12 目に映るは
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:46 ID:mc4h4Ih6
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12 目に映るは
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:46 ID:mc4h4Ih6
- あの人は黄色。嬉しそうに目の前を横切って行く。
きっと何かいい事でもあったんだろう。
さっきから時計塔の前でソワソワしながら待っているあの子は青。
見た目はあまりよくわからないけどちょっと落ち込んでるみたい。
カフェテラスで一人のんきにテーブルに肘をつきながら
真昼間に人間観察してるあたしは相当な暇人なんだろう。
でも今日はそんなに暇だったわけじゃない。
約束してたのをドタキャンまでして優先させた用事がある。
置かれていたレモンティーに手を伸ばし一口飲んで一息ついて
前を見ると青かった女の子の色が桃色に変わる。
程なくして彼氏と思われる男の子が走ってきて腕を組んで歩いていった。
待ち合わせの時間になっても来なかった彼を心配してたってワケね。
そういうあたしもかれこれ呼び出されてからもうすぐ1時間経つのだけれど。
時計を見た後、周りを見回しても来そうな気配は一切無い。
ため息を一つついた後また人間観察をする事にした。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:46 ID:mc4h4Ih6
- あたしの名前は後藤真希。いたって普通の大学生、…でもないか。
生まれつきあたしは人の色を見る事が出来た。
それは別に肌の色とかではなくて感情によって変わるオーラのようなもの。
黄色は楽しい時、青は落ち込んだりしてる時、桃色は恋をしてる時。
自分自身でそう区分けした。見えるからと言って特にメリットもデメリットも無い。
でもしいて言えば怒ってる人は赤をしてるから事前に寄り付かない事に出来る事くらいだろうか。
「ごめーん、遅くなった。待った?待ったよね、1時間だもんね」
「んー」
手を合わせて謝ってくる今日待ち合わせた人物。
安倍なつみ。一人暮らしをしているあたしの部屋の隣の住人。
年上なのにそんな雰囲気を一切かもし出さない人。
超童顔の癖に中学校の教師してる。いや、別に童顔は関係ないんだけど。
姿を見ると青になってるから反省はしてるようだ。
「なっちの遅刻魔ぶりは今始まった事じゃないし、反省してる色してるからいいよ」
「あっ、もう、また色見るしー。もーホントごっちんには隠し事とか無理だよねー」
「んだね」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:47 ID:mc4h4Ih6
- なっちはあたしの色を見れる能力の事を知っている。
以前一緒に部屋で飲んでる時にポロッと口から出てしまって自ら教えてしまった。
なっちは気持ち悪がらずにただ「凄いねー」と繰り返して笑っていた。
多分理解者なんだろうと思う。たまに「なっち今何色?」とか聞いてくるくらいだし。
「そんで今日はわざわざ呼び出して何の様なのさぁ」
「あのね、ごっちんてさ写真でも色見れる?」
「見れるよ。何?誰か見て欲しい人?好きな人とか?」
「ぜ、全然違うよ…」
茶化してみたもののなっちがあまりにも真剣な表情なので真顔に戻した。
なっちの色が先ほどの青から黄色に変化してたのにまた青に戻ったから。
鞄から取り出してテーブルの上に一枚写真を置いた。
それを見てあたしは自分の目を疑った。
「これは…」
「どう?…なんかおかしい?やっぱり…」
初めて見た。一度も見たことのない色。それは黒。
写真に写る女の子は間違いなく満面の笑みを浮かべているのに他の色が見えない。
一緒に映ってる子達はみんな黄色なのに。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:47 ID:mc4h4Ih6
- 「やっぱり、ってどういう事?なんか理由でも知ってるの?」
「うん…、その子なっちの生徒なんだけど…その…」
「なんだろう、いじめ、かなぁ」
「…やっぱり、ごっちんには何でも分かっちゃうね」
驚いたような、でも納得したような顔でなっちはテーブルに置かれた写真を手に取った。
そしてくるりとそれを裏返してあたしに向ける。
「この子、鈴木愛理ちゃんって言うの。
元気な子でホントに明るいしいじめられる理由も無いんだけど…。
急に元気がなくなっちゃったり一人でボーっとする事も最近になって増えてきたみたいで…」
「なっち。ごとー、いじめてる子が分かる。黄色の中に赤が混じってる子がいる。
今ここで言ってもいいけどどうする?」
赤は怒りの色。その他妬みとかもあるのかも。
あたしの言葉に考え込む様にして腕を組んだ後、なっちは首を横に振った。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:47 ID:mc4h4Ih6
- 「ん、やっぱりいいや。こういうのはやっぱなっちが気がつかないとだよね。
ごめんね、待たせた挙句こんなんで…」
「いや、ごとーは別に気にしないけど…もしいいならその子鈴木、愛理ちゃんだっけ?
その子と会ってみたいな。初めて見る色だから興味本位ってのもちょっとあるんだけどさ」
「じゃあ聞いてみるね。あと、ここはおごるから」
「まじ。ラッキー」
おごってもらえる事が嬉しくて笑ったらあたしを見てなっちの色が変わった。
最近なっちの色があたしの前で桃色になる事がある。
全て見えてしまうのも困りもので、なんとなく好意には気がついているものの
照れくさくてあたしは目を逸らすくらいしか出来なかった。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:47 ID:mc4h4Ih6
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◇
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:48 ID:mc4h4Ih6
- 数日後、なっちは愛理ちゃんを連れていつものカフェにやってきた。
なっちの色は黄色。愛理ちゃんの色はやっぱり黒だった。
黒と言えば闇。人には言えない、人には見せない何かがあるのだと思う。
「こんにちは、鈴木愛理ちゃん、だよね」
「ハイ!鈴木愛理です!」
あまりの元気の良さにぎょっとしてなっちを見ると困ったように笑っていた。
こんなに明るくて元気なのに。明るくて元気だからいじめられるのか?
二人に座るように促して飲み物を頼んだ後単刀直入で聞いてみた。
「回りくどいのとか隠すのとか嫌いだからそのまま言うけど
愛理ちゃん今誰かにいじめられたりしてない?」
あたしの言葉に目を丸くした後すぐにどこかに目線を逸らした。
いじめられてます、と言ってる様なもんだ。
でも次に愛理ちゃんから出てきた言葉はそんなのではなかった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:48 ID:mc4h4Ih6
- 「いじめられては…いません。でも悩んでいる事はあります…」
「な、何?何に悩んでるべさ?」
ずずい、と体を前に出して興奮するなっちに向かって「落ち着け」と言わんばかりに
あたしは掌をなっちに向けてひらひらと振った。
「…栞菜です…」
「え、誰…?」
「栞菜って有原さんの事…?」
有原栞菜。あたしには誰の事かわからないけれど二人は知っているようだ。
「栞菜に避けられるようになったんです…。理由は分からないんですけど、
怒ってるような感じで…。凄く仲が良かったのに急に変わったからよくわからなくて…」
「そうだよね、有原さんと鈴木さんは仲良しだったもんね…」
友達に避けられ始めて「なんで?」「どうして?」って思いすぎて感情が黒くなったわけか。
まぁ常にそう思って生活してる人なんてそういないだろうし。
よくよく見てみれば黒に少し青も見えてる。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:48 ID:mc4h4Ih6
- 「んじゃぁその子に会わないとかなぁ」
顔を見合わせて話し合ってる二人に向かってあたしが言うと
がばっと二人そろって振り向いた。
「じゃぁ今からつれてくるべさ!」
「えぇ?!今から?」
「私、隠れてますね!」
「え、あ、うん…」
二人は風のようにあたしの前から消えた。
生徒をすぐに呼べるほど融通が利くのだろうか。
最近の先生事情は分からないから何とも言えないけれど。
愛理ちゃんは少し離れた植木の影から此方を伺っている。
程なくしてなっちが女の子を連れてきた。
きっとあの子が有原栞菜ちゃんなのだろう。
愛理ちゃんと一緒に写真に写っていた子だ。
色が青い。まぁ急に先生に呼び出されれば不安にもなるだろうけど。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:49 ID:mc4h4Ih6
- 「お待たせごっちん!」
「んぁ、別にいいけど…栞菜ちゃん?だよね」
「は、はい…」
「あ、別に怪しいもんじゃないから気にしないで欲しいんだけど
この、なっち…じゃなくて先生の友達だから」
とは言うものの緊張が解けないのかずっと怯えたままだ。
子供は嫌いじゃないんだけどなぁ。
「まぁ…単刀直入に言うけど鈴木愛理ちゃんと何があったの?」
「な…!どうしてあなたが愛理の事知ってるんですか?」
「あぁ…、えっと、なっち、よろしく」
「えぇえ、こんな場面でなっちと変わるんだべか!?
しかも単刀直入で言ったのならそのまま続けるべさ」
面倒くさいなぁ、あたし関係ないっちゃ関係ないのに。しかもなんか訛ってるけど。
後ろ頭をぽりぽりかくと栞菜ちゃんの色が青から赤にだんだん変わってる。
やばい、怒ってきてる。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:49 ID:mc4h4Ih6
- 「あのさ、愛理ちゃんがね、栞菜ちゃんとの仲が変になってるからずっと悩んでて
それをこの先生に相談してきたらしいんだけど先生はこの問題を解決できないって言うから
仕方なくあたしが手伝う羽目になったんだけど、で、なんで避けてんの?」
あたしが説明するとなっちはむっとしてこちらを睨んでいた。
本当の事言っただけなのになんで怒ってるんだ?
「…なんかなっちが役立たずみたいな感じの話しぶり…」
なっちがボソリと呟いたけれどこの際無視をした。
今はなっちを構っている場合ではない。
栞菜ちゃんを見るとうつむいてぽつぽつ話し始めた。
「だって…愛理、他の子と手ぇ繋いでたんだもん…」
「ハイ?」
「他の子と腕組んで歩いてたりしてたんだもん…」
「…だから?」
「………」
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:49 ID:mc4h4Ih6
- これは、俗に言うヤキモチと言うものではないだろうか?
ごく自然に頭を抱えた後、隠れてうかがってる彼女の方を向いて手招きをした。
きょとんとした顔をした後恐る恐る出てきた。
「…栞菜?」
「愛理!なんで…!」
「なんて言うか…二人お似合いだからさっさと帰れ!」
「ハ、ハイ!!」
二人はあたしの怒り声を聞いて手を繋いで走って逃げていった。
でも走りながら顔を見合わせて笑いながら。
愛理ちゃんの色は黒じゃなくなった。栞菜ちゃんの色も赤じゃなくなった。
いずれ桃色になるんだろう。
こんなくだらない事に時間を使ってしまった。
やっぱりあたしは相当の暇人なようだ。
「ごっちんってあんな感じで怒るんだ」
のんきにストローをくわえて少し笑いながらなっちはあたしを見ていた。
全然生徒の心配して無くない?アナタ。
元はと言えばこの人があたしの怒りの元凶な気がするんだけど。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:50 ID:mc4h4Ih6
- 「じつに時間が勿体無かったよ、じつにね」
「んー、じゃぁこれからなっちとデートしようよ、またおごるからさ」
「じゃぁ、の接続詞がおかしい。けどおごってくれるんなら行く」
席を立って歩き出すなっちの後ろを歩く。
なっちの後姿が桃色に染まってる。表情を見なくてもとても嬉しそうなオーラ。
何とも言えない感じになってあたしは苦笑いをしながらついていく。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:50 ID:mc4h4Ih6
- 歩いている時ふとショーウィンドウを見た時
ガラスに映っていたあたしの色も何故か桃色に染まってたのは誰にも言わない。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:50 ID:mc4h4Ih6
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:50 ID:mc4h4Ih6
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- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 22:51 ID:mc4h4Ih6
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