28 Color of life

1 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:31 ID:XFNud.YM

28 Color of life

2 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:32 ID:XFNud.YM

「はい、終わりましたよ」
立身の状態で体のバランスを最後に整える。
彼女は寄せていた眉間のしわを解く。
「んー少し軽くなったかな」
そう言うと
「よっちゃんありがとう」
と笑った。

3 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:32 ID:XFNud.YM

「はい体温めてくださいね」
事務的に言って、彼女を赤外線の部屋に向かわすよう助手に伝えた。

4 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:33 ID:XFNud.YM

彼女は長くこの整体院に通っている。
完璧な体と言うものはこの世にはないが、彼女は割といつもバランスが悪い。
整えても整えても一週間後には元の木阿弥。
最初は色々体の調子がよくなるようアドバイスしていたが、今ではしなくなった。
お金は別にかかってもいいのだそうだ。
ただエステの代わりになるかなーと思ってと彼女はそう言う。
その時だけでもからだの調子がよくなれば気が晴れるしとも。

5 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:33 ID:XFNud.YM

彼女は高校時代の後輩で水商売をしていた。
結構人気で勤めていたキャバクラではナンバーワンを争っていたそうだ。
他の後輩とかからの噂話では
キャバクラのオーナーの愛人をしていたみたいだが、
何人か別の男を作り、それがばれ今は首になってしまったらしい。
仕事はしていないはずだが、毎週のように通ってくる。
整体とはいえ保険診療ではないからお金が結構かかっている。

こちらとしては、同じ体の反応を見つつずっと治療できると言う事はあまりない為、
まだまだ整体師として長くはない自分にはある意味ありがたい患者ともいえる。

6 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:34 ID:XFNud.YM

彼女は手を振りながら帰っていった。

お金、どうしてるんだろうな。
頭の隅に引っかかったが次の患者が来たためすぐ忘れてしまった。

7 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:34 ID:XFNud.YM

そして一ヶ月ほど空いたある日、彼女は来た。
少しやつれた感じだった。
そして、今日は二倍のお金を払うので二倍整えてくれとそんな事を言った。
二倍整えるなんてそんな事は抽象的過ぎてできないが、
後輩だし、今日はあまり予約も入っていないので、できる限り整えようと彼女と約束した。

8 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:34 ID:XFNud.YM

体を触っていくと、まず首から肩にかけての凝りがひどいのに気がついた。
前はあまりそういうことがなかったから、事務でも始めたのかなと思ったが黙っていた。
骨盤から整えていく。
なぜか前よりかなり開いていてこのままにしていると腰に来るだろうなと思った。
なるべく楽になるように整える。
まだ足の筋肉に癖がついていないからそんなに気にする事もないか。
背骨等の緊張を取り、首から肩へ。
さすがになかなか凝りが取れない。鎖骨を整え貝殻骨を調整する。

9 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:35 ID:XFNud.YM

全体的な緊張が解けてきた。
眉間のしわに触る。
「ちからをいれないで」
優しく触ると寝ぼけたような顔でこっちを見た。
そしてまた目を閉じる。
背中の反応を見ながら、内臓のつぼに刺激を与える。
長くやりすぎかなと思ったとき、その瞬間は来た。

10 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:36 ID:XFNud.YM

長く患者の体に触れているとある時急に体の緊張が解ける瞬間がある。
ある一点への治療、あるいはある動作それは複合的であるのかも知れないしそうでないのかも知れない。
だがその何かをすると体がほどけてゆく時がある。
色々な道筋が組み合わさったその先の何か。

11 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:36 ID:XFNud.YM

一つでも治療や動作をやらなければ、一つでも治療や動作をやりすぎれば到達できない、その先。
その何かをした時に患者の体の緊張が目に見えて解けていく。
自分にとってそれは不思議な感覚であり、そしてなぜかその瞬間色を感じるのである。
世の中には匂いで色を感じたりする人が居るらしい。
自分のはそれに近いものなのだろうか。

12 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:37 ID:XFNud.YM

ミキティのそれは黒に近いグレーだった。

13 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:37 ID:XFNud.YM

施術を終えて、彼女はすっきりしたようだった。
「よっちゃん、なんか体だけじゃなくて頭も軽くなった」
そう言って
「ありがとう」
少し頭を下げた。
今まで頭なんか下げた事なかったなー。
そう思ううちに彼女は体を暖める事もなく帰っていった。
きっちり二倍の料金を払って。

14 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:38 ID:XFNud.YM

整体師の仕事は割と地味な上に職人的な所もあり、患者の体に教わる事も多い。
体の反応を見ながら体を押したり引いたりしながらバランスのいい方に整えていく。
効率のよいやり方や反応に対しての手技の経験を蓄積していく。
あの色が見える瞬間、あれをいつでもできるようにすることはできなくても、
なるべく多くあの瞬間を、体の緊張がほとんど取れるようなあの瞬間を作りたい。

15 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:39 ID:XFNud.YM

16 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:39 ID:XFNud.YM

彼女はあれから二度と来ない。

17 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:39 ID:XFNud.YM

18 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:39 ID:XFNud.YM

患者の反応に集中するあまり無口な整体師として定着してきた。
日々は穏やかに流れていく。
ふと幸せと言うものを思うとき彼女のことを少し思う。

19 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:39 ID:XFNud.YM

彼女はキャバクラのオーナーに風俗に行かされそうになって逃げたらしい。

20 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:40 ID:XFNud.YM

幸せは自分の状態に左右される。
そこにあるのに感情の波や体の状態によって遠ざかったり近づいたりする。
穏やかでいれば穏やかな幸せが。
幸せは感情の振り幅が大きければ強く感じるが過ぎ去るときも一瞬だ。
どちらを取るかはその人しだい。
あの時の彼女の体の状態と彼女の判断。

21 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:41 ID:XFNud.YM

彼女が今は心穏やかに暮らしていればいいがと
そう思った。

22 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:41 ID:XFNud.YM

23 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:41 ID:XFNud.YM

24 名前：名無飼育さん 投稿日：2007/07/08(日) 23:41 ID:XFNud.YM