暁ブルー/それは確かに静かな青
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:07 ID:bKlES7e.
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18 暁ブルー/それは確かに静かな青
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:07 ID:bKlES7e.
- この結果を求めることはとても困難だった。
そして、とても簡単だった。
「あんたはどうしたいわけ?」
その問いに答えれば良いだけのことだ。
そう、今日、決めればいいだけのこと。
例え、明日に延ばしても明後日に延ばしても、7日後でも31日後でも12ヵ月後でも、
決心をするのは今日だし、明日行動に移したとしてもそれは今日に変わりない。
自分にあるのは選択権という券。
権利があるのならば、使っても損はしないだろう。
どうする?
どうしたい?
何をする?
何がしたい?
私が望むものは。
私が望む。
私が。
私は。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:08 ID:bKlES7e.
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- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:08 ID:bKlES7e.
- ひとみは起きている間、テレビをずっとつけている。
必ずハッピーエンドで終わる恋愛ドラマが見たいわけではないし、
笑わせてるのではなく、笑われている芸人が出るお笑い番組が見たいわけでもない。
ニュースを見て世界の流れを把握するのは大切だと思うけれども、あまり興味はない。
他に理由がある。
テレビをつけている理由。
寂しかった。人恋しかった。
笑って泣いて怒って驚いて叫んで照れて苦しんで歩いて
走って跳んで血を流して死んで生きて笑って笑って笑って。
それを近くで感じていたかった。ブラウン管越しだったとしても。
命を感じていたかった。
ひとみはどこにでもいる、ごく普通の大学生だった。
夢はなかったが大学には進学しようと思っていた。
高校時代の担任に勧められた大学を受験し、すんなり合格した。
その大学は実家から離れた場所にあったので1人暮らしをすることにした。
ひとみはどこにでもいる、ごく普通の大学生だった。
友達がいないことと、人と関わりを持とうとしないことを除いて。
いつからか、物事を冷めた目でしか見ないようになっていた。
目は口ほどに物を言う、とはよく言ったものだ。
ひとみの目の奥を見た人間は、確実に冷たい感情を読み取っていた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:09 ID:bKlES7e.
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ひとみは友達がいなかった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:09 ID:bKlES7e.
- いらないと言えば嘘になる。誰かに理解してほしかったし、誰かと共有したかった。
でも何を理解してほしいのかわからないし、共有するものがあるかもわからなかった。
どちらにせよ、現在のこの状況はどうにもならないと思った。
だからひとみは家に閉じこもることにした。
携帯のアラームが鳴るアラーム音はお気に入りの着うただがうるさく鳴り続けるとうんざりするそれを止めてしばらくぼんやりした後冷蔵庫を開けてペットボトルに入った水を飲む洗面所で顔を洗ってから部屋に戻ってテレビをつける朝食は食べる日と食べない日がある今日は食べない美人アナウンサーが嘘くさい笑みで今日の天気を予報する晴れるでしょうそれだけ聴くと腰をあげた歯を磨いて服を着替えるいつもの順番でいつものように着る姿見を見て髪を整えるカバンを持って家を出るカバンの中身はずっと変わってない自転車を駐輪所に停める講義が始まるまでぼんやりする始まったホワイトボードは白くなったり黒くなったり白くなったりを繰り返すペンは動いたり止ったり動いたりを繰り返す近くの生徒がおしゃべりをしている聞き流すシャットアウトはできない聞こえるものは聞こえる聴いてはないが聞いている誰がどんな声かなんて知らないわからない興味ない家へ帰る寄り道はしない寄る道がない玄関のドアを開ける耳鳴りがしそうなほど静寂部屋に入ってテレビをつけて服を着替えるテレビは見ない音も聴かない誰が出ていようが関係ないしわからない寝転んでぼんやりする時間がきたら適当に夕飯を作って口にするその後はシャワーを浴びるぼんやりする頭の中は真っ白にはなってない真っ黒にもなってない透明のままだ透き通ったそれは何色でもなかった何が見えているのか何を見ているのかわからなかった体の滴を拭き取りパ着替えるテレビをつけたベッドに潜り込みしばらくぼんやりする携帯に手を伸ばし時刻を確認したらテレビが1時間後に切れるようにタイマーをセットする電気を消し暗くなった部屋はテレビから発せられる淡い色に満ちた明るくなったり暗くなったり赤くなったり青くなったり白くなったり黒くなったり美貴は壁に映る色を眺める飽きたら目を閉じて意識をゆっくり離した。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:09 ID:bKlES7e.
- それはとても困難でとても簡単なことだった。
学校へ行くことを放棄したあの日から、朝夜逆転の生活を送るようになった。
ほとんどの生物が活動する時間に体を休め、ほとんどの生物が寝静まるころに
ひとみは目を覚まし、それはそれは静かに過ごしていた。
テレビをつけて、テレビを方を向いて、何をするわけでもなくただぼんやりしていた。
頭の中は相変わらず透明のままだった。
気が付くと朝になっていた。眩しい朝の光がカーテンの隙間から漏れている。
それを確認すると布団に潜り込む。壁を見るがそこには何の色もない。
つまらない。ひとみは目を閉じた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:10 ID:bKlES7e.
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- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:10 ID:bKlES7e.
- ある日、いつものようにテレビをつけてぼんやりしてきたときのことだった。
なんとなく携帯を手にした。時間を見る。もうそろそろ朝の情報番組が始まる頃だ。
なんとなく天井を見上げた。そこにあるのはいつもの天井だったし、いつもの
天井ではなかった。顔の向きを変えた。壁を見る。黒目がせわしなく動く。
部屋がほのかに青ずんで見える。
テレビを消した。ブゥンといってデジタルな光は途切れた。
ひとみは窓に歩み寄った。クリーム色のカーテンが優しい青になっていた。
部屋を見回す。初めて気づいた事実であり、現実であり、現象だった。
窓を開けた。カラカラという音が静かに響いた。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:11 ID:bKlES7e.
- まだ朝日が顔を見せる前の風景。
白く輝く太陽がおはようと告げる前の街並み。
暗くもなければ明るくもなかった。
青。
青、青、青。青。
それは静かな青だった。
とても穏やかな青。
これから始まるよというサインのカラー。
まだ黒の世界から抜け出せずにいる空が、街に色を与えているかのような錯覚。
とても大きいと感じた。海よりも深くて大きい瞬間。
ひとみはそれを見た。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:11 ID:bKlES7e.
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- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:11 ID:bKlES7e.
- 気が付いたら近くの公園にいた。
青の世界に迷い込んだ少女。
言葉にすればメルヘンな雰囲気が出るが、ひとみの格好は上下黒のジャージだった。
それが今のこの時間が現実であるということを表していた。
ジャングルジムのてっぺんに少女が座っている。
上は白、下は緑のジャージを着て、ぼんやりと空を見上げている。
ひとみはなぜだか親近感を覚えた。少しだけ、ほんの少し。
ジャージ姿だったからかもしれないし、髪の色が似ていたからかもしれないし、
空を見上げる目が自分と似ているように感じたからかもしれない。
彼女もまた、青の世界に迷い込んだ少女だった。
ひとみと同じ年齢か、それ前後か。ほんの少しだけ考えて、すぐやめた。
かなりの年上だったとしても、彼女には少女の面影が残っていた。
だから彼女は少女でいい。1人で質問をし、考え、答えを出し、納得した。
彼女がひとみの存在に気付く。にこりと笑った。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:12 ID:bKlES7e.
- 「おはよ」
「お、おはよ」
ここで、しかもこんな時間にをしてるんだろう。ひとみは素直にそう思った。
ジャージを着てるってことは、ランニングしてたとか。
体育会系だと思わせた当人は空を見上げて足をブラブラさせている。
「なになに、もしかして美貴のこと怪しんでる系?」
「え、いや別にそんなことは…」
「まあこんな時間に若者が外出てモゾモゾしてるのはめずらしいよねえ。
美貴的には早朝に動いてんのってじーちゃんばーちゃんってイメージなんだけど」
「犬の散歩とかラジオ体操とか?」
美貴はぶはっと噴き出すと笑い始めた。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:12 ID:bKlES7e.
- 「ちょ、ラジオ体操って!小学生かよ!」
「なんだよー、体操っていったらラジオ体操じゃん?」
笑いすぎて涙が出てきた美貴は指でそれを拭った。
「あー超うけるんですけど。ねね、名前なんてーの?」
「えーと、よしざわひとみ」
「ふーん。美貴はみきってーの」
美貴にこっちおいでよと言われたので、ひとみはジャングルジムをのぼった。
「友達から何て呼ばれてんの?あだ名みたいな」
「あー…」
友達はいない。
だが、あだ名はあった。
姉のように慕っていた親戚がつけたものだ。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:12 ID:bKlES7e.
- 「よっさん」
美貴はまたぶはっと噴き出した。
「何それー。おっさんみたいじゃん」
ひとみはうーんと唸る美貴を見ていた。
眉間にしわをよせて目を閉じる表情はとても怖かった。
子どもが見たら確実に泣いて逃げるだろう。
一瞬、よっさんと呼んでくれたあの人とダブって見えた。
「よっさんは可愛くないからよっちゃんって呼ぶわ」
「え?あぁ、どうぞどうぞ」
「美貴のことは好きなように呼んでいいよっておぉー!そろそろ時間じゃん!
やっばいやっばい、退散しなくちゃ。じゃあまたねーよっちゃんー!」
ジャングルジムから飛び降りると、美貴は走り去って行った。
その姿はすぐに小さくなって、家の塀に隠れて見えなくなった。
「…またね?」
ひとみはその日、寝ても起きても疑問と期待と不安でいっぱいだった。
しかし、それ以上に静かな青の朝が待ち遠しかった。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:13 ID:bKlES7e.
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:13 ID:bKlES7e.
- それは確かに静かな青。
とても穏やかな青。
これから始まるよというサインのカラー。
神秘的なカラー。
何かが起こりそうな。予感。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:13 ID:bKlES7e.
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- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:13 ID:bKlES7e.
- 青の世界に迷い込んだ少女たちが現実に戻り、
互いの名前の漢字を知ることになるのはまだまだ先の話。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:14 ID:bKlES7e.
- お
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:14 ID:bKlES7e.
- わ
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 21:15 ID:bKlES7e.
- り。かも
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