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エロリカより愛を込めて

「禁断の保健室」

夕日というには少しまだ高い日差し。
梨華は今日は保健室の当番だった。
臨時の職員会議のため、部活は今日はなしだ。

「だれか、いますか…?」
ゆっくりとドアが開く。
そこから顔を出したのは中等部の辻だった。

「どうしたの?」
梨華はやさしく声をかける。
希美の目元がほんのりと赤くなっている。
「練習で、つきゆびしちゃって…」
そっと差し出された指先に軽く触れると、希美は少し痛そうな顔をした。
「引っ張っちゃだめ。今シップしてあげるから」
梨華は戸棚に向かった。

「よくここに来るけど…」
「てへ、あたしおっちょこちょいなんです」
くるくると包帯を巻かれながら照れくさそうに希美は頬を掻く。
何度かここでこうして会っているうちに、ふたりはお互いの名前を知った。

「せんぱい、おとなっぽいですよね」
「え?」
包帯を巻き終えた伏目がちな表情を見て、希美が溜息をつく。
その真意を図りかねて、梨華は困ったような笑いを浮かべた。

「あたしも、そんな風だったら好きな人にもふりむいてもらえるかなって…
あははは、なにいってるんだろ、わすれてください」
赤くなって手をわちゃわちゃさせている希美の様子がかわいらしくて、梨華はそっと髪に手を伸ばした。
部活の最中だったためだろうか、すこし髪に汗を含んでいた。

「でも、せんぱいってホントに…」
ゆっくりと希美の顔が近づいてくる。
ぽーっとしていそうな割に強い目の光。柔らかそうな唇。通った鼻筋。
ぼんやりとそれを見詰めていると、その唇が梨華の唇に重なった。
「……んっ」
あまりにも軽いその感覚に、一瞬何が起こったのかわからなくなった。
「きれい」
希美は唇を離して、うっとりと笑っている。

思ったよりもその唇はやわらかかった。
そして、あらためて今何があったのかを思い出して梨華は真っ赤になった。
「なっ………」
「だって、きもちよさそうだったから」
もう一度、希美の唇が近づいてくる。今度は頬に触れた。
「きゃ…っ」
頬やこめかみをくすぐるその感触に、梨華は首をすくめた。

「せんぱい…かわいい…」
希美がとろけるような笑顔を浮かべている。無邪気な笑顔。
「…もう。こんなことができるようなら大丈夫ね。部活に戻る?」
希美の頭を二、三度撫でて、梨華は包帯を持って立ちあがった。

ぱたぱたと足音がする。そのまま帰ってしまったんだろうか。
振り向くと、ドアのそばまで行った希美が戻ってきたところだった。
「ね、石川せんぱい。ひとりで…えっちしたこと…あります?」

「………え?」
聞き間違いだと思って梨華は聞き返してしまった。希美は顔を赤くしている。
「だから…その…ひとりで…」
ごにょごにょと語尾が消えてゆく。てへてへという照れ笑いに変わっていく。
「こないだ合宿でせんぱいたちが…あ、同じクラスのあいちゃんもね…
ひとりで…するんだって…どんなかんじかなって…」
そういったことに梨華だって好奇心を感じないわけではない。知識としてはそれなり
にあるつもりだ。お風呂やベッドで…ほんの少しだが…触ってみたこともある。
その感触を思い出すと、耳のあたりまで熱くなった。
「どう、なんですか?」
上目遣いに希美が訪ねる。

「………ない、よ」
顔を背けるようにして梨華は返事を返した。校庭から差し込む日差しはもう夕方のそれだった。
眩しくて、思わずカーテンを閉める。しがみつくように。

「ふぅん」
つまらなそうに希美は呟いた。怒らせてしまったかもしれない。
それでも、希美の興味がここから移ってくれれば梨華はそれでよかった。
しかし、希美は梨華がまったく予想もしなかったことを言い出したのであった。
「じゃあせんぱい、ののと…あたしとしようよ」
振り返って見た希美の表情は、やはり無邪気な子供のままで、だからこそ余計に罪があった。
「ね」

スプリングのあまりきかないベッドに、希美は腰掛けた。梨華は窓のところで、それを見ている。
希美がTシャツを脱ぎ始める。その下にはスポーツタイプのブラジャーをしている。
「ののちゃん」
強い声で、それ以上の行動を梨華が制止した。ジャージにかかった希美の手が止まる。
かつかつとベッドに梨華が歩み寄って、脱いだままのTシャツを希美に手渡した。
「そういうのは、もっと大人になってから…好きな人…そう、好きな人とね?」
「ひとみせんぱい、とか?」
虚をつかれて、梨華ははっとなった。希美のバレー部の先輩。
後輩のひとみに中学時代から淡い恋心を抱いていたのは、誰も知らないはずだ。
それはあくまで、学生時代の思い出として卒業するころ、したあとに笑い話として語られるものだった。

梨華は、それを振り払うように首を大きく振った。しかし顔の赤みは増すばかり。
「せんぱい、顔まっか。かわいい」
希美の唇がその熱い頬に触れる。そのまま、梨華はベッドに腰掛けた。
「じょうだんのつもりだったのに、ホントだったんですね。いいです。だまってます。」
希美は、そう言って笑った。それよりも、希美にまで言われるくらいだから態度に出ていたのかと梨華は
バツが悪そうに目を伏せた。

ひとみに対する気持ちは、あくまで憧れの域を出ないものだったし。
一時の気の迷いでごまかせると、そう思っていた。
だが、一度だけ風呂場で自慰めいた行為に及んだとき、頭に浮かんだのは…ひとみだった。
その罪悪感もあって、よけいに恥ずかしくてひとみと話すことができなくなっていた。