13 水の春を 
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/15(日) 20:51
 
-  13 水の春を  
 
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/15(日) 20:52
 
-  いやあ、映画って本当にいいものですね! 
 
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/15(日) 20:54
 
-  小春はそんなことを呟いてみる。 
 先日亡くなった有名なおじさんの口癖であることくらいは知っていた。 
  
 映画はいいもの。 
 でも小春は映画には出られない。 
 きらりとしてなら出られるけど、それは小春じゃない。 
 いつもへらへら笑ってるようにしか見えない小春だけど、それくらい 
 のことは理解していた。  
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/15(日) 20:57
 
-  「どうしたの小春ちゃん」 
  
 小春のそんな様子が気になったのか、ミルキーウェイで一緒になっている 
 吉川友が声をかけた。 
  
 「ううん、なんでもない」 
 「あたしのほうが後輩だけど、同い年だし、何でも相談してね」 
  
 彼女に相談できるのはおっぱいのことだけだ。 
 そう思ったけれど小春は口にしなかった。  
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 01:00
 
-  どうすれば映画に出られるんだろう。 
  
 小春は考える。 
  
 やはり同学年の光井愛佳に冗談交じりの口調で聞いてみたものの、スポンサーとか 
 事務所の力関係とか、難しそうな話が出てきたので慌てて話を切り上げた。 
  
 再び小春は考える。 
  
 それはまるで浮かんでは消えてゆく水泡のようだった。  
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 01:07
 
-  類稀なる演技力。 
  
 最終的に出たのが、そんな答えだった。 
 これを身につければ、映画に出ることなど容易いはず。 
 愛佳の言うようなつまらない障壁など、あっという間に飛び越えることが 
 できるはずだ。 
  
 しかしそこで思考停止。 
 類稀なる演技力を身につけたとして、一体どこでそれを証明するのか。 
 まさか日曜の昼間に戯れにやっている不人気番組ではあるまい。 
 だが今のモーニング娘。にはそれしか露出する機会はないのも事実だった。 
  
 さて、どうやって世間に自分の演技力を見せ付けるか。 
 小春は既に自分は類稀なる演技力を身につけたつもりでいた。 
 それが事実に反するかどうかは定かではないし、その真偽はさしてこの物語 
 には影響しない。  
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:02
 
-  「簡単だよ小春ちゃん。死ねばいいよ」 
  
 どきりとする台詞を言ったのはミルキーウェイの青、北原沙弥香。 
 顔立ちが何となく鋭いので、小春は思わず涙目になる。 
  
 「ひどいよさぁや」 
 「え?あー、違うって。ハロモニ@の放送中に死んだふりするの」 
  
 沙弥香の話はこうだった。 
 来週はハロモニ@が生放送らしい。そこで小春が死んだふりをすれば彼女の演技力 
 はテレビを通じて全国に知れ渡る。さすがにそこまですれば、オファーの一つくら 
 いはあるだろう、そういうことだった。 
  
 「でもさ、後でマネージャーさんに怒られないかな」 
 「大丈夫大丈夫、映画のオファーさえくればよくやったって言われるから」 
 「…だよね。小春、がんばる!」 
  
 というわけで、計画は動き出した。  
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:09
 
-  あっという間に一週間が過ぎた。 
 計画には何故か吉川友も参加し、いよいよ実現性を帯びてきた。 
  
 「…だから、台本で高橋さんの肛門顔がアップになったら小春ちゃん倒れて」 
 「何でそのタイミングなの?」 
 「ショック死、って感じでいいと思うよ」 
 「わかった」 
  
 スタジオの大道具部屋で三人が段取りを決める。 
 いよいよだ。小春はひそかに握り拳を作る。 
 ただのアニメの吹き替えアイドルじゃない、ハロプロの先輩たちが立つことの 
 できない高みに昇る第一歩だ。 
 そのためには、全てを完璧にこなさなければいけない。 
 小春の決意は固かった。  
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:16
 
-  ☆ 
  
 生放送がスタートする。 
 いつものように亀井がぐずぐずしながら登場し、ジュンジュンがパンを頬張りながら 
 もごもご言っている。どうやら食事の邪魔をされたのが不満らしい。 
 どうでもいい亀井のかくし芸や道重のインチキマジックのVTRが流れ、いよいよ問 
 題の高橋のお粗末な笑顔がアップになる瞬間が近づいてきた。 
 光井がいつものようにどうでもいい記憶力自慢をするコーナー。 
 そのあまりのパーフェクトぶりに高橋が「アッヒャー」と声をあげる。その瞬間にカ 
 メラが驚愕の表情を捉える。 
 まだ?まだなの? 
 だんだんと小春に焦りの表情が浮かぶ。 
 どうしても、ちらちらとスタジオの時計に目がいってしまう。 
 暑いわけでもないのに、背中から一筋の汗がこぼれたその瞬間だった。 
   
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:23
 
-  「アッヒャアァァァァァ〜」 
  
 高橋が間抜けな声を出して驚く。 
 カメラが、一斉におもしろフェイスに集中する。 
 今だ! 
 小春はまるでパイプ椅子を使ってリアクション芸をする芸人のように、白目を剥いて 
 勢いよくその場にひっくり返った。 
  
 「ちょ、小春何ごとっちゃ」 
  
 最初に気づいたのはれいなだった。他の誰も小春の異変には気づかない。 
 呼びかけても返事をしない小春に、れいなは床に倒れてる彼女に近づく。 
 小春は完全に白目を剥き、泡を吹いていた。 
  
 「何ふざけてるん?本番中やろ」 
 「……」 
 「小春、ちょっと小春!」 
  
 体をゆすってみたり頬を叩いてみたりしていたれいなは、あることに気がつく。 
  
 「もう何やのあんたたち、本番中やろが」 
 「愛ちゃん…」 
 「ん?何やよ」 
 「小春、息してない」  
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:31
 
-  スタジオがほんの少しだけ静かになり、そして。 
  
 メンバーたちが一斉に小春のもとへ駆け寄った。 
  
 「ねえ小春、ちょっと小春ってば!」 
 「何ふざけてんの、寝てる場合じゃないよ!!」 
 「起きて、目ぇ開けて!!」 
 「小春ぅ…」 
 「久住、しんだの?」 
 「馬鹿なこと言わないでよ!」 
 「小春ちゃん、うそやろ」 
  
 しかし、全ては小春の演技だった。 
 演技の達人になると、心臓すら一瞬のうちに止めてしまうという。 
 小春も、この瞬間だけはその域に達していたのだ。 
 まさに奇跡と言っても過言でないこの状況、それも全ては彼女の映画に出たい 
 という執念が実現させたのだった。  
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:38
 
-  「凄い、凄い!小春ちゃん本当にみんなを信じ込ませてる!」 
 「やっぱりうちらのリーダーだけあって只者じゃないね」 
  
 スタジオの隅で計画の片棒を担いだ二人は、驚きつつも自分たちの描いたシナリオ 
 が順調に進んでいることに喜びを隠せない。 
  
 「で、このあとは?」 
 「小春ちゃんが起き上がって『生き返った☆カナ?』って言ったらいいんじゃない?」 
 「なるほど」 
  
 しかし話は二人の思うように進まない。 
 それまで横たわる小春の頭を抱えてた高橋が、脱力のあまり手を離してしまった。 
 当然、小春の頭は大きな音を立てて床に激突する。 
 意識はあった小春だが、これで一気に気絶状態に追い込まれた。  
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:48
 
-  「ちょっと、今鈍い音が聞こえなかった?」 
 「平気だって、今小春ちゃんは死んだふりしてるんだから」 
  
 吉川と北原がそんな話をしてると、スタジオの入り口から白と黒の大群がなだれ込んできた。 
 吉川が目を凝らしてみると、それは医者と葬儀屋の大群だった。 
  
 「12時42分!ご臨終です!」 
 「さっそく火葬場の手配をしてまいりました!」 
 「タクシーをお呼びしましたので、斎場までお願いします!!」 
 「荼毘に伏した後はお骨を拾ってもらいます!!」 
 「二次会は松花堂弁当をご用意しております!!!」 
  
 次々と言葉を発する白と黒の集団。その淀みのない流れはまるで洪水のようだった。 
 スタッフに渡された喪服を受け取ると、メンバーたちは各々スタジオの外へ向けて 
 走りはじめた。 
  
 「なんなの、これ?」 
 「きっと小春ちゃんがあらかじめセッティングしてたんだね。さすがきらりちゃん」 
  
 しかしそれは小春の手によるものではなかった。  
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:54
 
-  小春はあっという間に棺桶に放り込まれ、葬儀屋たちが取り囲み釘を打つ。 
  
 「あれ?これってもしかして」 
 「やばいよね」 
  
 たとえ演技であろうと無かろうと、このままでは小春は火葬されてしまう。 
 事の重大さに、ようやく気づく二人。 
 必死の形相で棺に駆け寄る二人。 
  
 「ちょっとちょっと、待って!!」 
 「小春ちゃん、死んでないの!!!!」 
  
 しかし葬儀屋たちは哀れみを含んだ眼差しを吉川と北原に向ける。 
  
 「認めたくないのはわかる。でも、お友達はもう戻ってこないんだよ」 
 「残念だが、見送ってあげたまえ」 
  
 そんなことを言いながら全速力で棺を抱えて走り出す葬儀屋。 
 サザエさんのエンディングのように霊柩車に乗り込むと、前が見えなくなるほどの煙を吐いて 
 遠くへ走り去ってしまった。  
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/16(月) 23:59
 
-  二人が火葬場に着いた頃には、小春は煙となって煙突から吐き出されていた。 
  
 「そんなぁ、小春ちゃんは死んでなかったのに」 
  
 泣きながらそんなことを言う吉川の肩に、北原が手をやる。 
  
 「あの子は、命をかけて自分の演技力を試したんだよ」 
 「え…」 
 「確かに映画には出られなかったけれど、アカデミー賞ものの演技だった。私達だけが 
 それを知ってる。それで十分じゃないか」 
 「そっか。うん、そうだよね」 
 「幻の名女優の死に水を取っただけでもうちらは幸せだよ」 
  
 最終的には二人は満足して帰宅した。  
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/17(火) 00:00
 
-  お 
 
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/17(火) 00:00
 
-  わり 
 
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/17(火) 00:00
 
-  んれぼりゅーしょん 
 
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