4 イミテーションリバイバル
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:35
- 4 イミテーションリバイバル
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:37
- 後藤真希はパジャマでテレ東を見ていた。
日曜日の11時30分になると、なんとなくテレビをつけてしまう。
そこには、たった二人の男が軽妙に喋りながら
料理を作る姿が映っている。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:38
- 毎週、この時間になるとテレビをつけて、 とっくに思春期を終えた男性二人の料理を作る姿を眺めていた。 見るでもなく、聞くでもなく、ただただ眺めていた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:41
- 土曜日の夜は一人で渋谷のクラブに行く。
薄いスリーブの上に黒いファージャケットだけを重ねて、
地下へと続くコンクリートの階段を下りてゆく。
入り口の前に立つスタッフに軽く会釈をしてドアを開けてもらう。
地上の喧噪と湿った空気が、重低音と空調のきいたフロアに飲み込まれる。
後藤真希はあえてフロアの人集りの中を
突き抜けて、バーの前へとゆっくり向かう。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:43
- 通り過ぎる客たちから小さく歓声が上がる。
サングラスから見える男と女。
黒がかった世界の住人に大差は見えない。
皆が一様に奇異の視線を自分に寄せる。
特別なのは自分だけ。
絡みつく欲望と身体を震わすキックの音が何かを壊してゆく。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:44
- カウンターでジンリッキーを飲みながらフロアの狂騒を眺める。
つまらないDJの垂れ流す音楽と
下品なレーザーに照らされてトリップしている人々は、
ミミズが鉄板の上で跳ねているようで不気味だった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:47
- いつものように間抜け面した男が後藤真希に話しかける。
大体が、周りの人間に遊び感覚で急かされたピエロ。もしくは本当のバカ。
それを合図に、バーにいるクラブのスタッフに
ジャケットとサングラスを預けてフロアへと悠々歩み寄る。
後藤真希の周囲に半径1メートル半ほどの空間が出来る。
さっきまで、粗末な香水臭い汗を流し虚ろな目をして
体の一部が欠けたようなぎこちないダンスをしていた人々が、
異様な雰囲気を感じ取り、動きを止めて彼女を見る。
本編が始まる前の予告を見守る映画館の客のように、
これから起こる光景を頭の中で膨らませていた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:48
- 後藤真希は四つ打ちのキックに合わせて静かにステップを踏む。
フロアに響き渡るハウスからそこだけ隔離されたような、
荘厳な儀式の始まりを告げる尊さが秘められている。
身体が不細工な音に慣れてきたころ、足の先から徐々に熱を高めていった。
脚が加速する、腰が反応する、胸が跳ねる、頭が回る。
本能が下半身から洪水のように飛び出そうとしている。
無機質なコンクリートに囲まれたフロアの中心で、生命が爆発していた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:50
- 無邪気な台風のように周りの人間の意識を刈り取ってゆく。
オーディエンスは音楽でも光でも酒でもなく、後藤真希に酔った。
後藤真希は恍惚の表情を浮かべながらそれすらも自分の一部として踊った。
全てを破壊して飲み込むように踊った。野生に帰るように踊った。
ただただそんな自分を遠くから眺めていたかった。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:52
- 誰かの退屈でも憂鬱でも嫉妬でもなんでもいいから、
心に詰め込んで隙間を埋め尽くして忘れたかった。
空っぽな入れ物に足りないものに気付きたくなかった。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:55
- 事務所を移籍してからはそんな日々を過ごしていた。
場所を変えて失いかけたものが蘇るはずだった。
実際は違った。何かが済崩し的に消えてゆくのがわかっていた。
それにより今まで気付かなかったものに気付く毎日だった。
だけどそれを止める術はわからなかった。
怖くて仕方なかった。これも初めて知る感覚だった。
だから自分から壊した。
他人を壊した。自分を自分で壊した。
ホストクラブでひたすら金を使って酒を飲んで男と遊んだ。
服だっていくらでも買った。家族にもなんでも買った。
友人にも色々あげた。ペットにも高級なエサをあげた。
そして最後に、一人だと知った。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:57
- 後藤真希は日曜日になるとテレビをつける。
普段はテレビを見ないで、酒を飲みながら誰かと朝まで遊ぶ。
日曜日の11時30分になると自然に目が覚めて、
寝癖も服装も気にせずにソファーへ凭れ込み、
猫を膝の上に乗せてテレビをつける。
自分以外の誰かがコントロールしているかのように
整理された動きで、必ずテレビをつける。
見たくもないし、聞きたくもない。
だけどテレビをつけて、ただただ眺めている。
だから土曜日の夜は踊る。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:59
- 土曜日の夜に後藤真希は生まれる。
日曜日の昼間に後藤真希は死ぬ。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:59
- ダンス
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/28(木) 23:59
- ダンス
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/29(金) 00:00
- ダンス
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