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回帰・2002.04.19

1 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時48分32秒
安倍なつみソロライブに捧ぐ、
なっちと明日香の妄想話。

かつて緑板で書いていらした、ある方への感謝の意味もこめまして
ここに初小説書かせていただきます。
2 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時49分54秒
たった一人の狭い楽屋。
いつもの賑やかさはそこにはない。
ただ無機質な白い壁が目だつだけ。
3 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時50分56秒
ああ、どうしよ…緊張してきちゃったよ。
娘。のライブじゃこんなに緊張しないのに。
この緊張感…あの頃以来かな。
生バンドを従えて、みんな必死に歌ってたあの頃以来…
楽屋裏にまでバンドの練習音が響く懐かしい光景に、ふと思う。
4 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時52分40秒
ダンスの振り付けの確認をしてるゆうちゃんと圭ちゃん。
ハモリの練習をしているタンポポの3人。
スタッフさんと写真を撮っている紗耶香。
そして、楽屋の片隅でじっと考えごとをしている福ちゃん。
話しかけることさえできない緊迫感を漂わせている福ちゃん。
5 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時55分06秒
でも、わたしはかまわず喋り出す。
ねえ福ちゃん。なっちね、今日ロックボーカリストになるんだよ。
みんなの夢だったロックボーカリストに。しかもソロだよ。
すごいっしょ? すごいって言ってよ、ねえ福ちゃん。
あれから3年もかかって、やっとここまでたどりついたんだよ。
福ちゃんもこれでなっちのこと少しは見直したっしょ?
だから見ててよ。ね、福ちゃん。

・・・
見渡せば、楽屋にはただひとり。
どこかから聞こえるギターの練習音が心地いい。
そして、少し泣いている自分と不思議と落ち着いた自分。
うん、頑張れるよ。なっち強くなったもん。
6 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時56分25秒
「安倍さーん、スタンバイよろしくお願いしまーす」

わたしは立ち上がり、ドアに向かう。
ドアを開ければ薄暗い廊下、スタッフが慌ただしく走っている。
知らないバンドの人たちがわたしの方を興味深そうに見てる。
そんなことはおかまいなしに、わたしは楽屋を振り返って
心の中でつぶやいた。
じゃあ、みんな行ってくるよ。
みんなのあのときの気持ちを精一杯歌に込めて、
悔いのないように頑張ってくるね。
7 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)21時58分12秒
真っ暗なステージ。
今日わたしがここに立つことは誰も知らない。
客席にはロックを見に来た人たちばかり。
わたしの歌手としてのチカラが問われるステージ。
覚悟を決めてステージの真ん中に立つ。
8 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時01分58秒
真っ暗な中、坂崎さんのギターが始まる。

 ♪僕の話を聞いてくれ
  笑いとばしてもいいから
  ブルースにとりつかれたら
  チェインギャングは歌いだす
  仮面をつけて生きるのは
  息苦しくてしょうがない
  どこでもいつも誰とでも
  笑顔でなんかいられない

徐々に明かりがついていく中、わたしは思う。
ああ、わたし歌ってるんだ。
武部さんのピアノ、坂崎さんのギター、加藤さんのコーラス、
3年前に歌った「守ってあげたい」とみんないっしょ。
あと、足りないのはあなただけ。
9 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時03分42秒
 ♪だから親愛なる人よ
  そのあいだに
  ほんの少し人を愛するってことを
  しっかりとつかまえるんだ
  一人ぼっちがこわいから
  ハンパに 成長してきた
  一人ぼっちがこわいから
  ハンパに 成長してきた
           (THE BLUE HEARTS「チェインギャング」より抜粋)
10 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時04分28秒
大丈夫。ちょっとトチったけど、気持ちよく歌えたよ。
そして、わたしはMCに入る。
「FACTORYへようこそ。
今夜のオープニングアクトは
わたし安倍なつみがお贈りします。」
「それでは、もう一曲聴いてください」

 ♪はっきりさせなくてもいい
  あやふやなまんまでいい
  僕達はなんなとなく幸せになるんだ
  何年たってもいい 遠く離れてもいい
  独りぼっちじゃないぜウィンクするぜ
           (THE BLUE HEARTS『夕暮れ』より抜粋)
11 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時06分03秒
わたしの初のロックステージは終わった。
わたしの想いは歌にのせられたのかな?
わたしの気持ちをわかってくれた人はいたのかな?
12 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時07分26秒
坂崎さんたちにお礼を言って、楽屋に戻ろうとしたところで
きくちさんと出くわした。
「ホントに今日はこんな機会を作っていただいて、ありがとう
ございました。わたしなんかがこのステージに立っちゃって
良かったんですか?」
「ぜんぜん構わないよ。昔約束した安倍との約束守れなかった
からね。せめてもの罪滅ぼしだと思ってくれれば」

きくちさんの番組でゲームに勝って、なんでもかなえてくれるって
いうから出してみたお願い。それがジュディマリのYUKIさんとの
共演だった。そのときは二つ返事でOKだった。
でもわたしたちが忙しくなって、わたしへの注目が減って、
娘。がフジテレビに出なくなって、そんな話はなかったことのように
なってしまった。それにもうジュディマリは解散した…
13 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時08分55秒
「約束って、あのYUKIさんと共演させてくれるってやつですか?
いいですよ〜、もう。いつの話だと思ってるんですか」
本当はいっしょに出たいのに、口からは違うことばが出ている。
いつものことながら、そんな自分がイヤになる。
そんな気持ちを知ってか知らずか、きくちさんがひとこと。
「いやあ、あれ、なかなか難しくてな。向こうの都合もあるしな。
お詫びにな、今日のステージの他にもう一個プレゼント用意して
あるんだ。もう楽屋においてあるから行ってごらん」
「えっ? なになに? 何ですか?」
きくちさんは笑ってるだけで教えてはくれない。
しつこく聞いてるうちに、きくちさんは早く行けと言う。
行けばわかるからと。
しょうがないので、今日のお礼をよく言って、
まわりのスタッフにも挨拶をして、その場を離れた。
14 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時14分11秒
なんだろ、プレゼントって。
早く行けって、溶けちゃうものなの? アイスかな?
娘。のコンサートで控え室でかき氷を作ってるなんてよく話してるから、
気を使って用意してくれたのかもね。
行くときは緊張感でガチガチで通った廊下を
「だってアイスが呼んでるもんね♪」
なんて口ずさみながら、楽屋まで帰る。
15 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時16分36秒
楽屋の扉に手をかけた。
あれ? 誰かいる。
なっち、楽屋間違えた?
でも、なに? この懐かしい感じ。
楽屋を出ていくときにつぶやいた気持ちが残ってるみたい。
やだな、わたし。昔のことはなるたけ考えないようにしてるのに、
また思い出してる。
行くときに助けてもらったんだから、今日はもう忘れようよ。
そんなんじゃ強くなったなんて胸張れないよ。
16 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時21分24秒
そんなわたしのそんな気持ちは脆くも崩れ去る。
扉の奥から声が聞こえた。

「おかえり、なっち」

その懐かしい声に…もうわたしは涙ぐんでいた。
扉を開けて、無理して笑顔を作って、
なんとか声に出して言う。

「ただいま、明日香…おかえり、福ちゃん…」

ぼやけた視線の先には、ちょっと戸惑ったような福ちゃんの笑顔。
17 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時22分44秒
ああ、わたしはようやく3年という日を取り戻した。
一人ぼっちがこわくてハンパに成長してきたわたしが、
一人になって歌った今日、ロックボーカリストになった今日、
すべてが取り戻せたようなような気がする。

この3年間、つらいこともあったし辞めようと思ったことも
あったけど、続けてきたことは無駄じゃなかった。
今日という日を迎えるための、長い長い道のりだったんだ。
18 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時24分28秒
そして、昔みたいに
わたしは甘えるように聞く。

「ねえねえ福ちゃん。今日のなっちどうだった?」

「うん、良かったよ。なっち、すごいね。頑張ってたね」

明日香がわたしの横からいなくなった日が始まってから、
ちょうど3年の2002年4月19日。いまわたしの前に明日香がいる。
また横に立てる日はそう遠くないような気がしてきた・・・
19 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時27分20秒
安倍編、ここまでです。
続いて、福田編です。
20 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時29分20秒
金曜の15時。
わたしは真っ暗な観客席の横にひっそりと立っていた。
みんなステージの方を向いてるとはいえ、帽子は目深にかぶる。
わたしのことを知ってる人はこの中にはいないだろうけど、
知ってる人がいたら、もしそれで気付かれたらそれはそれでイヤ。
21 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時32分35秒
一週間くらい前にきくちさんからメールがあった。
『来週の19日金曜にFACTORYのライブやります。
今回は実力派の新鋭バンドを揃えたので、もしよかったら来ませんか?
たぶんおもしろいものも見れると思うので。連絡まってます』

きくちさんとは去年の紗耶香のライブのときに、舞台裏で会った。
わたしのラストコンサート以来だから、約2年半ぶり。
たまたま和田さんと楽しげに笑いあってるところみたいだったので、
わたしも近付いていって挨拶した。
22 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時34分57秒
そのときに連絡先を聞かれた。
普段なら絶対教えないし、ためらっていたら
和田さんが
「福田よー、教えといて損はないと思うぞ。
相手はフジテレビの大プロデューサー様だぞ。
俺に教えとく方がよっぽど危ないだろ。
俺だったらお前のアドレス、ファンのやつらに売りつけかねねえもん」
いつも通りの引き笑いをしながら、そう言う。
和田さんがそんなことしない人だっていうのはわかってるけど
「じゃあ、和田さんに教えてるくらいだから」
と言って、きくちさんにメールアドレスを教えた。
23 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時37分32秒
その後、特に連絡もなく、忘れかけていたころにあのメールが来た。
でも、その日はバイトが入ってる。
でも、わざわざきくちさんがメールしてきたんだ。
きっとなにかあるんだろうな。
和田さんに聞こうかと思ったけど、頼子からの話によると
いま大変なことになってるみたいだから、連絡はしづらい。
わたしは覚悟を決めてバイト先に連絡をして、
休みを代わってもらった。

そして、いまこの闇の中に立っている。
わたしもなにやってるんだか…
自虐的に今この場に立っていることを少し後悔した。
24 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時40分32秒
開演の合図、
騒がしかった会場が一瞬にして静かになる。
会場にアコースティックギターの音が響き出した。
まだ会場は暗いまま。
なんか前の方の人たちが騒ぎ始めた。

そして、イントロが終わって照明がつく。
スピーカーからはよく知っている声。
かつてわたしの横にいつもあった声。

なっち!! なっちがなんで!!
25 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時42分20秒
突然のなっちの登場に会場もざわざわとしだす。
そりゃそうだ。いきなり国民的アイドルグループの一人が
この客層相手に歌うなんて誰一人考えるわけないよね。

でもなっちそんなこと関係ないみたいだな。
歌うことに集中してるよ、うん。

客席もなっちの「歌」を聴き始めたみたいだ。
26 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時45分30秒
あれ? この歌詞って…
わたしは歌に集中する。

1曲目が終わり、2曲目が始まる。

 ♪はっきりさせなくてもいい
  あやふやなまんまでいい
  僕達はなんなとなく幸せになるんだ
  何年たってもいい 遠く離れてもいい
  独りぼっちじゃないぜウィンクするぜ
           (THE BLUE HEARTS『夕暮れ』より抜粋)

曲が終わって、なっちは裏に引っ込んでいった。
でも、わたしの動悸はおさまらない。
なっちの歌がストレートにわたしの胸に飛び込んだ。
わたしの胸に突き刺さった。
27 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時47分45秒
そして忘れていた、いや忘れようとしていた過去を思い出す。
わたしがラストコンサートを数日後にひかえたときの話。
「なっちはね、プリンセスプリンセスの『M』を福ちゃんに贈ります。
いつもいっしょにいたかった。となりで笑ってたかった…」
そんな昔のことを思い出した。
28 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時48分55秒
なっち…

なっち……

なっち………

目に涙がたまりはじめた。

わたしは慌てて帽子を深くかぶりなおす。
そしてライブが続いている会場を離れた。

なっちに会おう…
29 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時53分13秒
きくちさんに言えばなんとかなるかな。
相手は大スターだからな…
わたしなんかが会いに行って、すんなり通してくれるかどうか…
30 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)22時56分53秒
なんかわからないけど、問題なくなっちの楽屋まで
通してもらえた。もうわたしの知ってる人は誰も
いなかったけど、なっちに付いていたスタッフも
気を使ってかどこかに行ってしまった。

やがて鼻歌が聞こえてきた。
ハタチにもなってアイスが呼んでるもなにもないでしょうが!
そういうところは変わってないね、なっち。
31 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時01分59秒
足音が止まって、ドアノブを回す音。
うわっ、やばっ、ドキドキしてきた。

……あれ? 入ってこない。

しょうがないな…ここはひとつわたしから。

「おかえり、なっち」

あ、ようやく入って来た。
…!! なんで泣いてるのよ!
すぐそこまで「未来の扉」歌ってたくせに。

必死に作った笑顔でなっちが言う。
歌ってたときとはぜんぜん違うか細い声。

「ただいま、明日香…おかえり、福ちゃん…」
32 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時04分44秒
わたしに向かって「おかえり」か…
その不思議な物言いに、フッと笑みをもらす。

「ねえねえ福ちゃん。今日のなっちどうだった?」

「うん、良かったよ。なっち、すごいね。頑張ってたね」

素直に今日の気持ちを伝えた。
それを聞いてなっちのうれしそうなこと。
33 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時06分51秒
少し間をおいて、もうひとことなっちに聞こえないように付け加える。

「ありがとね、なっち」

なっちのおかげで、心のモヤモヤがとれた。
久しぶりに歌の大切さを知ることもできた。
そしてわたしのことを大切に思ってくれている人がいることもわかったよ。
34 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時10分34秒
北海道行きの夜の飛行機に乗らなくてはならないらしく、
なっちとはその後ゆっくり話す時間はなかった。
相変わらず忙しいね、娘。は。
楽屋裏の廊下でなっちを見送ってから、ひとり考える。

わたしの中途半端な3年間。
何も残せなかったのかもしれない3年間。
でも、こんなわたしでも大切に思ってくれてる人がいるんだ。
いいよ。挽回してやろうじゃないの。
カッコ悪いって言われたっていいよ。
35 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時13分01秒
そう思ったら、じっとしていられなくなった。
廊下を回ってきくちさんを探す。

「きくちさん、わたしまた歌おうと思います。
きくちさんの餌にみごとに釣られました、わたし。
どうせ和田さんが後ろで糸を引いてるんですよね?」

返事はなくて、ただニヤッと笑う。
ただ、それだけ。
36 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時14分25秒
3年ぶりのわたしの決意。
わたしは歌の世界に帰ろうとしている。
彼女の待つ歌の世界へ…
37 名前:池田屋 投稿日:2002年04月22日(月)23時15分56秒
回帰・2002.04.19          〜おしまい〜
38 名前:銀杏猫 投稿日:2002年04月23日(火)00時27分56秒
なんとなく見に来たら見つけてしまいました。
丁寧な文章に、じわーっと伝わってくるものがあります。ほんの少し
熱くなる場面もありました。池田屋さん、ありがとう!
39 名前:池田屋 投稿日:2002年04月23日(火)20時43分10秒
>38
感想ありがとうございます。
なにか感じてもらえるものがあれば幸いです。
40 名前:池田屋 投稿日:2002年04月23日(火)20時47分27秒
安倍が歌いたかったであろう歌を久しぶりに聴いて、
純粋に感動して、この話を書かずにはいられなくなった。

地上波の放送は今夜。
とらえ方は人それぞれだと思う。
ただ、このステージの背景にあるもの、
この妄想を読んだみなさんにそれを少し考えて欲しい。
そしてそれを教えて欲しかったりもする・・・

最後に、
こんな駄文につきあってくれた方、本当に感謝いたします。
41 名前:完名無 投稿日:2002年04月25日(木)01時46分05秒
リアリティのある妄想であり、また、
とても好感の持てる妄想だと思いました。
また作者さんの妄想力が刺激されることがありましたら
是非何か綴って頂けたら、と思います。
42 名前:1111 投稿日:2002年04月29日(月)17時12分18秒
よてもよいですね。
あえて緑板というのも個人的に素敵だなと。

今回の「FACTORY」が今の娘。達に何らかの影響を与えられれば良いですね。
特に旧メンには・・・。
43 名前:名無し読者 投稿日:2002年04月29日(月)17時59分06秒
1番のソロライブに捧ぐっていう言葉と
レスをつけてる作家さん達にひかれて読みました。
自分もあのライブには感銘を受けたので、こういうの書いてくれて
うれしいっす。光景が目に浮かぶようなムリのない文でよかったです。
やぁ安倍さん、ロックでしたねぇ!まだ持ってたんだなぁ。感動した。
これからも頑張ってください。探して読みます。んでは!
44 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時31分01秒
>41
ありがとうございます。
さっそくですがもう一本書いてしまいました。

>42
そうですね。
今回のことが娘。の音楽面に影響を及ぼしてくれることを期待したいです。
いろんな感想を見る限り、あのステージから様々なことを感じ取れた人が
あれだけいたわけですから。

>43
そう、ロックでしたね。
人によっては歌唱力がどうだとか、譜面を見てたからどうだとか、
あんなのロックじゃないとか言う人がいますが、そうじゃないんです。
あのステージには「安倍なつみ」が考えるロックがあったんです。
だから各個人が持つロックの捉え方なんて、そんなに重要なことでは
ないと思うわけです。
あのステージ上にあった安倍なつみが表現したロック。それを
見れたってことで充分満足してます、わたしは。
もう一本書きましたんで、よろしかったらつきあってください。
45 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時32分12秒
新たにスレ立てするのも、申し訳ないんで
このままもう一本短編書かせていただきます。

「そうだ! We're ALIVE」のカップリング、
「モーニングコーヒー2002version」にまつわる妄想話。

タイトルは特になくてもいいんですが
「安倍の1月・モーコー2002」とでもしておきましょうか。
46 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時33分05秒

「ちょっと!これ、どういうことですか?」

わたしはマネージャーにかみついた。
最近では滅多なことでは怒らなくなったわたしだって、たまには
キれることもある。
流れに身をまかせてきたといっても、たまには文句の一つも言いたくなる。
それに、わたしには怒る権利がある。わたしが怒らなければきっと誰も
怒る人はいない。カオリの顔がフッと頭をよぎったけど、一瞬で消えた。
カオリはきっと何も言わない…
カオリはすべて堪えてきた。デビューのときだって、福ちゃんが辞める
ときだって、タンポポが増員されるときだって黙々と堪えたんだ、あの人は…
でも、この怒りや悲しみをわかってくれるのは、もうカオリだけ…
47 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時34分00秒
年末・年始、目の回るような忙しさだったスケジュールをこなしきって
久々にもらったちょっとしたオフ。
家族が上京してくれたから、みんなでお出かけ。
お父さんに財布を買ってあげるっていったら、はしゃいじゃって
10店以上も捜しまわって、ようやくお気に入りを見つけだしたり…
「わたしそんなに時間ないんだよ、時間がもったいないじゃん」
なんてお父さんに文句いいつつも、親孝行できたことがうれしかったりして。
でも、こうやって家族で出かけることなんて年数回。
お父さんたちが室蘭に帰っちゃったら、また寂しくなるね…
48 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時35分00秒
休み明けに事務所に顔を出したら、これからのスケジュール表を手渡された。
今年前半の娘。のおおまかなスケジュール。
映画の収録、アルバムのレコーディング、春のツアー、その後に
青山劇場でのミュージカル、聞かされていたのとだいたい同じ。
今年も娘。は相変わらず忙しい。忙しいのはイイことだけどさ。

キッズオーディション? またこんなことやるんだ。
もうなんでもありだよね。「モーニング娘。」っていう看板を使ってさ…
でもわたしは文句を言える立場にいないし、言ったらどうなるかなんて
もう充分わかってる。黙っておくのがいちばん。
それがわたしが5年間で身に付けた芸能界での生き方。
きっとそれはカオリや矢口や圭ちゃんもいっしょ。みんないろんなことに
堪えて、ここまでモーニング娘。やってきたんだ。
いまさら「モーニング娘。」の使われ方に文句なんか言わないよ。
49 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時36分13秒
「おはよございま〜す」
加護ちゃんがきた。加護と事務所で会うのはめずらしいな。
「おーっす、加護!」
と、顔を見て固まってしまった。
久しぶりに見る加護のノーマルメイク。素顔はしょっちゅう見てるけど、
こうやって髪をおろして年相応の服を着て、それなりのメイクをしたら別人。
どこからどう見ても立派な中学3年生。いや、もっと上に見えるかな。
この歳でもう2年も働いてるんだ、当然だよね…
「いいねー加護。そのカッコ!」
きょとんとした顔で
「そですかね?」
いつも通りの舌足らずな返事。
舌足らずにしゃべる癖だけは簡単にはやめられないか…
普段からそうしてなきゃ、いざってときに使えないもんね。
苦労してるね、加護。加護ももう立派なモーニング娘。だよ。
苦労に堪えてなんぼだからね、娘。は。
頑張ってるよね、加護。そんな加護が愛おしくてたまらないよ。
ヤバいヤバい、こんなこと考えてるとなっちもオバチャンって
呼ばれかねないよ、気をつけなきゃ。
50 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時37分43秒
加護もスケジュール表をもらって、目を通し始めた。
わたしも改めて目を通そうかと思ったときに、目の端でとらえた
スケジュール表の一行。
1月中はレギュラーとナースマンの収録が主だって聞かされていたから
見落としていた一行。
 <「モーニングコーヒー」レコーディング>
1月の第3週に書いてある。
なによ「モーニングコーヒー」って!!
このスケジュール表って娘。全員用のでしょ!
全員レコーディングする気!!
わたしはスケジュールの書かれた紙を机の上にバンっと叩きつけた。
おそらく顔も真っ赤になってると思う。
加護がスケジュール表から顔を上げて、わたしの方を見ている。
わたしの尋常じゃない様子に不安げな表情がうかんでいる。
51 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時38分43秒
まずい。加護には知られたくない。
わたしが何に反応したのかを。
っていうか娘。の誰にも知られたくはない。それに知られてはいけない。
わたしは立ち上がってマネージャーにそれとなく合図した。
「ちょっと…」
と言って、使われていない会議室を目で指した。
でもマネージャーはわからない。イライラしてきた。
きつい顔になってるのはわかってる、でも今日に限っては
押さえてもいられない。
「ちょっと話があるんでいいですか?」
と言って、はっきりと会議室の方を指さした。
52 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時39分36秒
会議室のドアが閉まるまで、こっちを不安げに見てた加護には
悪いなあと思う。
ゴメンね、加護。今度なにかで埋め合わせしてあげるから許してね。
心の中で加護に謝った。
そして、気をとりなおしてマネージャーに問いつめるように言う。
「ちょっと!これ、どういうことですか?」
「モーニングコーヒーのレコーディングってどういうことですか?」
「わたしたちにとってこの曲がどれだけ大切なものかわかってるんですか?」
ん?「わたしたち」って誰のことを言ってるんだろう?
自分でもよくわからない。
福ちゃんと裕ちゃんと彩っぺとカオリのこと?
それとも矢口と紗耶香と圭ちゃんが入ってからの8人のこと?
それとも、それとも…
53 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時40分30秒
とにかくわたしにとっては大切な曲。それだけでも十分な理由。
「この曲はわたしと明日香と裕ちゃんと彩っぺとカオリが、必死に頑張って
勝ち取った曲ですよ! 悪いですけど、途中から入ってきたコたちに
簡単に歌ってほしくありません。わたしが今ここに残っているのに、
このことに反対しなかったら辞めてったみんなに顔向けできません」
一気に言った。途中で休んだら言うことをためらいそうだったから。
そう、けっして4期メンバーや5期メンバーのコたちが憎いわけじゃない。
あのコたちもかけがえのない仲間。いっしょにモーニング娘。を
作りあげてる仲間。それはそれで大切にしている。
わたし自身がそういう道を選んだのだから。
54 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時41分39秒
でもね、3,4,年前の娘。は違うんだ。あの頃の5人、8人が作り上げてる
ものがたまたま「モーニング娘。」であっただけで、
「モーニング娘。」を目指してたわけじゃないんだ。
仲間っていうひとことで表せられる関係じゃないんだ。
その辺の微妙な意識の差っていうのは、たぶんもうカオリと矢口と
圭ちゃんしかわからないよね。でも矢口と圭ちゃんはモーニングコーヒー
には参加してないし・・・もちろんファーストコンサートから
ずーっといっしょに歌ってきた曲ではあるけどさ。
矢口と圭ちゃんにもいっしょに文句言ってもらいたいけど、
やっぱり言いづらいだろうな…
55 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時42分48秒
わたしの思いもよらなかっただろう怒りっぷりに、マネージャーも
びっくりしたみたい。
うん、わかってるよ。あなたに言ってもどうにもならないことはさ。
わたしたちの意見を聞いて、少しでもそれを上に伝えてくれていた
マネージャーはもうとっくにいない…
でもさ少しでも知りたいじゃん。どうしてモーニングコーヒーを歌わなきゃ
ならないの?とかさ。
56 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時43分43秒
話を渋っていたマネージャー、ようやっとぽつぽつと話してくれた。
それによると、
年末に「そうだ! We're ALIVE」のレコーディングをしていたときに
レコーディング終わったメンバーでモーニングコーヒーを大合唱してて…
もちろん、その中になっちもいたんだけどさ。ごっつぁんとか加護とかも
いてさ、裕ちゃんの卒業以来だったからみんな楽しくてさ、大声で歌ってた
んだ。どうやら、その話をお偉いさんが聞き付けたらしい。
で、「使える」って判断したらしい。
またそんな話なんだ…
使えるものは徹底的に使う。
慣れたとはいえ、いい気持ちはしないな。
使われてる方の身としては…
57 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時45分02秒
マネージャーにありきたりの言葉で説得されて、ひとまず
納得したふりをして、その話は打ち切った。
けっきょくはレコーディングするしかないんだよね。
何を言ってもさ、変わらないよ。決まったことは。
落胆しつつ、会議室のドアを開けた。
加護はまだいるかな?
時間あるんだったらお茶して帰ろうよ。
って言おうと思ったけど、会議室に入るときに見た大人っぽくて
不安げな表情をしていた加護はもういなかった。
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58 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時45分51秒
今日はあの忌々しいモーニングコーヒーのレコーディング。
少しは気を使ってくれたのか、それともパートが多いからなのかは
わからないけど、わたしとカオリのレコーディングはひとりづつ
ひとりっきりでやるらしい。そんなことされても、何ら気は晴れないけど。

それでも、レコーディングには気合いを入れて望む。
買ってくれる人たちのためにも、手抜きなレコーディングはできない。
それをしてしまったら、わたしが歌にこだわってるなんて言えなくなる。
気持ちを歌にのせて伝えたいなんて言えなくなる。
歌詞の意味だって4年前よりずっと理解してる。
あの頃より歌えてなければ、わたしの4年間が無駄だったことを
証明してしまうようなものだ。恥ずかしいことはできないよ。
59 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時47分13秒
レコーディングにはつんくさんも立ち合っていた。
少しは昔みたいに指導してくれるのかなとも思ったけど
そんな気はないみたい。他のスタッフと談笑してるだけ。
あれが芝居なのか本気なのか、わたしにはわからない。
つんくさんもいつの頃からか仮面をかぶるようになった。
言ってることがすべてウソに聞こえることもあるし、本気で言ってる様に
聞こえることもある。
ただ、わたしがレコーディングを終えて出てきたときの
「おつかれさん。スマンな、安倍」
のことばにウソはなかった様に思う。
きっと「スマン」にはいろんな意味が込められてるんだろう。
あとは察するしかないか…
60 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時48分35秒
レコーディングのあとに、今日は続けてラジオの収録が入ってる。
正直、気が重い。
ラジオの打ち合わせの最中にわたしは重大なことを聞いた。
今日収録のラジオの放送日は1月28日だという。
ラジオ局のスタッフも、わたしについてきたマネージャーも
きっと誰も気付いてない。期待もしてないからわたしから切り出した。
「今日の分が放送される日って、わたしたちのデビュー日なんです。
ひとことでいいからコメントさせてもらえませんか?」
ラジオ局のスタッフはモーニングコーヒーを録り直したことを知らないから
「お、いいねえ」と言って二つ返事でOKしてくれた。
マネージャーはバツの悪そうな顔をしてたけど。

いつも通り収録をこなして、
番組の終了コメント前にひとこといれる。
もちろんBGMには「モーニングコーヒー」をいれてくれるように
頼んでおいた。
61 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時49分45秒
  今日1月28日はなんの日かわかるかな?みんな。
  そうだよね。そう、今日はモーニング娘。のデビュー日なんです。
  そう、5年目に入るんだよねー。すごいなあ、モーニング娘。
  モーニングコーヒーが発売になったのが1月28日。
  あーそうなんだーって思ってる人もいっぱいいるけど、
  まあねえ、5年目に入って…頑張ろう…
  すごいねえ…こんなになっち…
  あの…みんなにねえ…
  いや…ごめん、もういっぱいいっぱい…
  とにかくねえ、そういう気持ちでいっぱいなんだ…
  伝わるかな…
  これからも、応援していてください…

そして最後の最後にひとこと。

  今週のエアモニ。はここまでで終了でごじゃいます。
  また来週、絶対に会いましょうね〜。
  以上モーニング娘。の安倍なつみでした〜。ばいしゅび〜。
  そして今日、おめでとう…
62 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時50分24秒
数日後、ドラマの撮影をしているわたしにカオリからメールがきた。
彼女からメールがくることなんてめったにない。
話すのは仕事のときだけ。プライベートな付き合いなんて
全然ないし、話すときには矢口か圭ちゃんのどちらかが必ず
横に座ってる。昔はその役は裕ちゃんや彩っぺだった。
わたしとあの人はずっとそんな仲だ。
二人で暮らしていた頃に大喧嘩して以来、ずっと。
でも嫌い合ってるわけじゃない。お互いに近すぎた存在だったから、
逆に離れた結果、ここまで続いてきた。ひとことじゃ言い表せないよ。
だってもう二人しかいない、オリジナルメンバー。
わたしは大切に思ってる。きっとカオリだってそう思ってるはず。
そんなあの人からメールが届いた。
63 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時51分12秒
『矢口と加護がモーニングコーヒーのレコーディングで
手こずってるみたいです。なっちは何か知らない?』

お固いメール、わたしに気を使ったカオリらしいメールだな。
矢口と加護か…
二人とも他人の気持ちには人一倍敏感だからきっとわたしの気持ちに
気付いたに違いない。
たぶん加護はわたしに遠慮しただけだ。
あのスケジュール表を見たときのわたしの表情でわかったんだと思う。
だからずっと不安げな表情をして、わたしの方を見てた。
加護にはわたしが声をかければなんとかなりそう。
加護にそんな風に思わせてしまったのは、わたしの責任だ。
わたしが声をかけてあげなきゃ加護も納得できないだろう。
64 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時52分15秒
矢口は…矢口はわたしとカオリに遠慮してるだけじゃないな。
明日香と裕ちゃんと彩っぺにも遠慮してる。
わたしたち5人の「モーニングコーヒー」への思いを知ってるから…

矢口たちが入ってきたとき、わたしたち5人は追加の3人に
「モーニングコーヒー」を歌われるのが本当にイヤだった。
わたしたちのデビュー曲、わたしたちが手売りして勝ち取った夢、
わたしたちが精一杯頑張って得た結果。そんな過程を無視して
追加の3人に簡単に歌われるのは我慢できなかった。
そして、それは露骨に態度に出てたわけで…
今思えば若かったなって振り返れることなんだけど、やっぱり矢口には
強烈な記憶として残っているだろう。
入ってきたばかりで右も左もわからないのに、先輩メンバーからは疎まれ、
ファンには受け入れられず、泣いてばかりだったなあの頃の矢口は。
65 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時53分53秒
でもさ違うじゃん、矢口! その後わたしたち、一つになっていったでしょ。
一つになっていった先には別れが待っていたけど、あのとき歌った
「モーニングコーヒー」はまぎれもなく8人の「モーニングコーヒー」だったよ。
裕ちゃんのことば忘れちゃった?
「永遠の8人」の中の一人なんだよ、矢口は。
矢口には歌ってほしいんだ。圭ちゃんにも。もういない紗耶香にだって。
矢口は堂々と歌っていいんだよ。今のわたしたちには否定したくなることも
あるけど、あの頃のことまで否定したくないでしょ。
あのとき歌ってた「モーニングコーヒー」は真実だったでしょ!
気持ち入ってたでしょ!!
66 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時55分17秒
わたしはいてもたってもいられなくなって、携帯のボタンを押した。
「あ、矢口? なっちだけどさ・・・・・・」
わたしの気持ちを伝える。なぜ歌ってほしいのかも、ちゃんと説明する。
そして最後に付け加えた。
「カオリもきっとそう思ってるよ。それに、わたしが最後にモーニングコーヒー
歌うときにカオリと二人っきりだったら寂しいじゃん。ちゃんと矢口と
圭ちゃんでサポートしてよね。いつになるかはわからないけどさ」
矢口は言葉少なで、うんうんとうなずくだけだった。
真剣にモノを考えてるときの矢口は、普段の矢口からは考えられないくらい
物静かだし、声のトーンだって全然低い。今はその矢口になっている。
わたしの言いたいことはわかってくれたはず。
電話を切る前の「なっち、ありがとね」が印象的だった…
67 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時56分07秒
あとは加護。加護にも電話。
「加護ちゃん?」
「レコーディングうまくいってないんだって?」
「なっちとカオリのことは気にしなくていいから」
「いつも言われてるように精一杯気持ちを込めてレコーディングしな。
じゃないと自分が後悔するよ。モーニングコーヒーでそんなことしたら
逆にわたしたちに失礼だってわかるよね? 辞めてった先輩たちにも
失礼だってわかるよね? だから一生懸命やんないと。なっちも応援
してるから」
こんなんで加護が納得してくれればいいけど…
でもこれ以上は加護には言えない。
明日香や彩っぺとの思い出を持たない加護に対する、わたしなりの
精一杯のことば。あとは加護がどう受け止めてくれるかだけだ。
わたしは結果を待つしかない。
68 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時57分38秒
そして最後にカオリ。カオリにはメール。
『矢口と加護には話しておいたよ。たぶん大丈夫だと思う。
あの二人のことだからきちっと仕事はこなすよ。
全然関係ないけどさ、カオリはたんぽぽ2001のときよく受け入れられたね。
あんなに彩っぺとの思い出大切にしてたのに。
今度のモーニングコーヒーも平気なの?』
ヘタをすればカオリが怒りかねない書き方。
でも、カオリとメールする機会なんてないから思いきって聞いてみた。
みんな口には出さなかったけど、「たんぽぽ2001」のデキはひどかった。
彩っぺがいたころのハーモニーの美しさなんてどこかに消えてしまっていた。
梨華ちゃんと加護だって、原曲と比べられるのはわかってたから
肩身が狭かったと思う。でもそんな「たんぽぽ2001」をカオリは受け入れた。
ううんそれだけじゃない。カオリはすべてを堪えて、すべてを受け入れてきた。
そんなカオリがとてもイヤで、イライラしたときもあった。
この人は過去のことなんか関係ないんだな、もう忘れちゃってるんだなとか
思えちゃって…
69 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時58分39秒
メールの着信音。カオリから返事がきた。
『たんぽぽ2001のときは矢口がいたからさ、
同じ思いの人がいたから堪えられた。
今度のモーニングコーヒーだってそうでしょ。
わたしと同じ思いの人がいるって分かってるから平気だよ。
少なくとも痛みは半分だよ』
そっか、「痛みは半分」か…。カオリらしい考え方。
カオリはきっと頭に無理にでもそう理解させてここまできたんだね。
そうでも思わなきゃ堪えらんなかったんだね。
じゃあ、わたしもそう思おうかな。
ちゃんとカオリと半分づつしよっか。
70 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)00時59分53秒
『そうだね。わたしの痛み、半分あげる。ちゃんと持っててよ』

メールじゃなければ、恥ずかしくて言えないようなことば。
でも、たまにしか交わさないカオリとのメールだから意味のあるものに
しておきたい。何年後かにこんなことあったねって、笑って振り返れる
思い出になってればいいな・・・
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71 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)01時00分53秒
1月31日、矢口からメールが入った。
『今日のANNでモーニングコーヒー2002かけるけど
時間があったら聴いてね。たぶん11時半すぎかな』

ドラマの撮影の帰りのクルマの中、運転手さんに頼んで
ラジオをつけてもらう。

流れてくる矢口の声。いつもながら通りの良い高い声。
ほんとにラジオ向きだよね、矢口の声って。
そうか、今日は新曲の解禁日なんだあ。
わたしはラジオに耳を澄ます。
72 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)01時03分42秒
  ここでですね「そうだ! We're ALIVE」のカップリングのほうも
  聴いてほしいんですけども、これが実はモーニングコーヒーの
  2002年バージョンです。
  この曲はですね、カオリ・なっち・裕ちゃん・明日香・彩っぺ、
  この5人のデビューシングルです。モーニングコーヒーはですね、
  ライブで何回かみんなといっしょに歌ってたんですけども、
  こうやってシングルになるっていうのは初めてです、矢口は。
  だからですね、なんていうんだろ、すごいなんか不思議ですね。
  ずっとライブで歌ってて、初めてモーニング娘。に、いや
  改めてモーニング娘。として認められたというか、そんな感じも
  しますね。こっからモーニング娘。が始まったんだなって思うとね、
  やっぱりうれしかったですね。
  それでは聴いてください。
  モーニングコーヒー2002年バージョンです。

  ♪ねぇ はずかしいわ(ドキドキ)〜
                ・・・・・・
73 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)01時04分51秒
  いやあなんかね、13人のモーニングコーヒーは新鮮ていうか…
  いいね、やっぱりモーニングコーヒーね。改めてこうやって
  みなさんに聴いてもらえるっていうのは、カオリもなっちも
  喜んでると思うし、矢口もとってもうれしいです。

放送が終わって、矢口にメールを送る。

『うれしいよ、矢口のコメント。コンサートでいっしょに歌おうね』
74 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)01時05分34秒
   安倍の1月・モーコー2002        〜おしまい〜
75 名前:池田屋 投稿日:2002年05月02日(木)01時08分08秒
結局のところなっちの抱えている矛盾点っていうのは解決しないんですよね。
昔の娘。を大事に思っているけど、今の娘。を否定してるわけじゃない。
昔の曲が好きだけど、今の曲も精一杯歌う。辞めたメンバーが好きだけど
今のメンバーも嫌いではない。今のモーニング娘。の体制には不満もあるけど
辞めるまでの決心はつかない。
そんな矛盾点が常につきまとっている。
そういったことが見えるのが魅力とも言えるんですが…

また、なにか思いついたらここで書かせていただきます。ではでは。

参考資料 「安倍なつみのエアモニ。」01.12.24放送分
     「安倍なつみのエアモニ。」02.01.28放送分
     「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.01.31放送分
     「モーニングコーヒー 2002ver.」(正式発表の前にネット上に
      出回った矢口・加護パートの欠けたモノ)
76 名前:1111 投稿日:2002年05月02日(木)04時25分02秒
今回も泣かせますねぇ。古参ファンにはたまらんす。
ASAYAN世代のファンからするとたんぽぽ2001やモーコー2002は正直複雑なものがありましたから・・・。
古参ファンがなんか言ってると叩かれそうですが。

しかし、すごい妄想力(あえてこの表現で)ですね。
某HPのネギさんのような妄想力&文章力ですな。
これからも頑張ってください。

この話をよんで、BS中澤SPの矢口の涙を思い出した。
77 名前:完名無 投稿日:2002年05月08日(水)21時43分24秒
愛情溢れるものの見方にたいへん好感がもてます。
矢口・加護パートの欠けた「モーニングコーヒー 2002ver.」
があったことは、ここで初めて知りました。
私は辻パートが欠けたものしか聞いたことがありません。
いろいろな状態のものがあったのですね。
78 名前:池田屋 投稿日:2002年05月20日(月)21時10分10秒
>1111さん
読んでいただいてありがとうございます。
あなたのおかげで「そうか!BS中澤SPがあったから矢口の気持ちに
引っかかりができたんだな」と思い出せました。
で、久しぶりに見直したら、やっぱり号泣でした(w

某HPのネギさんの小説は私は知らないんですが、
教えていただけないでしょうか? 知らないのはモグリなのかな、、、

>完名無さん
これからも愛情溢れる妄想で書いていきたいと思います。
今後ともおつきあいくださいませ。
79 名前:池田屋 投稿日:2002年05月20日(月)21時11分41秒
オールナイトニッポンからの矢口の感情の妄想を
小説のかたちにして仕上げてみました。


「さみしい日」

80 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時13分11秒

・ ・ ・

・ ・



雨の音で目をさます…

時間はもうすぐ夕方…

せっかくのオフだったのに雨…







81 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時14分16秒
ボーっとしながら、顔を洗って歯をみがいて部屋に戻る。
あー、そういえばお茶残ってたっけ。
カバン、カバンと。
服に埋もれたカバンを見つけて、昨日もらったお茶を取り出す。
一口、また一口。
冷たい…
部屋の中とはいえ、まだ3月。雨も降ってるし冷えて当然か…
でも、お茶いれるのメンドイし。

ペットボトルを口にくわえながら部屋を見渡す。
脱ぎっぱなしの洋服。
コードのからまったゲーム機。
もらったきり使ってないプレゼントの山。
荷物置き場と化した勉強机。
ほこりをかぶったぬいぐるみ。

汚い部屋、、、わたしこんな部屋で寝てるんだ。
少し片付けなきゃ、、、
82 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時15分09秒





時間がとれたら遊びに行こうと言っておいた友達に電話する。
あいにく留守電。
今日は雨降ってるし寒いからやめようよ。
えっとね。ひとまずメールか電話ちょうだいね。
それだけ言って携帯を切る。

返事待ちか…
まあ、すぐ返ってくるでしょ。
掃除機でも用意しておこうっと。
「お母さーん。掃除機どこだっけ?」
掃除機の場所もわからないわたしって…
83 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時16分15秒
外は相変わらずの雨。
さっきより強くなってるみたい。
返事もまだ来ない。
掃除機のコードを電源に差し込みながら思う。
あ、今週のハロモニ。先に見とこうかな。

わたしは自分の番組をちゃんとチェックする。
ミニモニ。の活動で娘。から離れることが多くなってからはなおさら。
みんなが何やってたのか気になるし。
「バスがくるまでは」なっちといつも交代だしね。
84 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時17分00秒
日曜からデッキに入れっぱなしだったビデオテープを巻き戻す。
ガチャッと音がして再生が勝手に始まる。
「ハロモニ。100回記念の翌週スペシャルー」
裕ちゃんのかけ声で番組が始まる。
ああ、そうかこの回なんだ。
今月始めくらいにした4週まとめ録り。
圭ちゃんがボソっと
「衣装替えなくていいの?」
とか言ってた気がするけど、けっきょくそのまんまだったんだよね。
オープニング録りでミニモニ。スペシャルっていうのは聞いてる。
でも内容は聞いてない。
わたしは画面に見入る。
85 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時17分44秒
うわっ、わたし化粧濃いっ!
辻・加護、別人やん。
1年半くらい前のわたしたちを見て、思わず苦笑い。

そういえば、こんなTシャツ着てたっけ。懐かしい…
オリジナルソングか…そんなのもあったね。

・ ・ ・

・ ・



86 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時18分39秒
わたしって、ホント良くしゃべってるな…
なんでこんなに必死にしゃべってるんだろ。
っていうか、ウザイ…
うるさい…
少し黙れ! わたし!!

一回気になったら、そこにしか目がいかなくなった。
画面に映るたびに、必死にテンションあげてしゃべってる自分。
無理して盛り上げようとしてる自分。
ただ目立とうとしてるように見える自分。
これを見てるファンの人も同じように感じてるの?
わたしのことを「うるさい女」と思って見てるの?
だから、いつも「目立ちたがり」とか週刊誌に書かれるの?

TV画面にはしゃべりつづけるわたしだけが映ってるように見えた。
87 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時19分22秒
わたしって、ヤな女だ…

娘。に入ってしばらくは自分を出せなくて、そんな自分に悩んだりして、
自分のスタイルを貫く明日香なんかをうらやましくも思ったりしたのに。
明日香が目立ってたのはしゃべってたからじゃない。
他人に無理して合わせない話し方と、自分の考えを曲げない
意志の強さが自然と明日香を目立たせていたんだ。

それなのにわたしは、、、
ただ回りの雰囲気と求められているものに対して合わせているだけ。
わたしって何のために芸能界入ったんだっけ?
歌手になるためじゃなかったの?
画面に映ってるわたしは何?

友達もみんなわたしのことそういう風に見てるの?
そうなの?
88 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時20分11秒
あれ? そういえばさっきの返事が来ない。
夕方になれば暇だからって言ってたから、
そろそろ返事がきてもいいのに。

もう一回電話してみる。
あ、呼び出し音鳴ってる。なんだ早く出てよー。

… … …

でも電話が取られることはなかった。
しばらくしてから、さっきと同じように
留守番電話サービスセンターにつながった。

わたしはそのまま切った…
89 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時20分52秒
なんで取ってくれないの?
今日出かけるのやめようよって言ったから怒ってるの?
わたしが勝手にそう言ったから怒ってるの?
わたしって自分勝手?
わたしが先走ってるだけ?

わたしは自分に自信がなくなった。
メールで恐る恐る聞いてみる。

『ねえ。なんか怒ってる?』

いつもメールの返事は早い友達。
普段通りならすぐに返ってくるはず。
着信音が鳴るまで不安でたまらない。

でも、5分待っても10分待っても着信音が鳴ることはなかった、、、
90 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時21分52秒
ついたままのテレビ。
流れっぱなしのビデオ。
画面には紗耶香が映ってた。

この前、紗耶香とはMUSIX!の収録で一緒になった。
なっちとわたし、ごっつぁんとよっすぃー。
みんな紗耶香との仲は複雑なものを抱えているメンバーだ。
圭ちゃんは、去年一緒になったときにうれしさを露骨に
出してしまったから今回のメンバーからは外された。

話すな。極力無表情でいろ。
っていうのがそのシーンで与えられたわたしたちの役割。
ラジオでも紗耶香のことは話さないようにきつく言われている。
途中で辞めた後のつらさをわたしたち娘。に分からせる
つもりらしい。自分で脱退を決めるやつはこういう扱いに
なるぞって分からせるつもりらしい。
4期メンバーや5期メンバーに向けての対策なんだろう…
ごっつぁんまでのメンバーはもう分かってるよ。
こんなことしなくても。
91 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時22分45秒
そんな扱いをされてる紗耶香。
でも、楽屋裏で会ったときは明るかった。
いや、明るく振る舞ってた。
わたしたちに気を使わせまいとしてた。
だからなっちもごっつぁんもわたしも
それに合わせて取り留めのない話ばかりしてたように思う。
みんな話したいことは胸の内にしまいこんで、、、

この前そんな形で会った紗耶香がテレビに映ってる。
どうやらこの前の収録よりさかのぼった放送みたい。
画面には2月初めの札幌が映っていた。
92 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時23分45秒
へえ、やっぱり紗耶香が作詞するんだ。
会ったときには、はっきりしたこと言ってなかったな。

作詞のテーマ…「卒業」と「遠距離恋愛」って!
ちょっと考えればすぐに娘。とのことを歌った詞だって
わかるじゃない!! なんでこんなテーマに、、、
スタッフたちの底意地の悪さに憎悪を抱きつつも
テレビを見続けた。

そこには悩む紗耶香、落ち込む紗耶香が映り続けた。
昔のASAYANを見てるみたいだった。
93 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時24分30秒
紗耶香は一人っきりで頑張っているんだね。
一人で全部抱え込んで悩んでいるんだね。
一人でモーニング娘。物語続けてるんだ…

それなのに…
わたしは…

いたたまれなくなってTVの電源ボタンを押した。
画面から紗耶香の苦悩する顔が消えた。
94 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時25分22秒
・ ・ ・

・ ・



意識するでもなく掃除機をかけはじめる。

散らかった洋服、出しっぱなしのゲーム機。
みんな片付ける。

机の上の荷物の山。
わたしは一つ一つ整理し始めた。

部屋には掃除機の音が響いている…
95 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時26分29秒
見えなくなっていた勉強机の棚。
そこには写真立てがいくつかおいてある。

中学時代の友達との写真。
ちょっとしか一緒にいられなかった高校の頃の友達との写真。
そして裕ちゃんやなっちとの写真。

そして伏せてあった一つの写真立て。
2年近く伏せられたままの写真立て。

わたしはその写真立てを手に取った。
96 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時27分44秒
そこには…
わたしの妹が写っている。
わたしのモーニング娘。での妹、フクダアスカ、、、
その明日香と寄り添ってわたし。
そして、この写真を撮ってくれた紗耶香が楽屋の鏡越しに写ってる。
鏡の中をよく見ればなっちやカオリも、圭ちゃんや彩っぺもいる。
みんな青いスーツを着て大人っぽくきめている。

明日香のラストツアーのときに撮った一枚の写真。
わたしの大事な大事な宝物、、、
97 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時28分38秒
この頃のライブが一番楽しかった。
わたしって歌手なんだなって満足感が得られた。
一公演ごとに思い出ができた。

裕ちゃんが卒業するときの民放の番組で
年上メンバーだけのトークで、わたしは一言ホンネを
言ってしまったことがある。

「あの頃のライブが一番楽しかったよね」

番組が終わった後にこっぴどく叱られた。
「今を否定するような発言はするな!」
はい、分かってますって…
98 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時29分48秒

そんな大事な写真をわたしは1年半前に伏せた。
紗耶香が辞めて、タンポポに梨華ちゃんと加護が入って、
ミニモニ。が始まって…過去を思い出さないために伏せた。
その写真を見てしまえばどうしても思い出してしまう。

あの頃持っていた気持ちと、今の気持ち。
写真を見てしまったら、今の気持ちが恥ずかしくて仕方が
なくなる。あの頃と違い過ぎる自分が恥ずかしくなる。

だからわたしは写真を伏せて過去の自分を封印した。
わたしは弱い人間。
なっちみたいに過去と向かい合うなんてことできないよ。
昔を忘れずに今の活動なんてできないよ。
99 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時30分47秒

今の活動?

今のわたしって何?

お金のためだけにモーニング娘。やってるの?

自分の言いたいこと言わなくていいの?

伝えたいものを伝えなくていいの?

4期メンバーや5期メンバーをホントに可愛がってるの?

わたしのやってることはすべてウソ?

わたしって何なのよ!!


100 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時31分40秒
部屋には掃除機の音が響き続けている。

わたしは掃除機のコンセントを乱暴に引き抜いた。
そして一枚のCDをラックから取り出す。
このCDを取り出すのも久しぶり。
あの写真立てを伏せて以来。

コンポにセットして、曲が流れ出す。

カーペンターズ『青春の輝き』。

101 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時32分17秒
明日香が卒業する数日前。
わたしたちは全員でなっちがやっていたラジオ番組に出た。
その番組の中でわたしたちは卒業する明日香に向けて
一人一曲づつ自分で選んだ曲を捧げた。
なっちはプリプリの『M』
彩っぺは古内東子の『宝物』
カオリはCoccoの『Raining』
圭ちゃんはミスチルの『終わりなき旅』
紗耶香はH2Oの『思い出がいっぱい』
裕ちゃんは渡辺美里の『My Revolution』。

そのときにわたしが明日香に捧げた曲。
それがカーペンターズ『青春の輝き』だった。
その曲が使われていたドラマ。そのドラマを見ていたことが
明日香とわたしの最初の共通点の発見だった。
最初にわたしたち追加メンバー3人を受け入れてくれた明日香との
いちばん初めの思い出だった。
二人ともこの曲が大好きだった、、、
102 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時33分35秒
それ以来、わたしは一人でつらくなったときこの曲を聴いていた。
ひとりじゃないって思えるから。
泣いても慰められてるような気がしたから。

そういえばこのラジオで紗耶香が明日香に約束してたっけ。
「いつか独りでビックになる。どんな山とかあっても、
常に前向きな姿勢でビックになります」
紗耶香はあのときの約束、今でも頑なに守ってるんだね、、、
103 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時34分29秒
明日香、、、彩っぺ、、、紗耶香、、、
今のわたしを見てくれてる?
わたし、変わっちゃったかな?
わたし、もう寂しいよ、、、

・ ・ 

・ ・ ・

・ ・ ・ ・


104 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時35分50秒

ベッドに倒れこんだ。

枕に顔をうずめた。

止めどもなく涙が溢れてくる。

ただわたしはひたすら泣き続けた。

気がすむまでひたすら泣き続けた。

・ ・ ・

・ ・




3月26日。わたしが号泣した日。

105 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時37分06秒
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2日経った28日。わたしはANNで自分の思いを告白した。
こんなに自分の気持ちを正直に長時間に渡って話したことは
今までにない。

  あの、ちょっと聴いてほしいことがあるんですけども。
  一昨日、矢口としてはすごくめずらしい気持ちになったんですけども、
  何かといいますと、べっこりヘコみました。
  いやね、何があったというわけでもなく、
  怒られたとかそういうんでもなくて、
  雨だったし、部屋が汚かったし…
  なんかいろいろと重なったんですよね、その日に。

  で、友達とちょっとしたすれちがいっていうか、
  ただ矢口の勘違いだったんですけども…
  「なんか怒ってる?」ってメールしたらその日に返って
  こなかったんですよ。
  で、ヤバいすごい怒ってるって思って、次の日メールを見たら
  「え?何が?ぜんぜん怒ってないよ」みたいな返事が返ってきて
  安心したんですけど…
  なんかそういうのが重なって、すごいブルーになったんですよ。
106 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時37分56秒
  矢口ってポジティブキャラって言われてたじゃないですか。
  それなのにそういう自分がもどかしいっていうか、
  「どうしちゃったんだろう?自分!」とか思って…

  昔からの総集編みたいなのをテレビでやってたんですよ、ちょうど。
  で、昔の自分を見て「なんかこの人うるさいなあ」とか
  素で感じてしまったんですよ。
  そのときの自分は回りを盛り上げようとして頑張ってたのに、
  こうやって見てる人はうるさいって感じてるのかなあとか、
  すごいイメージダウンというか…
  で、アホみたいに号泣して友達に相談とかして…
  なんか自分としてはすごいめずらしい気持ち?
  なんか不思議でしたね。
107 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時38分39秒
  で、次の日に圭ちゃんとかに
  「こういうことがあってすごいヘコんだんだよねー」って言ったら
  「あー、あたしもそういうのある。」とかふつうに言われて、
  「あ、そうなんだ!」とか思ったり。
  カオリにも言ったんですけど「あー、あたしもたまになる。」とか
  言われて。
  あー、みんなそういう思いをしてるんだなあとか思って…
  すごいなんか不思議でしたね…

  でも今日ここに来てね、たくさんのみんなのFAXとかメールを見て
  ホントにいろんな人に支えられているんだなあと改めて実感しましたね。
  あの、みなさんこれからもよろしくお願いします。

  というわけで、矢口がよくヘコんだときに聴く曲なんですけども
  ここで一曲聴いてください。
  カーペンターズで『青春の輝き』。
108 名前:さみしい日 投稿日:2002年05月20日(月)21時40分45秒

    ♪ ♪ ♪ ♪ 

  はい、カーペンターズさんで『青春の輝き』を聴いてもらっていますが、
  矢口、こういう風に悩んだときとかは、
  この曲を聴いて、おもいっきり泣いてスッキリするのが
  一番の解決法なんですけども…
  このあいだ、本当に久しぶりにすごい泣きましたね。
  だから次の日とか裕ちゃんに「目が腫れてるよ」とか
  つっこまれたりしたんですけど、今はもうね、みんながいるってことで、
  すごく支えられてるっなあって思ったんで、もう大丈夫です。



                           〜 おしまい 〜
109 名前:池田屋 投稿日:2002年05月20日(月)21時43分44秒
矢口がオールナイトニッポンスーパーで語った、
めずらしく長い自分の感情の吐露。
聴取者に伝えたかったことは何だったのか?
もちろん真相は分からないけど、カーペンターズ『青春の輝き』を
選曲したのは矢口自身。
この曲を大切にしている矢口の気持ちを大事に思う、、、

参考資料 「矢口真里のオールナイトニッポンスーパー」02.03.28放送分
     「ハロー!モーニング。」02.03.24放送分
     「MUSIX!」02.03.24放送分
     「MUSIX!」02.03.31放送分
     「ラジアンリミテッド」99.04.15放送分
110 名前:名無し読者 投稿日:2002年05月22日(水)02時28分49秒
矢口さんはホント色々ありますね。
思わせてくれるところとが。
最近のアイーン体操とかね。あれは歌じゃない。
まぁ、でも矢口がんばれ!と、そんなことを思いましたです。
うー、やぐ悲し。
111 名前:1111 投稿日:2002年05月22日(水)23時49分45秒
お疲れ様です。今回、私は切なくてならない。
舌禍事件も多いが、娘。の狂言回しである矢口。
矢口が娘。に無くてはならない存在であるのは間違いない。

ただ、矢口の今後の方向性がまったく見えてこない。
ミニモニ。もあれだけグッズが出てしまうと、もう抜けることもできない。
やかましキャラのせいで良くも悪くも本心がなかなか伝わってこない。
未だに自分の居場所を見つけられていないような気がしてならない。
矢口の今後が心配です。

私的レスすまそ。ここで書かんでもいいのにね。
この話、読んだら書かずにいられなかった・・・。
112 名前:109さんへ 投稿日:2002年05月25日(土)05時05分25秒
昔、ラジアンリミテッド聞いてたんですが聞けば聞くほど不快な気分になりませんでした?
113 名前:銀杏猫 投稿日:2002年05月30日(木)23時39分27秒
遅レスですが。「さみしい日」すごいですね!妄想としてはもちろんの事
話として読んでもグッと来ます。
矢口さんの表情には、たまに影のようなものが見える。(気のせい?)
それを検証しているような、見事なお話ですね。

あまり矢口さんの事を知らない自分ではありますが、1111さんのご意見には同意です。
114 名前:池田屋 投稿日:2002年06月06日(木)02時10分12秒
>名無し読者さん
矢口の強さっていうのはなっちの強さとは違って、それもまた魅力が
ありますよね。アイーン体操を歌う矢口、めちゃめちゃ強くなけりゃ
あんなことできませんっ!

>1111さん
レス番111ゲットおめでとうございます(w
矢口はオールマイティな人ですからねえ。でもときどきこぼす言葉には
明らかに歌への未練を残している。矢口の居場所…いつかまた
高音ハモを存分に魅せてくれる矢口を見たい、、、

>112の方
自分は一部分しか聴いていませんが、不快になんてなりませんでしたよ。
仮に不快になったとしても、福田に贈った曲を矢口が今でも大切に
していることはなんら変わらない事実ですが。
115 名前:池田屋 投稿日:2002年06月06日(木)02時13分24秒
>銀杏猫さん
ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいです。
ようやく矢口のこの話にたどりつくことができました。
先延ばしにして3作目までとっておいたのは「慣れ」という意味でも
良かったかもしれませんね。
>矢口さんの表情には、たまに影のようなものが見える。
気のせいではないですよ。私にもしょっちゅう見えます(w

次の作品はまだ全然考えてないんですが、それを書くまでに
ここが残ってるかどうか分からない状況です。
いちおうここに避難所を設けておきます。ただの雑談場ですので…
ttp://www.ichigobbs.net/cgi-bin/readres.cgi?bo=morning&vi=0135&rm=20
116 名前:池田屋 投稿日:2002年06月30日(日)23時36分00秒
自分が一番初めに書いた小説「回帰・2002.04.19」。
この話を書き始めたのは19日の夜に「FACTORYのオープニングでなっちが
ブルーハーツをカバー」。そんな見出しの情報を見つけてからすぐでした。
もちろん歌うシーンも見てないし、何を歌ったのかも分からない時点で
書き始めました。いろんな感想が出てしまう前にとにかく書き上げてしま
おうと思って。その翌日に放送があったので歌ってるシーンは見ることが
出来ましたが。

で、あれから2ヶ月がたって振り返ってみれば、いろんな情報も出てきたし、
あせって仕上げたこともあって、自分で読み返した時に不満があるんですよね。ああ、今ならそう書かないのにな…とか。
だから、SEEKでは邪道なのかもしれないけど、もう一回骨格は崩さないで
書き直してみたかったんです。
読んでくださる方がいるかどうかわかりませんが、よろしければ
おつきあいください。
117 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時37分22秒

『回帰・2002.04.19(改訂)』


いつもと違う一人用の狭い楽屋。
無機質な白い壁が圧迫感をわたしに与える。
ドラマやキャスターでは一人だったけれど、歌う前に一人っきりに
なるのは初めてかもしれない。そう、少なくともあなただけはいつも
隣にいたから・・・

118 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時38分24秒
忙しかった年末が明けて、新曲のプロモやハローのコンサートをやっていた
2月、事務所から思ってもみなかった話を聞かされた。
わたしに一人で歌ってみないか?と。
一人で歌う…そんな話はもうないものだと思っていた。
3年くらい前にはそんな話もあったけど、それからいろんなことがあって、
つらいこともいっぱいあって、わたしが一人で歌うことはなくなった。
わたしも一人で歌うことが怖くなった。
その頃のわたしは帰る場所があるかどうか不安でたまらなかったから。
明日香と彩っぺ、モーニング娘。を「歌手」として守ってくれていた二人が
もういなかったから。
だから娘。を離れるのが不安で、怖くて、どうしようもなかった。
帰ってきたときにわたしのいる場所がなくなってたらどうしようとか、
いらないって言われたらどうしようとか、そんなことばかり考えていた。
もちろんすべてを振り切って、娘。を脱退して歌うことも考えたけど
わたしにはそんな勇気はなかった、、、
119 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時39分08秒
そんなわたしに、久しぶりに舞い込んだ一人で歌う話。
今はもう娘。を離れて活動するのは怖くない。居場所とかそんなことを
考えなくても娘。はシステム的にどんどん動いていく。
わたしたちはパーツとしてそれぞれの役割を果たしているに過ぎない。
そしてそのパーツの替えはいくらでもあることもわかってる。
気にするべき娘。はもう過去のものになってしまった、、、

わたしは興味深げに一人で歌うことを聞いてみた。よく聞けばCDを作る
とかそんな話ではなく、1,2曲ステージで他の人の曲を歌うってことらしい。
なあんだ、ソロデビューじゃないんだ。ちょっと気が抜けた。
詳しいことはまだぜんぜん決まってなくて、ただそういう話がきてるぞ
っていう説明だけだった。事務所としてもまだその話を受けるかどうか
迷ってるらしい。話振りからすると、今回の話を喜んでない人もいる
みたい。こういうときは何も言わないのが一番なのはわかっているので
「考えておきます」
とだけ言って、その場を離れた。
120 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時41分22秒
2月半ばの横浜アリーナでのハロプロコンサート。
オリンピックのキャスターとの掛け持ちでとても疲れてた。
前田さんの曲で手拍子を適当にやってたら、袖に退いてから矢口に小突かれた。
「なっちさー、適当にやりすぎー。上手のみっちゃんとかココナッツとか
ノリノリでやってたから、なっちがやってないのめちゃ目立ってたよ」
「だってさー………」
言い訳しながら楽屋まで戻ってきたら、きくちさんがみえていた。
「よっ!」
相変わらず軽い挨拶で、ホントにこの人がフジテレビの看板番組を
いくつも手掛けるプロデューサーなの?と思うこともあるけど、
わたしたちがブレイクする前から目をかけてくれていた恩人だ。
きくちさんもその頃のわたしたちを買ってくれていたから、当時のメンバー
だった紗耶香の復帰コンサートに行ってくれたり、裕ちゃんを「笑っていい
とも」に推薦してくれたり、お世話になりっ放しだ。
でも、それでいて辻や紺野をうまく使って番組を盛り上げたり、ごっつぁん
や梨華ちゃんにも目をかけてるから、そこは人気プロデューサーらしく
抜け目ないんだよね、、、
121 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時42分04秒
「安倍、あの話聞いてくれた?」
「なんですか?あの話って?」
わたしの横を通り過ぎてみんな楽屋に戻っていく。
「なんだ、聞いてないのか?ライブステージで一人で歌うって話」
「えっ!あれってきくちさんのお話だったんですか? 詳しいことはぜんぜん
聞いてなくって…」
「あー、やっぱそうか。内容考えたら安倍には教えない方がいいかも
しれんしな…」
「えー?なに?なんなんですか?」
「実はな………」
122 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時43分26秒
わたしはその企画の本当の意味を聞かされた。
・企画の主旨を「girl meets songs」としていること
・「LOVE LOVEあいしてる」の頃からきくちさんが目指していた
 好きな音楽の傾向や年齢を超えて、いろんな音楽を楽しんでほしいと
 いうこと
・昔の良かった曲を、今わたしが歌うことで今の若い人たちにも興味を
 持ってもらえるということ
最後にきくちさんが一番力説してくれたのが
・わたしが歌いたい歌を歌ってほしいということ
だった。わたしが本当に歌いたい歌を歌えないでいつも葛藤していることを
見抜いてたんだ。モーニング娘。の活動に疑問を持ってることも、、、
そしてこんなことも言ってくれた。
「今のままじゃ最初の頃に持ってた『うた』にかける気持ち忘れちゃうだろ?
一回、自分の歌とあの頃の気持ちを見直してみたらどうだ?
今のモーニング娘。は音楽ビジネスとしては最高なところにきてて、
ライブの完成度も高いと思うけど、精一杯頑張ってた2,3年前の方が
『うた』にかける思いは伝わってきてたからな……
はっきり言って今回のことは安倍のためだけの企画みたいなもんだ。
まあ、個人的な思惑ももう一つあるんだけどな、、、」
123 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時44分28秒
この話を聞かされて、この企画にすごい惹かれた。
わたしの歌いたい歌・・・ わたしの伝えたい歌・・・
わたしの歌いたかった理由・・・ わたしが歌手を目指した理由・・・
いろんな理想を持って上京してきたあの頃に持っていた気持ち。
忘れていたわけじゃないけど、もうかなえられない夢だってわかってたから
適当に歌ってた部分もあるかもしれない。
今になってみれば「このままじゃ大好きな歌を嫌いになってしまうかも
しれない」と言っていた明日香の気持ちが痛いほどよくわかる。
一回目と二回目の公演の間にテレビ収録が入ったり写真集用の写真を
撮らされたり、一人一人の思いはともかくとして、グループ全体がライブに
全精力を傾けているかといったら、とても「そう」とは言えない現実。
でも、それがあたりまえの毎日になっていて疑問に思うことなんてなかった。
だからこの話を聞いて、自分を見つめ直す意味でもとても惹かれた。
124 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時45分35秒
オリンピックが終わってドラマの撮影が終わっても、世界フィギュアの
仕事があったりアルバムのレコーディングがあったり、娘。は相変わらず
忙しい。事務所にはきくちさんの企画をどうしてもやりたいということを
伝えておいた。スケジュール的に厳しくても頑張りますからということも。
わたしの「自分の意志」による活動を好ましく思わない人もいる。でも、
この春の脱退も断念して娘。に骨を埋める覚悟を決めたんだ。それを考えれば
そのくらいのわがまま絶対に言い張ってみせる。そして成功させてみせる。
だけど、なかなか事務所のOKは出なかった。

OKがなかなか出ない間も偶然なのか故意なのかわからないけれど、なぜか
きくちさんとの仕事が多かった。きくちさんはわたしに「HEY! HEY! HEY!」の
収録のときに4曲、「堂本兄弟」の収録のときに3曲、ライブで歌う曲を提案
してきた。その中から2曲、ライブで歌う歌を選んでほしい、そういうこと
だった。そしてぶっつけ本番の収録の日にちが教えられる。
125 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時46分54秒

「4月19日」

「えっ!!」

その日にちを聞いてわたしは軽い衝撃を受けた。
わたしが娘。と歩んできた5年間で記念日はいっぱいある。
「愛の種」を5万枚売り切ってデビューをつかんだ11月30日。
「モーニングコーヒー」が発売された1月28日。
「抱いてHold On Me!」と「LOVEマシーン」を発売した9月9日。
そんな中でも特別な日。それが4月18日と19日だった。
もっとも充実してて、もっとも楽しくて、もっとも悲しくて、
もっとも喪失感を味わったこの二日間。娘。の活動の中でもっとも濃密な
時間だった二日間。カオリも矢口も圭ちゃんも滅多に口にしないけど、
その二日間はトラウマのようにわたしたちの心に突き刺さっている。
そして辞めた彩っぺ・紗耶香・裕ちゃんにも忘れがたい記憶をその二日間は
植えつけた。

126 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時47分40秒
彩っぺはずっとその日のことを心に刻んで、最後まで自分の意志を通して
辞めていった。回りからは「できちゃった結婚」とか叩かれたけど、
わたしたち6人は本当の理由を分かっていた。きっと彩っぺは守るべきものが
なくなったから辞めることを決めたんだ。だから最後に自分のやりたいように
ハジけるようにやってから自分の「モーニング娘。」に幕を引いたんだ。
それ以降の「モーニング娘。」とは違うんだぞと見せつけるために。
そして紗耶香もその動きを追いかけた。辞める間際に最高の輝きを放って
娘。を去っていった。あのとき交わした約束をかなえるために、、、
127 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時48分40秒
きくちさんに提示された7曲。その7曲をじっくり聴いて、歌詞の意味を
丁寧にしっかりと感じ取って2曲選びださなければならない。
しかも「4月19日」という大事な日のために、わたしの思いを伝えられるような、
人を感動させられるような曲を歌いたい。
それがわたしの目指していた歌手。少しでもそこに近付きたい。

わたしが選びだした2曲。最初きくちさんは難色を示された。
理由は同じグループの歌を選んだから。同じグループの曲を2曲続けて
歌うことによってそこに意味が生まれてしまうのと、いろんな曲に挑んで
こその企画だったのとで、見直しを一回は求められた。
でもわたしはそれを拒んだ。
「その曲じゃなきゃだめなんです。その日に歌うのはその2曲じゃなきゃ
だめなんです」
わたしは必死に訴えた。きくちさんも意外とあっさりと納得してくれて、
その2曲でいくことに決まった。あとは事務所の決定を待つだけ。
それが大問題でぎりぎりまでわたしのソロステージにはGOサインが出なかった。
収録が確定したのが2日前。ハロモニの収録最中だった。
128 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時49分44秒
そして今わたしはこの楽屋にひとりぼっちでいる。
スタジオでのリハーサルもたったの30分だったけど、なんとかこなせた。
久しぶりの生演奏のステージ。本番のやり直しはできない。
これだけの緊張感、そうあの頃以来。生出演のときはいつも緊張するけど
やっぱり演奏も生だと、ステージや楽屋裏にまで漂う緊張感が何ともいえない。
忘れていたこの緊迫感、ある意味心地いい。楽屋のドアの外にはギターや
ベースの練習音が響いていて、どうしてもあの頃を思い出さずにはいられない。

あの頃……3年前の99年4月18日、わたしたちモーニング娘。は一つの
別れを迎えていた。モーニング娘。にとって初めての全国ツアー、その
最終日だったその日。いつもと変わらない光景がそこにはあった。
ダンスの振り付けの確認をしてる裕ちゃんと圭ちゃん。
ハモリの練習をしているタンポポの3人。
あちこち写真を撮りまくっている紗耶香。
そして、楽屋の片隅でじっと考えごとをしている福ちゃん。
話しかけることさえできない緊迫感を漂わせている福ちゃん。
福ちゃんはいっつもそうやって歌う前は考え事してたね。
129 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時50分36秒
そして、わたしはそんな光景に向かって思いを馳せた。
ねえ福ちゃん。なっちね、今日ロックボーカリストになるんだよ。
みんなの夢だったロックボーカリストに。しかもソロだよ。
すごいっしょ? すごいって言ってよ、ねえ福ちゃん。
福ちゃんと交わした約束、ちょっとだけど果たせたよ。
あれから3年もかかって、やっとここまでたどりついたんだよ。
いっつも福ちゃんに歌のことじゃ注意されてばかりだったけど、福ちゃんも
これでなっちのこと少しは見直したでしょ?
だから見ててよ。ね、福ちゃん。

・・・

・・



130 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時51分25秒
見渡せば、楽屋にはただひとり。
回りを鏡に囲まれて大人数用に広かった楽屋は消えて、元の狭い部屋。
そして、少し泣いている自分と不思議と落ち着いた自分。
そうか!いつもわたしのこと落ち着かせてくれてたよね、福ちゃん。
福ちゃんは緊張してるのに、そんな福ちゃんを見るとなぜかみんな落ち
着いたっけ。福ちゃんの姿がみんなを安心させてくれてたんだよ。
今日もありがとね、福ちゃん。頑張ってくるよ。なっち強くなったもん。

「安倍さーん、スタンバイよろしくお願いしまーす」

131 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年06月30日(日)23時52分33秒
わたしは立ち上がり、ドアに向かう。
ドアを開ければ薄暗い廊下、スタッフが慌ただしく走っている。
とっても恐そうな人たちが廊下で何人か立ち話している。
今日のFACTORYに出演するなんとかってバンドの人たち。
紗耶香にメールしたらうらやましがってたけど、なんて名前か忘れちゃった。
わたしが扉のところまで出てきたら、わたしの方を興味深そうに見てる。
そんなことはおかまいなしに、楽屋の方を振り返って心の中でつぶやいた。
じゃあ、みんな行ってくるよ。
みんなのあのときの気持ちを精一杯歌に込めて、歌にのせて気持ちが伝わる
ように、お客さんに満足してもらえるように、悔いのないように頑張ってくるね。
目を閉じてみんなの温もりを感じながらゆっくりと扉を閉めた、、、


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132 名前:カンナナ 投稿日:2002年07月02日(火)01時35分01秒
良くなってる…良くなってるぞ!
わかる事実が増えたというのもありますけれど、
それらを繋いで紡ぐ筆も滑らかになっていると。
133 名前:1111 投稿日:2002年07月03日(水)01時09分53秒
>今になってみれば「このままじゃ大好きな歌を嫌いになってしまうかも
>しれない」と言っていた明日香の気持ちが痛いほどよくわかる。

今日のMUSIXを見ながら、再確認。
私はなっちの笑顔も照れ顔もおばちゃんくさい立ち振る舞いも大好きだ。
だが、一番好きなのは「声」だということ。

役者もいいけど、歌手安倍なつみでいてほしいですね。

改訂(←追補では?)おつかれさまです。


134 名前:池田屋 投稿日:2002年07月14日(日)00時19分02秒
今日の更新で安倍編、終了です。

>132  カンナナさん
ありがとうございます。
更新ゆっくりになるかもしれませんが、
福田編まではきっちりと終えたいと思います。

>133 1111さん
自分も感情のこもった「歌う声」が好きです。
やっぱりモーニング娘。は「歌」があってのグループ、、、
135 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時20分32秒
舞台袖にたどりついてそっと観客席の方を見てみた。
娘。では考えられないお客さんたちがびっしりとひしめき合っている。
きくちさんの話だとFACTORYを開催しているこのスタジオで過去最高の
入場者だという。それだけ今日演奏するバンドの人たちは人気あるんだ…
わたしとは縁のない音楽シーンでこれだけウケている人たちがいる。
無理してテレビに出たりしなくてもこれだけ観客を集められる人たちがいる。
わたしとの境遇のあまりの違いに一言もらしてしまった。
「帰れコールとかきたらどうしよぉ」
一緒に待機していた坂崎さんがわたしの一言を聞いてなだめてくれる。
「大丈夫!僕らも拓郎さんの前座で帰れコール浴びたから。しかも拓郎さんは
日本で初めて帰れコール浴びた人なんだぜ」
それを聞いていたスティーブさんが
「全然励ましになってないっすよ」
と笑いながら話を和ましてくれた。武部さんや加藤さんも笑っている。
つられて私も笑い返した。ひきつってたかもしれないけど。
136 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時21分08秒
ブーーーーーーーーー

開演のブザー。
ざわついていた客席が一瞬にして静まりかえる。
ステージの照明も暗転。
先に坂崎さんたちがスタンバイにはいる。ちょっとしてからOKの合図。
いよいよわたしの出番。
わたしは大きく一つ深呼吸。
よしっ!いこう!
暗がりの中、ステージの中央に向かって歩き出した。

今日、わたしがこのステージに立つことはほとんどの人が知らない。
ましてや客席にところ狭しと立っているお客さんは誰一人知らない。
みんなわたしを見にきたわけではない…
わたしの歌手としてのチカラが問われるステージ。
わたしの歌でお客さんを納得させなければならない。
覚悟を決めて、正面に見えるタワーレコードの看板を見据えた。
137 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時21分57秒
真っ暗な中、坂崎さんのギターが始まる。
そしてわたしは歌い始める。

 ♪ 僕の話を聞いてくれ
   笑いとばしてもいいから
   ブルースにとりつかれたら
   チェインギャングは歌いだす
   仮面をつけて生きるのは
   息苦しくてしょうがない
   どこでもいつも誰とでも
   笑顔でなんかいられない

138 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時22分32秒
照明があがって徐々にわたしを浮かび上がらせていく中、わたしは思う。
ああ、わたし歌ってるんだ。カラオケなんかじゃない、本当に歌を歌ってるんだ。
歌詞を伝えようとしてるんだ。わたしの声で、わたしの心で…
偽りの笑顔…偽りのことば……このステージの上にはそんなものはない。
ここにあるものはすべてが真実…素顔の世界…
そう、素顔の世界…
坂崎さんのギター、武部さんのピアノ、加藤さんのコーラス、スティーブさんの
パーカッション、すべてが懐かしい。
3年前に「ラブラブあいしてる」であなたと歌った「守ってあげたい」を思い出す。
あなたは分かってた?
わたしが守ってあげたかったのは誰だったのか…なんであの曲を選んだのか…
わたしの素直な気持ち分かってくれたの?

…そんなことを考えていたら出だしでちょっと間違えてしまった。
いけない、いけない。集中しなきゃ。
139 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時24分20秒

 ♪ 人をだましたりするのは
   とってもいけないことです
   モノを盗んだりするのは
   とってもいけないことです
   それでも僕はだましたり
   モノを盗んだりしてきた
   世界が歪んでいるのは
   僕のしわざかもしれない

   過ぎていく時間の中で
   ピーターパンにもなれずに
   一人ぼっちがこわいから
   ハンパに 成長してきた
   なんだかとても苦しいよ
   一人ぼっちでかまわない
   キリストを殺したものは
   そんな僕の罪のせいだ

140 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時24分54秒
 ♪ 生きているっていうことは
   カッコ悪いかもしれない
   死んでしまうという事は
   とってもみじめなものだろう
   だから親愛なる人よ
   そのあいだにほんの少し
   人を愛するってことを
   しっかりとつかまえるんだ
   だから親愛なる人よ
   そのあいだに
   ほんの少し人を愛するってことを
   しっかりとつかまえるんだ

   一人ぼっちがこわいから
   ハンパに 成長してきた
   一人ぼっちがこわいから
   ハンパに 成長してきた
           (THE BLUE HEARTS「チェインギャング」より)

141 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時25分57秒
分かってくれるかな、この歌詞の意味。わたしの伝えたいこと。
あなたはもうわたしのことなんか忘れちゃったかもしれないけど、わたしは
まだちゃんとあなたのことを覚えているよ。
あのときはごめん…
わたし、一人になる勇気がなかった。
あなたと辞める勇気がなかった。
みんなと一緒に残ることを選んだ。
でも頑張って、イヤなことも我慢して、なんとかここまで来れたんだ。
あなたが聴いてなくてもいい。わたしのこの気持ちをとにかく表現したい。
142 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時26分33秒
一曲目が終わってMCに入る。
「FACTORYへようこそ」
「今夜のオープニングアクトはわたし安倍なつみがお贈りします」
客席から歓声があがり、手が掲げられる。
良かった。
わたしのステージは受け入れられたみたい。少しホッとした。
間を利用して気合いを入れ直す。
あと一曲、なっち頑張りなさい!
マイクの握りを確かめて客席に話しかける。
「それでは、もう一曲聴いてください」

一曲目とは違って、アップテンポな曲。
スティーブさんのパーカッションが軽快なリズムを刻みはじめる。
143 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時27分05秒

 ♪ はっきりさせなくてもいい
   あやふやなまんまでいい
   僕達はなんなとなく幸せになるんだ
   何年たってもいい 遠く離れてもいい
   独りぼっちじゃないぜウィンクするぜ

   夕暮れが僕のドアをノックする頃に
   あなたを「ギュッ」と抱きたくなってる
   幻なんかじゃない
   人生は夢じゃない
   僕達ははっきりと生きてるんだ
   夕焼け空は赤い 炎のように赤い
   この星の半分を真っ赤に染めた
   それよりももっと赤い血が
   体中を流れてるんだぜ
           (THE BLUE HEARTS「夕暮れ」より)

144 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時27分48秒

わたしは何年たっても待ってるよ。
あなたが帰ってくるまで、いつまでも。
それまでは、あなたが帰ってきたときに独りぼっちにならないように
頑張るからね。
うん大丈夫だよ、わたしは。あなたの帰りを待つ仲間がいるから…
裕ちゃんに思いを託された仲間がいるから…
もう半分になっちゃったけど、なんとか4人で頑張るよ…
だからあなたはゆっくり考えていいんだよ。

わたしの初のロックコンサートは終わった。
みんなの夢だったステージ。
5年前、シャ乱Qのステージに立ち損なってみんなで悔し涙を流した武道館。
あのステージよりずっと狭いしお客さんも少ないけど、わたしは充分に満足できた。
わたしなりの「ロック」を表現できたという自信もあった。
あとは、歌にのせた想いをわかってもらえたのかどうか。
そして、あなたにこの曲を聴いてもらえるのかどうか。
与えられた環境の中でやれるだけのことはやったんだ。
あせらないでいつか迎えるその日を待とう・・・

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145 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時28分40秒
FACTORYのトークルームに戻って、今日の演奏をしてくれた坂崎さん、
武部さん、加藤さん、スティーブさん、それからきくちさんも交えて記念撮影。
自然と今日のステージの話になる。
「いやあ、もうドッキドキでしたよ。間違えた時なんかどうしようかと
思いましたもん」
「あのカバーはすごかったな。俺だったら立てなおせないな、絶対」
「でも、すごい楽しかったです。こんな感じで歌えるのすごい久しぶりで、
やってよかったなあって。ホントにこんな楽しいなんて思ってもみませんでした」
そんなトークをしながら時間がたつ。
1組目のバンドがそろそろトークルームに戻ってくるということなので
わたしたちも切り上げた。
「本当に今日はどうもありがとうございました。機会があればぜひまた
やらしてください!」
そう言って楽屋に戻ろうとして廊下に出たとき、きくちさんに呼び止められた。
146 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時29分26秒
「あべー、今日はおつかれさん。明日札幌だってのにスマンな」
「何言ってんですか。わたしが望んだことなんですから、疲れてなんか
いませんよー」
「いやー、これでやっと安倍との約束少しは果たせたかな?」
…かなり前の約束。きくちさんの番組でゲームに勝って、なんでもかなえて
くれるっていうから出してみたお願い。
それがジュディマリのYUKIさんとの共演だった。そのときは二つ返事でOKだった。
でもわたしたちが忙しくなって、わたしへの注目が減って、娘。がフジテレビに
出なくなって、そんな話はなかったことのようになってしまった。
それにもうジュディマリは解散した…
「約束って、あのYUKIさんと共演させてくれるってやつですか?
いいですよ〜、もう。いつの話だと思ってるんですか」
「そう言ってもらえると助かるわ。ちょっとあれはもう難しそうだからなあ…」
本当はちょっと残念だったけど、もう実現不可能なことはわかってるから
わたしも無理は言えない。
「今日のことで充分ですよ。わたしのためにいろいろとありがとうございました」
きくちさんはあごを掻きながら「いやいや」という素振りを見せる。

147 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時30分18秒
「そうだ!楽屋にな、今日の記念にプレゼントがあるから楽しみにしとけよ」
「えっ、プレゼント? ステージまで用意してもらったのにプレゼントだなんて……」
そこまでしてもらうとさすがに気が引けてくる。
それに甘い話にはさんざん引っかけられてきたし、、、
「あー別に、俺が用意したわけじゃないからな。気にしなくていいぞ」
笑いながらきくちさんは言う。
「えーと…でも、きくちさんが考えてくれたんですよね?」
「いや…考えたのも俺じゃないかな…。まあ、誰が用意したって聞かれりゃあ
安倍が用意したようなもんかな…」
わたしのあたまの中はグチャグチャになって整理ができない。
あー、もう!きくちさんは何を言ってるんだろう…
なんでわたしへのプレゼントなのに、わたしが用意するのよ!
「………っ!」
また質問しようとしたその瞬間、きくちさんに遮られる。
「まあ、行きゃぁ分かるよ。そんなに心配しなくても大丈夫だって。
安倍の大好きなもんだから」
「はぁ…そうなんですか…」
大好きなもんねぇ…さっぱり分からないよ。

148 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時30分49秒
きくちさんはこれ以上詮索されたくないのか、話題をおもむろに変えた。
「明日な、本当は札幌行きたかったんだけどなあ。HEY! HEY! HEY!の
収録準備が入っちゃってて無理なんだよなあ」
「いえ、そんな…いつも来てもらってますし。辻なんてきくちさんの
差し入れを当てにしちゃってて大変なんですよー」
きくちさんはいつも辻・加護や紺野が大好きな甘いものを差し入れとして
持ってくる。そりゃあわたしだって大好きだけど、辻のことを考えると
素直に喜んで食べることもできない。
この前もアイスを持ってきてくれたときみんなが手をのばす中、
辻は必死になっていくつも取ろうとしてたっけ。
辻が過食に走る訳をみんなわかってるから、注意することもできなくって…
そんな思いをきくちさんは知ってか知らずか、
「来週は行くからな。さいたまスーパーアリーナだろ?」
「えーっと…そうでしたっけ?」
ちょっと離れたところにいるマネージャーさんの顔を窺う。
「これだからな、安倍は。なんで俺の方がスケジュール分かってるんだよー」
苦笑いされた。わたしもアタマを掻くしかない。

149 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時31分23秒
きくちさんもそろそろ時間がないということで、別れて楽屋に向かう。
そしたら何やら事務所の人を引き留めてきくちさんは内緒話。
おかげでわたしは帰りは一人。そりゃもう迷ったりはしないけど、
なんかつまんないなあー。
ステージに向かうときはガチガチに緊張して通った廊下を
  「♪さっぱりするには腹いっぱい!
    やっぱダイエットやめようかな
    きっぱり決めるにゃ踏ん切れない!
    だってアイスが呼んでるもんね♪」
なんて口ずさみながら歩いた。通りかかったスタッフさんが
ギョっとしてわたしを振り返ったけど、まあいいや。

150 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時31分59秒
「モーニング娘。」の肩書きのない「安倍なつみ様」とだけ書かれた楽屋の
前まで戻ってくる。
ドアに手をかけてふと気付く。
あれ? 誰かいる!
事務所の人たちはまだきくちさんと話してるはずなのに。
そういえばきくちさんがプレゼントがあるとか言ってたなあ。
なんなの? 「ドッキリ」とかだったらイヤだなあ。
やっぱりカメラとか中に用意されてるのかなあ。
でも、なぜか自分が不安になってないのが不思議…

……なんだろう、この感じ。
楽屋を出るときに込めた思い。振り返った3年前の楽屋。
まさに楽屋の中から伝わってくるのはそんな感じだ。
やだな、わたし。行くときに助けてもらったからって。
今日はもう充分助けてもらったから、もう忘れようよ。
そんなんじゃ強くなったって言えないよ。
「いつまでも待ってる」なんて言えないよ。
でも白い楽屋の扉の中から伝わってくるこの感じは懐かしくて優しくて…
逆に開くことが怖くなってくる。
開ければまた独りだけの世界、仮面をかぶり続けなければ生きられない現実に
引き戻されるのかもしれない。
扉のノブから手を離して、わたしが心地よい感じにまた浸ろうとした…
そのときに楽屋から声が…

151 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時32分47秒



「おかえり、なっち」





「!!」




152 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時33分41秒
何年たっても忘れることのない…いや、忘れることのできない特徴ある声。
楽屋から漂っていた懐かしさの正体。
…きくちさん、ズルイよ。こんなこと用意しておくなんて。
知ってたなら教えてくれればいいのにさ…
事務所のスタッフもなんで誰も教えてくれないの?
…みんな…みんな…ズルイよ…

そして…いちばんズルイあなた。
そんなズルイあなたに涙は見せられない。
懸命に涙をこらえて、無理して笑顔を作って重い扉をそーっと開ける。
あ、こっちを見てる。何か言わなきゃ。
なんとかわたしは声をしぼり出した。

153 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時34分17秒


「ただいま、明日香……そして、おかえり。福ちゃん…」


ぼやけた視線の先には、ちょっと戸惑ったような昔のままの明日香の笑顔。
ちょっと大人になって少しほっそりしたけど、その表情・その仕草、
間違いなく明日香がここにいる。
その現実、この喜びを感じたい…
わたしはゆっくりと近寄っていって、明日香を思いっきり抱きしめた。
明日香はちょっとびっくりしたみたいだったけど、同じようにわたしを抱きしめてくれた。
明日香を抱きしめながら実感する…
ようやく取り戻せたんだ、3年という歳月を。
「17歳」の頃を振り返ってばかりだったわたし。
17歳だったあの日から3年がたって今は明日香が17歳…
そう…明日香が17歳…

154 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時35分04秒

「久しぶりだね、明日香…」

「うん…」

「元気にしてた?明日香…」

「うん…」

「背、伸びた?」

「うん…」

「うん」しか答えてくれなくてもわたしには分かってるよ。
明日香が今日ここに来た意味を。
わたしを訪ねてきた来た意味を。
帰ってきてくれるんだよね。
決心してくれたんだよね。
今日のわたしの歌、伝わったんだよね。

155 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時36分10秒
昔二人でやっていたラジオみたいに
甘えるように明日香に聞いてみる。

「ねえねえ福ちゃん。今日のなっちどうだった?」

「…すごい良かった…伝わってきた……なっち上手くなったね…」

耳もとで聞こえる明日香の声にわたしは「うんうん」とうなずく。
そしてわたしを抱きしめている明日香の腕にギュッと力がこもる。
心を決めて明日香が何か言おうとしている。

「3年間頑張ってたんだね、なっち…つらいこともいっぱいあったよね?
ごめんね…なっち…ひとりぼっちにさせて…
あのときわたしが逃げなければ……」

156 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時37分33秒

「いいんだ、明日香。今のなっちは充分満足してるの。
つらいことなんて、今日こうやって時間を取り戻せたことに
比べれば小さなことだよ…」

「取り戻せた?」

「うん。歌手安倍なつみを取り戻せた。
みんなの夢を、モーニング娘。の目標を取り戻せた。
そして、明日香といっしょにこうしている時間を取り戻せた…」

しばらくの沈黙。
明日香がじっくり考えるようにゆっくりと口を開く。

「…ねえ、なっち」

「ん?」

「わたしも3年間で失ったもの取り戻せるかな?
いっぱい、いっぱい失くしたものが多すぎたよ、わたし…」

「…大丈夫だよ、明日香。だってもう今日半分取り戻したんだよ」

「えっ?」

157 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時38分28秒

「昔二人で一人前とか言われてたんだから、明日香は今日なっちのこと
取り戻したから半分取り戻したでしょ?」

「なんかよくわかんないよ、その例え」
恥ずかしいのか、明日香の声には照れが含まれている。
「でも…うん、そうだね。頑張ってあと半分取り戻すよ。フクダアスカの部分を。
じゃないとなっちも一人前になれないもんね」

「なにおー! なっちはもうどっからどう見ても一人前の大人ですぅー」

「よく言うよ。『アイスが呼んでる』とか歌ってたくせに」

笑いながらわたしにつっこむ明日香に、耳もとで囁いた。

「…福ちゃん、頑張ってね。
つらいことがあったら言っていいんだよ…
なっちが守ってあげるから…
今度は絶対に守ってあげるから…」

「……うん。ありがと…なっち」


158 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月14日(日)00時39分20秒

明日香がわたしの横からいなくなってちょうど3年が過ぎた今日。
いまわたしの腕の中に明日香がいる。
明日香はきっと明日香らしくマイペースで戻ってくる。
いつのことになるかわからないけど、アタマの中には
ステージの上に並んで立つ明日香とわたしがハッキリと見える。
目を合わせてタイミングを合わせながら楽しそうに歌ってる姿が…

今までで一番の喪失感を味わった4月19日への思い出が変わって
笑い合って振り返れるような思い出になるとき。
そんなときがもうすぐそこまで来ているのかもしれない…





159 名前:1111 投稿日:2002年07月14日(日)16時43分56秒
お疲れ様です。良いです。
掘り下がってる。話の陰陽がくっきりしている。

>なっちが守ってあげるから…
>今度は絶対に守ってあげるから…

私は誰かを守ってあげる事ができるのだろうかと考えてみたりして・・・。
あぁ、安倍さんに守ってもらいたい!癒してもらいたい!!養って(ry←アフォ

なっち、とりあえず今は辻加護を守ってやってくれ・・・。
160 名前:池田屋 投稿日:2002年07月28日(日)22時23分43秒
>1111さん
レスありがとうございます。
場違いなことやってる自覚があるから、あなたのレスに救われます。
なんとか今週末で福田編を終わらそうと思ってたのですが、ちょっと無理でした。
ひとまずきりのいいところまで更新します。
161 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時24分52秒

真っ暗なステージ。
シーンとなった観客席。
さらにその後ろ。カメラを置くためのセットの柱の陰にわたしはひっそりと立つ。
まわりにはきくちさんをはじめ知ってる人の顔も何人か見える。
でもほとんどが知らない人。
場違いなわたしの存在を不審そうに見るスタッフもいる。

(どう考えてもわたしのいる場所じゃないな…)

関係者用のパスを首から下げて、関係者しか入れない場所に立つ17歳の芸能人でもなんでもない家事手伝いのただの子供。
そんなヤツなかなかいないよね…
少しばかりの優越感と大半を占める自嘲の念に苛立ちを覚え、帽子をとって髪をかきあげる。
この帽子の存在さえわたしには腹立たしい。
量が多くておさまりの悪いわたしの髪。でもこうした人の多い場所には帽子をかぶって来ざるを得ない。
ましてやテレビカメラがあるところなんだから、いつ気付かれて煩わしい思いをするかわからない…

…そう。思えば去年のあのときも帽子をかぶっていた。

162 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時26分23秒

わたしの誕生日まであと一週間にせまった12月10日。
紗耶香の復帰後初のコンサートがあるというので渋谷のAXっていうコンサート会場まで足を運んだ。
モーニング娘。を辞めてからは近付くこともなかったその場所。
周りには初めてコンサートをやった渋谷公会堂や紅白で出演したNHKホールがあってどうしても意識してしまう…
わたしのかつての栄光、芸能人フクダアスカ……

会場に入って紗耶香から送られてきたチケットを見ながら席を探していると後ろから軽く肩をたたかれた。
「よっ! 明日香」
振り向くとそこには懐かしい顔。
「あ…平家さん…」
「なんや改まって。昔みたいにみっちゃんでエエよ」
相変わらずこの人は声がデカい。
ばれるのが心配で回りをきょろきょろと見回してしまった。
「大丈夫やって。ここいら辺、関係者しかおらんから」
そういう問題じゃないだろうとか思いながらも、みっちゃんに席まで連れられていく。
163 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時28分41秒
「ほら、ここ座り」
「えっ? そこわたしの席じゃないよ…」
「かまへん、かまへん。
ほら、早う座らんと1階のお客にばれるで」
「…でも」
後から来た人と揉めるのは避けたいし、極力目立つことはしたくない。
「そこな、あっちゃんの席なんよ。今日来れんて連絡あったからどうせ空いてんの」
「あっちゃん?」
「あ、そうか、明日香はほとんど知らんのか? 稲葉のあっちゃんや」
わたしと入れ替わるようにして事務所に入った稲葉さん。何回か顔を合わせたことはあるけどあだ名で呼べるような関係ではない…
「稲葉さんが来ぃへんから、始まるまでヒマでヒマで。明日香が来てくれて良かったわー」
じゃあ、それならということでわたしが席につくとみっちゃんが声をひそめて話しかけてきた。
「ここいら辺の席な、堀内さんやばんばさんの知り合いばっかりなんよ。例のバーニングのお偉方もいっぱい来てるし……って、明日香は知らんか…」
164 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時29分22秒
わたしが辞めてから起きたいろいろなこと。
わたしに心配かけさせまいとしてかメンバーはほとんど話してくれなかった。
でも和田さんが娘。のマネージャーを外されたときや、紗耶香が辞めたときにちょこちょこと聞かされた話だけでもイヤなことだらけだったから、きっと真相はもっとイヤなことなのだろう、、、
会場の雰囲気とはかけ離れたスーツを着たオジサン集団をちらっと横目で見て思う。

(紗耶香もよくこの状況で復帰を決意したよね…)

紗耶香が辞めてからたまに会ってたけど、紗耶香から音楽の勉強をしてるなんて話はぜんぜん出てこなかったからてっきり復帰はあきらめたものだと思ってた。
復帰の話を聴いたときも「そんなんでいいの?」って言いたかったけど、何よりも自分が「そんなんでいいの?」って状態だったから何も言えなかった。
165 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時30分08秒

みっちゃんはわたしにかまわず話し続ける。
「頼子ちゃん? 歌うまいよねえ、明日香」
「えっ? 会ったの?」
「なんや、聞いとらんのか…
こないだ事務所で紗耶香と会ってなあ、ちょうどそのとき和田さんとソニンと頼子ちゃんも来ててな、みんなでカラオケ行ったんよ」
「そうなんだ。最近あんま連絡とってなくて…」
「友達とはちゃんと連絡取らなあかんで、明日香!」
「ふぁーい」
ちょっとおどけたように返事をする。
「…まあええわ。
でな、和田さんはともかく、みんな歌うのが好きな連中だからみょーに張り合っちゃってなー、あんな疲れるカラオケ二度と行きたくないわ」
行きたくないとか言いつつそのときの事を楽しそうに話すみっちゃんを見ると、ホントは楽しかったんだろうなあって思えてくる。
みっちゃんはずーっと歌うこと好きだね。きっとこれからもそうなんだろうな…
166 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時31分07秒



ライブが終わり紗耶香と裕ちゃんに挨拶してから帰ろうと思って、みっちゃんと二人舞台裏に向う。
こんなときみっちゃんと二人で良かったなあって思った。
もうわたしじゃ顔パスってわけにはいかないだろうから…

紗耶香と裕ちゃんの楽屋は意外と閑散としてた。
アップフロントやゼティマの人たちは接待で忙しいらしい。
取り留めのない会話をして楽屋を後にすると、いつの間に来てたのか和田さんに呼び掛けられた。
「よう!福田。最近どうだ?」
「…普通です」
それ以外どう答えろっていうのさ。わたしの状況わかってるくせに…
絶対わたしが困った顔をするのを期待して言ってるな、この人。
近付いていくわたしに、和田さんは自分の横に立っていた人を指差して言う。
「懐かしいだろ、この人?」
167 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時31分46秒
うん。
わたしはその人を知っている。
わたしが歌いたかった「神田川」を番組で歌わせてくれた人。
わたしとなっちの二人を「ラブラブあいしてる」のステージに呼んだ人。
そしてつい2ヶ月前、わたしが中1だったころのブルマ丸出しのVTRを流すように指示した人。
わたしの卒業コンサート以来だから、会うのは2年半ぶりだ。
「きくちさん、この間は<爆裂お父さん>ありがとうございました」
ちょっとぶっきらぼうに言うわたしを見て、和田さんときくちさんが目を合わして苦笑する。
「変わらないなあ、そのしゃべりかた」
「だってあれのおかげでバイト変えなきゃならなくなったんですよ。週刊誌にも追いかけられたし…」
「そうか…ごめん、ごめん。あのVTR、岡村も気に入っててな、爆裂お父さんの中での一番の名シーンだから外すことできなくって……すまん、この通り」
そう言って、顔の前で手を合わせて頭を下げる。
「…………」
あのー、きくちさん。顔が笑ってますよ。

168 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時32分37秒
一通り和田さんも交えて近況報告をすると、不意にきくちさんは聞いてきた。
「どう?最近は歌ってるの?」
「…コピバンで歌ってるくらいですかね。なかなか歌う場所がなくって…」
「ふーん…そのバンドでデビューしようと思ってるの?」
「いえ、そういうわけでもなくって……まだ悩んでるんですけど…」
「もったいないなあ。それだけ歌えて、歌える環境もいつでも準備できるってのに…
あんまり好きじゃないか?人前で歌うのは」
「いや、違くって……なんていうか……納得して歌いたいっていうか……自分が納得してなければ歌ってても意味がないと思うんです。歌が伝わらないと思うんですよね。昔つんくさんから聞かされた受け売りですけど」
「事務所に準備してもらえる環境じゃ納得できないし、伝わらない…か?」
「…………」
「ここには俺たちしかいないから正直に言って大丈夫だぞ」
そんなこと言われても私自身、自分の気持ちを整理できてないから何が正直で何がウソなのかわからない… だから口から出た言葉は
「…いや別に、今のままでは戻りたくない。それだけです…」
これしか言えなかった。
169 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時33分22秒
きくちさんは続けて聞いてくる。
「今戻るって宣言して市井みたいに扱われるのはイヤか?」
なんなの!この人は? わたしに何を言わせたいの?
「紗耶香は関係ないと思いますけど」
睨みつけるように言ってやった。
「そうかな? じゃあ今日の市井、良かったと思うか? 市井が納得して歌ってると思うか?」
ズバリ言うきくちさんに何も言えなかった。
紗耶香の復帰と裕ちゃんに会えたことはうれしかったけど、本当は何とも言えない微妙なライブだったから。
曲のセットリスト、途中で登場したゲスト、そして曲の雰囲気とはかけ離れた場違いな観客のノリ…すべてがコメントしにくいことだった。
紗耶香が歌いたかった曲はこのライブにはなかったってことも分かってた…
170 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時34分39秒
わたしの沈黙を受けてきくちさんは続ける。
「確かにな、市井はぜんぜん納得してないだろうな…
でもな、だからといってそれが無駄かっていうとそうでもないと思うんだよ。
なんていうのかな……自分の思うように歌えないでいる中でも必死に歌ってれば、『本当に歌う』ってなったときに表現できるものって大きくなると思うんだよ。少なくとも今日の市井は、市井なりに今出来る精一杯の歌を歌ってたと思うぞ」
そうかな? わたしには今の紗耶香の状況で歌うことは、とても紗耶香のためになってるとは思えない。
ときどき見せる紗耶香の暗い表情を見ると、復帰が良かったことなのかことなのかどうかも分からない。
唯一希望が通って歌えた曲だっていう「ふるさと」も本当に心から歌えたのかな…
ふと「ふるさと」を歌っているメンバーの顔が浮かんだ。
171 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時35分32秒
なっち、カオリ、矢口、圭ちゃん、みんな何年たっても自分の歌いたい歌を歌わせてもらえる機会なんてこなかったじゃない。
わたしが辞めたときよりも、もっとどんどん歌う機会が少なくなっていって…カオリなんて会えばいつも愚痴ばかりだったじゃない。
「『本当に歌う』機会なんて来るんですか? 仮にきくちさんの言う通りだったとしても、その機会が来ないんじゃ結局は無駄になってしまうんじゃないんですか? それだったらわたしは自分で好きに歌ってる方がいい。歌を嫌いになるなんて、もう二度と経験したくないから…」
今度は正直に自分の気持ちを吐露した。
恥ずかしいことを言ってるのかもしれないけど、わたしには紗耶香や娘。に残ってるメンバーみたいに歌いたくもない歌を歌うことなんてできない…
きくちさんは
「『歌う』機会か……」
と言ったきり黙ってしまった。
172 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時36分07秒

別れ際、きくちさんとメールのアドレス交換をする。
いや、どっちかっていうと『させられた』の方が正しいかな。
ホントは芸能界の人にアドレスを教えることなんてしたくなかったんだけど、となりで和田さんがしつこく勧めるもんだから…
「福田よー、教えといて損はないと思うぞ。相手はフジテレビの大プロデューサー様だぞ。
俺に教えとく方がよっぽど危ないだろ。俺だったらお前のアドレス、ファンのやつらに売りつけかねねえもん」
和田さんがそんなことしない人だってのはわかってるけど
「じゃあ、和田さんに教えてるくらいだから」
って言って、きくちさんに教えることにした。
「でも、わたしなんかに用無いと思いますよー」
「まあ、なんかおもしろいライブとかあったら教えてあげるよ。ライブ見るのは好きだろ?」
うっ。それはラッキーかも。
ちょっと期待してしまう自分が情けない。
「はい! ライブ見るのは好きです。年明けにもエレカシ見に行こうと思ってますし」
「じゃあ、適当に好きそうなのがあったらメールするから」
173 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時36分57秒

そんなことがあったのが去年の12月。
でもそれからきくちさんからはぜんぜん連絡なくて、わたしもそのことはすっかり忘れていた。
その間もわたしの回りの流れは早かった……

3月末に頼子はインディーズデビューが決まって渋谷で初めての単独ライブをやった。
わたしも後ろの方で見てたけど、サイリウムを持ち出した観客が前の方にいたからその場を去った。
あの会場の雰囲気で、しかも頼子の曲でサイリウムを振り出すお客。そんなモーニング娘。のコンサートのノリを持ち込むお客。きっと頼子の歌なんてどうでもいいんだろうな…
もしわたしが見つけられてしまったら、きっと紗耶香のときみたいに雰囲気なんかぶちこわしで大騒ぎするのだろう。
最後まで聴けなくてごめん。あと、わたしの紹介が足を引っぱっててごめんね、頼子。

174 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時37分29秒
和田さんはあの後いろいろと大変みたいだった。
ユウキ君が復帰したと思ったらすぐにあんなことになっちゃって…
発売直前までいってたアルバムも全部無駄になったとか。
頼子の話だとハーモニーも相当損害出したみたい。
和田さん、山崎会長に呼び出されたって話だし…大丈夫なのかな。
また『社長なんかやりたくなかったんだ』って愚痴ってるんだろうな。

わたしの回りはどんどん変わっていくのに、わたしは独りだけそのまんま…
みんなわたしをおいてどんどん先に進んでいく……
バンド練習で歌ったりして、その場では楽しいけど、家に帰ってくるとどこか虚しさがつきまとう。
わたしは自分の歌に納得してる…でも、聴いてる人はどうなんだろう。
今のわたしの歌を聴いて感動する人がいるんだろうか?
目的も無くただ歌ってるわたしを見て『魂が震える』なんてことがあるんだろうか?
これじゃあカラオケで歌ってるのと変わらないよね…
ベッドの上に横になって大きくため息をつく。

175 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時38分48秒

(はぁ……なにやってんだろ、わたし……)


しばらくしてから、何も決められないで悶々としていたわたしに一通のメールが来た。

 『お久しぶりです。
  時間があまりないので簡潔に書きますが、
  来週の4月19日にフジテレビでライブがあります。
  出演はROSSOやLOSALIOS等の硬派なバンドを予定してます。
  関係者の所で見れるようにしておくので、来てみますか?
  時間は17時くらいで大丈夫だと思います。
  連絡まってます。           きくち』
176 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時39分18秒
きくちさん、忘れてなかったんだ。
ずっと連絡なくて、挨拶代わりのアドレス交換だったんだなって思ってたところでのメールだったからちょっとびっくりした。
ROSSOは見てみたいかな。
ミッシェルとブランキー、そんなに好きってわけでもなかったけど、バンドで歌ってる以上やっぱり気になるし。
LOSALIOSも出るのか……TOKIEさん、かっこいいんだよねぇ。
でもめちゃイケで武田さんとは顔合わせてるからなあ。顔覚えられてたらやだなあ。
それがちょっと引っかかったけど、結局はROSSOの誘惑に負けて連絡してしまった。

177 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時41分08秒
そして今日。
わたしはこうしてお台場のフジテレビまでやって来た。
1階の関係者用の喫茶店の入口で待ち合わせしてたけど、時間になってもなかなかきくちさんが来なくて不安になる。
「ごめん、ごめん。いろいろ押しちゃってて。代わりのスタッフを迎えに来させるわけにいかないし、スタジオの中にいたから携帯も使えなくって…」
「すいません。わざわざ迎えに来てもらって…」
わたしなんかのために時間を割いてここまで来てもらうのは気が引けてしょうがない。
「さっそくだけど、もう始まるから。すぐ行くよ」
「えっ! すぐですか?」
ちょっとお茶でも飲んでからいくのかなあなんて思ってたから、ライブを見る心の準備が出来てない。
「うん。会場に着いたら、たぶんすぐに始まるから」
そう言ってきくちさんは、もう歩き始める。
かなり押してるんだなあと思いつつ、慌ててきくちさんの後を追いかける。
178 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時42分01秒
テレビ局の廊下。
ときどき見える乱雑に置かれたセットや束になったコードが懐かしい。
途中できくちさんが説明してくれる。
「今日の観客の控え室がここなんだ。もう会場に入ってるから誰もいないけどね」
ちょっと覗けば、そこには無数のカバンが無造作に散らばっている。
あれ? ここって……
隠し芸大会の練習した部屋だ。
そっか…普段は控え室としても使われてるんだね。
179 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時43分10秒
わたしがちょっと止まっている間にもきくちさんはどんどん歩いていく。
しばらく行って、行き止まりの暗い廊下で立ち止まった。
「これ、スタッフ章な。首から下げとけよ」
「はい。ありがとうございます」
一旦帽子を外して、言われた通り首から下げる。
「ここからちょっと通路がないから観客の中を通っていくからな」
ちょっと! 聞いてないっすよー。
「早歩きで行けば大丈夫だから」
そうかなあ?
きくちさんも大胆なことするなあ。
「はあ」
と曖昧な返事をしつつ、帽子を深めにかぶり直す。
180 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年07月28日(日)22時43分52秒
入口にいるスタッフが仕切り代わりになっているカーテンを上げたあとはひたすら早足。
スタンディングで始まるのを待っている観客の中を必死にかき分けて進む。
緊張と観客の熱気とで、後方のスタッフブースに着いたときにはうっすらと汗がにじみ出ていた。
「あとはここいら辺で適当に見てていいから。
何だったら観客席の方に行っちゃってもいいよ。
それから、俺は一組終わるごとにここの席外すから、気をつけてな」
きくちさんにそう言われて自分のポジションを探す。
観客席の方に行くのはためらいがあった。どんな雰囲気になるかまだわからないし、カメラも回ってるから。
わたしは結局セットの柱の陰にひっそりと立って始まるのを待つことにした……

----
181 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時29分51秒
始まるまでのちょっとした時間、暗いながらも小さな青白い明かりのついたステージを見ているとぼんやりと様子が見えてくる。
なんで今日のライブのラインナップでアコギが置いてあるんだろう?
ピアノはまあ分からなくもないけど、奥の方には変な太鼓みたいのも見えるし…
不自然なステージのセットにちょっとした疑問を覚える。
ヒマついでにもっと凝視してやろうとしたら小さな光さえも消されて真っ暗になってしまった。


ブーーーーーーーーー


開演を告げるブザーが鳴る。
下手側から何人か出てきて楽器の位置についたのがなんとなく分かった。
少し遅れてボーカルらしき人も出てくる。
タイミング合わせでもしているのだろうか? ちょっとした間があく。

182 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時30分55秒
……そして会場にアコギの音が響きした。
曲名もアーティストも何も発表されてない歌が始まる。

 ♪ 僕の話を聞いてくれ
   笑いとばしてもいいから
   ブルースにとりつかれたら
   チェインギャングは歌いだす
   仮面をつけて生きるのは
   息苦しくてしょうがない
   どこでもいつも誰とでも
   笑顔でなんかいられない

歌が始まるとなんか前の方の人たちがざわざわとしだす。
中には拳を突き上げてる人もいる。
183 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時32分13秒

(…あれ? この声……)

わたしはこの声に聞き覚えがある。
いや、ちがう……聞き覚えがあるとかじゃない。
もっと身近にあった声だ。
いつもわたしの近くにあった声だ。

歌声の響く中、ステージの照明が徐々に灯いていく。
そこにはかつてのわたし仲間……忘れることのできない記憶を一緒に共有している仲間が立っていた。


……なっち!!


なっちがなんで!?


予想外の登場に会場全体に歓声があがる。
そりゃそうだ。まさか、なっちが……
なっち一人がこのステージに立つなんて誰も想像していないだろう。
国民的アイドルグループの一人が、今日ここに来るなんて誰一人思わなかっただろう。
なっちがこの客層相手に登場してくるなんて……

184 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時33分00秒
なっちは観客の歓声に惑わされず歌い続けていく。

 ♪ 人をだましたりするのは
   とってもいけないことです
   モノを盗んだりするのは
   とってもいけないことです
   それでも僕はだましたり
   モノを盗んだりしてきた
   世界が歪んでいるのは
   僕のしわざかもしれない

   過ぎていく時間の中で
   ピーターパンにもなれずに
   一人ぼっちがこわいから
   ハンパに 成長してきた
   なんだかとても苦しいよ
   一人ぼっちでかまわない
   キリストを殺したものは
   そんな僕の罪のせいだ

185 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時33分32秒
うん。なっち歌えてるじゃん。
最初騒いでたお客さんもみんななっちの歌に聴き入ってるよ。
わたしが聴いたことのないその歌をなっちは真剣なまなざしで切々と歌い上げていく。
なんだろう?この曲。
オリジナルではないっぽいし、お客さんの中には知ってる人もいるっぽい。
わたしはなっちの歌に耳を澄ませた。

 ♪ 生きているっていうことは
   カッコ悪いかもしれない
   死んでしまうという事は
   とってもみじめなものだろう
   だから親愛なる人よ
   そのあいだにほんの少し
   人を愛するってことを
   しっかりとつかまえるんだ
   だから親愛なる人よ
   そのあいだに
   ほんの少し人を愛するってことを
   しっかりとつかまえるんだ

   一人ぼっちがこわいから
   ハンパに 成長してきた
   一人ぼっちがこわいから
   ハンパに 成長してきた
           (THE BLUE HEARTS「チェインギャング」より)

186 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時35分13秒

あれ? この歌詞…
歌詞の内容にちょっとした引っかかりを覚える。
なっちはちゃんと歌詞の意味を考える人のはずだから…
そういえば、わたしがモーニング娘。だった頃、わたしたちが子供すぎてなかなか理解できなかった歌詞の意味を二人で必死に考えたこともあったっけ……

あっという間に曲は終わって、なっちはMCに入る。
「FACTORYへようこそ」
「今夜のオープニングアクトはわたし安倍なつみがお贈りします」
わたしの前の方に立つ人たちがみんな手をあげて応える。
中にはタトゥーをいれてるような腕も見える。
そうか…なっちの歌は支持されたんだね、この会場にいるみんなに。
なっちの『歌』は会場にちゃんと響いたんだね。

なっちしか見てなかったステージを改めて見回す。
最初にギターを弾き始めた人は……あ、坂崎さんだ。
ピアノは……武部さん。それに加藤さんやスティーブさんも。
『ラブラブあいしてる』のメンバーか…
拓郎さんに誘われた有志が集まって作ったバンドで番組をやってるって聞かされて、とても興味深かった番組。
わたしが歌いたかった「神田川」を歌わせてもらえて、とってもうれしかった……

187 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時35分51秒
なっちがもう一言。
「それでは、もう一曲聴いてください」

一曲目の重たい雰囲気とは変わって、テンポアップした曲が始まる。
照明もそれに合わせて青白い光からオレンジ色の光へと変わった。

 ♪ はっきりさせなくてもいい
   あやふやなまんまでいい
   僕達はなんなとなく幸せになるんだ
   何年たってもいい 遠く離れてもいい
   独りぼっちじゃないぜウィンクするぜ

   夕暮れが僕のドアをノックする頃に
   あなたを「ギュッ」と抱きたくなってる
   幻なんかじゃない
   人生は夢じゃない
   僕達ははっきりと生きてるんだ
   夕焼け空は赤い 炎のように赤い
   この星の半分を真っ赤に染めた
   それよりももっと赤い血が
   体中を流れてるんだぜ
           (THE BLUE HEARTS「夕暮れ」より)

188 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時36分42秒
なっちの歌がストレートにわたしの胸に飛び込む。
なっちの歌うその歌詞がわたしの胸に突き刺さった。
わたしの鬱屈した気持ちを吹き払うかのような衝撃……
ちょっとした間、わたしは放心状態になってしまった。

なっちは歌い終わるとすぐに舞台袖に引っ込んでいく。
でも…わたしの胸の動悸はおさまらない……
いくら落ち着かせようとしてもドキドキしたまま。

……そういえば昔なっちが言ってた。
わたしの卒業を数日後に控えたときのこと……

「なっちはね、プリンセスプリンセスの『M』を福ちゃんに贈ります。
福ちゃんといつもいっしょにいたかった。となりで笑ってたかった……」

そう言って、悲しそうな顔をしてたなっちを思い出した。
そのときはわたしもいっぱいいっぱいだったし、務めて冷静でいようとしてたから深く考えなかった。
なっちがどれだけわたしのことを大切にしてくれてたか、わたしがいなくなってどれだけ寂しい思いをするのか、考えもしなかった。
あんなに毎日いっしょにいたのに…
休日でさえもいっしょに遊んだりしてたのに…
189 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時37分27秒



…なっち…


……なっち……


…………なっち…………


ごめん。わたし独りぼっちなんかじゃなかったんだね。
孤独なんかじゃなかったんだ。
ずっとなっちは「一人じゃない」って言っててくれたのに…
わたし、それに気づきもしなかった。
かえって鬱陶しく思ったりしたこともあった。
誰もわたしのことなんか理解してくれないと思ってた。

わたしはバカだ。

バカでバカでどうしようもない子供だ。

ずーっとわたしは子供のままだったんだ。

今日この場で、3年間かかってようやく気づいた自分自身……








……なっちに会わなきゃ!

ここでなっちに会わずに帰ったらわたしは何も変わらない。
また孤独を平然と装う大人のふりをした自分に戻るだけだ。
本当は寂しくて寂しくて仕方がないのに。
190 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時40分04秒
急いできくちさんの姿を探す。
わたしが今なっちと会うためには、どうやらきくちさんの力を借りる以外手段がなさそうだ。
幸いきくちさんはスタッフブースを離れることなく、スタッフと歓談中。
所狭しと並んでいる機材の中をぬうように歩いて近付いていく。
きくちさんの方から気づいてくれて声をかけてくれる。
「よう、福田。どうだった?びっくりしただろ?」
「はい、めちゃびっくりしました」
きくちさんにこれ以上甘えることに気が引けて、ためらいがちに聞いてみる。
「あのう……、なっちに会わせてもらうことってできませんか?
無理言ってるっていうのは自分でも分かってるんですけど…、今日、なっちに会ってから帰らないと絶対後悔しそうなんです……」
191 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時40分43秒
きくちさんはなぜか笑いがちに答えてくる。
「あー、大丈夫だと思うけど、安倍も時間あんまりないと思うから今行かないと会えないと思うよ」
「はい。できれば今すぐ会いたいです」
「でもそれだとお目当てだったROSSOとかは見れなくなっちゃうけど、いいか?」
「はい、かまいません。なっちに会う方が今のわたしにとっては重要ですから。誘っていただいたきくちさんにはホント申し訳ないんですが…」
「うん。まあ、それはかまわないんだけどな……うーん、どうしようかな…」
そう言ったきり、後ろを向いてあごに手をあてて考え込んでいる。

192 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時41分21秒
突然きくちさんがくるっと振り向いて手をパチンと叩いた。
「じゃあ行こうか」
「えっ!?」
わたしが戸惑う間にすでにきくちさんは歩き始める。
なんか来たときもこんな感じだったような…
慌ててきくちさんの後を追う。
すでにステージはセットの組み替えが済んで、あとは次のバンドの登場を待つばかり。
なっちの登場に騒いでたお客も今はもう臨戦体制だ。
そんな中をすり抜けてカーテンを上げてもらってスタジオの外に出る。
本当だったら番組収録が終わるまで出られないはずなのに、きくちさんの後に続いて出ていくわたしを見て不思議そうにしている人もいる。
きくちさんは
「安倍はまだスタジオの中にいるけど、そこに福田をつれていくのはいろいろとまずいから楽屋の方に行くからな」
そう言って、来るときに通ってきた道を引き返していく。

193 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時43分17秒
迷路のように入り組んだ通路を早足で歩きながら、きくちさんに聞いてみた。
「あの…、なっちが今日歌った曲ってなんていう曲ですか?」
「ああ、あの曲な。
2曲ともブルーハーツの曲で1曲目が『チェインギャング』で2曲目が『夕暮れ』っていうんだ。
もう10年以上前の曲だから福田は分からないんじゃないかな?」
わたしだってブルーハーツの名前くらい知ってるけど、細かい曲名までは分からない。
「なっちも知らなかったんじゃないんですか?」
なっちからブルーハーツの話なんて聞いたことない。
なっちが好きだったのはラルクやイエモンなんかのわたしたちがオーディションを受けてた頃に流行ってたグループだ。
194 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時44分16秒
「うん。確かに安倍、知らなかったなあ…
他にもないくつか候補曲出しておいたんだよ。
安倍の好きそうなジュディマリとかもいれてな。
でもな、サンプルで渡したCD聴いた安倍がどうしてもあの2曲がいいって言うんだよ。
こっちとしては同じグループの曲はあんまりやってほしくなかったから、
『何かブルーハーツに思い入れでもあるの?』って聞いたんだよ。
そしたら、『聴くのは初めてです』だって。
よっぽどあの2曲が気に入ったんだろうな」
わたしには分かる。なっちがあの曲を選んだ理由、歌いたかった訳……
あの歌にはなっちの気持ちがいっぱいつまっていた。

195 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時45分02秒
「ちょっとここで待ってて」
って言って、きくちさんはわたしを廊下の長イスにおいてどこかに行ってしまった。
戻ってきたときには、女の人と二人。
わたしの姿を確認すると
「じゃあ、そういうことなんで…」
きくちさんがその女の人に言う。
「今回っきりですよ。事務所にばれたらわたしだってヤバいんですから」
そういう言って、しぶしぶといった感じでポケットから何かを取り出す。
そしてわたしの前に差し出した。
「はい、これ。安倍さんの楽屋の鍵。絶対になくさないで。
あとわたしに渡されたことを安倍さん以外には誰にも言わないで。
バレたら『これ』になるから」
そう言ってクビを手で斬るまねをする。
どうやらなっち付きのUFAのスタッフらしい。
196 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時45分43秒
「えっ? いいんですか?」
わたしはその人の顔を窺う。
きくちさんが
「いいから、いいから」
ってさえぎるように言う。
きくちさんがなにやら仕組んだのは確かだ。
わたしがためらっていると、その女の人はわたしの手を取って無理矢理わたしに鍵を握らせた。
「そこ曲がったところが安倍さんの楽屋だから。人がこないうちに早く行って!
そのうち一人で帰ってくると思うから、それまでは楽屋からは絶対出ないでね」
……今は素直に従った方が良さそうだ。
お礼だけ言って楽屋に急いで向う。

197 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時46分17秒
『安倍なつみ様』と書かれた紙が横に貼ってある扉。
この扉を開けばもう引き返すことはできない。
ドキドキしながら鍵を差し込んだ。

「おじゃましまーす……」

誰もいないのは分かってても小声で挨拶をする。
思ったより狭い楽屋。
なぜか足を忍ばせて奥に入っていった。

ぐるっと見回して、本当に誰もいないことを確認してふぅっと一息ついた。
なっちのバッグ、なっちの帽子、なっちのサングラス……
楽屋にはなっちの匂いが感じられるものが溢れている。
わたしは所在なげに鏡の前のイスに腰をおろした。

もうすぐなっちと会える。3年間意識的に避けてきたなっちと……
わたしはどんな顔をしてなっちを迎えればいい?
なっちになんて言ったらいい?
今のわたしには眩し過ぎるなっちに臆することなく言葉がでてくるだろうか…………



198 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時47分12秒
----
しばらくすると静かだった廊下に足音が聞こえてきた。
それに混じって変な鼻歌も聞こえる。
薄暗い廊下には似つかわしくないなっちの明るい声。

(ハタチにもなって『アイスが呼んでる』とか歌ってる場合じゃないでしょうに……)

そんなところは昔と変わらないね、なっち。
ちょっと笑いながらイスから立ち上がり、なっちを迎える準備をする。
扉の前で足音が止まった。
……いよいよだ。いよいよなっちと再会するときが来る。
ドアノブに手をかける音が聞こえる。
心臓の鼓動がよりいっそう早くなったのが分かった。

なっち、わたしを見てどんな顔するかな?


199 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時47分55秒






……


…………


あれ? 入ってこない。
何やってるのよ〜、なっち。

(しょうがないなあ。わたしの方から声かけようか)


「おかえり、なっち」


200 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時48分33秒


ちょっとの間があって、ゆっくりゆっくりと楽屋の扉が開けられる。
そこにはなっちのいつも通りの笑顔……のはずだった。
でも違った。
何かに堪えたような精一杯無理して作った笑顔。
右手を中途半端な位置で止めて、小刻みに動かして、必死に何かを言おうとしている。

(そんな顔しないでよ、なっち。わたしだっていっぱいいっぱいなんだから。)

久しぶりの再会……

思わぬかたちでの再会……

覚悟を決めるための再会……

クールでいようとするわたしは今ここにはいない。

なっちは震える声でなんとか言葉を口にした。

201 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時49分16秒



「ただいま、明日香……そして、おかえり。福ちゃん…」


そう言って、ゆっくり近付いてきて抱きしめられた。
3年振りに感じるなっちの温もり。

あの頃はわたしの方が小さかったけど、今ではわたしの方が少し大きくなってて、でもやっぱりなっちはなっちのままで…

なっちの温もりは昔と変わらずわたしを包んでくれて…

自分でももう何を考えてるのか分らなくなった……

……わけもわからなく涙がこぼれて、何も言えなかった。
なっちをぎゅっと抱きしめ返すことしかできなかった。

お互いの顔が見えなくて良かったと思う。
もう目を開けていられなかったし。
わたしは素直に目を閉じた。
きっとなっちもそうしているはず……

202 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時50分05秒

「久しぶりだね、明日香…」

「うん…」

「元気にしてた?明日香…」

「うん…」

「背、伸びた?」

「うん…」

わたしは「うん」しか言えない。
耳もとで聞こえるなっちの優しい声に、それしか答えられない。
声がつまって言葉が出てこなかった……


203 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時50分40秒
なっちはわたしに聞いてくる。
昔の様に、親しみを込めて…

「ねえねえ福ちゃん。今日のなっちどうだった?」

「…すごい良かった…伝わってきた……なっち上手くなったね…」

本当に良かった。わたしの心に伝わってきた。
わたしがモーニング娘。という中では得られないと思っていた『歌』の世界。
でもなっちは3年間で着実にモノにしてたんだ。
あんな歌ともいえないパートをぶつ切りにされた歌を歌いながらも、知らない間になっちは成長してたんだ。わたしが見放したその世界で。
決意を込めてなっちにそのことを伝えなくちゃ。そしてなっちに謝らなければ……

「3年間頑張ってたんだね、なっち…つらいこともいっぱいあったよね?」

「ごめんね…なっち…ひとりぼっちにさせて…」

「あのときわたしが逃げなければ……」

わたしはぽつぽつと語る。

204 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時51分57秒
「いいんだ、明日香。今のなっちは充分満足してるの。
つらいことなんて、今日こうやって時間を取り戻せたことに比べれば小さなことだよ…」

「取り戻せた?」

「うん。歌手安倍なつみを取り戻せた。
みんなの夢を、モーニング娘。の目標を取り戻せた。
そして、明日香といっしょにこうしている時間を取り戻せた…」

(『歌手安倍なつみ』『みんなの夢』『モーニング娘。の目標』…………)

205 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時52分54秒
…5年前のことを思い出す。
みんな歌手になりたくて集まったライバル。
合格したって「何かをつかめる」保証もなにもなかったオーディション。
そんな中でも、みんな必死になって合格を勝ち取ろうとしてボイスレッスンやダンスレッスンに臨んでた。
わたしはただ歌が好きなだけで応募したけど、勝ち進んでいくうちにみんなの熱意にあてられて、いつしか「勝ち残りたい」と思うようになっていた。
そして落胆した5人で見た、みっちゃんの武道館でのデビューイベント。
お客が集まらなくて大失敗に終わった横浜アリーナのわたしたちのデビューイベント。
いつかこのステージをわたしたちの力でいっぱいにしてやろうと誓ったあの日。
思えばわたしは何も誓いを果たせなかった……
それに比べてなっちは……なっちは……全部誓いを守ったんだ。
わたしが辞めたあとの3年間で全部つかみ取ったんだ。
わたしも逃げなければなっちといっしょにつかみ取っていたかもしれなかったんだ。
206 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時53分46秒

「…ねえ、なっち」

「ん?」

「わたしも3年間で失ったもの取り戻せるかな?
いっぱい、いっぱい失くしたものが多すぎたよ、わたし…」

「…大丈夫だよ、明日香。だってもう今日半分取り戻したんだよ」

「えっ?」

「昔二人で一人前とか言われてたんだから、明日香は今日なっちのこと取り戻したから半分取り戻したでしょ?」

「なんかよくわかんないよ、その例え」

ホントはなっちの言いたいことはなんとなく分かった。
なっちとわたしは足りないところをお互いに補完しあって存在してた。
二人一緒だったからあそこまで出来たんだ。
でも、ちょっと照れくさかった…
207 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時54分46秒

「でも…うん、そうだね。頑張ってあと半分取り戻すよ。フクダアスカの部分を。
じゃないとなっちも一人前になれないもんね」

「なにおー! なっちはもうどっからどう見ても一人前の大人ですぅー」

「よく言うよ。『アイスが呼んでる〜』とか歌ってたくせに」

こうしてじゃれあって会話ができる時間が取り戻せたことがうれしい。
素直に心から笑えたのなんて久しぶりな気がする。
閉じていたわたしの心、沈んでいた気持ち…安らいでいくのがわかる。

208 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時55分39秒

なっちは、優しくわたしの耳もとで囁いた。


「…福ちゃん、頑張ってね。
つらいことがあったら言っていいんだよ…
なっちが守ってあげるから…
今度は絶対に守ってあげるから…」

「……うん。ありがと…なっち」

うん。これからは意地を張らずに、素直になっちに甘えるよ。
『お姉ちゃん』らしくなったなっちに。
だから、わたしがなっちの横に立てるようになるまでしっかり見守ってて。
もう一回なっちの横に立つのにふさわしくなれるように頑張るから見守ってて。
わたしがもう一度『歌』を歌えるようになるその日まで。
そしたら、二人で一緒にまた歌お。
いつになるか分らないけど、絶対一緒に歌おうね。
209 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時56分31秒

言葉にできなかったけど、きっと決意は伝わったはず。

3年振りのわたしの決心。
すべてを振り切ったわたしの決心。
カッコ悪いって言われたって、みじめだって言われたっていい。
わたしは『歌』の世界に戻る。
好きで好きでたまらない『歌』の世界に。


……そして、彼女の待つ世界に…………





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210 名前:回帰(改訂) 投稿日:2002年08月04日(日)00時57分59秒


211 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)00時58分42秒
「ねえ、なっち。今日はこの後時間あるの?」
「うーんとね…、明日札幌でコンサートやるから朝イチの飛行機に乗ることになってるけど、今日はもう何もないよ」
「えっ! 当日入りなの?」
「…うん。今日のライブもあったし、他にもラジオとか録ってるメンバーもいるから」
「…今日は家に帰るの?」
「ううん。今日はこの近くのホテルにみんな泊まることになってるよ。羽田からも近いし」
「じゃあさ、ちょっと時間とかとれない? 話したいこととかいっぱいあるし、どこかで食事でも…」
無理をかけそうだから、遠慮がちに聞いてみた。
でも、なっちの顔がぱあっと明るくなる。
「うん。行こ。行こ。どこ行こっか?」
楽しそうにわたしの手をとってきた。
212 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)00時59分17秒

帰り際にきくちさんに二人して御挨拶。
「きくちさん、わたしまた歌おうと思います。
『歌う』ってことがなんなのか、今日改めて分かったから……
わたし見事にきくちさんの餌に釣られました。
完璧にやられました。
今日は和田さん、来てないんですか?
どうせ和田さんたちと考えたんですよね?」
きくちさんは返事をせず、ただニヤッて笑う。

なっちはそのことを理解しているのかしていないのか
「いつかまた二人で番組に呼んでくださいね」
なんて話してる。

213 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)01時00分10秒
なっちがマネージャーさんたちに事情を話してからフジテレビの外に出るともう外は真っ暗で、お台場の街の明かりがきれいに浮かび上がっている。
しばらく街の景色を見ていたなっち。
「そうだ!明日香! あの場所行ってみようよ」
なっちの言葉にピーンときた。
「うん、行こう。行ってみよう! カップルだらけかもしれないけど」
「いいの。わたしたちもカップル装っていけばいいっしょ?」
そう言ってわたしの腕に手を回してくる。
あのー…安倍さん…わたしたちじゃカップルに見えないと思うんですけど…
心の中で冷静につっこむわたし…

214 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)01時01分50秒
人通りの多いメディアージュやジョイポリスのあたりを人目を避けながらしばらく歩いていくと、レインボーブリッジや東京タワーが見えてくる。
突然なっちがわたしの腕から離れて走り出した。
ある場所に立ち止まるとわたしの方を振り返って笑顔で叫んだ。

「ねえー、福ちゃん!! 覚えてる? この場所だよねー?」

わたしも笑い返して、
「そう。そこだよ、そこー!!」
と叫び返す。

忘れもしない、チェックのミニスカートを履かされてぶっとい足をさらけだして、北風が吹きすさぶなか長時間立たされ続けたその場所は……そう、間違いなくモーニングコーヒーのPVを撮った場所だ。

215 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)01時03分09秒

なっちの横に立ちわたしもぐるーっと見回す。
もうすぐ5月とはいえ、やっぱりこの場所は肌寒い。
なっちの手がわたしの手を求めて近付いてくる。
わたしはなっちの手をそっと握り返す。

ここからの再スタート、悪くないね。
ここから再スタートしたこと絶対忘れないからね。


なっちと二人で今日ここに立ったこと絶対に忘れないからね。






                        〜 おしまい 〜
216 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)01時05分32秒







参考資料 「FACTORY #0088」02.04.19
     「FACTORY #0093」02.06.08
     「市井紗耶香with中澤裕子 FOLK DAYS」01.12.10
     「LOVE LOVEあいしてる」98.09.12放送
     「LOVE LOVEあいしてる賀正SP」99.01.03放送
     「平家みちよのSOUND PLANET」02.06.21放送
     「GIRL POP FACTORY BBS」
     「加藤いづみOfficial Homepage」
     「Steve Eto's web-page」
     「映像ザ・モーニング娘。ベスト10」
     その他のモーニング娘。の楽曲、出演番組等は割愛します。


217 名前:回帰(改訂)・エピローグ 投稿日:2002年08月04日(日)01時14分08秒

あとがきにかえて

回帰(改訂)を書いているときに、今回の脱退劇が重なってしまいまして…
やっぱり増員劇・脱退劇は何回見ても気持ちのいいもには決してなり得ません。
しかし、最初の3人追加の衝撃や福田脱退の衝撃に比べれば、
自分の気持ちに「慣れ」が出てるのもまた事実です。
ショックという意味では飯田と矢口からタンポポをとり上げた方が
よほどショックなのです。この二人がタンポポを辞めるときは
娘。も辞めるときだと信じて疑いませんでしたから。

8月1日放送のエアモニ。の安倍の泣き枯らした声。
同日放送のANNの矢口の涙を必死にこらえてしゃべる様子。
記憶に焼き付いてしまって忘れることができません。
218 名前:池田屋 投稿日:2002年08月04日(日)01時15分44秒
モーニング娘。から脱退する保田・後藤。
ユニットとして終了するタンポポ・プッチモニ。
ハロプロからすら脱退する平家。
3年から5年に渡るあなたたちの活動はしっかり記憶に刻まれました。
何があってもそれは変わることのない事実です。

特に……カオリ・矢口が「タンポポ」というユニットにかけた思い。
彩っぺが抜けても頑なに守り通した「タンポポ」にかけた熱意。
……歌が好きで好きでしょうがなかったあの子と同様に、その『思い』を決して忘れません。

内容とは関係ないけど、こんなときだからこそ、
マジヲタだからマジヲタなことを書いて終わりたいと思います。

読んでくださった方、ありがとうございました。
219 名前:名無し読者 投稿日:2002年08月18日(日)22時20分16秒
一マジヲタとして、心から感動いたしました。池田屋さん、ありがとう
ございました。また、「彼女たち」の作品を書いて下さることを期待して
います。 
220 名前:池田屋 投稿日:2002年09月10日(火)01時06分42秒
>219
遅くなりましたが、ありがとうございます。
期待されてる「彼女たち」ではないかもしれませんが、
『さみしい日』『回帰(改訂)』に繋がるハロプロ改編妄想小説を
書き始めました。

今日のアップ分で時系列的に『回帰(改訂)』に追いついたので
数少ない読者とROMの方に紹介させていただきます、、、
ttp://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1030152015/l50

ここが残れば、番外編を書いてみようかなあと、、、
221 名前:池田屋 投稿日:2002年09月19日(木)02時34分37秒
重複スレで移動されてしまいました、、、
こちらになります。

ttp://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1032148645/
222 名前:名無し読者 投稿日:2002年11月07日(木)22時42分42秒
名作ですな。

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