36 はこには

1 名前:36 はこには 投稿日:2008/01/08(火) 20:39
36 はこには
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:40


だれかなんていらなかった。

ここには夜がないから、さみしくなんてなかったよ。
倒れても砂がクッションになって痛くないし、タイクツだなんて一回もいったことない。

なのに、なんで。


3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:41


そうふてくされんなよ


感情のない顔が、手の届きそうな場所で語りかけてくる。
他のひとっていやだ。
こっちの気持ちなんておかまいなしに、勝手にしゃべりだすから。
なんにもしらないくせに。


ね、うちら以外だれもいないね


みんな、こんな風にやさしい顔で近づいてくる。
無防備なえがおをつくって、ここに踏み込んでくる。
だから、きらい。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:44


これはもうさぁ、あれだよ


目を見つめたまま、おしゃべりを続ける誰か。
あたしは、開かない唇の、その先を待つだけ。


恋しろってことなんだよ


ほかの、だれかに、あたしが、恋する?
このひと、なに言ってるんだろう。


あ、笑うなって


そんなの、ありえない。
ありえちゃいけないから、わらってあげたの。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:45


待ってやっぱそのまま
いまの顔、すげーかわいいから


言われなくたって、そんなのあたしが一番よく知ってる。
やっぱりこのひとはなんにも知らないんだ。
どうせ、なんにも知ろうとしない。


みんなそう思ってるよ
笑ってればさ、たぶんみんな、きみをすきになる


それも、知ってる。
だから、こわいの。
なんにも知らないくせに、知ってることばっかり言う。
やっぱり誰かなんて、いらない。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:46
その瞬間。
白い指先が伸びてきて、誰かの胴体をつかんだ。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:47


あたしでもだめなの?


大きな瞳が、ほんの一瞬だけさみしそうにひかる。
その光が、ひとりぼっちを思い出させる。

誰かのからだが宙に浮く。それからすーっと遠ざかっていく。
それでも誰かは、おしゃべりをやめない。


さみしくないのかよ


叫びに近い声が降る。
手を伸ばしてみたって、きっともう誰にも届かない。
それがすこしだけさみしいような気がしたけど。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:48


ひとりじゃないもん


お別れの言葉のかわりに、あたしは誰かみたいに笑顔をつくってあげた。


9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:50


ごめんね


今度はさっきとちがう、よく知ってる声が落ちてくる。
大好きな声。
やっぱりこの声が一番おちつく。


やっぱり、だめみたい


だけどなんだかかなしそう。
あなたがかなしいと、あたしまでかなしくなる。
だからあたしは、知ってるなかで一番いい言葉をあげる。
じょうずにわらって、囁いてあげるの。


あいしてるよ


開かない唇が、もどかしいくらい。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:51
窓のない白い部屋にひとりきり。
慈しむような視線に抱かれて、一人のしあわせに身を震わせる。
このなかは冷たいけど、あたしがいるからさみしくない。

だれかのかわりにお花が降りてきた。
限りある砂の海に、にせもののピンクがかわいい。
あなたがわらうからあたしはわらう。
今は、それだけでいい。
ちょっと前にあったようなさみしさは、もう忘れてしまった。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:52


「あいしてるよ」


あなたがそう言ってくれる限り、さみしいなんて思わない。
あたし以外のだれかなんて、あいさない。
もっともっとあたしは、あたしを好きになれる。
もっともっともっと、あたしはあなたを好きになりたい。

誰よりもよくしってるから。
誰よりもちかくにいるから。


これからもずっと一緒だよね?


12 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:53
たったひとつの扉が開く。
遠くの出口に、背中が吸い込まれていく。
そのときが死にたくなるほどさみしいなんて、きっと誰もしらない。
それがすこしだけ、寂しいような気がしたけど。


ないしょのことばを抱きしめて、今日もあたしはお人形にもどった。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:56




14 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:57


「もう二週間が経ちましたけど、目立った変化は見られませんね」

「そうだな」

「二体目の人形を戻して、結果的には花が一輪増えただけ……
ここから何も読み取れない私はカウンセラー失格でしょうか?」

「誰だって最初はそういうものだよ。
これからゆっくりと時間をかけて治療をすれば大丈夫」

「そう、ですよね…でも本当、先生はすごいですよ。
クライエントが砂に玩具を置くのを見てるだけで、心情が読めるんですから」

「箱には心が出るからね。
ただ、読み取るだけでなく理解しようとしなければならならないんだよ。
箱という道具を通して、彼女の内面世界と対話するんだ」

「内面世界、ですか」

「まあ何年経っても難しいよ、この箱庭療法というものは」


15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:58



16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:58



17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 20:58




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