05 水鏡

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:03

05 水鏡
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:28

堕ちた世界で見る夢は、何時もあなたの夢だった。
キン、と凍える大気。耳鳴り。
ふたりの足を浸す、千切れそうに冷たい真水の広がり。

夢のあなたは何時も青白い顔をして。
細い腕はその身を守る事を止め、しな垂れて。
震える唇が紡ぐ言葉を私は何時も聴き取れない。

…違う。
私はずっと、あなたの声に耳を塞いでいたから。

見上げる空は果てもない灰と白。
凝らしても凝らしても、どうしても青空が還らない。
凍えるあなたに何時かの陽をあげたいのに。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:29


『好きなの。』


呟く言葉が風になる。
水鏡が揺れる。あなたの姿が歪む。


『ねぇ、好きなの。
 どうしていけないの?裕ちゃん。』


耳を塞ぎ、あなたの声を遮り。
無闇に囁く言葉があなたを消して行く。
触れようと足を進めれば、歪む水面に全て崩れる。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:29

凍りつく水鏡、私の影すら映らない。
硝子の如く皹割れた氷に脚を捕られたまま。


『どうしていけないの?
 綺麗なあなたが好きなだけなのに。
 温かなあなたが欲しいだけなのに。』


涙も流せず叫ぶ、あれは少女の恋。
犯す事も、穢れる事も、思い出を打ち壊す事すら。
怖くなかった。澄んだ瞳の恋。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:29





6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:29

女の脚が岸辺に立つ。ヒールで固めた爪先で霜を踏み。
見上げる空は今も変わらぬ灰と白。
凝らしても凝らしても、陽の光が届かない。

まざまざと、私を映す水鏡。
あなたと同じ青白い顔をして、震える唇を噤む。
風のない、波もない。水面の代わりにこの瞳が歪んでいる。

対岸に立つあなたの姿は、昔と何も変わらずに。
風のない、波もない。静かに交わるふたりの影。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:30


『なっち。』


あなたの声は、私の名は、漣となり。
水鏡が歪む。ふたりの姿が消える。

言わないで。何も言わないで。
悴む手で耳を塞ぐ。
優しく私を呼ぶあなたの声が好きだから。
だから呼ばないで。

私はもう、唯あなたの影を見つめるだけ。
犯す事も、穢れる事も、思い出を打ち壊す事も。
怖くてたまらない。少女の私は消えてしまった。

凍える幻から抜け出せないくせに。
あなたを愛する事を止められないくせに。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:30

堕ちた世界で見る夢は、今日もあなたの夢だった。
空は果てもない灰と白。
眼前に広がる水鏡。逆さ吊りの影。

耳を塞ぎ、あなたの声に怯えながら。
立ち去る事も出来ず、醒める事も出来ずに。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:31


10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:31





11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/09(月) 02:32






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