38 海の魔女

1 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:04

38 海の魔女

2 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:05

ある日宅急便が届いた。

中には重そうな鋲の着いた鉄の箱一つ。
実際重い。
着払いでの送付人はいちーちゃん。

…金掛かりすぎだから。

3 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:05

蝶番の着いたその重い箱の蓋を開けると
中にはいちーちゃん。
「おーい後藤、作曲の極意を見つけたぞ」

…まだシンガーソングライター目指してたんだ。
もう子供もいるのに。

4 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:06

「作曲なんか古今東西の曲を雰囲気や目立ったメロディを掛け合わせればいいんだ」
「どんなに聞き慣れていない曲でさえ過去には必ず一部が存在している」
「つんくは正しか
バタン。
鉄の蓋は案外簡単に閉じた。

…もうそんなの関係ない位置に存在しているのがあたしなんだけど。

5 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:07

自分がシンガーソングライターになれるかどうかを考えつつも、
一番近い海に捨てにいった。

箱は中のいちーちゃんが嘘のように
あっという間に
沈んでいった。

そしてずっと海に在る。

6 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:07

7 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:08

そんな昨日見た夢を思いだしてたら、目の前の箱が
「じゃっくいーん」
と音を立てた。
止まった絵柄は黒の潜水艦三つ。上の液晶には潜水艦が浮上している。

8 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:08

あ。あ。
95％ループだったのに。
3000枚ぐらいいけたかも知れなかったのに。

目押しミス。下皿には300枚ちょっとのコイン。
レギュラーを終わらせた液晶には、海の底をただひたすら行く潜水艦。
海の底。市井ちゃん。

やる気をなくして、隣の顔見知りのおじさんにコインごと台をあげた。

9 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:09

10 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:09

パチンコ、スロットは今のあたしの数少ないストレス解消の方法の一つ。
他にも解消法はあるけど、目立つことはするなと事務所からはきつく言い渡されている。

11 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:10

とてとて歩く帰り道、
サンダルを引き摺りつつ、ついこれからのことを考えてしまう。

12 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:10

市井ちゃんは、事務所から毎月手当てをもらっている。
あいぼんも。
あたしもそのままそれで行ければいいんだけど、家族を養わないといけないしなー。
多分あの事務所で仕事をすることはもうないだろうなー。
事務所を移籍するとしたら２年。
２年は何もできない。
あああ。八方塞がりだー。

家に着くと宅急便が届いていた。

13 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:11

14 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:11

そんなに大きくない箱。
20センチ四方ぐらいの。

差出人は市井紗耶香。

…ありえないでしょ。これ。

15 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:12

そんなに重くはないけれど、振ると箱みたいなものが入っている感じがする。

なんかこの家の住所も色々ばれちゃってるみたいだし。
爆弾とか。
だったら怖いなあ。

16 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:13

爆弾か。
そういうことってあるかな。ないかなー。どうだろ。

とりあえず。
ガムテープをそっと切って、遠くから棒で開けてみた。
開いたダンボールの中には箱。

夢で見た箱を小さくしたような。
鋲の付いた鉄っぽい色の。

17 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:14

ついつい手に取って見てみる。
あの市井ちゃんの入っていた箱に似てる。
まさかこれには市井ちゃん…。入ってないよね。
骨とか。

18 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:14

って言うか、死んだって聞いてないし。

振っても音はしない。

うーん。

19 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:15

20 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:15

しばらく悩んだ末に、思い切って開いてみると中には紙切れ一枚。
ノートを破いたようなその紙にはこう書いてあった。

21 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:16

「後藤。これは、あたしが再起するときに魔女からもらった箱だ。
　魔女はこれをくれた時にこう言った。

　『お前は努力しないで人気を得ていただろう？
　　お前がもし、本当の努力をするのならば、前よりも更なる人気を授けてやろう。』

　あたしは、努力したけれど、それは継続するものではなかった。
　ほんのちょっと人より努力したけど、それだけでしかなかった。
　本当の努力と言うものが何かはわからないけれど、多分努力してなかったと思う。
　
　今、これをお前に託す。
　あたしは出来なかったけれど、お前なら出来るかもしれない。」

22 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:17

…さらにありえないんですけど。

これは市井ちゃんではない。
前に話した時もこんな口調ではなかったし、こんな風には書かなかったと思う。
字も違う気がする。

23 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:17

誰だろう。
ハロープロジェクトの誰か。近所の人。
それともファンの誰か。

24 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:17

25 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:18

…。

誰が書いたのかはわからないけれど、これを読んだ時に、少し胸に甦るものがあった。
あの最後のステージの自分の言葉。
今よりも成長して帰って来たいと言ったあの言葉。

26 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:19

もしかして自分でも信じていなかったあの言葉を真実に出来るのだろうか。

27 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:19

28 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:20

誰が送ってきたのかわからないその箱。

箱は、
あの海のような鈍色をたたえて、
静かにそこに佇んでいた。

29 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:20

　

30 名前：名無飼育さん 投稿日：2008/01/08(火) 23:20

　

31 名前：Ｍａｘ 投稿日：Over Max Thread

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