「ここだべか?」 
ナツミはチケットと照らし合わせて席を確認していた。多くの視線を感じながら。それも仕方の無いことだ。 
彼女は若すぎた。この地球行きのシャトルの座席はほとんどが地球連邦高官によって占められ、
18歳のナツミは明らかに浮いていた。それだけではない。ナツミの顔立ちには人を引き付ける魅力があった。
ナツミはその様な視線には慣れていたので、気にもせず自分の座席確認すると、速やかに着席し、窓からターミナルの様子を眺めていた。 
「久しぶりの地球…皆はどうしてるべか…」 
彼女は地球の環境を調査する部署に就職が決まっていた。表向きには実力でうかったことにはなっているが
実際は親のコネが働いていたのは間違いない。彼女の父親は6年前の「サヤカの反乱」を始め、
数多くの戦争で地球連邦を勝利に導いてきた提督だった。 
その父親と久しぶりに地球で会う。それが目的であった。表向きは… 
ふとナツミは横顔に視線を感じた。いつも感じるような視線とは異質な感じがした。
視線の発信源の方に目を向けると、自分のように、いや、自分以上に場違いな存在がこちらを興味深げに見ていた。 
(なんだべ…初対面のはずなのに) 
ナツミはすぐに目をそらした。するとその場違いな存在は席を立ち、こちらに向かって歩いて来た。 
「ちょっとおじさん席代わってくれない?」 
その絵本の世界から飛び出てきたような愛らしい顔をした場違いな存在は顔に似合わぬ
ぞんざいな口調でナツミの隣の席に座っていた中年の男に席を代わるようせまった。 
「なんだね君?私を誰だと…」 
とまで言ったところで少女の顔を見ると、その中年男性は何かに気付いたような表情を浮かべ、席を立ち、そそくさと立ち去った。 
「ありがと」 
ひとりごとのように言うとその少女はその席に座った。ナツミは何も話し掛けることはしなかった。
彼女が先だってすぐに目をそらしたことには理由があった。 
(アスカ・ヤナギ…) 
その名前は未だにナツミの心を締め付ける力を持っていた。これからもそれは変わることはない。
ことある毎に思い出すことだろう。深い傷として… 
そのアスカ・ヤナギの面影が隣に座っている少女にはあった。 
早速その少女は話し掛けてきた。 
「ねぇ、地球のどこ行くの?」 
「どこの生まれ?」 
ナツミは馴れ馴れしい人間は苦手なはずだった。しかし、真っ直ぐ目を見て話し掛けてくるその愛らしい少女に、
何時の間にか引かれていた。同じことを繰り返したくないと心の奥底では思っていたはずなのに… 
「地球はニホンに行くつもり」 
「ふぅん…」 
その少女は微笑みを浮かべながらナツミの顔を興味深げに見ていた。続きを聞きたがっているのだろうか 
「母さんの先祖の生まれ故郷なんだ。まぁ、始めて行くんだからふるさととか言われても困るんだけどね。
生まれは地球じゃないよスペースコロニーの生まれさ」 
それを聞き終わるか終わらないかのタイミングでその少女は笑い出した。特徴のある笑い声。とても高い声を出して笑う… 
(アスカとは違う…当たり前だべ) 
「な…なんでいきなり笑い出すんだよ…」 
あたりの怪訝な視線を気にしながら小声で少女に聞いた。すると笑いながら大きな声で 
「だって変な訛りがあってそれを隠そうとしてますます変なイントネーションになってるんだから…」 
ナツミが不機嫌な顔をして顔をそらしたことに気付き、その少女は笑うのをやめた。 
「ごめんなさい…」 
その少女は決して無神経ではなかったのだ。しかしすぐに機嫌を直すのも照れくさく感じられた為に、
ナツミは持ってきていたノートパソコンを開き、電子書籍を読み始めた。ふと窓の外に目を移すと 
(もう出港してたんだ…) 
おしゃべりに夢中になり、そんなことにも気付いていなかった自分に苦笑した。 
いつしか、ナツミは眠りに落ちた。慣れない読書などをしたからかもしれない。その間隣の少女が話し掛けてくることはなかった。 
不意に、後ろが騒がしくなる。 
「この機は我々がジャックした!」 
その声で目覚めたナツミは次の瞬間には完全に目覚め、全てを把握していた。
「サヤカの反乱」から6年、その月日はナツミをそういう人間に変えていた。いや、そう変わらなければならなかった。 
さっきまではあれだけ堂々としていた隣の少女が震えながらナツミの腕にすがっている… 
(この娘は普通の女の子みたいね…なっちとは違うべさ…) 
「大丈夫。抵抗しないでじっとしていよう。奴等も無駄に人質を殺すような真似はしない」 
「…」 
少女は黙ってうなづいた。 
(これで一安心だべ。この娘のさっきまでの様子から取り乱すかとおもったけど、大丈夫みたいだべさ…今目立つ訳には行かない…) 
「ちょっと…」 
後ろから誰かが小声で話しかけてくる。シートが邪魔をして顔は見えないが声から推測するに30前後の女性のようだ。 
「なんです?」 
「連邦軍の仕官、ナカザワ少尉だ。どうやらこの場にいるもので戦闘要員となりそうなのは私と君だけのようだ。いざという時はよろしく頼む」 
「いざって時って言われても困るべ…困りますよ」 
(慌てるとつい方言が出るべ…これだけはどうしようもないさ…) 
「隠しても私には分かる。席につくまでの君の身のこなしを見させてもらっていたからね…」 
(面倒なことになるべ…もうちょっと気を付けるんだった…) 
「君」 
「なんだ?」 
連邦の高官が犯人に話し掛けている。 
「君達の目的は何かね?単なる金目当てなのかそれとも政治がらみなのか…」 
「てめぇ自分の立場が分かってないのか?もう少し黙ってりゃいんだよ!」 
「いや、私はそういうことを確認する部署の人間なのだよ…」 
タタタタ… 
何か連続音が聞こえたかと思うと、―――おそらくその妻だろう―――の女性の悲鳴が聞こえた。 
(馬鹿…人を見て法を説くという言葉を知らないのか…) 
議会での議員同士の権謀術数に馴れ過ぎた大人の愚かさだった。 
「へっ!この女気絶しやがって 命拾いしたぜ」 
「目覚められたら面倒だ始末した方がよくないか?」 
「それもそうか。へへへ…旦那の後を追えるんだ…感謝して欲しいくらいさ」 
「餓鬼めら…」 
ナツミは後ろに座っているナカザワ少尉の呟きを聞いた。 
「やめろ」 
(あれがボスみたいだべ…) 
「俺達はもっと高い理想の為に闘っているんだろ?」 
「芸の無いセリフ 吐くなボケ…」 
ナカザワ中尉がまたつぶやく 
その首謀者と見られる男はゆっくりしゃべりながらとナツミ達がいる前方に歩き始めた。 
「我々はイエロー・ファイブだ」 
その言葉にざわつく客席。 
イエロー・ファイブ。それは有名なテロ組織であり、その首謀者は「メイン」と呼ばれ、複数の人間がそれを演じていると言われている。
その目的は単純で、地球から人類を羽ばたかせ、人類にとって真の革新をもたらそうということだ。 
「ち…面倒なことになったもんやで…」 
そのつぶやきを聞きながら 
「君の名は?」 
隣の少女に聞くナツミ。 
「マリ…マリ・ヤグチ。あなたは?」 
「ナツミ。ナツミ・ア…いや、ナツミ・ヤスダだ。君はなにがあってもじっとしていてほしい」 
とっさに名前をごまかしたが、マリはそれに気付くこと無く少し緊張が緩んだようだ。 
「我々人類は地球と言うゆりかごに居着きすぎた。住み心地のよいこのゆりかごは、
そろそろ破棄すべきではないだろうか。有史以来、ようやく人類は宇宙での生活の術を手にし…」 
あっという間だった。ナツミの横を通った首謀者にナツミが足をかけると、首謀者はバランスを僅かに崩した。
それでも銃を構えようとした首謀者に対し、ナツミは 
「こんなところで下手に発砲したらどうなるか!」 
わずかにとまどった首謀者に対し、ハイキックを一閃した。 
その瞬間、他の二人はナカザワ少尉によって射殺されていた。よほど射撃に自信がなければ出来ないことだ。
場所が宇宙空間であるだけに。 
「イエロー・ファイブにだけは容赦できへんねん…悪いな」 
その言葉にナツミの心はわずかにしめつけられたが、表面上はあくまで平静を装っていた。 
(なっちもやりすぎたかも…目立つ訳にはいかなかったのに…したっけ、しかたないっしょ…) 
取材陣が去ったエアポートのロビーに、ナツミ、ナカザワ、マリの3人はいた。 
「ほんまに災難やったな。でも、あんたもあれほどまでとは思わんかったわ」 
意外にフランクな話口調にとまどいながらナツミもあたりさわりのない話に終始した。 
(なんさこの方言・・・なんか怖いベ・・・) 
「そんならな。なんかあったらウチに連絡してや!できる限り協力させてもらうわ!」 
有り難い話ではあったが、ナツミはやりすぎたことを後悔していた。それよりおどろいたのはナカザワの26という年齢だった。
軍隊にいると、男っ気が無い為、老けるのも早いのだろうか。ナツミは邪推していた。 
(30ちょっとだと思ったベさ・・・) 
後ろでだまっていたマリが話し掛けてきた。 
「ねぇ、ねぇ、ウチ遊びに来ない!?ddrとかあるよ。いつも一人でやってるけどね」 
「ddr?」 
「知らないよね〜」 
「いいけど・・・今日は駄目だ。時間取られちゃったし・・・行かなきゃいけない所があるんだ」 
マリはまた笑いをこらえている。 
(そんなに訛ってるベか・・・) 
「じゃあ、これウチのアドレスね。明日なら大丈夫?」 
「あ・・・うん・・・ところでさ、マリってさ、地球でなにやってる訳?」 
「え〜とね、愛人」 
マリとも別れ、エアポートを出るナツミ。 
(つけられてるべ…) 
予想はしていたことだが、やっかいなことになった。車で待っていた仲間に目で合図し、タクシーを拾うナツミ。 
なんとか尾行を撒いて『行くべき所』に辿り着いたナツミ。 
「なっち!大丈夫だったんだね!よかったぁ〜」 
彼女はケイ・ヤスダ。派手な活動はないものの、定評のある丁寧な仕事で仲間の信頼を得ている。皆の世話役という役割も持っている。 
「なっち、また遊びに来てくれたんだね。久しぶりだね」 
彼女はカオリ・イイダ。記憶喪失である。6年前の「サヤカの反乱」において、サヤカ陣営であるブルーセブンに所属していたということ以外、
なにも分かってはいない。思い出さない方が幸せなのかもしれない。 
「なっち、ちゃんと追手は撒いたんだね?」 
彼女はミチヨ・ヘイケ。彼女は「群れるのは嫌いなんだ。これまでずっと一人でやってきたんだからね」が口癖。とても優秀な人材。 
「なっち、私信じてたよ」 
彼女はルル・ホンダ。普段はとぼけた振りをして周囲を笑わせるが、実際は勤勉で向上心が誰よりも強い。 
「なっち…あなたが来てくれて嬉しい。これで…」 
彼女はアヤカ。経験不足ではあるが、人一倍の努力でこれまで生き残ってきた。 
ナツミは「サヤカの反乱」から6年を経た今、イエローセブンの「メイン」となっていた… 
ナツミは地球に着くまでの話をメンバーに伝えた。 
マリのことについては触れない様に気を付けながら…マリは巻き込んではいけない。ナツミはそう直感していた… 
最後に彼女が「え〜とね、愛人」という言葉を発した時、ナツミはどう答えていいかわからなかった。
しかしそのまま彼女は表情を変えず去って行ってしまった。どんな言葉をかけるべきだったのだろう…
又明日会う時はどんな顔をして会えばいいのだろう… 
誰にも相談することは出来ない。自分で考えるしかないのだ… 
ナツミがニホンへ行くというのは当然事実ではない。この日はこのアジトで休むことになるだろう。 
「なっち、なんか変」 
突然、変な所で勘の強いカオリが言い出した。即座にミチヨの 
「変なのはお前やろ」 
というツッコミをイイダは受けることとなったが、ナツミはこのままではいけない。 
しっかりしなくては。私はイエロー・セブンのメインなのだから…と自分に言い聞かせていた 
「ナカザワ少尉か…」 
同室のミチヨとルルが話し合っていた。 
「なっちは知らなかったみたいね」 
「そうやな…なっちは前線からは距離置いてたしな…イエローセブン殺しの"レッドダイアリー"って呼ばれてることも知らんかったみたいやな」 
「血に染まった日記帳…悪趣味ね」 
「まだなっちに話す必要はない…利用できるだけ利用させてもらおうやないか…」 
翌日、早朝からナツミはマリから受け取ったアドレスのメモを頼りにマリの住まいを訪ねることにした。
方向感覚には自信がないからだ。仲間にはヤボ用などと言ってきてしまった手前、頼ることは出来なかった。 
(こうきゅうじゅうたくちってやつじゃないべか…パトロンさんかなりお金持ちなんだぁ…) 
一応電話で連絡しておく 
「あ…マリ?昨日行くって言ったよね?」 
「本当に来てくれたの?」 
マリの声は本当に嬉しそうだ。昨日知り合ったばかりだというのに…ナツミは少し安心した。 
「でもさ、この辺のはずなんだけど…壁しかないんだよね」 
「あ、それが多分私んちだと思う」 
マリはナツミからの電話を切った後、自分の生い立ちを思い出していた。 
元暴走族という、社会的に引け目はあったが勤勉だった父が急死し、母親と幼い妹の為に否応なくこの世界に飛び込んだマリ。
マリの愛らしさを手にしようとする億万長者は後を絶たなかったが、最終的に母親が選んだ大金持の家に送られたマリ。 
だれにも不平不満を語ったことの無かったマリ… 
しかし、本当はマリにもその年頃の女の子並みに夢というものはあった。今ではもう決して届かない夢が。 
「なりたかったな…歌手…」
そうつぶやいた時、インターホンが鳴った。 
「ナツミ!?」 
「驚いたよ〜こんな馬鹿みたいに大きな家に一人住まいなんてさぁ…ねぇ、ちょっと探検してみていい?」 
ナツミは昨日見せたハイキックが嘘のような純粋な瞳でマリを見つめていた。 
「た…探検?」 
「だって、こんな大きい家だったら一日じゃ探検しきれないっしょ!」 
興奮して方言を隠し忘れているナツミ。 
「ごめん…この部屋だけなんだ…私使ってるの」 
「あれ?他の部屋は誰かが使ってるの?」 
「そういうことじゃなくて…」 
ナツミはマリの様子の変化に気付いてた。 
「ごめん…なんかいけないこと聞いちゃったみたいで…」 
「ううん…いいの。この家はね…私のパトロンの人のセカンドハウスなの。私のパトロン、テッド・デビアスって言うんだけど…」 
「ミリオン・ダラーマン?」 
「そう。80歳以上のお爺さん」 
有名な億万長者だ。なにをしているかは知らないが。 
「優しくしてくれる?」 
ナツミは恐る恐る聞いた。 
「うん。ここには年に数回しか来ないけど…優しくしてくれるよ……」
らしくない元気のなさだ。 
「どうしたの?」 
「こんなこと他人に言っちゃいけないんだけど…私が側にいてくれるだけでうれしんだって。
あの人…『お前は私の天使様だ…』とか言ってくれるの」 
「天使?」 
ナツミは聞き返した。 
「うん…私が天使に見えるんだって…私なんてただの女なのにね…そういう関係…
愛人らしいことしたのは1回…いや2回かな?すごく優しかったよ」 
ナツミにはなにも答えられなかった。しかし、なぜかマリに対して汚らわしさのようなものは感じなかった。頭の奥で 
(女同士で良かった…もしなっちが男だったらどうしていいか分からななかったかも…) 
とだけ考えていた。 
しばらく沈黙が続いたが、マリがその沈黙を破った。 
「ねぇ、ナツミってイエロー・ファイブなんでしょ?」 
ナツミは体中の毛穴が開いたように感じた。 
「何訳の分からないこと言い出すんだよ あのシャトルに同乗してた人間の言葉とは思えないなぁ」 
心の中は別として表面上はあくまで平静にナツミは答えた 
「何となく分かっちゃうの…だってあのハイジャック犯達が自分をイエロー・ファイブだって名乗った時、
ナツミ一瞬すごい怖い顔してたから…イエローファイブを騙る人を許せないって感じだった」 
「そんな…ただの勘じゃない」 
「う〜ん…なんていうか…何か感じたのかも」 
(アスカ…なまじ人の心を感じ取れたばかりに…) 
ナツミは思い出していた。 
アスカ・ヤナギ。ナツミが始めて本当の友人と呼べる存在となれるかもしれなかった存在である。
「サヤカの反乱」において純粋すぎたが故にサヤカ陣営のブルーセブンに籍を置き、闘った。 
(アスカ…なしてあんなこと…) 
同じ…同じだべあの時と…) 
「マリ…やっぱりマリは…」 
「なに?」 
「い…いやなんでもないよ。でも、そんなことはないけど、もし、もしだよ。私がイエローファイブだったとしたらマリはどう思う?」 
「う〜ん、どうかなぁ?イエローファイブって、一般人を巻き込むような真似はしたことないんでしょう?
でも、テロ行為ってどんな場合でも許されるものとは思えない」 
「そうか、そうだよね。なっちもそう思うよ…」 
「なっち?」 
マリが質問した。 
「あ、ごめん。私、皆からなっちって呼ばれてて…自分でも自分のことそう呼んでるんだ。今まで出さない様にしてたんだけど…」 
「かわいい!そういうとこ、好きだよ」 
ナツミは自分の顔が赤くなっていくのを自覚していた。 
「私もそう呼んでいい?」 
「うん、もちろん」 
「そうだ、自己紹介やり直さない?あの時はなんかたてこんでたし」 
「そうだね」 
話題がそれそうなことにナツミは安心を覚えていた。 
「今度はごまかさないで本当の名前教えてね」 
(そんなことにまで気付いてたなんて…なまら驚いたっしょ…) 
二人はお互いのことを話し合った。ナツミは「サヤカの反乱」において、連邦軍の独立部隊『カウ・ベル』に所属し、
民間人でありながら敵機を一機撃墜したこと、伝説のニュータイプ、リンネの元でその闘い方を目の当たりにしたこと、
そして、自分が連邦軍の有名な提督の娘であること。 
マリは自分の生い立ちを。そして、なぜこれだけ広い家に独りで住んでいるか、その答えはこうだった。 
「何人もお手伝いさんは来てくれたんだよ。でもね、皆一日で止めていっちゃう。
私、たったひとつのことしか頼んでないのに。『私のものにはなにひとつ触れないで』って」 
ようするに、何もさせてもらえないのだ。なにもしてないのにお金をもらうわけにもいかないのだろう。
掃除や料理といった家事は自分でしているそうだ。 
ナツミは随分きわどいところまで話をしたはずだ。なのにマリは前の話をぶりかえすことはしなかった。
気を遣ってくれているのか、それとも興味を失ったのか。 
何にしろ、遅くなったのでナツミは帰ることにした。 
「それじゃ、また来るよ」 
「それまで私ここにいるかな…」 
「どういうこと?」 
「ううん、なんでもない。じゃあね」 
門を出て、周囲を確認する。尾行はついていないらしい。 
(連邦って本当に馬鹿ばっかりなんだべか…) 
(どないなっとんねん…) 
先ほどからナカザワは心の中で何度も舌打ちを繰り返していた。目の前の男は先ほどから何度も 
「イエロー・ファイブの民衆の間での人気は知っているだろう?もはや現代のジャンヌ・ダルクと言ってもいいほどの人気ぶりだ。
そのジャンヌ・ダルクに対する君のやり方は支持されんのだよ…」 
と理由を説明しているが、 
(だからと言ってあれはないやろ…) 
ナカザワの目線の先には自分と歳が一回りほども違う上官が立っていた。
ナカザワが月に行っていた間、前の上官、シュウはこ個人的なスキャンダルで更迭されたらしい。
衣服のことばかりを気にする文官上がりの臆病な男で、ナカザワにしてみれば御しやすい男だったため、多少残念ではある。
しかし、よりよい上官に恵まれる為であればいたしかのないこと。しかしこの人事は… 
(ジャンヌ・ダルクに対してこちらもジャンヌ・ダルクとでも言うつもりかい…) 
「ナンセンスや…」 
つい口に出てしまった。 
「ナンセンスってなに?」 
ナカザワが初めて聞いた、新しい上官、マキ・ゴトウの十分すぎるほどあどけなさを残した声だった。手には素昆布を持っている。 
「失礼…失言でした。お忘れ下さい」 
ナカザワは言ったが、 
「気になるなぁ〜まあいいか。ねぇ、ユウちゃん、ちゃんと私の言うこときいてくれないくちゃやだよ。失態は全部私にかかってくるんだから」 
(ユ…ユウちゃん…) 
ジャンヌ・ダルクは火炙りに処された。そんなことをこの少女は知っているのだろうか… 
ナカザワは複雑な表情を浮かべながら 
「分かりました」 
と、簡単な返事をした。 
マキに与えられた部屋に、イエロー・ファイブ掃討部隊、レッドフォーの主要メンバーが集結していた。 
ナカザワと同期のミホ・シノダ。かつては世界選手権に出場するほどの運動選手であったが、腰を痛め、現役を退き、
今は「これが天職だったってことなんでしょう」と語っている。ナカザワのよき相談相手である。 
ダニエル。勇敢という言葉を通り越した残忍な戦いぶりでここまで出世してきた。よく言えばたたき上げではあるが、
誰もが不快さを禁じ得ない。かつてチェルシー、エイプリルという部下を殺害したという疑いもあったが、今では誰も思い出すことも無いらしい。 
「酢昆布いる?」 
マキが発したミーティングの初めの言葉がそれであった。 
ユウコ・ナカザワ26歳。10代のころの元気はさすがに無いとはいえ、体力の衰えも感じることはまだなく、
十分若さを実感出来る年齢である。しかし、目前の上官はその実感を見事に崩してくれる。 
「えっと〜ユウちゃんはさっき挨拶したよね。それでこっちがミホちゃんね」 
「ミホ・シノダ少尉であります」 
「おばさんだね。だって私と一回り以上違うじゃん」 
シノダはナカザワより一歳年長である。このようなことを言われても眉一つ動かすことがないのは、運動選手時代に培った精神力であろう。 
「それで、ダニエルさんね」 
「ウガ…」 
「ウガ…ってなに?」 
「ウ…ウ…」 
「苦しいの?まぁ、いいか」 
ダニエルは格闘能力だけを買われてここまでのし上がった人間である。実社会に出れば、普通の生活は望めないであろう。 
マキは手元の資料に目を落としている 
「ふ〜ん…ユウちゃんとミホちゃんは『サヤカの反乱』にパイロットとして参加してたんだ…ねぇ、サヤカは見た?」 
「いえ、私は陸戦部隊でしたので…」 
ミホが先に返答した。 
「私も幸い…と申しますか、戦場で相まみえることはありませんでした」 
そのナカザワの返答にたいし、マキがひどくがっかりした表情を浮かべたことに気づかなかった者はいなかったであろう。
それほど露骨であった。 
(サヤカの反乱の時はこの子はまだ9歳か8歳くらいのはずやけど…) 
ナツミとマリは連邦軍の開くパーティーの席上にいた。 
ナツミは例のハイジャックの時の礼を兼ねて、マリは連邦軍の間でもその存在が暗黙の内に認識されているらしい。
ナツミもマリを介してこのパーティーの招待状を受け取った。 
「そのパーティーには連邦の高官も多数出席するんでしょう?だったら…」 
ケイがまず切り出した。 
「行って来たらええやんか。ただしうちらが襲撃する前に逃げなあかんで」 
「ナッチが月で調達してきてくれたmsも届いてるしね…その試運転も兼ねて行きたいところだね」 
「うん…行って来る」 
ナツミは答えた。 
「断るのもおかしいし…久しぶりにナカザワ少尉にも会ってきたいし…巻き込んじゃうのは気の毒だけど…」 
組織のことを第一に考えなくては…そう考えつつもマリだけは傷つけることは出来ない。そう決意していた。 
「どうかなぁ…私、こういうのって嫌いなんだよね〜ま、ナッチが来るって言うから来たんだけど」 
ようやく政府高官の囲みを抜け出して来たマリがナツミの側に来た。そう言っている間にも政府高官はマリに寄ってくる。 
「相変わらずお美しい…」 
「ありがとう」 
こんなやりとりは慣れているのだろう。マリの受け答えは板に付いている。それでいて嫌味がない。 
「ナツミ!来てくれたんやな」 
ナカザワだ。この人は巻き込みたくなかったが…それは自分自身の甘いところだと、ナツミ自身自覚している。 
「ナツミってどこかで聞いた名前やと思っとったらあのナツミ・アベやったとはな…
私もあのサヤカの反乱にはパイロットとして参加しとったからどこかで聞いた名だとは思っとったんやけど」 
「まぁ、隠すつもりは無かったんだけど、戦争に勝ったから良かったようなものの、負けてたらどうなってたか…」 
「いやいや初めてで一機撃墜ってのは立派やって。でも、軍には入るつもりはなかったん?
うちなんかからしたらおしいな〜とか思うんやけど」 
不意に話しかけてくる者がいた 
「あれ〜?赤い日記帳じゃん。誰とお話ししてるの?」 
一瞬ナカザワの表情が不快さに歪んだのを視界中に確認しながらその声のもとへと視線を移す。ナツミより若い少女だ。 
(赤い日記帳…どっかで聞いた覚えあるべ…) 
しかし、思い出すことは出来なかった。 
「これは…大佐。こちら、ナツミ・アベという民間人です」 
「ふ〜ん…ナツミ・アベさんね。え?ナツミ・アベ?もしかしてサヤカの反乱の時の?」 
「そ…そうです」 
(こんな若い娘が大佐で、なっちのことも知ってるなんて…) 
「そ…それじゃあさ、サヤカは見た?」 
「見ましたよ。それどころか、目の前で取っ組み合いの喧嘩をするところも見てましたから」 
「す…すっご〜〜い!!」 
「ナツミ、こちらは私の新しい上官のマキ・ゴトウ大佐だ」 
「そ…そんなことよりさ、またお話したいよ。ね。今日は少し忙しくなりそうなんだ」
「それでは、ヤグチ殿もごゆっくり…」 
「うふふ…ありがと」 
そのやりとりを残してナカザワも去った。 
しかし、去る前に残した言葉がナツミを緊張させた。 
「いつイエローファイブが来るかわからんからな…」 
(さすがに警備は厳戒だべ…みんな…死なないでね…) 
(そろそろか…) 
「ね、ヤグチ、外の空気吸いに行かない?」 
無言でうなずくマリ。またヤグチは何もかも察しているのだろうか…そう考えながら二人は会場を出た。 
会場に来たときはなかったモビルスーツが配備されている。 
(あれは…ドム?なしてあんな旧式が…) 
そのドム内では通信が交わされていた。 
「マッシュ…じゃないヤベ…エミリ…やっぱりワシらはこれでしか生きていけんのじゃのう…」 
「いやオカムラさんそんな時代劇みたいなセリフはいいっすから」 
「なんでお前いっつも邪魔すんねん!」 
「まぁまぁ、オカムラさんヤベさん落ち着いて下さいよこんなところで喧嘩なんかしててもしょうがないじゃないですか」 
年少の少女が他の二人をなだめる。 
連邦政府所属の三位一体の攻撃を得意とするエースパイロット達であった。 
「浅草橋の三連星の力…とくと見せてやれ」 
「まぁ、相手からしたら冗談じゃすまないっすけどね」 
「ふふふ…違いないですね」
「アヤカ、ミッチィ、10分で戦闘離脱!分かってるわね!」 
「オッケーオッケー、安心しなって。こんな簡単なミッション誰がしくじるかいな」 
「シュミレーション通りやるだけ…足手まといにはならない!」 
ms輸送機、“ギャルセゾン”内のヤスダと、月から隕石を装い輸送されてきた量産型重モビルスーツ、
“メッサー”に搭乗中のミチヨ、アヤカの有線での通信内容である。ミノフスキー粒子散布中では出来る限り通信は有線で行われる。 
「あれ?カオリそのお茶とおにぎりどうしたの?」 
ギャルセゾンのコクピット内で清涼飲料水と握り飯をほおばるカオリにルルが気付く。 
「だってねぇ、腹が減っては戦がならぬってゆうでしょ?私知ってるんだ」 
ルルはあきれているが、ヤスダはほっとしていた。緊張と緩和。このような緊迫した状況に置いて、それは望ましい。 
「よっしゃ、見えてきたで!アヤカ、気ぃつけてな」 
ミチヨ・ヘイケ。正規軍では考えられないラフさを持つが、粗野さは感じられない。歴戦の傭兵であった。 
「大丈夫!そっちこそ足下すくわれないようにね!」 
アヤカ。今回がmsでの初めての実戦である。ルルが操縦するという声を押し切ってこのミッションでのmsパイロットを買って出た。 
「ゆうたな!」 
「そろそろ離脱して!前方に確認!」 
その声で2機のmsはギャルセゾンを離脱する。 
「やっぱあかんわぁ、重力下では思うようにいかんわ」 
大気圏内では、人型兵器であるmsの姿勢制御は難しい。 
「ん?あれってもしかして、ドム?骨董品やないか!高く売れるで!」 
「冗談言わないで!あんな旧式…私に任せて!」 
「ミチヨ!アヤカを先行させないで!実戦は初めてなんだから!」 
ルルは叫んだが、すでにアヤカはかなり先行している。 
「一機先行してきます」 
エミリが報告する。 
「わかっとる。よし…ヤベ、エミリ、やつにジェットストリームアタックをかける」 
「だからオカムラさん、いい年してジェットストリームアタックって…もう30っすよ!?」 
「戦闘中ですよ。喧嘩は後にしましょ」 
エミリ、戦死したヒロミ・ナガサクの後任としてこの部隊に配属された。最初は二人のやりとりを聞いていることしかできなかったが、
今では二人につっこみを入れることもたびたびである。 
「よし…いくぞ」 
「時代が違いすぎるんだってこと、分かんないかな?」 
アヤカは少し興奮していた。 
左腕からビームサーベルを取り出し、構える。 
「あかん!私が行くまで待っとき!」 
ミチヨとて普通の状態ではない。重力下での戦闘は久しぶりなのである。 
三機は横並びで近づいてくる。 
「数がそろえばいいってもんじゃないでしょうに!」 
アヤカ機は高度を上げ、急降下をかける準備をした。 
「シュミレーション通り!行ける!」 
アヤカは急降下をかけた。そして、横並びで接近してきた三機になにか変化が起こったとアヤカが感じた数瞬後、
アヤカの若い命はその搭乗機とともに散華した。 
「ア…アヤカァーーーー!!!」 
アヤカが三機に急降下をかけたとき、先頭のmsの胸部拡散ビーム砲がまばゆい光を放った。
これは殺傷力は低いが、敵の目をくらませる効果が期待できる兵器である。
見事にそれを頭部にあるメインカメラに浴びたアヤカ機はとっさにマニュピレーターでメインカメラを隠す。
横によけた先頭機の後ろからバズーカ砲を構えた機体が現れた。
その砲から放たれた弾はメインカメラのある頭部と、それをかばおうとしたマニュピレーターを破壊した。
このとき、すでにアヤカ機の戦闘力は失われていた。 
「ヤベちゃん斬り!」 
バズーカ砲を構えた機体を飛び越えて斬りかかった機体は頭部の無いアヤカ機をその腰当たりまで斬り下げた。 
ミチヨはその目で三体の確認を行った。右肩は赤く塗りつぶされ、白抜きの文字で、asaとある。 
(あ…あれはms−9 dom asa3sカスタム…なんでこんなとこに) 
その驚きを越えてわき上がる感情がある。自分のふがいなさを恥じる気持ち。
敵を甘く見るなどという初歩的な失敗をしたことへの悔恨、そして、自分の力を試したい。
あの浅草橋の三連星に自分の力が通じるかという軍人としての特別な感情。もっともこれはミチヨ自身自覚外ではあったが… 
「もう一機です。行きますか?」 
「当然だ。久々の戦闘、楽しませてもらわなくてはな…」 
「だめ!このミッションは失敗!ミチヨ、後退して!」 
そのヤスダの言葉はミチヨには届かない。それは戦闘濃度に散布されたミノフスキー粒子のせいだけではなかった。 
予定より逃げるのが遅れた…すでに頭上で戦闘が起こっていた。 
「早く逃げないと!ヤグチ!」 
マリは動かない 
「どうしたの!?早く逃げないと危険だよ!ヤグチ!…ヤグチ?」 
マリは泣いている。しかも、普通の泣き方ではない。まるで、恐怖に免疫のない子供のようにしゃくり上げるように泣いている。 
(今度こそヤグチのことが分からなくなったよ…) 
「どうして…ひどいよこんなの…ナッチ…どうしてなの…」 
(そうか…知らない内にヤグチのこと巻き込んでしまって…) 
途方に暮れていると、後方から、ナツミを探すナカザワの声が聞こえてきた。 
「そんなとこおったらあかんて!」 
今度こそしばらく連邦軍に身柄を拘束されてしまうことはまぬがれない。そう観念するナツミであった。
マリを置いて一人で逃げることは考えられなかったのである。アスカの二の舞はごめんだ… 
「ふ〜ん、やっぱりレキセンノユーシってすごいんだね〜全然寄せ付けないし」 
「浅草橋の三連星のことですか…」 
マキの呟きにャシノダが答えた。 
「私もね、そう、ああいうニックネームっていうの?かっこいいなぁって思ってたんだけど、
赤い日記帳ってなんか赤い彗星みたいでかっこいいんだよね〜今度ユウちゃんにくれるようにたのんでみよっかな〜」 
(赤い彗星…大佐は本当に14歳なのか…?) 
赤い彗星とは、サヤカ・イチイが『サヤカの反乱』よりさらに前に呼ばれていた二つ名であった。 
シノダは不思議に思ったが、聞くことはしなかった。意味がないことを聞くのは効率が悪い。それは体操をしていた昔からの経験であった。 
「今回は私の出番はないね」 
というとマキは身を翻し、パーティ会場の自分の席に特別用意された酢昆布を口にした。 
「やれる!」 
ミチヨは呟く。こちらの方がスピードも、パワーも勝っている。それは数値が証明していた。 
「1たす1たす1が3ではないことを教えてやろう」 
「オカムラさん昔から数学苦手でしたもんね」 
オカムラの呟きにヤベが答える。ハイスクール時代からの先輩後輩の仲である。ミチヨ機は高速で接近してくる。 
「ジェットストリームアタック!フォーメーションだ!」 
「はい!」 
「オカムラさん!これが終わったら又一緒にサッカーやりましょうね!」 
「!?おう!」 
ヤベの言葉に戸惑いながらオカムラは答えた。 
「お前らのやり方は研究ずみなんだよ!」 
ミチヨ機は左手のシールドでエミリ機の拡散ビーム砲を防ぐと飛び上がり、
その後方から現れたオカムラ機の肩に足をかけ、ヒートサーベルで斬りかかるヤベ機を待ちかまえる。 
「俺を踏み台にしたぁ!?」 
オカムラが叫ぶ。 
「こいつら…どこまでもシュミレーション通りかい!」 
ミチヨ機はビームサーベルを構えた。しかしその瞬間、ミチヨは全身に衝撃を受け、気を失った。 
「あほ!なめとんのか!」 
ヤベ機はミチヨの搭乗するメッサーのコクピット部に跳び蹴りを喰らわせていた。
サッカーで強化選手にも選ばれたことがあるヤベのとっさの機転であった。 
「すごい!さすがヤベさ……!!」 
声を張り上げようとしたエミリが何かに気付いた。 
「く…やっぱあきませんわ…オカムラさん…」 
ヤベ機は大爆発を起こし、ヤベの生命を連れ去った。 
ミチヨ機は相打ちの形でヤベ機の動力部を貫いていたのだ。 
「…………!!!!」 
「オカムラさん…」 
エミリはかける言葉を探そうとした…が、すぐに無駄だと気付いていた… 
(共に過ごした時間が違いすぎる…) 
「そ…そんな…ミッチィまで…」 
ケイは衝撃のために判断が遅れた。 
「早く撤退するの!奴らも捕虜をすぐに処刑したりはしないから!」 
ルルにうながされ、ようやくケイは気付いた。 
「あれ〜?帰るの?アヤカちゃんは?ミチヨちゃんは?」 
カオリの無邪気さにケイは胸が潰されそうだった。 
「…撤退しましょう…」 
(ナッチは無事だよね…) 
ケイは祈る気持ちだった。
その晩、ナツミは戻らなかった。 
(ナッチ…無事なの?どうして戻って来ないの…) 
イエロー・ファイブに於ける精神的支柱的存在でもあったケイ。その彼女が不安に包まれていた。アヤカ、ミチヨという仲間を一度に失ったのである。無理からぬことではあった。 
(眠れない…) 
ベッドを起ち、少し散歩をしよう。そう考えたつもりが、気付くとルルの部屋のドアの前に立ち、そのドアをノックしている自分に気付いた。 
「なぁに?ケイちゃんでしょ?」 
「え!?どうしてわか…あ…そうか…」 
「カオリはノックなんてしないからね」 
今やこのアジトには3人の人間しかいないのだ。 
「それで…何かようなの?ナッチが帰ってきたとか?」 
「あのね、少し寂しいんだ…」 
「ごめん…一人にさせて。私もね…色々あるんだ…」
火照った体を冷やす為に散歩に出るケイであった。 
(私…私も女なんだ…戦場で失っていくのね…色々なものを…)
その晩、軍に提供されたホテルの一室にマリとナツミはいた。 
ナツミは謝りたかった。マリを巻き込むつもりは無かったのに… 
「ごめんねヤグチ…こんなことになるなんて…完全に予定外で…ヤグチは巻き込みたくなかった。これは本当だよ!?」 
「やっぱりナッチはテロリストなんだよ」 
「え!?」 
「知ってるよ。イエローファイブって、民間人の思ったことをやってくれている。でも、こないだで民間人の犠牲者が300人を越えたんでしょ?」 
「それとこれとは…」 
「違わないでしょ!やっぱり私も利用されたんだ!関係ない人も巻き込んで…信じらんない!」 
ナツミは言い返すことが出来なかった。 
(やっぱりヤグチとは住む世界が違かったってことなんさ…) 
そう思うことで心の中のマリを打ち消そうとした。
「人は変わっていくで成長するはずなのに同じ間違いを繰り返すのは悲しいことなんだ…」 
伝説のニュータイプが語ったと言われる言葉をナツミは思い出していた…