33 とうふ
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:48
- 33 とうふ
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:49
- 真っ白な、部屋だった。壁が白くて、家具がほとんどなくて。
その一角に、異様なかたまりがあった。備え付けの白いチェストの上に、カラフルな空箱が積まれている。色を塗りたくられた箱はぺらぺらでふたもなくて、重なりあい、傾いている。
「はい、お酒」
後ろからすっとグラスが伸びてきた。
「え? や、お酒はやめときます」
「いいよ少しくらい」
「それよりこれ、何ですか?」
「これって? あ、これは、とうふのパック」
「とうふ!?」
「そう。毎日1個食べてたら、なんか捨てるのもったいなくなって、このまえ色を塗ってみた」
「はぁ」
なんて言うのか。吉澤さんらしい、のか。赤や黄色や緑色が何層にも塗り重ねられて、そこだけにあふれている。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:49
- グラスに口をつける。梅酒のソーダ割りだった。
「で、高橋、どうした?」
顔を上げると、吉澤さんが向かいのソファに座って、まっすぐこっちを見ている。
「え? どうもせんよ」
「ライブの終わる時間にわざわざメールしてきて、読んでもよくわかんなくて電話したら、いきなり『今日は泊まりにいく!』って、変でしょ? 打ち上げあるからって言ってるのに、こんな時間まで待っちゃって。何があった? 話していいよ」
「……あ〜〜〜」
「なに?」
「すごい、ひさしぶりにリーダー吉澤だ〜〜〜」
バーカ、と吐き捨ててすっと目をそらし、グラスを持ったまま立ちあがる。
「赤ちゃんはもうおやすみ」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:50
- ずっと好きだった。
とか言うと誤解招くけど。「ずっと」って言うのも、うそだけど。
まあ、最初はみんな距離があったよね、吉澤さんとは。コンコンとまことは、フットサルとコントをきっかけに仲よくなってた。ガキさんも、いつからか「この先5期はどうしたらいいんでしょう!?」みたいな相談をしてたらしい。
あたしは、一番遅かった。辻さん加護さんが卒業して、「吉澤ひとみ」の次に「高橋愛」がくるようになって「あれ?」と思ったけど、別に何も変わらなくて、しばらくしたら名前順は1番と2番になってた。で、気づいたら、ものすごーく頼ってて、いろいろ聞いてもらうようになって、頼るだけじゃなくて頼られたいし仲よくしたいとも思うようになったら、吉澤さんの卒業が決まった。
そこからの一年はいろいろありすぎて結局頼りまくり。めちゃくちゃ泣きついて、わあわあぶちまけた。でも、しょうがなかったよな。おかげで何とか乗りきれた。
秋のツアーが終わって、紅白が終わって、ワンダも終わったら、なんかやっと気持ちが区切れたというか。ちょうど一年前の吉澤さんの卒業発表を、やっと受け入れられた感じ。そうしたら急にいてもたってもいられなくなって、エルダーのライブが終わった瞬間、メールを送っていた。
「迎えに来て」
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:51
- 「ベッド一つしかないから、ソファで寝る」
着替えたあたしをベッドに座らせると、吉澤さんはそう言って寝室を出ようとする。
「ええ! 一緒に寝ましょうよ〜」
「人が横にいると落ち着かないし」
「ひどいよう〜〜ひとりじゃやらぁ〜〜」
梅酒のせいかろれつが回らない。思いきって腕にしがみついて、引っぱって座らせる。
「うわ! 何するのこの赤ん坊」
「明日あたしが帰ったらゆっくり寝ればええさ〜」
「最悪」
つぶやく首に腕をまわして、押し倒した。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:52
- 同じ枕に頭をのせて、同じ毛布にくるまれる。わかったから電気だけ消させて、と吉澤さんはぱっと起きあがって枕元のスイッチを切る。真っ暗になる。
「あ〜落ち着く〜」
「はいはい寝なさい」
「ねぇ、ふとんも毛布も白いね」
「黒はよくないって風水で言われたからね」
「本当に白と黒が好きなんやね、でもさっきのとうふのパックは派手やったね」
「絵を描くときは別だよ」
「絵か〜。ねぇ、吉澤さんの本に亀井ちゃんだけ出てるの、ずるいねぇー」
「なに言ってんの。亀ちゃんはわざわざ『いつやるんですか?』ってきいてきたんだよ」
「あたしはそういうこと聞けないからさぁ〜」
「なんなの、おやすみ」
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:52
- 「吉澤さんには絵があってええなあ」
「は? ダジャレ?」
「かっこええよ、絵ってなかなかうまくならないし、あとスポーツも、やっぱ才能だと思うし」
「もういいから眠い」
「コンコンあんなのんびりしてるのにさぁ、ゴールキーパー任されてさぁ」
「ゴレイロって言うの」
「あとさぁ、面白いこと思いつくのも才能やね、まこと、コントやってるときすっごい楽しそうやったぁ」
「何の話してんの?」
「よしざーさんあの箱ちょうだい〜」
「え?」
「1個でええから。あたしもなんか欲しいわ」
「さっきのとうふのパック? どうすんのあんなの」
「励みにするんよ〜、あっ、うまく答えられた、いししししし」
「お酒なんて飲ませるもんじゃないね」
「もうふってしあわせ〜」
「おやすみ」
「よしざーさんだいすき〜」
酔ってるのかふりなのか自分でもわからないまま、細い腰をぎゅっと抱きしめて肩に顔をうずめる。吉澤さんは動かない。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:53
- 枕元の時計が鳴って起きると、9時だった。ドアが開く。
「おはよう、起きた? 朝ご飯つくったからおいで」
「あ、おはようございます、目覚ましありがとうございます、11時には出ないと……」
「うん、早くおいで」
台所のテーブルには小さな土鍋がふたつ用意されていた。
「わ〜おいしそう! 湯気が出てる〜」
「豆乳鍋だよ。お食べ」
向かい合って食べ始める。
「あったかい、おいしい〜、カキが出てきたぁ〜」
にんじんにこんにゃくに、とうふも入っている。
「あ、このパックもまたとっといてペイントするん?」
「いや、一度やったら気が済んじゃった。高橋あれ欲しいんだっけ?」
「え? いや、いらんよ! あんなの何になるん?」
吉澤さんはぽかんとした。
「ぶはっ」
「え? え? 何がおかしい?」
いや、いや、と吉澤さんはかぶりを振りながら笑いつづける。しばらくしてようやく息を吐くと、
「高橋愛、今年は『とうふ』でオリコン1位とりな」
と言って、再び鍋に取りかかった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:53
- 終
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:53
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- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:53
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- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 11:54
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