05Rubik's Cube

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:36
05Rubik's Cube
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:38

亀井絵里は目の前にある四方形の包みを見つめている。
楽屋の空間に不自然にもテーブルのど真ん中に置かれていたそれ。
そんな所に新垣里沙が不自然な包みを見つめる不自然な絵里を発見した。

 「カメ、何やってんの?」
 「ガキさん、今日ここに来ました?」
 「何言ってんの、アンタが珍しくここの一番乗りでしょうが」
 「あれ?そうなんですか?」
 「私も今日はたまたま早く来ただけだよ」

絵里は珍しく時計を設定せずに何と3時に起床してしまったのだ。
何があった訳でもなく、目がパカリと開いた途端部屋の中が真っ暗だった事で
「まさか1日中眠ってた?」と錯覚するほど。
それが今日の深夜3時という事に気付いたのは棚の上に置かれていた
「四字熟語辞典」が3ページで止まっていたから。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:40

その後、何故か服にも迷わず、ご飯を食べ、髪を整えて収録時間に
余裕で間に合う時間帯に外出することも出来た。
本人は不思議に思うだけだが、あまりにも奇怪すぎて母親も姿が
見えなくなるまでその背中を見つめていた。

その出来事をとっくに忘れていたのは何も考えていないから。
と公言するのは紛れも無く里沙である。

 「で、こんな所で何してんの?」
 「爆弾を見つけちゃったんです」
 「は?爆弾?」
 「多分これは軽く数百メートルは吹っ飛びますね」
 「いやいや、話が吹っ飛びすぎてワケわかんないから」

そんな時、楽屋のドアをノックする音が反響した。
瞬間、絵里はいつもの数十倍の運動能力を加速させ、ドアの鍵を掛けた。
当然その所為でドアに入ろうとしていた人物は開かない入り口に焦る。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:41

 「あれ?何でこれ開かんの?」

どうやら現リーダーである高橋愛がガチャガチャガンガンとドアのノブや壁を弄り回している。

 「内側からカギが掛かってるんじゃないですか?」
 「じゃあ中に人がおる筈やない?」
 「ダレか分からんけどここ開けてーっ」

田中れいなと道重さゆみの3人でどうやら現地に到着したようだが
中に居る何か使命を負ったPPPには有り得ないほどの表情を作っていた。
里沙はそんなPPPに対して疑問しか浮かんでこない。

 「ちょ、ちょっと何して……」
 「見ててくださいねガキさん、絵里はこういう時こそ役に立つんですから」
 「や、何でドアの鍵を掛けたの?」
 「爆弾ですよ!?致命傷は避けられない魔物ですよ!?それから守る為には必要なことですよ」
 「……って私は!?」
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:41

里沙の疑問は絵里にとってえんどう豆の豆にも及ばない。
ふにゃふにゃと指先を使い、テーブルに置かれた包みを掴み、開ける。
かなり危なっかしい動作だ。
一瞬包みを地面に落としてしまった辺りからはもう気が気じゃない。

中に入ってのは3×3での形成で作られた正方形の箱。
もとい白・青・赤・橙・緑・黄色に彩られた何の変哲も無いルービックキューブ。

 「な、なーんだ…ただのオモチャ「まさかこんな数学的なものが出来てたなんて…」
 「……は?」
 「もしかしたら一色だけ違う色があって、そこに触れると爆発するとか
 それとも全部完成させないと爆発するとかそういう心理動揺を狙ってますね!」
 「どこをどう見たらそんな発想ができるわけ!?っていうかさっきから爆弾とか爆発とか…」
 「ガキさん、もう世の中に安心なものなんて無いんです、何の変哲もないものが一瞬にして
 火の海になったり、ガキさんの突っ込みを入れただけで世界が変わるなんて有り得ない事なんですよ」
 「別に私が突っ込みを入れたとしても変わらないのは当たり前のような…」
 「だから何事にも慎重に対応するんです」
 「って、言ってる傍から落としてるじゃん!」
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:43

そんな事を言い合いしている間、外では愛達が耳をドアに当てて必死に中の状況を把握しようと頑張っていた。
まるで壁にへばりついたカエルのように愛は唸りつつ耳へと神経を集中させる。
それを心中では数メートルの距離を置いて見守るれいな。

間を置いた後、さゆみが何を思ったのか脳裏に豆電球を灯らせた。

 「ガキさんと絵里の声に似てるような…」
 「絵里で思い出したんですけど、メールが来たんですよ」
 「何て?」
 「以前「四面楚歌」っていう文字のメールが届いたって言ったでしょ?」
 「あーガキさんが「ピキピキムッカー」って言ってたヤツ?」
 「微妙に違うような…で、「しめんそか」ってひらがなで一文字で来たんです」
 「それもかなり迷惑な話っちゃね」
 「でも何か…凄く弱そうに思えたって言うか…いつもの絵里じゃなかったかなぁ…って」
 「絵里の考えが分かるのはごく稀とよ、6期のれいな達にも分かんない時あるしね」
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:43

そんな同期の気持ちも知らず、絵里は全く解決しないルービックキューブに
悪戦苦闘の最中、「うへへへ」と奇怪な笑い声さえも発し始める。
初めのあの真剣な表情があまり維持できないらしい。
さすがPPPである。

そんな時、壁に身体を預けていた里沙のマナーモードにしていた携帯が鳴る。
表示された名前を見つめ、これ以上無い安堵感を覚えつつ通話ボダンを押す。

 「もしもし?さゆみん?」
 『新垣さん、今もしかして楽屋に居ます?』
 「そうなんだよぉ〜、ぽけぽけぷぅが何かおかしくなっちゃって」
 『何があったんですか?』

里沙は謎の包みと、それが爆弾だと信じている絵里の事を細かく話した。
さゆみはそれを聞き終えると、一瞬考えたように沈黙を作り、言った。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:44

 『もしかして絵里は、何かに対して絶望してるんじゃないですか?』
 「はぁ?あんな元気印のきびだんごみたいなカメが?」
 『そんな人でも立ち直りは早いけど、落ち込む時はとことん落ち込むんですよ
 それにきびだんごも元気100倍には程遠い代物ですから』
 「んー…分かんないことは無いけど、一体何がそうしたわけ?」
 『とにかく、今は情緒不安定で何も信じられない状態になってるの、ガキさんお願いしますね』
 「え”、何が何が??」
 『絵里の事に決まってるじゃないですか、一日で吹っ切りますけど
 今はそれどころじゃないんで、それじゃ』
 「ちょ、ちょっと待」

さゆみによって携帯の通話を切られ、里沙はルービックキューブを鷲掴みにしながら奮闘する絵里に歩み寄る。
こうなってしまったのは少なからず、里自分自身にもあるのかもと思えたからだ。
さゆみは同期であり、最も彼女を知っている人間だと里沙は理解しているため
その当の本人が言ったのだから信憑性も高い。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:46

加入当時は対称的に気の合い過ぎることで「さゆえり」は有名だと思われる。

 何かに集中し、その落ち込んだ気持ちを吹っ切りたいのかもしれない。
 メンバーを中に入れないのもどこかで1人になりたい気持ちがあるのかもしれない。
 それでも里沙を残したのは、寂しがり屋な彼女の無意識な行動かもしれない。

「ルービックキューブ」
数々の色という困難を乗り越え、箱という迷路に出口を作ってあげよう。
3×3の正方形には必ず外部から見れない場所がある。
そこは誰かが解かない限り、決して触れることの無い領域。

 まさにそれは…心のピース。

里沙は背後からソッと近づき、ガチャガチャふにゃふにゃと指を動かし、奇怪な笑い声を
発している絵里からそれを奪い取った。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:47

 「あっ!」
 「アンタは頭よりも体が動くタイプでしょうがっ、そんなガチャガチャしても出来るものも出来ないよ?」
 「でも、それは絵里がやらなきゃ「はいはい、1人でしょいこまないの」

面食らったように驚く絵里。
徐々に頭を俯かせ、アヒル口を萎ませて不貞腐れてしまった。
里沙はフゥッとため息を吐き、ルービックキューブをカチカチャと動かし始めた。

こんな事をしでかしたこれには早々に開いてもらわないと困る。

 「悩んでるなら頼りなよね、信じる信じないかは勝手だけど、それを
見過ごせるほど私たちの関係は浅くないでしょ?」

里沙の言葉を聞いているのか聞いていないのか分からない。
ただ絵里は何も言わずに涙目の視線をルービックキューブへ固定していた。
カチャカチャカチャ。
赤、オレンジ、黄色、緑、青、白がいくつもの場所を巡り、同じ色へとの出会いを待っている。

だが惜しくも通り過ぎてしまい、色たちは道を外れては正しい場所へと精一杯進もうとしていた。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:47

 「……なんか静かになったね」
 「さっきまで変な笑い声が聞こえましたけど、もしかして……」
 「多分大丈夫だと思うの…ぁ」

さゆみは携帯を見つめながらふと視線を向けると、そこには「モーニング娘。」の面々。
どうやら集合時間が近づいているらしい。
これ以上ここに居ては収録の為の準備が遅くなる。

 「全く…本当に世話の焼ける人たちなの」

さゆみは携帯の着信履歴を取り出し、通話を押した。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:48

「あーもぉっ」

里沙自身もこういったものには滅法弱い。
だがこのまま再度絵里に渡してしまってもずっと箱に入ったままになってしまう。
そんな時、携帯のバイブ機能が動き出し、ポケットから取り出して通信を押す。

 「さゆみん?」
 『ガキさん、そろそろ時間も押してます』
 「あーそうだよね…参ったなぁ」
 『とりあえず、部屋の鍵を開けてもらえますか?』
 「…うん、分かった」

里沙は通信を切り、ふにゃふにゃと身体を左右に揺らす絵里に対して
無意識にため息が出た。

 「とりあえず、もう収録時間が押してるからもう良いでしょ?」
 「……」
 「正直言って、1人で何でもかんでも出来たら苦労しないってば
 私だって同期の愛ちゃんの行動を全部知ってるわけじゃないし、寧ろ
 人任せなところがあるのはカメも知ってるでしょ?」
 「でも、負担なんて掛けられないですもん」
 「そんなところで遠慮されても逆にヤだからっ、いつも人任せで人の話を聞かないぽけぽけぷぅ
 な亀井絵里がこんな萎んだ風船みたいになってるほうが逆に気になるからっ!」
 「ガキさん寒いですよぉー」
 「アンタが寒いとか言わない、カメに分かるような例えを入れただけだからっ」
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:50

ドアの鍵を開け、「モーニング娘。」の面々が楽屋へと入ってきた。
そんな中、里沙は愛に頭を揺さぶられ何をしていたのか追及される。
絵里にはさゆみとれいなが先頭で後輩の面々が。

 「同期にも何かあるなら相談してほしいの、さゆみは腹は黒いけど
 大親友の悩みごとを笑い飛ばすことはしないから」
 「れいなもちょっとカチーンと来ることはあるっちゃけど、絵里の元気が無いと何か調子が狂うと」
 「亀井さん、この前番組で持ってきたたこ焼きをまた作ってきたんですよ」
 「ワタシのバナナで元気になれまスよ」
 「わたシの家にあったサイコウキューのお酢でバッチリでース!」

後半はほぼ食べ物に包まれてしまったが、結果的に絵里が含まれた全てのピースが揃った。
ルービックキューブの擬似では無く、確かにそこに存在するピース「亀井絵里」へと。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:53



 「これってルービックキューブの形をしたただの箱だよね」
 「真ん中が固定されてて動かないですけど、何かガサガサ言ってますよ?」
 「でもここは動くけど…何なんだろうね?」
 「愛佳の作ったたこ焼きを食べたら脳が活性化しますよー」
 「あ、ほしーほしー!」

 「これってダレが持ってきたの?」
 「ダレも居ない筈の楽屋にルービックキューブ…ホラーとか絵里ダメなんだけど」
 「そんなのお構いナシにあれ触りまくってたから大丈夫だって」
 「でも何で1つ?」

 「…これってまさか取れるのかな?」
 「何?何が入ってたの?」
 「これって…」

15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:55



 「これで終わり…っと」
 「あ、懐かしいねぇー」
 「3×3のヤツ、やってみる?」
 「…何これ、ただ箱?」
 「そ、まぁこれは普通のとはちょっと違うからね」
 「何?どういうこと?」
 「んーまぁ、後輩達に送るクリスマスプレゼントってヤツ?」
 
崩れた箱の中には小さな星の飴玉。
久しぶりに触れた景色の中で、またひとつ星が光った。

16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:55

end...
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:55

ノcノ| ・e・)<3×3=9
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 07:56


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