初めての決断
- 1 名前:みや 投稿日:2003/10/08(水) 22:01
- 紺野あさ美主演
中学三年生の紺野。同じ学校に加護と新垣。
あれこれありながら暮らす彼女達の中学卒業まで。
そんなお話。
本編はレス2から
- 2 名前:第一話 夢を見た日 投稿日:2003/10/08(水) 22:03
- 「3分27、28、29」
ラスト一周の鐘がなる。
先頭集団は四人。
後輩のマネージャーがくれるタイムコールの声は、私の耳にはっきりとはいっていた。
- 3 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:03
- 「この一周、80秒」
ペースが落ちている。
今日大事なのは順位じゃない。
記録を出すこと。
全国大会へ出る最後のチャンス。
4分44秒を切ること。
それが、全国大会へ出るための条件。
県大会の決勝という舞台だけど、今日の私には、順位よりも記録が大事だった。
- 4 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:03
- 二コーナーを回ってバックストレートへ。
残り三百を切って私は三番手。
時計を見る。
三分五十秒。
残り三百を、十八秒ペース。
行くしかない。
私は、スパートを掛けた。
一人かわして二番手。
さらに前へ、と目指して行くけれどかわしきれない。
三コーナーに入る。
- 5 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:04
- 「残り二百メートル! 四分七秒。先頭は、1363番、添上中学二年生の田中さん。
二番手に上がってきたのは、1721番、順聖女子大付属三年の紺野さん」
場内のアナウンスが耳に入る。
息は上がって、足もきつくて、苦しいけれど、なんとか、なんとか・・・。
負けたくない。
残り百メートル。
前の選手との距離が広がって行く。
ひとは関係ない。
記録。記録。
なんとか・・・。
- 6 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:05
- 「紺ちゃんがんばれー」
誰かの声が聞こえてくる。
ホームストレート。
残り五十メートル。
胸がきつい。
足が上がらない。
でも、なんとか、なんとか・・・。
「4分40、41、42・・・」
タイムを読み上げるマネージャーの声。
それにかぶさるように同じ数字を読み上げる場内アナウンスの声。
私は、44の声が聞こえると同時にゴールした。
トラックに膝をつく。
そのまま四つんばいになった私は、苦しい呼吸を整える。
記録は? 記録はどうだっただろうか?
- 7 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:05
- 場内アナウンスは、タイムのコールを続けている。
五分の声がする頃、私はようやく立ち上がった。
最初に目に入ったのは、ドリンクを飲んでいる、優勝した選手の余裕の姿だった。
「おつかれさまです」
マネージャーの子が、タオルを持ってきてくれた。
「タイムは?」
顔をタオルで拭いながら、私は一番気になることを聞いた。
自分の時計は、ゴールするときには止め損ねていた。
「あの、いちお、私の時計だと、4分44秒31です」
「そう」
私は、それだけ聞くと、息を大きくはいて、膝に手をついた。
疲れがどっと襲ってきた。
- 8 名前:川o・-・) 投稿日:川o・-・)
- 川o・-・)
- 9 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:07
- 「あの、二位おめでとうございます」
集まってきた後輩達が、私に言う。
私は、顔を上げる。
「ありがと」
ちょっとだけ、笑えた気がした。
タイムは、公式記録待ち。
二位はうれしい結果だし、持ちタイムが4分51秒だった私にとって、ベストタイムなの
は間違いないけれど、でも、まだ、心は晴れ晴れとはいかない。
タイムとってた子、ちょっと反応遅いから、最後とめるの遅くなかったかなあ?
でも、スタートも遅ければ一緒か。
ぎりぎりの所に立っている私は、多分、周りから見たらかなり浮かない表情をして見え
るだろう。
トラックに一礼してから、私は観客席へと上がっていった。
- 10 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:08
- 「おつかれー」
「すごいやん。二番」
「ああ。ありがとう」
「あんまりうれしそうやないやん」
「うーん。記録が微妙だし・・・」
わざわざ応援しに来てくれた里沙ちゃんや亜依ちゃんには悪いけれど、元気一杯という感
じにはいかなかった。
トラックでは、男子の200m決勝が始まろうとしていた。
- 11 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:08
- 公式記録が発表されるまでには、ずいぶん時間がかかる。
一時間だったり、二時間だったり。
順位で決めてくれれば分かりやすいのにな。
ちょっとルールをうらむけど、地域の格差に関係なくみんなに公平にチャンスを作るには、
こうした方がいいのは私にもなんとなく分かってはいた。
二位になったからって、結構自分勝手だな、と思った。
「ちょっと、ダウンに行ってくる」
なんか落ちつかなくて、私はサブトラックに向かった。
- 12 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:09
- サブトラックは人で一杯だった。
今日は県大会の最終日。
最後にはリレーがある。
バトンパスの練習をしているチームの間を縫って、私はゆっくりと走る。
何にもしないでいるよりは、軽くでも走っている方が落ちつく。
活気に溢れたサブトラックは、同じ物を目指している人達が集まっていて、なんだか心地
よい。
走っているフォームや雰囲気で、なんとなくだけど、レベルの高い選手ってのは分かる。
部活動自体があんまり盛んじゃない私達の学校では感じられない雰囲気。
県大会に進んだのが私一人だけ、というのはやっぱり寂しかった。
正直、こういうレベルの人達と一緒に練習したいなあ、という気持ちはある。
でも、それは、私だけの力でどうにかなるものじゃないし、仕方のないことだった。
- 13 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:09
- 真夏のトラックはすごく暑い。
ダウンを終え、私は木陰に敷かれた芝生に座ってストレッチをする。
強い陽射しが照らす土のトラックは、照り返しが眩しく光っている。
気づくと、私の額には髪がべったりと貼りついていた。
私はサブトラックから離れ、また競技場へと向かう。
競技場裏には公式記録を貼りだすところがある。
ドキドキしながらそこへと向かう。
中学受験の時の合格発表の時みたいだ、と思ってから、これはまさしく合格発表そのもの
なんだと気づいてちょっと笑った。
記録が貼りだされる掲示板には人だかりが出来ていた。
- 14 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:10
- 背伸びをして、女子1500mを探す。
隅から隅まで探す。
レースが終わって一時間近くになるのに、まだ記録は貼っていなかった。
ちょっとほっとしてる自分がいた。
観客席に戻る。
二人に声を掛けたら、こっちを振り向いてくれたけど、里沙ちゃんは大きなあくびをして
いた。
- 15 名前:第一話 投稿日:2003/10/08(水) 22:11
- 「ごめんね。待たせちゃって」
「記録でえへんなあ」
「出ないねえ」
そう言って、三人でぼーっとトラックを見つめる。
トラックでは、男子800mの決勝がちょうど終わったところだった。
次の女子100mハードルの準備でハードルが並べられている。
そんな中で、場内アナウンスが入った。
- 16 名前:リエット 投稿日:2003/10/08(水) 23:47
- おおー新作だ!
こちらも応援していますので、頑張ってください!
- 17 名前:M.ANZAI 投稿日:2003/10/09(木) 00:26
-
新作、いよいよスタートですね。楽しみにしてます。
- 18 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/10/09(木) 22:38
- おもしろそうー!
たのしみだあ。
- 19 名前:作者 投稿日:2003/10/11(土) 23:35
- >リエットさん
いろいろと、よろしくお願いします。
>M.ANZAIさん
どれくらいかかるか分かりませんが、こちらもよろしくお願いします。
>やじろこんがにーさん
こんなで出しですが、よろしくお願いします。
- 20 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:36
- 「では、続きまして、女子1500m決勝の結果」
来た。
来た。来た。
「1500mって、紺ちゃん出たやつ?」
「そう。そう」
心臓が高鳴るのが分かる。
「一着、1363番 添上中、田中さん。時間、4分39秒95 二着、1721番
順聖女子大付属、紺野さん。時間、4分44秒21 三着・・・」
- 21 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:36
- 4分44秒21 4分44秒21 4分44秒21
頭の中に数字が響く。
4分44秒21
あと、百分の二十一秒。
たったそれだけの、たったそれだけの差で、私は、全国大会には出られない。
百分の二十一秒。
一メートルくらいかな・・・。
一メートル。
後一歩。
たったの一歩。
・・・・・・。
- 22 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:37
- 私はうつむく。
暑かった。
悔しいとか、いろいろ思うより、ただ、暑いなって思った。
暑くて暑くて、タオルを頭からかぶった。
「でも、すごいよね。県で二番だもん。こんなさあ、熱い中で走って、自己ベストだして
二番なんてさあ、すごいよ」
「そうや。十分すごいやん紺ちゃん。県で二番やで。何万人中学生がおるんか分からんけ
ど、そんな中で、1500m走ったら、紺ちゃんより速いのたった一人しかおらんのやで」
私は、何も言葉は出てこなかった。
二人の言葉は耳に入ってくるけど、自分がすごいとはこれっぽっちも思えない。
あーあ、結構練習したつもりなんだけどなあ・・・。
- 23 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:37
- 「また、チャンスあるよきっと」
「そうや。秋とか冬とかも、駅伝とかなんかいろいろあるんやろ。また、チャンスあるって」
私は、タオルを取って立ち上がる。
二人の方を見て言った。
「先生に報告してくるね」
「紺ちゃん二位おめでとな」
「うん。一緒にかえろ。 待ってて」
軽く手を振って、私は観客席の階段を上がって行く。
里沙ちゃんも亜依ちゃんも、手を振り返してくれた。
私は、悔しい気持ちははっきりとあるけれど、仕方ないのかな、と思う気持ちも半分くら
い出てきていた。
でも、出たかったなあ全国大会、と思う。
- 24 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:38
- 競技場裏に先生はいた。
見知らぬ男の人と先生は話していた。
「おお、紺野ちょうどいい所に来た」
平家先生が笑顔で私をてまねきしている。
ちょっと珍しい光景だった。
「これが、うちの三年の紺野です。ほら、挨拶して」
「あ、あの、紺野あさ美です」
「で、こちらは、須磨学院の和田先生」
「え? 須磨学院って、あの須磨学院ですか?」
「そう、らしいよ」
- 25 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:39
- 須磨学院。
この地方の高校で一番駅伝が強い学校。
この県じゃなくて、この地方、七八県で一番強い高校。
全国で、強い方から数えて、誰か数えても五番目までには入る強い学校。
そんな学校の先生が、目の前にいることが、信じられないというか、意味がよく分からな
かった。
- 26 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:40
- 「はじめまして。須磨学院の和田です。率直に言います。紺野さんに、私達のチームに
入って欲しいと思ってます」
私は、和田先生を見上げて、答えの言葉が出て来ない。
ぽかんとしてるってこういう状態かなあ? とか頭は働くけど、和田先生の言葉への答え
は出て来ない。
「平家先生の前でちょっと失礼かとは思いますが、今日のレースを見せていただいて、
紺野さんは走り込みが少し足りないかな、という印象を持ちました。逆に言えば、まだま
だ伸びると思っています。付属校ですし、難しい点もあるかもしれませんが、よろしけれ
ば、来年からうちの、須磨学院の方に来て欲しいと思ってます」
え?
この人は、いったい何を言ってるんだろう?
- 27 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:41
- 「私がですか?」
「そうです。練習はもちろん楽じゃないし、各地から選手が集まってくるので当然レベル
も高くて簡単に試合には出られないかもしれない。そういう厳しいところはあるけれど、余
所にない、走るための環境は整っていると思います。今すぐ決めろとは言いません。一度、
練習でも見に来て下さい」
「はあ・・・」
和田先生は、一枚の名刺をくれた。
私は、名刺と和田先生の顔を交互に見比べる。
なんなんだろう、いったい・・・。
- 28 名前:第一話 投稿日:2003/10/11(土) 23:41
- 和田先生は、私と平家先生とに頭を下げて去っていった。
「紺野、お前全国行けなかったけど、すごい獲物をつりあげたな」
私は、答えを返すこともなく、ぼけーっと視線を泳がせていた。
私が、須磨学院?
あの、あの、すごい人達の中に誘われたの?
どうしよう・・・。
今の学校から別の高校に行くなんて考えたこともなかった。
私の中から、全国大会に出られなかった悔しさは吹き飛んで、なんだか難しい問題が急
に降ってきた。
ちょっと、行ってみたい自分もいる。
でも、みんなと一緒にいたい自分もいる。
須磨学院かあ・・・。
- 29 名前:第一話 夢を見た日 終わり 投稿日:2003/10/11(土) 23:42
- 私は、観客席の亜依ちゃんと里沙ちゃんの元へと戻る。
二人は、タオルで汗を拭き拭き、もう片手を団扇がわりにしてあおいでいた。
「おそいよー」
「ごめん」
「ミーティングでもしてたん? ずいぶん時間かかってたけど」
「うん、ちょっと・・・」
なんとなく、言いづらかった。
「帰れる?」
「うん。自然解散だし大丈夫」
そう言って私達は、会場を後にする。
私は、望む記録が出せなかったのとは、もう別なことで、気分が重たくなっていた。
どうしよう・・・。
- 30 名前:M.ANZAI 投稿日:2003/10/14(火) 11:08
-
第一話終了、お疲れ様です。
いよいよあの??(ネタバレ防止)まで登場ですね。
次回も楽しみにしております。
- 31 名前:作者 投稿日:2003/10/16(木) 22:11
- >M.ANZAIさん
こちらとあちらと、しばらくの間お付き合いください。
この話しは、花板の倉庫にある“初めての夏休み”に始まるシリーズものの最新作、という形になっています。
初めての決断は、シリーズ第五弾。
現在、金板にある“みんなの進路希望”と交互に話を進めています。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/gold/1063462913/
よろしければそちらもお願いします。
シリーズものではありますが、過去のシリーズを読まなくても問題無い作りにはなっているはずです。
加護や新垣の昔の姿を見たい! と思ったら、過去のシリーズをお楽しみください。
- 32 名前:第二話 夏祭り、告白 投稿日:2003/10/16(木) 22:11
- 今年の花火大会は、本当は行かないはずだった。
ちょうど今頃、北海道で全国大会をやっているはず。
別にそのことについては、そんなに引きずってはいないつもりだけど、周りからはそうは
見えないみたい。
悩んでるみたい、イコール、全国大会に出られなかった悔しさ、という風に周りからは見
えるらしい。
そうじゃないんだけどなあ・・・。
- 33 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:12
- 「紺ちゃん、ええなあ。黄色似合っとる」
「そう? ありがと」
私は、おばあちゃんに着付けしてもらった黄色の浴衣を着ている。
亜依ちゃんも、自分の家では浴衣が着れなくて、うちへ来て着せてもらっていた。
亜依ちゃんとは、三年になる時のクラスがえで別れ別れになってしまったけれど、今で
も本当に仲良くしてる。
ピンクのかわいらしい浴衣を着た亜依ちゃんは、帯をぱんぱんと叩いて、ちょっとお相
撲さんみたいな真似をしていておもしろい。
そんな亜依ちゃんがそばにいて、しかも浴衣なんか着ていたら自然と心も弾んでくる。
ちょっと悩みは置いといて、楽しくあそんじゃおっかなー、って気分になる。
そういう意味じゃ、私に元気を出させようとしてくれる亜依ちゃん達の気持ちはうれし
いし、効果も多分出てるんだ。
でも、悩み自体はそのおかげでどんどん深みに進んで行っているような気もする。
- 34 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:13
- 着替えも済んで準備万端な私達は、この前みんなで買ったあじさいがプリントされたおそ
ろいの巾着袋をさげて、里沙ちゃん家に迎えに行った。
「おっそいぞー」
「あれー? たくさんおるー?」
里沙ちゃんのおかあさんに案内されて部屋まで行くと、里沙ちゃんを中心におそいおそい
の大コール。
自分の家じゃ浴衣が着れない子達が里沙ちゃんの家に集まって着付けをしてもらっていた。
三人で、って聞いてたからちょっとびっくり。
ここにいるのはみんな私と同じクラスの子達。
それはそのまま、里沙ちゃんとも同じクラスっていうことになる。
三年になってもまた私と同じクラスになった里沙ちゃんは、いつのまにかクラスの中心に
なっていた。
二年生の途中くらいまでなんとなく浮いてる感じだったのが嘘みたい。
- 35 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:14
- 「花火に行くぞー!」
「行くぞー!」
里沙ちゃんを中心に、なんだかすごいテンション。
あはははは、って感じの笑いを浮かべて見てるしか私には出来なかった。
- 36 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:14
- 七人の女の子集団で花火大会に向かう。
あっちでがやがやこっちでがやがや。
きっと周りから見たら迷惑だろうなあ、と思うけど、気にしない。
私達は、夜店によってやきそばを買ったり、かき氷を買ったりしながら歩いた。
すっかりあたりは暗くなってきて、人もたくさん出て来てる。
花火はまだ始まらない。
人が少なくて見晴らしのいい場所をさがして、川岸を歩く。
歩きながら話すことは、学校のこと、夏休みの宿題のこと、ドラマのこと、いろいろ。
七人でいると、よくしゃべる子、無口な子、さまざま。
亜依ちゃんは、一人クラスが違うけどよくしゃべる方で、里沙ちゃんは、そうそう、とか
言いながら合いの手をよく入れている。
私は、無口なほうかなあ。
だけど、しゃべらないでいたって、私は楽しいんだ。
- 37 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:15
- 「そろそろ行かなくていいの?」
「あ、うん」
「大丈夫だよー、心配しないでも。頑張ってきなよ」
「うん。行ってくる。ありがとね」
「頑張ってこいよー」
???
と、ハテナマークを頭の上に浮かべている間に四人は行ってしまった。
- 38 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:15
- 「なんだったんや?」
「四人はねー、これから男の子達とグループデートなのですよ」
「どこで知りあったん?」
亜依ちゃんは、目をらんらんと輝かせて聞いている。
男の子かあ、いいなあ・・・。
「塾の子だって」
「里沙ちゃん、あの子達と同じ塾じゃなかったっけ?」
「私だけ、クラス一個下だもん」
里沙ちゃんは急にくらい顔になる。
余計なことを言ってしまった。
- 39 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:16
- 「私にさ、服選んで欲しいとか言ってさ。それで、浴衣選んで、草履なんかも選んであげ
てさ、着れないって言うからうちで着付けまでして上げたんだよ」
「さすがスーパーモデル」
「えっへん!」
「無い胸はってもだめやで」
「亜依ちゃんに言われると、むかつく前に凹むんだけど・・・」
里沙ちゃんは、今やクラスのファッションリーダー。
さっきの子だけじゃなくて、結構みんな、男の子との初デートの時に、里沙ちゃんに服を
選んでもらったりしてる。
だけど、里沙ちゃん自身はまだ、そういうことはないみたい。
私もないんだけど。
- 40 名前:第二話 投稿日:2003/10/16(木) 22:16
- 「残念だったねー。里沙ちゃんには、私達がいるよ。うん」
そう言って、私は里沙ちゃんの頭をなでた。
亜依ちゃんも反対側から背伸びをして頭をなでていた。
「もてない三人組行くぞー」
「一緒にするなー。うちは、出会いがないだけや」
「一緒だよー」
私も塾いこっかなって、ちょっとだけ思った。
- 41 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/10/18(土) 00:11
- 乙です。
読んでます。
先が楽しみです。
- 42 名前:作者 投稿日:2003/10/19(日) 23:03
- >やじろこんがにーさん
この先も、彼女達のこんな日常が続いて行きます。
- 43 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:04
- 「なあ、あれやろうあれ」
「いーねー。やろうやろう」
亜依ちゃんが指差したのは、スーパーボールすくいだった。
私はヨーヨーのがいいなあ、と思うけど近くに見当たらない。
亜依ちゃんは、浴衣のすそを巻くってお店に走った。
私と里沙ちゃんはその後に続いた。
- 44 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:05
- 「三人で競争な」
「よし」
私達は、それぞれ百円払ってスーパーボールをすくうやつをもらう。
これってなんて言うんだろう? とか考えてると、私の両脇で二人はすでに水槽と格闘中。
亜依ちゃんは、水面近くまで顔を近づけて狙いを定めている。
里沙ちゃんは大きめのやつを狙って、見事にきれいな穴を紙に開けていた。
それでもあきらめずに残りの部分ですくおうとしてる。
- 45 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:05
- 「よし、一個ゲット! ゲッツ!」
亜依ちゃんは、ピンクのやつを一個すくいあげて、ゲッツポーズ。
可愛いなあ、と思う。
「あーー。もうーむかつくー!!!」
もう一方の側では、里沙ちゃんが紙がもうなくなって枠だけで水槽をかき回していた。
「二つ目ゲットー。ゲッツ! あっ」
今度はきらきらするやつをすくい上げた亜依ちゃんは、もう一回ゲッツポーズをすると、
その勢いですくうやつを投げてしまった。
亜依ちゃんはあわてて拾いに行ったけれど、地面に当たった衝撃でもう破れていた。
「もうー。むかつくはー。これでもう一個すくったる」
里沙ちゃんと二人大笑いしていると、亜依ちゃんも破れた紙で水槽をまたさぐっていた。
- 46 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:08
- 私も、水槽とにらめっこを始める。
せっかくだからきれいなのがいいなあって思う。
私は、透明がかった青いやつに狙いを絞った。
「紺ちゃん、どれ狙うん?」
「そのね、青いやつ」
「よし、うちがサポートしたる」
「おいおい、かんべんしてよー」
亜依ちゃんと里沙ちゃんが、水流をおこして私の狙ってるやつを浮かせてくれている。
お店のおじさんは、さすがにちょっと困っていた。
私は、狙いのやつが流れて来るのをじっと待つ。
紙の上に来るのをじっと待ち、流れてきた所をすくいあげた。
- 47 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:08
- 「ゲッツ!」
「ゲッツ!」
亜依ちゃんに続いて、私もやってみる。
「紺ちゃん変やー」
「変だー」
「いいもんどうせ」
ふんっだ。
どうせ私は変ですよーだ。
ちょっとカチンときて、水槽にその思いをぶつけてみる。
けれど、結局私がすくえたのは、最初の一個だけだった。
- 48 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:09
- 私達は、スーパーボールを受け取ってお店を離れる。
ふと見ると、亜依ちゃんの浴衣の袖が濡れていた。
そう突っ込むと、亜依ちゃんは濡れた袖を私の顔につける。
そして、逃げた。
「紺ちゃんには濡れてぺたってなった前髪が似合ってるでー」
「むかつくー。スーパーボール当てるぞー」
「まってよー」
走って逃げる亜依ちゃんを私も走って追いかける。
陸上部なんだから私のが速いに決まってる。
あっという間に追いついて、額にスーパーボールをぐりぐりと押し付けてあげた。
- 49 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:09
- 「痛いやんかー」
「自業自得です」
「赤くなってるよー」
「もう、うちの美人顔になんてことすんねん」
ふくれっつらの亜依ちゃんを見て、私も里沙ちゃんも笑った。
そうしたら、亜依ちゃんも同じように笑った。
- 50 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:10
- 「ねえねえ、三人は三人だけで来たの?」
突然声をかけられて振り向く。
そこにいたのは、男の子三人組だった。
「中学生だよね? 中一?中二? 俺達中三なんだー」
「よかったらさあ、一緒に花火見ない?」
私達は顔を見合わせる。
男の子達の顔も見る。
どうしよう? どうしよう?
里沙ちゃんと亜依ちゃんは、いたづらっぽい笑顔をしていた。
- 51 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:10
- 「あ、あの、ごめんなさい」
亜依ちゃんがそう言って、顔をちょっとうつむいて横を抜けていく。
男の子たちはしつこく迫ってくることはなかった。
後ろを見ると、男の子たちはもう、夜店の人の群れのなかへ消えていった。
「きゃー」
亜依ちゃんが奇声を上げて走り出す。
私と里沙ちゃんもそれを追いかけた。
川岸を走って、それから階段になってるところも駆け下りて川原に出る。
亜依ちゃんはそこでようやく立ち止まった。
- 52 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:11
- 「軟派や。軟派やで。うちら軟派されたで」
「一緒に花火見ない? だってー!」
「どうしよう? どうしよう?」
後ろを見ても、軟派さんたちはやってこない。
川原は、夜店があった川岸よりも本格的に暗かった。
「中一? 中二? って失礼な。うちら中三やっちゅうねん」
「亜依ちゃんが子供っぽいからだよー」
「そんなことあらへんて。里沙ちゃんのが子供に見えるて」
「亜依ちゃん、髪形が子供っぽいんだよー」
ひとけの少ない川原に声が響く。
軟派されちゃったー。
- 53 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:12
- 「亜依ちゃん、なんで逃げたの?」
「だって、こわいやん。知らない人やで。じゃあ、紺ちゃんうちらおらんで一人やったら
ついていってたんかー?」
「それは、多分行かないけどー」
「まあ、そんな心配あらへんわな。うちが可愛いから声かけてきよったんやし」
「違うよー。里沙のこのモデルばりの着こなしとかわいらしさに心とかされちゃったに決
まってるじゃーん」
ううん、絶対私のこと見てた、とちょっとだけ思うけど、恥ずかしいから言わない。
右端の子ちょっとかっこよかったのにな。
でも、もう一回声をかけられても、その時亜依ちゃんがいなくても、やっぱり恥ずかしく
て逃げ出しちゃいそうな気がした。
- 54 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:12
- 「あー、でも、ここええな。暗いし、人少ないし、花火見るには」
「ちょっと怖いけどねー」
「大丈夫だよ、夜店とかまでそんなに遠くまでは来てないし」
私達は、それから、夜店の方にちょっと戻って、たこ焼きとフランクフルトと綿菓子
を確保してから、川原に腰を下ろす。
するとちょうどいいタイミングで、花火が始まった。
「きれいだね」
里沙ちゃんがつぶやく。
色とりどりの花火が打ち上げられている。
それを私はぼんやりと見つめてしまう。
花火の音とカエルの声が聞こえる川原。
隣には亜依ちゃん、その向こうに里沙ちゃん。
私の頭は考えはじめる。
- 55 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:13
-
ずっと一緒にいたいなあ。
- 56 名前:第二話 投稿日:2003/10/19(日) 23:13
- そう思いながらも、頭の中には和田先生の言葉も聞こえてくる。
二人にも話した方がいいんだろうな、迷ってること。
だけど、やっぱり言いづらい。
私は迷ってる。
みんなと一緒にいるか、それとも、みんなと離れて陸上の学校に行くか。
それだけでも、迷ってるってだけでも話した方がいいのかな。
なんて言われるんだろう。
考えることはいろいろとあるけれど、花火が終わったら、二人に話してみることにした。
- 57 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/10/20(月) 12:30
- 乙です。
”「軟派や。軟派やで。うちら軟派されたで」”
実際に亜衣ちゃんが言いそうな会話ですね。
しかし、女生徒だけの花火見物にナンパ…
ちょっと危険な感じですね。ドキドキしました。
で、この後三人はどうなるのでしょうか?
小川は?高橋は?どう登場するのか
楽しみです。
- 58 名前:作者 投稿日:2003/10/23(木) 22:06
- >やじろこんがにーさん
小川と高橋はここにいます。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/gold/1063462913/
同じ世界の中なので、まあ、そういうことです。
- 59 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:06
- 空ではじける花火は輝いては消えていく。
隣の亜依ちゃんは、空を見上げながらも、箸を動かすことも忘れていない。
離れたくないなあ、と思う。
私は、昔からたくさん友達がいたわけじゃないし、多分、新しく友達を作るのもあんまり
上手じゃない。
亜依ちゃんと里沙ちゃんだからこんなに仲良くなったんだろう。
花火が途切れるたびに、私はドキドキする。
そして、またうち上げ始めるとほっとする。
膝の上にあったフランクフルトは、気づいたら全部亜依ちゃんに取られていた。
- 60 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:07
- やがて花火は、クライマックスのように続けて上がり、空は紅く照らされる。
はじける音が続いて、隣の亜依ちゃんまでも声が届かない感じだけど、その音はなんか
心地よかった。
空一杯に広がった光が消えて花火大会は終わる。
カエルの声が、また聞こえてきた。
「帰ろっか」
亜依ちゃんがつぶやく。
言わなきゃ、言わなきゃ。
そう思うけど、私の口からは言葉が出て来ない。
先に口を開いたのは里沙ちゃんだった。
- 61 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:08
- 「聞いて欲しいことがあるの」
なんだろう急に?
ゆっくりとしゃべる里沙ちゃんの声は、深刻な内容を予感させる。
「何? どうしたん?」
亜依ちゃんが里沙ちゃんの方を見て言う。
私の方からは里沙ちゃんの表情は見えないけれど、うつむいているのは分かる。
「高校行けないかもしれない。一緒に高校行けないかもしれない」
里沙ちゃんが口にしたのは、私が言おうとしてたのと同じ言葉だった。
- 62 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:09
- 「なんで? なんで急にそんなん言うん?」
「成績悪すぎるんだって。今のままじゃ、高校は外に出てもらうかもしれないって、夏休み
前に言われたの」
里沙ちゃんは勉強が出来ない。
宿題のほとんどを見て上げてる私だからよく分かる。
前は、それがもとでちょっといじめられてるようなこともあったけど、最近は、もうそん
なこともなくて、勉強出来ないとか、そんなことを気にしてるようには見えなかった。
多分、気にしてなかったんだろうなと思う。
気にしなさすぎで、こんなことになっちゃったのか。
一緒に高校行けないかもしれないことは、私とおんなじ。
だけど、一つ決定的に違うことがある。
里沙ちゃんは、どうしたいのかはっきり分かってるってことだ。
私は、どうしたいのかわからない。
この学校で進学したいってはっきり思ってる里沙ちゃんとは違う。
- 63 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:09
- 「年に五回テストあるでしょ。それでね、どの科目も平均で四十点以上はないとダメなん
だって。私、一年も二年も成績悪かったからさ、全然足りないんだ」
「どうすれば? どうすればええんよ?」
「後三回のテストで頑張るしかないって。そう言われた」
三人で黙り込む。
亜依ちゃんも里沙ちゃんの勉強出来なさは知ってる。
大変かもしれない。
それが、なんとなく分かる。
亜依ちゃんが、二つ三つ小石を川に向かって投げてから言った。
- 64 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:10
- 「紺ちゃんが勉強みっちり教えてくれたら、なんとかなるやろか?」
二人は私の方を見る。
私は考える。
人に教えるとか、ホントは得意じゃない。
だけど、里沙ちゃんになら協力したいなって思う。
でも、本当の問題はそこじゃなくて、私自身が一緒に高校へ行くかどうかは分からないっ
てこと。
今、それを話した方がいいのかも知れない。
- 65 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:11
- 「紺ちゃん、お願い。私、ずっと一緒にいたいのみんなと。一人だけ他の高校行くなんて
嫌だ。お願い。勉強教えて」
教えるのはいいけれど、私が一緒にいられるかどうかは分からない。
そう言いたかったけれど、言えなかった。
「うん。がんばろうね」
こう、答えることしか出来なかった。
「よし、うちも勉強教えるのはちょっとダメやけど、協力する」
「私、ホント頑張るから。絶対頑張るから」
もう、私は、何も言うことは出来なかった。
- 66 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:11
- 「じゃあ、誓おう」
「何に?」
「うーん。このスーパーボールに誓おう」
亜依ちゃんはポケットから二つのスーパーボールを取り出す。
「一個、里沙ちゃんに上げる」
「じゃあ、このきらきらしてるやつもらうね」
「紺ちゃんもはよ出しや」
「うん」
私もポケットから青いスーパーボールを取り出す。
亜依ちゃんが立ち上がって、里沙ちゃんと私も続いた。
輪になって真ん中にスーパーボールを載せた手のひらを出す。
- 67 名前:第二話 投稿日:2003/10/23(木) 22:11
- 「うちらは、いつになってもずっと一緒におって、ずっと友達やで」
「ずっと一緒にいようね」
「ずっと、ずっと、友達だよね」
- 68 名前:第二話 夏祭り、告白 終わり 投稿日:2003/10/23(木) 22:14
- ずっと友達ではいたいけど、ずっと一緒にいられるかは分からない。
私は手のひらのスーパーボールを見つめて思う。
嘘つきになっちゃったのかなあ?
「なーんてな。うちにはすぐ彼氏が出来て、もう毎日ラブラブになるから、二人だけで仲
良くしーや」
「亜依ちゃんに彼氏出来るんなら、私のが絶対かっこいい彼、できるもんねー」
「なんやてー」
里沙ちゃんが走って逃げる。
亜依ちゃんが追いかける。
そんな光景を、私は笑って見つめていた。
結局、私のことは話せなかった。
どうしよう・・・。
- 69 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/10/28(火) 18:02
- 遅くなりましたが乙です。
結局言えなかったあさ美ちゃん。
あー、ヤキモキするなーって思うのはおじさんの故なのでしょうか?
実際、あさ美ちゃんはファミレスでオーダーがなかなか決められないと
ハロモニで言ってましたから現実に合ってる気がします。(気弱なのかな?)
40点取れないガキさんが可哀想に思いました。是非成績が上がって欲しいものです。
第三話、期待してます。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/gold/1063462913/
も見ています。
ただ、紺ヲタなのでこっちがスキです。
大変でしょうが、頑張ってください。
- 70 名前:作者 投稿日:2003/11/12(水) 22:25
- >やじろこんがにーさん
新垣さんどうなっちゃうんでしょーねー?
なんか大変ですががんばりまーす。
- 71 名前:第三話 ある一日 投稿日:2003/11/12(水) 22:26
- 二学期になって、私達は図書室によく集まるようになった。
当然、勉強する為だ。
私は部活へ行く前に里沙ちゃんにその日の課題を確認する。
授業の宿題をメインにして、あとは一年生からの復習なんかをいれたりする。
それで、私が練習終わって戻ってきてから図書室閉まるまでみっちり勉強する。
すっかり先生気分だ。
里沙ちゃんや亜依ちゃんも調子に乗って私のことを紺野先生と呼んだりしている。
- 72 名前:第三話 投稿日:2003/11/12(水) 22:26
- 私は勉強が出来る。
里沙ちゃんは勉強が出来ない。
私と里沙ちゃんは同じ学年で同い年。
そんな友達関係で教える側と教えられる側になるのって難しいかな? って思ってたけど、
意外とそうでもなかった。
里沙ちゃんが卑屈になったりするとやりづらいのだろうけど、そんなことは全然なくて、
素直に私の話を聞いてくれる。
だから、勉強を教えること自体はそんなに大変じゃなくて楽しかった。
里沙ちゃんの覚えはちょっと・・・ だけど。
- 73 名前:第三話 投稿日:2003/11/12(水) 22:27
- ただ、つらいのは、時々里沙ちゃんが口にする言葉。
「ずっと一緒にいたいから頑張る」
そう言われるたびに、心臓はドキドキして、なんかいっぱい汗をかいてしまう。
言葉に詰まって里沙ちゃんの方を見ると、里沙ちゃんは笑顔を返してくれるんだ。
なんか、罪の意識みたいなものが、私の中で大きくなっていってしまう。
- 74 名前:第三話 投稿日:2003/11/12(水) 22:28
- 九月ももう終わりに近くなってきてきた。
二学期の中間テストが近づく。
二学期は行事もいっぱいあるから大変だ。
「今日はうちも図書室行く」
放課後、図書室に向かう私達の後ろから亜依ちゃんが声を掛けてきた。
- 75 名前:第三話 投稿日:2003/11/12(水) 22:28
- 「亜依ちゃん、図書室で何するか分かってる? 勉強するんだよ勉強」
「分かってるってわ。って、紺ちゃんはともかく、里沙ちゃん言いわれたないんやけど」
「私はね、勉強に目覚めたの。亜依ちゃんとは違うの。がり勉里沙ちゃんが、勉強しない
亜依ちゃんを退治してあげる」
「わけわからん」
両手を広げ首をすくめる亜依ちゃん。
体格に合わない大きめなガクランを着てそんな振る舞いをする亜依ちゃんはなんだか可愛
かった。
- 76 名前:第三話 投稿日:2003/11/12(水) 22:29
- 「今日、練習終わったら行くわ。まっとって」
「がんばれよー」
「おー」
亜依ちゃんは、体育祭の応援団をやっている。
応援団になった理由は、とりあえず大きな声を出したい、という亜依ちゃんらしいもの
だった。
- 77 名前:第三話 投稿日:2003/11/12(水) 22:30
- 「今日は徹底的に因数分解やるからね」
「うぇー。あれ嫌い」
「嫌い、じゃないでしょー。因数分解しっかりやらないと、二次方程式解けないんだよー」
「紺ちゃんきびしーなー」
「当然」
ちょっと心は痛むけど、きびしめに言ってみる。
腰に両手を当てて仁王立ちすると、里沙ちゃんはちょっと不満気にしながらも、素直に席
について問題集を開いた。
「じゃあ、練習行ってくるねー」
「いってらっしゃーい」
私は荷物を背負ってグラウンドへ向かった。
- 78 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 22:57
- 秋の新人戦シーズンに向けて、一二年生は練習のペースを少し落としている。
新人戦に関係ない三年生の私は、駅伝やロードレースの冬シーズンに向けて走り込みをつむ。
アップまではみんなと一緒だけれど、本練習に入ると、私は一人でロードに出た。
今日は五キロコースを二周する。
一周目から二周目で三分ペースを上げる。
後半になってスピードを上げるから、最初の方はすごく楽に走れる。
楽なペースで一人で走っているときってすごく暇。
だから、いろいろなことを考えてしまう。
- 79 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 22:58
- 十月になったら、中学三年生も半分終わる。
後、半年で高校生だ。
大学卒業まではそれから後七年。
ずっとこの町にいることだって出来る。
うちから電車で十五分のこの町。
一人で走るたびに、違う角を曲がってきたこの町。
夏はひまわりが咲く畑があって、秋にはイチョウが散る並木道があって。
冬は、やきいもやさんを追いかけて。
来年の春、卒業式には何を見てるんだろう。
- 80 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 22:59
- 二周目に入ってペースを上げて行く。
これからは時計との戦い。
高校に入ったら距離を伸ばして五千メートルも考えなきゃいけないんだから、走りきるス
タミナが必要だ。
息のつらさと足の上がらなさと、腕の振りの弱さ。
頭を働かす余裕なんて、だんだんとなくなっていく。
もうだめ、もうだめ、まだ? まだ? もうすこし、もうだめ。・・・。
なんとか校門までたどり着いて、私はそのまま仰向けに倒れた。
目を瞑ったまま荒い息を整える。
汗まみれのTシャツで、呼吸はつらくて、体は重たくて、だけど私は、のんびりとマイペ
ースに走っているよりも、ラストの息苦しいところや、走り終わって苦しんでいるところが
結構好きだったりする。
なんていうか、頑張ってます、っていうのを体全体で感じられる。
- 81 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 23:01
- しばらくして立ち上がり、グラウンドへと戻る。
走っている子、幅跳びの助走合わせをしている子、高飛びマットで寝ころがっている子。
そんな中に、ソフトボール部のホームランが跳んできたり、テニス部のミスショットが飛
んでくる。
「お疲れ様です」
「あ、ありがと」
マットでころがっていた二年生の子がタオルを持ってきてくれた。
私も、そのマットの方に向かう。
高飛びのバーは地面に転がっていて、練習している様子はまるでない。
- 82 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 23:02
- 「こら。さぼってるな」
「だって、疲れちゃったんですもーん」
先輩の私が声を掛けても、二人はマットの上に転がったまま。
練習を再開する雰囲気なんかまるでない。
「気持ちいいですよ。風が冷たくて。空もなんか、こうちょっとづつ陽が暮れていく感じ
がきれいだし」
- 83 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 23:02
- 私もマットに横になる。
両手両足を広げて大の字。
私の重さでマットが沈んで、ちょっと埋もれたみたいな感じ。
空を飛行機がとんでいた。
飛行機雲が青い空に描かれる。
汗で濡れたTシャツも乾いてきて、ひんやりとした風がグラウンドの上を吹きぬけていく。
目を瞑った。
遠くから体育祭の応援団の練習する声が聞こえる。
秋が近づいて少し優しくなった陽射しと、ひんやりした風と、走り終えた後の疲れが気持
ちよかった・・・。
- 84 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 23:03
- 「・・・先輩。紺野先輩」
「ん?」
「起きて下さい。そのまま寝ちゃったら風邪ひきますよ」
気づいたら、後輩が二人私の顔の上で手を振っていた。
「起きた起きた。おはようございます」
「あれ、寝ちゃった?」
「先輩、可愛い寝顔で寝てましたよ」
ぼけーっとしたまま体を起こす。
あくびを一つした。
- 85 名前:第三話 投稿日:2003/11/14(金) 23:03
- 「何本か跳びたいんですけどいいですか?」
「あ、ごめん」
慌ててマットから下りる。
二人はのんびりと高飛びバーをセットして練習をはじめた。
私は、メイン練習を終えたっぽい中長距離の後輩達に合流してダウンとストレッチ。
おしゃべりしながらストレッチ。
平和だなー。
私は、こんな陸上部が好きだ。
速くなるには向いてないと思う。
練習もいい加減だし、同じレベルの練習相手もいないし。
だけど、私は、こんなちっぽけで弱い陸上部が好きだった。
- 86 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:03
- 着替えて図書室へ。
里沙ちゃんは、両手で頭を抱えてノートとにらめっこしてる。
私は声を掛けずに正面の席に座った。
里沙ちゃんはシャープペンを動かしはじめた。
ちょっと書いたと思ったら、すぐに消しゴムで消す。
問題をのぞき込む。
- 87 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:04
-
X6−y6
- 88 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:04
- 悩んでるなあ。
三乗と三乗で二つにするとこまでは出来てるけど、そこで固まってる。
ここは考えるんじゃなくて覚えとくとこだよ里沙ちゃん。
なんて思うけど、声を掛けずにもうちょっと見守ってみる。
頭を抱えて、頭を抱えて。
あっ、壊れた。
里沙ちゃんは、ばたっと机にへたりこんだ。
難しいもんねー。
でも、一学期に高校の数Aはやったからできないといけないよねー。
- 89 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:06
- 私は、机にあごを乗せて里沙ちゃんの頭を見ながら、つむじのあたりを人差し指で突っつ
いた。
ぴくぴく、里沙ちゃんの両手が動く。
私は、もう一回突っつく。
ゆっくりと里沙ちゃんが顔を上げた。
「あ、紺ちゃん、助けてー。数学が私をおそってくるー」
「この問題を解く為の呪文はちゃんと教わったはずだよ」
「教わったってことは覚えてるんだよー。だけど、教わった内容忘れちゃったんだよー」
「ヒットポイントなくなっちゃう?」
「無い無い。後一ポイント。MPも無い。呪文が唱えられない。助けて紺ちゃん」
- 90 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:06
- うーん、まだこのレベルは里沙ちゃんには早かったか。
でも、そろそろこのレベルまで来てくれないとなあ、中間も期末も厳しいんだよなあ。
「しょうがない。では、紺野先生が因数分解を退治してあげましょう」
私は模範解答を示す。
里沙ちゃんは素直にうなづいて聞いていた。
- 91 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:07
- 「ここは、考えるんじゃないの。もうね、頭に入ってる公式を順に使うだけ。三乗の因数
分解は覚えとかなきゃだめだよ」
「私は呪文より武器で」
「力技で因数分解できるならそれでもいいんだよ。でも、今、出来ないで全滅しそうにな
ったでしょ」
「えー、やっぱり覚えるのー? おぼえるのにがてー」
「でもね、三乗の因数分解は破壊力抜群だから。覚えておいた方がいいと思うよ」
「うーん。わかったよー」
里沙ちゃんは、そう言ってまた机にへたりこんだ。
まあ、頑張るようになってきたかなこれでも。
- 92 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:07
- 「おう、やってるか?」
「その格好のまま来たの?」
「まだいるか確かめに来ただけやって。おす」
ガクラン姿のままやってきた亜依ちゃんに、里沙ちゃんが呆れたように言うと、亜依ちゃん
は両手の拳を体の脇で握り締めて、空手の挨拶みたいなポーズをしてる。
亜依ちゃんは、着替えてくるからまっとって、と言って出ていった。
- 93 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:08
- 「さて、もう一頑張りしますか」
「うへー。まだやるのー?」
「回復呪文かけてあげるから、町までちゃんと一人で帰りつくんだよ」
「はーい」
私は、里沙ちゃんの頭をなでて、それからでこぴんした。
「ひどいよ紺ちゃん」
「だって、なんか、したくなっちゃったんだもん」
「そんなの理由になってないー」
「ほら、勉強勉強」
「なんか、ごまかされてる気がするなあ」
- 94 名前:第三話 投稿日:2003/11/16(日) 23:10
- だって、ごまかしてるもん。
里沙ちゃんは、ぶつぶつ言いながらも、参考書と向きあった。
私もカバンからノートやらテキストやらを取り出す。
テストが近いのは私だって一緒。
里沙ちゃんに勉強教えてるけど、実は英語だけは里沙ちゃんよりも出来ないんだ。
合計点しか貼りだされてないから、里沙ちゃんはそんな事実は知らないけれど、里沙ちゃ
んのこれまでのテスト結果を細かく見せてもらった私は知っている。
ちょっとした秘密だ。
だって、わかんないよ、所有格とか目的格とか。
何が受動体だよ、現在完了形ってなにさ。
そんなの日本語だって聞いたこと無いよ。
なんて、文句を言ってみても、中間テストはやってくるわけで・・・。
私は、しかたなく、グラマーのテキストとのにらみ合いを始めた。
- 95 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/11/17(月) 07:19
- 作者さん、乙です。
しばらく更新が無かったのでチェックサボってたら、遅れてしまいました。テヘッ
X6−y6 の因数分解???
わかりませーん。
これがスラスラ解ける紺野先輩は天才っていうか、完璧です!!!
昨日のハロプロスポーツフェステバルでもこんこんはダントツの優勝だったようですね、
頼もしい限りです。
さて、高校進学はどうなるんでしょうかねー。
一緒に行こうって約束して離れ離れになるのはせつないですよねー。
出来たら一緒の学校に行って欲しいものです。
でも、せつなさや悲しさが小説のエネルギーですから仕方が無いのかもー。
これからもゆっくりまったり書いてください。そして是非完結させてください。
忘れないように見に来ます。(ブックマークしてあります)
- 96 名前:一読者 投稿日:2003/11/18(火) 23:55
- > x6-y6
これって「xの6乗マイナスyの6乗」という意味でしょうか? この因数分解は完全に高校数学の範囲ですね。
>でも、一学期に高校の数Aはやったからできないといけないよねー。
ということは先取りカリキュラムで中3で高校の数学を勉強しているということみたいですね。
新垣ちゃんも大変だ(w
- 97 名前:作者 投稿日:2003/11/19(水) 22:47
- >やじろこんがにーさん
実は、かなりはらはらしてました、紺野さん負けたらどうしようって。
余裕の優勝だったそうで、ほっとしています。
>一読者さん
そう、まさしくそうなんです。
伝わっていて、うれしいです。
六乗は “^6”って計算式ではやるし、ワードなら上付きで出来るけど、ここではどうにもならなくて、結局そんな書き方をしてしまいました。
- 98 名前:第三話 ある一日 投稿日:2003/11/19(水) 22:48
- やがて、制服に着替えた亜依ちゃんがやってきて私の隣に座る。
来たのは気づいたけど無視してテキストを見つめていたら、亜依ちゃんの方もおとなし
くカバンからノートとかを取り出していた。
亜依ちゃんは、最初に話しちゃうとずっと話しちゃうから、最初が肝心なんだよね。
最初に話しこまずに勉強を始めてくれれば、私も邪魔されずに英文法との戦いに専念で
きるってもんだ。
対英文法用の魔法は、まだレベルの低いのしか身に付けていないから、HP減りまくりで
大苦戦だけど、里沙ちゃんより先に逃げ出すわけにもいかないから頑張らないと。
- 99 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:49
- たまに里沙ちゃんが私に助けを求めて、私が使えそうな魔法をいくつかセレクトして、
あとは里沙ちゃんが自分で解決する。
たまに亜依ちゃんが私に助けを求めて、私が、ふーん、難しそうだねー、がんばってー、
と冷たく返すと、あとは亜依ちゃんが自分で解決する。
たまに私が誰かに助けをもとめようとしても、助けはやってこない。
そんな風にしているうちに、最終下校の放送が流れ出す。
- 100 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:50
- 「あー、おわったー」
放送が入ると同時に、里沙ちゃんが壊れた。
机にまたへたりこむ。
へたりこみながらも、ノートは私の方に差しだして来た。
うんうん。
ボロボロに傷つきながらも町までどうやら無事に帰りついたようだ。
- 101 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:50
- 「里沙ちゃん、頭ぷすぷす燃えとるで。大丈夫なんか?」
亜依ちゃんは、里沙ちゃんのさらさらな髪を手ですきながら私の方を見る。
「大丈夫じゃない? 町までたどり着いたみたいだし」
「町? なんのこっちゃ?」
意味不明って顔をしてる亜依ちゃんを置いといて、私はノートで里沙ちゃんの頭を小突く。
- 102 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:50
- 「今日は合格」
「やったー、かえろー」
「急に元気になりよった。紺ちゃん、どんだけスパルタしたんや?」
「しらないよ」
私も荷物をカバンにしまう。
片付けを終えて、私達は学校を出た。
- 103 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:51
- 帰り道は駅まで三人一緒。
駅からは、私と里沙ちゃんだけ一緒で、亜依ちゃんは反対方向になる。
「亜依ちゃん、練習頑張ってるねー」
「大きな声出すの気持ちええよ」
「私も大きな声出したい気分だよー。わー!!!!」
里沙ちゃんが叫び出す。
歩いている人達が一斉にこっちを向いた。
恥ずかしい・・・。
- 104 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:51
- 「紺ちゃん、里沙ちゃんにどれだけ厳しい課題出したんや?」
「え? そんなことないよ。適度なレベルの問題を適度な量解いてるだけだよね」
「悪魔。この悪魔め・・・」
そんな目で見ないでよ。
里沙ちゃんひどいなあ、悪魔なんて。
- 105 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:52
- 「でも、実際、紺ちゃんのおかげで、ちょっとは勉強できるようになってきてるなーって
気がするから、本気で憎めないんだよね」
「そんな、そんなに、私、いじめてるつもりないよ」
「いじめだよー。塾の先生より全然厳しいもん」
「なんか、私、ひどい人みたいじゃん」
「感謝はしてるけどさー。ぐちくらい言わせてよー。結構つらいんだよー」
ちょっと胸が痛みます・・・。
- 106 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:52
- 「まあ、中間も終われば、体育祭がまっとるし、頑張ろうや」
「そだね」
中間テスト、体育祭、陸上部では後輩達の新人戦があり、記録会もあり、駅伝もあって、
そんなことをしてるうちに、二学期の期末テストがやってきて・・・。
いそがしいなあ・・・。
「中間テストなんだよね」
里沙ちゃんの声が急に弱弱しくなる。
ため息をついていた。
- 107 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:53
- 「怖いよ、私。紺ちゃんにいくら勉強教えてもらってるって言っても、まだまだ、今度の
範囲には遠いし。自信無い」
里沙ちゃんの言葉に、私と亜依ちゃんも黙り込んでしまう。
「一人だけ高校行けないなんてやだ。やだよ。こわいよ」
何も言えない。
今の私には、何も言えない。
頑張れ、って言うことも出来ない。
- 108 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:54
- 三人とも黙りこんだまま駅までの道を歩く。
亜依ちゃんは、道端の石を蹴りとばして、隣の畑に落としている。
後ろから、何台かの自転車に追い越された。
みんな、私達と同じ制服を着ていた。
「頑張るしか、ないやろ。里沙ちゃんが頑張るしか」
駅が近づいてきたところで亜依ちゃんが言った。
- 109 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:55
- 「うちにはどうすることもでけへんし、紺ちゃんだって、勉強教えて上げることは出来て
も、テスト受けるんは里沙ちゃんやし」
「うん。わかってるんだけどね。でも、怖いし、不安だし」
「ぐちくらいなら、うちでも聞いたげるよ。でも、勉強教えてってのはかんべんな。それ
は紺ちゃん担当で」
里沙ちゃんは頑張ってるよ。
私が言うんだから間違いない。
勉強だってできるようになってる。
ちょっとづつだけど。
- 110 名前:第三話 投稿日:2003/11/19(水) 22:56
- 「実際、どうなん? 紺ちゃん。大丈夫っぽい? うちら、みんなで一緒に高校行ける?」
亜依ちゃんが私の方を見て言った。
私は、息をのんで立ち止まる。
「どうしたん? だめなん?」
亜依ちゃんが聞きたいのは里沙ちゃんのことで、別に私のことがどうとかそういうこと
じゃない。
そんなことはよく分かってる。
分かってる。
だけど、私は、自分のことを話さなくてはいけない、そんな気がした。
- 111 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2003/11/22(土) 10:57
- 作者さん乙です。
今回は更新が早かったですね、ご苦労さんです。
東京では1500mがなくなってしまったようですね。
紺野さんの優勝が決まってるようなものですから競技にならないってことでしょうか?
雄姿が見られないのが残念なことです。
『話さなくてはいけない』
そう思ったこんこんはなんと言うのでしょうか?
そしてその結末は?
ドキドキしますね。
一読者としてはハッピーエンドを願うばかりです。
- 112 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/11/22(土) 10:58
- >>111
は私です。名前間違いました。
- 113 名前:作者 投稿日:2003/11/22(土) 23:00
- >やじろこんがにーさん
各話の間の更新は速いです、たぶん。
ハッピーエンドかどうかは秘密。
- 114 名前:第三話 投稿日:2003/11/22(土) 23:01
- 「わからない」
立ち止まった私の方へ、亜依ちゃんも里沙ちゃんも振り向いている。
私の言葉を聞いて、里沙ちゃんは泣きそうな表情になった。
「私、陸上の強い高校から誘われてるの」
二人の顔が見れない。
私は、二人の足元を見ながら言った。
- 115 名前:第三話 投稿日:2003/11/22(土) 23:01
- 「な、何の話や? 急に。紺ちゃん、何言い出すんや?」
「須磨学院っていう、神戸の学校から、誘われてるの」
夕焼けが、照らしているのが分かった。
風がちょっと冷たいのが分かった。
自分が何を言っているのか分からなかった。
「断わったんやろ? 断わったんよな?」
私は首を横に振る。
- 116 名前:第三話 投稿日:2003/11/22(土) 23:02
- 「迷ってる」
少し顔を上げると、亜依ちゃんと視線がぶつかった。
私は、亜依ちゃんの目が見ていられなくて、すぐに視線を横に外した。
「なんで? なんで迷ってるん? 迷うことなんかあらへん。断わればええやん」
「速くなるには、強い学校のがいいから」
「陸上なんか、走るのなんか、一人でも出きるやん」
「でも」
「今までだってそうしてきたんやろ。だったら、今までと一緒でええやろ。なんで、なん
で、そんなん迷うんよ」
分からなかった。
自分がどうしたいのか。
だから迷ってる。
迷ってるから、何をどう説明したらいいのかも分からなかった。
- 117 名前:第三話 投稿日:2003/11/22(土) 23:03
- 「分からない。速くなりたいし、遠くに行きたくないし。陸上部好きだし。負けたら悔し
いし、学校好きだし。みんな好きだし。わかんないよ」
「誓ったやん。夏祭りの日に、ずっと一緒におるって。誓ったやろ! なんで、なんでそ
んなん言うねん」
「わかんない、わかんないよ」
「こっちが分からんは。紺ちゃんの言うてることわけ分からん。里沙ちゃんが頑張って勉
強して、一緒に高校行こう言うてるのに、何勝手なこと言うとるんよ」
「わかんないよどうせ、私の気持ちなんか」
「ああ、わからん。分かってたまるか!勝手にせい、紺ちゃんなんか!」
「しらないよ、もう!」
- 118 名前:第三話 投稿日:2003/11/22(土) 23:03
- 私は、走り出した。
亜依ちゃんの横を抜けて、駅へ向かって。
後ろから里沙ちゃんの声がする。
紺ちゃん待って、って呼ぶ声がする。
だけど、私は走った。
自動改札の前で転びそうになりながら止まって定期を取り出す。
改札を通り抜けて、ホームに下りて行くとちょうど電車が着いていた。
私はそのまま電車に駆け込んだ。
「紺ちゃん待って!」
里沙ちゃんの声が聞こえたけれど、追いつかれる前にドアが閉まった。
階段から駆け下りてくる里沙ちゃんが見えた。
- 119 名前:第三話 ある一日 終わり 投稿日:2003/11/22(土) 23:04
- この時間の電車は空いてる席なんか無い。
私は、そのままドアの脇に立つ。
「勝手にせい、紺ちゃんなんか」
亜依ちゃんの言葉が頭の中によみがえってくる。
ちょっと、涙が出そうになる。
風をひいてるふりをして、鼻をすすってごまかした。
私は、どうしたいんんだろう?
これから、どうしたらいいんだろう?
どうしよう・・・。
- 120 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/11/24(月) 06:58
- ワオ! もう更新来てた。 乙です。
ついに言っちゃいましたねー。
> 私は、どうしたいんんだろう?
> これから、どうしたらいいんだろう?
この台詞を読んで
『夢よ、どうしたらいい?教えて』(ミュージカル「自給720円」より)
と続く台詞を思い出してしまいました。(相当なヲタです、ハイ)
・・・続きを楽しみにしています。
- 121 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/12/06(土) 22:41
- 更新はまだですか?
- 122 名前:作者 投稿日:2003/12/15(月) 22:35
- >やじろこんがにーさん
金板のスレと交互進行なんで、あっちが進んでる間はこっちはとまります。
こっちが進んでる間はあっちが止まります(笑)
- 123 名前:第四話 中間テスト そして新しい先生 投稿日:2003/12/15(月) 22:36
- 亜依ちゃんとはあれから口を聞いていない。
というか、顔も合わせていない。
クラスが違うから、わざわざ会いに行かないと、わざわざ会いに来てくれないと、顔をあ
わせることも無い。
里沙ちゃんとは、あれからもかわらずに図書室で勉強を続けた。
里沙ちゃんは、何度か亜依ちゃんのことを口にしようとしてたけど、私があさっての方を
向くと、しゃべるのをやめていた。
そんな風にして、中間テストの日を迎えた。
- 124 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:37
- 朝、電車を下りると、同じ制服の子達がいっぱいいる。
前を向いても後ろを見ても、同じ服。
ちょっとした安心感がある。
歩いている子たちの頭にあるのは同じこと。
今日と明日の中間テスト。
ため息をついて前を見ると、十メートルくらい先に亜依ちゃんが歩いていた。
- 125 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:37
- いつもなら、すぐに駆け寄って声を掛けるか、頭を叩くか、気づかれるように無視して横
を通り抜けるかする。
だけど、今日は・・・。
私は、亜依ちゃんの頭をずっとみながらあるった。
学校までの十五分、ずっと亜依ちゃんを見ていた。
- 126 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:38
- テストは、私はそこそこ出来た。
英語だけは、やっぱり苦手で、空欄の多い答案だったけど、でも、里沙ちゃんと一緒に自
分も図書室で勉強した甲斐はあって、平均点くらいは取れたかな、と思う。
だけど、里沙ちゃんは、一科目一科目終わるたびに、私の所へやってきて、一科目一科目
終わるたびに暗い顔になっていった。
- 127 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:39
- テストが終われば部活が始まって、体育祭に向けて応援団の練習も始まる。
グラウンドにいると、応援団の声がよく聞こえてくる。
亜依ちゃんの声ばかりがやたら耳に付くのは気のせいだろうか?
なんとなく、練習に気が入らなかった。
- 128 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:39
- テストが返ってきはじめた。
社会は九十点突破!
里沙ちゃんと暗記クイズがんばったからね。
里沙ちゃんに社会を教えるのはホント苦労した。
数学、理科、国語は八十点台、まあ、こんなところ。
問題の英語は・・・、初めて平均点を超えた。
点数は他と比べて一番低かったけど、なんだか、一番うれしかった。
- 129 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:40
- だけど、里沙ちゃんは・・・。
国語 51点 英語 43点 数学 34点 まあ、ここまではいいとしよう。
理科 25点 社会 22点
国語と英語は伸びた。
数学は、まあこんなもんだけど、基礎力が少しづつ身について来たから、次回は期待できる。
問題は、理科と社会だ・・・。
必要な40点には、全然近づいていない。
一緒に勉強して、勉強の効果があったのは私の方みたいだった・・・。
- 130 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:40
- 里沙ちゃんと勉強してみて分かったのは、里沙ちゃんは勉強は出来ないけどバカなんか
じゃないってことだ。
理解力はちゃんとある。
数学は公式の呪文さえ身につければ、使いどころは分かってくれる。
国語は、文章を読んで理解する力はちゃんとある。
だけど、暗記することが苦手なんだ。
だから、理科とか社会が出来ない。
暗記するってことの必要性に納得しないとやる気にならないのかな。
- 131 名前:第四話 投稿日:2003/12/15(月) 22:41
- 「紺ちゃん、どうしよー。どうしよー」
全科目が返ってきて、里沙ちゃんはほとんど泣きそうな顔になっていた。
「理科と社会、理科と社会。まずいよ。どうしよー」
里沙ちゃんを落ち着かせて、これまでの平均点を計算させた。
一学期と今回のの平均で、英語:42点 国語:38点 数学:37点 理科:31点 社会:29点
社会は、後二回のテストで合計113点も必要だ。
私なら問題無いけど、今までの里沙ちゃんの成績では、ずいぶん厳しい。
「がんばろ、里沙ちゃん。まだ大丈夫だから」
「うん。紺ちゃん、お願い。私バカだけど、頑張るから。見捨てないで」
「里沙ちゃんはバカなんかじゃないから。大丈夫だから」
私達の図書室通いは、まだまだ続くことになりそうだ。
- 132 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/12/16(火) 08:51
- 乙です〜
今回は間が長かったですねぇ。
>>122
あ、そういう事なんですか。わかりました。
> 理科 25点 社会 22点
激しいですね。 頑張れ里沙ちゃん!!
て、いうか、むしろ「頑張れあさ美」 かな?
さて、亜衣ちゃんはどう考えているのか?
単に怒っているだけなのか?
展開が予想できません・・・
- 133 名前:作者 投稿日:2003/12/18(木) 22:09
- >やじろこんがにーさん
なんかイメージ的に、新垣さんってそういう人だったので・・・
ごめんなさい・・・。
- 134 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:09
- 中間テストが終わり、体育祭まで後二週間。
そんな時期に、新しい先生がやってくる。
先生といっても教育実習生。
私達は、なんだかんだと毎年楽しみにしてる。
きれいな人が来ると、別に自分がきれいなわけでもないのに、なんだか自慢してしまった
りする。
ホントはかっこいい男の先生とか来て欲しい、と思わないわけじゃないけど、うちにくる
のはみんなここの卒業生だからなあ。
私立で転校生が来ることも無いから、教育実習の先生が来るのは、私達の中では結構一大
イベントになっていた。
- 135 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:10
- だけど・・・。
今年は私達のクラスには来なかった。
朝の学活から平家先生を問い詰めると、面倒だから断わった、と言われた。
A組もB組もいるのに、私達C組だけ教育実習生は来ないらしい。
不公平だ、世の中なんて不公平なんだ。
- 136 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:10
- 朝の学活と一時間目の間の短い時間。
その間にも、教育実習の先生の噂話はよそのクラスからやってくる。
うわさによると、A組の先生はかなりおかしい人らしい。
担当は国語らしいんだけど、今日は国語の授業が無いのが残念だった。
- 137 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:11
- 授業が終わり部活へ。
そこに平家先生が一人の人を連れてきた。
うわさの、教育実習生だった。
まさか、部活の方に来る人がいるとは思っていなかったから、これはかなりうれしい!
「村田めぐみです。昔はここで陸上部でした。二週間ダイエットのために一緒に練習させ
てもらいたいと思います。よろしくお願いします」
背がすらっと高くて、めがねを掛けていて、赤いリボンでちょこんと髪を止めている。
顧問の平家先生を前に、教育実習生がダイエットのために部活、なんて平気で言えちゃう
のがなんかすごいなあ。
メルヘンな童話の世界に出て気そうな雰囲気の村田先生は、なかなかきれいだった。
- 138 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:11
- 「この中で一番速い人誰?」
村田先生の問い掛け。
ちゃんとした陸上部だったら答えにくい質問だなあ。
「短距離ですか? 長距離ですか?」
「ダイエットするには長距離だよね」
なんだかな・・・。
「長距離だったら紺野先輩」
一二年生が口々に私の名前をだす。
村田先生は、私の方に二三歩歩み寄ってきた。
- 139 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:11
- 「勝負しましょう」
「え?」
「1500m一本勝負!」
この人、とぼけた顔して速いのかなあ?
そんなことを思うけど、別に大人の人に負けても問題ないなあ、なんて考える。
「はぁ」
「じゃあ、きまりね。三十分後に一騎撃ちってことで」
迫力におされてうなづいてしまう。
いきなりやってきて、いきなり勝負って・・・。
確かに変な先生・・・。
- 140 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:11
- でも、速いのかなあ?
一応アップをしながら、村田先生の方をちらちらと見てみる。
一二年生に囲まれて、なんだか楽しそう。
なんか、負けたくないな。
そう思うと、ちょっと力が入る。
約束の三十分後。
スタート位置に二人で並ぶ。
村田先生の方に目をやると、先生は、にっ、と笑って見せた。
- 141 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:12
- 「位置について!」
一年生の子がピストルを構える。
校内で走るだけなのに、わざわざそこまでしなくても、と思ったけど、これも先生の希望
らしい。
パン!
ピストルの音と同時にスタート。
なんだかな、とは思いながらも負けたくないから、ちゃんと力を出してみる。
200mのトラックを半周過ぎたころ、後ろの様子を伺って見ると・・・。
村田先生は、もう全然離れてた・・・。
- 142 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:13
- 速いんじゃなかったの?
そんな疑問を抱えながら、二周三周と過ぎていく。
四周目、視界の中に先生の姿が入ってくる。
そして五周目、周回遅れにした。
「先生がんばれー!」
一年生の子の声がする。
誰か、紺野先輩がんばれーって言って欲しいな。
なんか、寂しいじゃんか・・・。
心に不満を持ちながら、私は八割くらいの力で1500mを走りきった。
私がゴールしても、みんな村田先生の方を見てて、タオル持って来てくれる子とかはいな
かった。
なんでだよー・・・。
- 143 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:13
- 自分でタオルを取ってきて、またゴールの所に戻る。
汗が引いて、ちょっと寒さを感じるくらいになって、やっと先生はゴールした。
駆け込んで来るって感じじゃなくて、やっとたどり着く感じでゴールして、すぐにグラウ
ンドにへたりこんだ。
「紺野ちゃんは速いなあ」
「いえ」
どっちかというと、先生が遅すぎなだけのような気がするけど。
なんか、受け答えに困っちゃうなー。
「紺野先輩は速いですよーって、みんな言ってた」
「一二年生よりは速いから」
「クラスでも、陸上部行くなら、すごい可愛くて速い子がいるよって教えてもらったし」
- 144 名前:第四話 投稿日:2003/12/18(木) 22:14
- うれしいうわさが流れているようだ。
可愛い子だって。
可愛い子だって。
可愛い子だってさ。
でも、誰だろう?
先生A組だったなあ、確か・・・。
まあ、とりあえず、村田先生のいる二週間、楽しく過ごせそうな、そんな気がした。
毎日レースに付き合わせられたらいやだけど。
- 145 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/12/19(金) 04:26
- 毎度ですけど、乙です〜
新しい展開になりましたね。先日のスポヘス大阪の場面とダブりますね
(見たわけじゃないですけど、2chで話を聞いた)
にしても村田さん遅すぎ、実際にも保田さんを周回遅れにしたそうですけど
紺野さんて早いんだ・・・、可愛いし・・・
すっごく現実感がありますね。
マターリと待ってますのでのんびり書いてください。
- 146 名前:作者 投稿日:2003/12/21(日) 21:31
- >やじろこんがにーさん
速さは基準によるんですよねー。
この場合、紺野さん基準だから、遅すぎ、ってなるけど、普通の人基準だと、村田さんも普通だったりとか。
- 147 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:32
- 村田先生が来た次の週末、陸上部では新人戦のブロック予選があった。
県大会の前のブロック予選なのに、みんな後ろの方を走ってる。
高飛びの子達は、始まってすぐに帰ってきた。
三回ファウルで記録無しだそうだ。
私は、スタンドからだったり、時折フィールドに下りたりしながら、無責任にがんばれー、
とそれぞれに叫んでいた。
「なつかしーなー、この雰囲気」
1500mのスタート位置近くに座っていた私に、村田先生が声を掛けてきた。
- 148 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:34
- 「先生も出てたんですか? こんな風に大会に」
「出てたねー」
「速かったんですか?」
「そうでもなかったかな。後ろの方走ってた感じ」
じゃあ、なんで勝負しようとか言い出したんだ?
って疑問に思うけど、それをストレートに聞くのは、私の立場からすると失礼なのだろう、
きっと。
- 149 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:36
- 「楽しいですか? 学校」
「楽しいよ。A組は面白い子多いねー」
「そうですね」
A組は、亜依ちゃんのクラスだった。
「何やら悩んでるらしいじゃないですか、紺野ちゃん」
また、余計なことを。
何考えてるんだろう、亜依ちゃん。
- 150 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:36
- 「誰に聞いたんですか?」
「平家先生」
あれ、違った・・・。
「進路のこととか悩んでて、微妙な感じだから、あまり刺激しないでねって注意されたよ」
私は、冷たい視線を送ってみる。
分かってるなら、触れないでよ。
それに、そんなこと言われたの本人に言うなんて・・・
- 151 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:37
- 「人生の岐路に行きあたった紺野ちゃんは、悩みの底に落ちてしまったわけか」
「岐路なんて、そんなすごいもんじゃないですけど」
「十分すごいもんだよ。自分の進路を決めなきゃならないんだから」
岐路。
こんな言葉初めて使ったかもしれない。
「先生は、どうやって先生になるって決めたんですか?」
「うーん、まだ決めてないんだ。この二週間で決めようと思ってる。だから、頑張らなきゃ」
「それで、あんなにはりきって練習もしてるんですか?」
「それはそれ、かな。体育祭では紺野ちゃんに勝てるように頑張るよ」
「いくらなんでも負けませんよー」
村田先生は、この一週間、頑張って練習もしてる。
だけど、それくらいで速くなるわけないよ、とか思う。
- 152 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:38
- 「紺野ちゃんの話し聞いてさ、仲間だ、とか思っちゃったわけですよお姉さんとしては」
「はぁ、お姉さんですか」
「なあに、その、納得いかなそうな目は」
「いや、そんな、そんな、おばさんとかそんなつもりじゃないです」
「紺野ちゃん!」
あっ・・・。
「まったく、いつまでも若いと思ってるでしょ。いいよね、15才か。私もあったよそん
なころ。何にも先のこととか考えてなかったなー。って、先のこと考えまくりの人の前で
言うことじゃないけど」
先生は、私から視線を外して、フィールドの高飛びの方に目をやった。
- 153 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:39
- 「悩んでるのが一人だけってのがつらいところだよね。普通の中学生ならみんな進路で悩
むのに、うちは誰も受験なんかしないからねえ」
「ピンと来ないですよ、なんか」
「その上、お友達とけんかまでしちゃったと」
「そんなことまで聞いてるんですか!」
自分でも気づくくらい声のトーンが変って村田先生の方を見る。
先生も、ちょっと体を後ろに引きつつ私の方を見た。
「陸上部には、可愛くて走るのが速い子がいるって教えてくれたのは、うちのクラスの
加護ちゃんだよ」
私は、先生から視線を外し、トラックに目を映す。
女子の800mが終わり、一年生女子の100mが始まる。
- 154 名前:第四話 投稿日:2003/12/21(日) 21:39
- 「スタンドに戻ろうかなー」
「顔色一瞬変ったぞ」
「余計なお世話です」
「ふふ、かわいいなあ、紺野ちゃん」
村田先生は立ち上がり、私の頭をぽんぽんと叩く。
「楽しく生きろよー」
そう言って、去って行った。
私は、なんだか立ち上がるきっかけを失って、先生が見えなくなるまでその場でボーっと
座っていた。
なんだかな・・・。
- 155 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/12/22(月) 03:43
- 作者さん、乙です。
マターリ待ってたのに、今回は早かったですね。
「勝手にせい、紺ちゃんなんか」
と言う加護さんと
「陸上部には、可愛くて走るのが速い子がいるって教えてくれたのは、うちのクラスの
加護ちゃんだよ」
の加護さんと、言葉はま逆だけど心は一つ。
そんな加護さんの気持ちは紺野さんにもわかってるんだろうなと思う。
友情、約束、早く成りたいという自分の希望・・・、
どちらかを捨てなければいけない・・・、
「楽しく生きろ」の言葉で答えが出るのか・・・なんだかな
紺野さんはどうする!
村田さんは紺野さんの助けになるのか!
続きを楽しみに待ってま〜す。
- 156 名前:作者 投稿日:2003/12/26(金) 22:43
- >やじろこんがにーさん
どうするんですかねー、紺野さん。
まわりにもいろんな人がいまして、どうなっていくんでしょうか。
- 157 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:43
- そんな陸上部の中で私の練習は続く。
新人戦の翌日、練習の終わりになって私は平家先生に呼ばれた。
「あれから大分時間たったけどさあ、どうするのか決めたのか?」
「何がですか?」
分かってるけど、言ってみる。
わざわざ言ってみる。
- 158 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:45
- 「高校。須磨学院」
「はぁ・・・」
「大事なことだろー。はぁ、じゃないよまったく。お前はいつもいつもマイペースなんだ
から・・・」
平家先生が頭を抱えている。
先生、私だって、私なりに悩んでるんです、って言おうと思ったけど、なんとなく分かっ
てそうだから言わなかった。
- 159 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:46
- 「とりあえず見学でもしてきたらどうだ?」
「見学ですか?」
「今週末は体育祭だからだめとして、来週末は、高校の方で県体があるからだめか。まあ、
再来週になっちゃうか、それとも、進路を決める学校見学だから、授業休んでもいいぞ」
里沙ちゃんの顔が浮かんだ。
里沙ちゃんが、うちの高校に進めるように必死に頑張ってる時に、教えている私がよその
学校を見に行くなんてことしていいのだろうか?
それに、亜依ちゃん怒るだろうなあ・・・。
- 160 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:47
- 「そんな顔するなよ。でもな紺野。いろいろ考えることもあるだろうけどな、紺野が自分で決
めなきゃいけないことなんだぞ。ここにいると、周りは進路とか考えてないけどさ、普通の中三
で高校とつながってない学校の子は、みんな自分で考えて高校を決めるんだからな。紺野だけじ
ゃないんだぞ、いろいろ悩んだりしてるのは」
そんなことが分からないわけじゃない。
ひとがどうとかじゃないんだ。
私は、私がどうしたいのかわからない、ただ、それだけだ。
そして、どうしたいのかがはっきりしてて頑張ってる子が、私の隣にはいた。
- 161 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:47
- 「せんせい」
「なんだ?」
「もし、もしも、私が須磨学院に行ったら、ここの高等部の空いた一つの席は、里沙ちゃ
んに回って来ますか? 里沙ちゃんの成績に関係なく、里沙ちゃん進学できるようになりま
すか?」
平家先生は、机にひじをついて頭を抱えた。
そして、一つため息をはいてから言った。
- 162 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:48
- 「バカかお前は。それともアホか。ほんまもんのアホか!」
怖かった。
平家先生にこんな剣幕で怒鳴られたのは初めてのことだった。
「はぁ・・・。まったく。紺野。おまえ、新垣と一緒に図書室で勉強してたよな」
「・・・はい」
「新垣が頑張ってるのを一番分かってるのはお前なんじゃないのか?」
私は、返す言葉がなかった。
うつむくことしかできなかった。
- 163 名前:第四話 投稿日:2003/12/26(金) 22:48
- 「紺野がそんな理由で、よその学校行った、なんて新垣が知ったらどれだけ怒るかわかん
ないのか?」
先生の声は、怒っているそれから呆れている感じへとかわった。
「新垣のことと紺野のことは別の話な。紺野は、自分で自分の将来は決めること。自分の
進む道を新垣に背負わせたりするなよ。まったく。いくらテンパッテもなあ、今度そんなこ
と言ったら張り倒すからな」
私は、すいません、と頭を下げるしかなかった。
それからみんなの所へもどった。
学校見学のことは、結局うやむやになった。
- 164 名前:夢 投稿日:2003/12/27(土) 16:42
- みやさん、好きです(ぉ
二ヶ月程前に「初めての夏休み」を偶然拝見させて頂きまして、
自分も小説を書く身として感銘を受けました。
それからずっと、みやさんの作品を見ていまして。
夜中、一人で感動しています。
ROMながら応援していますので これからも頑張って下さいね。
・・・感銘を受けすぎて、似た様な作品を作ってしまったという話は秘密です_| ̄|○
- 165 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/12/28(日) 07:41
- 作者さん、乙です。
今回はちょっと出遅れてしまいました、飲み会やら何やらで(ry
今年も終わりですが、来年もよろしく御願いします。
なんとなくですが、加護ちゃんが事態打開の為に活躍しそうな予感がします。
と、こうやって先を予想しながら読むのも楽しみです。
おつかれシタ。
- 166 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 22:10
- >夢さん
ありがとうございます。
本当にありがとうございます。
一番最初のは、かなり恥ずかしかったりしますが(笑)
似たような作品ってどれのことだろう? とちょっと探してしまいました。
どれだろう?
>やじろこんがにーさん
加護さん、どうしてるんでしょーねー。
一人称小説だと、どこで何やってるのか、さっぱり分からない構成になってしまいますが・・・。
それが、いいとこでもあり悪いとこでもあり・・・。
- 167 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:11
- 次の日、私は初めて練習をサボった。
練習をサボって、私は図書室にいた。
「ねえ、紺ちゃんホントにいいの?」
「里沙ちゃんは気にしなくていいの」
「でもさあ、練習あるんでしょ?」
「別に、みんな平気でサボるし、休んだって先生何も言わないもん」
- 168 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:12
- 半分ホントだけど半分嘘だった。
別に強い部活じゃないし、いつも練習に来てる部員は半分くらいだと思う。
平家先生も、練習してる子にはそれなりにアドバイスはしてくれるけど、そうでない子に
対して練習出てこいとか、そういうことをわざわざ言ったりはしない。
後輩達の中には、ダイエットできるから陸上部、なんて子だっている。
だけど、私は違った。
マイペースに練習できそうだからって理由で入った陸上部。
そして、なんとなく出場した最初の大会。
分けの分からないまま走って、二番に入っていた。
それからだ、上の大会を目指すようになったのは。
平家先生がこぼしていた。
「紺野みたいに上の大会目指そう、なんて奴は初めてだよ。今までのレベルなら楽だった
のに、私も紺野のレベルに合わせて勉強せなあかんやないか」
私だけのためにわざわざそうやって頑張ってくれた平家先生には、ちょっとだけ感謝して
る。
先生は、私だけには厳しかった。
きっと、明日顔をあわせたら怒られるだろう。
だけど、今日は、走る気にまったくなれなかった。
- 169 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:13
- 「紺ちゃん、紺ちゃん」
「なに?」
「ぼっーっとしてるね」
「そだね」
「休憩にしませんか、紺野先生?」
頬杖ついてぼんやりしている私の顔を、里沙ちゃんはのぞきこんでくる。
私は、里沙ちゃんの視線を外して下を向く。
紅いセーラータイをいじりながら、ため息をついた。
- 170 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:16
- 「せんせーい、きゅうけいきゅうけーい」
「じゃあ、休憩」
「やった。ねえ、お散歩しよお散歩」
「さんぽ?」
「うん。図書室にいると休んでる気しないんだもん」
私は、里沙ちゃんに引っ張られて、廊下に出た。
南館の四階にある図書室から、階段を二つ下りる。
渡り廊下を通って本館に向かった。
また階段を上って三年生の教室がある四階へ。
窓からはグラウンドがよく見えた。
- 171 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:17
- 陸上部が練習しているのがよく分かる。
幅跳びの子達が砂場に座りこんでいる。
短距離の子は、スタート練習をしていた。
姿が見えない長距離グループはロードに出ているのだろう。
きっと、どこかの公園でしゃべってるんだろうな、と思う。
まじめにノックをしているソフトボール部とは大違いだ。
- 172 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:18
- 里沙ちゃんが窓を開けた。
十月も終わり近い風がセーラー服をはためかせる。
そんな風と一緒に、グラウンドの声が運ばれてきた。
ソフトボール部の声と、応援団。
一番はっきりと聞こえてくる亜依ちゃんの声。
グラウンドの隅、一番校舎に近い側で応援団の練習をしていた。
- 173 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:18
- 「亜依ちゃん、なんかガクラン着ちゃってかっこいいねー」
「かっこよくなんか無いよ」
かっこよくなんか無い。
背丈に合わない大きながくらんなんか着ちゃって。
全然かっこよくなんか無い。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、可愛い、とは思うけど・・・。
- 174 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:19
- 「仲直りしないのー?」
里沙ちゃんは、亜依ちゃんの方を見ながら言った。
私は、黙ったまま何も答えなかった。
「もうすぐ一ヶ月だよ。二人とも感じ悪いよー。紺ちゃん体育の時さあ、いつもはA組の前
通って非常階段使って体育館いくのに、最近、本階段で二階に下りてから行ってるでしょー」
「それは、たまたま」
「亜依ちゃんも亜依ちゃんで、お昼休みに購買行くのに、うちらのクラスの前通らないよ
うに、非常階段経由で行ってるんだよー。二人して同じようなことしてさあ、ホント感じ悪
いよ」
亜依ちゃんと顔をあわせたくなかった。
ちょっとむかついてるってのもあるし、私が悪いんだろうなーってのもあるし。
なんとなくだけど、須磨学院に行くか行かないか、私がそれを決めてからじゃないと亜依
ちゃんと仲直り出来無いような気がしてた。
- 175 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:20
- 「間にいる人間の気持ちも考えてほしーなー」
「ごめん」
「紺ちゃんも亜依ちゃんも意地っ張りだからなー・・・。疲れるよ」
里沙ちゃんは、窓のさんの部分に両手を重ね、その上にあごを乗せている。
私は里沙ちゃんの方を見て言った。
- 176 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:21
- 「里沙ちゃんは、私に怒らないの? 自分が頑張って勉強して、一緒に高校行こうって言
ってたのに、私がよそにいくかもしれない、なんて言い出して」
「うーん。正直よくわかんないんだよねー。なんで? とは思うけどさあ。速くなりたい
ってのは分かるし。そりゃあ寂しいけど。どっちかっていうと亜依ちゃんがあんなに怒った
ことのが分からなかったりするかなー。紺ちゃんの将来、だから私なんかが文句言うのも変
だしさ。それに、今は自分のことで必死って感じ。紺ちゃんがやっぱりここにいるって言っ
て、私だけ、お前追放! とか言われて外の高校行かされたら無茶無茶かっこわるいじゃん」
「それは、そうかも」
相変わらず亜依ちゃんの声が聞こえてくる。
視線を応援団から外してグラウンドの中央の方へと向けると、いつのまにか村田先生と
平家先生が出てきていた。
「お願いだから、早く仲直りしてよねー。いろんな移動で微妙に遠回りさせられるのは
もうかんべんって感じ」
ばれてないと思ってたけど、里沙ちゃんにはばれてたのか・・・。
- 177 名前:第四話 投稿日:2003/12/29(月) 22:22
- 「ねえ、こっち見てない?」
「なにが?」
「グラウンド。平家先生」
グラウンドへ目をやると、先生は私の方を見ていた。
距離は結構あるのに、なんか視線がぶつかる。
平家先生は、私を指差し、それから、自分の目の前の地面を何度も指差した。
その横で、村田先生が手を振っていた。
- 178 名前:第四話 中間テスト そして新しい先生 終わり 投稿日:2003/12/29(月) 22:23
- 「紺ちゃん、思いっきり呼ばれてるよ」
「う、うん・・・」
怖い・・・。
「ちょっと、わたし、行って、来ようかな、練習」
「そのほうが、いいと、思うよ・・・」
私は、ダッシュで図書室まで行ってカバンを取り、着替えてグラウンドへ向かった。
こわいなー。
どうしよう・・・。
- 179 名前:作者 投稿日:2003/12/29(月) 22:35
- 今年の更新はこれで終了となります。
氷上の舞姫からずっと付き合って下さったかたは、一年間ありがとうございました。
あちらは、倉庫行きしてしまいましたが。
みんなの進路希望からの方は四ヶ月、ここが最初の方は、三ヶ月の間、お付き合いいただきありがとうございます。
来年、このスレはいつ頃終わるかは分かりませんが、それまではお付き合いいただけますようお願いします。
来年最初の更新は、金板のみんなの進路希望の方が最初となります。
来年もよろしくお願いします。
- 180 名前:やじろこんがにー 投稿日:2003/12/30(火) 02:27
- 作者さん、乙です。
今年中にもう一度書込みがあるとは予想してませんでした。
加護ちゃんと紺野さんの離別状態、ヤキモキしますね。
加護さんの言葉が無いだけに余計そうなるんですね。
加護さんがどんな事を考えているのか?
早く知りたいと思うのは読者の常ですが、われながら我侭なものだと思います。
今年一年ご苦労様でした。来年もよろしく御願いいたしますm(_ _)m
P.S 紺野さんは実娘内では、新垣さんは「あさみちゃん」て呼んでるみたいですね。
紺スレで紺ちゃんと呼ぶと叱られます。
一応、紺ヲタからの一口知識でした。
- 181 名前:名無しくん 投稿日:2003/12/31(水) 17:10
- 更新お疲れ様です。
今年は氷上の舞姫といい、作者さまにはすごく楽しませていただきました。
来年も期待していますので、よろしくお願い致します。
今年一年間お世話になりました。
- 182 名前:作者 投稿日:2004/01/08(木) 22:29
- >やじろこんがにーさん
呼び方、なんかちがうなー、とは結構前から思ってたのですが、途中で変えるわけにもいかないので。
まあ、たぶんこのまま進みます。
>名無しくんさん
今年もよろしくお願いします。
- 183 名前:第五話 体育祭 投稿日:2004/01/08(木) 22:31
- いい天気だった。
もう、すっかり秋だけど、風はそんなに冷たくなくてちょうどいい感じ。
今日は体育祭だ。
私は陸上部。
スタートとかゴールとか、タイム計測とか仕事もいっぱい。
陸上部だから、周りの期待もいっぱい。
リレーにも選ばれてる。
みんな間違ってるよ。
私は陸上部だけど、中距離の選手で短距離は速くなんかないのに。
まあ、個人種目は1500mなんていう、体育祭で一番地味な種目に強制エントリーされ
たけど。
- 184 名前:第五話 投稿日:2004/01/08(木) 22:33
- 日曜日の学校は、部活の練習ではよく来るけれど、生徒全員が集まるってのはなん
か変な感じ。
集合時間もいつもより30分も早いし、教室は、椅子が全部グラウンドに並んでて机
しかないし、なんだか雰囲気がいつもの学校じゃないみたい。
「おはよう、紺ちゃん」
「おはよう」
「ねむいよー。かったるいよー」
里沙ちゃんは時間ぎりぎりにやってきた。
あくびなんかしている。
- 185 名前:第五話 投稿日:2004/01/08(木) 22:35
- 「体育祭やめて買い物行かない?」
「なに言ってるのさ」
「だいたいさあ、間違ってると思わない? なんで体育祭って名前でさあ、走ったり飛ん
だり、ついでにダンスなの? かっこいい子でもいればダンスもいいけど、女子校だしさー。
せめて球技を入れてよ球技を」
「玉入れとか?」
「紺ちゃんぼけすぎ。そうじゃなくてー、バスケとか、バレーとかさあ、どう考えても、
障害物競走とかよりずっと体育だと思うわけよ」
- 186 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/08(木) 22:36
- 明けましておめでとうございますm(_ _)m
本年もよろしく御願いします。
追記ですが、「紺ちゃん」って呼んでるメンバーもいます(メロンの柴田さんなんか)
ので構わないとおもいます。
本年もマターリ待ってますので焦らずに書いてください
- 187 名前:第五話 投稿日:2004/01/08(木) 22:36
- 里沙ちゃんは、春の球技大会はバスケに出て結構活躍してたっけそういえば。
「でも、それ言い出したら、水泳とか、剣道とか、空手とか、果てしなく何でもありだよ
ねー」
「だれが、パン食い競争とか、騎馬戦とか、玉入れとか、運動会以外で見かけないような
の考えたんだろうね」
「いいじゃん、一日楽しく過ごせれば」
「球技大会のが好きだなー私は」
球技大会でバレーに出て、サーブで味方の後頭部に当てたの一回と、顔面レシーブ一回を
里沙ちゃんが思い出す前に、私は逃げ出すことにした。
- 188 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/08(木) 22:42
- 本編を読まずにレスしてしまいました(笑
里沙ちゃんも紺ちゃんも元気そうで何よりです。
個人的ですが「みんな間違ってるよ」の台詞は壷ですね、ハロモニコントを思い出しました。
- 189 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/08(木) 22:51
- 投稿途中に大変失礼いたしました。
スレを汚してしまいましたm(_ _)m
”味方の後頭部に当てたの一回と、顔面レシーブ一回”
面白い・・・て言うかほんとにありそうで・・・
ハロモニのピンポンを思い出しました。(球技ニガテなんですよね♪)
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/09(金) 15:48
- お前ホントに間が悪いヤツだな
- 191 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/09(金) 17:47
- いや、悪かった。 次から気をつけるよ。
- 192 名前:作者 投稿日:2004/01/11(日) 00:17
- えーっと、あんまりもめないでねー。
- 193 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:18
- 体育祭は今年で三回目。
正直言うと、去年と一昨年に勝ったのかどうかも覚えていないくらいにチームの勝ち負け
には興味なかったりする。
気を抜くと自分が白組だってことすら忘れてしまう。
自分が出る1500でちゃんと勝って、リレーでとちらなきゃいっか、くらいなもの。
他に、なんか体育祭っぽい種目にも出るけど、どーでもいいや。
- 194 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:19
- 淡々と競技が進んでいく。
私は里沙ちゃんとは別の組みになっちゃってちょっと寂しい。
亜依ちゃんは同じ組みにいるけど。
まあ、里沙ちゃん以外にも話す子はいるし、スタートピストルの担当なんかもあって、
自分の席にいないことが多いから退屈はしないからいいけど。
- 195 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:19
- そんなこんなで、私の出番1500mが回ってきた。
さすがに学校に私に勝てるような子はいない。
村田先生がやけに絡んでくるけど、たった二週間でどうにかなるほど甘くない。
「むらっちがんばってー!」
スタートラインに並ぶ私達の元へ声援が飛ぶ。
村田先生は、やたら人気があった。
- 196 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:20
- スタートピストルが鳴り、走りだす。
正直に言えば、ちょっとかったるかった。
なんでわざわざこんな所で、と思う気持ちが強い。
八割くらいの力で、疲れないように走ろう。
そう思いながら、半周を過ぎる。
ついて来る子はぽつぽつって感じ。
村田先生も、私のすぐ後ろにいた。
- 197 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:21
- 一周目が終わる。
ついていってみよう、みたいな子がどんどん離れて行く。
それでも村田先生は、まだすぐ後ろにいた。
無理すると最後つらいと思うけどなあ。
「こーんの! こーんの!」
なんだか、私に向けて声援が送られているようだ。
声の方を見てみると、ガクランを着た亜依ちゃんが仕切る応援団だった。
- 198 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:21
- 二周目バックストレートへ上がっていく。
大きな白い旗が振られる横で、亜依ちゃんが声を張り上げていた。
ちっちゃい体で無理しちゃって。
視線が合う前に、こっちから外す。
ふと、横に気配を感じて見てみると、村田先生が並びかけてきた。
- 199 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:22
- 一瞬びっくりしたけど、落ちついて観察してみると息は上がってるし、いっぱいいっぱい
って感じ。
ちょっとむっとした私は、ペースを上げる。
ちぎってやる、そうはっきり思った。
コーナーを曲がる。
200メートルの小さなトラックなので、コーナーでスピードを上げきれない。
- 200 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:23
- 「むらっちがんばれー!」
ストレートに戻ってきて、また村田先生への声が飛ぶ。
先生は、なかなか離れなかった。
三周目に入る。
私の後ろについて来るのは村田先生だけ。
荒い息が聞こえてくる。
もう限界なはずだ。
私は、さらにペースを上げた。
試合のペースとまではいかないけれど、ちゃんとした練習になるくらいのペースにまでは
あがっている。
バックストレートまで先生はついてきたけれど、やがて、背中の荒い息は聞こえなくなっ
ていった。
- 201 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:23
- ふー、ほっと一息。
あー、びっくりした。
三周目四周目とペースを守って、後ろが大分離れたのを確認してから、ペースを落とす。
もう後は、ゴールまでゆったりと走っても大丈夫だ。
周回遅れの人達を食べながらゴールへと向かう。
かわいそうに、せっかくのお祭りなのに、こんなつらい競技にエントリーさせられて。
もう、なんか死にそうな顔をしながら走ってる子達を抜くたびにそんなことを思う。
これで、ちょっと目立っちゃうなー、私。
まあ、たまにはいっか。
- 202 名前:第五話 投稿日:2004/01/11(日) 00:24
- 残り二周。
コーナーを上がってバックストレートへ出ると、応援団が視界いっぱいに入ってくる。
大きく振られている白い旗の横に、ガクランを着た亜依ちゃんの姿が見えた。
「こーんの! こーんの!」
叫んでいるのは私の名前のようだ。
いいって、私はもう。
どうやったって勝つから。
二番目とか、後ろの子とか、村田先生とかさあ、応援して上げなよ、って思う。
残り一周、寂しいくらいの独走。
周回遅れをたくさん食べながら、私は余裕のトップでゴールした。
- 203 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/11(日) 04:27
- 作者さん乙です。 最近更新が早いですね。いや、嬉しい限りです。
紺野さん冷静すぎ(笑
亜衣ちゃんに手ぐらい振ろうよって思いました。
亜衣ちゃんとの間に新しい展開が来そうですね。
よろしくです。
(´-`).。oO(今日は大丈夫だった・・・)
- 204 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/12(月) 13:13
- >>203
> (´-`).。oO(今日は大丈夫だった・・・)
メール欄見れ
- 205 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/13(火) 02:50
- >>204
了解 サンキュー
- 206 名前:作者 投稿日:2004/01/14(水) 23:33
- 更新が終わる時には、メール欄に、ここまで、と入れます。
忘れてなければ。
- 207 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:33
- 私は、一番と書かれた旗の所に案内されて座らされる。
どれくらいまたされるのかなあ、なんて思いながら体育座りをして全員のゴールを待つ。
暇なので、あたりを見回す。
みんな辛そうに走ってた。
普通やらないよね、体育祭で1500メートルって。
トラックの内側では、応援団の声援が続いていた。
亜依ちゃん似合わないガクラン着ちゃって。
めいいっぱい体を動かして、大きな声を上げてる。
ずるいよな、亜依ちゃん、可愛くて。
なんだよ、目立っちゃって、亜依ちゃん友達多いしさ。
いいじゃんか、私一人よその学校行ったって。
別に、寂しくもなんともないんでしょどうせ。
元気に応援団しちゃってさ。
- 208 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:34
- 「やっぱ、紺野ちゃんは速いや」
見上げると、村田先生がいた。
「先生、ずっとついて来るからちょっとあせりましたよ」
「いけるとこまで行こうと思ったんだけどね、簡単に離されちゃった」
「何番だったんですか?」
先生は、私の問には直接答えず、首に掛けられた六という数字の札を私の顔の前にかざした。
- 209 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:34
- 「私、先生になるよ」
ジャージ姿で両手を腰に当て、胸に六の札をぶら下げたまま村田先生は言った。
「楽しかったからさ」
教育実習は今日で終わる。
村田先生とも今日でお別れ。
- 210 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:35
- 「紺野ちゃんも頑張れ」
「先生も、いい先生になってくださいね」
「うん。なるよ。ちゃんと卒業出来て、試験も受かったらね」
先生になるのも大変なんだ。
「紺野ちゃんは、加護ちゃんと仲直りするんだよー」
また、余計なことを言って、先生は去って行った。
- 211 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:35
- 待ちくたびれた頃、ようやく全員がゴールする。
改めて、上位の人達の名前が放送で流された。
白組応援団が私の名前を連呼している。
だから、私は陸上部の長距離選手で、勝つのはあたり前なんだから、やめてって、ホント
言いたい。
人の気も知らないで、亜依ちゃんは、相変わらず応援団の真ん中で声を張り上げていた。
- 212 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:36
- 席に戻る。
いろんな子が、両手を上げてハイタッチなんかを求めてくる。
私も、イェーイ、とか言いながら、似合わないはしゃぎ方でタッチを返した。
「紺野さんって、勉強できるだけじゃなくて、走るのも速いんだね」
「だって、陸上部だもん」
「だからって、速すぎだよー。他の陸上部の子そんなに目立ってないし」
結構どうでもいい体育祭だったけど、褒められるとやっぱりうれしかった。
- 213 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:36
- 競技は進む。
騎馬戦だとか、台風の目とかいうゲームとか、障害物競争とか。
誰が考えたのかやっぱり不思議だ。
三年生のダンスで呼ばれて、私達は移動する。
ダンスって体育かなあ?
そんなことを考えつつ、親達の目にさらされながら踊る。
なんかおかしくて楽しいけれど、でも、やっぱりちょっと恥ずかしかった。
- 214 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:36
- 踊り終えて退場する。
めいめいばらばらに自分の席へ。
ずっと外にいたら日焼けしちゃうなあ、なんて思ってたら、後ろから声がかかった。
「紺ちゃん」
振り向くと、少しはなれた所に里沙ちゃんがいた。
そして、隣に、亜依ちゃん。
- 215 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:37
- 私が答えずにじっと見ていると二人はこっちに向かって歩いてきた。
里沙ちゃんが前で、一歩くらい後ろを亜依ちゃんが歩いている。
亜依ちゃんもダンスを終えたばかりだからガクランを着てなくて体操服だった。
私から10メートルくらいのところで、亜依ちゃんが立ち止まる。
ちょっと先を歩いていた里沙ちゃんが、戻って、亜依ちゃんの腕を引っ張っていた。
- 216 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:37
- 「紺野先輩」
後ろから私を呼ぶ声がする。
振り向くと陸上部の後輩が走ってきた。
「先輩、次の一年生の障害物競争、フライングピストルの係が足りてなかったんですよ。
やってくれません」
「いないの? うん、分かった」
私は、後輩達について準備に向かう。
- 217 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:38
- 「紺ちゃん待って!」
里沙ちゃんが私を呼んでる。
振り向くと、里沙ちゃんは亜依ちゃんを無理やり引っ張ってこっちに来ようとしていた。
「先輩?」
「あ、ごめん。行こう」
後輩達と歩きだす。
背中から里沙ちゃんが呼ぶ声が聞こえたけど、私はもう振りかえらなかった。
- 218 名前:第五話 投稿日:2004/01/14(水) 23:39
- 逃げたわけじゃない。
逃げたわけじゃないよ。
後輩が仕事で呼んでるんだから、しょうがない。
別に、亜依ちゃんから逃げたわけじゃ無いんだ。
しょうがないんだよ。
そんなことを思いながらフライングピストルを構えていると、先生がやってきた。
- 219 名前:第五話 体育祭 終わり 投稿日:2004/01/14(水) 23:39
- 「紺野、おまえ、体育祭がお祭りだからってフライング見逃しすぎ」
「え、あ、ごめんなさい」
平家先生に怒られた・・・。
そんな風にして体育祭は終わった。
リレーは無難にこなして、全体で勝ったのは赤組らしかった。
亜依ちゃんが、なんかやたら悔しがってたのが目についてしかたなかった。
- 220 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/15(木) 00:36
- 乙ですー! メール欄判りましたぁ
体育祭もう終わりですか、この中で亜衣紺がなにか進展(仲直り)があるかと期待してたのですが。
里沙ちゃんと亜衣ちゃんが接近してきた時自然に出来なかったんだぁ、紺野さん・・・。
本当の冷たい喧嘩状態だったんだなあとあらためて認識しました、悲しいです。
亜衣ちゃんも紺野さんもいい子なのにね。
最近、更新が早くて楽しみです。
では。
- 221 名前:作者 投稿日:2004/01/17(土) 23:22
- >やじろこんがにーさん
まあ、いろいろあるんですよきっと。
そして、これからもいろいろあることでしょう。
ちなみに、亜依です。亜依。
- 222 名前:第六話 一通の招待状 投稿日:2004/01/17(土) 23:26
- どうしたらいいんだろう。
休みの日、私は家の敷地をぶらぶら散歩する。
うちは造り酒屋。
職人さん達がいっぱい出入りしてる。
小さなころからこんな環境で育ってた。
庭に漂う麹の香り。
私は、蔵へと向かった。
- 223 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:27
- 「いいお酒出来てる?」
蔵には、杜氏さんがいた。
うちの蔵の酒作りの責任者。
私が生まれたころからずっと杜氏をやっている。
「お嬢さん、珍しいですね、蔵まで入ってくるなんて」
「なんかね、いい匂いしたから」
「お嬢さんも、酒蔵のお嬢様になりましたねー?」
「なんで?」
「この匂いをいい匂いって呼ぶんだから、立派な酒蔵のお嬢様ですよ」
お嬢様、って呼ばれるのは、やっぱりたまに恥ずかしいけど、もう慣れた。
ただ、家の外でまでそう呼ぶのはやめてほしいなって思う。
- 224 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:29
- 「どうかしたんですか?」
「なんで?」
「お酒のみたそうな顔じゃないから、じゃあ、なんで来たのかな? なんて思った
だけですよ」
「うーん、なんとなくかなー。麹の匂いにひかれて」
私は、蔵の隅っこにある椅子に座る。
小さなころは、こうやって職人さん達の仕事をよく見ていたような気がする。
あんまり覚えていないけど。
「お嬢さんは知らないだろうけど、昔は蔵に女性が入っちゃ酒の味が落ちるだなんだ、
大変だったんですよー」
「そうなんだー」
知ってるけど。
同じ話し何度もきいてるけど。
- 225 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:31
- 「最近、学校はどうなんですか、お嬢さん」
「どうって?」
「前は、今日こんなことがあった、あんなことがあったって、話してくれたじゃないです
か。それが、最近はあんまり蔵にも近づかなくなって」
「そうだったかなー?」
「そうですよ。小学校入りたての頃、そうやって話してる間に、こっそりもろみを口にし
て大変なめにあったりしたじゃないですか。お嬢様のほっぺが、もうこれ以上ないってくら
い真っ赤になって、蔵人一同おやっさんから、こってり絞られたんですよ」
そんなことももしかしたらあったかもしれないなぁ。
えへへ。
- 226 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:32
- 「それで今年はどうなの?」
「今年は、米がいいから期待出来ますよ」
「そっかあ」
背中を向けて作業をしながら答えが帰ってくる。
いかにも職人さんって感じの、そんな姿が私は好きだった。
「ねえ、なんで杜氏になろうと思ったの?」
ふと思って聞いてみた。
そしたら、作業の手を止めて、こっちを向いた。
- 227 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:34
- そんなもんなのか。
言われてみれば、うちで働いてる職人さん、お父さんは別の酒蔵で働いてるって人、
結構多い。
「そういう意味では、お嬢さんには蔵継いで欲しいんですけどねえ」
「あんまり考えたことないなあ、そういうの」
私は、妹はいるけど、一番上だから本当は、そういう後継ぎとか、難しいことも考えな
きゃいけないはず。
だけど、そんなプレッシャーを掛けられたことは、なんだか感じたことがなかった。
「めずらしいと思いますよ。こういう家なら、跡継ぎがどうのこうのって普通は言われる
んですけどねえ。おやっさん、お嬢さんには自由に将来を選ばせてくれるみたいじゃないで
すか。うちらは、お嬢さんの下で仕事したいと思ってるんっすけどねえ」
そんな未来は、私の中ではほとんど考えられなかった。
- 228 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:34
- 「一杯飲みますか?」
「いいの?」
「早作り新酒の、それも、まだ全然熟成されてないですけどね」
そう言いながら、酒升にすくってくれた。
「一杯だけですよ」
「ありがとー」
私は、タンクの方まで歩いていって酒升を受け取る。
両手で酒升を持って口へもっていった。
- 229 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:35
- 「わっかーい。まだ全然若い」
「ははは、まだ飲むには早いですからね。もっと熟成させないと」
「でも、おいしいよ。辛すぎる感じがなくなれば、多分、すごくおいしくなる」
「いやあ、お嬢様にそう言ってもらえると、自信出てくるなあ」
「ってことで、もう一杯!」
右手で酒升を差し出すと、首を横に振られた。
- 230 名前:第六話 投稿日:2004/01/17(土) 23:38
- 「お嬢さんはまだ一杯だけです」
「えー、いいじゃーん」
「ダメですよ。二杯飲んだら顔に出ちゃいますから。もう、お嬢さん、将来大酒飲みにな
りますよ、間違いなく」
失礼な、大酒飲みなんて。
「けちー」
「けちって・・・。一杯だって特別なんすからね。久しぶりに蔵に遊びに来てくれたから。
これ以上飲みたかったら、蔵で働いて、蔵人になるんですな」
「もう、いいよ、けちだなー」
私は、ぐちぐち言いながら、蔵を後にした。
- 231 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/18(日) 04:43
- ふむふむ、紺野さんは酒蔵のお嬢さんで、お酒に強いっと
あれ?226と227の間って・・・なんか抜けてない?
あ、失礼しました。お疲れ様です。”亜依”ちゃんの件も失礼しました。
話がまだ途中なので感想もありませんが新しい展開、面白そうです。
酒蔵での紺野さんは、能天気と言われるぐらいの大物ぶりで、いい感じです。
ちょっと和久井映見さんを思い出しました。
頑張ってください。 では・・・
- 232 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 23:01
- ・・・・
失礼しました。
226と227の間には、一行抜けてました・・・。
わざわざありがとうございます。
その前後の文章はこんな感じでつながります。
******************************
>>222-225
「それで今年はどうなの?」
「今年は、米がいいから期待出来ますよ」
「そっかあ」
背中を向けて作業をしながら答えが帰ってくる。
いかにも職人さんって感じの、そんな姿が私は好きだった。
「ねえ、なんで杜氏になろうと思ったの?」
ふと思って聞いてみた。
そしたら、作業の手を止めて、こっちを向いた。
「うちは、じいさんの代から、酒作ってますからねえ。親父見てたら、気づいたら酒作ってましたよ」
そんなもんなのか。
言われてみれば、うちで働いてる職人さん、お父さんは別の酒蔵で働いてるって人、結構多い。
- 233 名前:作者 投稿日:2004/01/24(土) 23:06
- 「そういう意味では、お嬢さんには蔵継いで欲しいんですけどねえ」
「あんまり考えたことないなあ、そういうの」
私は、妹はいるけど、一番上だから本当は、そういう後継ぎとか、難しいことも考えな
きゃいけないはず。
だけど、そんなプレッシャーを掛けられたことは、なんだか感じたことがなかった。
「めずらしいと思いますよ。こういう家なら、跡継ぎがどうのこうのって普通は言われる
んですけどねえ。おやっさん、お嬢さんには自由に将来を選ばせてくれるみたいじゃないで
すか。うちらは、お嬢さんの下で仕事したいと思ってるんっすけどねえ」
そんな未来は、私の中ではほとんど考えられなかった。
>>228-
*******************************
こんな形になってます。
それでは続きです。
- 234 名前:第六話 投稿日:2004/01/24(土) 23:09
- 秋が終わって冬が近づいてくる。
お酒もどんどん熟成される、そんな季節。
私達は、県の中学駅伝に参加した。
全国中学駅伝の予選にあたる大会。
でも、私達にとっては、この県大会が本戦みたいなものだ。
- 235 名前:第六話 投稿日:2004/01/24(土) 23:10
- 「紺野の好きなように勝負していいからな」
「はあ」
「後ろのこととか気にしないで。紺野でダメならみんなあきらめるから。好きに走ってこい」
今年の私の担当は一区。
各校のエースが集まる、一番長い四キロの一区。
去年までは、弱い人が集まる区間で区間賞を取ろう大作戦、で、距離の短い四区を走って
二年連続区間賞を取っていた。
だけど、今年はそんなせこいことしないで勝負する。
- 236 名前:第六話 投稿日:2004/01/24(土) 23:11
- うちのチームは弱いし、部員の練習もいい加減だけど、駅伝になると結構みんな本気になる。
だからと言って、急に速くなったりはしないのだけど、それでも、みんな盛り上がって、
何番くらいでタスキが来るかなあ? なんてやってる。
一区のエースのお姉さんとしては、後輩達のそんな期待に答えなくちゃいけないわけで。
結構プレッシャーなわけで。
- 237 名前:第六話 投稿日:2004/01/24(土) 23:12
- 「先輩、あんまり早過ぎない位置で来て下さいね」
「いやいや、先輩区間賞とる位の勢いで来て下さいよー」
「そしたら、二区の私がすごい大変じゃーん」
「トップ走れるんだよ、一瞬だけでもいいじゃーん」
人の力を過信しすぎだって・・・。
不安を抱えながら、スタート地点に向かう。
一周三キロの周回コース。
一区の私は、それプラス、最初にトラック二周と、帰ってきてトラック半周。
プレッシャーもありつつも、県総体以来の真剣勝負に、ちょっとワクワクしたりもする。
- 238 名前:第六話 投稿日:2004/01/24(土) 23:13
- マークしたい相手は、添上中の1-1
県総体の1500で優勝した子だ。
1-1っていうのは、背番号一の一区ってこと。
背番号は、去年の順位をそのままつけるルールになっているから、背番号一は去年の優勝チーム。
うちの背番号は、五十一番だ・・・。
- 239 名前:第六話 投稿日:2004/01/24(土) 23:13
- レースが始まる。
区間賞は欲しい、だけどまわりはエースだらけ。
私もチームのエースとして、まともな順位で帰って来ないといけない。
一人で勝手に勝負賭けて、つぶれてしまうわけにもいかない。
頭を悩ませながら、レースはスタートした。
- 240 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/25(日) 02:45
- どうも、おつかれです
駅伝ですか、
陸上競技の中で数少ない”団体競技”ですよね。
リレーなんかもそうだけど、参加時間が長い分団体競技感が強いと思います。
箱根駅伝なんか見てると、選手が背負ってる「責任」がTV画面に映ってるような気がするのは
私だけでしょうか?
幸い紺野さんの学校ではそれほどの荷物ではないようでよかったです。
51番って事は下には2,3校・・・、まなんにしても紺野さんには頑張って貰いたいものです。
白熱するレース中の紺野さんの呟きなんか、とても興味有ります。
では、また、マターリ待ってます。
- 241 名前:作者 投稿日:2004/01/26(月) 22:23
- >やじろこんがにーさん
そうですねー、駅伝。
まあ、一人で走るのとは、ちょっと違うわけで。
- 242 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:24
- トラックを二周まわる間に、いくつかのグループに別れる。
私は、その中の一番前のグループについた。
全部で十人くらい。
そんな集団のまま、トラックを出た。
周回コースに入ってすぐペースが上がる。
集団が二つに割れようとしていた。
私は、その真ん中にぽつんと置かれる。
無理をすればついていけないペースじゃない、だけど、きつそうな気もする。
前は六人、後ろに三人。
私は、後ろのグループに残ることに決める。
- 243 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:24
- 一キロ通過、三分三十一秒。
私の位置でも十分速い。
前のグループは、四秒位はなれている。
私は、周りの様子を伺った。
知ってる顔はない。
息が上がっている感じの子もいる。
一番余裕があるのは私のようだ。
- 244 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:24
- 前をうかがう。
六人の集団の真ん中に、添上中1-1がいた。
五秒、六秒と次第に距離が離れていく。
中間点を過ぎるころ、その差は十秒に開いていた。
- 245 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:25
- 二キロ通過。
先頭の集団が三人になる。
私から一番前までは五十メートルは開いただろうか。
その間を、十五メートル間隔位で、一人づつ三人いる。
私のグループは、気づけば二人だけになっていた。
体には十分に余裕がある。
残りは二キロ、前を追いかける。
私はペースを上げた。
- 246 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:25
- 隣にいた子はしっかりと私について来る。
二人で交互に前に出ながら先頭を追いかけた。
前の集団から落ちてきた子達を、一人づつかわしていく。
三キロを通過、残り一キロ。
四番手まで上がったけれど、先頭との差はなかなか縮まらない。
およそ五十メートル。
- 247 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:26
- まだ上げられる。
そう思いながら追いかける。
前に動きがあった。
添上中1-1が、他の二人を引き離す。
追いかけているつもりの私からも、先頭の姿は遠ざかって行く。
その代わり、二番手三番手は近づいてきた。
二キロ手前から私と並走して来た子は、力尽きて落ちて行った。
- 248 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:27
- 前へ前へ。
二番手グループが近づく。
追いつけば勝てる。
追いつけば、後ろから来た方がきっと勝てる。
そう信じて、さらにペースを上げる。
体は十分動く、足も動く、腕も振れる。
残り五百を切る。
一気に近づいて来た背中、その差、約十メートル。
- 249 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:27
- 「紺野先輩ラスト!」
競技場が近づいてくる。
後輩達の姿も、ちらほらと出て来た。
絶対追いつく。
二番で渡す。
トップはずいぶん遠くに行ってしまったけど、絶対二番では渡す。
みんなが待ってる。
- 250 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:27
- 競技場に入る。
私は、二番手グループに追いついた。
ラスト、勝負。
私は、タスキを外した。
「一番!」
二区へのコール。
背番号一の選手が呼ばれている。
先頭は、百メートル先。
二番手グループ二人の、真ん中に私は割って入った。
- 251 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:28
- 「三番! 六番! 五十一番!」
残り百メートル。
先頭がタスキを渡すのが見えた。
コーナーを立ち上がり、内側の三番の子が前に出る。
私もそれに続いた。
外側にいた子は脱落していく。
「ラスト! 紺野先輩ラスト!」
後輩が待ってる。
ラスト、ラスト。
隣の子ともつれ合うようにして、私はリレーゾーンへ。
二区の子へほぼ同時にタスキを渡した。
- 252 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:28
- なんとか二番、もしくは三番。
役目は果たせたかな。
後輩の子から、タオルとウォーマーを受け取り身につける。
それから荷物の置いてあるシートの所に戻って、仰向けに倒れこんだ。
「つかれたーー」
「お疲れ様です」
仰向けになって、顔にタオルを掛けて目をつむる。
歓声が聞こえる。
一人一人、タスキを渡して行く。
強いチームも、弱いチームも。
- 253 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:28
- 一番の子、速かったなぁ。
追いかけても追いかけても捕まえられなかった。
でも、今の私の精一杯は出たかなあ。
はぁ。
大きく息をはいて体を起こす。
タオルを顔からはずすと、外がなんだか眩しかった。
- 254 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:29
- 「紺野、いい走りしたじゃないか」
平家先生がやってきた。
「前の子速かった」
「あれはしょうがないだろ。県総体もそうだったけど、力が一枚上だろうな」
しょうがない、のかなあ。
まあ、確かに、今の力じゃかなわないんだろうけど。
私は立ち上がる。
すると、平家先生の携帯がなった。
- 255 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:29
- 「どうした? うん、うん」
先生は、うんうんとうなづきながら話を聞いている。
隣の私達には、なんだかさっぱり分からない。
「紺野、代われって」
「はあ」
電話を受け取る。
- 256 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:30
- 「もしもし?」
「先輩! 先輩! 七番だよ七番! まだ七番! 五人にしか抜かれなかったの!」
「ホント?」
「ホントですよー! すごいでしょ!」
「すごいすごい」
電話の向こうは二区の子だった。
短い1.4キロ区間はすぐに終わる。
前の方にいて、気分のいいままに走り切り、順位をあまり落とさなかったらしい。
私は、電話を平家先生に返した。
- 257 名前:第六話 投稿日:2004/01/26(月) 22:30
- 「先輩、そろそろ戻って来ますよ、行きましょうよ!」
「そだね」
三区が戻ってくるころ。
私達は、コースに出て応援する。
「ラスト、ファイットー!」
各校の応援の声。
私達もその輪の中へ。
駅伝は、一人で走るよりもずっと楽しかった。
うちのチームはその後、ずるずると抜かれていったけど、それでもなんとか29位という、
去年に比べれば大分前の方でゴールした。
- 258 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/27(火) 08:06
- 作者さん、お疲れ様でした。紺野さんもお疲れでした。
リアリティのあるレース場面で、雰囲気が伝わってきました。
残り距離と差、追いつく距離の感覚も現実的でよかったです。
51番(ほぼビリ?)から29番って大躍進です。
それに楽しんで走ってる様子が見えて良かったです。
ラストに強い選手って将来性があるんですよね? 紺野さん、頑張れ!
- 259 名前:作者 投稿日:2004/01/31(土) 00:16
- >やじろこんがにーさん
駅伝は、まあ、あんなもんで。
- 260 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:17
- 行事ラッシュの二学期も、もうすぐ終わりに近づいてくる。
最後にして最大の難関。
そう、期末テスト・・・。
「三権分立の三権とは何?」
「司法、行政、立法」
「じゃあ、司法に当たるのは?」
「裁判所」
「行政は?」
「国会?」
「ぶー。国会は立法。行政は、内閣ね」
「あー、もう、どっちでもいいよー」
里沙ちゃんが、机にへたりこんだ。
- 261 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:18
- 「わたし、ダメかも・・・」
「そんなことないよー」
「そんなことあるって」
毎日繰り返されるやりとり。
結構いらいらしたりもする。
不安なのは分かるけど、毎日同じやりとりだもんな。
私から見れば、二学期に入った頃よりは大分出来るようになってる気がするけど、分かっ
てないのだろうか?
- 262 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:18
- 「紺ちゃん、すごいよね。同じ授業受けてるはずなのに、全然理解が違うんだもん。こう
やって勉強してるとさ、自分がすごいアホな子に見えてくる。見えるっていうか、多分、そ
うなんだろうけど」
私にどうしろと、言うのだろう。
そんなこと言ったってどうしようもないのに。
私は、教科書を里沙ちゃんの顔の前につきだした。
- 263 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:18
- 「続きやるよ」
「うん・・・」
不満な顔をしている里沙ちゃんを黙らせる。
里沙ちゃんの進路がかかってるんだ。
不安だし、愚痴だって出るに決まってる。
それが分かっていても、それでも、私のいらいらは、なんだかおさまらない。
- 264 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:19
- 「国会の種類を全部上げてください」
「通常国会、臨時国会、特別国会?」
「じゃあ、通常国会はいつ開かれますか?」
「毎年一月」
「特別国会はどんな時に開かれますか?」
「特別なことを決めなきゃいけない時?」
「違う。衆議院選挙の後、総理大臣を決める時に開かれる。じゃあ、総理大臣はどう選ば
れて誰に任命される?」
「待って、ちょっと待って、もう一回。特別国会って何?」
「だから、もう、これ見て」
教科書を渡す。
里沙ちゃんはそれを受けとって、指でなぞりながら読み出した。
私は、ため息を一つつく。
- 265 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:20
- 「紺ちゃん、帰る?」
教科書から顔を上げて、里沙ちゃんが問い掛ける。
「なんで?」
「紺ちゃんも、自分の勉強したいんじゃないの?」
「気にしなくていいよ」
「気にするよ」
「いいから」
私は、机に置かれた公民の教科書を立てて、里沙ちゃんの顔に向けさせる。
里沙ちゃんは、それを無視して立ち上がった。
- 266 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:20
- 「帰ろう」
「なんで?」
「後は自分でやる。だから、帰ろう」
そう言って、里沙ちゃんは荷物をカバンにしまいだした。
「ちょっと、勝手に決めないでよ」
「だって、紺ちゃん、嫌なんでしょ、私に教えるの」
「どうしてそうなるの?」
「なんかいらいらしてるから」
私は、返す言葉もなくて横向きに座りなおし、左のひじを机についた。
- 267 名前:第六話 投稿日:2004/01/31(土) 00:20
- 「ごめんね、いつも付き合わせちゃって、今日は自分で頑張るよ。紺ちゃんも自分の
勉強して」
「勝手に決めないでよ。教えるって言ってるでしょ!」
「やっぱり、いらいらしてるじゃん」
どうしろと言うのだろう・・・。
「帰ろう。なんかうまくいかないし」
「ごめん」
「ううん。いつもありがと。いらいらさせてるの私だもん。ごめんね。もうちょっと、
私が勉強出来ればよかったのにね」
また言ってる、と思ったけど、もう無駄だろうから私は何も言わずに帰り支度をした。
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/01/31(土) 05:17
- ガキさんガンバ!!
- 269 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/01/31(土) 11:14
- 乙です
ガキさん可愛いですね。 なんか健気で(・∀・)イイ!!
紺野さんが左のひじをつく場面、最近のHPWを思い出しました。
中澤ネイサンにちょっと反抗した時の仕草です。
紺野さんって幸薄キャラ、おとぼけキャラ、秀才キャラとかどんな役柄でもこなせそうな感じで不思議です
何故なんでしょう?
ガキさん、受かると良いですね。 では、また
- 270 名前:作者 投稿日:2004/02/03(火) 00:00
- >268
ありがとー。
新垣さん頑張ってくれるでしょうか?
>やじろこんがにーさん
変幻自在なんでも似合うキャラ、というのは書きやすいような書きにくいような。
不思議な存在です、書き手にとっては。
- 271 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:01
- そして期末テスト。
三日間の期末テスト。
初日は、社会、数学、美術。
二日目に、英語、理科、音楽
最終日が、国語、家庭科、保険体育だった。
- 272 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:01
- テスト期間中は部活もない。
軽くは走っておくように言われてるから、ホントに軽いジョッグ位はしてるけど、なん
だか張り合いもない。
テスト勉強は、やっぱり図書室で里沙ちゃんと一緒にした。
だけど、一緒にいるってだけで、里沙ちゃんはあんまり勉強の質問はして来ない。
だから、一緒に勉強っていうよりも、同じ場所で別々に勉強してるって感じだった。
- 273 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:02
- 試験が終わる。
日常が戻ってくる、って言いたいところだけど、クラスは日常よりも大きな開放感で
満たされている。
二学期の期末テストさえ終わってしまえば、あとは冬休みを待つばかりだ。
だけど、里沙ちゃんに与えられた開放感は、たった一日だけのもの。
試験の結果が帰ってき始めると、いっぺんに現実が戻ってきた。
- 274 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:03
- 英語は53点、数学52点、この二つは、ほとんど平均点近い。
国語の49点は、問題簡単だったから順等なのかな。
理科の53点、社会の50点は、びっくりした。
まだまだ必要な点数には届いてないけど、中間テストと比べると倍以上の点数になってる。
「紺ちゃん、私、ちょっとは出来るようになってるのかなあ?」
合計点で言えば、中間は175点だったのに、今回は257点になってる。
クラスでも、平均点には届かないけれど、真ん中に割と近い順位になっていた。
- 275 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:05
- 「過去最高?」
「うん。断トツ。200点超えるのもめずらしかったもん」
これで、なんとか希望が沸いてきた。
里沙ちゃんが期末テストの点も入れて、最後の1月の卒業試験に必要な点数を計算する。
英語:21点、数学:37点、国語:37点、この辺までは多分大丈夫そう。
問題は、理科:54点、社会:63点 この二つだった。
「なんとかいけるかなあ?」
「問題は、やっぱり理科と社会だね」
「どうしたらいいの?」
「もう、覚えるしかないと思う」
理科も社会も、ただの暗記科目じゃなくて、もちろん理屈があるし、記述式ではそうい
うのを問われることもある。
それが出来ないと、80点とか90点とか、そういう点数は取れないのだけど、里沙ちゃん
の場合、今必要なのは、そこまでの点数じゃないわけで、やっぱり、暗記、っていうのが
大事になってきてしまう。
と、私は思うのだけど、どうなのかなあ?
- 276 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:06
- 「暗記かあ・・・」
「しょうがないよ」
「うーん、一二年生の時サボってたから今つらいんだろうけどさあ、でも、それにして
も、最後の卒業テスト、範囲無限大だよー」
そうだった。
三年生の最後の卒業テストは、今までの定期テストと違って、三年分の範囲から出題
される。
それを、丸々覚えようとすると大変なことになるわけで。
「後一ヵ月半、頑張るしかないよ」
「付属だから受験がなくていいって理由で中学受験したのに、これじゃあ高校受験と
一緒だよー」
両手を振り上げて、万歳の体勢で首をいやいやしている里沙ちゃんは、なんだか可愛
かった。
- 277 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:08
- 「でも、なんとかここまで来たのは、やっぱり紺ちゃんのおかげだね。今回のテストで
さあ、前よりは出来るようになったんだ、っていうのをなんか実感できた。ありがと、ホ
ントに」
「いいよ、お礼なんかしなくて、私も好きでやってるんだから」
わざわざ頭を下げる里沙ちゃん。
ちょっとてれくさい。
「それで、具体的にはどうしたらいいのでしょうか、紺野先生」
「そうだね、新垣君。まずはだね、目標を絞ろう。ばっちり基礎からやった数学は、
もう大丈夫ってことにする。あと、英語も点数に余裕があるから、大丈夫」
「不安だなあ」
「大丈夫だよ。数学は、高校範囲までもうやってるけど、最後の試験は中学分野しか
でないって言うし、英語も、範囲が広いってことは逆に、中一の簡単な部分も出るって
ことだから」
不安そうな里沙ちゃん。
表情の変化が本当に分かりやすい。
- 278 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:09
- 「あと、国語も、いいや。37点なら大丈夫」
「でも、古文とか漢文なんか難しいよ。あと漢字も」
「古文漢文は選択が出るからちょっとは出来るよ。あとは現代文の所で取れば大丈夫。
漢字は、そんなになさそうだし、今からやってもどうにもなんないから捨てよう」
漢字は私も苦手なので触れないでおきたい、なんて本音もあったりする。
「問題は、やっぱり理科と社会だよ。範囲が広いし、一年生の時にやったから簡単と
かもないしさ。もう、これを片っ端から覚えよう!」
「あーーーー、結局それなのか」
「がんばろ」
今度は、机に突っ伏す里沙ちゃん。
私は、さらさらの里沙ちゃんの髪をなでた。
- 279 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:10
- 「私も付き合うからさ。一問一答式の問題集選んできて上げるよ。あっ、それで、毎日
テストして、目標点数いかなかったら、その日は私の練習一緒にやるってどう?」
「そんな、無茶苦茶なー」
「うん、いいね。それがいい。そうしよー」
一緒に練習の言葉に反応して里沙ちゃんは顔を上げている。
ちょっと気分のよくなった私は、ちょっと体を左右に揺らしながら、そんな里沙ちゃんの
顔を見てみる。
- 280 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:10
- 「紺ちゃん、絶対楽しんでるでしょ、私に勉強教えるの」
「あたりまえじゃーん。何度も言ってるじゃん、里沙ちゃんに勉強教えるの楽しいって」
「なんか、モルモットになった気分。うーん、ふぐのモルモット・・・ いやだー」
里沙ちゃんは、そう言いながら私のほっぺをつまんだ。
「ふぐって言うな!」
「じゃあ、ぷく。ぷくぷく」
「ぷくぷく言うなー!」
ちょっと怒って頬を膨らませて、これじゃほんとにふぐだ、と思いなおして普通の顔をした。
- 281 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:11
- 「それで、紺ちゃんはどうだったのテスト?」
「まあ、それなりに」
「けちけち隠さずに教えてよー。五教科で何点? どうせ、貼りだされる順位なんでしょー」
「うーん、まあ、441点」
里沙ちゃんは、息を飲んで目を見開いた。
「やっぱり私はバカなんだ。紺ちゃんと違ってバカなんだ、どうせ・・・」
また机に突っ伏す里沙ちゃん。
いちいちオーバーアクションだなあ。
- 282 名前:第六話 投稿日:2004/02/03(火) 00:11
- 「頭のいい紺野先生、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんか、ちょっととげのある言い方が気に触ったけど、私は、里沙ちゃんに合わせて
お互いに頭を下げた。
一月後半、卒業試験が終わるまで、里沙ちゃんの戦いは続く。
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/04(水) 02:14
- クビノカワイチマイツナガッタ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━!!!!!
- 284 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/02/04(水) 09:37
- 新垣さんの「範囲無限大だよー」の言葉に妙にはまりました。
彼女の悲壮感っていうかなんていうか、学生らしい言葉ですね。 新垣、頑張れ!
紺野さんの441点は、学年トップにしてはちょっと低い気がするも、
この物語ではクラストップぐらいでしたかね? なんにしても優秀ですな。
亜依ちゃんとの騒動でちょっとあれでしたけど、なんだかほんわかしたいい話で好きです。
では
- 285 名前:作者 投稿日:2004/02/06(金) 23:55
- >283
新しいタイプのレスだ・・・(笑)
新垣さん、まだ生きてます。
>やじろこんがにーさん
点数はテストによっても学校によっても変りますからねえ。
どんな印象を持つかも人それぞれですが。
- 286 名前:第六話 投稿日:2004/02/06(金) 23:56
- 部活の方は、期末テストが終わってやっぱりのんびりモード。
外が寒いので、高飛びマットでごろごろ、みたいな平和な光景は見られなくなったけど、
その代わりに室内でのんびりストレッチをしている姿もある。
私も、来年になればロードレースに出たりとかはあるけど、すごく目標にしてる試合って
ことでもないので、なんとなくみんなと一緒にのんびりした練習になってしまっていた。
そんな日の練習後、私は平家先生に呼び出された。
- 287 名前:第六話 投稿日:2004/02/06(金) 23:57
- 「紺野に大事な知らせがある」
「はあ」
椅子に座ったまま、平家先生が言う。
私は、何と答えていいかわからず、はあ、とだけ答えてしまった。
「紺野、冬休み無しね」
「なんですか、突然。休み無しって」
「合宿に招待されたぞ」
「合宿?」
分けの分かっていない私に、平家先生は一通の封筒を差し出した。
- 288 名前:第六話 投稿日:2004/02/06(金) 23:58
- 「年明けにさ、都道府県対抗駅伝ってのがあるのな。それの、代表として呼ばれたから。
レース直前に当日入れて三泊四日の合宿やるってさ」
封筒の中には、県の陸連からの通達書らしき文章と一緒に、合宿所までの交通手段だと
か、日程だとか、選手の名簿だとかが入っていた。
「え? なんで? なんで私が呼ばれてるんですか?」
「おまえ、1500の持ちタイム県内で二番だろ。それに、この前の中学駅伝も一区で三番
入ったし、その辺の兼ね合いだって、電話では言ってたぞ。その、中学の三人は、この前
の駅伝の一区の一二三番だってさ」
私が、県の代表選手?
なんだか、頭痛くなってきた・・・。
- 289 名前:第六話 投稿日:2004/02/06(金) 23:59
- 「頑張って来いよ。中学からは三人呼ばれてるけど、中学生区間は二つしかないから、合宿
でレギュラー勝ち取るんだぞ」
「そんな、そんな無理ですよー」
「やる前から無理っていうやつがいるか。添上中の子はちょっと力が上としても、もう一人
は1500は勝ってるし、この前の駅伝だって五分だったんだから、やれるだろ」
「えー、無理。あーでも、出たいかも。えー、代表? えー?」
「落ち着け・・・」
学校の外の、こういう選抜チームみたいなのに呼ばれるのは初めてだった。
私は、平家先生に、これに向けた調整用に練習メニューを変えるような話しをして、職員室
を出た。
- 290 名前:第六話 投稿日:2004/02/06(金) 23:59
- 廊下で歩きながら、封筒を何度も見直してしまう。
意味もなく明かりに当てて中を透かしてみたり。
取り出せば中身は見れるのに。
えー、でも、県の代表?
私が?
代表かー。
- 291 名前:第六話 一通の招待状 終わり 投稿日:2004/02/07(土) 00:00
- 大丈夫なんだろうか?
だって、私だよ。
でも、走りたいなー。
テレビでもやるもんなー。
あー、でも、前の方走らないと映らないかも。
代表かー。
どうしよう・・・。
えへへ。
- 292 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/02/07(土) 16:34
- 作者さん お疲れ様です。
点数の件では失礼しました。なにぶん田舎育なもので・・・
高校時代に部活をしてましたので分かりますが
県の代表ってすごい事ですよね、甲子園に出るのと同じみたいな・・・
実際、うれしさが初めに来て、次に怖くなるんですよね。でも、やっぱり、うれしいみたいな
紺野さん、あまり強くない学校の部活から、県代表へとステージが上がって大変だけど
頑張ってもらいたいものです。
では
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/08(日) 06:12
- 代表かー。
どうしよう…。
えへへ。
コンノ━━━━━━ (*´Д`)━━━━━━ !!!
- 294 名前:作者 投稿日:2004/02/13(金) 23:26
- >やじろこんがにーさん
県の代表、そうそうなれるもんじゃないですからねえ。
さて、どうなることやら。
>293
レス━━━━━━ (*´Д`)━━━━━━ !!!
- 295 名前:作者 投稿日:2004/02/13(金) 23:35
- さて、この話し、今までちゃんと説明するのを忘れてましたが、シリーズものの一つです。
過去のシリーズで三つ、さらに同時平行で一つ進んでいます。
このへんで、ちゃんとその過去の話しを貼っておこうと思います。
初めての夏休み
http://mseek.xrea.jp/flower/1000386419.html
シリーズの始まり。 おばあちゃんちに行った加護が、その姫牧村で辻と出逢う。
みんなの冬休み
http://mseek.xrea.jp/red/1015079839.html
前スレ続きから 辻が加護家に冬休みに遊びに来た。
この話しで、初めて紺野と新垣が出て来ます(割とちょい役)
初めての林間学校
http://mseek.xrea.jp/wood/1033398621.html
シリーズ三本目 新垣語りで、加護紺野と一緒に林間学校へ行った話し
みんなの進路希望
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/gold/1063462913/
現在進行中 小川の語り 姫牧村の辻と高橋と小川の話し
何を今さら、ってかんじでごめんなさい・・・。
- 296 名前:作者 投稿日:2004/02/13(金) 23:37
- こうやって積み上げてみると、大分分量が有ります。
昔を知らなくても問題は無いので、まあ、暇な時にでも目を通してみてください。
- 297 名前:第七話 ハードル 投稿日:2004/02/13(金) 23:38
- 「順聖女子大付属三年の紺野あさ美です。よろしくお願いします」
選抜合宿の顔あわせ。
知らない人達ばかりだけど、みんな速そうだなあ、と思う。
中学生は私を入れて三人いる。
そして、中学生区間は3区と8区の二つ。
誰か一人は補欠に回される。
- 298 名前:第七話 投稿日:2004/02/13(金) 23:39
- 合宿初日は、全員そろっての軽い六十分間ジョッグから、二組に別れての練習。
中学生組三人は、五箇所ある4キロ区間の候補になっている高校生達七人と一緒に2000メー
トル三本というメニューだった。
軽いジョッグは、走りながらの話も弾む。
私達中学生三人はちょっと遠慮気味に一番後ろを走っていたけれど、大人のお姉さん達の
話を聞いているだけでも楽しい。
誰が誰やら全然分からない人達ばかりだったけど、チームの中心になるのは、柴田さんと
いう社会人になりたての人らしいことは分かった。
- 299 名前:第七話 投稿日:2004/02/13(金) 23:40
- その後の2000メートル三本は、私にとってはとてもきついものだった。
こんなレベルの高い人達の間で練習したことなんか一度もない。
それに、最近はちょっと練習不足気味。
平家先生に冬休み無し! とか言われたにもかかわらず、たっぷり休んでしまった。
うちは、古い家で、お正月とかそういうの大事にするからしかたないんだよ、と自分に言
い訳する。
でも、そんな理由をいくら自分の頭の中で愚痴愚痴言ってみても、練習がきついことには
何にもかわらないわけで。
一周八十秒を切るペースで飛ばす先輩達に全然ついていけない。
中学生組の中でも私はひときわ遅れて一本目をゴールした。
- 300 名前:第七話 投稿日:2004/02/13(金) 23:41
- 「どこか怪我でもしてるんですか?」
一本目と二本目の間は二十分。
ストレッチをしながら体力を取り戻す。
その時間に話かけてきたのは、中学生組でただ一人高校生についていった子だった。
「そんなんじゃないですけど・・・」
この子、県総体の1500で優勝した子だったかなあ? とおぼろげに思い出す。
会話はこれだけだった。
私は、今、あんまりたくさん話が出来るほど余裕はない。
結局二本目も三本目も、私はついていくことは出来ず、一番最後にゴールした。
- 301 名前:第七話 投稿日:2004/02/13(金) 23:43
- 練習が終わり宿へと向かう。
十二人くらいだと一部屋か二部屋の大部屋かな、と思っていたけれど、部屋割は二人部屋
かける六だった。
私は、社会人の柴田さんと同じ部屋になった。
「順聖女子大付属中三年の、あの、紺野あさ美です。よろしくお願いします」
「そんな硬くならなくていいよー。可愛いねえ。中学生だねえ。えーと、柴田あゆみです。
よろしく」
満面の笑みを浮かべている柴田さんは、とっても頼れる優しい先輩なような気がした。
- 302 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/02/14(土) 10:19
- とろんずキタ━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━ !!!!!
まるがりさん、よろしくね
思わぬ人の登場にドキドキしてます。
紺野さんはビリからの出発ですか?
またまたロックですねぇ。
頑張れ!こんこん
では
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/02/15(日) 22:01
- トロンズキター!!
- 304 名前:作者 投稿日:2004/02/17(火) 23:12
- >302-303
柴田さんにはしばらくつきあってもらいます。
- 305 名前:第七話 投稿日:2004/02/17(火) 23:16
- 軽いミーティングが終わって夕飯。
この世で一番楽しい時間。
みんなのおしゃべりを聞きながら、私は黙々とカレーライスを口に運ぶ。
時折サラダにもお箸を伸ばす。
とっても幸せ。
カレーの皿が空になると、デザートのかぼちゃプリンが運ばれてきた。
私が夢中でプリンをスプーンですくっていると、正面から話しかけられた。
- 306 名前:第七話 投稿日:2004/02/17(火) 23:17
- 「紺野さんって、すごい幸せそうにご飯食べますね?」
ああ、さっきの子だ。
中学生なのに高校生についていったすごい子。
この子は、田中さんだったっけか?
カレーライスもちょっと残ってるし、かぼちゃプリンを食べようともしていない。
もったいないなあ。
- 307 名前:第七話 投稿日:2004/02/17(火) 23:18
- 「うん。幸せだもん。かぼちゃプリン食べないんですか?」
確か二年生だったかなあ? でも一応丁寧語にしておこう。
かぼちゃプリン、食べないならくれないかなあ?
「体重とか気にしないんですか?」
「うーん、気にしなきゃいけないんだろうけどねえ。 つい」
つい・・・。
- 308 名前:第七話 投稿日:2004/02/17(火) 23:19
- 「田中さんだよね?」
「はい」
「二年生でしたっけ?」
「はい」
「すごいなあ。中二なのに、高校生についていけちゃうんだもんなあ」
いきなり丁寧語やめるの感じ悪いかなあ?
「すごくなんかないです。全然すごくない」
「私達立場ないじゃんねえ」
今まで黙っていた、中学生組のもう一人が口を挟む。
うんうん、と私もうなづく。
「私より速い人なんて、たくさんいるから。まだまだ」
田中さんはそう言ってカレーの皿とかぼちゃプリンを脇においやった。
かぼちゃプリン欲しいなあ。
頂戴って言ったらくれるかなあ?
- 309 名前:第七話 投稿日:2004/02/17(火) 23:19
- 「二人は高校どこ行くんですか?」
田中さんは話を続ける。
プリン頂戴って言える雰囲気じゃないなあ。
「先輩達も、どんな学校なのか教えて下さいよ。選ぶ参考にしたいから」
高校生組にも田中さんは話を振っている。
人見知りしないっていいなあ。
でも、今の私にとっては、一番答えにくいし、一番聞かれたくない質問。
私は、田中さんへの答えは、他の人達にまかせて、ゆっくりとかぼちゃプリンを味わう。
- 310 名前:第七話 投稿日:2004/02/17(火) 23:20
- 中学生組のもう一人の子は、地元の有名高に進むらしい。
そこからメンバーとして選ばれて来てる二人の先輩と、意気投合してる。
先輩達も、それぞれに自分の学校自慢をしていた。
田中さんくらいの選手になると、みんな自分のチームに来て欲しいと思って当然だ。
私は、うまくごまかせたなあ、なんて思いながら、かぼちゃプリンを食べ終えて、田中さん
のところのそれを狙っていた。
- 311 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/02/18(水) 00:54
- 進路の話より、田中のプリンを思うこんこんの描写が良く書けてるなあ〜
なんか、ハロモニやオソロのこんこんとだぶる。
案外実際もこのとおりだったりして(笑
キャスティングが増えて面白くなってきましたね、楽しみです。
では
- 312 名前:作者 投稿日:2004/02/21(土) 00:23
- >やじろこんがにーさん
食べ物、大事です。
大事なんです。
- 313 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:24
- 「そのプリン、食べないならもらっていい?」
みんないっせいに私の方を見る。
しまった、注目を浴びてしまった・・・。
「いいですけど、ホントよく食べますね紺野さん」
田中さんの言葉で、私はみんなに笑われた。
恥ずかしい・・・。
でも、恥ずかしさよりも、かぼちゃプリンが私には優先された。
- 314 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:24
- 「それで、紺野さんはどこの学校行くんですか?」
かぼちゃプリンに向かっていた視線が、田中さんの声に引きつけられて前を向けさせられる。
田中さんだけじゃなく、高校生組の注目まで浴びてしまっている。
どこかに逃げ道はないだろうか?
「うーん、ちょっと迷ってるんだまだ」
「えー、迷ってるって、いろんなとこから誘われてるんですか? どこですか?」
身を乗りだして来る田中さん。
周りの視線も集まっている。
ごまかせるような雰囲気じゃ全然なかった。
- 315 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:26
- 「うーん・・・。須磨学院」
「えー! すごーい」
みんなのリアクションがやたら大きい。
須磨学園は、地元の強豪高とは比較にならないくらいのレベルの学校。
さっきの練習で全然ついてもいけなかった私の口からそんな名前が出れば、驚かれるのも
無理はない。
そして私は、そのリアクションが大きければ大きいほど、気分が重くなっていく。
「え、それで迷ってるって、他にもすごいとから誘われたりしてるんですか? 筑紫とか?
立命館とか?」
田中さんの言葉に反応して、高校生の先輩達もあれこれ名前を挙げてくる。
私は、ただ黙って首を横に振るしか出来ない。
- 316 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:27
- 「じゃあ、どこなんですか?」
みんながまた私の方をじっと見る。
ちょっとした沈黙の後、私は、仕方なく小さな声で答えた。
「今の学校で、そのまま進学しようか迷ってます」
「なんで? なんでですか? もったいない。順聖って、別に学校としては強くもなんとも
ないじゃないですか?」
思いっきり失礼なことを言われてるけど、私は別にそこには引っ掛からなかった。
うちの学校が強くないのは事実だし、そこは迷いのポイントじゃない。
私が答えないでいると、田中さんは畳み掛けてきた。
- 317 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:27
- 「まさか、一人暮らしがいや、とかそんな理由じゃないですよね?」
「そうじゃないですけど」
「えー、じゃあ、何に迷ってるんですか? 全然わかんないです」
「いろいろあるんです、私だって」
「いろいろってなんですか?」
しつこいなあ、この子。
そう思いながらも、私は話しをスルーすることは出来なかった。
- 318 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:29
- 「今日見たでしょ。私、そんなに速い選手じゃない。だから、練習についていけるか分か
らないし、それに、せっかく出来た友達と離れるのいやだし」
「紺野さんて、頭悪いんですか?」
「な、何言い出すの?」
「だって、そうじゃないですか。こんなめったになかチャンス、そんなくだらない理由で
せっかくのチャンスを捨てるなんて、頭悪いとしか思えなか」
「ほとんど話したこともない田中さんに、そこまで言われたくない」
私は、ちょっと頭にきていた。
両手でこぶしを作ってテーブルを叩くと、かぼちゃプリンのスプーンが皿から落ちる音が
した。
- 319 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:29
- 「なんよ。頭悪いから、頭悪い言うただけけん。いつ会ったとか、関係なか。何度でも
言ってやるとよ。せっかくのチャンスがあるとい、そぎゃん、不安とか、友達と離れたく
なか、なんちゅう理由で迷ってる人は、迷ってる紺野さんは、あんぼすたい!」
「田中さんに何が分かるのよ! 私の気持ちなんか分かる分けないでしょ!」
「そんなことなか!」
「あ、もう、うるさい! 私が決めるんだから余計なこと言わないで!」
そう言って、私はテーブルにおいてあったコップの水を田中さんに向かって掛けた。
- 320 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:30
- 「何すると!」
「ちょっと、二人とも何してるの!」
田中さんも、手元のコップの水を私に掛けてきた。
水の量が田中さんのが多くて、コントロールもよかったから、私の顔と髪の毛はずぶぬれ。
そのまま、つかみかかっていこうとするところを、私も田中さんも、高校生の先輩達に取
り押さえられた。
私は、同室の柴田さんに連れられて部屋まで戻った。
- 321 名前:第七話 投稿日:2004/02/21(土) 00:32
- 「紺野ちゃんは見かけによらず気が強いなあ。あの怖そうなれいなちゃんに先に水掛けた
もんねえ。ドクロTシャツで練習する子なんか初めて見たもん。そんな子相手に引かなかった
もんねえ。なんかすごいや」
黙ったまま私は、濡れた服を着替える。
柴田さんは、それ以上私を責めることも叱ることもなく、部屋を出ていった。
私は、それからすぐにお風呂に入り、そしてふて寝した。
柴田さんが戻ってきて、「ちゃんと仲直りするんだよ」って言いながら布団を掛けなおして
くれたのは、眠った振りしながら聞いていたけれど、だんだんと本当に意識が薄れていった。
明日も練習あるんだな。
あの子もいる。
どうしよう・・・。
- 322 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/02/21(土) 00:58
- おもしろかあ、紺野と田中の掛け合い
ハロモニ劇場で是非やらんとか(笑
なんか小説書くの、上手になってきてません?
進路指導も見てますが、どうしても流し読みになってしまう。
悲しい紺ヲタの習性でしょうか(笑
頑張ってください。 では。
- 323 名前:作者 投稿日:2004/03/06(土) 23:42
- >322
ありがとう。
がんばります。
- 324 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:43
- 翌日の練習、午前は全員そろっての90分間走。
午後は、希望区間に別れての試走。
中学生組三人は、三区と八区の両方を三人で走った。
私と田中さんは、ずっと口をきくことはなく、間に入ったもう一人の子は居心地悪そうに
していた。
- 325 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:43
- それから宿舎に戻ってミーティングをしたり、昨日とはなんとなく席順を変えられて夕食
を食べたりしたけれど、田中さんと口をきくことはなかった。
別に謝ろうとも思わないし、謝って欲しくもないし、仲良くしようという気にもならないし。
ただ、ちょっとだけ、田中さんの言う通りかもしれないな、という気持ちは、一日考えて
浮かんできてはいた。
- 326 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:44
- お風呂から上がって部屋に戻ると、柴田さんがストレッチをしていた。
「お風呂気持ちよかった?」
「はい」
田中さんに謝る気はしないけど、柴田さん達にまで迷惑掛けたのはいけなかったかなあ、
と思い出す。
「あの、昨日すいませんでした。迷惑掛けて」
「れいなちゃんには謝ったの?」
「それは、あのー・・・」
「そっかあ。謝りづらいか」
「だって、私が悪いわけじゃないし・・・」
私は、柴田さんの横を通り抜けて自分のベッドへと向かう。
柴田さんは、ふとももを伸ばすストレッチをしたままこっちへと体を向けた。
足が綺麗だなあ、とか全然関係ないことを思った。
- 327 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:45
- 「れいなちゃんさあ、昨日切れた時方言が出てたでしょ」
「はい」
私も頭に血が上っていたから細かいことまで覚えてないけれど、なんか変った語尾に
突然なったのはなんとなく覚えている。
「あの子ね、出身は福岡らしいよ。それで中学に入る時に、地元の公立高じゃなくて、
陸上の強そうなとこ探したんだって。でも、中学からさあ、スポーツ推薦とってくれる
とこってあんまり無いじゃない。それで、結局地元で見つからなくて、あっちこっち探し
たあげく、拾ってくれたのが今の学校なんだって」
そうなんだ・・・。
ちょっとびっくりしたけれど、私は気のない振りをして着替えをカバンにしまっていく。
小学生の頃からそんな風に思ってたなんてすごいな、とは思った。
- 328 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:46
- 「うらやましかったんだと思うよ、紺野ちゃんのこと。それに、小学六年生がさあ、地元
の福岡を離れて、奈良まで来たんだよ。きっと、れいなちゃんだって悩んだんじゃないかな?
友達のこととか、知らない土地に行くこととか。だから、一番紺野ちゃんの気持ちが分かる
のはれいなちゃんかもしれないよ」
あの子にも、私にとっての亜依ちゃんや里沙ちゃんのような存在がいたのだろうか?
私も、亜依ちゃんや里沙ちゃんと離れても、一人で頑張っていけるのだろうか?
柴田さんに答えを返すこともなく、私は考える。
気づけば、カバンへ物をしまう手は止まっていた。
- 329 名前:第七話 投稿日:2004/03/06(土) 23:47
- 「仲直りしなよ。せっかくこうやって集まったのに、けんかして試合してはいさようなら、
じゃもったいないしさ」
柴田さんの言ってることは分かるけど、でも、なんか仲直りは出来ないような気がした。
というか、仲直りの前に、最初から仲がいいわけじゃないし・・・。
「それじゃ私もお風呂行ってこよーかなー」
私が答えないでいると柴田さんは、そう言って着替えやシャンプーセットなんかを抱えて
出て行った。
- 330 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/03/07(日) 00:42
- 乙です。
>間が開いて・・・
いえいえゆっくり書いてください。
”仲直りの前に、最初から仲がいいわけじゃないし”
この言葉が今日のヒット! 可憐さの中の反骨?
なぜか初期紺を思い出してしまいました。
またーり待ってます。 では
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/07(日) 03:19
- うーん。いいですね!紺野。柴田のとんちんかんな説得にわらってしまいました。田中が一方的に悪いケースだと思うので、紺野にはこのまま突き進んでもらいたいてす!更新お待ちしております
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/08(月) 14:26
- 更新乙です
さて、出会いとしては最悪だった二人はこの後どうなるんでしょうねぇ・・・
マイペースで頑張ってください
- 333 名前:はれ 投稿日:2004/03/10(水) 21:26
- 紺野さんと田中さんの喧嘩、びっくりしました。中学生の多感な時期で、お互い
ピリピリしているからでしょう。私的には、もう1人の中学生メンバーがキーパ
ーソンぽく感じます。後、高校生メンバーって誰なのでしょうか??
改めて作者さんの作品読み返しました。1つ1つの作品が歯切れ良くて読みやすか
ったです。これからも頑張ってください!!
- 334 名前:作者 投稿日:2004/03/12(金) 00:00
- >やじろこんがにーさん
じゃあ、ゆっくりと(笑)
>331
柴田さん、ある意味必死なんです。
>332
このさき、どうなるんでしょうか・・・。
>はれさん
もう一人の中学生、そして高校生達。だれなんでしょうね?(笑)
今までのはなしで、人が登場しすぎて、もう(略
- 335 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:01
- 次の日、合宿最終日兼大会前日。
そして、今日、試合に出るメンバーが決まる。
1500の持ちタイムで県内の上位だから、という理由で呼ばれた私だけど、ここ二日の練習
を見ていれば、たぶん選手に選ぶ人はいないだろうなと思う。
だけど、急に今になって、負けたくない、とか、試合に出たいという気持ちが強くなって
きた。
練習不足なのは分かってる。
もし、練習をちゃんと積んでいても、力は足りてないような気もする。
それでも、なんか、田中れいなに負けたくないと、そう、強く思った。
午後の三千メートルタイムトライアル。
そこで一本勝負する。
- 336 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:02
- 「はい、それじゃ、中高生チームは三千を一本ね。試合前の調整だから、ぎりぎりまで
全力出さないで九割とか九割五分くらいの力でいいから」
代表チームのコーチの人はこう言うけど、私は、全然全力出すつもりだった。
タイムトライアルが始まる。
中学生三人と高校生六人が横一線にスタート位置に並ぶ。
私は、隣に立つ田中さんの方をチラッと見ると、田中さんもこっちを向いて、視線がぶつかった。
睨むような目をちょっとだけしてから、私の方から視線を外した。
絶対負けない、とか思った。
- 337 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:02
- よーいはい、とコーチが手を叩いてスタート。
先頭を高校生が引っ張る中、田中さんも中段に位置する。
私は、その田中さんの真後ろについた。
最初の二百メートルを三十六秒で通過すると、そのあとはペースが落ち着いて一周八十秒
ペースになる。
千メートルは三分十八秒で通過。
結構きつい。
でも、誰も脱落することなく走っている。
- 338 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:03
- 千六百メートル通過。
五分二十秒。
そろそろきつくなってきた。
中学生組から一人脱落。
前の方はまだ余裕があるように見える。
田中さんはと見ると、まだ余裕の表情をしていた。
- 339 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:03
- 前のペースが上がる。
高校生はやっぱり違うなと思う。
私にとってこれ以上のペースアップは普通にはありえなかったけど、田中さんがついて行
く限りついていこうと思った。
この一周七十七秒。
集団が縦長になった。
高校生からも一人二人と脱落して行く。
田中さんは前から三番目についている。
私も、もう限界だったけど、意地だけでその後ろについた。
- 340 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:03
- 残り二周。
ペースはさらに上がったように感じる。
限界だった。
意地もプライドも負けたくないという気持ちも、苦しさには勝てなかった。
私から、田中さんはどんどん遠ざかっていく。
- 341 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:04
- ぎりぎり限界まで前についていたから、そこから離れるともうペースも何もなかった。
ただ、ばらばらになりそうな体を引きずって残りの距離を進んで行くことしか出来ない。
ずるずるとまわりに抜かれ、結局一番後ろになってラスト一周。
「紺野ちゃんがんばれー!」
聞こえてくるのは柴田さんの声だろうか?
もう、気力も何もなかった。
疲労しきった体をなんとか最後までたどり着かせた。
- 342 名前:第七話 投稿日:2004/03/12(金) 00:04
- 私は、そのままトラックの上に横になる。
体を動かしたくなかった。
ばらばらになりそうな体を横たえたまま仰向けになって空を見る。
広い競技場なのに、自分の呼吸のおとが聞こえて、一人の世界のように感じる。
目を瞑った。
まけたー。
なんでもいいから叫び出したいような気持ちになる。
それは押さえて、ちくしょー、と小さくつぶやいた。
私は体を起こして、座ったままトラックのホームストレートを見つめる。
もっと速くなりたい。
ただ、そう、思った。
その日の夜発表された明日のチーム編成に、私の名前はなかった。
- 343 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/03/12(金) 00:28
- 人知れず、ずっと読んでました(^^;
卒業までのお話だそうですが、進学してからのお話も
読みたいなぁなどと勝手な期待を寄せてます(^^;
- 344 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/03/13(土) 04:32
- >その日の夜発表された明日のチーム編成に、私の名前はなかった。
(ノД`)
お疲れです。
紺野さんはどうなるのでしょう。心配でなりません。
なんとか頑張ってもらいたいものです。
それにしても、陸上競技の場面描写がリアルで結構迫力を感じます。
是非最後まで読みたいのでよろしく御願いします。
では
- 345 名前:作者 投稿日:2004/03/16(火) 22:25
- >どくしゃZさん
進学してから・・・。
あはははは、と笑ってごまかしておきます。
>やじろこんがにーさん
紺野さんですか。
とりあえず、死んだりする話しじゃないので(笑)、まあ、きっとだいじょうぶですよ。
- 346 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:27
- 「残念だったね」
部屋に戻ると柴田さんが声を掛けてくれた。
「しょうがないですよ。力ないんですから」
私は、そう言って自分のベッドに向かう。
そのまま倒れこんで、ぱふっと枕に顔をうづめる。
やわらかかった。
- 347 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:28
- 「悔しい?」
「それはまあ」
「じゃあ、須磨学院行きなよ」
私は体を起こす。
膝をぴったりとあわせて、柴田さんの方をむいた。
「大きな決断だと思うよ。中三でさあ、地元を離れて高校を選ぶっていうのは。友達とも
離れなきゃならない。だけど、速くなりたいなら間違いなくいい学校だと思う。紺野ちゃん
ならやっていけると思うよ」
両足の裏をくっつけるストレッチをしながら、私を見上げる形で話す柴田さんは、すごく
大人に見えた。
- 348 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:28
- 「柴田さんは、よく知ってるんですか? 須磨学院のこと」
「うん。だって、私卒業生だもん」
「ホントですか?」
「そだよ。いい学校だよー。練習はきついけどみんな仲いいし。そうそう、女子校で中学
三年間を過ごした紺野ちゃんに朗報です。うちの学校、二年前から共学になりました! 男
の子との出会いがない! と悩んでる紺野ちゃんにもチャンスが」
「そんなこと悩んで無いです!」
「あー。恋とかしたことないんでしょー。彼氏がいる友達がうらやましかったりするんで
しょー」
「そんなんじゃないですって」
「かわいいなあ。むきになっちゃって」
・・・・・・。
私は、柴田さんから視線を外してベッドに横になる。
- 349 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:29
- 「まあ、男の子のことはおいとくとして、一度練習でも見にきなよ。一人じゃ行きにく
いっていうなら、私がつき会って上げるからさあ一日くらい」
柴田さんみたいな先輩と練習するなら、やっていけるかもしれないなあ、という気はする。
速くなりたい。
この気持ちを満たすには、須磨学院に行くのが正解なんだろうなと思う。
だけど、そうすると、亜依ちゃんも里沙ちゃんも一緒にはいられない。
- 350 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:30
- 「私、そんなに必死に勧誘されるほどの選手じゃないですよ?」
「いいんだよそんなのは。別に走ってお金もらうわけじゃない、ただの高校生なんだから、
ちゃんと頑張ればそれでいいんだよ。それに、馬鹿にしないでって怒られるかもしれないけど
、紺野ちゃんの学校さ、ホントに専門の先生に教わってるわけじゃないんでしょ?」
「先生は・・・、よく分からないです」
「それに、ライバルみたいな存在もいない中で、それなりのタイムで走ってるんだからさ、
自信持っていいと思うよもう少し」
自信かあ。
どうなんだろう? と思う。
- 351 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:31
- 「一度、見に行っていいですか?」
「うん。おいでおいで」
「よろしくお願いします」
どうするかはまだ分からない。
だけど、見てみたいと思った。
もしかしたら、未来の自分の居場所になるかもしれないところを。
「よし、焼肉ゲット」
「えっ? なんですか?」
「何でもない」
「なんですか? 焼肉ってなんですか? なんですか?」
私は立ち上がって、柴田さんに迫る。
- 352 名前:第七話 投稿日:2004/03/16(火) 22:31
- 「あっ、あのね。紺野ちゃんを学校見学に連れてきたら、和田先生が焼肉おごってくれるって」
「それで、私のこと熱心に勧誘したんですか?」
「いや、そんな、そのために同室にしてもらったとか、そんなんじゃないよ」
別に腹は立たないけど、なんだかなあ、とは思った。
「じゃあ、焼肉私にもおごって下さい。そしたら行きます」
「わかった、わかったから。ねっ、ゆるして紺野ちゃん」
そんなに怖い顔してないつもりだけど、と考えて思いあたった。
田中さんに水掛けたりしたんだった私・・・。
まあ、何はともあれ、駅伝のレギュラーは取れなかったけれど、焼肉をゲット出来たので、
それでよしとすることにした。
- 353 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/03/17(水) 09:19
- おつかれさまです。
「焼肉ゲットで良しかい」と突っ込むところでしょうか?
成績優秀なのにこういうボケがあるところが紺野さんの面白いところですよね。
柴田さんもとんだ動機でトロンズ満開というところでしょうか?
加護さんと里沙ちゃんも気になりますが、面白いです。
また楽しみにしています。
では
- 354 名前:作者 投稿日:2004/03/21(日) 00:16
- >やじろこんがにーさん
紺野さん、ほとんど何でもありなキャラですからねー。
しかし、スレッド整理で緑板もずいぶん減ったものだ・・・。
新作スレで埋まるのを期待しようかな・・・。
- 355 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:18
- 試合当日。
メンバーに入らなかった私は、アンカーになる九区を走る柴田さんの付き添いになった。
付き添いの仕事は単なる荷物番のつもりで制服で行こうとしたら、柴田さんに「アップも
一緒にするの!」 と突っ込まれて、私もジャージの上にウォーマーを羽織っている。
柴田さんが選手で、私の方が付き添いなのに、なぜか私の方がいろいろと世話を焼かれて
いるような気がする。
一区のスタートを西京極の陸上競技場で見送ってから、私達は柴田さんのスタートポイン
トになる第八中継所に向かった。
- 356 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:18
- 「すいません、なんか役に立たない付き添いで」
「いいよ。私が指名したんだもん紺野ちゃんを」
「そうなんですか?」
「うん」
屈託なく笑う柴田さんは、レース前という雰囲気がまるでしない。
私達が中継所についた頃、一区から二区への中継が行なわれていた。
奈良県は、先頭と35秒差の13位で通過。
- 357 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:19
- 「軽く二十分くらい走ろっか」
「はい」
私は柴田さんに従って、横を走ってるだけ。
こんなんでいいのかな? なんて不安になったりする。
柴田さんは、相変わらず緊張感がなくて、同じ区間の知り合いらしき人と話をしたりして
いる。
それはそれでいいんだけど、私のことを、来年須磨学院に入ると紹介するのは、いちいち
まだ決まってないです、と否定しなきゃいけなくてちょっとうっとうしかったりした。
「柴田さんって緊張しないタイプなんですか?」
座って落ちついてストレッチをしている時に聞いてみた。
- 358 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:21
- 「そうでもないんだけどねー。正直言えば、あんまり力入れてる大会じゃないし、って
言ったら怒られちゃうか」
舌を出して笑う柴田さんは、一時間後にはレースを迎えるチームのエースにはとても見え
ない。
黙って聞いていると、柴田さんはちょっと真面目な顔になって続けた。
「今日高校生五人走るけどさあ、あの子達にとって、駅伝で目標にしてたのは年末の高校
駅伝だし、私達社会人にとっても、やっぱり年末の実業団駅伝が目標でさあ、ここに来てる
人も、失礼だけどホントの一線級はいないんだよね」
私は、黙ってうなづく。
せっかく代表チームに選ばれたけど、中身的にはそういうものだったのか、というのを
知ってちょっとがっかりしたりもしている。
- 359 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:21
- 「直前合宿はうちのチームは一応したけど、県によっては前日の宿で初めて顔あわせなん
てとこもあるし。緊張感は正直ないなあ。それに、目的はほとんど達してるしもう」
「それって、まさか、私のことですか?」
「うん。私ね、こういう県選抜で集まるのってさあ、紺野ちゃんみたいな中学生から、私
みたいなおばさんまで、仲良くしなさい、みたいなことだと思ってるんだよね」
「柴田さんはおばさんじゃないです」
「ははは、ありがと。で、私は、紺野ちゃん達が水掛けあったりけんかしたりしながらも
頑張ってる姿を見て、自分も頑張ろうって思って、帰る。紺野ちゃん達は、私とか、上の選
手を見て、どう思ったかはわからないけど、私達側の役目としては、あんな風になりたい!
って思われるように見せて、中学生達は学校に戻って頑張ると、そういうもんだと思って
るからさ」
- 360 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:22
- 私は、柴田さんみたいに、とはっきりは思ったわけじゃないけれど、確かに、頑張ろうと
いう気持ちは、ここに来て強くなったような気がする。
まだ迷いはあるけれど、速くなりたいっていうことについては、確かに自分の中にはっき
りとした気持ちであるのが分かるようになった。
「ま、走るからには頑張るからさ」
親指を立ててグーというポーズを見せる柴田さんは、憧れの先輩と呼ぶのにふさわしい人
に見えた。
柴田さんにいちいち指示を出されながらも、私は付き添いとしての仕事をする。
前の区間やその前の区間の人達と連絡を取り合い、状況を確認する。
汗をかいてくればタオルを渡し、喉が渇いたと言えば飲み物を渡し、体が温まってくれば
脱いだジャージなんかを片付ける。
- 361 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:24
- 「そろそろだから、前の区間と連絡とってみて」
「はい」
八区、中学生区間を走るのは、田中さん。
八区の付き添いの人に電話をすると、トップと六分五十五秒差の三十七位で八区に入った
とのことだった。
七区を走った高校生の人も電話に出て、柴田さんに謝っておいてください、とのことだった。
「さーて、れいなちゃん何人抜いてくるかな?」
柴田さんはそう言いながら、中継所の方へと歩いていった。
中継所では、早くも先頭からコールされている。
エース区間十キロのアンカー。
テレビカメラや取材の人も多い。
そんな中で出番を待つ。
- 362 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:25
- 「二十六番、二十八番」
拡声機から、八区のランナーの到着が告げられる。
二十六番を背負った京都の選手、二十八番を背負った兵庫の選手が、リレーゾーンに並ぶ。
「十二番、四十二番・・・」
次々と選手が呼ばれ、たすきがリレーされて行く。
駆け込んで来るのは中学生達。
私と同じ中学生達。
走りたかったな、とまた思う。
「二十九番」
先頭が通過してかなりの時間が過ぎてから、ようやく私達のチームも呼ばれた。
柴田さんがウォーマーを脱いで私に預ける。
「れいなちゃんと仲直りするんだよ」
「え?」
それだけ言うと、柴田さんはリレーゾーンに飛び出して行った。
そうだ、ここに駆け込んで来るのは、田中さんで、出迎えるのが私なんだ。
- 363 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:25
- 「れいなちゃんラスト!」
頭の上で手を叩き、柴田さんは田中さんを呼ぶ。
田中さんは、二人と並んで残り五十まできていた。
そこから、ラストスパート。
追いすがる二人を振りきって、タスキを柴田さんへ。
- 364 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:26
- 「柴田さんファイトです!」
私は、そう叫んで柴田さんを見送ると、アスファルトに膝をついている田中さんにウォーマー
をかけて、抱え起こしてあげた。
肩を抱くような形で、田中さんを荷物のある所まで連れて行く。
田中さんはまだ息が荒い。
シートの上に座らせて、タオルを手渡すと、荒い呼吸をしながら田中さんは言った。
「ありがと」
それだけいって、タオルを顔に掛けてシートに仰向けに寝転がった。
その横で、手持ち無沙汰な私は、時計を眺める。
トップとの差を計ったそれは、6:18と示されていた。
二分ほど寝転がっていた田中さんは、起き上がりタオルを顔から外す。
この時初めて隣にいるのが私だと気づいたようだった。
「ダウンに付き合ってくれますか?」
ちょっと戸惑った顔を見せてから、田中さんは私にそういった。
私も、ちょっと戸惑ってから、はいと答えた。
- 365 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:27
- 黙々とランニングする。
水掛けたことは謝らなきゃいけないんだろうな、と思ったけれど、それが口からは出て来ない。
しばらくして、ランニングをやめて荷物がおいてあるシートに戻る。
ストレッチを始めて、先に口を開いたのは田中さんだった。
「あの、この前ごめんなさい。言いすぎました」
田中さんに似合わない小さな声だった。
私は、田中さんの方を見ることなく答えた。
「私も、水掛けたりしてごめんなさい」
そのまま沈黙。
ちょっと気まずいけれど、謝れてよかったような気がした。
- 366 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:28
- 「言いすぎていけなかったと思うけど、でも、やっぱり紺野さんは、須磨学院に行った方
がいいと思う」
「なんで?」
「私に水掛けるくらい気の強い人ならどこでもやっていけると思うし、やりたいことやめ
て側にいなきゃ友達でいられないようなら、そんなの友達なんかじゃないし、速くなりそう
な人が弱いチームにいるのはもったいないと思うし」
そのまままた沈黙。
正解は、そういうことなんだろうか。
私が考え込んでいると、大人の人が声を掛けてきた。
- 367 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:29
- 「奈良県チームの田中さんですか?」
「はい」
「NHKのものですけど、ちょっとインタビューがあるんで来て下さい」
田中さんと私は顔を見合す。
そのNHKの人について行くと、八区を走ったらしい中学生の人がもう一人いた。
田中さんはその横に並んで、インタビューが始まった。
- 368 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:30
- 先に、もう一人の子の方へ話が振られている。
その子が区間賞の子らしい。
そして、そのついでのように田中さんへ。
田中さんは、八区で八人抜きをしてごぼう抜きインタビューとやらを受けているようだ。
もっとうれしそうにしてもいいのに、と思うほど田中さんはつまらなそうな表情をしている。
「何人抜いてもあんまり関係無いです。目標の十分は切れなかったし、順位自体が元々後
ろだったから抜けただけだし」
そんなこと言ったら、前の区間の人とか、抜かれた人に失礼だよー、と思うけど、なんと
なく田中さんらしいな、と思って聞いていた。
田中さんは、八人抜きはしたけれど、区間順位で言えば四番で、タイムが十分三秒だった
ことが気にいらないみたいだった。
目標が高くてすごいなあ、と思う。
- 369 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:31
- インタビューを終えて戻ってきた田中さんは、初めて見るような笑顔で言った。
「テレビだ。みんな見てるかな? 福岡のお母さん見てるかな? とか思ったら、緊張し
ちゃいました」
笑うとかわいいんだ、とか思った。
荷物を片付けて競技場へ戻るバスへ乗り込む。
田中さんと二人並んで座る。
テレビに映ってテンションの高い田中さんを見ていると、自分も走りたかったという気持
ちがどんどん沸いて来る。
ちょっと寂しくなって窓の外を眺めていると、田中さんが肩をぶつけてきた。
- 370 名前:第七話 投稿日:2004/03/21(日) 00:31
- 「紺野さん、紺野さん。携帯教えて下さいよ。せっかくじゃないですか」
「あ、うん。いいよ」
携帯を取りだして番号を交換する。
話してみると、頑張りやで、素直で、なんかいい子なんだな、とは思った。
試合に出れないで悔しかったけれど、田中さんとか柴田さんとかと会えて、来てよかったなって思う。
レースは、アンカーの柴田さんが三人抜いたけれど、結局四十七チーム中二十六位に終わった。
- 371 名前:第七話 ハードル 終わり 投稿日:2004/03/21(日) 00:32
- 試合には出られなかったけれど、レベルの高い人達と練習するってのがどういうことなの
かはちょっと分かった。
走れなかったのはしかたない。
問題はこれから。
速くなりたい。
どうしたらいんだろう。
どうしよう・・・。
- 372 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/03/21(日) 05:00
- 紺野さんの気持ちがちょっと変わってきたような…
読んでいると、どこか爽快な気分になります。
あとさりげなく柴田や村田を出してくれる作者さんが好きです。
- 373 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/03/21(日) 16:25
- 作者さんおつかれ様です。今回は長かったですね(^-^)
駅伝の場面描写が相変わらずリアルで迫力ありますね。
選手の心理描写も細かくて引き込まれます。
読んでいて「一番いい目標は欲しいと思うこと」という、やっと理解できる年頃になった自分を感じました。
田中さんのキャラをよく掴んでるなと思います、常に周りの目から自分を見つめる・・・みたいな。
この先どんな展開になっていくのか?? わくわくします(^-^)
では
- 374 名前:作者 投稿日:2004/03/28(日) 23:50
- >372
爽快って言ってもらえるのはとてもうれしいです。
ありがとうございます。
>やじろこんがにーさん
長い時と短い時が・・・。
その時の都合と、切りの良さとでいろいろになります。
今回は、短い・・・。 さわりだけです。
- 375 名前:第八話 ひとつの未来 投稿日:2004/03/28(日) 23:50
- 冬休みが終わって三学期が始まった。
後三ヶ月で中学を卒業する。
高校は・・・。
いいかげん、いつまでも先延ばしにしてないで決めないといけない。
- 376 名前:第八話 投稿日:2004/03/28(日) 23:51
- 始業式が終わって、私は平家先生に呼び出された。
理由は、行く前から分かっていた。
「決まったか?」
何がですか? とはさすがに聞けなかった。
「いえ、まだ」
「合宿で何かなかったのかー?」
「走れなかったし」
「ちょっと期待してテレビ見てたんだけどな。まあ、しょうがないだろそれは。それで、
走れなくてどうだったんだよ」
どうだったんだよって言われても・・・。
そりゃ悔しかったけど・・・。
- 377 名前:第八話 投稿日:2004/03/28(日) 23:52
- 「須磨学院に行くとすると、願書とか面接とかあるから、いつまでも先延ばしには出来無いんだぞ」
「分かってるんですけど・・・」
「再来週の月曜日までに決めろ。それがタイムリミット」
「それって、卒業テストの日じゃないですかー。そんな、試験の日までに決めろなんて」
「紺野にとっちゃテストより大事だろ。っていうか、それを決めるのが紺野の卒業試験だな」
「そんなー」
私が抗議の声を上げると、平家先生は私の頭をぽんぽんと叩いて言った。
「とりあえず、向こうの学校見てこい。土曜日に行きますって向こうの先生には言っておくから」
「はぁ・・・」
私は、結局先生の言うなりになっていた。
- 378 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/03/29(月) 03:59
- 作者さん、おつかれです。
短い時も長い時も楽しみです(^^)
そういえばTVかなにかでで「紺野はレストランでなかなか注文が決められない」
とかいう話があったのを思い出しました
須磨学院に行って欲しいという気持ちと、亜依ちゃんや里沙ちゃんとも同じ学校に行って欲しい気持ちもするし
人生って・・・難しいですね
また、またーりお待ちしています。 では
- 379 名前:作者 投稿日:2004/03/30(火) 22:43
- >やじろこんがにーさん
どっちにするんでしょうねー、紺野さん。
って、私は分かってるんですけど(笑)
- 380 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:44
- 土曜日、私は電車に二時間以上揺られて須磨学院に向かった。
最寄の駅に私を迎えに来てくれたのは、付き合ってくれると約束していた柴田さんだった。
「すいません、わざわざ付き合ってもらって」
「いいっていいって。そのかわり、しごいちゃおっかなー」
「いじめないでくださいよー」
「うそうそ。でも、軽く練習はしようね」
「はい」
「それじゃ行きますか!」
学校までは結構歩く。
坂道を登って十五分。
ここに入ったら、毎日この光景を三年間見ることになるのかな?
そんなことを思いながら、きょろきょろと見回してしまう。
柴田さんは、そこかしこのお店の思い出話を話してくれる。
楽しかったんだな、っていうのが伝わってきた。
- 381 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:45
- 学校が見えてくる。
ホントに坂の上って感じの所に、須磨学院はあった。
「このね、最後の坂がつらいんだよね。ロードでるとさー、最後絶対勝負じゃない。私、
坂苦手でねー、一年生の時とかホントやだったもん」
坂は私も苦手だ。
筋力無いからなあ・・・。
この街は坂が多いらしい。
ちょっと心配になってくる。
「つきました。ここが、須磨学院でございます」
- 382 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:46
- 柴田さんが、執事さんが部屋へ導くみたいに校門の前に立ち、右手で校舎へと続く道を示
した。
私も立ち止まり、学校を見つめる。
ここに、三年間通うことになるかもしれない。
三年の間暮らすかもしれない場所。
「行こうか」
そう言われても、私は固まったまま。
なんだか、はっきりと言葉にならない思いが、頭の中をめぐっていた。
「紺ちゃん。そんなに緊張しなくていいからさ、いこ。最初に和田先生に挨拶して、それ
から、校舎の中を歩こう」
「はい」
私は、須磨学院の中に、足を踏み入れた。
- 383 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:47
- 最初に行ったのは職員室。
それまでの廊下の雰囲気も、うちの学校とはちょっと違う。
なんかドキドキ。
自分とは違う制服の人と廊下ですれ違う。
私は、慌てて頭を下げると、その人も軽く頭を下げてくれた。
職員室で和田先生へ挨拶をして、それからまた校舎を回る。
なんだか分からないけれど、やっぱりちょっとだけ大人の雰囲気があるような気がする。
パソコンがいっぱい並んだマルチメディア室、うちの学校の倍くらいは本がありそうな図書室。
きれいな調理室に、吹奏楽部が練習している音楽室。
高校、って感じだった。
- 384 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:48
- なんか、いろんなものを見せられてぼんやりとしながら、共同更衣室を借りて着替えてグ
ラウンドへ。
一人だけ違うウインドブレーカーなのが、なんだかすごく落ち着かない。
「柴田せんぱーい!」
一年生だか二年生だかが、私達の姿を見つけてかけてくる。
私は、並んでいた柴田さんから、一歩後ろに下がった。
「先輩久しぶりですねー」
「今日は、この子の付き添い」
私の方を見て柴田さんは言う。
「中三? ですか?」
「そう。学校見学に」
「ずいぶん遅い時期ですね」
「紺野ちゃんとろいからねー」
私は、返す言葉もなくて縮こまっているしかできなかった。
- 385 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:49
- 私達三人は、みんなが集まっているところまで歩いて行く。
二十人近くいるのかな。
座ってストレッチをしていた部員達は、柴田さんが近寄るとみんな立ち上がった。
「お久しぶりです」
「みんな元気そうだね」
「はい」
「年末はおしかったねー」
「すいません」
去年の年末の高校駅伝で、須磨学院はスタートに出遅れて、後半追い上げたものの二位に
終わっていた。
- 386 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:50
- 「今日はね、この子の付き添いで来たの。自己紹介して」
「はい。順聖学院付属中三年の紺野あさ美です。今日一日よろしくお願いします」
「おねがいします」
全員声がそろっての挨拶。
ちょっと迫力があってなんだか圧倒されてしまう。
それから、部員さん達の簡単な自己紹介があった。
流れるような感じで、あんまり耳に入らなかったけど、一年生と二年生が十人くらいづつ
いるのはわかった。
- 387 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:51
- それからアップして、ストレッチ。
ストレッチをしているころ和田先生も出て来た。
私一人違う格好をしていて、明らかに浮いていてなんだか落ち着かない。
柴田さんは、わりと私の側にはいてくれるけど、でも、やっぱり部員さん達とのおしゃべり
に夢中になっちゃう時もある。
男子部員は、グラウンドの反対側でストレッチをしてる。
短距離やフィールドのグループらしい人達も別の所でアップをしてる。
全部で何人いるんだろう?
うちの陸上部とは比べものにならないくらいの人数。
こんなところに入ってやっていけるのかなぁ?
- 388 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:52
- 「紺野さん、どう?」
声をかけられて振り向くと、和田先生が立っていた。
「なんか、緊張しちゃいます」
「まあ、リラックスして楽しんでいってよ」
「はい」
私は、あいまいに笑って答えを返した。
「柴田は、一日付き合ってくれるのか?」
「ええ。練習もこのとおり、ちゃんと付き合いますよ」
「じゃあ、紺野さんについててくれるか? 今日、森林公園だから。道に迷われるとこま
るから」
どうやら、ロードに出るらしい。
高校生はどれくらい走るんだろう?
- 389 名前:第八話 投稿日:2004/03/30(火) 22:54
- 「紺野ちゃんどうする? 片道五キロくらいだけど」
片道五キロ、往復十キロ。
それくらいなら、走れないこともない。
多分ペースはきついんだと思うけど。
「やります」
「そっか、頑張ろうね」
私が答えると、柴田さんが頭をなでてくれた。
部員さん達は、そんな私を微笑んだり、無表情だったり、さまざまな表情で見ていた。
- 390 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/03/31(水) 10:08
- わあ、いいとこで終わるんだあ。ちょっと続きが待ち遠しい。
”柴田さんは、そこかしこのお店の思い出話を話してくれる。
楽しかったんだな、っていうのが伝わってきた。”
こういう書き方がうまいなって思う。
私なら”柴田さんは楽しそうに話した”ってストレートに表現してしまうだろうなと。
文才ってこういう所なんでしょうねぇ、ほんとに。
最初に書いたとおり待ち遠しくもマターリと待っておりますのでよろしくお願いします。
では
- 391 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/04/02(金) 00:01
- 更新お疲れ様です。
文章から伝わってくる柴ちゃんの雰囲気が
オソロで聴くそれとめちゃめちゃオーバーラップしてるんで
感情移入しやすいっすね!
これからどうなってゆくのやら楽しみです。
- 392 名前:作者 投稿日:2004/04/04(日) 23:03
- >やじろこんがにーさん
文章は、あんまり褒められたりしないんだけどなあ。
なんだかうれしいです。
>どくしゃZさん
柴田さんの雰囲気。頑張りました。
これからは、波乱万丈か、のんびりか、どうなることでしょう?
- 393 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:05
- それから、軽く200mを三本流して、体を温めると、ウインドブレーカーを脱いでロード
へと出る。
だけど、柴田さんだけはウインドブレーカーを着たままだった。
みんなにとっては本練習でも、柴田さんには軽いジョッグってことかな。
校門前の坂を下るところからスタート。
私は、部員さん達の一番後ろについた。
柴田さんは私の横についてくれる。
二十人近い集団で走るのなんて初めてだ。
すぐ前くらいの人達は、ちらちらと私の方を見ている。
なんか、走りながら緊張するよ。
- 394 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:06
- アップダウンの多いコース。
距離もあるのにペースも速くて、私にはかなりキツイ。
柴田さんなんかは、平然と雑談してたりなんかするけど。
走ったことのない場所だから距離感もさっぱりわからなくて、つらかった。
「後五百くらいで、行き、終わりだよ」
普通の会話の声で柴田さんは教えてくれるけど、私には、声を出して答える余裕はない。
遅れないでついて行くのが精一杯だった。
「はい、とうちゃくー。紺野ちゃん休憩ね」
柴田さんに言われ、私は立ち止まる。
だけど、部員さん達はそのまま走って公園の中に入って行った。
- 395 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:08
- 「よく頑張ったねえ。行きで遅れちゃうかと思ったけど」
「あの、あの、他の人達は?」
「みんなは、中二周かな。いつもと一緒なら」
二周?
休みなし?
「どれくらいですか?」
「うん。2.5×2だよ」
「そんなに?」
私は膝に手を付く。
たどり着くだけでつらいのに。
ここまですごいのか・・・。
- 396 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:09
- 「紺野ちゃん、ついていけないのが当たり前なんだからね」
そんなこと言われても・・・。
三ヵ月後にこの中に入ったとして、練習についていけるようになるにはどれくらいかかる
んだろう。
と、いうより、練習についていけるようになれるんだろうか?
「みんな最初はそうだから。特に、紺野ちゃんはさ、学校ではあんまり練習積んでないん
だろうし。そんな中三に簡単についてこられたら、私達の方が立場ないって」
柴田さんが芝生に腰を下ろしたので、私も座る。
ウインドブレーカーのポケットから、柴田さんはタオルを取りだして私に渡してくれた。
- 397 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:10
- 「自分では、それなりに練習してきたつもりですけど」
「紺野ちゃん一人で紺野ちゃんなりに練習してきたんでしょ。一人じゃないにしろ、全然
レベルの合わない人達との。それじゃ足りないよ。自分なり以上じゃないと」
私も返す言葉もなくて、柴田さんのするのと同じようにストレッチをする。
自分なり以上か・・・。
比較対称がいないからなあ、周りには。
- 398 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:11
- 「遅くても、半年もあればついていけるようになるよ。それと一緒に記録もついて来るはず」
「半年ですか・・・」
「そんな不安そうな顔しないの。みんな、最初はついていけないんだから。中には、一年
生から前の方走る子もいるけどさ、三年生になっても、記録会にしか出られない子もいる。
それで嫌になって辞めちゃうと別だけど、最後までちゃんと練習続けてれば、記録は伸びて
くるし」
「れいなちゃんだったら、最初からついていけますかねー?」
「ああ、あの子はねー。普段どれくらいの距離走ってるか分からないけど、距離に慣れれ
ばすぐかなあ」
ホントに速い人は、やっぱり違うのかな。
私は、汗を拭ってため息を一つついた。
- 399 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:12
- 「さて、みんな戻ってきたら、帰りは勝負だよ」
「勝負になんかならないですよー」
「そうでもないと思うよ。中の二周はちょっとペース落とすから、みんなついてるだろうけ
ど、帰りはぐっと上がってくるからさ、一年生とか、二年生でも力のない子はどんどんこぼれ
て来るし。勝てるかどうかはわからないけど、見える範囲には入ると思うから、頑張ってみな
よ。一年生なんかは、中学生が見学に来るたびに、ビクビクしながら練習してるんだよホント
は」
県の代表合宿の時みたいに、離されて一人でぽつんと走ってるだけになりそうだけど。
- 400 名前:第八話 投稿日:2004/04/04(日) 23:13
- なんかすごいとこ来ちゃったな。
やっぱり全国のトップクラスの人達は、全然違うよ。
ダメかも、やっぱり。
ため息をつきながらストレッチ。
柴田さんは、もう話しかけて来なかった。
体がすこし冷えてきたころ、部員さん立ちが走って来るのが見えた。
「練習の時から、時計だけじゃなくて人を相手にするのもいいもんだよ。頑張ってみな」
柴田さんは、そう言って私の背中を叩きながらみんなと合流した。
- 401 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/04/05(月) 04:57
- 作者さん、乙です。
中学の部活と高校の部活ってほんとにレベルが違いますよね、私も実感した事あります。
器具とかコートとかも本格的って感じだし、何より部員の競技レベルが数段違う。
それと、やってる部員の気迫が全然違う、「命かけてます」(実際は違うんだろうけど)って感じですもんね。
紺野さんの戸惑いは自然なものだと思います。
一年経ち、二年経ちそんな先輩たちと同等、それ以上になったと実感した時、
ああ、階段を登ったなと実感するんですよね。紺野さんにも大人への階段をどんどん登ってもらいたいものです。
では
- 402 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/04/05(月) 08:06
- 追記
八話を読んで、タンポポのコンサ映像を見ると感慨もひとしおです。
なんか、柴田さんに見守られながら一生懸命歌い踊るこんこん。
立派になった紺野あさ美を微笑みながら見ている柴田さん。
と、感じられました。
- 403 名前:aSSY 投稿日:2004/04/10(土) 00:56
- 第一作からずっと読んでます。
みやさんの作品を読んでいると、
自分の中学生時代を思い出します。
懐かしい…ちなみに自分も中高と陸上部でした。
こんこんのところみたいなまた〜りとしたとこです。
- 404 名前:作者 投稿日:2004/04/10(土) 23:29
- >やじろこんがにーさん
中学から高校へ行くと、いろんな意味でレベルが違いますよねー。
最近は、中学生でJリーガーになったりとか、すごい人もいろいろいますけど。
>aSSYさん
また〜りはまた〜りで楽しいから、迷っちゃうんでしょうねえ。
- 405 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:30
- 森林公園を出ると、急激にペースが上がる。
私は一人だけ十分休憩を取っているはずなのに、すぐに息が上がってきた。
集団の一番後ろ、かろうじてついているのがやっとの状態。
行けるところまで行こう、そう思ってついて行くけれど、五分ちょっと行ったところで、
もう離されはじめた。
- 406 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:31
- 「後3.5あるから、抜かない。まだ、気を抜かない。はいて、大きく息はいて」
横に並んだ柴田さんの声。
走っているなんて分からないほどの、普通な状態の柴田さんの声。
私は、当然、それに答える余裕なんかなかった。
「少しづつ離れても、それでも追って。必ず一人づつ落ちて来るから。きつくても追って
行く」
アップダウンのきついコースは、私の足にもダメージを与えている。
心肺機能がきついだけじゃなくて、足も重たくなってきた。
こんな状態で、後3キロ以上も、走れるんだろうか?
- 407 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:32
- 前の集団は、どんどん離れて行く。
一歩一歩進むごとに、ますます離されて行くような感じ。
それでも、集団から遅れだしている人が何人か出ているのははっきりと分かった。
「追いかけるよ。追いつくよ。絶対追いつくから。切らない。切らないで集中」
私は前を向く。
前を追いかける。
負けたくない。
このまま、負けたくなんかない。
- 408 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:33
- 長い直線が続く。
アップダウンがあるけど、前は見える。
まだ、まだ、届く距離に何人かいる。
「ついて。私について。前と七秒差、おいつくよ」
横に並んでいた柴田さんが私の前に出る。
私は、柴田さんの背中を見つめて走った。
なかなか差が縮まらない。
だけど、開いてもいない。
柴田さんは時折私を見ながら、声を掛けてくれる。
- 409 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:33
- 1キロ以上の直線が続いた後、角を曲がると、そこは信号があって、二人の部員さんが
立ち止まっていた。
「残り1.5、三人で勝負だよ」
信号でほんの一時の休憩。
私は、膝に手をつく。
「紺野ちゃん、止まらない、休まない。体動かす。息ととのえながら体動かす」
柴田さんに背中を叩かれ、私は顔を上げる。
腰に手を当てて、荒い息をなんとかおさえながら、足を動かす。
車道の方の信号が、黄色から赤へ。
そして、目の前の信号が変った。
- 410 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:33
- 「はい、スタート!」
私達の背中で、柴田さんが手をぱちんと叩いた。
三人の集団になる。
せめて、この二人にくらい勝ちたい。
けど、だけど、足がきつい。
それでも、なんとかついていけるペースだった。
最初とは全然違う。
二人もばてているのは分かる。
「残り一キロ!」
柴田さんの声が飛ぶ。
ペースはそれほどでもないから、呼吸はなんとか落ちついている。
ただ、足がきつい。
- 411 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:34
- 下りに入る。
足の押さえがきかない私は、そのままブレーキを掛けずに前に出た。
「二人、ついて! ついて! 離れない!」
そう、声を掛けた柴田さんは、私の前に出てくる。
「紺野ちゃん、後はついて来て」
きれいなフォームだ。
そんなことを思った。
足がつらい。
足が動かない。
- 412 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:34
- 「残り五百!」
私の顔を見て柴田さんが言う。
コースは、上りに入った。
後ろを確認する。
一人は五メートル、もう一人は十五メートルくらい離れているだろうか。
上りに入って、柴田さんの後をついているはずなのに、背中が遠くなる。
柴田さんは、私を振り向きながら、スピードを調整していた。
足が、足だけ動けば。
右の太ももを二回叩く。
横には、後ろから上がって来た部員さんがいた。
- 413 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:35
- 「腕振って! 腕振って、坂は腕で上る。足動かなくても、腕はまだ動くでしょ!」
うで、うで、前へ、前へ。
夢中で、柴田さんの言うとおりに体を動かす。
前へ。
なんとか体を進める。
ようやく、学校が見えて来た。
まだ上る。
部員さんの背中が遠ざかって行く。
「ラスト! ラストだよ!」
太ももを叩きながら、必死に前へ。
もう限界、めいいっぱい。
そんな状態で、なんとか学校まで返りついた。
- 414 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:35
- 「はい、おつかれー」
膝に手をついている私にタオルを渡してくれる。
顔をあげて見ると、柴田さんじゃなくて、マネージャーさんらしき別の人だった。
ありがとうございます、と答えようとしたけれど、言葉なんか出て来なかった。
「はい、もういいよ紺野ちゃん、座りこんでも、倒れこんでも。ゆっくり休んで」
私は、その場に座り込み、そのまま仰向けになった。
きつかったー。
それに、最後負けたー。
ああ、でも、一人勝ったか。
きついなー。
毎日こんな練習してたら、ホントつらいけど、でも、速くなりそうだな確かに。
- 415 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:36
- 私は体を起こす。
後ろの方で帰って来た人達は、やっぱりきつそうだった。
だけど、早く帰ってきたっぽい人達は、もう汗を拭いてストレッチをしている。
強い学校に入って、強い人達と練習するっていうのは、こういうことなのかな。
少なくとも、私は強い人じゃない、っていうのは、代表合宿や今日でよく分かった。
一人で練習していたら、きっと、一生こんな人達には勝てないんだろう。
- 416 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:36
- 「頑張ったねー」
「いえ、そんな」
最後に私を抜いて行った部員さんが声を掛けてくれた。
「負けるかと思ったよ」
「私、途中休んでるし、追いついたのも信号で止まってたからだし」
「いやいや、速いよ十分。まだ中三でしょ。なんかすぐ負けちゃいそ。チームの為には
来て欲しいけど、私としては、来ないでもらえた方が楽かなーなんてね」
部員さんは、そう言って笑いながら去って行った。
まだ、立ち上がる元気がない私とは、回復力が全然違った。
- 417 名前:第八話 投稿日:2004/04/10(土) 23:37
- しばらくして、部員さん達の流れに従って、私もグラウンドに戻る。
柴田さんは、後はダウンだけだから一人で大丈夫だよね、というので、はい、と答えると、
マネージャーさんの方へと行ってしまった。
何をするのか、と思ったら、柴田さんは、ウインドブレーカーを脱ぎだした。
あれだけ走っておいて、そのうえトラック練習するらしい。
呆れるというか驚くと言うか。
私と一緒のペースじゃ練習にはなってないということかな。
なんだかなー・・・。
軽くトラックを走って、それからストレッチ。
練習終わりの部員さん達は、和やかな感じで、メンバー同士が殺伐してそうな強い学校の
イメージとは大分違った。
私にも話しかけてくれる。
強い人達も、こうやって話しているとすごく普通だった。
- 418 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/04/11(日) 01:08
- 作者さん、乙です。
いやー、リアリティのある練習風景でした。
私の体験で言うと、まだ入部もしていない中学生の紺野さんが
これだけ先輩諸氏についていけるののはすごい実力の持ち主だと思います。
だいたい最初は見てるだけみたいなもんですよ、相手にされませんて。
中学から高校、高校から大学、大学から社会・・・その度に同じ驚きがありますよね
紺野さんは「なんだかなー」ですむんだから、結構精神が太いかも・・・
なんか話が面白くなってきました。続きを楽しみにしています。
では
- 419 名前:Assy 投稿日:2004/04/12(月) 22:31
- 長距離は最後は根性ですからね。
紺野さんは根性がそうとうおありのようです。
- 420 名前:作者 投稿日:2004/04/18(日) 21:47
- >やじろこんがにーさん
だって、紺野さんですから。
>Assyさん
だって、紺野さんですから。
全部それで納得させようとするのは、作者としてありなんだろうか・・・。
- 421 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:48
- 私は、その晩和田先生に連れられて、柴田さんと一緒に焼肉を食べに行った。
「それでは、紺野さんの我が校への入学を祝して」
「祝して」
えっ、ちょっと待って・・・。
「紺野ちゃん、無茶無茶戸惑ってますよ」
「ははは、じゃあ、紺野さんの明るい未来に」
「明るい未来に」
「かんぱーい!」
ビールがたっぷり注がれた和田先生のグラスと、烏龍茶が入った私や柴田さんのグラスを
ぶつけ合う。
焼肉です。
焼肉なんです。
- 422 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:49
- 「どうでした? 練習は」
「先生、まずは、食べさせて上げましょうよ。紺野ちゃん、食事する時、すごい幸せな顔
するんですよ」
「そうですね。難しい話は後にして、食べますか」
カルビ、カルビ、タン塩、ロース、かぼちゃににんじん、カルビ、カルビ。
おいしーい!
「おいしいでしょー」
「はい!」
「見学に来てよかったと思ったでしょ」
「はい!」
「なんだ、紺野さんは、焼肉目当てか」
「あ、いや、そんなつもりじゃ」
「私が、焼肉で釣ったんですよ」
和田先生が笑っている。
はずかしい・・・。
でも、でも、おいしいんだもん。
- 423 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:50
- 「まあ、入学するまではね、自由だけど、あんまり体重増やさないで下さいよ」
和田先生に釘を刺される。
でも、おいしいよ、焼肉。
「おいしいもんね。体重とか気にせずに食べちゃうよねー」
「柴田は、もう社会人の選手なんだから、自覚もてよ」
「それは、分かってますよ」
柴田さんは、ゆっくりと箸を動かしている。
これ焼けたよー、なんて、私にどんどん勧めてくれる。
- 424 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:50
- 「これね、全部神戸牛なんだって」
「えー、そうなんですかー?」
「うん、だから、すっごい高いんだよ」
ちょっと私の手が止まる。
だけど、カルビがかぼちゃが、私を呼んでるよー。
「いいから、そんな細かいこと気にしないでいいから、たっぷり食べて下さい」
「ありがとうございます」
私は、軽く頭を下げてから、鉄板の上のかぼちゃに箸を伸ばした。
- 425 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:52
- 「先生、期待度で焼肉屋さんに連れて行くかどうか決めてません?」
「何、言い出すんだ柴田」
「だって、私が見学に来た時、どこも連れてってもらってないですよ」
「そうだっけ? 覚えてないなあ」
和田先生は、ビールのジョッキを持ち、ぐっと飲み干した。
「紺野さん、烏龍茶まだ大丈夫ですか?」
「はい」
「先生、ごまかそうとしてません?」
「なに言ってるんだ、柴田、お前もなんか飲むか?」
「いいです」
ちょっと冷たく柴田さんが答えると、和田先生は、テーブルの端のボタンをおして、従業
員を呼んだ。
「まあ、ゆっくり食べてよ」
「はい」
私がそう答えると、隣の柴田さんは私の方を見てニコニコ笑ってくれた。
- 426 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:52
- たっぷり食べて、お腹いっぱいになって、デザートのアイスが並べられたころ、和田先生が
真面目な顔で切り出した。
「紺野さん、練習の感想はどうでした?」
私は、アイスのスプーンを一旦置いて、和田先生の方を見る。
「やっぱり、レベルが違うなって。ちょっと、不安になりました」
「でも、最後ちゃんと帰ってこれたじゃないですか」
「そうだよ。紺野ちゃん、もっと遅れちゃうかな、って思ったけど、最後頑張ったじゃな
い」
「それは、柴田さんが引っ張ってくれたし。部員さん達が走ってる間も休んでたし」
「紺野さんはさ、最初から、というか今日の練習で、部員のみんなと走って、普通に混じ
って、何の遜色もなく最後までこなせると思って来たの?」
私は、テーブルに置いていた手を膝の上に引き、ちょっと視線を落として答えた。
- 427 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:53
- 「そんなことは、ないです」
「そうだよね。当たりまえだよね。紺野さんが速いって言ったって、それは中学のレベル
の話しだ。うちは、高校の中でもトップクラスのレベルでいるんだから、そんなに簡単につ
いていけるはずがない」
隣で、柴田さんがグラスを口に持って行った。
「紺野さん、そんなにかしこまらないで、アイス食べながら楽に聞いて」
「あ、はい」
私は、うなづきながらアイスの皿を引き寄せて、スプーンを手にとった。
だけど、口には持って行かない。
- 428 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:53
- 「紺野さんに、いきなり一年生から大エースになってくれ、なんてことは期待してません。
多分、駅伝メンバーには入れないでしょう。はっきりいって、まだまだ力不足です。走り込み
が必要。だから、一年間きっちり走りこんでください」
駅伝メンバーには入れない。
別に、驚きはしない。
だけど、ちょっと、がっかりはした。
- 429 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:54
- 「伸びる余地が十分にあると思います。二年生、三年生になれば、エースとは言わないま
でも、中心的なメンバーにはなってくると思います。駅伝で言えば、三区や四区のつなぎの
区間でメンバーに入ってくるんじゃないかな。三年の最後にはアンカーなんかにもなるかも
しれない。もちろん、周りのメンバーや、紺野さんの練習次第ですけど」
アンカー。
このチームのアンカー。
そんな日が来るんだろうか。
ほとんど想像が出来ない。
- 430 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:54
- 「このチームは、本当にレベルが高い。監督自ら言ってしまうけど、レベルが高い。そん
な選手が二十人近くいる。みんなで競争しながら速くなっていく。普通はやらないんですよ
、ロードに出て、あんなレースまがいな練習。ペース走とか、ビルドアップとか、監督がち
ゃんとついてやるもんなんです。だけど、うちではああやって、週に一回土曜日に、長めの
ロードをレースまがいな走りかたで、私もちゃんとつかないでやる。なんでだと思いますか
?」
なんでだろう?
私には、練習のやりかたとか、そういうののちゃんとした知識は無いから、わからない。
- 431 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:55
- 「楽しいからですよ。レースの方が。決められたペースできっちり走るのは、練習として
はいいけど、あんまり楽しくないじゃないですか。それが、隣に仲間がいて、前に先輩がい
て、ライバルがいて、そんな中でレースになると、苦しいけど、楽しいって思いませんか?」
今日の練習は、ホントにきつかった。
いつも走っているのに、それでも、明日の朝になったら多分筋肉痛になってるだろうな、ってくらいにきつかった。
だけど、そんなに嫌じゃなかったかもしれない。
- 432 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:56
- 「練習の意味みたいなこと、考えてやってますか? この練習は、何のためにやっている
のか? っていうの」
「いや、あんまり・・・」
「私がいれば、そういうのも教えて上げられる。そして、周りには、一緒に練習する仲間
がいる。そんな環境でやってみませんか?」
きつい練習に耐えられるかどうかは、わからない。
だけど、それが出来れば、確かにここは理想的な場所なのかもしれない。
でも、それは、今の私の居場所を捨てることになるわけで・・・。
- 433 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:56
- 「まあ、今日答えて下さいとは言いません。ただ、いい答えは期待してます」
「はい」
「ああ、アイスもずいぶん溶けちゃいましたね。ごめんなさい、長い話しちゃって。どう
ぞ、食べて下さい。それとも、頼みなおします?」
「あ、いえ、これで」
私は、半分溶けたアイスへと手を伸ばした。
- 434 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:57
- 店を出て、タクシーで駅まで送ってもらった。
駅につくまでの間、先生と柴田さんは楽しそうにお話をしていた。
「あの、今日は、わざわざありがとうございました」
「いやいや。私も、有望な新人に出会えてうれしかったです」
「先生、またそうやってプレッシャーかける」
柴田さんが隣で笑っている。
私は、頭を下げて先生と別れた。
- 435 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:57
- 「つかれたねー」
電車に乗り、椅子に座ったとたん、柴田さんが言った。
「柴田さん、練習しすぎですよー。ロード出た後、トラックでペース走なんかやってたじ
ゃないですか」
「だって、一応社会人出しさあ私。紺野ちゃんと同じペースと量で、練習しました、って
わけにいかないよー」
まあ、レベルが違うんだからしょうがない。
「先生、優しく見えたでしょ」
「そうですね。なんか、優しそうな感じでしたねー」
「うちに来た時にびっくりすると困るから、ちゃんと教えといて上げる。あれはね、外向
けだから」
「外向きなんですかー?」
電車の中に声が響く。
ちょっと恥ずかしかった。
- 436 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:58
- 「練習の時はね、すっごい厳しいから。すっごい怖かった。最初の夏合宿とか逃げ出そうか
と思ったもん」
「そんなに怖いんですかー?」
「叩いたりとかはしないけどねー。なんかねえ、すごい正しいことを言うの」
「正しいこと?」
「うん。きついとさ、ちょっと、抜いちゃったりするじゃない。もうこれがいっぱいです、
みたいな顔して。それをね、見抜くんだよねー。そこ怒られるとさ、当たってるだけに逃げ場
ないでしょ。もうね、つらいのよ」
私も、平家先生に注意されることはある。
だけど、そこまで見抜かれたような、そんな厳しい指導はされたことがない。
「まあ、基本的にはいい人だからさ。そんなに心配しないでも大丈夫だよ」
だいじょうぶかなー?
やっぱり心配だ。
- 437 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:59
- 電車はやがて大阪へ。
私は乗り換えで家に向かい、柴田さんは別の方向にある会社の寮に帰る。
ここでお別れ。
「今日は、ありがとうございました」
「紺野ちゃんしっかりしてるよねー。ちゃんと挨拶も出来るんだもん」
「そんなことないですよー」
「いやいや。大切なのよ、挨拶とかって。私ら一応体育会なわけだし」
「はあ」
体育会、と言われても全然ピンとこない。
- 438 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:59
- 「決めたら、教えてね。もちろん、いい報告を待ってるから」
「もう、柴田さんまでプレッシャーかけるー」
「そりゃあ、私は須磨の人間だもん。来て欲しいに決まってるし。でも、自分でしっかり
考えて決めな」
「はい」
「それじゃね」
「ありがとうございました」
柴田さんは帰って行った。
- 439 名前:第八話 投稿日:2004/04/18(日) 21:59
- 私は、一人で電車に乗り家に向かう。
なんだか、長い一日だった。
いい練習が出来る。
高いレベルの人と一緒に練習ができる。
知識のある先生がいる。
優しく接してくれそうな先輩もいる。
普通は、迷うところじゃないんだろうなー。
れいなちゃんの顔が浮かんだ。
ホントに私は馬鹿なのかもしれない。
だけど、今ある場所だって、大事なんだ。
- 440 名前:第八話 ひとつの未来 終わり 投稿日:2004/04/18(日) 22:00
- 里沙ちゃんの顔、亜依ちゃんの顔を思い浮かべる。
今ある場所。
亜依ちゃんとは、あのけんか以来、結局話してはいない。
里沙ちゃんも、もしかしたらどこか別の学校へ行ってしまうかもしれない。
今の大事な時は、もう、終わるのかな。
新しい学校で、新しい町で、新しい挑戦。
そんな道を選ぶことが、正しいのかもしれない。
でも、ばらばらにお別れは嫌だな。
そんなことを思いながら、窓の外を見ると、雨が落ちて来ていた。
時間は、もう、あまりない。
どうしよう・・・。
- 441 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/04/19(月) 01:42
- 作者さん、乙です。
”だって、紺野さんですから。で全部・・・・”、有りで良いと思いますよ。
こちらもそれを知った上で書いてますから。(^^;)
焼肉を前にした紺野さんの描写が私的に受けました。
先週の二人ごとと言うTV番組での紺野さんの話と、よくあってる感じです。
もっともTVではダイエットをいつも考えてるって言ってましたが、結局は食べることなわけで(^^)
読んでいて、感情移入してしまい、『紺野!須磨学院にいきなさい!』と心の中で叫んでしまいました。
『ただ、亜依ちゃんと喧嘩別れのまま別れるのはいけない。素直になって話てきなさい』と言ってあげたいです。
おっと、ストーリーに干渉するような事を書いてしまいました。
読者の素直な感想を書いただけですので無視してください。
このあとも楽しみに待っています。ゆっくりでかまいませんのでよろしく御願いします。
では
- 442 名前:どくしゃZ 投稿日:2004/04/20(火) 01:34
- 更新おつかれさまです。
オイラも須磨学院行き希望(笑
まだまだ波乱が待ち受けてそう。楽しみにお待ちしております。
- 443 名前:作者 投稿日:2004/04/25(日) 22:39
- >やじろこんがにーさん
ホントにゆっくりになってますが・・・、なんとか頑張ります。
>どくしゃZさん
何気に作者って、物語をコントロールしきれないことが結構あるんですよ。
登場人物が、自分で決める、みたいな感じが私の場合はあります。
まあ、今回は、最後にどうなるかは、作者自身はもう知ってますけど(笑)
- 444 名前:第九話 迷い道 投稿日:2004/04/25(日) 22:42
- 三学期に入った学校は、平凡な毎日が始まる。
中高一貫のうちは、受験も何にも関係ない。
進路どうしよう、なんてやってるのは、私と里沙ちゃんだけだ。
- 445 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:43
- 卒業試験までは後一週間。
里沙ちゃんの運命はそこで決まる。
そして、私も、その日には決めないといけない。
「戻ってきたら、また一問一答やるからね」
「うん」
「元気ないね」
私の練習前、図書室で里沙ちゃんと今日の分の打ち合わせ。
里沙ちゃんは、がっくり力を落としてため息をついた。
「紺ちゃんさあ、進路決まった?」
立ったままの私に、上目遣いで里沙ちゃんが聞いてくる。
- 446 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:44
- 「決まってないよ」
「大丈夫なの?」
「私のことはいいよ。自分で考えるしかないし。里沙ちゃんは自分のこと頑張りなよ」
「そうなんだけどさ、紺ちゃんも大変なのに、私にいろいろしてくれるでしょ。だからさ、なんだかさ」
里沙ちゃんは頬杖をついた。
私も、かがんで、顔だけ机の上に出るような感じに座る。
「気にしないでいいよ。こうやって里沙ちゃんに勉強教えてるの楽しいもん」
「だけどさー、気にするよー。自分だけ助けてもらって、こっちは何も出来ないんだもん」
「里沙ちゃんに進路決めてもらおうなんて思ってないよ」
「そうじゃなくてー、なんかさー。うーん、わかんないけど」
里沙ちゃんに分からなかったら、私にはなおさらわからなかった。
- 447 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:45
- 練習に向かう。
今日はビルドアップ走。
200mのトラックを一周55秒から毎週1秒づつ46秒まで上げて行く。
それがみんなの共通練習だけど、私は、50秒から合流して、41秒まで上げる。
- 448 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:46
- 練習が始まるまでは和やかで、始まってからはきつそうで。
あーあ、前半からきつそうな子もいるよ。
しょうがないんだろうけど。
六周目から合流。
当たり前のように一番前に出て私がペースをつくる。
半周くらい行って振り変えると、ちょっと距離が離れてる。
なんだかなー、と思いながら一周目の終わりへ。
「44、45、46、この一周47秒! 紺野先輩速い! 落として!」
あれ?
速すぎ?
後ろが離れるわけだ。
ビルドアップもペース走も一周目の入りはなかなか難しい。
- 449 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:46
- 私にとっての四周目五周目、みんなの最後二周。
今度は私のペースが正しいのに、みんなが離れて行く。
最後までしっかりついて来たのは一人だけ。
そして、残り五周は単独走になった。
すごくきついペースってわけじゃないから、刺激がない。
きちんと時計を刻んで、私は最後まで駆け抜けた。
「おつかれさまです」
「ありがと」
マネージャーの子がタオルをくれる。
あまり負荷のかかる練習じゃないから、疲労感はない。
体は軽くていい感じ。
- 450 名前:第九話 投稿日:2004/04/25(日) 22:47
- 「だれかさー、もう一本付き合わない?」
みんなのところに戻って声を掛ける。
私の言葉に、みんなは顔を見合わせている。
「えー、いいですよー。もう疲れちゃったし。それに、紺野先輩と一緒の練習は無理です」
「そっかぁ」
素直に引き差がる。
そんな答えは予想してたし。
結局、私は、マネージャーの子にだけ付き合ってもらってもう一本一人で走った。
- 451 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/04/28(水) 22:51
- 作者さん、乙です。
しばらく来るのサボってました(^^;
すこし、仕事が忙しかったせいでもあります。
須磨学院での刺激的な練習風景から順聖女子大付属でのマターリした風景に戻ったんですね。
刺激的な風景にもドキドキワクワクして面白いですが、今回のようなふんわりした風景もいいですね。
なんだか癒されます。
紺野さんはどうなんですかねぇ。やはり若いから刺激が有るほうがいいのかな?
どちらにしても後悔のない選択をして欲しいものです。里沙ちゃんも後悔のない結果になるよう、お祈りしたい気持ちです。
それと、加護さんとの話もすごく気になります。
ほんわかふんわり、マターリ待ってますので、続きをよろしく御願いいたします。
では
- 452 名前:作者 投稿日:2004/04/30(金) 00:02
- >やじろこんがにーさん
おんなじ“学校”でも、そこそれぞれに雰囲気って違うもんですねえ。
紺野さんは、はたしてどんな選択をするのでしょう?
- 453 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:03
- 図書室へ戻る。
里沙ちゃんは一人黙々と机に向かっていた。
声を掛けて教室へ。
社会の一問一答式。
私が問題を出して里沙ちゃんが答える。
声を出してやるから、図書室じゃなくて教室で。
不安はまだまだ残るけど、前と比べたら断然答えられるようになってる。
あと一週間。
ホントに、ホントに頑張って欲しい。
- 454 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:04
- 陽が暮れて、最終下校の音楽が流れはじめて、私達は学校を出た。
月曜日、私達は帰りにコロッケ屋さんに寄ると決めている。
駅までの途中にあるコロッケ屋さん。
「今日は何にするー?」
「うーん、カニクリーム食べたいけどー。うーん、カレーかコーンかなあ。でも、ポテト
コロッケも捨て難いし」
カニクリームは一番高くて100円もするから、財布と相談しないといけない。
味付きものでも、カレーやコーンなら70円だし、シンプルなポテトコロッケなら50円で
食べられる。
お小遣いがもっとあればなーっておもうけど、しょうがないかな。
- 455 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:05
- 「紺ちゃん、迷いだすと長いよねー」
「だってさー」
「テストの四択は強いのにね」
だって、どれもおいしそうなんだもん。
「里沙ちゃんはこういう時速いよね」
「テストの四択は悩んじゃうけどね」
「そうだねー。なんでかなー」
「テストは答えが一個しかないからねー」
そんなことを言いながら、里沙ちゃんはカレーコロッケを頼んだ。
- 456 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:05
- 「あー、もう、どれにしよー」
「テストみたいにすぱっと、決めちゃいなよ」
「だって、テストは答えが一個だもん」
「なーんか同じこと言ってるのに、違うんだね」
なんでだろう?
私は、悩んで悩んで、里沙ちゃんと一緒のカレーコロッケにした。
- 457 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:05
- 「進路の二択はどうなのよ」
「うーん、なんかねー」
「なんかー?」
里沙ちゃん、陸上よくわかんないし、話してわかるかなあ?
「すごかった」
「すごかったんだ」
「うん、すごかった。あそこにいたら絶対速くなる」
「こっちじゃダメなんだ?」
カレーコロッケが揚がった。
先に里沙ちゃん、次のが私。
あつっ あつっ って言いながら、食べる。
私達は、お店を離れて駅へ向けて歩き出した。
- 458 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:06
- 「こっちじゃダメかなー」
「どうして?」
「やっぱり一人なのと、たくさんの人と練習するのは、気分の乗りが全然違った」
「そうなんだ」
今日の練習、なんか、つまらなかった。
比べてもしかたのないものを比べてしまう。
あの子達に、県選抜や須磨学院の人達と同じものを求めてもしかたないのに。
なんか、こう、うーん、なんなんだろう。
「先輩とかも会ったんでしょ?」
「いい人たちっぽかったよ。ちょっとねー、体育会なのが怖かったけど」
「体育会?」
「なんかね、挨拶の声が、すごいそろってるの」
「それって、すごいかも」
「でしょー」
里沙ちゃんと私の白い息が中を舞っている。
手袋越しでさえも、コロッケの温かさが伝わってくる。
- 459 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:06
- 「陸上部的には向こうのが全然いいんだ」
「そうじゃないけど、そういうんじゃないんだけどー」
なんなんだろう。
自分でもよくわかんない。
「紺ちゃん、行きたいんじゃないの? そっちの学校に」
私はコロッケをかじる。
口にものが入ってるから、答えは返せない。
「陸上部以外に、こっちの学校がいい理由とかあるんだ」
「うーん・・・」
口の中にコロッケを詰めたまま、なんとなくな返事を返す。
- 460 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:07
- 「気持ち的には、結構傾いてるんじゃないの? 実際」
「7-3くらいで、向こうに行きそう、今のままだと」
「話だけ聞いてると10-0だよ。3は何3は?」
なんだろう?
改めて考えてみるよ、よく分からない。
新しい町への不安?
新しい環境への不安?
それが分かれば、もう結論はとっくに出てるのかな。
そんなことを思って、白いため息を一つはく。
- 461 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:07
- 「何でも出来るっていいよねー」
里沙ちゃんが突然話しを変えた。
「そうだねー。何でも出来ればねー」
「私は、紺ちゃんのこと言ってるんだよ」
「わたし?」
「うん」
里沙ちゃんは私の方を見て、コロッケをかじった。
「そうかなー?」
何でも出来る、とは自分ではこれっぽっちも思わない。
どちらかと言うと、苦手なものが多いタイプだと自分では思ってるんだけどな。
- 462 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:08
- 「なんか、考えちゃうなー紺ちゃん見てると。私やっぱりさあ、何にも出来無いんだよね。
足引っ張るだけでさ、みんなの役にも立たないし」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよー。けっこうね、つらいのよ。助けてもらうばっかりで、自分は助け
て上げられないのって。その上さ、さんざん助けてもらったあげく、ダメでした、とかなっ
たら、無茶無茶かっこ悪いし。なんか、今のままだとそうなっちゃいそうだし」
里沙ちゃんは、コロッケの中のつぶれ切らないで形が残っているジャガイモを、つまみだ
して、口に持って行った。
- 463 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:09
- 「里沙ちゃん、余計な気使いすぎだよ、って久しぶりに思った」
「あー、言われたねー、なんか似たようなこと昔に」
「別に、里沙ちゃんに、助けてもらおうとか、あんまり思ってないし。一緒に走って、
とか無理でしょ」
「まあ、それはねー、ちょっと無理」
里沙ちゃんは、そう言ってちょっと笑ってから、残りのコロッケを口に入れた。
「私さあ、後一週間だけど、一人で頑張ってみようかな、って思うんだ」
「一人でって?」
「紺ちゃんもさ、考えなきゃいけないことあるわけでしょ」
「それとは、あんまり関係ないような」
私は、里沙ちゃんの方を向く。
里沙ちゃんは、赤いダッフルコートの上に背負ったチェック柄のリュックを背負いなお
して言った。
- 464 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:10
- 「関係はないんだけどさあ、一人でやってみたいんだよね。一人で。私はさあ、今ある場
所にしがみつこうとしてるわけじゃない。それを、紺ちゃんに助けてもらっててさ、その紺
ちゃんは、今より、上のレベルで陸上頑張るかどうかって迷ってるわけでしょ。なんかさあ
、上に見えちゃうんだ、紺ちゃんが。横じゃなくて、上に見えちゃうの」
「そんなことないよ」
そう言う私の方を、里沙ちゃんは振り向くことなく言った。
「そうじゃなくてー、私の問題なのよ。今のままだと、どんな結果になっても、紺ちゃん
に対して負けてる感じがしちゃってさ、自信が持てなくなっちゃう、って、本人に向かって
言うことじゃないんだけどさー、なんかさー、怖いしさー、自信持てないしさー。新垣さん
は新垣さんなりに悩んでるわけですよ」
真面目な声でしゃべっておいて、途中から急にふざけた感じになっちゃった・・・。
- 465 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:10
- 「そんなわけだから、明日から図書室授業は無し!」
「えー! じゃあ、授業終わったら、帰っちゃうの? 家で勉強するの?」
「私は、図書室で勉強するけどさあ、一人でやるよ」
「なんでー、じゃあ、私も図書室で一緒に勉強する」
「それじゃ、意味ないじゃーん」
「でもー。やだよ、一人で帰るのー」
「そんなこと言ってたら、一人で神戸の学校なんか行けないよー」
そうだけどさあ・・・。
なんか、里沙ちゃんまで離れて行ってしまうそうで、嫌だった。
- 466 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:11
- 「じゃあ、帰りは一緒でもいいよ。でも、図書室では離れた場所に座るし、私は紺ちゃん
には質問しない」
「そんな意地はらなくてもいいじゃーん。分からなかったどうするのー?」
「塾の先生とかいるから大丈夫。っていうか紺ちゃんがそんなに必死になることないし。
紺ちゃん、先生になったら、将来」
先生ねえ・
考えたこともなかったな。
「というわけだから、OK?」
「わかったよー・・・」
私がそう答えると、里沙ちゃんは私のほっぺたを突っついた。
- 467 名前:第九話 投稿日:2004/04/30(金) 00:11
- 「なによ」
「そんなにふくれないで」
「元からです!」
「ふぐ食べたくなっちゃた」
「ふぐってゆーな!」
「へ? 何怒ってるの? 晩ご飯何かな? ふぐがいいな、って思っただけじゃん」
なんか知らないけど、遊ばれてる・・・。
私は、コロッケの残りを口に持って行った。
- 468 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/04/30(金) 03:48
- お、更新きてる。それについさっきみたいだ。これって、ラッキー?
作者さん、乙です。
いよいよ決断のクライマックスかな? ワクワクものです。
『手袋越しでさえも、コロッケの温かさが伝わってくる。』
この表現、いいですね。すごく暖かさが伝わってきますし、なんか好き・・・
ふぐの掛け合いのところ・・・
現実でもあったそうな会話でですね。 北海道で、紺野さんはこんな風に怒ったのかもしれませんね(^^)
つづき楽しみにしています。
では
- 469 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/05/04(火) 22:44
- 七日から一月ほど出かけますのでネットが出来ません(ノД`)
帰って来たら必ず読みますので、よろしく御願いいたしますm(_ _)m
- 470 名前:作者 投稿日:2004/05/06(木) 22:49
- >やじろこんがにーさん
一ヶ月ですか。
ちょうど終わるかどうか、くらいの所かな?
たぶん(笑)
言ってませんでしたが、この話は全十話で終わりです。
- 471 名前:第九話 投稿日:2004/05/06(木) 22:51
- 翌日、なんだか違和感のある一日。
午前中の授業はまあよかったのだけど、お昼休み、里沙ちゃんについて図書室に行こうと
したら、しっしっ、って追い返された。
手持ち無沙汰な昼休み。
二学期からは、お昼休みはご飯の後、里沙ちゃんと図書室に行くようになってたから、ど
うしていいんだかわからない。
クラスの友達も、教室にいる私に、けんかでもしたの? と不思議そう。
そうじゃないんだけど、と、あいまいな答えしか返さない私に、けんかをしたんだ、と判
断したみんなは、色々と話を聞きたがる。
私は、やっぱりあいまいなことしか言えなかった。
- 472 名前:第九話 投稿日:2004/05/06(木) 22:51
- 午後の授業が終わる。
里沙ちゃんに声を掛けると、帰り待ってるね、と一言だけ残して行ってしまった。
私は、ぽかーん、として、里沙ちゃんが出ていったドアを見ていると、掃除の係の子達に、
目が覚めたらどきましょーねー、と怒られた・・・。
- 473 名前:第九話 投稿日:2004/05/06(木) 22:51
- なんだかなー・・・。
カバンを引きずって部室へ。
着替えて練習。
なんか乗って来ない。
ぼんやりと練習を終えて、部室に戻る。
着替えて図書室へ行こうかと思ったけど、やっぱり座り込む。
部室の奥に座り込む。
三年生一人だけ、というのはこういう時に寂しいもんだ。
ころがっているコミックを拾う。
ヒカルの碁だった。
ヒカルが、プロになりたいと言い出して、囲碁部の子達ともめていた。
ため息をついて横におく。
一二年生が入れ替わり、着替えて挨拶をして出て行く。
私は、テーブルの上のコミック群から、H2を引っ張り出した。
- 474 名前:第九話 投稿日:2004/05/06(木) 22:52
- 何度も読んだ話。
いい話だけど、やっぱり飽きる。
時計を見ても、まだ下校の時間には少しある。
なにか言われちゃうかな? と思いながらも図書室へ向かった。
里沙ちゃん、なんだか寂しいよやっぱり・・・。
まあ、どっちにしても後一週間だし、試験が終われば平和な毎日が戻るのかな。
そんなことを思いながら、図書室のドアを開ける。
待っていたのは、意外な光景だった。
- 475 名前:第九話 投稿日:2004/05/06(木) 22:52
- 部屋の奥、いつもの位置に向かう。
里沙ちゃんはいつもの場所に座っていた。
そして、いつも私が座っていたはずの場所には、亜依ちゃんがいた。
亜依ちゃんが顔を上げる。
目があった瞬間、私は思わず逃げ出した。
「待って! 待って紺ちゃん!」
私は、里沙ちゃんの声に振り返る。
里沙ちゃんの隣で、亜依ちゃんが立ち上がった。
私は、後ろを向き、ドアを開けて図書室を出た。
- 476 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/05/07(金) 02:38
- 作者さん、乙です。
久々亜依ちゃん登場ですね。展開が楽しみです(^-^)
えー!あと一月で終わっちゃうんですか?!
なんかさびしい・・・
今日からしばらくこれませんが、よろしくですm(_ _)m
では
- 477 名前:作者 投稿日:2004/05/15(土) 22:53
- >やじろこんがにーさん
後一ヶ月で終わるかどうか、保証は無いですが(笑)
と言っても、このレスを読むのは一ヵ月後ですか。
そうですか。
- 478 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 22:55
- なんで?
なんで亜依ちゃんがいるの?
でも、なんで私も逃げるの?
ふらふらと廊下を歩いていると、後ろから声がする。
「紺ちゃん、待って。待って」
図書室から出て来た亜依ちゃんだった。
- 479 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 22:56
- 亜依ちゃんは、ドアの前で固まっている。
そこに、里沙ちゃんが出て来た。
「二人とも固まってないでさ、ちゃんと話そうよ。このまま卒業でいいの? 紺ちゃんいな
くなっちゃうかもしれないんだよ。ほら!」
里沙ちゃんが亜依ちゃんの腕をひっぱって私の前まで連れて来る。
目が一瞬合って、私は顔を伏せた。
黙り込む間が空いた後、口を開いたのは亜依ちゃんだった。
- 480 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 22:57
- 「みんな、うちの前からいなくなっていく。うちが仲ようなった人は、みんな遠くに行っ
てしまう。寂しかったんや」
亜依ちゃんはうつむいている。
私も、うつむいたまま、亜依ちゃんの言葉を聞いていた。
「田舎で仲のいい子が出来ても、休みが終わったらお別れ、学校の外でさ、仲のいい子が
出来ても、みんな遠くに行ってしまう」
亜依ちゃんには友達が多い。
びっくりするような人と知り合いだったりする。
スケートのトップ選手とか。
私一人位いなくなったって、関係ないかと思ってた。
- 481 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 22:58
- 「学校の友達は、そんなことないと思ってた。ずっと、一緒にいられると思ってた。なの
に、里沙ちゃんはどうなるか分からない。でも、里沙ちゃんはここにいたいって言ってるし
、別に腹はたたんかったけど、紺ちゃんは、ここにいられるのに、違う道を選ぶかもしれな
いって、それで、なんか、悔しかった」
私は、ここにいたいって言えば、ここにいることが出来る。
向こうに行くって言えば、向こうに行くことが出来る。
どちらかを決めるのは私で、どちらかを捨てるのも私で。
向こうに行くってことは、亜依ちゃんにすれば捨てられるってことかもしれなくて。
- 482 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 22:59
- 「冬休みにな、田舎のばあちゃんちに行ったんよ。そこで、向こうの友達の家に泊まって
な、紺ちゃんの話した。納得行かない、むかつく、信じられないって」
元日のうちの集まりに来ないと思ったら、おばあさんの家に行ってたのか。
そんなところでまで行って私のこと話さなくてもいいのに。
「怒られた。むっちゃ怒られた。足引っ張っちゃダメだって。向こうの友達もな、バレー
ボールやってるんよ。それで、高校選びに迷ってる最中でな、うちが紺ちゃんの話ししたら
、怒られた。捨てるとか、そんなんじゃないって。けんかしちゃったよ。それで、怒られて
、うちが悪いのかなー、っておもって謝ろうと思ったけど、でも、やっぱり、紺ちゃんいな
くなるのいやだし」
私は、亜依ちゃんとけんかした日のことを思い出していた。
わけわかんない、そんなことを言われた気がする。
- 483 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:00
- 「いろいろ考えたんやけどさ、あと二ヶ月もすれば卒業式やろ。けんかしたまま卒業ってい
ややって思った。紺ちゃんがどうするのか分からんけど、もし、陸上の学校いくのに、このま
まけんかしたまま卒業はいややって思った」
後二ヶ月で、私達は中学を卒業する。
後二ヶ月で。
「うちは、前みたいに紺ちゃんと仲良うしたい。一緒に騒いだり遊んだりしたい。だから、
素直に謝ろうと思った。いややけど、紺ちゃんがよその学校行くのはいややけど、でも、うち
がそれを言うんは、おかしいんやろな。ごめん。紺ちゃんが一番悩んでることやのに、余計な
こと言って、もっと悩ませるようなこと言ってごめんなさい」
亜依ちゃんは、私の前で頭を下げていた。
私は、なんか、どう答えていいのかよく分からない。
- 484 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:01
- 「紺ちゃん、なんか言いなよ。あるでしょ、なんか」
亜依ちゃんの隣で里沙ちゃんが言う。
私は、頭を下げている亜依ちゃんと、隣の里沙ちゃんを交互に見る。
でも、なんか、言葉が出て来ない。
「亜依ちゃん、顔上げないと紺ちゃんずっと口パクパクさせたままになっちゃうよ」
そう言って、里沙ちゃんは亜依ちゃんを起こした。
私は、そこまで言われてさすがに、何も言わないわけにもいかず、亜依ちゃんに向かって言った。
- 485 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:01
- 「私って、意地っ張りなのかもしれない。 謝らなきゃいけないなって思ってたんだ。
ずっと一緒って誓ったのに、よその学校行こうとしたの私だし。でも、私がこんなに悩ん
でるのになんだよ、みたいな気持ちもあったから」
絶対あやまるもんか、って思った。
ずっとこのままかもしれないって思ってた。
亜依ちゃんと仲直りすることは、もうないのかもしれない。
ちょっとだけ、そう、あきらめかけてた。
「ごめんなさい」
目の前に亜依ちゃんがいる。
隣で里沙ちゃんが笑っていた。
- 486 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:02
- 「なかなおり、オッケーですか?」
おどけた感じの里沙ちゃんに、私も亜依ちゃんもふきだした。
「真面目なシーンで、そういう態度とらんといてくれる?」
「重いんだよ二人ともー。一番きつかったの私なんだからねー。はい握手して!」
里沙ちゃんが強引に私と亜依ちゃんの手をつなぐ。
亜依ちゃんの右手と私の右手。
しっかりと手をつなぐ。
- 487 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:02
- 「紺ちゃん、許してくれるか? うちのこと」
「許すっていうか、多分、なんか、あんまり悪くないし」
亜依ちゃんが私の目の前にいた。
その隣に里沙ちゃんがいた。
二人が、すぐ目の前にいる。
なんだろう。
なんか、なんだか・・・。
「紺ちゃん泣いてるー!」
「泣いとるー!」
「泣きむしー!」
「泣きむしー!」
「だって、だってー!」
だって、なんか、よくわかんないけど、涙出て来るんだもん。
- 488 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:03
- 「そんな、泣かないでよー」
「だって、びっくりしたんだもん。いつもわたしがいる席に亜依ちゃんがいて。なんで?
なんで? って思って。それで、里沙ちゃんも私のこと嫌いになっちゃったんだとか思っ
て・・」
「なんでそうなるんだよー、もうー」
涙でぐずぐずの私を里沙ちゃんが抱き止めてくれる。
私よりもちっちゃな里沙ちゃんの肩に額を乗せる。
里沙ちゃんは、私の髪をなでてくれながら言った。
「私もねえ、必死だったのよ。ずっと紺ちゃんに助けられっぱなしでさ」
よしよしって、あやすみたいに私の背中をやわらかく叩く。
私は、体を起こして里沙ちゃんの方を見た。
- 489 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:04
- 「たまには私の方が力になるようなことがないとなあ、って思ってて。でも、一緒に走る
とか出来ないし。進路のアドバイスなんかも出来ないし。私に出来ることってなんだろう?
って考えたら、やっぱり、亜依ちゃんと仲直り出来るようにすることかなあって思って。
でも、紺ちゃんずっとべったりで。亜依ちゃんと話しする時間もなかなかなくて。それでね
、勉強一緒にするのやめよう、とか言い出したわけですよ」
「それならそうと言ってくれればいいのに」
私は、ぐずぐずと鼻をすすりながら、里沙ちゃんを責める。
亜依ちゃんが、横から口を挟んだ。
- 490 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:04
- 「そんな、里沙ちゃんを責めたらあかんて。けんかしてたのうちらなんやし。うちもな、
仲直りせなって、三学期になってからは毎日おもっとってな、思うんやけど、なんか、いき
なり教室行って、仲直りしよ、言うんも変やし、どうしよー・・・思ってたから、里沙ちゃ
んには助けられたは。ありがとな」
それは、たしかにそうなんだけど。
でも、やっぱりなんか、里沙ちゃんは責めたい。
- 491 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:06
- 「びっくりしたんだもん。厳しく教えすぎたかな? とか、やっぱり余所に行こうと考え
てる子はいやかなとか。一瞬でいろいろ考えたんだから」
「ごめんね」
また里沙ちゃんに抱きとめられる。
もう顔はぐちゃぐちゃ、たぶん。
しばらく頭をなでられて、やっと落ち着く。
呼吸も落ち着けて、私は顔を上げた。
- 492 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:07
- 「紺ちゃん泣きむしすぎ」
「そんなんじゃ、神戸の学校なんか行かれへんよ。ここにおった方がええって」
「それとこれは別だもん」
「やっぱ向こう行くんか?」
亜依ちゃんが真面目な顔になる。
私を見ている亜依ちゃんの顔は、なんとなく見れずに、ちょっと視線を落として答えた。
「まだ、決めてない」
「そっか」
それ以上は突っ込んで来なかった。
- 493 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:07
- 「久しぶりに、三人で帰ろっか?」
ちょっとはにかんだ笑顔を見せながら亜依ちゃんが切り出す。
それに、里沙ちゃんが首を横に振って答えた。
「二人で先帰りなよ」
「なんで? 勉強まだするんか? じゃあ、まっとるって」
「ううん。一人でやらせて。一人で頑張るって決めたの」
里沙ちゃんは真剣な表情。
亜依ちゃんは不満そうだった。
- 494 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:08
- 「紺ちゃんには本当に感謝してる。助けてくれてうれしい。だけどさ、置いていかれたくな
いの。助けられっぱなしで、自分じゃ何も出来ないっていうのは嫌なの」
「そんな、気にすることないよ。里沙ちゃん、自分の力で頑張ってるよ」
「ううん。今のままだとさ、もし、高校行けたとしても、なんとなく負い目感じちゃうの。
助けてもらうばっかりだから。それで、ちょっとでも紺ちゃんの力になりたくてさ、どうした
らいいかな、って考えて、亜依ちゃん引っ張り出してきたんだけどさ」
置いていかれる、とか、負い目、とか、私にはあんまりよく分からない。
だけど、里沙ちゃんの顔は真剣だった。
- 495 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:09
- 「仲直りして欲しい、っていうのは私の望みだったから、紺ちゃんの助けになった、って
いうのとは違うかもしれないけど、でも、私としては、これが精一杯」
うれしかった。
亜依ちゃんと仲直り出来て。
もし、里沙ちゃんがいなければ、ずっとずっとけんか別れしたままだったかもしれない。
「お礼言わなあかんな、うち。里沙ちゃんに」
「ううん、間にいる私が、もっとはやくなんとかしてなきゃいけなかったんだよきっと」
「私達、お互い意地はりすぎてたもんね。ありがと、里沙ちゃん」
改めてお礼を言う。
私の素直な気持ち。
- 496 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:10
- 「それでね、お願い、やっぱり一人で勉強したいの」
里沙ちゃんは、私の方を見て言った。
「なんで? 亜依ちゃんと話す口実じゃなくて、そこも本気なの?」
「今まで頼ってといていまさらなんだけど、一人で乗り超えたいんだ。それに、紺ちゃんは
自分のこと頑張って欲しい。さっき亜依ちゃんが言ってたけど、足引っ張りたくない」
「足引っ張るとか、そんなこと」
「そんなことあるよ。そんなことある。私に勉強教える時間を自分のために使って欲しい。
もう、十分助けてもらったからさ、あとは、一人で頑張るよ。だから、紺ちゃんも、自分の道
を探して」
なんて答えればいいんだろう。
私は、ちょっとうつむいて、何も言えなかった。
- 497 名前:第九話 投稿日:2004/05/15(土) 23:11
- 「紺ちゃん、里沙ちゃんの言うとおりにしたったら? こんだけ言うとるんやし」
なんか、寂しいよ、そういうの。
でも、里沙ちゃんの言ってることって当たってるのかもしれない。
里沙ちゃんに勉強を教えるのを言い訳に、これまで、自分と向き合うことをして来なかっ
たのかもしれない。
それは、里沙ちゃんが足を引っ張ったとか、そういうことじゃなくて、私の方が逃げ道に
里沙ちゃんを使っていたってことなのだろう。
その結果が、未だに決まらない進路なのかも。
「ねっ、紺ちゃん」
「うん。分かった」
私は、少し笑ってうなづいた。
- 498 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/05/16(日) 00:15
- 作者さん、乙です。
来週からまた出かけますが、長期出張中の一時帰郷で昨日帰って来ました。
そうしたら新しい書込みに出会って・・・、これってラッキー?
なんか、クライマックスの部分をリアルで読めて感動です。
亜依ちゃんとの仲がずっと気になっていたんですが、
このようなハッピーな結果で満足と言うか、安心しました。
自分の中ではもう少し幸の薄い結果を想像していましたので・・・
(ノД`) 。oO(亜依ちゃんもええ娘や…)
『里沙ちゃん、GJ!』と言いたいです。
実社会でも幼そうな若い娘が、実はしっかりした考えを持っている大人な人だったりして
驚かされる事が有ったりします。今日のお話はそんな体験を思い出させてくれます。
いいお話でした。
次に読むのは多分6月5日位になります。よろしくです。
では
- 499 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/17(月) 20:53
- ・・・・更新乙です。
いいですねぇ!
- 500 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/20(木) 22:28
- 更新待ってます。作者さま、がんばってください!!!
- 501 名前:作者 投稿日:2004/05/24(月) 23:01
- >やじろこんがにーさん
うーん、終わってるかどうかくらいのところですかね。
>499
これからもよろしく
>紺ちゃんファンさん
がんばります。
- 502 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:02
- 二人で帰る。
亜依ちゃんと二人で帰る。
久しぶりすぎて、ちょっとだけ気まずい。
なんか、何話していいのかよく分からない。
「なあ、それで、結局まだ、どうするか決めてないんか?」
亜依ちゃんが切り出した。
やっぱり、この話題なんだ。
「うん。まだ」
私は、亜依ちゃんの方を見ないまま答える。
けんかしたのも、この帰り道だったな、なんて思い出す。
- 503 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:03
- 「うちな、自分じゃ何も出来んけど、結構な、まわりに頑張ってる友達とかおるんよ。
紺ちゃんもその一人やな。うちな、そんな友達見てるの、好きなんよ」
亜依ちゃんには、世界で戦うフィギュアスケーターの友達がいる。
私もその影響で、ちょっと見るようになった。
去年の年末、日本一を決める試合で亜依ちゃんの友達は里田さんって人に負けて二番だった。
亜依ちゃん悔しがってるかな、なんて頭に浮かんだりもしたっけ。
- 504 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:04
- 「遠くへ行かないでって泣いたこともある。紺ちゃんにも言うたしな、納得行かない、な
んて。でも、やっぱり、頑張ってもらいたいなって思うんや。遠くに行かれちゃうのは寂し
い。ずっと近くにいてほしい。そう思うけど、だけど、頑張って欲しいな。紺ちゃんには、
オリンピック出て欲しいな、なんて思う」
「オリンピックって、大げさだよ」
「出られるって! 紺ちゃんなら」
亜依ちゃんは、こういうところでかなーり無責任だ。
オリンピックどころか、練習についていけるかどうかさえ怪しいのに。
- 505 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:05
- 「すっごい嫌やけど、紺ちゃんは向こうの学校に行って頑張った方がええんやろな、って思う」
亜依ちゃんは、こっちを向かずにそう言った。
私は、何も答えない。
なんてこたえていいのか分からない。
亜依ちゃんは、道にころがっている小石を蹴飛ばした。
- 506 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:05
- 「なあ、卒業までに、なんか大会とかないんか?」
「うーん、今度の日曜日にロードレースがある」
「ホンマ? 見に行ってもええ?」
「いいけど、朝早いよ。それにテスト前だし」
「大丈夫大丈夫。テストって言ったって、試験範囲あるわけやないし、直前にどうしよう
もあらへんもん」
今の里沙ちゃんなら、きっと亜依ちゃんよりいい成績取りそうな、そんな気がする。
だけど、それは口にはだせない・・・。
「なあ、うち絶対見に行くから、頑張ってな。優勝してな」
「優勝は、難しいかもしれないけど、うん、頑張るよ」
こういう時も亜依ちゃんはやっぱり無責任だ。
- 507 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:06
- 「久しぶりやな、こうやって帰るの」
「うん」
「後ちょっとかもしれないんやな、こうやって一緒に帰れるのも」
「うん」
私はうつむいて答える。
どうなるかは、全部私の決断にかかってる。
いまだに決められない私の進路に。
- 508 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:07
- 駅に着いた。
二人で階段を上る。
なんとなく、お互い無口になっていた。
亜依ちゃんは、何を考えているんだろう。
私は、隣にいる亜依ちゃんと、図書室にいる里沙ちゃんと、これからのことと、いろいろ
なことを考えていた。
改札に定期を通す。
目の前には亜依ちゃんの背中がある。
赤いチェック柄のリュックを背負った亜依ちゃんの背中がある。
- 509 名前:第九話 投稿日:2004/05/24(月) 23:07
- 向こうに行こうってほとんど思ってた。
だけど、だけど、捨てられないよ。
捨てられない。
「じゃあ、また明日ねー」
「ばいばい」
手を振って、亜依ちゃんが電車に駆け込んで行った。
また明日。
明日もきっと、亜依ちゃんは隣にいる。
- 510 名前:第九話 迷い道 終わり 投稿日:2004/05/24(月) 23:08
- 私の方の電車もホームに入ってきた。
ドアが開き、人が降りてきて、それから乗り込む。
ほとんど向こうに行こうと思ってた。
れいなちゃんに会って、柴田さんに会って、速くなりたいって思った。
速くなるために、行こうと思った。
だけど。
亜依ちゃんと一緒にいたい。
里沙ちゃんと一緒にいたい。
だけど、そうしたら、向こうに行くことは出来なくて・・・。
どうしよう・・・。
決められないよ。
分からないよ。
どうしよう・・・。
- 511 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/25(火) 15:05
- あぁ・・・・
こんこんの苦悩・・どんな決断を
- 512 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/05/25(火) 18:58
- ああ・・・紺野さんはこの後どんな決断を・・・。
続きを待ってます。私の希望どうりになれば・・。
ハッピーエンドor?????←(どっちでしょう?)
- 513 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/05/29(土) 18:40
- 作者さん、乙です。
昨日帰って来ました。
淡々とすすむ駅の描写、その中に挿入される紺野さんの心の言葉・・・
ひとが悩み考える時って、まさにこんな感じですよね。
なんだか悩み深い頃の自分を思い出させるせつなさを感じました。
紺野さんも亜依ちゃんも里沙ちゃんも、みんなハッピーになって貰いたいものです。
では
- 514 名前:Assy 投稿日:2004/05/30(日) 16:51
- がむばれ!こんこん!!
こうやって一歩ずつ大人になるんですね。
- 515 名前:作者 投稿日:2004/05/30(日) 22:38
- >511
さて、どんな決断でしょう?
>紺ちゃんファンさん
どんな希望だろう・・・。
>やじろこんがにーさん
さてさて、みんなどうなるでしょうか?
>Assyさん
一歩づつ、どこまで昇っていくでしょう
ということで、最終話に入ります。
終わりに近づいて、何、口走るか分からないので、作者としてしゃべるのは、完結までではこれが最後にします。
作者は先知ってますからね。べらべらしゃべると危険が大きいもので。
読者さんは、自由に書きこんでくださいね。
- 516 名前:最終話 初めての決断 投稿日:2004/05/30(日) 22:38
- もう、時間がない。
平家先生に決められたタイムリミットはあさって。
私はまだ迷っていた。
- 517 名前:最終話 投稿日:2004/05/30(日) 22:39
- どうしても、どうしても決められなくて、私は初めてお母さんに相談した。
帰って来た答えは、「あさ美が自分で決めなさい」だった。
「それが出来るくらいなら、もう、とっくに決めてるよ」
私がそう言うと、お母さんは笑う。
「あさ美。お母さんは、たぶん、あさ美がどっちに決めるかは聞いてて分かった。自分で
気づいてないだけで、あさ美は、もう決めてるのよ。とろいからわかってないだけで。大丈
夫。自分に自信を持って、あさ美が、自分の考えで決めれば、お母さんはちゃんと賛成して
上げるから。お父さんは分からないけどね」
そう言って、お母さんはまた笑う。
- 518 名前:最終話 投稿日:2004/05/30(日) 22:40
- 「お父さん、あさ美のいないところでいっつもその話してるのよ。気になってしょうがな
いみたい。須磨学院行っちゃったら、寮暮らしだもんねえ。寂しがって泣き出したりするか
も」
はぁ・・・。
お父さんは扱いがめんどくさい。
他の理由とかいろいろ抜きにして、須磨学院で寮生活してやろうか、なんてちょっとだけ
思った。
結局、お母さんは私を助けてくれる気はないらしい。
自分で決めろと突き放されただけ。
でも、どっちに決めるか分かってるって、お母さんはどっちだと思ってるんだろう。
- 519 名前:最終話 投稿日:2004/05/30(日) 22:40
- 中学受験を決めたのは私じゃなかった。
歩いて通える公立の小学校に通っていた私は、その頃から成績はそれなりに良かった。
おっとりした感じのする私に、あとあとになって高校受験とか大学受験とかさせるのは大
変そうだろう、とお父さんとお母さんが、私の成績でそれなりに楽に入れる、しかも女子校
、という条件で今の学校を選んできた。
そんな私が、競争がメインのスポーツの陸上部に入って、それでそれなりに速くなって、
よその高校から誘われるなんて、なんか皮肉。
陸上なんかやらなければ、今頃のんびりと暮らせてたんだろうなあ。
まあ、里沙ちゃんのことはあるけど。
- 520 名前:最終話 投稿日:2004/05/30(日) 22:41
- 親に勧められて入った中学校。
なんとなく、一人でマイペースなとこが気にいったってだけで気楽に選んだ陸上部。
別に選んだわけじゃなくて、いつの間にか気持ちがつながっていた友達。
考えて考えて決めたことなんか、一度も無い。
でも、私は、一人で決めなくちゃいけないんだ。
- 521 名前:最終話 投稿日:2004/05/30(日) 22:41
- 夜中、ベッドの中。
明日はロードレースに出るというのに眠れない。
亜依ちゃんの顔、里沙ちゃんの顔、先生の顔、友達の顔。
校庭、図書室、陸上競技場、学校近くのコロッケ屋さん。
体育祭、林間学校、期末テスト。
いろんなことを思いだす。
柴田さん、れいなちゃん、京都の駅伝コース、須磨学院のグラウンド。
新しい暮らしの中で目指すかもしれないもの。
私は、どこへ進んで行くのだろう。
- 522 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/05/30(日) 23:05
- 作者さん、乙です。
今日も一番にレス(^-^)
お母さんの反応が意外だった。
「わかってる」って・・・、私にはわからない、まるで父親そのものな自分を感じる。
何事も自分の意思でなかったと回想する紺野さん。
素直な子供はみんなそうだと思う。それがいい事か悪い事かはわからない。
ただ、紺野さんにはあまり苦労な道を歩んで欲しくない。
こんな感情が父親そのものなのだろう。
作者さん、ラストスパート頑張ってください。
では
- 523 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/05/31(月) 00:54
- 更新乙です
自分もお母さんみたいに子供を理解してやれるのかな・・とか思ったり
なんとなく自分が知らないだけで自分の親もこうやって色々心配してくれてたり
したんだろうなと思いました。
たまには電話してみようかな・・・
- 524 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/02(水) 23:12
- 作者さま、更新どうもです。
紺ちゃん・・・もう後がないぞ!!
どっちを選ぶ!?
続き待ってます。期待大です。
- 525 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:46
- ロードレース大会のある朝は早い。
なんで、陸上関係の大会っていつも朝が早いんだろう、と疑問に思うけど、眠い目をこす
りながら会場へ向かった。
この地域では一番大きなロードレース大会。
グラウンドの広い中学校が中心会場。
中学や高校の有力選手は大体集まってくる。
チームメイトに囲まれているれいなちゃんの姿もあった。
- 526 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:47
- 「紺野さん! 勝負ですね」
チームメイトから抜け出して、れいなちゃんが駆けよって来て言った。
「勝負って、私れいなちゃんに勝ったことないよー」
「でも、県内じゃ紺野さん以外に負ける気しないし」
「強気だなー」
軽く手を振って別れる。
もし、れいなちゃんに勝てたら、須磨学院に行くことにしようかな。
そんなことを思いながら振りかえると、れいなちゃんの後ろ姿があった。
勝ちたい、そう思った。
- 527 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:47
- 一二年生の子達と合流して、着替えてアップ。
優勝して下さい、とか勝手なことをみんな言っている。
自分も頑張れ! とか言っても、この子達はあんまり真に受けてくれない。
一人くらい、先輩においつきたい、とか言ってくれる子が欲しいんだけどな。
小学生の部が終わって、中学女子の部が始まる。
スタート位置に向かうと、亜依ちゃんの姿が見えた。
約束通り見に来てくれたみたい。
恥ずかしいところは見せられないな、と思う。
- 528 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:47
- レーススタート。
二千五百メートルのコースを二周する。
百人以上の参加者の中から抜け出し、私は先頭集団に付いた。
集団は、私、れいなちゃんとそのチームメイト二人、さらに、この前の合宿で一緒だった子の五人。
その中でも先頭を引っ張るのはれいなちゃんだった。
力としては多分、れいなちゃんが一枚も二枚もこの中では上。
ついて行くのに必死な周りのメンバーを、一人余裕の表情で様子を見ている。
なんとか、この状態のまま一周目を終えた。
- 529 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:48
- 残り半分。
まだ足は動くけど、多分最後までこのままいくのはきつい。
私はれいなちゃんの左後ろの二番手につく。
勝てるとはとても思えない。
だけど、勝負してみたい。
二周目に入って五百メートルくらいのところで、亜依ちゃんの声がした。
「紺ちゃんがんばれー! いける! いけるて!」
無責任なこと言って! とチラッと思ったけど、私は、いってみることにした。
- 530 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:49
- 残り約二千。
思い切ってスパートをかけてみる。
体半分れいなちゃんの前に出た。
このまま、このまま。
そう頭で繰り返し、加速する。
振り返りはしない。
それでも、れいなちゃんの息遣いが背中からはっきりと聞こえてくる。
離れない。
背中にいるれいなちゃんのプレッシャーが私を襲う。
苦しい。
離したい。
だけど、差が広がることはなかった。
- 531 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:49
- 残り約二千。
思い切ってスパートをかけてみる。
体半分れいなちゃんの前に出た。
このまま、このまま。
そう頭で繰り返し、加速する。
振り返りはしない。
それでも、れいなちゃんの息遣いが背中からはっきりと聞こえてくる。
離れない。
背中にいるれいなちゃんのプレッシャーが私を襲う。
苦しい。
離したい。
だけど、差が広がることはなかった。
- 532 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:49
- 膝に手を付いて息を整える。
負けた・・・。
力どおりと言えばそうなんだけど、悔しい。
勝ちたい。
もっと速くなりたい。
- 533 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:50
- 顔を上げると、左手を腰に当て右手のタオルで顔を拭いているれいなちゃんの姿が目に入った。
目を合わさないように、うつむいたけど、れいなちゃんは私に気がついて、こっちに向かってきた。
「あせりましたよー。いきなりスパートするんですもん。でも、つぶれてくれて助かりましたー」
私は、答えを返さずにちょっと睨みつける。
だけど、れいなちゃんはまったく気にしない風だった。
「ホント勝てて良かったー。あっ、みんな戻ってきたんで行きますねー」
れいなちゃんは、余裕のある風に一人でしゃべり倒して、勝手に去って行った。
- 534 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:50
- むかつくー!!!
絶対勝ってやる!
次、絶対勝ってやる!
もっと、もっと、速くなる。
絶対、速くなる!
- 535 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:51
- 「紺ちゃん、おつかれさーん」
駆け寄ってきたのは亜依ちゃんだった。
「惜しかったなあ。いきなりスパートかけて、トップで帰ってくるんか? って、むっ
ちゃ期待したんやけどなあ」
私は顔を上げる。
亜依ちゃんの笑顔が正面にある。
その向こうに、れいなちゃんの背中が見えた。
「私、もっと速くなりたい」
れいなちゃんの背中を見ながら言った。
- 536 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:51
- 「決めた。須磨学院に行く」
決めた。
決めたんだ。
もっと速くなる為に、私は、須磨学院に行くことにする。
亜依ちゃんも里沙ちゃんも好きだし、ずっと一緒にいたいけど、でも、決めた。
決めたんだ。
- 537 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:51
- 「そっか。決めたんか」
亜依ちゃんがつぶやいた。
私の顔を見てくれなかった。
「やっぱそうやろなあ。そうおもっとった。紺ちゃん、走ってる時が一番かっこええもん。
うん。それがええんやと思う。うん」
そう言って、亜依ちゃんはグラウンドの砂利を蹴っ飛ばした。
- 538 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:52
- 「ごめん」
「あやまることやないし。しょうがないよ、寂しいけど。しょうがないよ」
次々と選手がゴールしてくる。
ようやく、後輩達もゴールしはじめてきた。
「ありがとね、わざわざ来てくれて。そろそろみんなのとこ行かなきゃ」
「紺ちゃん、どこ行っても頑張ってや」
「ごめん」
「だから、あやまることやないから」
- 539 名前:最終話 投稿日:2004/06/04(金) 23:52
- 亜依ちゃんは、手を振って帰って行った。
なんだか、その背中を見送っていたら、ものすごく寂しく感じられた。
後輩達がいるのに、一人ぼっちになったような、そんな気がした。
- 540 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/05(土) 13:19
- これで終わりですか?
う〜ん・・・。そうか・・・。
亜依ちゃん、やさしいですね・・・。
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/05(土) 20:40
- えっ?これで終わり?
- 542 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/05(土) 23:22
- おつかれっす。
できれば続きで須磨学園編を期待します。
- 543 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/06(日) 04:27
- >>540
>>541
>>542
おまえらあほだろ。
- 544 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/06/06(日) 04:42
- 作者さん、乙です。
脱稿おめでとうございます。長い間ご苦労様でした。m(_ _)m
亜依ちゃん越しに見えるれいなちゃんの後姿を見て、突然心が決まる紺野さん。
でも、その突然な決心が、すごく自然に感じるのは何故だろう?
「初めての決断」というタイトルがぴったりなお話でありラストでした。
紺ヲタという枠を外してみても、味のある良い青春物語でした。
リアリティのある細やかな競技風景の描写、
それでいて肝の部分はさらりと書き上げる中に深みを出す。
そんなところが好きでした。
飼育さんがおっしゃるとおり、須磨学園編が始まるとうれしいです。
では
- 545 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/06/06(日) 04:44
- >>543
そうか、”今日はここまで”ってなってるな。 もうすこし続くのかな?
どちらにしてもラストは近い・・・なんかさみしい・・・
- 546 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/06/07(月) 22:16
- みやさん。
更新お疲れ様でした。
保存作業も進ませていただいております。
とこですが、531と532が同じ文で、続く533と微妙につながっていないような気がします。
もし、同じ文の繰り返しでしたら、申し訳ありません。
続きがあるようでしたら楽しみに待ってます。
- 547 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/06/07(月) 22:18
- みやさん。
申し訳ありません。
誤 り:531と532が同じ文で、続く533と微妙につながっていないような気がします。
正しい:530と531が同じ文で、続く532と微妙につながっていないような気がします。
です。
- 548 名前:作者 投稿日:2004/06/09(水) 22:24
- 完結まで作者として出てこない、と言いましたが、さすがにこれはひどいので。
>ななしのよっすぃ〜さん
ご指摘の通りです。
微妙にと言うか、まるでつながってないですね。
531を無しにして、次の549レスの文を入れて下さい。
なんだったんだ? と読み進んでここまで来た人に解説しておくと、
530で、紺野さんがスパートをかけたのですが、531にあたる549で、へばって、抜かれて行きました。
その結果、532の悔しい、というセリフにつながって行くわけです。
いまさら、ここまで読んで来てそんなこと言われても困りますよね(笑泣)
ちゃんとした形になった、ななしのよっすぃ〜さんのホームページで、読み直して下さい(笑)
人様のページを貼っていいのか分かりませんが・・・
http://kuni0416.hp.infoseek.co.jp/text/index.html
549に531対応文の補正を入れ、550を切って、551から本編つづきです。
- 549 名前:最終話 補正分 投稿日:2004/06/09(水) 22:26
- 足と呼吸と腕と、全部限界でペースを落とす。
すぐにれいなちゃんに並ばれた。
並んで、こっちを見ている。
私は、荒い息遣いを隠すことが出来なかった。
れいなちゃんは、そのまま私を抜き去って、一人、差を広げて行った。
まただ。
また、勝てない。
れいなちゃんの背中がどんどん遠ざかって行く。
しばらくして、一人、また一人と私をかわしていった。
スパートで力を使いきった私は、結局その後も抜かれ続けて七番でゴールした。
- 550 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:27
-
******************************
- 551 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:28
- 次の日、学校へ行く。
今日は卒業試験。
一日で五科目のテストを受ける。
里沙ちゃんの運命が決まる日。
そして、私も先生に報告しなきゃいけない。
須磨学院に決めたって。
だけど、一晩寝たら、やっぱりここにいようかな、って気にもなる。
なんにしても、今日という日が憂鬱だった。
- 552 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:29
- 一科目終わるごとに、里沙ちゃんが報告にやってくる。
英語、まずいかも。
数学、結構出来た、いけるかも!
国語、まあまあ、漢字は出来なかった。
そうしてお昼休み。
微妙に憂鬱そうな感じな里沙ちゃん。
私は私で、あいまいに答えを返すことしかできない。
今ならまだやっぱりここにいる、と言うことも出来る。
でも、先生に報告しちゃったら、もう、引っ込みはつかない。
- 553 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:29
- 「紺ちゃん、紺ちゃん」
「へ?」
「へ? じゃないよ。どうしたの? ぼーっとして。まあ、よくあることだけど」
私はお弁当を前にしながら頬杖をついて里沙ちゃんを見ていた。
見ていたけど、里沙ちゃんに視点はあっていなかった。
「私、ダメだったらどうしたらいいのかなあ? よその学校受けなきゃいけないんだよね」
「とにかく、後二科目がんばろ。あれだけ勉強したんだから」
「こわいよー」
里沙ちゃんを励ましている間は、自分のことは横においておけた。
- 554 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:30
- 午後、理科と社会。
最後の社会が里沙ちゃんにとって一番の難関。
自分の答案を完成させて私は、一つ右の列で三つ前の席に座る里沙ちゃんのことを見ていた。
頭を抱えたり天井を仰いだり忙しい。
頑張れ、里沙ちゃん。
試験が終わる。
一番後ろの子が答案を集めて行った。
里沙ちゃんの方を見ると、力尽きて机に突っ伏していた。
おつかれさま。
頭の中でつぶやく。
- 555 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:30
- テストが終わり帰りの学活も終わる。
平家先生は、教室から出て行きがてら、掃除が終わっても里沙ちゃんに教室に残っている
ように言った。
それから、さらに、私には、掃除が終わったらすぐに来るように言った。
教室の机を後ろに片して掃除をする。
里沙ちゃんはほうきを持ったまま教卓に座って、教室を眺めている。
「終わったね」
私もほうきを抱えて隣に立つ。
掃除は、ちょっとさぼり。
- 556 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:32
- 「なんか、ぽわーっとしてる」
「ぽわー?」
「うん。ぽわーってかんじ」
里沙ちゃんはそう言って教室の真ん中くらいの空間を見つめている。
口をちょっと開けて、だるー、ってかんじ。
「終わったや、とりあえず。なんか、もう、結果はどうでもいいって感じ」
「どうでもいいの?」
「よくはないんだけどー、眠いし」
「眠いんだ」
「あー、でも、これでダメだったらやだなー」
「どうでもよくないんじゃん」
「ホントだ」
里沙ちゃんは、声を上げて笑っていた。
私は、クラスメイトとの視線を受けて、ほうきをとりあえず動かしてみる。
掃除にはなってないけど。
- 557 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:32
- 「紺ちゃん、ありがとね。なんか、いろいろつきあわせちゃって」
「うん。楽しかったよ、結構。勉強教えるのって」
「紺野先生がたよりでした。家庭教師だったらたくさんお金払わなきゃいけないとこだったよね」
「じゃあ、今度帰りにクリームコロッケおごってよ」
「おっけー」
里沙ちゃんは教卓から飛び下りて、両手を広げて体操選手みたいな着地を決めた。
そのままほうきをかついで窓際へ。
私もついて行く。
- 558 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:33
- 「昨日どうだったのー」
「七番だった」
「そっか」
窓の外に見えるのは南館の建物。
午後の光も差しこんでくる。
私は、里沙ちゃんの方を見た。
「報告があります」
「はい」
里沙ちゃんもこっちを向く。
私は、ほうきを両手で持ち体の前においた。
- 559 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:34
- 「須磨学院に行くことにしました」
「決めたんだ」
「決めました」
言ってからため息をつく。
はぁ・・・。
なんとなく、自分がここを離れて行くんだ、という実感は無い。
「いつ決めたの?」
「昨日。昨日走り終わって、なんか、テンション高い間に思わず亜依ちゃんにそう口走っ
てたの」
「なんか、紺ちゃんらしい決め方だねー」
「なんでー? そうかなー?」
「だって、そうだよー。ずっと迷って決められなくてさあ、それが、なんかの弾みで決ま
っちゃうの。それで、決めてから、あーでもやっぱりどうしよーとか言うの」
「そんなことないよー」
「あるって、そんなこと。ご飯食べる時とかそうじゃんいつも。帰り道のコロッケやさん
もさあ、注文してからやっぱりあっちが良かったかなあ、とか言ってるし」
そういえば、そんなこともあったかも。
- 560 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:35
- 「でもさ、大体、買って手に入れたコロッケはおいしいおいしいって満足して食べてるよね」
「だって、おいしいもん・・・」
「なーんかさ、紺ちゃんって結局迷った時はどっち選んでもそれなりに満足してる感じがする」
「うーん、そうかなあ?」
「そうだよ、きっと。だから、大丈夫なんだよ紺ちゃんは、どこへ行っても」
里沙ちゃんは、そう言って笑ってくれた。
- 561 名前:最終話 投稿日:2004/06/09(水) 22:35
- 「でも、残される方は寂しいんだぞー」
「ごめん」
「これから誰が宿題やるんだよー。高校行けたら勉強から開放されて、宿題とかは全部紺
ちゃんにやってもらおうと思ってたのにー」
「どうせ、どうせ、私の存在価値なんて、そんなもんだよー」
とりあえず、泣きまねをしてみる。
「ふたりー。最後の机運びくらい手伝ってよー」
「ごめーん」
怒られた・・・。
私も里沙ちゃんも、机並べだけはちゃんと手伝った。
- 562 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/11(金) 12:19
- まだ早いんでしょうが、泣けてくる・・更新待ってます
- 563 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/11(金) 19:59
- ああ・・・ついに紺ちゃん、決めたか・・・
562>名無飼育さん 気持ち、とってもよくわかります。
まだ早いんだろうけど、泣けてくる。
私もそんな気持ちです。
- 564 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/06/13(日) 07:49
- みやさん。
更新お疲れ様です。
補正分の訂正もありがとうございます。
最終話も残りわずかですが、楽しみに更新を待ってます。
追伸:中学に入学したばっかりだった、加護ちゃん・辻ちゃんの出会いからもう3年。
中学校を卒業する時期に…。感慨深いものを感じます。最後まで楽しく読ませていただきます。
- 565 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/06/14(月) 06:44
- 作者さん、乙です。
「なーんかさ、紺ちゃんって結局迷った時はどっち選んでもそれなりに満足してる感じがする」
決断できない紺野さん、弱弱しい精神の紺野さんが、実は一番力強い精神の人だったんですね。
そんな紺野さんの強さを見抜き断言する里沙ちゃんはすごいと思う。
人の賢さは成績じゃないなと改めて思いました。
何気ない会話の中に、人の本質とか真理とか・・・うまくいえませんが、そんなものが盛り込まれていて
楽しめました。 ありがとうと言いたいです。
では
- 566 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:02
- 掃除が終わる。
私は、平家先生が待つ職員室へ。
やっぱりどきどきする。
私が自分で決めて私が自分で報告するんだよね。
後戻り、出来ないんだよね。
職員室の扉の前、立ち止まる。
- 567 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:03
- やっぱりやめようか。
速くなりたいけど、でも、わざわざここを出て行って一人で暮らすことなんかないかもしれない。
ここにいる、って言えば、後三年間ここで平和に暮らせるんだ。
決心がつかない。
迷ったまま職員室の入り口に立っていると、ドアが開いた。
「なんだ、来てたのか。遅いから呼びに行こうと思ってたら」
出て来たのは平家先生だった。
「生徒指導室行くぞ」
先生が先に歩きだす。
私は、あわててついていった。
- 568 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:03
- 「さて、それじゃ聞こうか。結論」
部屋に入ってすぐ、先生はそう言った。
それから椅子に座る。
座ってからまた言った。
「決まってない、とか言わせないからな」
私はうつむく。
決まってない、というか、決心がつかない。
- 569 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:04
- 「あの、里沙ちゃんの結果はどうだったんですか?」
「それは、紺野の話とは関係無いだろ。あとあと。紺野自身、お前の進路をどうするか。
それをここではっきり聞かせてくれ」
逃げ道はないらしい。
私が答えないでいると、先生も黙り込む。
いっぱいいっぱい考えた。
どうしたいのか、自分がどうしたいのか、たくさん考えた。
まだ、迷いはある。
だけど、私は決断をくだす。
- 570 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:04
- 「須磨学院に行くことにします」
やっぱり、これが私の結論だった。
私がこう言うと、先生は大きなため息をついて、机に伏せた。
それから、顔を上げ私に言った。
- 571 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:05
- 「ほっとしたよ。今日もまだ決められない、って言われたらどうしようかと思った。紺野
が決めたんじゃなくて、時間切れでうちの高等部にそのまま進むとかじゃ情けないもんな。
ホントほっとした。中3の生徒指導でこんなに苦労したのあんたが初めてだよ」
先生は、心底疲れた顔で言った。
私も、椅子の背もたれに深く寄りかかる。
- 572 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:06
- 「本気で速くなるには、そっちの方がいいだろうな。紺野はぼけーっとした顔して、意外
と芯が強いから、どこでもやってけると思うぞ。まあ、レギュラーメンバーになれるかどう
か私には分からないけど、少なくとも、ここで私が顧問やってるよりは、あそこの先生と、
速い選手達と一緒に練習する方が、速くはなるだろ」
「はぁ・・・」
「なんだよ、その顔は。決めたんだろ、自分で」
「まあ、そうなんですけど」
「しゃきっとしろしゃきっと。どっちか選ばなきゃしょうがなかったんだから。まあ、
紺野はどっち選んでもそんな顔したんだろうけど」
里沙ちゃんに言われたのと似たようなことを言われている。
私って、そんなに言われちゃうような顔してるんだろうか?
「まあ、後二ヶ月、よろしくな。あっちの先生に聞いて、紺野の練習メニューも決めるから」
「はい」
それから、願書のこととか、一応ある向こうでの面接とか、そんな話をした。
そんな、手続き的な話をしていると、もう、戻れないんだな、って思った。
- 573 名前:最終話 投稿日:2004/06/17(木) 22:07
- 「じゃあ、三十分位したら、新垣に来るように言って」
「はい」
「紺野もずいぶん勉強つきあったんだろ、あいつの」
「大変でした」
「各科目の先生達に、最初に採点してもらうように頼んでるからさ、紺野も、新垣がいい
って言ったら、一緒に結果聞きに来ていいぞ」
「はい」
私は、生徒指導室を出た。
- 574 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/06/17(木) 23:44
- 作者さん 乙です
紺野さん、言っちゃいましたね。私も須磨に行ったほうがいいと思ってました。
子供のうちは、いや、青年のうちは少しでも可能性があればチャレンジしたほうがいいと思いますよ、
男でも女でも。
なんか最終話を読んでると続きがもっとありそうに思える。
須磨学園に入って、這い上がっていく紺野さんの物語を切望します。
では
- 575 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/20(日) 18:20
- 紺野さん、ついに決心がつきましたか。
これからの続きも、もちろん待ってますが、須磨学園に入学した後の
紺野さんも見てみたいですね。
- 576 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:32
- 教室に戻ると、窓際の席に里沙ちゃんと、それから亜依ちゃんが座っていた。
里沙ちゃんは、頭を抱えていて、亜依ちゃんが何やら話かけていた。
「ただいま」
「先生のとこ行ってきたんやって?」
「うん。報告して来た」
「そっか。ホンマに行っちゃうんやな」
亜依ちゃんはそう言うと窓の外を見た。
里沙ちゃんは、私の方を見ることもなく頭を抱えている。
私は、亜依ちゃんの言葉には何も答えずに、里沙ちゃんに向かって言った。
- 577 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:33
- 「三十分位したら来なさいって」
「紺ちゃん代わりに行って来て」
「ダメ。自分で聞いてきなさい」
ちょっとだけ、最後の先生風を吹かしてみる。
わたしも、自分で行くの怖かったのにな。
自分が全部片付いたからっていい気なもんだ。
- 578 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:33
- 「頼むで里沙ちゃん。里沙ちゃんまでよその学校行くとかなったら、もうやってられんはうち」
「頼むも何も、もう、どうしようもないんだよー。テスト終わっちゃったんだからー」
机にふさぎこむ里沙ちゃん。
私は、その横の机の上に座った。
「里沙ちゃん頑張って勉強したもんね」
「したけどー、でもー、社会できなかったし。数学も、使う公式間違えてたの一個思い出
しちゃったよー。だめなんだよもう私、絶対。それで、よその学校受けても全部落っこちて
、中学浪人するんだ。それで住所不定の無職になって、警察につかまって、もうだめだー」
ふさぎこんだまま何やら言っている里沙ちゃん。
私と亜依ちゃんは顔を見合わせて力なく笑った。
- 579 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:34
- 「あれだけ頑張ったじゃん。全然出来なかった社会だっていろんなこと覚えたし、数学だ
って、間違えたのを思いだせる位には分かるようになったんだし、下校のチャイムが鳴るま
で図書室で頑張って勉強したの先生達だって知ってるよ。もしダメだったらさ、先生にお願
いしよ。追試でも課題でも何でもやるから進学させてって」
「そや、あんなに勉強して塾も行って、がんばっとったやん。うちは何にもしてあげられ
んかったけど」
「ダメ、もう私ダメ」
里沙ちゃんは、もう何を言っても受け付けなかった。
- 580 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:34
- 私は、ぼんやりと窓の外を見る。
見慣れた校舎がある。
制服を着てロータリーを歩いて帰って行く子達がいる。
机から立ち上がり、里沙ちゃんからはちょっと離れた所にある窓を開けた。
冬の風が冷たい。
正面には南館、右の方の奥には体育館があって、その隣にはプールが見える。
体育館の向こう側には高等部の校舎がある。
左を見れば中等部の正門があった。
南館の屋上から、吹奏楽部の金管楽器の音色が届く。
私は、ぼんやりと窓の外を見ていた。
- 581 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:34
- 「そろそろ行きなよ里沙ちゃん」
相変わらず机にふさぎ込んだままの里沙ちゃんの背中に向かって言う。
里沙ちゃんはむっくりと顔を上げた。
「一緒に来て」
私は、さっき座っていた机に戻ってまた座る。
- 582 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:35
- 「一人で行ってきなよ」
「やだよ。こわいもん」
「紺ちゃんは行って上げたら。ずっと一緒にやってきたんやし」
「亜依ちゃんも一緒に来てよ」
「うちは、なんもしてへんもん。それに、テストには関わりたくないは。先生んとこ行っ
たら、うちの方が怒られそうやもん」
亜依ちゃんは、そう言って笑いながら、机に両手をぺたっとつけて、その上にあごを乗せ
ていた。
- 583 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:35
- 「紺ちゃん、一緒に来て」
里沙ちゃんは私の左手を取る。
私は、黙ってうなづくしかなかった。
廊下を歩いて階段を下りて職員室へ。
しゃべらないで歩いていると、二人の足音が校舎の中に響く。
里沙ちゃんは、私の左手を握ったままだ。
もしダメだった時、私はどうしてあげたらいいんだろう。
- 584 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:36
- 職員室の前で立ち止まる。
里沙ちゃんはため息をつく。
私が里沙ちゃんの方を見ると、里沙ちゃんは繋いでいた手を放し、職員室のドアをノックした。
「失礼します」
自分で中に入っていけなかった私とは違った。
- 585 名前:最終話 投稿日:2004/06/21(月) 22:36
- 私も後に続く。
里沙ちゃんは、迷うことなく平家先生の机に向かって行った。
「先生」
「おっ、来たな。紺野も一緒か。それじゃ進路指導室行こか」
先生は机に並べられていた答案をぽんぽんとまとめて、立ち上がった。
チラッと見えたその答案は、まるとばつの両方が散っていた。
- 586 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/06/22(火) 20:02
- んぁ〜気になるぅ!!!
真実はなんだ!!
紺ちゃん!ガキさん!作者さま!
がんばれ〜!!
- 587 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/06/22(火) 22:35
- 作者さん 乙です。
「・・・ よその学校受けても全部落っこちて、中学浪人するんだ。
それで住所不定の無職になって、警察につかまって、もうだめだー」
学校の成績はダメでも、世の中の事は良く知っている里沙ちゃん・・・ちょっと面白い。
でいて、最後はしっかり自分で扉を開ける里沙ちゃん。
リアルキャラもそんな様な気がする・・・ちょっとうらやましい。
う〜ん、結末が気になるぅ
では
- 588 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:23
- 進路指導室へ向かう。
平家先生が先頭を歩いて、里沙ちゃんがすぐ後に続く。
里沙ちゃんは、もう、私の手を握ってくることもなかった。
「確認な。新垣は、これまでのテストの点数が厳しい。だから、今回良い点数をとって、
平均で40点を超える必要がある」
「はい、わかってます」
席に着くなり先生は切り出した。
平家先生の正面に里沙ちゃんが座る。
私は、里沙ちゃんの右側に座った。
- 589 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:24
- 「それぞれ何点取れば良いかは頭に入ってる?」
「はい。英語は21点、数学は37点、国語は37点あればもうよくて、理科は54点、
社会で63点必要です」
「よし、じゃあ、一つ一つ答案返して行くから」
「はい」
里沙ちゃんはしっかりとうなづいた。
なんだか、私の方がドキドキして来た。
- 590 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:24
- 「まず、英語。これは53点で問題無しな。それに数学も、61点。数学なんかは、平均
点行ってるんじゃないかって言ってたぞ。まだ、全員分の結果が出てないから、分から
ないけど」
里沙ちゃんの前に二つの答案。
比較的得意だった二つはまったく問題無し。
答案を見つめている里沙ちゃんの横から私ものぞき込む。
「あー、やっぱり三平方間違えてたー。斜辺じゃないとこ斜辺にして計算してるー」
あっ、最後の問題、私間違えてた。
そっか、相似を二回使えば出来たんだ。
里沙ちゃんの答案の方から、私が学んでしまう。
- 591 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:25
- 「次は国語か。結構危なかったなあ。漢字で確実に取ればもうちょっと楽なんだよ」
里沙ちゃんの前には50点の国語の答案が置かれた。
漢字は、範囲が広すぎるから捨てよう、と私が提案したんだけど、10問中2問しか出来
てないのは予定外だった。
「理科はよく出来てたな。まあ、平均点70点くらいになるように問題作ったし、あたり
前なんだけど」
平家先生が担当した理科の答案。
選択問題が多くて、里沙ちゃんは62点を取っていた。
- 592 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:26
- 「さて、最後に社会。覚悟はいいか?」
「ちょっとまって。ちょっと待ってください」
里沙ちゃんは両手を合わせて額につけ祈り始める。
一番問題の社会。
冬休みあたりからひたすら覚えて覚えて覚えてもらった社会。
里沙ちゃんは祈っている。
「ええか、そろそろ」
「ちょっとまって、待ってください」
祈りの姿勢のまま、里沙ちゃんは二回深呼吸した。
「はい」
祈りを終えて、里沙ちゃんは平家先生を見つめる。
先生は、よし、と一言言って、答案を里沙ちゃんの前に差し出した。
- 593 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:26
- 「おめでとう新垣」
71点、そう示された答案が里沙ちゃんの前に置かれた。
「やったー!!!」
里沙ちゃんはそう叫び両手を突き上げた後、私に抱きついて来た。
「ありがとう、ありがとう。紺ちゃんホントありがとう」
里沙ちゃんは、結構強い力で抱きしめるからちょっと苦しい。
そんな私達を、平家先生は優しい目で見ている。
私は、里沙ちゃんの背中に腕を回すと、なんだか、急に涙が出て来た。
- 594 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:27
- 「紺ちゃん、そんな、泣かないでよー」
私の体から離れた里沙ちゃんが言っている。
私は、私は・・・。
「ここにいたい。ずっとここにいたいの」
それだけ、一言だけ必死に言った。
「紺ちゃん?」
「やだ。よその、よその学校なんか、行きたくない」
鼻をすすりながらしゃべる。
頭の中はぐちゃぐちゃ。
なんで、泣いてるんだろう。
- 595 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:27
- 「紺野」
平家選先生が呼びかけてる。
もう、なんだか分からないよ。
やだよ。
「紺野」
「はい」
ぐちゃぐちゃになりながら、私は答えた。
「紺野。速くなりたいんだろ」
「はい」
「頑張るって決めたんだろ」
「はい」
泣きながら答える。
頭では分かってるんだ。
だけど、だけど・・・。
- 596 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:28
- 「紺野がここにいたいというならここにいてもいい。だけど、陸上部の顧問としては、
私は紺野にとって良い先生ではいられないと思う。自分で力不足だと思う。速くなりたい
なら須磨学院に行け。なりたくないならここにいろ。自分で決めろ。紺野はどうしたいん
だ」
少し落ち着いた私は、顔から手を離す。
里沙ちゃんがハンカチを渡してくれた。
「紺ちゃん。これ」
ハンカチで涙を拭った私の前に、里沙ちゃんが何かを差し出した。
- 597 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:28
- 「誓ったじゃん。ずっと友達って」
里沙ちゃんが取り出したのは、スーパーボールだった。
夏祭りの日に誓ったスーパーボール。
「これがあると、なんか頑張れる気がした。ありがとね、紺ちゃんいろいろ。今度はさ、
紺ちゃんが頑張ってよ。寂しいけど応援するからさ」
私は涙を拭きなおす。
ちょっと鼻をすすりながら顔を上げた。
「改めて聞こうか。紺野はどうする?」
- 598 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:29
- ハンカチを置く。
私の気持ちは決まっていた。
どうしたいのかは、ずっとまえからわかっていたのかもしれない。
私が弱いから迷っていただけで。
100%迷いが無いかと言われるとそんなことはないのだけど。
だけど、決まっていた。
- 599 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:29
- 「ずっとここにみんなと一緒にいたい。だけど、速くなりたいから、私は須磨学院に行き
ます」
もう、後戻りはしない。
後悔は、どっちを選んでも絶対するし、高校に入ってすぐの頃は、まちがいなく寂しいな
あって思っちゃうだろうけど、でも、私は、須磨学院に行くことにした。
「頑張って、紺ちゃん」
「うん」
涙目だけど、笑って答えられた。
- 600 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:30
- 私達は、進路指導室から出た。
「やったー!!! 高校行けるー!!!」
廊下に出たとたん、里沙ちゃんがジャンプして叫ぶ。
答案は、みんなと一緒に改めて返すって、先生が回収して手ぶらだから、はしゃぎ回っても全然平気だ。
「もう、ホントありがと。紺ちゃんいなかったら、今ごろ私は住所不定無職になってたよ」
無職はともかく、住所不定の意味分かってるのかなー?
なんて思いながら、はしゃいでいる里沙ちゃんを見ていた。
- 601 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:30
- 「ねえ、亜依ちゃんだましちゃおうよ」
階段を上ってる時に里沙ちゃんが言い出した。
「紺ちゃん目が赤いしさ、暗い顔して入っていけば、絶対引っ掛かるって」
「やっちゃいますか?」
「やっちゃいましょう」
私達のクラスがある階まで上るとちょっと立ち止まって顔を見合わせる。
それから、うつむいて歩きはじめた。
- 602 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:31
- 教室にたどり着くと、里沙ちゃんはハンカチで顔を覆う。
里沙ちゃん悪乗りしすぎ、とか思いながらも、私は里沙ちゃんの肩を抱いてみた。
「どうしたん? 里沙ちゃんどうしたん?」
「亜依ちゃん・・・」
里沙ちゃんは、言葉を詰まらせて亜依ちゃんに抱きつく。
亜依ちゃんは、ものすごい不安そうな顔で私の方を見た。
私は、少しうつむきながら、首を横に二回振った。
- 603 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:31
- 「うそや。そんなんうそやて」
自分に抱きついている里沙ちゃんに目をやってから、もう一回私の方を見る。
私は、もう一度首を横に二回振る。
そろそろ、笑いをこらえるのがつらくなってきた。
ひどい奴だ、私って。
「里沙ちゃん・・・」
亜依ちゃんは、里沙ちゃんのことを見ながらつぶやいた。
それを聞いて、里沙ちゃんが顔を上げる。
- 604 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:31
- 「オッケーだったよー! 進学できるよー!」
亜依ちゃんはぽかんと口を開けてはしゃぐ里沙ちゃんを見てから言った。
「だましたなー!」
「いえーい! ひっかかったーひっかかったー!」
「あー、もうむかつくー! まてこの嘘つきー!」
逃げる里沙ちゃんを亜依ちゃんが追いかける。
私も同罪なんだけど、笑って見ていた。
- 605 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:32
- 机と椅子をいくつか倒しながらのおいかけっこは、教卓の後ろで里沙ちゃんがつかまって終わった。
亜依ちゃんは里沙ちゃんにヘッドロックをしている。
「ギブ、ギブ、ギブアップ」
「二度とだましたりしないか?」
「しない。しないから」
教卓をバンバン叩く里沙ちゃんが、なんだか可愛かった。
- 606 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:33
- 「まあ、ええは。進学決まったんならそれで。おめでとう里沙ちゃん」
「ありがと。でも、ホントばっちりだまされたよねー」
「そんなん、あのシチュエーションはみんなだまされるて」
私は、どうやら無罪ですみそうだ。
倒れたいくつかの椅子と机をおこす。
こんな時間は、なんだか結構好きだった。
「帰ろっか」
「そやな。帰りコロッケおごったるよ」
「ホント?」
「合格祝い。うち、なんもしてへんから」
そんな二人のやりとりを聴きながら、私は自分のカバンを抱えた。
- 607 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:33
- 「私、練習行くね」
「そっか、今日も練習か紺ちゃん」
「うん。がんばらなきゃ」
里沙ちゃんが、教卓の所から私の方へかけてくる。
「ありがとね、紺ちゃん」
「里沙ちゃんおめでとう」
「うん。紺ちゃんも頑張って、練習」
「うん」
亜依ちゃんも、こっちに歩いてくる。
「頑張りや」
「うん。また明日ね」
「バイバイ、また明日」
「明日ね」
私は教室を出た。
- 608 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:34
- こんな時間も、もう二ヶ月しか残っていない。
こんな風に過ごすことが出来る時間は、もう二ヶ月しか残っていない。
大好きな里沙ちゃんに亜依ちゃん。
大好きな学校。
だけど、私は、須磨学院に行く。
速く走れるようになるために。
- 609 名前:最終話 投稿日:2004/07/03(土) 00:34
- 私が十五年の人生の中で、初めて自分で決めた決断。
正しいのがどうか、そんなことはわからない。
知らない町に行くこと、知らない人達の中に入ること、レベルの高い人達と練習すること。
全部怖い。
新しい学校へ行って、友達が出来なかったらどうしよう・・・。
わざわざ遠くの学校を選んでおいて、速くなれなかったらどうしよう・・・。
- 610 名前:最終話 初めての決断 終わり 投稿日:2004/07/03(土) 00:35
- 不安はいっぱいだけど、頑張ろうって、そう思える。
だって、私が自分で決めたんだから。
- 611 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:48
- それからの二ヶ月はあっという間だった。
願書を出して、面接の練習して。
それから、須磨学院で面接試験があって、私は入学が決まった。
一応合格発表もちゃんとあって、分かっているはずなのに、掲示板を見に行った時は結構
ドキドキした。
- 612 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:49
- 須磨学院にいくと決めたことは、柴田さんやれいなちゃんにも報告した。
柴田さんは喜んでくれてうれしかったけど、れいなちゃんの反応はひどいものだった。
「私ね、須磨学院に行くって決めたから」
「そうですか。あ、ところで、ちょっと宿題教えてほしいんですけど、数学の」
あまりのことに電話を投げ捨ててやろうかと思った。
私の存在価値って、勉強教えるとこしかないのだろうか・・・。
「だって、きっとそうするって思ってたし。それ以外選択肢ありえないし。別に驚かないですよ」
なんかむかつくんだよなあこの子。
今にみてやがれ、とか思う。
悪い子じゃないんだろうけど。
- 613 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:49
- 学校のみんなは、あまりかわらない。
私と違ってみんなは、普通にここで進学するから、今年はちょっと春休みが長いなあ、と
いう程度の感覚しか無いのだろう。
卒業テストを一月にしておいて、三月にはちゃんと期末テストやったりするし。
里沙ちゃんが、社会でまた21点なんて点数とってたのには、思わず頭はたいてしまったけ
ど・・・。
特別なことは、亜依ちゃんが、友達にお願いされたっていう、卒業式に読む答辞の添削を
頼まれたくらいかな?
よその学校の子らしいけど、先生に見てもらえば良いのに、とか思いつつ文章を手直しす
る。
大体、どんな学校か分かってない私が手直しなんかして良いのか疑問だったから、語尾と
か言いまわしとか、漢字をなおすだけにしといた。
- 614 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:50
- そして卒業式。
さらっとしたもの。
今日、卒業する中でよその高校に行くのは私だけだ。
点数足りなくて進学できなかった人とかいないんですか? と聞いた私に、平家先生が
こっそり教えてくれた。
「絶対、他の奴に内緒な。後輩とかにも絶対秘密な。新垣になんか何があっても絶対内緒
な。基本的に、落第で進学させないってのは無いんだ」
目を丸くする私に、平家先生は続けた。
「毎年な、三年生の途中で、クラスの下の方の成績の子にな脅しかけるんだよ。勉強しな
いとどうなっても知らないぞってことで。それでも勉強しない奴もいるけどな。そういう時
も、追試やら追加課題やらをやらせて、進学させちゃうんだよ本当は。でも、ホント、新垣
くらい脅しが効いた奴もめずらしいんだよな」
なんだか、あっけに取られて返す言葉もなかった。
- 615 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:51
- 卒業式に涙はつきもの、と言うけれど、うちの中学ではそんなことはない。
あたりまえだ、みんな校舎がかわるだけなんだから。
始業式や終業式と比べて時間が長いだけで、雰囲気は大差ない感じで進んで行く。
私一人が、卒業するんだ、っていう感慨を持ってその中にいた。
- 616 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:51
- 式が終わって、がやがやとしたまま教室へ帰る。
紺ちゃんはお別れなんだよね、って声を掛けてくれる子がいる。
卒業っていうより、転校って感じ。
でも、どっちにしても、私は今日、この学校とお別れする。
- 617 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:52
- 中学生としての最後の学活。
ただ一人よその学校に進学する私は、平家先生に指名されて、前で挨拶させられた。
みんなが見つめる。
多分、こうなるだろうなって思ってたから、ちょっとだけは話すことを考えてあった。
「私は、春から須磨学院っていう神戸の高校に行くことになりました。ずっとここにいた
いって思ってたけど、私は速く走れるようになりたいので、行くことにしました。三年間、
いろんなことがあったけど、すごく楽しかったです。遠くに行っちゃうので、忘れられちゃ
うかもしれないけれど、頑張って、なんとか頑張って、テレビに映れるくらいの選手になっ
て、みんなに思い出してもらえるようになれたら良いなって思います。三年間ありがとうご
ざいました」
私が頭を下げると、みんな拍手してくれた。
いつの間にか用意されていた花束を持って里沙ちゃんが前に出てくる。
- 618 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:52
- 「頑張って」
なんか、なんだか、なに言っていいのかわからなくて・・・。
「もう、紺ちゃんすぐ泣くんだからー」
「だってー」
私は里沙ちゃんに抱きつく。
しょうがないじゃんか、こんなことされたら。
誰だって泣くよ。
「どこ行っても頑張れ」
「うん」
私は顔を上げてうなづいた。
それから、平家先生のさらっとした挨拶があって学活も終わった。
- 619 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:52
- 卒業だ。
卒業。
たった一人で知らない町へ。
私の決断。
正しいのかどうかなんて分からない。
だけど、自分で決めたことだから、頑張ってみようと思う。
- 620 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:53
- クラスの子や後輩達との別れをすませて、昇降口へ。
里沙ちゃんと亜依ちゃんが待っていてくれた。
「すごい荷物だね」
花束と色紙と。
結構抱えちゃってる。
もう、しんみりしたりなんかしない。
階段を下りて、歩いて行く。
門を抜けた所で立ち止まり、私は、校舎の方を振り返った。
- 621 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:53
- 「三年間ありがとうございました」
花束と色紙を抱えたまま、頭を下げる。
いろいろあった三年間。
楽しい思い出だけ、というわけではないけれど、ここにいられてよかった。
「これからもお願いします」
里沙ちゃんと亜依ちゃんもやっている。
頭を上げると、顔を見合わせて、なんだか笑った。
- 622 名前:エピローグ 投稿日:2004/07/03(土) 00:53
- 「春休み遊ぼうねー」
「そうだねー、スキー行こうねー」
「スノボやスノボ」
次の三年間に、どんなことがあるかなんて全然分からない。
どんな人と出会えるか分からない。
不安も一杯あるけれど、とりあえず、春休みを楽しもうと思う。
私は、私の三年間を過ごした学校に背中を向けて歩き出した。
- 623 名前:初めての決断 終わり 投稿日:2004/07/03(土) 00:54
-
初めての決断 終わり
- 624 名前:初めての決断 投稿日:2004/07/03(土) 00:54
-
********************************
- 625 名前:あとがき 投稿日:2004/07/03(土) 00:54
- 完結しました。
紺野あさみの初めての決断、いかがだったでしょうか。
迷って迷って、結局こういう形になったようです。
途中で、終りにされちゃったときはかなり焦りましたが・・・。
ちょっと表現力という言葉について考えてしまいました。
なにはともあれ、長いシリーズになっているこの話しも、第五弾が完結しました。
完結前から続編希望と言われてる(笑)
もう一つの話しでもそうだったわけですが、話しまとめる力が無いのかなあ・・・。
高校編ですか。
シリーズものとしてここまで来たので、もう出せる人がほとんど・・・。
まあ、シリーズが続くとすれば、きっと紺野さんのその後の姿もどこかで見られるのだろうとは思います。
ここは、すべてあいまいな言い回しにしている作者の感覚を汲んでください(笑)
- 626 名前:あとがき 投稿日:2004/07/03(土) 00:55
- 長いシリーズになっていますが、中学卒業までこぎつけました。
それぞれの時期に読んでくれた人に感謝したいと思います。
と、今言っても、昔の人には届かないわけですが、まあ、気持ちの上でってことで(笑)
しばらくは、他の話を書こうとしています。
スレが立つのがいつになることやらわかりませんが。
とにもかくにも、ここまでありがとうございました。
みや
- 627 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/07/03(土) 06:25
- みやさん
更新・脱稿、お疲れ様でした。
加護ちゃんの中学入学後、初めての夏休みからから始まったおはなしも、とうとう中学卒業。
あいだの氷上の舞姫も含むとリアルな時間も2年ちょっと。
悩みながらも成長し、自分のやりたいことを見つけその道に進んでいく彼女たちを、これからも応援します!
改めて、友達って大切だし大事なんだなと感じました。
新作はバスケットボールとのことですが、楽しみに待ってます!
ほんとうにお疲れ様でした&楽しい作品をありがとうございました。
PS:新作も保存させてください!
- 628 名前:紺ちゃんファン 投稿日:2004/07/03(土) 21:09
- 作者さま、完結お疲れ様です。
この話を見て、改めて、友達ってすごい大切な存在なんだな、と思いました。
紺ちゃんの最初の、自分からの決断、見ててドキドキしました。
とってもすばらしい作品を書いてくれてありがとうございました。
- 629 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/07/04(日) 18:48
- 作者様完結お疲れ様です!
進路希望の完結を先に読ませていただいたのもあり、いままでの作品の
つながりを改めて感慨深く・・なにいってるかわかんなくなってしまい
したが、一年半前からこのシリーズを読ませていただいてますが、
本当にすばらしい作品だったと感じました、毎回更新を楽しみにして
今回で最後とわかったときはショックでしたが、作者さまの次作を
期待して待ってます!!!すばらしい作品をありがとう!泣いちゃった・・
- 630 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/07/04(日) 22:20
- みやさま完結おめでとうございます。
ななしのよっしぃ〜さんみたいにシリーズ作品をすべて読んでなくて、
この「初めての決断」だけを拝見させていただきました。
なんとなく題名に惹かれたのと、紺野さん主役と言うことで興味が有り読み始めました。
読んでいくうちに、リアルな状況描写(学園生活や練習風景などなど)に面白さを感じ
次第に引き込まれていきました。
モー娘。メンバーのキャラをよく掴んだ上でのストーリーや会話の構成が好く出来てるなって思いました。
話の端々に作者さんの女性に対する優しさが伝わってきて、心に心地よかったです。
もう「初めての決断」の更新がないのかと思うと寂しさが背中に被さってきます。
でも、これだけの長編小説を書き上げるのがどれだけ大変かわかります。
だから、いまはただ「おつかれさま」の言葉と「あ・り・が・と・う」の言葉を繰り返すだけです。
みやさま、本当にお疲れ様でした。 そして、ありがとうございました。
では
- 631 名前:作者 投稿日:2004/07/20(火) 22:13
- >ななしのよっすぃ〜さん
新作でも何でも、サイトの容量があまっているようでしたらどうぞ。
いやあ、しかし、シリーズの最初から考えると、長いですねぇ・・・。
>紺ちゃんファンさん
あちこちで見かけるっぽい紺ちゃんファンさん。
こちらにもお立ち寄りいただきありがとうございました。
>629
長い間ありがとうございます。
次作は、空気違う感じになりそうですが、スレが立つことがあれば、またよろしくお願いします。
>やじろこんがにーさん
長い話は、大変です・・・。最初のイメージではこの半分くらいのつもりだったんですけどねえ。
長い間お付き合いいただきありがとうございました。
みなさん、ありがとうございました。
このスレは、まだ使います。 たぶん・・・。
- 632 名前:習志野権兵 投稿日:2004/07/27(火) 00:39
- 皆さん、始めまして。そして、みやさん。お疲れ様でした。 この作品が終わったことで楽しみが1つ減り残念ですが、また新しいものを作るとのことで、それを楽しみに待ってます。本当にお疲れ様でした。
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/07/28(水) 08:43
- 完結おめでとうございます。
質問なのですがこのモデルになった町はどこのなのでしょうか?
- 634 名前:作者 投稿日:2004/08/12(木) 23:50
- >習志野権兵さん
新しいもの、が始まる前に、続きのもの、が始まっちゃいました・・・。
>633
架空の設定、ということでお願いします。どこかで、実在地名出してたような気もしますが。
さて、他の話がどうのこうの、とあとがきで言ってましたが、それより前に他じゃない話を始めちゃいます。
まあ、シリーズ物の第六弾! みたいに大上段から振りかぶったようなのじゃなくて、この“初めての決断”のおまけみたいな話です。
第5.5弾かなあ・・・。
題して、“初めての卒業旅行”
三人で卒業旅行に行きました。という、そのまんまな話です。
行った先にもう三人ほどいるわけですが。
三泊四日、スキーして遊んでるだけの話でいい、という方はお付き合いください。
一ヶ月程度の軽めの連載になると思います。
真夏にスキーの話とか・・・。
- 635 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:50
- 春休み。
いつもよりちょっと長い春休み。
私は、引越しの準備なんかがあるし結構忙しい。
お父さん、いちいちうるさいよ。
そんなものいらない、こんなものいらない、それくらいの距離なら通えるんじゃないか。
うるさいうるさいうるさい。
- 636 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:51
- 正直に言えば、五時に起きれば通えないことはない。
でも、それじゃ朝錬出来ないし、ちょっと一人暮らしとかしてみたいし。
怖いけど。
- 637 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:51
- そんな忙しい毎日だけど、遊ぶ暇だけはあったりする。
休みに入る前から決めていた三泊四日のスキー旅行。
亜依ちゃんと里沙ちゃんと、三人での卒業旅行。
スキーなんかやったことないけれど、楽しみにしていた。
- 638 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:51
- 「まだ、乗り換えするのー」
荷物をひきづりながら里沙ちゃんが嘆く。
先を歩く亜依ちゃんが振り返った。
「これで最後やから」
「遠いよー」
何回乗り換えしたんだか、もうわからない。
朝早く家を出たはずなのに、もうお昼を過ぎていた。
- 639 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:53
- 「ここで三十分待ちやし、お昼食べよっか」
「駅弁!」
旅といったら駅弁!
そういう私を、なんだか二人は笑って見ている。
「紺ちゃん、ご飯になると急に元気になるよね」
「電車じゃずっと寝てたのに」
・・・・・・。
返す言葉がない・・・。
だって、だって、お腹空いたんだもん。
「そんな顔しないでよ。行こ」
私達は、荷物を抱えて階段を上った。
- 640 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:53
- 駅弁ってたくさんあるものだと思ってたけれどそうでもないらしい。
お寿司らしきものが二種類あるだけ。
せっかく楽しみにしてたのに。
しょうがないからそのお寿司のやつにする。
ついでに近くのお店でお菓子も買っちゃったりする。
そんなことをしてる間に、電車がやってきた。
旅荷物とお弁当を抱えて電車に乗り込む。
里沙ちゃんなんか、気合入れてスキー板まで買って持って来たから大変だ。
- 641 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:53
- 電車に乗りこんでさっそくお弁当を開く。
うーん、見た目には地味かも・・・。
でも、こういうのが結構おいしかったりすることもある。
「どんなとこなの?」
うん、おいしいおいしい。
一緒に買ったお茶もけっこうあってるし。
- 642 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:54
- 「春に来たことはないんやけどな。静かでな、ええところやで」
やっぱり、高いだけあるなあ。
お小遣いいっぱいもらってきてよかった。
でも、他の種類もあればいいのになあ。
「見るからにいなかだもんねー。もっと奥まで行ったらどうなることやら。ねえ、紺ちゃん」
「むだやって、食事中の紺ちゃんに声かけても」
「え、なーに?」
「ほら」
なんか、笑われてる。
まあ、いっか。
おいしいし。
- 643 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:54
- 電車の揺れに身をまかせ、私は箸を進める。
たっぷり食べて、ちょっと眠って、いい気持ちでいるところを起こされた。
「紺ちゃん、もうつくから。次だから」
「ここどこ?」
「もう姫牧やって。うちのばあちゃん家のあるとこ。次トンネルくぐったら着くから」
おなか一杯だから眠い・・・。
だけど、寝ようとすると亜依ちゃんに肩を揺さぶられるから起きる。
背伸びして荷物を網棚から降ろして、ほっと一息つくと、電車は駅に着いた。
- 644 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:54
- 「やっと着いたー」
春の太陽の下、里沙ちゃんが大きく伸びをしている。
なんだかのんびりした感じでここちいい。
プラットホームには誰もいない。
周りを見渡すと、雪が白くつもった山々が見えた。
- 645 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/12(木) 23:55
- 「見てのとおり、なんもない村やけど、いこか」
亜依ちゃんが荷物を抱えて歩道橋を上っていく。
私たちも後に続いた。
何も無いけれど、駅舎だけはちゃんとある。
屋根のあるベンチ、って感じしかないけれど。
歩道橋を下りて、その駅舎に入っていくと村の子が待っていた。
- 646 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/08/13(金) 04:12
- わ、新しいの始まってた、しかも続き・・・
作者さん、乙です
卒業旅行でスキーって楽しそうですね。
弁当食べてる時の紺野さん、面白すぎ。
ていうか、現実にありそうな雰囲気ですね(^-^)
なんだか楽しそうなお話に胸が膨らみます、喜びで。
では
- 647 名前:ななしのよっすぃ〜 投稿日:2004/08/14(土) 11:54
- みやさん
新作スタート、おめでとうございます&ありあとうございます。
卒業旅行に行く3人。行き先は…例の場所ですか。う〜ん楽しみです。
では、更新を楽しみに待ちつつさっそく更新作業にかかります。
- 648 名前:名無し 投稿日:2004/08/15(日) 00:07
- まさかこんなに早く次回作が読めるなんて、うれしいなあ。
それも、もうひとつの物語とリンクしてるんですねえ。
これからどうなるんだろ、ワクワクします。
- 649 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/16(月) 09:29
- >634
大歓迎です。正直、続きも気になってましたんで。
- 650 名前:作者 投稿日:2004/08/17(火) 00:09
- >やじろこんがにーさん
またしばらくよろしく
>ななしのよっすぃーさん
お暇なときにでもよろしくお願いします。
>648
いつものようにたいしたことは起きませんが、お楽しみください。
>習志野権兵さん
続き、というかおまけ程度ですけどね。遊んで帰って終わり、なので。
- 651 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:10
- 「いやあ、お迎えご苦労ご苦労」
亜依ちゃんが、胸を張って右手を軽く振っている。
その先には、ちっちゃいの、きれいなの、まるいの、三人の女の子がいた。
「疲れたでしょ」
「遠すぎや」
「何度も来てるでしょー」
「でも、遠すぎや」
亜依ちゃんと話してるちっちゃい子。
どっかで見たことあるような気がする。
後ろで髪を二つにしばって、亜依ちゃんと同じ髪型してる。
- 652 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:11
- 「この子らな、村の子。のんと愛ちゃんとまこっちゃん」
「のんです。よろしく」
「たかはしあいです。よろしくー」
「あー、おがわまことでーす」
各々に自己紹介。
嫌な感じの子はいない。
なんとなく、馴染めそうな感じはする。
「こっちは、里沙ちゃんと、紺ちゃん。あの、ののの答辞手直ししたのがこの紺ちゃんな」
「え゙―、自分で書いたっていったのにー!」
「なー、違う! 違うよー! 書いたの。のんが自分で書いたの! もう、亜依ちゃんなんで言うの!」
あらららら・・・。
なんか、まずいことになってるような・・・。
- 653 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:12
- 「なんでって、そんなん見栄はって秘密にしとくのが悪いんやろ」
「先生に見せないで自分で書いたって言ったじゃんかー」
「だってー、先生には見せてないもん。嘘じゃないもん」
わたしの、私のせいなのかな・・・。
雪が積もったままの無人駅。
電車も行っちゃって、他に人もいなくて。
そんな中で、なんだか言いあいしてる。
- 654 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:13
- 「あ、あの、手直しって言っても、ほとんど、語尾とかそんなのだけだから」
「なんか、のんちゃんにしてはきれいな文章だと思ったら、やっぱり直してもらってるんじゃーん」
「もういい、行こ!」
そういって、ちっちゃいのんちゃんが車の方に歩いて行く。
それを、のんちゃんを軽く責めていた、きれいな多分高橋さん? が笑って見ていた。
私達は、村の子たちに連れられて、止まっているワゴン車に乗りこんだ。
- 655 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:13
- 前の助手席の位置に高橋さんが座る。
私と里沙ちゃんは後ろの席に通された。
亜依ちゃんはあたりまえのように辻さんと真ん中に座る。
「私どこすわんのよ」
「麻琴、走ってついて来る?」
「なんで!」
「走るのやなら後ろすわんなよ」
- 656 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:13
- 私の隣は狭いけど空いている。
そこに、丸い子が乗りこんできた。
狭い・・・。
「大丈夫? 狭くない? 狭かったらまこと走らせるから」
「大丈夫です。狭くないです」
とっても狭かった・・・。
- 657 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:14
- ワゴンが動き出す。
外は寒かったけれど、車の中は暖房が効いていて暖かい。
雪景色の中を車は走って行く。
だけど、真ん中の席はあまり外の景色が見えない・・・。
「遠かったでしょ。何時間位かかった?」
「うーん、七時間くらい?」
「そうだね。乗り換えいっぱいしたもんねー」
丸い子に話しかけられて、里沙ちゃんと顔を見合わせながら答える。
知らない子ってやっぱり緊張する。
でも、正直、田舎の子だからもっと田舎っぽいのかと思ったけど、そうでもない子もいた。
そうっぽいのもいるけど・・・。
とりあえず、名前覚えないとなー・・・。
- 658 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:14
- と思って、次に気づいたら車が止まっていた。
「あはは、長旅お疲れ」
はっとして顔を上げる。
私は、丸い子の肩に体を預けて眠っていたらしい。
「あ、ごめん、ごめんなさい」
「良く寝てたよねー」
笑顔を返してくれる。
すごい恥ずかしかったけれど、私も笑ってごまかしておいた。
- 659 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/17(火) 00:14
- ワゴンを降りて、荷物も受け取る。
明日迎えに来るからねー、と車は帰って行った。
「やっとついたー」
ついたのは亜依ちゃん家。
というか、亜依ちゃんのおばあちゃん家。
電車に乗って、車に乗って遠い距離をたどり着いた私達を亜依ちゃんのおばあちゃんが出迎えてくれた。
卒業旅行初日は、ホント移動だけ。
村の子と顔合わせたのはちょっと緊張したけど。
私達は、亜依ちゃんのおばあちゃんの作ってくれた晩ご飯を一杯食べて、それで、早めに寝た。
和風な晩ご飯はおいしくて、長い移動の疲れで、私達はぐっすりと眠った。
- 660 名前:みんなの春休み 投稿日:2004/08/19(木) 23:39
- 「起きろー!!!」
翌朝・・・。
両手両足を引っ張られる。
「紺ちゃん、寝相悪すぎ」
「起きてる時のがおとなしよね」
二人して、言いたいこと言って・・・。
せっかく気持ち良く寝てたのに。
春休みに入って、朝寝坊が癖になっていたからちょっと眠い。
昨日もはやかったし。
無理やり起こされた私は、髪がぼさぼさのまま朝ご飯。
じゃがいものお味噌汁がおいしかった。
- 661 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/08/19(木) 23:40
- 作者さん 乙です。
まるいのの表現にちょっと笑いました。
(´-`).。oO(まこっちゃん、ごめん・・・)
あい変らず紺野さんの描写が秀逸ですね。面白いです。
それにオールスターともいえる豪華キャストで先が楽しみです。
ゆっくりでいいのでよろしくお願いします。
では。
- 662 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:40
- 八時半過ぎ、村の子達が迎えに来た。
昨日と同じワゴンに乗って。
生まれて初めてのスキー。
結構ドキドキ。
けがとかしちゃたらどうしよう・・・。
ただでさえ、高校入ってからの練習についていけるか不安なのに、怪我で出遅れたりとかしたら・・・。
なんて、思わなくはないけれど、せっかく遊びに来たんだから考えないことにした。
- 663 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:41
- 「三人はスキーやったことあるのー?」
スキー場に向かうワゴンの中。
なんとなく昨日と同じ席順に座る。
一番前の助手席に座る、きれいな高橋さんが後ろを向いて聞いてきた。
「みんな初めてだよ。初心者初心者」
「加護ちゃん結構この村来てるみたいだけどないのー?」
「なんやこわくてな。雪のある時に来たのこの前の冬休みだけやけど、ばあちゃんちで大人しくしとったもん」
何かを聞かれて大体答えるのは亜依ちゃん。
私達が三人でいると大体そうなるけれど、今日は特に、村の子達とよく馴染んでる亜依ちゃんだけがよくしゃべる。
スキー場には、大体三十分くらい走った所でたどりついた。
- 664 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:41
- 「人あんまりおらんのやね」
「地元の人しか来ないスキー場だから」
「三人は子供の頃からすべっとるの?」
「うん。ここのスキー場しか来たことないけどね」
「でもええなあ、いつでもスキー出来るんやろ」
「その代わり、海がないからねー、川はあるから、まこっちゃんとのんは泳げるけど、愛ちゃん泳げないよねー」
「うっさい。水なんかは入らなきゃええんよ」
亜依ちゃんと村の子三人で会話が弾む。
なんだか、私と里沙ちゃんは蚊帳の外。
しょうがないんだけどさ。
- 665 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:41
- 「板持ってる新垣さんはスキーでいいんだよね。後二人はどうする? スキー? スノボー?」
「スキーでええよ。だって、三人ともスキー板抱えてて、どう見てもスノボ教えてくれる人いないやん」
「一応スクールもあるよ」
「なんで、わざわざここまで来て、一人で別れてスクールなんか受けなあかんのよ」
こっちにも話しを振ってくれたのは丸い子。
いい加減名前覚えないと・・・。
「紺ちゃんはどうするん?」
「私もスキーでいいよ」
一人でスノボやる勇気はないです・・・。
- 666 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:42
- 私達は、ロッジって言うのかな? 丸太で組まれた小屋に行って板とか借りる。
それから、一日リフト券も買った。
初めてだから、高いのか安いのかよく分からないけれど、私にとっては結構高いかも。
お小遣い結構もらったから大丈夫だけど。
私達は、板を抱えてロッジの外に出た。
- 667 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:42
- 「じゃあ、板履いてみて。かかとで思いっきり踏むとかちって履けるから」
「板くらい履けるっちゅうねん」
「亜依ちゃん、舐めると痛い目見るよきっと」
抱えていた板を置く。
私は、とりあえず亜依ちゃんを見ていた。
「簡単や、こんなの。ほら、履けた、うわ、うわ」
「だからのんが言ったのに」
亜依ちゃんは、板を履いた瞬間に前に滑り出してバランスを崩して、ぽてって感じでしりもちをついた。
- 668 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:42
- 「亜依ちゃん、ださっ。あ、あー・・」
里沙ちゃんも、亜依ちゃんに突っ込んだそばから自分で転んでいる。
おんなじように、しりもちついて。
「滑らないようにね、ちょっと内側に体重掛けるといいよ」
丸い子が私の隣で言ってくれる。
内側に体重、内側に体重。
先に左足を履く。
かちって音がして足が板にはまる。
踏ん張れば大丈夫かな。
その左足に重心を乗せたまま、右足のかかとに力を入れる。
なんとか板は履けた。
- 669 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:42
- 「あ、あ、とまんない」
履けた、履けたけど、やっぱり動き出しちゃう。
板が揃ったまま、前に滑り出す。
ほとんど平らなはずなのに、止められない。
ちょっと先まで行ったら、駐車場の方まで続く斜面になった。
- 670 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:43
- 「転んで! 転んで! 危ないから! 後ろに転んで」
叫び声が聞こえるけど、後ろは怖いよ・・・。
でも、斜面に突っ込んで行くのはもっと怖いから、私は横に倒れた。
雪が冷たい・・・。
スキー場での初転倒。
滑る前に、板履くだけで転んでしまいました・・・。
- 671 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/19(木) 23:43
- 「大丈夫? 立てる?」
村の三人が、慌てて助け起こしてくれます。
なんか、立ち上がるのにもどこに力入れていいのかよく分からなくて、このスキー板というやつは、なんだか不便だ。
不便というか、扱いにくい。
「紺ちゃん、いきなりすべっとったやん」
「すべったねー。それで、派手に転んだねー」
亜依ちゃんと里沙ちゃん、二人に笑われる。
私は、ちょっとだけかちんと来て、黙って茶色のニット帽についた雪を払っていた。
「はい、三人にリフトはお預けです。しばらくここで練習」
高橋先生のお言葉。
板もまともに履けない三人はそれに逆らうはずもなく・・・。
- 672 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/20(金) 00:07
- お疲れ様です。
なんか、『ちっちゃいの、きれいの、まるいの』って表現がなんかいいなぁ・・・。 でも、小川だけ今だに丸い子って・・・。
- 673 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/08/20(金) 17:08
- 661は失礼しました、書いてるうちに更新が始まってました(^-^;)
あらためて
作者さん 乙です。
>内側に体重、内側に体重。
>立ち上がるのにもどこに力入れていいのかよく分からなくて、このスキー板というやつは、なんだか不便だ。
こういう書き方ががうまいなぁって思う。ていうか経験が素直に言葉になってる。
体験したことのある読者が納得する表現で感心してしまいました。
丸い子の
>「滑らないようにね、ちょっと内側に体重掛けるといいよ」
から思うに、作者さんは相当スキーがお上手そうですね。
スキー上手な作者さんが、6人をどう弾けさせてくれるのか・・・、とても楽しみです。
初めてスキーを履いた人は怖くて尻餅をつき、止まらずに進み続けるのが常なのに
最初から横に倒れることが出来た紺野さんは、やはり運動神経が良いようですね。
では
- 674 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/21(土) 14:22
- 更新乙です!
まさにオールスターキャスト!各人の絡みがどうなっていくのか
楽しみです。ほんとにこの空気感には癒されます。
- 675 名前:作者 投稿日:2004/08/23(月) 23:43
- >習志野権兵さん
なんか、“まるいの”が物議を醸してる・・・
>やじろこんがにーさん
作者のスキーは(ry です。
>674
とりあえず、六人は遊んでるだけなので、その遊んでる様をお楽しみください
- 676 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:44
- お昼近くまで、ゲレンデ入り口近くのゆるい斜面で練習した。
さすがに、板を履くくらいでは転ばなくなったし、ゆっくりとなら滑れるようにもなった。
なんだかボーゲンって内股のかっこ悪い感じだけど、とりあえず滑れるからいいのかな。
曲がる時は、左には左足に体重掛けて曲げれるけど、右に曲がるのがちょっと難しい。
トラックが左周りに出来てる理由にスキー場に来て妙に納得してみたり・・・。
「お昼食べて、それからリフト乗って上あがろうか」
「さんせーい」
何度も転んでいた亜依ちゃん。
それでも、白いスキーウエアに埋もれて楽しそう。
ただ、里沙ちゃんはなんだか不安そうだった。
- 677 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:45
- 「何食べるー、っていうほどたくさんメニューはないんだけどねー」
ロッジの売店。
ちっちゃな辻さんの言うとおり、あんまりメニューはない。
人があんまりいないし、しょうがないのかな。
でも、ラーメンとか、カレーライスとか定番メニューはちゃんとあって、やっぱりそれなりに迷ってしまう。
まよってまよって、まだー、と亜依ちゃんに言われ、仕方なくカレーライスに決定。
テーブルにつくと、みんなもう食べ初めていた。
- 678 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:45
- 「リフト乗るの楽しみやなあ」
「うーん」
亜依ちゃんに振られたけど、何となくあいまいに答えてしまう。
私は大丈夫だけど、里沙ちゃんはやっぱりちょっと心配だった。
「ねえ、ホントに上行くの?」
「スキー来たんやから、リフト乗って上いかなしゃーないやろ」
「でも、あんまり滑れないし」
「大丈夫やって、なあ」
亜依ちゃんはこういう時無責任だからなあ・・・。
でも、正直私もそろそろ上に行きたい。
- 679 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:45
- 「一人に一人づつつくから大丈夫だよ、心配しなくても」
「でもー。うん・・・」
里沙ちゃん渋々納得。
ごめんね、フォローして上げなくて。
やっぱりリフト乗って滑ってみたいし・・・。
それから、みんなお昼を食べ終わって、私はちょっと冷たい視線を浴びつつ一番最後に食べ終わって、リフトに向かう。
- 680 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:46
- 「組み分けどうする?」
「グーチョキパーでいいんじゃない?」
というわけで、チョキを出した私は小さなのんちゃんさんと組むことになった。
「よろしく」
この子ならフルネームちゃんと分かる。
答辞読んだし。
村のことがすごく好きなんだな、っていうのが伝わってくる答辞だった。
- 681 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:46
- 私達はリフトへ向かう。
のんちゃんさんと私が先頭。
スキーで滑る感じでリフトに向かうのんちゃんと、ストックで雪を押して歩く感じで進む私。
平らな所は結構つらい。
「前のリフトが通り過ぎたタイミングで、入るよ」
一つ一つ教えてくれる。
前のリフトが行って、入って行くんだけどどうしてもスキーが進まない。
のんちゃんさんがちょっと戻って背中を押してくれた。
- 682 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:46
- 「リフト来たら座るんだよ」
それは分かるよ・・・。
と簡単に思っていたけれど、私は座るタイミングをちょっと外してふくらはぎにリフトをぶつけた。
痛いかも・・・。
「最初はみんなぶつけるんだよねー。でも、すぐ慣れるから」
ちょっと不安になりながらも、初めてリフトに乗った。
ホット一安心しているとリフトが止まる。
後ろを向くと、リフト乗り場で里沙ちゃんが転んでいた。
- 683 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:46
- 「あの子大丈夫かなあ」
「うーん」
「まこっちゃんついてるから大丈夫とは思うけど、スキー嫌いにならなきゃいいけど」
里沙ちゃんはうつに入るとどんどんマイナスに考えて行くからちょっと心配。
だけど、私も、人の心配出来るほどは上達していないから、ちゃんと滑らないと。
- 684 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:47
- 「答辞、ありがとね」
リフトの上、辻さんが言ってくれる。
「あんまり大したことしてないけど。なんか、ごめんね、昨日、なんか、みんなに」
「あー、しょうがないよ。あれは亜依ちゃんが悪い! もう、余計なことべらべらと。それに、確かにねー、のんだけじゃあんなちゃんとした文章書けないし。直してもらったの見てびっくりしたもん」
「そんなことないよ。語尾と漢字直しただけだし。でも、読んでてなんか感動した。村が好きなんだなあってのがよく分かったよ」
「そんな言われると、なんかはずかしーなー」
こっちを向いて話してくれてたのに、顔を覆って下を向いてしまう。
なんだか、ずるいくらい可愛かった。
- 685 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/23(月) 23:47
- 「リフト降りるよ。地面が近づいて来たら、足をちゃんと置いてついたら立ち上がって蹴る。出来そう?」
「やってみる」
ストックをしっかり持って、白い地面を見つめる。
重い板をつけたままぶらぶらさせていた足を地面に付いた。
そのまま蹴って前へ。
そのまま斜面を滑り降りて・・・ 転んだ。
「大丈夫? すぐ立って、後ろ来るから」
降りられて油断したら転んだ。
私は担ぎ起こされてすぐにどく。
後ろでは、里沙ちゃんがリフトを降りる所でしりもちをついて座りこんでいた。
- 686 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/08/24(火) 07:39
- 作者さん 乙です。
自分が始めてスキー板を履いた時の事を思い出しました。
踏ん張りが利かなくて、前に進まなくて、焦れば焦るほど進まなくて…
リフトが回ってきたのに進めなくて、二つ空で送り出したらブーイングがおこって係員が出てきたっけ。
リフト降りたところってすぐに下り坂なんですよね、それも短いけどすごく急な坂…
「え!?、こんな所に坂作るなよー」 って思った記憶があります。
でも、思い返すとその時のスキーが一番面白かったと思います。
生まれて一番のスリルを味わったって感じでした。
だから紺野さんと里沙ちゃんの気持ちが痛いほど分かりますし微笑ましいです。
”いっぱい転んで、あざを作って楽しんでね、お二人さん”って感じです。
では
- 687 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/26(木) 05:52
- 更新、お疲れ様です。
それにしても辻って名前を知りながら、ちっちゃいって表現を止めない紺野って・・・。
- 688 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/08/28(土) 00:57
- 更新乙です!
さて、向こうものぞいてみようかな!楽しみ楽しみ
- 689 名前:作者 投稿日:2004/08/30(月) 00:05
- >やじろこんがにーさん
初めてのスキーは、なんか、すごい大きなイベントですよね。
>習志野権兵さん
だって(ry
>688
視点が違うから、何気に居場所が違って見てる絵も違ったりするんですよね。次とか。
- 690 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:06
- なんとかみんなたどり着く。
六人揃って写真を撮ってもらう。
亜依ちゃんを真ん中に、私が向かって右側、里沙ちゃんが左側。
村の子達が後ろの列に並ぶ。
初、まとも滑りの前の記念の写真。
- 691 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:06
- 「見晴らしええなー」
「でしょー」
「でも、傾斜急すぎて怖いんだけど」
「見た目より怖く無いから大丈夫だよ」
さっきまでいたロッジがはるか遠くに小さく見える。
確かに見晴らしはいいけど、やっぱりこわいかも、ちょっと。
「まだ頂上まではどんどん上にリフトあるけど行く?」
「無理、絶対無理、無理だから」
辻さんの誘いに、里沙ちゃんがホントにおびえた声で言った。
- 692 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:06
- 「じゃあ、それぞれ滑って行こう」
やっぱり仕切るのはきれいな高橋さん。
なんとなく、暗黙の了解で最初にリフトに乗った私から行くことになる。
傾斜の急になる入り口のところまで行って、ちょっと怖くなった私は辻さんの方を見た。
「大丈夫。紺野ちゃん滑れてるから。それに転んでものんがいるから大丈夫だよ」
辻さんの顔を見ていて、なんだか安心した。
- 693 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:07
- ストックに力を込めて蹴り出す。
板が斜面に入った。
体が傾いているのがわかる。
下で滑ってる時よりもスピードも出てる感じ。
「紺野ちゃん、ターンしてターン」
真っ直ぐ行くとネットにはまっちゃう。
右足、右足に体重を掛けて、ブレーキをかけるみたいに曲がる。
一番下向きに体勢がなった時は怖かったけれど、それでもなんとか曲がりきる。
曲がる所で加速が付いちゃったけれど、私は膝を内側にぎゅっと力を入れて、何とか止まった。
- 694 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:07
- 「出来たよー、うわ」
上を向いて、ストックを持ったまま左手を振ったら、板がそのまま滑り出して私は仰向けに倒れた。
「大丈夫?」
辻さんが、すぐに滑ってやってきてくれる。
体を起こしてくれたけれど、なんだか力の抜けた私は、座ったままみんなが滑るのを待った。
- 695 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:07
- 二番手は亜依ちゃん。
私とは逆の方向に最初に滑って行ってターン。
右に曲がるのって難しそうなのに、亜依ちゃんは転ぶことなくターンして止まった。
後から降りてきた高橋さんとハイタッチをして、とおもったら高橋さんが強く押して亜依ちゃんは仰向けに倒れた。
「何んすんねん。うわ、うわ、やめ、やめてやー」
高橋さんは、倒れた亜依ちゃんの首のところに雪を詰めて行く。
きれいな顔して意外と活発な子だ・・・。
雪の上でやられっぱなしの亜依ちゃんを、辻さんは声を上げて笑いながら見ていた。
- 696 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:08
- 「にゃろー、おぼえてろー」
「やれるもんならやってみろ」
亜依ちゃんをいじめ終わった高橋さんは、すいすいっと滑って逃げて、腰に両手を当て亜依ちゃんの方を見ている。
すごんでみせたところで、雪の上で亜依ちゃんに勝ち目はなかった。
- 697 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:08
- 「次ぎ行くよー」
上にいる丸い子から声がかかる。
里沙ちゃんが滑ってきた。
あんまりスピードは出てないけれど、ボーゲンで滑ってくる。
左にターンしようとする時に、曲がりきれずに体が真下に向かったままスピードが出てしまう。
そのまま里沙ちゃんは曲がりきれずに転んでいた。
倒れこんだまま凹んでいるのが分かる。
一人で立ちあがろうとしていたけど、踏ん張ると板が動いちゃってまた転んでいた。
結局、横に向きを変えて、後ろから抱え起こしてもらっていた。
- 698 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:08
- 「しばらくばらばらに滑ろうっか」
高橋さんの提案。
里沙ちゃんが心配だったけれど、私がいても何が出来るってわけじゃないし、高橋さんの提案に従って、それぞれの組でしばらく滑ることになった。
- 699 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:09
- 私は、辻さんにフォローしてもらいながらとにかく下まで降りていく。
何度か転んだけれど、どうにか下までたどり着くことがで来た。
亜依ちゃんも大体一緒に下までたどり着く。
里沙ちゃんだけが、まだ遠く上の方にいるのが見える。
下まで降りたらもう一度上へ。
上までつくと、亜依ちゃん達はもっと上まで行くと次のリフトに乗りかえて行った。
- 700 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:09
- それからその場所を二回下りて行った。
二回とも何度か転んだけれど、その回数は減っている。
ただ、最後の方にコブになってるところがあって、そこでは最初も入れて三回とも転んじゃってる。
その三回目に下まで降りた所で、里沙ちゃんとちょうど合流した。
「紺ちゃん、うまいよねー」
「そんなことないよ。何度も転んだし」
「でも、私がやっと一回滑る間に三回も滑ってきてさ」
そう言われちゃうと、返す言葉がなくなってしまう。
上行かないの? と聞くとちょっと考え中という答えが帰って来たので、先に私達だけ上に上った。
- 701 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:09
- 「これ降りたら休憩にしよっか?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、今回の目標、転ばずに下まで降りるってどう?」
「えー」
いきなりハイレベルなことを・・・。
でも、なんかちょっといいかもそういうの。
「ゆっくり滑れば大丈夫。安定して来てるから」
よし、やってみよう。
- 702 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:10
- ゆっくりと滑り降りていく。
右に左に、余裕を持ってターンする。
ちょっとふらつくこともあるけれど転ばない。
転ばないで進んでゆける。
半分を過ぎる。
ちょっとむずかしめの急斜面。
加速がついてよろめいたけれど大丈夫。
後少し。
後少しの所で、一番苦手なこぶの所に入ってくる。
「おちついて、ゆっくりゆっくり」
ゆっくり、ゆっくり。
慎重に。
だけど、やっぱりいつもの所で転んでしまった。
- 703 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/08/30(月) 00:10
- 「あーあ、惜しかったのにー」
結構悔しい。
だけど、その一箇所転んだだけで、後は無事に滑り降りることができた。
板を外してロッジに上がる。
里沙ちゃんはリフトのとこにもここにもいないところを見るともう一度上に上がったのだろう。
大丈夫かなあ・・・。
- 704 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/08/30(月) 03:42
- 作者さん 乙です。
いいですねぇ、状況が目に見えるようにわかります。
みんなの楽しそうで嬉しいです。
なんか牧歌的な小説で気持ちが良いですね。
続きがたのしみです。 ゆっくりでいいのでよろしくおねがいします。
では
- 705 名前:習志野権兵 投稿日:2004/08/30(月) 12:43
- 更新、お疲れ様っす。
皆、紺野に名前を覚えてられていく中、今だに丸い子で通されている小川を見て
ホッとする今日この頃・・・。
- 706 名前:作者 投稿日:2004/09/02(木) 22:50
- >やじろこんがにーさん
平和な世界なもので。
>習志野権兵さん
小川さんは癒し系 え?
- 707 名前:作者 投稿日:2004/09/02(木) 22:50
- 「なんか食べようよー。のんはカップラーメン」
お昼時はもう過ぎていて、厨房の方には人がいない。
あとは自販機とスナックのコーナーしか買える物がない。
「じゃあ私もカップラーメン」
「よし、じゃあ、のんがおごって上げる。どれがいい?」
「いいの?」
「うん」
- 708 名前:作者 投稿日:2004/09/02(木) 22:50
- やった。
私はシーフードのやつを選んで買ってもらう。
カップラーメンは出来上がるまでの三分間がすごく待ち遠しい。
無料のお茶を汲んできて、テーブルについた。
三分待って食べ始める。
おいしい。
おいしい。
とにかくおいしい。
- 709 名前:作者 投稿日:2004/09/02(木) 22:50
- 「紺野ちゃんってさあ、さっきも思ったけど、ご飯食べるとき幸せそうだよねー」
なんか、いつも言われてる気がする・・・。
でも、だって、たしかに、幸せだし・・・。
「のんもそうなんだけどさ。でも、紺野ちゃんほど幸せな感じがこう体全体から見えてくるのってすごいよねー」
すごいって言われても・・・。
私は、どう答えていいか分からなくて、あいまいに笑って、また箸を進めた。
- 710 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:51
- カップラーメンを食べ終わる。
だけど、まだみんな戻ってこなかった。
「紺野ちゃん、一日ですごい滑れるようになったよねー」
「そうかなあ」
「やっぱ運動やってると違うのかな」
「でも、走ってるだけで運動神経とかあんまりよくないよ」
「スキーだって滑ってるだけだもん。一緒だよ」
一緒なのかなあ・・・。
- 711 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:51
- 「高校、陸上の学校行くんでしょ。亜依ちゃんから聞いたよ」
「うん、一応」
「なんかさあ、怖くない? のんもバレーの学校行くんだけど、試合でらんなかったらどうしようとか思うし、怪我なんかしちゃったら、学校やめさせられちゃうかもしれないし」
「うん、一度練習混ぜてもらったけど、全然ついていけなかったし」
「そうだよねー。やっぱ高校ってすごいのかなあ」
なんか、私とおなんじみたい。
答辞の添削を亜依ちゃんに頼まれる時に聞いていた。
この辻さんも、バレーボールで学校選びに迷ってたって。
だから、聞いてみた。
- 712 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:51
- 「なんでさあ、こんなさあ、怖いなって思いながら、結局その学校選んだの? みんなと一緒の学校行くことだって出来たんでしょ?」
「うーん、勉強で受験したら落ちてたかもしれないから、みんなと同じとこはいけるかはわかんないけど、でも、結局今のとこ選んだのは、インターハイとかに出たいからかなあ」
「インターハイ?」
「うん。のんさあ、こんな小さな村でずっと暮らしてたでしょ。だからかなあ、なんか、村の外出たら何も出来ないんじゃないかって怖いのね。だけど逆に、すごい挑戦したいって気持ちもあってさ。こんな村だけど、のんは一番バレーがうまかったし、それでどこまでいけるのかなって。日本一とか目指したらなれるのかなって。それで、日本一になるにはやっぱり強い学校入って練習しないとだめだなあって思った」
日本一かあ・・・。
すごい大きな言葉。
だけど、私も、そうはっきり思ったわけじゃないけど、速くなりたいって理由で学校を決めたんだから、同じなのかな、結局。
- 713 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:51
- 「のんが決められたのは紺野ちゃんのおかげだよ」
「私? なんで? 全然知らないじゃん」
「冬にね、亜依ちゃんが村に来た時けんかしたの。理由は、紺野ちゃんがよその学校行っちゃうかもしれないのがむかつくって言っててね、それがなんか頭きてけんかになちゃった。陸上の学校行きたい、速くなりたいっていうのは普通のことだ、当たり前のことだ、って亜依ちゃんに怒鳴ってた。それでね、のんも自分がどうしたいのか分かったの。だから紺野ちゃんのおかげ」
そんなことがあったのか・・・。
そういえば、田舎に行ってなんとかかんとかって亜依ちゃんも言ってた気がする。
- 714 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:52
- 「紺野ちゃんもインターハイとか出たいでしょ?」
「うーん、確かに出たいけどー、私の場合はインターハイより駅伝かなあ」
「駅伝?」
「駅伝はね、全国大会出るとNHKで全国放映されるんだよ」
「すごーい。いつ! いつごろ?」
「大体クリスマスの頃」
「そっかあ。絶対出てね。絶対だよ!」
「わかんないよそんなの。最初は練習ついていけるようになるので精一杯だろうし。三年生の最後くらいかな、出られるとしたら」
「だめ、一年生から出て。絶対見るから」
辻さんの勢いはすごい。
言わなきゃ良かったかな、とちょっと後悔したり・・・。
でも、出たいのはホントだし、目標だし。
- 715 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:52
- そうやって辻さんと雑談しててもなかなかみんなは戻って来ない。
二人でぼ〜っと待っていて、私は隅っこにある一台の機械を見つけた。
「あれってプリクラ?」
「あ、そう、うん、そうだよ。撮る? プリクラ撮る?」
「撮ろうよ」
カップラーメンのからをゴミ箱に捨て、私達はプリクラの元へ。
- 716 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:52
- 「なんか、すごい古くない?」
「そんなのわかんないよー。のん、これしかプリクラ知らないもん。村にないし」
そっか、ここは田舎の姫牧村。
スキー場自体の住所は違うかもしれないけれど、とにかく田舎。
しょうがないのかもしれないけれど、落書き機能くらいついてて欲しいなあ。
あんまり言うと、村に住む辻さんに悪いし、おとなしくこのプリクラで遊ぶことにした。
- 717 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:52
- 辻さんは、とりあえず変な顔をしようとする。
私は普通の顔で取りたい。
ずっと残る記念だからってことでなんとか説得すると、「じゃあ、可愛いバージョンで一緒に映るか」となった。
旅先で出会った子。
もしかしたら二度と会うこともないかもしれないのに、残ったプリクラが変顔じゃ・・・。
フレームを選んで、カウント。
3、2、1
- 718 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:53
- 「いやぁー」
カシャっとシャッターの音。
その直前、私も辻さんも、後ろからくすぐられた。
唐突に、突然に。
「これでオッケーやねー」
「だめ、だめー」
勝手にオーケーにされて、シールを決められてしまう。
犯人は、亜依ちゃんと高橋さんだった。
- 719 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:53
- 「もう、何するんだよー」
「みんなを待たずに二人でプリクラなんかとってた罰や」
「せっかく可愛くポーズきめてたのにー」
「亜依ちゃんでしょ、こういうことしようって言ったの」
「違うて、うちプリクラがここにあるのも知らんし、ロッジに入ってきて誰もいないなあと思ってたもん」
まさか、高橋さんが・・・。
「へへー。大成功!」
この子、きれいなのになんてえげつないんだ。
私と辻さんの手元には変顔プリクラが残された。
- 720 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/02(木) 22:53
- 里沙ちゃん達はずいぶん時間が経ってから戻ってきた。
それから、みんなでもう一回滑ってその日は終わり。
亜依ちゃんのおばあちゃん家に帰って、おいしい夕ご飯を食べて眠った。
すごく疲れてて、ずいぶんはやく眠った。
- 721 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/03(金) 01:16
- 作者さん 乙です。
いいですねぇ、時間がマッタリ流れてるような・・・。
リアル情報を微妙に取り入れながらの会話が脳内をくすぐります。
心配していた里沙ちゃんも無事戻ってよかったよかった。
丸い子もガンバレ!
では
- 722 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/03(金) 05:34
- 更新、お疲れ様です。
とうとう、辻に「小さな」が外されてしまった・・・。
次は「きれいでえげつない高橋さん」に期待。
ハッ!丸い子が出てない!
- 723 名前:作者 投稿日:2004/09/05(日) 22:43
- >やじろこんがにーさん
姫牧村は、なにやらのんびりと時間が流れてるようです。
>習志野権兵さん
丸い子は、きっと、そろそろ(ry
- 724 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:44
- 翌朝、目が覚める。
今日は、私が一番の早起き。
体がちょっと痛いけれど普通に起きられる。
亜依ちゃんと里沙ちゃんはぐっすり寝てた。
普段運動とかあまりしない二人だから、疲れているのだろう。
- 725 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:44
- 外は寒い。
朝ご飯は出来てるけれど、二人が起きてこないから朝のお散歩に出る。
雪に埋もれた村。
春休みの卒業旅行。
今日入れて後二日、三泊四日の卒業旅行。
スキーを滑るのは今日が最後。
雪解け水が、畑の間の小川みたいなところを流れている。
そんな音を聞きながら私は亜依ちゃんのおばあちゃん家に戻った。
- 726 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:44
- 今日も村の三人が迎えに来る。
ワゴンでスキー場へ。
昨日とは違って板を借りるとすぐにリフトに乗って上へ登る。
「今日は組み替えね」
そういって、パートナーが代えられる。
今日の私のパートナーは丸い子らしい。
もうちゃんと名前は覚えた。
小川さん。
なんだか小川さんが腰にまいているポシェットが気になる。
辻さんは里沙ちゃんについた。
- 727 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:44
- 最初のゲレンデを一回滑って昨日の感覚を思い出す。
何度も転んだけれど、下までたどり着いた。
「今日はさ、上まで行ってみない?」
「上ってどこまであるの?」
「今降りてきた所から、後リフト二回」
「ちょっと怖いかも」
ということで妥協してもらって、リフト一回分上に行く。
上は、斜面がさっきの所よりも急で、難しくなっている。
だけど、見晴らしは良かった。
- 728 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:45
- 「上に行くほど景色いいんだよ」
「きもちいーねー」
のんびりした雰囲気の小川さん。
板を借りたロッジはもう見えない。
だけど、雪山が一杯見える。
風が吹いてきて気持ちいいし、なんだかいい感じだった。
「なんか滑るのもったいないね」
「降りたらまた昇ってくればいいんだよ」
小川さんを見ると、うんうんとうなづいている。
なんだか納得させられる顔。
私は、ストックに力を込めて雪を蹴った。
- 729 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:45
- 何度か滑って、やっぱり転ぶけどそれなりに滑れるようになる。
小川さんは、あんまりお話する感じじゃないけれど、平和な雰囲気がほっとさせてくれる。
高橋さんほどじゃないけど、たまに訛りが入るのもおもしろかった。
お昼近くなった頃、小川さんに連れられて一番上まで昇った。
「きれー」
一番上は、本当に本当に見晴らしがいい。
斜面が急だから、地面が近くになくて、山が見えて、太陽が照らしてて。
風も気持ちよくて、なんだかやっほーって叫びたい気分だった。
- 730 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:46
- 「お腹すかない?」
「うん。すいたねー。下まで戻る?」
「その必要は無いのです!」
小川さんはポシェットから何かを取り出した。
「てれれれってれー♪ お・に・ぎ・りー」
ドラえもんのつもり・・・なんだろうか・・・。
とりあえず、あいまいに笑っておいた。
- 731 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:46
- 「しゃけとたらことおかか。あとお茶もあるよ」
「しゃけ」
「おっけー」
このためのポシェットだったのか。
ちょっとびっくり。
私達は板を脱いで雪の上に腰を下ろした。
- 732 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:46
- おにぎりを食べる。
雪山でおにぎりを食べる。
見晴らしのいい雪山でおにぎりを食べる。
ちょっと塩の効いたおにぎりはおいしかった。
「やっほー!!」
小川さんが叫ぶ。
叫んで、そのまま仰向けになった。
「やっほー」
見える範囲に誰もいないし、私も叫んでみる。
そして、私も仰向けになった。
- 733 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:47
- 太陽がまぶしい。
だけど、青い空はきれいだった。
雪は冷たい。
スキーウエアを通しても冷たさが伝わってくる。
なんだか眠くもなって来る。
「卒業旅行楽しい?」
「うん、たのしー」
「私も、遠くに旅行行きたかったなー」
仰向けになったまま話す。
青空を見上げたまま話す。
- 734 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:47
- 「ずっと住んでた村を離れるのってどんな気分?」
顔を見ないで話すのってなんだか変な感じ。
声も横から帰ってくる。
「まだ、よくわかんない」
「わかんない?」
「うん。ただ、村は好きだなーって思った」
「そっかあ」
そういえば、最近私も、家は好きだなーって思うようになって来た。
お酒の匂いがいつもしてたり、古風過ぎる感じがしたり、嫌な所もないわけじゃないけれど、それでも私はあの家が好きだなーって思う。
お父さんは・・・だけど。
- 735 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:47
- 「誰も知らない町の学校に通うのって怖くない?」
「怖いよー。友達もいないし、お母さんもいないし、一人で暮らすんだもん」
「そっかあ、そうだよねー。すごいよねー。そんなところに飛び込んでいこうって決められるんだもん」
「そんなことないよ。決めるまでずいぶんいっぱい考えたし、やっぱりやめようとか思ったし」
少なくとも、すごいとかそんなかっこいいものじゃなかった。
「のんちゃんもやっぱり怖いのかなあ」
「怖いと思うよ。絶対」
「そっかあ、そうだよねー。みんなすごいよねー、夢とかあって。それを追いかけて」
「夢とか、そんなすごいもじゃないよ」
そんなすごいもんじゃない。
ただ、ただ、速くなりたい、それだけ。
負けると悔しい、それだけ。
それだけのこと。
- 736 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:48
- 「私もほしいなあやっぱり。そういう目標みたいなの」
「目標?」
「うん。ただなんとなく暮らしてる感じ。楽しいは楽しいんだけどさ。なんか、置いてかれてる感じして不安」
「大丈夫だよ。目標とか、そんなたいしたもんじゃないから。あった方が楽しいかな思うけど」
「そんなもんなのかなあ」
平和な村。
だけど、その村の中にいろんな子がいて、悩んだりしてるんだ。
目を瞑る。
風が余計に気持ちいい。
このまま、眠りたかった。
- 737 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:48
- 「そろそろ行こうよ」
小川さんの声が聞こえる。
私は答えない。
雪に埋もれたまま風の音を聞く。
心地いい。
「寝ちゃった?」
起きてるけど寝てる。
このままこうしていたい。
こうして、静かにしていたいのに、なんだかほっぺたに冷たいものを当てられた。
- 738 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:48
- 「みんなまってるよ、多分」
目を開くとそこには顔。
両手で握った雪を私のほっぺにつけて小川さんが覗きこんでいる。
私は、何も答えずにそのまま、また目を瞑った。
「だめだって、寝ちゃだめだって」
だって、なんか気持ちいいんだもん。
聞き流すだけで答えない。
かさかさと、小川さんが動いてるのは聞こえるけれど、私は眠る。
無防備に眠る私の顔に、突然何かがかけられた。
- 739 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:49
- 「ひゃ、冷たい!」
「起きた」
「起きたじゃないよー」
「こんなところで寝てるからいけないんだ」
小川さんに、腕一杯抱えた雪を顔にかけられた。
冷たい・・・。
冷たいよ・・・。
私は、実力行使で反撃することにした。
「や、やめて、やめろー」
ゆるさない。
雪玉をつくって、一個一個小川さんに投げつける。
逃げて行っても追いかける。
そんな追いかけっこをどれくらいしただろう。
雪の上で走り回って、息が切れる。
二人とも、また雪の上に寝転んだ。
- 740 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/05(日) 22:49
- 「いい加減戻らなきゃねえ」
「そうだねー」
そういったまま動かない。
ずいぶん時間が経ってから、私達は下のロッジまでもどって行った。
もちろん、私が何度も転びながらだから、ずいぶん時間がかかったのだけど・・・。
- 741 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/06(月) 02:56
- 作者さん 乙です
朝の雪って神秘的ですよね。
まだ誰も踏んでいない滑らかな雪景色。日の光がまだ弱くて柔らかい綺麗な白。
なんか吸い込まれるような気持ちになって・・・ 神秘的な気持ちになりますよね。
上を目指すまこっちゃん、なんか24HTVの富士山登山を思い出すなあ。今でも見ると涙が滲んだりする。
紺野と小川は実際でも仲良しらしいけど、そんな場面がさらに展開されるとうれしいです。
なんかこの展開すごく好きです。
では
- 742 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/06(月) 05:23
- 更新、お疲れ様です。
ガァァァーン!
とうとう名前を覚えてしまった・・・。
ありがとう丸い子。
そして、さらば丸い子・・・。
- 743 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/09(木) 00:09
- 更新お疲れ様です。こちらの一連のシリーズの
やわらかな作風に惹かれてずっとROMってました。
これからも楽しみに待ってます。
- 744 名前:作者 投稿日:2004/09/09(木) 22:28
- >やじろこんがにーさん
冬の朝、春の朝。雪の朝。朝が似合う人、いますよね。
>習志野権兵さん
丸い子・・・。
>743
ありがとうございます。ある意味ワンパターンなシリーズですがこれからもよろしくお願いします。
- 745 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:28
- ロッジに戻ったらみんなもうお昼を食べ終わっていた。
午後もそれぞれの組で各々に滑る。
だけど、一番最後、もう帰るって時になって、一番最初のゲレンデにみんなで集まった。
「それじゃ、最後に下まで降りてかえろっか」
「最後は転ばずに降りたいなー」
やっぱり仕切るのは高橋さん。
里沙ちゃんがそれに答えている。
大分陽が傾いていて、もう夕暮れ近い。
私達は滑りはじめた。
- 746 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:29
- 一番前に里沙ちゃん、次に私。
亜依ちゃんはその後ろで、村の子達は後ろからついて来る。
「紺ちゃん、先行くでー」
「まってよー」
「下まで競争や、負けた方がジュースおごりねー」
「ずるいー!」
亜依ちゃんがそう言って私を追いぬいて行った。
先に加速してからそういうこと言うのずるいよ、もう。
- 747 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:29
- 私も追いかける。
亜依ちゃんは、斜面のゆるい所ではボーゲンじゃなくて足を閉じて直滑降みたいにしている。
あれ、曲がれないから怖いんだよな、と思うけれど、追いつきたいから私も膝を閉じる。
板を揃えると加速して来た。
ストックで雪を蹴って速度を上げる。
里沙ちゃんにまで追いついていた亜依ちゃんに並んだ。
- 748 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:29
- 「負けないよ」
「なんやて、いかせへんで」
ボーゲンで慎重に降りてる里沙ちゃんを追いぬく。
ちょっと斜めに来過ぎたから、私も左に体重をかけるけど、このままじゃ曲がれない。
足をハの字にしてから曲がる。
そのせいで速度が落ちて、また亜依ちゃんに抜かれた。
- 749 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:29
- 追いかける。
ロッジは近い。
亜依ちゃんも方向が傾いているから曲がろうとしている。
だけど、板を揃えたまま曲がろうとしてなかなか曲がれない。
「まがれ、まがれ、まがれって、あーーー」
亜依ちゃんは、無理に曲がろうとして結局ダメで、板同士をぶつけてバランスを崩して転んでいた。
そのすぐ横を私が追いぬく。
- 750 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:30
- 「いえー、勝ったー、うわぁあ・・」
亜依ちゃんを追いぬいて勝ったと思ったら、そこはゴール近くのこぶ地点。
そんなところを両足揃えて通過出来るわけもなく、私は派手に転んだ・・・。
体中、顔中雪まみれ・・・。
もう、あとちょっとだったのに。
- 751 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/09(木) 22:30
- 倒れたままちょっとふてくされてそのままいる亜依ちゃんと、雪だらけの顔を上げた私の間を、里沙ちゃんが慎重にボーゲンでぬけて行った。
「わーい、私がいちばーん!」
最後まで慎重に滑って、ボーゲンの格好のまま止まってそれから振り返ってそういう里沙ちゃんを、私は座ったまま見ていた。
板が、両方とも足から外れて、どこかにころがっていた。
- 752 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/10(金) 03:00
- 作者さん 乙です
競争する亜衣ちゃんと紺野さん。
そうなんですよね。ちょっと滑れるようになって連れ立って滑ると、なぜかみんな前に出たがる(笑
一人が前に出ると後のが少し加速する。そういう風にして最後はゲレンデの暴走族状態…
誰かが板を揃えて曲がり始めると、必死でまねをする。そんな風にして覚えてきた記憶がありますね。
でも、実際には一番先頭を走りたがるのは実は里沙ちゃんかもしれませんね。いや想像ですが。
なんにしても張り合う相手がいるというのは上達の糧ですよね。
紺野さんも亜依ちゃんも里沙ちゃんも意外と早く上手くなるかもです。
更新、楽しみにしてます。では
- 753 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/10(金) 09:48
- 更新、お疲れ様です。
最近、バラエティ番組で紺野にいじられている夢を見た。
ここの影響かな・・・。
- 754 名前:作者 投稿日:2004/09/13(月) 22:03
- >やじろこんがにーさん
そんな三人ですが、そろそろスキーからは帰る時間のようです。
>習志野権兵さん
それは決して私の影響ではありません(笑)
- 755 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:03
- 最後の晩。
今日は、高橋さんのうちに泊めてもらう。
広い家。
うちも結構広いんだけど、高橋さん家はもっと大きかった。
どうやらうちとおなじ造り酒屋らしい。
こんなに田舎なら、きっといい水があるんだろうなって思う。
出入りの若い集とか、なんか雰囲気がうちと似てるかも。
- 756 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:04
- 晩ご飯はお鍋。
高橋さんの家族と一緒にみんなでお鍋。
寄せ鍋の豪華版って感じ。
海のものと山のもの。
お魚とかかにとかがメインで、きのこなんかも入って、お肉はあんまり入ってなくて。
だしはしっかり取れていて、味がしっかりしみていて。
ご飯もやっぱりおいしい。
日本酒を作ってるんだから、食べるご飯もやっぱりいいお米を使ってるんだろうな。
そんなだし汁とそんなご飯を使ったおじやは、やっぱりおいしかった。
- 757 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:04
- それからお風呂に入る。
人がいっぱいいるから、回転を早くするために二人づつ。
私は、一番最後に高橋さんとだった。
なんだか緊張する。
別に、大勢いればそうでもないんだけど、あんまり知らない子と一緒にお風呂に入るのは緊張する。
二人で入るとか、知らない子だとなんだか緊張する。
高橋さん、なんだかきれいだし。
- 758 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:04
- 「神戸の高校行くんやって?」
私が体を洗っていると、先に湯船に浸かっている高橋さんが話しかけてきた。
「うん。神戸っていうか、須磨。たぶん近いけど」
「いいなあ」
「神戸ってそんなにいいとこ? 私よく知らないんだ」
「神戸は知らないけどー、宝塚が近くていいなあ」
近いんだ・・・。
って、そんなこと言われても、知らないけど・・・。
宝塚って、化粧の派手な人達の楽団か何かだっけ?
- 759 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:05
- 「背中洗ったげる」
「いいよー、そんな」
「いいのいいの」
私の後ろに高橋さんが座る。
背中洗ってもらうとか、そういうの慣れてないからなんだか恥ずかしいよ。
「結構筋肉ついてるんやね、ちゃんと」
「いちお、部活やってるし」
ただボーっと座ってればいいのかなあ。
手持ち無沙汰で困る。
とりあえず、ただ座って身を任せていた。
- 760 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:05
- 「はい、終わり!」
そう言って、高橋さんはシャワーの蛇口をひねる。
「いいよ、後は自分でやるから」
「だーめ、頭も洗うの」
この子、一緒にいると結構疲れるかも。
いやな感じじゃないけど。
でも、あわせるのはなんだか大変。
- 761 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:05
- それから、本当に頭も洗ってもらった。
美容院とかならわかるけど、お風呂でひとに頭洗ってもらうなんていつ以来だろう。
座ったまま目を瞑って身を任せる。
「かゆいところないですかー?」 なんてご機嫌な声をさせながら、高橋さんが洗ってくれた。
頭と体を流す。
それからとりあえず湯船に浸かった。
やっぱり私も背中流して上げなきゃいけないのかなあ?
って、思うけど、なんだか言いづらい。
- 762 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:06
- 「この村、どう?」
高橋さんが自分の体を洗いながら聞いてくる。
「なんか、のんびりしてていいよね。ずっと住むにはもしかしたら大変なのかもしれないけど、私は好きだなー」
「そっかあ。でも、何にもないでしょ」
「確かにねー」
確かに何もない。
スキー場は車でずいぶんはなれた所にあるし、村のなかにはホントに何も無いのだろうなって思う。
- 763 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/13(月) 22:06
- 「一人暮らしいいよねー」
「えー、でも、高橋さんも一人暮らしなんじゃないの?」
「だって、私達寮だもん。一人部屋でもないし」
「そうなんだ」
「一生のお願い! 今度泊めてよ。紺野ちゃんち。宝塚見に行くから」
「うん、部屋もまだ決まってないけど、いいよー」
一生のお願いって・・・、オーバーな子だなあ。
とりあえず、いいよって言っておく。
いやだって、こういう時に言えるわけもないし。
別に、嫌だってわけじゃないけど。
ただ、なんとなく、こういう約束ってそのままになっちゃいそうでそれが嫌だった。
せっかくこうやって仲良くなったんだから、なんかの形でずっと続けばいいなって思った。
高橋さんに限らず、みんな。
結局、私は高橋さんの背中を流すことも、頭を洗うこともなく、のんびりと湯船に浸かってお風呂を上がった。
- 764 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/13(月) 23:28
- 更新、お疲れ様です。
最後の晩・・・、
この6人の話ももうすぐ終わっちゃうのか。
正直、寂しいな・・・。
- 765 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/14(火) 02:43
- 作者さん 乙です
愛ちゃんとのお風呂のシーン・・・想像してしまいました、ドキドキしました
スキーが終わってどうなるのかな?
楽しみです よろしくおねがいします。
それはそうと、この間のオリンピック。野口選手のマラソンを見ていて
この小説を思い描きました。
あんなドラスチックなマラソンを紺野さん主演で書いてもらえたらいいなぁ〜と思ってしまいました
では
- 766 名前:作者 投稿日:2004/09/18(土) 23:18
- >習志野権兵さん
短い番外編ですから。
>やじろこんがにーさん
スキーが終わって、こんなんなっちゃいました・・・。
- 767 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:19
- お風呂から上がって、高橋さんの部屋へ。
なんか、かっこいいと言うかきれいと言うか、そんな女の人達のポスターがいっぱい貼ってある。
すごい部屋だ・・・。
きょろきょろ見回してしまう。
どこを見てもポスターだらけ。
なんだか落ち着かないよ・・・。
- 768 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:19
- 里沙ちゃんも私と同じで部屋を見回している。
村の子は当然だけど、亜依ちゃんもたぶん来たことあるんだろう、部屋に馴染んでいる。
高橋さんが、ドアを開けてお盆を抱えて入ってきた。
「なにそれー?」
お盆には一本の瓶がある。
みんなはあまり馴染みのない物かもしれない。
だけど、私には分かる。
うちにはいっぱいあるから。
- 769 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:20
- 「じゃーん、おさけで〜す」
「えーー」
やっぱり・・・。
「飲んでみようよ」
「でもー、お酒でしょー」
うちのよりおいしいのかなあ・・・。
ちょっと心配。
でも、みんなに飲ますのはいいのかなあ。
うちに亜依ちゃんや里沙ちゃんが来て、私がお酒出したら、無茶無茶怒られるけど。
高橋さんは平気なのかなあ?
- 770 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:20
- 「やめた方がよくない?」
「なんや里沙ちゃん、度胸あらへんなあ」
ちょっと引き気味の里沙ちゃんに、飲む気満々の亜依ちゃん。
酔っぱらった亜依ちゃんとか、見てみたいような恐ろしいような・・・。
「愛ちゃん怒られないの?」
「ばれなきゃ平気やし」
「ばれるでしょ!」
小川さんは割と良識派らしい。
でも、高橋さんはそんな小川さんの言葉を聞く気はなさそう。
その隣で、辻さんはけらけら笑って見ていた。
- 771 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:20
- 結局、高橋さんの持って来た日本酒がそれぞれのコップに注がれる。
みんな、匂いをかいだり、透かして見たりしてる。
私は、さすがに見慣れてるし、そんなことはしない、といいつつ匂いをかいだり。
うん、悪くないかな。
なんだかみんなお互いの様子を見ている。
最初に誰が飲むのか。
警戒した目つき。
- 772 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:21
- 「愛ちゃんもってきたんだから飲んでよー」
「やっぱ、まことでしょー」
「なんで! 加護ちゃんのみたそうだったし、飲んでよ」
「うち、うちは、やっぱ、ほら、お酒の味をな、ちゃんと確かめてからやないと。里沙ち
ゃん、味見したってや」
「私! 私は、ほら、法律はさ、ちゃんと守るいい子だから。その辺はね。うん。そうだ
よ、紺ちゃん家お酒作ってるんだから飲んだことあるでしょ。ほら、味見して感想をさ、ね」
とばっちりがこっちに・・・。
別に、いいんだけどこれくらい。
高橋さんもこの様子だと飲んだこと無いのかなあ?
造り酒屋の子なら飲んだことありそうなのに。
- 773 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:21
- みんなの注目を浴びる。
私が飲んだら、きっとみんなも飲むだろうな。
未成年の飲酒はいけないんだぞ。
私は、なんどもあるけど・・・。
コップを持つ。
ちょっと考えたけど、飲めっていう雰囲気だから、しょうがない、飲むことにしよう。
うちのお酒よりおいしかったらちょっと哀しいなあ。
- 774 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:21
- 一口含む。
みんなが私の顔をのぞき込む。
日本酒のつーんとした感じがのどをひたす。
ちょっと味わってから飲み混んだ。
「どう?」
「うーん、おいしいよ」
うちのと比べるとどうなのかなあ?
正直、味がどうこうとか分かるほどは飲んでないから何とも言えないけれど。
私の言葉を聞いて、みんなそれぞれにコップと向きあっていた。
- 775 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:21
- 「にがーい」
「おいしくなんかないよー」
亜依ちゃんと辻さん。
口にあわなかったらしい。
「愛ちゃん家のお酒、失敗作なんじゃないの?」
「そんなことないもん」
辻さんに言われ、高橋さんがお酒を口に持って行く。
飲みこんだ瞬間、表情が変わった。
- 776 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:24
- 「苦いんでしょー」
「そんなことない。おいしいもん」
そう言って、残りも口へ。
無理しない方がいいと思うけど・・・。
そんな中で、一人だけ考えながらもコップを口に持って行き続けてる子がいる。
「まこっちゃん、おいしいのー?」
「なんか、おいしい気がする。わかんないけど」
「もう一杯いってみる?」
考え込みつつもコップを空けた小川さんに、私がもう一杯注いであげる。
ついでに自分のコップにも。
高橋さんが日本酒と一緒に持って来た柿ピーとか、ポテチとか、そんなおつまみらしきも
のに手を伸ばしながらお酒を飲む。
おいしい。
- 777 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:24
- 「紺ちゃん、なんで平気な顔して飲めるの?」
「なんでだろう?」
笑ってごまかす。
初めてじゃない、とかなんとなく言いづらい。
「にがいよねー」
「おいしくないよー」
そう言いながら、亜依ちゃんと辻さんもコップを口へ。
結局コップ一杯飲みきっていた。
- 778 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:24
- 「なんか、気分悪くなってきた」
コップを置いてうつむくのは里沙ちゃん。
お酒はまだ半分くらい残っている。
頭を押さえて、ちょっと息が荒くなっている。
バス酔いした時の里沙ちゃんそのものだった。
「高橋さん、トイレどこにある?」
「出て、左のつき当たり」
「里沙ちゃん、トイレ行こう」
言葉はなく、里沙ちゃんはうなづく。
肩を貸して、トイレに向かった。
- 779 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:25
- やっぱりお酒はよくないよ、うん。
止めなかった私もよくないんだけど。
でも、高橋さんところのお酒も結構おいしかったな。
トイレから出て来た里沙ちゃんは、まだあまり調子は良く無さそうだけど、ともかく部屋まで戻った。
- 780 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:25
- ・・・・・・
みんな寝てる・・・。
それも、なんかすごい格好で寝てる・・・。
五分くらいしか離れてなかったと思うんだけどなあ。
お酒回るのみんなはやすぎ。
里沙ちゃんも座ると同時にテーブルに伏せった。
一人ぼっちになった私は柿ピーに手を伸ばす。
バリバリとかじる音が部屋に響いた。
虚しい。
私も寝ることにしよう。
- 781 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/18(土) 23:26
- こうして、私達は大人になった。
何かが違うような、気もするけど・・・。
- 782 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/19(日) 02:44
- 作者さん 脱稿おめでとうございます。
面白いですね、卒業旅行の酒飲み会。ちょっと悪い事をしている雰囲気がよく出ていて面白かったです。
「やめた方がよくない?」の里沙ちゃんの台詞・・・がきさんの感じが出てるなあって思う。
彼女は実際でも疑問符がつく会話が多いですよね。
終わってしまうとまた寂しくなります。気が向いたらまたなにか書いてください。お願いします。
では
- 783 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/19(日) 08:56
- 更新おつです。
>>782 まだ脱稿じゃないだろ。
- 784 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/19(日) 09:54
- >>783
あ、そうなんだ。
なんかそんな感じの終わり方だったんで・・・。作者さん、すみません
- 785 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/19(日) 19:57
- 更新、お疲れ様です。
それにしても何故、紺野は断わらない・・・。
ハッ!
ひょっとして本当は飲みたかったのか!
- 786 名前:作者 投稿日:2004/09/21(火) 00:07
- 今日は一言だけ。
まだ終わらないよ・・・。
- 787 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:07
- 夜中に目が覚めた。
テレビがついている。
みんなが寝てる中で、一人、亜依ちゃんだけが起きていた。
「何見てるの?」
「起こしちゃった?」
「そうでもないけど」
「フィギュアスケート」
テレビに向かう亜依ちゃんの隣まで移動する。
画面には外人の女の人が観客に向かって手を振っている映像が流れている。
- 788 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:08
- 「梨華ちゃん出るんよ、次」
「そうなんだ」
亜依ちゃんの友達。
私も一年生の頃に亜依ちゃんに連れて行ってもらったスケート場で、練習してるところ
に会ったことがある。
すごくきれいな人と思った。
だけど、それがきっかけでたまに見るようになったフィギュアスケートの選手で言えば、
私は里田さんの方が好きだったりする。
亜依ちゃんには絶対言えないけれど。
最初に知った時からトップ選手だった石川さんよりも、これから昇って行く! って感じ
の人に魅かれたんだと思う。
私も、今から昇って行きたいから。
- 789 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:09
- 石川さんは最後の演技者らしい。
大きな大会、世界選手権。
そんな舞台に立つのってどんな気分なんだろう。
素人だから技術的なことは当然分からないけれど、単純に見ていてすごいなって思える演技だった。
亜依ちゃんは、みんなが寝てるから音を立てないように拍手している。
採点結果が発表されて、石川さんは三番になったみたいだった。
- 790 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:09
- 「あーあ、また三番かー」
「すごいじゃん。銅メダルでしょ」
「でもなー、前も三番にはなっててなー、上の二人そんときと同じなんよ」
世界で三番とか、それで不満とか、それはいったいどんな世界なんだろう。
遠い、遠すぎる・・・。
テレビでは表彰式をバックに全体の結果が流れている。
私のお気に入りの里田さんは六位で、もうひとり日本人で出ていた木村あさ美さんが七位だった。
- 791 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:10
- 「明日で帰るんだよねえ」
ぼんやりとテレビ画面を見つめたまま亜依ちゃんがつぶやく。
私は何も答えない。
答えないでぼんやりとテレビを見つめる。
「引越し、いつ?」
春休みが終われば私は神戸の学校へ行く。
今の家からは引っ越す。
- 792 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:10
- 「うん、買い物とかいろいろして、来週の終わりに荷物送る」
「そっか」
真夜中。
暖房もついていなくてちょっと空気が冷たい。
隣には亜依ちゃんがいる。
「紺ちゃん」
「ん?」
亜依ちゃんが呼びかける。
私は答えたのに、亜依ちゃんのその後の言葉がない。
- 793 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/21(火) 00:10
- 「なんでもない」
私は亜依ちゃんの方を見る。
亜依ちゃんはこっちを見てくれなくて前を向いたまま。
前を向いたまま、黙って肩を寄せてきた。
私にもたれかかって、肩に頭を乗せる。
「なんでもない。なんでもないよ」
私も、何も言わずに亜依ちゃんの頭に自分の頭をあわせた。
ちょっと冷たい空気の静かな夜だった。
- 794 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/21(火) 02:24
- 油断してたら、既に更新されていた・・・。
それはそうとお疲れ様です。
そう言えば、紺野も辻もこの休みが明けたら・・・。
- 795 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/21(火) 04:02
- 作者さん 乙です。
この前はどうも、勝手に終了させちゃって・・・
里田さんと、あさみさんの名が出るとは意外でした。てっきり87年組み以降だと・・・
テレビの前で、暗い中、頭を寄せ合う紺野さんと亜依さん。
この前の二人ごとを見てるだけになんかなまなましい。どきどきしますね。
変なことにならなければいいのですが・・・。
では
- 796 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 20:40
- 更新おつです。フィギア組ちょいと登場ですね。1位2位はやっぱりヒッキーとアユなんですね。
>>795 二人ごとでどんな感じだったんですか?
ってか、二人ごとっていつやってるんだろう?俺の地方でやってないのかな?
- 797 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/21(火) 22:00
- >>796
東京と北海道だけの放送みたいです。
あいぼんとこんこんが浴衣でYOUとかいうレストラン(喫茶店?)の
プルプルオムレツを食べに行った。
(以前HPWでマコトと愛ちゃんに教えたって言ってた所だと思います)
内容は、泊まりに言った事とかの仲良し話でした。可愛かったです。
映像は「福岡まころだ」に残ってると思います。
- 798 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/21(火) 23:52
- >>797どうもありがとうございます。なるほど東京都北海道だけですか。
よく分かりませんが、「福岡まころだ」で検索して映像見てみたいと思います。
>作者さんはじめ皆様
雑談すみませんでした。
- 799 名前:作者 投稿日:2004/09/23(木) 22:00
- >習志野権兵さん
休み明けにはみんなばらばらになって行きますね。
>やじろこんがにーさん
世の中いろいろなものがあるんですね。福岡ってなんだ? と思って検索ひいてみたら、まさかそこの語呂から来てるとは・・・。
>796
そうですね。前と一緒みたいなので、一位と二位はその二人なのでしょう。
あさみと里田、さらには石川梨華がどんな脈絡で突然出てきたかは、分かる人だけ分かってください。
シリーズ長いもので(笑)
- 800 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:01
- 翌日、もうスキーはしない。
六人で亜依ちゃんのおばあちゃん家に移動して、その辺でゆっくり過ごす。
散歩した。
雪が残る村の中を散歩した。
亜依ちゃんのおばあちゃんのペースに合わせて、ゆっくりと。
- 801 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:02
- 「ひゃー、つめたーい」
雪解け水が流れる小川。
そこに里沙ちゃんが手を差しいれている。
里沙ちゃんもみんなも、昨日のお酒は残ってないみたいで、二日酔いの子はいない。
「また、来よう」
隣を歩く亜依ちゃんが言う。
「また、三人で来よう。スキーしたり、夏なら山行ったり、夏祭りに行ったり。こうやっ
て散歩したり。また、三人で来よう。三人で。うちだけやなくて、三人で。それで、ばあち
ゃんもいて、のの達も三人揃って迎えてくれて。また、来よう」
亜依ちゃんは、前を向いたまま、私に答えをもとめるでもなく、そう言っている。
私は、何も言わなかった。
- 802 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:02
- 今日、帰れば、私はすぐに引越しの準備を始める。
亜依ちゃんや里沙ちゃんとはお別れ。
亜依ちゃんや里沙ちゃんだって、高校に上がる。
村の三人も、高校へ進む。
三人とも、村から離れる。
みんなばらばらになっていく。
変わらないのは、ずっと村に暮らす亜依ちゃんのおばあちゃんだけ。
- 803 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:04
- だけど、だけど、なんだか今は、こうやってまた六人で、おばあちゃん入れて七人で、
こうやって、また一緒に歩けるって、いつでもこうやって一緒に歩けるって、そう、思っ
ていたかった。
「ひゃーー」
「なにするん!」
亜依ちゃんの、私の、そんな感傷はあっさりと破られる。
後ろから、私には高橋さんが、亜依ちゃんには辻さんが、背中に雪を突っ込んだ。
- 804 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:04
- 「冷たいよー」
「むかつくー。まて、このばかののー」
亜依ちゃんは、道端の雪を拾ってまるめながら辻さんを追いかける。
私も、雪の玉をいくつも作りはじめた。
「紺野ちゃん、それ作りすぎ。やめよう。ねえ、やめようよ」
「ゆ・る・さ・な・い」
私の隣に小川さんもやってきて、一緒に雪玉を作ってくれる。
「いけー、紺野ちゃん!」
六つ並べた所で、私はそのうちの二つをもって高橋さんを追いかける。
- 805 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:05
- 「まった! タイム! タイム!」
「タイムとか無いの!」
高橋さんを狙いうち。
一個、二個、どっちも当たる。
雪玉を取りに小川さんの所に戻ると、高橋さんも黙ってなくて、雪玉を投げてきた。
その標的は、なぜか私じゃなくて小川さん。
「やったな、このー」
小川さんも負けずに投げ返す。
すると、今度は後ろから雪じゃなくて水をかけられた。
- 806 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:05
- 「ゆだんたいてきー」
雪解け水が流れる小川の中に、はだしで入って行った里沙ちゃんがいた。
笑顔でバシャバシャと水をかけてくる。
「紺ちゃん、覚悟しろ!」
今度は亜依ちゃん。
さらに、辻さんまで一緒になって雪を投げつけて来る。
前後左右囲まれて、なすすべもない私と小川さん。
- 807 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:05
- 「覚悟しろ!」
と思ったら、小川さんまで裏切った・・・。
間近から、雪を投げつけると言うかかけてくる。
おてあげだー・・・。
なすすべなく、五人の攻撃をただ受ける。
でも、なんだかむかつくので、反撃がしたい。
五人に攻撃するのは無理だから、私は、雪をかきあつめて大きな玉を一個作って、一番罪の大きい人に罰を与えることにした。
「この、裏切りものー」
声と同時に雪玉を抱え上げた私を見て、逃げ出すのは小川さん。
しかーし、私から逃げ切れるはずなどないのです。
簡単に追いついて、まわりこんで小川さんの前に立ちはだかります。
- 808 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/09/23(木) 22:05
- 「いや、いや、許して」
「ゆるしません」
両手で雪玉を投げつける。
狙い通りに、小川さんの顔面にヒットした。
顔も頭も雪まみれ。
たぶん、それは私もなんだろうけど。
四人も集まってくる。
そんな私達を見て、大爆笑していた。
- 809 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/09/24(金) 11:46
- 作者さん 乙です。
雪合戦かぁ、小学生の時にやったかな。
子供って雪を見ると絶対やりますよね。
でも、紺野さん、やり過ぎだって、抱えるほどの雪玉って(^-^;)
「里沙ちゃんはやく川からあがってね、しもやけになっちゃうよ」
って、つい声をかけたくなりました。(^-^)
最近モー娘。も世代交代が進んで、本当に五期が主力になってきましたね。
この小説の中のように、現実世界でも大活躍してもらいたいものです。
では
- 810 名前:習志野権兵 投稿日:2004/09/24(金) 20:24
- 更新、お疲れ様です。
丸い子、撃沈!
- 811 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/25(土) 00:33
- 更新お疲れ様です。
お豆ちゃん足よく平気だな〜。
- 812 名前:作者 投稿日:2004/10/03(日) 22:34
- >やじろこんがにーさん
雪が積もると、必ず起こりますよね。
>習志野権兵さん
丸い子が引っ張られてる・・・
>811
遊んでる最中って結構いろいろと平気だったりしますよねー
- 813 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:34
- お昼、高橋さん家のワゴンがまた迎えに来た。
駅までの最後のドライブ。
春の陽射しの中でのドライブ。
みんな静かだった。
ほとんど何もしゃべらない。
静かなまま駅までついた。
- 814 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:35
- 電車はまだいない。
他のお客さんもいない。
六人と、ワゴンだけがある。
「帰ったら着くの夜くらい?」
「そうやなあ。暗くはなっとるやろな」
太陽がまぶしい。
でも、家に着く頃はきっと真っ暗。
姫牧村は遠い。
- 815 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:35
- 「何にもなかったでしょ」
「そうだね」
「紺野ちゃん、フォローなさ過ぎ」
「何にもないって言ったの自分でしょー」
何も無いからいいんだよ。
そう、思ったけれど、そんなことは説明して上げない。
小川さんは、雪合戦のうらぎりものだから。
- 816 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:36
- 誰もいない駅舎から、プラットホームへ。
本当は歩道橋を昇って行くみたいだけど、誰もいないから線路を渡って、プラットホームへよじ登る。
田舎だから出来ること。
「そのうち遊びに行くよ、こっちから。宝塚行く時泊めてもらうから」
「うん。出てくる時は連絡して」
宝塚ポスターだらけの部屋には驚かされた高橋さん。
宝塚行く時にこっちに来るなら、泊めてはあげようと思った。
でも、一緒に見に行くのは、危険な香りがするので遠慮しておこう、と今から思う。
- 817 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:36
- 「インターハイで会おうぜぃ」
「うん、先輩にくっついて、インターハイ見に行くよ」
「だめー。自分で出なきゃ」
インターハイは、競技が違っても一つの県で開催される。
会場が近いかどうかとか、そんなことは分からないけれど、私も辻さんも、どっちもインターハイに出られれば、きっと会えると思ってる。
- 818 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:36
- 電車が入ってきた。
お別れの時。
私達は、荷物を抱え、電車に乗り込む。
「楽しかった。ありがとう」
「気をつけてね」
「うん」
「また来てね」
「うん」
三人が三人と、順繰りに握手をする。
一人一人が一人一人と握手をする。
また、会えるように。
- 819 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:37
- 「またね」
「うん」
ドアが閉まった。
電車が動き出す。
三人は手を振ってくれた。
ずっとずっと、手を振ってくれた。
私達も、窓を開けて、身を乗り出して手を振る。
大きく、手を振る。
「また会おうやー」
やがて、電車はトンネルに入って、三人の姿は見えなくなった。
私達は、姫牧の村を後にした。
- 820 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:37
- 窓を閉める。
それから、荷物を抱えて網棚に乗せた。
三人ともちっちゃいからなんか大変。
車掌さんが来たから手伝ってもらおうかと思ったら、私達よりさらに小さかった・・・。
荷物を載せ終えて座席に座る。
ほっと一息つく。
楽しかった。
四日間、本当に楽しかった。
雪があって、静かで、ご飯がおいしくて、たぶんお酒もおいしくて。
楽しかった。
四日間、本当に楽しかった。
- 821 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:38
- 一息ついて、口を開くのは亜依ちゃん。
「また、来ようや」
「うん」
「そうだね」
私も、里沙ちゃんも、同じ気持ち。
また、みんなで来たい。
また、みんなと会いたい。
素直に、そう、思った。
- 822 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:38
- 私達は、春からそれぞれ高校生になる。
それぞれの町で、それぞれの学校で。
遠く離れているけれど、また、会いたいって思った。
- 823 名前:初めての卒業旅行 投稿日:2004/10/03(日) 22:38
- 初めての卒業旅行 おわり
- 824 名前:作者 投稿日:2004/10/03(日) 22:48
- ずっとsageてた理由。 一度sage更新ってやってみたかったから(笑)
- 825 名前:作者 投稿日:2004/10/03(日) 22:48
- 最後にageる理由。最後はやっぱり上に出したかった(笑)
- 826 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/04(月) 01:08
- 脱稿お疲れさまです
ゆっくり休んでください
またいつかアイデアが浮かんだら短編でいいんで高校編を・・・w
- 827 名前:習志野権兵 投稿日:2004/10/04(月) 02:33
- 更新、そして完結、お疲れ様です。
とりあえず、今回分のコメントを。
紺野は意外と根に持つタイプ?
- 828 名前:やじろこんがにー 投稿日:2004/10/04(月) 12:38
- おぉ、出遅れたぁ
作者さん、短編とはいえ短くない時間、お疲れ様でした。
なんだかほんわかした作品で随分癒されました。
作者さんの紺野さんに対する感性が好きなんで、
また意欲がわいて作品を発表されることを願ってます。
希望は飼育さんと同じ高校編です。
では。
- 829 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/04(月) 21:33
- 更新乙です!
なんかとっても感傷的になってしまいました。
高校編是非期待してます!
- 830 名前:マシュー利樹(旧名:習志野権兵) 投稿日:2004/10/05(火) 00:00
- なんか、寂しいですね・・・。
紺野が苦悩の末に決断した結果とは言え、離れ離れになると言うことは・・・。
ずっと馴染んでいた相手なら尚更。
それは読んでいる側からしてもそうだと思います。
俺自身は、『初めての決断』から読み始めたのですが、その俺でさえ、結構、寂しいものを感じてます。
前から見ていた皆さんは、もっと寂しかったものと思います。
でも、それはそれとして、次回作に更に期待したいと思います。
続編書くのも良し。まったく違うシリーズを書くのも良し。
何を書くにしても、みやさんの作品は見たいと思います。
色々といじってくれてありがとうございました(笑)。
そして、お疲れ様でした。
- 831 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 15:24
- 脱稿乙です
6人にもうちょっと休みをあげたかったなぁ
そんな感想が最初に思い浮かんだw
次回作があればまた読みにきます
- 832 名前:みや 投稿日:2004/11/07(日) 23:07
- みなさん、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
完結前から続編希望が出てましたが、次の話は続編ではなくて、別の話となりました。
ファーストブレイク@空板
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/sky/1099835648/
高校生がバスケをします。
ここの主役三人は最初は影も形もいません(笑)
中盤の入り口に影だけ出てくる人とか、後半に入ってから出てくる人とか・・・。
新しい話も読んでみたい、という方はどうかお付き合いください。
ここの三人が好きなんだ! という方は、話が進むまでお待ちください。
続編が読みたいんだよー! という方は・・・、どうしましょうか。
高校生になった彼女たち。
ばらばらになっているので、書いたとしても出てこない人はきっといます。
今年中には、描かれることは無いでしょう。
そのうち、きっと。
とりあえずは、バスケの話、よろしければお付き合いください。
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