07 まほうのみず
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:23
- 07 まほうのみず
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:23
- いつものようにダンスレッスンをしている間の出来事。
「なんかねぇ水いっぱい飲んだら痩せるんだってー。絵里今日から水いっぱい飲む!」
声高々に宣言した絵里の手には、水は水でもこんがり茶色の水が入ったペットボトルが握られていた。
「…それ、お茶だよね」
「お茶なんてほとんど水じゃん、水だけじゃ味なくて飲めないし。
それにウーロン茶だから脂肪をネンショーするよぉ」
ごくごくと喉を鳴らしておいしそうにお茶を飲む。
まったく。いつもそうだ絵里は。決意が中途半端でしかも大抵続かない。
痩せる痩せる言って食事を減らしているのを見たことはないし。
あー、でも。
さゆみもお茶を飲もうかな。
たぶん水は続かない。
だって、味がないし。おなかがすぐにちゃぷちゃぷして気持ち悪いし。
お茶の方が飲みやすいし、健康に良さそう。
――――
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:24
-
色がなくて透明な液体。
目の前の女の子が喉を動かしてぐいぐい体に取り込んでいく。
「ん?なん、さゆ」
れいながミネラルウォーターから唇を離してこっちを見た。
ほんのり唇が濡れていてつやつやしていた。
「…ううん、それよりさぁ」
さゆみは引きつった笑顔を浮かべて話題を探した。
れいなは何も気が付かず、さゆみの話に乗って一緒に笑った。
だかられいなと話すのは楽。絵里はたまに妙に鋭いところがあって困らされたりするけれど、
れいなとはどうも上手く会話にならないことはあっても自分が危ないと感じたことがなかった。
前はそれに気が付かなかったし、絵里と離れたくなかったかられいなといられなかったのだけれど、
今はれいなといるほうがどこかでほっとした。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:24
- 絵里といれば楽だと思った。
絵里はあんまり深く考えないし、現実を口先だけでしか受け止めていなかったから。
与えられたものをこなして適度に上手くやって、自分を締め付けることなく楽しそう。
れいなといると辛くなると思った。
歌も向上心も自己愛も人気も何も敵わなくて、ただひたすら自分のためだけに頑張るれいなを見ていると
自分の立場とかを色々考えて、違いを見せ付けられて、惨めになると思った。
今は、絵里を見ているほうが現実に目が行くと気が付いた。
よく絵里が自分に見える。
絵里には毎日のように心の中で呆れていて、どうしようもなくて。
なのにさゆみがいなければ何も出来ない存在だったはずの絵里が、どんどん自分に見えてきた。
それがあまりに夢見ていた自分と違って、思わず目を逸らす。
だったられいなを見ていいなぁとか、ああなりたいとか思っている方が楽だった。思っているだけでも成長している気持ちになれた。
でも、結局は何も変わっていないのだとわかっている。
わかっていても何もしない自分は多分とても愚か。
だけど何かをしたとして、その先に何があるのか…本当に何も見えなかった。
れいなが何に向かってそんなにも頑張っているのかがいまだにわからない。
それには届いた?近づいてる?それとももう目標は変わってる?
たぶん一生聞けない。
それがさゆみの中で決まったルールで、踏み込んではいけない世界だった。
きっと踏んでしまえばれいなのそばに本当にいられなくなってしまうだろう。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:24
- れいながまた一口飲んだ水が何故か妙においしそうに見えた。
「…それ、ちょっとちょうだい」
「え?ただの水やけど」
「いいの、のど渇いてるんだ」
「ふーん…はい」
れいなに手渡されたミネラルウォーターを一口飲んでみる。
もっとぬるいかと思ったら、意外とひんやりとしていた。
飲み口は柔らかいけれど何故か引っかかる。飲み込んだ後も舌の上に奇妙なまろやかさと苦味が残っている。
ただの水なのに、ただの水じゃなかった。
この感覚はたぶんさゆみだけが感じている、そんな気がしてくる。
少なくともれいなは感じてない。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:24
-
これはもしかしたら魔法の水で。
頑張ってる人にはすごくおいしいものだけど、頑張ってない人にはおいしくないものなのかもしれない。
れいなはとてもおいしそうに飲むのに、さゆみはこれをもう飲むことは出来ない。
「ありがと」
さゆみの笑顔になんの疑問も持たずにれいなは微笑んだ。
れいなのそういうところがうらやましい。うらやましくて、好きだ。好きで、嫌いだ。
――――
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:25
-
仕事帰りにコンビニに寄って、お菓子を4つ手に取った。
でも一つ棚に戻して、一本ミネラルウォーターを手に取った。
でもレジに行く前にさっき戻したお菓子をもう一度手に取った。
すんでのところでUターンして、そのお菓子を棚に戻してから会計を終えた。
コンビニで合計4点の買い物をするだけで晴れ晴れしい気持ちになれるんだから、人間って不思議な生き物だ。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:25
-
ごく。
やっぱり…なんかおいしくない。
それでも飲む。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:25
- 「あれぇー、さゆもお水飲むの?」
「うん」
ごく、ごく。
絵里が隣に座って水を飲むさゆみのことを見ていた。
「そっかぁえらいねさゆ。絵里子供なのかなぁ?お水飲めないなんて」
「…」
ごく、ごく。
おいしくない。
「おいしいの?」
「…」
ごくん。
おいしくない。
「……」
「……」
「ねえさゆ、それちょっとちょうだい」
ごくん。
…ほら、さっきよりちょっとおいしくなった。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:25
- さゆみが差し出したミネラルウォーターを絵里はにやけながらしながら飲んでいたけれど、
口に入れた瞬間あからさまにがっかりしたような表情になってちょっとおかしかった。
「なんだ、ふつうに水じゃん。絵里やっぱり無理」
わかりやすくテンションを下げてさゆみにペットボトルを返そうとする絵里にそっと囁いた。
「これはね、魔法の水なんだよ」
「へ?」
「絵里にはまずく感じるけど、さゆみにはおいしく感じる水」
「…なんで?なんでさゆはおいしく感じて絵里はおいしく感じないのぉ?」
「ないしょ」
「やだぁズルい!なになに、何したらいいの?教えて教えて」
さゆみを揺さぶる絵里の手に飲みかけのミネラルウォーターを握らせた。
「毎日お水を飲むようになったら、わかるかも」
意地悪な笑顔を浮かべると、絵里はひとしきり文句を言った後に唇を尖らせながらペットボトルに唇をつけた。
ごくん。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:26
-
「…」
やっぱりまずそうなんだけど、それでも絵里はもう一口水を飲んだ。
少し乱暴に返された水をまた飲むと、やっぱりさっきよりおいしくなっていた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:26
- おわり
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:26
- 从*・` 。. ´・) <写真集の撮影前には
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:26
- 从*・` 。. ´・)つ|みず|
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 23:27
- 从*・ 。.・)
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