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えっちな中澤番外編「深窓の仮面」

「もう飽きたんだよ。あんたにも娘。にも」
市井が唐突に切り出した言葉に、中澤は蒼白になった。
「ここに留まってても、もう面白くないだろ?何でも思い通りになっちゃうしさあ」
「・・・そんな・・・。本心なん?いつものゲームと違うん?」
欠伸をしながら退屈そうに雑誌をめくる市井の態度に、中澤は媚びた視線を送る。
「社長にも話は通したことだしね。21日の武道館でおしまい」
素っ気無い市井の口調に、中澤の目からボロボロ涙がこぼれる・・・。
泣くことしかできずにいる中澤に、市井は冷たく言い放った。
「やれやれ、本当に最後まで最低っすね〜〜。リーダーとしても女としても」
(あんたがウチを仕込んだんやんか!)
身体に深く刻み込まれた刻印は、女を残酷なまでにあさましくさせていた。

可憐に咲く一輪の百合のように、その少女は儚げに佇んでいた。内側に踏み込むのを
躊躇わせるような第一印象を持ったのは、中澤だけではなかっただろう。しかし・・
「石川ってコ、綺麗な顔してるね〜〜!ちょっと紗耶香にも似てる。オイラより大人っぽいよ」
無邪気に笑うムードメーカーの本性を、まだ誰も知らない。

「裕ちゃん、紗耶香がいなくなって淋しいのは判るけどさあ、元気だそうよ」
「え・・うん・・」
潤んだ目で訴える保田に生返事をすると、中澤はテレビ局の廊下を歩き始めた。
(ごめんな、圭坊。なんかそんな気分になられへん・・・)
あれ以来、保田も安倍も、時々中澤を求めて来るようになった。それはそれで楽しめてはいた。
しかし、本来Mである中澤を、本当の意味で満足はさせてくれないのは当然である。
(圭織ともあれっきりや・・・。やっぱりあの時の状況でああなっただけやし)
「裕ちゃん、昨夜のことは忘れてね。お互い楽しんだわけだし、これっきりにしましょ」
実際、飯田にはそう言われたし、もう何事もなかったように振舞っている。
(圭織は気持ちの切り替えが上手いからな・・・あれ?)
TV局を出てタクシーを待っていた中澤の目に、意外な組み合わせの二人が目に付いた。
(矢口と石川やん・・・。あの二人って仲良かったっけ?)
駐車場の隅で談笑する二人を、中澤はぼんやり眺めていた。
「真理っぺには気をつけたほうがいいよ。ほんと、愛がないからさ」
随分前に市井に言われた言葉を不意に思い出し、妙な胸騒ぎにさいなまれる中澤だった。
(あの時ちゃんと訊いてたら良かったな。どういう意味なんやろ?)
いつも明るく気さくな人気者の矢口。あの市井が「気をつけろ」というのは、何か
そぐわない言葉だ。
矢口と石川。どっちが年上だか解らない組み合わせは、周囲には微笑ましい光景にしか
映っていなかっただろう。

ベッドに潜りこんだ石川の脳裏に、今日の出来事があれこれ思い出される。
(保田さんは私のことを思って言ってくれてるんだろうけど)
午前中のリハーサルの時、上手く声が出せない石川に、教育係の保田から幾度となく注意
がなされた。実際保田のアドバイスは適切だし、指導の仕方は熱心だ。しかし、歯に衣着せぬ
物言いは、時としてかなりキツイ印象を受ける。
厳格で上品な家庭に育った石川は、それでも口答えすることなく保田の言葉を噛み締めていた。
しかし、ただでさえ慣れない環境に身を投じ、毎日張り詰めている彼女にとって、それは
やはり落ちこむ材料に他ならない。
(矢口さんは優しいな)
こういう時、矢口は絶妙のタイミングで近づいてくる。ニコニコと、保田に対しても嫌味に
ならないように「どんまいだ!」と小さな声で言ってくれたりする。
(優しいし明るいし、可愛いし・・・・矢口さんっていいなあ)
「・・・んっ・・」
寝返りをうった途端、電流のような感触に襲われ、声が漏れる。
(まただ。生理前ってやだなあ・・・ブラのサイズ変えなきゃ。またおっきくなってるし)
敏感になった乳首が下着に擦れ、勃起しているのだ。
(さっきもシャワー浴びてる時、なんか変な気持ちになったし・・嫌だな。私って)
石川にオナニーの経験はない。雑誌などの情報で知識はあったが、なにか「不潔」で「悪い」
ことのように思えるのだ。異性との交際の経験はあったが、キスまでしか許さなかった。
初めてのキスのあと、自分の下着が汚れているのを知ったとき、石川は酷い自己嫌悪に陥った。
(私って厭らしい)
そのくせ他人の体験談には聞き耳を立て、雑誌やメディアにセックスに関連する文字を見かけると
必ずチェックをしてしまう。知識とイメージだけが膨らんで行く。
石川にとって、セックスとは好奇と畏怖の対象であり、神聖なものであると同時に醜いものであった。