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本能

「さ〜て、お熱測りま〜す」
この病院に勤めはじめて、もうすぐ2年になる。
林檎は看護婦として忙しい日々を送っていた。
普通、看護婦が患者に特別な感情を抱くことは少ない。
それがたとえキムタク似のハンサムな患者であっても・・・。
三流AVなどで展開される淫乱なナースの話など、現実にはないものだ。

とある日。林檎のいる病院に一人の少女が入院してきた。
名前は、なつみ。胸を病んでいるらしい。
小柄で、端整な顔立ちだが、病のせいか青白い顔をしている。
なつみの担当になった林檎は、優しく問い掛けた。
「なつみちゃん?私、担当の椎名といいます。よろしくね。」
「・・・はい。ケホケホ」
生気のない表情で答えるなつみ。

「あの子は、結構難しいな」
「どういうことですか?先生」
「身体のほうは、それほど悪いわけじゃないんだ。心の問題かな」
「こころ・・・。」
「診察してて、僕が何か問い掛けても反応がおかしいんだよ。
どこか上の空というか・・・。」

その日の午後、林檎は回診の途中でなつみのところへ寄ってみた。
「なつみちゃん、気分はどう?」
「・・・・・あぁ、看護婦さんか。別に」
無表情のまま答えるなつみ。何か別なことを考えているようだ。
「ねえ、何かあったら遠慮なくあたしに言ってね。」
「・・・・・おかまいなく」
『先生の言った通りだわ』多少辟易した林檎だった。

今日は夜勤。こまめに巡回し、患者の様子を見て回る。
なつみの病室に近づいたときだった。彼女は個室なのだが、
中からなにやら物音が聞こえてくる。
「?」不思議に思った林檎は病室へ入った。
「なつみちゃん?」
なつみはうなされたようにベッドの上で悶えていた。
「・・・い、いやぁぁぁ、やめてぇ・・・・・」
ものすごい汗だ。林檎が覗き込み、なつみを起こした。
「なつみちゃん、なつみちゃん?しっかりして!」
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・ここは?」
「病室よ。すごくうなされてたみたい」
「・・・・・・夢か・・・・・ケホケホッ」
「大丈夫?何かあったの?私でよかったら、聞かせてくれない?」
「・・・」

「・・・」なつみは黙ったままだ。
「・・・なつみちゃん・・・」
林檎が優しく、且つしっかりとなつみを見つめる。
「看護婦さん・・・」
突然、なつみが林檎に抱きついた。
「どうしたの?」
「しばらく、こうさせて・・・」
林檎の豊満な胸に顔を埋め、なつみは泣いているようだった。

どうしていいかわからないまま、しばらく林檎はなつみを抱きしめていた。
「なつみちゃん、こんな時間よ。もう寝なきゃ。」
「うん・・・ねえ、看護婦さん」「何?」
「明日も、こうしてもらっていい?」
「・・・ウフフ、いいわよ。じゃ、おやすみなさい」

林檎は胸に残ったなつみの、涙のあとと温もりを感じつつ病室を出た。

こうして毎晩、林檎はなつみの病室を訪れ、抱きしめていた。
しかし、なつみは決して自分のことは語らない。
どうして病気になったのか、過去に何があったか、など・・・。
林檎も、敢えて訊かないようにしていた。

ある晩。その日は早番のため、夕方で仕事が終る。
「う〜ん、今日はちょっと早いけど、なつみちゃんのところに行こうかな?」
林檎はなつみの病室へ向かう。
なつみは、すやすやと寝息を立てていた。
「今日は寝ちゃってるのかな?」
微笑みながら、なつみの寝顔を眺める。
ふと、なつみが寝言を言った。
「・・・・鎖を・・・・いて・・・」
「鎖を・・・?何のことかしら」
言葉が気になった林檎だったが、とりあえずそのままにしておいた。

なつみはだんだん林檎になついてきたらしい。
ある日、珍しく笑顔でこう言った。
「林檎さんって、胸大きいですね。」
笑いながら、林檎も応える。
「ちょっと、何を言ってるのよ、もう。
でもね、まあないよりはマシかな。」
「あら、あたしが小さいって言いたいの?林檎さんひど〜い」
そして大笑いする二人。

ふと醒めた表情で、なつみが呟いた。
「・・・まるで、・・・みたい。林檎さんって」
「うん?誰みたいって?」
「い、いやっ、何でもないんです、アハハハ・・・」

しかし、相変わらず過去のことには口を開こうとしない。
そして、悪夢でうなされるのも変わっていなかった。
時折発する、『鎖』という言葉も・・・。

「なつみちゃん、先生が言ってるのはね、身体のほうは
もうほとんど大丈夫なんだって」
なつみの表情が曇る。
「・・・それで、元気になり次第、退院でき・・」
「あたし、退院したくない。まだ・・・」林檎の言葉を遮るなつみ。
「わがまま言わないで。普通に生活できることって、大事でしょ?
ここにいるよりも、ずっと・・・」
「でも、でも、ここにいたいんだもん」

『これが、【こころ】の問題って奴ね』
林檎は、思い切って「鎖」の事を聞いてみた。
「なつみちゃん、あなた時々うなされてるでしょ?
そのときにね、『鎖を・・・して』って言ってるのよ、いつも。
何か、心当たりはある?」

なつみの表情が変わった。

一つ一つ、区切るように言葉を吐き出していくなつみ。
「すっごい好きな人がいたんです。で、しばらく付き合って。
最初、すごく優しかったんですよ。ところが、何回かデートして、
その人のうちに遊びに行ったとき・・・。」

その男は突然鎖を持ち出してなつみを縛り上げ、乱暴したというのだ。
しばらく監禁され、何度も何度も凌辱されていた・・・。
数日後、警察によって解放されたときには、なつみは虚ろな目で
うわ言のように『鎖を解いて・・・』と繰り返していたという。
それからしばらくして、体を壊し入院してきたというわけだ。
林檎も、その事件のことは知っていた。
まさか、被害者の少女が、目の前にいるなつみだとは・・・。

「今は、鎖に繋がれてないけど・・・。何か、まだ縛られてる気がするの。
心がね、ぎゅうっと締め付けられてるような・・・。」

なつみはゆっくりとベッドから降りると、パジャマを脱ぎだした。
なつみの小さな胸が顕わになる。
「・・・!」林檎は絶句した。
昼間には見えなかった、鎖の傷痕がくっきりと現れている。
「・・・いつも夜になると、この傷が痛むの」
裸のまま、林檎に抱きつくなつみ。
「ずっと、ずっとね、怖かったの・・・。誰にもいえなくて、
夜になるとあの人が鎖を持って襲ってきそうで・・・!」
「・・・大丈夫よ、その人はここには来れないわ。
それに、私がついてるでしょ」
「・・・林檎さん・・・」
「何?」
しばらく沈黙したあと、なつみは林檎の目を見据えて言った。
「お願い、鎖を解いて・・・」

林檎は決心したように頷くと、なつみを病室のベッドに寝かせ、鍵を閉めた。
そして、自らも白衣を脱ぎ、下着だけの姿になる。
仰向けに寝かせたなつみの上に跨ると、優しく口づけをした。
「私が、鎖を解いてあげる」
そう言うと、唇から首筋、胸にかけて優しく愛撫し始めた。
なつみの口から吐息が漏れる。「・・・ぁはぁ」
傷ついた乳房に優しく手をやり、そっと動かす。
「・・・痛い?」「・・・ぅううん、続けて」
次第に呼吸は荒くなり、なつみは声を噛み殺しつつ悶える。

下腹部に舌を這わせる林檎。なつみの反応が変わった。
「いやっ、そこは・・・」
「忘れなきゃ駄目よ。いつまでも引きずったままじゃ」
「・・・でも・・・」
「忘れさせてあげる・・・」

「り、林檎さん・・・」「何?」
「お願い、林檎さんの胸を・・・」
「・・・いいわよ」
なつみは、いつも顔を埋めている林檎の乳房を掴むと、
何かに取り憑かれたように揉みしだいた。
お互いに熱いものを感じつつ、二人の夜は更けていった。

退院の日。
「・・・林檎さん、ほんとうにありがとう」
「・・・寂しくなるね」
「うん・・・。でも、もう大丈夫。
・・・・・・あの夜から、鎖の夢、見なくなったの」
「そうか。・・・なつみちゃんはこれからもっと強くなって。元気でね。」
「林檎さんもね。・・・バイバイ」

前より少しだけ表情の明るくなったなつみの後姿を、
林檎はずっと見送っていた。