11 8年缶
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:02
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11 8年缶
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:03
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今年も桜の季節がやってくる。
最初に言い出したのは誰だったっけ。
仕切りたがりの私だったか、企画好きのあいぼんだったか。
ありがちな話だ。
私たち4期がモーニング娘。に加入して1年が経った日、4人で公園の桜の木の下に
タイムカプセルを埋めた。
お菓子が入っていた大きな缶に、それぞれ好きな物を入れて。
それから毎年4月1日になると、私たち4人はその公園に集まるようになった。
1年ごとに缶を掘り返しては、中身を入れ替える。
去年の思い出を取り出して、代わりに今年の思い出を詰め込むのだ。
満開の桜の下で手を泥だらけにしながら、私たちは過去を懐かしんだ。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:03
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◇◇◇
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:04
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最初の年、自分が何を入れたのかは思い出せないけど、ののが色とりどりの飴玉を
入れていたことだけは覚えている。
次の年、缶を掘り返したら飴玉は見た目は無事だったけど、誰も食べる勇気がなくて
結局捨てちゃったんだよね。
3年目、体積が絶頂期だった当時のよっすぃーは、白熊のぬいぐるみを缶にぎゅうぎゅう
押し込んでいた。
自虐的だ。 発案者はののだったらしいけど。
4年目、あいぼんは 「そろそろネタ切れや」 と言って、みんなに宛てた手紙を入れていた。
次の年に読み返して、4人で爆笑したっけ。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:04
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5年目、私がモーニング娘。を卒業する年。
私は、ハロモニで使ったチャーミー石川の帽子を缶に入れた。
娘。時代に私を1番成長させてくれた、思い出深いキャラクターだ。
よっすぃーは、去年使ったガッタスのキャプテンマークを入れた。
まさか2週間後に自分が娘。のリーダーになるなんて思わなかっただろう。
ののは、I WISHのCDを入れた。
前の年の辻加護卒業公演で、あいぼんと一緒に歌った曲だ。
これは2人だけじゃなく、私たち4期全員にとっても特別な曲なんだよね。
私もよっすぃーも、やっぱり最後にこの歌を歌って卒業したんだ。
あいぼんは、写真を1枚入れた。
頑固一徹のコントの衣装で、私たち4人が肩を組んで写っている写真。
本当に家族みたいだ。 4人でこの役ができて嬉しかったな。
あの公園に4人が集まったのは、この年が最後になった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:05
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◇◇◇
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:05
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6年目。 そこにあいぼんはいなかった。
3人で桜の木の下にしゃがみ込み、土を掘り返す。
誰も何も喋らなかった。
歪んだ円柱の形をしたお菓子の缶は、いつもと変わらずそこにあった。
土だらけの缶から、それぞれ去年自分が入れた物を取り出す。
形の崩れた帽子。 しわしわのキャプテンマーク。 色褪せたCD。
缶の底には、あいぼんが入れたあの写真が貼り付いていた。
写真の中の4人の笑顔は場違いに思えるほど眩しくて、ひどく悲しい気持ちになった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:05
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「み、みんな今年は何持ってきたの?」
空気を変えようと、私はわざと明るい声で言った。
「‥‥‥何も」
「え?」
「何も持ってきてないよ」
よっすぃーは俯いてそう言った。
「‥‥のんも」
「‥‥‥実は私も」
そう、私たちは3人とも思い出の品なんか持ってくる気になれなかったんだ。
あの謹慎事件は衝撃的で、それ以上に、あいぼんがこの恒例行事に来なかったことの
ほうが私にはショックだった。
1枚の写真だけが残った、丸い缶の中。
私たち3人は缶に向かって 「あいぼんのばーか」 と言って、蓋を閉めた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:06
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◇◇◇
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:06
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7年目。
巷ではまことしやかにあいぼんの復帰が囁かれていたけど、私たちは、あいぼんとは
連絡が取れないままだった。
あいぼんの姿を見ることができるのは、週刊誌の中だけで。
だけど4月1日が近づくにつれて、私たちはそわそわし始めた。
心のどこかで期待してたんだ、今年こそあいぼんは来るかもしれないって。
去年はごめんなー、迷惑かけたなー、なんて言いながら、あの桜の木の下にひょっこり
現われるんじゃないかな、って。
───あいぼんが事務所から解雇されたと聞いたのは、約束の日の5日前だった。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:07
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7年目も、私たちは1人足りないまま。
私とののはやっぱり何も持っていくことができなくて、缶に向かって 「あいぼんのはげ」
とだけ呟いた。
よっすぃーは唇を噛み締めて、弟の自転車の鍵をそっと中に入れた。
桜の花びらが1枚、はらりと舞って缶の中に入り込む。
よっすぃーはそのまま蓋を閉めた。
大きな丸い缶の中には、たった1枚の写真と、小さな銀色の鍵だけが入っている。
桜の木からの餞別と一緒に。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:07
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◇◇◇
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:08
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2008年春。
いつの間にか、4人が出会って8年の月日が経っていた。
今年も桜の季節がやってくる。
4月1日、いつもの時間にいつもの公園へ。
柔らかい春風が心地よい。
風に舞う桜の花びらが頬をかすめた。
桜の木の下に座っている人影が見えて、私は小走りで近づいていく。
木の幹にもたれかかって、よっすぃーが昼寝をしていた。
「なんだ、よっすぃーか」
「‥‥なんだとは何だ」
「あ、起きてたの。 ののまだ来てない?」
「うん、まだみたい」
あいぼんは、と訊こうとして口をつぐんだ。
来るわけないか。
今年もきっと、私たちは3人のままだ。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:09
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いや、8年経っても4人のうち3人が昔と同じように集まれるっていうのは、幸せなこと
なのかもしれない。
この公園に集まる4期はいつか2人になり、1人になり、やがて誰もいなくなるのだろう。
せめて私は最後の1人でありたい。
私はよっすぃーの隣に腰を下ろした。
心地よい風と春の匂いが鼻をくすぐる。
眠くなってきちゃった。
よっすぃーの肩に寄り掛かって、私も目を瞑った。
その日、何時間待っても、ののは来なかった。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:09
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◇◇◇
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:10
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「‥‥仕方ないよ、あいつも子育てで忙しいんだ」
「だからって毎年の約束すっぽかすなんて。 来れないなら来れないで、連絡くらい
くれればいいのに。 ていうかカンペキ忘れてんじゃん」
「こんな約束忘れちゃうくらい、今、ののには他に大切なものがあるんだよ」
「比べるような言い方しないでよ」
「こうやって未だに過去にこだわってるのは、あたしと梨華ちゃんだけってことだ」
「‥‥‥‥」
「‥‥もう、今年で終わりかもしれないね」
―――潮時ってやつですか。
いつまでも子供だと思っていた年下の2人。
ののもあいぼんも、もう私たちの知らない場所で新しい生活を始めている。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:11
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いつまでも昔を懐かしむのは良くないことなの?
また4人揃ってふざけ合ったりできる日が来るって、信じてちゃだめ?
私は信じたい。
だって4期は家族だもん。
8年前の4月1日、何万人もの女の子たちの中からたった4人が選ばれたあの瞬間から、
私たちには切っても切れない極太の絆があるんだよ。
よっすぃーは目を伏せて唇を噛んだ。
泣きたい気分なのは私も同じだ。
「掘ろうよ。 2人しかいないけど」
私はかばんからスコップを取り出して、よっすぃーに手渡した。
よっすぃーは滲んできた涙を散らすようにぱちぱちとまばたきをすると、「そうだね」 と
言ってそれを受け取った。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:13
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「あれ‥‥」
土にスコップを突き立てた時、よっすぃーは手を止めた。
「どうしたの?」
「梨華ちゃんこれ、土が」
はっとした。
桜の木の根元周辺に、一部分だけ土の色が変わっている所がある。
明らかに最近掘り返したばかりの跡だ。
私たちが来る前に、誰かがここを。
動悸が速くなる。
よっすぃーは少し躊躇ってから、無言でそこを掘り始めた。
私は傍らにしゃがんで、がつがつと音を立てるシャベルの先端を見つめていた。
カンッ、と金属のぶつかる音がして、土の中から円柱状のお菓子の缶が顔を覗かせる。
歪んだ縁に爪を立てると、缶の蓋は簡単に開いた。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:13
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その中には、去年よっすぃーが入れた自転車の鍵と、からからに乾いた桜の花びら。
あの写真はなくなっていた。
代わりに小さな紙切れが入っている。
私はよっすぃーと顔を見合わせて、その紙切れを手に取った。
4つ折りにされたそれを、震える手でそっと広げてみる。
『 りかちゃん、よっすぃ〜、のの。
みんなごめんね。 ずっと大好き 』
少しだけ大人っぽくなった、懐かしい筆跡。
よっすぃーが、あの子の名前を呟いた。
私は紙切れを折り畳んで、黙って缶の中に戻した。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:14
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乾いて茶色く変色した1年前の桜の花びらは、風に攫われてどこかへ飛んでいった。
「よっすぃー」
「‥‥何さ」
「私は来年もここに来るよ」
よっすぃーは丸い缶の中の紙切れを、黙って見つめていた。
私はゆっくりと缶の蓋を閉める。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:14
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蓋の上に、桜の花びらが舞い落ちてきた。
ふと空を見上げる。 いい天気だ。
そういえば8年間、この日に雨降ったことって無かったな。
「よっすぃー、私来るからね。 再来年もその次も、10年後も20年後も」
きっと来年も晴れるはず。
ハタチを過ぎたののとあいぼんと一緒に、お花見をしながらお酒を飲もう。
よっすぃーはぷいっとそっぽを向くと、「お互い諦めが悪いのは同じだね」 と小さく呟いて
鼻をすすった。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:15
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∋oノハヽo∈ o〜
( ´D`) 〆⌒ヽ
( つ つ (´D` )
と_)_) し、_l⌒うっ
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:16
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@ノハ@
( ‘д‘)
__( φ と____
\ \
 ̄ ̄ ̄
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 12:17
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