7 EXP

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 22:52
7 EXP
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 22:53
デビュー直後のコンサートで、昼公演が終わり舞台裏でスタッフから渡された
紙コップに入った水をあおるように飲み干した後、メンバーは口々にこう言った。

「あー! 生き返る!」

光井の場合はまだ加入したばかりで体力が追いついていないこともあり、
言葉にならない大きな溜め息が漏れただけだった。
息と一緒に、微かな余力さえも漏れたような気がしていた。
コップを持って立ち尽くしたままでいると、スタッフに急げと言われるので、
気力を振り絞って楽屋まで早足で戻る。
昼の場合は夜公演が、夜の場合は会場から撤収する時間が迫っていたからだ。
一秒も無駄に出来ない。

そんなことが数回続くと流石に慣れてきて、自分も自然と同じ言葉が
出るようになった。
生きているけど「生き返る」ような気持ちを持ちながら。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 22:55
それで思った。これは単純に水分を補給したから生まれる言葉じゃない。
全身全霊フルに使って、有り得ないほどの汗をじゃんじゃん流して、
くったくたになりながら裏へ戻ると、すでに「次」が待っている。
「次」までの数時間の間にシャワーで汗を流す。化粧も直して、衣装は
乾かしてもらって、食事もして、人によっては栄養ドリンクなんかも飲んで、
出来が悪かったらスタッフからの説教も入るし、反省会もするし、痛む腰を
マッサージしてもらったり、テーピングしたり、たまに入る舞台裏カメラに
愛想振りまいたり。
そうしてまた開演の時間が来て舞台に上がる頃には、
前の公演は「無かったこと」のように、完全体「モーニング娘。」の一員
として、スポットライトを浴びることになる。

「生き返る」は「次」のために必要な、気持ちのリセット。
自分を律するための言葉なのだ。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 22:58
「次」までにちょいとパワーセーブ、なんてことは絶対にしちゃいけない。
手抜きはすぐにバレる。
それで某メンバーはよくスタッフに怒られている。
だから自分は真似しちゃいけないと思う。
全力で行くってことは「終わってぶっ倒れる位まで」と光井は思っている。
失神くらいまで。
例え気絶しても、次の公演までに復活して、本番がカンペキであればそれで
オール・オーケー。
だと思っていた。

実際は気絶どころじゃなく、腹痛で舞台上に立てなくなった。
昨日から右っ腹がなんか痛いなーと思っていたが、よりによって公演中に
激痛に変わった。飛んだり跳ねたりしていたことが、実は痛みに耐えて
暴れている様だったと気付いた観客はどれだけ居ただろう。叫ぶように
歌っていたのが、本当の悲鳴混じりだったことに気付いた人は居ただろうか?

これは後に急性虫垂炎だと判明したが、舞台を降りた直後に倒れて、
通路の床でのた打ち回っている間、死ぬ死ぬ死ぬああああ、頭の中が絶望で
一杯になった。
腹を押さえながらごめんなさいごめんなさいもう許して、と懇願した。
出尽くしたと思っていたはずの汗が、じわじわ嫌な感じに噴き出てくる。
ほとんどぎゅっと目を瞑ったままで、自分がどうやって病院に担ぎ込まれた
のか憶えていない。

入院中はひたすらメソメソして、面会に来た関係者には平謝り。
家族には当り散らして。
一人の時は苛立って、何度か面会者用の椅子に蹴りを入れた。
でもある時、気が付いた。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 23:01
終演まで「耐えられた」ことに。
短い人生の中で苦痛のMAXをあのステージ上で経験して、
それを自分はクリアできたのだ。
数公演休んでしまったことより、途中退場しなかったことの方に
軍配が上がった。

自信が付いた! これは大発見だった。小泉さんも感動した!

精神的に強くなった気がした。
運も良くなってきた。別ユニットへの選抜、ソロ曲も与えられた。
周りから注意されるより、褒められることの方が多くなった気がする。
でもやっぱりたまに口が悪い。これはゆっくり治すつもり。
なんかヒールの高い靴だと爪先が痛いな、と思い始めたけど、
虫垂炎に比べると何でもなかったので耐えられた。
そんなある日、レッスン中にメンバーの誰かとぶつかって足を少し踏まれた。
尋常でない悲鳴をあげてしまったので、爪先のことは仕方なく正直に
スタッフに話した。
でもまた病院に行くのはゴメンだったので、靴の踵さえ高くなければ平気だ
と訴えて仕事は続けた。
だって虫垂炎に比べたら軽いもんだったのだ。
自分の痛みに気付かない鈍感な人だったのだ。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 23:03
「いやネタ挟まなくていいから、そこにね」
「でもほんまのことやったんですよぉ」

手術で足が良くなることがわかって光井は上機嫌だった。
こないだまで病院が怖い、行きたくないって泣いてたのが嘘みたい。
だからかベラベラとよく喋る喋る。移動中は寝かせて欲しいって
あれだけ言ったのに。
まあでも光井が成長してるのは認めるよ。グイグイきてるよね。
愛ちゃんも言ってた。

「今回も千秋楽まで耐えられたし、愛佳またレベルアップ出来る気が
 するんですよ」
「そりゃいいことだ。期待してるよ」
「新垣さんと並ぶ位まで……や、追い抜いちゃうかもしれへん、くふふ」
「おうおう、頼もしいねぇ!」

だけどこれ挑発のつもり? 人の顎触んないでくれる。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 23:04
「やめなさい」
「なんか、怪我で成長できるんやったら何度来ても構へんな」
「やめな」
「冗談ですって」

まあね、とにかく早く良くなって欲しいよね。

ところでライブの後の水だけど、うん、あれは大事。とても大事。
みんな光井が想像してる程深くは考えてないだろうけど、
近い気持ちは持ってると思う。
私もじっくり考えてみたけど……ん〜、難しいね。
今度カメにも聞いてみようか。

考え事してても光井の喋りはまだ続いてて、適当に相槌打ってたんだけど、
いつか急性ご臨終とかになっても、見事復活してみせたる、とか言っていた。
……うん、無理!
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 23:04

9 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 23:05

10 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 23:05


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