好きな人が欲しい……。
- 1 名前:sky 投稿日:2002年11月20日(水)11時06分20秒
- 初めて小説を書かせて頂きます。
元ネタありなのですが、このカップリングで書いてみたいと思いましたので
今回書かせて頂きました。
もし、内容を知っている方がいましても、そこのところは多めに見てください。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月20日(水)11時07分08秒
- すみません板間違えました
削除してください
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月20日(水)12時42分42秒
- なんて言うんですか?
世の中はもうクリスマスの用意なんか始めてて、ひとりものには
つらい時期になってきたって感じですよね。
私はお昼休みになっても他の社員のように食事に行かず、ひとり
ぽつんとパソコンの前でコンビニ弁当にはしを運んでいた。
「素敵すぎる・・」
途中何度も手を止めては、マウスをクリックする。その度に進む展開に
私は釘付けになっていた。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月20日(水)12時47分14秒
- 男前の吉澤、自己嫌悪に陥る石川。王道中の王道なのに、いや、それだけに
私はこうして会社でひとり、背中をゾクゾクさせながらウェブ小説を
読んでいるってわけ。贅沢なお昼休みよね。
・・他の社員にはこんな姿、見せられないけど。
謝内桃子(しゃない・ももこ)22歳。OL。
でもみんなもったいないよ?
いしよしはこんなに熱くなれるって言うのに。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月20日(水)12時53分36秒
- 「ふん・・・」
好きが高じて始めたネット小説サイトだが、やはり巨大になりすぎると
色々と弊害が出てくる。
秩序知らずな部外者の対応に、やたらと時間がくわれることだ。
まじめな他の人の迷惑にならないように、俺は素早く「敵」を追い出した。
秩序は素晴らしい小説の手助けになる。そう信じているわけじゃないけどな。
まぁ、クリスマスも近いってのに、パソコンに向かっている自分が少し
寂しい人間に思える時もあったりするが・・。
笹江顎人(ささえ・あぎと)20歳。大学生。
言ってしまえば妄想小説かも知れない。でもこの中には、感動や悲しみや
笑いもつまっているから、俺はこうして頑張ってるんだ。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月20日(水)20時19分04秒
- >>1 削除依頼出さないと削除されないと思うYO!
- 7 名前:顎オールスターズ 投稿日:2002年11月20日(水)21時55分31秒
- 続けてよし
- 8 名前:ななしさん 投稿日:2002年11月21日(木)22時02分34秒
今日もお昼はヴィダーインゼリー。スタイルを気にするお年頃のせいでもある
んだけど、一番の原因は、そう、つれない態度の吉澤のせい。石川があんなに
健気なのに、どうしてそんなに冷たい態度がとれるの? なんて読みふけって
るうちに、もう時計は12時50分を指してた。私は慌ててコンビニに走った。
- 9 名前:ななしさん 投稿日:2002年11月21日(木)22時07分19秒
- 俺は、眠い目をこすりながら、最後の小説を倉庫に放り込んだ。
ったく、最近はスレの立て逃げが多い。メンテする俺の身にもなれ、っつーん
だよ。
すっきりと整理された各板の小説群を見、一人悦に入ってる俺。さて、楽しみ
にしてたうぜーやつらの続きでも読むか。
時計を見る。もうすぐ一時だ。ただし、昼の。
徹夜を通り越し、少々ハイになった脳は、もう眠気を感じていない。
「コンビニでも行くか」
- 10 名前:ななしさん 投稿日:2002年11月21日(木)22時23分17秒
コンビニの店内は、昼休みの時間帯のにぎわいを見せていた。レジを待つ長蛇の
列が伸びていた。
『OH GREEN OH BLUE
でっかい牧場だけど女の友情は
もっとでっかいと思う』
「うそっ!」
「ありえねえ!」
突然、店内に流れた曲に反応した二人の若者。
だがほかの客にジロジロと見られ、なんでもない風を取り繕う。
(メチャクチャ恥ずかしい思いしたなあ)
(あんな歌、知ってる人いないわよね)
店内の客たちは、それぞれの買い物を済ませ、店を出て行く。それぞれの居場所
へと戻っていく。
まだ出会わない二人。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月22日(金)21時51分09秒
- それはいつもと変わらない水曜日の11:57。
じゃないは仕事に区切りをつけて、じっとお昼休みを待っていた。
(はやく来い来い昼休み)
いつもはここまで極端ではないじゃないが、ここまでするのには訳があった。
昨日、桃板で紹介されていた作品の「さわり」を読んだところ、かなり面白かった
からである。
その書き込みに気付いたのが深夜3時であったため、読むのを断腸の思いであきらめ
眠ったのであった。明日のお昼に読もうと思いながら。
「水魚、水魚、水魚なふたり♪」
気付いたらそんな歌まで自作してた。
大丈夫か、私・・?
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月22日(金)21時52分25秒
- お昼のベルと同時にseekへの扉を開こうとするじゃないの前に、1人の女性が
現れた。同僚の保田圭だった。
「謝内さんさぁ、今日の夕方って開いてる?」
じゃないはマウスを止めて答える。「一応、開いてます」
その答えに保田は一瞬だまる。
「・・じゃあ、夕方みんなで飲みに行きましょう」
「はい」
そう答えながらもじゃないは気付いていた。あの一瞬の間の意味。
(あんたみたいな地味な女、いつだって開いてるんでしょ?)
じゃないも心の中で毒づき返す。あんたみたいな狛犬顔よりマシでしょう?
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月22日(金)21時53分01秒
- やられた、と気付いた時には遅かった。飲み会とは合コンだったのだ。
「ごめんねぇ、合コンって言うと来ないかな、って思って。急に欠員が出てさ」
そう言いながらも全然謝ってると思えない口調の保田に、ムッとするが
そこはじゃないも大人。笑って「別に」なんて答えた。
じゃないは男に興味がなかった。
恋には興味がある。でも異性には興味が持てなかった。
「謝内さんって、どんなテレビよく見るの?」
「ニュースが好きなんですよ」(特にハロプロニュースが、ですけど)
「スポーツとかってする?」
「しないですね」(年に1回、大運動会を見に行きますが何か?)
「じゃあ趣味は?」
「読書が好きで、休みの日は1日中読んでます」(ええ、主にいしよしを)
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月22日(金)21時53分50秒
- 「やっぱりまだいいや、恋なんて」
ひとりっきりの帰り道で、じゃないは声をもらした。
その後の合コンは散々だった。自分に参加の意志がないとわかると、すみっこに
放っておかれたのだった。おかげで自分の許容量以上に飲んじゃった・・。
「『いしよし』も語れない男なんて、こっちからお断り!」
酔っ払いらしく大声で騒ぐじゃないに、中年サラリーマンが非難の目を向けた。
・・そう言えば。
じゃないは昨日のコンビニでの出来事を思い出す。あの歌に思わず声をあげた自分。
そして、見知らぬもう1人。
既に記憶は薄くなりつつあるけど、痩せててメガネをかけていた男の人。
そうだなぁ、とじゃないは笑う。「あの人だったから考えても良いかな?」
- 15 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月24日(日)02時18分08秒
- 名作の予感。。。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2002年11月25日(月)04時16分34秒
- こんなのあったんだ…
続き気になります
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)04時38分23秒
- 面白いかも・・・・
- 18 名前:てゆーか 投稿日:2002年12月01日(日)10時55分44秒
- 案内板に小説書いていいと思ってる?
レスしてる人もそこに突っ込まないと。
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月01日(日)11時05分55秒
- >>18
もちろん普通に考えたら駄目だろうけど、今回は特例だろ? 顎が公認してるんだから。
遊び心を持っていこうぜ。
- 20 名前:庵野雲 投稿日:2002年12月01日(日)14時11分37秒
- >>19
そうだそうだ。
続き、キボーン。
- 21 名前:顎たん(´Д`;)ハァハァ 投稿日:2002年12月02日(月)00時34分26秒
- >>18
顎様が許可してるからいいんじゃん?
結構面白いし。
続きキボソ。
- 22 名前:じゃない 投稿日:2002年12月02日(月)13時31分46秒
- 保全。
- 23 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月02日(月)18時34分59秒
- 謝内桃子キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!
- 24 名前:顎たん(´Д`;)ハァハァ 投稿日:2002年12月03日(火)20時32分55秒
- じゃないたんキタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!!
あなたは神です。
( ^▽^)σ)´・ω・`)ノ で、つづきは?
- 25 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時25分57秒
- 顎人はあくびを噛み殺しながら、退屈な講座で時間を過ごしていた。
黒板に羅列される数式を、クラスメートは真面目に書き写している。
その様子を横目で眺めながら、こんなことが何の役に立つんだ、と思った。
(とりあえず目前に控えた就職の役に立つだろ?)
頭の中でもう一人のが答える。ほら、お前もノート取れよ。
悔しいが当たりだ。
言い負かされた顎人はノートを開くと、わざと雑な字で黒板を写した。
- 26 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時26分35秒
- 他人の為になる事がしたい。
小さな頃からずっと思っていた。
大好きなインターネットの世界で次々と消されて行く「夢物語」を飼育する場所の提供だけが、今の俺に出来る事なのか?
もっと、もっと何か出来るんじゃないだろうか?
もし俺一人で無理だって言うなら、誰かに協力を頼んだって良い。
誰かに・・・。
- 27 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時27分07秒
- 「顎人、もう授業終わったぞ」
ふいに肩を叩かれて、顎人は我に返った。叩いたのは親友の後藤勇気だった。
黒板を写す手は、とっくに止まっていた。
「あぁ、悪い」
「良いから早く学食行こうぜ」
そっか、お昼か。
立ち上がりかけて顎人は動きを止めた。
「・・・顎人?」
「勇気スマン。俺、今日はコンビニで買って来る」
「ハァ?」
- 28 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時27分58秒
- 何がどうなるって訳じゃない。
ただコンビニに行けばもしかして会えるかも知れない、って思った。
協力を頼む誰か。
もし頼むとしたら、あの時一緒に叫んだあの子が良い。
その思いだけが顎人を動かしていた。
弾む息を抑えもせずに、コンビニに入った顎人を迎えたのは。
加護亜依って加護亜依ってわたし〜♪
「ありえねぇって」
店内に居る何人かの客の中で、そう呟いたのは顎人だけだった。
- 29 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時29分22秒
- 顎人は自嘲する。
そうだよな、そんなこと思うのは俺だけか。
出会いの時を思い出そうとするも、うっすらとしか思い出せない。長い髪と黒のタイトスカートってだけが鮮烈に浮かんでくる。
自分もこうなんだから、相手はもっと憶えてないだろうな。
「加護亜依って加護亜依って〜」
顎人は小さな声で口ずさみながら、カップ麺を手にレジの列に並んだ。
奇跡なんて簡単に起きるものかも知れない。
次にかかった曲を聴いた途端に、顎人はそう思った。
No No No No! Non Stop! No No No No No! Non Stop〜♪
「ありえないから」「・・・ありえません」
ふたりの声が重なる。
出会えた、そう思いながら振り向いた顎人の視線の先には、見知らぬ女子高生が居た。
「えっ」「えっ」
軽く3秒、目が合った後。
その子は走ってコンビニを出て行ってしまった。
顎人はレジを待つ列の中で、ただただ佇んでいた。
- 30 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時30分15秒
- あぁ、びっくりした。
女子高生はコンビニからかなり離れた場所で立ち止まった。
セーラー服の弾む胸を抑えながら、またやっちゃった、と舌を出している。
「だめだなぁ、私ってば」
彼女は極度の上がり症だった。
おかげで友達も少なく、学校が終わった後はもっぱらインターネットしかしていない。
「でもまさか、あの曲が解る人が近くに居るなんて」
彼女は驚きを素直に言葉にする。
なんで逃げちゃったんだろ?
オフラインで初めて会った共通の趣味の持ち主。
あの人だったら私のこの対人恐怖症(bad communication)を治せるかも知れない。
「よし」
小さな決意を固めた彼女は、深呼吸をするとまたコンビニへ向かって行った。
上海坂奈(うえうみ・さかな)18歳。女子高生。
神様お願い。あの人がまだコンビニに居ますように!
- 31 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時30分53秒
- それは
巨大掲示板の管理人がそれぞれに綴った愛の詩
運命の歯車は
まだお互いの名前も知らぬ3人を巻き込んで
静かに回り始めた
- 32 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月11日(水)20時37分49秒
- やべーマジでおもしろい!!
遂にあの人まで出てくるなんてしかも女(w
- 33 名前:ななしさん 投稿日:2002年12月12日(木)22時35分19秒
頭の中で、「よして、よして……」を二回。
その間だけ、心を殺して置けば、すべては終わる。
- 34 名前:ななしさん 投稿日:2002年12月12日(木)22時36分07秒
「きみ、女子高生じゃないのか?」
彼から渡されたコンドームを、ゴミ箱に捨てる。
スーツを着込む『お客さん』を眺めながら言う。
「やだなあ。童顔に見られるけど、私は21才ですよう」
私はサカナ。汚れたサカナ。
私にまっとうな幸せは来ない。
- 35 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時08分57秒
- 受け取ったお金は枚数も数えずに鞄に入れた。
「お金、確認しないの?」
サラリーマンのくわえた煙草を奪い取り、自分のものにする。
完璧な笑顔を見せながら私は、
「しないよ」
と言った。
- 36 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時09分30秒
- 冷たい風の中を、コートの前を合わせて歩く。
コートを着込むと制服がばれないため、楽に帰れるのが良かった。
ふぅ、と吐く息は白く曇り、そして霧散する。
お金が欲しい訳でも、快楽に溺れたい訳でもなかった。
・・・必要とされたかった。
現実世界には友達も居ない私が、この仮想世界の中では
生まれ変われたように他人と話せて、そして愛される。
堕ちていくのすら心地良かった。
人混みの中をすり抜けながら、無性に声をあげたくなる時がある。
ワタシハ、アナタタチガ、ソウゾウモデキナイホド、ヨゴレテイマス。
- 37 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時10分51秒
- でも叫ばなかった。
駅のホームは人影もまばらだった。
ちょっとだけ待つと電車が滑り込む。
私は電車の狭い隙間に腰を下ろして、こつんと壁に寄り掛かった。
(読破、どこからだったっけ・・・?)
「雪じゃない?」
(雪? いや、まだ花板だって読んでないはず・・・)
「本当。雪だね」
すれ違いにやっと気がついた。
顔を窓に向けると、暗闇の中を吹きすさぶ雪が見えた。
- 38 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時11分27秒
- 「クリスマスまで持つかなぁ」
「さぁ。溶けちゃうんじゃない?」
どうでも良い、と思い込もうとした。
クリスマスの夜にロマンチックな店で「あの人」と二人、テーブルを挟む自分。
そんな幻影を頭から振り払った。
(結局、あの後でコンビニに行っても会えなかったじゃない)
前に立つカップルが物凄く憎らしく思える。
やっぱり夜はダメだ。
思考がどこまでも暗く沈んでしまう。
汚れた海を泳ぐサカナに、幸せなんて来ないって思えてしまう。
- 39 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時12分09秒
- 「使う?」
ふいに、横の席から白いハンカチが差し出された。
戸惑いながら向けた視線の先には、OLさんが居た。
緩くウェーブのかかった髪と、ファーのついたコートがとても上品に見えた。
ワタシトハ、セイハンタイ。
「えっ、あっ、あ・・・」
どうして? と聞きたいのに言葉が出てこない。
「泣いてるわよ、あなた」
その言葉に驚きながら、そっと目尻に指を当てる。
「あっ・・・」
「ねっ」
- 40 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時12分44秒
- ハンカチのお礼にすらどもってしまう自分がとても悲しかった。
名前を告げたかった。
名前を聞きたかった。
でも私は、まっすぐに見つめてくる目線を受けとめる事も出来なかった。
「あ、あの、ありが・・・」
やっと口から洩れた勇気は、電車の揺れと軋む金属音にかき消される。
「私、ここで降りなきゃなの」
私より断然大人の女性は微笑みながら言った。
「ハンカチは今度会えた時で良いから」
「あっ、あの・・・」
「私は謝内って言うの。じゃ、また会った時に」
言うなり謝内さんは、電車を駆け下りて行った。
- 41 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時13分35秒
- 空いた私の隣りの席には中年のみずぼらしいおじさんが座った。
私はハンカチを握ったまま。
完全に違っていた。
きっとあの人は、私のように堕ちなくても愛される人。
視線を移した窓の外では、まだ雪が舞っていた。
頭の中の世界すら破裂する。
「あの人」と向かい合いワイングラスを傾けあう役まで謝内さんに奪われていて、
そしてその二人はとても絵になっていた。
悔しい程に。
そして悲しい程に。
- 42 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月16日(月)18時16分02秒
- 忘れない。
この時間、この電車、この車両に天使が居た事を。
これはきっと雪と一緒にもたらされた奇跡。
私はゆっくり目を閉じる。
暖かな二つの出会いに感謝します・・・。
「また、会えますように」
- 43 名前:名無しさん 投稿日:2002年12月17日(火)20時39分59秒
- 彼女は知らなかった。
彼女の乗った電車が5分後にポイント切替ミスからJR史上最悪と呼ばれる大事故を起こすことを。
彼女は知らなかった。
彼女の乗った1両目は完全に衝突した電車の下敷きになり綺麗に潰れてしまうことを。
彼女は知らなかった。
彼女の人生が18年の短さで終わってしまうことを。
彼女は知らなかった。
彼女は――
- 44 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月02日(木)21時22分46秒
- えぇ話しや…続き気になる
でも3人目の人って…ん〜あの人なのか?
- 45 名前:坂奈 投稿日:2003年01月04日(土)01時21分28秒
- 「あれ、坂奈じゃん(藁)」
坂奈は、はっ、として顔をあげた。そこには高校のクラスメイトがいた。
(イヤな子に会っちゃったな)
坂奈は、彼女のことが苦手だった。毒舌家で、遠慮無しに言いたいことをズバ
ズバと話す彼女のことを坂奈は敬遠していた。
「どしたのぼーっとしてさ(藁)」
「い、いえ、ちょっと」
なんとなく坂奈は、手にしていたハンカチを隠した。他人にこれを見られるこ
とで、二度とあの人に逢えなくなってしまうような気がした。
彼女――クラスメイトの名は、路具。
路具奈夢子(ろぐなむこ)、18才。
「なに?(藁) なに隠したの?(藁) 見せてよ(藁)」
奈夢子の手が坂奈に伸びる。反射的に身体を丸める坂奈。
そのときだった。
ドーーーーーーン!!
- 46 名前:奈夢子 投稿日:2003年01月04日(土)01時23分15秒
(あれ坂奈じゃん。綺麗なおねえさんと一緒だ)
部活ですっかり遅くなった電車の中で、クラスメイトの坂奈を見つけた。
私はクラスでの最上級ヒエラルキーである女子グループに属していた。仲間た
ちとの話題は週末のクラブイベント、化粧にブランドにオトコばかりだった。
そんな彼女には秘密があった。私は、隠れモーニング娘。ファンだったのだ。
特に吉澤と石川が好きで好きでたまらなかったが、普段はそんなそぶりも見せ
なかった。むしろ(アイドル好きな男とかキモくない?)などと、笑いの対象
にさえしていた。
そんなある日、坂奈の机の上にあったバインダーにはさまれた『吉澤』の文字
を奈夢子は目にとめた。坂奈は、トイレに行ってるようだった。それはプリン
トアウトされたコピー用紙のらしかった。バインダーを手に取り、ざっと流し
読みした私は絶句した。
- 47 名前:『市井が吉澤で吉澤が市井で』 投稿日:2003年01月04日(土)01時24分48秒
「ねえ、よっすぃ。今日はなんか雰囲気違うね」
「そ、そう?」
(石川と吉澤って、プライベートだとこんななの?)
市井は、いきなり腕を絡ませてきた石川に戸惑った。こんなの、まるで男女カ
ップルのデートだ。
(この石川、ちょっと可愛いかも)
吉澤の身体を使って、市井は石川のあごに指をかけた。石川は、あん、と可愛
い声を漏らした。
- 48 名前:奈夢子 投稿日:2003年01月04日(土)01時25分51秒
(な、なによこれ!)
擬音で表現すると、ズキューーーーーン! って感じだった。初恋のトキメキ
に似ていた。
(この子、モーニング娘。のファンなんだ)
それからだ。私が、坂奈のことを気にしだしたのは。坂奈と、気が済むまで、
石川と吉澤の話がしたいと思っていた。そのチャンスを狙っていた。
ドーーーーン!
- 49 名前:奈夢子 投稿日:2003年01月04日(土)01時26分42秒
刹那、私は何が起きたか理解出来なかった。
身体がふわりと浮き上がり、次の瞬間、壁に身体が叩き付けられた。息が出来
なくなった。意識が暗転した。
「……」
「……丈夫ですか?」
「……路具さん、大丈夫ですか?」
霧のかかった視界に、坂奈が見える。
なぜか、顔が傷だらけで、泣きじゃくって私を揺さぶってる。ヘンなの。
「だいじょ――」
言葉を発しようとして、ムセた。なぜか、血を吐いた。そして、また意識が遠
くなった。
なぜだかは分からない。
なぜか、あの話をするのは、今しかない、と思った。
ずっと、ずっと、彼女としたかった話。
- 50 名前:奈夢子 投稿日:2003年01月04日(土)01時27分28秒
「ねえ、坂奈」
「ねえ、坂奈。吉澤と石川って、好きあってたりしてね……(藁)」
バカみたいな話。私だけの妄想。
そんな、くだらない話を、坂奈とたくさんしたかった。坂奈が私の推理を聞い
て、なんて答えるかを聞きたかった。
でも、
でも、どうやら、私にはその時間はないみたいだ。
坂奈が、泣きながら何かを言った。
私は、その言葉を聞き取ることが出来なかった。
- 51 名前:ななしさん 投稿日:2003年01月04日(土)01時28分41秒
つづく
- 52 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)00時24分52秒
- あんた鬼じゃあ……ッ!
- 53 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月07日(火)19時57分26秒
- 路具たーん!!・゜・(ノД`)・゜・。
- 54 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月10日(金)11時32分17秒
- 名作のヨカム
- 55 名前:いしよし畑 投稿日:2003年01月11日(土)08時05分46秒
- ディスプレイをずっと見つめていた顎人は、
聞こえた臨時ニュースの音楽に、
つけっ放しのテレビへと視線を移した。
「正面衝突か・・・・これは凄いな」
時計は9:30を指していた。
顎人は指の骨を2度鳴らす。
10時になったらニュースを見よう。
それまでは・・・・。
そして顎人は読みかけのいしよし畑に没頭していた。
ーーーーーーーそれだけだった。
- 56 名前:いしよし畑 投稿日:2003年01月11日(土)08時13分36秒
- 「ただいまぁ」
一人暮らしにも関わらず謝内は帰宅の挨拶を声にする。
(余談ではあるが、子犬でも飼ってみようかなぁ、と最近思っていた)
帰って来るなりエアコンとテレビ、そしてパソコンのスイッチを入れる。
着ていたコートをハンガーにかけようとしたその時、
テレビでやっていたニュースに目を奪われた。
「山手線で事故。危ないなぁ。もしかしたら乗ってたやつだったりして」
謝内は自分で言った冗談に笑いながら、
パソコンの前で起動終了を待った。
さすがにこの時期、全裸にはならない。
「よし。と」
起動するやいないやブラウザを立ち上げる。
読みかけのいしよし畑の続きを読むために、SEEKをお気に入りから選んだ。
ーーーーーーーそれだけだった。
- 57 名前:坂奈 投稿日:2003年01月19日(日)22時05分02秒
iモードで名作集をチェックする。
――吉澤と石川って、好きあってたりしてね。
――吉澤と石川って、好きあってたりしてね。
坂奈の脳裏で、奈夢子の最期の言葉が何度もリフレインしている。
(どうして、奈夢子はあんなことを私に言ったんだろ)
「……ねえ、坂奈。ねえったら!」
携帯の液晶画面から、坂奈は顔を上げる。
援交仲間のケイ――泉都圭(せんと けい)19才・フリーター――に今日は
呼び出されていたのだ。
- 58 名前:坂奈 投稿日:2003年01月19日(日)22時06分23秒
『大学生のお得意さんがさあ、男友だちも連れて行くから2対2で遊園地行こ
う、って言ってるんだけど、坂奈、いいよね?』
「……うん」
ケイは、元々坂奈の先輩だ。彼女に誘われるままに援助交際に手を出し、言わ
れるままにお金を受け取ってきた。別に貧乏している訳ではなかった。やって
ることは売春婦と同じだ。だけど、社会の淀んだ場所で汚れていることが、自
分に一番ふさわしいように思えた。
「へえ、サカナちゃん、って言うんだ。可愛いなあ。俺、こっちが良かった」
「こらー」
待ち合わせ場所で、まるで、恋人同士のようにじゃれあっている二人。坂奈の
相手は5分ほど遅れてくるようだ。
一見、ダブルデートの体をなしてはいるが、最終的にはそれぞれがホテルに行
く、という暗黙の了解になっている。
「俺の知り合いさあ、大学のサークルの後輩なんだけど、ぶっちゃけ、まだ童
貞なんだよね。だから先輩の俺がひとはだ脱いでやろうか、って……あ、やっ
と来たよ。あいつだよあいつ」
- 59 名前:坂奈 投稿日:2003年01月19日(日)22時07分17秒
男が、駅のホームを指さして言う。
坂奈は、その指の先を見て心臓が止まるかと思った。
「……遅れてゴメン」
坂奈は反射的に、男に背を向けた。坂奈の知った顔だった。
「ほら、坂奈。ちゃんと挨拶しなよ」
ケイに促されたが、坂奈は顔を上げられなかった。心臓が爆発しそうな勢いで
激しく鳴っていた。
「……ええと、初めまして。笹江顎人です」
- 60 名前:坂奈 投稿日:2003年01月19日(日)22時07分57秒
坂奈は上目遣いで男の顔を覗き見た。コンビニで一度だけ出会った人。だけど、
彼は坂奈のことは覚えていないようだった。
「あ……初めまして。上海坂奈です」
向こうで(うわあ本名交換しあってるよ)って話し声が聞こえてきた。そうだ。
これは合コンとかじゃないんだ。坂奈はそう思った。だけど、彼に偽名を名乗
りたくは無かった。
四人は遊園地へ移動した。その後のレストランも、みんな男性持ちだった。
そして、
- 61 名前:坂奈 投稿日:2003年01月19日(日)22時08分48秒
「あれ、先輩たちは?」
「ケイさんと、笹江さんの先輩は、もうホテルに行っちゃいました」
酔いを覚まそうと、ベイエリアで夜風に吹かれていた。坂奈は、笹江の腕を取
った。
いつもしていること。
いつもしていることだけど、
「じゃあ、私たちも行きましょうか」
(こんな形で出会いたくなかった)
笹江の腕が硬直しているのが分かる。彼は童貞だ、って言ってた。
(じゃあ、私が、初めての人、ってことになるのかな)
そして二人は、ホテルへと向かった。
- 62 名前:名無しさん 投稿日:2003年01月20日(月)01時41分36秒
- おもしろいよほ(ノд`)・゚・。
- 63 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月09日(日)15時14分39秒
- 喫茶店のような建物の前で坂奈は立ち止まった。
(そうだよな。いきなりホテルには行かないか。)
ほっとしたようながっかりしたような顎人に坂奈は言う。
「着いたよ。」
ドアをくぐる手が震えていた。
顎人の心臓も信じられない速さで動いていた。
しゃべるたびに、口から出るかと思うほど、速く。
自分が何を話してるか、言ったそばから忘れていく。
- 64 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月09日(日)15時15分15秒
- 部屋には小さく有線が流れていた。
ケミストリーか、これ好きなんだよな、なぜかそんな事を顎人は思った。
「はじめて来たけど、結構せまいね。」
「お風呂は広いんだよ。」
言われて覗いたそこは確かに広かった。
「ふたり一緒に入れたりして。ははは」
顎人が冗談のつもりで言う。坂奈はぽかんとする。直後に笑った。
「それが出来なきゃ意味ないじゃん。」
- 65 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月09日(日)15時16分50秒
- 「先に入ってるね。」
坂奈がジャケットを脱ぐ。
顎人は目の前の坂奈が、自分とは関係ないところにいるように思えた。
スカートを脱ぎ、シャツだけになった坂奈を見て、顎人は気づいた。
(先に・・・・「入ってるね」?)
- 66 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月09日(日)15時17分20秒
- 続く・・・・
- 67 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時19分12秒
- ケイにさんざん注意された事がある。
一つは、相手の言いなりにならない事。初心者の場合、そこまでしてもらえる
んだ〜などと能天気に思ってしまい、ありがたみが無くなる。
もう一つは、キスはしない事。・・・本気になるから。
「特にアンタは惚れっぽいんだから絶対ダメだからね!」
坂奈がここに来るまでに10回は聞いたセリフだった。
- 68 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時21分47秒
- 湯船で体をくっつけながら、ゴメンと心の中でつぶやく。
なんかどっちの約束も破っちゃいそう。
置き場がないようにへりにかけられていた顎人さんの手を、
私はつかみ自分の胸へ寄せる。
このままじゃお金だけ取られて終わっちゃうから。
・・・小さくて申し訳ないけど、ね。
- 69 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時26分41秒
- お風呂から上がり体を拭く。
何だか挙動不審な顎人さんを見てると、本当に初めてみたいだな、と判る。
ちょっと同情しそうになった。
「ごめん。オレ、よく分からないから上手く出来ないかも」
かも、じゃなくて絶対出来ないよ。
経験がすべてだからね。
当然そんな心の声は顔に出さない。
坂奈はにっこり笑うだけだった。
- 70 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時30分58秒
- 坂奈がそっと顎人の下腹部に手を伸ばす。
触れた瞬間、顎人は甲高い声を出して腰を引いた。
「何よぉ。逃げんなぁ〜」
ちょっとおどけて私は言った。
緊張を解くには優しく接しろと、この仕事(?)で学んだからだ。
「あ、ごめん」
「ごめん、は女の子には絶対言わないこと。礼儀だよ」
もう一度手を伸ばす。
今度は顎人の腰は引けなかった。
- 71 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時31分39秒
- しかし。
- 72 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時34分16秒
- 顎人は勃たなかった。
私はあせった。
確かにそんなに手に自信がある訳じゃないけど、まったく硬くなる気配がない。
時間がない・・・・。
時計を見るとあと10分で11時になろうとしている。
坂奈にはある計画があった。
- 73 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時38分33秒
- この小さくかかってる有線である。
入った時にはケミストリーかなんかがかかっていて、今は中島美嘉がかかっている。
ここに11時きっかりに「晴れた日のマリーン」をリクエストしてあるのだ。
聞いた瞬間に私達は「ありえない」とつぶやき、
顎人さんは私を思い出す、って寸法である。
だがそれまでに事が終わってないと、
マターリヲタトークが始まってしまい、
彼の心を私の体でGET!(BY平家みちよ)が出来なくなってしまう。
- 74 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時42分33秒
- 色々と指を動かす。
しかし状態は変わらなかった。
「ごめんね」
「言わないでよ〜。それよりエッチな事ちゃんと考えてる?」
「一応」
何が一応、なんだろうか?
坂奈は一瞬「もしかして辻加護で考えているのか?」と思った。
出会った時に聞いたのも non stop! だったし・・・。
11時まであと5分を切った。
顎人に見られないようにため息をつく。
こうなったら・・・・口でするしかないかなぁ・・・・。
- 75 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月17日(月)18時43分13秒
- 続く。
- 76 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時40分05秒
- 2月23日。
季節は冬から春に変わろうとしていた。
- 77 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時40分37秒
- クリスマスもバレンタインもひとりだった。
そして今日もじゃないはひとり、部屋でPCに向き合う。
ユードラを立ち上げし、未読メールを一括ダウンロードすると、
そこには見慣れた友達からのメールが来ていた。
- 78 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時41分15秒
- From: log0076
To: じゃない
Subject: 最近暖かいね(藁
おかげでついつい昼寝しちゃいます(藁
ところでじゃないお勧めのワールドアトラス読んだよ!
素直ないしよしじゃないけど期待作だね(藁
またお勧めがあったら教えてね(藁
log0076
- 79 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時41分45秒
- 「よかった。ログも気に入ってくれたみたいで。」
その顔に笑みを浮かべながらじゃないは紅茶を口に運んだ。
この顔も知らないいしよし仲間との会話こそが、
じゃないの大事なエネルギー源なのだから。
「・・・あれ?ログってばもう一通メールくれてる?」
じゃないはカップを置き、マウスを滑らせた。
- 80 名前:◇◇◇◇◇◇ 投稿日:2003年02月23日(日)18時42分47秒
- ◇◇◇◇◇◇
- 81 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月23日(日)18時43分38秒
- 最悪のクリスマスだった。
「来てくれてありがとうね。」
「いえ。」
ログの焼香に言った上海は、いたたまれない気持ちになった。
自分が助かったのはログの体がカバー代わりになって、
守ってくれたからだった。
だから上海はかすり傷だけで、こうして生きているのである。
- 82 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月23日(日)18時44分20秒
- クラスでは別に仲良くなかった私たち。
それが別れの直前にお互いの趣味が合う事に気付き、
打ち解ける事が出来た。
運命とはそういうものだったのだろうか?
路具さんが今も無事なら、私たちはすれ違いを続けていただろうか?
- 83 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月23日(日)18時44分59秒
- 通された路具さんの部屋は女の子っぽい可愛い部屋だった。
隅っこのパソコン以外は。
私はそっと電源を入れた。
いしよしを愛した路具さんが恥ずかしがらないように、
そのブックマークを削除してあげようと思ったからだ。
「えっ・・・・?」
- 84 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月23日(日)18時46分05秒
- そこには膨大な数のブックマークと
デスクトップに貼られたかちゅ〜しゃのショートカット。
そして気付く。
路具奈夢子=log0076だって事に。
呆然としてしまった。
あんなにヲタスレで話し合ってた私たちが、
まさかクラスメートだったなんて。
やはり運命とは、そういうものなのかも知れない。
- 85 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月23日(日)18時47分57秒
- 私は声をあげて泣いた。
ぼろぼろこぼれても涙は、後から後からわいてきた。
・・・どれぐらいそうしていただろうか?
そして私は決心した。
log076をこの世から消さない事を。
2代目は鈴木Sが引き継ぐ事を。
そう、騙るの。
「騙りくらい出来るよ。だって私もあなたと同じ」
- 86 名前:上海 坂奈 投稿日:2003年02月23日(日)18時48分33秒
「天然荒らしなんだから(藁」
- 87 名前:◇◇◇◇◇◇ 投稿日:2003年02月23日(日)18時49分16秒
- ◇◇◇◇◇◇
- 88 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時50分01秒
- 「・・・あれ?ログってばもう一通メールくれてる?」
じゃないはカップを置き、マウスを滑らせた。
- 89 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時51分21秒
- From: log0076
To: じゃない
Subject: そうそう言い忘れた(藁
私、最近、好きな人が出来ました(藁
log0076
- 90 名前:謝内 桃子 投稿日:2003年02月23日(日)18時51分55秒
- 「いーーーーなーーーーー!」
じゃないはディスプレイの前で絶叫する。
下の階の住人が何を言おうか知ったことかとばかりに声をあげた。
「私も好きな人が、欲しーーーーーーーい!!」
- 91 名前:笹江 顎人 投稿日:2003年02月23日(日)18時53分08秒
「くしゅん!」
- 92 名前:配役 投稿日:2003年02月23日(日)18時55分05秒
- 謝内桃子 :じゃない(桃板管理人)
笹江顎人 :顎オールスターズ(m-seek管理人)
上海坂奈 :鈴木S(bad communication管理人)
路具奈夢子:log0076(いしよし小説作者)
- 93 名前:STAFF 投稿日:2003年02月23日(日)18時56分37秒
- 名無し作者
- 94 名前:協力 投稿日:2003年02月23日(日)18時57分19秒
- モーニング娘。
- 95 名前:名無しさん 投稿日:2003年02月23日(日)19時41分15秒
- 素晴らしい、素晴らしい更新でした!!
そりゃ爆笑しましたさ!!
終わった振りも最高!
ネタでしょ?
- 96 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月02日(金)00時00分05秒
- http://m-seek.net/cgi-bin/read.cgi/imp/1049478762/20
なんとなく、このスレで話し合うのがいい気がする。
- 97 名前:ぺったんこ@予告編 投稿日:2003年05月25日(日)12時37分04秒
- #あの実況有名コテハンが!
#殺 さ れ た ? !
――――――
じゃない様
突然のメール失礼いたします。
「やっぱり本当だったですか…」
#突然の悲報。そして忍び寄る黒い影…
「28人て…」
「まぁね、私一人で抱えてるよりかはサザエに話せて良かった」
「…女神様です」
#seek実況板を舞台に起こる謎の連鎖殺人!
「サザエたん、じゃあ乾杯の音頭を…」
#果たして実況板に平和は戻るのか!
#構想20分!
#妄想固定・ぺったんこが世に放つ、衝撃の問題作!
#「実況板連続殺人事件」 近 日 公 開!
「や、や、やぐぴょぉぉぉぉぉぉぉんっ!」
#この内輪ネタに、アナタは耐えられるか…
- 98 名前:顎オールスターズ 投稿日:2003年05月25日(日)23時02分17秒
- >>7にあるとおり、このスレで行われるコテハン小説は、私の《公認済み》です。
無粋な突っ込みは無しに願います。
このレス自体が野暮だけどナー
- 99 名前:◇◇◇これより別作品◇◇◇ 投稿日:2003年05月27日(火)01時56分14秒
-
◆◆◆これより別作品◆◆◆
- 100 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時02分11秒
この小説は、出演者やシチュエーション等は実在しますが完全なフィクションです。
また、文中登場するハンドル以外の姓名に関しては便宜上設定した架空のものです。
尚、今回ご登場願った皆様、勝手な事してごめんなさい。あくまでも壮大なネタと
いう事でご容赦ください。また、登場しなかった皆様。「庵も出せやゴルァ」という
お怒りもございましょうが、これまた平にご容赦を。
- 101 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時03分10秒
「実況板連続殺人事件」
- 102 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時06分38秒
桃板管理人・じゃないがそのメールを受け取ったのはラジオ番組「石川梨華
のチャオチャオNight」を楽しい気分で聴き終えた直後の事だった。
その時間、たった1通だけ受信したメールを何気に開封したじゃないは、そ
の差出欄を見て、大きくため息をついた。
- 103 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時07分13秒
――――――
差出人 asami_1suji@hotmail.com
――――――
- 104 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時08分19秒
大規模掲示板の管理人は決して楽なものではない。
何百何千。いや、もしかすると何万という不特定多数の人間が閲覧し、書き
込みをする世界である。管理人に対する誹謗中傷や、言いがかり。あるいは、
書き込みにおける揉め事への介入など、時にはメールを開けるのがイヤにな
ってしまう時もある。しかもその多くは匿名。フリーメールを使った、言っ
てみれば「送りっぱなし」のメールばかりだ。ただ、ちゃんとした用件のメ
ールでも匿名のものは多く、その選別は困難を極める。だから、とりあえず
一回は開けなければならないから始末が悪い。
「…は?」
今回もそんな感じのメールなのだろう…と半ばヤケクソ気味に開封したその
メールには、その想像すらも超越する、まさに信じられないような事が書い
てあった。
- 105 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時09分16秒
――――――
じゃない様
突然のメール失礼いたします。
普段、桃板ではROMをさせて貰っている者です。
実は、桃板のコテハン「ぺっ」ことぺったんこさんが、亡くなられました。
突然こんな事を書いても信じては頂けないでしょうが、本当の事です。
私はぺったんこさんと数年前から親しくさせて頂いています。コンサート等にも
一緒に参加した事がありますし、本名どうしの付き合いをさせていただいていま
した。昨日、所用で携帯電話にお電話したところご家族の方が出られ、亡くなら
れた事を聞かされました。とてもショックで、何をどうすれば良いのか全く解ら
ないような感じなのですが、ぺったんこさんが常駐していたのが桃板だったので、
管理人であるじゃない様にお知らせだけはしておこうと、メールを差し上げた次
第です。
このメールの内容が、決して嘘や冗談ではない事を証明するため、私の住所と電
話番号を書いておきます。もしご不明な事などがあれば、いつでもご連絡をくだ
さい。
それでは
――――――
- 106 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時12分14秒
じゃないはディスプレイの前で、しばし頭を抱えこんだ。
こんな突飛もない話、信じられるはずがない。しかし、文面は至ってマジメで、
差出人のものとおぼしき氏名と住所、それに自宅と携帯の番号が記されていた。
単にイタズラでここまで手のこんだ事をするだろうか。いや、2ちゃんねる系
のネタ職人のやる事は細やかだから、これくらいのネタはあってもいいかも知
れない。けれど、特定コテハンの、しかも生き死にを使ってまでネタをするも
のだろうか…
すっかりテンションの下がったじゃないは、レスを書くはずだった失業スレの
ウィンドウを閉じると、PCの電源までもを落とし、自室に戻った。
「とりあえず、明日電話してみようか…」
この時、彼女の周囲に黒い影が取り巻き始めた事を、じゃないはまだ知らなかった…
- 107 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時14分20秒
- *
翌朝。
何回か躊躇したあげくじゃないはメールの主に電話をかけた。まだ本当の話だ
とは信じてはいなかったが、なんとも言えない胸のモヤモヤを吹っ切ってしま
うためにも、ここで勇気を出す必要があるだろう…受話器を耳に当てながら、
じゃないはそんな事を考えていた。
「……」
呼び出し音が途切れる。じゃないは思わず身を固くした。
「…もしもし…」
「…あ…あの……」
どう言い出していいか解らず、思わずじゃないは黙り込んだ。
- 108 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時15分44秒
「…じゃない姉さん…ですか?」
「あ…あぁ、はい…」
声のトーンにはそぐわない『姉さん』という言葉に違和感を覚えながらも、
じゃないの胸は妙に高鳴った。
「あの…メールの事…」
「はい…」
メールの差出人から見るに紺野ヲタらしい電話の向こうの青年は、生真面
目そうに一連の状況を話し始めた。
- 109 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時16分57秒
「やっぱり本当だったですか…」
じゃないは深くため息をついた。電話の向こうのマジメそうな声は、ぺったんこ
が亡くなった事、それが誰かに殺された疑いがあるという事を淡々と告げている。
「師匠は…ぺったんこさんは桃板の事、すごく好きだったみたいです」
「…そうなんですか…」
「板をROMってるだけでも解りました。師匠は自分でも掲示板を持ってました
けど、そこよりも桃に書く方が回数も多かったし、内容も濃かったし」
「…はぁ…」
「だから姉さんにはこの事を伝えなきゃいけないと思って…」
- 110 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時17分36秒
モヤモヤを吹っ切るために電話したはずなのに、電話を切ってからも、じゃない
の心はモヤモヤしたままだった。冗談などではないという事ははっきりと解った。
ただ、その内容はあまりにディープで、そして衝撃的だった。自分の掲示板に出
入りしている、しかも何度か顔を合わせたことがある人間が、こともあろうに殺
人事件に遭う。
ヘビーにも、程がある。
じゃないはもう一度ふとんを被ると、ぎゅっと目をつぶった。絶対に眠れない事
は解っていたけど、目をつぶった。
- 111 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時19分27秒
- *
Musume-seek管理人・顎オールスターズは悩んでいた。
管理人として。いや、一人の人間として、ここまで悩むのは人生で初めてではな
いかというくらいに、顎は悩んでいた。
- 112 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時21分29秒
悩みの種は「seek実況板公式オフ」だった。
顎が公式オフの開催を思いついたのは、実況人雑談スレのささいな書き込みがき
っかけだった。
- 113 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時22分48秒
――――――
262 名前:やぐぴょん ◆PvQ7/YDA 投稿日:2003年04月11日(金)09時53分16秒
やぐキタ ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!!!
やっぱりやぐを一番愛してるのは庵様だな
263 名前:鼻ティッシュ 投稿日:2003年04月12日(土)00時07分57秒
>>262
マジヲタ必死だな
264 名前:やぐぴょん ◆PvQ7/YDA 投稿日:2003年04月12日(土)02時21分08秒
いや、マジで庵が一番のヤグヲタ。ここにあるサブマシン賭けてもいい。
――――――
- 114 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時23分38秒
やぐぴょんの矢口マジヲタ度はどの程度なのか。他の実況人のマジヲタ具合はい
かなるものなのか。そして何より、久しぶりにオフをやってみたい。顎ははやる
心をグッと抑えつつ、冷静にまず自らの予定を整え、そして板に告知しようとそ
の機を伺っていたのだ。
ところが、その計画自体を揺るがしかねない大問題が起ころうとしていた。
- 115 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時25分03秒
「…じゃないがいないんじゃなぁ…」
オフを開催するにあたり、まず呼びたいと思っていたじゃないが、顎の参加打診
に難色を示したのだった。メールに多くは書かれてはいなかったが、金銭的にも
時間的にも余裕がない訳ではないが、今はオフ等に行く精神状態ではないのだと
いう。しかし、顎はその文面にいささかの違和感を覚えていた。じゃないとて人
の子だ。そういう精神状態の時があったとしてもおかしい事ではない。しかし、
じゃないと言えばコンサートへの遠征率やオフへの参加率の高い事で有名なコテ
ハンである。ましてや取り立てた予定もないのなら、普段のじゃないならば参加
デフォルトと言っても言い過ぎではない。
「…まぁ、しょうがねぇかなぁ…」
じゃないがいない事で多少盛り上がり方も変わるだろうが、それ以外の実況人に
会ってみたいという衝動も強く、顎はとりあえずオフの開催を決める事にしたの
だった。
- 116 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時25分46秒
――――――
699 名前:顎オールスターズ 投稿日:2003年04月21日(月)12時54分22秒
オフやるよん。
「やぐぴょんのヤグマジヲタ具合を確認するオフ」
【日時】4月30日(水)夜7時ころから?
【場所】都内のどこか
参加きぼんの人はとりあえずメールくらさい。
――――――
- 117 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時27分52秒
実況板の参加者の人数と人種の多さには、時々驚かされる事がある。コテハンと
名無し。そして、それぞれの中でも年齢や住む地方、実況に参加する番組はさま
ざま。実況人って一体どれくらいいるんだ…オフ参加のメールを整理しながら、
顎は改めてそんな事を感じていた。
「28人て…」
適当に集まってなりゆきで…などと考えていた顎は、その認識の甘さに頭を抱え
る事になった。店の予約に出欠の把握、そして当日の仕切り…経験した事のない
人数に顎はリアルで悩んでいた。果たして俺にやりきる事ができるだろうか…ふ
と、欠席が確定しているアノ人の事が頭をよぎる。
「…じゃない居てくれたらなぁ…」
顎はメーラーを立ち上げると、じゃない宛に再度の出席要請を書き始めた。そし
て、出席が無理ならせめてアドバイスだけでも…と、文面の最後につけたし、送
信ボタンをクリックした。
- 118 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時28分49秒
- *
どんよりと曇った空。されどアルタ前には無数の人通り。
東口から真っ直ぐ歩いて、顎は地下鉄への階段の前に立ち止まった。今にも降り
出しそうな空を見上げながら、傘を持って出てこなかった事を少し後悔する。
「やぁ」
後ろから肩を叩かれ、顎は少しビクついた。振り返ると見慣れた背の小ささがそ
こにあった。
「どうも…」
- 119 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時30分42秒
じゃないからメールが送られてきたのは昨日の事だった。
オフを翌日に控え、テンションと不安の高まりがダブルで胸に去来していた深夜、
じゃないからのメールを見た顎は心底ホッとしていた。メールの文面はまだ堅か
ったが、オフ自体への参加もOKという事で、顎としては最も喜ばしい結果と相
成ったのだった。だが、じゃないからのたっての希望で、オフの集合時間よりも
1時間早く現地にやってきた顎は、そのウキウキなテンションを一気にそがれる
事になる。
- 120 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時31分28秒
「今から言う話、ネタでもなんでもなくて、マジレスなんで、そのつもりで聞い
てね」
そう前置きしたじゃないは、カフェモカを一口すすって、顎の顔を見た。そう何
度も会った事がある訳ではないけど、その数回の印象とネット上のキャラクター
から考えて、たぶん普段のじゃないとは全く違う面持ちなのだろう…などとと顎
に思わせるほどリアルに真剣な表情で、じゃないは衝撃の事実を話し始めた。
- 121 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時32分48秒
「サザエたん、じゃあ乾杯の音頭を…」
その声にハッと我に返った顎は、席の中央に立ち、今日はありがとう、とりあえ
ず乾杯と言った。チンチンとグラスをぶつける音が響き、しばらくの静けさの後、
またガヤガヤという猥雑な音が居酒屋の店内を支配する。かくしてseek実況板公
式オフはその幕を切って落とした。
- 122 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時33分51秒
「えっと…あれが…」
「えぇっ!アノ人が…全然イメージ違うし…」
それぞれが思い思いに宴を楽しむ中、顎とじゃないだけは二人全く違うテンショ
ンで座敷の隅に並んでいた。幹事と有名固定という事で、いろんな人間が二人の
ところにやってきたが、どうにも気分が盛り上がらない。宴会も中盤戦に入った
頃からは、酒が入ってみんながおかしくなってきたせいもあるのか、二人の所に
はほとんど誰も来なくなった。
- 123 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時35分09秒
「…にわかには信じられない話だけどね…」
「そりゃさ、私も最初にメール来た時は信じられなかったよー」
「俺は会った事ないからさ…なんていうか…でも結構前から知ってるし」
「私はいろんなトコで会ったりしたしねぇ。余計になんていうかさ…」
「でもその…コロサレタ…っていうのはマジなの?」
「いや、それはなんとも…ただ、こんな事ウソつかないと思うしねぇ」
「…いや…これはテンション下がるよ…マジで」
「……私がオフ来たくないって言った気持ち解ってくれた?」
「よー解った。悪かったねぇ…」
「まぁね、私一人で抱えてるよりかはサザエに話せて良かった」
「…うん…」
「あれーっ?なにヒソヒソやってんのぉー?」
「…やぐぴょん…」
- 124 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時36分49秒
- かなり酒が入ったやぐぴょんがやってきて、沈んでいた二人の気持ちを少しだけで
はあるが盛り上げた。
「やぐぴょんはさぁ、どれくらいヤグマジヲタな訳?」
顎の言葉にやぐぴょんは突然正座に座り直した。
「…女神様です」
思わず口にしたウーロン茶を吹き出しそうになりながら、じゃないは顔の赤くなっ
たやぐぴょんを見る。なんともいえない珍妙な表情に、じゃないは笑いを堪える事
ができなかった。
「今日は一人で来たの?」
「いや…いつものヲタもだちと、あと雑談スレ経由で仲良くなった人と3人で…」
「ふーん」
「雑談スレ経由って…コテハン?」
顎が空いたグラスをまとめながら聞く。
「いや名無しさん…なんか知らないけどメールくれてね。オフに良かったら一緒に
行ってくれませんかって。まぁ、何回かレス付け合ってて全然知らない訳じゃな
いし、家も近いらしいし。一人よりも何人かの方が楽しいかなーって思ってさ」
「そうなんだ…」
「……あー!なになに!そのトレカ!!」
となりのテーブルにすっ飛んで行くやぐぴょんを見て、顎とじゃないは顔を見合わ
せ、そして笑った。
- 125 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時37分37秒
つつがなく予定の飲み放題2時間コースは終了。2次会組と帰宅組は別れてそれぞ
れの目的地へと向かう事になった。場を中締めし、引き止める声を断ち切って顎は
じゃないと共に新宿駅に戻った。
「じゃあ、またなんかあったらメールするんで」
「はい」
「…今日はゴメンね。折角の楽しいオフなのに変な雰囲気にさせちゃって…」
「いや…こっちこそオフの仕切りの手伝いしてもらってしまって…申し訳ない」
「それじゃ…」
「うん…」
- 126 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時38分11秒
- 長い一日の終り。それこそ「いろいろな意味で」疲れていた顎は、人の少なくなっ
た車内で大きく身体を伸ばし、ため息を一つついた。
「なんか疲れた…」
しかし、この時顎はまだ知らなかった。
この数日後、顎とじゃないをもっともっと疲れさせる事件が起こることを。
- 127 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年05月27日(火)02時38分57秒
●つづけ。●
- 128 名前:顎オールスターズ 投稿日:2003年05月27日(火)02時40分23秒
- ついにはじまた
いちお定期>>98
- 129 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月27日(火)18時54分55秒
- ふむふむ、期待。
- 130 名前:やぐぴょん ◆PvQ7/YDA 投稿日:2003年05月29日(木)00時07分18秒
- うはぁ!
顎じゃな両氏に並んで出演できるなんて光栄っす!!
かかし(しかし)
強いて言うなら庵にとって真里様は
女神というほど高尚で手の届かない夢の様な存在ではなく
より身近で現実的かつなくてはならない存在な「生きる希望」なのであります
もし真理様が芸能界を引退され次なる希望が見いだせなかった際には
やぐぴょんこと私は精神的な死を経てやがて物理的な死をも迎えることでしょう…
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2003年05月29日(木)11時39分22秒
- >>130
>>130
>>130
- 132 名前:仕事中 ◆KABOMOEI 投稿日:2003年05月30日(金)01時32分35秒
- ま た 理 か
- 133 名前:やぐぴょん@職場 投稿日:2003年05月30日(金)12時45分24秒
- >>132
記憶力の悪いATOKの様で…
- 134 名前:鼻ティッシュ 投稿日:2003年05月31日(土)19時01分19秒
- >>133
マジヲタ必(ry
- 135 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時23分47秒
- 「どうも。朝早くにすみませんね」
電話でアポイントがあったとは言え、さすがに7時30分の訪問は早すぎるだろ…
顎はそう言いたい気持ちをグッと抑えて、目の前の2人の男に向き合った。
- 136 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時24分40秒
警察の者だ、と彼らは今朝がたの電話で名乗っていた。
一瞬電話口でたじろぐ顎に、男は容疑者やそういう類のものではないから安心しろ
と、とても安心などできないような事務的な口調で告げ、そして、できれば自宅で
話が聞きたいと申し出てきた。顎としては別段やましい事などなかったし、警察の
事情聴取というものにささやかながら興味もあったので、刑事たちの申し入れを何
気なく受けてみたのだ。
「実は…その…」
微妙に言いにくそうな感じで、中年の方の刑事は口篭もっていた。それを感じたの
か若い方の刑事が思わず口を挟む。
「一昨日の夜、うちの管内で殺人事件がありましてね…」
殺人、という言葉に顎は思わず身を堅くした。数日前、同じような言葉を聞かされ
ていたからである。
- 137 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時25分40秒
「被害者の羽生田さんなんですけどね」
「…はにゅうだ…」
「あなたが持ってるインターネットの掲示板に書き込みをされてたみたいで」
「…はぁ…」
「心当たりとかは…」
「いや…基本的に匿名の掲示板なんで、羽生田さんとか言われても個人の特定はで
きないですよ」
「…あー…なるほど…」
「そんなもんなんですか」
中年の方の刑事が、胡散臭い事この上ない…とでも言いたげな怪訝な表情で顎に言
った。若い方の刑事は手持ちの紙資料をガサガサと忙しく動かしている。
- 138 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時26分12秒
「えっと…」
「…なにか?」
顎の言葉に二人の刑事が一斉に顔を上げた。
- 139 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時27分17秒
「いや、あの…死んだ方がうちの掲示板に出入りしてたっていうのはどうして…」
「あぁ。部屋のパソコンに画面が映ったままだったんですよ。それで…その…あ、
サーバーっていうんですか?管理者に依頼してあなたの事を教えていただいたん
ですよ」
「…そうなんですか…」
「あ、現場写真とかごらんになりますか?」
「えぇっ?」
「…いやいや、死体とかは写ってませんから。安心してください。パソコンの画面
写した物が確か…あ、コレですね」
- 140 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時28分01秒
顎は言葉を失うより他なかった。写真の中のディスプレイに映し出されていたのは
arena鯖の見慣れたレイアウト。そしてそこにははっきりと「テレビ実況板」と書か
れてある。そしてハンドル欄を見て顎は一気に血の気が引くのを感じた。
やぐぴょん
そこには、はっきりとそう書かれてあった。
- 141 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時28分50秒
写真を見て全く動かなくなった顎を不審に思ったのか、刑事ふたりは顎を凝視した。
「なにか心あたりでもありましたか?」
「…いや…その…」
顎は一瞬、言うのをためらった。しかし、隠し立てして自らの身に災難が降りかか
るのは本意ではない。それに自らの運営する掲示板の、それも実況板という限られ
た場所で2人の人間が「殺されて」いる。顎にはこの異常事態を回避しなければな
らない義務があった。
「実は…先日もうちの掲示板に出入りしてる人が亡くなったんです」
「…ほう…」
中年の方の刑事が身を乗り出す。
- 142 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時29分44秒
「この事は私も人づてで聞いただけなのですが、その方もどうも…その…殺された
とかなんとかで…」
「それは聞き捨てなりませんなぁ。ちょっと詳しく教えていただいていいですか?」
- 143 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時30分26秒
成り行き上、顎はじゃないの事を刑事ふたりに話し、じゃないから聞いた一連の内
容を包み隠さずに話した。当然、じゃないの住所氏名を尋ねられたが、顎は彼女の
素性を知らない。素性も知らない人間と一緒に食事に行ったりする事に刑事たちは
納得できない様子だったが、とりあえずは先日のオフの時に交換した携帯メールで
じゃないに連絡をとることとなった。
しばらくして、じゃないから電話がかかってきた。
- 144 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時31分31秒
「…ごめんね…ちょっと警察の人が来てて…」
「警察…ぺったんの事で?」
「いや…やぐぴょんが…」
「…やぐぴょん?やぐぴょんがどうかしたの…?」
怪しい単語の応酬に、刑事たちはまた訝しげな表情を作る。それに気付いた顎は、
とりあえず電話を若い方の刑事に渡した。一通りの話と、じゃないの住所を確認し
た刑事は、ぶっきらぼうに電話を顎に突き返す。
「…そういうことなんだよ、ね…」
「ちょっと…どうなっちゃってんの?」
「俺にもわかんないんだよー」
「…なんか怖いよ」
「俺だって怖いよ…」
- 145 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時32分10秒
刑事が帰り、一人になった顎はベッドに突っ伏した。
seekに
実況板に
一体なにが起きているのか。このまま掲示板を運営し続けていく事ができるのか。
顎は目に見えない巨大な影に怯えるように、ふとんを頭から被った。
- 146 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月03日(火)04時34分13秒
●つづけ。●
- 147 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時23分35秒
実況板固定・かぼもえは、友人・御子柴に呼ばれ東京に来ていた。
今は警察官をやっているという御子柴とは、大学時代につるんで行動していた、
いわゆる悪友というヤツで、今でも時間が合いさえすれば、出会ってバカな話に
華を咲かせたりしている。ただ、お互い住んでいる所も職業も全く違うふたりな
ので、会う時は、かぼもえの予定主導で御子柴がそこに合わせていくのがもっぱ
らだった。無論、御子柴から呼び出されるなどというのは初めての経験で、しか
も、わざわざ新幹線のきっぷまで送ってよこして来ていた。
「何があったんだろう…」
人気もまばらな中央線に揺られながら、かぼもえは御子柴の顔をぼんやりと思い
浮かべていた。
- 148 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時24分32秒
待ち合わせ場所に現れた御子柴は、いたっていつもと変わらないテンションだっ
た。会うなり、仕事帰りに寄ったキャバ嬢の右胸のホクロの話を始めたかと思え
ば、職場の配置移転があり、もう仕事も限界だとため息をついたり、その支離滅
裂ぶりはまさにいつもの御子柴そのものだった。
「で…さ…」
駅前のファーストフードに入ってまもなく、急に御子柴の口調が堅くなった。表
情もさっきまでのアホ面からは想像も出来ないほどのシリアスっぷり。プライベ
ートで。いや、付き合いを初めた頃から考えても、未だかつて御子柴のこのよう
な表情を、かぼもえは見たことがなかった。
- 149 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時25分25秒
「さっき話した配置換えの話なんだけどさ…」
「うん」
「オレ、この春から刑事課に転属になったんだよ」
「刑事…」
「ああ。それも捜査1課だよ」
「殺人とか取り扱うとこか?」
「そう」
「すげえじゃん」
「すげかないよ別に…貰う給料ほとんど変わんねぇのにリスクばっかりデカくな
っちゃって」
「でも刑事課の刑事っていう響きはすげえ…」
「ドラマみたいにカッコいいもんでもないんだよ実際…いや、そんな事より、ち
ょっと相談乗って欲しい事あんだよ…」
「なによ?」
「実はさ、転属して一発目の事件が、これがなんか変な事件でさ…」
「ちょっとなに…そんな事オレに話していい訳?守秘義務とかそういうの…」
「あー…いやだからその事件の事でさ、ちょっと相談に乗ってもらおうと思って…」
「オレなんかでいい訳?」
「おまえパソコンのスキルあるじゃん。その知恵をちょっと借りたいんだよ」
- 150 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時26分24秒
とあるインターネットの掲示板を舞台にした殺人事件。被害者は2名で、死因は
いずれもナイフでの刺殺。殺害方法などから同一犯である事はほぼ断定。しかし、
被害者2名はおなじ掲示板に出入りしていたという以外の接点は全くなし。
御子柴の話は、かぼもえの野次馬的欲求を満たすのには十分すぎるほどだった。
- 151 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時27分49秒
「うちのオヤジ連中はみんなインターネットとかそういう世界が夢物語みたいに
思ってるんだよ。しかも若いヤツはみんながみんなパソコンに詳しいと思って
やがる。だからメンドクサイ調べものやなんか、全部オレんとこに押し付けて
やがってさ」
「ふーん」
「オレだってパソコンの事なんて全然解んないしよ。でもそれ言っても通用しな
い世界だし。で、だ。オマエにいろいろレクチャーしてもらおうと思ってさ」
「それは別にいいくだけど…レクチャーってなにすれば…」
「んー…とりあえず掲示板の仕組みっつーかさ、そもそもどういう概念かとかっ
ていう、そのあたりからひとつ…」
「うーん…あ、それだったらさ、こんなトコでもなんだからとりあえずホテルの
部屋行く? ちょうどノートも持ってきてるし、いろいろ説明しやすいから」
「おお。そうか。悪いな」
喫茶店を出てタクシーを止める。今のコーヒー代もこのタクシー代も経費で落ち
るのだそうだ。この不景気な時代に…とかなんとか考えるかぼもえの耳に、御子
柴の声がフェードインしてくる。
- 152 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時29分07秒
「それにしても変な世界だよな」
「なにが?」
「インターネットやってるヤツって、本名とか住所とか全然知らないんだってな」
「…まぁなぁ…」
「名前も知らないようなヤツ同士が会って食事に行ったりするんだと」
「それがいわゆる匿名掲示板ってヤツの大きな特徴だよ。ああいう場所に本名や
ら住所なんて晒せないからな。だいたい晒したらとんでもない事になるし」
「オマエもそういうのやった事あるの?」
「しよっちゅうやってますが何か?」
「なーんか、こないだ聴取に行ったとこのヤツも、なんか変な暗号みたいな言葉
いっぱい喋ってたもん。ありゃどう見たって怪しいよ」
「どんな暗号?」
「いや、あんまり覚えてないけど…『ジャマイカ』とか『ぴょんぴょん』とか
『ぺったんこ』とか…」
「……『ぺったんこ』ね…」
一瞬、ある人物の顔とイヤな想像が頭をよぎったが、かぼもえはすぐにそれをか
き消した。
まさかそんな事…
- 153 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時30分35秒
「えっ…」
そのまさかが現実のものである事を知らされたかぼもえは、ただ唖然としていた。
御子柴が差し出した写真に写っていたのは、パソコンのディスプレイ。
「御子柴…これ…」
「あぁ。この写ってる掲示板に出入りしてたらしいんだ。被害者」
「…」
「さっき言ってた暗号話す変な人、ここの掲示板の管理人なんだってよ」
「サザエの…」
「…サザエ?なんだそれ?」
かぼもえは思わずベッドに倒れこんだ。やぐぴょんという名前がはっきりと写りこ
んだ写真。被害者のうちの一人が彼であるという事を、かぼもえは嫌でも理解せず
にはいられなかった。そして、同時にさっきのタクシーの中での会話が頭の中をグ
ルグルと回り始める。
御子柴が聞いたという暗号めいた言葉。
『ぴょんぴょん』はおそらくやぐぴょんの事だろう。『ぺったんこ』は文字通りぺ
ったんの事だし…あとはジャマイカ…じゃまいか…じゃ…
- 154 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時31分53秒
「…じゃないか?」
かぼもえは突然起き上がり、ノートパソコンでのん気に遊ぶ御子柴に叫んだ。
「おい御子柴。もう一人の被害者っていうのは…女か?」
「…んー…いや…確か男性だったはず…」
「…」
ぺったんだ…ぺったんも同じように殺されたのだ…かぼもえは背筋のゾクッとする
のを感じていた。同時に、ぺったんに申し訳ないという気持ちを残しつつも、被害
者がじゃないではなかった事に少し安堵を覚えていた。
「御子柴…話がある…」
「…なんだ…?」
ホテルの窓から見える東京の景色が、ゆっくりと翳っていった。
- 155 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時32分53秒
- *
通常、ヲタの飲み会は楽しいものである。
同じ趣味や嗜好を共有する仲間たちが、それらを肴に盛り上がる。特に、モーヲタ
の宴の盛り上がりは、他の種類のヲタを圧倒する程にすさまじい。そして、そこに
普段はなかなか会うことのできない遠方の来客があったりすれば、なおさらに盛り
上がる事は請け合いだ。
その居酒屋の片隅は、3名という少人数ではあるが、確かに「遠方の客を交えたモ
ーヲタの宴」の真っ最中だった。にも関わらず、盛り上がりという言葉とは程遠い
テンションがその場を支配していた。ため息。そして、うつむき加減。グラスの飲
み物も、飲むというよりはのどを潤すためにしか存在せず、料理もほとんど手付か
ずのまま残っていた。
- 156 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時35分43秒
「…本当にねぇ…なんていうか…」
憔悴しきった表情で、じゃないが言う。同じセリフを今日この店に来てから何度吐
いた事だろう。
「信じられないよ、こんなのは」
そう言って顎はジョッキにびっしりと水滴がついて、すっかりとぬるくなった生ビ
ールを一口飲んだ。そして、美味くも何ともない…というように顔をしかめる。
- 157 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時36分48秒
「それにしてもあの刑事さん、かぼもえの知り合いだったとはね」
「お互い働き出してからも、ちょくちょく会うのは会ってたの。でも、今度みたい
に向こうから呼ばれてっていうのは、全く初めてだったからね…」
「事件の事で呼ばれたの?」
「いや、たまたまなんだよね。パソコンのスキルがないから、伝授して欲しいって
いうのがそもそもの目的だったらしくて。で、話聞いてみたらseekのしかも実況
板ていうからもうね…」
「呪われてんのかなぁ…うちの板」
「んー…何が怖いってね、死んだのが固定中の固定2人でしょ。次は俺なんじゃな
いかって思うと…」
「…やめてよぉ」
そうなのだ。
言葉にこそ出さなかったが、じゃないと顎も『明日は我が身』への恐怖は漠然と抱
えていた。仮に実況板の中に犯人が隠れているとするならば、容疑者候補は無数に
存在する事になる。そして、原因もわからぬままに、ある日突然、顔も知らない相
手に殺されてしまう。考えれば考えるほど、恐怖は二人の心に浸透していく。
- 158 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時37分36秒
「とりあえずさ、俺は一旦帰っちゃうけど、御子柴くんにはちゃんとふたりの事も
説明してあるし、特に事件の経過だけは詳しく教えてくれるように頼んどいた。
もしも融通利かない事あれば、いつでも連絡して。アイツの弱みはいっぱい握っ
てるから」
「かぼもえありがとね」
「それと…」
「ん?」
「俺は明日からも実況出るから」
「かぼもえ…」
「なんかさ、シャクなんですよ。名無しに怯えるような真似は。負けたくないんで」
「うん」
「弔い実況やりますよ」
「でも気をつけて。何が起こるか解んないから」
いつになくシリアスなトーンのかぼもえに、じゃないは心配そうに言った。
- 159 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月09日(月)02時48分59秒
●つづけ。●
- 160 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時29分16秒
その後、しばらくは平穏な日々が続いた。
2人参加者が減ってしまった以外は、seekもいつも通り。じゃないの運営する桃板
も賑やかさは相変わらずだった。しかし、管理者ふたりの心のモヤモヤは晴れる事
はなく、なんとも言えない虚脱感が、魚の小骨のように心の奥底に引っかかったま
ま取れずにいた。
そんなある日。
顎をたずねて御子柴がやってきた。
- 161 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時30分56秒
「いや、正直手詰まりの状態なんですよ…」
かぼもえから連絡が届いたのだろう。捜査状況を報告に来てくれたらしかった。
「容疑者のあたりは一応ついてるんですけどね」
「えっ? そうなんですか」
「えぇ羽生田さんとここ最近親しくしていた男で…」
「ここ最近…ですか」
「えぇ。羽生田さんの知り合いの話だと、つい何週間か前に知り合った男とかで」
「あぁ…」
「…なにか?」
「ひょっとして…」
顎はディスプレイにオフ会時のデジカメ画像を表示させた。
「…この人…ですか?」
「あー…木佐貫だ…なんですかこの写真?」
「先日、うちの掲示板でオフ会をやった時の写真です」
「これ横にいるのは羽生田さんですね…なるほど本当に親しかった訳だ…」
「この木佐貫さんっていうのが本当に犯人なんですか?」
顎は御子柴の方に向き直り言った。
- 162 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時32分21秒
「羽生田さんの家の近くで頻繁に姿が目撃されてましてね」
「それって、ただ仲がいいってだけじゃないんですかね? 家も近いらしいですし」
「目撃のされ方が異常なんですよ」
「異常?」
「毎週決まって、同じ曜日同じ時間に現れるらしいんです」
「…同じ時間ですか…」
「普通仲が良くて行き来するなら、もっと時間や曜日にバラつきがあっていいは
ずでしょ。なのにそれが全くない。計ったように毎週同じ時刻に現れて、別に
家に立ち寄る事もなく去っていくって言うんです」
「…確かに怪しいですね」
「怪しいでしょ? でも…」
ため息をつく御子柴
「動機が解らないんですよ。見た目ふたりは仲が良さそうだったみたいだし、知
り合って間もなくに犯行が行われている事を考えると、そんなに短期間に殺し
てしまおうとまで決断させるほどの揉め事は起こしていなかったと思うんですね」
「確かに」
- 163 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時34分26秒
「それに木佐貫には鉄壁のアリバイがあるんですよ…」
「アリバイですか…」
御子柴は足を少し崩すと、手帳を取り出して開けた。
「あの日木佐貫は、知り合いと自分の家で朝まで飲んでたって言うんです」
「そんなの知り合いに頼めばアリバイ作りに協力してくれるんじゃないですか?」
「いや…その日は途中までは木佐貫の家の近くで飲んでたらしいんです。それを
居酒屋の店員が目撃証言してくれた。あの日ふたりは確かに一緒にいたんです…
でもまぁそれ以外にもいろいろとアリバイがありまして…」
「いろいろ…そんなにいっぱいあるんですか?」
「えぇ。しかも裏付け全部取れちゃいましてね。このままじゃ木佐貫以外の容疑
者を見つけないといけない事になるんですけど、犯人は木佐貫以外に考えられ
んのですよ…」
御子柴の塞ぎ込んだ様子に、顎もなぜかしらブルーな気持ちにさせられた。
しばらくして、不意に御子柴が言った。
- 164 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時36分32秒
「これから木佐貫のアリバイ証人に会いに行くんですけど、良かったら一緒に来
ませんか?」
「いやそれはマズイでしょ、いくらなんでも」
「せっかくですから是非。それに俺や他のオヤジ連中の頭ではすでに限界きちゃ
ってるんで、新しい思考も必要だと思ってたんですよ」
「でも…」
「大丈夫ですよ。会ったら刑事のフリして、それっぽく頷いたりとかしてもらえ
ればオッケイなんで」
「…でもこんなラフな格好」
「ま、いいじゃないですか。とにかく行きましょう」
- 165 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時39分50秒
御子柴の強引な誘いにのり、顎は証人の事情聴取に付き合う事になってしまった。
さすがはかぼもえの友人、ヒトクセあるなぁ…などと考えながら、待ち合わせの
ファミレスに入った顎は、なんとも言えない緊張感に包まれていた。バレたらマ
ズイんじゃないか…でもちょっと好奇心もある…
ゆらゆらした気持ちのまま数十分が経過した頃、入り口でウェイトレスの声が響
き、小柄な男がこちらに向かって歩いてきた。御子柴が立ち上がって会釈する。
顎もつられるようになぜか頭を下げた。
《なんで俺は挨拶してるんだろう…》
久保寺と名乗ったその男は、ぶっきらぼうにアメリカンを注文すると、御子柴と
顎の顔を訝しげに見比べた。
「そちらの方は…」
顎はビクリとして御子柴を見た。
- 166 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時41分35秒
御子柴は平然と
「同僚です。張り込みから急遽こちらに回ってもらったんでちょっとラフな格好
してますけど」
顎は引きつった笑いをして久保寺に会釈した。久保寺はまだ不審そうだったが、
少し時計を見やって、切り出した
「この後予定があって少し急ぎますんで…」
「あぁ、すみません。じゃあ早速」
御子柴は手帳を取り出し、書いてある内容をなぞるようにアリバイの確認を始め
た。
- 167 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時45分15秒
「えぇ。あの日は木佐貫くんとずっといましたよ。間違いないです」
「詳しい話、聞かせてもらっていいですか?」
「いいですけど…木佐貫くんの事疑ってらっしゃるんですか…?」
「いえいえそういう訳じゃ。ただ、一応裏付けという形でいろいろお伺いしてる
もんですから」
またしても訝しげな表情になる久保寺の携帯ストラップを見て、顎は思わず声が
出そうになった。そこについていたのは、今は懐かしのヤムチャアクセ。しかも
バイオリンを持ったキャラクターの横にはR.Iのイニシャルが。
《石川ヲタかよ…》
顎はマジマジと久保寺の顔を見ずにはいられなかった。
- 168 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月16日(月)20時45分45秒
●つづけ。●
- 169 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時07分10秒
「…あの日は木佐貫くんと一緒に渋谷のハロショに行って…」
「…ハロショ?」
そのやり取りに思わず顎は苦笑する。
「あぁ…買い物です。で、久しぶりに会ったし今日は飲もうって事になって、木佐
貫くんの地元に行って、いろいろ遊んでました」
「いろいろ、というと…」
「カラオケを2時間ほどして、それからこじんまりした居酒屋で飲んで…で、それか
ら木佐貫くんの家に行きましたね」
「時間とか覚えてらっしゃいますか?」
「時間…あぁ、たしか夜の9時ちょっと前ですね…8時50分くらいかなぁ」
「その時間に間違いはないですか?」
「えぇ。ちょうど9時からビデオの予約してて、それが録れてるかどうか気になって、
チラチラ携帯の時計見てたんで」
「ほう…で、その後は家でずっと二人で?」
「いや、木佐貫くん家には違う友達が遊びにきてたらしくて、先に家に入って待って
たらしいんです。その人と3人でいました」
「お友達ね…女性ですか?」
「いや。男の人でした」
- 170 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時08分35秒
御子柴の表情がだんだん引き締まり、視線が鋭くなっていく。ここに来て、ガゼン警
察官の雰囲気を醸し出してきた御子柴に顎はいささかの畏怖を感じていた。
「男性、と…で、その方と3人でずっといらした訳ですか」
「えぇ…ただ途中で木佐貫くんは一瞬どこかに出て行きましたけどね」
「出て行った?」
「えぇ。お友達に署名がどうとか言ってました。すぐ近くの人だからちょっと行って
来るって」
「すぐ近く…どれくらいですかね」
「確か歩いて7,8分くらいって言ってたかなぁ…」
「ほう…出て行かれた時間は…」
「えー…ラーメンの出前が来てすぐくらいだから…」
「ラーメン?」
「えぇ。その木佐貫くんのお友達が夜メシ食ってないって事で、ちょうど僕らもお腹
減ってたんで出前取ろうって話になって」
「ほうほう」
「で、その出前が来て、すぐくらいに出て行ったから…9時5分過ぎくらいかなぁ」
「で、いつ頃戻られましたか?」
「うーん…」
「思い出していただけませんかね…」
「…あぁ、ラジオが終って少ししてからだから…9時40分くらいかな」
- 171 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時09分40秒
「ラジオですか?」
「えぇ。木佐貫くんのお友達と僕は初対面だったんで、なかなか会話とかも続かなく
て。で、そのお友達が気を利かせてラジオつけてくれたんですよ」
「何の番組か覚えておられますか?」
「えぇ。前田有紀のドンドンゆきどん!ですね」
「ドンドン…すいません。勉強不足で。どこの放送局の番組ですかね?」
「ラジオ東京…」
つい条件反射で口が開いてしまい、顎はしまった…というような表情を見せた。
「よくご存知ですね…」
久保寺は何かをかぎつけたようにニヤリと笑って顎を見た。
- 172 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時11分16秒
「おっしゃる通りラジオ東京ですよ。私たまに聴いてるんですけど、9時からの30
分番組なんですよ。番組が終って、ラジオ消して、10分ほどで木佐貫くんは戻っ
てきましたから」
「なるほど…その後はもうずっとご一緒だった訳ですか」
「はい。朝の7時に家を出るまで一緒でした」
「なるほど…」
「すみません。ちょっとトイレ…」
「あ、どうぞどうぞ」
御子柴はメモを書きながら呟いた
「…木佐貫の証言とドンピシャ…ですね」
「…そうですか…」
「やっぱり木佐貫はシロなのかなぁ…」
御子柴は大きく身体を伸ばし、タバコに火をつけた。
- 173 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時12分34秒
♪〜
突然、トイレに立った久保寺の携帯の着信メロディが静かな店内に響き渡る。
《お ん な の こ り か い し て よ》
顎は着メロに会わせて心の中で歌詞を口ずさむ。こんな場でなければヲタ話の一つで
もして盛り上がれただろうに。トイレから忙しく戻ってきた久保寺を見ながら顎はそ
んな事を考えていた。
「携帯鳴ってましたよ」
御子柴はコーヒーをすすりながら言った。
「すいません…マナーにするの忘れてたな…僕ダメなんですよ。こういう店とか来る
と携帯とかテーブルに置きっぱにしちゃうクセあって」
「かなりデカい音でしたよ」
「えぇ。だから店に入るといつもはマナーモードにしちゃうんですよ。家とかでは大
音響なんですけどね。思わず口ずさんじゃうくらい」
「…」
顎はため息をついた。考える事は誰でも同じ。ヲタとはなんと悲しい生き物なのだろう。
「あれ。その携帯…確か木佐貫さんと同じ機種ですよね」
御子柴がすっとんきょうな声を出した。
- 174 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時13分54秒
「あ…えぇ。着メロの音質がいいって言うんで木佐貫くんに薦められたんですよ」
「ほぅ…」
「あ、そうそう。トイレ行ってる間に思い出したんですけど」
「なにか?」
「あの日の木佐貫くんは体調が思わしくなかったみたいですよ」
「体調ですか…」
「ええ。なんか腹具合が悪いとかで、居酒屋のトイレからしばらく出てこなかったで
すから」
「そうなんですか…」
「…そろそろ…いいですかね?」
そう言って久保寺は携帯をポケットにしまう。
「あ、今日はわざわざすみませんでした」
「…本当に木佐貫くんはなんともないんでしょうね?」
「いや、参考人という形で鋭意捜査しておりますので…」
「そうですか…」
- 175 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時14分52秒
「どう思われましたか?」
「どうって…」
「まだ2,3裏づけが済んでませんけど、これで木佐貫のアリバイはほぼ完全に成立
したと言っていいでしょう」
「そうですよねぇ…」
「そうなると我々はまた新たに容疑者探しから始めなければならない事になります」
「そうなんですか…」
「解決までには相当の時間がかかるでしょうねぇ」
重い口調の御子柴の声に、顎はただ黙って頷くしかなかった。
- 176 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時15分30秒
その後も顎の元には御子柴からの連絡が入りつづけた。
自宅に戻った木佐貫が知人宅に再度出かけた目的は、ある地方番組を全国ネットにす
るべくインターネットで呼びかけられた署名活動の趣旨説明と依頼の為だった事。
その知人・八重樫宅に木佐貫が行ったのは午後9時20分だった事。その時、八重樫
宅の玄関先で、八重樫の友人と木佐貫が鉢合わせした事も合わせて確認されている。
ちなみに、署名用紙には、八重樫と久保寺の署名がなされていた。
それは木佐貫のアリバイが完璧なものになっていく証明にしか過ぎず、事件解決が程
遠い事の現れだった。
- 177 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年06月24日(火)02時16分55秒
●つづけ。●
- 178 名前:顎オールスターズ 投稿日:2003年07月10日(木)12時58分36秒
- 保全。。
- 179 名前:やぐぴょん ◆PvQ7/YDA 投稿日:2003年07月14日(月)00時56分31秒
- 交信止まってますねぇ
読んだら雑談板に感想書きませう>ALL
- 180 名前:ぺっ 投稿日:2003年07月18日(金)13時49分48秒
- 申し訳ない。
ちょっといろいろ立てこんでたのと、話の辻褄合わせに手間取ってます。
週末には更新しますです。
- 181 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)00時56分55秒
- 「最近どう?」
数週間ぶりにあったじゃないは椅子に腰かけるや否や切り出した
「容疑者のアリバイが成立して、八方ふさがりらしいよ」
「そうなのかぁ」
「明日また御子柴くんと会う事になってるんだけど…」
「御子柴くんって…えらい仲よくなったんだねぇ」
「もう何回も会ってるしねぇ」
度々出会う事で、顎は御子柴と徐々に気心が知れるようになっていた。御子柴もまた、
顎にはざっくばらんに何でも話をする。刑事と一般市民という関係で言えば考えられ
ないような付き合い方になっていたのは間違いない。
- 182 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)00時58分08秒
- 「あのさ」
「ん?」
「どんなアリバイだかさ、良かったら教えてくれない?」
なぜか爛々と目を輝かせて、じゃないが言う。
「…別にいいけど…」
「こう見えてさ、わたし推理小説ヲタでもあって…」
「またそんな意外な事実を…こんなトコで…」
「興味ありありぃみたいな」
「そうなのか…」
そう言って顎はポケットからペンを取り出し、手元の紙ナプキンにアリバイの時系列
を書き始めた。
- 183 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時31分50秒
http://nonoso.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/source/up0363.jpg
「その時すでに部屋にいた木佐貫の友人、木佐貫の知人である久保寺さんの証言はも
とより、八重樫さんの証言。それにラーメン屋の店員といった第3者の証言からも
裏づけは取れてて、このアリバイには一点の曇りもないと」
「ふーん…」
じゃないは紙ナプキンに書かれた文字を見つめながら、カフェモカをすすった。
- 184 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時33分33秒
「この署名っていうのは?」
「ほら、BMが他のファンサイト巻き込んで大々的にやってる…関東ローカルの番組
を全国ネットにとかなんとかいうヤツの署名」
「あぁ。アレかぁ。うちにもなんかメール来てたな」
「木佐貫って人、それの取りまとめ役やってたとかなんとかで。それで八重樫さんに
署名もらいにいったという」
「なるほどなるほど」
「…明日さ、御子柴くんと会うの、じゃないも来なよ」
「えー!そんな……いいの?」
とは言いつつ満更でもない様子。
「別にいいと思うよー。一回も会った事ない訳じゃないし。それに推理ヲタならきっ
と面白い話とか聞けるかも」
「あー。なんか楽しみだな。…あ。不謹慎か…」
- 185 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時34分40秒
翌日。
いつものファミレスにやってきた御子柴は、汗を右手で拭いながら乱暴に席につく。
じゃないを見て「あぁ!」というような表情を見せた後、出されたお冷をゴクゴク
と飲み干し、ネクタイを緩めた。
「で、なんか進展ありました?」
顎がゆっくりと口を開いた。御子柴はカバンから捜査資料を無造作に取り出し、ペラ
ペラめくりながら、足を組み替えた。
「とりあえず…進展は…なしかな」
「そうすか…」
「アリバイの裏づけはしっかり取れてるしね。どうしようもないってのが本音で…」
「あ、それですか、例の署名っていうのは」
捜査資料の中に混じって、冊子のような書類があるのを顎が見つけた。
「えぇ。一応証拠品として押収したんだけど…指紋も怪しいのは出てこなかったし、
有力な物証にはならなかったっすね」
「……ん?」
突然、身を乗り出すようにして、じゃないが署名の用紙を見た。
- 186 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時35分22秒
「ん?どうかしました?」
「いや…この署名…」
じゃないは署名用紙に目を凝らした。
「ここ…ほら…」
じゃないの指差した先は、署名用紙の裏面。インク跡がついている。
「これが何か?」
「これ…このインク跡…なんて書いてますかね…」
じゃないはそのインク跡を舐めるように凝視した。顎も御子柴も、釣られて用紙に見
入っている。
「八……重…八重樫…」
- 187 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時36分14秒
そのインク跡はうっすらとではあるが八重樫という文字が残されていた。
「あぁ八重樫さんの書いたものが写ったんですねきっと」
「それがどうかしたの?」
じゃないは、しばし何かを考え込み、そして昨日顎が書いた紙ナプキンの裏書きを
見つめていた。そして搾り出すように言った。
「どうして残ってるんですかね…」
「は?」
「八重樫さんの書いたインク跡がどうして残ってるんだろう…」
顎も御子柴も「はぁ?」といった雰囲気でじゃないの事を見ている。
- 188 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時36分53秒
「これ、前のページの最後の記入欄。久保寺さんの名前ですよね」
「そうですね」
「で、次ページの最初の記入欄が八重樫さん」
「…そうですね」
「で、八重樫さんのインク跡がついてる…」
「……そうですね…それが一体?」
「八重樫さんが書いた跡が残ってるって事は、インクが乾かない間に前のページを
乗っけたって事ですよね」
「ですね」
「このページより前のページにも後のページにも、他のページにはインク跡とか残
ってないんですよ。このページだけについてる」
「あぁ…確かに」
「この手の署名用紙とかって、しおりでもない限り、一回一回冊子を閉じずにペー
ジをどんどん裏に折り重ねて使っていくじゃないですか」
「言われてみればそうだ」
顎は署名用紙をパラパラめくりながら呟く。
- 189 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時38分23秒
「だから他のページにはインク跡が写ってない。なのにこのページだけインク跡が
残ってるんですよ。って事は、八重樫さんの署名が書かれた後、一度冊子を閉じ
るかなんかしてるって事ですよね」
「うんうん」
「まず久保寺さんが署名する。1ページめくる。八重樫さんが署名する」
「そうか。その順番なら前のページの紙裏にインク跡は残らないな」
御子柴は組んでいた足をほどき、広げた手帳に見入る。
「こういう状況が起こりうるのはたぶん、一つのパターンを除いては考えられませ
んよね」
じゃないは御子柴に向き直って言った。
- 190 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時38分54秒
「…八重樫さんの方が先に署名をした…」
御子柴が搾り出すように言う。
「そうです。八重樫さんが先に次ページの先頭に署名をする。で、次に久保寺さん
が一つ前のページの最後の欄に署名する。書くためには必然的に前のページを重
ねないといけない。だから八重樫さんの書いたインク跡が紙の裏についたんでし
ょうね」
「…すげぇな。じゃない…名探偵みたいだよ…でもなんでそんな事する必要がある
んだろう」
「…アリバイか…」
「ですよね…」
「え?」
顎が取り残されるまま、じゃないと御子柴は事件の核心に一歩ずつ近づいていく。
- 191 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時39分28秒
「そういうヘンな順番で署名させる必要が木佐貫にはあったって事。もちろんそれ
は、自分の作ったアリバイを証明させる為であって…」
「ちょっと待って、アリバイと署名とどういう関係があるの?」
そういう顎に、じゃないは向き直る。
- 192 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時40分21秒
「木佐貫にとっては、署名が久保寺→八重樫の順番でないといけなかったって事な
のよ」
「うん」
「でもインク跡見れば、八重樫→久保寺っていう順番なのは明白じゃない」
「うん」
「21:20に八重樫さんが署名書いたのは裏づけが取れてるんだから、久保寺さ
んが署名したのはそれよりも後って事だよね」
「うんうん」
「でも木佐貫にとっては、その順番だと絶対にマズいのよ」
「うーん…」
顎には話の核心がイマイチ分からない。御子柴もじゃないが署名の順番に拘る理由
がピンときていなかった。
- 193 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時41分07秒
「実は昨日ね、サザエにアリバイの事聞いてね、いろいろ考えて…」
じゃないは急に声を細める。
「あくまでも、シロウトの意見だからあんましまともに聞かないで…欲しいんだけど」
「なんです?」
「なんとなく…アリバイ崩せちゃったかなー…みたいな…」
「え゛?」
御子柴はスットンキョウな声をあげた
「いやいやいやいや、もう本当に強引な理論なんで全然全然…スミマセンスミマセン」
じゃないはブルブルと首を横に何度も振る。
「聞かせてよ」
「いやマジで。よかったら聞かせてください」
男二人に迫られ、じゃないは決意したように小さくため息をついた。
- 194 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年07月20日(日)18時41分42秒
- ●つづけ。●
- 195 名前:名無しさん 投稿日:2003年08月20日(水)15時34分36秒
- ホ
- 196 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時05分41秒
「実はですね…自分の推理も決め手がなくってショボンだったんだけど、今の署名の裏
写り見てなんとなく自信ついたっていうか」
「署名が…」
じゃないは、顎に昨日もらったナプキンをテーブルの上に取り出した。
「人間の時間の感覚なんて、そりゃいい加減なもんだと思うんですよ」
「そう?」
「カラオケに2時間。それからこじんまりとした居酒屋。そこに酒が入ってほろ酔い
になれば、時間の感覚は薄れてくるでしょ」
「あー、なんか解る気がするなぁ」
顎はふとこのあいだのオフの事を思い浮かべていた。
- 197 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時06分16秒
「木佐貫はそこを突いたんだと思うんですよね」
「でも証言の時間は寸分の狂いなく裏づけが取れてますが…」
「木佐貫はあらゆる時計を巧妙に使って、まったく異なる2つの時間軸を作り上げた
んだと思うんです。その時間の中に久保寺さんを陥れて、まんまとアリバイ作りに
利用した…」
「2つの時間軸…」
「1つは本当に流れている時間。そして、もう一つは木佐貫が自ら作り上げた時間。
久保寺さんは木佐貫の作った『ウソの時間軸』の中であの夜を過ごしてたんです」
顎と御子柴はじゃないの言葉を聞きながら、小さなナプキンを2人で
食い入るように見つめている。
- 198 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時08分14秒
http://nonoso.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/source/up0363.jpg
「そこに書かれてあるのは、あの日久保寺さんが木佐貫と一緒に過ごした時間です」
「木佐貫自身の証言とも一致してますね」
「でも見た感じ一点の曇りもないよ。死亡推定時刻の22時〜23時の間はもう
すでに木佐貫は久保寺さんと家で飲んでいた事になる」
「でもね」
じゃないは二人の男の目をジッと見つめる。
「でも、これはあくまで木佐貫が作り上げた『ウソの時間軸』にすぎないんです」
「ウソ…ですか…一体どこが…」
「もし、久保寺さんの時計が1時間遅れていたとしたらどうでしょうか」
「遅れ…」
「もし久保寺さんが木佐貫の家に着いたのが20時50分ではなく21時50分
だったとしたら…それを久保寺さんが20時50分だと誤解してたとしたら…」
- 199 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時09分52秒
顎はそう言われても焦点がボヤけたままだったが、御子柴は思わず息を呑んだ。
じゃないは新しい紙ナプキンを取り出すと、目の前にあったボールペンで、新し
い時系列を書き始めた。
「でも待ってください。携帯の時計が1時間遅れているからと言って、そんなに久
保寺さんはすんなりと騙されるもんでしょうか。それに木佐貫が久保寺さんの時
計を遅らせるチャンスがあったとも思えないし…」
御子柴は多少興奮気味に言った。じゃないは時系列を書き上げ、クリームソーダを
一口すすると、朱書きのナプキンを二人の方に差し出した。
http://nonoso.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/source/up0365.jpg
御子柴は自分の考えをゆっくりとほどくように、そして自問自答するように呟く。
「いや…時計は居酒屋で調整できるチャンスが十二分にあったか…あったね!」
「そう言い切れるんですか?」
顎は御子柴を見た。
- 200 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時10分59秒
「久保寺さんに話を聞いたときの事、覚えてますか?」
「あぁ、あのファミレスで…」
「あの人、テーブルの上に携帯電話を置くクセがあるみたいだった」
「ああ…言われてみれば。着信音がめっちゃ大きかったんだ」
「木佐貫と久保寺さんの携帯は同じ機種だ。久保寺さんがトイレに立っているあ
いだに時間調整する事自体は木佐貫にとっちゃなんでもない事だ…」
御子柴はそこまで言って、お冷をすすった。
「携帯の時計を遅らせる事ができたら、次はあらかじめ共犯者である友人に自宅
にある全ての時計を1時間遅らせといてもらう。そうすれば二人の間の時間軸
は1時間巻き戻った事になるんですよ」
謎解きをするじゃないはオフの時とは別人のような表情だ。
- 201 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時12分22秒
「カラオケに居酒屋…時間の感覚がなくなるってヤツか」
「これで二人の間と実際の時間との間に1時間の時差ができた。後は周囲をその
時間軸に合わせてやればいいだけ」
「というと…」
じゃないは手元の赤ボールペンを握った。
- 202 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時13分15秒
「八重樫さんの家に行ったのが21:20。これはこの時間で間違いなしよね。で
も、1時間遅れている『ウソの時間軸』の中では20:20の事。この時間木佐
貫はどこで何をしてたっけ?」
「…居酒屋で飲んでたよね」
「ちょっとお腹の調子がおかしくてトイレに篭ってたって言えば、20分ほどの時間
は作れるんじゃないかなぁ」
「じゃあその時間に…」
「そう。二人とも言ってみれば木佐貫のホームグラウンドで遊んでた訳でしょ。居酒屋
抜け出して八重樫さんの家に行き、署名をもらう。そして何食わぬ顔で居酒屋に戻る。
できない話じゃないよね」
「…確かに…」
顎は何かを閃いたように、パッと身を起こした。
- 203 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時14分33秒
「…いや…確かにそれはそうでしょうけど…まだ疑問はあります。出前とか…そう。出
前を取ったのは、あなたが言うウソの時間で言うと21:00。本当の時間で22:0
0ですか。けど、21:00に出前の注文があった事は裏づけが取れてます…」
「2回頼んだんですよ」
「は?」
「21:00と22:00、それぞれ別の店に注文したんです」
「…」
「木佐貫の友人の男はすでに家にいた訳ですよね。彼があらかじめ21:00に出前を
取っておいたらどうでしょう。で、二人が帰宅した22:00にもう一度、今度は別
の店に出前の電話をする。ラーメンが届いたら、先に取った方の店の器に、後から取
った方の中身を入れて出す」
「22:00の出前は完成だ…」
顎が呟く。
「……じゃあラジオは…」
絡まっていた糸がほぐれていくにつれ、御子柴の興奮は高まっていく。声も自然と上ずる。
- 204 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時15分35秒
「これですよ」
じゃないは雑誌を取り出し、その中の1ページを見せた。
「ネット局一覧…」
「そうです。ゆきどんの番組は地方ネットもやってます。キー局のラジオ東京は確かに2
2:00からですけど、見ての通り、各局開始時間はバラバラです」
「そうか…21:00開始の局を聴かせればいいんだ…」
「おそらくこの中で木佐貫の家から一番感度の良さそうな…これ。神奈川放送の放送を聴
かせたんでしょう」
「て事は…」
顎が身を起こす。じゃないは赤ペンを何度も動かしながら続けた。
- 205 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時16分33秒
http://nonoso.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/source/up0364.jpg
「21:20に署名は貰いに行ってる訳だから、2人が家に着いてから、木佐貫が出て行
った、ここのこの22:05から22:00。この時間、一体彼はどこに行ったんだろ
う」
「…死亡推定時刻とピッタリ合うね…」
「…スゴイよ。あなたスゴイ」
御子柴は口をあんぐり開けたまま、じゃないを見た。
- 206 名前:ぺったんこ 投稿日:2003年08月20日(水)23時17分12秒
- ●つづけ。●
- 207 名前:顎オールスターズ@管理DD 投稿日:2003/10/12(日) 12:45
- ☆ チン ☆ チン ☆ チン
〃 ☆ チン 〃
☆ チン 〃 Λ_Λ ☆ チン
ヽ ___\(\・∀・) <続きまだぁ〜?
\_/⊂ ⊂_ )
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /| ☆ チン
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| みかん |/
- 208 名前:ぺったんこ 投稿日:2004/01/11(日) 17:32
- 「木佐貫は署名の順番を久保寺→八重樫にする必要がどうしてもあったのよ」
「えっ…」
「久保寺さんに署名をもらうには家に連れて帰らないといけないから」
「目立つからって事?」
「それもそうだし、突然飲み屋とかカラオケ屋で署名させたりしたら、なにより久
保寺さんが怪しんでしまうでしょ」
「そうか。唯一のアリバイ証人だもんな」
「だから家に帰ってから署名させたかった。でも、八重樫さんに署名をもらう
21:20という時間は動かせない。アリバイの時間軸の中では、一旦自宅に戻り、
それから八重樫さんの家に行くシナリオになってるから、署名の順番が逆になってると…」
「自宅に戻る前に八重樫さんの家に行ったって事がバレるのか…」
- 209 名前:ぺったんこ 投稿日:2004/01/11(日) 17:32
-
「ただ」
じゅないはペンのキャップを閉め、手元に置いた。
「あくまでも机上の空論だからね。証拠もなにもないし」
「いや」
御子柴はキリリとした表情でじゃないに向き直った。
「アリバイトリックの立証は必ず私がやってみせます。
…一応僕だってプロですから」
御子柴はそう言って顔を少しほころばせると、伝票を持って席を立った。
- 210 名前:ぺったんこ 投稿日:2004/01/11(日) 17:33
-
数週間後、木佐貫は殺人容疑で逮捕された。
唯一、時計のトリック以外に細工が施されたラーメンの出前の部分を突破口に、
ついぞ木佐貫のアリバイは崩れた。
アリバイのトリックはじゃないが推理したものにほぼ間違いはなく、
久保寺に事件直前に携帯電話を自分のものと同機種に変えさせたのも、
アリバイ証人に仕立て上げるためだった。
さらに、全く脈絡のない時期に関西地方に出かけていた事も発覚。
おそらくは、ぺったんこの殺害のための関西行きだったと見られる。
- 211 名前:ぺったんこ 投稿日:2004/01/11(日) 17:34
-
「で、動機は…」
コンサートの馴れ合い場所で、じゃないと顎から事件解決の経緯を聞いたかぼもえは、
ペットボトルの水を一口飲んでから聞いた。
「実況でね」
「うん」
「何度やっても1000が取れなかったって」
「・・・」
「だから憎らしかったんだって。やぐぴょんが」
「そんな動機で…じゃあべったんは…」
「やぐぴょんがいなくて、参加者が2人ほどしかいなかった番組の時…」
「願ってもないチャンスをぺったんが潰したって訳か…」
「ねぇ、実況で1000を取るって、そんなに重要な事なの?」
{それは…」
かぼもえは言葉を詰まらせる。
「人が2人も死ぬような、そんな大事な事なの?」
「それは人の価値観だから…」
二人は顔を見合わせ、深くため息をついた。
- 212 名前:ぺったんこ 投稿日:2004/01/11(日) 17:35
-
今日も実況板は大盛況だ。
いつものようになにげなく、レス番996くらいで書き込みボタンをクリックする実況人の背後に、
もしかすると木佐貫が潜んでいるかも知れない。
命をかけた1000取り合戦。
それでもあなたは
まだ実況人を続けますか?
- 213 名前:ぺったんこ 投稿日:2004/01/11(日) 17:35
-
「実況板連続殺人事件」/完
- 214 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/20(火) 14:37
- てすと
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/17(水) 00:39 ID:r7lbDOH6
- test
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/20(土) 05:51 ID:wZSBD50A
- test
- 217 名前:nanshi 投稿日:2004/05/04(火) 16:39
- テスト
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