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シアターいちごま・R-15

特別に何かがあるわけじゃないけれど、でも、決して失うことのできない、平凡な日々。

はじめてキスを交わしてから半年ほどの、ある一日。
真希はいつものように学校へと向かう。いや、学校に行く前に、必ず通るところがある。
学校から遠ざかるように交差点を曲がり、しばらく歩く。
ときどき、会社に向かうサラリーマンや、自分とは違う制服を着た女の子たちとすれ違う。
行き先はもちろん、紗耶香の家だ。ほんのしばらく歩いて、家の前までたどり着く。
ピンポーン。チャイムを鳴らした。しばらくの静寂。と思ったら、そのうちドタドタと物音がする。ガチャ。
「おはよー、紗耶香さん」
元気よくあいさつする。一方紗耶香は。
「……うーす」
声のトーンが低かった。
「こーら。そーゆーあいさつはダメだよー」
「……おはよ」
言い直して納得してもらう。
「いつも以上にテンション低いね。眠れなかったの?」
並んでゆっくりと歩きはじめてから、真希は紗耶香を見上げて訊ねる。
紗耶香はうつむいたまま、大きなあくびをふぁ〜、としていた。

「んー。なんか寝つけなかった」
「そう。じゃあ、電話くれればよかったのに。話し相手にくらいなるってば。」
「そんなことしたら、真希も寝らんないだろ……」
つぶやきながら目をこすっていた。
「……行くのやめよっかな」
そんな後ろ向きなセリフに、真希はちょっと怒ってしまった。
「もう。紗耶香さんはどうしてそうなっちゃうのかな。そんな理由で休んじゃダ〜メ」
「……ったって、行っても寝ちゃうし」
もう一つ大きなあくび。
「それは……いいよ、別に」
「いいの?」
真希ならきっと「寝ちゃダメ」と言うと思っていただけに、ちょっとビックリして聞き返した。
「眠いんでしょ? 先生に何か言われるの覚悟してるんなら、別にいいじゃん。
それよりも、行くことが大事だよ」
病気でもないくせに学校を休んでいた頃の紗耶香をふと思い出す(そのせいでダブってしまい、
真希をはじめとするクラスメイトに“さん付け”で呼ばれる始末だ)。
その時も、学校に出てきて寝てたこともあった。
「そうだよ」
「何が?」
「紗耶香さんは前からずっと、居眠りしてたじゃない」
「……そう、だな」
「休んじゃうよりは、いいと思うよ。出席日数も足りるし」
「……そーゆーコトにしとく」
誰よりも、真希から赦しを得たことによって、紗耶香の心は救われた。
もちろん、1時間目から寝るつもりだ。

滞りなく授業は進み、一時間目の休み時間。
「紗耶香さん、ちょっとだけ起きて」
「んー……んっ?」
眠そうな声を出していたけれど、突然ガバッと顔を上げた。
「あ、休み時間か」
「うん。次の時間の用意してね」
「次……」
教科書とノートを入れ替えて、再び眠りにつこうとする。が、ふと思い立ち、真希に声をかけた。
「真希、悪いんだけどさ」
「なぁに?」
「あとでノート、写させて」
といった途端に再び眠る体勢に戻った。
「……しょうがないなぁ」
そう言いつつも、自分を頼ってくれる紗耶香がとても可愛くて愛おしかった。

さて、順調に居眠りを続けていたのだ紗耶香。
2時間目後の休み時間に、再び真希に起こされ、寝ぼけた頭で考えていると、
いやなことに気がついてしまった。
「……4時間目、体育だっけ?」
「うん」
瞬間に答えが返ってしまった。ついに居眠りは幕を閉じるのか。
「保健室、行く?」
続けて話した真希の言葉に、紗耶香はまるで目が覚める思いだった。
いや、眠気はちっともなくなっていないのだけれど。
「……いいのか?」
「……今日は特別、だよ」
「サンキュ」
「今から連れてってあげる」
真希はそう言って紗耶香を椅子から立たせ、腕をつかんで引っ張った。
「真希」
「ん? どしたの?」
渡り廊下を越えて、もうすぐ保健室。
「怒られたり、しないか?」
「紗耶香さんは馴れっこでしょ」
つい口が滑ってしまった。けれど、紗耶香は別段意に介していない様子だった。
「アタシはいいけど……真希が」
真希はくすっと笑った。
「紗耶香さんのために叱られるんなら、私全然平気だよ」
そう言って、保健室の扉を開けた。

「すみません、体調悪いらしいので寝かせてあげてください」
「はいはい。ん? あら、顔色もあんまりよくないわね」
養護教諭・保田圭は紗耶香を見るなりそう言った。
本人はただ眠いだけなので、あまり病人扱いされたくはないのだけれど、
だからってそれを否定すると追い返されるかもしれないので、黙っていた。
「それじゃあこっちに寝て」
紗耶香はうなずいて、空いていたベッドに一度腰掛けた。
「あ、制服が苦しかったら、脱いでてもいいわよ」
「……うん」
言われるままに、制服の上衣を脱いで、横になった。
「じゃあ、お願いします。紗耶香さん、それじゃあね」
「うん。ありがと」
真希が立ち去ってしばらくすると、チャイムが鳴った。
「しばらく、私の話につき合ってね。すぐに寝かせてあげるから」
圭はベッドの横に置いてあった椅子に座り、紗耶香に話しかける。
紗耶香はじっと目を閉じていたが、まだ眠りには落ちていない。
「私は、サボる目的でここに来るコは、絶対に追い返すことにしてたの」
紗耶香の心がチクリと痛む。説教されるくらいなら今からでも教室に帰ろうか、などと思っていた。
「何年前だったかな、どうしても教室に行けないコがいて。
いじめられてたってわけじゃなかったみたいだけど、悩みとかもあって、
つらかったんだろうね。周りから見たらただのサボりなんだろうけど、でも、そうじゃないってわかって」
紗耶香はじっと聞いていた。

「その時にね、ちょっとだけ考えが変わった。身体がつらいだけじゃない、
心のつらい子もいるんだって。そのための保健室でなきゃいけないんだって」
そこまで話して、圭はすっくと立ち上がった。紗耶香はそれを気配で感じた。
「市井さん。あなたも、心がつらいときがあると思う。そんなときは、ここに来ればいいよ。
あなたは今まで、学校から逃げてたけど、ちゃんと来るようになって。
でも逆にそれで苦しいときがあるなら、ここにいたらいいから」
そしてその場を立ち去ろうとするのを感じた紗耶香は、そっと目を開けて、つぶやいた。
「大丈夫だよ、……つらくっても、一緒にいてくれるコが、いるから」
圭は振り返る。
「そっか。後藤さんが、助けてくれるね」
「うん……」
「ゆっくり休みなさい……で、ホントのところは? ただのサボりじゃないでしょうね」
圭は少しトーンをあげて訊ねてきた。
「昨日、眠れなかった」
「考え事?」
「……そんなトコ」
「うーん……微妙だけど、まあ、ゆっくり休んでいきなさい」
そう言って圭は側から離れていった。消毒液の匂いと、静寂に包まれて、紗耶香は眠りに落ちた。

幸せそうな顔をして眠っている紗耶香に、そっと声をかける。
「紗耶香さん」
もぞもぞと動くけれど、まだ起きてはいない。
「紗耶香さんってば」
ちょっと身体を揺すってみた。
「ん……んー」
ゆっくりと目を開ける。
「おはよう、って、違うかな」
そう言ってくすっと笑う真希。
「よっ……んっんんー」
紗耶香は上体を起こして背伸びをする。
「よく寝た?」
「うん」
「もうお昼だよ」
「そっか」
「お弁当持ってきたよ、はい」
「サンキュ」
目の前に差し出された弁当箱を手に取る。
「もういいの?」
真希の背後から、圭が声をかけた。
「あ、はい。もう大丈夫です」
「うん。じゃあ、授業中居眠りしないようにね」
「……はーい」
ちょっとばつが悪くて、圭から目をそらした。
「先生、ここで食べてもいい?」
真希の問いかけに、圭はしばし思案する。
「こんなところでいいんなら、どうぞ。ただし、ベッドの上、汚さないのと、あと……」
ふたりの顔を見比べながら、もう一言。
「変なコトしないでね」
「う、うんっ」
真希は照れてうつむいてしまった。

圭が去った後、ふたりは弁当箱を開けて食べはじめた。
紗耶香はベッドの上、真希は椅子に座っている。ふと、真希が訊く。
「紗耶香さん、眠れなかったのって、なんで?」
「え? ああ……」
あまり話したくなさそうな様子だ。
「あ、言いたくないなら、いいよ。無理して訊かない。でも、私にできることがあるんなら……」
「……うん」
紗耶香は箸の動きを止めて、ぽつりとつぶやいた。
「アタシ、ホントにこれで、いいのかなって」
「これで?」
「うん……なんて言うか、その、こないだまで、自分から突っ張ってたわけだし、
その……急に態度変えたりしても、みんな、その」
「変わってないよ、あんまり」
「……変わって、ない?」
紗耶香のなんとも言えない表情を見て取った真希は、
だからって決して機嫌をとるようなことは言わなかった。
まっすぐ紗耶香を見つめる。

「少しは変わったよ。それはすごく大変だったと思う。でも、紗耶香さんの、
紗耶香さんらしいところっていうのは、変わってないと思う」
紗耶香もじっと真希を見つめ返している。
「でも、それでも、みんなは、紗耶香さんを受け入れてくれてる…
…ううん、そんな言い方ヘンかな、やっぱり。むしろ、私も含めて、
みんなが、紗耶香さんに近づいてきたんだよ」
真希の微笑みは、紗耶香にとってどんなものにも代えがたい。
「真希……」
「うん。紗耶香さんは、そのままでいいんだよ。
自分で変えようなんて思わなくっても、少しずつ、少しずつ変わっていっちゃうものだと思う」
「そっかな」
「うん」
真希の笑顔に反応するように、紗耶香は顔をほころばせていた。
「つまんないことで、悩んじゃったな」
「でも、紗耶香さんには、大事なことかもしれないよ」
黙ってうなずいた。そう。今までと、今と、これから。
それを自分の中で統一させるのは、本当は難しいのかもしれない。
でも、それでいい。ときどき壁にぶつかっても、それを助けてくれる人がいるから。

あとは他愛ない話をして、お弁当タイムは終了。
「ほら紗耶香さん、そろそろ教室に戻るよ」
「……ちょっと待って」
うつむいている紗耶香。
「ん? どしたの?」
紗耶香の顔をのぞき込む。その瞬間。チュッ。ふたりの口唇が触れ合った。
「……っ!」
咄嗟に顔をはなす真希。
「紗耶香さんっ!」
紗耶香はニヤッと笑った。
「いいじゃんか、ちょっとくらい」
「もう。先生に見つかったら、大変なことになるのに」

「なにが大変なの?」
「うわわっ!」
保健室に戻ってきた圭を見て、真希は思わず驚嘆の声を出す。
紗耶香の方はいたって堂々としているように見せかけて、ちょっと鼓動が速くなっていた。
「ちょっと、化け物見たみたいに叫ばないでよ、後藤さん」
「あ、ご、ごめんなさい」
「もういいんなら早く帰んなさい。授業はじまるから」
紗耶香は言われる前から制服を着はじめていた。
「それじゃあ、ありがとうございました」
「はい。それと、学校の中でいろいろするのはいいけど、気をつけるのよ」
見られてたのか。それともただの当て推量だったのか。わからないけれど、わかりたくもないふたりだった。

眠気も吹っ飛んだおかげで、とりあえず午後からの授業は起きていた。
紗耶香はちょこちょことノートを取りながら、少し席の離れている真希の後ろ姿をちらちらと見ている。
(真希……)
さっきのキス。
真希は怒ったけれど、でもあれは、自分の気持ちを、精いっぱい表現したことなんだ。
もちろん、先生に見つかってしまったら、あとが大変なことは充分わかっている。
でも、そうしなければ、気持ちが整理できなかった。
(ありがとう、真希……)
悩みを相談できるなんて、どれだけ幸せなことだろう。その幸せが決してもろいものじゃないことを、どうしても確かめたかった。だから、あのキス。
(真希は、幸せ、かな)
ふたりのキスが、お互いの至福を確認する行為のひとつでありますように。

放課後。ふたりはいつも、とりあえず教室に残ってお喋りをしている。
今日は他のクラスメイトも大勢いて、しばらく談笑していた。
こんな時、ふたりはちょっと複雑な気持ちになる。とりわけ、ベタベタしたいなぁ、
などと、なんとなく思っている日は、早くふたりっきりになりたい。
女子たちが帰っても、その日は男子たちがくだらない話をして、
教室に居残っていた。これではらちがあかない。
仕方なくふたりは、難民のように学校をさまようことになる。
誰にも知られない場所がもしあれば、ふたりはなんとしてでもその領域を確保するだろう。
でも、学校内という場所は、誰がどう考えても、見られる可能性がある。
もちろん、そのスリリングな環境を楽しんでいる、という見かたもできるだろうけれど。

いいかげんうろうろしてみたけれど、今日はちょっと運が悪い。
どこも空いてないか、明らかに先生に見つかるような場所しかなかった。
「真希、……帰ろっか」
「……やだ」
はっきりと拒否した。
「ンなこと言ったってさぁ」
ふたりは2階の廊下を歩いている。ふと、トイレの前にさしかかった。
「紗耶香さん」
真希は紗耶香を呼ぶ。紗耶香が真希を振り返ると、真希はトイレを指さしていた。
「……本気?」
「うん…」
紗耶香の手を引き、トイレに入る。ふたり一緒の個室に入り、鍵をかけた。
「ここなら、いいでしょ? もうほとんど残ってないし」
「そうだけど……なにもこんなトコ選ぶくらいなら、アタシんちでもさぁ」
「学校で、今すぐ、ってのがいいの」
妖艶な視線を紗耶香に向ける。あんまり好きな場所ではないが、
狭いから抱きあう感じがたまらなくいい、という気もしてきた。

「……じゃあ……」
真希のあごを持ち、くいと上に向けた。真希はそっと瞳を閉じ、その瞬間を待つ。
「ん……」
口唇同士が触れあった。柔らかなそれをお互いに堪能するように、
こすりあわせ、吸いつき、舐め、咬む。
少し口をはなして、息を整えると、今度は口を開いたまま密着させる。
今日は紗耶香から、真希の口の中へと舌を滑り込ませた。先に入れた方が主導権を握る。
「う……ん……」
真希が鼻息を漏らす。紗耶香の舌が口唇と歯の間に滑る。
口唇の裏側の柔らかな粘膜や、並びのよい歯を舐めまわしている。
「ん……ふ」
紗耶香の舌を伝って、唾液が流れ込む。やや上向きの真希は、
自分の唾液も口の中に溜まっていることに気づく。わかってるけど、あえてまだ飲み込まない。
「んっ」
真希は背伸びをして、さらに深いキスを求めた。じっとしてるだけじゃつまらないとばかり、
真希も一生懸命に口を、舌を動かす。それに伴って、顔も自然と動く。そうしていると、
口角から唾液があふれる。真希の口角から流れ出た唾液を、真希は自身の指ですくう。
そっと紗耶香の頬に手を寄せるようにして。
「んっ……んは」
紗耶香から口唇を退けた。口の周りを唾液まみれにしながら、呼吸を荒くしている。
「はぁ……真希……」
真希は自分の指についた唾液を舐め取る。紗耶香は掌で、口の周りの唾液を拭った。

「紗耶香さん」
自らが舐めた指を、そっと紗耶香の前に突き出す。何も言わず、その指先に吸いつく。
「えへへ。なんかね、指、舐められるだけでも、気持ちいいんだ」
真希はうれしそうに言った。
「……んっ、と。じゃあ……」
紗耶香はその場にしゃがんだ。別に用を足すわけじゃないけれど、ちょうどそんな感じになってしまった。
「脚、開いて」
言われるまま、真希はそっと開脚する。紗耶香は真希のスカートをたくし上げ、その中に入っていく。
「……あんまり、見ちゃいやだ……」
「じゃあ」
右手もスカートの中に入っていく。
「きゃんっ!」
見るのがダメなら、触ってしまおう。紗耶香はその考えをダイレクトに行動に移した。
「やっ……」
パンツの上から、そっと、そっと撫でてみる。真希の一番秘密の場所。
でもそこは、紗耶香には秘密じゃない。もちろんその逆もまた然り、だ。
「あ……はっん」
微妙な力加減で、秘部をなぞっていく。真希が頭をのけぞらせているのは、残念ながら紗耶香には見えない。
「……真希、なんか、濡れてきたけど」
そんなこと言わないで、と思っている。けど、言ってもらうと、
ますますな昂ぶる気持ちになってしまう。複雑だけれど、どっちかにまとめてしまえない感情。

「おしっこしたいの?」
「ち、違うよっ」
「じゃあ、なに?」
「……わかるくせにィ」
「わかんない」
紗耶香は時々、こうやって真希をいじめている。いや、いじめなんて言葉はおかしいのかもしれない。
「もう……」
怒ったそぶりで、紗耶香の頭を押さえる。
「冗談だって。わかってるよ」
そう言いながら、何度も何度も濡れている部分を撫でる。
「んっ……くぅんっ」
少しずつ、心地よさが広がっていく。それはまだ、強烈な快感ではないけれど、
とても柔らかな、暖かな気持ち。
「んは……ん」
「なんか暗いなぁ……そうだ」
紗耶香は一度スカートの中から顔を出した。そして、真希のスカートの裾をひょいとめくる。

「やっ!」
「なにもそんなビックリしなくっても」
いきなりのことに驚いた真希はめくられないようにスカートを押さえたが、
それが無意味な行為だと気づいて、そっと手を退けた。紗耶香はスカートの裾をそのまま引き上げ、
真希の口許へともたらす。(といっても、真希のスカートはそうするには、短すぎるのだけれど)
「咥えてて」
「……え?」
「ほら」
ちょっと強引に、裾を口唇に咥えさせた。
「ん、んんっ」
「ちゃんと咥えてんだよ」
なんだか凄く恥ずかしい格好だった。でも、なんだかドキドキして、このまま紗耶香に任せておく。

「んん……」
同意の意味を込めて、真希はうなずき、スカートの裾をしっかりと咬んだ。
紗耶香は再びしゃがみ込んで、真希のパンツに隠された陰阜の部分をまじまじと見つめている。
真希の羞恥心をあおるその行為。真希はもじもじと、腿をこすりあわせるようにしている。
「そんなにしないで、ちょっと開いてよ」
紗耶香に言われて、開こうとする。でも、なんだか開けない。
「どうしたんだよ」
ちょっと言葉がきつくなった。もちろん、紗耶香は意識的に使ったわけじゃないし、
真希も馴れていたから、それを取り立ててどうこう言うことはなかった。それよりも、
なぜ開けないか。そっちの方がずっと大事。もっと気持ちよくなれる条件を、どうしてクリアできないか。
「あ……あの」
真希が口を開いた。スカートがはらりと、元の形に戻る。
「立ってられなく、なりそうだし」
ためらいがちに、上目づかいで紗耶香に話す。
「なんだ。じゃあ、もうちょっと後ろに」
真希の身体を押して、少し後ずさりさせた。狭いトイレの個室だから、すぐに壁に行き当たる。
「そうやってもたれてればいいよ」
そう言ってにっこりと笑う紗耶香は、もう一度真希にスカートの裾を咥えさせた。おとなしく従う真希。
「うん。よし」
納得して、脚を開かせる。真希も今度は、少しずつ脚を開いた。

開いたその根元に、紗耶香が鼻先をこじ入れる。
「んんっ!」
少し強引だったその動きを、真希は嫌がった。でも紗耶香もそれで引き下がるつもりはない。
柔らかですべすべの内腿に、そっとキスした。
「んっ……」
紗耶香の熱い口唇。それが何度も内腿に口づける。白い柔肌に、赤い跡をつけるくらいに、熱心に繰り返す。真希の快感は、肉体的なものと、精神的なものが一緒に高まっている。
「んふぅ……」
両腿へのキスを一旦止める。真希の、緊張感によると思われる力が抜け、
自然と足が開ける状態になっていた。今度のキスは、一枚の布を隔てて。
「んん……」
淡いピンクのパンツの、少しく濡れた部分。紗耶香は狙いを間違うことなく、
的確にそこを攻撃した。真希は鼻息を漏らして、気持ちの良さを表現する。
「ジャマだなぁ」
紗耶香は真希の股間から顔をはなして、そうつぶやいた。もちろんそれは、パンツのことだ。
「脱ごうね」
優しく声をかけ、パンツに手をかけた。真希はフォローするように、自らお尻の方からパンツを下ろす。

「取っちゃうよ」
膝を越え、脛まで下ろしてから、紗耶香がそう言った。真希はまず左足を上げる。
紗耶香の手によって左足からパンツが抜かれた。真希は左足を下ろしてじっとしていたが、
紗耶香がちょん、と右足のふくらはぎをつついてきたので、今度は右足を上げた。
「床に着いちゃったら、イヤでしょ?」
そう言って紗耶香は真希からパンツを取った。
「これは、預かっとくよ。」
大事そうに、自分の胸ポケットにしまう。しかし、ポケットから少しはみ出ていて、
なんだかとっても変な感じだ。
「んじゃ、続き」
そう言うと、紗耶香はすぐに真希の脚を開かせる。
「ちょっと腰を落として……つらいかも知んないけど」
確かにちょっとつらい。でも、そんなつらさを吹き飛ばす、
大きな快感の波が、もうすぐ真希に押し寄せる。
「んむーっ!」
普段は外気に触れない、その秘めやかな場所に、紗耶香は熱く接吻する。
「んっ……んんっ」
真希は声を自由に出せなくてもどかしい。いっそのこと、咥えているスカートをはなして、
思いっきり声を出したい。気持ちいいって、紗耶香に伝えたい。
でも、約束は簡単に破れない。まだ、なんとか我慢はできる。

紗耶香は舌を伸ばして、真希の蜜があふれる場所を舐めはじめた。
はじめは舌をすぼめるようにして、その先でつつくように。でもそのうちに、
ぺろぺろと舌を動かすようにする。真希の味はいつもながら、
紗耶香の頭に突き抜ける何かを与えてくれる。まるで麻薬。決して止めることができない。
「んんっ……んふっ」
真希はぎゅっと目をつぶって、その快感に酔っていた。でも、紗耶香はただそうしているだけでは許さない。
「真希、おっぱい、出して」
「え?」
いきなりの言葉に、真希はどう反応していいかわからない。
「わかんない?」
紗耶香は立ち上がる。真希はちょっと残念そうな顔をする。
紗耶香の瞳は、「まだ終わらないよ」と言ってるように見えた。

「ほら……」
咥えられてめくれているスカートをよけるようにしながら、ブラウスのボタンを外していく。
着ていたシャツをたくし上げ、そしてブラジャーも同じように、上にずらした。
形のよいバストが、ぷるん、と揺れた。
「触って」
真希の耳元で囁く。熱い吐息が、真希の耳にかかる。
それだけなのに、気持ちいい。まるで操られるように、真希は自らの掌で、そっと乳房を包んだ。
「ん……」
掌のちょうど真ん中に、ぽっちりと自己主張している乳頭があった。
それを転がすように、掌で弄ぶ。動きはそんなに激しくないけれど、
電気が発生したように、ビリビリと感じる。
「ん、んっ」
やわやわと、ゆっくり揉むように手を動かしてみる。美しい胸の形をちょっとずつ崩すように、優しく。
「んふ……」
真希の姿態を見つめていた紗耶香は、思い出したようにしゃがみ込んで、再び秘部に舌を伸ばした。
「ふっふぅんっ」
乾きはじめていた場所を、紗耶香の唾液で湿らせていく。
真希は自らの手の動きを止め、その快感を受け止める。
「真希、手ェ、止まってる」
そう言われたなら、動かす他はない。さっきよりはちょっと力を入れて、
それでもまだ優しく、揉んでみる。身体の他の部分では絶対に味わえない柔らかさ。
もちろん、真希が一番好きな感触は、紗耶香のそれなのだけれど。
「んっんふ……」
自然と腰が前にせり出していた。もっと快感を求めるかのような格好。
自分でもわかっているけれど、でも、止められない。紗耶香にもっと愛して欲しい。

「ふぁ……」
ついに、スカートを口からはなしてしまった。ふわりと宙を舞って、
もとの形に戻る。紗耶香はスカートの中に消えた。
「真希……ダメだぞ、約束だぞ」
「うんっ……うはぁ……」
わかってうなずいたものの、自らの乳房を撫でている手が、下の方に伸ばせない。
もっと、もっと、気持ちよくなりたい。紗耶香もそれはわかってた。
だから、無理強いはしない。紗耶香にとって大事なのは、真希を絶頂へ導くことに違いない。
「は、あっ……んっ」
陰唇の間を何度もなぞり、大きな快感の波を起こす、小さな核を悪戯していると、
紗耶香のあごは蜜に濡れ、口の中も真希の味でいっぱいになる。
「やはぁ……んはっ」
真希の喘ぎが大きくなってきた。少し危ないかな、と思っていたその時。

バタン。戸の閉まる音がした。

「!」
瞬間、紗耶香はスカートから頭を出し、立ち上がった。そして真希の口をふさぐ。
真希は胸にあった手をぶらんと下げた。戸の音はどうやら廊下との仕切戸であったらしい。
もう一度バタンと音がした。今度は、誰かが確実に個室に入った。それも隣のようだ。
「……」
真希が潤んだ瞳で紗耶香を見つめる。そのせつなげな表情を見た紗耶香は、
悪戯したくてたまらない。そっとスカートの裾を持ち上げ、もう一度、真希に咥えさせた。
「……っ」
声を出せない。そんな苦しさがあるのに、紗耶香はそっと、真希の陰裂に指をあてた。
「っ!」
驚いて目を見開く。紗耶香は優しく、微笑んで見せた。
そして、裂け目をちょっと拡げて、内部の粘膜をくすぐりはじめる。
「……っ、ん」
真希の声、いや、正確に言えば鼻息が音を持っていたのだけど、それが出てしまった。
真希はあせる。紗耶香も内心、ちょっとはビクッとしていたけれど、でも、このスリルがいいんだよね、
なんて思っていた。

指は少し激しく動く。愛液による滑りも充分で、丹念に何度も何度も撫で上げる。
「っ……っ、っふ」
声にならない声。苦しい悶えと、気持ちいい喘ぎ。混じり合ったそれが、真希から発せられる。
紗耶香はそのもどかしげな表情を見ているとたまらなくなり、真希のスカートを元に戻し、
そっと口づけを交わす。
「……っ」
ねっとりとからみ合う唾液。舌のうごめきが、真希の理性を麻痺させる。
もう、考えることなんてできないでいた。バシャバシャと、水の流れる音がする。
用を足し終えたようだ、隣の個室の扉が開く。手を洗っているのか、少し遠くで水の流れる音がする。

その間、激しいキスをしたまま、紗耶香は指で真希の核を転がしていた。腰をくねらせながら、悶えるように舌を動かす。それが紗耶香の舌にからむ。とてもいやらしい感じ。でも、とても気持ちいい。紗耶香もうっとりとしはじめた。靴音がして、扉の開く音がした。どうやら闖入者は去ったようだ。
「ぷはぁ……」
口唇をはなす。長かったような、短かったような、でも、できれば何度でも繰り返したい、そんなキスだった。
「真希……もっと気持ちよくなろう、な」

紗耶香が耳元で囁く間も、核への攻撃はやまなかった。真希ももう一度、自分の乳房をいじりはじめる。
「んは……はあ……紗耶香、さぁんっ」
せつなく紗耶香の名を呼んだ。紗耶香は真希の耳たぶを咬み、鎖骨のあたりにキスを繰り返していた。
「あっ、ああふぅ」
紗耶香が真希の右手を取った。そしてそっと、真希自身の秘部にもたらす。
自分の指と交替に、それで撫でることを、何も言わずに求めた。
真希もそれが何を意味しているのかわかった。
「あっふぁあっ」
自分の指で慰めている。いや、慰めなんて言葉じゃダメだ。
だって今は、紗耶香と愛し合っているんだから。愛の確認のために、
自分は指で秘部を撫で、紗耶香はそっと胸に口づけ。
「はっ……んああっ!!」
せり出した乳首に、軽く歯を立てると、真希は激しく身悶えした。
自然と、自分の指の動きが激しくなっていく。意識的にしていなくても、
身体は求めている。もうすぐ、 頂上へ。

「あっ、はぁんっ……あっ、くはぁ」
胸への攻撃をやめた紗耶香は、これが最後とばかりしゃがみ込んだ。
できる限り真希の脚を大きく開かせる。顔が収まるくらいの苦しい体勢になりながら、
真希の秘部と密着する。
「うはぁっ!!」
じゅるじゅると音をたて、少し白く濁った液体をすする。
そしてそのあとは、ぴちゃぴちゃと、わざと聞こえるようにいやらしく音を立てて、内側を舐めていく。
「やっ、はぁんっ」
真希は紗耶香の頭を押さえていた。もう、どうしていいかわからない。
紗耶香の鼻が核を適度に攻撃している。腰が溶けていく感覚。立ってられない。
「んっんはあぁぁぁっ!」
すべてを解放したかのように絶叫し、真希は頂上に達した。
身体の力が抜けていくことを悟った紗耶香は慌てて立ち上がり、
そっと真希の身体を支えるように抱く。真希は安心しきって、紗耶香の体の中に収まった。
「真希……可愛いよ」
そんな声をかけながら、頭を撫でる。真希はしがみつくように、紗耶香に支えてもらっている。
しばらくの抱擁の後、ふたりはもう一度、深くキスを交わしていた。

学校を出た時には日も傾き、薄暗くなっていた。並んで帰路を歩く。
「ねぇ、紗耶香さん」
「ん?」
「眠れない時、どうしたらいいか、教えてあげよっか」
紗耶香が「うん」と声を出すと、真希はちょっと含み笑いをして、紗耶香の耳に手を当てた。
「あのね……」
ぼそぼそと、紗耶香の耳に囁く。
「……あのなぁ」
紗耶香は頬を染めていた。
「……ったく、このスケベ」
「あー、そんなコト言うんだ。紗耶香さんなんて私の何倍もエッチなくせに」
「そんなことないよ。……真希とおんなじくらいだよーだ」
ふたりはくすくすと笑いあった。

翌朝。今日は目覚めのいい感じで紗耶香が玄関から出てきた。
「おはよ、紗耶香さん。今日はスッキリしてるね」
「ああ。ちゃんと眠れたしなぁ」
そっと耳打ちする。
「……真希の言ったとおりにしたから」
しばらくの時間を置いて、真希が一言。
「やっぱり紗耶香さん、エッチだよねー」
「なんだとー!」
逃げる真希に、追いかける紗耶香。
初夏が迫った、朝の光景。

おわり