11 怪物君の空
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 11:27 ID:/v9DudxU
- 11 怪物君の空
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 11:32 ID:/v9DudxU
- 「じゃあ、行ってくるね」
いつもは饒舌なほどによく喋る栞菜が、今日は本当に無口だった。
最新鋭の偵察機に乗り込み、そのまま闇夜に飛び立っていった。
私は機影が小さくなって、見えなくなるまで見守ることしかできなくて。
本当に、無力で。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 12:19 ID:/v9DudxU
-
腐りきったこの国に革命を。
虐げられた人民に真の自由を。
そんなスローガンを掲げて政府に反旗を翻した反政府軍・キュート。
けれどこの惨状はどうだ。
政府直属の精鋭部隊「ベリーズ」に圧倒的な力を見せ付けられ、敗走を繰り返す日々。
夢が終わる。灰色の日が、迫る。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 12:24 ID:/v9DudxU
-
栞菜が偵察に行ったっきり、帰って来ない。
運悪く敵に見つかり撃墜されてしまったのだと、部隊内でまことしやかに囁かれていた。
私は人懐っこく笑いかけてくる栞菜の笑顔を思い出し、泣いた。
だけど泣く暇すら与えられず、上層部から次の任務が下る。
この作戦が失敗に終われば、わがキュートの壊滅は免れないであろう、言わば背水の陣。
「作戦名:シーズン・オブ・ザ・ラブ」
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 13:57 ID:/v9DudxU
-
輸送車が舗装されていない道を、ひた走る。
作戦名だけ告げられ、どんな作戦なのか、どの戦場に投入されるかすらわからない。
狭いコンテナに押し込められた兵士達は、交わす言葉も無く只管悪路の振動に耐えていた。
不意に、すすり泣く声がする。
すぐに、部隊の最年少である舞のものだとわかった。
「こわいよ……わたし、死ぬのいやだよう……」
「大丈夫だよ舞、私たちは死なない。絶対に死なないから」
舞に寄り添いながら、部隊のリーダーシップを取る舞美が言った。
「ほんと?」
「だって私たち、これまでどんな困難な戦況も乗り越えてきたじゃないか。今回だって」
「嘘だ!!」
叫んだのは、いつもはひょうきんな言動で皆を笑わせるのが得意な、千聖だった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 23:58 ID:SSXTKUQU
- 「だって、だって栞菜ちゃんだって還ってこないじゃんか!」
「それは・・・・・・」
「それに、めぐみちゃんだって!!」
周囲が、しいんと静まり返った。
本来ならば、この部隊を舞美とともに引っ張っていたであろう少女の名前を耳にして、誰もが動揺せずにはいられなかった。
「言っても仕方のないことは、言っても仕方のないことだよ」
最後は舞美の補佐役であるえりかの一言によって、みんな石のように押し黙ってしまった。
千聖が口にした少女の名。自分たちもまた、彼女と同じ道を辿るかもしれないという予感が、そうさせたのかもしれない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:00 ID:jCH61PsQ
-
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:12 ID:jCH61PsQ
-
拝啓、お父様
これが最後の手紙になるかもしれません。
戦況はますます悪化し、わがキュートの軍も苦戦を強いられています。
先日の告白広場の戦では、記録的な大敗を喫してしまいました。この
ままおめおめと故郷に帰り生き恥を晒すよりは、戦場で命の華を散ら
したほうがいいのかもしれません。
お母様の体の調子は如何ですか?
お父様もどうかご無理はなさらぬよう。
それでは。
愛理
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:14 ID:jCH61PsQ
-
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:28 ID:jCH61PsQ
-
もう何日になるだろうか。
拠点をベリーズ軍に奇襲され、応戦空しく私は囚われの身となってしまった。
両手を縄で縛られ、天井から吊るされたままの姿で、執拗な拷問を繰り返される。
体の感覚は、とっくの昔に麻痺してしまっていた。
「ウフフフ、その強情がいつまで続きますかねえ?」
目の前にいるのは、ベリーズ軍の実質的な司令官だと聞いているが、これがあの我々キュート軍を脅かした驚異のトップなのかと疑ってしまうくらい、矮小な存在だった。
自らの背の低さを、編上靴の踵を強く鳴らすことで誤魔化している様は、滑稽ですらある。
「とっとと軍の機密を全て話しておしまいまさいな」
「……あんたの背が伸びたら教えてやってもいいよ」
「何ですって!!」
激高した司令官が、私の頬をしたたか打ちつけた。
右に、左に振られる頭。まるでサンドバッグのようだった。
仲間は、無事に逃げおおせただろうか。それとも、私と同じように捕まって。
舞美、えりか、早貴、千聖、舞。
みんなの顔が薄ぼんやりと現れては、消えてゆく。
そして、最後に栞菜の顔が脳裏にはっきりとよみがえってきた。
せめて、せめて最後は彼女の元へ。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:34 ID:jCH61PsQ
-
機銃掃射の轟音が、耳を突いた。
拷問部屋である廃屋の屋根が、吹き飛ばされた。
縄が切れ、床にへばりつく私。
「て、敵襲?!」
空が、露になっていた。
真っ暗な闇。それをまるで黒い布を裁断するかのように、高速機がくるりと転回する。
天からの機銃掃射が、慌てふためく司令官を右へ左へと散らしてゆく。
「栞菜!!」
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:39 ID:jCH61PsQ
- 「愛理!!」
そのまま超低空飛行でばらばらになった廃屋の床を掠めるようにして、私を攫ってゆくブラック・バード。
あっという間に私は栞菜の席の後ろに載せられていた。
後ろを振り返ると、突然の略奪劇に身動きすら取れないベリーズ軍の面々。
5つの小さな点と1つの太い点、1つの長い点が黒い闇夜に溶けるまで、ずっと私は後ろを振り返っていた。
たぶん、前を見たら人目もはばからず泣いてしまうだろうから。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:41 ID:jCH61PsQ
-
「栞菜」
「なに?」
「みんな、生きてるよね?」
「うん」
「この戦い、勝てるよね?」
「うん」
ひどい質問だと思った。
けど、今だけはその幻想が真実になるような気がして。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:42 ID:jCH61PsQ
- 則
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:42 ID:jCH61PsQ
- 石
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 00:42 ID:jCH61PsQ
- 愛だよ、愛
Converted by dat2html.pl v0.2