1 君が世界とチューするとき
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:04
- 1 君が世界とチューするとき
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:06
- 昨日、ベッドの中で毎日が続く理由を考えていた。
なんで毎日毎日毎日は終わることもなく続いてゆくんだろう。眠れなかったから地球の寿命についてネットで調べてみた。どうやら太陽が膨張して地球を飲み込んでしまうらしい(別の説もあるらしい)。でもそんなことになる前に絵里自身が死んじゃうんだろう。なんだかどっちも現実味がない話。どっちも不正解だと思う。毎日が──昨日、嫌で嫌でしょうがない仕事をした。今日が不安。将来に怯えてる。そんな毎日が──終わる。地球が爆発する瞬間を想像した。ぼぅぉっかーん! 笑えた。眠れた。今日になった。そして目を開けたら、目の前に、目に入れても痛くないカワイイ女の子が寝ていた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:07
- 絵里こと絵里は国民的アイドルグループ(仮)の超絶人気メンバー(仮×2)で現在二十歳のスーパーじゃ言い足りない美少女。そんなうら若き乙女(仮×3!)のベッドに見知らぬ女の子がひょっこり入り込んでいる。セコムはなにをしているんだ、長嶋茂雄は元気だろうか。ちなみに絵里のウチはセコムなんか入ってない。
絵里はとりあえず絵里の隣ですやすや眠る女の子のカワイイ鼻をつまんでみた。女の子は、んがっぐっぐと息を詰まらせてつぶらな瞳をぱちくりさせた。んぎゃー!開いた目もカワイイカワイイ超カワイイ! 絵里はカワイイ女の子が大好き。だけど絵里よりカワイイ女の子は大嫌い。まあ絵里よりカワイイ女の子なんてこの世に存在しないんだけどー。でもでも悔しいけどお前に夢中。絵里には劣るけどだいぶカワイイ、いやマジありえないんだけど同等?っていうか、健康的な浅黒い肌、滑らかな艶髪、黒目がちな瞳、悪戯な八重歯、この小生意気な可愛さが爆発した女の子はこの世界にたった一人しかいない、そう亀井絵里ちゃんだ! なぜなんで絵里!? これって鏡!? ううん、絵里は姿見と添い寝するさゆみたいな歪んだ変態さんじゃない! 絵里はもっと正々堂々変態だ!
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:08
- 気だるそうにまぶたを擦っている絵里に向かって絵里は言う(混乱してしまわぬように説明すると【誰に?】、前者の絵里が絵里の隣で眠る亀井絵里であって、後者の絵里こそが絶対無敵絵里である)。
「あなた誰!?」目の前にいる女の子が不純物ゼロの絵里だってことは絵里自身が一番わかっている。それでも絵里は聞かずにはいられない。だってそうでしょ? 朝起きたら目の前にナンバーワンじゃなくてオンリーワンな自分がいるんだよ!
「あーん? 亀井絵里だよウッさいな」。なにこの態度? こいつ頭オカシイんじゃない? 誰に向かって口きいてんの? とりあえず鼻っ柱にグーパンチしてみた。「痛ッ! バカ死ね!」。絵里の顔した亀井絵里と名乗る女の子は鼻血を垂らしながらベッドから飛び降りると、そのままドアをガラっと開けてベランダに飛び出した。「お前なんか死んじゃえ!」。そう言って、鼻を片手で押さえながらベランダの手すりに足をかけたと思ったらピンクのパジャマに目一杯の空気を含ませて絵里の視界からストンと姿を消した。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:09
- ……ウソでしょ? マジマジ冗談だって? えーありえないでしょ!? 死んじゃったのやめてよ笑えないよニュースになっちゃうよ絵里マンションから追い出されるよつーかアイドル首じゃない? 何一つ整理のつかない頭でベランダに駆け寄り、手すりに上半身をあずけて地面を覗いた。破裂した内臓も炸裂した眼球もばらばらになった手足もなにもない。黒いアスファルトにはぶっきらぼうに白い「止まれ」のライン。これを見て亀井絵里は思い止まったのだろうか。いーや奴はそんなタマじゃない。わずか一分程度しか会話をしていないけど、絵里には亀井絵里の全てが手に取るようにわかる。なぜならアイツは絵里であって絵里ではない存在だからだ。つか、便宜上亀井絵里って呼んでるけど、絵里こそが亀井絵里でありえりりんであり超カワイイのだ。つかつーかなんだこれ!? あまりにファンタジーな朝の始まりを、素直に受け入れることが出来やしない。なにがどうなっちゃってんの? 心と体がバラバラで、足だけは何事も無かったように日常に戻ろうとして、絵里を洗面台へと運んでは顔を洗わせる。脳は少しずつ現実を受け入れようと無駄な努力をして、頭がクラクラしてきたので、あーもう面倒くさい、とりあえずレッスン行かなきゃ。今日は新曲の振り付けを覚えられない不器用なさゆのために絵里がダンスレッスンをしてあげるのだ。お気に入りのHale Bobのピンクジャージをmiumiuのバッグに詰め込んで家を飛び出す。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:11
- なにもかもを忘れるようにダッシュして大通りに出てはヘヘッヘイ!とタクシーを止めて茗荷谷のレッスン場に駆け込むとドアのガラス窓から見えるはイチャイチャしたさゆと亀井絵里でござーい。ヤツラ胡坐かいて大ハシャギ! テメエやっぱりか! 絵里はドアをガラッと開けるとそのままの勢いで亀井絵里の頭頂部めがけて低空ドロップキック。亀井絵里はフローリングを3回転ぐらいしながら「いたああああい!」と悲鳴をあげた。さゆと同じLIZ LISAのジャージを着た亀井絵里を許すことは出来なかった。無事に二十歳を迎えた絵里はLIZ LISAを卒業していたのだ。それは絵里なりの矜持であったが、隣でポッキー食っていたさゆには何等関係ないことだ。目と口を大きく開いて唇の右端から涎を垂らしていることにも気付いていないさゆは、絵里と亀井絵里二人の顔を勢いよく交互に見ては、右からだけでなく左からも涎を垂らしていた。
「ほんとマジありえないんだけど! なんなの! バカじゃないの! あんたの親どういう教育してんの!」。亀井絵里はまたも鼻血を垂らしながら立ち上がり、絵里に向かって罵声を吐く。「お母さんの悪口は言うな!」。絵里はその距離を瞬時に縮めて右ボディを亀井絵里の横っ腹に沈めた。流れを止めることなく空いた左手で下がった顎へと掌底を打つ。「がふん!」という声を出して亀井絵里は深い眠りについた。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:11
- 一部始終を見ていたさゆが一言目に呟いたのは「絵里、おはよ」だった。
さゆは誰よりも聡明な女の子だ。この言葉を呟くまでの時間を一切無かったことにして、今この瞬間からを今日の始まりとした。目の前には絵里と全く同じ顔をした亀井絵里が口から泡吹きながら寝ているというのに。
それから絵里も胡坐をかいて、ガキさんが最近やたら説教臭くなったとか小春がマジ生意気でまいるだとかジュンジュンってけっこう脅威じゃない?なんて話をした。亀井絵里なんてこの際どうでもいい。毎日、絵里たちの前ではもっと難儀なことが起こっている。理不尽の山で目の前は覆い隠されている。仲間だったメンバーはパッと突然消えて、好きな男の子とチューすることも許されないし(愛ってなにかね!)、どんなに頑張ろうが絵里たちの努力とは関係ないところでランクは付けられてゆく。気付けば絵里の知らない亀井絵里が到る所にいる。この世界はいつだってハードでナンセンスだ。サバイバルしなければならない。誰と? 何と? 何を? わからない。一体全体、誰と何をめぐって闘ってるんだろう。どこまで螺旋階段を上り続けなければいけないんだろう。ていうか上ってるのか下ってるのか現状維持なのかもわからない。きっと雲の上の人が肩を叩いてくれるまで絵里たちは何も知らない振りして笑い続けなければならない。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:12
- だって笑わなきゃやってらんないっしょホント。こんなにもくだらないジョークみたいな世界で笑うことだけが絵里たちに残された反逆のカード。心と体が麻痺するくらい笑って笑って笑い狂って、お偉いさんもファンもメンバーもみんなみーんなバカの振りしてバカにしてやんだ。だけどさゆだけは違う。さゆだけは絵里の友達、パートナー、バディ、二つに分かれたもう一人の自分。絵里のドッペルゲンガーがいるとすれば亀井絵里なんかじゃない、さゆだ、さゆだけが絵里の希望だ。さゆの笑顔を見るために何年も頑張って働いているし、さゆのツッコミを待つために寂しい夜も一人で耐えて、さゆの地球が割れちゃうような天然ボケに触れるためだけに秒針を旅する。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:13
- さゆが絵里の本当の親友になったのは2年前の冬だ。絵里とさゆは確かにそれ以前から、誰よりも仲良かったし誰よりも自分たちを分かり合えていたし、信じあえていた。もしかしたら絵里の命をなげうってでもさゆを助けられる間柄だったかもしれない。その可能性が100%を越えたのが2年前の冬。
絵里は彼氏に振られて(文句あんの?)、日々の何も変わらない景色にも見飽きて、いい加減世の中にバッハハーイしちゃってもいいかなぁなんて思い始めていた頃だった。そのぐらい月は孤独で夜は静寂と肩を寄せて冬の名前は切なさで出来ていた──なんてポエムも詠みたくなるほどセンチメンタル南向きなとき。さゆは絵里の家のインターホンを鳴らして、暗闇をブラックホールへ弾き飛ばしてくれた。玄関のドアを開けたら裸にリボンを巻いたさゆが両方の穴から凄まじい勢いで鼻水たらして泣いていた。
「冬、寒すぎ!」
今日はクリスマスだった。
ひとしきり笑った後にさゆを部屋に入れて事情を聞いた。ヤマト便の営業所に自分の体がスッポリ入るくらいの大きな段ボール箱を持ってゆき「さゆをこん中に入れて絵里の家に持って行って下さい」と裸にリボンの状態で頼んだらすぐさま警察を呼ばれて焦ったさゆもすぐさま逃走をはかり裸にリボンのまま街中を疾走して寒風に打たれ子供たちに石を投げられておばさんに白い目で見られておじさんに視姦されて命からがら絵里の家へと辿り着きHELP!とインターホン鳴らしたら絵里が腹抱えて爆笑してるからぶっ殺してやろうと思ったらしい。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:13
- 最高、こんなにクールでホットな女の子は他にはいない。
さゆなりに命を賭けた一世一代のギャグ(?)は本人の計画通りではなかったけど絵里の心をずっきゅん打ち抜いた。それ以来、絵里はなにがあってもさゆの笑顔を守ることと、全身にチョコレートを塗りたくり命をかけてバレンタインにさゆの前に現われることも辞さない覚悟であることを妹に誓った。妹は絵里の方を向くこともなく「あ、そう」と”天使なんかじゃない”を読みながらポテチを食べていた。だから絵里とさゆは親友なのだ。他の誰かじゃ足りないのだ、絵里とさゆだけが真実なのだ、いしよしなんて古いのだ、今更HANGRY & ANGRYとか正気だとは思えないのだ、後手に後手にと動き回る事務所には辟易しながらも感謝の心を忘れない絵里はスーパーガール。これからもよろしく、「事務所」! 絵里とさゆをよろしく! 絵里とさゆはニコイチ! 切っても切れない間柄! たとえ亀井絵里だってさゆの隣には座れない!──ってこともないのか!? あれ? さっき二人で楽しそうに喋ってなかった? うそーん! 絵里の代わり成立しちゃうの!? さゆの隣ってもしかして絵里じゃなくてもいいの?! むしろ小春とかジュンジュンの時代!? なに絵里の代役っていくらでもいるの? 必然性ってなに? イヤイヤイヤー! さゆウソだよね? 絵里は絵里しかいないよね? さゆの絵里は絵里だけだよね!
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:14
- 声に出して確認したいのに、脳が怯えて喉の使い方を忘れちゃったみたい。体が震える。
恐る恐るさゆの顔を見つめる。再びポッキーを食べ始めたさゆのキュートな瞳には絵里が映っている。やっぱり絵里じゃなきゃダメなんだ。ほらこんなにもキュートなさゆの瞳の額縁にはとびきりカワイイ絵里がジャスト。右目に絵里、左目に亀井絵里。ん? なんかオカシイ。どちらも絵里なんだけど絵里じゃない。右目には確かに絵里、だけど左目は……おいおいまたお前かよ。後ろを向くと亀井絵里が大きな椰子の実を両手に掲げて立っている。視線が重なり、亀井絵里はニヤリとほくそ笑んでどっから持ってきたのかわからない椰子の実を絵里の脳天にズバコーン!叩き付けた。薄れゆく意識の中で亀井絵里が小さな声で「ポッケに入ってた」と呟いたのを聞きながら、ドラえもんではなくて、ドッペルゲンガーに出会ってしまった人間がどうなるのかを想い出した。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:17
- 目を覚ますと辺りは一面真っ黒。なーんもない。あ、死んだんだと即座に理解した。
眠っていた上体を起こして前を見ると、2本の白いラインが目の前に引かれていて、車二台分ぐらいの幅の長い一本道を形作っていた。よく見ると絵里の体も、輪郭に沿ってぼやけて光る白い線に包まれていて、真っ黒な世界に人間の体をかろうじてレリーフさせていた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:18
- あーあイヤんなっちゃう、まさか二十歳にして死んじゃうとはねぇ。でもビックリするほどショックじゃないのはなんででしょ。絵里の代わりが他にもいたから? さゆの目には絵里以外のものが映っていたから? でもアイドルっぽくて素敵じゃない。時代に使い捨てられて錆び付きながら消えて行くよりは輝いたまま花火みたいに燃え尽きちゃった方がよくない? え? 負け惜しみ? 開き直り? つーか最早輝いてないって? 言うね言うね、絵里の中の絵里さんよー。……ああ寂しい。やっぱり死ぬって寂しいよ。誰かかまってよ。絵里を独りにしないでよ。さゆなにしてんの。絵里はここにいるよ。今、絵里の前にいるのは亀井絵里だよ。絵里じゃないんだよ。絵里は絵里しかいないの。どんなに顔が似ている人が出てきてもどんなに性格が似ている人が出てきてもどんなに新しい子達が出てきても曲が売れなくなってもファンの人が別のアイドルを好きになってもみんなが絵里の名前を忘れちゃってもハロプロが会社がテレビが街が空が星が宇宙が無くなっちゃっても絵里は未来永劫絵里のままなんだよ! 絵里は・絵里しか・絵里だけが・亀井絵里って言葉を超えた絵里なんだよ!!!
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:18
- 気付いたら真っ黒な道を全力疾走していた。流れる涙をできるだけ遠くに追い払うように全速力で目の前の道を駆け抜けていた。足すら置き去りにするようにただただ走って走って走った。気付くと、沿道にいつの間にか並べられていた古びた外灯にポツリポツリと青い火が燈り始める。終わりの見えない道がライトアップされると、前方には絵里の想い出が映し出された150インチくらいの四角いスクリーンが等間隔で何枚も現われた。スライドショーみたいに浮かび上がるそれを私自身が体全部で貫いてゆく。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:19
- さっきポッキーを食べていたさゆだ。あ、ジュンジュンって本当にバナナ食べてたんだ。うわースベってる、リンリンにとっておきの面白ギャグ教えておけばよかった。みっつぃーは真面目だなあ、未だに私たちに丁寧に挨拶するもんなあ、もういいのに。逆に小春には見習って欲しいよ、でも本当はいつまでだって甘えてもいいんだよ。れいなとも本当はもっと遊びにいきたかった、家に泊まりにいきたかった、カッコイイ男の子の話もっとしたかった。ガキさんは絵里のお姉ちゃんみたいだ、ずっと絵里を叱っていてよ、ポケポケプーってずっとずっと呼んでよ。愛ちゃん尊敬してるよカワイイよでもマジで面白くないよ。本当に本当に本当にさゆが好きだ。本当のことばっかり今になってわかるんだ。メンバーの想い出しか出てこないじゃん。私は私がバカだって知ってたけど、こんなにもバカだなんて死んでからわかった。涙が止まらない、死んでも涙って流れるんだ。死にたくない! やだ! 死にたくないよ! 私は立ち止まって大きな声でホント人生で一等大きな声で叫んだ。
「死にたくないッッッ!!!」
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:20
- 沈黙がどこまでも続く世界に疲れちゃって私は腰を下ろした。スライドショーもメンバーの想い出だけを残してどこかへ消えちゃった。呼吸が整わない私は体を大の字にして道に倒れこむ。死んじゃっても世界って続くんだなあ……っていうか「ここ」って本当はどこなの? 「絵里」ってなんなの? わかんないことばっかりだ。だけど、だから考えなきゃいけない。
世界と自分と向き合わなければいけない。
通り抜けてきた想い出が、日々が、毎日が私にそれを伝えている。
点と点を繋げるために、昨日と今日と明日を繋げるために──考えるんだ。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:21
- 目を瞑って、深呼吸して、想い出と自分を噛締める。「ここ」がどこであろうと、「絵里」が誰であろうと、今、私の中にある想い出は誰にも否定できない。ここに私がある限りそれは絶対にあるし、私の中にある想い出という名の物語が、私を絵里だと証明している。「亀井絵里」も「絵里」も「私」もきっとみんな一緒なんだ。絵里自身がそうであるように、亀井絵里はきっと「誰かの中にいる亀井絵里」。誰かの心にある亀井絵里が集まってこの世界を作っている。普段は別のカテゴリーに所属していても、アイドルとしての亀井絵里、プライベートの絵里、メンバーに恋するえりりん、メンバーとケンカする私、死んじゃったりする自分、また絵里を殺しちゃう亀井絵里もぜんぶ私だったんだ。そしてそんな私のすぐ横にはどんな時でもどんな場所でもメンバーがいた。そんな毎日こそが私自身を彩り築き上げていた。
次に目を覚ました瞬間、ぜんぶ夢だったらいいのにな。
そしたらみんなに、本気で、大好きだって言えるのに。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:21
- 淡い期待を込めて瞼を開けると今日の朝に戻っていた、なんてことはなくて闇ん中ING。とうぜん何も変わっちゃいない。フーと息を吐きながら体を起こすと、目の前の道には少しだけ変化が。
白いラインで「止まれ」の文字。
いやこれだいぶオカシイ。
だってこれって──さゆの文字じゃん!
こんなむず痒い癖のある文字さゆしかいないじゃん!
すぐさま立ち上がり後ろを振り返る。私が流した無数の涙たちが光の粒になって空中に留まっている。磁力に引き寄せられる砂鉄のように涙が一定の場所に集い始める。それはいつしか平行で段差のある七色に煌く足場となって上空へと伸びていた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:22
- ……いいの? 私、帰っちゃってもいいの? 絵里、戻っちゃっていいの? ……プププうふふふふうひひひひひいひょひょひょおおおおおおおい! やったぜえええ! 思いっきり暗闇を蹴飛ばして光の階段へ右足をかける、すぐさま左足を二段上の足場へと伸ばす。そもそもこれが現世に戻れる階段なのかもわからないのにとにかく2段飛ばしで上へ上へと駆け上ってゆく。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:23
- 待ってて! 今すぐ言うから! みんなに大好きだって言うから! みんなのぜんぶを好きだって言うから! どんなに同じ顔に囲まれても絵里だけのみんなを見つけ出す! クビになったてケータイの番号は消去しない! 結婚したってカラオケ行ってモーニング娘。唄おうよ! 私は忘れない、絵里は絶対みんなのことを忘れない! この世界が終わっても絵里の心はみんなを連れて生き抜いてみせる! だから待ってて!
す・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぐ・・・・・・・・・・・・・・
に・・・・・・・・・・・
帰・・・・・・・
る・・・・
か・・
ら・
、
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:24
-
一面真っ白な光に囲まれて、気がつくと、絵里はこの世に戻ってきたみたいだった。確証がないのは絵里の視界いっぱいに目を瞑ったさゆの顔があったから。絵里の唇はさゆの唇に塞がれていた。その唇から絵里の中に思いっきり息を吹き込み、顔を離したかと思ったら、続けざまに絵里のおっぱいを両手でギュウウウと握り締めた。もちろん絵里は「いったああああイ!」。それを聞いたさゆは思い出したかのように「あ、絵里おかえり」だって。ここって涙を流しながら抱擁の場面じゃないわけ? ていうか頭おもいっきり殴られてるのに心臓マッサージ(がしたかったんだよね?)ってどういうこと? なによりおかえりって……もう、ホント、最高じゃん!
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:25
- 今まで起きたことが夢だったのか現実だったのかわからないけど、レッスン場の隅には顔面を複雑骨折した亀井絵里がのびていた。たとえ、わざわざマイケル・ジャクソン風に顔面整形しようが、絵里だけにはそれが亀井絵里だとわかる。それを見つけた絵里に「絵里と仲良くしてくんないからぶっ殺しておいた」とさゆが簡潔に事情を説明してくれた。なーんだ、さゆは亀井絵里が絵里じゃないことをわかっていながら仲良くしてたんだ。でもさゆ、亀井絵里は絵里でもあるんだよ。
絵里は亀井絵里に近づきゆっくりと抱きしめた。今日の朝、絵里が言ったように耳元で亀井絵里はこう呟いた。「あんた誰?」。絵里は言う。「私は亀井絵里、もう忘れないよ」。亀井絵里はそれを聞くと潰れた顔で微笑みながら絵里の中に消えていった──
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:26
- この世界は愛で出来ている。途切れながらも、分裂しながらも、誰かが誰かを思う限り、それは続いてゆく。現に絵里がここにいるように、私たち僕たちが愛を刻むから、この世界は存在するんだ
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:26
- ──さゆはその光景をまるで日常の一コマのようにいとも簡単に咀嚼して見せると、「絵里はきちんと仲直りしたんだね」と言った。だから絵里も言った。
「絵里、さゆのことだいだいだーいスキッ!」
「さゆはフツーだけどね」
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:27
- そして毎日は続いてゆく!
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:27
- 宇宙
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:27
- 日本
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 00:27
- Musume-seek
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