11 女に幸あれ
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:56
- 11 女に幸あれ
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:56
- 芸能界を引退してもう何年にもなる。
一般人としての普通の生活。楽しい大学での日々。
素晴らしい出会いがあり彼氏が出来て結婚もした。というか子供まで出来た。
このまま主婦として平凡に生きるのも悪くないだろう。
だけどもう一度芸能人として花を咲かせたい。
そう幸は思った。
電話を受けた美記は幸の話を黙って聞いた。
結婚した事は知っていたし子供が生まれたのも聞いていた。
だけど芸能界復帰を目指してAKBのオーディションまで
受けていたとは知らなかった。
というか正直な話、幸の事はほとんど知らなかった。
たまたま一時期一緒に芸能人フットサルをしていただけだ。
もちろんその立場上、他のメンバーよりも仲は良かった。
だけど所詮は他人。オーディションを受けた事すら
教えてくれない関係に過ぎない。
「結果はどうだったの?そのオーディションの」
少しの間があって、駄目だった。最終選考までは残ったけど。と
幸は残念そうな声で答えた。美記は心の中でざまあと笑った。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:56
- 芸能人フットサルというジャンルの中の特殊な存在。
それが美記と幸の立場だった。
リードを許した時にコートに上がり逆転すればベンチに戻る。
出来るだけ他のメンバーに得点させ試合を盛り上げる。
派手なプレイはしない。全力は出さない。
終盤まで均衡を保つために働く助っ人であり
決して主役になってはいけないのだ。
その役割を的確にこなせたのは美記だった。
フットサルに関しては他の選手と美記とは
大人と子供くらいの差があったのでいくらでも調整出来た。
幸は比較的容姿が良くフットサルも他のメンバーより上手かったが
残念ながらどちらも中途半端だった。
試合にもあまり出れず、かと言ってハロプロエッグとして
活動させて貰える訳でもないし、その上地方の高校生という立場上
あまり練習にも参加出来ないという状況だった。
結局、幸は考えた末に事務所を辞めてしまった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:57
- 辞めた事を今になって後悔している。
一度掴んだチャンスを手放してまた掴めるほど
芸能界は甘くはないのだ。
それはわかってる。だけどそれでも芸能界に戻りたかった。
芸能人フットサルはもう下火になってるのは知っているし
ハロプロ自体がもう末期なのも理解している。
それでも芸能界に戻ってみたかった。
もしあの時、辞めずに頑張っていたら音楽ガッタスに入って
ステージで歌っていたかも知れないのだ。
美記でも務まってるのだから自分にでも出来たはずだ。
というか人気なら自分のほうが絶対上のはずだ。今でも。
幸はそれはもちろん言わなかったが美記に頭を下げてお願いした。
私がハロプロに戻りたがってる事を事務所に言ってくれないかと。
美記は二つ返事でいいよと答えた。
非処女確定の人妻がAKBのオーデに落ちて困ったあげく
事務所に戻りたいって言ってますけどどうします?無理ですよね?
美記は頭の中でシミュレーションした。
おもろいやんそれロックやで。頭の中でつんくの声が聞こえてきた。
懐の深い良い事務所だなと改めて思った。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:57
- 待ち合わせの駅で見た幸は思ったよりも子供ぽかった。
いやその表現は間違いかも知れない。
生活感が無いという感じだろうか。
着ている服も良さそうだし髪の毛も整っているしネイルも綺麗だ。
旦那の稼ぎが良いだろうか。
幸に子供は?と聞くと実家に預けてきたと答えた。
もうそんなに大きくなっているのかと美記は驚いた。
よく見る居酒屋チェーンに入って席に座るとお飲み物は?と
店員が勢いよく聞いてきた。
元々東京は芸能人慣れしていて芸能人を見ても平静を装うが
この店員はどうも平静過ぎる。
どうもふたりを知らないし芸能人と元芸能人には見えないようだ。
幸は熱心にメニューを見ている。その顔を母親の顔ではなかった。
美人では無いが芸能人の最低水準には達しているように思えた。
「美記は何にするの?」
「ん…幸と同じでいいよ」
「じゃあ梅サワー2つで」
「私も梅サワー2つお願いします」
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:57
- 店員が離れても幸はメニューを見続けていた。
美記は窓に映る自分の顔をぼんやりと見た。
自分がアイドルという肩書で活動している事にまだ慣れない。
世の中にはもっとかわいい子が居る。たとえば目の前に居る幸。
この子がアイドルになれなくて自分が現役アイドルなんて
人生とは不思議なものだ。
「辻さんのブログ見てる?」
不意の幸の問いかけに美記が辻ちゃん?時々見てるよ。と答えると
幸は美記との絶望的な差を改めて感じた。
美記は今や辻さんを辻ちゃんと呼べる立場なのだ。
状況が次第ではまた辻さんとフットサルを出来るし
一緒に歌って踊る事もあるのだ。
それから2杯の梅サワーを飲み干すまでそれほど時間はかからなかった。
店を出る頃には幸はもうまっすぐ歩けないほどになっていた。
美記の肩を借りてなんとか駅まで歩いた。
「大丈夫?帰れる?」美記の心配する声には答えないで幸は
もし美記が居なかったらどうなってたかなと呟いた。
美記は私が居なかったら居酒屋でまだ寝てるよと言ったが
幸の耳には届いていなかった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:58
- もしかするとハロプロを辞めていなかったかも知れない。
試合に出れるのならフットサルを止めなかったはずだ。
どうしてあの時頑張れなかったのだろう。
でも今更そんなのは後悔しても仕方のない事だ。
今出来る事を今やるしかないのだ。
じゃあ今、美記が居なくなったらどうだろうか。
私をガッタスのみんなは迎い入れてくれるだろうか。
美記よりも沢山パートを貰えるだろうか。
「ねえ、ちょっと幸大丈夫なの?顔青いよ」
「らいじょうぶれすよ」
「え?」
幸は顔をあげて驚いた。辻さんが居たのだ。
「つ…辻さん」
「今は辻さんじゃないれす」
そう言って希美は微笑んだ。
「で、是ちゃん何してんの?」
「ちょっと友達と飲んでました」
「ええー呼んでくれたらのん行くのに」
「あ、じゃあまた今度にでも誘います。辻ちゃんは?」
「ちょっとみんなでお出かけしてたの。あ、ごめん。
のあちゃんがグズってるから。じゃあ是ちゃん」
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:58
- 大きく手を振って去っていく希美を見て幸は
やっぱり辻さんはかわいいなあと思ったが気のせいか
自分の存在に気付いてないというか覚えてないような気がした。
そんなはずはない。あんなに一緒にフットサルをしたんだから。
でも辻さんだしなあ。と駅の階段を登りながら幸は考えたが
答えが出ないので美記に聞いてみた。
「ねえ美記。もしかして」
「うん。辻ちゃんが覚えてるはずないと思うよ」
「え、でも美記ちゃんの事は覚えてるのに?」
「だってこの前のコンサでも一緒だったし」
その瞬間、幸の中で何かが切れた。
電車が来るまで美記は喋り続けた。
辻ちゃんはあんまり賢くないけど良い子だし幸を
無視した訳じゃなくて覚えてないだけ…じゃなかった。
えっとほら結構人見知りするし辻ちゃんって。
私も長い間一緒に…いや幸より詳しいなんて事を言いたいわけじゃなくて。
不機嫌そうな顔で幸は黙って聞いていた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:58
- 電車が来るアナウンスが聞こえる。
「事務所にはちゃんと復帰したいって言っておくからね。
幸ならきっと上手くいくから」
幸はほんの少しだけ唇の端をゆがめた。
「ちゃんといってね」
「うん。私も出来るだけ応援するから。頑張って」
美記はそう言って幸の背中を押したつもりだったが
押されたのは美記だった。不意に押されバランスを崩して
線路に落ちた途端に滑り込んできた電車に美記は跳ね飛ばされた。
目を開けると幸はベッドの上だった。
起き上がろうとすると頭が酷く痛んだ。
「ふっかつよい。じゃない二日酔いか」
辺りを見渡すと旦那はもう出勤した後だった。
悪い夢を見たな。ハロプロに復帰したいだなんて。
幸は娘の寝顔を見ながらボルビックを飲んだ。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:59
- お
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:59
- わり
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/30(土) 23:59
- 。。。
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