24 それはピンクではない
- 1 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:24 ID:HW6ybicE
- 24それはピンクではない
- 2 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:25 ID:HW6ybicE
- 「宝の箱」
2人の大切な
宝物みたいな曲。
本番の前に必ず2人
合わせて練習している。
このときが一番
小春がむきになるときだった。
せっかく2人組でやっているのに
もう、1年以上もやっているのに
未だに誰も言ってくれない。
いいコンビだね。とは
小春は不満だった。
ピンクといえばさゆみ!みたいな空気の中で結成されたコンビだった。
さゆみのピンクと小春のテンションと。
その2つが組み合わさって
ステージの上ではいつもはっちゃけていた。
さゆみに引っ張られるように
小春はいつも楽しかった。
しかし
今回の曲はハイテンションでもないし
ピンクと言うほどピンクでもない。
- 3 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:25 ID:HW6ybicE
- 曲をもらった時は嬉しかった。
はじめてのバラードだ。
そのころには後輩もできて
いつまでも末っ子でいるわけにはいかなくなっていた。
自分も変わらないといけない。
本当は変わりたくはなかったけれど
本当は変わらず居心地のいい位置にずっといたかったけれど
自分を取り巻くあれこれは
小春の思いを置いて変化していく。
そのことに強い不安があった。
夜に急に怖くなって寝られないこともあった。
「自分はこのままでいいのか……」と。
望んでいなくても
自分は変わらないといけない。
今の無邪気な自分がどんなに愛おしくても
自分は変わらないといけない。
そんなふうに考えるようになったときもらったのが
「宝の箱」だった。
悲しみはそのうち、忘れることができる
それは、小春の挑戦してみたかった自分に
ぴったりと合っているように感じられた。
さゆみと一緒に、自分は変わっていける気がした。
- 4 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:25 ID:HW6ybicE
- しかし、実際にやってみると合わないところがいくつも出てきた。
いや、自分の状況にはよく合っていると思う。
しかし、さゆみと合わないのだ。
可能性はいつも、限りなく秘めてる
曲の最後で、2人は互いに内側を向き
目を合わせて微笑む。
でも、本番中にさゆみと目が合うことはなかった。
小春がいくら笑顔で見ても
さゆみはこちらを見てはくれなかった。
さゆみが見てくれない。
コンサートで曲が終わるたびに
小春は負けたような気分を覚えるようになった。
自分たちは結局、曲で表すべきことをできていないのだ。
小春は真剣に自分のイメージを表現しようとしているのに
さゆみはいつも、自分の世界に浸ったままで
目を合わせることをしない。
さゆみが見ているのは2人の世界ではなかった。
そこには、ピンク色とさゆみ自身しかなかった。
小春はそれを感じる度、自分の存在を否定されたみたいな
強烈なへこみにはまってしまうのだった。
- 5 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:25 ID:HW6ybicE
- ◇
そんな愚痴を絵里にこぼしたことがある。
あれはツアーで地方を回った際の空き時間に
2人で買い物に行ったときのことだ。
「こっち寒い!風邪引く!上着買って来ます」
絵里がそう言って立ち上がり楽屋を見回す。
誰か同行してくれるだろうと予想していたのだろう。
しかし
れいな、美貴は周到に上着を持っていたし
里沙、ひとみは「我慢すりゃいいだろ」だし
さゆみに至っては「外行きたくなーい」。
愛と愛佳は話を聞いてすらいなかった。
そこで妙な取り合わせの絵里と小春で買い物に行ったのだった。
- 6 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:25 ID:HW6ybicE
- 2人してかわいい上着はないかと探し回った。
「亀井さん、どんなのがいいの?」
「絵里ねー、ピンクが欲しいな」
「あ、小春もピンク欲しい!
亀井さんもピンク好きなんですね」
小春が聞くと
普段は変に遠慮が働いてピンクを選ばないのだ
と絵里は言った。
「遠慮って、やっぱり道重さんに対して?」
「なんだろなー、たぶんそうだと思う。
絵里がピンク着てってもきっと
『お前ピンクじゃないだろ』て突っ込まれそう、みたいな」
「そんなこと誰も言わないよ」
「そうなんだけど……そうなんだけど、何か不安でさ。
絵里はピンクがかわいい、と思って着ていっても
みんなが認めてくれないと悲しくなるでしょ?」
「だから着ないの?」
「そう……だと思う」
それを聞いたとき小春は思わず絵里の手を握っていた。
「道重さんに対して、罪悪感があるってこと?」
「んー、罪悪感ってわけじゃないんだけど……」
「けど?」
「かぶったらやだな、ってだけ」
- 7 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- 「かぶったら?」
「うん。絵里自身はピンク似合うと思っても
さゆとかぶっちゃうじゃん」
「いいじゃん、かぶっても。小春は道重さんと同じがいい」
「先輩とならいいの。でも、さゆはねぇ」
手を離して、小春は1人で先に歩き出した。
「なーんだ。それだけか……」
絵里はトコトコと後を追ってくる。
「久住ちゃん?何かあったの?」
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「誰にも言わないでくださいね」
小春は絵里を振り返って言った。
「道重さんの世界に入り込めないときってどうすればいいですか?」
絵里はしばらくキョトンとしていたが
すぐに笑った。
「だいじょーぶだって。ミラクルなんだから自分のキャラあるんだから」
- 8 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- 「普段はいいんです。普段は……。
ただ、ピンクのときは……」
「ん?『宝の箱』のこと?」
「……」
絵里の表情から笑顔がすっ、と消えた。
「ふーん、やっぱり悩んでんだ……」
「え?やっぱりって?」
「うん、なんかね。これまで息ぴったりだなって思ってたのが
今回はね……」
「ダメですか?」
「ダメってわけじゃないけど……なんかな……。
久住ちゃんを見ようって決めて見たときと
さゆを見ようって思って見てるときとで、全然別の曲みたいなんだよ」
小春の胸がドキンとなった。
冷や汗までかいていた。
「理由はよくわかんないけどね。そう思う」
「やっぱり小春……道重さんに近づけない……」
「あー、ごめん泣きそうな顔しないで!
2人が一緒のキャラじゃなきゃいけないってわけじゃないんだから!」
「ううん。一緒じゃなきゃやだよ!」
「ひょっとして……あのときのことまだ引きずってるの?」
「……うん」
- 9 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- 「あれ、さゆも冗談で言ってたんだよ」
「わかってる」
「わかってんなら気にしなくても……。
それに『宝の箱』には久住ちゃんが必要だよ。
みんなそう思ってるよ……」
「道重さん以外はね……」
小春はとうとう泣き出してしまった。
◇
2人が戻って最終的な合わせを行った。
「宝の箱」も最終調整で通して歌った。
やはり、さゆみは小春を見ようとしなかった。
結局、小春の悩みが解消されないまま本番になった。
このツアーでは「宝の箱」の前に月島きらりのソロがある。
「ハッピー☆彡」は伸び伸びと歌えるので小春は好きだった。
かわいい衣装に身を包むと自然と気分が高まるのだ。
この日も小春はわくわくしながら
「ハッピー☆彡」の衣装で控えていた。
そこへさゆみが通りかかった。
小春は心の中でわくわくが
潮が引いたようになくなっていくのを感じた。
- 10 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- 「おっ、きらりかわいー」
さゆみが軽くそう言った。
小春はどこか引っかかった。
いつもなら手を振って応えるような場面だったが
その日の小春の精神状態では
さゆみの言葉をそのまま受け止めることができなかった。
「道重さん」
「なに?」
「きらりのピンク、どう思いますか?」
「かわいい」
「……」
小春は自分がひどく不細工な顔をしていることに気づいていた。
でも止められなかった。
「何よどうしたの?」
「道重さんハワイで、こはっピンクいない方がいいって言った……」
「そんなこと……」
「言ったよ!1人の方がいいって!」
「まだ引きずってるの?
あんなの冗談に決まってる」
「わかってる!!」
「わかってんなら……」
「でもちょっとは思ってるでしょ?小春なんていらないって……」
「何子どもみたいなこと言ってるの?」
- 11 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- さゆみがため息をついた。
そして小春に近づくと、両手で小春の頭を抱えた。
「落ち着きなさい!もうすぐ出番でしょ?」
小春はいやいやをして、さゆみから逃れようとするが
強い力で抱え込まれていた。
「は、離して」
さゆみはなだめようとしているのだろうが
小春はそれが嫌でたまらない。
さゆみにとっていつまで経っても
自分はわがままで手のかかる厄介者だ。
こんなふうに上から見られて言いくるめられてはたまらない。
「きらりのピンクは、きらりのピンクでしょ?」
「……」
「ほらっ、行っておいで」
ポンと叩いて、さゆみは行ってしまった。
「……結局」
小春はうなだれてから
すぐに首を振って笑顔を強引に戻して
そしてステージに昇った。
- 12 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- 結局、さゆみとの会話はまったくかみ合っていなかった。
―――きらりのピンクは、きらりのピンクでしょ?
小春はそこを認めて欲しかったんじゃない。
さゆみと一緒に並んで、一緒の思いを歌う自分を
さゆみにも認めて欲しかったのに……
小春はこれまでずっと
さゆみに認められようと必死になっていた部分があった。
いろいろと教えてくれた先輩だから、という以上に
さゆみに認めて欲しいという気持ちが大きかった。
2人の歌を歌っているときの小春を見て欲しい。
「宝の箱」に秘めた大事な気持ちを歌っている自分を
さゆみにも見て欲しい。
思いは膨らんで、今にもあふれそう。
きらりの出番はどうにか終えたが今日は
「宝の箱」をまともに歌えそうにない。
「……どうしよう」
衣装を変えてこはっピンクになると
ステージ裏に移動しようと歩きだした。
ステージ裏にさゆみがいることを確認すると
そこまで行こうと小走りになった。
- 13 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:26 ID:HW6ybicE
- そのとき
後ろから袖を引かれた。
「さゆのとこ行く前に、待った」
「亀井さん」
「わかったよ!2人がどうして合わないか。
悩みを聞いたから、リハのとき注意して見てたんだけど……」
「え?そこまで……」
小春はふっ、と笑ってしまった。
きっと絵里は小春の愚痴を聞いて
自分が頼られていると勘違いしたのだろう。
小春としては、たまたま絵里だったというだけなのだが。
「あのね大発見!」
絵里は大げさに言った。
頼られてると思うと、妙に張り切る。絵里らしい。
大発見だなんて大げさだ。
しかし、今の精神状態では、絵里にもすがりたい。
「やっぱりさっき言った通りだった」
「何が?」
「何となく見てるうちは全然気がつかなかったんだけどね、
さゆだけを見ようとすると、さゆが苦しそうに歌ってる」
- 14 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:27 ID:HW6ybicE
- 「苦しそうに?」
「気持ちが高ぶって、胸がつかえて言葉が出てこない、みたいな。
そんな表情して歌ってるんだよ。すっごい切なそう。キュンとくる。
さゆのあんな表情、めったに見られるもんじゃないよ。
それで次は久住ちゃんだけを見ようとしてみる……」
……なんてこと。
「私は……」
小春は、目を閉じて息を絞り出した。
「うん。久住ちゃん、笑ってた。
歌えることが嬉しくて仕方ない、みたいな……」
「違うよ。小春は……悩んでても仕方ないさ、明るくいこう!
て気持ちで歌ってるんだよ」
「あーそうそう、絵里もそう言いたかった」
「そんな適当な……」
なんてことだろう。
あんなにレッスンのしていたのに
2人の表情が全く違っていたことに気づかなかった。
どうして誰も教えてくれなかったのだろう?
「それでいいとみんな思ってたんじゃないの?」
- 15 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:27 ID:HW6ybicE
- 「どうして?」
「これは『宝の箱』という曲が特別なんだと思う。
これまでの曲でこういう問題が浮かび上がって来なかったから」
「特別?バラードってこと?」
「ううん。それだけじゃない。
それだけじゃなくって……これもさっき気がついたんだけどこの曲って
悲しいときに聞くと悲しみから立ち直ろうとしてる歌に聞こえる。
でも幸せなときに聞くと、幸せをかみしめてる歌に聞こえる」
小春は、歌詞を頭の中でなぞってみた。
すると、これまで考えていたのとは全く違う「宝の箱」のストーリーが浮かんだ。
小春は驚きに、何も言えなかった。
「不思議な曲なんだ。『宝の箱』は。
だから2人の目指しているものが、違っていても不思議じゃない。
むしろ2人バラバラのことしてた方が
聞く人によっていろんなイメージが湧いていいよ。
小春は、さゆとは違うんだから。それだけ成長してるってこと。
その方がモーニング娘。っぽいし」
最後は絵里らしいこじつけだったが
小春は目から鱗が落ちたような思いがした。
「結論。ピンク全然関係なかった」
拍子抜けしたような気分とともに
ちょっと胸がすっきりした。
「じゃあね。頑張っておいでー」
「はーい」
絵里の背中を眺めながら小春は自分の胸に手を当てた。
- 16 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:27 ID:HW6ybicE
- ◇
ギターのイントロがかかり、
小春はさゆみと手をつないでステージにあがった。
そして小春は
いつも通りの笑顔で歌った。
いつもと何も変わらなかった。
小春の胸はすっきりしていたが
晴れやかな気分かというとそうではない。
むしろ淋しい感じがする。
自分とさゆみとは、同じ曲に違う物語を見ている。
さゆみと一緒にステージに立っていても
さゆみの見ているものは、小春には見えない。
もう、何もかも忘れて2人だけの世界を共有することは
できなくなってしまったのだろうか。
―――それだけ成長してるってこと。
小春が小春として成長した。
人とは違う「自分」を持つようになって
さゆみとは違う存在になってしまった。
- 17 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:27 ID:HW6ybicE
- 孤独というと、ちょっと違うかもしれないけど
小春が感じているのは確かに孤独。
喜びは誰かと、分かち合えたらなおいい
コンビになったとき、嬉しかった。
もっと2人で、2人だけの歌を歌って幸せを感じたかった。
でも……
―――小春は、さゆとは違うんだから。
望んでいたのと違った方向に、自分たちは進んでいるのか?
曲の最後
小春は締め付けられる思いを必死に隠してさゆみを見た。
さゆみは今日も、自分の世界に浸ったままで
目を合わせることをしない。
- 18 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:28 ID:HW6ybicE
- ―完―
- 19 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:28 ID:HW6ybicE
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- 20 名前:24 それはピンクではない 投稿日:2007/07/08(日) 21:28 ID:HW6ybicE
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