25 sixth color
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:33 ID:1F4prUyk
- 25 sixth color
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:33 ID:1F4prUyk
- 6月。平日。夜。
奴らは何の前触れもなく、突然やってきた。
インターホンのモニターに映る三つの影。
「どうも〜。こんばんは〜。あのお、絵里たち…」
「ちょっと絵里、ノンビリ挨拶してる場合じゃないの」
「ねえ、あいつ、まだこっち見とうよ。やばいっちゃない?」
「藤本さん、早く開けて下さい。さゆみたち、変な人に追われてるんです!」
そう、それは娘。的な括りでいうところの6期メンバーの三人。
一応美貴の同期である。
…もっとも、娘。を脱退した今では、そんな言葉は何の意味も持たないけど。
元々6期は同じ4人で加入した4期や5期と比べて、ちょっと変わった存在だった。
4、5期はほとんど横一線で始まったのに対し、6期の場合、美貴と三人とでは
キャリアも年齢も差があった。
同期として一緒に頑張るというよりも、少しお姉さんとして引っ張っていく
ような、そんな関係だったと思う。
家族のような4期、信頼できる仲間の5期。
それぞれの期にそれぞれの特徴がある。
それなら、美貴たち6期は一体どんな言葉で表されるのだろう。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:34 ID:1F4prUyk
- 玄関のドアを開けると同時に、三人は家の中になだれ込んできた。
「あ〜、怖かったあ。あの人、絶対に絵里たちのこと狙ってたよね」
「大体、絵里がそんなわかりやすい格好で来るからいかんと。ちゃんと変装
してこんと」
「れいなだってそんな派手な服着てるじゃん」
「いつも通りやし」
「だからダメなんじゃん」
人の家の玄関で何やら言い争いを始めた亀ちゃんと田中ちゃん。
「…あのさあ」
「あぁ!二人とも、ケンカしてる場合じゃないの!早くチェックしないと!」
「あ〜、そうだったあ」
「忘れるところやった!れいな、あっち見るけん」
「お邪魔しまーす!」
「…いや、お邪魔しますじゃなくて、あんたたち、何しに…」
美貴の言葉なんてまるっきり無視して、三人は勝手に部屋に上がり込む。
世間では怖い先輩で通ってるかもしれないけど、現実なんてこんなもんだ。
この子たちがまともに美貴の言うことを聞いてたのなんて、最初のうちだけ。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:35 ID:1F4prUyk
- 「よし、大丈夫ったい!」
「大丈夫って、何が?」
満足気な表情を浮かべる田中ちゃんの腕を掴んで問いかける。
こうでもしないと、こいつらはずっと美貴のことを無視し続けて話を先に進める
に違いない。
「あ、いや、だから、その…」
「藤本さんが一人で良かったってことですよ」
言いよどむ田中ちゃんに代わり、重さんがサクサクッと答えた。
「一人でって?」
「やだなあ、そこまで言わせないで下さいよ。さゆみ、そんなこと言えな〜い」
「いや、ブリブリしても無駄だから。ちゃんと説明し…」
「あ〜!!!!」
美貴の問いかけを遮断したのは、いつの間にか台所に移動していた亀ちゃん。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:36 ID:1F4prUyk
- 何事かと慌てて彼女の元へ駆けつけると、亀ちゃんは冷蔵庫の中の缶を指差して
ニヤニヤしていた。
「藤本さん、これ飲んでいいですかあ?」
「別にいいけど…って、あんたそれ酒じゃん、駄目じゃん」
「え〜、いいじゃんいいじゃん」
「いや、駄目だから、普通に未成年でしょ」
「ケチ〜、藤本さんのケチ〜」
ケチとかそういう問題ではない。
今の状況で『モー○。メンバー飲酒疑惑!先輩メンバーFが関与か!?』なんて
記事が出たら、美貴の人生はどうなることやら。
…想像もしたくない。
「とにかく、駄目なもんは駄目。ほら、これで我慢しな」
貰い物の果汁100%りんごジュースを渡すと、亀ちゃんは嬉しそうに「うへへ〜」
と笑ってリビングへと移動した。
なんなんだ一体…。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:37 ID:1F4prUyk
- 亀ちゃんを後に続きリビングに向かうと、そこではなぜか重さんと田中ちゃんが
一列に並んで立っていた。
示し合わせたように重さんの隣に並ぶ亀ちゃん。
その様子を不審に思いながらも、美貴はソファに座ろうとする。
「あ、藤本さんはそこに立ってて下さい」
「はあ?なんで!?」
「いいから、お願いします」
有無を言わせない重さんの迫力。
仕方なく、三人と対峙した壁際に立った。
その瞬間、目の前の三つの顔は今までとは打って変わって、引き締まったもの
になる。
つい最近、どこかで見たような、そんな顔だった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:39 ID:1F4prUyk
- 真ん中の重さんが後ろ手に持っていた何かを差し出す。
「はい」
「ん?これ…?」
「藤本さんの好きな、ひまわりです」
重さんから受け取ったのは、美貴の大好きな、小さな小さな一輪の…。
「…ってこれ、たんぽぽだし」
「やだなあ、似たようなもんじゃないですか」
「いやいやいや、全然似てないし。大体これ、その辺に咲いてる花じゃん」
それはまさに道路脇に咲いてあるものをさっき引っこ抜いてきましたみたいな、
そんなたんぽぽだった。
「そんな細かいこと気にしてちゃダメですよお」
「そうそう、どっちも綺麗やし、同じ色やし」
「…おまえら、適当だろ」
「うへへ〜」
「あ、やっぱ、わかっちゃいました?」
「バレバレだし」
「まあまあ、とりあえず、そろそろ始めましょ。じゃあ、絵里、どうぞ〜」
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:39 ID:1F4prUyk
- 「はい!」
田中ちゃんに促された亀ちゃんは元気良く手を上げて返事をした後、一歩前に
踏み出した。
「…う、ひっく、うえーん…」
「…おまえそれ嘘泣きだろ」
「あれ〜、ばれちゃいましたあ?うへへ〜」
「いや、キモイし」
「だって〜、藤本さんが辞めちゃったから、絵里困ってるんですう」
「なんでよ?」
「え〜、いじってくれる人、いないじゃないですかあ。だから絵里、ハロモニ
とかでもぜ〜んぜん、目立てないんです。藤本さんのせいです」
「はあ?そんなん知るかよ、自分で努力しろよ」
「ひど〜い。…でも、最近は絵里、ちょっとだけ頑張ってるんですよ。なんか
空回りしてるけど、頑張ってるんです」
「…あっそ」
「はい!絵里、頑張ります。だからまたいつか一緒に『ハロちゃん』やりま
しょうね、美貴様」
「いやもう無理だし、そもそもやりたくないから」
「またまたあ、照れちゃって〜。このこのお〜」
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:40 ID:1F4prUyk
- 亀ちゃんと入れ替わりに、今度は重さんが前に出る。
「あの、藤本さんの自由って度が過ぎてると思うんです」
「はあ?重さんに言われたくないし」
「え、でも、さゆみは写真撮られたり脱退したりしませんもん」
「…まあ、そうだろうけどさ」
「ラジオもいろいろとやりづらいじゃないですか。大体、さゆみのラジオって、
ほとんどお姉ちゃんネタと藤本さんネタなのに、困ってるんです」
「人をネタにすんなって」
「何言ってるんですか、持ちつ持たれつじゃないですか」
「あんた、そんな難しい言葉知ってたんだ?」
「さゆみ、最近ボキャブラリーって言うんですか?それを増やそうと努力して
るんです」
「へぇ、偉いじゃん」
「だって、藤本さんがいないとメンバーに毒吐く人いないじゃないですか。
さゆみがちゃんとつっこまないと成り立たないんです。だから頑張らないと」
「…あっそ」
「あ!忘れるところだった!藤本さん、はい、これ」
「はあ?何これ?」
「ラジオの罰ゲームで約束したじゃないですか。うさちゃんカチューシャです。
GAMコンではやってくれなかったみたいなんで。ちゃんとつけて下さいね」
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:41 ID:1F4prUyk
- そして、最後は田中ちゃん。
「れいなは〜、藤本さんがいなくなって…」
「せいせいしてんだろ」
「…え」
「メチャクチャ張り切ってるらしいじゃん」
「は、はあ?そんなことないですって!!マジで。なんでそんなこと言うと?
もっと前向きに前向きに前向きにいかんと!れいなは、ホントに、ヤバイ
くらい、困ってるんです!」
「何に?」
「…いや、だから、それは、その…」
「ねぇのかよ!」
「え、でも、れいなは、藤本さんがいなくなった分、やっぱりちゃんと歌とか
でも引っ張っていかんとって思っとって。…やけん、コンサートとか絶対に
見に来て下さいね。れいな、頑張りますから」
「…あっそ」
「はい。…あと、あの、その、いろいろと気をつけます…」
「はあ?………………ああ。…もう、撮られないようにね」
「……………はい」
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:42 ID:1F4prUyk
- 三人は再び一列に並ぶ。
「あ、そうだ!歌歌いましょ、歌。卒業式といえば歌やし」
「いいじゃんいいじゃん。…でも、何歌う?」
「6期の歌やろ…。やっぱ、シャボン玉?」
「え、でも、卒業って感じがしなくない?さゆみは赤いフリージアがいいと
思うの。オーディションでの思い出の…、あ…」
「…おまえ、わざとだろ」
「え、違います違います!どうしよう、さゆみ、今素で忘れてた、藤本さんの
こと」
「あはは〜。さゆのバカ〜」
「絵里に言われたくないの」
「やけん、やけん、れいなは〜…。ん〜、何がいいとかいね…」
「こういうときは本人に聞くのが一番だよ。藤本さんは何がいいですかあ?」
相変わらず何も考えてなさそうな顔でこっちを見る亀ちゃんを睨みつけながら、
美貴はわざとらしくいつもよりも低い声で答えた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:43 ID:1F4prUyk
- 「…ロマンティック浮かれモード」
三人は一瞬固まった後、堰を切ったように話し出した。
「なんそれ。ぜんっぜん、卒業式っぽくないっちゃけど」
「それって藤本さんだけの思い出の曲じゃん。絵里たちには関係ないもん」
「藤本さんて意外と空気読めないんですね。今の時期にその歌って正直ちょっと
シャレにならないんじゃないですか」
「…で、歌うの歌わないの?正直、美貴はどっちでもいいんだけど。ていうか、
むしろ歌いたくないし」
その後、四人で作戦会議すること一分。
結局なんの結論も出なかった。
「な〜んか、さゆみたちっていっつもこうですよね」
「うん。なんかね。いつもうまく決まらんっちゃね」
「でもさあ、それって結構、ワイルドじゃない?」
「てか、意味わからんし」
「あいっかわらず、適当だよね、絵里」
「もう、だからあ、それが6期ってこと!」
亀ちゃんの言葉は全くもって意味不明だ。
だけど、それはそれでいいのかもしれない。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:44 ID:1F4prUyk
- 「じゃあ、そろそろ帰りますね、れいなたち。もう遅いし」
「たんぽぽ、ちゃんと大切にして下さいね〜」
「…わかったわかった。早く帰んな」
「あ、待って。さゆみたち、まだ肝心なこと言ってない」
「え?なん?」
「ほら、あれ…」
三人は丸くなって何やら相談を始めた。
その姿にオーディションの合宿風景が重なる。
あの場にいなかったくせに、なぜか必要以上にドキドキしながらVTRを見ていた
ことを思い出す。
…あれからもう何年経ったんだろう。
顔を見合わせて「よし」と頷き合った三人は、その日初めて声を揃えて、こう
言った。
「「「藤本さん、今までありがとうございました」」」
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:44 ID:1F4prUyk
- ―――バタン
玄関のドアが閉まり、家の中に静けさが戻ってくる。
手の中には一輪のひまわり、頭の上にはうさちゃんカチューシャ。
そんな笑っちゃうくらい間抜けな格好だけど、美貴の心は今までにないくらい
晴れやかに澄んでいた。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:44 ID:1F4prUyk
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- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:44 ID:1F4prUyk
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/08(日) 22:44 ID:1F4prUyk
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