13 タイヨウのたまご
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:35 ID:TEGToAgc
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13 タイヨウのたまご
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:35 ID:TEGToAgc
- 最近天気はずっと悪くて。
私を取り巻く状況もなんだか曇りがちで。
だからずっと、イライラしていた。
「ガキさぁ〜ん、何たそがれてるんですかぁ?」
「んー、なんだカメか」
「なんだって何ですか」
休憩中、一人窓際にいた私に脳天気に話し掛けてくるカメ。
やる気のない返事を、とりあえず返しておく。
カメは不満そうにぐちぐち言ってるけど、多分すぐ機嫌を治すだろう。
そういうカメの適当さが、羨ましいといえば羨ましい。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:36 ID:TEGToAgc
- 「で、ガキさん。実際なんで一人寂しくこんなとこにいるんですか」
「別にぃ、カメと違って一人でゆっくり真面目に考えたいこともあるの」
「失礼ですねそれ…と言うかガキさん、愛ちゃんが呼んでるんですよ」
「愛ちゃんが?」
「今日の収録についてちょっと相談したいって」
「うん、わかった」
愛ちゃんは最近、私にこうやって真面目な相談をすることが増えた。
私にだけじゃない。スタッフさんとも、マネージャーさんとも。
今まで年上の人に任せっきりだったことを、ちゃんとこなすようになってきた。
立場が人を変える、とはよく言ったもので。
今の愛ちゃんは、急にやってきたリーダーの重みを受け止め、ふさわしくあろうとしている。
…私は、どうなんだろう。
私は、愛ちゃんほどに、自分の立場を自覚しているんだろうか。
考えても、答えは出ない。
そして、また私の気分は曇っていく。
外の天気も、相変わらず私の心に共鳴するかのように、どんよりと暗かった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:36 ID:TEGToAgc
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- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:36 ID:TEGToAgc
- 「あーめあーめふーれふーれ、かーあさーんがー♪」
「カメうるさい」
今日はさらに天気は崩れ、朝からずっと雨だった。
私はまた窓際に座り、じっと外を見て考える。
考える。
考えたい、んだけど。
この脳天気なカメはそれを許してくれない。
私の横に来ては、さっきのように歌ってみたり、私の目の前で変顔をしてみたり。
「ほんと、カメは呑気だよね」
「うへへへへ」
「いや褒めてないから」
なんだか嬉しそうに笑っているカメの額にチョップを当ててみる。
カメは額を押さえながらなんだか文句を言っているが聞かないことにして、
私はまた窓の外に向き直った。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:36 ID:TEGToAgc
- 「ガキさん、最近ずっと外見てますよね」
「んー、そうだね」
「何か面白いことでもあるんですか」
「別にないよ」
「じゃあ何があるんですか?」
「何が、ねえ」
何があるかなんて知らない。
あるとしたら…多分自分の気持ちみたいな雲。
「なんかね、落ち込むなあって」
「何ですかいきなり」
「だって、ずっと太陽見てない気がするじゃん」
「まあ、それは確かに」
雨もいいけど飽きますねぇ、なんてのんびりカメは言う。
やっぱり、そののんびりした空気がどこか羨ましかった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:37 ID:TEGToAgc
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◆◆◆
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:37 ID:TEGToAgc
- コンサートが近くなるにつれ、忙しくなるスケジュール。
大きく変わったフォーメーション、増えたパート。
繰り返されるリハーサル、新しいことを覚える時間。
新しいメンバー、新しい娘。
…私の知らない、世界。
私の憧れたものとは、全く違う世界。
今まで私は、憧れていた、頼りになる人たちについていけばよかった。
しっかりしてるなんて言われていたけど、それでも最終的には誰かに頼りたかった。
でも、それももう終わって。
今度は私が頼られる番で。
いざそうなってみると、どうしていいかはっきりとはわからない自分がいる。
ふと控え室の中に目を移すと、さゆとカメが話している姿が目に入った。
何だか楽しそうに話している二人を見て、なぜだか無性にいらついて。
特に、カメを見てるといらいらして。
カメと私は、同い年なのに。
カメのほうが後輩ってだけで、そんなにへらへら笑っていられて。
カメはまだ、誰かに頼る側でいられて。
ずるい、と思ってしまった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:37 ID:TEGToAgc
- そんなもやもやした気分で二人を見ていたら、こっちを見たカメと目があった。
「ガキさん、なにこっち睨んでるんです?」
「ほんとだー、やださゆみが可愛いからって睨まれても困ります!」
「いや睨んでないから。特にさゆ、それは絶対ないから」
「でもガキさん、今の顔すっごく怖かったですよ。本性丸出しって感じで」
知らないうちに、気分が顔に出ていたらしい。
それはまずかったな、とも思いながらも、
「オフガキさんだ」とか「可愛くないの」とか騒いでいる二人にまた無性に腹が立ってきたから。
「…はあ、もういい」
「あれ、ガキさんそこ怒るとこじゃないんですか?『コラー』っていつもみたいに」
「うるさい」
ヘラヘラ笑うように話すカメの声をもう聞くのが嫌になって、吐き捨てるようにカメに言うと、
カメはこわーいなんて言いながらさゆの後ろに隠れる。
その態度が、さらに私を苛立たせる。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:37 ID:TEGToAgc
- 「いい加減に、してよ」
「へ?」
気付いたら、苛立ちを言葉にしていた。
「何かあったらそうやって人の後ろに隠れて…いつまでもそうやっていられると思わないで!」
「が、ガキさん?」
「何さ、カメはそうやっていつも誰かに甘えて頼って可愛がられて…
私は、私はこんなに悩んで頑張って、しっかりしようとしてるのに
横であんたはヘラヘラ笑って何も考えないで甘えてきて…」
カメは、何も言わなかった。
ただ、私を見ていた。
そのためだろうか、私の言葉は止まらない。
「カメの生き方はずるいよ、ずるい…楽ばっかりしてずるい!」
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:38 ID:TEGToAgc
- 「新垣さん、言い過ぎなの」
「あ…」
まくし立てるように言う私を、さゆが止めに入る。
そこでやっと、私も冷静になって。
ああ、何言ってるんだろうなんて考えたけど、フォローする間も無くリハーサルが再開する。
リハーサル終了後も、カメは
「ガキさん、絵里わかりました」
なんて言ってさっさと帰ってしまって。
結局、それから私とカメはまともに話せなかった。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:38 ID:TEGToAgc
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◆◆◆
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:38 ID:TEGToAgc
- 次の日にもリハーサルはあって。
空は相変わらずの曇り空で。
「気まずい…」
カメじゃないけど、そんなセリフが浮かぶ。
だいたい、何がわかったのさ。
私は全くわかりませんよ。
どう話しかければいいのさ。
そんなことを考えていたら、集合時間よりだいぶ早く着いてしまって。
さすがに誰もいないだろうし、ゆっくり考えよう。
そう思って、ドアを開けると…
「あ、おはよーございますガキさん」
よりによってカメが一人でいた。
ちょっと待って、何でこんな日に限って早いんだあんたは。
私はまだ気持ちの整理ができてないのに。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:38 ID:TEGToAgc
- とりあえずぐるぐる考えながらカメから離れて座る。
…やっぱり気まずい。
会話はない。
とりあえずこの空気をどうにかしようと顔を上げた時だった。
カメが、立ち上がって。
「ガキさん、行きますよ!」
「うぇ?ちょっ…」
思いっきり、何かを投げて来た。
当然キャッチなんか出来なくて、手に当たったそれは弾かれて床に転がった。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:39 ID:TEGToAgc
- 「何すんのさ!危ないでしょうが!」
「ガキさんこそちゃんとキャッチしてくださいよぉ」
いつもみたいに笑いながら言うカメを無視して床に転がったものを見る。
それは綺麗なオレンジ色をした、丸い…
「…冷凍みかん?」
カメの顔を見ると、なぜだか妙に誇らしげで。
そして、次に口を開いた時に。
「ガキさん知ってます?オレンジは、太陽の卵なんですよ」
こんなことを、言ってのけた。
「はい?」
「絵里、ガキさんの機嫌が悪いのは太陽見てないせいだと思ったんです。だからこれあげます」
そういう意味の「わかりました」だったのか。
それがわかると、なんだか一気に気が抜けた。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:39 ID:TEGToAgc
- 「これオレンジじゃないじゃん。冷凍みかんじゃん」
「絵里はそっちの方が好きですもん。いいじゃないですか似てるんだから」
「カメの好みかいっ!」
なんだか、気付いたら気まずい空気は消えていた。
私がずっと持っていたモヤモヤした気分も、なんだかどうでもよくなってきた。
「あは、あははっ、ははははははは…」
私は、大笑いしていた。
それはもう傍から見たらおかしいくらいに。
でも、笑わずにはいられなかった。
「ガキさんが壊れた…」
「あんたのせいでしょーが、ははっ」
「なんで絵里のせいー?」
不満そうなカメをまた無視してひとしきり笑った。
その後、改めてカメに向き直る。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:39 ID:TEGToAgc
- 「ありがとカメ。太陽の卵、効いたみたい」
「どういたしまして…あの、ガキさん」
「ん?」
「ガキさんが暗い気分になってるときに、絵里がこうやって太陽をあげるくらいはできますから。
だから、だから…ガキさんも、もっと絵里に甘えていいんですよ?」
いきなり何を言うんだこいつは。
「絵里だけ甘えるのがずるいなら、ガキさんも絵里に甘えてくれればいいんですよ。
そしたらほら、ずるくないじゃないですか」
あー…なんでもうこの子は…
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:39 ID:TEGToAgc
- とりあえず、なんだか大人ぶった表情のカメの額にデコピンをしてみる。
「いったーい!何すんですかガキさん!」
「そんなセリフ十年早いって」
「何でですか!同い年だもんガキさんみたいに絵里もできるはずだもん!」
「あー無理無理」
こんなやり取りで気が楽になるなんて、忘れてた。
ふざけててもいい。笑っててもいい。
無理に『サブリーダー』にならなくても…いいのかな?
みかんと同じ、オレンジのTシャツを着たカメの顔を見る。
相変わらずヘラヘラ笑っていたけど、今度は苛立つこともなくて。
逆に、その呑気な笑顔に救われる気がした。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:40 ID:TEGToAgc
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◆◆◆
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:40 ID:TEGToAgc
- それからもまた天気は悪かったけど、カメはその度毎日私にみかんを渡してきた。
最近は気分がそんなに落ち込むこともないけど、有り難く頂戴することにしている。
「そういえばさあ」
「何ですか?」
「あのセリフって何で思い付いたの?」
「あのセリフって?」
「オレンジが太陽の卵って…」
そう聞くと、カメはなぜか考え始めた。
「ちょ、わかんないの?」
「んー、なんかで見た記憶はあるんですけど…」
「何それ…」
なんだか、一気に気が抜けた。
こいつの言うことにちょっとでも感動した私がバカだったかも。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:40 ID:TEGToAgc
- 「もしかして、ちょっと感動しちゃったりしてました?」
「うるさい」
「うへへへぇ、絵里いい事言ってました?」
「だからうるさーい!」
くっついてくるカメと、逃げ回る私。
楽屋の中ではみんなが呆気にとられながら見てる。
この騒がしい感じのままでいいのかもしれない。
私は、私のままでバカをやっててもいいんだ。
そう思ってカメを見る。
カメは、やっぱりみかんと同じ色のTシャツで、呑気に笑っている。
手のひらの中には、カメにもらったオレンジが今日も輝いていた。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:40 ID:TEGToAgc
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end
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:40 ID:TEGToAgc
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sunny
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 12:41 ID:TEGToAgc
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