プロローグ >>4時間前
その日は、大雨だった。
コンサートを4時間後に控えた娘。の全員は、1つの控え室に集まって、声をひそめて話していた。
中澤がリーダーらしく、まとめあげる。
「・・・ええな。チャンスは1回。失敗は許されないねんで。
1人1人がちゃんと気を引き締めてやりいや。 自分の役割をしっかり覚えておくこと!」
他のメンバーが声もなく頷く。 中澤はそれを見回すと、パンと手を叩き
「ほな、計画開始や」
と言い放った。 それを合図にメンバーはそれぞれの役割を果たすべく部屋を出た。
1人になった中澤はテーブルに肘をつき、祈るようなポーズで小声でつぶやいた。
「・・・頼むで・・・みんな・・・」
雨の音がやけに中澤の耳についた・・・。
第1章 >>1週間前
「許せないの。・・・あたし」
保田がそう言い終えると、その部屋を静寂が支配した。 誰もすぐには次の言葉を選べなかった。
・・・それほど、保田の話は強烈なものであった。
TV東京の楽屋。 ASAYANの収録後、思いつめた顔をした保田が、
「みんなに話したいことがある」 と言い出した。
そのため、マネージャーには『ミーティング』と称して先に戻らせ、全員で保田の話を聞くことになった。
「それで・・・圭ちゃんは、どうしたいって思ってるの?」
飯田がやっとその場の空気を壊し、保田に問い掛ける。
保田は前かがみになっていた身体をソファに投げ出し、
「わからない・・・。ただ、このままにはしておけないって思う・・・」
とだけ言った。
「でも、これって・・・ちゃんとした罪に問われるのかな・・・」
市井が足を組替えながらつぶやく。 そんな市井を見ながら
「たとえ問われなくても、あたしたちの手で復讐しなきゃ・・・でしょ。
あたしも許せないって思うもん!」
矢口が、やや興奮した感じで言った。
「せやな・・・こんなことするん、オンナの敵や。あたしも許せへん・・・。
いったいどこまであたしらを弄んだら気がすむんやろ。 アイツは・・・」
中澤も静かにそう言った。
「なっちと後藤は、どう思う?」
中澤は、ソファの隅に座っている2人の方を振り向いた。
「なっちも許せないよ・・・絶対にこのままにはしておけないべ」
安倍もかなり憤りを感じているらしい。 組んだ手が小刻みに震えている。
「後藤は・・・?」
もう一度、中澤が後藤に意見を求めた。
後藤は、いつもとまったく変わらない口調で・・・たった一言こう言った。
「・・・殺します?」
後藤のその意見は、部屋を一瞬凍らせた。
さすがにみんなもすぐには賛同しかねた・・・が、
「やっぱり、それしかないんかな・・・」
中澤がタバコに火をつけながら そう言った。
「えー!殺すのぉ?!」 飯田が思わず叫ぶ。
「大きな声ださないっ!」と、小声の矢口にたしなめられた。 飯田は、なおも納得いかないようで
「だってぇ〜・・・どうやってやるの? 誰がやるの? 考えるコト、いっぱいあるよ。
かおり・・・そんなこと怖くてできないよー」
唇をとがらせてそう言った。
「やるんやったら、勿論念入りな計画をたてる。・・・方法にしてもそうや。
7人で協力すれば出来ないことなんてないで。 ウチら仲間なんやから。 そやろ?圭織」
「でもぉ・・・」
「いいよ。圭織。・・・他のみんなも無理しないで。これはあたしの問題なんだし・・・。
ただ、『アイツと関わりの深い』みんなには知っておいてもらった方がいいかなって思ったから」
保田が中澤と飯田の間に入るようにして言った。
「あたしは圭に手を貸すよ」 中澤はタバコをもみ消しながらそう言った。
「あたしも!・・・圭ちゃん一緒に悪を倒そ!ね!」 矢口も保田にむかってガッツポーズをとる。
「なっちも一緒に闘うよ。 絶対にいい方法があるはずだよ」
「そう。なっちの言う通りだよ。 がんばろ。圭ちゃんっ」
「あたしも。・・・言い出しっぺだしね」
後藤の一言で笑いが起こる。・・・笑っている場合じゃないと思うのだが。
「圭織・・・どないするん?・・・無理にとは言わないけどな〜」
中澤のいたずらな視線と、残りの5人の視線を一度に浴びた飯田は
「わーかーりましたぁーっ。 かおりも仲間に入るぅー」
と、半ばヤケ気味に言った。
「みんな・・・いいの? だって、ヘタしたらつかまっちゃうんだよ・・・」
保田が6人の顔を見回しながら言う。 矢口が保田の肩を叩きながら
「なーーに言ってんの、圭ちゃん。 裕ちゃんも言ったけど、あたしたち仲間じゃん」
と、笑顔を見せた。
「そそ。 要はあたしたちがやったってバレなきゃいいんでしょ?
考えようよ。7人もいればなにかいいアイディアが出るよ」
と、市井も言葉を続ける。
「どーせやるなら、カンペキにやろう!かおり、つかまるのイヤだもん」
「ばーか。みんな捕まるのイヤだってぇ」
中澤が飯田をこづく。 部屋の中にまた笑い声が響く。
「みんな・・・ありがと・・・」
保田は涙で声をつまらせ、メンバーに礼を言った。
「さ、そしたら考えることが山ほどあるねんで。・・・圭も泣いてる場合と違うでー」
中澤がパンパンと手を叩き、その場の雰囲気を変えた・・・。
第2章>>3時間55分前
スタッフが忙しく衣装をそろえている。 その場に矢口と安倍が現れた。
しかし・・・
「だいたいさぁ、なっちはいつも自分勝手すぎるんだよぉ!」
「何言ってるべ!矢口だって結構好き勝手なことしてるっしょ!」
「フン!いいよね・・・いつもメインでさ。目立ってるんだもん」
矢口が安倍の方をドンと突く。 安倍も負けずに
「そっちだってタンポポがあるべさー。なっちは娘。以外歌ったことないべ!」
と、突き返した。 矢口がよろけて壁にぶつかる。
「・・・やったわねぇ!」
「やったがどうしたさ!」
パシッ!
矢口の平手が安倍の頬をとらえた。
「何すんの!」
安倍が矢口につかみかかろうとした、その時、
周りにいたスタッフが2人を押さえつけた。
「離してよぉ!」
「そうよ!離して!」
がんじがらめにされる2人。 スタッフの1人が中澤とマネージャーを呼び寄せた。
「あと3時間ちょいで本番だぞ。 いったいどうしたんだ」
マネージャー氏に問い詰められる3人。
「たぶん、本番前でピリピリしてるんとちゃうんかなぁ・・・」
中澤がノンビリとした口調で答える。 安倍と矢口はそっぽを向いたまま。
「頼むよー。本番ではちゃんとやってくれよ・・・」
「まだすこし時間あるから、あたしから2人によく言って聞かせるわ。
ここはあたしに任せてくれへん?」
・・・と中澤に言われると、スタッフも、マネージャーも何も言えない。
ここはリーダーに任せることになった。
「こらぁ! アンタら、本番前になにやってん!
そんなに言い争いたいなら、あっちの部屋でやりいや!」
中澤は2人の背中をこづきながら先に歩かせる。後に、マネージャーもついて来ていた。
スタッフ達に対し、背を向けて歩くことになった安倍と矢口は密かに顔を見合わせて
ニヤっと笑った。
廊下を曲がり、一番手前にある部屋のドアを開けると、中澤は2人をそこに押し入れた。
「あたしは、また後で来るから。それまで2人でゆっくり話し合っとき!」
「裕ちゃん!ここ、倉庫じゃーん!ちょっとぉ!」
「アンタらにはこれぐらいでええねん!」
バタン! ドアが閉まり、ご丁寧に鍵までかかった。
「和田さん、鍵は返しておくわ。・・・後でまた貸して」
中澤はその部屋の鍵をマネージャーに戻した。