の部屋のドアを指差しながら
廊下に座り込んで震えている矢口がいた。
「ゆ・・・裕ちゃんが・・・」

「かおりん眠たい〜」

保田は泣きじゃくる矢口を宥め部屋の中を覗き込んだ
「圭ちゃん、どう?」
「うん・・・その・・・本当に・・・」
部屋を覗き込む4人の目に映ったのは
開いている窓と、部屋の中央で心臓を一刺しされ息絶えている
血まみれの中澤であった。

起きてこなかった後藤を市井に呼んできてもらう間
三人は先に応接に集まった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
(あの部屋は1階だから窓から進入する事は出来る。
 でも、顔見知り以外だったらあんなに静かにやってのけるのは難しい・・・
 そう考えたくは無いけれど、なっちも、かおりもアリバイが無い。
 さやかも・・・真希だって寝たふりなら・・・)

全員揃った後も疑心暗鬼に駆られるモー娘。一行であった。

応接で身を寄せ合いながら夜をあかし待ちわびた朝の訪れの長かったこと・・・
「とりあえず、洋館の中をチェックして外部との連絡方法、食べ物、
 武器になりそうなものを見つけよう。」
「バラバラに行動するのは危険じゃない?」
「私とさやかと真希、まりっぺとなっちの二手に分かれよう。」

なぜか仕切り始める保田であった。

日も暮れる頃、応接に戻ってきたメンバー達は全員憔悴しきっていた。
一日を費やした成果は、より絶望へ誘うものでしかなかったのだ。

・この洋館にはテレビ、ラジオといった外部からの情報を受け取れるものは無い。
・外の車は壊されていた!(車載チューナー含む)
・食料は十分、電気、ガス、水道は問題なし。
・武器になるものは台所用品と掃除道具ぐらい。

(何で車が壊されているの?誰?)
(どうして誰も来ないの?)
(どうなっちゃうんだろう・・・)
(zzz・・・)

そのころ付近一帯に通じる道路は警察が完全に閉鎖していた事を
知る由も無いモー娘一行であった。

その夜、昨日からの疲労で全員睡魔に対抗する事が出来なくなっていた。
あれから何も起こっていない安心感と、お互いに対する不信感から
結局誰からとも無く言い出し、それぞれの部屋でバラバラに眠る事にした。

これが後に悲劇を生む事になるのであった。

「寝られなーい。うーん・・・
 そうだ!さやかさんの部屋へ遊びに行こう。」
夜半、寝つきが悪く(一人睡眠過多・・・)暇を持て余していた後藤は
廊下に出た。

「あれ、真希どうしたの?」
「かおりさんこそ・・・」
「かおり怖くて眠れないの・・・まりっぺの部屋に泊めて貰ぅ・・・」
「あたしも、さやかさんの部屋へ行こうと思ったんですよ。」

コン コン コン
「さやかさーん、起きてますかあ?」
「まりっぺ・・・起きてる?・・・」
二人は別々のドアに手をかけた。あれ?開いてる?

悲劇は幕を引く事を知らないのであった。

返事も聞かずドアを開けた後藤の笑顔は
次の瞬間凍りついた。

…うそ?…
血にまみれて倒れている市井

ぐしゅ ぐしゅ
「うわーん、さやかさん死んじゃやだー
 どうしてー、誰?さやかさんを返してぇ!
 うそでしょ…うそだと言ってよ…」

後藤の絶叫に安倍と保田は廊下に飛び出した。
その時立て続けに絶叫が起こる…

惨劇は止まる事を知らないのであった。

返事が無いのを不審に思いつつも
暫くしてドアを開けた飯田の目に飛び込んだ光景は
彼女の心を完全に破壊した。

血まみれで横たわる矢口

「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

(うそでしょ?まりっぺも!?)
「なっちはかおりをお願いっ!」
「うん、わかった!」

「圭ちゃーん、さやかさんが…さやかさんが…」
泣き喚く後藤を宥め部屋に連れて行く
保田の耳に絶叫がこだまする。

「来ないでっ!人殺し!人殺し!」
「かおり、なっちは…」
「うるさい!人殺し!いやぁーーーーーーー」
慌てて後藤を寝かし、矢口の部屋へ向かう保田

大活躍の保田であった。

呆然と立ちすくむ安倍の脇を抜け
部屋に入った保田が見たものは、
血にまみれの矢口の死体に取りすがり泣き叫ぶ飯田であった。

「かおり、落ち着いて」
「圭ちゃん…駄目…嫌っ…誰も信用できないよぉ…」

走り去った飯田は自室に閉じこもると
二度と顔を見せようとはしなかった。

ショックの色が隠せない安倍であった。

何度呼びかけても堅く鍵をかけ出てこない
飯田を諦め、三人は応接に集まった。

「……」
「……」
(さやか… みんなアリバイが無い。
 誰なの?私達の中に犯人がいるの?)

(なっちに…なっちには「人殺し」って…
 かおりはそんなになっちが嫌いなの?
 あたし人殺しじゃないよ…どうして?)

(さやかさん…
 さやかさんが居なくなるなんて考えたことも無かった。
 どうすれば良いんだろう?
 圭ちゃんやなっちが殺したの?
 敵を討たなきゃいけないのかな… 解らない…)

各人の想いが漆黒の闇に彩りを添えるのであった。

永劫と想える沈黙の後、最初に口を開いたのは安倍だった。
「ねぇ、圭ちゃん、真希。なっち、かおりに嫌われているのかな?」
「なっち?」
「どうして、なっち人殺しなの?」
「安倍さん…」
「なっち、かおりに会って話をしてくるよ。」

慌てて後を追う二人に
安倍は焦点の定まっていないまなざしを向けて言った。

「みんなはここに居て。二人だけで話がしたいの…」

どう見ても普通でない状態の安倍に不安一杯の保田達であった。

二人で黙ったまま向かい合ううちに
やがて後藤が重い口を開いた。

「ねぇ、圭ちゃん。なっちを一人で行かせたのは危ないんじゃない?」
「うん…」
(かおりが犯人ならなっちが危ない…
 なっちが犯人ならかおりが…
 真希が犯人?今一人で行かせたら二人が危険?…
 解らない…誰が犯人なの?…
 メンバーじゃない第三者がいるの?…
 誰が…誰を?…)

「圭ちゃん!」
「えっ?」

「二人でなっち達を見に行こうよ…」
目に涙を浮かべ始める後藤を見て
改めて年長者である自覚に燃える保田であった。

開け放たれたかおりの部屋を覗き込んだ二人は
最も見たくない、しかし心の何処かでは
期待していたかもしれない光景に遭遇した。

心臓を一突きされ息絶えている飯田と
血まみれのナイフを持って立ちすくむ安倍………

「なっち!」
「違う!違うの!」

(じゃあ、どうしてナイフを持っているのよ?…
 なっちにはアリバイが無い…
 謝りたいと言って部屋に入って話がこじれて?…
 でも、なっちが?……みんなを?……)

「圭ちゃん、どうして黙っているの?」
「真希も、圭ちゃんもなっちが人殺しだと思っているだべ?」
「いいべさ、みんなそう思っているなら…」
「みんな…みんな……殺すべ!」
「なっちは……なっちだけは生き残るべ!」

堰を切ったように喋り出した安倍を呆然と眺める二人。

崩壊は音も無く忍び寄っていたのであった。

ナイフを振りかざして襲い掛かってくる安倍

激しい乱闘…

興奮が冷めた時、床には血まみれの死体が二つ転がっていた。
飯田と……安倍の……

(ナイフを奪ったのは私だけど、真希がなっちを突き飛ばして…)
(圭ちゃんがなっちを刺した…殺した…)
(あれは正当防衛…)
(あたしが突き飛ばしたけれど…刺してない…)
(二人で殺した…なっちを…)
(仕方が無かった…仕方が……)

応接に戻った二人は距離を置いて向かい合って座り
一言も喋ろうとはしなかった。

しかし運命はこの二人をも逃がさないのであった。

(なっち…なっちが犯人だったの?…
 犯人じゃなかったから… 私達を殺そうとしたのかな…
 誰か他にいるの?
 まさか、真希が犯人なの…)
(安倍さん死んじゃった… 犯人だったのかな?…
 圭ちゃんが犯人?…
 解らない… 助けて… 誰か助けてよぉ…)

窓から覗く男がいることなど全く気が付かない二人であった。

怖い・・・。
でももう二人しかいないよ?

突然、沈黙を破って男が窓から乱入してきた時、
二人には、もう抗う気力も体力も無かった…

「あなたがみんなを殺したの?」
「ああ、たっぷり殺してきたよ。たっぷりとな……」
「みんな死んだの…」
極度の興奮状態の男に押し倒され、犯され
いつしか気を失う二人であった…

縺れた運命の糸は、そして解け始めるのであった。

(あの男が犯人なら…何故みんなは乱暴されていなかったの?…
 犯人は別?… やっぱり真希?…
 他の誰か?…

 …

 …
 …みんな死んだ… 私は生きている…
 …みんな死んだ…

 …みんな…裕ちゃんも、さやかも、まりっぺも
 かおりも、なっちも……やっぱり真希?…
 あの真希が…

 …

 あれ、でも…あの子の死んだことは確認していない…
 …直接は……まさか……)

半覚醒の狭間で思索に耽る保田であった。

意識を取り戻した時、目に飛び込んできた光景を保田は
暫く理解することが出来なかった。

ソファーの上の全裸の後藤、
後頭部を血塗れにして床に倒れている男、
その横に立っている血塗れのマリア像を持つ女。

 …
 …
 …
 …さやか!?…

市井が生きていた事の安堵感、自分の推理への確信、
市井の真意への不安、疲労、困惑…………
市井が薄笑いを浮かべていることにすら気が付かない保田であった。

やがて、市井は口を開いた

「圭ちゃん、ご苦労様。
 こんなに計画通りに行くとは思わなかったよ。
 ここに着いたとき、わたし一人でふらついていたでしょ?
 その時偶然車のラジオでこの男の事を聞いたんだ…
 ここに逃げ込んだ?…これは千載一遇のチャンスかもって…
 夜までにスタッフが着いたなら、とか何度も
 止めるチャンスは会ったんだけどね…

 裕ちゃん、私に刺された時にはホント驚いてたよ…
 まりっぺ、何の疑いもなく部屋に入れてくれた…
 死んだ人間は疑われないと聞いたことがあるから
 「死んだふり」をしていた時、
 真希に泣かれたのは、ちょっときつかったなあ…

 そうそう、かおり「なっちが犯人だった」って言ったら
 簡単に部屋に入れてくれるんだもん、なっち浮かばれないねえ…

 その後すぐに、なっち本人が上がってきてマジであせったよ。
 まさか、あんな事になっちゃうなんて思わなかったけどね…」

うわ言の様に喋りつづける市井であった。

「圭ちゃん。これで新曲も娘。もファンも、みんなわたし達の物だよ・・・
 わたし達をハエ呼ばわりしたやつらを見返してやろうよ・・・
 あまり物なんかじゃない・・・ わたし達が主役なんだよ・・・
 もう誰も邪魔出来ないから・・・ ・・・ ・・・」

(さやか・・・
 泣き虫だったさやか・・・
 どんなに気丈に見えていても、本当は昔のまま・・・

 ストレス、プレッシャーで本当の自分を押し殺して・・・
 偽りの仮面とのギャップで心の傷を増やし続けていたの?・・・

 ・・・

 さやかをここまで追い詰めたのは・・・
 私なんだろうな・・・
 さやか・・・ 私のさやか・・・)

自責の念・・・この時、自らの人生のレールを無意識に決定した保田であった。

「痛っ・・・ あれ、さやかさん? どーして?・・・」
「真希・・・ 大変だったね。もう心配しなくていいよ・・・
 もう、全てが上手くいくから・・・」

ぐしゅ・・・ ぐしゅ・・・
事情は飲み込めないものの、
無事な市井の姿を目の前にして後藤は縋りついて泣いた。

(さやか・・・ 真希に何と言うの?・・・
 あなたの・・・私達の手は血に染まっている・・・)

(真希・・・ やっと三人で・・・ 長かった・・・)

(さやかさーん・・・ 生きていた・・・ なんで?・・・ うれしい・・・)

結末はいつも残酷なものである、
絶命を免れていた男がナイフを片手に立ち上がりかけていることに
その場にいた全員が気付いた訳ではなかったのであった。

「この!くそアマぁ!」
「さやか!」 「さやかさん!」 「えっ!」

保田の手は届かない・・・

体を入れ替える後藤・・・

凶刃は・・・

・・・

皮肉な事に後藤の心臓を極めて正確に貫いた・・・・・・

「いやぁあああああああああああーーーーーーーーーーーーー」

男が絶命した後も像を振り下ろす手を一向に止めようとはしない市井であった。

「さやか! もう死んでるよ・・・ それより真希が・・・」

「・・・ ・・・ ・・・
 真希ぃ・・・ どうして・・・ 折角・・・
 ・・・ ・・・
 真希ぃ・・・ 帰ってこい! 帰ってこいよ!
 帰ってきてよ・・・ 真希ぃ・・・ 真希・・・ マキ・・・ まき・・・」

(出来るのなら・・・
 私が真希の代わりになりたかった・・・
 どうして私じゃないんだろう。

 死ねば罪の意識に苛まれない? それは逃げ?・・・

 だめ・・・もう逃げない・・・逃げちゃだめ・・・
 さやかの、死んだみんなの、そして私自身の為・・・)

市井が落ち着いた後、洋館に火を放つ保田であった。

おそらく殺人犯の仕業だと思われる妨害を突破し
警察と、つんく達が到着した時、たった数日前の平和な光景は
その片鱗さえも留めていなかった。

焼け落ちた洋館と三人の人影

死んだ後藤を抱きしめる市井と保田だった。

洋館に侵入した殺人犯に殺されたメンバー達、
後藤に命を助けられて市井と保田は男を殺してしまった事・・・
現場の状況、乱暴された痕跡、全てが保田の証言を裏付けていた。

マスコミは挙って彼女等の正義、正当防衛を主張した・・・

そして三ヶ月と言う異例の短い休養期間だけで
彼女たちは芸能活動に復帰したのであった。

今日も二人は仮面をつけステージに上がる。
誰もその笑顔の裏に潜むものを知らない・・・

壊れた女と、全ての真実と責任を一人で背負い込む女。
(さやか・・・
 一生傍にいる・・・
 私が全てから守ってあげるから・・・)

Fin.